(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】結晶性積層構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C23C 18/12 20060101AFI20220408BHJP
H01M 8/0215 20160101ALN20220408BHJP
C23C 16/40 20060101ALN20220408BHJP
C23C 16/44 20060101ALN20220408BHJP
【FI】
C23C18/12
H01M8/0215
C23C16/40
C23C16/44
(21)【出願番号】P 2017073298
(22)【出願日】2017-03-31
【審査請求日】2020-03-27
(73)【特許権者】
【識別番号】511187214
【氏名又は名称】株式会社FLOSFIA
(72)【発明者】
【氏名】柳生 慎悟
(72)【発明者】
【氏名】人羅 俊実
【審査官】▲辻▼ 弘輔
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-120410(JP,A)
【文献】特開2016-126988(JP,A)
【文献】特開2016-146442(JP,A)
【文献】特開2014-063973(JP,A)
【文献】特開2002-088476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 18/00-18/54
H01M 8/0202-8/0267
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属を含む結晶を主成分とする高結晶性層と、高結晶性層よりも結晶性の低い低結晶性層とを少なくとも1層ずつ交互に、高結晶性層および低結晶性層の厚さがいずれも1μm以下であり、高結晶性層が低結晶性層よりも厚くなるように積層して結晶性層構造体を製造する方法であって、前記積層を、原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を浮遊させ、該ミストまたは液滴をキャリアガスで
基体まで搬送し、ついで該ミストまたは液滴を熱反応させて、前記高結晶性層および前記低結晶性層をそれぞれ形成することにより行うことを特徴とする結晶性積層構造体の製造方法。
【請求項2】
前記の積層を、
前記基体上に低結晶性層を形成し、ついで、低結晶性層上に高結晶性層を形成することにより行う請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記基体が導電性基体である請求項2記載の製造方法。
【請求項4】
前記の熱反応を600℃以下の温度で行う請求項1~3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記の熱反応を酸素雰囲気下で行う請求項1~4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記の熱反応を大気圧下で行う請求項1~5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記原料溶液が金属ハロゲン化物または有機金属錯体を含む請求項1~6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記金属ハロゲン化物または有機金属錯体が、スズを含む請求項7記載の製造方法。
【請求項9】
前記原料溶液の溶媒が水である請求項1~8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
高結晶性層および低結晶性層を、それぞれ少なくとも2層以上積層する請求項1~9のいずれかに記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性が求められる燃料電池用セパレータの製造に有用な、新規な結晶性積層構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
固体高分子型の燃料電池用セパレータは、電気伝導性を有し、燃料電池の各単セルを電気的に接続して各単セルで発生したエネルギー(電気)を集電すると共に、液体や気体の流路が形成されており、燃料ガスや酸化性ガスを電池面内に供給したり、カソード側で生成した水を、反応後の空気等とともに燃料電池から排出する役割を有する。また、セパレータには、燃料ガス及び空気の混合防止のための気密性、発電環境下における耐食性といった特性も求められる。
【0003】
セパレータに用いられる材料としては、主に炭素系材料及び金属材料が挙げられる。炭素系材料を用いるセパレータは、耐食性の点で優れているが、導電性に課題があり、また十分な強度と気密性を得るためには一定の厚みが必要であるため、小型化及び薄型化を妨げる要因となっている。また、炭素系材料は、材料コストや加工コストが大きいという問題がある。一方、金属材料を用いるセパレータは、強度及び気密性の点では問題ないため薄肉に形成することができるが、腐食が生じやすく耐食性の点で問題がある。耐食性に比較的優れた金属製セパレータとしては、ステンレス鋼を用いたセパレータが検討されている。ステンレス鋼セパレータは、通常、ステンレス素材表面に不働態皮膜が自然形成されており、この不働態皮膜が、接触抵抗を高める原因になってしまう。また、燃料電池等の動作環境で生成される腐食性物質(強酸)等の影響によって、ステンレス鋼であっても、金属がイオン化して溶出するという欠点がある。そのため、ステンレス鋼からなるセパレータ基材に対しては、表面処理を行うなどして、耐食性や導電性をさらに付与する必要がある。
【0004】
ステンレス基材を含むセパレータ基材への表面処理方法として、特許文献1には、スパッタリング等の蒸着法やスプレー噴射などの湿式コーティング法を用いて、電気伝導性腐食防止コーティング膜として金属酸化物膜を成膜することが記載されている。また、特許文献2には、Crを含有するステンレス基材上に、金属酸化物微粒子を含む原料溶液をアニオン電着塗装法によって塗布した後、焼成することによって、ステンレス基材の劣化を抑制するための保護膜を形成することが記載されている。
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の方法を用いてステンレス基材にそのまま金属酸化物膜を成膜した場合には、金属酸化物膜と基材との密着性が十分に得られていなかった。また、金属酸化物膜と基材との密着性を高めるために、金属酸化物膜と基材との間に接着力増加用金属層をさらに設けた場合にも、十分な密着性および耐食性を得ることは困難であり、燃料電池用セパレータとしての実用性に足るものではなかった。また、特許文献2に記載の方法では、保護膜中におけるピンホールや気泡の残留を低減するための水洗工程が必須であり、また、塗膜中の樹脂成分を焼失させる焼成工程や、最終的に保護膜を形成するための焼結工程を実施する必要があるなど、工程が複雑となってしまう問題があった。さらに、特許文献2に記載の方法で保護膜を形成した場合には、保護膜中に残留する気孔等の影響により、基材表面の全体にわたって均一且つ十分な強度および耐食性や良好な導電性が得られず、十分に満足のできるものではなかった。
【0006】
そのため、簡単且つ容易に、工業的有利に、基材に対して密着性良く導電性に優れた積層構造体が待ち望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-156386号公報
【文献】特開2014-067491号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、工業的有利に、結晶の機能発現が促進された積層構造体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討した結果、金属を含む導電性の結晶を主成分とする高結晶性層と、高結晶性層よりも結晶性の低い低結晶性層とを少なくとも1層ずつ交互に積層して結晶性積層構造体を製造すると、中でも、高結晶性層および低結晶性層の厚さがいずれも1μm以下であり、高結晶層が低結晶性層よりも厚い結晶性積層構造体が、高結晶層の機能発現が促進されていることを知見し、特に、燃料電池用セパレータとして非常に有用であることを知見し、このような結晶性積層構造体が上記した従来の問題を一挙に解決できるものであることを見出した。
また、本発明者らは、上記知見を得た後、さらに検討を重ねて本発明を完成させるに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、以下の発明に関する。
[1] 金属を含む結晶を主成分とする高結晶性層と、高結晶性層よりも結晶性の低い低結晶性層とを少なくとも1層ずつ交互に、高結晶性層および低結晶性層の厚さがいずれも1μm以下であり、高結晶性層が低結晶性層よりも厚くなるように積層して結晶性層構造体を製造する方法であって、前記積層を、原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を浮遊させ、該ミストまたは液滴をキャリアガスで搬送し、ついで該ミストまたは液滴を熱反応させて、前記高結晶性層および前記低結晶性層をそれぞれ形成することにより行うことを特徴とする結晶性積層構造体の製造方法。
[2] 前記の積層を、基体上に低結晶性層を形成し、ついで、低結晶性層上に高結晶性層を形成することにより行う前記[1]記載の製造方法。
[3] 前記基体が導電性基体である前記[2]記載の製造方法。
[4] 前記の熱反応を600℃以下の温度で行う前記[1]~[3]のいずれかに記載の製造方法。
[5] 前記の熱反応を酸素雰囲気下で行う前記[1]~[4]のいずれかに記載の製造方法。
[6] 前記の熱反応を大気圧下で行う前記[1]~[5]のいずれかに記載の製造方法。
[7] 前記原料溶液が金属ハロゲン化物または有機金属錯体を含む前記[1]~[6]のいずれかに記載の製造方法。
[8] 前記金属ハロゲン化物または有機金属錯体が、スズを含む前記[7]記載の製造方法。
[9] 前記原料溶液の溶媒が水である前記[1]~[8]のいずれかに記載の製造方法。
[10] 高結晶性層および低結晶性層を、それぞれ少なくとも2層以上積層する前記[1]~[9]のいずれかに記載の製造方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明の結晶性積層構造体によれば、簡単且つ容易に、工業的有利に、結晶の機能発現を促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本実施例に用いられる成膜装置(ミストCVD)の概略構成図である。
【
図2】本発明に用いられるSUS基板からなるセパレータの概略構成図である。
【
図3】本発明に用いられるSUS基板からなるセパレータの断面を模式的に示す図である。
【
図4】本実施例の成膜条件とXRD測定結果を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の結晶性積層構造体の製造方法は、金属を含む結晶を主成分とする高結晶性層と、高結晶性層よりも結晶性の低い低結晶性層とを少なくとも1層ずつ交互に、高結晶性層および低結晶性層の厚さがいずれも1μm以下であり、高結晶性層が低結晶性層よりも厚くなるように積層して結晶性層構造体を製造する方法であって、前記積層を、原料溶液を霧化または液滴化し、得られたミストまたは液滴を浮遊させ、該ミストまたは液滴をキャリアガスで搬送し、ついで該ミストまたは液滴を熱反応させて、前記高結晶性層および前記低結晶性層をそれぞれ形成することにより行うことを特長とする。
【0014】
高結晶性層は、結晶性が確認できるものであり、さらに、低結晶性層よりも結晶性の高いものであれば特に限定されない。結晶性の確認は、X線回折装置を用いて得られたXRDデータにおけるピークの有無で確認することができる。また、低結晶性層よりも結晶性が高いか否かについては、XRDデータのピークが低結晶性層のXRDデータのピークよりも急峻か否かで確認することができる。なお、急峻か否かについては、本発明においては、半値幅が低いか否かで判断することができる。つまり、高結晶性層は、通常、低結晶性層よりも半値幅が低い値を有する。なお、本発明においては、高結晶性層の厚さが低結晶性層の厚さの2倍以上であるのが前記結晶の機能促進がより良好なものとなるので好ましい。
【0015】
また、高結晶性層は導電性を有するのが好ましい。また、高結晶性層の主成分である金属を含む結晶は、単結晶でも多結晶でもよいが、結晶性金属酸化物であるのが好ましく、結晶性金属酸化物がドーピングされているのがより好ましい。また、導電性発現がより効果的に促進されることから、結晶性金属酸化物がスズを含むのが好ましい。なお、「主成分」とは、例えば、原子比で、高結晶性層を構成する成分中、金属を含む結晶が、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよい。
【0016】
低結晶性層についても、結晶性以外は、前記の高結晶性層と同様であってよく、主成分が金属酸化物であるのが好ましく、スズを含むのがより好ましい。また、本発明においては、高結晶性層および低結晶性層の主成分が同一であるのも好ましい。高結晶性層および低結晶性層の厚さは、特に限定されないが、いずれも0.1μm以下であるのが好ましく、いずれも50nm以下であるのがより好ましい。
また、本発明においては、低結晶性層が基体上に形成されているのが、通常、基体へのダメージを少なくすることができるので好ましい。なお、基体については、導電性基体であるのが好ましく、前記基体表面の一部または全部が、銅若しくはその合金、アルミニウム若しくはその合金、マグネシウム若しくはその合金またはステンレス鋼を主成分として含むのがより好ましい。
【0017】
以下、本発明における、好ましい基体を用いた場合の積層方法の好適な一態様を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
金属を含む原料溶液を霧化または液滴化して生成されるミストまたは液滴(霧化・液滴化工程)を、キャリアガスでもって基体まで搬送し(搬送工程)、ついで該基体上で該ミストまたは液滴を熱反応させることにより、該基体上に導電性金属酸化膜を成膜する(成膜工程)。
【0018】
(原料溶液)
原料溶液は、金属を含み、霧化または液滴化が可能なものであれば、特に限定されず、無機材料を含んでいても、有機材料を含んでいてもよい。前記金属は、金属単体であっても、金属化合物であってもよく、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本発明においては、前記金属が、周期律表第3周期~第5周期の金属であるのが好ましく、周期律表第4周期または第5周期の金属であるのがより好ましい。周期表第3周期の金属としては、マグネシウム(Mg)、アルミニウム(Al)、ケイ素(Si)、およびリン(P)から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。周期律表第4周期の金属としては、例えば、チタン(Ti)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)、鉄(Fe)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)およびガリウム(Ga)から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。周期律表第5周期の金属としては、例えば、ジルコニウム(Zr)、ニオブ(Nb)、モリブデン(Mo)、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、銀(Ag)、インジウム(In)およびスズ(Sn)から選ばれる1種または2種以上の金属等が挙げられる。本発明においては、前記金属が、錫、亜鉛およびクロムからなる群より選ばれる1種または2種以上の金属であるのが好ましい。前記原料溶液中の前記金属の含有量は、特に限定されないが、好ましくは、0.001重量%~80重量%であり、より好ましくは0.01重量%~80重量%である。
【0019】
本発明においては、前記原料溶液として、前記金属を錯体または塩の形態で有機溶媒または水に溶解または分散させたものを好適に用いることができる。錯体の形態としては、例えば、アセチルアセトナート錯体、カルボニル錯体、アンミン錯体、ヒドリド錯体などが挙げられる。塩の形態としては、例えば、有機金属塩(例えば金属酢酸塩、金属シュウ酸塩、金属クエン酸塩等)、硫化金属塩、硝化金属塩、リン酸化金属塩、ハロゲン化金属塩(例えば塩化金属塩、臭化金属塩、ヨウ化金属塩等)などが挙げられる。
【0020】
原料溶液の溶媒は、特に限定されず、水等の無機溶媒であってもよいし、アルコール等の有機溶媒であってもよいし、無機溶媒と有機溶媒との混合溶媒であってもよい。本発明においては、前記溶媒が水を含むのが好ましく、水または水とアルコールとの混合溶媒であるのがより好ましく、水であるのが最も好ましい。前記水としては、より具体的には、例えば、純水、超純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水、海水などが挙げられるが、本発明においては、超純水が好ましい。
【0021】
また、前記原料溶液には、ハロゲン化水素酸や酸化剤等の添加剤を混合してもよい。前記ハロゲン化水素酸としては、例えば、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸などが挙げられるが、中でも、臭化水素酸またはヨウ化水素酸が好ましい。前記酸化剤としては、例えば、過酸化水素(H2O2)、過酸化ナトリウム(Na2O2)、過酸化バリウム(BaO2)、過酸化ベンゾイル(C6H5CO)2O2等の過酸化物、次亜塩素酸(HClO)、過塩素酸、硝酸、オゾン水、過酢酸やニトロベンゼン等の有機過酸化物などが挙げられる。
【0022】
前記原料溶液には、ドーパントが含まれているのも好ましい。前記原料溶液にドーパントを含ませることにより、イオン注入等を行わずに、得られる膜の導電性を制御することができ、基材に好適に導電性を付与することができる。前記ドーパントは、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されない。前記ドーパントとしては、例えば、スズ、ゲルマニウム、ケイ素、チタン、ジルコニウム、バナジウム、ニオブ、アンチモン、タンタル、フッ素、塩素、セリウム、などが挙げられる。ドーパントの濃度は、通常、約1×1016/cm3~1×1022/cm3であってもよいし、また、ドーパントの濃度を例えば約1×1017/cm3以下の低濃度にしてもよい。また、さらに、本発明によれば、ドーパントを約1×1020/cm3以上の高濃度で含有させてもよい。
【0023】
(基体)
前記基体は、表面の一部または全部が、銅若しくはその合金、アルミニウム若しくはその合金、マグネシウム若しくはその合金またはステンレス鋼を主成分として含んでおり、前記膜を支持できるものが好ましく、前記基体表面の一部または全部がステンレス鋼を主成分として含むものであるのがより好ましく、前記基体表面の全部がステンレス鋼を主成分として含むものであるのがさらにより好ましく、前記基体がステンレス鋼を主成分として含むものであるのが最も好ましい。ここで、主成分とは、例えば、前記基体表面の一部または全部がステンレス鋼を主成分として含む場合、前記ステンレス鋼が、原子比で、前記基体表面の一部または全部を構成する成分中、好ましくは50%以上、より好ましくは70%以上、更に好ましくは90%以上含まれることを意味し、100%であってもよい。前記ステンレス鋼は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、公知のステンレス鋼であってよい。前記ステンレス鋼としては、フェライト系ステンレス鋼、マルテンサイト系ステンレス鋼、オーステナイト系ステンレス鋼等が挙げられる。フェライト系ステンレス鋼としては、SUS430、SUS434、SUS405等が挙げられる。マルテンサイト系ステンレス鋼としては、SUS403、SUS410、SUS431等が挙げられる。前記オーステナイト系ステンレス鋼としては、例えば、JISに規格するSUS201、SUS304、SUS304L、SUS304LN、SUS310S、SUS316、SUS316L、SUS317J1、SUS317J2、SUS321、SUS329J1、SUS836、SUSXM7等が挙げられる。本発明においては、前記ステンレス鋼が、オーステナイト系ステンレス鋼であるのが好ましい。
【0024】
前記基体の形状としては、どのような形状のものであってもよく、あらゆる形状に対して有効であり、例えば、平板や円板等の板状、繊維状、棒状、円柱状、角柱状、筒状、螺旋状、球状、リング状などが挙げられるが、本発明においては、板状であるのが好ましく、前記基体が板状であり、前記成膜を、前記基体の両面上に行うのも好ましい。また、本発明においては、前記基体が、表面の一部又は全部に凸凹形状を有するのが好ましい。本発明においては、このような、表面の一部または全部に凸凹形状を有する基体上であっても、均一に且つ密着性良く成膜を行うことができる。なお、本発明においては、前記基体が、セパレータであるのも好ましい。
【0025】
(凸凹形状)
前記凸凹形状は、凸部または凹部からなるものであれば特に限定されず、凸部からなる凸凹形状であってもよいし、凸部からなる凸凹形状であってもよいし、凸部および凹部からなる凸凹形状であってもよい。また、前記凸凹形状は、規則的な凸部または凹部から形成されていてもよいし、不規則な凸部または凹部から形成されていてもよい。本発明においては、前記凸凹形状が周期的に形成されているのが好ましく、前記凸凹形状が周期的かつ規則的なパターンを形成するのがより好ましい。また、本発明においては、前記凸凹形状が流路パターンを形成するのも、成膜後の前記基体を、例えば燃料電池用セパレータ等として好適に用いることができるため、好ましい。前記凸凹形状の周期的かつ規則的なパターンとしては、特に限定されず、例えば、ストライプ状、ドット状、格子状、メッシュ状などが挙げられるが、本発明においては、ストライプ状、ドット状または格子状が好ましい。前記流路パターンは、例えば、前記基体を、公知の手段を用いて燃料電池用セパレータとして適用した場合に、液体や気体の流路として機能するパターンであれば、特に限定されず、公知の流路パターンであってよい。前記流路パターンとしては、例えば、1または2以上の流路が蛇行状に設けられたサーペンタイン型の流路パターン、複数の直線状流路が並行して設けられた並行型の流路パターン、またはサーペンタイン型と並行型とを組み合わせた流路パターン等が挙げられる。本発明においては、前記流路パターンが、並行型の流路パターンであるのが好ましい。前記凸凹形状の凸部または凹部の断面形状としては、特に限定されないが、例えば、コの字型、U字型、逆U字型、波型、または三角形、四角形(例えば正方形、長方形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられる。また、前記凸凹形状の凸部または凹部の平面形状としては、円形、楕円形、三角形、四角形(例えば正方形、矩形若しくは台形等)、五角形若しくは六角形等の多角形等が挙げられるが、本発明においては、前記平面形状が、矩形状であるのが好ましい。
【0026】
前記凸部の構成材料は、特に限定されず、公知の材料であってよい。絶縁体材料であってもよいし、導電体材料であってもよいし、半導体材料であってもよいし、前記基体であってもよい。また、前記構成材料は、非晶であってもよいし、単結晶であって もよいし、多結晶であってもよい。前記凸部の構成材料としては、例えば、Si、Ge、Ti、Zr、Hf、Ta、Sn等の酸化物、窒化物または炭化物、カービン、ダイヤモンド、金属、これらの混合物などが挙げられる。より具体的には、SiO2、SiNまたは多結晶シリコンを主成分として含むSi含有化合物、前記結晶性半導体の結晶成長温度よりも高い融点を有する金属(例えば、白金、金、銀、パラジウム、ロジウム、イリジウム、ルテニウムなどの貴金属等)などが挙げられる。なお、前記構成材料の含有量は、凸部中、組成比で、50%以上が好ましく、70%以上がより好ましく、90%以上が最も好ましい。本発明においては、前記凸部が、前記成膜後に除去可能なマスク材料によって構成されているのも好ましい。前記マスク材料の除去手段は、特に限定されず、公知の手段であってよい。前記除去手段としては、ドライエッチング、ウェットエッチング等が挙げられる。
【0027】
前記凸部の形成手段としては、公知の手段であってよく、例えば、フォトリソグラフィー、電子ビームリソグラフィー、レーザーパターニング、スクリーン印刷、その後のエッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)などの公知のパターニング加工手段などが挙げられる。本発明においては、前記凸部がストライプ状、メッシュ状または格子状であるのが好ましく、格子状であるのがより好ましい。また、前記凸部が、前記基体を加工することによって設けられた凸部であるのも好ましい。前記加工手段は、特に限定されず、公知の加工手段であってよい。前記加工手段としては、エッチング(例えばドライエッチングまたはウェットエッチング等)、プレス加工等が挙げられる。
【0028】
前記凹部は、特に限定されないが、上記凸部の構成材料と同様のものであってよいし、前記基体であってもよい。本発明においては、前記凹部が、ストライプ状、メッシュ状または格子状であるのが好ましい。前記凹部の形成手段としては、前記の凸部の形成手段と同様の手段を用いることができる。前記凹部が、前記マスク材料によって設けられた凹部であるのも好ましい。また、前記凹部が前記基体を加工することによりに設けられた凹部であるのも好ましい。前記加工手段は、公知の溝加工手段であってよい。凹部の幅、溝深さ、テラス幅等は、本発明の目的を阻害しない限り、特に限定されず、適宜に設定することができる。
なお、本発明において好適なSUS基板からなるセパレータの概略構成図を、
図2に示す。本発明において好適に用いられるセパレータは、並行型の流路パターンを有するセパレータであり、SUS基材13上に、スクリーン印刷によって形成された、流路パターンを構成するための流路形成層14および流路壁15、各単セルに反応ガスや冷媒を供給するためのマニホールド16が設けられた構成となっている。なお、本発明で好適に用いられるセパレータの断面を模式的に示す図を、
図3に示す。
【0029】
(霧化・液滴化工程)
前記霧化・液滴化工程は、原料溶液を調整し、前記原料溶液を霧化してミストまたは液滴を発生させる。霧化手段は、前記原料溶液を霧化できさえすれば特に限定されず、公知の霧化手段であってよいが、本発明においては、超音波を用いる霧化手段であるのが好ましい。前記ミストは、初速度がゼロで、空中に浮遊するものが好ましく、例えば、スプレーのように吹き付けるのではなく、空間に浮かびガスとして搬送することが可能なミストであるのがより好ましい。ミストの液滴サイズは、特に限定されず、数mm程度の液滴であってもよいが、好ましくは50μm以下であり、より好ましくは1~10μmである。
【0030】
(搬送工程)
前記搬送工程では、前記霧化・液滴化工程で生成されるミストまたは液滴を、キャリアガスでもって前記基体まで搬送する。キャリアガスの種類としては、本発明の目的を阻害しない限り特に限定されず、例えば、酸素、オゾン、窒素やアルゴン等の不活性ガス、または水素ガスやフォーミングガス等の還元ガスなどが好適な例として挙げられる。本発明においては、前記キャリアガスが、酸素又は不活性ガスであるのがより好ましい。また、キャリアガスの種類は1種類であってよいが、2種類以上であってもよく、キャリアガス濃度を変化させた希釈ガス(例えば10倍希釈ガス等)などを、第2のキャリアガスとしてさらに用いてもよい。また、キャリアガスの供給箇所も1箇所だけでなく、2箇所以上あってもよい。キャリアガスの流量は、特に限定されないが、0.01~20L/分であるのが好ましく、1~10L/分であるのがより好ましい。希釈ガスの場合には、希釈ガスの流量が、0.001~10L/分であるのが好ましく、0.1~5L/分であるのがより好ましい。
【0031】
(成膜工程)
成膜工程では、前記ミストまたは前記液滴を熱反応させて、前記基体上に成膜する。前記熱反応は、熱でもって前記ミストが反応すればそれでよく、反応条件等も本発明の目的を阻害しない限り特に限定されない。本工程においては、前記熱反応を、通常、溶媒の蒸発温度以上の温度で行うが、高すぎない温度(例えば、800℃)以下が好ましく、600℃以下がより好ましく、500℃以下が最も好ましい。また、熱反応は、真空下、非酸素雰囲気下、還元ガス雰囲気下および酸素雰囲気下のいずれの雰囲気下で行われてもよく、また、大気圧下、加圧下および減圧下のいずれの条件下で行われてもよいが、本発明においては、大気圧下で行われるのが好ましい。
【0032】
以上のようにして、積層し、そして、成膜条件を変えることにより、本発明の結晶性積層構造体を得ることができる。特に、得られる膜の膜厚は、成膜時間を調整することにより、容易に調整することができる。結晶性は、成膜温度を変えることにより調整することができる。
【0033】
また、上記の成膜方法によれば、前記基体上に直接または他の層を介して導電性金属酸化膜が形成されている導電性積層構造体であって、導電性金属酸化膜の膜厚が30nm以上であり、接触抵抗が100mΩcm2以下である導電性積層構造体を得ることができる。また、上記の好ましい成膜方法によれば、接触抵抗が50mΩcm2以下の前記導電性積層構造体を得ることができ、さらに好ましい成膜条件によれば、接触抵抗が20mΩcm2以下の前記導電性積層構造体を得ることができる。
【0034】
前記導電性積層構造体としては、例えば、集電体、電磁波遮蔽材、電極、放熱板、放熱部品、エレクトロニクス部品、半導体部品、燃料電池用セパレータ等の各種電子部品が挙げられる。前記導電性積層構造体は、常法に従い、前記各種部品を含む電子装置等に適用することができる。前記電子装置は、特に限定されないが、本発明においては、例えば、デジタルカメラ、プリンタ、プロジェクタ、パーソナルコンピュータ、携帯電話等のCPU搭載電子装置や、掃除機、アイロン等の電源ユニット搭載電子装置等、モータ、駆動機構、電気自動車、電機飛行機、小型電動機器やMEMS等の駆動電子装置等が好適な例として挙げられる。また、公知の手段を用いて、前記電子装置を電子・電気製品に搭載し、さらにはCPUと組み合わせて情報処理システムを構築することができる。
【実施例】
【0035】
(実施例1)
1.成膜装置
図1を用いて、本実施例で用いたミストCVD装置1を説明する。ミストCVD装置1は、キャリアガスを供給するキャリアガス源2aと、キャリアガス源2aから送り出されるキャリアガスの流量を調節するための流量調節弁3aと、キャリアガス(希釈)を供給するキャリアガス(希釈)源2bと、キャリアガス(希釈)源2bから送り出されるキャリアガス(希釈)の流量を調節するための流量調節弁3bと、原料溶液4aが収容されるミスト発生源4と、水5aが入れられる容器5と、容器5の底面に取り付けられた超音波振動子6と、成膜室7と、ミスト発生源4から成膜室7までをつなぐ供給管9と、成膜室7内に設置されたホットプレート8と、熱反応後のミスト、液滴および排気ガスを排気する排気口11とを備えている。なお、ホットプレート8上には、基板10が設置されている。
【0036】
2.原料溶液の作製
原料溶液として塩化スズの水溶液を用いた。
【0037】
3.成膜準備
上記2.の原料溶液4aをミスト発生源4内に収容した。次に、基板10として、表面に凸凹形状を有するSUS基板からなるセパレータをホットプレート8上に設置し、ホットプレート8を作動させて基板温度を450℃にまで昇温させた。次に、流量調節弁3aを開いて、キャリアガス源であるキャリアガス供給手段2aからキャリアガスを成膜室7内に供給し、成膜室7の雰囲気をキャリアガスで十分に置換した後、キャリアガスの流量を0.5L/分に、キャリアガス(希釈)の流量を4.5L/分に調節した。なお、キャリアガスとして酸素を用いた。
【0038】
4.成膜
次に、超音波振動子6を2.4MHzで振動させ、その振動を、水5aを通じて原料溶液4aに伝播させることによって、原料溶液4aを霧化させてミスト4bを生成させた。このミスト4bが、キャリアガスによって、供給管9内を通って、成膜室7内に導入され、大気圧下、
図4に示す条件で、基板10近傍でミストが熱反応して、基板10上に膜が形成された。なお、XRDの結果もあわせて
図4に示す。
【0039】
5.評価
上記4.で得られた結晶性積層構造体は、接触抵抗等において、予想に反し、他の導電性の単層膜等よりも格段に優れていた。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、様々の幅広い分野に用いることができ、特に、集電体、電磁波遮蔽材、電極、放熱板、放熱部品、エレクトロニクス部品、半導体部品、燃料電池用セパレータ等の各種部品を含む電子装置に有用である。
【符号の説明】
【0041】
1 成膜装置
2a キャリアガス源
2b キャリアガス(希釈)源
3a 流量調節弁
3b 流量調節弁
4 ミスト発生源
4a 原料溶液
4b 原料微粒子
5 容器
5a 水
6 超音波振動子
7 成膜室
8 ホットプレート
9 供給管
10 基板
11 排気口
12 セパレータ
13 SUS基材
14 流路壁
15 マニホールド
16 流路形成層