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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】呼吸抵抗測定装置及び検査結果予測方法
(51)【国際特許分類】
   A61B 5/08 20060101AFI20220408BHJP
【FI】
A61B5/08
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019026037
(22)【出願日】2019-02-15
(65)【公開番号】P2020130470
(43)【公開日】2020-08-31
【審査請求日】2021-10-27
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597129229
【氏名又は名称】チェスト株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】久原 聡
(72)【発明者】
【氏名】西貝 学
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 久仁貴
【審査官】▲高▼ 芳徳
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-240752(JP,A)
【文献】特開2010-264235(JP,A)
【文献】特公昭47-016476(JP,B1)
【文献】特公昭48-010877(JP,B1)
【文献】特開平03-039140(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 5/08 - 5/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
呼吸抵抗の周波数依存性に関する第1検査の結果を示す第1データと、呼吸抵抗の周波数依存性以外の呼吸機能に関する第2検査の結果を示す第2データとを被検者毎に対応付けて複数の被験者の前記第1データ及び複数の被験者の前記第2データを記憶する記憶部と、
前記記憶部に記憶された前記第1データ及び前記第2データに基づいて、新たに実施された呼吸抵抗の周波数依存性に関する追加第1データから予測される前記第2検査の結果を示す予測第2データを演算する演算部と、
前記追加第1データと前記予測第2データとを表示出力する表示部とを備える
呼吸抵抗測定装置。
【請求項2】
前記演算部は、複数の前記第1データのうち前記追加第1データと類似する第1データを特定し、前記類似する第1データと対応付けられた前記第2データに基づいて前記予測第2データを演算する
請求項1に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項3】
前記予測第2データは、少なくとも、ヒトの呼吸機能のうち1秒量、1秒率、ピークフロー、50%肺気量の呼気流量及び25%肺気量の呼気流量の各々の値を含み、
前記演算部は、前記類似する第1データと対応付けられた前記第2データが示す前記各々の値に基づいて、前記予測第2データに含まれる前記各々の値を演算する
請求項2に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項4】
前記演算部は、前記各々の値が取り得ると予測された値の範囲を演算し、
前記表示部は、前記第2検査を行った場合に健常者であると判定される値の範囲と、前記予測第2データに含まれる前記各々の値が取り得ると予測された値の範囲との関係を示す表示出力を行う
請求項3に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項5】
前記記憶部は、前記複数の被験者の各々の年齢、性別、身長及び体重うち少なくとも1つ以上を含む被験者属性情報をさらに記憶し、
前記演算部は、前記追加第1データを得られた被検者の前記被験者属性情報と前記複数の被験者の前記被験者属性情報との類似性に基づいて前記類似する第1データを特定する
請求項2から4のいずれか一項に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項6】
前記演算部は、対応付けられた前記第1データと前記第2データを教師データとして、前記第1データに含まれるパラメータと前記第2データに含まれるパラメータとの関係の重み付けを行うための機械学習を行い、当該重み付けに基づいて前記予測第2データ又は前記第2データと対応付けられていない前記第1データから予測される前記第2検査の結果を示すデータを演算するためのニューラルネットワークを生成する
請求項1から5のいずれか一項に記載の呼吸抵抗測定装置。
【請求項7】
情報処理装置が、呼吸抵抗の周波数依存性に関する第1検査の結果に基づいて、呼吸抵抗の周波数依存性以外の呼吸機能に関する第2検査の結果を予測する検査結果予測方法であって、
前記呼吸抵抗の周波数依存性に関する前記第1検査の結果を示す第1データと、前記第2検査の結果を示す第2データとを被検者毎に対応付けて複数の被験者の前記第1データ及び複数の被験者の前記第2データを記憶するステップと、
前記第1データ及び前記第2データに基づいて、新たに実施された呼吸抵抗の周波数依存性に関する追加第1データから予測される前記第2検査の結果を示す予測第2データを演算するステップと、
前記追加第1データと前記予測第2データとを表示出力するステップとを含む
検査結果予測方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、呼吸抵抗測定装置及び検査結果予測方法に関する。
【背景技術】
【0002】
呼吸機能を診断するための検査方法として一般的なスパイロメトリの他に、強制オシレーション法が知られている(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【文献】特開2009-240752号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパイロメトリでは、被験者は、定められた呼吸法で呼吸を行う努力をする必要がある。呼吸器疾患を罹患している被験者では係る呼吸法の実施に苦痛を伴うことがあることから、スパイロメトリのように検査中の呼吸に条件がある検査の実施が困難な場合があった。一方、強制オシレーション法では、被験者は、検査中に通常の呼吸をしていればよい。このため、強制オシレーション法による測定結果に基づいて、スパイロメトリのような第2検査を行った場合の測定結果の予測を支援したいという需要があった。
【0005】
本発明は、上記の課題に鑑みてなされたものであって、強制オシレーション法による測定結果に基づいて、他の検査の測定結果の予測を支援可能な呼吸抵抗測定装置及び検査結果予測方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するため、本発明に係る呼吸抵抗測定装置は、呼吸抵抗の周波数依存性に関する第1検査の結果を示す第1データと、呼吸抵抗の周波数依存性以外に関する第2検査の結果を示す第2データとを被検者毎に対応付けて複数の被験者の前記第1データ及び複数の被験者の前記第2データを記憶する記憶部と、前記記憶部に記憶された前記第1データ及び前記第2データに基づいて、新たに実施された呼吸抵抗の周波数依存性に関する追加第1データから予測される前記第2検査の結果を示す予測第2データを演算する演算部と、前記追加第1データと前記予測第2データとを表示出力する表示部とを備える。
【0007】
これによって、追加第1データから予測第2データを演算して追加第1データ及び予測第2データの表示出力を行える。従って、呼吸抵抗の周波数依存性に関する測定が可能な強制オシレーション法による測定結果に基づいて、他の検査である第2検査の測定結果の予測を支援可能になる。
【0008】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記演算部は、複数の前記第1データのうち前記追加第1データと類似する第1データを特定し、前記類似する第1データと対応付けられた前記第2データに基づいて前記予測第2データを演算する。
【0009】
これによって、予測第2データの精度をより高められる。
【0010】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記予測第2データは、少なくとも、ヒトの呼吸機能のうち1秒量、1秒率、ピークフロー、50%肺気量の呼気流量及び25%肺気量の呼気流量の各々の値を含み、前記演算部は、前記類似する第1データと対応付けられた前記第2データが示す前記各々の値に基づいて、前記予測第2データに含まれる前記各々の値を演算する。
【0011】
これによって、追加第1データを得られた被験者が第2検査を行った場合に得られる1秒量、1秒率、ピークフロー、50%肺気量の呼気流量及び25%肺気量の呼気流量を予測可能になる。従って、追加第1データを得られた被験者が第2検査を行うことが困難な場合であっても、第2検査を行わずに1秒量、1秒率、ピークフロー、50%肺気量の呼気流量及び25%肺気量の呼気流量を予測可能になる。
【0012】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記演算部は、前記各々の値が取り得ると予測された値の範囲を演算し、前記表示部は、前記第2検査を行った場合に健常者であると判定される値の範囲と、前記予測第2データに含まれる前記各々の値が取り得ると予測された値の範囲との関係を示す表示出力を行う。
【0013】
これによって、予測される1秒量、1秒率、ピークフロー、50%肺気量の呼気流量及び25%肺気量の呼気流量の値の範囲に基づいた診断を支援可能になる。
【0014】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記記憶部は、前記複数の被験者の各々の年齢、性別、身長、体重及びのうち少なくとも1つ以上を含む被験者属性情報をさらに記憶し、前記演算部は、前記追加第1データを得られた被検者の前記被験者属性情報と前記複数の被験者の前記被験者属性情報との類似性に基づいて前記類似する第1データを特定する。
【0015】
これによって、追加第1データと類似する第1データの特定の精度をより高められる。
【0016】
呼吸抵抗測定装置の望ましい態様として、前記演算部は、対応付けられた前記第1データと前記第2データを教師データとして、前記第1データに含まれるパラメータと前記第2データに含まれるパラメータとの関係の重み付けを行うための機械学習を行い、当該重み付けに基づいて前記予測第2データ又は前記第2データと対応付けられていない前記第1データから予測される前記第2検査の結果を示すデータを演算するためのニューラルネットワークを生成する。
【0017】
これによって、機械学習を利用して予測第2データの精度をより高められる。
【0018】
また、上記の目的を達成するため、本発明に係る検査結果予測方法は、情報処理装置が、呼吸抵抗の周波数依存性に関する第1検査の結果に基づいて、呼吸抵抗の周波数依存性以外に関する第2検査の結果を予測する検査結果予測方法であって、前記呼吸抵抗の周波数依存性に関する前記第1検査の結果を示す第1データと、前記第2検査の結果を示す第2データとを被検者毎に対応付けて複数の被験者の前記第1データ及び複数の被験者の前記第2データを記憶するステップと、前記第1データ及び前記第2データに基づいて、新たに実施された呼吸抵抗の周波数依存性に関する追加第1データから予測される前記第2検査の結果を示す予測第2データを演算するステップと、前記追加第1データと前記予測第2データとを表示出力するステップとを含む。
【0019】
これによって、追加第1データから予測第2データを演算して追加第1データ及び予測第2データの表示出力を行える。従って、呼吸抵抗の周波数依存性に関する測定が可能な強制オシレーション法による測定結果に基づいて、他の検査である第2検査の測定結果の予測を支援可能になる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、強制オシレーション法による測定結果に基づいて、他の検査の測定結果の予測を支援可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1図1は、実施形態の呼吸抵抗測定装置の主要構成例を示すブロック図である。
図2図2は、測定部の主要構成例を示す模式図である。
図3図3は、時系列に沿う呼吸抵抗値及びリアクタンス値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図4図4は、気管支喘息を罹患している被験者の呼吸抵抗値及びリアクタンス値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図5図5は、慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)を罹患している被験者の呼吸抵抗値及びリアクタンス値の波形の一例を示す3Dグラフである。
図6図6は、第2データに基づいて描画されるスパイログラムの模式図である。
図7図7は、対応付けデータの一例を示す図である。
図8図8は、第1データと第2データとを同時に視認可能な表示出力例を示す図である。
図9図9は、予測結果の表示出力例を示す図である。
図10図10は、データ管理部による処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
本発明を実施するための形態(実施形態)につき、図面を参照しつつ詳細に説明する。以下の実施形態に記載した内容により本発明が限定されるものではない。また、以下に記載した構成要素には、当業者が容易に想定できるもの、実質的に同一のものが含まれる。さらに、以下に記載した構成要素は適宜組み合わせることが可能である。
【0023】
図1は、実施形態の呼吸抵抗測定装置1の主要構成例を示すブロック図である。呼吸抵抗測定装置1は、測定部10と、データ管理部20とを備える。測定部10は、呼吸抵抗の測定に用いられる。データ管理部20は、測定部10を用いて測定された呼吸抵抗に関するデータを利用した各種の処理を行う。
【0024】
図2は、測定部10の主要構成例を示す模式図である。測定部10は、負荷発生部11、流量計測部12、圧力計測部13、分岐管14、ニューモタコグラフ15、マウスピース16等を備える。実施形態の測定部10は、所謂広域周波オシレーション法と呼ばれる呼吸抵抗測定方法で被験者の呼吸抵抗を測定するためのものである。
【0025】
なお、流速計測部12、圧力計測部13を測定部10に設けるための具体的構成は、ニューモタコグラフ15に限られない。例えば、リリー型フローセンサ等の差圧式流量計を用いて気流Bの流速、圧力を測定してもよい。
【0026】
負荷発生部11は、被験者が行う呼吸により生じる気流B(安静換気)に対して負荷を与える。負荷発生部11は、例えば、気流Bが流れる流路に対して波動Oを発生して負荷を与えるスピーカである。流量計測部12は、気流Bの流量を測定するセンサである。圧力計測部13は、気流Bの圧力を測定するセンサである。なお、流量計測部12が計測する流量は、所定の単位時間(例えば、1秒)あたりの流量である。
【0027】
分岐管14は、気流Bが流れる管状の流路の終端側に設けられて、終端側を2分岐させるY字状の管路を有する部材である。負荷発生部11には、2分岐した流路の一端側に負荷発生部11が設けられ、他端側に終端抵抗14aが設けられている。負荷発生部11及び終端抵抗14aは、流路の終端の一部又は全部を塞いでいる。ニューモタコグラフ15は、分岐管14とマウスピース16との間に介在するように気流Bの流路に設けられる。ニューモタコグラフ15には、流量計測部12、圧力計測部13及びスクリーン15aが設けられる。スクリーン15aは、気流Bが通過可能に設けられる。気流Bがスクリーン15aに与える影響に基づいて、流量計測部12及び圧力計測部13がセンシングを行う。マウスピース16は、気流Bの流路の始端側に設けられる。マウスピース16に、被験者の口(又は、鼻及び口)が密着されて呼吸が行われる。
【0028】
図2に示す負荷発生部11は、負荷制御部11aとユニット11bとを含む。負荷制御部11aは、流量計測部12が測定する流速のデータ及び圧力計測部13が測定する圧力のデータに基づいて、呼吸のタイミングに合わせてユニット11bに負荷を発生させる。ユニット11bは、負荷制御部11aの制御下で波動Oを発生させて気流Bに対して負荷を与える。
【0029】
実施形態では、ユニット11bが発生させる波動Oとして、例えば、ハニング波、雑音波等の広帯域周波数成分を含む波動が採用されている。波動Oの周波数帯は、例えば、5~35Hzである。これら例示された波動Oの詳細は、あくまで広域周波オシレーション法で採用されるオシレーション波の具体例であってこれらに限られるものでなく、適宜変更可能である。
【0030】
負荷制御部11aは、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータと、ユニット11bに負荷を発生させたタイミング及び負荷の種類(周波数等)を示すデータとをデータ管理部20に出力する。流量計測部12及び圧力計測部13からのデータは、負荷制御部11aを介さずデータ管理部20に出力されてもよい。
【0031】
データ管理部20は、記憶部21、演算部22、表示部23、入力部24等を備える。記憶部21は、ハードディスクドライブ(HDD:Hard Disk Drive)、ソリッドステートドライブ(SSD:Solid State Drive)、フラッシュメモリーその他の記憶装置のいずれかを有し、各種のデータを記憶する。記憶部21は、例えば、測定データ210、表示プログラム220、判定プログラム230等を記憶する。
【0032】
測定データ210は、第1データ211、第2データ212、対応付けデータ213等を含む。第1データ211は、過去に測定部10を用いて行われた測定結果を示すデータである。また、被験者が新たに行った測定によって測定部10からデータ管理部20に出力された新たな測定結果を示すデータ(追加データAD)は、1人の被験者の1回分の第1データ211として扱われる。すなわち、測定部10を用いて測定が行われるたび、第1データ211に含まれる被験者のデータは増加する。
【0033】
表示プログラム220は、測定データ210に基づいた表示出力を行うためのソフトウェア・プログラムである。以下、単にプログラムと記載した場合、ソフトウェア・プログラムのことをさす。判定プログラム230は、表示出力内容を制御するためのプログラムである。これらのプログラムにより実現される機能については後述する。
【0034】
演算部22は、CPU(Central Processing Unit)等の演算回路を有し、記憶部21に記憶されているプログラム、データを読み出して実行処理し、データ管理部20の動作に関する各種の処理を行う。表示部23は、液晶ディスプレイ、有機エレクトロルミネセンスディスプレイその他の表示装置のいずれかを有し、演算部22の処理内容に応じた表示出力を行う。入力部24は、例えば表示部23の表示領域に対するタッチ操作を検出するタッチパネル、キーボード、マウスその他の入力装置のいずれかを有し、データ管理部20に対するユーザの手動入力操作を受け付ける。
【0035】
まず、データ管理部20によるデータ表示機能の概要について説明する。演算部22は、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータに基づいて高速フーリエ変換等の処理を行い、当該データが検出された被験者の呼吸抵抗値及びリアクタンス値を求める。演算部22は、測定部10を用いて行われた被験者の呼吸抵抗測定期間(時間)の時系列に沿って変化する気流Bの流速及び圧力に基づいて、時系列に沿って呼吸抵抗値及びリアクタンス値を求める。
【0036】
演算部22は、表示プログラム220を実行し、時系列に沿った呼吸抵抗値の変化を表示部23に表示させる処理を行う。表示部23は、演算部22によって求められた呼吸抵抗値等を時系列に沿って表示出力する。以下、呼吸抵抗値の表示例について、図3を参照して説明する。
【0037】
図3は、時系列に沿う呼吸抵抗値及びリアクタンス値の波形の一例を示す3Dグラフである。図3の呼吸抵抗値欄で示す3Dグラフは、3軸のうち1つが呼吸抵抗値(R)、他の1つが周波数(F)、残りの1つが時間(T)を示す。図3の呼吸抵抗値欄で示す3Dグラフでは、周波数(F)の軸に沿って手前側から奥側に渡って表示される呼吸抵抗値(R)の高低を示す波形W10が時間(T)の軸に沿って3D状に表示されることで、表示部23を見たユーザが周波数別の呼吸抵抗値の傾向を容易に把握可能になっている。図3に例示する波形W10は、波形W11,W12,W13,W14,W15,W16を含む。波形W11,W12,W13,W14,W15,W16は、それぞれ異なる周波数帯の5[Hz]幅の呼吸抵抗値を示す波形である。図3のようなグラフにおける周波数(F)と呼吸抵抗値(R)との関係は、負荷発生部11からの負荷の周波数が変化した場合に呼吸抵抗値がどのように変化したかを示している。
【0038】
図3のリアクタンス値欄で示す3Dグラフは、3軸のうち1つがリアクタンス値(X)、他の1つが周波数(F)、残りの1つが時間(T)を示す。図3のリアクタンス値欄で示す3Dグラフでは、周波数(F)の軸に沿って手前側から奥側に渡って表示されるリアクタンス値(X)の高低を示す波形Wが時間(T)の軸に沿って3D状に表示されることで、表示部23を見たユーザが周波数別のリアクタンス値の傾向を容易に把握可能になっている。図3に例示する波形W20は、波形W21,W22,W23,W24,W25,W26を含む。波形W21,W22,W23,W24,W25,W26は、それぞれ異なる周波数帯の5[Hz]幅のリアクタンス値を示す波形である。図3のようなグラフにおける周波数(F)とリアクタンス値(X)との関係は、負荷発生部11からの負荷の周波数が変化した場合にリアクタンス値がどのように変化したかを示している。
【0039】
図4以降の3Dグラフでは、呼吸抵抗値及びリアクタンス値の3軸の矢印及び符号の図示を省略しているが、3Dグラフの解釈方法については図3と同様である。実施形態では、表示部23からの表示出力内容に呼吸抵抗値(R)(又はリアクタンス値(X))、周波数(F)及び時間(T)を示す矢印は表示されないが、表示出力するようにしてもよい。また、図3及び図4以降の3Dグラフでは、呼吸抵抗値の3Dグラフにおける吸気の期間にハッチングを付している。ハッチングが付されていない期間が呼気の期間である。図3等では図示しないが、リアクタンス値についても呼吸抵抗値と同様、呼気と吸気を区別するための表示態様の区別をしてもよい。
【0040】
実施形態の表示プログラム220は、図3に例示するように、第1データ211に基づいて求められた呼吸抵抗値及びリアクタンス値の少なくとも一方を3Dグラフの形態で表示出力するプログラムである。表示プログラム220による表示態様は図3に示す例に限定されず、測定部10を用いた測定によって求められた呼吸抵抗値及びリアクタンス値の少なくとも一方を把握可能な形態であればよい。
【0041】
また、図3等の呼吸抵抗値欄の3Dグラフは、原点SP1の横軸に対する呼吸抵抗値(R)の波形W10の高さによって波形の色が変わるようになっている。具体的には、例えば後述する指標Rrs(図8参照)が示すように、原点SPの横軸に対する呼吸抵抗値の高さと色との関係が設定されている。これによって、色に基づいた呼吸抵抗値の高低の評価が可能になる。図3に示す原点SP1の横軸は、呼吸抵抗値(R)の高低を視覚化するための基準値を示す3Dグラフの縦軸(呼吸抵抗値(R))方向の底辺である。原点SP1の横軸、例えばゼロ(0)の呼吸抵抗値を示すが、0を超える任意の値であってもよい。ただし、原点SP1の横軸の位置は、3Dグラフに含まれる呼吸抵抗値の最低値以下であることが望ましい。リアクタンス値でも同様に、後述する指標Xrs(図8参照)が示すように、原点SP2の横軸に対するリアクタンス値の高低を把握可能になっている。
【0042】
図3に示すグラフは、呼吸器系に特段の疾患を持たない健常者が被験者である場合の呼吸抵抗値の一例を示すグラフである。図3に示すグラフのようなデータは、追加データADに限られない。図3に示すグラフのようなデータのうち、過去に実施済みのデータについては、呼吸機能が正常であると判定済みの測定結果を示す第1データ211として扱われる。
【0043】
第1データ211は、健常者が被験者である場合のデータに限られない。以下、何らかの異常があると判定済みの測定結果を示す第1データ211の具体例について、図4及び図5を参照して説明する。
【0044】
図4は、気管支喘息を罹患している被験者の呼吸抵抗値及びリアクタンス値の波形の一例を示す3Dグラフである。図4で例示するように、気管支喘息を罹患している被験者では、一般的に、健常者である被験者に比して高い呼吸抵抗値が測定される傾向がある。また、気管支喘息を罹患している被験者では、一般的に、健常者である被験者に比して低いリアクタンス値が測定される傾向がある。
【0045】
図5は、慢性閉塞性肺疾患(COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)を罹患している被験者の呼吸抵抗値及びリアクタンス値の波形の一例を示す3Dグラフである。図5で例示するように、COPDを罹患している被験者では、一般的に、健常者である被験者に比して高い呼吸抵抗値が測定される傾向がある。また、COPDを罹患している被験者では、一般的に、健常者である被験者に比して低いリアクタンス値が測定される傾向がある。また、図4の3Dグラフでは、負荷の周波数と呼吸抵抗値との間に特段の関係性が現れていないが、図5の3Dグラフでは、負荷の周波数が上がるにつれて呼吸抵抗値がより高くなる周波数依存性が現れている。このような周波数依存性の有無は、一般的に、気管支喘息等の喘息とCOPDとを識別可能にする診断材料として利用可能とされる。
【0046】
図5を参照して説明したように、第1データ211は、呼吸抵抗の周波数依存性に関するデータとして機能する。すなわち、第1データ211は、負荷の周波数帯(又は周波数)によって呼吸抵抗値がどのような傾向を示すかを確認可能なデータである。また、追加データADは、新たに実施された呼吸抵抗の周波数依存性に関する追加第1データとして機能する。
【0047】
第1データ211として扱われるデータは、健常者又は気管支喘息若しくはCOPDを罹患している患者のデータに限られない。例えば、喘息とCOPDが合併したACO(Asthma and Copd Overlap)を罹患している被験者のデータ、測定時に測定部10の取り扱いの不備等によって正しく測定が行われなかったデータ等も、第1データ211に含まれてよい。
【0048】
第2データ212は、測定部10とは異なる呼吸機能の測定装置を用いて測定されたデータである。具体的には、第2データ212は、例えばスパイロメータを用いて行われた肺機能検査(スパイロメトリ)の結果を示すデータである。
【0049】
図6は、第2データ212に基づいて描画されるスパイログラムの模式図である。スパイロメトリでは、図6に示すようなフローボリュームカーブLを描くグラフであるスパイログラムを描画可能なデータが測定される。原点(0)の横軸を基準として上向きの縦軸が呼気による単位時間あたりの呼気流量、すなわち、気流量(フロー)を示し、下向きの縦軸が吸気による気流量を示す。また、幅D1が努力肺活量(FVC:Forced Vital Capacity)を示す。FVCは、後述するV50及びV25における100[%]肺気量の基準として扱われる。なお、V50及びV25の「V」は、正しくは上側に傍点が付されたアルファベットのV(図9参照)である。また、V50は、FEF50(Forced Expiratory Flow at 50% of forced vital capacity)と記載されることもある。また、V25は、FEF75(Forced Expiratory Flow at 75% of forced vital capacity)と記載されることもある。
【0050】
図6の幅D2で示すように、原点(0)の横軸に対して吸気のフローが最大である瞬間の気流量が、ピークフロー(PEF:Peak Expiratory Flow)である。気管支喘息、COPD等の呼吸器疾患に罹患している被験者の場合、一般的に、健常者と比較した場合にPEFの低下が現れる傾向があるとされる。
【0051】
また、幅D1の中間点に対応する位置における吸気のフロー、すなわち、図6の幅D3が、50[%]肺気量の時の呼気流量(V50)を示す。また、幅D1の1/4の位置であって、PEFから遠い方の位置における吸気のフロー、すなわち、図6の幅D4が、25[%]肺気量の時の呼気流量(V25)を示す。なお、V50及びV25の呼気流量とは、所定の単位時間(例えば、1秒)あたりの呼気流量である。V50及びV25は、一般的に、被験者の努力による影響を受けない測定値として診断に利用される傾向がある。気管支喘息等、末梢気道閉塞を伴う疾患に罹患している被験者の場合、一般的に、健常者と比較した場合のPEFの低下よりもV50,V25のより顕著な低下が現れる傾向があるとされる。
【0052】
また、フローボリュームカーブには現れないが、スパイロメトリでは、さらに、1秒量(FEV1:Forced Expiratory Volume 1sec)及び1秒率(FEV1%:Forced Expiratory Volume 1sec %)も測定される。FEV1は、呼気を開始した瞬間から1秒間に呼出された気量を示す。FEV1%は、FVCに対するFEV1の割合を示す。
【0053】
実施形態では、第2データ212は、少なくとも、FEV1,FEV1%,PEF,V50及びV25の各々の測定値を示すパラメータ及びこれらの測定値を演算によって導出可能な実測データの少なくとも一方を含む。言い換えれば、実施形態において第2検査として扱われるスパイロメトリは、少なくとも、呼吸検査機能におけるFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の各々の値を測定可能な検査である。第2データ212は、さらに、スパイロメトリで測定可能な他の項目の測定値を示すパラメータを含んでいてもよい。
【0054】
第1データ211と第2データ212は、被験者単位で対応付けられている。対応付けデータ213は、第1データ211と第2データ212を被験者単位で対応付けるデータである。
【0055】
図7は、対応付けデータ213の一例を示す図である。なお、図7では、例えば図3のデータが「00000001」の識別番号を与えられた被験者の第1データ211である「m00000001」に該当し、図4のデータが「00000002」の識別番号を与えられた被験者の第1データ211である「m00000002」に該当し、図5のデータが「00000005」の識別番号を与えられた被験者の第1データ211である「m00000005」に該当する。測定データ210に含まれる複数の種類のデータは、例えば図7の識別番号のような固有の識別子によって被験者単位で区別されている。識別番号は、例えば演算部22が過去のデータに与えられていない識別番号を新たに生成し、測定部10からデータ管理部20に入力されたデータに個別に与えることで各被験者のデータに割り当てられる。
【0056】
図7の診断結果は、例えば呼吸抵抗測定装置1のユーザが入力部24を用いて行った入力によって第1データ211に設定された診断結果である。「正常」の診断結果は、健常者であると診断された被験者のデータであることを示す。「COPD」、「喘息」、「ACO」及び「NG」のように「正常」以外の診断結果は、何らかの異常があった被験者のデータであることを示す。「COPD」、「喘息」、「ACO」は、それぞれ疾患名を示す。「NG」は、測定時に測定部10の取り扱いの不備等によって正しく測定が行われなかったことを示す。
【0057】
図7の対応付け欄に示すように、対応付けデータ213は、第1データ211と第2データ212を被験者単位で対応付ける。例えば、「00000001」の識別番号を与えられた被験者の第1データ211である「m00000001」と、同一の被験者の第2データ212である「s00000001」とが図7に例示する対応付けデータ213によって対応付けられている。また、「00000002」の識別番号を与えられた被験者の第1データ211である「m00000002」と、同一の被験者の第2データ212である「s00000002」とが図7に例示する対応付けデータ213によって対応付けられている。「00000002」よりも後の識別番号を与えられた被験者についても同様に、第1データ211と第2データ212とが図7に例示する対応付けデータ213によって対応付けられている。
【0058】
実施形態では、図7の被験者属性欄に含まれる年齢[歳]、性別、身長[cm]、体重[kg]のカラムで例示するように、被験者を識別するための特徴に関するパラメータが設定されている。被験者属性のパラメータは、例えば入力部24を用いた入力を介して、ユーザにより第1データ211に設定される。例えば、「00000001」の識別番号を与えられた被験者は、年齢が25[歳]であり、性別が男であり、身長が175.0[cm]であり、体重が66.0[kg]であることが被験者属性欄の設定項目により示されている。図示しないが、被験者属性は、氏名等、被験者をより確実に識別するためのさらなる設定項目を含んでいてもよい。
【0059】
第1データ211と第2データ212との対応付けは、例えば入力部24を用いた入力を介してユーザにより手動で行われてもよいし、第1データ211及び第2データ212に個別に設定された被験者属性欄の設定項目の照合によって演算部22が自動的に行ってもよい。言い換えれば、第2データ212には、予め被験者属性のパラメータが設定されており、第1データ211との対応付けが可能な状態になっている。
【0060】
なお、「m00000001」等の第1データ211は、例えば、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータを記録したもの、すなわち、高速フーリエ変換等の処理前のデータであってもよいし、流量計測部12及び圧力計測部13からのデータに基づいて演算部22が行った高速フーリエ変換等の処理によって求められた呼吸抵抗値等を示すデータであってもよい。また、「s00000001」等の第2データ212は、例えば、FEV1,FEV1%,PEF,V50及びV25の各々の測定値が演算によって導出される前のスパイロメータによる実測データであってもよいし、当該実測データから演算によって導出されたFEV1,FEV1%,PEF,V50及びV25の各々の測定値を示すパラメータを含むデータであってもよい。また、図7で例示する被験者属性欄の各種設定項目等の具体的な内容はあくまで一例であってこれに限られるものでなく、同様の意味を示す他の表現が用いられていてもよい。
【0061】
表示プログラム220を実行中の演算部22は、例えば対応付けデータ213によって対応付けられた第1データ211と第2データ212とを同時に視認可能な表示出力を表示部23に行わせる。
【0062】
図8は、第1データ211と第2データ212とを同時に視認可能な表示出力例を示す図である。図8に示す表示出力例では、第1データ211に対応する3DグラフG1と、第2データ212に対応するスパイログラムG2と、3DグラフG1の読み方に関する情報を提供する情報提供部Pとを含む。図8では、3DグラフG1が呼吸抵抗値の3Dグラフである場合を例示しているが、リアクタンス値の3Dグラフについても同様に表示可能である。また、呼吸抵抗値の3Dグラフとリアクタンス値の3Dグラフは、同時に表示されてもよいし、入力部24を用いた入力等をトリガーとして切り替わりで3DグラフG1の位置に表示されてもよい。また、3DグラフG1とスパイログラムG2とは同時出力に限らず、切り替わりで表示されてもよい。
【0063】
なお、情報提供部Pにおける「Rrs」は、呼吸抵抗値の高低と3Dグラフのパターンとの対応関係に関する情報を提供している。また、「Xrs」は、リアクタンス値の高低とグラフのパターンとの対応関係に関する情報を提供している。図8及び上述の図3等ではドットパターンの濃淡で3Dグラフにおける呼吸抵抗値の高低を表現しているが、実際には、カラー表示可能な表示部23を用いた多色表現が行われる。リアクタンス値の高低の表現についても同様である。また、図8及び上述の図3等でハッチングの有無によって表現されている呼気と吸気との区別についても、実際には色の差によって表現される。
【0064】
なお、複数の第1データ211のうち一部の第1データ211は、第2データ212と対応付けられていなくてもよい。例えば、追加データADとして入力されて第1データ211に加えられるデータは、その時点では第2データ212と対応付けられていない。判定プログラム230は、対応付けられた第1データ211及び第2データ212に基づいて、対応付けられる第2データ212がない第1データ211から、当該第1データ211が測定された被験者と同一の被験者がスパイロメトリを行った場合に測定されると予想されるデータ(予測第2データ)を演算するためのプログラムである。
【0065】
具体的には、判定プログラム230は、所謂機械学習を利用して第1データ211から予測第2データを演算する。例えば、所謂ニューラルネットワークにおける入力を追加データAD又は過去の第1データ211に含まれるデータのうち第2データ212と対応付けられていないデータとし、出力を予測第2データとし、教師データを過去の測定データ210に含まれる第1データ211と第2データ212との対応付け並びに第1データ211及び第2データ212の各々のデータとする。すなわち、入力データと記載した場合、追加データAD又は過去の第1データ211に含まれるデータのうち第2データ212と対応付けられていないデータである。
【0066】
判定プログラム230を実行中の演算部22は、当該ニューラルネットワークにおける入力と出力との間に介在し、入力データと、教師データに含まれる複数の第1データ211の各々との類似の度合いを判定するための重み付けを行う隠れ層として機能するニューラルネットワークを生成する。当該隠れ層としての演算部22は、入力データが示す呼吸抵抗値及びリアクタンス値と、複数の第1データ211の各々が示す呼吸抵抗値及びリアクタンス値との関係について、周波数との関係、一連の呼吸における増減パターンその他の特徴に基づいて、類似の度合いを示すパラメータ(例えば、数値)を演算する。
【0067】
より具体的には、呼吸抵抗値の最高値及び最低値に基づいた重み付けを行うためのニューロンと、呼吸抵抗値の増減に基づいた重み付けを行うためのニューロンと、被験者の性別、身長、体重等の身体的特徴との関係に基づいた重み付けを行うためのニューロンと、…のように、入力と出力との間に介在する隠れ層を構成するニューロンを階層化するアルゴリズムを含む判定プログラム230が採用されることで、より高い精度が望める。このように、判定プログラム230は、機械学習プログラムとして機能する。また、判定プログラム230を実行中の演算部22を含む構成は、所謂機械学習システムとして機能する。これらをさらに発展させ、所謂ディープラーニングによって、類似判定や後述する第1データ211と第2データ212との相関に基づいた機械学習を行うようにしてもよい。
【0068】
また、当該隠れ層としての演算部22は、被験者属性に含まれる各種のパラメータ等、被験者の性別の異同及び体格の近似の度合いを当該類似の度合いを示すパラメータの演算において参酌してもよい。具体的には、教師データのうち入力データに設定された性別と不一致の性別が設定された第1データ211を、入力データと類似しない第1データ211であることを示す数値にするようにしてもよい。また、入力データ及び教師データに設定された年齢の数値に基づいて、成人と判定される年齢のデータと、小児と判定される年齢のデータとを区別するようにしてもよい。この場合、入力データが成人又は小児の一方である場合に教師データのうち成人又は小児の他方の第1データ211を類似しないデータとして扱い、そのような第1データ211を入力データと類似しない第1データ211であることを示す数値にするようにしてもよい。また、年齢による成人と小児の区別に限らず、体格の近似(乖離)の度合いに基づいて、成人と小児の区別と同様の観点で入力データと教師データに含まれる第1データ211との類似性を判定するようにしてもよい。このように、複数の被験者の各々の年齢、性別、身長、体重のうち少なくとも1つ以上を含む被験者属性情報を設定することで、演算部22は、追加データADのような追加第1データや第1データ211のうち第2データ212と対応付けられていないデータを得られた被検者の被験者属性情報と、第2データ212と対応付けられた第1データ211を得られた複数の被験者の被験者属性情報との類似性に基づいて、類似する第1データ211を特定できる。
【0069】
より具体的な例を挙げると、機械学習では、追加データADの呼吸抵抗値の最高値と、被験者の体格に関するパラメータ(被験者の年齢[歳]、性別、身長[cm]、体重[kg]等)との関係を測定データ210として累積的に記憶することで、蓄積された測定データ210のうち成人、小児の各々の体格に該当する被験者から得られた呼吸抵抗値の最高値、最低値、増減パターン等の各種のパラメータを性別ごとに基準値として設定、更新する学習が行われる。このようにして学習された基準値と入力データに含まれる各種のパラメータとの関係に基づいて、類似性の判定、類似性の判定に関する学習及び予測第2データの学習が可能になる。
【0070】
また、当該隠れ層としての演算部22は、診断結果が既に設定されている場合、入力データと教師データに含まれる第1データ211との類似の度合いを示すパラメータの演算において診断結果の異同を参酌してもよい。具体的には、教師データのうち入力データに設定された診断結果と不一致の診断結果が設定された第1データ211を、入力データと類似しない第1データ211であることを示す数値にするようにしてもよい。
【0071】
判定プログラム230を実行中の演算部22は、入力データと教師データに含まれる第1データ211の各々との類似の度合い及び教師データに含まれる第1データ211と対応付けられた第2データ212に基づいて、入力データを得られた被験者の予測第2データを演算する。具体的には、例えば類似の度合いが数値化される場合、類似すると判定される閾値が設定される。演算部22は、当該閾値に基づいて、教師データに含まれる第1データ211のうち入力データと類似すると判定される第1データ211を特定する。演算部22は、特定された第1データ211と対応付けられた第2データ212と、当該第1データ211と入力データとの類似の度合い(重み)に基づいて予測第2データを演算する。
【0072】
一例として、入力データと類似すると判定された第1データ211が教師データに1つしかない場合を想定する。この場合、演算部22は、当該第1データ211と対応付けられた第2データ212をそのまま予測第2データとして導出してもよい。また、演算部22は、当該第2データ212を基準値(例えば、中間値)として予め定められた予測値の範囲(最低値から最高値の幅)を設定したデータを予測第2データとしてもよい。この場合、予測値の範囲を示すパラメータは、予め判定プログラム230に含まれているか、演算部22が参照可能な状態で記憶部21等に記憶されている。
【0073】
図9は、予測第2データの表示出力例を示す図である。図9では、第2データ212に含まれるパラメータのうち、FEV1,FEV1%、PEF,V50,V25の各々について、予測値範囲が示されている。当該予測値範囲は、例えば、上述の第2データ212の基準値と予測値の範囲を示すパラメータとの組み合わせによって演算される。例えば、図9では、FEV1の予測値範囲が最低4.92[L]~最高5.30[L]になっているが、これは、FEV1の予測値の範囲を示すパラメータが、最低値から最高値の範囲を0.38[L]としていることに基づく。他のパラメータについても、同様の考え方で予測値範囲が演算される。なお、図9に示すFEV1の単位[L]は、リットルである。また、PEF,V50,V25の単位[L/Sec]は、1秒あたりの流量によって表される流速である。
【0074】
また、図9に示す例では、正常予測値との関係を棒グラフの位置で図示化している。図9では、例えば、棒グラフB1がFEV1の最低値から最高値までの予測値範囲を示している。また、棒グラフB2がFEV1%の最低値から最高値までの予測値範囲を示している。また、棒グラフB3がPEFの最低値から最高値までの予測値範囲を示している。また、棒グラフB4がV50の最低値から最高値までの予測値範囲を示している。また、棒グラフB5がV25の最低値から最高値までの予測値範囲を示している。また、破線BL1と破線BL2との間の範囲によって、FEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の各々の正常予測値の範囲が示されている。すなわち、正常予測値の範囲に対する棒グラフB1,B2,B3,B4,B5の各々の位置によって、予測されたFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25と各々の正常予測値との関係が示されている。正常予測値は、スパイロメトリを行った場合に健常者であると判定される被験者のFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の各々の測定値の範囲である。このように、実施形態では、第2検査(例えば、スパイロメトリ)を行った場合に健常者であると判定される値の範囲と、入力データを得られた被験者が当該第2検査を行った場合に予測される値の範囲との関係を示す表示を行える。
【0075】
図9に示すような予測第2データの表示出力は、例えば図8に示す3DグラフG1と情報提供部Pとの間のスペースQに含めるようにしてもよいし、他のレイアウトで3DグラフG1等と共に表示出力するようにしてもよいし、独立した表示出力画面で表示出力するようにしてもよい。また、演算部22は、予測第2データとして演算されたFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25等から導出されるスパイログラムをスパイログラムG2として表示部23に表示出力させるようにしてもよいし、スパイログラムG2を省略してもよい。なお、FEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の予測値に範囲が設定されない場合、最低値と最高値が同一の値になり、棒グラフが当該同一の値を示す一点を示す表示態様(例えば、点(・)、線(|)、交差線(×)等)に置換される。
【0076】
以上、入力データと類似すると判定された第1データ211が教師データに1つしかない場合を例として説明したが、FEV1,FEV1%,PEF,V50,V25のような第2検査の予測値範囲の演算方法は上述の方法に限定されない。例えば、入力データと類似すると判定された第1データ211が教師データに複数含まれる場合、類似すると判定された第1データ211と対応付けられている第2データ212におけるFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の各々の最低値と最高値とを、入力データから予測されるFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の各々の予測値範囲の最低値と最高値に適用してもよい。なお、図9のようなスパイログラムの予測値範囲に関する表示態様は、FEV1,FEV1%,PEF,V50,V25に限らず、例えばFVCのような他の予測値範囲を含めてもよく、図9に例示した態様には限られない。
【0077】
また、演算部22は、入力データと類似すると判定された第1データ211の各々の重み、すなわち、類似する複数の第1データ211の各々で異なる類似の度合いに基づいて、予測範囲値に反映させる重みを決定してもよい。例えば、最も類似性が高いと判定される重み付けがされた第1データ211と対応付けられた第2データ212に含まれる値が最も基準値に近くなるように基準値が設定され、類似すると判定された他の第1データ211と対応付けられた第2データ212に含まれる値に基づいて予測値範囲と基準値との関係(最低値から最高値の幅等)が決定されるようにしてもよい。重み付けと予測値範囲との関係は任意であるが、予測値範囲がスパイロメトリの実施結果の目安として機能する程度に予測値範囲の最低値から最高値の幅が限定されることが望ましい。
【0078】
なお、第2データ212の予測値又は予測値範囲は、計算式に基づいて算出された値との関係を参酌して決定されてもよい。例えば、18歳から95歳の健常者の男性のFEV1(L)は、以下の式(1)に基づいて予測値を算出できる。18歳から95歳の健常者の女性の場合、FEV1(L)の算出式は、式(1)に含まれる「0.036」、「0.028」及び「1.178」の値が「0.022」、「0.022」及び「0.005」に置換された式になる。また、18歳から95歳の健常者の男性のFEV1%(G)(%)は、例えば以下の式(2)に基づいて予測値を算出できる。18歳から95歳の健常者の女性の場合、FEV1%(G)(%)の算出式は、式(2)に含まれる「0.028」、「0.190」及び「89.313」の値が「-0.090」、「0.249」及び「111.052」に置換された式になる。なお、FEV1%(G)は、FEV1/FVCと表現することもできる。FEV1%には、FEV1%(G)以外に、FEV1%(T)もある。FEV1%(T)は、FEV1/VCと表現することもできる。VCは、肺活量(Vital Capacity)を示す。
FEV1(L)=0.036×身長(cm)-0.028×年齢-1.178…(1)
FEV1%(G)(%)=0.028×身長(cm)-0.190×年齢+89.313…(2)
【0079】
また、6歳から17歳の場合に適用される計算式が別途設定されてもよい。例えば、第2データ212の予測値としてFVCを算出したい場合、6歳から17歳の男性のFVCは、例えば以下の式(3)に基づいて予測値を算出できる。また、6歳から17歳の女性のFVCは、例えば以下の式(4)に基づいて予測値を算出できる。また、18歳から95歳の男性のFVCは、例えば以下の式(5)に基づいて予測値を算出できる。また、18歳から95歳の女性のFVCは、例えば以下の式(6)に基づいて予測値を算出できる。
2.108-0.1262×年齢×0.00819×(年齢)-3.118×(Ht/100)+2.553×(Ht/100)…(3)
1.142+0.00168×(年齢)-2.374×(Ht/100)+2.116×(Ht/100)…(4)
0.042×Ht-0.024×年齢-1.785…(5)
0.031×Ht-0.019×年齢-1.105…(6)
【0080】
上述の式(1)から式(6)のように例示した計算式を利用する場合、当該計算式を利用したアルゴリズムは、予め判定プログラム230に含まれている。また、FEV1(L)、FEV1%(G)、FVCの計算式はこれらに限定されるものでなく、他の式によってもよい。また、PEF,V50,V25やその他のスパイログラムに関するパラメータの各々についても、計算式が定められてもよい。さらに、第1データ211から推定される被験者の傾向(呼吸器疾患の有無及び疾患の種類等)に基づいて、計算式を用いて算出された値を補正するようにして第2データ212の予測に利用するようにしてもよい。例えば、COPDを罹患している被験者の場合、FEV1%が70未満になる傾向がある。このため、第1データ211がCOPDの傾向を示す場合、第2データ212の予測値にこのような傾向を考慮した補正を施すことを行ってもよい。
【0081】
さらに、演算部22は、第1データ211と第2データ212との相関に基づいた機械学習も可能である。すなわち、判定プログラム230を実行中の演算部22は、第1データ211の呼吸抵抗値、リアクタンス値の最高値、最低値、増減パターン等を入力とし、第2データ212の各種のパラメータ(FEV1,FEV1%,PEF,V50,V25等)を出力として入力と出力との間に介在する隠れ層として機能する重み付けのためのニューロンを生成、更新可能なプログラムであってよい。この場合、対応付けられた第1データ211と第2データ212が追加される度、演算部22は、入力から出力が導出されるよう、第1データ211の呼吸抵抗値、リアクタンス値の最高値、最低値、増減パターン等と第2データ212の各種のパラメータとの関係とを逆算した重み付けが設定されたニューロンを生成、更新する。このような機械学習によって、追加データADから予測第2データを演算する精度をより高められる。
【0082】
機械学習を想定した判定プログラム230は、機械学習の進行に伴ってニューロンによる重み付け等を変更可能に設けられることが望ましい。
【0083】
図10は、データ管理部20による処理の流れの一例を示すフローチャートである。特筆しない限り、図10に示す処理は、判定プログラム230を実行中の演算部22による処理である。演算部22は、表示出力の対象となる第1データ211を取得すると(ステップS1)、当該第1データ211と対応付けられた第2データ212が記憶部21に記憶されているか判定する(ステップS2)。第1データ211と対応付けられた第2データ212が記憶部21に記憶されていると判定された場合(ステップS2;Yes)、演算部22は、表示プログラム220を実行し、表示出力の対象となる第1データ211の3Dグラフと、当該第1データ211と対応付けられた第2データ212に基づいたスパイログラム(図8参照)とを表示部23に表示させる(ステップS3)。
【0084】
ステップS2の処理で、第1データ211と対応付けられた第2データ212が記憶部21に記憶されていないと判定された場合(ステップS2;No)、演算部22は、ステップS1の処理で表示出力の対象とされた第1データ211を入力データとし、測定データ210に含まれる第1データ211のうち第2データ212と対応付けられたデータを教師データとして、機械学習に基づいた出力を得るための予測第2データの演算を行う(ステップS4)。演算部22は、表示プログラム220を実行し、表示出力の対象となる第1データ211の3Dグラフ(図8参照)と、予測第2データ(図9参照)とを表示部23に表示させる(ステップS5)。
【0085】
以上説明したように、呼吸抵抗測定装置1は、呼吸抵抗の周波数依存性に関する検査の結果を示す第1データ211と、呼吸抵抗の周波数依存性以外に関する第2検査(例えば、スパイロメトリ)の結果を示す第2データ212とを被検者毎に対応付けて複数の被験者の第1データ211及び第2データ212を記憶する記憶部21と、記憶部21に記憶されたい第1データ211及び第2データ212に基づいて、追加データADから予測第2データを演算する演算部22と、追加データADと予測第2データとを表示出力する表示部23とを備える。
【0086】
これによって、追加データADから予測第2データを演算して追加第1データ及び予測第2データの表示出力を行える。従って、強制オシレーション法による測定結果に基づいて、他の検査である第2検査の測定結果の予測を支援可能になる。
【0087】
また、演算部22は、追加データADと類似する第1データ211を特定し、類似する第1データ211と対応付けられた第2データ212に基づいて予測第2データを演算する。
【0088】
これによって、予測第2データの精度をより高められる。
【0089】
また、演算部22は、類似する第1データ211と対応付けられた第2データ212が示すFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25に基づいて、予測第2データのFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の予測値範囲を演算する。
【0090】
これによって、追加データADを得られた被験者がスパイロメトリを行った場合に得られるFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25を予測可能になる。従って、追加データADを得られた被験者がスパイロメトリを行うことが困難な場合であっても、スパイロメトリを行わずにFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25を予測可能になる。
【0091】
また、図9で例示したように、表示部23は、スパイロメトリを行った場合に健常者であると判定される正常予測値の範囲と、予測されるFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の値の範囲を示す棒グラフB1,B2,B3,B4,B5との関係を示す表示出力を行う。
【0092】
これによって、予測されるFEV1,FEV1%,PEF,V50,V25の値の範囲に基づいた診断を支援可能になる。
【0093】
また、演算部22は、追加データADを得られた被検者の被験者属性情報と測定データ210に記憶された複数の被験者の被験者属性情報との類似性に基づいて、追加データADと類似する第1データ211を特定する。
【0094】
これによって、追加データADと類似する第1データ211の特定の精度をより高められる。
【0095】
また、演算部22は、対応付けられた第1データ211と第2データ212との相関に基づいて、第1データ211に含まれるパラメータと第2データ212に含まれるパラメータとの関係の重み付けを行うための機械学習を行い、当該重み付けに基づいて予測第2データを演算する。
【0096】
これによって、予測第2データの精度をより高められる。
【0097】
なお、図1を参照して説明した実施形態の構成では、データ管理部20が呼吸抵抗測定装置1に含まれているが、データ管理部20の構成は、測定部10を備える呼吸抵抗測定装置1と別体の情報処理装置に含まれていてもよい。この場合、データ管理部20は、測定部10を備える呼吸抵抗測定装置1から出力される追加データADを取得し、予め記憶されている測定データ210を参照した判定を行う。
【0098】
また、図3等を参照した説明では、グラフが波形上の3Dグラフである場合を例としているが、グラフの具体的な形態は波形上の3Dグラフに限られるものでなく、適宜変更可能である。例えば、棒グラフの組み合わせによる3Dグラフであってもよいし、周波数又は周波数帯毎に個別に表示された2Dグラフであってもよい。
【0099】
また、実施形態では、第2検査がスパイロメトリである場合を例としているが、第2検査は、測定部10を用いた検査とは異なるヒトの呼吸機能検査であればよく、スパイロメトリに限定されるものでない。係る呼吸機能検査で測定されたデータが被験者単位で第1データ211と対応付けられていれば、上述の第2データ212と係る呼吸機能検査で測定されたデータとを入れ替えた説明によって、係る呼吸機能検査の予測結果を演算可能である。
【符号の説明】
【0100】
1 呼吸抵抗測定装置
10 測定部
20 データ管理部
21 記憶部
22 演算部
23 表示部
24 入力部
210 測定データ
211 第1データ
212 第2データ
213 対応付けデータ
AD 追加データ
図1
図2
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図4
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図10