(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】釣り用部材
(51)【国際特許分類】
A01K 83/00 20060101AFI20220408BHJP
【FI】
A01K83/00 Z
(21)【出願番号】P 2020102625
(22)【出願日】2020-06-12
(62)【分割の表示】P 2017031067の分割
【原出願日】2016-03-03
【審査請求日】2020-07-10
(73)【特許権者】
【識別番号】506318942
【氏名又は名称】フジック釣具工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086346
【氏名又は名称】鮫島 武信
(72)【発明者】
【氏名】井川 弘一
【審査官】吉田 英一
(56)【参考文献】
【文献】登録実用新案第3184119(JP,U)
【文献】特開平10-276616(JP,A)
【文献】特開2002-219900(JP,A)
【文献】特開2000-117889(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0124886(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 83/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属製本体と、前記金属製本体の表面に配置された被覆層とを備えた釣り針において、
前記被覆層は、内側の防錆用のメッキ層と、前記メッキ層の外側に積層されたフッ素を含有するコーティング層とを備え、
前記メッキ層は、
層厚みが3~4μmであり、
前記コーティング層は、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化樹脂)の層であって、その動摩擦係数0.09以下であり、鉛筆硬度6-8H以上の高硬度を示すものであって、その皮膜厚みが5~15nmであり、
針先における最先端から0.1mm以内の尖頭ポイントは、前記メッキ層の表面に直接形成された前記コーティング層が、その表面を構成していることを特徴とする釣り針。
【請求項2】
前記メッキ層は、
層厚みが3μmのニッケルメッキであり、
前記コーティング層は、皮膜厚みが10nm、動摩擦係数0.09、鉛筆硬度6-8Hであることを特徴とする請求項1に記載の釣り針。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、釣り用部材に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、釣り針本体の表面に対し無電解処理でニッケル-リン合金母材に微細分子構造のフッ素樹脂を複合するめっき層を形成した釣り針が開示されている。
特許文献2には、釣り針本体と、釣り針本体の表面に形成された被覆層と、被覆層中又は被覆層の表面の少なくともいずれか一方に存在する光透過散乱材とで構成された釣り針が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特許第2807673号公報
【文献】特開平8-89135号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は表面の摩擦抵抗を低減した新たな釣り用部材の提供を課題とする。
さらに本発明は彩色性と摩擦抵抗の低減性とを兼ね備えた釣り用部材の提供を課題とする。
また本発明は貫通性を高めた釣り針の提供を課題とする。
またさらに本発明は彩色性と貫通性とを兼ね備えた釣り針の提供を課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、金属製本体と、前記金属製本体の表面に配置された被覆層とを備えた釣り用部材において、前記被覆層は、内側の防錆用のメッキ層と、前記メッキ層の表面側に配置されたフッ素を含有するコーティング層とを備えた釣り用部材を提供する。メッキ層は金属製本体の防錆性を高め、フッ素を含有するコーティング層は表面の摩擦係数を抑えて表面の摩擦抵抗を低減させる。
金属製本体を釣り針本体として実施した場合には、摩擦抵抗の低減によって、魚体への貫通性を向上させることができる。
【0006】
本発明は、コーティング層が透光性を備えたものであって、メッキ層とコーティング層との間に着色層を備えたものとして実施することができる。これにより、着色層の色彩がコーティング層を介して見えるため、メッキ層の色彩以外の色に釣り用部材を着色することができる。
さらに、コーティング層と着色層との間に透光性を有する中間層を介在させることにより、コーティング層と着色層との間の剥離を抑制することができる。
【発明の効果】
【0007】
本発明は表面の摩擦抵抗を低減させた釣り用部材を提供することができたものである。
さらに本発明は表面の摩擦抵抗を低減に加えて彩色性を備えた釣り用部材を提供することができたものである。
金属製本体を釣り針本体として実施した場合には、摩擦抵抗の低減によって、魚体への貫通性を向上させ、さらに彩色性を付与した釣り針を提供することができたものである。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明の実施の形態に係る釣り用部材の各種態様の説明図。
【
図3】本発明の他の実施の形態に係る釣り用部材の要部拡大断面図。
【
図5】実施例1と比較例1との試験結果を示したグラフ。
【
図6】実施例2と比較例2との試験結果を示したグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下図面を参照して本発明の実施の形態を説明する。
図1は、本発明の実施の形態に係る各種釣り用部材10の態様を示すもので、釣り用部材10の具体的態様としては、釣り針12、さるかん13、スナップ14、釣り竿の糸ガイド15等々を示すことができる。
【0010】
図2に示すように、金属製本体11などの前記釣り用部材10は、鉄やその合金等の各種金属製本体11と、金属製本体11の表面に形成されて配置された被覆層20とを備える。
被覆層20は、金属製本体11の表面に形成された防錆用のメッキ層21と、金属製本体11の表面に形成され配置されたフッ素を含有するコーティング層24とを備える。
【0011】
また本発明におけるコーティング層24は、メッキ層21よりも表面側に形成されればよく、好ましくは最表面に配置される。従って、
図3に示すように、メッキ層21とコーティング層24との間に着色層22を備えたものとして実施することができる。この場合、メッキ層21、着色層22及びコーティング層24の3層として実施することもできるが、着色層22とコーティング層24との付着性を高めるために、両層の間に中間層23を介在させることもできる。
【0012】
メッキ層21は、金属製本体11の防錆性を高めることを目的の一つとして形成されるもので、ニッケル、金、銀、銅、クロムや真鍮などや、その合金などの種々のメッキ用金属を採用することができ、メッキの方法も特に問うものではない。
メッキ層21の層厚みも特に問うものではなく、従来の各種釣り用部材10の層厚みに従って実施してかまわないものであり、求められる防錆性能などに応じて適宜変更して実施することもできる。具体的には、層厚み1~10μm、釣り針の場合には3~4μm厚程度のものを例示し得る。
【0013】
着色層22は、メッキ層21以外の色を釣り用部材10に付与したい場合などに配置することができ、各種の塗料を用いて形成することができる。塗料の種類も特に問うものではなく、溶剤型、無溶剤型など釣り用部材10の使用条件などに応じて適宜選択することができ、蛍光塗料やパール顔料を含むものなどを用いることができる。採用する着色層22の条件は、求められる発色性や付着性能などに応じて適宜変更して実施することもでき、従来の各種釣り用部材10の層厚みに従って実施してかまわないものであり、例えば、10~20μm 厚のものを例示し得る。
【0014】
中間層23は、着色層22とコーティング層24との付着性を高めるために必要に応じて用いるもので、例えば液体ガラスなどを例示することができるが、着色層22とコーティング層24との組成や種類に応じて適宜変更して実施することができる。中間層23は透明薄膜を形成する透光性が高いものであることが適当である。
【0015】
コーティング層24は、フルオロオレフィンなどのフッ素を含むオレフィンを重合した合成樹脂の層であり、ポリテトラフルオロエチレン(四フッ化樹脂)などを例示し得る。特に釣り針12の魚体への貫通性を高める場合には、動摩擦係数0.1未満特に0.09以下のものが好適であり、また高硬度(鉛筆硬度6-8H)以上を示すものが好ましい。このコーティング層24は、その皮膜厚みが小さいものが適当であり、好ましくは20nm以下、より好ましくは5~15nmとするのが適当である。
【0016】
本発明に係る釣り用部材10の製造方法は従来の被覆層の形成方法と略同じ手順で行うことができ、釣り針12として実施する場合を例に採ると、金属製本体11となる線材を所定の寸法に切断して尖頭(針先)を形成する。次に、曲げ加工などによって釣り針12の全体の形状を成形し、熱処理を行う。次に、化学研磨などで尖頭(針先)を尖らせた後にメッキ層21を形成する。必要に応じて着色層22と中間層23とを形成し、最後にコーティング層24を形成するものである。なお、尖頭(針先)における最先端のポイント(例えば最先端から0.1~0.05mm以内の箇所)については、着色層22と中間層23を形成しなかったり、形成しても他の箇所よりも薄い皮膜として、コーティング層24をメッキ層21の表面に直接形成するようにする方が、最先端のポイントの摩擦係数を確実に低減させたりコーティング層24の剥離脱落を抑制したりできる点で有利である。
【0017】
前述の特許文献1には、釣り針本体の表面に対し無電解処理でニッケル-リン合金母材に微細分子構造のフッ素樹脂を複合するめっき層を形成したもので、被覆層を形成する工程としては比較的単純であるが、本発明にあっては、メッキ層21とコーティング層24とを別工程で行うことによって、工程数は増すものの、各層による防錆性能や摩擦係数の低減効果が確実に発揮されるため、防錆性能と貫通性能とを共に向上させることができた釣り用部材10を提供することができたものである。
【実施例】
【0018】
以下本発明の実施例を説明するが本発明はこの実施例に限定して理解されるべきではない。
実施例1
図1に示す釣り針12及び
図2
金属製本体11:80カーボン硬鋼線製1.47mm径
メッキ層21:ニッケルメッキ3μm厚
コーティング層24:10nm厚 動摩擦係数0.09 鉛筆硬度6-8H
【0019】
実施例2
図1に示す釣り針12及び
図3
金属製本体11:実施例1と同じ
メッキ層21:実施例1と同じ
着色層22:ラッカー系塗料20μ厚
中間層23:水ガラス10nm厚
コーティング層24:実施例1と同じ
【0020】
比較例1
実施例1においてコーティング層24を形成していない釣り針。
【0021】
比較例2
実施例2において中間層23とコーティング層24を形成していない釣り針。
【0022】
貫通試験
各実施例と各比較例について下記の試験装置を用いて下記の試験方法により貫通試験を行った。
【0023】
試験装置:インストロン社製マイクロ製品強度評価装置(卓上型 シングルコラム)
荷重容量:最大1kN
荷重測定精度:1/100まで指示値の±0.4%
位置測定精度:±0.02mmまたは変位の±0.05%
【0024】
試験方法
試験装置のクランプ31に各釣り針12を、その尖頭が真下を向くようにセットした。円筒状のジグ32の上端に塩化ビニル製のフィルム33を張設し、試験装置を作動させてクランプ31と共に釣り針12を降下させて、尖頭がフィルム33を貫通する際の加重を測定した。
【0025】
試験結果
図5と
図6のグラフに示すように、実施例1と2にあっては、比較例1、2に比して、釣り針12がフィルム33を貫通する際の最大圧縮荷重を低減させることができたものである。
特に、実施例と比較例との最大圧縮荷重を比較すると、比較例1では18.90967Nであったのに対して実施例1は8.42634Nであり、実施例1では比較例1の約46%にまで同値を減少させることができたものであり、また、比較例2では22.04664Nであったのに対して実施例1は7.7304Nであり、実施例2では比較例2の約35%にまで同値を減少させることができたことは、本発明者にとっても大きな驚きであった。
【符号の説明】
【0026】
10 釣り用部材
11 金属製本体
12 釣り針
20 被覆層
21 メッキ層
22 着色層
23 中間層
24 コーティング層
31 クランプ
32 ジグ
33 フィルム