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特許7054966視角変化印刷物、視角変化印刷物の製造方法、及び視角変化印刷物の印刷方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】視角変化印刷物、視角変化印刷物の製造方法、及び視角変化印刷物の印刷方法
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/01 20060101AFI20220408BHJP
【FI】
B41J2/01 109
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021534094
(86)(22)【出願日】2020-07-27
(86)【国際出願番号】 JP2020028691
(87)【国際公開番号】W WO2021015290
(87)【国際公開日】2021-01-28
【審査請求日】2021-10-26
(31)【優先権主張番号】P 2019135274
(32)【優先日】2019-07-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】518059406
【氏名又は名称】浅尾 孝司
(74)【代理人】
【識別番号】100098545
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100189717
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 貴章
(72)【発明者】
【氏名】浅尾 孝司
【審査官】四垂 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-123850(JP,A)
【文献】特開2019-072914(JP,A)
【文献】特開2013-237198(JP,A)
【文献】仏国特許出願公開第02945370(FR,A1)
【文献】特開2008-105238(JP,A)
【文献】特開2013-186465(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J2/01-2/215
B41M3/00-3/14
G09F19/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
素材に対してインクジェット印刷機によりインク層を重ね印刷することにより複数列の第一の斜面を形成することによって複数列の山を前記素材上に形成し、前記山の前記第一の斜面に第一の印刷を行うとともに、前記第一の斜面以外の前記素材の面もしくは前記インク層の面に第二の印刷を行って、前記第一の斜面に相対する所定の角度から前記素材を視認する場合と、前記第一の斜面に相対しない別の角度から前記素材を視認する場合とにおいて、少なくとも前記第一の印刷による画像が前記第二の印刷の画像に対して死角に入る構成とし、前記インク層を前記素材上に形成する際に、前記インクジェット印刷機により、少なくとも前記第一の印刷を前記インク層の形成時に行うことを特徴とする、視角変化印刷物の製造方法。
【請求項2】
前記第一の斜面以外の前記山に形成される第二の斜面に前記第二の印刷を行うことを特徴とする、請求項1に記載の視角変化印刷物の製造方法。
【請求項3】
前記第一の斜面とは異なる前記素材の表面と平行な前記素材の前記面または前記素材の前記表面と平行な前記インク層の前記面に前記第二の印刷を行うことを特徴とする、請求項1に記載の視角変化印刷物の製造方法。
【請求項4】
複数列の前記山は、同じ幅の出力データに基づいて前記インク層を重ね印刷することで形成され、複数列の前記山の断面が三角放物線となることを特徴とする、請求項1から3のいずれかに記載の視角変化印刷物の製造方法。
【請求項5】
インク層を重ね印刷して素材上に形成された第一の斜面を有する複数列の山と、
前記山の前記第一の斜面に形成された第一の印刷層と、
前記第一の斜面以外の前記素材の面もしくは前記インク層の面に形成された第二の印刷層と、
を備え、
前記第一の斜面に相対する所定の角度から前記素材を視認する場合と、前記第一の斜面に相対しない別の角度から前記素材を視認する場合とにおいて、前記第一の印刷層が少なくとも前記第二の印刷層に対して死角となる構成とし、前記インク層の少なくとも一部を透明又は半透明の層により構成したことを特徴とする、視角変化印刷物。
【請求項6】
前記第二の印刷層が、前記山の前記第一の斜面以外の第二の斜面に形成されたことを特徴とする、請求項5に記載の視角変化印刷物。
【請求項7】
前記第二の印刷層は、前記第一の斜面とは異なる前記素材と平行な前記素材の前記面または前記素材と平行な前記インク層の前記面に形成されたことを特徴とする、請求項5に記載の視角変化印刷物。
【請求項8】
複数列の前記山は、同じ幅の出力データに基づいて前記インク層を重ね印刷することで形成され、複数列の前記山の断面が三角放物線となっていることを特徴とする、請求項5から7のいずれかに記載の視角変化印刷物。
【請求項9】
素材に対してインクジェット印刷機によりインク層を重ね印刷することにより複数列のを前記素材上に形成し、前記山の第一の面に第一の印刷を行い第一の印刷層を形成するとともに、前記山の前記第一の面とは異なる第二の面に第二の印刷層を形成し、前記素材に対して直交する2方向の所定の角度から前記素材を視認する場合に、前記直交する2方向の所定の角度からの視認において、少なくとも前記第一の印刷層もしくは前記第二の印刷層のいずれかが前記山により死角に入る構成とし、前記素材に対して前記インクジェット印刷機により前記インク層を重ね印刷することにより複数列の前記山を形成する際に、前記素材に対して平行な第3の面を前記山に形成し、前記第3の面にさらに第三の印刷層を形成し、前記第三の印刷層の両端部に黒色のインクを用いた黒色インク層の緩衝帯を設けたことを特徴とする、視角変化印刷物の印刷方法。
【請求項10】
素材に対してインクジェット印刷機によりインク層を重ね印刷することにより複数列の山を前記素材上に形成し、前記山の第一の面に第一の印刷を行い第一の印刷層を形成するとともに、前記山の前記第一の面とは異なる第二の面に第二の印刷層を形成し、前記素材に対して直交する2方向の所定の角度から前記素材を視認する場合に、前記直交する2方向の所定の角度からの視認において、少なくとも前記第一の印刷層もしくは前記第二の印刷層のいずれかが前記山により死角に入る構成とし、前記インク層を前記素材上に形成する際に、着色されたインクを用いて着色されたインク層と、白色のインクを用いた白色のインク層とを重ね印刷することを特徴とする、視角変化印刷物の印刷方法。
【請求項11】
光透過性のフィルムを素材とし、前記素材上にまず光透過性のインク層を用いて光透過印刷層を形成し、次に前記光透過印刷層を形成しない部分には黒色のインク層で遮光層をまず印刷形成した後に、インクジェット印刷機により前記光透過印刷層を形成しない前記部分に前記インク層を重ね印刷することにより複数列の山を形成するとともに、前記山の第一の面に第一の印刷を行い第一の印刷層を形成するとともに、前記山の第一の面とは異なる第二の面に第二の印刷層を形成し、前記素材に対して直交する2方向の所定の角度から前記素材を視認する場合に、少なくとも前記第一の印刷層もしくは前記第二の印刷層のいずれかが前記山により死角に入る構成とし、さらに前記素材に対して相対する視認角度では、前記光透過印刷層を透過した光による画像が視認されることを特徴とする、視角変化印刷物の印刷方法。
【請求項12】
前記山に黒色インク層により緩衝帯を形成することを特徴とする、請求項9から11のいずれか1項に記載の視角変化印刷物の印刷方法。
【請求項13】
複数の前記山の間に透明のインク層を形成して透明層を設け、前記透明層の上に黒色インク層の緩衝帯を形成することを特徴とする、請求項9から11のいずれか1項に記載の視角変化印刷物の印刷方法。
【請求項14】
前記請求項9から13のいずれか1項に記載の印刷方法を用いて印刷した視角変化印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、印刷された素材を異なる視野角度で見た時に、異なる画像を視認させる変わり絵、すなわち視角変化印刷物、その製造方法及びその印刷方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
古くより、ジャバラ折にした素材の山側の左右に異なる絵を描写し、山側左右の視点で異なる表現を行う、変わり絵(視角変化絵)というものが存在する。変わり絵を用いて広告や宣伝を行うと人々の目に留まりやすく良い宣伝効果が得られる。この変わり絵は、立体的な構造を有しているので多量に配布するためには、多くの労力が必要となり、流通や輸送に手間がかかるものであった。
【0003】
技術の進歩に伴い、インクジェット印刷機を用いて、異なる視角によって異なる画像が視認できる印刷技法が開発されている。素材の光の反射率や角度を変化させて、視角が異なると異なる絵が視認できる図柄を、インク層ジェット印刷機で印刷することが可能となった(特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015ー120328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載するような印刷物は、微細な変化が視認でき、真偽判定や、繊細な表現物には適している。しかしながら、視認角度の変化による表現の変化が繊細で目に付きにくく、人の目を引くための宣伝や広告を目的とする印刷物等には、適していないという問題があった。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は上記のような事情に鑑みてなされたものであり、本願発明の視角変化印刷物の製造方法は、素材に対してインクジェット印刷機によりインク層を重ね印刷することにより複数列の第一の斜面を形成することによって複数列の山を前記素材上に形成し、前記山の前記第一の斜面に第一の印刷を行うとともに、前記第一の斜面以外の前記素材の面もしくは前記インク層の面に第二の印刷を行って、前記第一の斜面に相対する所定の角度から前記素材を視認する場合と、前記第一の斜面に相対しない別の角度から前記素材を視認する場合とにおいて、少なくとも前記第一の印刷による画像が前記第二の印刷の画像に対して死角に入る構成とした。
【0007】
前記第一の斜面以外の前記山に形成される第二の斜面に前記第二の印刷を行っても良い。前記第一の斜面とは異なる前記素材の表面と平行な前記素材の前記面または前記素材の前記表面と平行な前記インク層の前記面に前記第二の印刷を行っても良い。また、前記インク層を前記素材上に形成する際に、前記インクジェット印刷機により、少なくとも前記第一の印刷を前記インク層の形成時に行っても良い。
【0008】
さらに本願発明の視角変化印刷物は、インク層を重ね印刷して素材上に形成された第一の斜面を有する複数列の山と、前記山の前記第一の斜面に形成された第一の印刷層と、前記第一の斜面以外の前記素材の面もしくは前記インク層の面に形成された第二の印刷層と、を備え、前記第一の斜面に相対する所定の角度から前記素材を視認する場合と、前記第一の斜面に相対しない別の角度から前記素材を視認する場合とにおいて、前記第一の印刷層が少なくとも前記第二の印刷層に対して死角となる構成とした。
【0009】
また、前記第二の印刷層が、前記山の前記第一の斜面以外の第二の斜面に形成されたものでも良い。また、前記第二の印刷層は、前記第一の斜面とは異なる前記素材と平行な前記素材の前記面または前記素材と平行な前記インク層の前記面に形成したものでも良い。またさらに、前記インク層の少なくとも一部を透明又は半透明の層により構成しても良い。
【0010】
さらに本願発明の視角変化印刷物の印刷方法は、素材に対してインクジェット印刷機によりインク層を重ね印刷することにより複数列の山を前記素材上に形成し、前記山の第一の面に第一の印刷を行い第一の印刷層を形成するとともに、前記山の第一の面とは異なる第二の面に第二の印刷層を形成し、前記素材に対して直交する2方向の所定の角度から前記素材を視認する場合に、前記直交する2方向の所定の角度からの視認において、少なくとも前記第一の印刷層もしくは第二の印刷層のいずれかが前記山により死角に入る構成とした。
【0011】
また、素材に対してインクジェット印刷機によりインク層を重ね印刷することにより複数列の山を形成する際に、前記素材に対して平行な第3の面を前記山に形成し、前記第3の面にさらに第三の印刷層を形成するものでも良い。また。前記第三の印刷層の両端部に黒色のインクを用いた黒色インク層の緩衝帯を設けたものでも良い。またさらに、前記インク層を前記素材上に形成する際に、着色されたインクを用いて着色されたインク層と、白色のインクを用いた白色のインク層とを重ね印刷するものでも良い。
【0012】
さらに本願発明の視角変化印刷物の印刷方法は、光透過性のフィルムを素材とし、前記素材上にまず光透過性のインク層を用いて光透過印刷層を形成し、次に前記光透過印刷層を形成しない部分には黒色のインク層で遮光層をまず印刷形成した後に、インクジェット印刷機により前記光透過印刷層を形成しない部分にインク層を重ね印刷することにより複数列の山を形成するとともに、前記山の第一の面に第一の印刷を行い第一の印刷層を形成するとともに、前記山の第一の面とは異なる第二の面に第二の印刷層を形成し、前記素材に対して直交する2方向の所定の角度から前記素材を視認する場合に、少なくとも前記第一の印刷層もしくは第二の印刷層のいずれかが前記山により死角に入る構成とし、さらに前記素材に対して相対する視認角度では、前記光透過印刷層を透過した光による画像が視認される。
【0013】
また、前記山に黒色インク層により緩衝帯を形成しても良い。また、前記複数の山の間に透明のインク層を形成して透明層を設け、前記透明層の上に黒色インク層の緩衝帯を形成しても良い。
【発明の効果】
【0014】
このような構成とすることにより、ジャバラ状の折り紙を使用するより手数が少なくインクジェット印刷のみで視角変化印刷物を得ることができる効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の実施の形態に係る視角変化印刷物の部分拡大側面図
図2図1における点線部分IIの拡大側面図
図3】(a)同視角変化印刷物の特定の視角から見た場合の部分拡大斜視図、(b)同視角変化印刷物を別の視角から見た部分拡大斜視図
図4】本発明の別の実施の形態に係る視角変化印刷物の部分拡大側面図
図5】本発明のさらに別の実施の形態に係る視角により変化して見える印刷物(視角変化印刷物)の側断面図
図6】同実施の形態においてインクジェット印刷機より、光硬化性のインク(UV硬化性等)が吐出される時の出力データと、重力の影響を受けて光硬化性のインクが液だれして形成される断面の形状を示す説明図
図7】本発明のさらに別の実施の形態の印刷物(視角変化印刷物)の側断面図
図8】本発明のさらに別の実施の形態の印刷物(視角変化印刷物)の側断面図
図9】同実施の形態におけるインク層の重ね印刷の出力データの状態を説明する説明図
図10】本発明のさらに別の実施の形態の印刷物(視角変化印刷物)の側断面図
図11】本発明のさらに別の実施の形態の印刷物(視角変化印刷物)の側断面図
図12】同実施の形態に係る視角により変化して見える印刷物(視角変化印刷物)の説明図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図を参照しながら、本発明の実施の形態に係る視角により変化する印刷物の製造方法について説明する。図1は本発明の実施の形態に係る視角により見え方が変化する印刷物(視角変化印刷物)の側面図、図2は、図1における点線部分IIの拡大側面図、図3(a)は、同視角により変化する印刷物を特定の視角から見た斜視図、(b)は別の視角から見た斜視図である。本願発明の視角により変化する印刷物(視角変化印刷物)の製造方法では、素材1に対してインクジェット印刷機(図示せず)によりインク層2を重ね印刷することにより、複数列の第一の斜面3を形成することによって、結果として複数列の山4が素材1上に形成される。
【0017】
素材1は広告・宣伝用のシート状の素材であって、プラスチック製のシート、紙等を選択して用いる。また、インクジェット印刷機は、後述するインクに光硬化性のインク(UV硬化性等)を用いるので、光硬化性のインクを重ね印刷(インク層2が形成される)可能な市販の印刷機であれば使用可能である。いわゆる2.5Dと言われる公知の印刷技術によるインクジェット印刷機であり、3Dプリンタも使用可能である。
【0018】
インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層2を多数形成し、第一の斜面3を形成する。この第一の斜面3は、インクジェット印刷機の性能や、複数の重ね印刷を行う各インク層2の吐出データ、あるいは使用するインク(光硬化樹脂・UV硬化樹脂等)により、なめらかな斜面にならない(微視的に)場合が存在する。図2は、図1における第一の斜面3の点線部分IIの拡大側面図である。図2に示すように微視的には、斜面に近い階段状になる場合もあるが、この場合も全体としては本願発明としては斜面として扱う。使用するインク(光硬化樹脂・UV硬化樹脂等)、吐出データや、インク層2の形成厚を工夫すれば、斜面として扱える程度に調整が可能となる。
【0019】
インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層2を多数形成し、第一の斜面3を形成する。第一の斜面3には、広告やギミック印刷等で、見る人の目を引くように第一の印刷を行い、第一の印刷層5を形成する。インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層2を形成する際に、インク層2の最外側の第一の斜面3を構成するインク層2に着色インクを用いて、インク層2の形成と第一の印刷層5の印刷を同時に行っても良い(もちろん別工程で印刷しても良い)。これは、インクジェット印刷機によるインク層2の形成時に、インク層2形成用の無地(白、グレーまたは黒の無彩色インク)、着色インク、又は透明インクなどをインクジェット印刷機にそれぞれセットし、各インクの吐出データを調整することで実現できる。
【0020】
また第一の斜面3以外に、山4を挟んだインク層2の第二の斜面6に第二の印刷を行い、第二の印刷層7を形成する。これにより、第一の斜面3に相対する所定の角度から素材1を視認する(視角X)場合と、第一の斜面3に相対しない別の角度から素材1を視認する(視角Y)場合とにおいて、異なる画像が視認される。第一の斜面3に相対しない別の角度とは、山4を挟んだインク層2の第二の斜面6に相対する角度である。
【0021】
すなわち、図3(a)に示すように、第一の斜面3に相対する所定の角度から素材1を視認する(視角X)場合は、第一の斜面3に設けた第一の印刷層5が見え、図3(b)に示すように、第二の印刷層7は死角に入るため視認できないか、ほとんど見えない。インク層2の第二の斜面6に相対する角度から素材1を視認する(視角Y)場合は、第二の印刷層7の画像が視認され、第一の印刷層5は死角に入り見えない(第一の印刷5が死角となり見えにくくなる場合も含む)。
【0022】
次に、本発明の別の実施の形態を説明する。図4は、本発明の別の実施の形態に係る視角により変化して見える印刷物(視角変化印刷物)の側面図である。本実施の形態では、素材1に対してインクジェット印刷機(図示せず)によりインク層2を重ね印刷することにより複数列の第一の斜面103を形成することによって、結果として複数列の山104が素材1上に形成される。山104の片側は斜面とせず、垂直(素材1に対してほぼ垂直でもよい)に形成される。この第一の斜面103には、広告等で目を引くように第一の印刷を行い、第一の印刷層105を形成する。インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層2を形成する際にインク層2の最外側の第一の斜面103に色インクを用いて着色することで、インク層2の形成と第一の印刷層105の形成を同時に行う。
【0023】
前述の実施の形態と同じように第二の斜面を形成しても良いが、この別の実施の形態の場合には、複数列の第一の斜面103とは異なる平面106を山104の間(谷と呼んでもよい)に設けている。平面106は素材1と平行にインク層2により形成されるが、必ずしも平行でなくても良い。平面106には第二の印刷を行い、第二の印刷層107が形成される。インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層2により平面106を形成する際に、インク層2の最外側(最上部)の一部に色インクを用いて着色することで、インク層2の形成と第二の印刷層107の形成を同時に行う。
【0024】
これにより、第一の斜面103に相対する所定の角度から素材1を視認する(視角X)場合は、第一の斜面103に設けた第一の印刷105が見える(図示しない)。また、山104の左の平面106には第二の印刷層107があるので、視角Xより所定の角度異なる視角から見ると、第二の印刷層107のみが見える(第一の印刷層105は死角に入り見えない)。
【0025】
本実施の形態では、平面106を山104の間(谷と呼んでもよい)に設けているが、山104の頂上に高原状の平面(図示しない)を設けて、高原状の平面に第二の印刷を形成しても良い。またさらに、インク層2により形成される平面106の少なくとも一部を透明又は半透明の層により構成すると、インク層2が透明又は半透明のため素材1の表面が視認できる。したがって、素材1の表面にあらかじめ設けておいた印刷や図柄が見え、視角により見え方が変化する効果が増す。
【0026】
さらにまた、図1に示す実施の形態に示すように、第一の斜面103以外に、山104を挟んでインク層2により第二の斜面(図示しない)を形成し、この斜面に第三の印刷を行い、第三の印刷層を形成しても良い。第一の印刷層105は視角Xのみから見え、第二の印刷層107に変化を与える隠し絵として構成することもできる。
【0027】
次に、本発明のさらに別の実施の形態を説明する。図5は、本発明の別の実施の形態に係る視角により変化して見える印刷物(視角変化印刷物)の側断面図である。本実施の形態では、素材1に対してインクジェット印刷機(図示せず)によりインク層202を重ね印刷することにより複数列の山204が形成される。ただし、図1に示す実施の形態とは異なり、複数列の山204は、その断面が三角形状でなく、図6に示すように、断面が矩形(四角形)になるようにインクジェット印刷機の出力データが構成されており、当該出力データに基づいて光硬化性のインク(UV硬化性等)が吐出され、光硬化性のインクを重ね印刷(インク層202により)される。このようにして複数列の山204が素材1上に形成されるが、山204の両側は斜面でなく垂直(素材1に対して垂直)に側面が形成される。山203の一方側の第一の側面203Bには、広告等で目を引くように第一の印刷を行い、第一の印刷層205を形成する。インクジェット印刷機により重ね印刷で第一の側面203Bを形成する際に、第一の側面203Bに色インクを用いて着色することで第一の印刷層205の形成を行う。
【0028】
また山204の他方の側には第二の側面203Cが形成され、ここに第二の印刷層207を形成する。インクジェット印刷機により重ね印刷することによりインク層202により第二の側面203Cを形成する際に、第二の側面203Cに色インクを用いて着色することで第二の印刷層207の形成を行う。また、本実施の形態では、山204の頂上、及び、山204と山204の間(谷と呼んでもよい)に第三の面208が素材1にほぼ平行になるように形成され、第三の面208の上に第三の印刷層209が印刷形成される。ここでは、インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層202により第三の面208を形成する際に、インク層202の上部に色インクを用いて着色することで第三の印刷層209の印刷形成を行う。以上のような構成では、第一の側面203Bに相対する所定の角度(視角X)から素材1を視認する場合は、第一の側面203Bに設けた第一の印刷層205が見える(図5Bが見える)。また図5において、山204の右には第二の印刷層207が形成されているので、図5に示す視角Yから見ると、第二の印刷層207が見える(図5Cが見える)(第一の印刷層205は死角に入り見えない)。さらに素材1に相対する角度(視角Z)から見ると、第三の面204、208が主に視野に入り、第三の面204、208に形成された第三の印刷層209が視認される(図5Aが見える)。このようにして、所定の3角度(視角X、Y、Z)から素材1を視認すると、それぞれ異なる画像が視認される(図5ABCが見える)。なお、本実施の形態では、山204の裾野(谷に設けた第三の印刷層209の両側に、黒色のインクを用いた黒色インク層の黒色の緩衝帯210を設けて各印刷層間の絵柄の干渉を防止している。目の錯覚の防止には黒色や灰色の緩衝帯210が有効となる。
【0029】
以上の実施の形態においては、山204の断面が三角形状や矩形(四角形)になるようにインクジェット印刷機の出力データが構成され、当該出力データに基づいて光硬化性のインク(UV硬化性等)が吐出され、光硬化性のインクが重ね印刷(インク層202により)される。山204の形成が素材上において数ミリあるいはいミリメートル以下の間隔で構成される。この場合、図6に示すように、インク層202は、8層から10層で形成され、図6(D)に示すように、出力データは矩形の山になるように構成される。インクジェット印刷機より、出力データに基づいて光硬化性のインク(UV硬化性等)が吐出されても、インクが硬化する前に重力の影響を受けて光硬化性のインクが液だれし、図6(R)に示すように、断面が三角放物線のような形状となってしまうのが現実である。
【0030】
このような液だれ現象を想定して構成した、本発明のさらに別の実施の形態について図7により説明する。ここで素材1は、広告・宣伝用のシート状の素材であって、プラスチック製のシート、紙等を選択する。インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層302による山304を多数形成して第一の斜面303を造形し、第一の斜面303へと続く裾野に第一の印刷層305が形成される。また、山304を挟んだ反対側には第二の斜面306が形成され、第二の斜面306およびそれに続く裾野に第二の印刷を行い、第二の印刷層307が設けられる。また、山304の頂上付近には第一の印刷層305と第二の印刷層307との干渉を避けるため、黒色またはグレー色の緩衝帯310が形成される。第一の印刷層305、第二の印刷層307、および緩衝帯310は、インク層302による山304を形成した後に、インクジェット印刷機により重ね印刷でそれぞれ異なる色インクを用いて、第一の印刷層305、第二の印刷層307、および緩衝帯310を着色することで、インクジェットノズルの共通の印刷操作で形成される。なお山304の中心部304Mは白色インクで重ね塗り(印刷)されている。緩衝帯310は、第一の印刷層305と第二の印刷層307が干渉するのを防ぐ。
【0031】
なお山304の高さは0.25ミリメートルに設定されている。素材1に平行な水平方向で見ると第一の印刷層305のピッチW1は0.49ミリメートル、第二の印刷層307のピッチW2は0.18ミリメートルに設定されており、第一の印刷層305を強調するように長く設定している。なお、第一の印刷層305と第二の印刷層307が干渉するのを防ぐため、山304間の谷にある第一の印刷層305と第二の印刷層307の間に、緩衝のための隙間Sを0.07ミリメートル程度設けても良い。
【0032】
また、次に、本発明のさらに別の実施の形態を説明する。図8は、本発明のさらに別の印刷物(視角変化印刷物)の惻面図である。本実施の形態では、素材1に対してインクジェット印刷機(図示せず)によりインク層402を重ね印刷することにより複数列の山404が形成される(本実施例では一例として交互に重ねる)。本実施の形態では、第一の斜面403と続く裾野403Sには第一の印刷工程により第一の印刷層405が形成される。第二の印刷層407は、第二の斜面406を形成(印刷)する際に、白色インクを塗布されたインク層402Wと、色インクで着色したインク層402Cとを交互に重ね印刷して形成する。図9に出力データDを示す。第二の斜面406を形成する時に色インクで着色したインク層402Cを用いて、印刷工程を省略して第二の印刷層407を形成している。なお山404のうち中心より第二の印刷層407側にのみ、山404の上部に緩衝帯410を設けている。なお山304の高さは0.25ミリメートルに設定されている。素材1に平行な水平方向で見ると色インクで着色したインク層402Cの幅は0.21ミリメートル、白色インクを用いたインク層402Wの幅は0.35ミリメートル、山404間の平らな部分は0.57ミリメートルに設定されている。
【0033】
次に、本発明のさらに別の実施の形態を説明する。図10は、本発明のさらに別の実施の形態に係る視角により変化して見える印刷物(視角変化印刷物)の惻面図である。本実施の形態でも、素材1に対してインクジェット印刷機(図示せず)によりインク層502を重ね印刷することにより複数列の山504を形成する。本実施の形態では、第一の斜面503へと続く裾野503Sには第一の印刷工程により第一の印刷層505を形成する。第二の印刷層507は、第二の斜面506を形成(印刷)する際に、白色インクを塗布されたインク層502と、色インクで着色したインク層502とを交互に重ね印刷することで、第二の印刷層507を形成している。そして山504には第一の印刷層505と第二の印刷層507が干渉するのを防ぐ緩衝帯510が形成されている。この緩衝帯510は緩衝効果を強化するためオーバハングした庇状に形成される。この緩衝帯510を形成するために、第一の印刷層505と第二の印刷層507を形成した後に、複数列の山504の間に透明層511をまず形成し、その後透明層511の上に緩衝帯510を形成する。この場合には、正面(素材1に直角)視野からの視認をオーバハングした庇状の緩衝帯510によって、第二の印刷層507をより隠して見えにくくしている。
【0034】
次に、本発明のさらに別の実施形態の視角により変化する印刷物の製造方法について説明する。図11は本発明の実施の形態に係る視角により見え方が変化する印刷物の側断面図、図12は視認状態の説明図である。本実施の形態の視角により変化する印刷物(視角変化印刷物)には、印刷素材として、光を透過するフィルム601を使用する。このフィルム601に対してインクジェット印刷機(図示せず)によりインク層602を重ね印刷することにより複数列の山604をフィルム601上に形成する。特に本実施形態では、複数列の山604の間に複数の光透過印刷層611が、複数列の山604を形成する工程と並行して、あるいはそれぞれ別工程で形成される。フィルム601は広告・宣伝用のシート状の素材であって、光透過性能のあるプラスチック製のシートを選択して用いる。光透過印刷層611は、光透過性のインク層を用いてインクジェット印刷機により印刷形成される。光透過性で光硬化性のインクを重ね印刷する、すなわち、インク層を形成するには市販のプリンタであれは使用可能である。
【0035】
インクジェット印刷機により重ね印刷でインク層602を多層に形成する時、フィルム601の上で光透過印刷層611を形成しない部分には、黒色のインク層で遮光層612をまず印刷形成する。光透過印刷層611と遮光層612の形成(印刷)は同じ印刷工程で行って良い。この後さらに遮光層612の上には上に着色するための色の下地となる白色の下地層613を印刷する。次にインクジェット印刷機により下地層613の上に 重ね印刷で、多層(5層&#12316;10層)のインク層602を形成する。インク層602を重ね印刷することにより複数列の山604を形成する。本実施の形態では、複数列の山604をフィルム601上に形成するが、山604の高さは0.4ミリメートルに設定され、出力データとしてプログラムされている。フィルム601上に複数列の山604を形成することで第一の斜面603を造形し、第一の斜面603の上に第一の印刷層605が形成される。また、山604を挟んだ反対側には第二の斜面606が形成され、第二の斜面606に第二の印刷層607が設けられる。第一の印刷層605と第二の印刷層607は印刷面を大きくするため斜面に続く平面にも印刷が施される。また、山604の頂上には、第一の印刷層605と第二の印刷層607により視認者が受ける錯覚や干渉を避けるため、黒色またはグレー色の緩衝帯610が形成される。第一の印刷層605、第二の印刷層607、および緩衝帯610は、インクジェット印刷機により重ね印刷でそれぞれ異なる色インクを用いて、第一の印刷層605、第二の印刷層607、および緩衝帯610を着色することで、同時に形成される。
【0036】
本実施の形態においては、光透過印刷層611と、第一の印刷層605と、第二の印刷層607とに、それぞれ異なる色(青、赤、黄色の三原色)を使い、種々の図柄で表現を施しておく。これによって、視角Xからフィルム601を視認する場合と、視角Xとほぼ直角(視角Y)から視認する場合とにおいて、異なる画像が視認される。さらに、フィルム601の裏面(図12の下方(矢印R)方向)から光を照射することで、この光がフィルム601と光透過印刷層611とを通過し、フィルム601にほぼ直角方向の視角(図12の矢印Z方向)からは、光透過印刷層611に設けた色・図柄が視認される。フィルム601の裏面(図12の下方(矢印R)方向)から光を照射するためには、例えばLED 照明パネルの上に、本実施の形態に係る印刷したフィルム601(印刷物)を載せれば良い。あるいは、室内外の境の窓に印刷したフィルム601(印刷物)を置き、外からの明るい光が裏面から照射されるようにすれば良い。図12は、山604の上に設けた各印刷層の図柄が正面からは見えにくい状態を説明している。ここでは、視角Xからフィルム601を視認する場合、視角Yから視認する場合、視角Z方向から視認する場合で、それぞれ角度が異なると、3方向で画像や色彩が異なって見える。また、中央から見える光透過印刷層611を黄色、第一の印刷層605を赤色、第二の印刷層607を青色とすると、中央から見える光透過印刷層611の黄色が両側の赤色、青色に影響を与え、見える色彩自体が見る角度で異なり、青色、赤色が緑色、紫色などに変化する。
【産業上の利用可能性】
【0037】
以上に述べた構成とすることにより、視角により見え方が変化する印刷物をインクジェット印刷機の重ね印刷で得ることが可能となり、販促物や広告等において、インクジェット印刷だけで変化が見える印刷物・ギミックや隠し絵的な印刷物が得られる。
【符号の説明】
【0038】
1 素材
2、202、302、402、402C、402W、502、602 インク層
3、103、303、403、503、603 第一の斜面
4、104、204、304、404、504、604 山
5、105、205、305、405、505、605 第一の印刷層
6、306、406、506、606 第二の斜面
7、107、207、307、407、507、607 第二の印刷層
106 平面
203B 第一の側面
203C 第二の側面
208 第三の面
209 第三の印刷層
210、310、510 緩衝帯
304M 中心部
403S、503S 裾野
511 透明層
601 フィルム
611 光透過印刷層
612遮光層
D 出力データ
W1、W2 ピッチ
X、Y、Z 視角

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12