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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】苦味抑制剤
(51)【国際特許分類】
   A23L 5/20 20160101AFI20220408BHJP
   A23L 29/00 20160101ALI20220408BHJP
   A23L 33/12 20160101ALI20220408BHJP
   A23G 1/00 20060101ALN20220408BHJP
   A23L 2/00 20060101ALN20220408BHJP
【FI】
A23L5/20
A23L29/00
A23L33/12
A23G1/00
A23L2/00 B
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2017185826
(22)【出願日】2017-09-27
(65)【公開番号】P2019058116
(43)【公開日】2019-04-18
【審査請求日】2020-09-15
(73)【特許権者】
【識別番号】390010674
【氏名又は名称】理研ビタミン株式会社
(72)【発明者】
【氏名】古瀬 憲
(72)【発明者】
【氏名】諸橋 香奈
【審査官】田ノ上 拓自
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-242809(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 5/00-5/30
A23L 29/00-29/10
A23L 31/00-33/29
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステル及びグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する苦味抑制剤であって、該剤が、下記条件(A)及び(B)を満たすことを特徴とする苦味抑制剤。
(A)酸価が85mgKOH/g以下
(B)該剤100質量%中のグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量が35質量%以上
【請求項2】
請求項1に記載の苦味抑制剤及び苦味成分を含有することを特徴とする飲食品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、飲食品に用いる苦味抑制剤に関する。
【背景技術】
【0002】
チョコレートに含まれるカカオポリフェノール、茶に含まれるカテキン等、飲食品の苦味成分は、該飲食品の風味における特徴として嗜好性の重要な要素となっているだけでなく、健康面や美容面での様々な機能性においても注目されている。特に、近年、消費者の健康志向の高まりから、カカオポリフェノールを豊富に含むチョコレート等、その飲食品に元来含まれる苦味成分の含有量を高めた飲食品や、ビタミン類、ミネラル類等の苦味成分を添加した飲食品の需要が増大している。
【0003】
しかし、飲食品中の苦味成分の含有量が多くなると、苦味が強くなり過ぎ、該飲食品の風味が損なわれる場合がある。そのため、苦味成分を多く含有する飲食品において、苦味を抑制することが求められていた。
【0004】
飲食品の苦味を抑制する方法としては、例えば該飲食品に対し苦味抑制剤として特定の成分を添加する方法が知られており、具体的には、サイクロデキストリン及び/又はペプチドを添加する方法(特許文献1)、γ-アミノ酪酸(GABA)を添加する方法(特許文献2)、アドバンテームを添加する方法(特許文献3)等が提案されている。
【0005】
しかし、いずれも苦味を抑制できる苦味成分が限定的である、苦味抑制剤自体の風味により飲食品の風味が損なわれる場合があるなど一長一短があることから、より効果的に飲食品の苦味を抑制できる方法が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平3-168046号公報
【文献】特開2007-6853号公報
【文献】特開2016-77292号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、苦味成分を含有する飲食品に添加することにより、該飲食品が呈する苦味を抑制できる苦味抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の食品用乳化剤を飲食品に添加することで、該飲食品の呈する苦味が抑制されることを見出し、この知見に基づきさらに研究を重ね、本発明を完成するに至った。
【0009】
即ち、本発明は、下記〔1〕及び〔2〕からなっている。
〔1〕グリセリンコハク酸脂肪酸エステル及びグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有する苦味抑制剤であって、該剤が、下記条件(A)及び(B)を満たすことを特徴とする苦味抑制剤。
(A)酸価が85mgKOH/g以下
(B)該剤100質量%中のグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量が35質量%以上
〔2〕前記〔1〕記載の苦味抑制剤及び苦味成分を含有することを特徴とする飲食品。
【発明の効果】
【0010】
本発明の苦味抑制剤は、苦味成分を含有する飲食品に添加することで、該飲食品が呈する苦味を抑制することができる。
本発明の苦味抑制剤は乳化剤を有効成分とするものでありながら、乳化剤特有の異味又は異臭が比較的弱く、これを飲食品に添加しても該飲食品の風味を阻害しにくい。
本発明の苦味抑制剤及び苦味成分を含有する飲食品は、これを喫食した際、該苦味成分由来の苦味を感じにくく、また乳化剤由来の異味又は異臭も感じにくいため、不快感なく喫食することができる。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の苦味抑制剤は、有効成分として食品用乳化剤であるグリセリンコハク酸脂肪酸エステル及びグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有し、且つ、以下に述べる条件(A)及び(B)を満たすものである。
【0012】
本発明で用いられるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、グリセリンが有するヒドロキシ基のいずれかにコハク酸及び脂肪酸がそれぞれ少なくとも1つエステル結合した化合物であり、通常、グリセリンモノ脂肪酸エステルと無水コハク酸(又はコハク酸)との反応、グリセリンとコハク酸と脂肪酸との反応等、自体公知の方法により製造される。
【0013】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)等が挙げられる。これらの中でも、炭素数16~18の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16~18の飽和脂肪酸が特に好ましい。グリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、これら脂肪酸の1種類のみを構成脂肪酸とするものであっても、2種類以上を構成脂肪酸とするものであってもよい。
【0014】
グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとしては、例えば、ポエムB-10(商品名;理研ビタミン社製)、ポエムB-30(商品名;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0015】
本発明で用いられるグリセリンモノ脂肪酸エステルは、グリセリンが有するヒドロキシ基のいずれか1つに脂肪酸がエステル結合した、エステル結合数が1の化合物であり、通常、グリセリンと脂肪酸とのエステル化反応、グリセリンと油脂とのエステル交換反応等、自体公知の方法により製造される。
【0016】
グリセリンモノ脂肪酸エステルを構成する脂肪酸は、食用可能な動植物油脂を起源とする脂肪酸であれば特に制限はなく、例えば、炭素数6~24の直鎖の飽和脂肪酸(例えば、カプロン酸、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等)又は不飽和脂肪酸(例えば、パルミトオレイン酸、オレイン酸、エライジン酸、リノール酸、γ-リノレン酸、α-リノレン酸、アラキドン酸、リシノール酸、縮合リシノール酸等)等が挙げられる。これらの中でも、炭素数16~18の飽和又は不飽和脂肪酸が好ましく、炭素数16~18の飽和脂肪酸が特に好ましい。本発明では、構成脂肪酸が同一のグリセリンモノ脂肪酸エステルのみを用いてもよく、構成脂肪酸の異なる複数のグリセリンモノ脂肪酸エステルを併用してもよい。
【0017】
グリセリンモノ脂肪酸エステルとしては、例えば、エマルジーP-100(商品名;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)、エマルジーMS(商品名;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量98質量%;理研ビタミン社製)等が商業的に製造及び販売されており、本発明ではこれらを用いることができる。
【0018】
[条件(A)について]
本発明の苦味抑制剤における条件(A)は、該剤の酸価が85mgKOH/g以下、好ましくは83mgKOH/g以下、より好ましくは70mgKOH/g以下、さらに好ましくは60mgKOH/g以下であることである。該酸価は、「第8版 食品添加物公定書」(日本食品添加物協会)の「40.油脂類試験法」に記載の方法に準じて測定される。
【0019】
[条件(B)について]
本発明の苦味抑制剤における条件(B)は、該剤100質量%中のグリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量が35質量%以上、好ましくは35質量%以上90質量%以下、より好ましくは37質量%以上80質量%以下、さらに好ましくは45質量%以上70質量%以下であることである。
【0020】
前記グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で分析することにより求められる。具体的には、以下に示す分析条件にて試料を分析し、分析後、データ処理ソフトウェアによりクロマトグラム上に記録された被検試料の各成分に対応するピークについて、積分計を用いてピーク面積を測定する。測定されたピーク面積に基づいて、面積百分率として各成分の含有量を求めることができる。HPLC分析条件を以下に示す。
【0021】
<HPLC分析条件>
装置:島津高速液体クロマトグラフ
データ処理ソフトウェア(型式:LCsolution ver.1.0;島津製作所社製)
ポンプ(型式:LC-20AD;島津製作所社製)
カラムオーブン(型式:CTO-20A;島津製作所社製)
オートサンプラ(型式:SIL-20A;島津製作所社製)
検出器:RI検出器(型式:RID-10A;島津製作所社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF-801;昭和電工社製)
カラム:GPCカラム(型式:SHODEX KF-802;昭和電工社製)
2本連結
移動相:THF(テトラヒドロフラン)
流量:1.0mL/min
カラム温度:40℃
サンプル濃度:0.01g/1mL THF
サンプル注入量:20μL(in THF)
【0022】
一方、本発明の苦味抑制剤中のグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は、該剤100質量%から前記グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量を除いた残余であれば特に制限はないが、好ましくは10質量%以上65質量%以下、より好ましくは20質量%以上63質量%以下、さらに好ましくは20質量%以上55質量%以下である。この含有量は、前記グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量と同様にHPLCで分析することにより求められる。
【0023】
なお、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルは、その製造にあたり原材料としてグリセリンモノ脂肪酸エステルを使用し、又は反応中にグリセリンモノ脂肪酸エステルを生成するため、一般にグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとして市販されているものであっても、一定量のグリセリンモノ脂肪酸エステルを含有している。しかし、その含有量は、通常20質量%以下である。
【0024】
本発明の苦味抑制剤の製造方法に特に制限はなく、例えば、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルとの混合により製造してもよいが、化学反応により製造することが好ましい。
【0025】
本発明の苦味抑制剤を化学反応により製造する場合、一般的なグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの製造方法に準ずる方法で製造することができる。即ち、本発明の苦味抑制剤は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルを製造する際と同様の化学反応において、反応生成物がグリセリンコハク酸脂肪酸エステルを含有するとともに、本発明の条件(A)及び(B)を満たすものとなるように反応条件等を適宜調整することで製造することができる。例えば、その好ましい製造方法の概略は以下のとおりである。
【0026】
即ち、攪拌機、加熱用のジャケット、邪魔板等を備えた通常の反応容器にグリセリンモノ脂肪酸エステル及び無水コハク酸を89/11~83/17の質量比で仕込み、必要に応じてアルカリ触媒を添加し、例えば90~130℃、好ましくは94~110℃で15~180分間、好ましくは30~120分間加熱してエステル化反応を行い、本発明の条件(A)及び(B)を満たす反応物を得る。なお、得られた反応物が本発明の条件(A)及び(B)を満たしていない場合、該反応物にさらにグリセリンコハク酸脂肪酸エステル又はグリセリンモノ脂肪酸エステルを添加して溶融及び混合することにより、本発明の条件(A)及び(B)を満たすように調整してもよい。
【0027】
また、本発明の苦味抑制剤をグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルとの混合により製造する場合、市販の、又は予め別々に製造したグリセリンコハク酸脂肪酸エステルとグリセリンモノ脂肪酸エステルとを必要に応じて融点以上に加熱し、溶融及び混合して、本発明の条件(A)及び(B)を満たす混合物を製造すればよい。
【0028】
本発明の苦味抑制剤は、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル及びグリセリンモノ脂肪酸エステル以外に、本発明の効果を妨げない範囲で他の任意の成分を含有していてもよい。そのような成分としては、例えば、カゼインナトリウム、デキストリン、結晶セルロース等の賦形剤、グリセリンコハク酸脂肪酸エステル及びグリセリンモノ脂肪酸エステル以外の乳化剤等が挙げられる。
【0029】
本発明の苦味抑制剤は、苦味成分を含有する飲食品に添加して使用することができる。なお、本発明で言うところの「苦味」には、渋味、えぐ味、収斂味といった類似の不快感を伴う風味も含むものとし、「苦味成分」とはこれらの風味を呈する成分を言う。また、「苦味成分を含有する飲食品」には、該飲食品の性質上、苦味成分が当然に含まれる飲食品のみならず、栄養強化等の目的で意図的に苦味成分を添加された飲食品も含むものとする。
【0030】
飲食品の種類に特に制限はなく、例えば、チョコレート、ケーキ、クッキー、キャンディ、グミ、チューインガム、饅頭、大福、団子等の菓子類、乳飲料、コーヒー飲料、茶飲料、乳酸菌飲料、清涼飲料、炭酸飲料、果汁飲料、野菜飲料、スポーツ飲料、粉末飲料、アルコール飲料等の飲料類、豆乳等の大豆加工食品類、アイスクリーム、アイスミルク、ラクトアイス、シャーベット、氷菓等の冷菓類、プリン、ゼリー、ヨーグルト等のデザート類、菓子パン、惣菜パン等のパン類、ドレッシング、マヨネーズ、たれ等の調味料類、マーガリン、クリーム等の乳化食品類、ジャム類、スープ類、流動食類、介護食類、栄養剤類等が挙げられる。
【0031】
苦味成分としては、例えば、カカオポリフェノール、カテキン、アントシアニン、イソフラボン、タンニン、クロロゲン酸等のポリフェノール類、ビタミンB、ビタミンB等のビタミンB群その他のビタミン類、カルシウム、マグネシウム、ナトリウム、鉄、銅、亜鉛及びこれらの塩等のミネラル類、カゼイン、ホエイ、コラーゲン等のタンパク質類及びそれらを分解したペプチド類又はアミノ酸類、カフェイン、テオブロミン、ナリンジン等が挙げられる。
【0032】
本発明の苦味抑制剤を前記飲食品に添加して使用する場合、その添加方法に特に制限はなく、例えば、飲食品の製造時に原材料の一部として添加してもよく、常法により製造された飲食品に対して後から添加してもよい。
【0033】
本発明の苦味抑制剤の飲食品に対する添加量は、該飲食品の種類や含まれる苦味成分の量等により異なり一様ではないが、例えば、該飲食品100質量部に対し、通常0.001~5.0質量部である。より具体的には、チョコレートに対して添加する場合は、該チョコレート100質量部に対し、好ましくは0.05~1.0質量部であり、飲料に対して添加する場合は、該飲料100質量部に対し、好ましくは0.01~0.3質量部である。
【0034】
ここで、本発明の苦味抑制剤の有効成分であるグリセリンコハク酸脂肪酸エステルおよびグリセリンモノ脂肪酸エステルを含め、乳化剤は一般的にそれ自体不快な異味又は異臭を呈するものが多い。しかし、本発明の苦味抑制剤は、そのような乳化剤特有の異味又は異臭が比較的低減されており、且つ、飲食品への添加量が比較的少量でも十分な苦味抑制効果を発揮することから、本発明の苦味抑制剤自体の風味により飲食品の風味を阻害することなく、該飲食品に含まれる苦味成分に由来する苦味を抑制することができる。
【0035】
以下、実施例をもって本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【実施例
【0036】
<苦味抑制剤の製造>
[製造例1]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)850g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)150g、炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)1.49gを四ツ口フラスコに仕込み、112℃で30分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却し、苦味抑制剤1を得た。該剤を分析したところ、酸価は約83mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約37質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約61質量%であった。
【0037】
[製造例2]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)770g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)110g、炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)4.68gを四ツ口フラスコに仕込み、110℃で30分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物にグリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)120gを添加し、90℃で30分間撹拌した後冷却し、苦味抑制剤2を得た。該剤を分析したところ、酸価は約56mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約49質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約50質量%であった。
【0038】
[製造例3]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)560g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)80g、炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)4.68gを四ツ口フラスコに仕込み、110℃で30分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物にグリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)360gを添加し、85℃で30分間撹拌した後冷却し、苦味抑制剤3を得た。該剤を分析したところ、酸価は約43mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約63質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約36質量%であった。
【0039】
[製造例4]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)420g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)60g、炭酸ナトリウム(高杉製薬社製)3.08gを四ツ口フラスコに仕込み、110℃で30分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物にグリセリン脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)520gを添加し、88℃で30分間撹拌した後冷却し、苦味抑制剤4を得た。該剤を分析したところ、酸価は約31mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約70質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約29質量%であった。
【0040】
[製造例5]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)167g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)33gを四ツ口フラスコに仕込み、97℃で20分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却し、苦味抑制剤5を得た。該剤を分析したところ、酸価は約99mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約36質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約63質量%であった。
【0041】
[製造例6]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)169g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)31gを四ツ口フラスコに仕込み、95℃で60分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却し、苦味抑制剤6を得た。該剤を分析したところ、酸価は約86mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約37質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約62質量%であった。
【0042】
[製造例7]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)167g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)33gを四ツ口フラスコに仕込み、150℃で45分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却し、苦味抑制剤7を得た。該剤を分析したところ、酸価は約69mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約18質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約80質量%であった。
【0043】
[製造例8]
グリセリンモノ脂肪酸エステル(商品名:エマルジーP-100;グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量97質量%;理研ビタミン社製)835g、無水コハク酸(商品名:リカシッド;新日本理化社製)165gを四ツ口フラスコに仕込み、115℃で30分間エステル化反応を行わせた。得られた反応物を冷却し、苦味抑制剤8を得た。該剤を分析したところ、酸価は約93mgKOH/g、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量は約30質量%、グリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量は約68質量%であった。
【0044】
<苦味抑制効果の評価>
前記苦味抑制剤1~8及び苦味抑制剤9として市販のグリセリンコハク酸脂肪酸エステル(商品名:ポエムB-10;理研ビタミン社製)を用いて、苦味抑制効果の評価試験を行った。ここで、試験に供した各苦味抑制剤の酸価、グリセリンモノ脂肪酸エステルの含有量及びグリセリンコハク酸脂肪酸エステルの含有量の分析値を表1にまとめた。表1から明らかなとおり、苦味抑制剤1~4は本発明の条件(A)及び(B)をいずれも満たす実施例であり、苦味抑制剤5及び6は本発明の条件(A)を満たさない比較例、苦味抑制剤7は本発明の条件(B)を満たさない比較例、苦味抑制剤8及び9は本発明の条件(A)及び(B)をいずれも満たさない比較例である。
【0045】
【表1】
【0046】
[チョコレートによる評価]
(1)チョコレートの調製
200ml容トールビーカーに市販のカカオポリフェノール高含有チョコレート(商品名:チョコレート効果 カカオ72%;明治社製)50g及び前記苦味抑制剤1~9のいずれか0.25gを入れ、65℃まで加温して溶融及び混合した。これを攪拌しながら34.5℃まで冷却した後、シード剤(商品名:チョコシードB;不二製油社製)1.5gを加え、よく攪拌して均一に混合した。その後、32.5℃まで冷却してからポリカーボネイト樹脂製のモールド(外寸275mm×205mm×高さ24mm;単品寸法37mm×37mm×高さ2mm;24個取)に流し入れ、5℃の恒温槽で冷却し、固化させた。冷却及び固化後、モールドから型離れさせ、1個約3gのチョコレート1~9を各15個得た。また、苦味抑制剤を添加しない以外は同様に処理して、チョコレート10を15個得た。
【0047】
(2)官能評価
前記チョコレート1~9について、苦味の程度に関する官能評価を行った。評価は前記チョコレート10を対照とし、表2に示す評価基準に従って10名のパネラーで行い、結果は10名の評点の平均値を求め、下記基準にて記号化した。なお、乳化剤特有の異味又は異臭が強く発現しているものについては、対照と明らかに風味が異なり、苦味についての比較が困難であることから評価不可として除外した。結果を表3に示す。
〔記号化基準〕
◎:極めて良好 平均値3.5以上
○:良好 平均値2.5以上、3.5未満
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
-:評価不可 乳化剤特有の異味又は異臭が強いと感じたパネラーが9名以上
【0048】
【表2】
【0049】
【表3】
【0050】
表3の結果から明らかなように、本発明の実施例である苦味抑制剤1~4を添加したチョコレート1~4は、いずれも対照と比較して苦味が十分に抑制されていた。一方、比較例の苦味抑制剤5~9を添加したチョコレート5~9は、いずれも苦味があまり抑制されていないか、乳化剤由来の異味又は異臭によりチョコレート本来の風味が阻害されていて、喫食に好ましくない品質であった。
【0051】
[コラーゲン含有乳飲料による評価]
(1)コラーゲン含有乳飲料の調製
1000ml容ステンレス製ジョッキに市販の低脂肪乳(無脂乳固形分10.0%以上;乳脂肪分1.2%)400g、イオン交換水94.5g、コラーゲン(商品名:水溶性コラーゲンペプチドSS;豚由来;協和発酵バイオ社製)5g及び前記苦味抑制剤1、2、5、6、7又は9のいずれか0.5gを入れ、スリーワンモータ(型式:BL600;新東科学社製)を用いて300rpmで攪拌しながら70℃まで加温し、その温度を保持したまま10分間攪拌混合した。その後、さらにTKホモミクサー(型式:MARKII 2.5型;プライミクス社製)を用いて10000rpmで3分間攪拌混合し、これを常温で放冷して、コラーゲン含有乳飲料1~6各500gを得た。また、対照として苦味抑制剤を同量のイオン交換水に置換して同様に処理し、コラーゲン含有乳飲料7を500g得た。
【0052】
(2)官能評価
前記コラーゲン含有乳飲料1~6について、苦味の程度に関する官能評価を行った。評価は前記コラーゲン含有乳飲料7を対照とし、表4に示す評価基準に従って10名のパネラーで行い、結果は10名の評点の平均値を求め、下記基準にて記号化した。なお、乳化剤特有の異味又は異臭が強く発現しているものについては、対照と明らかに風味が異なり、苦味についての比較が困難であることから評価不可として除外した。結果を表5に示す。
〔記号化基準〕
◎:極めて良好 平均値3.5以上
○:良好 平均値2.5以上、3.5未満
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
-:評価不可 乳化剤特有の異味又は異臭が強いと感じたパネラーが9名以上
【0053】
【表4】
【0054】
【表5】
【0055】
表5の結果から明らかなように、本発明の実施例である苦味抑制剤1又は2を添加したコラーゲン含有乳飲料1及び2は、いずれも対照と比較して苦味が十分に抑制されていた。一方、比較例の苦味抑制剤5、6、7又は9を添加したコラーゲン含有乳飲料3~6は、いずれも苦味があまり抑制されていないか、乳化剤由来の異味又は異臭により風味が阻害されていて、喫食に好ましくない品質であった。
【0056】
[ビタミンB含有乳飲料による評価]
(1)ビタミンB含有乳飲料の調製
1000ml容ステンレス製ジョッキに市販の低脂肪乳(無脂乳固形分10.0%以上;乳脂肪分1.2%)400g、イオン交換水99.5g、ビタミンB(チアミン塩酸塩;DSM社製)0.002g及び前記苦味抑制剤1、2、5、6、7又は9のいずれか0.5gを入れ、スリーワンモータ(型式:BL600;新東科学社製)を用いて300rpmで攪拌しながら70℃まで加温し、その温度を保持したまま10分間攪拌混合した。その後、さらにTKホモミクサー(型式:MARKII 2.5型;プライミクス社製)を用いて10000rpmで3分間攪拌混合し、これを常温で放冷して、ビタミンB含有乳飲料1~6各約500gを得た。また、対照として苦味抑制剤を同量のイオン交換水に置換して同様に処理し、ビタミンB含有乳飲料7約500gを得た。
【0057】
(2)官能評価
前記ビタミンB含有乳飲料1~6について、苦味の程度に関する官能評価を行った。評価は前記ビタミンB含有乳飲料7を対照とし、表6に示す評価基準に従って10名のパネラーで行い、結果は10名の評点の平均値を求め、下記基準にて記号化した。なお、乳化剤特有の異味又は異臭が強く発現しているものについては、対照と明らかに風味が異なり、苦味についての比較が困難であることから評価不可として除外した。結果を表7に示す。
〔記号化基準〕
◎:極めて良好 平均値3.5以上
○:良好 平均値2.5以上、3.5未満
△:やや悪い 平均値1.5以上、2.5未満
×:悪い 平均値1.5未満
-:評価不可 乳化剤特有の異味又は異臭が強いと感じたパネラーが9名以上
【0058】
【表6】
【0059】
【表7】
【0060】
表7の結果から明らかなように、本発明の実施例である苦味抑制剤1又は2を添加したビタミンB含有乳飲料1及び2は、対照と比較して苦味が十分に抑制されていた。一方、比較例の苦味抑制剤5、6、7又は9を添加したビタミンB含有乳飲料3~6は、いずれも苦味があまり抑制されていないか、乳化剤由来の異味又は異臭により風味が阻害されていて、喫食に好ましくない品質であった。