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特許7055002媒体繰出装置、媒体処理機および媒体繰出方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】媒体繰出装置、媒体処理機および媒体繰出方法
(51)【国際特許分類】
   G07D 1/00 20060101AFI20220408BHJP
【FI】
G07D1/00 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2017208851
(22)【出願日】2017-10-30
(65)【公開番号】P2019082779
(43)【公開日】2019-05-30
【審査請求日】2020-07-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000001432
【氏名又は名称】グローリー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100131842
【弁理士】
【氏名又は名称】加島 広基
(72)【発明者】
【氏名】上原 圭介
【審査官】小島 哲次
(56)【参考文献】
【文献】実開昭61-046678(JP,U)
【文献】特開平09-161126(JP,A)
【文献】特開2005-134989(JP,A)
【文献】特開2000-113265(JP,A)
【文献】特開2007-062938(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G07D 1/00- 3/16
9/00-13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
円板形状の媒体を搬送するための搬送ベルトと、
円板形状の媒体を収納するための収納領域を形成する収納領域形成部材と、
を備え、
前記搬送ベルトは、前記収納領域の底部に設けられており、当該搬送ベルトの表面には、前記収納領域に収納された円板形状の媒体を下方から持ち上げて揺動させるための凸部が設けられており、
前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において、前記搬送ベルトにより搬送される円板形状の媒体の側面と接触する箇所が、当該搬送ベルトの搬送面に対して垂直とならないよう形成されており、
前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において略三角形形状の断面形状を有している、媒体繰出装置。
【請求項2】
前記搬送ベルトの上方に設けられ、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に対して逆方向に回転する逆転ローラを更に備えており、
前記逆転ローラは、前記収納領域に収納される円板形状の媒体の1枚の厚みよりも大きく2枚の厚みよりも小さい距離だけ前記搬送ベルトから上方に離間した位置に設置されている、請求項1記載の媒体繰出装置。
【請求項3】
前記凸部は、前記搬送ベルトに接する第1の円板形状の媒体の下側を通過することにより、前記第1の円板形状の媒体と前記逆転ローラとの間に挟み込まれた第2の円板形状の媒体と前記逆転ローラとの間の摩擦力を変化させる、請求項2記載の媒体繰出装置。
【請求項4】
前記搬送ベルトの裏面における前記凸部に対向する箇所には凹部が設けられている、請求項1乃至3のいずれか一項に記載の媒体繰出装置。
【請求項5】
前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において、円板形状の媒体の搬送方向の下流側に位置する略三角形の辺と前記搬送ベルトの搬送面とがなす外角よりも、円板形状の媒体の搬送方向の上流側に位置する略三角形の辺と前記搬送ベルトの搬送面とがなす外角の方が小さい、請求項1乃至5のいずれか一項に記載の媒体繰出装置。
【請求項6】
前記凸部は、前記収納領域に収納される円板形状の媒体の直径よりも広い間隔で前記搬送ベルトの表面に複数設けられている、請求項1乃至のいずれか一項に記載の媒体繰出装置。
【請求項7】
筐体と、
前記筐体内部に円板形状の媒体を受け入れるための受入部と、
前記筐体内部において円板形状の媒体を搬送するための搬送部と、
前記搬送部により搬送される円板形状の媒体を収納するための収納部と、
前記収納部に収納された円板形状の媒体を当該収納部の外部に排出するための排出部と、
を備え、
前記受入部または前記収納部には、請求項1乃至のいずれか一項に記載の媒体繰出装置が設けられている、媒体処理機。
【請求項8】
表面に凸部が設けられた搬送ベルトと、円板形状の媒体を収納する収納領域を形成するための収納領域形成部材と、を備えた媒体繰出装置による媒体繰出方法であって、
前記搬送ベルトを円板形状の媒体の搬送方向に移動させる工程と、
前記搬送ベルトにより円板形状の媒体を搬送するときに前記搬送ベルトの前記凸部により前記収納領域に収納された円板形状の媒体を下方から持ち上げることにより前記収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させる工程と、
を備え、
前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において、前記搬送ベルトにより搬送される円板形状の媒体の側面と接触する箇所が、当該搬送ベルトの搬送面に対して垂直とならないよう形成されており、
前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において略三角形形状の断面形状を有している、媒体繰出方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬貨等の円板形状の媒体を繰り出すための媒体繰出装置および媒体繰出方法ならびにこのような媒体繰出装置を有する媒体処理機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、円板形状の媒体(例えば、硬貨)を繰り出すための装置として、無端状の搬送ベルトと、搬送ベルトの両側方に設けられ、硬貨の収納領域を形成する一対の側壁と、搬送ベルトの内側に配置されたソレノイド等とを有する硬貨繰出装置が用いられている。また、搬送ベルトの内側に配置されたソレノイドを駆動させることにより、搬送ベルトを例えば硬貨の搬送方向とは直交する方向に揺動させることができるようになっている。このような硬貨処理装置によれば、ソレノイドを駆動させることによって搬送ベルトに接触している硬貨を揺動させることができ、よって収納領域に収納されている硬貨を撹拌することができるようになっている。
【0003】
また、硬貨繰出装置に用いられる搬送ベルトとして、例えば特許文献1および2に開示されるものも知られている。より詳細には、特許文献1の図2等には、略直方体形状の硬貨係合突起が設けられた搬送ベルトが開示されている。また、特許文献2の段落0021等には、搬送ベルトに設けられた硬貨係合用突起が、硬貨をより確実に搬送するための突起であることが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平08-221641号公報
【文献】特開2011-39773号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ソレノイドを有する従来の硬貨繰出装置では、硬貨詰まりによる硬貨の繰り出し不良等が検知されたときにソレノイドを駆動させて硬貨を揺動させるようになっているため、ソレノイド等を配置するためのスペースが必要となってしまうとともに、これらの部品のコストがかかってしまうという問題があった。
【0006】
また、特許文献1および2に開示される硬貨繰出装置には、上述したように搬送ベルトに略直方体形状の硬貨係合用突起を設けた構成が開示されている。しかしながら、この硬貨係合用突起は搬送ベルトの上の硬貨をより確実に搬送するためのものであり、硬貨収納領域に収納された硬貨を揺動させるために用いるものとしては適切ではないという問題があった。
【0007】
本発明は、このような点を考慮してなされたものであり、搬送ベルトに設けられた凸部を用いることにより収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させることができる、シンプルな構成の媒体繰出装置、媒体処理機および媒体繰出方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の媒体繰出装置は、円板形状の媒体を搬送するための搬送ベルトと、円板形状の媒体を収納するための収納領域を形成する収納領域形成部材と、を備え、前記搬送ベルトは、前記収納領域の底部に設けられており、当該搬送ベルトの表面には、前記収納領域に収納された円板形状の媒体を下方から持ち上げて揺動させるための凸部が設けられており、
前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において、前記搬送ベルトにより搬送される円板形状の媒体の側面と接触する箇所が、当該搬送ベルトの搬送面に対して垂直とならないよう形成されており、前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において略三角形形状の断面形状を有していることを特徴とする。
【0009】
このような媒体繰出装置によれば、搬送ベルトに設けられた凸部を用いることにより、収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させることによって収納領域に収納された円板形状の媒体を撹拌することができる。
【0010】
本発明の媒体繰出装置は、前記搬送ベルトの上方に設けられ、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に対して逆方向に回転する逆転ローラを更に備えており、前記逆転ローラは、前記収納領域に収納される円板形状の媒体の1枚の厚みよりも大きく2枚の厚みよりも小さい距離だけ前記搬送ベルトから上方に離間した位置に設置されていてもよい。
【0011】
この場合、前記凸部は、前記搬送ベルトに接する第1の円板形状の媒体の下側を通過することにより、前記第1の円板形状の媒体と前記逆転ローラとの間に挟み込まれた第2の円板形状の媒体と前記逆転ローラとの間の摩擦力を変化させるようになっていてもよい。
【0012】
また、本発明の媒体繰出装置においては、前記搬送ベルトの裏面における前記凸部に対向する箇所には凹部が設けられていてもよい。
【0016】
また、前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において、円板形状の媒体の搬送方向の下流側に位置する略三角形の辺と前記搬送ベルトの搬送面とがなす外角よりも、円板形状の媒体の搬送方向の上流側に位置する略三角形の辺と前記搬送ベルトの搬送面とがなす外角の方が小さくなっていてもよい。
【0017】
本発明の媒体繰出装置においては、前記凸部は、前記収納領域に収納される円板形状の媒体の直径よりも広い間隔で前記搬送ベルトの表面に複数設けられていてもよい。
【0019】
本発明の媒体処理機は、筐体と、前記筐体内部に円板形状の媒体を受け入れるための受入部と、前記筐体内部において円板形状の媒体を搬送するための搬送部と、前記搬送部により搬送される円板形状の媒体を収納するための収納部と、前記収納部に収納された円板形状の媒体を当該収納部の外部に排出するための排出部と、を備え、前記受入部または前記収納部には、上述した媒体繰出装置が設けられていることを特徴とする。
【0020】
このような媒体処理機によれば、受入部または収納部に上述した媒体繰出装置が設けられているため、受入部に受け入れられた円板形状の媒体または収納部に収納された円板形状の媒体を揺動させることによって収納領域に収納された円板形状の媒体を撹拌することができる。
【0021】
また、本発明の媒体処理方法は、表面に凸部が設けられた搬送ベルトと、円板形状の媒体を収納する収納領域を形成するための収納領域形成部材と、を備えた媒体繰出装置による媒体繰出方法であって、前記搬送ベルトを円板形状の媒体の搬送方向に移動させる工程と、前記搬送ベルトにより円板形状の媒体を搬送するときに前記搬送ベルトの前記凸部により前記収納領域に収納された円板形状の媒体を下方から持ち上げることにより前記収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させる工程と、を備え、前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において、前記搬送ベルトにより搬送される円板形状の媒体の側面と接触する箇所が、当該搬送ベルトの搬送面に対して垂直とならないよう形成されており、前記凸部は、前記搬送ベルトによる円板形状の媒体の搬送方向に沿った断面において略三角形形状の断面形状を有していることを特徴する。
【0022】
このような媒体繰出方法によれば、搬送ベルトに設けられた凸部を用いることにより、収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させることによって収納領域に収納された円板形状の媒体を撹拌することができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の媒体繰出装置、媒体処理機および媒体繰出方法によれば、搬送ベルトに設けられた凸部を用いることにより、収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】本発明の実施の形態による硬貨繰出装置を備えた硬貨処理機を含む貨幣処理システムの構成を示す斜視図である。
図2図1に示す硬貨処理機の内部を上方から鉛直方向下方に向かって見たときの構成を概略的に示す構成図である。
図3図2に示す硬貨処理機における硬貨繰出装置および硬貨収納部の構成を示す側面図である。
図4図3に示す硬貨繰出装置における搬送ベルトの構成を概略的に示す側面図である。
図5図4に示す搬送ベルトに設けられた凸部により硬貨を下方から持ち上げることにより硬貨の噛み込みを解除するときの状態を示す側面図である。
図6図4に示す搬送ベルトに設けられた凸部の構成を示す側面図である。
図7図4に示す搬送ベルトに設けられた凸部の構成の他の例を示す側面図である。
図8図4に示す搬送ベルトに設けられた凸部の構成の更に他の例を示す側面図である。
図9図3に示す硬貨繰出装置のガイド部材を側方から見たときの構成を示す縦断面図である。
図10図3に示す硬貨繰出装置のガイド部材を正面から見たときの構成を示す縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して本発明の実施の形態について説明する。図1乃至図10は、本実施の形態に係る硬貨繰出装置およびこのような硬貨繰出装置を備えた硬貨処理機を含む貨幣処理システムを示す図である。このうち、図1は、本実施の形態による硬貨繰出装置を備えた硬貨処理機を含む貨幣処理システムの構成を示す斜視図であり、図2は、図1に示す硬貨処理機の内部を上方から鉛直方向下方に向かって見たときの構成を概略的に示す構成図である。また、図3は、図2に示す硬貨処理機における硬貨繰出装置および硬貨収納部の構成を示す側面図であり、図4は、図3に示す硬貨繰出装置における搬送ベルトの構成を概略的に示す側面図であり、図5は、図4に示す搬送ベルトに設けられた凸部により硬貨を下方から持ち上げることにより硬貨の噛み込みを解除するときの状態を示す側面図である。また、図6乃至図8は、図4に示す搬送ベルトに設けられた凸部の様々な構成を示す側面図である。また、図9および図10は、図3に示す硬貨繰出装置のガイド部材を側方または正面から見たときの構成を示す縦断面図である。なお、図4図9および図10等において、本実施の形態による硬貨処理装置により処理される硬貨を参照符号Cで表示する。また、図5において、搬送ベルトに接触する第1の硬貨を参照符号C1で表示するとともに、この第1の硬貨と逆転ローラとの間に挟み込まれた第2の硬貨を参照符号C2で表示している。
【0026】
コンビニエンスストアやスーパーマーケット等の商業施設の店舗において、顧客が立ち入ることができるフロント領域には様々な商品が陳列された商品棚が設置されているとともに、このフロント領域の精算所には図1に示すような貨幣処理システム1(貨幣釣銭機)やPOSレジスタ(図示せず)が設置されている。顧客がこのような精算所で精算処理を行う際に、店員は、顧客から受け取った商品の代金としての貨幣を貨幣釣銭機としての貨幣処理システム1に入金したり、釣銭としての貨幣を貨幣処理システム1から出金して顧客に返却したりするようになっている。また、POSレジスタにより、顧客が購入した商品に係る情報や貨幣処理システム1に収納されている貨幣に係る情報等の管理が行われるようになっている。このような貨幣処理システム1および当該貨幣処理システム1を構成する硬貨処理機2および硬貨処理機2に設けられた硬貨繰出装置32の詳細について図1乃至図10を用いて説明する。
【0027】
図1等に示すように、本実施の形態による貨幣処理システム1は、略直方体形状の外側筐体1aと、左右に並ぶよう配置され、外側筐体1aからそれぞれ手前側に引出可能となっている硬貨処理機2および紙幣処理機3とを備えており、硬貨処理機2や紙幣処理機3の上方にはPOSレジスタが載置されるようになっている。硬貨処理機2および紙幣処理機3は、それぞれ、硬貨や紙幣の入金処理および出金処理を行うようになっている。以下、硬貨処理機2の構成の詳細について述べる。なお、紙幣処理機3の詳細についての説明は省略する。また、貨幣処理システム1には例えばタッチパネル等からなる操作表示部11が設けられており、操作者は操作表示部11を介して貨幣処理システム1の制御部(図示せず)に指令を与えることができるようになっている。また、制御部は、貨幣処理システム1の各構成部材を制御するようになっている。また、操作表示部11は、貨幣処理システム1による貨幣の処理状況を表示したり、貨幣処理システム1において発生したエラーの情報等を表示することもできるようになっている。
【0028】
図2等に示すように、硬貨処理機2は、略直方体形状の内側筐体10と、内側筐体10の前面側に設けられ、硬貨の入金処理を行う際等に操作者によって投入される硬貨を受け入れるための硬貨受入部12と、内側筐体10の内部において硬貨を搬送するための入金搬送部16と、内側筐体10の内部で硬貨を金種毎に収納する複数の硬貨収納部30と、内側筐体10の前面側に設けられ、硬貨の出金処理を行う際に各硬貨収納部30から硬貨が払い出される硬貨払出部36(すなわち、排出部)と、を備えている。また、複数の硬貨収納部30は内側筐体10の奥行き方向(すなわち、図2における上下方向)に沿って並列に並ぶよう配置されている。
【0029】
硬貨受入部12は、投入された硬貨を検知すると駆動され、受け入れた硬貨を1層1列状態で1枚ずつ内側筐体10の内部に取り込むようになっている。図2に示すように、この硬貨受入部12には、当該硬貨受入部12により内側筐体10の内部に取り込まれた硬貨を搬送する入金搬送部16が接続されている。なお、このような硬貨受入部12に、後述する硬貨繰出装置32と同様の構成が適用されるようになっていてもよい。
【0030】
また、入金搬送部16の途中には、硬貨の識別を行う識別部18と、分岐部25とがそれぞれ設けられている。分岐部25は、識別部18による硬貨の識別結果に基づいて、リジェクト硬貨等の、硬貨払出部36から払い出されるべき硬貨を出金搬送部19へ案内(搬送)するようになっている。一方、正常硬貨等の機体内に収納されるべき硬貨は入金搬送部16により各硬貨収納部30へ搬送されるようになっている。各硬貨収納部30は硬貨を金種別に収納するようになっており、例えば入金搬送部16の上流側から高額順に硬貨が収納されるようになっている。
【0031】
図3に示すように、各硬貨収納部30は、当該硬貨収納部30の内部から外部に硬貨を繰り出すための硬貨繰出装置32をそれぞれ有している。また、各硬貨繰出装置32は一対の側壁33(図10参照)を含んでおり、この一対の側壁33の間に硬貨を収納するための硬貨収納領域30mがそれぞれ形成されている。なお、図10においては、硬貨収納領域30mの右側の側壁33のみを図示しており、硬貨収納領域30mの左側の側壁33については図示を省略している。これらの各硬貨収納部30および硬貨繰出装置32の構成の詳細については後述する。また、硬貨繰出装置32により硬貨収納領域30mから繰り出された硬貨は硬貨払出部36に送られ、この硬貨払出部36に集積されるようになっている。また、硬貨払出部36は内側筐体10の外部に露出しており、操作者はこの硬貨払出部36に集積されている硬貨を手で掴んで内側筐体10の外部に取り出すことができるようになっている。
【0032】
また、図3に示すように、硬貨繰出装置32は、一対の側壁33の間に形成された硬貨収納領域30mの底部に設けられ、複数(具体的には、2つ)のプーリ44により張架された無端状の帯状の搬送ベルト42を有している。また、搬送ベルト42の幅の大きさは硬貨収納領域30mの幅の大きさと略同一となっているとともに、搬送ベルト42の表面(すなわち、各プーリ44とは接触していない側にある面)には複数の凸部42a(後述)が設けられている。また、硬貨繰出装置32は、複数のプーリ44のうちある一つのプーリ44に接続され、当該プーリ44を正逆両方向に回転させる駆動モータ44aと、搬送ベルト42の上方に設けられた逆転ローラ46とを有している。また、逆転ローラ46は、搬送ベルト42の表面から、搬送ベルト42により搬送されるべき硬貨の厚み(すなわち、硬貨収納領域30mに収納されるべき硬貨の厚み)の1枚の厚みよりも大きく2枚の厚みよりも小さい距離だけ上方に離間した位置に設けられるようになっている。また、硬貨収納領域30mに収容される硬貨は搬送ベルト42上に載置されるようになっている。
【0033】
また、駆動モータ44aによりこの駆動モータ44aに接続されるプーリ44が硬貨の繰出方向に回転させられると搬送ベルト42は図3における時計回りの方向(すなわち、正転方向)に循環移動し、この搬送ベルト42上に載置されている硬貨は略水平姿勢で図3における右方向に搬送され、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に形成される隙間を介して硬貨払出部36に送られるようになる。ここで、逆転ローラ46は搬送ベルト42による硬貨の繰出方向と逆方向(すなわち、図3乃至図5における時計回りの方向)に回転するようになっている。このことにより、搬送ベルト42により繰り出される硬貨が逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に形成される隙間を通る際に当該硬貨は1層1列状態に整列されるようになり、整列された硬貨が搬送ベルト42により硬貨払出部36に送られるようになる。また、本実施の形態では、駆動モータ44aがプーリ44を硬貨の繰出方向とは逆方向に回転させることにより、搬送ベルト42は硬貨の繰出方向と逆方向(すなわち、逆転方向)にも循環移動することができるようになっている。
【0034】
なお、硬貨の搬送方向における逆転ローラ46よりも下流側には、当該逆転ローラ46と搬送ベルト42との隙間から繰り出された硬貨を搬送ベルト42の上で一時的に停止させるための、棒状の部材からなる複数のストップピン48が設けられている。また、各ストップピン48は、搬送ベルト42の幅方向に沿って並ぶよう配置されている。また、各ストップピン48は、硬貨を停止させる停止位置(図3参照)と、硬貨を繰り出すための繰出位置(図示せず)との間で進退可能となるよう設けられている。より詳細には、停止位置に位置する各ストップピン48の下端部は搬送ベルト42から所定の距離だけ上方に離間した箇所に位置するようになっており、各ストップピン48は、停止位置において厚み方向における硬貨の上側の一部と接触することにより硬貨を停止させるようになっている。一方、硬貨を繰り出す繰出位置においては、各ストップピン48は、硬貨とは接触しないよう停止位置よりも上方の箇所に位置するようになっている。また、停止位置にある各ストップピン48の下端部の位置は、搬送ベルト42に設けられた各凸部42aの上端部の高さよりも上方に位置するようになっている。このことにより、各凸部42aが各ストップピン48の真下を通過するときにも、各ストップピン48と各凸部42aとが接触してしまうことを防ぐことができるようになっている。
【0035】
また、硬貨の搬送方向における逆転ローラ46よりも下流側には、硬貨繰出装置32により繰り出された硬貨を検知するためのセンサ49が設けられている。より詳細には、このセンサ49は、例えば発光素子と受光素子とを有しており、発光素子から受光素子に向かって発せられた光の光軸が硬貨により遮られることにより、硬貨の存在が検知されるようになっている。また、このセンサ49による硬貨の検知結果に基づいて、硬貨繰出装置32によって硬貨収納領域30mから硬貨が正常に繰り出されたか否か(すなわち、硬貨の噛み込み等に起因する搬送不良が発生しているか否か)を検知することができるようになっている。例えば、硬貨繰出装置32により硬貨収納領域30mから硬貨が正常に繰り出されるときの時間の間隔と比較して、所定の時間だけ長い時間が経過した後に上述したセンサ49により硬貨が検知されなかったときに、硬貨繰出装置32において硬貨の噛み込みが発生したと判定することができるようになる。
【0036】
図3乃至図6等に示すように、本実施の形態の硬貨繰出装置32における搬送ベルト42の表面には、複数の凸部42aが設けられている。以下、この凸部42aについて図3乃至図6を参照して詳しく説明する。
【0037】
図4に示すように、各凸部42aは、硬貨収納領域30mに収納される硬貨(図4および図5において参照符号C、C1、C2で表示)の直径よりも広い間隔で搬送ベルト42の表面に設けられている。このため、搬送ベルト42により搬送される硬貨は、ある凸部42aとその隣に位置する凸部42aとの間に存在する、搬送ベルト42の平滑面(すなわち、ベルトの搬送面と平行な面)に載置された状態で搬送されるようになっている。また、各凸部42aは、搬送ベルト42の幅方向(すなわち、図4における紙面に直交する方向)の全域に渡って延びるよう形成されている。また、各凸部42aは、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面(すなわち、図4における紙面と平行な平面)において、円板形状を有する硬貨の側面と接触する箇所が、搬送ベルト42の搬送面に対して垂直とならないよう形成されている。より詳細には、図4等に示す形状の各凸部42aにおいては、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面における形状は略三角形形状となっている。このように、硬貨の側面と接触する箇所が搬送ベルト42の搬送面に対して垂直とならないよう形成されていることにより、搬送ベルト42により搬送される硬貨の下方に各凸部42aを容易に通過させることができるようになる。言い換えると、硬貨は、搬送ベルト42の各凸部42aに容易に乗り上げるようになる。また、各凸部42aの高さは、搬送ベルト42により搬送される硬貨の厚みの1/2よりも小さいことが好ましく、搬送ベルト42により搬送される硬貨の厚みの1/4よりも小さいことが更に好ましい。このように、各凸部42aの高さを搬送ベルト42により搬送される硬貨の厚みよりも小さいものとすることにより、当該凸部42aが硬貨の下方をさらに容易に通過することができるようになる。
【0038】
ここで、従来技術における硬貨係合用突起のように、硬貨の側面と接触する箇所が搬送ベルトの搬送面に対して垂直に延びるような硬貨係合用突起が用いられる場合には、各硬貨係合用突起は、主として硬貨を搬送方向へ送り出すような力を硬貨に与えるようになる。これに対し、本実施の形態における各凸部42aのように、硬貨の側面と接触する箇所が搬送ベルト42による硬貨の搬送面と垂直とならないよう形成されている場合には、各凸部42aは主として硬貨を下方から持ち上げるような力を硬貨に与えるようになる。また、硬貨を下方から持ち上げることによって搬送ベルト42の上の硬貨を揺動させることにより、各凸部42aにより硬貨収納領域30mに堆積された硬貨の堆積状態が変化するため、硬貨が撹拌されるようになる。すなわち、搬送ベルト42に設けられた各凸部42aは、硬貨をより確実に搬送することを目的として形成されたものではなく、硬貨収納領域30mに収納された硬貨の下方を通過することによりこの硬貨を持ち上げて揺動させることを目的として形成されたものである。
【0039】
また、各凸部42aにより硬貨を下方から持ち上げることができるため、本実施の形態の硬貨繰出装置32は、硬貨の操り出し部である逆転ローラ46と搬送ベルト42との間における硬貨を噛み込みが発生した場合にもこの硬貨の噛み込みを自動的に解除することができるようになっている。ここで、硬貨の噛み込みとは、図5に示す状態のように、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に複数(例えば、2枚)の硬貨が挟み込まれてしまうことにより、硬貨を正常に繰り出すことができなくなった状態のことを指す。
【0040】
より詳細には、硬貨繰出装置32において硬貨の噛み込みが発生してしまった場合にも、搬送ベルト42を正転方向に循環移動させるだけで(すなわち、硬貨を繰り出す方向に搬送ベルト42を循環移動させるだけで)、この硬貨の噛み込みを解消することができるようになっている。このことについて、図5を参照して説明する。なお、図5に示す例においては、搬送ベルト42に接触する第1の硬貨を参照符号C1で表示するとともに、この第1の硬貨と逆転ローラ46との間に挟み込まれた第2の硬貨を参照符号C2で表示している。より詳細には、上述したように、搬送ベルト42に設けられた各凸部42aにより搬送ベルト42に接触する第1の硬貨C1が下方から持ち上げられるようになっている。また、第1の硬貨C1が上方に持ち上げられると、この第1の硬貨C1と逆転ローラ46との間に挟み込まれた第2の硬貨C2も上方へ持ち上げられるようになる。このように、第1の硬貨C1および第2の硬貨C2が凸部42aにより持ち上げられると、逆転ローラ46に対してこの第2の硬貨C2がより強く押圧されるようになる。このため、第1の硬貨C1と搬送ベルト42との間に働く摩擦力(すなわち、搬送方向へ硬貨を搬送する力)と、第2の硬貨C2と逆転ローラ46との間に働く摩擦力(具体的には、図5において参照符号Fで示す矢印方向に働く力)とがそれぞれより大きくなるようこれらの摩擦力を変化させることができるようになる。このことにより、搬送ベルト42側に位置する第1の硬貨C1に対しては、搬送方向に搬送される力がより大きく働くようになる。一方、逆転ローラ46側に位置する第2の硬貨C2に対しては、硬貨収納領域30m側へ戻される力(すなわち、図5において参照符号Fで示す矢印方向に働く力)がより大きく働くようになる。このように、本実施の形態の硬貨繰出装置32においては、搬送ベルト42を硬貨の繰り出し方向に循環移動させることにより、硬貨の噛み込みを解消することができるようになっている。
【0041】
一方、上述したような構成であっても、搬送ベルト42と逆転ローラ46との間に硬貨が強く噛み込んでしまった場合には、上述したように搬送ベルト42を正転方向に循環移動させても、硬貨の噛み込みをうまく解消することができない場合がある。このような不具合を解消するために、搬送ベルト42の裏面における各凸部42aに対向する箇所には各凹部42bが設けられている(図5等参照)。より詳細には、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に硬貨が強く噛み込んでしまった場合には、各凸部42aが硬貨の下方を通過する際に硬貨を上方に持ち上げることができず、却って逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に噛み込んだ硬貨により各凸部42aが下方に押し下げられてしまうことがある。ここで、搬送ベルト42に各凹部42bが設けられていない場合には、各凸部42aが下方に押し下げられたときに、搬送ベルト42の表面と逆転ローラ46の下端部との間の距離がより大きくなるよう搬送ベルト42が大きく変形するとともに、それらに大きな力がかかってしまい、搬送ベルト42や逆転ローラ46に摩耗や破損を引き起こす可能性がある。これに対し、本実施の形態のように搬送ベルト42の裏面における各凸部42aに対向する箇所に各凹部42bを設けた場合には、各凸部42aが対向する各凹部42bに向かって移動するよう局所的に搬送ベルト42が変形するようになる(すなわち、各凸部42aが各凹部42bに逃げるように搬送ベルト42が変形する)ため、搬送ベルト42や逆転ローラ46に対して大きな力がかかってしまうことを防止することができ、よって搬送ベルト42や逆転ローラ46の摩耗や破損を防止することができるようになっている。
【0042】
一方、上述のような構成であっても、搬送ベルト42と逆転ローラ46との間に硬貨が強く噛み込んでしまう場合がある。このような場合には、搬送ベルト42を硬貨の搬送方向とは反対の逆転方向に循環移動させることにより硬貨の噛み込みを解消するようになっている。また、本実施の形態の硬貨繰出装置32においては、このような硬貨の噛み込みを解消する効果をより高めるために、各凸部42aを、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において略三角形形状となるよう形成している。より詳細には、図6に示すように、各凸部42aは、硬貨の搬送方向(図6における矢印方向)の下流側に位置する略三角形の辺と搬送ベルト42の搬送面とがなす外角(参照符号θ1で表示)よりも、硬貨の搬送方向の上流側に位置する略三角形の辺と搬送ベルト42の搬送面とがなす外角(参照符号θ2で表示)のほうが小さくなるよう形成されている。このことにより、搬送ベルト42を硬貨の搬送方向とは反対の逆転方向に循環移動させたときに、硬貨の噛み込みをより容易に解消することができるようになる。図5を参照して説明すると、各凸部42aが上述のような形状を有していることにより、搬送ベルト42を逆転方向に循環移動させたときに、各凸部42aの略三角形の頂点部分が、搬送ベルト42と逆転ローラ46との間に噛み込まれた硬貨を掻き出すように作用するようになる。このことにより、硬貨の噛み込みをより容易に解消することができるようになる。
【0043】
なお、搬送ベルト42に設けられる各凸部の形状は、上述した各凸部42aのような、それぞれの外角の大きさが異なるような略三角形形状に限定されることはない。例えば、図7に示すような、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において略正三角形形状を有する(すなわち、θ1とθ2が等しい角度である)凸部42cが硬貨を下方から持ち上げるための凸部として用いられるようになっていてもよい。また、図8に示すような、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において略半円形状を有する凸部42dが硬貨を下方から持ち上げるための凸部として用いられるようになっていてもよい。あるいは、階段形状を有する凸部や、略台形形状の凸部(図示せず)が硬貨を下方から持ち上げるための凸部として用いられるようになっていてもよい。これらの各凸部42c、42d等が用いられた場合であっても、硬貨収納領域30mに収納された硬貨を下方から持ち上げることができるようになる。
【0044】
次に、このような構成からなる硬貨処理機2において、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間で硬貨の噛み込みが発生してしまった場合に、この硬貨の噛み込みを解消する際の動作の流れについて説明する。
【0045】
まず、硬貨の噛み込みがすぐに解消される場合について説明する。上述したように、本実施の形態の搬送ベルト42に設けられた各凸部42aは、硬貨を繰り出す方向に搬送ベルト42を回転させたときにも硬貨の噛み込みを解消するようことができるようになっている。このため、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間で硬貨の噛み込みが発生したときに、この硬貨の噛み込みがすぐに解除される場合がある。この場合には、硬貨はすぐに正常に繰り出されるようになるため、硬貨の繰り出しが停止させられることはない。なお、このような場合であっても、所定の時間(たとえば、硬貨が正常に繰り出されるときの時間)の間隔よりも長い時間が経過しても硬貨が繰り出されなかったことをセンサ49が検知した際には、硬貨の噛み込み等の搬送不良が発生したものの、この搬送不良が搬送ベルト42の各凸部42aにより解消されたと制御部により判定されるようになっていてもよい。また、このことが記憶部(図示せず)に記憶されるようになっていてもよい。
【0046】
また、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に硬貨が強く噛み込んでしまい、例えば所定の時間経過した後にも硬貨の噛み込みが解消されなかった場合には、硬貨繰出装置32によって硬貨が正常に払い出されなくなるため、逆転ローラ46よりも下流側にあるセンサ49によりこのことが検知されるようになる。また、このとき、硬貨の噛み込みが発生したと制御部により判定されるようになる。この場合には、上述した操作表示部11にこのことが表示されることによって操作者に硬貨の噛み込みが発生したことが報知されるようになっている。また、このような表示とともに、搬送ベルト42を逆転方向に循環移動させるか否かを操作者に選択させる画面が表示されるようになる。そして、搬送ベルト42を逆方向に循環移動させることが操作者により選択されると、搬送ベルト42が逆方向に循環移動するようになり、このときに硬貨の噛み込みが解消されるようになる。上述したように、本実施の形態による硬貨繰出装置32においては、各凸部42aは、搬送ベルト42を逆転方向に循環移動させたときのほうが硬貨の噛み込みをより容易に解消することができるような形状となっている。このため、搬送ベルト42を正転方向に循環移動させたときに解消することができない硬貨の噛み込みであっても、搬送ベルト42を逆転方向に循環移動させることにより、硬貨の噛み込みを解消することができるようになっている。また、硬貨繰出装置32において硬貨の噛み込みが発生したと判定されたときに、搬送ベルト42が自動的に逆転方向に循環移動させられるようになっていてもよい。
【0047】
なお、図7図8に示すような、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面形状が左右対称である各凸部42cや42dを有する搬送ベルト42が用いられる場合であっても、同様の効果が期待できる。より詳細には、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面における各凸部42c、42dの形状は左右対称ではあるものの、図5に示すような硬貨の噛み込みが発生している状態において、各凸部42c、42dが第1の硬貨C1の下を通過することにより、第1の硬貨C1が下方から持ち上げられるようになっている。また、第1の硬貨が上方に持ち上げられると、この第1の硬貨と逆転ローラ46との間に挟み込まれた第2の硬貨C2も上方へ持ち上げられるようになる。このように、第1の硬貨C1および第2の硬貨C2が各凸部42c、42dにより持ち上げられると、逆転ローラ46に対してこの第2の硬貨C2がより強く押圧されるようになる。このため、第1の硬貨C1と搬送ベルト42との間に働く摩擦力(すなわち、搬送方向へ搬送される力)と、第2の硬貨C2と逆転ローラ46との間に働く摩擦力(具体的には、図5において参照符号Fで示す矢印方向に働く力)がそれぞれより大きくなるようこれらの摩擦力を変化させることができるようになる。このことにより、搬送ベルト42側に位置する第1の硬貨C1に対しては、搬送方向に搬送される力がより大きく働くようになる。一方、逆転ローラ46側に位置する第2の硬貨C2に対しては、硬貨収納領域30m側へ戻される力(すなわち、図5において参照符号Fで示す矢印方向に働く力)がより大きく働くようになる。
【0048】
また、さらに強く硬貨の噛み込みが発生している状態においては、搬送ベルト42を硬貨の搬送方向とは反対の逆転方向に循環移動させて解消させるが、各凸部42c、42dが硬貨の搬送方向に沿った断面において左右対称となるような形状を有している場合であっても、各凸部42aについて上述したような、硬貨の噛み込みを解消するような効果が期待できる。すなわち、各凸部42cや角凸部42dが設けられた搬送ベルト42を用いた場合には、各凸部42cにおける略三角形の頂点部分や、各凸部42dの側面が、搬送ベルト42と逆転ローラ46との間に噛み込まれた硬貨を掻き出すように作用するようになる。
【0049】
ここで、従来のソレノイドを有する従来の硬貨繰出装置では、硬貨詰まりによる硬貨の繰り出し不良等が検知されたときにソレノイドを駆動させて硬貨を揺動させるようになっているため、ソレノイド等を配置するためのスペースが必要となってしまうとともに、これらの部品のコストがかかってしまうという問題があった。また、従来の硬貨繰出装置に設けられた略直方体形状の硬貨係合用突起は、硬貨の側面を押して搬送するためのものであり、硬貨を揺動させるためには用いることができないという問題があった。これに対し、本実施の形態の硬貨繰出装置32は、硬貨を搬送するための搬送ベルト42と、硬貨を収納するための硬貨収納領域30mを形成する側壁33と、を備え、搬送ベルト42は、硬貨収納領域30mの底部に設けられており、当該搬送ベルト42の表面には、前記硬貨収納領域30mに収納された硬貨を下方から持ち上げて揺動させるための凸部42a、もしくは凸部42c、もしくは凸部42dが設けられているため、ソレノイドの駆動機構の設置を省略することができるとともに、搬送ベルト42を循環移動させることにより、硬貨の搬送を行うと同時に各凸部42a、42c、42dによって硬貨収納領域30mに収納された硬貨を揺動させることができるようになる。
【0050】
また、本実施の形態による硬貨繰出装置32には、搬送ベルト42の裏面側(すなわち、プーリ44と接触している側)に硬貨が進入してしまうことを防止する進入防止機構43が設けられている。以下、この進入防止機構43について図9および図10を参照して説明する。ここで、図9および図10は、硬貨繰出装置32のガイド部材43aを側方または正面から見たときの構成を示す縦断面図である。なお、図10においては、硬貨収納領域30mの右側に位置する側壁33のみを図示しており、硬貨収納領域30mの左側に位置する側壁33については図示を省略している。
【0051】
図9および図10に示すように、搬送ベルト42の近傍には、進入防止機構43が設けられており、当該進入防止機構43は硬貨の搬送等をガイドするための一対のガイド部材43aを有している。また、各ガイド部材43aには、硬貨収納領域30mに収納される硬貨の厚みとよりも僅かに広い幅を有する凹形状の溝43bが形成されている。また、図9に示すように、溝43bは、硬貨の搬送方向における各ガイド部材43aの両端部近傍において、この溝43bの深さが徐々に浅くなるよう形成されている。このような溝43bが各ガイド部材43aに設けられていることにより、硬貨収納領域30mに収納されている硬貨が搬送ベルト42の裏面側に潜り込んでしまうことを防止することができるようになっている。より詳細には、本実施の形態による硬貨繰出装置32においては、硬貨収納領域30mに収納される硬貨が搬送ベルト42により搬送される際に、硬貨収納領域30mに収納されている硬貨が搬送ベルト42の裏面側に進入しようとする場合がある。より具体的には、硬貨収納領域30mには複数の硬貨が積み重なるよう収納されているが、硬貨収納領域30mに収納された硬貨が撹拌されることにより、このうちの一部の硬貨が例えば側壁33に向かって傾斜するような立位状態となることがある(図10参照)。また、このような立位状態の硬貨が搬送ベルト42により搬送されるときに、図10に示すようにこの立位状態の硬貨が搬送ベルト42の裏側に侵入しようとする場合がある。
【0052】
ここで、従来の硬貨繰出装置のように、各ガイド部材43aに上述した溝43bが設けられていない場合には、搬送ベルト42の裏側に硬貨が入り込んでしまい、硬貨の搬送不良の原因となってしまうことがあるという問題があった。また、操作者はこのような搬送ベルト42の裏側に潜り込んだ硬貨を一目で確認することができず、搬送不良を解消しようとするときにこの搬送不良の原因をすぐに特定することができない場合があるという問題があった。これに対し、本実施の形態のガイド部材43aのように、立位状態の硬貨を受け入れる溝43bが各ガイド部材43aに形成されている場合には、この溝43bによって立位状態の硬貨を受け入れることにより、搬送ベルト42の裏側に硬貨が進入してしまうことを防止することができるようになる。また、上述したように、各溝43bの深さは、逆転ローラ46の近傍で浅くなっている。このことにより、図10に示すように立位状態で溝43bに受け入れられ、立位状態のまま逆転ローラ46側(すなわち、搬送方向における下流側)に搬送された硬貨は、逆転ローラ46に接触して硬貨収納領域30mの内部において硬貨の搬送方向の上流側(すなわち、図9における左側)に戻されるようになる。このため、立位状態の硬貨が搬送ベルト42の裏側に侵入してしまうことによるエラー等の発生を防止することができるようになる。また、このような立位状態の硬貨に起因する搬送不良が発生することを防ぐことができない場合(すなわち、溝43bに受け入れられた硬貨により搬送不良が発生した場合)にも、硬貨は搬送ベルト42の裏側に侵入することはないため、操作者はこのような搬送不良の原因となった硬貨を一目で確認することができ、よってこの搬送不良を容易に解消することができるようになる。また、凹形状を有する各溝43bの底面には複数の排出孔(図示せず)が設けられており、各排出孔により硬貨収納領域30mの内部の空間と外部の空間とが連通されるようになっている。また、各溝43bに沿って硬貨が搬送されるときに、硬貨に付着している硬貨粉等の塵が各排出孔から落下することにより硬貨収納領域30mの外部に排出されるようになっている。
【0053】
以上のような構成からなる硬貨繰出装置32は、硬貨を搬送するための搬送ベルト42と、硬貨を収納するための硬貨収納領域30mを形成する側壁33と、を備え、搬送ベルト42は、硬貨収納領域30mの底部に設けられており、当該搬送ベルト42の表面には、硬貨収納領域30mに収納された硬貨を下方から持ち上げて揺動させるための凸部42a、もしくは凸部42c、もしくは凸部42dが設けられているため、搬送ベルト42に設けられた凸部42a、もしくは凸部42c、もしくは凸部42dを用いることにより、硬貨収納領域30mに収納された硬貨を揺動させることによって硬貨収納領域30mに収納された硬貨を撹拌することができる。また、硬貨繰出装置32は、搬送ベルト42の上方に設けられ、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に対して逆方向に回転する逆転ローラ46を更に備えており、逆転ローラ46は、硬貨収納領域30mに収納される硬貨の1枚の厚みよりも大きく2枚の厚みよりも小さい距離だけ搬送ベルト42から上方に離間した位置に設置されているため、硬貨の搬送方向における逆転ローラ46よりも下流側において、硬貨を一層一列状態に分離することができるようになる。
【0054】
また、上述したように、本実施の形態による硬貨繰出装置32においては、各凸部42a、42c、42dは、搬送ベルト42に接する第1の硬貨(図5において参照符号C1で表示)の下側を通過することにより、第1の硬貨と逆転ローラ46との間に挟み込まれた第2の硬貨(図5において参照符号C2で表示)と逆転ローラ46との間の摩擦力を変化させるようになっているため、ソレノイド等の駆動機構を用いることなく、硬貨の噛み込みを解消することができるようになる。また、搬送ベルト42の裏面における凸部42a、42c、42dに対向する箇所には凹部42bが設けられているため、搬送ベルト42と逆転ローラ46との間に複数の硬貨が噛み込んでしまった場合にも各凸部42a、42c、42dに対向する箇所にある各凹部42bによって、下方に押し下げる力を逃がすことができる。このことにより、逆転ローラ46と搬送ベルト42との間に過度に大きな力がかかってしまうことがなくなり、より強い噛み込みの発生を防止したり、搬送ベルト42や逆転ローラ46等の部品が磨耗したり、破損したりしてしまうことを防止することができる。
【0055】
また、上述したように、本実施の形態による硬貨繰出装置32においては、凸部42a、42c、42dは、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において、搬送ベルト42により搬送される硬貨の側面と接触する箇所が、当該搬送ベルト42の搬送面に対して垂直とならないよう形成されているため、凸部42a、42c、42dを容易に硬貨の下方を通過させることができるようになる。例えば、このような凸部として、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において略半円形状の断面形状を有している凸部42dや、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において略三角形形状の断面形状を有している凸部42a、42cを用いるようにしてもよい。また、凸部42aは、搬送ベルト42による硬貨の搬送方向に沿った断面において、硬貨の搬送方向の下流側に位置する略三角形の辺と搬送ベルト42の搬送面とがなす外角よりも、硬貨の搬送方向の上流側に位置する略三角形の辺と搬送ベルト42の搬送面とがなす外角の方が小さいため、搬送ベルト42を硬貨の搬送方向とは反対の逆転方向に循環移動させたときに、硬貨の噛み込みをより容易に解消することができるようになる。
【0056】
また、上述したように、本実施の形態による硬貨繰出装置32においては、凸部42a、42c、42dは、硬貨収納領域30mに収納される硬貨の直径よりも広い間隔で搬送ベルト42の表面に複数設けられているため、硬貨をベルトの平滑面により搬送することができるようになる。あるいは、凸部42a、42c、42dが硬貨収納領域30mに収納される硬貨の直径の1/2以上かつ直径以下の間隔で搬送ベルト42の表面に複数設けられていてもよく、この場合には、硬貨をより効率的に揺動させることができるようになる。
【0057】
また、以上のような構成からなる硬貨処理機2においては、内側筐体10と、内側筐体10内部に硬貨を受け入れるための硬貨受入部12と、内側筐体10内部において硬貨を搬送するための入金搬送部16等と、入金搬送部16等により搬送される円板形状の媒体硬貨を収納するための硬貨収納部30と、各硬貨収納部30に収納された硬貨を当該硬貨収納部30の外部に排出するための硬貨払出部36と、を備え、各硬貨収納部30には、上述した硬貨繰出装置32が設けられているため、各硬貨収納部30に収納された硬貨を揺動させることによって硬貨収納領域に収納された硬貨を撹拌することができる。なお、硬貨繰出装置32が各硬貨収納部30に設けられる代わりに、硬貨受入部12に設けられていてもよい。
【0058】
また、以上のような構成からなる硬貨繰出装置32による硬貨繰出方法は、搬送ベルト42を硬貨の搬送方向に移動させる工程と、搬送ベルト42により硬貨を搬送するときに搬送ベルト42の凸部42a、42c、42dにより硬貨収納領域30mに収納された硬貨を下方から持ち上げることにより硬貨収納領域30mに収納された硬貨を揺動させる工程と、を備えているため、搬送ベルト42に設けられた凸部42a、42c、42dにより、収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させることによって硬貨収納領域30mに収納された硬貨を撹拌することができる。
【0059】
なお、本実施の形態による硬貨繰出装置32やこのような硬貨繰出装置32を備えた硬貨処理機2は上述したような態様に限定されることはなく、様々な変更を加えることができる。
【0060】
例えば、上述した硬貨繰出装置32および硬貨処理機2により処理される媒体は、硬貨に限定されることはない。他の円板形状の媒体、例えばメダル等を処理する媒体繰出装置または媒体処理機に、上述した発明の原理が適用されるようになっていてもよい。あるいは、金属以外の材料からなる円板形状の媒体、例えばプラスチック等から形成された円板形状の媒体を処理する媒体繰出装置または媒体処理機に、上述した発明の原理が適用されるようになっていてもよい。このような場合にも、搬送ベルト42に設けられた凸部42a、42c、42dを用いることにより、媒体収納領域に収納された円板形状の媒体を揺動させることによって媒体収納領域に収納された円板形状の媒体を撹拌することができる。
【0061】
また、上述したように、停止位置に位置する各ストップピン48の下端部は、各凸部42a、42c、42dの上端部と接触しないよう当該凸部42a、42c、42dの上端部よりも上方に位置するようになっている。ここで、上述の公知文献に記載されているような搬送ベルトに略直方体形状の硬貨係合用突起が設けられている場合には、硬貨係合用突起は搬送ベルトの上の硬貨をより確実に搬送するように作用する。このため、搬送ベルトを循環移動させたときに、硬貨係合用突起により搬送される硬貨や硬貨係合用突起自体によりストップピンに大きな負荷を与えてしまうことがある。これに対し、本実施の形態においては、搬送ベルト42により搬送される硬貨の側面と接触する箇所が搬送ベルト42の搬送面に対して垂直とならないような各凸部42a、42c、42dが搬送ベルト42の搬送面に形成されている。このような場合には、各凸部42a、42c、42dは硬貨の下側へ入り込むようになるため、各ストップピン48に与える負荷を軽減させることができるようになる。
【0062】
また、各ストップピンおよび各凸部の構成は、上述したような構成に限定されることはない。例えば、各凸部42a、42c、42dの上端部と、停止位置に位置する各ストップピンの下端部とが接触するような位置関係で構成されていてもよい。この場合にも、各凸部42a、42c、42dの側面が搬送ベルト42の搬送面に対して垂直とならないよう形成されているため、硬貨について上述したように、各凸部42a、42c、42dと接触した各ストップピンは当該凸部42a、42c、42dに乗り上げるようになる。このため、搬送ベルト42を循環移動させたときに、当該搬送ベルト42や停止位置に位置する各ストップピンに負荷等を与えてしまうことを防止することができるようになる。
【0063】
また、各凸部42a、42c、42dの上端部と、停止位置に位置する各ストップピンの下端部とが接触するような位置関係で構成されている場合において、各凸部42a、42c、42dを搬送ベルト42の幅方向に沿って略同一の断面形状を有するように形成する代わりに、搬送ベルト42の幅方向における、各ストップピンの位置に対応する箇所に凹部(図示せず)を設けることにより、各凸部42a、42c、42dと停止位置に位置する各ストップピンとが接触しないようにしてもよい。この場合にも、搬送ベルト42を循環移動させたときに、当該搬送ベルト42や停止位置に位置する各ストップピンに負荷を与えてしまうことを防止することができるようになる。
【0064】
また、本実施の形態に記載の各凸部42a、42c、42dは、硬貨の側面と接触する箇所が搬送ベルト42の搬送面に対して垂直とならないよう形成されているとしたが、各凸部の形状はこれに限定されることはない。硬貨の下方を各凸部が容易に通過することができ、かつこの硬貨を揺動させることができる形状や大きさであれば他の形状であってもよい。例えば、硬貨の厚さに対して十分に小さな略直方体形状の凸部や、硬貨の側面と接触する箇所の一部分に垂直な部分があるような凸部が用いられるようになっていてもよい。
【符号の説明】
【0065】
1 貨幣処理システム
1a 外側筐体
2 硬貨処理機
3 紙幣処理機
10 内側筐体
11 操作表示部
12 硬貨受入部
16 入金搬送部
18 識別部
19 出金搬送部
30 硬貨収納部
30m 硬貨収納領域
32 硬貨繰出装置
33 側壁
36 硬貨払出部
42 搬送ベルト
42a、42c、42d 凸部
42b 凹部
43 侵入防止機構
43a ガイド部材
43b 溝
44 プーリ
44a 駆動モータ
46 逆転ローラ
48 ストップピン
49 センサ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10