(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】積層複合構造物の造形装置及び造形方法
(51)【国際特許分類】
B29C 64/209 20170101AFI20220408BHJP
B33Y 30/00 20150101ALI20220408BHJP
B33Y 10/00 20150101ALI20220408BHJP
B29C 64/106 20170101ALI20220408BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20220408BHJP
B29C 64/236 20170101ALI20220408BHJP
B28B 1/30 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
B29C64/209
B33Y30/00
B33Y10/00
B29C64/106
B29C64/40
B29C64/236
B28B1/30
(21)【出願番号】P 2017248737
(22)【出願日】2017-12-26
【審査請求日】2020-11-09
(73)【特許権者】
【識別番号】000201478
【氏名又は名称】前田建設工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130362
【氏名又は名称】小川 嘉英
(72)【発明者】
【氏名】茂木 順一
(72)【発明者】
【氏名】梶田 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】宮野 和樹
(72)【発明者】
【氏名】絹村 剛士
(72)【発明者】
【氏名】今井 嵩弓
【審査官】▲高▼村 憲司
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-518586(JP,A)
【文献】特表2006-515908(JP,A)
【文献】特開2015-217682(JP,A)
【文献】特開2017-105177(JP,A)
【文献】特開2015-143023(JP,A)
【文献】国際公開第2007/013240(WO,A1)
【文献】特開2005-059477(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 64/00 - 64/40
B33Y 10/00 - 99/00
B28B 1/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の材料を積層して積層複合構造物を造形するための造形装置であって、
積層複合構造物を造形するための
セメント系材料と樹脂系材料とをそれぞれ同時に吐出することが可能な複数の吐出ノズルと、
各吐出ノズルを一体として移動させる移動装置と、
所望形状の積層複合構造物を造形するために、各吐出ノズルからの各材料の吐出量及び前記移動装置による各吐出ノズルの移動を制御する制御装置と、
を備え、
前記セメント系材料を吐出する吐出ノズルは、前記樹脂系ノズルを両側から挟み込むように配設し、
前記セメント系材料を吐出する吐出ノズルは、前記制御装置の制御に基づいて、移動するとともにセメント系材料を吐出することにより、圧縮材を形成するものであり、
前記樹脂系材料を吐出する吐出ノズルは、前記制御装置の制御に基づいて、移動するとともに樹脂系材料を吐出することにより、前記圧縮材で囲まれた引張材を形成するものである、
ことを特徴とする積層複合構造物の造形装置。
【請求項2】
前記セメント系材料を吐出する吐出ノズルは、吐出ノズルの進行方向に対して前側に位置し、
前記樹脂系材料を吐出する吐出ノズルは、吐出ノズルの進行方向に対して後側に位置する、
ことを特徴とする請求項1に記載の積層複合構造物の造形装置。
【請求項3】
複数の材料を積層して積層複合構造物を造形するための造形方法であって、
セメント系材料を吐出するノズルにより樹脂系材料を吐出する吐出ノズルを両側から挟み込むようにして、両ノズルから積層複合構造物を造形するための
セメント系材料と樹脂系材料とをそれぞれ同時に吐出しながら、
両吐出ノズルを一体に移動させ、
前記両吐出ノズルからの材料の吐出量及び前記
両吐出ノズルの移動を制御して、前記吐出ノズルから吐出するセメント系材料により圧縮材を形成し、
前記吐出ノズルから吐出する樹脂系材料により、前記圧縮材で囲まれた引張材を形成することにより、所望形状の積層構造物を形成する、
ことを特徴とする積層複合構造物の造形方法。
【請求項4】
前記セメント系材料を吐出する吐出ノズルを吐出ノズルの進行方向に対して前側に位置させるとともに、前記樹脂系材料を吐出する吐出ノズルを吐出ノズルの進行方向に対して後側に位置させることにより、先行して吐出した
セメント系材料を型枠として、後行して吐出した
樹脂系材料を支持する、
ことを特徴とする請求項3に記載の積層複合構造物の造形方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は積層複合構造物の造形装置及び造形方法に関するものであり、詳しくは、3Dプリント技術(3Dプリンタ)を用いて、積層複合構造物を造形するための装置及び方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、建設分野において、3Dプリント技術を用いて構造物を積層しながら造形する造形方法が開発されている。材料は基本的にセメント系材料を用い、ミキサーで練り上げたモルタルをポンプ圧送し、3次元造形装置に供給している。供給されたセメント系材料は3次元造形装置のノズル先端部から吐出され、あらかじめ読み込ませた構造物の3Dデータを積層造形するようにノズルがX・Y・Z方向に動くことで、構造物を造形する(例えば、特許文献1、特許文献2参照)。施工精度が高い構造物の造形には、主に自立性能が高い材料開発、ノズルの位置精度・速度、吐出量等の機械開発が要求され、また、様々な外力に対し、造形された構造物(構造形式)が十分な強度を発揮できるための構造性能が要求される。
【0003】
特許文献1に記載された技術は、構築物の構築方法に関するものであり、3次元構築物を構築する3Dプリンタを用いた技術である。この構築物の構築方法は、対象構築物の少なくとも一部の外枠に対応する形状を有する外枠部であって、中空空間部を囲繞する外枠部を構築する外枠部構築工程と、外枠部構築工程において構築した外枠部を補強する補強工程とを含んでいる。すなわち、まず初めに外枠部を構築し、後から補強芯材を挿入するようになっている。また、補強芯材にプレストレスを与えて、外枠部が硬化した後に緊張を開放するプレテンション方式を採用している。
【0004】
特許文献2に記載された技術は、セメント系材料を積層することにより積層構造を製造する方法に関するものである。この積層構造の製造方法では、セメント系材料の凝結時間を遅らせる凝結遅延性能を有する凝結遅延剤層をセメント系材料の層間に設けている。すなわち、セメント系材料の層間に凝結遅延剤を噴霧して凝結時間を遅らせることで、次層と一体化を図る方法である。
【0005】
また、現在、3Dプリンタの材料吐出口(以下、吐出ノズルという)は、基本的にモデル材料とサポート材料(造形終了後に除去)の2系統が採用されており、その吐出ノズルを制御しているヘッド部分は、吐出ノズルと1:1で対応するタイプと1つのヘッド内部に2つの吐出ノズルが固定されているタイプがある。両者ともにプログラムにより次に吐出する材料を選定し、ヘッドの動きを制御することで構造物を造形する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2015-186851号公報
【文献】特開2017-119360号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、特許文献1及び特許文献2に記載された技術を含めて、上述した従来の吐出ノズルでは、制御上の制約があり、モデル材およびサポート材を同時に吐出することはできない。このため、造形時間が非常に長くなるという問題があった。
【0008】
本発明は、上述した事情に鑑み提案されたもので、同時に複数の材料を吐出することが可能な吐出ノズル構造を採用するとともに、材料の吐出を適切に制御することにより、容易に積層複合構造物を造形可能な造形装置及び造形方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明に係る積層複合構造物の造形装置及び造形方法は、上述した目的を達成するため、以下の特徴点を有している。すなわち、本発明に係る積層複合構造物の造形装置は、複数の材料を積層して積層複合構造物を造形するための造形装置であって、積層複合構造物を造形するためのセメント系材料と樹脂系材料とをそれぞれ同時に吐出することが可能な複数の吐出ノズルと、各吐出ノズルを一体として移動させる移動装置と、所望形状の積層複合構造物を造形するために、各吐出ノズルからの各材料の吐出量及び移動装置による各吐出ノズルの移動を制御する制御装置とを備えており、各ノズルは、以下の特徴を備えている。
【0010】
なお、各吐出ノズルにおいて、複数の材料を同時に吐出させることが可能であるとは、必ずしも複数の材料のすべてを同時に吐出する場合だけではなく、例えば2つの材料を吐出させる場合に、いずれか1つの材料のみを吐出させる状態と、2つの材料を同時に吐出させる状態とを含むものである。
【0011】
セメント系材料を吐出する吐出ノズルは、樹脂系ノズルを両側から挟み込むように配設する。セメント系材料を吐出する吐出ノズルは、制御装置の制御に基づいて、移動するとともにセメント系材料を吐出することにより、圧縮材を形成するものである。また、樹脂系材料を吐出する吐出ノズルは、制御装置の制御に基づいて、移動するとともに樹脂系材料を吐出することにより、圧縮材で囲まれた引張材を形成するものである、
【0012】
このような構成の積層複合構造物の造形装置において、セメント系材料を吐出する吐出ノズルは、吐出ノズルの進行方向に対して前側に位置し、樹脂系材料を吐出する吐出ノズルは、吐出ノズルの進行方向に対して後側に位置する構成とすることが可能である。この際、樹脂系材料の吐出ノズルの両側にセメント系材料の吐出ノズルを配置して、セメント系材料の吐出ノズルで樹脂系材料の吐出ノズルを挟み込むようにする。
【0013】
そして、吐出ノズルの移動(進行)に伴い、セメント系材料および樹脂系材料を同時に吐出させると、セメント系材料で両側を囲まれた領域内に樹脂系材料が吐出されるので、セメント系材料で樹脂系材料を挟み込むことができる。
【0014】
本発明に係る積層複合構造物の造形方法は、複数の材料を積層して積層複合構造物を造形するための造形方法であって、セメント系材料を吐出するノズルにより樹脂系材料を吐出する吐出ノズルを両側から挟み込むようにして、両ノズルから積層複合構造物を造形するためのセメント系材料と樹脂系材料とをそれぞれ同時に吐出しながら、両吐出ノズルを一体に移動させる。そして、両吐出ノズルからの材料の吐出量及び両吐出ノズルの移動を制御して、吐出ノズルから吐出するセメント系材料により圧縮材を形成し、吐出ノズルから吐出する樹脂系材料により、圧縮材で囲まれた引張材を形成することにより、所望形状の積層構造物を形成すことを特徴とするものである。
【0015】
このような構成の積層複合構造物の造形方法において、セメント系材料を吐出する吐出ノズルを吐出ノズルの進行方向に対して前側に位置させるとともに、樹脂系材料を吐出する吐出ノズルを吐出ノズルの進行方向に対して後側に位置させることにより、先行して吐出したセメント系材料を型枠として、後行して吐出した樹脂系材料を支持することが可能である。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る積層複合構造物の造形装置及び造形方法によれば、複数の材料をそれぞれ同時に吐出することが可能な複数の吐出ノズルを一体に移動させて、各吐出ノズルからそれぞれ材料を吐出させるとともに、複数の材料の吐出制御を行っている。すなわち、造形する積層複合構造物の形状に合わせて、複数の材料を適宜吐出させることができるので、容易に積層複合構造物を造形することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明の実施形態に係る積層複合構造物の造形装置の装置構成を示すブロック図。
【
図7】積層複合構造物の造成例を示す斜視図及び引張材の一部拡大斜視図。
【
図8】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(1)。
【
図9】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(2)。
【
図10】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(3)。
【
図11】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(4)。
【
図12】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(5)。
【
図13】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(6)。
【
図14】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(7)。
【
図15】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(8)。
【
図16】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(9)。
【
図17】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(10)。
【
図18】積層複合構造物の造成手順を示す斜視図(11)。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る積層複合構造物の造形装置及び造形方法を説明する。
図1~
図18は、本発明の実施形態に係る積層複合構造物の造形装置及び造形方法を説明するもので、
図1は造形装置の装置構成を示すブロック図、
図2は吐出ノズルの斜視図、
図3は吐出ノズルの他の例を示す模式図、
図4はロボットアームを用いた造形装置の斜視図、
図5は門型クレーンを用いた造形装置の斜視図、
図6は積層複合構造物の造成例を示す断面模式図、
図7は積層複合構造物の造成例を示す斜視図及び引張材の一部拡大斜視図、
図8~
図18は積層複合構造物の造成手順を示す斜視図である。
【0019】
<積層複合構造物の造形装置及び造形方法の概要>
本発明の実施形態に係る積層複合構造物の造形装置及び造形方法は、複数の材料をそれぞれ同時に吐出することが可能な複数の吐出ノズルを一体に移動させて、各吐出ノズルからそれぞれ材料を吐出させるとともに、複数の材料の吐出制御を行うようになっている。この積層複合構造物の造形装置100は、
図1に示すように、主要な構成要素として、カートリッジ状となった複数の吐出ノズル10a~eと、移動装置20と、制御装置30とを備えている。また、
図5に示すように吐出ノズル10には、積層複合構造物を造形するための材料の供給装置11及び貯留装置12等の設備が接続されている。
【0020】
<吐出ノズル>
本実施形態に係る吐出ノズル10は、
図2及び
図3に示すように、セメント系材料を吐出する吐出ノズル10a、10eと、樹脂系ノズルを吐出する吐出ノズル10b~dとの2種類となっており、これらの吐出ノズル10a~eが一体に移動可能なカートリッジ状となっている。セメント系材料はモルタルであり、樹脂系材料はFRPである。上述したように、各吐出ノズル10a~eはカートリッジ状となっており、吐出ノズル10a~eを適宜組み合わせることにより、様々な断面形状に対応することができる。なお、
図2に示す吐出ノズル10a~eは、先端部が約90°屈曲しているが、先端部が屈曲していなくてもよいし、他の角度で屈曲させてもよいし、屈曲角度を調整可能としてもよい。また、吐出ノズル10a~eの向きは、縦向きであってもよいし、横向きであってもよい。
【0021】
また、各吐出ノズル10a~eは独立しているため、個別に各材料の吐出の有無や吐出量の調整を行うことができるとともに、各材料に合わせた機能(例えば、材料がFRPの場合の加熱機能)を設けることができる。すなわち、FRPは吐出直前で加熱が必要なため、カートリッジ自体に加熱装置(図示せず)を備えている。
【0022】
また、
図5に示すように、各吐出ノズル10には、それぞれ材料を供給するための供給装置11や材料の貯留装置12が接続されている。例えば、モルタルは圧送ポンプから分岐させて吐出ノズル10a、10eに圧送することができる。また、リール状のFRP材料を吐出ノズル10b~dに送りこんで、吐出ノズル10b~dの先端部において加熱してもよいし、ペレット状のFRP材料を加熱し溶解させ、溶解したFRP材料を圧送ポンプで吐出ノズル10b~dに送出してもよい。
【0023】
また、吐出ノズル10a~eから吐出させる材料は、セメント系材料(モルタル)や樹脂系材料(FRP)に限らず、3Dプリント技術を用いて造形可能な材料であれば、どのような材料であってもよい。
【0024】
<造形材料>
また、吐出ノズル10a、10eから吐出させるセメント系材料は、自立性およびチキソトロピー性が高い材料を用いることが好ましい。図示しないが、セメント系材料は、ミキサーに投入して練り混ぜを行った後、圧送ポンプに投入されて吐出ノズル10a、10eまで圧送される。圧送ポンプは、解砕羽でセメント系材料を撹拌することで、セメント系材料が硬化しない仕様とすることが好ましい。
【0025】
また、吐出ノズル10b~dから吐出させる樹脂系材料(FRP)は、熱可塑性樹脂(ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)、ポリスチレン(PS)、アクリルニトリル・ブタジエン・スチレン樹脂(ABS)、ナイロン、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリカーボネート(PC)、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等)を用いる。さらに、補強材料として樹脂内に短繊維(炭素繊維、ガラス繊維、アラミド繊維、天然繊維等)を練り込むことが好ましい。
【0026】
樹脂系材料(FRP)をリール状に巻き取り、直接ノズルに供給する(ノズルに熱を与え、溶融させながら吐出する)ようにしてもよいし、ペレット状として、圧送ポンプにおいて加熱しながら溶融させて撹拌するようにしてもよい。
【0027】
<移動装置>
移動装置20は、各吐出ノズル10a~eを一体として移動させるための装置であり、例えば、門型クレーンやロボットアーム等を用いることができる。なお、移動装置20は、各吐出ノズル10a~eを一体として移動させることができればどのような装置であってもよく、門型クレーンあるいはロボットアームを単独で用いてもよいし、両者を組み合わせて用いてもよいし、他の移動装置20を用いてもよい。
【0028】
<制御装置>
制御装置30は、所望形状の積層複合構造物を造形するために、各吐出ノズル10a~eからの各材料の吐出量及び移動装置20による各吐出ノズル10a~eの移動を制御するための装置である。この制御装置30は、プログラムに従って動作するコンピュータ及び各機器に対して制御信号を送信するとともに、各機器の状態を把握するための動作信号を受信するための送受信手段、各種のデータを記憶するための記憶手段、データの入出力を行う入力手段及び出力手段等、造形装置100をコンピュータ制御するための各種の装置が付帯している。
【0029】
<積層複合構造物の造形方法>
本発明の実施形態に係る積層複合構造物の造形方法は、上述した造形装置100を用いた3Dプリント技術により、複数の材料を積層して積層複合構造物を造形するための方法である。この造形方法は、複数の吐出ノズル10a~eから、積層複合構造物を造形するための複数の材料をそれぞれ同時に吐出しながら、複数の吐出ノズル10a~eを一体に移動させる工程と、各吐出ノズル10a~eからの材料の吐出量及び吐出ノズル10a~eの移動を制御して、所望形状の積層複合構造物を造形する工程とを含んでいる。
【0030】
また、
図3に示すように、吐出する材料に対応させて、吐出ノズル10a~eの進行方向に対する前後位置を異ならせることにより、先行して吐出した材料を型枠として、後行して吐出した材料を支持することができる。具体的には、
図3に示すように、吐出ノズル10a~eの進行方向に対して、モルタルの吐出ノズル10a、10eを
前側に配置するとともに、FRPの吐出ノズル10b~dを
後側に配置する。また、FRPの吐出ノズル10b~dの両側にモルタルの吐出ノズル10a、10eを配置して、モルタルの吐出ノズル10a、10eでFRPの吐出ノズル10b~dを挟み込む。
【0031】
このような態様の吐出ノズル10a~eを一体に移動(進行)させると、セメント系材料(モルタル40)および樹脂系材料(FRP50)が同時に吐出して、セメント系材料(モルタル40)で両側を囲まれた領域内に樹脂系材料(FRP50)が吐出されるので、セメント系材料(モルタル40)で樹脂系材料(FRP50)を挟み込むことができる。なお、吐出ノズル10a~eの配設位置は、造形する積層複合構造物や吐出する材料に応じて、適宜変更することができる。
【0032】
<セメント系材料と樹脂系材料による積層複合構造物の造成例>
図6(a)~(j)を参照して、モルタルを吐出する複数の吐出ノズル10a、10eとFRPを吐出する複数の吐出ノズル10b~dとを一体として移動させることにより、壁構造を造成する一実施例を説明する。本実施例では、モルタルを圧縮材として使用し、FRPを引張材として使用する。
【0033】
図6(a)~(j)に示すように、モルタルを吐出して圧縮材を造形し、圧縮材で囲むようにして断面略H字状のFRPを吐出して引張材を造形することにより、内部に断面略H字状の引張材を有する積層複合構造物の一単位を造成する。このようにして造成した一単位の構造物を積層することにより壁構造である積層複合構造物を造成する。なお、
図6(a)~(j)は、
図7における縦断面の模式図である。
【0034】
この際、FRP50は、
図7(a)、(b)に示すように、壁面に対して千鳥状となるように造形することが好ましい。すなわち、
図7(b)に示すように、壁面に対して千鳥状となるように、充実部51と空隙部52を連続して造形する。充実部51とは、角筒状となったFRP50の中央部を横断して架橋部が造形されることにより断面略H字状となった部分であり、空隙部52とは、角筒状となった引張部のみから造形されて架橋部を有しない部分のことである。このような構成とすることにより、FRP50(引張材)の空隙部52内にモルタル40(圧縮材)を充填することができ、モルタル40とFRP50とを強固に一体化することができる。
【0035】
<積層複合構造物の施工手順>
図8~
図18を参照して、積層複合構造物の施工手順の一実施例を説明する。なお、
図9、
図10、
図11において、(a)は全体図、(b)及び(c)は部分拡大図である。積層複合構造物を施工するには、1階部分の基礎梁とスラブ60を造成した後(
図8)、スラブ60上に1層目の補強材70(FRP)を造形するとともに、モルタルを用いて、1層目の外壁材80a及び内壁材80bを造形し(
図9(a)、(b))、1層目の外壁材80a及び内壁材80bの上部に2層目以上の補強材70を造形する(
図10(a)、(b)、(c))。なお、造形する積層複合構造物に対応させて、造形順序を変更することが可能であり、外壁材80a及び内壁材80bに対して、補強材70を先行して造形してもよいし、その逆の造形順序であってもよい。
【0036】
このように、順次、上層部に向かって補強材70、外壁材80a及び内壁材80bを造形する(
図9~
図11)。そして、このような手順を繰り返すことにより、窓枠90を避けた壁部を造形する(
図12)。続いて、窓枠90を設置した後、窓枠90上部の外壁材80a及び内壁材80b、補強材70を造成して1階部分の造成を完了する(
図13、
図14)。
【0037】
2階部分では、1階部分の上部にデッキスラブ110を設置し(
図15)、モルタル及びFRPを吐出して、1階部分の壁材を90°寝かせた態様で造形することにより、床スラブ120を造形する(
図16)。そして、1階部分と同様にして、2階部分の外壁材80a及び内壁材80b、補強材70、RFスラブ130を造形する(
図17)。続いて、RFスラブ130に防水処理を施すとともに仕上げ材140を施工する(
図18)。また、外壁部分に防水処理を施すとともに仕上げ材(図示せず)を施工する。その後、所定の管理項目に関する完成検査等を経て積層複合構造物が完成する。なお、上述した例では、2階建ての積層複合構造物を造形しているが、造形する積層複合構造物は1階建てであってもよいし、3階建て以上であってもよい。
【符号の説明】
【0038】
10(a~e) 吐出ノズル
11 供給装置
12 貯留装置
20 移動装置
21 門型クレーン
22 ロボットアーム
30 制御装置
40 モルタル(圧縮材)
50 FRP(引張材)
51 充実部
52 空隙部
60 スラブ
70 補強材
80a 外壁材
80b 内壁材
90 窓枠
100 造形装置
110 デッキスラブ
120 床スラブ
130 RFスラブ
140 仕上げ材