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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】音波発信器
(51)【国際特許分類】
   H04R 1/44 20060101AFI20220408BHJP
   H04R 15/00 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
H04R1/44 310
H04R15/00
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018007183
(22)【出願日】2018-01-19
(65)【公開番号】P2019126002
(43)【公開日】2019-07-25
【審査請求日】2020-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000206211
【氏名又は名称】大成建設株式会社
(72)【発明者】
【氏名】宮崎 裕道
(72)【発明者】
【氏名】木下 勇人
【審査官】中村 天真
(56)【参考文献】
【文献】特表2002-541697(JP,A)
【文献】特開2010-059676(JP,A)
【文献】特開平08-289387(JP,A)
【文献】特開平08-256394(JP,A)
【文献】特開平06-046493(JP,A)
【文献】特開昭57-205799(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 7/521
H01L 41/12
H04R 1/44
H04R 15/00-15/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
振動板と、
該振動板を振動可能に支持するとともに振動板を含む周壁で画成された自身内部の空隙部が液体で満たされる水密性の筐体と、
前記筐体内に設けられて前記振動板を振動させる発振器と、
前記筐体に付設されて筐体外部の液体の筐体内部への侵入を防止した状態で筐体外部の液圧に筐体内部の液圧を均衡させる圧力均衡手段と、を備える音波発信器であって、
前記圧力均衡手段は、前記筐体に付設されるシリンダと、該シリンダに収嵌されて筐体外部の液圧と筐体内部の液圧とを均衡させるように内外の圧力差に応じてスライド移動するピストンと、を有することを特徴とする音波発信器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水中や土中で音波を発信させる技術に係り、特に、高水圧下での使用に好適な音波発信器およびこれを備えるシールドマシンに関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、水中や土中では深度が深くなるほど外圧が増大する。そのため、この種の音波発信器の筐体内部が密閉構造であれば、音波発信器の振動板には、振動板の外側に、深度に応じた外圧が作用する。よって、音波を発生させるためには、振動板を内部から外部に向けて外圧を上回る力で押し出す必要があるため、深度に応じた大きな出力を要するという問題がある。
【0003】
ここで、大深度に対応した発生応力の大きな音波発信器として、特許文献1には、磁歪(じわい)により振動する超磁歪素子を使用することで深度に応じた大きな出力を得て、大深度に対応する技術が開示されている。また、特許文献2には、音波発信器の筐体に開口部を設け、外部の水を筐体内に出入り自在とすることで、振動板両面に作用する圧力差を打ち消す技術が開示されている。特許文献2記載の技術によれば、外圧の大きな大深度下でも音波を発信可能としている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2010-141540号公報
【文献】特開2010-182804号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1記載の技術のように、筐体内部への不純物の浸入を懸念して、筐体を単純に密閉する構造であると、筐体内外の圧力差により、振動板の振動が妨げられたり、音波発信器内部の素子が損傷したりするという問題がある。
一方、特許文献2記載の技術のように、筐体に開口部を設けて外部の水を筐体内に出入り自在とする構造は、土中の砂や石等の不純物が多い状況では、筐体内部への不純物の浸入により、音波発信器内部の素子が損傷したりする不具合が生じるおそれがある。
そこで、本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、大深度下で使用される場合であっても、信頼性の高い作動性および耐圧性を有するとともに小型化に好適な音波発信器およびこれを備えるシールドマシンを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明の一態様に係る音波発信器は、振動板と、該振動板を振動可能に支持するとともに振動板を含む周壁で画成された自身内部の空隙部が液体で満たされる水密性の筐体と、前記筐体内に設けられて前記振動板を振動させる発振器と、前記筐体に付設されて筐体外部の液体の筐体内部への侵入を防止した状態で筐体外部の液圧に筐体内部の液圧を均衡させる圧力均衡手段と、を備える音波発信器であって、前記圧力均衡手段は、前記筐体に付設されるシリンダと、該シリンダに収嵌されて筐体外部の液圧と筐体内部の液圧とを均衡させるように内外の圧力差に応じてスライド移動するピストンと、を有することを特徴とする。
【0007】
本発明の一態様に係る音波発信器によれば、自身内部の空隙部が液体で満たされた水密性の筐体を備え、この筐体に付設された圧力均衡手段により筐体内外の圧力を均衡させることで、振動板に作用する筐体内外の圧力差を打ち消して発振器内部の素子への外圧の作用を低減できる。そのため、素子を耐圧仕様とすることが不要となる。これにより、大深度下で使用される場合であっても、装置の大型化、高コスト化を抑えコンパクトな音波発信器により高水圧下で音波を発生させることができる。
【0008】
そして、この圧力均衡手段は、筐体外部の液体の筐体内部への侵入を防止した状態で筐体外部の液圧に筐体内部の液圧を均衡させるので、筐体外部の液体の筐体内部への侵入が防止されている。よって、土中の砂や石等の不純物が多い状況下であっても、筐体内部への不純物の浸入が防止される。よって、大深度下で使用される場合であっても、信頼性の高い作動性および耐圧性を有する。
また、本発明の一態様に係るシールドマシンによれば、本発明の一態様に係る音波発信器を備えるので、大深度下で使用される場合であっても、装備された音波発信器が小型化に好適であり、大深度下での信頼性の高い作動性および耐圧性を奏する。
【0009】
ここで、本発明の一態様に係る音波発信器において、前記圧力均衡手段は、前記筐体に付設されるシリンダと、該シリンダに収嵌されて筐体外部の液圧と筐体内部の液圧とを均衡させるように内外の圧力差に応じてスライド移動するピストンと、を有することは好ましい。
そして、前記圧力均衡手段は、前記振動板の振動に伴う前記ピストンの振動を防止する弾性部材を更に有することは好ましい。前記圧力均衡手段が、前記振動板の振動時における圧力均衡手段自体の振動を防止するダンパ手段を更に有することは好ましい。このような構成であれば、振動板の振動に伴う圧力均衡手段自体の振動を防止する上で好適である。
【発明の効果】
【0010】
上述のように、本発明によれば、大深度下で使用される場合であっても、筐体内部への不純物の浸入を防止しつつ音波発信器の筐体内部の圧力と外部との圧力を均衡させて、超磁歪素子等の発振器内部の素子の座屈を防止しつつ、比較的に小さな発生応力で音波を発信できる。よって、大深度下での信頼性の高い作動性および耐圧性を有するとともに、小型化に好適な音波発信器およびこれを備えるシールドマシンを提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の一態様に係る音波発信器の一実施形態の説明図であり、同図(a)は、軸線を含む断面を示し、(b)は(a)の右側面を示している。
図2図1の音波発信器に装着される圧力均衡プラグの部分の要部拡大図である。
図3図1の音波発信器を備えるシールドマシンによるトンネル掘削方法の模式的説明図である。
図4図1の音波発信器に装着される圧力均衡プラグの動作を説明する模式図((a)~(c))である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の一実施形態について、図面を適宜参照しつつ説明する。本実施形態の音波発信器は、大深度下での耐水圧性能を有するとともに小型化に好適なものである。
なお、図面は模式的なものである。そのため、厚みと平面寸法との関係、比率等は現実のものとは異なることに留意すべきであり、図面相互間においても互いの寸法の関係や比率が異なる部分が含まれている。また、以下に示す実施形態ないし変形例は、本発明の技術的思想を具体化するための装置や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造、配置等を下記の実施形態に特定するものではない。
【0013】
図1に示すように、この音波発信器10は、密封構造を有する水密性の筐体1と、この筐体1内に設けられて振動板2を振動させる発振器3と、を備える。筐体1は、円板状の底面部1aと、円筒状の側面を構成する円筒部1bと、を有する。この例では、筐体1の底面部1aと対向する開口側に円板状の振動板2が同軸上に装着されている。
底面部1aと円筒部1bとは相互にインロー嵌合されるとともに、底面部1aの外周面と円筒部1bの内周面との間が、Oリング34用いた封止部材により止水され、外部からの液体および不純物の内部への浸入が防止されている。振動板2は、円筒部1bの前側(同図(a)右側)に振動可能なように柔に支持され、振動板2を含む周壁で画成された自身内部に空隙部Eが形成されている。
【0014】
底面部1aの外側面には、円環状の支持フランジ5を介して支持パイプ4が同軸上に装着されている。支持フランジ5は、底面部1aの外側面に複数の固定ボルト32で固定されている。支持フランジ5の装着面と底面部1aの外側面との間はOリング35用いた封止部材により止水され、外部からの液体および不純物の内部への浸入が防止されている。なお、この例では、支持パイプ4と支持フランジ5との接続部には、その周囲を覆うようにMCナイロン製のカバー36で覆われている。
【0015】
発振器3は、振動板2により音波を発振させるために、磁歪(じわい)により振動する超磁歪アクチュエータであって、図示を省略する、柱状の超磁歪素子と、超磁歪素子の外部に配置されたコイルと、皿バネ等により構成される。コイルはエナメル線等により形成されているので、コイルとケーブル8との接続部分が防水されていれば、発振器3は、水中に置かれた状態であってもショートすることなく正常に動作する。
【0016】
本実施形態の発振器3は、超磁歪素子の変位方向が、筐体1の開口部(つまり振動板2の装着されている部分)と底面部1aとの対向方向に一致するように筐体1の内部の中心と同軸上に収められている。発振器3は、その基端面が複数の固定ボルト31によって底面部1aに固定され、円板状の振動板2の中心と同軸上に配置されている。
筐体1の底面部1aは、発振器3から導出された二本のケーブル8を筐体1の内部から外部に引き出す引き出し穴が形成されるとともに、それ以外の部分については筐体1が水中等の液中に置かれたときに、筐体1の外部の水等の液体が筐体1の内部に浸入することを防止している。
【0017】
二本のケーブル8は、発振器3を構成するコイルの両端それぞれに接続され、底面部1aを介して筐体1の外部に引き出されている。ケーブル8には電源が接続され、電源からケーブル8に電力が供給されると、発振器3の超磁歪アクチュエータが振動し、その振動により振動板2が振動して低周波数の音波を発信するようになっている。
【0018】
本実施形態では、振動板2の裏面中心には雌ねじが形成され、発振器3の出力端の先端には雄ねじが形成されており、発振器3の出力端が振動板2の裏面の雌ねじに螺合されて固定ナット33により固定されている。
なお、発振器3を構成する超磁歪アクチュエータの個数は1個に限定されない。例えば、複数の超磁歪アクチュエータが、超磁歪素子の変位方向が筐体1の開口部と底面部1aとの対向方向に一致するように筐体1に収められ、各超磁歪アクチュエータの出力端が振動板2と接続され、基端が底面部1aに支持された構成としてもよい。
【0019】
振動板2は、発振器3の振動に伴って振動し、低周波数の音波を発信する板であって、本実施形態では、2枚のパッキン6が振動板2の周縁部に形成された円環状の支持部を軸方向両側から挟んだ状態で筐体1の開口部に配置されている。振動板2の形状は、筐体1の開口部よりも小さい円板状である。
本実施形態のパッキン6は、同軸上に円環状に形成されたクッションゴムであって、軸方向内側の第一パッキン6aは、筐体1の側端部1dの内外径と同等の径を有し、軸方向外側の第二パッキン6bは、筐体1の側端部1dの外径と同等の径を有する。
【0020】
2枚のパッキン6は、振動板2に設けられている円環状の支持部と重なるように、筐体1の側端部2bとキャップ状の振動板保持ナット7とにより挟まれて柔に接続されている。パッキン6は、振動板2と側面部1bとの空間を埋め、筐体1の内部の空隙部Eは密閉状態となる。空隙部Eは、筐体内部と発振器3との間が水等の液体で満たされる。
パッキン6は、可撓性を有するものであれば、ゴム以外のパッキンに置き換えられてもよい。振動板2と筐体1の側端部2bとのクリアランスが適切に設けられると、音波発信器10が液中に配置された場合、音波発信器10の外部の液圧によるパッキン6の変形及び破損を防ぐことができる。クリアランスは、パッキン6の材質、厚み及び、音波発信器10の外部の液圧等の条件により適切に変更される。
【0021】
本実施形態の筐体1は、円筒部1bに対して、底面部1aの内面に接する位置に、二つの注排水ボルト26が、周方向に180度離隔した位置にOリングを介装した状態で着脱可能に装着されている。これにより、空隙部Eを液体で満たす際は、まず、上下の注排水ボルト26を取り外すとともに、振動板2を下方に向け底面部1aを上方に向けた姿勢とする。そして、一方の注排水ボルト26の装着穴から注水するとともに、他方の注排水ボルト26の装着穴から排気をする。
【0022】
次いで、他方の注排水ボルト26の装着穴から注液が排出されたら他方の注排水ボルト26を装着穴に装着し、さらに、その状態で引き続き一方の注排水ボルト26の装着穴からオーバーフローするまで注水を継続する。その後、一方の注排水ボルト26の装着穴から注液がオーバーフローしたら、筐体内部と発振器3との間が液体で満たされたと判断し、一方の注排水ボルト26を装着することにより、空隙部Eを液体によって満たすことができる。
これにより、この音波発信器10は、発振器3が振動板2を内面側から支持し、可撓性を有するパッキン6が振動板2及び側端部2bに介装された状態で接続しているので、振動板2は筐体1に拘束されることなく振動板2と筐体1とは相対的に変位し、大深度の水圧でも振動板2が振動可能になっている。
【0023】
ここで、この音波発信器10は、筐体1に付設されて筐体外部の液体の筐体内部への侵入を防止した状態で筐体1の外部の液圧と筐体1の内部の液圧とを均衡させる圧力均衡手段である圧力均衡プラグ20を備えている。
筐体1の円筒部1b側面には、圧力均衡プラグ20の装着部2cが径方向に沿って貫通形成されている。装着部2cの内周面には雌ねじが形成されている。圧力均衡プラグ20は、中空円筒状のシリンダ21を有し、このシリンダ21の外周面に形成された雄ねじが、装着部2cの雌ねじに螺合されている。圧力均衡プラグ20と筐体1の装着部1cとの間は、例えば液体パッキン材等を用いた不図示の封止部材により止水され、外部からの液体および不純物の内部への浸入が防止されている。
【0024】
詳しくは、圧力均衡プラグ20は、筐体1に付設される中空円筒状のシリンダ21と、シリンダ21内に収嵌された中実円筒状のピストン22と、を有する。シリンダ21の下部(空隙部Eの側)には、径方向内側に張り出すように円環状の係合部21tが形成されており、係合部21tの内径部分が、空隙部E内部側圧力の受容部になっている。
係合部21tの内径は、ピストン22の外径よりも小径とされ、内装されているピストン22は、係合部21tの上面よりも下方へのピストン22の移動が防止される。また、ピストン22の外周面の略中央には凹の円環状溝が形成され、この凹の円環状溝に装着されたOリング25によりシリンダ21の内周面との間が止水され、外部からの液体および不純物の内部への浸入が防止されている。
【0025】
シリンダ21の上部には、内周面に雌ねじが形成され、この雌ねじに対し、外周面に雄ねじが形成された円環状のキャップ23が、シリンダ21の上部側から装着されている。円環状のキャップ23の中央の貫通穴23hが外部の液を導入する導入口になっており、この貫通穴23hから導入された外部の液圧が、ピストン22の上面22mを、軸方向下方(空隙部Eの側)に向けて押圧するように構成されている。
これにより、圧力均衡プラグ20は、ピストン22の上面22mが押圧されると、筐体外部の液圧に筐体内部の液圧を均衡させるように(換言すれば、筐体外部の液圧と筐体内部の液圧とを同一にするように)、内外の圧力差に応じて、ピストン22が軸方向に沿ってスライド移動するようになっている。
【0026】
さらに、本実施形態の圧力均衡プラグ20は、振動板の振動に伴う圧力均衡手段自体の振動を防止する振動防止手段を有する。本実施形態の振動防止手段は、中実円筒状に形成された多孔質ゴム製の弾性部材24である。この弾性部材24は、ピストン22と同径に外径が形成されており、ピストン22のスライド移動方向に対向するようにシリンダ21内の空隙部E側を充填するように内装されている。
つまり、この圧力均衡プラグ20は、スライド移動するピストン22と、ピストン22の振動を防止する弾性部材24と、を同軸上に併設した二重構造になっている。シリンダ21の下部には、係合部21tの上面に弾性部材24下面が当接することにより、係合部21tの上面よりも下方への弾性部材24の移動が拘束されている。
【0027】
次に、上記音波発信器10を装備したシールドマシンによるトンネル掘削例について説明する。図3に示すように、音波発信器10は、地中施工時の位置検出に用いられる例であり、同図では、都市部Cにおいて、大深度地下UGでシールドマシン40により地中施工を行っているイメージを示している。
ここで、トンネル工事やボーリング工事等の地下構造物の施工では、地中での現在位置を正確に把握した上で、計画の線形に沿って施工を進行させる。地中での現在位置(計測点)を正確に検出する方法として、座標が既知である3点以上の受信点に対してシールドマシン等の掘進機に設けられた音波発信器10から音波を発信し、各受信点までの伝播時間を測定することにより掘進機の位置を算出する。
【0028】
すなわち、同図に示すように、このシールドマシン(掘進機)40には、バルクヘッド41の適所に、音波発信器10が装備された挿入装置50が配置され、この挿入装置50の備える押引手段による軸方向での前後作動により、音波発信器10を発信位置と、退避位置とに移動可能になっている。なお、挿入装置50については、周知技術(例えば特開2010-59676号公報参照)を採用できるので詳細な説明は省略する。
【0029】
本実施形態では、同図に示すように、シールドマシン40の内側から発振器10を切羽側に配置し、シールドマシン40の地中位置検出を行う。なお、本実施形態では、シールドマシン40に使用する例を示すが、例えばTBM(トンネルボーリングマシン)や推進機等に使用してもよく、本発明の音波発信器に適用する掘進機はシールドマシンに限定されない。
シールドマシン40は、掘削を行うカッタヘッド41と、カッタヘッド41の後方に位置されてシールドマシン40の内部の各種設備を防護するシールド部42と、を有する。シールド部42の前部分はバルクヘッド43により仕切られ、カッタヘッド41とバルクヘッド43との間に、カッタヘッド41により掘削された土砂が一時的に堆積されるチャンバ45が形成されている。
【0030】
バルクヘッド43には開口部44が形成され、挿入装置50により、シールド部42内から音波発信器10を切羽側に挿入可能に構成される。ここで、シールドマシン40の外側に設置される音波発信器10は、振動や衝撃に弱く、故障や破損する可能性があるところ、本実施形態では、挿入装置50がバルクヘッド43に固定され、地中位置検出時に、開口部44から切羽側に音波発信器10を挿入して計測後に回収するので、音波発信器10の故障や破損が防止される。
【0031】
都市部Cにおいては、所定の位置に受信ユニットが設置される。同図の例では、シールドマシン40による地中施工位置の前方の例えば25~100m程度離隔した位置において地上から竪穴65、75が穿孔される。そして、これら竪穴65、75内に、第一受信ユニット60は、3つの受信器61,62,63が装着されたケーブル64を垂下させ、第二受信ユニット70は、3つの受信器71,72,73が装着されたケーブル74を垂下させた状態で待機する。
【0032】
シールドマシン40の地中位置検出時は、まず、シールドマシン40による掘削を停止し、カッタヘッド41に形成された不図示のスリットまたは開口をバルクヘッド43の開口部44の位置に対応するようにカッタヘッド41の位置を調整する。次に、挿入装置50が備える圧力調整バルブを操作することにより管路内の圧力と切羽側の圧力差を同等にする。そして、押引手段により挿入管を切羽側に押し込むことで音波発信器10を切羽側に配置する。
【0033】
音波発信器10が所定の位置に配置されたら、音波発信器10を稼働して、音波発信器10による計測作業を実施する。第一受信ユニット60および第二受信ユニット70は、3つの受信器61,62,63、および3つの受信器71,72,73の座標が既知であるため、これら3点の受信点に対してシールドマシン40に設けられた音波発信器10から音波Sを発信し、各受信点までの伝播時間を測定することによりシールドマシン40の位置を算出できる。
計測後、押引手段を操作することにより音波発信器10をバルクヘッド43内に引き込んでからゲートを閉じ、挿入装置50が備えるドレンバルブを開いて管路内の水や土砂を排出する。音波発信器10は、挿入装置50が備える保護ケースにより保護されているため、掘削土砂内に挿入した際に音波発信器10に損傷が生じることが防止される。
【0034】
次に、上述した音波発信器10の作用効果について説明する。
上述したように、本実施形態の音波発信器10は、水密性の筐体1と、筐体1の底面部1aに支持された発振器3と、発振器3の先端に支持された振動板2と、筐体1と振動板2との間を柔に接続する可撓性を有する接続部であるパッキン6と、を備えるので、水中及び土中で効率よく音波を発信できる。
【0035】
特に、本実施形態の音波発信器10は、水密に画成された筐体1内の空隙部Eが液体で満たされ、発振器3は、超磁歪アクチュエータが駆動力の大きい超磁歪素子を有しているため、音波発信器10の振動板2は、大深度の水圧でも音波を発信できる。
つまり、発振器3を構成する超磁歪素子は、電磁コイルで駆動するため、低周波数の音波を発信できる。発振器3の超磁歪アクチュエータは、通常のアンプで動作させることができ、セラミック方式のような特殊な高電圧出力装置は不要である。また、発振器3を構成する超磁歪素子は駆動力が大きく、円筒部1bの直径等の筐体1のサイズに応じて筐体1の内部に収められるアクチュエータサイズを選定できる。また、構造がシンプルなので装置を小型化できる。
【0036】
よって、本実施形態の音波発信器10は、大深度下での信頼性の高い耐圧性を有し、大深度の水圧に耐えて所望の音波を発信できる。また、超磁歪素子の駆動力が大きいので音波発信器10を小型化できる。そして、この水中音波発信器10は、振動板2を含む周壁で画成された自身内部の空隙部Eが液体で満たされているので、空気室部分が存在しなくなるため、理論的には1万m以上の水深度でも正常に動作することができる。
【0037】
さらに、本実施形態の水中音波発信器10は、図4に示すように、筐体1に付設されて筐体1外部の水等の液体の筐体1内への侵入を防止した状態で筐体1外部の液圧に筐体1内部の液圧を均衡させる圧力均衡プラグ20を備えるので、同図(a)~(b)に示すように、振動板2は、大深度の水圧下であっても音波を安定した状態で発信できる。
つまり、この圧力均衡プラグ20は、同図(a)に示すように、筐体1外部の液圧が低い状態のときには、ピストン22の上面22mが押圧される力も弱いため、多孔質ゴム製の弾性部材24が伸長状態となり、シリンダ21内のピストン22のスライド位置も、内外の圧力が低圧に応じた筐体1外部寄りの低圧均衡位置に保持される。
【0038】
これに対し、同図(b)に示すように、大深度の水圧下にて、筐体1外部の液圧が高い状態のときは、筐体1外部の液圧によりピストン22の上面22mが押圧されると、筐体外部の液圧に筐体内部の液圧を均衡させるように(換言すれば、筐体外部の液圧と筐体内部の液圧とを同一にするように)、内外の圧力差に応じて、ピストン22が軸方向に沿って空隙部E内部側にスライド移動し、高圧に応じた筐体1内部寄りの高圧均衡位置に保持される。
【0039】
これにより、筐体1の内外の圧力を均衡させることで、振動板2に作用する筐体1内外の圧力差を打ち消して、発振器3の内部の素子への外圧の作用を低減できる。そのため、素子を耐圧仕様とすることが不要となる。よって、音波発信器10が大深度下で使用される場合であっても、装置の大型化、高コスト化を抑えコンパクトな構成により高水圧下で音波を発生させることができる。特に、ピストン22が軸方向に沿って空隙部E内をスライド移動する動作は、筐体外部の液体の筐体内部への侵入を防止した状態で行われるため、土中の砂や石等の不純物が多い状況下であっても、外部からの液体および不純物の内部への浸入が確実に防止できる。
【0040】
ここで、本実施形態の音波発信器10は、圧力均衡プラグ20により、音波発信器10内外の圧力を均衡させた状態で音波を発信した場合、図4(c)に示すように、発振器3の超磁歪アクチュエータに通電し、超磁歪素子が伸長して、超磁歪素子が振動板2を外側に押し出すことにより圧力波を発生させる。
このとき、同図に示すように、超磁歪素子の伸びた分だけ筐体1内部の空隙部Eの体積が増加することになる。筐体1内部の圧力は、上述した圧力均衡プラグ20の調圧作用により外圧と同等になっているものの、空隙部Eの体積の増加に伴って、筐体1内には負圧がかかる。そのため、圧力均衡プラグ20は、同図に示すように、筐体内外の圧力を均衡させるように、シリンダ21内部のピストン22が、筐体1の空隙部E側に引き込まれるように更にスライド移動する。
【0041】
このスライド移動により、音波発信器10からは、振動板2から発せられる音波の他に、圧力均衡プラグ20から、振動板2から発せられる音波とは逆位相の音波が発生することになる。そのため、この逆位相の音波が振動板2から発した音波を減衰させる懸念が生じる。
そこで、本実施形態では、振動板2の振動時における圧力均衡プラグ20内部のピストン22の振動を防止する振動防止手段として、シリンダ21内部に多孔質ゴム製の弾性部材24を内装した二重構造を設けているので、振動板2の振動時における圧力均衡手段自体の振動を防止し、圧力均衡プラグ20からの逆位相の音波の発生が防止される。なお、圧力均衡手段の固有振動数が、振動板2の発信する振動数から外れるように設けられていることは好ましく、本実施形態においても、圧力均衡プラグ20のピストン22の固有振動数は、振動板2の発信する振動数から外れるように設けられている。
【0042】
以上説明したように、この音波発信器10は、大深度下での信頼性の高い作動性および耐圧性を有するとともに小型化に好適である。なお、本発明に係る音波発信器は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しなければ種々の変形が可能である。
例えば、上記実施形態では、パッキン6は、本発明に係る音波発信器の接続部の一例であり、パッキン6は2枚用意されなくてもよい。例えば、1枚のパッキン6と二枚の振動板2とが重ね合わされ、パッキン6の外周が筐体1の円筒部1bに柔に接続されていてもよい。
【0043】
要するに、可撓性を有するパッキン6は、振動板2及び円筒部1b相互を柔に接続していればよい。パッキン6等による接続部は、振動板2と円筒部1bとの間を埋める、ゴム等の可撓性を有するものであって、振動板2及び円筒部1相互を柔に接続していれば、筐体1の上部での内部と外部とが遮断され、かつ、振動板2が筐体1に拘束されることなく振動することができる。
【符号の説明】
【0044】
1 筐体
1a 底面部
1b 円筒部
1c 装着部
1d (開口側の)側端部
2 振動板
3 発振器(超磁歪アクチュエータ)
4 支持パイプ
5 支持フランジ
6 パッキン
6a 第一パッキン
6b 第二パッキン
7 振動板保持ナット
8 ケーブル
9 Oリング
10 音波発信器
20 圧力均衡プラグ(圧力均衡手段)
21 シリンダ
22 ピストン
23 キャップ
24 弾性部材(多孔質ゴム)
25 Oリング
26 注排水ボルト
31 固定ボルト
32 固定ボルト
33 固定ナット
34 Oリング
35 Oリング
36 カバー
40 シールドマシン
41 バルクヘッド
50 挿入装置
60 第一受信ユニット
70 第二受信ユニット
E 空隙部
図1
図2
図3
図4