(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】積層体塗膜
(51)【国際特許分類】
B32B 27/18 20060101AFI20220408BHJP
B32B 27/30 20060101ALI20220408BHJP
B32B 27/00 20060101ALI20220408BHJP
C09D 127/12 20060101ALI20220408BHJP
C09D 133/00 20060101ALI20220408BHJP
C09D 183/04 20060101ALI20220408BHJP
C09D 127/16 20060101ALI20220408BHJP
C09D 127/18 20060101ALI20220408BHJP
C09D 127/20 20060101ALI20220408BHJP
C09D 151/06 20060101ALI20220408BHJP
C09D 183/10 20060101ALI20220408BHJP
C09D 1/00 20060101ALI20220408BHJP
E04F 13/02 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
B32B27/18 Z
B32B27/30 D
B32B27/30 A
B32B27/00 101
C09D127/12
C09D133/00
C09D183/04
C09D127/16
C09D127/18
C09D127/20
C09D151/06
C09D183/10
C09D1/00
E04F13/02 C
(21)【出願番号】P 2018069366
(22)【出願日】2018-03-30
【審査請求日】2021-01-08
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000002853
【氏名又は名称】ダイキン工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000914
【氏名又は名称】特許業務法人 安富国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】志知 哲也
(72)【発明者】
【氏名】柴山 匡俊
(72)【発明者】
【氏名】中村 陽子
(72)【発明者】
【氏名】石川 卓司
(72)【発明者】
【氏名】尾崎 秀典
(72)【発明者】
【氏名】井本 克彦
【審査官】小石 真弓
(56)【参考文献】
【文献】特開2019-055359(JP,A)
【文献】国際公開第2018/042804(WO,A1)
【文献】特開2011-156852(JP,A)
【文献】特開2010-167779(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C09D 1/00-201/00
E04F 13/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された光触媒層とからなる積層体塗膜であって、
中間層が、表面に無機高分子が偏析した粒子状の樹脂複合体を含み、
光触媒層が、光触媒粒子及び無機酸化物粒子を含
み、
前記樹脂複合体が、フルオロポリマー、(メタ)アクリルポリマー、及び、無機高分子を含む
ことを特徴とする積層体塗膜。
【請求項2】
前記樹脂複合体は、コアシェル構造を有する請求項1記載の積層体塗膜。
【請求項3】
前記樹脂複合体は、シェル部の厚みが5.0nm以上である請求項2記載の積層体塗膜。
【請求項4】
前記無機高分子は、ポリシロキサンである請求項1~
3のいずれかに記載の積層体塗膜。
【請求項5】
前記フルオロポリマーが、ビニリデンフルオライド単位と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種のフルオロオレフィン単位とを含む請求項
1~4のいずれかに記載の積層体塗膜。
【請求項6】
前記(メタ)アクリルポリマーが、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリルモノマー単位を含む請求項
1~
5のいずれかに記載の積層体塗膜。
【請求項7】
前記(メタ)アクリルポリマーが、フルオロポリマーを含む水性分散体中で、(メタ)アクリルモノマーをシード重合したものである請求項
1~
6のいずれかに記載の積層体塗膜。
【請求項8】
前記樹脂複合体が、シード重合して得られた(メタ)アクリルポリマーの存在下でシラノールを縮重合したものである請求項
7に記載の積層体塗膜。
【請求項9】
前記光触媒層が、1質量%を超え20質量%未満の光触媒粒子と、
70質量%を超え99質量%未満の無機酸化物粒子と、
0質量%以上10質量%未満の無機バインダーとを含む請求項1~
8のいずれかに記載の積層体塗膜。
【請求項10】
前記無機酸化物粒子が、50nm以下の平均粒径を有する請求項1~
9のいずれかに記載の積層体塗膜。
【請求項11】
外装材として使用される請求項1~
10のいずれかに記載の積層体塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、建築物等の外装材の用途に適した積層体塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化チタンなどの光触媒を利用した外装建材が、近年広く利用されている。光触媒が光エネルギーにより励起されて生じた活性種により、種々の有機物を分解したり、あるいは光触媒粒子を含む表面層が形成された部材表面を親水化して、表面に付着した汚れを容易に水で洗い流したりすることが可能となる。
【0003】
ところで、耐候性が高いことで知られるフッ素樹脂が建材によく利用されるが、光触媒との積層体塗膜の実現が困難で建築外装の使用に耐えないという問題があった。従来技術として、フッ素樹脂に光触媒材料を含む1コート塗膜が実現されている(例えば、特許文献2参照)。しかし、1コート塗膜では、最表面に光触媒材料が露出する割合が小さいという課題があり、これを解決するために最表面の光触媒材料の露出の割合を高める工夫がされている(特許文献3参照)。しかし、そういった工夫をしても、樹脂材料と一体となった光触媒材料では、親水性・有機物分解活性等の光触媒性能が十分に発揮されないという課題があった。
【0004】
1コート光触媒塗膜の課題を解決するために、有機材料の上に無機成分を主体とする光触媒層を形成する技術が知られている。有機材料の上に光触媒層を形成すると、光触媒活性により有機材料が酸化分解されあるいは劣化するという問題がある。この問題を解決するため、光触媒層と有機材料の基材との間にシリコーン変性樹脂等の酸化分解に対する耐性の高い中間層を設ける2コート塗膜を形成することで、下地の基材を光触媒作用による劣化から保護する技術が知られている(例えば、特許文献1(国際公開第97/00134号)参照)。
【0005】
2コート塗膜においても従来からフッ素樹脂を含む中間層は使われており、特許文献4では、光触媒に侵されにくい中間層としてポリテトラフルオロエチレンを用いている。しかし、ポリテトラフルオロエチレンは酸化分解はされないものの、光触媒層との密着性が低いため剥離しやすく、建築外装塗装としての実用に耐えないという課題があった。
【0006】
特許文献5ではフッ素樹脂を含む中間層と親水層の積層体塗膜を実現するために、中間層のフッ素樹脂にアクリル樹脂を複合化して、親水層にコロイダルシリカ等を使用して、親水化防汚塗膜を実現している。しかし、光触媒活性のないシリカ膜では汚染が徐々に進行するため高い防汚性を長期間維持することが難しいという問題があった。また、これを解消するために親水層として光触媒塗膜を用いると光触媒反応により中間層と光触媒層との密着性が低下し剥離してしまう。したがって、実用に供するためには、光触媒活性の低い光触媒塗膜としか組み合わせられず、高い防汚性を発揮できないという課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】国際公開第97/00134号
【文献】特開2016-204981号公報
【文献】特開2015-221567号公報
【文献】特開2000-006303号公報
【文献】特開2017-052277号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本開示は、光触媒層と中間層との密着性を長期間維持できる積層体塗膜を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本開示は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された光触媒層とからなる積層体塗膜であって、中間層が、表面に無機高分子が偏析した粒子状の樹脂複合体を含み、光触媒層が、光触媒粒子及び無機酸化物粒子を含むことを特徴とする積層体塗膜である。
【0010】
上記樹脂複合体は、コアシェル構造を有することが好ましい。
【0011】
上記樹脂複合体は、シェル部の厚みが5.0nm以上であることが好ましい。
【0012】
上記樹脂複合体は、フルオロポリマー、(メタ)アクリルポリマー、及び、無機高分子を含むことが好ましい。
【0013】
上記無機高分子は、ポリシロキサンであることが好ましい。
【0014】
上記フルオロポリマーは、ビニリデンフルオライド単位と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種のフルオロオレフィン単位とを含むことが好ましい。
【0015】
上記(メタ)アクリルポリマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリルモノマー単位を含むことが好ましい。
【0016】
上記(メタ)アクリルポリマーは、フルオロポリマーを含む水性分散体中で、(メタ)アクリルモノマーをシード重合したものであることが好ましい。
【0017】
上記樹脂複合体は、シード重合して得られた(メタ)アクリルポリマーの存在下でシラノールを縮重合したものであることが好ましい。
【0018】
上記光触媒層は、1質量%を超え20質量%未満の光触媒粒子と、70質量%を超え99質量%未満の無機酸化物粒子と、0質量%以上10質量%未満の無機バインダーとを含むことが好ましい。
【0019】
上記無機酸化物粒子は、50nm以下の平均粒径を有することが好ましい。
【0020】
本開示の積層体塗膜は、外装材として使用されることが好ましい。
【発明の効果】
【0021】
本開示の積層体塗膜は、中間層が特定の樹脂複合体を含むことにより、光触媒層と中間層との密着性を長期間維持できる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】比較例1で得られた積層体塗膜の中間層の断面二次電子像である。
【
図2】実施例1で得られた積層体塗膜の中間層の断面二次電子像である。
【
図3】比較例1で得られた積層体塗膜の中間層の断面反射電子像である。
【
図4】実施例1で得られた積層体塗膜の中間層の断面反射電子像である。
【
図5】比較例2で得られた積層体塗膜の耐候性試験後の塗膜表面のレーザー顕微鏡での観察結果である。
【
図6】実施例8で得られた積層体塗膜の耐候性試験後の塗膜表面のレーザー顕微鏡での観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本開示の積層体塗膜は、基材と、基材上に形成された中間層と、中間層上に形成された光触媒層とからなる積層体塗膜であって、中間層が、表面に無機高分子が偏析した粒子状の樹脂複合体を含み、光触媒層が、光触媒粒子及び無機酸化物粒子を含むことを特徴とする。
【0024】
中間層にフッ素樹脂を用い、光触媒層を積層させた2コート塗膜が検討されているが、特許文献1~5に記載の塗膜では、有機物分解性や防汚性を発現する強い光触媒活性と、数十年にわたる長期間の使用に耐える耐候性を両立することが困難であった。
本開示の積層体塗膜は、中間層が表面に無機高分子が偏析した粒子状の樹脂複合体を含むことにより、中間層と光触媒層との密着性を長期間維持できるため、強い光触媒活性と長期間の耐候性を両立した優れた積層体塗膜を実現でき、強い光触媒活性と長期間の耐候性を要求される用途に好適に適用できる。
【0025】
(基材)
本開示に用いる基材は、その上に中間層を形成可能な材料であれば無機材料、有機材料を問わず種々の材料であってよく、その形状も限定されない。材料の観点からみた基材の好ましい例としては、金属、セラミック、ガラス、プラスチック、ゴム、石、セメント、コンクリ-ト、繊維、布帛、木、紙、それらの組合せ、それらの積層体、それらの表面に少なくとも一層の被膜を有するものが挙げられる。用途の観点からみた基材の好ましい例としては、建材、建物外装、窓枠、窓ガラス、構造部材、乗物の外装及び塗装、機械装置や物品の外装、防塵カバー及び塗装、交通標識、各種表示装置、広告塔、道路用遮音壁、鉄道用遮音壁、橋梁、ガードレ-ルの外装及び塗装、トンネル内装及び塗装、碍子、太陽電池カバー、太陽熱温水器集熱カバー、ビニールハウス、車両用照明灯のカバー、屋外用照明器具、台及び上記物品表面に貼着させるためのフィルム、シート、シール等といった外装材全般が挙げられる。
【0026】
本開示の好ましい態様によれば、基材として、少なくともその表面が有機材料で形成された基材を用いることができ、基材全体が有機材料で構成されているもの、無機材料で構成された基材の表面が有機材料で被覆されたもの(例えば化粧板)のいずれをも包含する。
【0027】
(中間層)
本開示における中間層は、表面に無機高分子が偏析した粒子状の樹脂複合体を含む。これらの特徴によって、本開示における中間層は、光触媒層との長期間の密着性に優れる。上記樹脂複合体は、中間層と光触媒層との長期間の密着性がより優れる点から、凝集構造を形成していることが好ましい。
【0028】
上記樹脂複合体は、樹脂のコアと無機高分子のシェルとのコアシェル構造を有していることが好ましい。樹脂複合体は、シェル部の厚みが、5.0nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、15nm以上であることが更に好ましく、20nm以上であることが更により好ましい。シェル部の厚みの上限は、特に限定されないが、50nmであってよく、40nmであってもよい。なお、シェル部の厚みは、積層体塗膜からイオンミリング法で切り出した中間層の断面を電解放出型電子顕微鏡(加速電圧:3.0kV)の反射電子像により観察し、6万倍の視野に入る任意の10個の樹脂複合体のシェル部の厚みを測定した個数平均値として算出される。
【0029】
上記樹脂複合体は、フルオロポリマー、(メタ)アクリルポリマー、及び、無機高分子を含むことが好ましい。これらの特徴によって、基材との密着性、光触媒層との密着性に優れる中間層を形成することができる。また、フルオロポリマー、(メタ)アクリルポリマー及び無機高分子が有する特性が十分に発揮され、基材との密着性だけでなく、耐水性、耐溶剤性等にも優れる塗膜を形成することができる。
【0030】
上記フルオロポリマーは、フルオロオレフィン単位を含むことが好ましい。上記フルオロオレフィンとしては、例えば、テトラフルオロエチレン(TFE)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)(PAVE)、
【0031】
【0032】
などのパーフルオロオレフィン;クロロトリフルオロエチレン(CTFE)、フッ化ビニル(VF)、ビニリデンフルオライド(VdF)、トリフルオロエチレン、トリフルオロプロピレン、ヘキサフルオロイソブテン、2,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,3,3,3-テトラフルオロプロペン、1,1,3,3,3-ペンタフルオロプロペンなどの非パーフルオロオレフィンが挙げられる。パーフルオロ(アルキルビニルエーテル)としては、パーフルオロ(メチルビニルエーテル)(PMVE)、パーフルオロ(エチルビニルエーテル)(PEVE)、パーフルオロ(プロピルビニルエーテル)(PPVE)などが挙げられる。
【0033】
また、上記フルオロオレフィンとして、官能基含有フルオロオレフィンも使用できる。
上記官能基含有フルオロオレフィンとしては、例えば、一般式:
CX3
2=CX4-(Rf)m-Y1
(式中、Y1は-OH、-COOM2、-SO2F、-SO3M2(M2は水素原子、NH4基またはアルカリ金属)、カルボン酸塩、カルボキシエステル基、エポキシ基またはシアノ基;X3およびX4は同じかまたは異なりいずれも水素原子またはフッ素原子;Rfは炭素数1~40の2価の含フッ素アルキレン基若しくは含フッ素オキシアルキレン基、または炭素数2~40のエーテル結合を含有する2価の含フッ素アルキレン基若しくは含フッ素オキシアルキレン基;mは0または1)で示される化合物が挙げられる。
【0034】
なかでも、上記フルオロオレフィンとしては、フッ化ビニル、ビニリデンフルオライド、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、及び、クロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましい。
【0035】
また、上記フルオロオレフィンは、ビニリデンフルオライドと、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種と、であることがより好ましい。
【0036】
上記フルオロポリマーは、ビニリデンフルオライド単位と、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン及びクロロトリフルオロエチレンからなる群より選択される少なくとも1種のフルオロオレフィン単位とを含むことが好ましい。
【0037】
上記フルオロポリマーは、上記フルオロオレフィン単位の他に、フルオロオレフィンと共重合可能な非フッ素系単量体単位を含んでいてもよい。上記フルオロオレフィンと共重合可能な非フッ素系単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、イソブチレンなどのオレフィン類、ビニルエーテル系単量体、アリルエーテル系単量体、ビニルエステル系単量体、アクリル系単量体、メタクリル系単量体などが挙げられる。
【0038】
上記フルオロポリマーは、耐溶剤性、防汚性、及び、基材との密着性により一層優れる塗膜を形成することができることから、フルオロオレフィン単位として、ビニリデンフルオライド単位を含むことが好ましい。(メタ)アクリルポリマーとの相溶性の観点からは、フルオロポリマーは、ビニリデンフルオライド単位が、フルオロポリマーを構成する全重合単位に対して50モル%以上であることが好ましく、70モル%以上であることがより好ましく、95モル%以下であることが好ましい。
【0039】
フルオロポリマーとしては、VdF/TFE/CTFE共重合体、VdF/TFE共重合体、VdF/TFE/HFP共重合体、VdF/CTFE共重合体、VdF/HFP共重合体、及び、PVdFからなる群より選択される少なくとも1種であることが好ましく、VdF/TFE/CTFE=40~99/1~50/0~30(モル%)、VdF/TFE=50~99/1~50(モル%)、VdF/TFE/HFP=45~99/0~35/5~50(モル%)、VdF/CTFE=40~99/1~30(モル%)、及び、VdF/HFP=50~99/1~50(モル%)からなる群より選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
上記フルオロポリマーとしては、VdF/TFE/CTFE共重合体が特に好ましい。VdF/TFE/CTFE共重合体は、VdF/TFE/CTFE=40~99/1~50/1~30(モル%)がより好ましく、50~90/5~40/1~25 (モル%)が更に好ましく、60~90/5~30/5~20(モル%)が更により好ましい。
【0040】
(メタ)アクリルポリマーは、(メタ)アクリルモノマー単位を含む。上記(メタ)アクリルモノマーとしては、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル等が挙げられる。本明細書において、「(メタ)アクリル酸」はアクリル酸又はメタクリル酸を意味する。
上記(メタ)アクリルポリマーは、アクリル酸、アクリル酸エステル、メタクリル酸及びメタクリル酸エステルからなる群より選択される少なくとも1種のアクリルモノマー単位を含むことが好ましい。
【0041】
(メタ)アクリルポリマーは、耐溶剤性、防汚性、及び、基材との密着性により一層優れる塗膜を形成することができることから、アクリル酸エステル単位又はメタクリル酸エステル単位を含むことが好ましく、アクリル酸エステル単位及びメタクリル酸エステル単位を含むことがより好ましい。
【0042】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、アルキル基の炭素数が1~10のアクリル酸アルキルエステル、又は、アルキル基の炭素数が1~10のメタクリル酸アルキルエステルが好ましい。上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、たとえば、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、メチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、2-エチルヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルメタクリレートなどの(メタ)アクリル酸アルキルエステルが挙げられる。
【0043】
上記(メタ)アクリル酸エステルとしては、メチルメタクリレート、n-ブチルアクリレート、n-ブチルメタクリレート、2-エチルへキシルアクリレート、2-エチルへキシルメタクリレート、及び、シクロヘキシルメタクリレートからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
また、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(2-HEMA)、2-ヒドロキシエチルアクリレート(2-HEA)、3-ヒドロキシプロピルメタクリレート、3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-ヒドロキシプロピルメタクリレート、2-ヒドロキシプロピルアクリレート、4-ヒドロキシブチルアクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、2-ヒドロキシブチルアクリレート、2-ヒドロキシブチルメタクリレート、6-ヒドロキシヘキシルアクリレート、6-ヒドロキシヘキシルメタクリレート等の水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルが挙げられ、なかでも、2-HEMA及び2-HEAからなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。上記水酸基含有(メタ)アクリル酸エステル単位は、(メタ)アクリルポリマーを構成する全単量体単位に対して、0~20質量%であることが好ましい。
本明細書において、上記水酸基は、-OHで示される基であるが、カルボキシ基(-COOH)の一部を構成する水酸基を含まない。
【0044】
(メタ)アクリルポリマーは、加水分解性シリル基含有不飽和単量体単位を含むことが望ましい。これにより、水性分散体から得られる塗膜の耐溶剤性、防汚性、及び、基材との密着性をより一層優れるものとすることができる。
【0045】
上記加水分解性シリル基としては、一般式:
-SiX1
nX2
3-n(X1はC1-10のアルコキシ基、X2はH又はC1-10のアルキル基、nは1~3の整数を表す。)で示される基であることが好ましい。
塗膜の耐溶剤性向上の観点から上記加水分解性シリル基の反応性は高い方がよく、上記加水分解性シリル基は、-Si(OCH3)nX2
3-n又は-Si(OC2H5)nX2
3-nであることがより好ましく、-Si(OCH3)3又は-Si(OC2H5)3であることが更に好ましい。
【0046】
上記加水分解性シリル基含有不飽和単量体としては、
CH2=CHSi(OCH3)3、
CH2=CHSi(CH3)(OCH3)2、
CH2=C(CH3)Si(OCH3)3、
CH2=C(CH3)Si(CH3)(OCH3)2、
CH2=CHSi(OC2H5)3、
CH2=CHSi(OC3H7)3、
CH2=CHSi(OC4H9)3、
CH2=CHSi(OC6H13)3、
CH2=CHSi(OC8H17)3、
CH2=CHSi(OC10H21)3、
CH2=CHSi(OC12H25)3、
CH2=CHCOO(CH2)3Si(OCH3)3、
CH2=CHCOO(CH2)3Si(CH3)(OCH3)2、
CH2=CHCOO(CH2)3Si(OC2H5)3、
CH2=CHCOO(CH2)3Si(CH3)(OC2H5)2、
CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(OCH3)3、
CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(CH3)(OCH3)2、
CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(OC2H5)3、
CH2=C(CH3)COO(CH2)3Si(CH3)(OC2H5)2、
CH2=C(CH3)COO(CH2)2O(CH2)3Si(OCH3)3、
CH2=C(CH3)COO(CH2)2(CH2)3Si(CH3)(OCH3)2、
CH2=C(CH3)COO(CH2)11Si(OCH3)3、
CH2=C(CH3)COO(CH2)11Si(CH3)(OCH3)2、
CH2=CHCH2OCO(o-C6H4)COO(CH2)3Si(OCH3)3、
CH2=CHCH2OCO(o-C6H4)COO(CH2)3Si(CH3)(OCH3)2、
CH2=CH(CH2)4Si(OCH3)3、
CH2=CH(CH2)8Si(OCH3)3、
CH2=CHO(CH2)3Si(OCH3)3、
CH2=CHCH2O(CH2)3Si(OCH3)3、
CH2=CHCH2OCO(CH2)10Si(OCH3)3
等が挙げられる。
【0047】
上記加水分解性シリル基含有不飽和単量体単位は、耐溶剤性、防汚性、及び、基材との密着性により一層優れる塗膜を形成することができることから、フルオロポリマー及び(メタ)アクリルポリマーを構成する全単量体単位に対して、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。5質量%以下が好ましく、3質量%以下がより好ましい。上記加水分解性シリル基含有不飽和単量体単位は、多すぎると塗膜の透明性を損なうおそれがあり、少なすぎると塗膜の耐溶剤性、基材密着性を損なうおそれがある。
(メタ)アクリルポリマーは、水性分散体の長期安定性の観点から、カルボキシ基などの不飽和カルボン酸単位を含んでもよい。
上記不飽和カルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、桂皮酸、3-アリルオキシプロピオン酸、3-(2-アリロキシエトキシカルボニル)プロピオン酸、イタコン酸、イタコン酸モノエステル、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、マレイン酸無水物、フマル酸、フマル酸モノエステル、フタル酸ビニル、ピロメリット酸ビニル、ウンデシレン酸などがあげられる。なかでも、カルボキシル基の導入を制御しやすい点から、アクリル酸、メタクリル酸、ビニル酢酸、クロトン酸、イタコン酸、マレイン酸、マレイン酸モノエステル、フマル酸、フマル酸モノエステル、3-アリルオキシプロピオン酸、及び、ウンデシレン酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
さらに好ましくは、アクリル酸、メタクリル酸からなる群より選択される少なくとも1種が好ましい。
【0048】
上記樹脂複合体は、無機高分子を含む。上記無機高分子は、骨格が無機元素の酸化物で形成される高分子である。このような無機元素としては、シリコン(Si)、チタン(Ti)、アルミニウム(Al)、ジルコニウム(Zr)等が挙げられる。無機元素としてはSiが好ましい。上記無機高分子としてはポリシロキサンがより好ましい。
【0049】
上記ポリシロキサンとしては、例えば、下記一般式(3-1)で表されるオルガノシランの加水分解物の重縮合物が挙げられる。
【0050】
【0051】
(式中、R1は炭素数1~8の1価の有機基を示し、2個存在するR1は相互に同一でも異なってもよく、R2は炭素数1~5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基または炭素数1~6のアシル基を示し、2個存在するR2は相互に同一でも異なってもよく、nは0~2の整数である。)からなる。
【0052】
一般式(3-1)において、R1の炭素数1~8の1価の有機基としては、例えば、フェニル基;メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、i-ブチル基、sec-ブチル基、t-ブチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、2-エチルヘキシル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の直鎖状、分岐状もしくは環状のアルキル基;アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、ベンゾイル基、トリオイル基、カプロイル基等のアシル基;ビニル基、アリル基等のアルケニル基や、これらの基の置換誘導体のほか、エポキシ基、グリシジル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ウレイド基、アミド基、フルオロアセトアミド基、イソシアナート基等を挙げることができる。
【0053】
R1の前記置換誘導体における置換基としては、例えば、ハロゲン原子、置換もしくは非置換のアミノ基、水酸基、メルカプト基、イソシアナート基、グリシドキシ基、3,4-エポキシシクロヘキシル基、(メタ)アクリロイルオキシ基、ウレイド基、アンモニウム塩基等を挙げることができる。但し、これらの置換誘導体からなるR1の合計炭素数は、置換基中の炭素原子を含めて8以下である。
【0054】
また、R2の炭素数1~5の直鎖状もしくは分岐状のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、i-プロピル基、n-ブチル基、sec-ブチル基、
t-ブチル基、n-ペンチル基等を挙げることができ、炭素数1~6のアシル基としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基、バレリル基、カプロイル基等を挙げることができる。
【0055】
上記オルガノシランの具体例としては、テトラメトキシシラン、テトラエトキシシラン、テトラ-n-プロポキシシラン、テトラ-i-プロポキシシラン、テトラ-n-ブトキシシラン等のテトラアルコキシシラン類;メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシラン、エチルトリメトキシシラン、エチルトリエトキシシラン、n-プロピルトリメトキシシラン、n-プロピルトリエトキシシラン、i-プロピルトリメトキシシラン、i-プロピルトリエトキシシラン、n-ブチルトリメトキシシラン、n-ブチルトリエトキシシラン、n-ペンチルトリメトキシシラン、n-ヘキシルトリメトキシシラン、n-ヘプチルトリメトキシシラン、n-オクチルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、シクロヘキシルトリメトキシシラン、シクロヘキシルトリエトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、フェニルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシラン、3-クロロプロピルトリエトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリメトキシシラン、3,3,3-トリフルオロプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシラン、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、2-ヒドロキシエチルトリメトキシシラン、2-ヒドロキシエチルトリエトキシシラン、2-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、2-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリメトキシシラン、3-ヒドロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリエトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリメトキシシラン、3-イソシアナートプロピルトリエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリエトキシシラン、3-(メタ)アクリロイルオキシプロピルトリメトキシシラン、3-(メタ)アタクリロイルオキシプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン等のトリアルコキシシラン類;
【0056】
ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシラン、ジエチルジメトキシシラン、ジエチルジエトキシシラン、ジ-n-プロピルジメトキシシラン、ジ-n-プロピルジエトキシシラン、ジ-i-プロピルジメトキシシラン、ジ-i-プロピルジエトキシシラン、ジ-n-ブチルジメトキシシラン、ジ-n-ブチルジエトキシシラン、ジ-n-ペンチルジメトキシシラン、ジ-n-ペンチルジエトキシシラン、ジ-n-ヘキシルジメトキシシラン、ジ-n-ヘキシルジエトキシシラン、ジ-n-ヘプチルジメトキシシラン、ジ-n-ヘプチルジエトキシシラン、ジ-n-オクチルジメトキシシラン、ジ-n-オクチルジエトキシシラン、ジ-n-シクロヘキシルジメトキシシラン、ジ-n-シクロヘキシルジエトキシシラン、ジフェニルジメトキシシラン、ジフェニルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルジメトキシメチルシラン、3-グリシドキシプロピルジエトキシメチルシラン等のジアルコキシシラン類のほか、メチルトリアセチルオキシシラン、ジメチルジアセチルオキシシラン等を挙げることができる。
【0057】
これらのオルガノシランの中でも、テトラアルコキシシラン類、トリアルコキシシラン類、ジアルコキシシラン類が好ましい。また、テトラアルコキシシラン類としては、テトラエトキシシランが好ましく、トリアルコキシシラン類としては、メチルトリメトキシシラン、メチルトリエトキシシランが好ましく、ジアルコキシシラン類としては、ジメチルジメトキシシラン、ジメチルジエトキシシランが好ましい。
上記オルガノシランは、単独でまたは2種以上を混合して使用することができる。
【0058】
上記オルガノシランの加水分解物は、オルガノシラン中のSi-OR2基が加水分解して、シラノール(Si-OH)基を形成したものであるが、ここでは、オルガノシランが有するOR2基のすべてが加水分解されている必要はない。
また、上記オルガノシランの加水分解物の重縮合物は、該加水分解物中のシラノール基が縮合してシロキサン(Si-O-Si)結合を形成したものであるが、これらの基がすべて縮合している必要はなく、一部の基のみが縮合したものであってもよい。
【0059】
上記オルガノシランの重縮合物は、トリアルコキシシラン類のみであってもよいし、トリアルコキシシラン類40~99モル%とテトラアルコキシシラン類60~1モル%との組み合わせから得られるものであってもよい。この割合でトリアルコキシシランとテトラアルコキシシラン類とを用いることにより、耐候性を向上させることができる。更に、ジアルコキシシラン類を0~55モル%の割合で含有してもよい。
【0060】
上記樹脂複合体は、フルオロポリマーと(メタ)アクリルポリマーと無機高分子との質量比(A/B/C)が80~20/80~20/20~0.1であることが好ましく、70~30/70~30/15~1であることがより好ましく、65~35/65~35/10~2であることが更に好ましい。質量比(A/B/C)が上記範囲内にあると、耐溶剤性、防汚性、及び、基材との密着性により一層優れる塗膜を形成することができる。無機高分子が多すぎると塗膜がもろくなるおそれがあり、少な過ぎると光触媒層との密着性が悪くなるおそれがある。
【0061】
上記樹脂複合体は、例えば、フルオロポリマーを含む水性分散体中で、(メタ)アクリルモノマーをシード重合するシード重合工程、及び、シード重合して得られたアクリルポリマーの存在下でシラノールを縮重合する縮重合工程を含む方法によって好適に製造することができる。
【0062】
上記シード重合工程により、フルオロポリマーと(メタ)アクリルポリマーを含む粒子を含む分散体を得ることができる。
上記シード重合工程は、フルオロポリマーを含む水性分散体中に、(メタ)アクリルモノマー及び必要に応じて他のモノマーを添加して行うことができる。例えば、フルオロポリマーを含む水性分散体に、(メタ)アクリルモノマー、界面活性剤及び水を含む乳化液を滴下して行う方法が挙げられる。
上記水性分散体は、水を含む。水に加えて、アルコール、グリコールエーテル、エステル等の有機溶媒を含有してもよい。
【0063】
上記シード重合は、非反応性アニオン界面活性剤、反応性アニオン界面活性剤、非反応性ノニオン界面活性剤、反応性ノニオン界面活性剤等の存在下に実施することが好ましい。
上記シード重合は、反応性アニオン界面活性剤及び反応性ノニオン界面活性剤からなる群より選択される少なくとも1種の存在下に実施することが好ましく、反応性アニオン界面活性剤の存在下に実施することがより好ましい。反応性アニオン界面活性剤としては、反応基がアリル系またはアクリル系が例示でき、アリル系が好ましい。
【0064】
上記シード重合において、上記反応性アニオン界面活性剤の添加量は、上記シード粒子100質量部に対し、0.1~50質量部が好ましく、0.5質量部以上がより好ましく、1質量部以上が更に好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下が更に好ましい。
【0065】
上記縮重合工程は、シード重合して得られた、フルオロポリマー及びアクリルポリマーを含む水性分散体に、オルガノシランを添加することで実施することができる。
オルガノシランは、水性分散体中で加水分解されてシラノール化合物となり、該シラノール化合物が縮重合することとなる。
【0066】
上記縮重合工程は、フルオロポリマー及びアクリルポリマーの合計100質量%に対し、0.5~20質量%のオルガノシランを添加することが好ましい。より好ましくは、上記添加量は2.5~10質量%である。
【0067】
上記製造方法は、フルオロオレフィンを水性分散重合して、フルオロポリマーを含む水性分散体を得る工程を含んでもよい。すなわち、本開示の製造方法は、フルオロオレフィンを水性分散重合して、フルオロポリマーを含む水性分散体を得る工程、フルオロポリマーを含む水性分散体中で、(メタ)アクリルモノマーをシード重合するシード重合工程、及び、シード重合して得られた(メタ)アクリルポリマーの存在下でシラノールを縮重合する縮重合工程を含むことも好ましい。
【0068】
上記水性分散重合において、上記水性分散体は水を含む。水に加えて、アルコール、グリコールエーテル、エステル等の有機溶媒を含有してもよい。
【0069】
上記水性分散重合は、所望により、非反応性アニオン界面活性剤、反応性アニオン界面活性剤、非反応性ノニオン界面活性剤、反応性ノニオン界面活性剤等の存在下に実施することもできる。これらの界面活性剤は、シード重合工程で例示したものを好適に使用できる。
【0070】
上記水性分散体は、必要に応じ、pH調整剤、造膜助剤、消泡剤等を添加してよい。
上記pH調整剤としては、アンモニア水やアミン類が挙げられる。上記造膜助剤としては、市販の各種造膜補助剤を使用することができる。具体的には、ジプロピレングリコール-n-ブチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールモノ2-エチルヘキシルエーテル、アジピン酸ジエチル、ブチルカルビトールアセテート、2,2,4-トリメチルペンタン-1,3-ジオールモノイソブチレート等の多価アルコールアルキルエーテルや有機酸エステル等が挙げられるが、これに限定されるものではない。上記消泡剤としては、シリコーン系消泡剤や界面活性剤,ポリエーテル,高級アルコールなどの有機系消泡剤などが挙げられる。
【0071】
中間層は、1~200μmの膜厚を有することが好ましく、1~100μmの膜厚を有することがより好ましく、5~50μmの膜厚を有することが更に好ましく、5~30μmであることが更により好ましい。
【0072】
(光触媒層)
本開示における光触媒層は、光触媒粒子及び無機酸化物粒子を含む。
【0073】
光触媒粒子は、光触媒活性を有する粒子であれば特に限定されず、あらゆる種類の光触媒の粒子が使用可能である。光触媒粒子の例としては、酸化チタン(TiO2)、ZnO、SnO2、SrTiO3、WO3、Bi2O3、Fe2O3のような金属酸化物の粒子が挙げられ、好ましくは酸化チタン粒子、より好ましくはアナターゼ型酸化チタン粒子である。酸化チタンは、無害で、化学的にも安定で、かつ、安価に入手可能である。また、酸化チタンはバンドギャップエネルギーが高く、従って、光励起には紫外線を必要とし、光励起の過程で可視光を吸収しないので、補色成分による発色が起こらない。酸化チタンは、粉末状、ゾル状、溶液状など様々な形態で入手可能であるが、光触媒活性を示すものであれば、いずれの形態でも使用可能である。本開示の好ましい態様によれば、光触媒粒子が10nm以上100nm以下の平均粒径を有するのが好ましく、より好ましくは10nm以上60nm以下である。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も良いが、略円形や楕円形でも良く、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。この範囲内であると、耐候性、有害ガス分解性、および所望の各種被膜特性(紫外線吸収性、透明性、膜強度等)が効率良く発揮される。また、ゾル状で市販されている光触媒を用い、粒子径を30nm以下、好ましくは20nm以下にすることによって、とりわけ透明性が良好な光触媒層を得ることもできる。
【0074】
光触媒粒子の含有量は、1質量%を超え20質量%未満が好ましく、より好ましくは5質量%以上15質量%以下であり、更に好ましくは5質量%以上10質量%以下である。このように光触媒粒子の配合割合を少なくすることで、光触媒粒子の基材との直接的な接触をできるだけ少なくして、基材(特に有機材料)に対する浸食を防止することができ、耐候性も向上すると考えられる。それにもかかわらず、有害ガス分解性や紫外線吸収性といった光触媒活性に起因する機能も十分に発揮させることができる。
【0075】
本開示の好ましい態様によれば、さらに高い光触媒能を発現するために、チタニアとバナジウム、鉄、コバルト、ニッケル、パラジウム、亜鉛、ルテニウム、ロジウム、銅、銀、白金および金からなる群より選ばれる少なくとも一種の金属および/またはその金属からなる金属化合物を光触媒層および光触媒コーティング液に添加することができる。この添加は、光触媒と前記金属または金属化合物が共存する溶液をそのまま添加する方法、および光触媒酸化還元作用を利用して光触媒上に前記金属または金属化合物を担持する方法のいずれの方法によっても行うことができる。
【0076】
無機酸化物粒子は、光触媒粒子と共に層を形成可能な無機酸化物の粒子であれば特に限定されず、あらゆる種類の無機酸化物の粒子が使用可能である。そのような無機酸化物粒子の例としては、シリカ、アルミナ、ジルコニア、セリア、イットリア、ボロニア、マグネシア、カルシア、フェライト、無定型チタニア、ハフニア等の単一酸化物の粒子;およびチタン酸バリウム、ケイ酸カルシウム等の複合酸化物の粒子が挙げられ、より好ましくはシリカ粒子である。これら無機酸化物粒子は、水を分散媒とした水性コロイド;またはエチルアルコール、イソプロピルアルコール、もしくはエチレングリコールなどの親水性溶媒にコロイド状に分散させたオルガノゾルの形態であるのが好ましく、特に好ましくはコロイダルシリカである。
【0077】
本開示の好ましい態様によれば、前記無機酸化物粒子が50nm以下の平均粒径を有するのが好ましい。この範囲であることにより中間層との十分な密着性を確保することができる。より好ましくは5~25nmであり、更に好ましくは10~25nmである。なお、この平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。粒子の形状としては真球が最も良いが、略円形や楕円形でも良く、その場合の粒子の長さは((長径+短径)/2)として略算出される。この範囲内であると、耐候性、有害ガス分解性、および所望の各種被膜特性(紫外線吸収性、透明性、膜強度等)が効率良く発揮される。とりわけ透明で密着性が良好な光触媒層を得ることができる。
【0078】
無機酸化物粒子の含有量は、70質量%を超え99質量%未満が好ましく、より好ましくは75質量%を超え95質量%以下であり、更に好ましくは80質量%を超え95質量%以下であり、更により好ましくは85質量%以上95質量%以下、殊更に好ましくは90質量%以上95質量%以下である。
【0079】
本開示における光触媒層は、光触媒粒子及び無機酸化物粒子以外に、無機バインダーを含んでも良い。無機バインダーとしては、例えば、親水性無機非晶質物質等を挙げることができる。その例としては、アルカリ珪酸塩、アルカリホウ珪酸塩、アルカリジルコン酸塩、およびアルカリリン酸塩等のリン酸金属塩からなる群から選択される一種以上を含んでなるものが挙げられる。これらの物質は、光触媒粒子及び無機酸化物粒子を接着、固定化する働きを有し、その結果、中間層と光触媒層との密着性を高める効果を奏する。更に、水の存在により容易に化学吸着水層を形成し、高度かつ長期的にわたって親水性を呈すことができる。これらの中でもアルカリ珪酸塩が好ましく、より好ましくは、珪酸ナトリウム、珪酸カリウム、珪酸リチウム、珪酸アンモニウムの少なくとも1つ以上が挙げられる。一般に接着性は珪酸ナトリウム、珪酸カリウムの順に強く、耐水性は珪酸アンモニウム、珪酸リチウムの順に強いと考えられるが、被膜性、膜硬度、耐水性等を考慮すると珪酸リチウムを含むのがより好ましい。
【0080】
本開示における光触媒層は、1質量%を超え20質量%未満の光触媒粒子と、70質量%を超え99質量%未満の無機酸化物粒子と、0質量%以上10質量%未満の無機バインダーとを含むことが好ましく、5~15質量%の光触媒粒子と、75~95質量%の無機酸化物粒子と、0~5質量%の無機バインダーとを含むことがより好ましい。
【0081】
本開示における光触媒層は、光触媒粒子、無機酸化物粒子、任意成分としての無機バインダーおよび任意成分としての界面活性剤を溶媒中に分散または溶解されてなる光触媒層用コーティング組成物を基材上に塗布することによって形成されることができる。
【0082】
上記光触媒層用コーティング組成物には任意成分として界面活性剤を含んでよい。上記界面活性剤は、0質量%以上10質量%未満で光触媒層に含有されていてもよく、好ましくは0質量%以上8質量%以下であり、より好ましくは0質量%以上6質量%以下である。界面活性剤の効果の1つとして中間層へのレベリング性があり、光触媒層用コーティング組成物と中間層との組合せによって界面活性剤の量を適宜決めれば良く、その際の下限値は0.1質量%とされてよい。この界面活性剤は光触媒層用コーティング組成物の濡れ性を改善するために有効な成分であるが、塗布後に形成される光触媒層にあってはもはや本開示の積層体塗膜の効果には寄与しない不可避不純物に相当する。したがって、光触媒層用コーティング組成物に要求される濡れ性に応じて、上記含有量範囲内において使用されてよく、濡れ性を問題にしないのであれば界面活性剤は実質的にあるいは一切含まなくてよい。使用すべき界面活性剤は、光触媒や無機酸化物粒子の分散安定性、中間層上に塗布した際の濡れ性を勘案し適宜選択されることができるが、非イオン性界面活性剤が好ましく、より好ましくは、エーテル型非イオン性界面活性剤、エステル型非イオン性界面活性剤、ポリアルキレングリコール非イオン性界面活性剤、フッ素系非イオン性界面活性剤、シリコーン系非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0083】
本開示の好ましい態様によれば、光触媒層は0.3μm以上3.0μm以下の膜厚を有するのが好ましく、より好ましくは0.5μm以上1.5μm以下である。このような範囲内であると、光触媒層と中間層の界面に到達する紫外線が充分に減衰されるので耐候性が向上する。また、無機酸化物粒子よりも含有比率が低い光触媒粒子を膜厚方向に増加させることができるので、有害ガス分解性も向上する。さらには、紫外線吸収性、透明性、膜強度においても優れた特性が得られる。また、光触媒粒子及び無機酸化物粒子による光散乱が小さいため、光触媒層の白濁が少なく外観に優れる。
【0084】
(製造方法)
本開示の積層体塗膜は、粒子状の樹脂複合体を含む中間層用コーティング組成物を基材上に塗布した後、得られた中間層塗布体の基材とは反対の面に、光触媒粒子及び無機酸化物粒子を含む光触媒層用コーティング組成物を塗布することにより簡単に製造することができる。中間層用コーティング組成物は、必要に応じて、硬化剤、顔料、充填剤、増粘剤等を含んでいてもよい。中間層用コーティング組成物及び光触媒層用コーティング組成物の塗装方法は、刷毛塗り、ローラー、スプレー、ロールコーター、フローコーター、ディップコート、流し塗り、スクリーン印刷、電着、蒸着等、一般に広く行われている方法を利用できる。中間層用コーティング組成物の塗布後及び光触媒層用コーティング組成物の塗布後は、常温乾燥させればよく、あるいは必要に応じて加熱乾燥してもよい。
【実施例】
【0085】
本開示の積層体塗膜を以下の例に基づいて具体的に説明するが、本開示の積層体塗膜はこれらの例に限定されるものではない。
なお、以下の例において中間層用コーティング組成物及び光触媒層用コーティング組成物の作製に使用した原料は以下の通りである。
硬化剤:カルボジイミド系硬化剤
光触媒粒子:チタニア水分散体(平均粒径:60nm、塩基性)平均粒径は、動的光散乱法を用いて測定した散乱強度からキュムラント解析を用いて算出した。
無機酸化物粒子:水分散型コロイダルシリカ(平均粒径:25nm、塩基性)平均粒径は、走査型電子顕微鏡により20万倍の視野に入る任意の100個の粒子の長さを測定した個数平均値として算出される。
無機バインダー:珪酸リチウム
界面活性剤:ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤
珪砂:珪砂8号
増粘剤:アルカリ膨潤型増粘剤
【0086】
調製例1
撹拌機、還流管、温度計、滴下ロートを備えた内容量2リットルのガラス製四つ口セパラブルフラスコに、VdF/TFE/CTFE重合体(VdF/TFE/CTFE=72/15/13(モル%))の粒子の水性分散液710質量部、メチルメタクリレート(MMA)126質量部、n-ブチルアクリレート(BA)167質量部、n-ブチルメタクリレート(BMA)0.03質量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)0.03質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(2-HEMA)0.03質量部、メタクリル酸5.5質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.8質量部、水100g、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩12.5質量部を入れ撹拌しながら加温した。槽温が80℃に達したところで、重合開始剤の添加を始め2時間かけて滴下し重合した。滴下終了から2時間80℃で撹拌した後、室温まで冷却して反応を終了した。pH調整剤で中和を行い、pH8.0として樹脂複合体1の水性分散体を得た。フルオロポリマー(A)と(メタ)アクリルポリマー(B)との質量比(A/B)は50/50であった。
【0087】
調製例2
撹拌機、還流管、温度計、滴下ロートを備えた内容量2リットルのガラス製四つ口セパラブルフラスコに、VdF/TFE/CTFE重合体(VdF/TFE/CTFE=72/15/13(モル%))の粒子の水性分散液717質量部、メチルメタクリレート(MMA)112質量部、n-ブチルアクリレート(BA)115質量部、n-ブチルメタクリレート(BMA)0.03質量部、シクロヘキシルメタクリレート(CHMA)0.03質量部、2-ヒドロキシエチルメタクリレート(2-HEMA)0.03質量部、メタクリル酸5.3質量部、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン1.8質量部、水100g、ポリオキシエチレン-1-(アリルオキシメチル)アルキルエーテル硫酸エステルアンモニウム塩12.5質量部を入れ撹拌しながら加温した。槽温が80℃に達したところで、重合開始剤の添加を始め2時間かけて滴下し重合した。滴下終了から2時間80℃で撹拌した。
次に、トリメトキシメチルシラン62質量部とテトラエトキシシラン0.6質量部を80℃で0.5時間かけて滴下し、その後1時間攪拌した。その後、室温まで冷却して反応を終了し、pH調整剤で中和を行い、pH8.0として、フルオロポリマーと(メタ)アクリルポリマーとシロキサンポリマーの樹脂複合体2の水性分散体を得た。フルオロポリマー(A)と(メタ)アクリルポリマー(B)とシロキサンポリマー(C)との質量比(A/B/C)は50/45/5であった。
【0088】
調製例3
分散媒としてイオン交換水と、樹脂複合体1の水性分散体と、硬化剤とを表1に示される配合比で混合して、中間層用コーティング組成物B1を調製した。フッ素樹脂の固形分濃度は20.0質量%となるように調整した。なお、表1における硬化剤の濃度は、樹脂固形分100質量%に対する硬化剤の固形分濃度を意味する。
【0089】
調製例4
樹脂複合体1を樹脂複合体2に変更した以外は、調製例3と同様にして、中間層用コーティング組成物B2を調整した。
【0090】
【0091】
調製例5
光触媒粒子としてのチタニア水分散体と、無機酸化物粒子としての水分散型コロイダルシリカと、分散媒として水と、ポリエーテル変性シリコーン系界面活性剤とを表2に示される配合比で混合して、光触媒層用コーティング組成物T1を得た。なお、表2における光触媒粒子と無機酸化物粒子の濃度は、光触媒用塗膜固形分中での濃度を意味し、一方、界面活性剤の濃度は、光触媒層用コーティング組成物100質量%に対する界面活性剤の濃度を意味する。光触媒層用コーティング組成物中の光触媒粒子および無機酸化物粒子の合計の固形分濃度は5.5質量%とした。ここで、固形分濃度とは、光触媒層用コーティング組成物を105~110℃で乾燥し恒量となったときの質量%を意味する。
【0092】
【0093】
実施例1及び比較例1
アルミ板にエポキシ系シーラーを塗装し、常温乾燥させシーラー塗装体を得た。さらに、シーラー塗装体にアクリル系エナメルを塗装し、十分に乾燥させ基材を得た。
得られた基材を板温度60℃に加熱し、表面に中間層用コーティング組成物B1もしくはB2を、150±50g/m
2の塗布量でエアスプレーにて塗装し、80℃で5分間乾燥し中間層を得た。
中間層塗装体を板温度60℃に加熱し、光触媒層用コーティング組成物T1を、10±2.5g/m
2の塗布量でエアスプレーにて塗装し、自然乾燥させ光触媒層を有する積層体塗膜を得た。
得られた積層体塗膜の断面をイオンミリング法で切り出し、以下の方法により、中間層の断面の二次電子像及び反射電子像を観察した。結果を
図1~4に示す。実施例1で得られた積層体塗膜の中間層には、シェル部の厚みが26nmのコアシェル構造を有する樹脂複合体が確認できた。一方、比較例1で得られた積層体塗膜の中間層には、コアシェル構造を有する樹脂複合体は確認できなかった。
得られた積層体塗膜について、以下の方法により、中間層と光触媒層との密着性を評価した。結果を表3に示す。
【0094】
(二次電子像及び反射電子像の観察方法)
使用装置:FE-SEM(電解放出型走査型電子顕微鏡)
観察条件:加速電圧 3.0kV
倍率 6万倍
【0095】
(樹脂複合体のシェル部の厚み)
シェル部の厚みは、積層体塗膜からイオンミリング法で切り出した中間層の断面の反射電子像により観察し、6万倍の視野に入る任意の10個の樹脂複合体のシェル部の厚みを測定した個数平均値として算出した。
【0096】
(中間層と光触媒層との密着性)
上記で作製した積層体塗膜について、QUV試験機(Q-LAB社製)にて照度0.63W/m2、照射4時間、結露4時間の繰り返し条件下、のべ600時間暴露処理した。
そののち、擦りヘッド径20mmのラビングテスターIMC-150F-A型(井元製作所社製)を用い、擦り素材に純水を充分染み込ませた紙製ワイパー(商品名 JKワイパー 日本製紙クレシア社製)を使用し、荷重200g、45往復/分の速度でラビング試験を行った。
1000回往復ラビングさせた時点で、ポータブル接触角計PCA-1(協和界面科学社製)を用いて表面の対水接触角を測定し、下記の基準に従い評価した。
〇:対水接触角50°以下
△:対水接触角50°~70°
×:対水接触角70°以上
【0097】
【0098】
実施例2~7
無機酸化物粒子として表4に示される平均粒子径のコロイダルシリカを用いて、無機バインダーとして珪酸リチウムを表4に示される量で添加した以外は、調製例5と同様にして、光触媒層用コーティング組成物T2~T7を調整した。
光触媒層用コーティング組成物T1の代わりに、光触媒層用コーティング組成物T2~T7を用いた以外は、実施例1と同様にして、積層体塗膜を得た。
得られた積層体塗膜について、以下の粘着テープ試験法により、テープ密着力を評価した。結果を表4に示す。
【0099】
(粘着テープ試験法)
JIS Z 0237:2009を参考に次の1~5の手順で評価した。
1.試験体作製:積層体塗膜作製後、23±1℃、50±5%RHで24時間以上放置
2.試験雰囲気:上記の標準状態(23±1℃、50±5%RH)
3.テープの圧着:2kgゴムローラーを10±0.5mm/secの速度で合計2往復
4.剥離速度:テープを180°で折り返し5.0±0.2mm/secで運転
5.測定値:テープ変位量の初めの30mmを無視し、その後の20mmの測定値を平均する
【0100】
【0101】
調製例6
イオン交換水に樹脂複合体1の水性分散体および珪砂を加えて分散した後、増粘剤を添加して粘度がおよそ800mPa・sとなるように調整し、続いて硬化剤を添加して、中間層用コーティング組成物B3を調整した。得られた中間層用コーティング組成物B3における各成分の質量比を表5に示す。
【0102】
調製例7
樹脂複合体1を樹脂複合体2に変更した以外は、調製例6と同様にして、中間層用コーティング組成物B4を調整した。得られた中間層用コーティング組成物B4における各成分の質量比を表5に示す。
【0103】
【0104】
実施例8及び比較例2
アクリル塗料を塗装した150mm×65mm×3mmのスレート板に、中間層用コーティング組成物B3又はB4を塗着量150g/m
2となるようにスプレー塗装し、110℃で15分乾燥した。続いて光触媒層用コーティング組成物T1を12.5g/m
2となるように塗装して、積層体塗膜を得た。
得られた積層体塗膜について、以下の耐候性試験を行った後の光触媒層の残存量を評価した。結果を
図5及び6に示す。実施例8で得られた積層体塗膜は、耐候性試験を行った後でも、塗膜表面の全面を光触媒層が覆っており、剥離していなかった。一方、比較例2で得られた積層体塗膜は、耐候性試験を行った後は、光触媒層が半分程度剥離していた。
【0105】
(耐候性試験)
サンシャインウェザーメーター(スガ試験機社製、S300)を用い、旧JIS K 5400 9.8に準拠する条件にて1500時間の試験を行った。
(評価)
塗膜表面をレーザー顕微鏡(キーエンス社製、VK-8510)、対物レンズ150倍で観察し、光触媒層の残存量を観察した。