(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】高炉の操業方法
(51)【国際特許分類】
C21B 5/00 20060101AFI20220408BHJP
【FI】
C21B5/00 321
C21B5/00 311
(21)【出願番号】P 2018172523
(22)【出願日】2018-09-14
【審査請求日】2021-04-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度、独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構「環境調和型製鉄プロセス技術開発(STEP2)」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000006655
【氏名又は名称】日本製鉄株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001258
【氏名又は名称】JFEスチール株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000001199
【氏名又は名称】株式会社神戸製鋼所
(73)【特許権者】
【識別番号】306022513
【氏名又は名称】日鉄エンジニアリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106909
【氏名又は名称】棚井 澄雄
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100134359
【氏名又は名称】勝俣 智夫
(74)【代理人】
【識別番号】100188592
【氏名又は名称】山口 洋
(72)【発明者】
【氏名】酒井 博
(72)【発明者】
【氏名】西岡 浩樹
【審査官】國方 康伸
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-113677(JP,A)
【文献】特開2015-199984(JP,A)
【文献】特開2017-172026(JP,A)
【文献】特開2016-050345(JP,A)
【文献】特開2016-037624(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C21B 3/00- 5/06
C21B 11/00-15/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
高炉の炉頂から高炉用鉄系原料及びコークスを前記高炉内に交互かつ層状に装入する一方で、前記高炉に設けられた羽口から熱風とともに還元ガスを前記高炉内に吹き込む工程を含み、
前記還元ガスに含まれる炭素原子と水素原子とのモル比C/Hが0.02~0.13であることを特徴とする、高炉の操業方法。
【請求項2】
前記還元ガスのC/Hが0.05~0.10であることを特徴とする、請求項1記載の高炉の操業方法。
【請求項3】
前記還元ガスは、コークス炉ガスに水素を混合したものであることを特徴とする、請求項1または2に記載の高炉の操業方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高炉の操業方法に関する。
【背景技術】
【0002】
鉄鋼業においては、高炉法が銑鉄製造工程の主流を担っている。高炉法においては、高炉の炉頂から高炉用鉄系原料(酸化鉄を含む原料。主として、焼結鉱。以下、単に「鉄系原料」とも称する)及びコークスを高炉内に交互かつ層状に装入する一方で、高炉下部の羽口から熱風を高炉内に吹き込む。熱風は、熱風とともに吹き込まれる微粉炭、及び、高炉内のコークスと反応することで、高温の還元ガス(ここでは主としてCOガス)を発生させる。すなわち、熱風は、コークス及び微粉炭をガス化させる。還元ガスは、高炉内を上昇し、鉄系原料を加熱しながら還元する。鉄系原料は、高炉内を降下する一方で、還元ガスにより加熱及び還元される。その後、鉄系原料は溶融し、コークスによってさらに還元されながら高炉内を滴下する。鉄系原料は、最終的には炭素を5質量%弱含む溶銑(銑鉄)として炉床部に溜められる。炉床部の溶銑は、出銑口から取り出され、次の製鋼プロセスに供される。したがって、高炉法では、コークス及び微粉炭等の炭材を還元材として使用する。
【0003】
ところで、近年、地球温暖化防止が叫ばれ、温室効果ガスの一つである二酸化炭素(CO2ガス)の排出量削減が社会問題になっている。上述したように、高炉法では、還元材として炭材を使用するので、大量のCO2を発生する。したがって、鉄鋼業はCO2ガス排出量において主要な産業のひとつとなっており、その社会的要請に応えねばならない。具体的には、高炉操業での更なる還元材比(溶銑1トンあたりの還元材使用量)の削減が急務となっている。なお、還元材比とは、具体的には、溶銑1トンを製造するのに要したコークス、微粉炭及び還元ガスの合計質量をいう。
【0004】
還元材は炉内で熱となって装入物を昇温させる役割と、炉内の鉄系原料を還元する役割があり、還元材比を低減させるためには炉内の還元効率を上げる必要がある。炉内の還元反応は様々な反応式で表記することができる。これらの還元反応のうち、コークスによる直接還元反応(反応式:FeO+C⇒Fe+CO)は大きな吸熱を伴う吸熱反応である。したがって、この反応を極力発生させないことが還元材比の低減において重要となる。この直接還元反応は高炉炉下部で生じる反応であるため、鉄系原料が炉下部に至るまでにCO、H2等の還元ガスで鉄系原料を十分に還元することができれば、直接還元反応の対象となる鉄系原料を減らすことができる。
【0005】
上記課題を解決するための従来技術として、例えば特許文献1~3に開示されるように、羽口から熱風と共に炭素を含む還元ガス(COG、天然ガス、都市ガス等)を吹き込むことで、炉内の還元ガスポテンシャルを向上させる技術が知られている。この技術では、還元ガス中の炭素が高炉内でCOガスとして、鉄系原料を還元する。これにより、直接還元反応の対象となる鉄系原料を減らすことができる。なお、以下の説明では、特に断りがない限り、「炭素」、「水素」はそれぞれ、炭素原子、水素原子を意味するものとする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特許第6019893号
【文献】特許第5987773号
【文献】特許第5050706号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、炭素を含む還元ガスの吹込み量(溶銑1トンあたりの吹込み量)を増加させた場合、吹込み量の増加に伴って高炉へ投入される炭素量も増加する。還元ガスの吹込み量の増加に伴って、高炉のCOガスの利用率は変化するが、還元ガスの吹込み量を過剰に増加させた場合、多くの還元ガスが炉内で使用されずに排出されてしまう。したがって、単に還元ガスの吹込み量を増加させただけでは、還元ガス中の炭素が還元に使用されずに排出されることになり、かえって還元材比が増加、あるいはCO2排出量が増加する可能性がある。
【0008】
一方、羽口から炭素を含まない還元ガス、すなわち水素ガス(H2)を吹込む技術も提案されている。この技術では、水素ガスが高炉内の鉄系原料を還元するので、直接還元反応の対象となる鉄系原料を減らすことができる。さらに、水素ガスは炭素を含まないので、水素ガスの吹込み量を増加させても高炉へ投入される炭素量は増加しない。さらに、水素ガスは還元速度が速いというメリットもある。したがって、水素ガスの吹込み量を増加させることで還元材比の低減が期待できる。
【0009】
しかしながら、酸素富化率を一定とした状態で水素ガスの吹込み量を増加させた場合、羽口先温度が過剰に上昇するという問題があった。この理由として、水素ガスを使用した場合、炭素及び水素を含有する還元ガス(例えばCH4)のように羽口先での分解熱(吸熱)が生じないことが考えられる。このため、水素ガスの吹込み量を増加させるためには、酸素富化率を下げざるを得なかった。しかし、熱風の酸素富化率を下げることで、熱風中の不活性ガス(窒素ガス等)の割合が上昇するので、高炉内の還元ガス濃度が低下する可能性がある。したがって、還元材比を十分に低減させることができない可能性がある。さらに、水素ガスは炭素を含有していないため、羽口先での熱源となりにくいという問題もある。すなわち、水素ガスは、燃焼により水蒸気になっても、コークスとの反応(水性ガス反応)によって水素と一酸化炭素に分解されてしまい、発熱反応に寄与しないのみならず、その昇温に熱量を要し、熱源としての還元材を消費してしまう。一方で、炭素及び水素を含有する還元ガス(例えばCH4)の吹込み量を過剰に増加させた場合、酸素富化率を上げた操業が可能となるため、高炉内の還元ガス濃度を上昇させることができるが、酸素富化率を上げたことで熱風炉からの供給ガス量が低下し、高炉への投入顕熱量が低下してしまう点やCH4の羽口先での分解熱(吸熱)量が多くなり、還元ガス濃度を上昇させた効果を打ち消してしまう可能性がある。
【0010】
このように、単に炭素を含む還元ガスの吹込み量または水素ガスの吹込み量を増加させただけでは、還元材比を十分に低減させることができなかった。
【0011】
そこで、本発明は、上記問題に鑑みてなされたものであり、本発明の目的とするところは、還元材比をより低減することが可能な、新規かつ改良された高炉の操業方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明者は、羽口から高炉内に吹き込む還元ガスの組成に着目した。つまり、還元ガス中の炭素は高炉内でCOガスとなり、鉄系原料を還元する。還元ガス中の炭素量(すなわち、還元ガスによる高炉内への炭素の吹込み量)が多いほど、高炉内でのCOガス濃度が高まり、より多くの鉄系原料をCOガスによって還元することができる。これにより、直接還元反応の対象となる鉄系原料の量を低下させることができ、ひいては還元材比を低減させることができる。しかし、還元ガスに含まれる炭素量が多すぎると、多くのCOガスが炉内で使用されずに排出されるので、かえって還元材比が増加する懸念がある。
【0013】
一方、還元ガス中の水素は高炉内で水素ガスとなり、鉄系原料を還元する。還元ガス中の水素量(すなわち、還元ガスによる高炉内への水素の吹込み量)が多いほど、高炉内での水素ガス濃度が高まり、より多くの鉄系原料を水素ガスによって還元することができる。さらに、水素ガスは鉄系原料の還元速度が速い。これにより、直接還元反応の対象となる鉄系原料の量を低下させることができ、ひいては還元材比を低減させることができる。しかし、還元ガスに含まれる水素量が多すぎると、酸素富化率を大きく下げざるを得ず、結果として還元材比が増加する懸念がある。
【0014】
そこで、本発明者は、還元ガスに含まれる炭素と水素のバランスが重要であると考え、これらのモル比(より詳細には、モル濃度(mol/L)の比)C/Hに着目した。そして、C/Hを変動させて高炉操業シミュレーションを行い、CO2排出量と直結する炭素消費原単位(溶銑1トンあたりの炭素消費量。以下、「Input C」とも称する)を計算した。なお、炭素消費原単位(Input C)とは、具体的には、溶銑1トンを製造するのに要したコークス、微粉炭及び還元ガス中に含まれる合計炭素量をいう。
【0015】
この結果、本発明者は、炭素消費原単位(Input C)がC/Hによって変動することを突き止めた。さらに、本発明者は、炭素消費原単位(Input C)が特に低くなるC/Hの範囲を見出すことに成功した。つまり、C/Hには、水素ガスによる還元速度の速い還元を有効に活用しつつ、COガス還元も阻害させない(すなわちCOガス利用率を高い値に維持する)範囲が存在することになる。C/Hをこの範囲内の値とすることで、還元材比及びCO2排出量を低減させることができる。
【0016】
本発明のある観点によれば、高炉の炉頂から高炉用鉄系原料及びコークスを高炉内に交互かつ層状に装入する一方で、高炉に設けられた羽口から熱風とともに還元ガスを高炉内に吹き込む工程を含み、還元ガスに含まれる炭素原子と水素原子とのモル比C/Hが0.02~0.13であることを特徴とする、高炉の操業方法が提供される。
【0017】
ここで、還元ガスのC/Hが0.05~0.10であってもよい。
【0018】
さらに、還元ガスは、コークス炉ガスに水素を混合したものであってもよい。
【発明の効果】
【0019】
以上説明したように本発明によれば、C/Hを0.02~0.13とするので、還元材比をより低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】C/Hと炭素消費原単位の低減量(Input △C)との対応関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に添付図面を参照しながら、本発明の好適な実施の形態について詳細に説明する。なお、本明細書及び図面において、実質的に同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0022】
<1.高炉の操業方法>
まず、本実施形態に係る高炉の操業方法について説明する。本実施形態に係る高炉の操業方法では、高炉の炉頂から鉄系原料及びコークスを高炉内に交互かつ層状に装入する一方で、高炉に設けられた羽口から熱風とともに還元ガスを高炉内に吹き込む工程を含む。
【0023】
鉄系原料及びコークスの種類は特に制限されず、従来の高炉操業に使用される鉄系原料及びコークスであれば本実施形態でも好適に使用可能である。
【0024】
高炉内に吹き込まれる還元ガスは、高炉内の鉄系原料を還元する還元成分を含む。ここで、本実施形態の還元成分は、それ自体が鉄系原料を還元することができる成分(例えば、COガス、水素ガス)のみならず、高炉内での反応(例えばコークス、微粉炭等との反応または分解等)によって還元ガスを生成可能な成分(例えば、CO2ガス、炭化水素ガス等)も含む。
【0025】
還元ガスのC/Hは0.02~0.13とされる。ここで、C/Hは、還元ガスに含まれる炭素(炭素原子)と水素(水素原子)とのモル比である。例えば、以下の表1に示す組成を有するコークス炉ガス(COG)のC/Hは0.185となる。計算例は以下の通りである。なお、表1中の各数値は各成分のモル比(より詳細には、モル濃度(mol/L)の比)である。
(0.065+0.025+0.292+0.02×2+0.008×2)/(0.535×2+0.292×4+0.02×4+0.008×6)=0.185
【0026】
【0027】
したがって、表1のCOGをそのまま使用することはできず、C/Hを低くする処理が必要になる(このような処理は後述する)。なお、本発明者が従来の還元ガス(COG、天然ガス、都市ガス等)を検証したところ、C/Hが0.02~0.13となる還元ガスは発見されなかった。つまり、従来の還元ガスをそのまま使用しただけでは、本実施形態による高炉の操業方法を実現することはできない。
【0028】
後述する実施例で示される通り、還元ガスのC/Hを0.02~0.13とすることで、高炉内における還元効率を高めることができ、炭素消費原単位を低減させることができる。C/Hの好ましい下限値は0.05以上であり、好ましい上限値は0.10である。この場合、高炉内における還元効率を最大限高めることができ、炭素消費原単位をより大きく低減させることができる。
【0029】
本実施形態に係る還元ガスは、上述したC/Hの要件を満たすものであればどのようなものであってもよい。還元ガス中の還元に寄与する成分、すなわち主成分は、高炉内でCOガス及び水素ガスのいずれかになり、鉄系原料を還元する。したがって、C/Hの値が同じであれば、高炉内での還元ガスはほぼ同様の挙動を示すと考えられる。したがって、本実施形態に係る還元ガスは、上述したC/Hの要件を満たすものであればどのようなものであってもよい。
【0030】
本実施形態に係る還元ガスは、例えばC/Hが0.13よりも大きな還元ガスに水素ガスを混合することで作製される。水素ガスと混合される還元ガスは、C/Hが0.13よりも大きな還元ガスであればどのようなものであってもよく、例えばCOG、天然ガス、都市ガス等が挙げられる。還元ガスは、炉頂排ガス(BFG)を改質したもの(炉頂排ガスから水蒸気及びCO2ガスを除去したもの)であってもよい。これらのうち、炭化水素ガスを含む還元ガス、すなわちCOG、天然ガス、都市ガス等が好ましい。これらの還元ガスを使用した場合、炭化水素ガスが炉内で燃焼して燃焼熱を発生させるので、さらなる還元材比の低減が期待できる。さらに、コークス炉のある製鉄所では、COGを用いることにより自所内でエネルギーを賄うことができ、他の還元ガスに比べてコスト面で優れるため、COGがより好ましい。また、本実施形態に係る還元ガスの製造方法は必ずしもこの方法に限定されず、例えばC/Hが異なる還元ガス(具体的には、C/Hが0.13よりも大きな還元ガスとC/Hが0.02よりも小さな還元ガス)を混合することで作製されても良い。
【0031】
還元ガスは非加熱で高炉内に吹き込んでもよいが、加熱してから高炉内に吹き込むことが好ましい。還元ガスを加熱してから高炉内に吹き込むことで、還元材比のさらなる低下が期待できる。加熱温度は好ましくは300~350℃程度である。
【0032】
還元ガスを高炉内に吹き込むための羽口(以下、「還元ガス用羽口」とも称する)は、例えばボッシュ部に設けられる。還元ガス用羽口はシャフト部に設けられてもよい。シャフト部及びボッシュ部の両方に還元ガス用羽口を設けても良い。なお、シャフト部から吹き込まれる還元ガスは、CO及び/またはH2を多く含むことが好ましく、C/Hを管理しつつ吹き込まれる。
【0033】
従来の高炉操業と同様に、高炉内には熱風が吹き込まれる。熱風の温度、組成及び吹き込み量は従来の高炉操業と同様であればよい。例えば、熱風は空気及び微粉炭を含み、湿分及び富化酸素をさらに含んでいても良い。熱風は、例えばボッシュ部に設けられた羽口から高炉内に吹き込まれる。熱風を高炉内に吹き込むための羽口は還元ガス用羽口と共通であってもよいし、別であってもよい。
【実施例】
【0034】
次に、本実施形態の実施例について説明する。本実施例では、高炉操業シミュレーションを行うことで、本実施形態に係る操業方法によって還元材比が削減されることを確認した。なお、本実施例における「/t」の単位は溶銑1トンを製造するのに要する値、すなわち原単位であることを示す。
【0035】
<1.シミュレーションに使用したモデル及び操業条件>
高炉操業シミュレーションには、Kouji TAKATANI、Takanobu INADA、Yutaka UJISAWA、「Three-dimensional Dynamic Simulator for Blast Furnace」、ISIJ International、Vol.39(1999)、No.1、p.15-22などに示される、所謂「高炉数学モデル」を用いた。この高炉数学モデルは、概略的には、高炉の内部領域を高さ方向、径方向、周方向に分割することで複数のメッシュ(小領域)を規定し、各メッシュの挙動をシミュレーションするものである。計算条件を表2に示す。鉄系原料はすべて焼結鉱とした。また、焼結鉱の組成はT-Fe:58.5%、FeO:7.5%、C/S:1.9、Al2O3:1.7%とした。また、コークスについては、C:87.2%、Ash:12.6%を使用する場合を想定した(%はいずれも質量%を表す)
【0036】
【0037】
本実施例では、C/Hの異なる複数のCaseにおける還元材比の低減効果、すなわち、炭素消費原単位(Input C)の低減効果について確認した。還元ガスはボッシュ部に設けられる羽口から高炉内に吹き込むこととし、還元ガスの吹込み量は、一般的な製鉄所における溶銑1トンあたりのCOG発生量に基づいて98(Nm
3/t)で一定とした。また、表1に示す組成のCOGと水素ガスとをCase毎に異なる混合比で混合することで還元ガスのC/Hを調整した。還元ガス吹込み時における羽口先燃焼温度が極力一定になるよう(すなわち表1に示す範囲内の値になるよう)、送風量、酸素富化率を調整した。さらに、溶銑温度が全Caseで一定になるようコークス比(溶銑1トンあたりのコークス量、すなわちコークスの原単位)を調整した。微粉炭比(溶銑1トンあたりの微粉炭量、すなわち微粉炭の原単位)は115kg/tで、送風温度は1000℃でそれぞれ固定条件とした。計算結果を表3及び
図1に示す。
【0038】
【0039】
「Case 0」は、還元ガスの吹き込みを行わなかった操業であり、いわゆるベース操業に相当するものである。各CaseのInput △Cは、ベース操業に対するInput Cの削減割合である。Input Cは、既述の通り、溶銑1トンを製造するのに要したコークス、微粉炭、還元ガス中の炭素量の総量、すなわち炭素消費原単位であり、単位はkg/tである。Input Cを算出するための数式は以下の通りである。
Input C(kg/t)=コークス比(kg/t)×コークス中の炭素割合(質量%)+微粉炭比(kg/t)×微粉炭中の炭素割合(質量%)+還元ガス使用量原単位(Nm3/t)×還元ガス中の炭素割合(kg/Nm3)
例えば、表1に示した組成のCOGに含まれる炭素割合(kg/Nm3)は以下の数式で計算できる。
(0.065+0.025+0.292+0.02×2+0.008×2)/22.4×12=0.234(kg/Nm3)
【0040】
ベース操業のInput CをA(kg/t)、各CaseのInput CをB(kg/t)とすると、Input △Cは、以下の数式で示される。したがって、Input △Cが大きいほど炭素消費原単位、すなわち還元材比の低減効果が大きく、炭素消費原単位及び還元材比が低くなる。
Input ΔC=(A-B)/A×100(%)
【0041】
図1は表3の結果をグラフ化したものである。表3及び
図1に示すように、還元ガスのC/HによってInput △Cが変動していることがわかる。そして、C/Hが0.02~0.13となっている領域AでInput △Cが大きくなっており、COGまたは水素ガスをそれぞれ単独で吹き込む場合よりもInput △Cが大きい。C/Hが0.05~0.10となっている領域Bでは、Input △Cがほぼ極大となっている。したがって、C/Hを本実施形態に示す範囲内の値とすることで還元材比を低減でき、ひいてはさらなるCO
2ガス削減が可能になる。なお、特許文献1では天然ガス、特許文献2では都市ガスを高炉に吹き込んでいるが、その組成は開示されていない。それらのガスの一般的な組成を基にC/Hを計算すると天然ガスは概ね0.25程度となり、都市ガスは概ね0.27程度となる。この値は領域A、Bの範囲外の値となる。したがって、特許文献1、2に開示された技術では還元材比を十分に低減することはできないと考えられる。また、特許文献3では、液化石油ガス(LPG)及びメタンガスのほか、コークス炉ガス(COG)が吹き込まれているが、同文献によればそれらのガスのC/Hはそれぞれ0.38、0.25、0.18である。これらの値も領域A、Bの範囲外の値となり、特許文献3に開示された技術によっても還元材比を十分に低減することはできないと考えられる。
【0042】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明はかかる例に限定されない。本発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者であれば、特許請求の範囲に記載された技術的思想の範疇内において、各種の変更例または修正例に想到し得ることは明らかであり、これらについても、当然に本発明の技術的範囲に属するものと了解される。