(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】回転軸と回転部材の固定構造
(51)【国際特許分類】
G04B 17/06 20060101AFI20220408BHJP
G04B 13/02 20060101ALI20220408BHJP
F16B 21/10 20060101ALI20220408BHJP
F16B 4/00 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
G04B17/06 Z
G04B13/02 Z
F16B21/10
F16B4/00 H
(21)【出願番号】P 2018189654
(22)【出願日】2018-10-05
【審査請求日】2021-05-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000001960
【氏名又は名称】シチズン時計株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】240000327
【氏名又は名称】弁護士法人クレオ国際法律特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福田 匡広
(72)【発明者】
【氏名】小澤 孝
(72)【発明者】
【氏名】土屋 建治
(72)【発明者】
【氏名】古内 悠介
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 淳史
(72)【発明者】
【氏名】深谷 新平
【審査官】榮永 雅夫
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第1705533(EP,A1)
【文献】特開2015-200652(JP,A)
【文献】特開2011-17701(JP,A)
【文献】特公昭44-1911(JP,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G04B 1/00 - 99/00
F16B 21/10
F16B 4/00
F16H 55/06
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
非脆性材料で形成された回転軸と、
脆性材料で形成された、前記回転軸が緩く挿入される遊嵌孔、及び前記回転軸回りの周方向の一部に、周方向の他の部分とは異なる形状である異形部を有する回転部材と、
非脆性材料で形成された、前記回転軸がきつく挿入される嵌合孔を有し、前記回転部材が前記回転軸の軸方向に移動するのを規制する規制部材と、を備え、
前記回転軸又は前記規制部材に、前記回転軸の回転により前記異形部と係合する係合部が形成されている、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項2】
前記遊嵌孔及び前記回転軸は輪郭が円形で、かつ前記遊嵌孔の内径は前記回転軸の外径より大きく、
前記嵌合孔は輪郭が円形で、かつ前記嵌合孔の直径は前記回転軸の直径よりも小さい請求項1に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項3】
前記異形部は、前記回転軸からの半径方向の長さが他の部分より短くなるように形成された切欠きである請求項1又は2に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項4】
前記異形部は、前記回転軸からの半径方向の長さが他の部分より長くなるように形成された突出部である請求項1又は2に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項5】
前記係合部は、前記回転軸からの半径方向の長さが他の部分より短い位置に前記軸方向に突出した凸部である請求項1又は2に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項6】
前記規制部材は、前記回転軸の軸方向において、前記回転部材を挟んで配置された第1の規制部材と第2の規制部材とにより形成されている請求項1から5のうちいずれか1項に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項7】
前記第1の規制部材と前記第2の規制部材とのうち一方の規制部材は、前記回転軸が緩く挿入される遊嵌孔を有し、
前記第1の規制部材と前記第2の規制部材とのうち他方の規制部材と前記一方の規制部材とは、前記回転軸の回転により、互いに係合する係合部を有している請求項6に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項8】
前記回転軸は、前記遊嵌孔の内径よりも太くなる段付き部を有し、
前記一方の規制部材は、前記段付き部に突き当てられた状態で配置されている請求項7に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項9】
前記回転軸は、時計のテンプにおけるテン真であり、
前記回転部材は、前記テンプのヒゲゼンマイの端部に設けられたヒゲ玉である、請求項1から8のうちいずれか1項に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【請求項10】
前記係合部は、前記異形部の、前記軸方向に沿った厚さの1/2以上の厚さを有する請求項1から9のうちいずれか1項に記載の、回転軸と回転部材の固定構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、回転軸と回転部材の固定構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、機械式時計の調速装置に用いられているテンプは、テン輪とヒゲゼンマイとを備え、ヒゲゼンマイは、一端に設けられたヒゲ玉を有し、ヒゲ玉がテン真に圧入されることで、ヒゲゼンマイはテン真に固定されている。
【0003】
従来、ヒゲゼンマイは合金等の金属で作られていたが、近年は、例えば、深堀りエッチング技術(DRIE:Deep Reactive Ion Etching)などの製造方法を用いると、シリコン等で寸法精度の高いヒゲゼンマイを生成することも可能である。
【0004】
しかし、シリコンは脆性材料であるため、シリコンで作られたヒゲ玉を圧入によってテン真に固定しようとすると、ヒゲ玉が損傷するおそれがある。この問題は、ヒゲ玉に限定したものではなく、脆性材料で形成された歯車等の回転部材を回転軸に固定する場合も同じである。
【0005】
そこで、段付きの形成された回転軸に、回転軸の外形よりも大きな内径の孔が形成された円板状の回転部材を通し、その上から、回転軸の外形よりも小さい内径の孔が形成された皿ばね状の部材を押し付けて、回転部材を回転軸に固定する方法が提案されている(例えば、特許文献1参照)。
【0006】
また、ニッケル等の主に金属で形成された平ワッシャ状の電鋳部材を、脆性材料で形成された回転部材と予め一体化して形成し、この一体物の平ワッシャ状の電鋳部材の中央の孔に回転軸を打ち込むことで、回転部材を回転軸に固定する方法が提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特許第5934323号公報
【文献】特開2016-65624号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に示された技術は、回転軸に直接固定された部材と、回転部材との間で、主に面同士の摩擦力によって固定状態を維持する構造である。したがって、長期間の使用による劣化で摩擦力が低下し、固定状態を維持できなくなるおそれがある。
【0009】
また、特許文献2に示された技術は、電鋳部材と回転部材とが導電膜によって一体化されているが、特許文献1の技術と同様に、長期間の使用により固定状態を維持できなくなるおそれがある。
【0010】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであって、脆性材料で形成された回転部材と回転軸との固定状態を、経年によっても確実に維持することができる回転軸と回転部材の固定構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、非脆性材料で形成された回転軸と、脆性材料で形成された、前記回転軸が緩く挿入される遊嵌孔、及び前記回転軸回りの周方向の一部に、周方向の他の部分とは異なる形状である異形部を有する回転部材と、非脆性材料で形成された、前記回転軸がきつく挿入される嵌合孔を有し、前記回転部材が前記軸方向に移動するのを規制する規制部材と、を備え、前記回転軸又は前記規制部材に、前記回転軸の回転により前記異形部と係合する係合部が形成されている、回転軸と回転部材の固定構造である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る回転軸と回転部材の固定構造によれば、脆性材料で形成された回転部材と回転軸との固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された一実施形態(実施形態1)であるテンプの一部を示す斜視図である。
【
図2】
図1に示したテンプの一部における固定構造を構成するテン真、回転部材及びヒゲ玉押さえをテン真の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【
図3】
図1に示した固定構造の軸Cを通る鉛直断面を示す断面図である。
【
図4】本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態2)であるテンプの一部を示す斜視図である。
【
図5】
図4に示したテンプの一部における固定構造を構成するテン真、回転部材及びヒゲ玉押さえをテン真の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【
図6】本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態3)であるテンプの一部を示す斜視図である。
【
図7】
図6に示したテンプの一部における固定構造を構成するテン真、第1ヒゲ玉押さえ、回転部材及び第2ヒゲ玉押さえをテン真の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【
図8】本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態4)であるテンプの一部を示す斜視図である。
【
図9】
図8に示したテンプの一部における固定構造を構成するテン真、第1ヒゲ玉押さえ、回転部材及び第2ヒゲ玉押さえをテン真の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【
図10】本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態5)であるテンプの一部を示す斜視図である。
【
図11】
図10に示したテンプの一部における固定構造を構成するテン真、回転部材及びヒゲ玉押さえをテン真の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【
図12】本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態6)であるテンプの一部を示す斜視図である。
【
図13】
図12に示したテンプの一部における固定構造を構成するテン真、回転部材及びヒゲ玉押さえをテン真の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【
図14】
図8,9に示した実施形態4の固定構造の変形例である実施形態7の固定構造を示す斜視図である。
【
図15】
図8,9に示した実施形態4の固定構造の変形例である実施形態7の固定構造を示す分解斜視図である。
【
図16】回転部材に形成された異形部の例(その1)を示す図である。
【
図17】回転部材に形成された異形部の例(その2)を示す図である。
【
図18】回転部材に形成された異形部の例(その3)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係る回転軸と回転部材の固定構造の実施形態について、図面を用いて説明する。
【0015】
<実施形態1>
図1は本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された一実施形態(実施形態1)であるテンプの一部を示す斜視図、
図2は
図1に示したテンプの一部における固定構造1を構成するテン真10(回転軸の一例)、回転部材20及びヒゲ玉押さえ30(規制部材の一例)をテン真10の軸C方向に分解した分解斜視図、
図3は
図1に示した固定構造1の軸Cを通る鉛直断面を示す断面図である。
【0016】
図1に示した時計のテンプの一部は、本発明における回転軸の一例であるテン真10と、回転部材20と、規制部材の一例であるヒゲ玉押さえ30とを備え、テン真10と回転部材20とを、ヒゲ玉押さえ30によって互いに固定した固定構造を有している。
【0017】
テン真10は、例えば金属材料(非脆性材料の一例)で形成されている。テン真10は、軸C方向の両端であるホゾ10A,10Bの間の部分が、外径が異なる複数の部分で形成されている。具体的には、テン真10は、例えば
図2に示すように、軸C方向の図示上端となるホゾ10Aから、軸C方向の下端のホゾ10Bに向かう順に、第1軸部11、第2軸部12、第3軸部13、第4軸部14、第5軸部15及び第6軸部16を備えている。
【0018】
ホゾ10A、第1軸部11、第2軸部12、第3軸部13、第4軸部14、第5軸部15、第6軸部16及びホゾ10Bは、それぞれ円柱状の外形を有し、それらの円柱の中心軸はいずれも軸Cであり、ホゾ10A、第1軸部11、第2軸部12、第3軸部13、第4軸部14、第5軸部15、第6軸部16及びホゾ10Bは、互いに同心に形成されている。
【0019】
図3に示すように、第1軸部11及び第6軸部16は、ホゾ10A,10Bよりも太いが、他の4つの軸部12,13,14,15よりも細い。第2軸部12は、第1軸部11よりも太いが第3軸部13よりも細い。第3軸部13は、第2軸部12よりも太いが第4軸部14よりも細い。第4軸部14は、第3軸部13よりも太いが第5軸部15よりも細い。第5軸部15は、テン真10の最も外径が太い部分である。
【0020】
ここで、第2軸部12は、回転部材20の後述するヒゲ玉部21が緩く嵌め合わされ、ヒゲ玉押さえ30がきつく嵌め合わされる部分である。第4軸部14は、図示を省略したテンプのテン輪がきつく嵌め合わされる部分である。
【0021】
なお、第2軸部12と第3軸部13との境界には、第2軸部12と第3軸部13との外径の差異により、段付き面17(段付き部)が形成されている、この段付き面17は、軸Cに直交した平面であり、ヒゲ玉部21の下面21B(
図3参照)が軸C方向の下方に向けて突き当てられる突き当て面となっている。
【0022】
また、第4軸部14と第5軸部15との境界には、第4軸部14と第5軸部15との外径の差異により、段付き面19が形成されている、この段付き面19は段付き面17と同様に、軸Cに直交した平面であり、図示を略したテン輪の中心部分の下面が軸C方向の下方に向けて突き当てられる突き当て面となっている。
【0023】
第3軸部13と第4軸部14との境界にも、第3軸部13と第4軸部14との外径の差異により、段付き面18が形成されている。この段付き面18は段付き面17,19とは異なり、軸Cに直交する平面ではなく、軸Cからの半径方向の距離が短くなるにしたがって、鉛直方向の下方に低くなるすり鉢の斜面(円錐状に窪んだ部分の斜面)状に形成されている。
【0024】
回転部材20はテン真10に固定されて軸C回りに回転する部材であり、本実施形態においては、時計の調速装置として用いられているテンプにおける、通常は金属材料で形成されたヒゲゼンマイ及びヒゲ玉の機能を発揮する。
【0025】
回転部材20は、通常の金属製のヒゲゼンマイ及びヒゲ玉とは異なり、シリコン等の脆性材料で形成されている。そして、回転部材20は、ヒゲゼンマイ部22と、ヒゲ玉部21と、繋ぎ部23と、を有している。
【0026】
ヒゲゼンマイ部22は、軸Cからの距離が徐々に変化しながら軸C回りに延びる渦巻き状に形成されている。ヒゲゼンマイ部22は、通常の金属製のヒゲゼンマイの機能を発揮する。なお、
図1,2,3において、ヒゲゼンマイ部22は、軸C回りの半周程度の長さ分のみ実線で記載し、
図1,2において記載を省略して二点鎖線で示した部分は、実際には、軸Cからの距離が徐々に長くなりながら軸C回りに延びた渦巻き状に形成されている。
【0027】
なお、ヒゲゼンマイ部22の、記載を省略した部分は、繋ぎ部23が連なる内周側の端部とは反対に延びた部分(外周側の端部に連なる部分)であり、その先端に、ヒゲ持ちが連結される。
【0028】
ヒゲ玉部21は、中心部に遊嵌孔24が形成されてリング状に形成されている。遊嵌孔24は、常温において、テン真10の第2軸部12の外径よりも大きな内径で形成されている。これにより、遊嵌孔24には第2軸部12が緩く挿入される。
【0029】
なお、遊嵌孔24に第2軸部12が緩く挿入された状態は、遊嵌孔24と第2軸部12との間に、調速機として通常作用するトルクが掛ったときに、両者の間で滑りや空走(空転)が生じ得る状態である。
【0030】
図3に示すように、ヒゲ玉部21は、遊嵌孔24にテン真10の第2軸部12が緩く通され、ヒゲ玉部21の下面21Bが段付き面17に載って突き当たった状態となっている。遊嵌孔24に第2軸部12が緩く挿入された状態では、回転部材20はテン真10の軸C回りの回転に対して滑りが生じ、ヒゲ玉部21はテン真10の回転に完全には追従した回転はしない。
【0031】
繋ぎ部23は、ヒゲゼンマイ部22の渦巻きの内周側の端部付近とヒゲ玉部21とを繋いだ部分であり、軸Cを中心とした半径方向に延びている。そして、繋ぎ部23の内周側はヒゲ玉部21に連なり、繋ぎ部23の外周側はヒゲゼンマイ部22に連なって、ヒゲ玉部21、繋ぎ部23及びヒゲゼンマイ部22は一体に形成されている。
【0032】
ここで、ヒゲ玉部21は、リング状の部分のうち、軸Cを挟んで、繋ぎ部23に連なった部分とは反対側の部分に、周方向の他の部分に比べて異なる形状の異形部の一例として切欠き25が形成されている。切欠き25は、ヒゲ玉部21の、周方向の他の外形輪郭部分と比べて、軸Cからの距離(半径方向の長さ)が短くなる外形輪郭部分を形成するように、例えば、
図2に示す、直線状の弦で円弧状の部分が切り欠かれた部分である。なお、切欠き25は、軸Cを挟んで、繋ぎ部23に連なった部分とは反対側の部分に限らず、周方向のいずれかの部分に形成されていればよい。
【0033】
ヒゲ玉押さえ30は、例えば金属材料(非脆性材料の一例)で形成されている。ヒゲ玉押さえ30は、リング状の本体部31の中心部に嵌合孔32が形成されている。嵌合孔32は、常温において、テン真10の第2軸部12の外径よりも小さな内径で形成されている。これにより、嵌合孔32への第2軸部12の挿入は、きつい挿入である圧入となる。
【0034】
なお、嵌合孔32に第2軸部12がきつく挿入された状態は、嵌合孔32と第2軸部12との間に、前述した調速機として通常作用するトルクが掛ったときに、両者の間で滑りや空走(空転)が生じず、ヒゲ玉押さえ30がテン真10の回転に完全に追従して回転する状態である。
【0035】
ヒゲ玉押さえ30は、軸C方向において、回転部材20を挟んで段付き面17と反対側に配置されている。つまり、
図3に示すように、ヒゲ玉押さえ30の下面30Bが、ヒゲ玉部21の上面21Aに接して、軸C方向において回転部材に重ねられた配置となっている。
【0036】
ヒゲ玉押さえ30は、本体部31の下面30Bから、軸C方向の下方(第3軸部13の向き)に突出した凸部33(係合部の一例)が形成されている。凸部33は、軸C回りの周方向において、切欠き25に対応する角度範囲に亘って形成されている。
【0037】
したがって、
図1,3に示すように、第2軸部12が遊嵌孔24に挿入された回転部材20と、第2軸部12が嵌合孔32に挿入されたヒゲ玉押さえ30とが重ねられた状態で、
図3に示すように、回転部材20の切欠き25とヒゲ玉押さえ30の凸部33とが、その角度範囲の全体に亘って係合している。
【0038】
以上のように構成された実施形態1の固定構造1によれば、脆性材料で形成された回転部材20は、遊嵌孔24にテン真10の第2軸部12が、圧入ではなく緩く通されているため、圧入による過度の応力(脆性材料が損傷する程度の応力)が回転部材20に発生しない。したがって、本実施形態の固定構造1は、脆性材料である回転部材20が過度の応力の発生によって破壊等損傷するのを防止又は抑制することができる。
【0039】
一方、回転部材20は、軸C方向について、段付き面17とヒゲ玉押さえ30の下面30Bとの間に挟まれた配置となるが、ヒゲ玉押さえ30は、嵌合孔32に第2軸部12がきつく挿入されているため、テン真10に対して軸C方向に関して動くことが無い。この結果、段付き面17とヒゲ玉押さえ30の下面30Bとの間に挟まれた回転部材20は、軸C方向に拘束されて、テン真10に対して軸C方向に移動することが無い。
【0040】
また、回転部材20は、軸C回りの回転方向について、切欠き25にヒゲ玉押さえ30の凸部33が係合した状態となるが、ヒゲ玉押さえ30は、嵌合孔32に第2軸部12がきつく挿入されているため、テン真10に対して軸C回りに回転することが無い。この結果、切欠き25に凸部33が係合した状態の回転部材20は、軸C回りの動きが拘束されて、テン真10に対して軸C回りに滑ることが無く、回転部材20はテン真10及びヒゲ玉押さえ30と一体的に回転する。
【0041】
なお、回転部材20の切欠き25とヒゲ玉押さえ30の凸部33は、その角度範囲の全体に亘って形成されているため、テン真10が軸C回りの一方向に回転したときと反対方向に回転したときとの間で、切欠き25と凸部33との間で遊びが無い。
【0042】
したがって、回転部材20が、ヒゲゼンマイ部22の作用によって軸C回りに往復運動する振動のときも、テン真10とヒゲ玉部21との間で回転方向の切り替わりの際に空走(空転)が生じるのを防ぐことができる。
【0043】
以上の通り、本実施形態1に係るテン真10と回転部材20の固定構造1によれば、脆性材料で形成された回転部材20とテン真10とを、軸Cに直交する面の摩擦による固定ではなく、半径方向の係合によって回転方向の動きを拘束しているため、両者の固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【0044】
なお、凸部33の、ヒゲ玉押さえ30の下面30Bからの軸C方向へ突出した高さは、ヒゲ玉部21の軸C方向に沿った寸法(厚さ)の1/2以上であることが好ましい。凸部33の高さがヒゲ玉部21の厚さの1/2未満であると、凸部33がヒゲ玉部21にトルクを掛けたとき、両者の接触面積が狭くなって面圧が高くなるため、脆性材料のヒゲ玉部21は欠けたり、割れたりする損傷が発生し易い。
【0045】
一方、凸部33の高さがヒゲ玉部21の厚さの1/2以上であれば、凸部33がヒゲ玉部21にトルクを掛けても、両者が広い面で接するため、ヒゲ玉部21が脆性材料であってもヒゲ玉部21は損傷し難い。
【0046】
実施形態1の固定構造1は、ヒゲ玉部21の異形部として円弧状の切欠き25を適用し、ヒゲ玉押さえ30の係合部として凸部33を適用したものであるが、これら切欠き25と凸部33とを反対に形成してもよい。すなわち、ヒゲ玉押さえ30のリング状の部分に、係合部としての切欠きを形成し、ヒゲ玉部21に、ヒゲ玉押さえの切欠きに係合する凸部を形成してもよい。
【0047】
この場合、ヒゲ玉部21に形成した凸部は、軸Cからの半径方向の長さがヒゲ玉部21の他の部分より短い位置に、軸C方向に突出して形成された異形部の一例である。ただし、脆性材料で形成された凸部は、応力集中により破損し易いため、非脆性材料であるヒゲ玉押さえ30に凸部を形成するのが好ましい。
【0048】
なお、異形部としては、半径方向の長さが全周に亘って一定の形状(真円形)以外の形状部分であればよく、上述した切欠きや凸部の他、孔や凹部であってもよい。
【0049】
実施形態1の固定構造1におけるヒゲ玉押さえ30の凸部33は、切欠き25と同じ角度範囲の全体に亘って1つのものとして形成されているが、切欠き25の角度範囲の両端に1つずつ形成されたものでもよい。すなわち、一定の角度範囲に亘って形成された切欠き25の一端側に1つの凸部33を係合させ、切欠き25の他端側に、一端側の凸部33とは別の凸部33を係合されるように、ヒゲ玉押さえ30に2つの凸部33を形成してもよい。
【0050】
<実施形態2>
図4は本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態2)であるテンプの一部を示す斜視図、
図5は
図4に示したテンプの一部における固定構造101を構成するテン真10(回転軸の一例)、回転部材120及びヒゲ玉押さえ130(規制部材の一例)をテン真10の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【0051】
図4に示したテン真10は
図1に示したテン真10と同じであるが、
図4に示した回転部材120は
図1に示した回転部材20と相違し、
図4に示したヒゲ玉押さえ130は
図1に示したヒゲ玉押さえ30と相違する。
【0052】
具体的には、回転部材120は、ヒゲ玉部121に、切欠き25が形成されていない点を除いて、回転部材20と同じ構成である。ここで、回転部材120においては、本発明に係る固定構造における異形部として、繋ぎ部23が適用される。繋ぎ部23は、ヒゲ玉部21の、周方向の他の外形輪郭部分と比べて、軸Cからの距離(半径方向の長さ)が長くなる外形輪郭部分を形成する突出部である。なお、回転部材120は回転部材20と同じく、脆性材料で形成されている。
【0053】
ヒゲ玉押さえ130は、ヒゲ玉押さえ30と同じく非脆性材料で形成されている。ヒゲ玉押さえ130は、ヒゲ玉部121の側面を囲むように凸部133が形成され、かつ、繋ぎ部23と係合するための切欠き136が形成されている点を除いて、ヒゲ玉押さえ30と同じである。
【0054】
ヒゲ玉押さえ130は、リング状の本体部31の中心部に、ヒゲ玉押さえ30の嵌合孔32と同じ嵌合孔32が形成され、嵌合孔32にはテン真10の第2軸部12がきつく挿入される。ヒゲ玉押さえ130は、本体部31の外周縁から、軸C方向の下方に延びた凸部133が形成されている。
【0055】
凸部133の内径は、ヒゲ玉部21の外径よりも大きく、凸部133の外径は、ヒゲゼンマイ部22の最内側の巻回部の内径よりも小さい。そして、凸部133の一部の、軸C回りの一定の角度範囲に、係合部の一例である切欠き136が形成されている。
【0056】
切欠き136の、軸C回りの角度範囲は、繋ぎ部23の軸C回りの角度範囲と略同じである。つまり、
図4に示すように、ヒゲ玉部21の遊嵌孔24にテン真10の第2軸部12が緩く通され、ヒゲ玉部21の、上側にヒゲ玉押さえ130が重ねられたとき、ヒゲ玉部21は、ヒゲ玉押さえ130の凸部133の内側に収容され繋ぎ部23が切欠き136を通過した状態で、ヒゲゼンマイ部122は凸部133の外側に配置された状態となる。したがって、切欠き136は、軸C回りの周方向に関して、繋ぎ部23と係合する。
【0057】
以上の通り、実施形態2のテン真10と回転部材120の固定構造101によれば、脆性材料である回転部材120が過度の応力の発生によって破壊等損傷するのを防止又は抑制することができる。
【0058】
また、固定構造101によれば、回転部材120を、軸C方向及び軸C回りの回転方向について、テン真10に確実に固定することができる。
【0059】
なお、切欠き136と繋ぎ部23は、軸C回りの同じ角度範囲で形成されているため、テン真10が軸C回りの一方向に回転したときと反対方向に回転したときとの間で、切欠き136と繋ぎ部23との間で遊びが無い。したがって、回転部材120が、ヒゲゼンマイ部22の作用によって軸C回りに往復運動する振動のときも、テン真10とヒゲ玉部121との間で回転方向の切り替わりの際に空走(空転)が生じるのを防ぐことができる。
【0060】
このように、本実施形態2の固定構造101は、脆性材料で形成された回転部材120とテン真10とを、軸Cに直交する面の摩擦による固定ではなく、半径方向の係合によって回転方向の動きを拘束しているため、両者の固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【0061】
なお、切欠き136の軸C方向に沿った長さは、繋ぎ部23の軸C方向に沿った寸法(厚さ)以上の長さであるが、繋ぎ部23の厚さの1/2以上の長さであってもよいし、1/2未満の長さであってもよい。
【0062】
<実施形態3>
図6は本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態3)であるテンプの一部を示す斜視図、
図7は
図6に示したテンプの一部における固定構造201を構成するテン真10(回転軸の一例)、第1ヒゲ玉押さえ230(規制部材の一例)、回転部材20及び第2ヒゲ玉押さえ240(規制部材の一例)をテン真10の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【0063】
図6に示したテン真10と回転部材20は
図1に示したテン真10と回転部材20と同じであるが、
図6に示した第1ヒゲ玉押さえ230及び第2ヒゲ玉押さえ240は
図1に示したヒゲ玉押さえ30と相違する。
【0064】
具体的には、本発明に係る固定構造における規制部材として、2つのひげ玉押さえ(第1ヒゲ玉押さえ230、第2ヒゲ玉押さえ240)が適用されている。第1ヒゲ玉押さえ230は、非脆性材料で形成されている。第1ヒゲ玉押さえ230は、ヒゲ玉押さえ30と同様に本体部231から軸C方向に突出した凸部233を有するが、凸部233はヒゲ玉押さえ30の凸部33よりも長く形成されている。
【0065】
また、凸部233は、第1ヒゲ玉押さえ230の上面230Aから軸C方向の上方に向けて突出している。なお、凸部233は凸部33と同じく、回転部材20に形成された切欠き25と係合する係合部の一例である。
【0066】
第1ヒゲ玉押さえ230の中心部には、第2軸部12が緩く通される内径の遊嵌孔232が形成されている。第1ヒゲ玉押さえ230は、第2軸部12において、回転部材20よりも、段付き面17の側に配置されるとともに、凸部233が、第1ヒゲ玉押さえ230の上側に重ねて配置される回転部材20に向けて突出した姿勢で配置される。第1ヒゲ玉押さえ230は、遊嵌孔232に第2軸部12が緩く通され、段付き面17に第1ヒゲ玉押さえ230の下面230Bが突き当てられた状態で配置される。
【0067】
第2ヒゲ玉押さえ240も非脆性材料で形成されている。第2ヒゲ玉押さえ240は、リング状の本体部241の中心部に、第2軸部12がきつく通される嵌合孔242が形成されている。また、第2ヒゲ玉押さえ240の本体部241には、回転部材20の切欠き25と同じ、軸C回りの角度範囲に、切欠き25と同じ円弧状の切欠き245が形成されている。
【0068】
なお、第1ヒゲ玉押さえ230は、遊嵌孔232に代えて、第2軸部12がきつく通される内径の嵌合孔32が形成されていてもよい。この場合、第2軸部12は嵌合孔32にきつく通されるため、第1ヒゲ玉押さえ230は段付き面17に突き当たった配置以外の軸C方向の任意の位置においても固定される。したがって、テン真10は、少なくとも第2軸部12だけを有するものであればよく、段付き面17を備えない構成であってもよい。
【0069】
本実施形態3の固定構造201は、
図6,7に示すように、第2軸部12に対して、図示の下から順に、段付き面17に突き当てられて配置された第1ヒゲ玉押さえ230、回転部材20、第2ヒゲ玉押さえ240が通された状態となっている。第1ヒゲ玉押さえ230と回転部材20とは接して配置され、回転部材20と第2ヒゲ玉押さえ240とは接して配置されている。
【0070】
ここで、第1ヒゲ玉押さえ230の凸部233と、回転部材20の切欠き25及び第2ヒゲ玉押さえ240の切欠き245との、軸C回りの位相を一致させて配置することにより、第1ヒゲ玉押さえ230の凸部233が、回転部材20の切欠き25及び第2ヒゲ玉押さえの切欠き245に係合する。
【0071】
以上の通り、実施形態3のテン真10と回転部材20の固定構造201によれば、脆性材料である回転部材20が過度の応力の発生によって破壊等損傷するのを防止又は抑制することができる。
【0072】
また、固定構造201によれば、回転部材20を、軸C方向及び軸C回りの回転方向について、テン真10に確実に固定することができる。
【0073】
なお、切欠き25と凸部233は、軸C回りの同じ角度範囲で形成されているため、テン真10が軸C回りの一方向に回転したときと反対方向に回転したときとの間で、切欠き25と凸部233との間で遊びが無い。したがって、回転部材20が、ヒゲゼンマイ部22の作用によって軸C回りに往復運動する振動のときも、テン真10とヒゲ玉部21との間で回転方向の切り替わりの際に空走(空転)が生じるのを防ぐことができる。
【0074】
また、第1ヒゲ玉押さえ230として、第1ヒゲ玉押さえ230のリング状の本体部231の軸C方向に沿った長さ(厚さ)が異なる複数のものを準備しておき、それら複数種類の厚さの第1ヒゲ玉押さえ230のうちから適切な厚さのものを選択して使用することにより、第1ヒゲ玉押さえ230の上面230Aに接して配置される回転部材20の軸C方向の位置の調整を容易に、かつ正確に行うことができる。
【0075】
なお、第1ヒゲ玉押さえ230が嵌合孔32を有するものである場合は、第1ヒゲ玉押さえ230は第2軸部12の軸C方向の任意の位置で固定されるため、厚さの異なる複数の物を準備する必要は無い。ただし、この場合、第1ヒゲ玉押さえ230を軸C方向の所定位置に停止させる操作は、段付き面17への突き当てで行う操作の方が容易である。
【0076】
このように、本実施形態3の固定構造201は、脆性材料で形成された回転部材20とテン真10とを、軸Cに直交する面の摩擦による固定ではなく、半径方向の係合によって回転方向の動きを拘束しているため、両者の固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【0077】
なお、凸部233の軸C方向に沿った長さは、ヒゲ玉部21の厚さ以上の長さであるが、ヒゲ玉部21の軸C方向に沿った寸法の1/2以上の長さであってもよいし、1/2未満の長さであってもよい。
【0078】
<実施形態4>
図8は本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態4)であるテンプの一部を示す斜視図、
図9は
図8に示したテンプの一部における固定構造301を構成するテン真10(回転軸の一例)、第1ヒゲ玉押さえ330(規制部材の一例)、回転部材120及び第2ヒゲ玉押さえ340(規制部材の一例)をテン真10の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【0079】
図8に示したテン真10は
図1に示したテン真10と同じであり、
図8に示した回転部材120は
図5に示した回転部材120と同じであるが、
図8に示した第1ヒゲ玉押さえ330及び第2ヒゲ玉押さえ340は
図1に示したヒゲ玉押さえ30と相違する。
【0080】
具体的には、本発明に係る固定構造における規制部材として、2つのひげ玉押さえ(第1ヒゲ玉押さえ330、第2ヒゲ玉押さえ340)が適用されている。第1ヒゲ玉押さえ330は、非脆性材料で形成されている。第1ヒゲ玉押さえ330は、
図5に示したヒゲ玉押さえ130を上下反対にした構成であり、リング状の本体部331の中心部に、第2軸部12が緩く通される遊嵌孔332が形成されている。
【0081】
また、第1ヒゲ玉押さえ330は、本体部331の外周縁から、軸C方向の上方に延びた凸部333が形成されている。凸部333の内径は、ヒゲ玉部121の外径よりも大きく、凸部333の外径は、ヒゲゼンマイ部22の最内側の巻回部の内径よりも小さい。そして、凸部333の一部の、軸C回りの一定の角度範囲に、係合部の一例である切欠き336が形成されている。切欠き336の、軸C回りの角度範囲は、回転部材120の繋ぎ部23の軸C回りの角度範囲と略同じである。
【0082】
第1ヒゲ玉押さえ330は、第2軸部12において、回転部材120よりも、段付き面17の側に配置されるとともに、本体部331に対して凸部333が上方に突出する姿勢で配置される。第1ヒゲ玉押さえ330は、遊嵌孔332に第2軸部12が緩く通され、段付き面17に第1ヒゲ玉押さえ330の下面330Bが突き当てられた状態で配置される。
【0083】
第2ヒゲ玉押さえ340も非脆性材料で形成されている。第2ヒゲ玉押さえ340は、リング状の本体部341の中心部に、第2軸部12がきつく通される嵌合孔342が形成されている。また、第2ヒゲ玉押さえ340の本体部341の外径は、第1ヒゲ玉押さえ330の凸部333の内径よりも小さい。
【0084】
本実施形態4の固定構造301は、
図8,9に示すように、第2軸部12に対して、図示の下から順に、第1ヒゲ玉押さえ330、回転部材120、第2ヒゲ玉押さえ340が通された状態となっている。第1ヒゲ玉押さえ330と回転部材120とは接して配置され、回転部材120と第2ヒゲ玉押さえ340とは接して配置されている。
【0085】
ここで、第1ヒゲ玉押さえ330の切欠き336と、回転部材120の繋ぎ部23との、軸C回りの位相を一致させて配置することにより、第1ヒゲ玉押さえ330の切欠き336が、回転部材120の繋ぎ部23に係合する。
【0086】
また、回転部材120の上側に配置された第2ヒゲ玉押さえ340は、その厚さ方向(軸C方向)の少なくとも一部が、第1ヒゲ玉押さえ330の凸部333の内側に収容された状態となる。
【0087】
以上の通り、実施形態4のテン真10と回転部材120の固定構造301によれば、脆性材料である回転部材120が過度の応力の発生によって破壊等損傷するのを防止又は抑制することができる。
【0088】
また、固定構造301によれば、回転部材120を、軸C方向及び軸C回りの回転方向について、テン真10に確実に固定することができる。
【0089】
なお、切欠き336と繋ぎ部23は、軸C回りの同じ角度範囲で形成されているため、テン真10が軸C回りの一方向に回転したときと反対方向に回転したときとの間で、切欠き336と繋ぎ部23との間で遊びが無い。したがって、回転部材120が、ヒゲゼンマイ部22の作用によって軸C回りに往復運動する振動のときも、テン真10とヒゲ玉部121との間で回転方向の切り替わりの際に空走(空転)が生じるのを防ぐことができる。
【0090】
また、第1ヒゲ玉押さえ330として、本体部331の軸C方向に沿った長さ(厚さ)が異なる複数のものを準備しておき、それら複数種類の厚さの第1ヒゲ玉押さえ330のうちから適切な厚さのものを選択して使用することにより、第1ヒゲ玉押さえ330の上面330Aに接して配置される回転部材120の軸C方向の位置の調整を容易に、かつ正確に行うことができる。
【0091】
このように、本実施形態4の固定構造301は、脆性材料で形成された回転部材120とテン真10とを、軸Cに直交する面の摩擦による固定ではなく、半径方向の係合によって回転方向の動きを拘束しているため、両者の固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【0092】
なお、上述した実施形態4は、回転部材120の上側に配置された第2ヒゲ玉押さえ340の厚さ方向(軸C方向)の少なくとも一部が、第1ヒゲ玉押さえ330の凸部333の内側に収容された一例であり、切欠き336の軸C方向に沿った長さは、繋ぎ部23の厚さ以上の長さとした場合について説明したが、第2ヒゲ玉押さえ340には、第2軸部12がきつく通される嵌合孔342が形成されているため、切欠き336の軸C方向に沿った長さが、繋ぎ部23の厚さの1/2以上の長さであっても、又は1/2未満の長さであっても、回転部材120の上側で固定されるため問題ない。
【0093】
また、第1ヒゲ玉押さえ330は、遊嵌孔332に代えて、第2軸部12がきつく通される内径の嵌合孔32が形成されていてもよい。この場合、第2軸部12は嵌合孔32にきつく通されるため、第1ヒゲ玉押さえ330は段付き面17に突き当たった配置以外の軸C方向の任意の位置においても固定される。したがって、テン真10は、少なくとも第2軸部12だけを有するものであればよく、段付き面17を備えない構成であってもよい。
【0094】
<実施形態5>
図10は本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態5)であるテンプの一部を示す斜視図、
図11は
図10に示したテンプの一部における固定構造401を構成するテン真110(回転軸の一例)、回転部材20及びヒゲ玉押さえ340(規制部材の一例)をテン真110の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【0095】
図10,11に示した固定構造401は、
図1,2に実施形態1の固定構造1に対して、規制部材の一部がテン真110に形成されている点が異なる以外は、固定構造1と同じである。
【0096】
すなわち、実施形態5の固定構造401におけるテン真110は、テン真10の段付き面17から、軸C方向の上方に向けて、第2軸部12に緩く通された回転部材20の切欠き25に係合する凸部113aが形成されている。この凸部113aは、固定構造1において、ヒゲ玉押さえ30に形成されている凸部33と同じ機能を発揮するものであり、回転部材20の切欠き25に係合して、テン真10に対する回転部材20を相対的な回転を規制する。
【0097】
一方、段付き面17に接して配置された回転部材20の上面に接して配置されるヒゲ玉押さえ340は、ヒゲ玉押さえ30から凸部33を除いたリング状の本体部31と同じ構成であり、本体部341の中心部に、第2軸部12がきつく通される嵌合孔342が形成されている。
【0098】
本実施形態5の固定構造401は、
図10,11に示すように、第2軸部12に対して、図示の下から順に、回転部材20、ヒゲ玉押さえ340が通された状態となっている。回転部材20は、段付き面17とヒゲ玉押さえ340とに挟まれて、軸C方向に関して固定されている。
【0099】
そして、テン真110に形成された異形部としての凸部113aがヒゲ玉部21の切欠き25に係合することにより、回転部材20はテン真110に対して軸Cまわりの回転方向にも固定される。
【0100】
以上の通り、実施形態5のテン真110と回転部材20の固定構造401によれば、脆性材料である回転部材20が過度の応力の発生によって破壊等損傷するのを防止又は抑制することができる。
【0101】
また、固定構造401によれば、回転部材20を、軸C方向及び軸C回りの回転方向について、テン真10に確実に固定することができる。
【0102】
なお、固定構造401によれば、回転部材20が、ヒゲゼンマイ部22の作用によって軸C回りに往復運動する振動のときも、テン真110とヒゲ玉部21との間で回転方向の切り替わりの際に空走(空転)が生じるのを防ぐことができる。
【0103】
このように、本実施形態5の固定構造401は、脆性材料で形成された回転部材20とテン真110とを、軸Cに直交する面の摩擦による固定ではなく、半径方向の係合によって回転方向の動きを拘束しているため、両者の固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【0104】
なお、凸部113aの軸C方向に沿った長さは、ヒゲ玉部21の厚さの1/2以上の長さであってもよいし、1/2未満の長さであってもよい。
【0105】
<実施形態6>
図12は本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造が適用された他の実施形態(実施形態6)であるテンプの一部を示す斜視図、
図13は
図12に示したテンプの一部における固定構造501を構成するテン真210(回転軸の一例)、回転部材220及びヒゲ玉押さえ430(規制部材の一例)をテン真210の軸C方向に分解した分解斜視図である。
【0106】
図12,13に示した固定構造501は、
図1,2に実施形態1の固定構造1に対して、規制部材の一部がテン真210に形成されている点が異なる。
【0107】
すなわち、実施形態6の固定構造501におけるテン真210は、テン真10と同様に非脆性材料で形成されている。テン真210はテン真10の第2軸部12の周面の一部が、他の周面の部分よりも軸Cからの長さが短くなるように切り欠かれた切欠き12a(係合部の一例)となっている。切欠き12aは、第2軸部12の軸C方向の全長に亘って形成されている。なお、切欠き12aによって第2軸部に形成された平面は、軸Cに平行な面となっている。
【0108】
また、固定構造501における回転部材220は、脆性材料で形成されている。回転部材220は、ヒゲ玉部221の中心部に、第2軸部12が緩く通る遊嵌孔224が形成されている。固定構造1におけるヒゲ玉部21の遊嵌孔24は真円であるが、遊嵌孔224は真円ではなく、その内周縁の一部が軸Cに向けて突出している。この内周縁が突出した突出部227は、軸Cからの距離が、周方向に他の部分に比べて短く形成された異形部である。
【0109】
そして、回転部材220の遊嵌孔224に、テン真210の第2軸部12が緩く通されて、回転部材220は段付き面17に接して配置される。このとき、第2軸部12の切欠き12aと回転部材220の突出部227とが係合し、回転部材220は、軸C回りの回転方向についてテン真210に固定される。
【0110】
また、回転部材220の上面に接して配置されるヒゲ玉押さえ430は、非脆性材料で形成されている。ヒゲ玉押さえ430は、ヒゲ玉押さえ340と同様に、リング状の本体部431の中心部に、第2軸部12がきつく通される嵌合孔432が形成されている。この嵌合孔432は、遊嵌孔224と同様に真円ではなく、その内周縁の一部が軸Cに向けて突出している。この内周縁が突出した突出部433は、第2軸部12に形成された切欠き12aに対応して形成されている。
【0111】
そして、ヒゲ玉押さえ430の嵌合孔432に第2軸部12がきつく通されて、ヒゲ玉押さえ430が回転部材220の上面に接して配置された状態では、回転部材220は、段付き面17とヒゲ玉押さえ430に挟まれて、軸C方向についてテン真210に固定される。
【0112】
以上の通り、実施形態6のテン真210と回転部材20の固定構造501によれば、脆性材料である回転部材220が過度の応力の発生によって破壊等損傷するのを防止又は抑制することができる。
【0113】
また、固定構造501によれば、回転部材220を、軸C方向及び軸C回りの回転方向について、テン真210に確実に固定することができる。
【0114】
なお、固定構造501によれば、回転部材220が、ヒゲゼンマイ部22の作用によって軸C回りに往復運動する振動のときも、テン真210とヒゲ玉部221との間で回転方向の切り替わりの際に空走(空転)が生じるのを防ぐことができる。
【0115】
このように、本実施形態6の固定構造501は、脆性材料で形成された回転部材220とテン真210とを、軸Cに直交する面の摩擦による固定ではなく、半径方向の係合によって回転方向の動きを拘束しているため、両者の固定状態を、経年によっても確実に維持することができる。
【0116】
<実施形態7>
図14,15は、
図8,9に示した実施形態4の固定構造301の変形例である実施形態7の固定構造601を示す図であり、
図14は斜視図、
図15は分解斜視図である。
【0117】
図14,15に示したテン真10と回転部材120は
図8に示したテン真10と回転部材120と同じであり、
図14,15に示した第2ヒゲ玉押さえ340は
図8に示した第2ヒゲ玉押さえ340と同じである。
【0118】
一方、
図14,15に示した第1ヒゲ玉押さえ530は、
図8に示した第1ヒゲ玉押さえ330に対して、リング状の本体部531が第1ヒゲ玉押さえ330の本体部331よりも直径が大きく、かつ厚く形成されている。
【0119】
また、第1ヒゲ玉押さえ330の本体部331から上方に突出した凸部333は、周方向に一体に繋がっていて、凸部333の高さは回転部材120の厚さよりも厚いが、第1ヒゲ玉押さえ530の本体部531から上方に突出した凸部533は、周方向に2分割されていて、各凸部533,533の高さは回転部材120の厚さよりも薄い。
【0120】
そして、2つの凸部533,533の間に、回転部材120の繋ぎ部23を通過させる、切欠き336と同様の隙間536(係合部)が形成されている。隙間536の、軸C回りの角度範囲は、繋ぎ部23の角度範囲と同じである。
【0121】
第1ヒゲ玉押さえ530は、中心部に、第2軸部12が緩く挿入される遊嵌孔532が形成されているが、遊嵌孔532に代えて嵌合孔32が形成されていてもよい。
【0122】
本実施形態7の固定構造601は、
図14,15に示すように、第2軸部12に対して、図示の下から順に、第1ヒゲ玉押さえ530、回転部材120、第2ヒゲ玉押さえ340が通された状態となっている。第1ヒゲ玉押さえ530と回転部材120とは接して配置され、回転部材120と第2ヒゲ玉押さえ340とは接して配置されている。
【0123】
このように構成された実施形態7の固定構造601によっても、実施形態4の固定構造301と同様に作用を発揮し、同様の効果を得ることができる。
【0124】
<その他の変形例>
図16,17,18は、回転部材20に形成された異形部の例を示す図である。
【0125】
図16に示した回転部材20は、ヒゲ玉部21の外周形状が軸Cからの半径が一定の真円であるが、その真円の外周の一部に、軸Cからの半径が短くなるように切欠き25(異形部)が2つ形成されたのである。これらの切欠き25に、回転軸(例えば、テン真)や規制部材(例えば、ヒゲ玉押さえ)に形成された係合部を係合させることにより、遊嵌孔24が回転軸に対して緩い状態であっても、回転部材20を、回転方向について、回転軸に固定することができる。
【0126】
図17に示した回転部材20は、ヒゲ玉部21の外周形状が軸Cを中心とする六角形状に類似した形状であり、外周の一部は、軸Cからの半径が短くなる切欠き25(異形部)が形成された状態と捉えることができる。これらの切欠き25に、回転軸(例えば、テン真)や規制部材(例えば、ヒゲ玉押さえ)に形成された係合部を係合させることにより、遊嵌孔24が回転軸に対して緩い状態であっても、回転部材20を、回転方向について、回転軸に固定することができる。
【0127】
図18に示した回転部材20は、ヒゲ玉部21の外周形状が軸Cを中心とする六角形状に類似した形状であり、六角形の頂点を結ぶ辺が直線ではなく、軸Cに向かって突出するように括れた形状となっている。そして、これら括れた部分は、軸Cからの半径が短くなる切欠き25(異形部)が形成された状態と捉えることができる。
【0128】
これらの切欠き25に、回転軸(例えば、テン真)や規制部材(例えば、ヒゲ玉押さえ)に形成された係合部を係合させることにより、遊嵌孔24が回転軸に対して緩い状態であっても、回転部材20を、回転方向について、回転軸に固定することができる。
【0129】
上述した各実施形態及び変形例は、回転部材として、ヒゲ玉を含むヒゲゼンマイを適用したものであるが、本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造は、回転部材として、ヒゲゼンマイを適用したものに限定されるものではない。
【0130】
すなわち、本発明に係る固定構造は、回転部材として、回転軸に固定される歯車やかな等を適用することもできる。
【0131】
また、本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造は、非脆性材料で形成された回転軸と脆性材料で形成された回転部材との固定構造に適用されるため、時計に用いられる部品の固定構造に限定されず、機械全般に適用可能である。
【0132】
なお、本発明に係る回転軸と回転部材との固定構造は、回転部材が脆性材料で形成されているため、脆性材料として透明なガラスなどを適用した場合、そのガラスに着色して有色透明の回転部材を生成することができる。したがって、例えば、腕時計のテンプ(回転部材の一例)をそのような有色透明に形成することで、いわゆるスケルトン仕様(裏蓋や文字板の少なくとも一部を透視できるようにしたもの)に用いると、色彩豊かな回転部材の動きを見せることができ、外観を向上させることもできる。
【符号の説明】
【0133】
1 :固定構造
10 :テン真
12 :第2軸部
20 :回転部材
21 :ヒゲ玉部
22 :ヒゲゼンマイ部
23 :繋ぎ部
24 :遊嵌孔
25 :切欠き
30 :ヒゲ玉押さえ
32 :嵌合孔
33 :凸部
C :軸