(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを回避する、事前選択されたスペクトル帯域幅を利用する事前溶接分析および関連するレーザ溶接方法およびファイバレーザ
(51)【国際特許分類】
B23K 26/00 20140101AFI20220408BHJP
B23K 26/21 20140101ALI20220408BHJP
H01S 3/067 20060101ALI20220408BHJP
H01S 3/00 20060101ALI20220408BHJP
H01S 3/0941 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
B23K26/00 M
B23K26/21 A
H01S3/067
H01S3/00 B
H01S3/0941
(21)【出願番号】P 2019515939
(86)(22)【出願日】2017-09-23
(86)【国際出願番号】 EP2017074146
(87)【国際公開番号】W WO2018055144
(87)【国際公開日】2018-03-29
【審査請求日】2020-07-02
(32)【優先日】2016-09-23
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】501012517
【氏名又は名称】アイピージー フォトニクス コーポレーション
(73)【特許権者】
【識別番号】517319363
【氏名又は名称】エーエムペーアー スイス フェデラル ラボラトリーズ フォー マテリアルズ サイエンス アンド テクノロジー
(73)【特許権者】
【識別番号】507020152
【氏名又は名称】メドトロニック,インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100114890
【氏名又は名称】アインゼル・フェリックス=ラインハルト
(74)【代理人】
【識別番号】100098501
【氏名又は名称】森田 拓
(74)【代理人】
【識別番号】100116403
【氏名又は名称】前川 純一
(74)【代理人】
【識別番号】100135633
【氏名又は名称】二宮 浩康
(74)【代理人】
【識別番号】100162880
【氏名又は名称】上島 類
(72)【発明者】
【氏名】マティアス ライストナー
(72)【発明者】
【氏名】ゼバスティアン ファブル-ブレ
(72)【発明者】
【氏名】アンドレイ マシュキン
【審査官】柏原 郁昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2011/125672(WO,A1)
【文献】特開2007-125576(JP,A)
【文献】特表2013-541420(JP,A)
【文献】特開平03-157917(JP,A)
【文献】国際公開第2014/197509(WO,A1)
【文献】実開昭62-082194(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23K 26/00
B23K 26/21
H01S 3/067
H01S 3/00
H01S 3/0941
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カバーガスのスペクトル特性から独立して金属/合金溶接プロセスのパラメータを事前選択する方法であって、
a.広帯域幅エネルギ源を使用して金属/合金溶接プロセスの発光スペクトルを分析することによって、または、文献からこの情報を取得することによって、金属/合金蒸気の電子遷移
のスペクトルを決定するステップと、
b.前記金属/合金蒸気の任意の電子遷移の前記スペクトルの範囲外のレーザ波長および線幅を選択するステップと、
を備える方法。
【請求項2】
前記金属/合金は、チタンまたはチタン合金である、
請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記レーザ波長および線幅を、プラズマプルームを回避/最小化するように選択する、請求項1記載の方法。
【請求項4】
カバーガスのスペクトル
特性から独立して加工物内に金属/合金溶接部を生成する方法であって、
a.金属/合金蒸気の電子遷移
のスペクトルを回避する
複数のスペクトル帯域幅のうちの1つを選択するステップと、
b.前記
複数のスペクトル帯域幅のうちの1つを有する溶融池を生成するのに十分な出力を有するスペクトル的に安定なレーザを提供するステップと、
c.溶接部を形成するのに十分な前記レーザからの出力で前記加工物を処理するステップと、
を備える方法。
【請求項5】
前記金属/合金は、チタンまたはチタン合金である、
請求項
4記載の方法。
【請求項6】
1つまたは複数の前記スペクトル帯域幅を、プラズマプルームを回避/最小化するように選択する、請求項4記載の方法。
【請求項7】
前記溶接部は、プラズマ残留物からの着色を実質的に含まないことを特徴とする、
請求項
4記載の方法。
【請求項8】
溶接トラックは、幾何学的な高さまたは幅の変動を実質的に含まないことを特徴とする、
請求項
4記載の方法。
【請求項9】
前記
加工物を処理するステップ中に得られるリアルタイムで検出された信号は、吸収に基づく外乱を実質的に含まない、
請求項
4記載の方法。
【請求項10】
狭帯域ファイバレーザであって、前記狭帯域ファイバレーザは、
a.所定の狭スペクトル帯域幅で出力を放射するように事前選択されたファイバブラッグ回折格子であって、前記狭スペクトル帯域幅が、金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを回避するスペクトル帯域幅に対応するファイバブラッグ回折格子と、
b.非線形性を抑制するように構成されたアクティブファイバと、
c.前記狭スペクトル帯域幅でレーザ発振できるように、前記アクティブファイバを励起するように構成されたダイオードレーザと、
を備える狭帯域ファイバレーザ。
【請求項11】
前記金属/合金は、チタンまたはチタン合金である、
請求項
10記載の
狭帯域ファイバレーザ。
【請求項12】
1つまたは複数の前記スペクトル帯域幅は、プラズマプルームを回避/最小化するように選択されている、請求項10記載の狭帯域ファイバレーザ。
【請求項13】
前記アクティブファイバは、ラージモードエリアアクティブファイバである、
請求項
10記載の
狭帯域ファイバレーザ。
【請求項14】
前記ファイバレーザは、マルチモード出力を提供するように構成されている、
請求項
13記載の
狭帯域ファイバレーザ。
【請求項15】
前記狭スペクトル帯域幅の中心波長は、1,020nm~1,090nmの範囲にある、
請求項
10記載の
狭帯域ファイバレーザ。
【請求項16】
前記狭スペクトル帯域幅の中心波長は、1,400nm~2,100nmの範囲にある、
請求項
10記載の
狭帯域ファイバレーザ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、事前溶接分析方法、ならびに金属および金属合金、特にチタンまたはチタン合金を、任意のカバーガスから独立してレーザで溶接するための方法およびレーザに関する。具体的には、本発明は、溶接プロセスにおける金属蒸気の電子遷移のスペクトルを事前に決定すること、また金属および金属合金の電子遷移のスペクトルを有するレーザビーム間の光学的な相互作用を排除する狭帯域幅ファイバレーザを提供することに関する。
【背景技術】
【0002】
レーザビーム溶接は、レーザを使用して金属製の複数の部品を接合するために使用される溶接技術である。しかしながら、凝固割れ、多孔性、材料の損失(スパッタリング)、凹凸(アンダーカット)、溶込不良、着色(酸化)などのような溶接欠陥は、機能的または審美的な理由から一部の用途では許容できない場合がある。本出願の出願人のうちの2名は、複雑な溶接問題に関して溶接の解決策を創出するという過去の経験を有している。2012年4月5日に国際公開第2012/044285号(WO2012/044285A1)として公開され、その内容全体が参照により組み込まれるPCT/US2010/050626号(以下、’626APPと記す)は、カバーガスと組み合わせてチタンを溶接するためのファイバレーザの使用に関する。本出願は、ファイバレーザによって生成された溶接の結果として生じるプラズマにおける汚染を低減するための方法およびシステムを記載している。この出願によれば、チタンまたはチタン合金加工物に作用するファイバレーザの帯域幅を狭小化し、それにより、いわゆる不活性のカバーガスまたはシールドガス、好ましくはアルゴンを用いるレーザビーム間の光学的な相互作用を低減または排除することによって、溶接における汚染を低減することができる。本出願では、アルゴンシールド(カバー)ガスと組み合わせてNd:YAGレーザを使用して、たとえ煤煙が存在しても煤煙の生成が制限される従来技術のように、カバーガスとファイバレーザビーム発光との干渉によって煤煙が生成されると仮定した。
【0003】
特に、’626APPでは、既製品のファイバレーザを使用することで、Nd:YAGレーザを用いた溶接と比較して光学溶接品質が劣る結果になるという問題の解決を目的としていた(
図1)。
【0004】
’626APPでは、この効果がカバーガスの電子遷移、すなわち1,050.65nmおよび1,067.36nmのアルゴンまたは1,066.76nmもしくは1,082.91nmのHeのレーザ光の相互作用によって引き起こされることが教示されている。’626APPではさらに、中心波長を変更し、かつレーザの発光線幅を1,070±5nmから1,064±0.5nmに減少させることにより、カバーガスの電子準位の相互作用を回避し、それによって良好な外観品質の溶接部を確保することが教示されている(
図2)。
【0005】
’626APPにはさらに、溶接材料のイオン電子準位のレーザビームの相互作用を最小にするようにレーザ発光波長を付加的に調整して、溶接部の外観態様をさらに改善できることがさらに開示されている。’626APPで提案された解決手段の欠点の1つは、ファイバレーザシステムが、レーザスペクトルを含めて、レーザ光とカバーガス(例えばアルゴン)の電子遷移との相互作用、ならびに溶接材料のイオン電子準位との相互作用の影響のみを考慮している特定の最適構成で動作することである。
【0006】
本出願では、’626APPの正確性が不完全であること、すなわち溶接の(酸化、粒子堆積および同様の効果またはそれらの組み合わせから生じる)着色を引き起こした煤煙または他の残留物が、溶接材料のイオンの相互作用によっては、またはレーザのスペクトルとカバーガスのスペクトルとの相互作用によっては引き起こされなかったという発見を記載する。それにもかかわらず、本明細書の以下に記載される解決策では、’626APPに開示された狭帯域ファイバレーザを依然として必要とする。
【0007】
費用効率が高く複雑ではない十分な出力を供給するように装備された狭帯域の安定なレーザを提供するという要求により、出願人のうちの1名は、これらの困難な要件を満たすマルチモードレーザを開発するに至った。2014年12月11日に国際公開第2014/197509号(WO2014/197509A1)として公開され、その内容全体が参照により組み込まれるPCT/US2014/40454号に記載されているように、非線形効果は、より高い出力密度が追求されているレーザ発光スペクトルに不都合なスペクトル広がりを引き起こす場合がある。
【0008】
シングルモードレーザによって提供される程度とは対照的に、そのようなレーザを適合させることができる程度は未だ探求されておらず、光の品質が溶接に十分であるかどうかについては言及されていない。
【0009】
したがって、金属/合金の溶接のためにレーザスペクトルを事前選択するための改善されたシステムおよび方法、ならびに関連する溶接プロセスおよびそれを実施することができるファイバレーザを提供することが必要とされている。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、カバーガスのスペクトル特性から独立して金属/合金溶接プロセスのパラメータを事前選択する方法を提供する。この方法は、広帯域幅エネルギ源を使用して金属/合金溶接プロセスの発光スペクトルを分析することによって、金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを決定することと、金属/合金蒸気の任意の電子遷移のスペクトルの範囲外のレーザ波長および線幅を選択することと、を含む。その結果、特定の状況下では、電子遷移スペクトルを文献において入手できる場合があり、上記の最初の実験ステップを必要としない場合がある。
【0011】
本発明によれば、カバーガスのスペクトル特性と独立して金属/合金溶接プロセスのパラメータを事前選択する方法は、広帯域幅エネルギ源を使用して金属/合金溶接プロセスの発光スペクトルを分析することによって、または文献からこの情報を取得することによって、金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを決定することと、金属/合金蒸気の任意の電子遷移のスペクトルの範囲外のレーザ波長および線幅を選択することと、を備える。しかしながら、金属/合金蒸気の任意の電子遷移のスペクトルの範囲外のレーザ波長および線幅を選択することが不可能である場合、レーザ波長および線幅は、高い振動子強度の線との相互作用が最小になるように修正される。高い振動子強度は一般に、特定の波長の光子を吸収する確率が高いことを意味することに留意すべきである。
【0012】
本発明により直ちに恩恵を受けることができる金属/合金系は、チタンまたはチタン合金であり、これは例えば、清浄な溶接を必要とする医療機器を製造するための医療用途で使用することができる。本明細書で以下に提供されるように、プラズマプルーム中のチタン蒸気のスペクトルを回避することで、実質的に残留物を含まない溶接部がもたらされる。’626APPが煤煙を最小にすることについて述べる一方で、出願人らは、煤煙および他の汚染物質が(酸化、粒子堆積および同様の効果またはそれらの組み合わせから生じる)溶接着色を引き起こす場合があると認識しており、それゆえ、煤煙の代わりに残留物という用語を使用する。
【0013】
本発明はさらに、カバーガスのスペクトルから独立して加工物内に金属/合金溶接部を生成する方法を提供する。この方法は、金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを回避する多数のスペクトル帯域幅のうちの1つを選択することを含む。特に、カバーガスのスペクトルから独立して加工物内に金属/合金溶接部を生成する方法において、この方法は、金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを回避する多数のスペクトル帯域幅のうちの1つを選択するステップと、スペクトル帯域幅のうちの1つを有する溶融池を生成するのに十分な出力を有するスペクトル的に安定なレーザを提供するステップと、溶接部を形成するのに十分なレーザからの出力で加工物を処理するステップと、を備えることが好ましい。これが上述の事前選択分析の実施を必要とすることは明らかである。
【0014】
溶接を実施するためには、溶接を生じさせるには十分な出力であるスペクトル帯域幅のうちの1つでもって溶融池を生成するには十分な出力を有するスペクトル的に安定なレーザが提供されなければならない。
【0015】
金属/合金は、チタンまたはチタン合金であることが特に好ましい。
【0016】
金属/合金溶接部を生成する方法の別の好ましい実施形態において、溶接部は、プラズマ残留物からの着色を実質的に含まないことを特徴とする。
【0017】
溶接トラックは、幾何学的な高さまたは幅の変動を実質的に含まないことを特徴とすることがさらに好ましい。溶接トラックは、レーザ溶接線に沿って多かれ少なかれ周期的な高さ変動を有する。これらの変動は、吸収されたレーザ光の変動によって強く影響を受ける、材料の凝固する間の熱流の変動によって引き起こされる。
【0018】
金属/合金溶接部を生成する方法のさらに別の好ましい実施形態では、溶接プロセスからリアルタイムで検出された信号は、吸収に基づく外乱を実質的に含まない。溶接プロセスの間の信号検出は、金属蒸気プルームレーザ光相互作用に由来する信号によって摂動される。したがって、蒸気プルーム中の吸収を減少させることは実質的に信号検出品質を向上させることになる。後者は、信号の強度または存在さえも減少させることによってなされる。
【0019】
今日までに行われた実験はチタンおよびチタン合金の使用に関するものである一方で、本発明はこれらの材料のみにそれほど限定されるものではない。本明細書に記載のチタンプルームの物理特性は他の金属/合金材料またはシステムにも適用可能であると考えられる。
【0020】
本発明の焦点は、着色の影響を受ける溶接部の生成を回避することであり、そのような着色は、プラズマから送出された残留物に起因するものである。実験結果から明らかであるように、金属/合金蒸気を回避するためにレーザのスペクトルを操作してプルーム形状をもたらすことは、干渉がある場合とは異なる。
【0021】
本発明はまた、必要なパラメータを有するレーザビームを生成するようにカスタマイズされた、狭帯域ファイバレーザ、特に安定した狭帯域ビーム発光を有するマルチモードファイバレーザを提供する。このファイバレーザは、所定の狭スペクトル帯域幅で出力を放射するように事前選択されたファイバブラッグ回折格子であって、狭帯域幅が、金属/合金蒸気の電子遷移のスペクトルを回避するスペクトル帯域幅に対応する(上記のとおりに決定された)ファイバブラッグ回折格子と、非線形性を抑制するように構成されたアクティブファイバと、狭帯域幅でレーザ発振できるように、アクティブファイバを励起するように構成されたダイオードレーザと、を含む。レーザは確実に狭帯域幅での放射を行わなければならず、かつこのために構成された先行技術のシングルモードレーザはこれを実現するために付加的な構成部品を必要とするので、非線形性の抑制は本発明の重要な態様である。上述したように、そのような狭帯域ファイバレーザシステムの費用効率が高くかつ単純な例は、2014年12月11日に国際公開第2014/197509号(WO2014/197509A1)として公開された国際出願PCT/US2014/40454号に見いだすことができ、その内容全体は、重複を避けるために、参照により本出願に組み込まれる。
【0022】
要約すると、PCT/US2014/40454号は、ファブリペロー構成を有する発振器を開示している。特に、開示された発振器は、多重横モードまたは単にマルチモード(「MM」)ステップインデックスアクティブファイバを用いて構成されている。アクティブファイバの両端は、それぞれのMMパッシブファイバに結合されている。共振キャビティは、MMパッシブファイバのそれぞれのコアに書き込まれた2つのMMファイバブラッグ回折格子の間に画定される。周知のように、シングルモード(SM)ファイバレーザにおける線広がりの主な理由の1つは、出力の増加とともにより顕著になるラマン散乱および四光波混合のような、いわゆる非線形効果(「NLE」)の存在である。NLEについての閾値は、コア直径およびキャビティ長を増大させることによって下げることができる。それ故に、大きな直径のコアおよびより小さなキャビティ長によって特徴付けられるMMファイバは、比較的狭いスペクトル線幅によって特徴付けられている。
【0023】
この場合もまた、金属/合金はチタンまたはチタン合金であることが好ましい。
【0024】
本発明のレーザの好ましい実施形態は、非線形性を最小限に抑え、かつ狭帯域幅出力を用いて溶接するための効率的かつ経済的なシステムを提供することができる単純な発振器を提供するようにする、ラージモードエリアアクティブファイバを有するマルチモードレーザである。
【0025】
レーザがマルチモード出力を提供するように構成されていることがさらに好ましい。
【0026】
本発明のレーザの別の実施形態では、狭スペクトル帯域幅の中心波長は1,020nm~1,090nmの範囲にあることが好ましい。
【0027】
さらに別の実施形態では、狭スペクトル帯域幅の中心波長は1,400nm~2,100nmの範囲にあることが好ましい。
【0028】
図1から
図8は、本発明に関連する種々の態様を例示している。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】アルゴン雰囲気中でNd:YAG(左)および既製品のファイバレーザ1,070±5nm(右)を使用した溶接スポットを示す(1kWのピーク出力、1.5msのパルス幅)。
【
図2】修正された狭線幅ファイバレーザ(1,064±0.5nm)を使用した溶接スポットを示す。
【
図3】狭帯域の1,064±0.5nmのファイバレーザで観測された典型的なプルームの高速画像である。プルーム内のダイナミクスを右図の矢印で示す。
【
図4】標準の1,070±5nmのファイバレーザ(左)および狭帯域の1,064±0.5nmのファイバレーザ(右)のプルーム膨張を示す。
【
図5】1,071.1±0.5nmのレーザを使用してスポット着色が観察されず、1,070.7nmのTi II(以下、Ti IIはイオンを表し、Ti IはTi原子を表す)ならびに1,071.3および1,071.5nmのアルゴン電子遷移を励起することを示す(1kWのピーク出力、1.5msのパルス幅)。
【
図6】Zr I(すなわち、気相中のジルコニウム原子)の11回の電子遷移を励起する標準の1,070±5nmファイバレーザおよびジルコニウムを用いて観察されたプルーム形状およびスポット着色を示す。
【
図7】ジルコニウムおよびZr Iの電子遷移を励起しない狭帯域の1,064±0.5nmファイバレーザを用いて観察されたプルーム形状およびスポット着色を示す。
【
図8】アルゴン(左)およびヘリウム雰囲気(右)における標準の1,070±5nmファイバレーザを使用したプルーム膨張および溶接着色を示す。改善された外観態様は、ヘリウム雰囲気(低密度)の場合に妨げられることのないプルーム膨張に起因する。
【
図9】NISTデータベース(上)とKurucz線リスト(下)に記載されているTi I蒸気の電子遷移の位置(白丸)を示す。
【
図10】Kurucz線リストから取得されたそれぞれの振動子強度(gf値)とともに、1,060~1,080nmの範囲の異なるレーザ発光プロファイルおよびTi I電子遷移の位置(白丸)を示す。
【
図11】1,060~1,080nmの範囲内の標準偏差を上回る振動子強度(gf値)を有する、異なるレーザ発光プロファイルおよびTi I電子遷移の位置(白丸)を示す。
【
図12】開示されたMMファイバ発振器の光学的概略図を示し、
図12Aは、その中で使用することができる例示的なマルチモードアクティブファイバを示す。
【発明を実施するための形態】
【0030】
出願人らは、本発明に関連する研究は、’626APPにおいて特定された先行技術の溶接部に対する着色効果が、実際にはプルーム膨張のダイナミクスの結果であることの実証であると主張する。
【0031】
(
図3に示すように)プルームは溶接部から膨張して渦を形成し、渦に追従できない粒子は溶接部の周りに堆積する。
【0032】
不良の外観溶接品質を与えるレーザと良好な外観溶接品質を与えるレーザとの間のプルーム膨張の直接比較(標準の1,070±5nmのレーザと狭線幅の1,064±0.5nmのレーザ)では、標準レーザのプルームがはるかに明るく、かつ小型であり、溶接材料の上を循環する1つの大きな渦を形成することを示す(
図4)。これにより、溶接部周辺の粒子堆積の増加をもたらし、外観品質が悪くなる。
【0033】
レーザプルームの発光のスペクトル分析は、カバーガス(アルゴン)からの発光が観察されないことを示した。それに加えて、1,064±0.5nmのレーザのプルーム中には、中性チタン種のみが存在する(チタン原子、Ti I)。そのため、プルームはチタン蒸気のみで構成されている(「蒸気プルーム」)。
【0034】
1,070±5nmのレーザのプルーム中には、中性チタン種(Ti I)ならびにチタンイオン(Ti II)が存在する(「プラズマプルーム」)。
【0035】
本発明は、標準1,070±5nmレーザを使用する場合にチタンのイオン化が起こり、得られるプラズマプルームが蒸気プルームと比較して著しく異なる膨張特性を示し、結果として粒子堆積が増加し、それにより溶接着色がもたらされる。
【0036】
不都合なプルーム膨張のダイナミクスを回避するためには、プルームのイオン化が回避されなければならない。
【0037】
イオン化は、レーザ光と蒸気(この場合はチタン)の電子遷移との相互作用によって起こり得る。したがって、電子遷移のエネルギ準位はレーザ波長に合致する必要がある。
【0038】
NIST原子スペクトルデータベース(Kramida,A.、Ralchenko,Yu.、Reader,J.、およびNIST ASDチーム(2015)、NIST原子スペクトルデータベース(ver.5.3)、[オンライン]を参照されたい。http://physics.nist.gov/asdより入手可能[2016年8月18日]。米国メリーランド州ゲーサーズバーグ、アメリカ国立標準技術研究所)には、既製品のファイバレーザの波長範囲(1,065~1,075nm)に分類される、チタン蒸気(Ti I)についての12本のスペクトル線およびチタンイオン(Ti II)についての7本のスペクトル線が列挙されている。
【0039】
このNIST原子スペクトルデータベースには、狭帯域レーザ(1,063.5~1,064.5nm)の波長範囲に分類されるチタン蒸気(Ti I)またはチタンイオン(Ti II)についてのスペクトル線は列挙されていない。スペクトル線関連物質に関する情報を提供する文献の別の例は、http://kurucz.harvard.edu/linelists/gfnew/から入手可能ないわゆるKurucz線リストである。このリストでは、チタンの電子準位に関する付加的な情報が明らかにされている。NISTデータベースには、既製品のファイバレーザの波長範囲(1,065~1,075nm)のチタン蒸気(Ti I)についての12本のスペクトル線が列挙されているが、Kurucz線リストは、この範囲の99本の線に関するデータを提供する。
【0040】
アルゴン(カバーガス)はプルームのイオン化には関与しない(アルゴン発光は観察されない)。これは、Outred(M.Outred、Tables of Atomic Sectral Lines for the 10000A to 40000A Region、J.Phys.Chem.Ref.データ7、1(1978)を参照されたい)によってさらにサポートされ、この著者は、狭帯域ファイバレーザの範囲内に分類され、良好な外観溶接品質を与える1063.8および1064.0nmでのアルゴン線の存在を報告している。
【0041】
中性チタン(チタン蒸気)の相互作用がイオン化の要因であり、かつチタンイオン(プラズマ)との相互作用ならびにカバーガスの線が二次的な役割を果たすことを証明するために、1,070.6~1,071.6nmの間の狭い帯域で発光する追加のファイバレーザが、出願人IPG Photonics Corp.によって作製された。
【0042】
NIST原子スペクトルデータベースには、この波長範囲において、チタン蒸気(Ti I)についてのスペクトル線は列挙されておらず、チタンイオン(Ti II)についての1つのスペクトル線が列挙されている。
【0043】
上記のOutredによる刊行物には、この波長範囲におけるアルゴンの2本のスペクトル線が列挙されている。したがって、レーザは’626APPにおいて関連があると考えられるすべての遷移(カバーガス線、チタンイオン)を励起するが、しかしながら、良好な外観溶接品質が得られると考えられる(
図5)。
【0044】
この原理(レーザ蒸気相互作用によるイオン化の回避)の普遍性は、チタンとは異なる材料を用いて同じ効果を観察することによって裏付けされた。そのような材料の一例はジルコニウム(Zr)である。
【0045】
Outred(上記参照)は、既製品のファイバレーザの波長範囲(1,065~1,075nm)に分類されるZr Iの11本のスペクトル線を報告している。狭帯域レーザの波長の範囲(1,063.5~1,064.5nm)内ではいずれの線も報告されていない。
【0046】
図6は、既製品のレーザを用いたプルーム形状およびスポット着色を示し、それに対し
図7は、狭帯域レーザ(1,063.5~1,064.5nm)のプルーム形状およびスポット着色を示す。
【0047】
この観察結果は、チタンについて以前に示された結果と一致している。
【0048】
上記の実験から、出願人は多数の結論を引き出すことができる。
【0049】
着色は、溶接部の周りのチタン粒子の堆積から生じる。
【0050】
粒子堆積はプルーム膨張に依存し、速いプルーム膨張は遅いプルーム膨張よりも良好な外観品質をもたらす。
【0051】
レーザ発光とチタン蒸気(中性原子、Ti I)の電子準位との相互作用は、チタンのイオン化をもたらし、チタンイオンおよび自由電子を形成する。このプルームは、この段階ではプラズマと呼称することができる。
【0052】
蒸気プルームと比較して、プラズマプルームは異なる膨張挙動を示す。つまり、より小さく、かつ非常にゆっくり膨張する。その結果、溶接部の周りにより多くの粒子が堆積し、強い着色を引き起こす。
【0053】
したがって、プルームのイオン化(プラズマプルームの生成)は回避されなければならない。
【0054】
したがって、レーザ出力のスペクトルは、溶接されている材料の蒸気(中性原子)の電子遷移のうちの任意のスペクトルと干渉するべきではない。レーザ波長とエネルギ準位とが一致しない場合、相互作用は生じず、ひいては光イオン化も起こらない。
【0055】
しかしながら、NIST原子スペクトルデータベースとは別のデータベース、例えばKurucz線リストを検討すると、チタンの電子準位に関する付加的な情報が明らかになる。NISTは既製品のファイバレーザの波長範囲(1,065~1,075nm)のチタン蒸気(Ti I)についての12本のスペクトル線を列挙しているが、Kurucz線リストはこの範囲の99本の線に関するデータを提供する。結果として、(
図9に示すように)これらの遷移のいずれも励起しないファイバレーザを提供することは極めて困難となる。そのような状況では、振動子強度としても公知である、いわゆる吸収効率が重要になる。
【0056】
いくつかの電子遷移では、他の電子遷移よりも効率的にレーザ放射を吸収することが可能である。電子遷移が励起されているにもかかわらず、良好な外観溶接品質を得られることが可能となる。しかしながら、この吸収効率の評価には広範囲の調査が必要となる。そのため、(可能であれば)すべての遷移を回避するのが最も簡単な方法である。振動子強度(log gf)もKuruczリストに記載されているので、重要な線の特定が可能になる。
【0057】
例えば、ファイバレーザは、Ti溶接に対して1,060~1,080nmの範囲で調整することができる。文献から知られているすべてのデータでは、ファイバレーザを調整できるような電子遷移の「間隙」は存在しない(
図9)。したがって、重要な遷移は、実験室での実験によって、または文献で入手可能なデータを使用して特定しなければならない(振動子強度の決定)。チタンの場合、Kuruczリストの振動子強度の値が得られる(
図10)。重要な線を、選択された波長範囲内のすべてのgf値の標準偏差を超えるgf値(log gfではなく線形スケール)を有する線として定義することができる(
図11)。最後に、これらの「重要な」波長を可能な限り回避するように、レーザの発光プロファイルが修正される。
【0058】
したがって、金属/合金蒸気の任意の電子遷移のスペクトルの範囲外のレーザ波長および線幅を選択することが不可能である場合、レーザ波長および線幅は、本発明によれば、高い振動子強度の線との相互作用が最小になるように修正される。
【0059】
レーザとイオンとの相互作用は、この相互作用を生じさせるためにイオンが存在しなければならないため、二次的な役割を果たす。しかしながら、イオンが存在する場合、それはすでに遅すぎるものとなる。
【0060】
レーザ/カバーガス間の相互作用の証拠を見いだすことは不可能であった。それにもかかわらず、ガス密度の違いのために、カバーガスはプルームダイナミクスに影響を与える。例えば、ヘリウム(10倍低密度アルゴン)はプルームをより容易に膨張させ、かつ良好な外観溶接品質を与えることを可能とする(
図8参照)。しかしながら、これはレーザとガスとの相互作用に関係するものではない。
【0061】
図12は、最後に、マルチモード(「MM」)ファイバレーザまたは発振器10を示し、これは、本発明にしたがって使用することができる発光体でドープされたMMファイバ12を含む利得媒質で構成されている。周知のように、発光体は、イッテルビウム(「Yb」)、エルビウム(「Er」)、ネオジム(「Nd」)、ツリウム(「Tm」)、ホルミウム(「Ho」)、プラセオジム(「Pr」)、セリウム(「Ce」)、イットリウム(Y3+)、サマリウム(Sm3+)、ユーロピウム(Eu3+)、ガドリニウム(Gd3+)、テルビウム(Tb3+)、ジスプロシウム(Dy3+)、およびルテチウム(Lu3+)ならびにこれらの様々な組み合わせから選択される希土類元素のイオンを含む。
【0062】
アクティブステップインデックスファイバ12は、通常、20より大きい、コア直径に関連付けられる多数の横モードをサポートすることが可能なコアを有するように構成されている。ファイバレーザ技術の当業者には周知であるように、ステップインデックスファイバは、そのコア直径が30μm直径を超えると、シングルモードをサポートし続けることができない。アクティブファイバ12の構成はさらに、当業者に周知の方法でコアを取り囲む1つ以上のクラッドを有することができる。
【0063】
発振器10は、アクティブファイバ12のそれぞれの両端に融着された2本のMMパッシブファイバ14を有するようにさらに構成されている。MMパッシブファイバはそれぞれ、アクティブファイバ12のそれらと実質的に一致するコア直径および開口数を有するように構成されている。ポンプ20は、サイドポンピング方式で配置されており、かつ選択されたドーピングイオンの吸収ピークに対応する発光ピークを有する1つまたは複数のMMピグテール付きレーザダイオードを含んでいる。
図12に示すように組み合わされ、かつ任意選択でハウジング(図示せず)内に配置されたパッシブ、アクティブおよびポンプファイバの組み合わせは、単一の利得ブロックを構成する。
【0064】
レーザ10は、強い反射率のMMファイバブラッグ回折格子(「FBG」)16および弱い反射率のMMファイバブラッグ回折格子18の各FBGの間に共振キャビティが画定されたファブリペロー構成を有している。FBG16および18はそれぞれMMパッシブファイバ14に書き込まれる。FBGをアクティブファイバに書き込むこともできるが、技術的に困難である場合がある。
【0065】
シングルモード(「SM」)高出力ファイバレーザのマルチキロワット実装が実現されており、すでに市場で入手可能である。連続波SM動作の最新技術の実証は現在約10kWであり、30kWを超えるSM動作水準の予測がなされている。高出力で優れたビーム品質を維持するファイバレーザの能力は議論の余地がある一方で、それらは広い吸収帯を有する材料の加工に一般的に使用されているので、レーザ線幅の心配は僅少である。
【0066】
しかしながら、特定の用途では選択的スペクトル線を必要とする。レーザ光のスペクトル線幅は、吸収ピークを回避するために狭くされるべきであり、例えば、高コストの単一周波数SMファイバレーザによって、実現することができる。
【0067】
周知のように、SMファイバレーザにおける線広がりの主な理由の1つは、出力の増加とともにより顕著になるラマン散乱および四光波混合のような、いわゆる非線形効果(「NLE」)の存在である。NLEについての閾値は、コア直径およびキャビティ長を増大させることによって下げることができる。それ故に、大きな直径のコアおよびより小さなキャビティ長によって特徴付けられるMMファイバは、比較的狭いスペクトル線幅によって特徴付けられている。
【0068】
本開示のアクティブMMファイバ12は、比較的高いNLE閾値に対する要件を完全に満たしている。1つの実施形態では、MMアクティブファイバ12の構成は、典型的な円筒形ファイバを含むことができる。他の実施形態では、アクティブファイバは、
図12Aに示すような二重ボトルネック形状で構成されることができ、2つの比較的小さい直径の入力および出力コア領域11と、中心の比較的大きい直径の中央増幅コア領域13と、中央領域の両端をそれぞれの両端コア領域の両端で架橋する2つのテーパ領域15と、を有している。増幅領域の直径の増加は、コア直径の更なる増加、ファイバ長の減少、かつ最終的にはNLE閾値の上昇、およびスペクトル線幅の狭小化に役立つ。
図12Aに示すMMアクティブファイバのクラッドは、典型的な円筒形状の断面で構成することができ、またはコアと同じ二重ボトルネック形状を有することができる。開示されたレーザについての特定の種類の材料レーザ加工のような多くの工業的要求を満たすスペクトル線幅は、0.02nm~約10nmまでで変化させることができる。所望のスペクトル線は、とりわけ、コア直径、共振キャビティ長、MMブラッグ回折格子の構成、ドーパント濃度を慎重に選択することによって得ることができる。