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特許7055176ベータ7インテグリンアンタゴニストによる胃腸炎症障害の治療を評価するためのバイオマーカーの使用
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】ベータ7インテグリンアンタゴニストによる胃腸炎症障害の治療を評価するためのバイオマーカーの使用
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6851 20180101AFI20220408BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220408BHJP
   C12Q 1/02 20060101ALI20220408BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220408BHJP
   C12N 15/21 20060101ALI20220408BHJP
   C12N 15/23 20060101ALI20220408BHJP
   C12N 15/24 20060101ALI20220408BHJP
   C12N 15/25 20060101ALI20220408BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220408BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220408BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220408BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220408BHJP
   C12N 15/12 20060101ALI20220408BHJP
   C07K 16/28 20060101ALN20220408BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220408BHJP
   C12N 15/13 20060101ALN20220408BHJP
   C07K 16/46 20060101ALN20220408BHJP
   C12N 15/62 20060101ALN20220408BHJP
   C07K 16/18 20060101ALN20220408BHJP
【FI】
C12Q1/6851 Z
G01N33/50 P ZNA
C12Q1/02
C12Q1/686 Z
C12N15/21
C12N15/23
C12N15/24
C12N15/25
A61P1/04
A61K45/00
A61P43/00 111
A61K39/395 N
C12N15/12
C07K16/28
C12P21/08
C12N15/13
C07K16/46
C12N15/62 Z
C07K16/18
【請求項の数】 22
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020125027
(22)【出願日】2020-07-22
(62)【分割の表示】P 2018147604の分割
【原出願日】2014-03-26
(65)【公開番号】P2020191883
(43)【公開日】2020-12-03
【審査請求日】2020-08-19
(31)【優先権主張番号】61/805,860
(32)【優先日】2013-03-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(31)【優先権主張番号】61/914,619
(32)【優先日】2013-12-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509012625
【氏名又は名称】ジェネンテック, インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ディール, ラウリ
(72)【発明者】
【氏名】キア, メアリー
(72)【発明者】
【氏名】タン, メイナ タオ
(72)【発明者】
【氏名】ウェイ, シアオホイ
(72)【発明者】
【氏名】ウィリアムズ, マーナ ビー.
【審査官】西垣 歩美
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-521236(JP,A)
【文献】国際公開第2012/135589(WO,A1)
【文献】特表2007-531735(JP,A)
【文献】James C. Lee,J Clin Invest.,2011年,121(10),4170-4179
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C12Q 1/00-3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者の胃腸炎症障害の治療のためのインテグリンベータ7アンタゴニストの有効性を監視する、若しくは有効性を決定するためにデータを取得する、又は有効性を決定若しくは監視することを補助する方法であって、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、治療前の患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、治療前と比較した、治療後又は治療中のバイオマーカーの量の変化が、患者の胃腸障害の治療のためのアンタゴニストの有効性を示し、又は有効性を有する一つ若しくは複数の別のバイオマーカーと組み合わせた場合の前記変化が、前記有効性を示し、バイオマーカーが、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量でり、一つ又は複数のリンパ球遺伝子が、CD19及びCD3イプシロンから選択される、方法。
【請求項2】
インテグリンベータ7アンタゴニストによる治療に対する胃腸炎症障害の患者の応答性を監視する、若しくは応答性を決定するためにデータを取得する、又は応答性を決定若しくは監視することを補助する方法であって、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、治療前の患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、治療前と比較した、治療後又は治療中のバイオマーカーの量の変化が、アンタゴニストによる治療に対する患者の応答性を示し、又は応答性を有する一つ若しくは複数の別のバイオマーカーと組み合わせた場合の前記変化が、前記応答性を示し、バイオマーカーが、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量でり、一つ又は複数のリンパ球遺伝子が、CD19及びCD3イプシロンから選択される、方法。
【請求項3】
プラセボ対照臨床治験中のアンタゴニスト治療患者における胃腸炎症障害の治療のためのインテグリンベータ7アンタゴニストの有効性を監視する、又は有効性を決定することを補助する方法であって、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、プラセボ治療患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、プラセボ治療患者におけるバイオマーカーの量と比較した、治療後又は治療中のアンタゴニスト治療患者におけるバイオマーカーの量の変化が、アンタゴニスト治療患者における胃腸障害の治療のためのアンタゴニストの有効性を示し、バイオマーカーが、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量でり、一つ又は複数のリンパ球遺伝子が、CD19及びCD3イプシロンから選択される、方法。
【請求項4】
インテグリンベータ7アンタゴニストによる治療に対する胃腸炎症障害の患者の応答性を監視する、又は応答性を決定することを補助する方法であって、患者は、プラセボ対照臨床治験中であり、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、プラセボ治療患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、プラセボ治療患者におけるバイオマーカーの量と比較した、治療後又は治療中のアンタゴニスト治療患者におけるバイオマーカーの量の変化が、アンタゴニストによる治療に対する患者の応答性を示し、バイオマーカーが、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量でり、一つ又は複数のリンパ球遺伝子が、CD19及びCD3イプシロンから選択される、方法。
【請求項5】
遺伝子発現の変化が減少である、請求項1から4の何れか一項に記載の方法。
【請求項6】
遺伝子発現量が、結腸生検組織において測定される、請求項からの何れか一項に記載の方法。
【請求項7】
遺伝子発現量が、qPCRによって測定される、請求項に記載の方法。
【請求項8】
バイオマーカーが、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される、請求項1からの何れか一項に記載の方法。
【請求項9】
バイオマーカーが、(a)43日目及び71日目に、又は(b)6週目及び10週目に測定される、請求項に記載の方法。
【請求項10】
胃腸炎症障害が炎症腸疾患である、請求項1からの何れか一項に記載の方法。
【請求項11】
炎症腸疾患が、クローン病(CD)又は潰瘍性大腸炎(UC)である、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
患者がヒトである、請求項1から11の何れか一項に記載の方法。
【請求項13】
インテグリンベータ7アンタゴニストが抗ベータ7抗体である、請求項1から12の何れか一項に記載の方法。
【請求項14】
抗体がモノクローナルである、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
抗体が、キメラ抗体、ヒト抗体又はヒト化抗体である、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
抗体が抗体断片である、請求項13から15の何れか一項に記載の方法。
【請求項17】
抗ベータ7抗体が、6つの超可変領域(HVR)を含み、
(a)HVR-L1が、アミノ酸配列A1-A11を含み、A1-A11が、RASESVDTYLH(配列番号1)、RASESVDSLLH(配列番号7)、RASESVDTLLH(配列番号8)又はRASESVDDLLH(配列番号9)であり
(b)HVR-L2が、アミノ酸配列B1-B8を含み、B1-B8が、KYASQSIS(配列番号2)、RYASQSIS(配列番号20)、又はXaaYASQSIS(配列番号21、Xaaは、任意のアミノ酸を表す)であり
(c)HVR-L3が、アミノ酸配列C1-C9を含み、C1-C9が、QQGNSLPNT(配列番号3)であり
(d)HVR-H1が、アミノ酸配列D1-D10を含み、D1-D10が、GFFITNNYWG(配列番号4)であり;
(e)HVR-H2が、アミノ酸配列E1-E17を含み、E1-E17が、GYISYSGSTSYNPSLKS(配列番号5)でありかつ
(f)HVR-H3が、アミノ酸配列F2-F11を含み、F2-F11が、MTGSSGYFDF(配列番号6)若しくはRTGSSGYFDF(配列番号19)であり、又はアミノ酸配列F1-F11を含み、F1-F11が、AMTGSSGYFDF(配列番号16)、ARTGSSGYFDF(配列番号17)、又はAQTGSSGYFDF(配列番号18)である、請求項13から16の何れか一項に記載の方法。
【請求項18】
抗ベータ7抗体が、3つの重鎖超可変領域(HVR-H1-H3)配列及び3つの軽鎖超可変領域(HVR-L1-L3)配列を含み、
(a)HVR-L1が、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で表されるアミノ酸配列を含み;
(b)HVR-L2が、配列番号2で表されるアミノ酸配列を含み;
(c)HVR-L3が、配列番号3で表されるアミノ酸配列を含み;
(d)HVR-H1が、配列番号4で表されるアミノ酸配列を含み;
(e)HVR-H2が、配列番号5で表されるアミノ酸配列を含み;かつ
(f)HVR-H3が、配列番号6又は配列番号16又は配列番号17又は配列番号19で表されるアミノ酸配列を含む、請求項13から17の何れか一項に記載の方法。
【請求項19】
抗ベータ7抗体が、配列番号31で表されるアミノ酸配列を含む可変軽鎖、及び配列番号32で表されるアミノ酸配列を含む可変重鎖を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
抗ベータ7抗体がエトロリズマブである、請求項18又は19に記載の方法。
【請求項21】
6週目の臨床寛解、10週目の臨床寛解、6週目の臨床応答、10週目の臨床応答、6週目の内視鏡検査及び直腸出血スコア0、10週目の内視鏡検査及び直腸出血スコア0、並びに応答又は寛解を達成した後のUCの再発までの時間から選択される有効性の一つ又は複数の臨床バイオマーカーをさらに含む、請求項1又は3に記載の方法。
【請求項22】
6週目の臨床寛解、10週目の臨床寛解、6週目の臨床応答、10週目の臨床応答、6週目の内視鏡検査及び直腸出血スコア0、10週目の内視鏡検査及び直腸出血スコア0、並びに応答又は寛解を達成した後のUCの再発までの時間から選択される応答の一つ又は複数の臨床バイオマーカーをさらに含む、請求項2又は4に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願とのクロスリファレンス
本出願は、2013年12月11日出願の米国仮特許出願第61/914619号及び2013年3月27日出願の米国仮特許出願第61/805860号の優先権の利益を主張し、これら双方の出願の全体が本明細書に出典明示によって援用される。
【0002】
配列表
本出願は、EFS-Webを介して提出された、その全体が本明細書に出典明示によって援用される配列リストを含む。2014年3月17日に作成された前記ASCIIコピーは、P5599R1WO_PCTSequenceListing.txtと名付けられ、20,255バイトのサイズである。
【0003】
胃腸炎症障害、例えば炎症腸疾患の治療のための、インテグリンベータ7アンタゴニスト等の治療剤の治療に対する効果、有効性、応答性を評価若しくは監視する、かつ/又は治療剤の用量若しくは投与レジメンを決定する方法が提供される。ある態様において、結腸リンパ球上の、インテグリンベータ7アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を、胃腸炎症障害の治療のためのベータ7インテグリンアンタゴニスト等の治療剤の治療に対する効果、有効性若しくは応答性のインジケータ(「バイオマーカー」)として、かつ/又は治療剤の投与若しくは投与レジメンを決定する手段として用いる方法が提供される。ある態様において、ベータ7インテグリンアンタゴニスト治療に対する効果、有効性又は応答性を、一つ若しくは複数のインテグリン受容体リガンド、リンパ球遺伝子、サイトカイン遺伝子の遺伝子発現量、又は腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数を測定することによって評価する方法が提供される。
【背景技術】
【0004】
炎症腸疾患(IBD)は、胃腸(GI)管の慢性炎症自己免疫状態であり、これは臨床的に、潰瘍性大腸炎(UC)又はクローン病(CD)として提示される。CDは、全GI管のあらゆる部分に影響を及ぼす可能性がある慢性経壁炎症疾患であり、UCは、結腸の粘膜炎症である。双方の状態は臨床的に、頻繁な便通、栄養失調及び脱水によって特徴付けられ、日常生活の活動が崩壊する。CDは頻繁に、吸収不良、狭窄及び瘻の進行によって悪化して、度重なる外科手術が必要となるおそれがある。UCは、それほど頻繁ではないが、重度の出血性の下痢及び有害な巨大結腸によって悪化して、外科手術が必要となるおそれもある。双方のIBD状態は、GI管の悪性腫瘍のリスクの増大と関連する。IBDの原因は複雑であり、病因の多くの態様は不明なままである。
【0005】
中等度から重度のIBDの治療は、治療する医師に重大な課題を提起する。というのも、コルチコステロイドによる従来の治療法及び免疫モジュレーター治療法(例えば、アザチオプリン、6メルカプトプリン、及びメトトレキサート)は、副作用及び不耐性を伴って、維持療法(ステロイド)において証明されている利益を示さなくなったためである。インフリキシマブ(キメラ抗体)及びアダリムマブ(完全なヒト抗体)等の、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)を標的とするモノクローナル抗体が現在、CDの処置に用いられている。インフリキシマブはまた、有効性を示して、UCへの使用が認可された。しかしながら、CD患者の約10%-20%が、抗TNF治療法に対するプライマリ非応答者であり、CD患者の別の~20%-30%が、時間と共に応答を失う(Schnitzlerら、Gut 58:492-500 (2009))。抗TNFと関連する他の有害事象(AE)として、結核を含む細菌感染率の上昇、並びに、めったにないがリンパ腫及び脱髄が挙げられる(Changら、Nat Clin Pract Gastroenterol Hepatology 3:220 (2006);Hoentjenら、World J. Gastroenterol. 15(17):2067 (2009))。現在利用可能な治療法で、慢性疾患を抱えるIBD患者において20%-30%を超えて持続性寛解を達成するものはない(Hanauerら、Lancet 359:1541-49 (2002); Sandbornら、N Engl J Med 353:1912-25 (2005))。また、ほとんどの患者が、ステロイドフリーの持続性寛解及び粘膜治癒、正真正銘の疾患修飾と相関する臨床転帰を達成しない。したがって、慢性使用(抗TNF治療剤に決して応答しない、又は経時的に応答を失う患者を含むより多くの割合の患者における、持続性寛解、特にステロイドフリーな寛解、及び長期の合併症の防止を伴う安全性プロファイルの向上)に最適なIBDの更なる標的治療法を開発する必要がある。
【0006】
インテグリンは、白血球粘着、シグナル伝達、増殖及び移動を含む多数の細胞プロセスにおいて、かつ遺伝子調節において役割を果たすアルファ/ベータヘテロダイマー細胞表面糖タンパク質受容体である(Hynes, R. O.、Cell、1992、69:11-25;及びHemler, M. E.、Annu. Rev. Immunol.、1990、8:365-368)。これは、内皮、上皮及び細胞外マトリックスタンパク質上の異なる細胞粘着分子(CAM)に特異的に結合する、2つのヘテロダイマーの、非共有的に相互作用するα及びβ膜貫通サブユニットから構成される。このようにして、インテグリンは、血液からほぼ全ての組織部位中への白血球の補充を高度に調節して補助する組織特異的な細胞粘着受容体として機能して、正常な組織への、かつ炎症部位への白血球のホーミングにおいて役割を果たし得る(von Andrianら、N Engl J Med 343:1020-34 (2000))。免疫系において、インテグリンは、炎症プロセス中の白血球の輸送、粘着及び浸潤に関与する(Nakajima, H.ら、J. Exp. Med.、1994、179:1145-1154)。インテグリンの差別的発現が、細胞の粘着性質を調節し、かつ様々なインテグリンが、様々な炎症応答に関与する(Butcher, E. C.ら、Science、1996、272:60-66)。ベータ7含有インテグリン(即ち、アルファ4ベータ7及びアルファEベータ7)は主に、単球、リンパ球、好酸球、好塩基球及びマクロファージ上で発現されるが、好中球上では発現されない(Elices, M. J.ら、Cell、1990、60:577-584)。
【0007】
α4β7インテグリンは、小腸におけるパイエル板、大腸におけるリンパ濾胞、及び腸間膜のリンパ節等の腸管粘膜及び会合するリンパ組織への細胞の移動に重要である白血球ホーミング受容体である。腸において、白血球のローリング及び粘膜内皮への強力な粘着が、ケモカインからのシグナルによって開始されて、粘膜アドレシン細胞粘着分子(MAdCAM)-1会合シアリルルイスXを介して媒介される。ケモカインシグナル伝達が、α4β7インテグリンを誘導して、低いMAdCAM-1結合親和性から高いMAdCAM-1結合親和性への変化を経る。続いて、白血球は、血管内皮を通る下層組織への溢出のプロセスを停止させ、始める。この溢出プロセスは、正常な免疫細胞の再循環状態及び炎症状態の双方において起こると考えられている(上記したvon Andrianら)。浸潤物中のα4β7細胞の数及びリガンドMAdCAM-1の発現は、UC又はCDの患者の腸管内等の慢性炎症部位でより高い(Briskinら、Am J Pathol 151:97-110 (1997);Souzaら、Gut 45:856-63 (1999))。α4β7は優先して、MAdCAM-1及び血管細胞粘着分子(VCAM)-1を発現する高内皮小静脈に、かつ細胞外マトリックス分子フィブロネクチン断片CS-1に結合する(Chanら、J Biol Chem 267:8366-70 (1992); Rueggら、J Cell Biol 17:179-89 (1992); Berlinら、Cell 74:185-95 (1993))。腸粘膜血管において構成的に発現されるMAdCAM-1と共に、α4β7インテグリンは、白血球の腸指向性において選択的な役割を果たすが、末梢組織又は中枢神経系への白血球のホーミングに寄与しないようである。その代わりとして、末梢リンパ輸送が、VCAM-1とのα4β7の相互作用と関連していた(Yednockら、Nature 356:63-6 (1992);Riceら、Neurology 64:1336-42 (2005))。
【0008】
Tリンパ球上に独占的に発現され、かつ粘膜組織と会合するβ7インテグリンファミリーの別のメンバーが、αEβ7インテグリンであり、それ以外ではCD103として知られている。αEβ7インテグリンは、上皮細胞上のE-カドヘリンに選択的に結合し、上皮内リンパ球コンパートメント内の粘膜組織中のT細胞の保持において役割を果たすと提唱された(Cepekら、J Immunol 150:3459-70 (1993);Kareclaら、Eur J Immunol 25:852-6 (1995))。固有層中のαEβ7細胞は、ストレスを受けた、又は感染した上皮細胞に対する細胞傷害を発現すると報告された(Hadleyら、J Immunol 159:3748-56 (1997);Buriら、J Pathol 206:178-85 (2005))。αEβ7の発現は、CDにおいて増大し(Elewautら、Acta Gastroenterol Belg 61:288-94 (1998);Oshitaniら、Int J Mol Med 12:715-9 (2003))、抗αEβ7抗体治療が、マウスにおける実験的大腸炎を軽減することが報告されており、αEβ7リンパ球がIBDの実験モデルにおいて果たす役割を含意している(Ludvikssonら、J Immunol 162:4975-82 (1999))。
【0009】
報告によると、アルファEベータ7に対するモノクローナル抗体の投与により、IL-2-/-マウスにおける免疫化誘導大腸炎が防止かつ改善され、炎症腸疾患の開始及び維持が、アルファEベータ7を発現する固有層CD4リンパ球の結腸局在化によって決まることが示唆されている(Ludvikssonら、J Immunol. 1999、162(8):4975-82)。報告によると、抗α4抗体(ナタリズマブ)はCD患者の治療において有効性があり(Sandbornら、N Engl J Med 2005; 353:1912-25)、抗αEβ7抗体(MLN-02、MLN0002、ベドリズマブ)はUCの患者に効果がある(Feaganら、N Engl J Med 2005; 352:2499-507)。これらの発見は、治療標的としてのα4β7を確認し、α4β7とMAdCAM-1との相互作用がIBDの病因を媒介するという考えを支持する。したがって、ベータ7インテグリンのアンタゴニストは、IBDを治療する治療剤としての大きな可能性がある。
【0010】
β7インテグリンサブユニットを標的とするヒト化モノクローナル抗体が以前に記載された。例えば、国際公開第2006/026759号参照。そのような1つの抗体、rhuMAbベータ7(エトロリズマブ)が、ラット抗マウス/ヒトモノクローナル抗体FIB504に由来する(Andrewら、1994)。これは、ヒトIgG1-重鎖及びκ1-軽鎖フレームワークを含むように操作された。国際公開第2006/026759号。
【0011】
rhuMAbベータ7は、α4β7(Holzmannら、Cell 56:37-46 (1989);Huら、Proc Natl Acad Sci USA 89:8254-8 (1992))、及びαEβ7(Cepekら、J Immunol 150:3459-70 (1993))に結合し、それぞれ腸管粘膜において、リンパ球サブセットの輸送及び保持を調節する。臨床研究により、CDの治療のための抗α4抗体(ナタリズマブ)の有効性が実証され(Sandbornら、N Engl J Med 353:1912-25 (2005))、UCの治療において、抗α4β7抗体(LDP02/MLN02/MLN0002/ベドリズマブ)についての有望な結果が報告された(Feaganら、N Engl J Med 352:2499-507 (2005))。これらの発見は、潜在的な治療標的としてのα4β7を確認するのに役立ち、またα4β7と粘膜アドレシン細胞粘着分子1(MAdCAM 1)との相互作用が、炎症腸疾患(IBD)の病因に寄与するという仮説を支持するのに役立つ。
【0012】
α4に結合することからα4β1及びα4β7の双方に結合するナタリズマブとは異なって、rhuMAbベータ7は、α4β7及びαEβ7のβ7サブユニットに特異的に結合するが、α4又はβ1のインテグリンの個々のサブユニットに結合しない。これは、抗体が、100nMもの高濃度にて、血管細胞粘着分子1(VCAM1)へのα4β1+α4β7-ラモス細胞の粘着を妨げることができないことによって、実証された。重要なことに、rhuMAbベータ7のこの特徴は、選択性を示す:β7でなくα4β1を発現するT細胞サブセットは、rhuMAbベータ7によって直接的に影響を受けないはずである。
【0013】
白血球ホーミングに及ぼすrhuMAbベータ7の腸特異的な効果に関する支持が、いくつかのインビボ非臨床研究に由来する。CD45RBhighCD4+T細胞で再構成された重症複合免疫不全(SCID)マウス(大腸炎の動物モデル)において、rhuMAbベータ7が、炎症を起こした結腸への、放射性標識されたリンパ球のホーミングを阻害したが、末梢リンパ器官である脾臓へのホーミングを阻害しなかった。例えば、国際公開第2006/026759号参照。また、ラット-マウスキメラ抗マウスβ7(抗β7、muFIB504)は、多発性硬化症の動物モデルである実験的自己免疫脳炎(EAE)の、ミエリン塩基性タンパク質T細胞受容体(MBP-TCR)トランスジェニックマウスにおいて、中枢神経系(CNS)炎症の組織学的な程度を引き下げることも、疾患生存率を向上させることもできなかった。同文献。さらに、カニクイザルにおける2つの安全性研究において、rhuMAbベータ7は、ヒトにおける腸ホーミングメモリ/エフェクターT細胞に表現型が類似するサブセットであるCD45RAβ7high末梢血T細胞の顕著な(約3倍~6倍)増大に大部分依っている、末梢血リンパ球数の中程度の増大を誘導した。例えば、国際公開第2009/140684号;Stefanichら、Br.J.Pharmacol.162:1855-1870(2011)参照。対照的に、rhuMAbベータ7は、ヒトにおける無感作T細胞に表現型が類似するサブセットであるCD45RA+β7intermediate末梢血T細胞の数に及ぼす効果が僅かであるか効果がなく、ヒトにおける末梢ホーミングメモリ/エフェクターT細胞に表現型が類似するサブセットであるCD45RAβ7low末梢血T細胞の数に及ぼす効果がなく、腸ホーミングリンパ球サブ集団に対するrhuMAbベータ7の特異性が確かめられた。国際公開第2009/140684号;Stefanichら、Br.J.Pharmacol.162:1855-1870(2011)。
【0014】
所望の効果及び/又は有効性を伴う治療法を設計するために、ベータ7インテグリンアンタゴニスト等の治療剤による治療に対する患者の応答性を評価することが重要である。また、有効性を提供することとなる、又はおそらく提供するベータ7インテグリンアンタゴニストの最適用量及び投与レジメンを決定することも重要である。したがって、治療剤による治療に対する患者の応答性を正確に追跡又は監視するのに用いられ得るバイオマーカーを開発することが所望される。そのようなバイオマーカーは特に、臨床治験研究におけるヒト患者のための、かつ疾患治療のための効果的な治療及び投与レジメンを設計するのに有用であろう。
【0015】
本明細書中に記載される本発明は、上記のニーズのいくつかを満たし、かつ他の利益を提供する。
【0016】
特許出願及び刊行物を含む、本明細書中に引用される全ての参考文献は、あらゆる目的において、それらの全体が出典明示によって援用される。
【発明の概要】
【0017】
本発明の方法は、少なくとも部分的に、インテグリンベータ7アンタゴニスト(例えば、抗ベータ7抗体)で治療した患者の結腸組織から得られたリンパ球上の、受容体の占有、及びαEβ7を含むインテグリンベータ7-サブユニット含有受容体の細胞表面発現が、フローサイトメトリー法によって評価されることができるという発見に基づく。また、驚くべきことに、治療患者の末梢部におけるリンパ球ベータ7受容体を飽和させることができる抗ベータ7抗体血清濃度が、(結腸の)疾患部位でのリンパ球ベータ7受容体を飽和させることができる抗ベータ7抗体血清濃度と本質的に同じであった。したがって、末梢血におけるベータ7受容体の占有が、結腸組織におけるベータ7受容体の占有の代わりのインジケータである。加えて、本発明の方法は、少なくとも部分的に、インテグリン受容体リガンド、リンパ球遺伝子及びサイトカイン遺伝子の遺伝子発現量、並びにインテグリンベータ7アンタゴニストによる治療後の腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数が変化するという発見に基づく。
【0018】
一態様において、患者の胃腸炎症障害の治療のためのインテグリンベータ7アンタゴニストの有効性を決定若しくは監視する、又は有効性を決定若しくは監視するのを補助する方法が提供される。ある実施態様において、当該方法は、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、治療前の患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、治療前と比較した、治療後又は治療中のバイオマーカーの量の変化が、患者の胃腸障害の治療のためのアンタゴニストの有効性を示し、バイオマーカーは、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有である。ある実施態様において、バイオマーカーは、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される。ある実施態様において、上記のバイオマーカーの組合せが評価される。ある実施態様において、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される一つ又は複数のバイオマーカーを用いる前記の方法は、有効性を有する一つ又は複数の別のバイオマーカーと組み合わされる。ある実施態様において、有効性を有する一つ又は複数の別のバイオマーカーは、6週目の臨床寛解、10週目の臨床寛解、6週目の臨床応答、10週目の臨床応答、6週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、10週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、並びに応答又は寛解を達成した後のUCの再発までの時間から選択される一つ又は複数の臨床バイオマーカーである。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体は、αEβ7受容体又はα4β7受容体である。一実施態様において、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を測定することによって決定され、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有と本質的に同じであると以前に決定された。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、リンパ球を、インテグリンベータ7アンタゴニストと同じエピトープに結合する標識された抗ベータ7抗体と共にインキュベートすること、リンパ球を洗浄すること、及び標識されたリンパ球の百分率をフローサイトメトリーによって測定することを含む方法によって決定される。ある実施態様において、標識は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、ローダミン、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)、PE-Cy7、APC-Cy7及びAPC-H7から選択される。一実施態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストはエトロリズマブであり、標識された抗ベータ7抗体はエトロリズマブ又はFIB504である。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるMadCAM-1の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるE-カドヘリンの量が測定される。一部の実施態様において、CD19、CD8及びCD3イプシロンから選択される一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、IL-1β、IL-6、IL-12-p40、IL-17A、IL-17-F、IL-23A、IFNγ及びTNFαから選択される一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量が測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、結腸生検組織において測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、qPCRによって測定される。ある実施態様において、バイオマーカーの変化は、増大又は減少である。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、43日目及び71日目に測定され、又はバイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、6週目及び10週目に測定される。一実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。例示的な炎症腸疾患として、潰瘍性大腸炎及びクローン病が挙げられる。ある実施態様において、患者はヒトである。
【0019】
別の態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストによる治療に対する胃腸炎症障害の患者の応答性を決定若しくは監視する、又は応答性を決定若しくは監視するのを補助する方法が提供される。ある実施態様において、当該方法は、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、治療前の患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、治療前と比較した、治療後又は治療中のバイオマーカーの量の変化が、アンタゴニストによる治療に対する患者の応答性を示し、バイオマーカーは、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有である。ある実施態様において、バイオマーカーは、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される。ある実施態様において、上記のバイオマーカーの組合せが評価される。ある実施態様において、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される一つ又は複数のバイオマーカーを用いる前記の方法は、有効性を有する一つ又は複数の別のバイオマーカーと組み合わされる。ある実施態様において、有効性を有する一つ又は複数の別のバイオマーカーは、6週目の臨床寛解、10週目の臨床寛解、6週目の臨床応答、10週目の臨床応答、6週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、10週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、並びに応答又は寛解を達成した後のUCの再発までの時間から選択される一つ又は複数の臨床バイオマーカーである。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体は、αEβ7受容体又はα4β7受容体である。一実施態様において、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を測定することによって決定され、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有と本質的に同じであると以前に決定された。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、リンパ球を、インテグリンベータ7アンタゴニストと同じエピトープに結合する標識された抗ベータ7抗体と共にインキュベートすること、リンパ球を洗浄すること、及び標識されたリンパ球の百分率をフローサイトメトリーによって測定することを含む方法によって決定される。ある実施態様において、標識は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、ローダミン、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)、PE-Cy7、APC-Cy7及びAPC-H7から選択される。一実施態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストはエトロリズマブであり、標識された抗ベータ7抗体はエトロリズマブ又はFIB504である。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるMadCAM-1の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるE-カドヘリンの量が測定される。一部の実施態様において、CD19、CD8及びCD3イプシロンから選択される一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、IL-1β、IL-6、IL-12-p40、IL-17A、IL-17-F、IL-23A、IFNγ及びTNFαから選択される一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量が測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、結腸生検組織において測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、qPCRによって測定される。ある実施態様において、バイオマーカーの変化は、増大又は減少である。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、43日目及び71日目に測定され、又はバイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、6週目及び10週目に測定される。一実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。例示的な炎症腸疾患として、潰瘍性大腸炎及びクローン病が挙げられる。ある実施態様において、患者はヒトである。
【0020】
さらに別の態様において、プラセボ対照臨床治験中のアンタゴニスト治療患者における胃腸炎症障害の治療のためのインテグリンベータ7アンタゴニストの有効性を決定又は監視する方法が提供される。ある実施態様において、当該方法は、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、プラセボ治療患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、プラセボ治療患者におけるバイオマーカーの量と比較した、治療後又は治療中のアンタゴニスト治療患者におけるバイオマーカーの量の変化が、アンタゴニスト治療患者における胃腸障害の治療のためのアンタゴニストの有効性を示し、バイオマーカーは、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有である。ある実施態様において、バイオマーカーは、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体は、αEβ7受容体又はα4β7受容体である。一実施態様において、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を測定することによって決定され、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有と本質的に同じであると以前に決定された。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、リンパ球を、インテグリンベータ7アンタゴニストと同じエピトープに結合する標識された抗ベータ7抗体と共にインキュベートすること、リンパ球を洗浄すること、及び標識されたリンパ球の百分率をフローサイトメトリーによって測定することを含む方法によって決定される。ある実施態様において、標識は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、ローダミン、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)、PE-Cy7、APC-Cy7及びAPC-H7から選択される。一実施態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストはエトロリズマブであり、標識された抗ベータ7抗体はエトロリズマブ又はFIB504である。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるMadCAM-1の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるE-カドヘリンの量が測定される。一部の実施態様において、CD19、CD8及びCD3イプシロンから選択される一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、IL-1β、IL-6、IL-12-p40、IL-17A、IL-17-F、IL-23A、IFNγ及びTNFαから選択される一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量が測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、結腸生検組織において測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、qPCRによって測定される。ある実施態様において、バイオマーカーの変化は、増大又は減少である。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、43日目及び71日目に測定され、又はバイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、6週目及び10週目に測定される。ある実施態様において、上記のバイオマーカーの組合せが評価される。ある実施態様において、当該方法はさらに、6週目の臨床寛解、10週目の臨床寛解、6週目の臨床応答、10週目の臨床応答、6週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、10週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、並びに応答又は寛解を達成した後のUCの再発までの時間から選択される有効性を有する一つ又は複数の臨床バイオマーカーを評価することを含む。一実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。例示的な炎症腸疾患として、潰瘍性大腸炎及びクローン病が挙げられる。ある実施態様において、患者はヒトである。
【0021】
またさらに別の態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストによる治療に対する胃腸炎症障害の患者の応答性を決定又は監視する方法であって、患者は、プラセボ対照臨床治験中である方法が提供される。ある実施態様において、当該方法は、アンタゴニストによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量を、プラセボ治療患者から得られた試料中のバイオマーカーの量と比較することを含み、プラセボ治療患者におけるバイオマーカーの量と比較した、治療後又は治療中のアンタゴニスト治療患者中のバイオマーカーの量の変化が、アンタゴニストによる治療に対する患者の応答性を示し、バイオマーカーは、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有である。ある実施態様において、バイオマーカーは、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体は、αEβ7受容体又はα4β7受容体である。一実施態様において、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を測定することによって決定され、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有と本質的に同じであると以前に決定された。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、リンパ球を、インテグリンベータ7アンタゴニストと同じエピトープに結合する標識された抗ベータ7抗体と共にインキュベートすること、リンパ球を洗浄すること、及び標識されたリンパ球の百分率をフローサイトメトリーによって測定することを含む方法によって決定される。ある実施態様において、標識は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、ローダミン、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)、PE-Cy7、APC-Cy7及びAPC-H7から選択される。一実施態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストはエトロリズマブであり、標識された抗ベータ7抗体はエトロリズマブ又はFIB504である。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるMadCAM-1の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、インテグリン受容体リガンドであるE-カドヘリンの量が測定される。一部の実施態様において、CD19、CD8及びCD3イプシロンから選択される一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量が測定される。一部の実施態様において、IL-1β、IL-6、IL-12-p40、IL-17A、IL-17-F、IL-23A、IFNγ及びTNFαから選択される一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量が測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、結腸生検組織において測定される。ある実施態様において、遺伝子発現量は、qPCRによって測定される。ある実施態様において、バイオマーカーの変化は、増大又は減少である。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される。ある実施態様において、バイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、43日目及び71日目に測定され、又はバイオマーカーは、初回用量のアンタゴニストを受けた後、6週目及び10週目に測定される。ある実施態様において、上記のバイオマーカーの組合せが評価される。ある実施態様において、当該方法はさらに、6週目の臨床寛解、10週目の臨床寛解、6週目の臨床応答、10週目の臨床応答、6週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、10週目の0の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコア、並びに応答又は寛解を達成した後のUCの再発までの時間から選択される有効性を有する一つ又は複数の臨床バイオマーカーを評価することを含む。一実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。例示的な炎症腸疾患として、潰瘍性大腸炎及びクローン病が挙げられる。ある実施態様において、患者はヒトである。
【0022】
さらに別の態様において、患者における胃腸炎症障害の治療のためのインテグリンベータ7アンタゴニストの投与を決定する方法が提供される。ある実施態様において、当該方法は、アンタゴニストの用量を、アンタゴニストの用量又は投与レジメンによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量の、治療前の患者から得られた試料中のバイオマーカーの量との比較に基づいて調整することを含み、治療前と比較した、治療後の、又は治療中のバイオマーカーの量の変化が、患者における胃腸障害の治療のためのアンタゴニストの用量若しくは投与レジメンの有効性又は用量若しくは投与レジメンに対する応答性を示し、バイオマーカーは、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有である。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体は、αEβ7受容体又はα4β7受容体である。一実施態様において、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を測定することによって決定され、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有と本質的に同じであると以前に決定された。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、インテグリンベータ7アンタゴニストと同じエピトープに結合する標識された抗ベータ7抗体と共にインキュベートすること、リンパ球を洗浄すること、及び標識されたリンパ球の百分率をフローサイトメトリーによって測定することを含む方法によって決定される。ある実施態様において、標識は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、ローダミン、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)、PE-Cy7、APC-Cy7及びAPC-H7から選択される。一実施態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストはエトロリズマブであり、標識された抗ベータ7抗体はエトロリズマブ又はFIB504である。一実施態様において、占有の変化は、増大又は減少である。一実施態様において、占有は、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される。一実施態様において、占有は、43日目及び71日目に測定される。一実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。例示的な炎症腸疾患として、潰瘍性大腸炎及びクローン病が挙げられる。ある実施態様において、患者はヒトである。一実施態様において、アンタゴニストは、抗ベータ7抗体であり、用量若しくは投与レジメンの有効性又は用量若しくは投与レジメンに対する応答性を示すと決定された投与又は投与レジメンは、初回の負荷用量の420mgの抗ベータ7抗体の皮下投与と、それに続く2週後の、初回の維持用量の315mg(又は300mgの名目用量)の抗ベータ7抗体の皮下投与と、それに続く1回又は複数回の2回目以降の維持用量の315mg(又は300mgの名目用量)の抗ベータ7抗体の皮下投与とを含み、2回目以降の維持用量がそれぞれ、前回の維持用量の4週後に投与される。一実施態様において、用量若しくは投与レジメンの有効性又は用量若しくは投与レジメンに対する応答性を示すと決定された投与又は投与レジメンは、105mg(又は100mgの名目用量)の抗ベータ7抗体の4週毎の皮下投与、あるいは50mg(名目用量)の抗ベータ7抗体の2週毎の皮下投与を含む。一実施態様において、抗ベータ7抗体は、エトロリズマブである。
【0023】
またさらに別の態様において、患者における胃腸炎症障害の治療のためのインテグリンベータ7アンタゴニストの投与レジメンを決定する方法が提供される。ある実施態様において、当該方法は、アンタゴニストの投与レジメンを、アンタゴニストの投与レジメンによる治療の後に、又は治療中に患者から得られた試料中のバイオマーカーの量の、治療前の患者から得られた試料中のバイオマーカーの量との比較に基づいて調整することを含み、治療前と比較した、治療後の、又は治療中のバイオマーカーの量の変化が、患者における胃腸障害の治療のためのアンタゴニストの用量若しくは投与レジメンの有効性又は用量若しくは投与レジメンに対する応答性を示し、バイオマーカーは、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有である。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体は、αEβ7受容体又はα4β7受容体である。一実施態様において、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有を測定することによって決定され、末梢血リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、結腸リンパ球上のインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有と本質的に同じであると以前に決定された。ある実施態様において、インテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有は、リンパ球を、インテグリンベータ7アンタゴニストと同じエピトープに結合する標識された抗ベータ7抗体と共にインキュベートすること、リンパ球を洗浄すること、及び標識されたリンパ球の百分率をフローサイトメトリーによって測定することを含む方法によって決定される。ある実施態様において、標識は、イソチオシアン酸フルオレセイン(FITC)、ローダミン、フィコエリトリン(PE)、アロフィコシアニン(APC)、ペリジニンクロロフィルタンパク質(PerCP)、PE-Cy7、APC-Cy7及びAPC-H7から選択される。一実施態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストはエトロリズマブであり、標識された抗ベータ7抗体はエトロリズマブ又はFIB504である。一実施態様において、占有の変化は、増大又は減少である。一実施態様において、占有は、初回用量のアンタゴニストを受けた後、100日以内に測定される。一実施態様において、占有は、43日目及び71日目に測定される。一実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。例示的な炎症腸疾患として、潰瘍性大腸炎及びクローン病が挙げられる。ある実施態様において、患者はヒトである。一実施態様において、アンタゴニストは、抗ベータ7抗体であり、用量若しくは投与レジメンの有効性又は用量若しくは投与レジメンに対する応答性を示すと決定された投与又は投与レジメンは、初回の負荷用量の420mgの抗ベータ7抗体の皮下投与と、それに続く2週後の、初回の維持用量の315mg(又は300mgの名目用量)の抗ベータ7抗体の皮下投与と、それに続く1回又は複数回の2回目以降の維持用量の315mg(又は300mgの名目用量)の抗ベータ7抗体の皮下投与とを含み、2回目以降の維持用量がそれぞれ、前回の維持用量の4週後に投与される。一実施態様において、用量若しくは投与レジメンの有効性又は用量若しくは投与レジメンに対する応答性を示すと決定された投与又は投与レジメンは、105mg(又は100mgの名目用量)の抗ベータ7抗体の4週毎の皮下投与、あるいは50mg(名目用量)の抗ベータ7抗体の2週毎の皮下投与を含む。一実施態様において、抗ベータ7抗体は、エトロリズマブである。
【0024】
上記の方法のある態様において、インテグリンベータ7アンタゴニストは、モノクローナル抗ベータ7抗体である。そのようなある実施態様において、抗ベータ7抗体は、キメラ抗体、ヒト抗体及びヒト化抗体から選択される。ある実施態様において、抗ベータ7抗体は、抗体断片である。ある実施態様において、抗ベータ7抗体は、6つの超可変領域(HVR)を含む:
(i)HVR-L1が、アミノ酸配列A1-A11を含み、A1-A11は、RASESVDTYLH(配列番号1)、RASESVDSLLH(配列番号7)、RASESVDTLLH(配列番号8)若しくはRASESVDDLLH(配列番号9)、又は配列番号1、7、8若しくは9の変異体(配列番号26)であり、アミノ酸A2は、A、G、S、T及びVからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A3は、S、G、I、K、N、P、Q、R及びTからなる群から選択され、かつ/又はA4は、E、V、Q、A、D、G、H、I、K、L、N及びRからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A5は、S、Y、A、D、G、H、I、K、N、P、R、T及びVからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A6は、V、R、I、A、G、K、L、M及びQからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A7は、D、V、S、A、E、G、H、I、K、L、N、P、S及びTからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A8は、D、G、N、E、T、P及びSからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A9は、L、Y、I及びMからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A10は、L、A、I、M及びVからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸A11は、H、Y、F及びSからなる群から選択され;
(ii)HVR-L2が、アミノ酸配列B1-B8を含み、B1-B8は、KYASQSIS(配列番号2)、RYASQSIS(配列番号20)、若しくはXaaYASQSIS(配列番号21、Xaaは、任意のアミノ酸を表す)、又は配列番号2、20若しくは21の変異体(配列番号27)であり、アミノ酸B1は、K、R、N、V、A、F、Q、H、P、I、L、Y及びXaa(Xaaは、任意のアミノ酸を表す)からなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸B4は、S及びDからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸B5は、Q及びSからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸B6は、S、D、L及びRからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸B7は、I、V、E及びKからなる群から選択され;
(iii)HVR-L3が、アミノ酸配列C1-C9を含み、C1-C9は、QQGNSLPNT(配列番号3)又は配列番号3の変異体(配列番号28)であり、アミノ酸C8は、N、V、W、Y、R、S、T、A、F、H、IL及びMからなる群から選択され;
(iv)HVR-H1が、アミノ酸配列D1-D10を含み、D1-D10は、GFFITNNYWG(配列番号4)であり;
(v)HVR-H2が、アミノ酸配列E1-E17を含み、E1-E17は、GYISYSGSTSYNPSLKS(配列番号5)又は配列番号5の変異体(配列番号29)であり、アミノ酸E2は、Y、F、V及びDからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸E6は、S及びGからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸E10は、S及びYからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸E12は、N、T、A及びDからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸13は、P、H、D及びAからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸E15は、L及びVからなる群から選択され、かつ/又はアミノ酸E17は、S及びGからなる群から選択され;
(vi)HVR-H3が、アミノ酸配列F2-F11を含み、F2-F11は、MTGSSGYFDF(配列番号6)若しくはRTGSSGYFDF(配列番号19)であり、又はアミノ酸配列F1-F11を含み、F1-F11は、AMTGSSGYFDF(配列番号16)、ARTGSSGYFDF(配列番号17)、若しくはAQTGSSGYFDF(配列番号18)、又は配列番号6、16、17、18若しくは19の変異体(配列番号30)であり、アミノ酸F2は、R、M、A、E、G、Q、Sであり、かつ/又はアミノ酸F11は、F及びYからなる群から選択される。
【0025】
ある実施態様において、抗ベータ7抗体は、3つの重鎖超可変領域(HVR-H1-H3)配列及び3つの軽鎖超可変領域(HVR-L1-L3)配列を含む:
(i)HVR-L1が、配列番号7、配列番号8又は配列番号9を含み;
(ii)HVR-L2が、配列番号2を含み;
(iii)HVR-L3が、配列番号3を含み;
(iv)HVR-H1が、配列番号4を含み;
(v)HVR-H2が、配列番号5を含み;
(vi)HVR-H3が、配列番号6又は配列番号16又は配列番号17又は配列番号19を含む。ある実施態様において、抗ベータ7抗体は、配列番号31のアミノ酸配列を含む可変軽鎖、及び配列番号32のアミノ酸配列を含む可変重鎖を含む。
【0026】
ある実施態様において、抗ベータ7抗体は、rhuMAbベータ7とも呼ばれるエトロリズマブである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
図1A】次のコンセンサス配列及び抗ベータ7サブユニット抗体配列の可変軽鎖の配列のアラインメントを示す図である:軽鎖ヒトサブグループκIコンセンサス配列(図1A、配列番号12)、ラット抗マウスベータ7抗体(Fib504)可変軽鎖(図1A、配列番号10)、ヒト化抗体変異体:ヒト化hu504K移植片可変軽鎖(図1A、配列番号14)、変異体hu504-5、hu504-16、及びhu504-32(ヒト化hu504K移植片由来のアミノ酸変異は、図1A中に示される)(軽鎖)(配列番号22-24、それぞれ出現順)。
図1B】次のコンセンサス配列及び抗ベータ7サブユニット抗体配列の可変重鎖の配列のアラインメントを示す図である:重鎖ヒトサブグループIIIコンセンサス配列(図1B、配列番号13)、ラット抗マウスベータ7抗体(Fib504)可変重鎖(図1B、配列番号11)、ヒト化hu504K移植片可変重鎖(図1B、配列番号15)、変異体hu504-5、hu504-16、及びhu504-32(配列番号25)、図1B(重鎖)。
図2A】実施例1に記載された占有アッセイの概略図を示す図である。
図2B】実施例1に記載された発現アッセイ(MOAアッセイとも呼ばれる)の概略図を示す図である。
図3A】実施例1に記載された末梢血T細胞の表現型細区分を示す図である。
図3B】実施例1に記載された末梢血B細胞の表現型細区分を示す図である。
図4A】実施例1に記載された2つの異なる投与レジメンに従った、プラセボ(pbo)又はエトロリズマブ投与後の患者試料における末梢血T細胞(CD3+、CD4+、CD45RA-、ベータ7high)上のインテグリンベータ7占有を示す図である。ベースラインの百分率(%BL)として表される群平均値絶対カウントは、平均値からの標準偏差を表すエラーバーと共に示される。白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)。実線の矢印は、治療群に従ったエトロリズマブ又はpbo投与を示す。破線の矢印は、全治療群でのプラセボ投与を示す。
図4B】実施例1に記載された2つの異なる投与レジメンに従った、プラセボ(pbo)又はエトロリズマブ投与後の患者試料における末梢血T細胞(CD3+、CD4-、CD45RA-、ベータ7high)上のインテグリンベータ7占有を示す図である。ベースラインの百分率(%BL)として表される群平均値絶対カウントは、平均値からの標準偏差を表すエラーバーと共に示される。白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)。実線の矢印は、治療群に従ったエトロリズマブ又はpbo投与を示す。破線の矢印は、全治療群でのプラセボ投与を示す。
図4C】実施例1に記載された2つの異なる投与レジメンに従った、プラセボ(pbo)又はエトロリズマブ投与後の患者試料における末梢血B細胞(CD19+、IgD-、ベータ7high)上のインテグリンベータ7占有を示す図である。ベースラインの百分率(%BL)として表される群平均値絶対カウントは、平均値からの標準偏差を表すエラーバーと共に示される。白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)。実線の矢印は、治療群に従ったエトロリズマブ又はpbo投与を示す。破線の矢印は、全治療群でのプラセボ投与を示す。
図5A】実施例1に記載された2つの異なる投与レジメンに従った、プラセボ(pbo)又はエトロリズマブ投与後の患者試料における末梢血粘膜(腸)ホーミングT細胞及びB細胞上のインテグリンベータ7発現を示す図である。ベースラインからの変化として表される群中央値絶対カウントは、中央値からの絶対偏差を表すエラーバーと共に示される。(A)粘膜(腸)ホーミングCD3+CD4+T細胞。白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)。実線の矢印は、治療群に従ったエトロリズマブ又はpbo投与を示す。破線の矢印は、全治療群でのプラセボ投与を示す。
図5B-C】実施例1に記載された2つの異なる投与レジメンに従った、プラセボ(pbo)又はエトロリズマブ投与後の患者試料における末梢血粘膜(腸)ホーミングT細胞及びB細胞上のインテグリンベータ7発現を示す図である。ベースラインからの変化として表される群中央値絶対カウントは、中央値からの絶対偏差を表すエラーバーと共に示される。(B)粘膜(腸)ホーミングCD3+CD4-T細胞;(C)粘膜(腸)ホーミングCD19+B細胞。白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)。実線の矢印は、治療群に従ったエトロリズマブ又はpbo投与を示す。破線の矢印は、全治療群でのプラセボ投与を示す。
図6】実施例1に記載されたエトロリズマブの治療前に患者から得られた結腸生検試料から得られた、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球上の細胞表面αEβ7発現の代表的FACSドットプロットを示す図である。エトロリズマブ投与前の患者からのTリンパ球FACSプロット:αEレベルを縦軸に示し、標識されたFIB504抗体(競合抗体)を用いて決定したβ7レベルを横軸に示し、上右四分の一の囲みは、αE+及びβ7+両方の細胞からのシグナルを示す。
図7】実施例1に記載された100mgエトロリズマブ又はプラセボの単回投与で治療の前後に患者から得られた結腸生検試料から得られたCD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球上の細胞表面αEβ7占有の代表的FACSドットプロットを示す図である。αEレベルを縦軸に示し、標識されたFIB504抗体(競合抗体)を用いて決定したβ7レベルを横軸に示し、上右四分の一は、αE+及びβ7+両方の細胞からのシグナルを示す;両マーカーに対して陽性に染色された細胞の百分率を示す。左側に示されたプロットは、エトロリズマブを投与された患者のFACSドットプロットを示す;右側に示されたプロットは、プラセボを投与された患者のFACSドットプロットを示す;上段のプロットは、投与前を示す;中段のプロットは43日目を示し、下段のプロットは71日目を示す。ここに示したものと類似した結果が、エトロリズマブ又はプラセボを投与された他の患者から得られた。
図8A-B】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボの治療前、治療中及び/又は治療後に患者から得られた結腸生検試料から得られた、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球上のベータ7受容体占有を示す図である。検出可能なTリンパ球の消失は、占有を示す。(A)「100mg」投与群、「300mg+LD」投与群、又はプラセボで治療された患者についての、検出可能なαEβ7+、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球のコホート中央値百分率、白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)で示す;(B)「100mg」投与群、「300mg+LD」投与群、又はプラセボで治療された患者についての、検出可能なα4β7+、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球のコホート中央値百分率、白丸で実線(pbo)、点刻された丸で鎖線(100mgエトロリズマブ)、黒丸で破線(300mg+LDエトロリズマブ)で示す。
図8C-D】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボの治療前、治療中及び/又は治療後に患者から得られた結腸生検試料から得られた、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球上のベータ7受容体占有を示す図である。検出可能なTリンパ球の消失は、占有を示す。(C)エトロリズマブ群の「100mg」投与の7例の患者の各々についての、検出可能なαEβ7+、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球の百分率;単回投与(SD)のみを受けた2例の患者を破線で示し、そのうちの1例は抗治療抗体(ATA)応答があった;(D)「300mg+LD」投与群の7例の患者の各々についての、検出可能なαEβ7+、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球の百分率。TNF-IR患者を(*)で示す。
図8E】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボの治療前、治療中及び/又は治療後に患者から得られた結腸生検試料から得られた、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球上のベータ7受容体占有を示す図である。検出可能なTリンパ球の消失は、占有を示す。(E)プラセボ投与群の9例の患者の各々についての、検出可能なαEβ7+、CD45+、CD3+、CD4-Tリンパ球の百分率。TNF-IR患者を(*)で示す。
図9】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後に臨床寛解なしの患者と比較した臨床寛解患者における、結腸生検でのインテグリン発現を示す図である。(A)スクリーニング時(Scr)、6週目及び10週目のqPCRによるインテグリンβ7発現;(B)スクリーニング時(Scr)、6週目及び10週目のqPCRによるインテグリンβ1発現;(C)スクリーニング時(Scr)、6週目及び10週目のqPCRによるインテグリンα4発現;(D)スクリーニング時(Scr)、6週目及び10週目のqPCRによるインテグリンαE発現。データは、ベースラインからの倍率変化(2-ΔΔCt)を群中央値±中央値絶対偏差で表す。黒丸で破線、プラセボ非臨床寛解患者;白丸で実線、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;点刻された丸で鎖線、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図10】実施例1に記載された腸陰窩上皮のαE+細胞へのエトロリズマブの作用を示す図である。(A)エトロリズマブ(ストライプの四角)又はプラセボ(点刻された四角)による治療の前後の腸陰窩上皮のαE細胞中央値;(B)腸陰窩上皮のαE細胞の代表的なIHC染色。
図11】実施例1に記載された腸固有層のαE+細胞へのエトロリズマブの作用を示す図である。(A)エトロリズマブ(ストライプの四角)又はプラセボ(点刻された四角)による治療の前後の全患者における腸固有層のαE細胞平均値;(B)エトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後に、臨床寛解を達成しなかった患者と比較した臨床寛解患者における腸固有層のαE細胞平均値。平均値、四分位数間範囲(IQR)、及び範囲をボックスプロットで示す:点刻された四角、プラセボ非臨床寛解患者;ストライプの四角、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;白い四角、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図12A】エトロリズマブ又はプラセボで治療した非臨床寛解患者と比較した臨床寛解患者における腸陰窩上皮のαE+細胞の免疫組織化学定量化を示す図である。平均値、四分位数間範囲(IQR)、及び範囲をボックスプロットで示す。点刻された四角、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;ストライプの四角、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者;白い四角、プラセボ非臨床寛解患者。
図12B】実施例1に記載された臨床寛解状態による、エトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後の結腸組織のE-カドヘリンレベルを示す図である。黒丸で破線、プラセボ非臨床寛解患者;白丸で実線、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;点刻された丸で鎖線、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図13A-D】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後に臨床寛解なしの患者と比較した臨床寛解患者における、結腸生検でのMAdCAM-1、サイトカイン及びリンパ球サブセットのマーカーの発現を示す図である。発現はqPCRによって定量化され、データを倍率変化(2-ΔΔCt)群中央値±中央値絶対偏差(MAD)で表す。(A)IL-17F;(B)IL-1β;(C)IL-12p40;(D)IL-6。黒丸で破線、プラセボ非臨床寛解患者;白丸で実線、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;点刻された丸で鎖線、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図13E-H】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後に臨床寛解なしの患者と比較した臨床寛解患者における、結腸生検でのMAdCAM-1、サイトカイン及びリンパ球サブセットのマーカーの発現を示す図である。発現はqPCRによって定量化され、データを倍率変化(2-ΔΔCt)群中央値±中央値絶対偏差(MAD)で表す。(E)TNFα;(F)CD19;(G)CD4;(H)CD8。黒丸で破線、プラセボ非臨床寛解患者;白丸で実線、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;点刻された丸で鎖線、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図13I-L】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後に臨床寛解なしの患者と比較した臨床寛解患者における、結腸生検でのMAdCAM-1、サイトカイン及びリンパ球サブセットのマーカーの発現を示す図である。発現はqPCRによって定量化され、データを倍率変化(2-ΔΔCt)群中央値±中央値絶対偏差(MAD)で表す。(I)CD3ε;(J)MAdCAM-1;(K)IL-17A;(L)IL-23A。黒丸で破線、プラセボ非臨床寛解患者;白丸で実線、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;点刻された丸で鎖線、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図13M】実施例1に記載されたエトロリズマブ又はプラセボによる治療の前後に臨床寛解なしの患者と比較した臨床寛解患者における、結腸生検でのMAdCAM-1、サイトカイン及びリンパ球サブセットのマーカーの発現を示す図である。発現はqPCRによって定量化され、データを倍率変化(2-ΔΔCt)群中央値±中央値絶対偏差(MAD)で表す。(M)IFNγ。黒丸で破線、プラセボ非臨床寛解患者;白丸で実線、エトロリズマブ治療臨床寛解患者;点刻された丸で鎖線、エトロリズマブ治療非臨床寛解患者。
図14】実施例1に記載された43日目及び71日目に負荷用量量をプラスして100mgエトロリズマブq4w又は300mgエトロリズマブq4wで治療した患者における、結腸リンパ球ベータ7受容体占有と比較した、エトロリズマブの血清濃度を表す図である。単回投与のみを受けた2例の患者のように、TNF-IR患者は示される。矢印は、2回投与のみを受けた1例の患者を同定する。
図15】エトロリズマブの可変軽鎖領域(A)(配列番号31)及び可変重鎖領域(B)(配列番号32)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
別に定義される場合を除いて、本明細書中で用いられる技術用語及び科学用語は、一般的に本発明が属する当該技術分野の当業者よって理解されるのと同じ意味を有する。Singletonら、Dictionary of Microbiology and Molecular Biology 2nd ed.、J.Wiley及びSons(New York、N.Y.1994)、及びMarch,Advanced Organic Chemistry Reactions,Mechanisms and Structure 4th ed.、John Wiley及びSons(New York、N.Y.1992)が、当該技術分野の当業者に、本出願において用いられる用語の多くの一般的なガイドを提供する。
【0029】
I. 特定の定義
本明細書及び添付の特許請求の範囲において用いられる単数形「a」、「an」及び「the」は、別に文脈において明確に述べられる場合を除いて、複数を含む。したがって、例えば、「タンパク質」への言及は、複数のタンパク質を含み、「細胞」への言及は、細胞(一又は複数)の混合物を含み、その他も同様である。
【0030】
本明細書及び添付の特許請求の範囲において提供される範囲は、両方のエンドポイント及びエンドポイント間の全ポイントを含む。したがって、例えば2.0から3.0の範囲は、2.0、3.0を、及び2.0から3.0の間の全ポイントを含む。
【0031】
「治療」は、治療される個体又は細胞の自然の経過を変えようとする臨床干渉を指し、予防のために、又は臨床病理学の過程で、実行することができる。治療の所望の効果として、疾患の発生又は再発の防止、症状の緩和、疾患の任意の直接的又は間接的な病理学的帰結の軽減、疾患進行の速度の低下、病態の改善又は緩和、及び寛解又は予後の改善が挙げられる。
【0032】
「治療レジメン」は、投薬の組合せ、投与の頻度、又は治療の期間を指し、第2の医薬品の添加の有無に拘らない。
【0033】
「効果的な治療レジメン」は、治療を受ける患者に有益な応答をもたらすこととなる治療レジメンを指す。
【0034】
「治療を修飾する」は、治療レジメンを変えることを指し、投薬量、投与の頻度、若しくは治療の期間、及び/又は第2の医薬品の添加を変えることが挙げられる。
【0035】
「患者の応答」又は「患者の応答性」は、患者への利益を示す任意のエンドポイントを用いて評価されてよく、限定されないが、(1)スローダウン及び完全な停止が挙げられる、疾患進行のある程度の抑制;(2)疾患発症数及び/若しくは症状数の軽減;(3)病変サイズの減少;(4)隣接の末梢器官及び/若しくは組織中への疾患細胞の浸潤の抑制(即ち、軽減、スローダウン又は完全な停止);(5)疾患の広がりの抑制(即ち、軽減、スローダウン又は完全な停止);(6)疾患病変の後退若しくはアブレーションをもたらし得るが、そうする必要はない、自己免疫応答、免疫応答若しくは炎症応答の減退;(7)障害と関連する一つ若しくは複数の症状のある程度の緩和;(8)治療後の疾患フリーの提示期間の増大;並びに/又は(9)治療後の所与の時点での死亡率の低下が挙げられる。用語「応答性」は、測定可能な応答を指し、完全寛解(complete response)(CR)及び部分寛解(partial response)(PR)が挙げられる。
【0036】
「完全寛解」即ち「CR」が目的とするのは、治療に応答した炎症の全徴候の消滅又は寛解である。これは、疾患が治癒したことを必ずしも意味しない。
【0037】
「部分寛解」即ち「PR」は、治療に応答した、炎症の重篤度の少なくとも50%の軽減を指す。
【0038】
インテグリンベータ7アンタゴニスト及び類似の文言による治療に対する患者の「有益な応答」は、抗ベータ7インテグリン抗体等のアンタゴニストによる治療からの、又は治療の結果としての、胃腸炎症障害のリスクがある患者、又は胃腸炎症障害の患者に与えられる臨床利益又は治療利益を指す。そのような利益として、細胞応答若しくは生物学的応答、完全寛解、部分寛解、疾患の安定(進行も再発もなし)、又はアンタゴニストによる治療から、若しくは治療の結果として、患者の再発が遅れるという応答が挙げられる。
【0039】
患者の応答性が、治療の過程で時間と共に減少しない場合、「患者が、治療に対する応答性を維持している」。
【0040】
本明細書中で用いられる「非応答」若しくは「応答の欠如」又は類似の文言は、完全寛解、部分寛解、又はインテグリンベータ7アンタゴニストによる治療に対する有益な応答の不在を意味する。
【0041】
用語「インテグリンベータ7アンタゴニスト治療法の有効性を監視する」は、試料が、インテグリンベータ7アンタゴニストによる治療法の前、間、及び/又は後に患者から、少なくとも1回(連続的であることも含む)得られること、及び結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択されるバイオマーカーが、そのような試料において測定されて、治療法の前、治療法の間、及び/又は治療法の後の結果が比較されて、治療法が有効であるか否かの指標が得られることを示すために用いられる。治療法の有効性を監視する際に、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有、一つ又は複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ又は複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ又は複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択されるバイオマーカーのレベルが測定され、一実施態様において、同じバイオマーカーの参照値と比較され、又は更なる実施態様において、患者が治療法を受けている、若しくは治療法の開始前の何れか一方であるが、より以前の時点にて同じ患者から得られた試料における同じバイオマーカーのレベルと比較される。一実施態様において、結腸リンパ球上の、アンタゴニストによるインテグリンベータ7サブユニット含有受容体の占有、一つ若しくは複数のインテグリン受容体リガンドの遺伝子発現量、一つ若しくは複数のリンパ球遺伝子の遺伝子発現量、一つ若しくは複数のサイトカインの遺伝子発現量、及び腸陰窩上皮中のアルファE陽性細胞の数から選択される一つ若しくは複数のバイオマーカーの減少レベル又は増大レベル、患者が既に治療法を受けている、若しくは治療法の開始前の何れか一方であるが、より以前の時点にて同じ患者から得られた試料における同じバイオマーカーのレベルと比較されるバイオマーカーの、特に、本明細書中でさらに記載されるように評価されるバイオマーカーによって決まる減少レベル又は増大レベルが、患者が治療法に応答性であることを示す。
【0042】
用語「診断」は、分子の、又は病理学的な状態、疾患若しくは状態の同定又は分類を指すために、本明細書中で用いられる。例えば、「診断」は、組織/器官の病変(例えば、炎症腸疾患)による、又は他の特徴(例えば、インテグリンベータ7アンタゴニストによる治療等の治療に対する応答性によって特徴付けられる患者のサブ集団)による、胃腸炎症障害の特定のタイプの同定、より詳細には胃腸炎症障害の特定のサブタイプの分類を指し得る。
【0043】
用語「予後」は、疾患症状の見込みの予測を指すために本明細書中で用いられ、例えば、胃腸炎症障害の再発、再燃及び薬物抵抗性が挙げられる。
【0044】
本明細書中で用いられる用語「試料」又は「試験試料」は、例えば物理的、生化学的、化学的かつ/又は生理的な特徴に基づいて特徴付けられ得る、かつ/又は同定され得る細胞実体及び/又は他の分子実体を含有する、対象とする被検体から得られる、又は被検体に由来する組成物を指す。例えば、フレーズ「疾患試料」及びその変形物は、特徴付けられ得る細胞実体及び/又は分子実体を含有することが予想される、又はそうすることが知られている、対象とする被検体から得られる任意の試料を指す。試料は、対象とする被検体の組織から、又は被検体の末梢血から得することができる。
【0045】
本明細書中で用いられる「参考試料」は、比較目的で用いられる任意の試料、標準又はレベルを指す。一実施態様において、参考試料は、同じ被検体若しくは患者の体(例えば、組織又は細胞)の健常な部分、及び/又は非疾患性の部分から得られる。別の実施態様において、参考試料は、同じ被検体若しくは患者の体の未治療の組織及び/又は細胞から得られる。さらに別の実施態様において、参考試料は、被検体でも患者でもない個体の体(例えば、組織又は細胞)の健常な部分、及び/又は非疾患性の部分から得られる。さらにまた別の実施態様において、参考試料は、被検体でも患者でもない個体の体の未治療の組織及び/又は細胞の部分から得られる。
【0046】
「ベータ7インテグリンアンタゴニスト」又は「ベータ7アンタゴニスト」は、一つ若しくは複数の生物活性をブロックする、又はその一つ若しくは複数の会合分子とのベータ7インテグリンの結合を妨げる任意の分子を指す。本発明のアンタゴニストは、ベータ7会合効果の一つ又は複数の態様を調節するために用いられてよく、限定されないが、アルファ4インテグリンサブユニットとの会合、アルファEインテグリンサブユニットとの会合、アルファ4ベータ7インテグリンの、MAdCAM、VCAM-1又はフィブロネクチンへの結合、及びアルファEベータ7インテグリンの、E-カドヘリンへの結合が挙げられる。これらの効果は、ベータ7サブユニットに、又はアルファ4ベータ7若しくはアルファEベータ7ダイマーインテグリンに結合するリガンドの崩壊が挙げられる、生物学的に関連する任意の機構によって、及び/あるいは、ダイマーインテグリンの形成が妨げられるように、アルファインテグリンサブユニットとベータインテグリンサブユニットとの会合を崩壊させることによって、調節され得る。本発明の一実施態様において、ベータ7アンタゴニストは、抗ベータ7インテグリン抗体(又は抗ベータ7抗体)である。一実施態様において、抗ベータ7インテグリン抗体は、ヒト化抗ベータ7インテグリン抗体、より詳細には組換え型ヒト化モノクローナル抗ベータ7抗体(又はエトロリズマブとも呼ばれるrhuMAbベータ7)である。一部の実施態様において、本発明の抗ベータ7抗体は、ベータ7サブユニットの、アルファ4インテグリンサブユニットとの結合、アルファEインテグリンサブユニットとの会合、アルファ4ベータ7インテグリンの、MAdCAM、VCAM-1又はフィブロネクチンへの結合、及びアルファEベータ7インテグリンの、E-カドヘリンへの結合を妨げる又は阻害する抗インテグリンベータ7アンタゴニスト抗体である。
【0047】
「ベータ7サブユニット」又は「β7サブユニット」によって意味されるのは、ヒトβ7インテグリンサブユニットである(Erleら、(1991) J. Biol. Chem. 266:11009-11016)。ベータ7サブユニットは、ヒトアルファ4サブユニット等のアルファ4インテグリンサブユニットと会合する(Kilger及びHolzmann (1995) J. Mol. Biol. 73:347-354)。アルファ4ベータ7インテグリンは、報告によると、大部分の成熟リンパ球、並びに胸腺細胞、骨髄細胞及び肥満細胞の小集団上で発現される(Kilshaw及びMurant (1991) Eur. J. Immunol. 21:2591-2597、Gurishら(1992) 149:1964-1972、並びにShaw, S. K.及びBrenner, M. B. (1995) Semin. Immunol. 7:335)。ベータ7サブユニットはまた、ヒトアルファEインテグリンサブユニット等のアルファEサブユニットと会合する(Cepek, K. L.ら(1993) J. Immunol. 150:3459)。アルファEベータ7インテグリンは、腸内上皮リンパ球(iIEL)上で発現される(上記したCepek, K. L. (1993))。
【0048】
「アルファEサブユニット」又は「アルファEインテグリンサブユニット」又は「αEサブユニット」又は「αEインテグリンサブユニット」又は「CD103」によって意味されるのは、上皮内リンパ球上のベータ7インテグリンと会合することが認められているインテグリンサブユニットであり、アルファEベータ7インテグリンは、iELsの、E-カドヘリンを発現する腸上皮への結合を媒介する(Cepek, K. L.ら(1993) J. Immunol. 150:3459、Shaw, S. K.及びBrenner, M. B. (1995) Semin. Immunol. 7:335)。
【0049】
「MAdCAM」又は「MAdCAM-1」は、本発明の文脈では互換的に用いられ、短い細胞質テール、膜貫通領域、及び3つの免疫グロブリン様ドメインから構成される細胞外配列を含む単一鎖ポリペプチドであるタンパク質粘膜アドレシン細胞粘着分子-1を指す。マウス、ヒト及びマカクのMAdCAM-1のcDNAがクローニングされた(Briskinら、(1993)Nature、363:461-464;Shyjanら、(1996) J. Immunol.156:851-2857)。
【0050】
「VCAM-1」又は「血管細胞粘着分子-1」「CD106」は、活性化された内皮上で発現され、炎症中の白血球の結合及び移行等の内皮-白血球相互作用に重要である、アルファ4ベータ7及びアルファ4ベータ1のリガンドを指す。
【0051】
「CD45」は、タンパク質チロシンホスファターゼ(PTP)ファミリーのタンパク質を指す。PTPは、細胞の増殖、分化、有糸分裂周期及び発癌性形質転換を含む種々の細胞プロセスを調節するシグナル伝達分子であることが知られている。このPTPは、細胞外ドメイン、単一の膜貫通セグメント及び2つのタンデム型細胞質内触媒ドメインを含有するので、受容体タイプのPTPに属する。この遺伝子は、造血細胞において特異的に発現される。このPTPは、T細胞及びB細胞抗原受容体シグナル伝達の必須の制御因子であることが示された。これは、抗原受容体複合体の成分との直接的な相互作用を通して、又は抗原受容体シグナル伝達のために必要とされる種々のSrcファミリーキナーゼを活性化することによって、機能する。このPTPはまた、JAKキナーゼを抑制するので、サイトカイン受容体シグナル伝達の制御因子として機能する。異なるアイソフォームをコードする、この遺伝子の4つの選択的にスプライスされた転写物変異体が報告された(Tchilian EZ、Beverley PC (2002).「CD45 in memory and disease.」Arch. Immunol. Ther. Exp. (Warsz.) 50(2):85-93. Ishikawa H、Tsuyama N、Abroun Sら(2004).「Interleukin-6, CD45 and the src-kinases in myeloma cell proliferation.」Leuk. Lymphoma 44(9):1477-81)。
【0052】
CD45の種々のアイソフォームが存在する:CD45RA、CD45RB、CD45RC、CD45RAB、CD45RAC、CD45RBC、CD45RO、CD45R(ABC)。CD45はまた、高度にグリコシル化されている。CD45Rは、最も長いタンパク質であり、T細胞から単離される場合、200kDaで移動する。B細胞はまた、より重鎖のグリコシル化を受けたCD45Rを発現し、分子量が220kDaとなると、名前B220が、220kDaのB細胞アイソフォームを指す。B220の発現は、B細胞に制限されず、活性化されたT細胞、樹枝細胞のサブセット、及び他の抗原提示細胞上でも発現され得る。Stanton T、Boxall S、Bennett Aら(2004).「CD45 variant alleles:possibly increased frequency of a novel exon 4 CD45 polymorphism in HIV seropositive Ugandans.」Immunogenetics 56(2):107-10。
【0053】
「腸ホーミングリンパ球」は、腸リンパ節及び組織に選択的にホーミングするが、末梢リンパ節及び組織にホーミングしない特徴を有するリンパ球のサブグループを指す。リンパ球のこのサブグループは、CD4、CD45RA及びベータ7の組合せが挙げられるがこれに限られない、複数の細胞表面分子の組合せの固有の発現パターンによって特徴付けられる。典型的には、末梢血CD4リンパ球の少なくとも2つのサブセットが、CD45RA及びベータ7の、CD45RAβ7highCD4細胞及びCD45RAβ7lowCD4細胞のマーカーに基づいて再分割され得る。CD45RAβ7highCD4細胞は優先して、腸リンパ節及び組織にホーミングするが、CD45RAβ7lowCD4+細胞は優先して、末梢リンパ節及び組織にホーミングする(Rottら1996、Rottら1997、Williamsら1998、Roseら1998、Williams及びButcher 1997、Butcherら1999)。したがって、腸ホーミングリンパ球は、フローサイトメトリーアッセイにおいてCD45RAβ7highCD4として同定されるリンパ球の特有のサブグループである。リンパ球のこのグループを同定する方法は、当該技術分野において周知であり、本出願の実施例においても詳細に開示される。
【0054】
本明細書中で用いられる細胞表面マーカーに関して、シンボル「+」は、細胞表面マーカーの陽性発現を示す。例えば、CD4リンパ球は、細胞表面上でCD4が発現される一群のリンパ球である。
【0055】
本明細書中で用いられる細胞表面マーカーに関して、シンボル「-」は、細胞表面マーカーの陰性発現を示す。例えば、CD45RAリンパ球は、細胞表面上でCD45RAが発現されない一群のリンパ球である。
【0056】
本明細書中で用いられる細胞表面マーカーの発現に関して、シンボル「low」は、リンパ球上の細胞表面マーカーの発現の比較的低いレベルを示し、「high」は、リンパ球上の細胞表面マーカーの発現の比較的高いレベルを示す。フローサイトメトリーにおいて、β7highの強度は、β7lowの強度よりも少なくとも約10倍又は約100倍高い。したがって、本明細書中に提供される例示的な実施態様において、CD45RAβ7lowCD4リンパ球及びCD45RAβ7highCD4リンパ球は、X軸がCD45RAの発現強度であり、Y軸がベータ7の発現強度であるフローサイトメトリー分析のドットプロット又はヒストグラムにおいて、異なる部分に位置する。
【0057】
「末梢ホーミングリンパ球」は、末梢リンパ節及び組織にホーミングし、腸リンパ節及び組織にホーミングしない特徴を有するリンパ球のサブグループを指す。例示的な実施態様において、先に説明されるように、末梢ホーミングリンパ球は、フローサイトメトリーアッセイにおいてCD45RAβ7lowCD4細胞として同定されるリンパ球の特有のグループである。リンパ球のこのグループを同定する方法は、当該技術分野において既知であり、本出願において詳細に開示されている。
【0058】
バイオマーカーの「量」又は「レベル」は、フローサイトメトリー分析等の、当該技術分野において既知であり、かつ本明細書中に開示されている方法を用いて決定することができる。
【0059】
「バイオマーカーの量又はレベルの変化」は、バイオマーカーの基準量/コンパレータ量と比較したものである。ある実施態様において、変化は、基準量又はコンパレータ量の値の関数として、約10%よりも大きい、又は約30%よりも大きい、又は約50%よりも大きい、又は約100%よりも大きい、又は約300%よりも大きい。例えば、基準量又はコンパレータ量は、治療前のバイオマーカーの量であってよく、より詳細にはベースライン量又はプレ用量であってもよい。
【0060】
本明細書中で用いられるフレーズ「と本質的に同じ」は、当該技術分野の当業者が、前記値(例えば、薬物標的受容体を飽和状態にするのに必要とされる薬物血清レベル)によって測定された生物学的特性という文脈の中での統計的有意性があるほどの変化又は生物学的に意味がある変化を考えないような、変化の程度が非有意であることを表す。例えば、互いと約2倍未満異なる、又は約3倍未満異なる、又は約4倍未満異なる受容体を飽和状態にするのに必要な血清薬物濃度は、本質的に同じと考えられる。
【0061】
「胃腸炎症障害」は、粘膜において炎症及び/又は潰瘍を引き起こす一群の慢性障害である。これらの障害として、例えば、炎症腸疾患(例えば、クローン病、潰瘍性大腸炎、不確定性大腸炎及び感染性大腸炎)、粘膜炎(例えば、口腔粘膜炎、胃腸粘膜炎、鼻粘膜炎及び直腸炎)、壊死性全腸炎及び食道炎が挙げられる。好ましい実施態様において、胃腸炎症障害は、炎症腸疾患である。
【0062】
「炎症腸疾患」又は「IBD」は、炎症及び/又は潰瘍を引き起こす腸の疾患を指すのに本明細書中で互換的に用いられ、限定されないがクローン病及び潰瘍性大腸炎が挙げられる。
【0063】
「クローン病(CD)」又は「潰瘍性大腸炎(UC)」は、病因不明の慢性炎症腸疾患である。クローン病は、潰瘍性大腸炎とは異なり、腸のあらゆる部分に影響を及ぼし得る。クローン病の最も顕著な特徴は、腸壁の、粒状の赤みがかった紫色の浮腫状肥厚である。炎症の進行により、これらの肉芽腫が多くの場合、その外接ボーダーを失って、周囲組織と統合する。下痢及び腸の閉塞症が、顕著な臨床特徴である。潰瘍性大腸炎と同様に、クローン病の経過は連続的でも再発性でもあり得るし、軽度でも重度でもあり得るが、潰瘍性大腸炎とは異なり、クローン病は腸の関与するセグメントの切除によって治療可能でない。クローン病のほとんどの患者は、ある時点で外科手術を必要とするが、以降の再発が一般的であり、継続的な医学的治療が通常である。
【0064】
クローン病は、口から肛門まで消化管のあらゆる部分に影響を与え得るが、典型的には、回結腸、小腸又は結腸-肛門直腸領域において現れる。組織病理学的に、疾患として、不連続な肉芽腫(granulomatomas)、腺窩膿瘍、裂傷及びアフタ性潰瘍が顕在化する。リンパ球(T細胞及びB細胞の双方)、形質細胞、マクロファージ及び好中球からなる炎症浸潤物が混合される。IgM-及びIgG-分泌形質細胞、マクロファージ及び好中球が、不相応に増大する。
【0065】
抗炎症薬であるスルファサラジン及び5-アミノサリチル(aminosalisylic)酸(5-ASA)が、やや活発な結腸クローン病を治療するのに有用であり、一般的に、疾患の寛解を維持するために処方される。メトロニダゾール(Metroidazole)及びシプロフロキサシンは、有効性がスルファサラジンと類似しており、特に肛門周囲の疾患を治療するのに有用であると思われる。より重度である症例において、コルチコステロイドが、活発な増悪を治療するのに効果的であり、さらに言えば寛解を維持することもできる。アザチオプリン及び6-メルカプトプリンもまた、コルチコステロイドの慢性投与を必要とする患者において成功を示した。これらの薬物が、長期の予防において役割を果たし得ることも可能である。不運にも、一部の患者において、作用の開始前に非常に長い遅延(最長6カ月)があり得る。下痢止め薬もまた、一部の患者において症状緩和を実現し得る。栄養学的な治療法又は必須食品が、患者の栄養状態を向上させ得、かつ急性疾患の症状改善を誘導し得るが、持続した臨床寛解を誘導しない。抗生物質が、二次的小腸細菌過増殖の治療及び化膿性合併症の治療に用いられる。
【0066】
「潰瘍性大腸炎(UC)」は、大腸を苦しめる。疾患の経過は連続的でも再発性でもあり得るし、軽度でも重度でもあり得る。最も初期の病変は、リーベルキューン腺窩の底部での膿瘍形成による炎症浸潤である。これらの膨張かつ破裂した腺窩の癒着が、上を覆う粘膜をその血液サプライから分離する傾向があり、潰瘍を引き起こす。疾患の症状として、痙攣、下腹部痛、直腸の出血、並びに、主に血液、膿及び粘液からなる、不十分な糞便粒子による頻繁なゆるい排泄が挙げられる。結腸全摘除が、急性の重度の、又は慢性的な、寛解をみない潰瘍性大腸炎に必要とされるおそれがある。
【0067】
UCの臨床特徴は高度に可変的であり、開始は潜行性でも突然でもあり得、下痢、しぶり及び直腸出血の再発を含むおそれがある。全結腸の病変が急速に進行して、有害な巨大結腸、致命的な緊急事態が起こるおそれがある。腸外に発現する症状として、関節炎、膿皮症壊疽(pyoderma gangrenoum)、ブドウ膜炎及び結節性紅斑が挙げられる。
【0068】
UCの治療として、軽度の症例にはスルファサラジン及び関連するサリチル酸塩含有薬、並びに重度の症例にはコルチコステロイド薬が挙げられる。サリチル酸塩又はコルチコステロイドの何れの局所投与も、特に疾患が遠位腸に限定される場合に時折有効であり、全身性使用と比較して、副作用の軽減を伴う。鉄剤及び下痢止め剤の投与等の支持処置が時折必要とされる。アザチオプリン、6-メルカプトプリン及びメトトレキサートもまた時折、抵抗性コルチコステロイド依存症例用に処方される。
【0069】
「有効な投薬量」は、投薬時に、及び所望の治療結果又は予防結果を達成するのに必須の期間、有効な量を指す。
【0070】
本明細書中で用いられる用語「患者」は、任意の単一の動物、より好ましくは治療が所望される哺乳類(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウサギ、動物園動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、及び非ヒト霊長類等の非ヒト動物が挙げられる)を指す。最も好ましくは、本明細書中で患者はヒトである。
【0071】
用語「非ヒト被検体」は、任意の単一の非ヒト動物、より好ましくは哺乳類(例えば、イヌ、ネコ、ウマ、ウサギ、動物園動物、ウシ、ブタ、ヒツジ、及び非ヒト霊長類等の非ヒト動物が挙げられる)を指す。
【0072】
用語「抗体」及び「免疫グロブリン」は、最も広い意味において互換的に用いられ、モノクローナル抗体(例えば、完全長の、即ちインタクトなモノクローナル抗体)、ポリクローナル抗体、多価抗体、多重特異性抗体(例えば、所望の生物活性を示す限りにおいて、二重特異性抗体)が挙げられ、また、ある抗体断片(本明細書中でより詳細に記載される)が挙げられる。抗体は、ヒト抗体、ヒト化抗体及び/又は、親和性成熟抗体であってもよい。
【0073】
「抗体断片」は、インタクトな抗体の部分のみを含み、当該部分は好ましくは、インタクトな抗体中に存在する場合に当該部分に普通に関連する機能の少なくとも1つ、好ましくはほとんど又は全てを保持する。一実施態様において、抗体断片が、インタクトな抗体の抗原結合部位を含むと、抗原に結合する能力を保持する。別の実施態様において、抗体断片、例えばFc領域を含む抗体断片が、インタクトな抗体中に存在する場合に、FcRn結合、抗体半減期変調、ADCC機能及び補体結合等の、Fc領域に標準的に関連する生物学的機能の少なくとも1つを保持する。一実施態様において、抗体断片が、インタクトな抗体と実質的に類似するインビボ半減期を有する一価の抗体である。例えば、そのような抗体断片は、インビボ安定性を断片に付与することができる、Fc配列に結合する抗原上結合腕を含んでよい。
【0074】
本明細書中で用いられる用語「モノクローナル抗体」は、実質的に均一の抗体の集団から得られる抗体を指す、即ち、集団を構成する個々の抗体(一又は複数)は、微量に存在し得る、起こり得る天然に存在する突然変異を除いて、同一である。モノクローナル抗体は、高度に特異的であり、単一の抗原に向けられる。さらに、典型的には様々な決定要素(エピトープ)に向けられる様々な抗体を含むポリクローナル抗体調製物と対照的に、各モノクローナル抗体は、抗原上の単一の決定要素に向けられる。
【0075】
本明細書中のモノクローナル抗体として、具体的に、重鎖及び/又は軽鎖の一部が、特定の種に由来する抗体、又は特定の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一である、又は配列に相同である一方で、鎖の残りが、別の種に由来する抗体、又は別の抗体クラス若しくはサブクラスに属する抗体中の対応する配列と同一である、又は配列に相同である「キメラ」抗体、並びに、所望の生物活性を示す限りにおいて、そのような抗体の断片が挙げられる(米国特許4816567号;及びMorrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 81:6851-6855 (1984))。
【0076】
非ヒト(例えば、マウス)抗体の「ヒト化」形態は、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ抗体である。ほとんどの部分について、ヒト化抗体は、レシピエントの超可変領域の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット、ウサギ又はヒト以外の霊長類等の非ヒト種(ドナー抗体)の超可変領域の残基によって取って代わられているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)である。一部の例において、ヒト免疫グロブリンのフレームワーク領域(FR)残基が、対応する非ヒト残基によって取って代わられている。さらに、ヒト化抗体は、レシピエント抗体においてもドナー抗体においても見られない残基を含んでよい。これらの修飾は、抗体性能をさらに精練するためになされる。一般に、ヒト化抗体は、少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むこととなり、超可変ループの全て又は実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンの全て又は実質的に全てに相当し、FRの全て又は実質的に全てが、ヒト免疫グロブリンlo配列の全て又は実質的に全てである。ヒト化抗体はまた、任意選択的に、免疫グロブリンの定常領域(Fc)の少なくとも一部、典型的にはヒト免疫グロブリンの少なくとも一部を含むこととなる。更なる詳細は、Jonesら、Nature 321:522-525(1986);Riechmannら、Nature 332:323-329(1988);及びPresta、Curr.Op.Struct.Biol.2:593-596(1992)参照。以下のレビュー論文及びその中で引用される参考文献も参照:Vaswani及びHamilton、Ann.Allergy,Asthma & Immunol.1:105-115(1998);Harris、Biochem.Soc.Transactions 23:1035-1038(1995);Hurle及びGross、Curr.Op.Biotech.5:428-433(1994)。
【0077】
「ヒト抗体」は、本明細書中で開示されるように、ヒトによって産生される抗体のアミノ酸配列に相当するアミノ酸配列を含み、かつ/又はヒト抗体を製造する任意の技術を用いて製造されたものである。そのような技術は、ファージディスプレイライブラリ等のヒト由来コンビナトリアルライブラリをスクリーニングすること(例えば、Marksら、J. Mol. Biol.、222:581-597 (1991)及びHoogenboomら、Nucl. Acids Res.、19:4133-4137 (1991)参照);ヒトモノクローナル抗体の産生用のヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株を用いること(例えば、Kozbor J. Immunol.、133:3001 (1984);Brodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、55-93 (Marcel Dekker, Inc.、New York、1987);及びBoernerら、J. Immunol.、147:86 (1991)参照);並びに内因性免疫グロブリン産生がない場合にヒト抗体の完全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)においてモノクローナル抗体を生じさせること(例えば、Jakobovitsら、Proc. Natl. Acad. Sci USA、90:2551 (1993);Jakobovitsら、Nature、362:255 (1993); Bruggermannら、Year in Immunol.、7:33 (1993)参照)を含む。ヒト抗体のこの定義は、とりわけ、抗原結合残基を含むヒト化抗体を、非ヒト動物から除外する。
【0078】
「単離された」抗体は、その自然環境の成分から同定かつ分離され、かつ/又は回収されたものである。その自然環境の汚染物質成分は、抗体の診断使用又は治療使用に干渉するであろう、かつ酵素、ホルモン及び他のタンパク質様溶質又は非タンパク質様溶質を含んでよい材料である。好ましい実施態様において、抗体は、(1)ラウリー法によって決定されて、95重量%を超える、最も好ましくは99重量%を超える抗体に、(2)スピニングカップシーケネイターの使用によってN末端若しくは内部アミノ酸配列の少なくとも15の残基を得るのに十分な程度に、又は(3)クーマシーブルー、若しくは好ましくは銀染色を用いる還元条件若しくは非還元条件下のSDS-PAGEによって均一に、精製されることとなる。抗体の自然環境の少なくとも1つの成分が存在しないこととなるので、単離された抗体は、組換え細胞内の抗体をインサイチュで含む。しかしながら、通常、単離された抗体は、少なくとも1つの精製工程によって調製されることとなる。
【0079】
用語「超可変領域」、「HVR」又は「HV」は、本明細書中で用いられる場合、配列が超可変である、かつ/又は構造的に明確なループを形成する、抗体可変ドメインの領域を指す。概して、抗体は6つの超可変領域;VH(H1、H2、H3)の3つ及びVL(L1、L2、L3)の3つを含む。いくつかの超可変領域描写が用いられて、本明細書中に包含される。Kabatの相補性決定領域(CDR)は、配列可変性に基づいており、最も一般的に用いられている(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed. Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、Md. (1991))。Chothiaは、その代わりとして、構造ループの位置に言及している(Chothia及びLesk J. Mol. Biol. 196:901-917 (1987))。AbM超可変領域は、KabatのCDRとChothiaの構造ループとの妥協を表しており、Oxford MolecularのAbM抗体モデル化ソフトウェアによって用いられている。「接触」超可変領域は、利用可能な複合結晶構造の分析に基づいている。これらのHVRのそれぞれの残基が、以下に示される。
【0080】
超可変領域は、以下のような「拡張された超可変領域」を含んでよい:VL中、24-36又は24-34(L1)、46-56又は49-56又は50-56又は52-56(L2)及び89-97(L3)、並びにVH中、26-35(H1)、50-65又は49-65(H2)及び93-102、94-102又は95-102(H3)。可変ドメイン残基は、Kabatらに従ってナンバリングされている(これらの定義のそれぞれについては、上記)。
【0081】
「フレームワーク」又は「FR」残基は、本明細書中で定義される、超可変領域残基以外の可変ドメイン残基である。
【0082】
「ヒトコンセンサスフレームワーク」は、ヒト免疫グロブリンVL又はVHフレームワーク配列の選択において最も一般的に生じるアミノ酸残基を表すフレームワークである。概して、ヒト免疫グロブリンVL又はVH配列の選択は、可変ドメイン配列のサブグループからである。概して、配列のサブグループは、Kabatらにあるようなサブグループである。一実施態様において、VLについて、サブグループはKabatらにあるようなサブグループカッパIである。一実施態様において、VHについて、サブグループはKabatらにあるようなサブグループIIIである。
【0083】
「親和性成熟」抗体は、その一つ又は複数のCDRにおいて一つ又は複数の改変を有する抗体であり、この改変は、改変を所有しない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性の改善をもたらす。好ましい親和性成熟抗体は、ナノモル、又はさらに言えばピコモルの、標的抗原に対する親和性を有することとなる。親和性成熟抗体は、当該技術分野において既知の手順によって産生される。Marksら Bio/Technology 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダムな突然変異生成が、以下によって記載されている:Barbasら Proc Nat.Acad.Sci,USA 91:3809-3813(1994);Schierら Gene 169:147-155(1996);Yeltonら J.Immunol.155:1994-2004(1995);Jacksonら、J.Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkinsら J.Mol.Biol.226:889-896(1992)。
【0084】
「結合親和性」は概して、分子(例えば、抗体)の単一の結合部位と、その結合パートナー(例えば、抗原)との非共有相互作用の総計の強度を指す。特に明記される場合を除いて、本明細書中で用いられる「結合親和性」は、結合対のメンバー(一又は複数)(例えば、抗体と抗原)間で1:1の相互作用を反映する固有の結合親和性を指す。分子Xの、そのパートナーYに対する親和性は概して、解離定数(Kd)によって表すことができる。親和性は、当該技術分野において既知の一般的な方法によって測定されてよく、本明細書中に記載されるものが挙げられる。低親和性抗体は概して、抗原にゆっくり結合し、容易に解離する傾向があるが、高親和性抗体は概して、抗原により速く結合し、より長く結合したままである傾向がある。結合親和性を測定する種々の方法が当該技術分野において既知であり、その何れが本発明のために用いられてもよい。
【0085】
用語「可変」は、可変ドメインのある部分が、抗体間で配列が広く異なっており、特定の各抗体の、その特定の抗原に対する結合及び特異性に用いられるという事実を指す。しかしながら、可変性は、抗体の可変ドメインの全体を通して一様に分配されていない。可変性は、軽鎖及び重鎖の可変ドメインの双方において超可変領域と呼ばれる3つのセグメントに集中する。可変ドメインのより高度に保存された部分は、フレームワーク領域(FR)と呼ばれる。生来の重鎖及び軽鎖の可変ドメインはそれぞれ4つのFRを含み、大部分はβシート構成を採用し、3つの超可変領域によって連結されており、これらは、βシート構造を連結し、場合によってはβシート構造の部分を形成するループを形成する。各鎖における超可変領域(一又は複数)は、FRによって極めて接近して一緒に保持され、かつ他の鎖からの超可変領域と共に、抗体の抗原結合部位の形成に寄与する(Kabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed. Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD. (1991)参照)。定常ドメインは、抗体を抗原に結合させる際に直接的に関与しないが、抗体依存性細胞傷害(ADCC)への抗体の参加等の種々のエフェクター機能を示す。
【0086】
抗体のパパイン消化により、「Fab」断片と呼ばれる2つの同一の抗原結合断片が生産され、それぞれが単一の抗原結合部位を有し、残りが「Fc」断片であり、その名前は容易に結晶化するその能力を反映している。ペプシン処理により、2つの抗原結合部位を有し、かつ抗原を架橋結合することが依然としてできるF(ab’)断片が産出される。
【0087】
「Fv」は、完全な抗原認識部位及び抗原結合部位を含有する最小抗体断片である。この領域は、密接した非共有結合の、1つの重鎖及び1つの軽鎖の可変ドメインのダイマーからなる。この構成において、各可変ドメインの3つの超可変領域が相互作用して、V-Vダイマーの表面上に抗原結合部位を定義する。まとめて、6つの超可変領域が、抗体に対する抗原結合特異性を付与する。しかしながら、単一の可変ドメイン(又は抗原に特異的な3つの超可変領域のみを含むFvの半分)ですら、全結合部位よりも低い親和性であるものの、抗原を認識し、かつ抗原に結合する能力を有する。
【0088】
Fab断片はまた、軽鎖の定常ドメイン及び重鎖の第1の定常ドメイン(CH1)を含有する。Fab’断片は、抗体ヒンジ領域からの一つ又は複数のシステインを含む重鎖CH1ドメインのカルボキシ末端での数残基の添加により、Fab断片と異なる。Fab’-SHは、本明細書中における、定常ドメインのシステイン残基が少なくとも1つの遊離チオール基を有するFab’の名称である。F(ab’)抗体断片(一又は複数)は当初、それらの間にヒンジシステインを有するFab’断片の対として生産された。抗体断片の他の化学的カップリングもまた知られている。
【0089】
任意の脊椎動物種からの抗体の「軽鎖」が、定常ドメインのアミノ酸配列に基づいて、カッパ(κ)及びラムダ(λ)と呼ばれる、2つの明確に異なるタイプの内の1つに割り当てられ得る。
【0090】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、抗体(免疫グロブリン)が、様々なクラスに割り当てられ得る。免疫グロブリンの5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかがさらに、例えば、IgG、IgG、IgG、IgG、IgA及びIgAといったサブクラス(アイソタイプ)に分割され得る。免疫グロブリンの様々なクラスに相当する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの様々なクラスのサブユニット構造及び3次元構成がよく知られており、例えば、Abbasら Cellular and Mol.Immunology、4th ed.(W.B.Saunders、Co.、2000)中に概して記載されている。抗体は、一つ又は複数の他のタンパク質又はペプチドによる抗体の共有結合又は非共有結合によって形成されるより大きな融合分子の部分であってもよい。
【0091】
用語「全長抗体」、「インタクトな抗体」及び「全抗体」は、以下で定義されるような抗体断片ではない、その実質的にインタクトな形態の抗体を指し、本明細書中で互換的に用いられる。当該用語は特に、Fc領域を含有する重鎖を有する抗体を指す。
【0092】
本明細書中の目的の「裸抗体」は、細胞傷害部分又は放射性標識にコンジュゲートされない抗体である。
【0093】
本明細書中の用語「Fc領域」は、生来の配列Fc領域及び変異Fc領域を含む免疫グロブリン重鎖のC末端領域を定義するのに用いられる。免疫グロブリン重鎖のFc領域の境界が変化することがあるが、ヒトIgG重鎖Fc領域は通常、位置Cys226のアミノ酸の残基から、又はPro230から、そのカルボキシル末端に及ぶと定義される。Fc領域のC末端リジン(EUナンバリング系に従う残基447)は、例えば、抗体の産生若しくは精製中に、又は抗体の重鎖をコードする核酸を組換え操作することによって、除去することができる。したがって、インタクトな抗体の組成が、全K447残基が除去された抗体集団、K447残基が除去されていない抗体集団、及びK447残基が有ったり無かったりする抗体の混合物を有する抗体集団を含んでよい。
【0094】
特に明記される場合を除いて、本明細書中で、免疫グロブリン重鎖中の残基のナンバリングは、出典明示によって本明細書中に援用されるKabatら、Sequences of Proteins of Immunological Interest、5th Ed.Public Health Service、National Institutes of Health、Bethesda、MD(1991)にあるようなEU指標のナンバリングである。「KabatにあるようなEU指標」は、ヒトIgG1 EU抗体の残基ナンバリングを指す。
【0095】
「機能的なFc領域」は、生来の配列Fc領域の「エフェクター機能」を有する。例示的な「エフェクター機能」として、C1q結合;補体依存性細胞傷害;Fc受容体結合;抗体依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC);食作用;細胞表面受容体(例えば、B細胞受容体;BCR)の下方制御等が挙げられる。そのようなエフェクター機能は概して、Fc領域が結合ドメイン(例えば、抗体可変ドメイン)と組み合わされることを必要とし、例えば、本明細書中に開示されるような種々のアッセイを用いて評価することができる。
【0096】
「生来の配列Fc領域」は、天然に見られるFc領域のアミノ酸配列と同一のアミノ酸配列を含む。生来の配列ヒトFc領域として、生来の配列ヒトIgG1 Fc領域(非Aアロタイプ及びAアロタイプ)、生来の配列ヒトIgG2 Fc領域、生来の配列ヒトIgG3 Fc領域、及び生来の配列ヒトIgG4 Fc領域、並びにそれらの天然に存在する変異体が挙げられる。
【0097】
「変異Fc領域」は、少なくとも1つのアミノ酸修飾、好ましくは一つ又は複数のアミノ酸置換によって生来の配列Fc領域のアミノ酸配列と異なるアミノ酸配列を含む。好ましくは、変異Fc領域は、生来の配列Fc領域と、又は親ポリペプチドのFc領域と比較して、少なくとも1つのアミノ酸置換を有し、例えば、生来の配列のFc領域における、又は親ポリペプチドのFc領域における約1から約10のアミノ酸置換、好ましくは約1から約5のアミノ酸置換である。本明細書中の変異Fc領域は、好ましくは、生来の配列Fc領域と、かつ/又は親ポリペプチドのFc領域と少なくとも約80%のホモロジー、最も好ましくは少なくとも約90%のホモロジー、より好ましくは少なくとも約95%のホモロジーを有することとなる。
【0098】
それらの重鎖の定常ドメインのアミノ酸配列に応じて、インタクトな抗体が、様々な「クラス」に割り当てられ得る。インタクトな抗体の5つの主要なクラス:IgA、IgD、IgE、IgG及びIgMがあり、これらのいくつかがさらに、例えば、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA及びIgA2といった「サブクラス」(アイソタイプ)に分割され得る。抗体の様々なクラスに対応する重鎖定常ドメインはそれぞれ、α、δ、ε、γ及びμと呼ばれる。免疫グロブリンの様々なクラスのサブユニット構造及び3次元構成がよく知られている。
【0099】
「抗体依存性細胞媒介細胞傷害」及び「ADCC」は、Fc受容体(FcR)(例えばナチュラルキラー(NK)細胞、好中球及びマクロファージ)を発現する非特異的細胞傷害性細胞が、標的細胞上の結合抗体を認識して、その後標的細胞の溶解を引き起こす細胞媒介反応を指す。ADCCであるNK細胞を媒介するプライマリ細胞は、FcγRIIIのみを発現するが、単球は、FcγRI、FcγRII及びFcγRIIIを発現する。造血細胞上でのFcR発現は、Ravetch及びKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991)のp464の表3に要約されている。注目する分子のADCC活性を評価するために、米国特許5500362号又は米国特許5821337号に記載されるようなインビトロADCCアッセイを実行することができる。そのようなアッセイに有用なエフェクター細胞として、末梢血単核細胞(PBMC)及びナチュラルキラー(NK)細胞が挙げられる。その代わりに又はそれに加えて、注目する分子のADCC活性は、例えば、Clynesら PNAS(USA) 95:652-656(1998)に開示されるような動物モデルにおいて、インビボ評価することができる。
【0100】
「ヒトエフェクター細胞」は、一つ又は複数のFcRを発現し、かつエフェクター機能を実行する白血球である。好ましくは、細胞は少なくともFcγRIIIを発現し、かつADCCエフェクター機能を実行する。ADCCを媒介するヒト白血球の例として、末梢血単核細胞(PBMC)、ナチュラルキラー(NK)細胞、単球、細胞傷害性T細胞及び好中球が挙げられる;PBMC及びNK細胞が好ましい。エフェクター細胞は、その生来の供給源から、例えば、本明細書中に記載されるように血液又はPBMCsから単離することができる。
【0101】
用語「Fc受容体」又は「FcR」は、抗体のFc領域に結合する受容体を記載するのに用いられる。好ましいFcRは、生来の配列ヒトFcRである。さらに、好ましいFcRは、IgG抗体(ガンマ受容体)に結合し、かつFcγRI、FcγRII及びFcγRIIIサブクラスの受容体を含むFcRであり、対立遺伝子変異体及びこれらの受容体の選択的にスプライスされた形態を含む。FcγRII受容体として、FcγRIIA(「活性化受容体」)及びFcγRIIB(「阻害受容体」)が挙げられ、これらは、主にそれらの細胞質ドメインが異なる類似のアミノ酸配列を有する。活性化受容体FcγRIIAは、その細胞質ドメイン中に、免疫受容活性化チロシンモチーフ(ITAM)を含有する。阻害受容体FcγRIIBは、その細胞質ドメイン中に、免疫受容阻害チロシンモチーフ(ITIM)を含有する(M. Daeron、Annu. Rev. Immunol. 15:203-234 (1997)のレビュー参照)。FcRsは、Ravetch及びKinet、Annu.Rev.Immunol 9:457-92(1991);Capelら、Immunomethods 4:25-34(1994);並びにde Haasら、J.Lab.Clin.Med.126:330-41(1995)においてレビューされている。将来同定されることとなるものを含む他のFcRが、本明細書中で用語「FcR」によって包含される。当該用語はまた、母親IgGsの、胎児への移行の原因となり(Guyerら、J. Immunol. 117:587 (1976)及びKimら、J. Immunol. 24:249 (1994))、かつ免疫グロブリンのホメオスタシスを調節する新生児型受容体FcRnを含む。新生児型Fc受容体(FcRn)への結合が向上し、かつ半減期が増大した抗体が、国際公開第00/42072号(Presta,L.)及び米国特許出願第2005/0014934A1号(Hintonら)に記載されている。これらの抗体はFc領域を含み、その中の一つ又は複数の置換が、Fc領域の、FcRnへの結合を向上させる。例えば、Fc領域は、一つ又は複数の位置238、250、256、265、272、286、303、305、307、311、312、314、317、340、356、360、362、376、378、380、382、413、424、428又は434(残基のEUナンバリング)に置換を有し得る。FcRn結合が向上した好ましいFc領域含有抗体変異体は、そのFc領域の位置307、380及び434(残基のEUナンバリング)の内の1つ、2つ又は3つにアミノ酸置換を含む。
【0102】
「単一鎖Fv」又は「scFv」抗体断片は、抗体のVドメイン及びVドメインを含み、これらのドメインは、単一のポリペプチド鎖中に存在する。好ましくは、Fvポリペプチドはさらに、scFvが、抗原結合に所望される構造を形成するのを可能とする、VドメインとVドメイン間のポリペプチドリンカーを含む。scFvのレビューについては、The Pharmacology of Monoclonal Antibodies、113、Rosenburg及びMoore編、Springer-Verlag、New York、269-315(1994)のPluckthun参照。HER2抗体のscFv断片が、国際公開第93/16185号、米国特許5571894号、及び米国特許5587458号に記載されている。
【0103】
用語「二機能性抗体」は、2つの抗原結合部位を有する小さな抗体断片を指し、当該断片は、同ポリペプチド鎖(V-V)において、可変軽ドメイン(V)に連結される可変重ドメイン(V)を含む。短過ぎて同鎖上の2つのドメイン間の対形成が可能でないリンカーを用いることによって、ドメインは、別の鎖の相補ドメインと対形成させられ、かつ2つの抗原結合部位を生じさせられる。二機能性抗体は、例えば欧州特許404097号;国際公開第93/11161号;及びHollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:6444-6448(1993)においてより完全に記載されている。
【0104】
「親和性成熟」抗体は、その一つ又は複数の超可変領域において一つ又は複数の改変を有する抗体であり、この改変は、改変を有しない親抗体と比較して、抗原に対する抗体の親和性の改善をもたらす。好ましい親和性成熟抗体は、ナノモル、又はさらに言えばピコモルの、標的抗原に対する親和性を有することとなる。親和性成熟抗体は、当該技術分野において既知の手順によって産生される。Marksら Bio/Technology 10:779-783(1992)は、VH及びVLドメインシャッフリングによる親和性成熟を記載している。CDR及び/又はフレームワーク残基のランダムな突然変異生成が、以下によって記載されている:Barbasら Proc Nat.Acad.Sci,USA 91:3809-3813(1994);Schierら Gene 169:147-155(1996);Yeltonら J.Immunol.155:1994-2004(1995);Jacksonら、J.Immunol.154(7):3310-9(1995);及びHawkinsら、J.Mol.Biol.226:889-896(1992)。
【0105】
本明細書中の「アミノ酸配列変異体」抗体は、主要な種抗体と異なるアミノ酸配列を有する抗体である。通常、アミノ酸配列変異体は、主要な種抗体と少なくとも約70%のホモロジーを有することとなり、好ましくは、主要な種抗体と少なくとも約80%、より好ましくは少なくとも約90%ホモログであることとなる。アミノ酸配列変異体は、主要な種抗体のアミノ酸配列内の、又はアミノ酸配列に隣接するある位置に、置換、欠失及び/又は付加を有する。本明細書中のアミノ酸配列変異体の例として、酸性変異体(例えば、脱アミド化抗体変異体)、塩基性変異体、1つ又は2つの軽鎖上にアミノ末端リーダー拡張部分(例えばVHS-)を有する抗体、1つ又は2つの重鎖上にC末端リジン残基を有する抗体等が挙げられ、重鎖及び/又は軽鎖のアミノ酸配列に対する変異の組合せが挙げられる。本明細書中の特に注目する抗体変異体は、1つ又は2つの軽鎖上のアミノ末端リーダー拡張部分を含み、さらに任意選択的に、主要な種抗体に対する、他のアミノ酸配列及び/又はグリコシル化の差異を含む抗体である。
【0106】
本明細書中の「グリコシル化変異体」抗体は、一つ又は複数の炭水化物部分が結合した抗体であり、当該炭水化物部分は、主要な種抗体に結合する一つ又は複数の炭水化物部分と異なる。本明細書中のグリコシル化変異体の例として、G1又はG2オリゴ糖構造が、G0オリゴ糖構造の代わりに、Fc領域に結合した抗体、1つ又は2つの炭水化物部分が1つ又は2つの軽鎖に結合した抗体、炭水化物が、抗体の1つ又は2つの重鎖に結合していない抗体等、並びにグリコシル化改変の組合せが挙げられる。抗体がFc領域を有する場合、オリゴ糖構造は、例えば残基299(298、残基のEUナンバリング)にて、抗体の1つ又は2つの重鎖に結合させることができる。
【0107】
本明細書中で用いられる用語「細胞傷害剤」は、細胞の機能を妨げる、若しくは防止する、かつ/又は細胞の破壊を引き起こす物質を指す。当該用語は、放射性同位体(例えば、At211、I131、I125、Y90、Re186、Re188、Sm153、Bi212、P32、及びLuの放射性同位体)、化学療法剤、及び細菌、菌、植物若しくは動物起源の小分子毒素又は酵素的に活性な毒素等の毒素を含み、それらの断片及び/又は変異体を含むことが目的とされる。
【0108】
用語「サイトカイン」は、細胞間メディエータとして別の細胞に作用する一細胞集団によって放出されるタンパク質の総称語である。そのようなサイトカインの例として、リンホカイン、モノカイン及び伝統的なポリペプチドホルモンがある。サイトカインに含まれるのは、ヒト成長ホルモン、N-メチオニルヒト成長ホルモン及びウシ成長ホルモン等の成長ホルモン;副甲状腺ホルモン;チロキシン;インシュリン;プロインシュリン;リラキシン;プロリラキシン;卵胞刺激ホルモン(FSH)、甲状腺刺激ホルモン(TSH)及び黄体形成ホルモン(LH)等の糖タンパク質ホルモン;肝臓増殖因子;線維芽細胞増殖因子;プロラクチン;胎盤ラクトゲン;腫瘍壊死因子-α及び-β;ミュラー阻害物質;マウスゴナドトロピン関連ペプチド;インヒビン;アクチビン;血管内皮増殖因子;インテグリン;トロンボポエチン(TPO);NGF-β等の神経増殖因子;血小板増殖因子;TGF-α及びTGF-β等のトランスフォーミング増殖因子(TGF);インシュリン様増殖因子-I及び-II;エリトロポイエチン(EPO);骨形成誘発因子;インターフェロン-α、-β及び-γ等のインターフェロン;マクロファージ-CSF(M-CSF)等の結腸刺激因子(CSF);顆粒白血球-マクロファージ-CSF(GM-CSF);顆粒白血球-CSF(G-CSF);IL-1、IL-1α、IL-2、IL-3、IL-4、IL-5、IL-6、IL-7、IL-8、IL-9、IL-10、IL-11、IL-12等のインターロイキン(IL);TNF-α又はTNF-β等の腫瘍壊死因子;並びにLIF及びキットリガンド(KL)を含む他のポリペプチド因子である。本明細書中で用いられる用語サイトカインは、自然の源から、又は生来の配列サイトカインの組換え細胞培養及び生物活性等価物からのタンパク質を含む。
【0109】
補助療法のために本明細書中で用いられる用語「免疫抑制剤」は、本明細書中で治療される被検体の免疫系を抑制又はマスクするように作用する物質を指す。これには、サイトカイン産生を抑制する、自己抗原発現を下方制御若しくは抑制する、又はMHC抗原をマスクする物質が含まれるであろう。そのような薬剤の例として、2-アミノ-6-アリール-5-置換ピリミジン(米国特許4665077号参照);非ステロイド系抗炎症薬(NSAID);ガンシクロビル;タクロリムス;コルチゾール又はアルドステロン等のグルココルチコイド;シクロオキシゲナーゼ阻害剤等の抗炎症薬;5-リポキシゲナーゼ阻害剤;ロイコトリエン受容体アンタゴニスト;アザチオプリン又はミコフェノール酸モフェチル(MMF)等のプリンアンタゴニスト;シクロホスファミド等のアルキル化剤;ブロモクリプチン;ダナゾール;ダプソン;グルタルアルデヒド(米国特許4120649号に記載されるように、MHC抗原をマスクする);MHC抗原及びMHC断片に対する抗イディオタイプ抗体;シクロスポリン;6メルカプトプリン;コルチコステロイド又はグルココルチコステロイド又はグルココルチコイドアナログ等のステロイド、例えば、プレドニゾン、メチルプレドニゾロン(SOLU-MEDROL.RTM.コハク酸メチルプレドニゾロンナトリウム、及びデキサメタゾンが挙げられる);メトトレキサート等のジヒドロ葉酸レダクターゼ阻害剤(経口又は皮下);クロロキン及びヒドロキシクロロキン等の抗マラリア剤;スルファサラジン;レフルノミド;抗インターフェロン-アルファ、-ベータ又は-ガンマ抗体、抗腫瘍壊死因子(TNF)-アルファ抗体(インフリキシマブ(REMICADE.RTM.)又はアダリムマブ)、抗TNF-アルファイムノアドヘシン(エタナーセプト)、抗TNF-ベータ抗体、抗インターロイキン-2(IL-2)抗体及び抗IL-2受容体抗体、抗インターロイキン-6(IL-6)受容体抗体、並びにアンタゴニストが挙げられる、サイトカイン又はサイトカイン受容体抗体又はアンタゴニスト;抗CD11a及び抗CD18抗体が挙げられる、抗LFA-1抗体;抗L3T4抗体;異種抗リンパ球グロブリン;pan-T抗体、好ましくは抗CD3又は抗CD4/CD4a抗体;LFA-3結合ドメインを含有する可溶型ペプチド(1990年7月26日公開の国際公開第90/08187号);ストレプトキナーゼ;トランスフォーミング増殖因子-ベータ(TGF-ベータ);ストレプトドルナーゼ(streptodomase);宿主由来のRNA又はDNA;FK506;RS-61443;クロラムブシル;デオキシスペルグアリン;ラパマイシン;T細胞受容体(Cohenら、米国特許5114721号);T細胞受容体断片(Offnerら、Science、251:430-432 (1991);国際公開第90/11294号;Ianeway、Nature、341:482 (1989);及び国際公開第91/01133号);BAFF等のBAFFアンタゴニスト又はBR3抗体又はイムノアドヘシン及びzTNF4アンタゴニスト(レビューについて、Mackay及びMackay、Trends Immunol.、23:113-5 (2002)参照、及び以下の定義も参照);CD40-CD40リガンドに対する阻害抗体が挙げられる、抗CD40受容体又は抗CD40リガンド(CD154)等のT細胞ヘルパーシグナルに干渉する生物学的薬剤(例えば、Durieら、Science、261:1328-30 (1993);Mohanら、J. Immunol.、154:1470-80 (1995))及びCTLA4-Ig(Finckら、Science、265:1225-7 (1994));並びにT10B9等のT細胞受容体抗体(欧州特許340109号)が挙げられる。
【0110】
本明細書中で用いられる用語「改善する」又は「改善」は、異常又は症状を含む、状態、疾患、障害又は表現型の低下、軽減又は消失を指す。
【0111】
疾患又は障害の「症状」(例えば、炎症腸疾患、例えば、潰瘍性大腸炎又はクローン病)は、被検体が起こし、疾患を示すあらゆる病的な現象、又は構造、機能若しくは知覚の標準からの逸脱である。
【0112】
表現「治療的有効量」は、疾患又は障害(例えば、炎症腸疾患、例えば、潰瘍性大腸炎又はクローン病)を防止、改善又は治療するのに効果的な量を指す。例えば、抗体の「治療的有効量」は、特定の疾患又は障害を防止、改善又は治療するのに効果的な抗体の量を指す。同様に、抗体及び第2の化合物の組合せの「治療的有効量」は、特定の疾患又は障害を防止、改善又は治療するのに組み合わせて効果的な抗体の量及び第2の化合物の量を指す。
【0113】
用語、2つの化合物「の組合せ」は、化合物が互いに混合して投与されなければならないことを意味しないことが理解されるべきである。したがって、そのような組合せによる治療又は組合せの使用は、化合物の混合又は化合物の別々の投与を包含し、同じ日又は異なる日の投与を含む。したがって、用語「組合せ」は、2つ以上の化合物が個々に、又は互いと混合して、治療に用いられることを意味する。抗体及び第2の化合物が、例えば、被検体に組み合せて投与される場合、抗体及び第2の化合物が被検体に個々に投与されるか、混合して投与されるかどうかに拘らず、抗体は、第2の化合物も被検体に存在する時点で、被検体に存在する。ある実施態様において、抗体以外の化合物が、抗体の前に投与される。ある実施態様において、抗体以外の化合物が、抗体の後に投与される。
【0114】
本明細書中の目的のために、「腫瘍壊死因子-α(TNF-アルファ)」は、Pennicaら、Nature、312:721(1984)又はAggarwalら、JBC、260:2345(1985)に記載されるようなアミノ酸配列を含むヒトTNF-アルファ分子を指す。
【0115】
本明細書中の「TNF-アルファ阻害剤」は、TNF-アルファの生物学的機能を、概してTNF-アルファへの結合及びその活性の中和によって、ある程度妨げる薬剤である。本明細書中で具体的に意図されるTNF阻害剤の例として、エタナーセプト(ENBREL(登録商標))、インフリキシマブ(REMICADE(登録商標))、アダリムマブ(HUMIRA(登録商標))、ゴリムマブ(SIMPONITM)及びセルトリズマブペゴル(CIMZIA(登録商標))がある。
【0116】
「コルチコステロイド」は、天然に存在するコルチコステロイドの効果を模倣する、又は増大させるステロイドの一般的な化学構造を有するいくつかの合成物質又は天然に存在する物質の任意の1つを指す。合成コルチコステロイドの例として、プレドニゾン、プレドニゾロン(メチルプレドニゾロンが挙げられる)、デキサメタゾントリアムシノロン及びベタメタゾンが挙げられる。
【0117】
「アンタゴニスト」は、特定のタンパク質又は特異的なタンパク質の活性を、中和する、阻害する、妨げる、無効にする、軽減する、又は当該活性に干渉することができる分子を指し、リガンドの場合には一つ若しくは複数の受容体へのその結合、又は受容体の場合には一つ若しくは複数のリガンドへのその結合を含む。アンタゴニストとして、抗体及びその抗原結合断片、タンパク質、ペプチド、糖タンパク質、糖ペプチド、糖脂質、多糖類、オリゴ糖類、核酸、生物有機分子、ペプチド擬似体、薬理的薬剤、並びにこれらの代謝物質、転写及び翻訳制御配列等が挙げられる。アンタゴニストとしてまた、タンパク質の小分子阻害剤、タンパク質に特異的に結合することによって、その標的への結合を分離する融合タンパク質、受容体分子及び誘導体、タンパク質のアンタゴニスト変異体、タンパク質を対象にするアンチセンス分子、RNAアプタマー、並びにタンパク質に対するリボザイムが挙げられる。
【0118】
用語「検出」は、直接的な検出及び間接的な検出を含む、任意の検出手段を含む。
【0119】
種々の追加の用語が定義され、又はそれ以外では本明細書中で特徴付けられる。
【0120】
II. 組成物及び方法
A. ベータ7インテグリンアンタゴニスト
本発明は、ベータ7インテグリンアンタゴニストの治療に対する患者の応答性を予測する方法に関する。潜在的アンタゴニストの例として、ベータ7インテグリンとの免疫グロブリンの融合体に結合するオリゴヌクレオチド、特に限定されないが、ポリ抗体、モノクローナル抗体、抗体断片、単一鎖抗体、抗イディオタイプ抗体、及びそのような抗体若しくは断片のキメラバージョン又はヒト化バージョン、並びにヒト抗体及び抗体断片を含む抗体が挙げられる。代わりに、潜在的アンタゴニストは、密接に関係のあるタンパク質であってよく、例えば、リガンドを認識するが、効果を与えないことによって、ベータ7インテグリンの作用を競争的に妨げるベータ7インテグリンの変異形態である。
【0121】
別の潜在的ベータ7インテグリンアンタゴニストは、アンチセンス技術を用いて調製されるアンチセンスRNA又はDNAコンストラクトであり、例えば、アンチセンスRNA又はDNA分子が、標的mRNAにハイブリダイズしてタンパク質の翻訳を防止することによって、mRNAの翻訳を直接的に阻害するように作用する。三重らせん体形成物又はアンチセンスDNA若しくはRNAによって遺伝子発現を制御するアンチセンス技術が用いられてよく、それらの方法は双方とも、ポリヌクレオチドの、DNA又はRNAへの結合に基づくものである。例えば、本明細書中のベータ7インテグリンをコードするポリヌクレオチド配列の5’コーディング部分は、長さが約10から40塩基対のアンチセンスRNAオリゴヌクレオチドを設計するために用いられる。DNAオリゴヌクレオチドは、転写に関与する遺伝子の領域と相補的であるように設計される(三重らせん体-Lee etら、Nucl. Acids Res.、6:3073 (1979);Cooneyら、Science、241:456 (1988);Dervanら、Science、251:1360 (1991)参照)ことによって、ベータ7インテグリンの転写及び産生を防止する。アンチセンスRNAオリゴヌクレオチドは、インビボでmRNAにハイブリダイズして、mRNA分子の、ベータ7インテグリンタンパク質への翻訳を阻害する(アンチセンス-Okano、Neurochem.、56:560 (1991);Oligodeoxynucleotides as Antisense Inhibitors of Gene Expression (CRC Press: Boca Raton、Fla.、1988))。先に記載されるオリゴヌクレオチドはまた、アンチセンスRNA又はDNAがPROポリペプチドの産生を妨げるようにインビボ発現され得るように、細胞に送達されてもよい。アンチセンスDNAが用いられる場合、例えば標的遺伝子ヌクレオチド配列の約-10位置と+10位置との間にある、翻訳開始部位に由来するオリゴデオキシリボヌクレオチドが好ましい。
【0122】
他の潜在的アンタゴニストとして、活性部位である、リガンド又は結合分子の結合部位に結合することによって、ベータ7インテグリンの正常な生物活性を阻害する小分子が挙げられる。小分子の例として、限定されないが、小ペプチド又はペプチド様分子、好ましくは可溶型ペプチド、及び合成非ペプチジル有機化合物又は無機化合物が挙げられる。
【0123】
リボザイムは、RNAの特異的な切断を触媒することができる酵素的なRNA分子である。リボザイムは、相補的な標的RNAへの配列特異的ハイブリダイゼーションに続く、エンドヌクレアーゼ的切断によって作用する。潜在的RNA標的内の特異的なリボザイム切断部位が、既知の技術によって同定され得る。更なる詳細について、例えば、Rossi、Current Biology、4:469-471(1994)及び国際公開第97/33551号(1997年9月18日公開)参照。
【0124】
転写を妨げるのに用いられる三重らせん体形成物中の核酸分子は、単一ストランドであり、かつデオキシヌクレオチドから構成されるべきである。これらのオリゴヌクレオチドの塩基組成は、フーグスティーン塩基対合則を介して三重らせん体の形成を促進するように設計され、これは概して、デュプレックスの一ストランド上のプリン又はピリミジンのかなりのストレッチを必要とする。更なる詳細について、例えば、PCT国際公開第97/33551号参照。これらの小分子は、先に議論されたスクリーニングアッセイの任意の一つ若しくは複数によって、かつ/又は当該技術分野の当業者によく知られている任意の他のスクリーニング技術によって、同定され得る。
【0125】
アンタゴニストのスクリーニングアッセイは、本明細書中で同定される遺伝子によってコードされるベータ7インテグリンに結合する、又はベータ7インテグリンと複合体を形成する化合物を同定するように、又は別の方法で、コードされたポリペプチドの、他の細胞タンパク質との相互作用に干渉するように設計される。そのようなスクリーニングアッセイは、小分子薬物候補を同定するのに特に適したものとする化学ライブラリの高いスループットスクリーニングに従順なアッセイを含むこととなる。
【0126】
アッセイは、種々のフォーマットで実行されてよく、タンパク質間結合アッセイ、生化学スクリーニングアッセイ、イムノアッセイ、及び細胞ベースのアッセイが挙げられ、これらは当該技術分野においてよく特徴を明らかにされている。
【0127】
B. 抗ベータ7インテグリン抗体
一実施態様において、ベータ7インテグリンアンタゴニストは、抗ベータ7抗体である。例示的な抗体として、下記のような、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、二重特異性抗体、及びヘテロコンジュゲート抗体等が挙げられる。
【0128】
1. ポリクローナル抗体
ポリクローナル抗体は、好ましくは、関連する抗原及びアジュバントの複数回の皮下(sc)注射又は腹腔内(ip)注射によって、動物内で生成される。例えば、キーホールリンペットヘモシアニン、血清アルブミン、ウシチログロブリン、又はダイズトリプシン阻害剤といった、免疫化されることとなる種において免疫原性であるタンパク質に、例えば、マレイミドベンゾイルスルホスクシンイミドエステル(システイン残基によるコンジュゲーション)、N-ヒドロキシスクシンイミド(リジン残基による)、グルタルアルデヒド、無水コハク酸、SOCl、又はRN=C=NR(R及びRは異なるアルキル基である)といった二官能性剤又は誘導体化剤を用いて、関連する抗原をコンジュゲートさせることが有用であり得る。
【0129】
例えば、タンパク質又はコンジュゲートの100μg又は5μg(それぞれウサギ又はマウスについて)を、フロイントの完全アジュバントの3容量と組み合わせて、溶液を複数部位に皮内注射することによって、動物が、抗原、免疫原性コンジュゲート又は誘導体に対して免疫化される。一月後、動物は、フロイントの完全アジュバント中のペプチド又はコンジュゲートの元の量の1/5から1/10で、複数部位の皮下注射によってブーストされる。7から14日後に、動物は血を取られ、血清が抗体価についてアッセイされる。動物は、価がプラトーになるまでブーストされる。好ましくは、動物は、同じ抗原であるが、異なるタンパク質に、かつ/又は異なる架橋結合試薬によりコンジュゲートされた抗原のコンジュゲートでブーストされる。コンジュゲートはまた、タンパク質融合としての組換え細胞培養においてなされてもよい。また、ミョウバン等の凝集剤が、免疫応答を増強するために適切に用いられる。
【0130】
2. モノクローナル抗体
モノクローナル抗体は、Kohlerら、Nature、256:495(1975)によって最初に記載されたハイブリドーマ法を用いて製造されてもよいし、組換えDNA法(米国特許4816567号)によって製造されてもよい。
【0131】
ハイブリドーマ法では、マウス又は他の適切なハムスター等の宿主動物が、先に述べたように免疫化されて、免疫化に用いられるタンパク質に特異的に結合することとなる抗体を産生する、又は産生することができるリンパ球が誘発される。代わりに、リンパ球がインビトロで免疫化することもできる。免疫化の後、リンパ球は、単離されてから、ポリエチレングリコール等の適切な融合剤を用いて骨髄腫細胞株と融合して、ハイブリドーマ細胞が形成される(Goding、Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、59-103 (Academic Press、1986))。
【0132】
このように調製されたハイブリドーマ細胞は、適切な培地中に播種されて増殖する。この培地は好ましくは、非融合親骨髄腫細胞(融合パートナーとも呼ばれる)の増殖又は生存を妨げる一つ又は複数の物質を含有する。例えば、親の骨髄腫細胞が、酵素ヒポキサンチングアニンホスホリボシル転移酵素(HGPRT又はHPRT)を欠く場合、ハイブリドーマの選択培地は典型的に、HGPRT欠陥細胞の増殖を防止する物質であるヒポキサンチン、アミノプテリン及びチミジンを含むこととなる(HAT培地)。
【0133】
好ましい融合パートナー骨髄腫細胞は、効率的に融合し、選択された抗体産生細胞による抗体の安定した高レベルな産生を支持し、かつ、非融合親細胞に対して選択された選択培地に感受性であるものである。好ましい骨髄腫細胞株が、Salk Institute Cell Distribution Center、San Diego、Calif.米国から入手可能なMOPC-21及びMPC-11マウス腫瘍、並びにAmerican Type Culture Collection、Manassas、Va.、米国から入手可能な例えばX63-Ag8-653細胞といったSP-2及び誘導体に由来するもの等のマウス骨髄腫株である。ヒト骨髄腫及びマウス-ヒトヘテロミエローマ細胞株もまた、ヒトモノクローナル抗体の産生について記載されている(Kozbor, J. Immunol.、133:3001 (1984);及びBrodeurら、Monoclonal Antibody Production Techniques and Applications、51-63 (Marcel Dekker、Inc.、New York、1987)。
【0134】
ハイブリドーマ細胞が増殖している培地が、抗原に対するモノクローナル抗体の産生についてアッセイされる。好ましくは、ハイブリドーマ細胞によって産生されるモノクローナル抗体の結合特異性は、免疫沈降によって、又はラジオイムノアッセイ(RIA)若しくは酵素-結合免疫吸着アッセイ(ELISA)等のインビトロ結合アッセイによって、決定される。
【0135】
モノクローナル抗体の結合親和性は、例えば、Munsonら、Anal.Biochem.、107:220(1980)において記載されるスキャッチャード分析によって決定することができる。所望の特異性、親和性及び/又は活性の抗体を産生するハイブリドーマ細胞が同定されると、クローンは、希釈手順を限定することによってサブクローニングされて、標準的な方法によって増殖し得る(Goding、Monoclonal Antibodies: Principles and Practice、59-103 (Academic Press、1986))。この目的に適した培地として、例えば、D-MEM又はRPMI-1640培地が挙げられる。また、ハイブリドーマ細胞は、例えばマウス中への細胞のi.p.注射によって、動物中で腹水腫瘍としてインビボ増殖し得る。サブクローニングによって分泌されるモノクローナル抗体は、例えば、アフィニティークロマトグラフィー(例えば、タンパク質A又はタンパク質G-セファロースを用いる)又はイオン交換クロマトグラフィー、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析等の従来の抗体精製手順によって、培地、腹水又は血清から適切に分離される。
【0136】
モノクローナル抗体をコードするDNAが容易に単離されて、従来の手順を用いて(例えば、マウス抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)配列決定される。ハイブリドーマ細胞は、そのようなDNAの好ましい源として役立つ。単離されると、DNAは発現ベクター中に入れられてよく、これが続いて、大腸菌(E.coli)細胞、サルCOS細胞、チャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞、又は普通では抗体タンパク質を産生しない骨髄腫細胞等の宿主細胞中にトランスフェクトされて、組換え宿主細胞内にモノクローナル抗体の合成体が得られる。抗体をコードするDNAの、細菌における組換え発現に関するレビュー論文として、Skerraら、Curr.Opinion in Immunol.、5:256-262(1993)及びPluckthun、Immunol.Revs.130:151-188(1992)が挙げられる。
【0137】
更なる実施態様において、モノクローナル抗体又は抗体断片は、McCaffertyら、Nature、348:552-554(1990)に記載される技術を用いて生じた抗体ファージライブラリから単離することができる。Clacksonら、Nature、352:624-628(1991)及びMarksら、J.Mol.Biol.、222:581-597(1991)はそれぞれ、ファージライブラリを用いたマウス抗体及びヒト抗体の単離を記載している。以下の刊行物は、鎖シャッフリングによる高親和性(nM範囲)ヒト抗体の産生(Marksら、Bio/Technology、10:779-783 (1992))、並びに非常に大きなファージライブラリをコンストラクトする戦略としてのコンビナトリアル感染及びインビボ組換え(Waterhouseら、Nuc. Acids. Res. 21:2265-2266 (1993))を記載している。したがって、これらの技術は、モノクローナル抗体の単離のための伝統的なモノクローナル抗体ハイブリドーマ技術の実行可能な代替策である。
【0138】
抗体をコードするDNAは、キメラ抗体ポリペプチド又は融合抗体ポリペプチドを産生するように、例えば、ヒト重鎖及び軽鎖定常ドメイン(CH及びCL)配列を、ホモログなマウス配列と置換することによって(米国特許4816567号;及びMorrisonら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、81:6851 (1984))、又は免疫グロブリンコード配列を非免疫グロブリンポリペプチド(異種ポリペプチド)のコード配列の全て若しくは一部と融合させることによって、修飾することができる。非免疫グロブリンポリペプチド配列は、抗体の定常ドメインと置換されて、又は抗原のある抗原結合部位の可変ドメインと置換されて、抗原に特異性を有するある抗原結合部位、及び異なる抗原に特異性を有する別の抗原結合部位を含むキメラ二価抗体が生じさせることができる。
【0139】
例示的な抗ベータ7抗体として、Fib504、Fib21、22、27、30(Tidswell, M. J Immunol. 1997 Aug 1; 159(3):1497-505)、又はこれらのヒト化誘導体がある。Fib504のヒト化抗体は、米国特許出願第2006/0093601号(米国特許7528236号として発行)に詳細に開示されており、この出願内容の全体が出典明示によって援用される(以下の議論も参照)。
【0140】
3. ヒト抗体及びヒト化抗体
本発明の抗ベータ7インテグリン抗体はさらに、ヒト化抗体又はヒト抗体を含んでよい。非ヒト(例えば、マウス)抗体のヒト化形態が、非ヒト免疫グロブリンに由来する最小配列を含有するキメラ免疫グロブリン、免疫グロブリン鎖、又はその断片(Fv、Fab、Fab’、F(ab’)又は抗体の他の抗原結合サブ配列等)である。ヒト化抗体として、レシピエントの相補性決定領域(CDR)の残基が、所望の特異性、親和性及び能力を有するマウス、ラット又はウサギ等の非ヒト種の(ドナー抗体)CDRの残基によって置換されているヒト免疫グロブリン(レシピエント抗体)が挙げられる。場合によっては、ヒト免疫グロブリのFvフレームワーク残基が、対応する非ヒト残基によって置換される。ヒト化抗体はまた、レシピエント抗体においても、インポートされるCDR配列においてもフレームワーク配列においても見られない残基を含んでもよい。一般に、ヒト化抗体は、CDR領域の全て又は実質的に全てが、非ヒト免疫グロブリンのCDR領域に対応し、FR領域の全て又は実質的に全てが、ヒト免疫グロブリンコンセンサス配列のFR領域である少なくとも1つ、典型的には2つの可変ドメインの実質的に全てを含むこととなる。ヒト化抗体はまた、最適には、免疫グロブリンの定常領域(Fc)、典型的にはヒト免疫グロブリンの定常領域の少なくとも一部を含むこととなる(Jonesら、Nature、321:522-525 (1986); Riechmannら、Nature 332:323-329 (1988);及びPresta、Curr. Op. Struct. Biol.、2:593-596 (1992))。
【0141】
非ヒト抗体をヒト化する方法は、当該技術分野においてよく知られている。概して、ヒト化抗体は、一つ又は複数のアミノ酸残基が、非ヒトである源から導入される。これらの非ヒトアミノ酸残基は多くの場合、「インポート」残基と呼ばれ、これは典型的に「インポート」可変ドメインから取られる。ヒト化は、Winter及び共同研究者の方法(Jonesら、Nature、321:522-525 (1986);Riechmannら、Nature、332:323-327 (1988);Verhoeyenら、Science、239:1534-1536 (1988))に従って、齧歯目のCDR又はCDR配列で、ヒト抗体の対応する配列を置換することによって本質的に実行することができる。したがって、そのような「ヒト化」抗体は、非ヒト種からの対応する配列によって置換された、インタクトなヒト可変ドメインに実質的に満たないキメラ抗体である(米国特許4816567号)。実際には、ヒト化抗体は典型的に、一部のCDR残基及びことによると一部のFRの残基が、齧歯目の抗体中のアナログ部位からの残基によって置換されているヒト抗体である。抗体がヒトの治療に用いられることが目的とされる場合、ヒト化抗体を製造する際に用いられ得るヒト可変ドメインの選択は、軽ドメイン及び重ドメインの双方とも、抗原性及びHAMA応答(ヒト抗マウス抗体)を引き下げることが非常に重要である。いわゆる「最良のフィット」方法に従えば、齧歯目の抗体の可変ドメインの配列が、既知のヒト可変ドメイン配列の全ライブラリに対してスクリーニングされる。齧歯目のVドメイン配列に最も近いヒトVドメイン配列が同定されて、その内のヒトフレームワーク領域(FR)がヒト化抗体に受け入れられる(Simsら、J. Immunol. 151:2296 (1993);Chothiaら、J. Mol. Biol.、196:901 (1987))。別の方法は、軽鎖又は重鎖の特定のサブグループの全ヒト抗体のコンセンサス配列に由来する特定のフレームワーク領域を用いる。同フレームワークは、いくつかの異なるヒト化抗体に用いられ得る(Carterら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、89:4285 (1992);Prestaら、J. Immunol. 151:2623 (1993))。抗体は、抗原との高い結合親和性及び他の好ましい生物学的性質を保持してヒト化されることがさらに重要である。この目標を達成するために、好ましい方法に従えば、ヒト化抗体が、親の配列及びヒト化配列の3次元モデルを用いる親の配列及び種々の概念上のヒト化産物の分析プロセスによって調製される。3次元免疫グロブリンモデルが一般的に利用可能であり、当該技術分野の当業者によく知られている。選択された候補免疫グロブリン配列の予想される3次元高次構造を示す(illustrate and display)コンピュータープログラムが利用可能である。これらディスプレイの調査により、候補免疫グロブリン配列の機能における残基のありそうな役割の分析、即ち候補免疫グロブリンの、その抗原に結合する能力に影響する残基の分析が可能になる。このように、FR残基は、レシピエント及びインポート配列から選択され、かつ組み合わされ得るので、標的抗原に対する親和性の増大等の所望の抗体の特徴が達成される。一般に、超可変領域の残基は、抗原結合への影響に直接的に、かつ最も実質的に関与する。
【0142】
ヒト化抗ベータ7インテグリン抗体の種々の形態が意図される。例えば、ヒト化抗体は、Fab等の抗体断片であってよく、これは、一つ又は複数の細胞傷害剤と任意選択的にコンジュゲートされて、免疫コンジュゲートが生じる。代わりに、ヒト化抗体は、インタクトなIgG1抗体等のインタクトな抗体であってもよい。
【0143】
例示的なヒト化抗ベータ7抗体として、限定されないが、rhuMAbベータ7が挙げられ、これは、インテグリンサブユニットβ7に対するヒト化モノクローナル抗体であり、ラット抗マウス/ヒトモノクローナル抗体FIB504に由来した(Andrewら、1994 J Immunol 1994; 153:3847-61)。これは、ヒト免疫グロブリンIgG1重鎖及びκ1軽鎖フレームワークを含むように操作されており、チャイニーズハムスター卵巣細胞によって産生される。この抗体は、2つのインテグリン、α4β7(Holzmannら1989 Cell、1989; 56:37-46;Huら、1992、Proc Natl Acad Sci USA 1992; 89:8254-8)及びαEβ7(Cepekら、1993 J Immunol 1993; 150:3459-70)に結合し、このことが、胃腸管におけるリンパ球サブセットの輸送及び保持を調節し、かつ潰瘍性大腸炎(UC)及びクローン病(CD)等の炎症腸疾患(IBD)に関与する。rhuMAbベータ7は、αEβ7とそのリガンド(粘膜アドレシン細胞粘着分子-1[MAdCAM]-1、血管細胞粘着分子[VCAM]-1、及びフィブロネクチン)との細胞相互作用、及びαEβ7とそのリガンド(E-カドヘリン)との相互作用の強力なインビトロブロッカーである。rhuMAbベータ7は可逆的に、類似した高い親和性で、ウサギ、カニクイザル及びヒトからのリンパ球上のベータ7に結合する。これはまた、マウスベータ7に高い親和性で結合する。rhuMAbベータ7及びその変異体のアミノ酸配列、製造及び使用は、米国特許出願第2006/0093601号(米国特許7528236号として発行)に詳細に開示されており、この出願内容の全体が援用される。
【0144】
図1A及び図1Bは、以下の可変軽鎖及び重鎖の配列アラインメントを表す:軽鎖ヒトサブグループカッパIコンセンサス配列(図1A、配列番号12)、重鎖ヒトサブグループIIIコンセンサス配列(図1B、配列番号13)、ラット抗マウスベータ7抗体(Fib504)可変軽鎖(図1A、配列番号10)、ラット抗マウスベータ7抗体(Fib504)可変重鎖(図1B、配列番号11)、並びにヒト化抗体変異体:ヒト化hu504Kグラフト可変軽鎖(図1A、配列番号14)、ヒト化hu504Kグラフト可変重鎖(図1B、配列番号15)、変異体hu504-5、hu504-16及びhu504-32(ヒト化hu504Kグラフトからのアミノ酸変異)が、図1A(軽鎖)(それぞれ、現れた順に、配列番号22-24)において、及び変異体hu504-5、hu504-16及び504-32(配列番号25)について図1B(重鎖)において示される。
【0145】
4. ヒト抗体
ヒト化に代わるものとして、ヒト抗体を生成することもできる。例えば、今では、免疫化して直ぐに、内因性免疫グロブリン産生のない場合にヒト抗体の完全レパートリーを産生することができるトランスジェニック動物(例えば、マウス)を生産することが可能である。例えば、キメラの生殖細胞系変異マウスにおける抗体重鎖接合領域(J)遺伝子のホモ接合欠失により、内因性抗体産生の完全な阻害がもたらされることが記載されている。ヒト生殖細胞系免疫グロブリン遺伝子アレイの、そのような生殖細胞系変異マウス中へのトランスファは、抗原チャレンジ直後のヒト抗体の産生をもたらすこととなる。例えば、Jakobovitsら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA、90:2551(1993);Jakobovitsら、Nature、362:255-258(1993);Bruggemannら、Year in Immuno.7:33(1993);米国特許5545806号、米国特許5569825号、米国特許5591669号(全てGenPharm);米国特許5545807号;及び国際公開第97/17852号参照。
【0146】
代わりに、ファージディスプレイ技術(McCaffertyら、Nature 348:552-553 (1990))が、非免疫化ドナーからの免疫グロブリン可変(V)ドメイン遺伝子レパートリーから、ヒト抗体及び抗体断片をインビトロで産生するのに使用することもできる。この技術に従えば、抗体Vドメイン遺伝子が、M13又はfd等の糸状バクテリオファージの主要コートタンパク質遺伝子又は微働コートタンパク質遺伝子中にインフレームでクローニングされて、ファージ粒子の表面上の機能的抗体断片として提示される。糸状粒子が、ファージゲノムの単一ストランドDNAコピーを含有するので、抗体の機能的性質に基づく選択もまた、それらの性質を示す抗体をコードする遺伝子の選択になる。したがって、ファージは、B細胞の一部の性質を模倣する。ファージディスプレイが、種々のフォーマットで実行されてよく、例えばJohnson,Kevin S.及びChiswell,David J.、Current Opinion in Structural Biology 3:564-571(1993)においてレビューされている。V遺伝子セグメントのいくつかの供給源を、ファージディスプレイに使用することもできる。Clacksonら、Nature、352:624-628(1991)は、抗オキサゾロン抗体の多様なアレイを、免疫化マウスの脾臓に由来するV遺伝子の小さなランダムコンビナトリアルライブラリから単離した。非免疫化ヒトドナーからのV遺伝子のレパートリーを構築することができ、Marksら、J.Mol.Biol.222:581-597(1991)又はGriffithら、EMBO J.12:725-734(1993)によって記載される技術に本質的に従って抗原(自己抗原を含む)の多様なアレイに対する抗体を単離することもできる。米国特許5565332号及び米国特許5573905号も参照。
【0147】
先に議論されたように、ヒト抗体はまた、インビトロ活性化B細胞によって生じてもよい(米国特許5567610号及び米国特許5229275号参照)。
【0148】
5. 抗体断片
ある状況では、全抗体ではなく抗体断片を用いる利点がある。断片のサイズが小さい程、クリアランスが迅速となり得、かつ固形腫瘍へのアクセスが向上し得る。
【0149】
抗体断片の産生のための種々の技術が開発されてきた。習慣的に、これらの断片は、インタクトな抗体のタンパク質分解を介して誘導された(例えば、Morimotoら、Journal of Biochemical and Biophysical Methods 24:107-117 (1992)及びBrennanら、Science、229:81 (1985)参照)。しかしながら、これらの断片は今では、組換え宿主細胞によって直接的に産生され得る。例えば、先に議論された抗体ファージライブラリから抗体断片を単離することもできる。代わりに、Fab’-SH断片は、大腸菌から直接的に回収され、化学的に連結されて、F(ab’)断片が形成され得る(Carterら、Bio/Technology 10:163-167 (1992))。別の手法に従えば、F(ab’)断片は、組換え宿主細胞培養から直接的に単離することもできる。抗体断片の産生のための他の技術が、当業者に明らかであろう。他の実施態様において、選択すべき抗体は、単一鎖Fv断片(scFv)である。国際公開第93/16185号;米国特許5571894号;及び米国特許5587458号参照。抗体断片は、例えば米国特許5641870号に記載されるように、例えば「線形抗体」であってもよい。そのような線形抗体断片は、単一特異性であっても二重特異性であってもよい。
【0150】
6. 二重特異性抗体
二重特異性抗体は、少なくとも2つの異なるエピトープに対する結合特異性を有する抗体である。例示的な二重特異性抗体は、本明細書中に記載されるように、ベータ7インテグリンの2つの異なるエピトープに結合し得る。他のそのような抗体は、TAT結合部位を、別のタンパク質のための結合部位と組み合わし得る。代わりに、抗ベータ7インテグリンの腕が、T細胞受容体分子等の白血球上の誘発分子(例えば、CD3)、又はFc.γRI(CD64)、Fc.γRII(CD32)及びFc.γ.RIII(CD16)等のIgG(Fc.γ.R)のFc受容体に結合する腕と組み合わされて、細胞防衛機構をTAT発現細胞に集中かつ局在化させ得る。二重特異性抗体はまた、TATを発現する細胞に細胞傷害剤を局在化させるのに用いられてもよい。これらの抗体は、TAT結合腕、及び細胞傷害剤(例えば、サポリン、抗インターフェロン-α、ビンカアルカロイド、リシンA鎖、メトトレキサート又は放射性同位体ハプテン)に結合する腕を有する。二重特異性抗体は、完全長抗体として調製されてもよいし、抗体断片(例えば、F(ab’)二重特異性抗体)として調製されてもよい。
【0151】
二重特異性抗体を製造する方法が、当該技術分野において既知である。完全長二重特異性抗体の伝統的な産生は、2つの免疫グロブリン重鎖-軽鎖対の共発現に基づくものであり、2つの鎖は異なる特異性を有する(Millsteinら、Nature 305:537-539 (1983))。免疫グロブリン重鎖及び軽鎖のランダムな仕分けのため、これらのハイブリドーマ(クアドローマ)は10の異なる抗体分子の潜在的混合物を産生し、これらの内の1つのみが正しい二重特異性構造を有する。アフィニティークロマトグラフィー工程によって通常なされる正しい分子の精製はかなり煩わしく、かつ産物収率は低い。類似の手順が、国際公開第93/08829号に、及びTrauneckerら、EMBO J.10:3655-3659(1991)に開示されている。
【0152】
異なる手法に従えば、所望の結合特異性を有する抗体可変ドメイン(抗体-抗原組合せ部位)が、免疫グロブリン定常ドメイン配列に融合される。好ましくは、融合は、ヒンジであるCH2及びCH3領域の少なくとも一部を含むIg重鎖定常ドメインによる。第1の重鎖定常領域(CH1)は、融合体の少なくとも1つに存在する、軽鎖結合に必須の部位を含有することが好ましい。免疫グロブリン重鎖融合体をコードするDNA、及び、必要に応じて、免疫グロブリン軽鎖は、別々の発現ベクター中に挿入されて、適切な宿主細胞中にコトランスフェクトされる。これにより、コンストラクションに用いられる3つのポリペプチド鎖の不等な比率が、所望の二重特異性抗体の最適の収率を実現する実施態様において、3つのポリペプチド断片の相互割合を調整する際に、より大きな柔軟性が提供される。しかしながら、等しい比率の少なくとも2つのポリペプチド鎖の発現が高収率になる場合、又は比率が、所望の鎖の組合せの収率に有意な影響を及ぼさない場合、2つ又は3つ全てのポリペプチド鎖のコード配列を、単一の発現ベクター中に挿入することが可能である。
【0153】
この手法の好ましい実施態様において、二重特異性抗体は、一方の腕内の第1の結合特異性を有するハイブリッド免疫グロブリン重鎖、及び他方の腕内のハイブリッド免疫グロブリン重鎖-軽鎖対(第2の結合特異性を提供する)から構成される。この非対称の構造は、所望の二重特異性化合物の、不所望の免疫グロブリン鎖の組合せからの分離を促進することが分かった。というのも、二重特異性分子の半分のみにおける免疫グロブリン軽鎖の存在が、分離を安易にするからである。この手法は、国際公開第94/04690号に開示されている。二重特異性抗体を生じさせる更なる詳細について、例えばSureshら、Methods in Enzymology 121:210(1986)参照。
【0154】
米国特許5731168号に記載される別の手法に従えば、一対の抗体分子間の接触面は、組換え細胞培養から回収されるヘテロダイマーの百分率を最大にするように操作され得る。好ましい接触面は、CH3ドメインの少なくとも一部を含む。この方法において、第1の抗体分子の接触面からの一つ又は複数の小さなアミノ酸側鎖が、より大きな側鎖(例えば、チロシン又はトリプトファン)で置換される。大きな側鎖と同一又は類似のサイズの補償「キャビティ」が、大きなアミノ酸側鎖をより小さなアミノ酸側鎖(例えば、アラニン又はトレオニン)で置換することによって、第2の抗体分子の接触面上に生じる。これは、ホモダイマー等の他の不所望の最終産物に対するヘテロダイマーの収率を増大させる機構を提供する。
【0155】
二重特異性抗体として、架橋結合抗体又は「ヘテロコンジュゲート」抗体が挙げられる。例えば、ヘテロコンジュゲート内の一方の抗体がアビジンに、他方がビオチンに連結することもできる。例えば、免疫系細胞の標的を不所望の細胞に絞る抗体(米国特許4676980号)、及びHIV感染症の治療のための抗体(国際公開第91/00360号、国際公開第92/200373号及び欧州特許03089号)が提案されている。ヘテロコンジュゲート抗体は、都合の良い任意の架橋結合法を用いて製造することもできる。適切な架橋結合剤が、当該技術分野においてよく知られており、米国特許4676980号に、いくつかの架橋結合技術と共に開示されている。
【0156】
抗体断片から二重特異性抗体を生じさせる技術もまた文献に記載されている。例えば、二重特異性抗体は、化学結合を用いて調製することもできる。Brennanら、Science 229:81(1985)は、インタクトな抗体がタンパク質分解的に切断されて、F(ab’)断片を生じさせる手順を記載している。これらの断片は、ジチオール錯化剤である亜ヒ酸ナトリウムの存在下で還元されて、近隣のジチオールを安定化させ、かつ分子間ジスルフィド形成を妨げる。続いて、生じたFab’断片(一又は複数)は、チオニトロベンゾエート(TNB)誘導体(一又は複数)に変換される。続いて、一方のFab’-TNB誘導体が、メルカプトエチルアミンによる還元によってFab’-チオールに再変換されて、他方のFab’-TNB誘導体の等モル量と混合されることで、二重特異性抗体が形成される。産生された二重特異性抗体は、酵素の選択的固定剤として使用することもできる。
【0157】
最近の進歩により、大腸菌からのFab’-SH断片の直接的回収が容易となり、これが化学連結されて二重特異性抗体が形成され得る。Shalabyら、J.Exp.Med.175:217-225(1992)は、完全ヒト化二重特異性抗体F(ab’)分子の産生を記載している。各Fab’断片は、大腸菌から別々に分泌されて、指向性インビトロ化学カップリングを受けて二重特異性抗体が形成された。こうして形成された二重特異性抗体は、ErbB2受容体を過剰発現する細胞及び正常なヒトT細胞に結合することができ、かつヒト乳房腫瘍標的に対してヒト細胞傷害性リンパ球の溶解活性を誘発することができた。組換え細胞培養から直接的に二重特異性抗体断片を製造かつ単離する種々の技術もまた、記載されている。例えば、二重特異性抗体が、ロイシンジッパーを用いて産生された。Kostelnyら、J.Immunol.148(5):1547-1553(1992)。Fos及びJunタンパク質からのロイシンジッパーペプチドは、2つの異なる抗体のFab’部分に遺伝子融合によって結合する。抗体ホモダイマーは、ヒンジ領域にて還元されてモノマーが形成されてから再酸化されて、抗体ヘテロダイマーが形成された。この方法はまた、抗体ホモダイマーの生産に利用されてもよい。Hollingerら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 90:6444-6448(1993)によって記載される「二機能性抗体」技術は、二重特異性抗体断片を製造する代替機構を提供した。断片は、短過ぎて同じ鎖上の2つのドメイン間の対形成を可能としないリンカーによってVに連結されるVを含む。したがって、ある断片のV及びVドメインは、別の断片の相補的なV及びVドメインと対形成させられることによって、2つの抗原結合部位が形成される。単一鎖Fv(sFv)ダイマーを用いて二重特異性抗体断片を製造する別の戦略もまた報告されている。Gruberら、J.Immunol.、152:5368(1994)参照。
【0158】
2価を超える抗体が意図される。例えば、三重特異性抗体を調製することもできる。Tuttら、J.Immunol.147:60(1991)。
【0159】
7. ヘテロコンジュゲート抗体
ヘテロコンジュゲート抗体もまた、本発明の範囲内である。ヘテロコンジュゲート抗体は、2つの共有結合抗体から構成される。例えば、免疫系細胞の標的を不所望の細胞に絞る抗体(米国特許4676980号)、及びHIV感染症の治療のための抗体(国際公開第91/00360号;国際公開第92/200373号;欧州特許03089号)が提案されている。架橋結合剤が関与するものが挙げられる、合成タンパク質化学において既知の方法を用いて、抗体をインビトロで調製できることが意図される。例えば、ジスルフィド交換反応を用いて、又はチオエーテル結合を形成することによって、免疫毒素を構築することもできる。この目的に適した試薬の例として、イミノチオレート及びメチル-4-メルカプトブチリミデート、並びに例えば米国特許4676980号に開示されるものが挙げられる。
【0160】
8. 多価抗体
多価抗体は、抗体が結合する抗原を発現する細胞によって、二価抗体よりも速く内在化(かつ/又は異化)され得る。本発明の抗体は、3つ以上の抗原結合部位を有する(IgMクラス以外の)多価抗体(例えば、四価抗体)であってよく、これは、抗体のポリペプチド鎖をコードする核酸の組換え発現によって容易に産生され得る。多価抗体は、二量体化ドメイン及び3つ以上の抗原結合部位を含んでよい。好ましい二量体化ドメインは、Fc領域又はヒンジ領域を含む(又はからなる)。このシナリオでは、抗体は、Fc領域、及びアミノ末端がFc領域に向く3つ以上の抗原結合部位を含むこととなる。本明細書中の好ましい多価抗体は、3から約8、好ましくは4つの抗原結合部位を含む(又はからなる)。多価抗体は、少なくとも1つのポリペプチド鎖(好ましくは2つのポリペプチド鎖)を含み、ポリペプチド鎖は、2つ以上の可変ドメインを含む。例えば、ポリペプチド鎖は、VD1-(X1)-VD2-(X2)-Fcを含んでよく、VD1は第1の可変ドメインであり、VD2は第2の可変ドメインであり、FcはFc領域の一ポリペプチド鎖であり、X1及びX2はアミノ酸又はポリペプチドを表し、nは0又は1である。例えば、ポリペプチド鎖は、VH-CH1-フレキシブルリンカー-VH-CH1-Fc領域鎖、又はVH-CH1-VH-CH1-Fc領域鎖を含んでよい。本明細書中の多価抗体は好ましくは、少なくとも2つ(好ましくは4つ)の軽鎖可変ドメインポリペプチドをさらに含む。本明細書中の多価抗体は、例えば、約2つから約8つの軽鎖可変ドメインポリペプチドを含んでよい。本明細書で意図される軽鎖可変ドメインポリペプチドは、軽鎖可変ドメインを含み、かつ任意選択的にCLドメインをさらに含む。
【0161】
9. エフェクター機能操作
エフェクター機能に関して本発明の抗体を修飾して、例えば、抗体の抗原依存性細胞媒介細胞傷害(ADCC)、及び/又は補体依存性細胞傷害(CDC)を増強することが望ましいと考えられる。これは、抗体のFc領域中に一つ又は複数のアミノ酸置換を導入することによって達成してもよい。その代わりに又はそれに加えて、システイン残基をFc領域中に導入してもよく、これによって、この領域における鎖間ジスルフィド結合形成が可能になる。このように生じたホモダイマー抗体は、内在化能力が向上し得、かつ/又は補体介在性細胞殺害及び抗体依存性細胞傷害(ADCC)が増大し得る。Caronら、J.Exp Med.176:1191-1195(1992)及びShopes,B.J.Immunol.148:2918-2922(1992)参照。抗腫瘍活性が増強されたホモダイマー抗体もまた、Wolffら、Cancer Research 53:2560-2565(1993)に記載されるように、ヘテロ二機能性架橋リンカーを用いて調製することもできる。代わりに、抗体が操作されて、デュアルFc領域を有することによって補体溶解及びADCC能力を増強することもできる。Stevensonら、Anti-Cancer Drug Design 3:219-230(1989)参照。抗体の血清半減期を拡大するために、例えば米国特許5739277号に記載されるように、サルベージ受容体結合エピトープを抗体(特に抗体断片)中に組み込むこともできる。本明細書中で用いられる用語「サルベージ受容体結合エピトープ」は、IgG分子(例えば、IgG、IgG、IgG又はIgG)のインビボ血清半減期を拡大する原因となる、IgG分子のFc領域のエピトープを指す。
【0162】
10. 免疫コンジュゲート
本明細書中の方法において用いられるアンタゴニスト又は抗体は、任意選択的に、細胞傷害剤又はサイトカイン等の別の薬剤にコンジュゲートされる。
【0163】
コンジュゲーションは通常、共有結合により達成されることとなり、その精密な性質は、標的分子、及びインテグリンベータ7アンタゴニスト又は抗体ポリペプチド上の結合部位によって決定されることとなる。典型的には、化学修飾によって抗体上に導入されたアミノ酸側鎖、炭水化物鎖又は反応性基を介した抗ベータ7インテグリン抗体へのコンジュゲーションを可能にするリンカーの添加によって、非ペプチド剤が修飾される。例えば、薬物が、リジン残基のイプシロン-アミノ基を介して、遊離アルファ-アミノ基を介して、システイン残基へのジスルフィド交換によって、又は過ヨウ素酸による炭水化物鎖中の1,2-ジオールの酸化によって、結合されてよく、シッフ-塩基結合による種々の求核体を含有する薬物の結合が可能となる。例えば、米国特許4256833号参照。タンパク質修飾剤として、アミン反応性剤(例えば、反応性エステル、イソチオシアネート、アルデヒド及びハロゲン化スルホニル)、チオール反応性試薬(例えば、ハロアセチル誘導体及びマレイミド)、並びにカルボン酸-及びアルデヒド反応性試薬が挙げられる。インテグリンベータ7アンタゴニスト又は抗体ポリペプチドは、二機能性架橋結合試薬の使用により、ペプチド剤に共有結合され得る。ヘテロ二機能性試薬が、より一般的に用いられて、2つの異なる反応性部分(例えば、アミン反応性プラスチオール、ヨードアセトアミド又はマレイミド)の使用による2つの異なるタンパク質のカップリングの制御を可能にする。そのような結合剤の使用は、当該技術分野においてよく知られている。例えば、上記したBrinkley及び米国特許4671958号参照。ペプチドリンカーを使用することもできる。択一的に、抗ベータ7インテグリン抗体ポリペプチドを、融合ポリペプチドの調製によりペプチド部分に結合することもできる。
【0164】
更なる二機能性タンパク質カップリング剤の例として、3-(2-ピリジルジチオール)プロピオン酸N-スクシンイミジル(SPDP)、スクシンイミジル-4-(N-マレイミドメチル)シクロヘキサン-1-カルボキシレート、イミノチオラン(IT)、イミドエステルの二機能性誘導体(アジプイミド酸HCLジメチル等)、活性エステル(スベリン酸ジスクシニミヂル等)、アルデヒド(グルタルアルデヒド(glutareldehyde)等)、ビスアジド化合物(ビス(p-アジドベンゾイル)ヘキサンジアミン等)、ビス-ジアゾニウム誘導体(ビス-(p-ジアゾニウムベンゾイル)-エチレンジアミン等)、ジイソシアネート(2,6-ジイソシアン酸トルエン(tolyene)等)及びビス-活性フッ素化合物(1,5-ジフルオロ-2,4-ジニトロベンゼン等)が挙げられる。
【0165】
11. 免疫リポソーム
本明細書中に開示される抗ベータ7インテグリン抗体はまた、免疫リポソームとして製剤化されてもよい。「リポソーム」は、哺乳類への薬物の送達に有用である種々のタイプの脂質、リン脂質及び/又は界面活性剤から構成される小さなベシクルである。リポソームの成分は、一般的に二分子層構造で配置されており、生体膜の脂質配置と類似している。抗体を含有するリポソームが、Epsteinら、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 82:3688(1985)、Hwangら、Proc.Natl Acad.Sci.USA 77:4030(1980);米国特許4485045号及び米国特許4544545号;並びに1997年10月23日公開の国際公開第97/38731号等に記載される、当該技術分野において既知の方法によって調製される。循環時間が拡大されたリポソームが、米国特許5013556号に開示されている。
【0166】
特に有用なリポソームは、ホスファチジルコリン、コレステロール及びPEG誘導体化ホスファチジルエタノールアミン(PEG-PE)を含む脂質組成物を伴う逆相蒸発法によって生じさせることもできる。リポソームが、定義された細孔サイズのフィルタを通して押し出されて、所望の直径のリポソームが生じる。
【0167】
本発明の抗体のFab’断片は、ジスルフィド交換反応を介して、Martinら、J.Biol.Chem.257:286-288(1982)に記載されるようにリポソームにコンジュゲートすることもできる。化学療法剤が、任意選択的に、リポソーム内に含有される。Gabizonら、J.National Cancer Inst.81(19):1484(1989)参照。
【0168】
12. 抗体産生のためのベクター、宿主細胞及び組換え法
本明細書中に記載される抗ベータ7抗体又はポリペプチド剤をコードする単離された核酸、ベクター及び核酸を含む宿主細胞、並びに抗体産生のための組換え技術もまた提供される。
【0169】
抗体の組換え産生のために、抗体をコードする核酸は単離されて、更なるクローニング(DNAの増幅)用、又は発現用の複製可能ベクター中に挿入することができる。別の実施態様において、抗体は、例えば、本明細書中に出典明示によって特に援用される米国特許5204244号に記載されるような相同組換えによって産生され得る。モノクローナル抗体をコードするDNAが容易に単離されて、従来の手順を用いて(例えば、抗体の重鎖及び軽鎖をコードする遺伝子に特異的に結合することができるオリゴヌクレオチドプローブを用いて)配列決定される。多くのベクターが利用可能である。ベクター成分は概して、限定されないが、以下の一つ又は複数を含む:例えば、本明細書に出典明示によって特に援用される1996年7月9日発行の米国特許5534615号に記載されるような、シグナル配列、複製起源、一つ又は複数のマーカー遺伝子、エンハンサーエレメント、プロモーター及び転写終結配列。
【0170】
本明細書中でベクター内のDNAのクローニング又は発現に適した宿主細胞は、先に記載される原核生物、酵母又はより高等な真核生物細胞である。この目的に適した原核生物として、グラム陰性生物体又はグラム陽性生物体等の真正細菌が挙げられる(例えば腸内細菌科(Enterobacteriaceae)(例えば大腸菌といった大腸菌属(Escherichia)、エンテロバクター属(Enterobacter)、エルウィニア属(Erwinia)、クレブシエラ属(Klebsiella)、プロテウス属(Proteus)、例えばサルモネラ・チフィムリウム(Salmonella typhimurium)といったサルモネラ属(Salmonella)、例えば霊菌(Serratia marcescans)といったセラチア属(Serratia)及び赤痢菌属(Shigella)等)、枯草菌(Bacillisubtilis)及びバシラス・リケニフォルミス(B.licheniformis)(例えば、1989年4月12日公開の旧東ドイツ経済特許第266710号に開示されているバシラス・リケニフォルミス41P)等のバシラス属(Bacilli)、緑膿菌(Pseudomonas aeruginosa)等のシュードモナス属(Pseudomonas)、並びにストレプトマイセス属(Streptomyces))。ある好ましい大腸菌クローニング宿主が、大腸菌294(ATCC 31,446)であるが、他の株(大腸菌B、大腸菌X1776(ATCC 31,537)及び大腸菌W3110(ATCC 27,325)等)も適している。これらの例は、限定ではなく実例である。
【0171】
原核生物に加えて、糸状菌又は酵母等の真核微生物が、抗ベータ7インテグリン抗体コーディングベクターに適したクローニング宿主又は発現宿主である。出芽酵母(Saccharomyces cerevisiae)又は一般的なパン酵母が、より下等な真核生物宿主微生物体の中で最も一般的に用いられる。しかしながら、いくつかの他の属、種及び株が、本明細書中で一般的に利用可能であり、かつ有用である(分裂酵母(Schizosaccharomyces pombe)等;例えばクルイヴェロマイシス・ラクチス(Kluyveromyces lactis)、クルイヴェロマイシス・フラギリス(K.fragilis)(ATCC 12,424)、クルイヴェロマイシス・ブルガリカス(K.bulgaricus)(ATCC 16,045)、クルイヴェロマイシス・ウィケラミイ(K.wickeramii)(ATCC 24,178)、クルイヴェロマイシス・ワルティ(K.waltii)(ATCC 56,500)、クルイヴェロマイシス・ドロソフィラルム(K.drosophilarum)(ATCC 36,906)、クルイヴェロマイシス・サーモトレランス(K.thermotolerans)及びクルイヴェロマイシス・マルキシアヌス(K.marxianus)等のクルイヴェロマイシス属(Kluyveromyces)宿主;ヤロウイア属(yarrowia)(EP 402,226);ピキア酵母(Pichia pastoris)(EP 183,070);カンディダ属(Candida);トリコデルマ・リーシア(Trichoderma reesia)(EP 244,234);アカパンカビ(Neurospora crassa);シュワニオミセス・オキシデンタリス(Schwanniomyces occidentalis)等のシュワニオミセス属(Schwanniomyces);並びに糸状菌(例えば、ニューロスポラ属(Neurospora)、ペニシリウム属(Penicillium)、トリポクラジウム属(Tolypocladium)等、及びアスペルギルス・ニデュランス(Aspergillus nidulans)及び黒色麹菌(A.niger)等のアスペルギルス属(Aspergillus)宿主等))。
【0172】
グリコシル化抗ベータ7抗体の発現に適した宿主細胞は、多細胞生物に由来する。無脊椎動物細胞の例として、植物細胞及び昆虫細胞が挙げられる。多数のバキュロウイルス株及び変異体、並びにヨトウガ(Spodoptera frugiperda)(毛虫)、ネッタイシマカ(Aedes aegypti)(蚊)、ヒトスジシマカ(Aedes albopictus)(蚊)、キイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)(ショウジョウバエ)及びカイコガ(Bombyx mori)等の宿主からの対応する許容昆虫宿主細胞が同定されている。トランスフェクション用の種々のウイルス株が公的に入手可能であり、例えば、オートグラファ・カリフォルニア(Autographa californica)NPVのL-1変異体及びカイコガNPVのBm-5株、並びにそのようなウイルスが、特にヨトウガ細胞のトランスフェクション用に、本明細書中の本発明に従うウイルスとして用いられ得る。ワタ、トウモロコシ、ジャガイモ、ダイズ、ペチュニア、トマト及びタバコの植物細胞培養物が、宿主として利用されてもよい。
【0173】
しかしながら、脊椎動物細胞の注目が最も大きくなり、培養(組織培養)における脊椎動物細胞の増殖が常套的手順となった。有用な哺乳動物宿主細胞株の例として、SV40(COS-7、ATCC CRL 1651)によって形質転換されたサル腎臓CV1株;ヒト胚腎臓株(293細胞又は懸濁培養での増殖用にサブクローニングされた293細胞、Grahamら、J. Gen Virol. 36:59 (1977));仔ハムスター腎臓細胞(BHK、ATCC CCL 10);チャイニーズハムスター卵巣細胞/-DHFR(CHO、Urlaubら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA 77:4216 (1980));マウスセルトリ細胞(TM4、Mather、Biol. Reprod. 23:243-251 (1980));サル腎臓細胞(CV1 ATCC CCL 70);アフリカミドリザル腎臓細胞(VERO-76、ATCC CRL-1587);ヒト子宮頸癌細胞(HELA、ATCC CCL 2);イヌ腎臓細胞(MDCK、ATCC CCL 34);バッファローラット肝細胞(BRL 3A、ATCC CRL 1442);ヒト肺細胞(W138、ATCC CCL 75);ヒト肝細胞(Hep G2、HB 8065);マウス乳房腫瘍(MMT 060562、ATCC CCL51);TRI細胞(Matherら、Annals N.Y. Acad. Sci. 383:44-68 (1982));MRC 5細胞;FS4細胞;及びヒト肝癌株(Hep G2)がある。
【0174】
宿主細胞が、抗ベータ7インテグリン抗体産生用の上記の発現ベクター又はクローニングベクターで形質転換され、プロモーターを誘導し、形質転換体を選択し、又は所望の配列をコードする遺伝子を増幅するのに適するように修飾された従来の栄養培地において培養される。
【0175】
本発明の抗ベータ7インテグリン抗体を産生するのに用いられる宿主細胞は、種々の培地で培養することができる。Ham’s F10(Sigma)、最小必須培地(MEM)(Sigma)、RPMI-1640(Sigma)、及びダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM)(Sigma)等の市販の培地が、宿主細胞を培養するのに適している。また、Hamら、Meth.Enz.58:44(1979)、Barnesら、Anal.Biochem.102:255(1980)、米国特許4767704号;米国特許4657866号;米国特許4927762号;米国特許4560655号;又は米国特許5122469号;国際公開第90/03430号;国際公開第87/00195号;又は米国再発行特許30985号に記載される何れの培地も、宿主細胞用の培地として用いられ得る。これらの何れの培地も、必要に応じて、ホルモン及び/又は他の増殖因子(インシュリン、トランスフェリン又は上皮増殖因子等)、塩(塩化ナトリウム、カルシウム、マグネシウム及びリン酸塩等)、バッファー(HEPES等)、ヌクレオチド(アデノシン及びチミジン等)、抗生物質(GENTAMYCIN(商標)薬等)、微量要素(マイクロモルの範囲の最終濃度で通常存在する無機化合物と定義される)及びグルコース又は同等のエネルギー源を補充することができる。任意の他の必須の補助剤もまた、当該技術分野の当業者に知られているであろう適切な濃度で含まれ得る。温度、pH等の培養条件は、発現のために選択された宿主細胞に以前に用いられたものであり、当業者にとって明らかであろう。
【0176】
組換え技術を用いる場合、抗体は、細胞内、細胞膜周辺内に産生されてもよいし、培地中に直接分泌されてもよい。抗体が細胞内に産生される場合、第1の工程として、微粒子の残骸である宿主細胞又は溶解断片が、例えば遠心分離又は限外濾過によって除去される。Carterら、Bio/Technology 10:163-167(1992)は、大腸菌の細胞膜周辺腔に分泌される抗体を単離する手順を記載している。簡潔に、細胞ペーストが、酢酸ナトリウム(pH3.5)、EDTA及びフッ化フェニルメチルスルホニル(PMSF)の存在下で約30分にわたって融解する。細胞残骸は、遠心分離によって除去することができる。抗体が培地中に分泌される場合、そのような発現系からの上清が、概して最初に、例えばAmicon又はMillipore Pelliconの限外濾過ユニットといった市販のタンパク質濃縮フィルタを用いて濃縮される。タンパク質分解を妨げるPMSF等のプロテアーゼ阻害剤が、何れかの先行工程に含まれてよく、かつ外来の汚染物質の増殖を防止する抗生物質が含まれ得る。
【0177】
細胞から調製された抗体組成物は、例えば、ヒドロキシルアパタイトクロマトグラフィー、ゲル電気泳動、透析及びアフィニティークロマトグラフィーを用いて精製されてよく、アフィニティークロマトグラフィーが好ましい精製技術である。アフィニティーリガンドとしてのタンパク質Aの適合性は、抗体中に存在する任意の免疫グロブリンFcドメインの種及びアイソタイプによって決まる。タンパク質Aは、ヒトγ1、γ2、又はγ4重鎖に基づく抗体を精製するのに使用することができる(Lindmarkら、J. Immunol. Meth. 62:1-13 (1983))。タンパク質Gが、全マウスアイソタイプに、及びヒトγ3に推奨される(Gussら、EMBO J. 5:1567-1575 (1986))。アフィニティーリガンドが結合されるマトリックスは、ほとんどの場合アガロースであるが、他のマトリックスも利用可能である。孔制御ガラス又はポリ(スチレンジビニル)ベンゼン等の機械的に安定したマトリックスにより、アガロースで達成され得るよりも流速が速く、かつプロセシング時間が短くなり得る。抗体がCH3ドメインを含む場合、Bakerbond ABX(商標)樹脂(J.T.Baker、Phillipsburg、N.J.)が精製に有用である。イオン交換カラムでの分画、エタノール沈殿、逆相HPLC、シリカでのクロマトグラフィー、ヘパリンSEPHAROSE(商標)でのクロマトグラフィー、陰イオン又は陽イオン交換樹脂(ポリアスパラギン酸カラム等)でのクロマトグラフィー、クロマトフォーカシング、SDS-PAGE及び硫酸アンモニウム沈殿等の他のタンパク質精製技術もまた、回収されるべき抗体に応じて利用可能である。任意の予備的精製工程後、注目する抗体を含む混合物及び汚染物質が、約2.5-4.5のpHの溶出バッファーを用いる低pH疎水性相互作用クロマトグラフィーにかけられてよく、好ましくは低い塩濃度(例えば、約0-0.25Mの塩)にて実行される。
【0178】
C. 医薬製剤
本発明の治療剤、アンタゴニスト又は抗体を含む治療製剤が、所望の純度を有する抗体を、任意選択的な生理的に許容される担体、賦形剤又は安定化剤(Remington's Pharmaceutical Sciences 16 edition、Osol, A. Ed. (1980))と混合することによって、水性溶液、凍結乾燥又は他の乾燥製剤の形態で貯蔵用に調製される。許容される担体、賦形剤又は安定化剤は、用いられる投薬量及び濃度にてレシピエントに対して非毒性であり、これらとして、リン酸、クエン酸、ヒスチジン及び他の有機酸等のバッファー;アスコルビン酸及びメチオニンを含む抗酸化剤;防腐剤(塩化オクタデシルジメチルベンジルアンモニウム;塩化ヘキサメソニウム;塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム;フェノール、ブチル又はベンジルアルコール;メチル又はプロピルパラベン等のアルキルパラベン;カテコール;レゾルシノール;シクロヘキサノール;3-ペンタノール;及びm-クレゾール等);低分子量(約10残基未満)のポリペプチド;血清アルブミン、ゼラチン若しくは免疫グロブリン等のタンパク質;ポリビニルピロリドン等の親水性ポリマー;グリシン、グルタミン、アスパラギン、ヒスチジン、アルギニン若しくはリジン等のアミノ酸;グルコース、マンノース若しくはデキストリンが挙げられる単糖類、二糖類及び他の炭水化物;EDTA等のキレート剤;スクロース、マンニトール、トレハロース若しくはソルビトール等の糖類;ナトリウム等の塩形成対イオン;金属複合体(例えば、Zn-タンパク質複合体);並びに/又はTWEEN(商標)、PLURONICS(商標)若しくはポリエチレングリコール(PEG)等の非イオン性界面活性剤が挙げられる。
【0179】
本明細書中の製剤はまた、治療される特定の適応症用の、必要に応じて複数の活性化合物を含有してもよく、これらは好ましくは互いに悪影響を与えない相補的な活性を有する。そのような分子は適切には、目的に効果的である量で組み合せて存在する。
【0180】
活性成分はまた、例えば、コアセルベーション技術によって、又は界面重合によって調製されたマイクロカプセル中にトラップされてもよく、例えば、コロイダル薬送達系(例えば、リポソーム、アルブミン微小球体、マイクロエマルジョン、ナノ粒子及びナノカプセル)における、又はマクロエマルジョンにおける、それぞれヒドロキシメチルセルロース又はゼラチン-マイクロカプセル及びポリ-(メタクリル酸メチル)(poly-(methylmethacylate))マイクロカプセルがある。そのような技術は、Remington’s Pharmaceutical Sciences 16th edition、Osol,A.Ed.(1980)に開示されている。
【0181】
インビボ投与に用いられる製剤は、滅菌されていなければならない。これは、滅菌濾過膜を通す濾過によって容易に達成される。
【0182】
持続性放出調製物を調製することもできる。持続性放出調製物の適切な例として、本発明の免疫グロブリンを含有する固体の疎水性ポリマーの半透性マトリックスが挙げられ、このマトリックスは、例えばフィルム又はマイクロカプセルといった成形品の形態である。持続性放出マトリックスの例として、ポリエステル、ヒドロゲル(例えば、ポリ(メタクリル酸2-ヒドロキシエチル)又はポリ(ビニルアルコール))、ポリ乳酸(米国特許3773919号)、L-グルタミン酸及びγエチル-L-グルタメートの共重合体、非分解性エチレン-酢酸ビニル、LUPRON DEPOT(商標)(乳酸-グリコール酸共重合体及び酢酸ロイプロリドから構成される注射可能な微小球体)等の分解性乳酸-グリコール酸共重合体、並びにポリ-D-(-)-3-ヒドロキシ酪酸が挙げられる。エチレン-酢酸ビニル及び乳酸-グリコール酸等のポリマーが100日間にわたる分子の放出を可能にする一方で、あるヒドロゲルがより短い時間的期間でタンパク質を放出する。カプセル化された免疫グロブリンが体内に長期間留まる場合、37℃での水分への曝露の結果として変性又は凝集して、生物活性の消失及び免疫原性の起こり得る変化がもたらされ得る。関与する機構に応じた安定化のための合理的な戦略が考案され得る。例えば、凝集機構が、チオ-ジスルフィド交換による分子間S-S結合形成であると発見されれば、スルフヒドリル残基を修飾し、酸性溶液から凍結乾燥し、適切な添加剤を用いて水分含有量を制御し、かつ特異的なポリマーマトリックス組成物を発達させることによって、安定化が達成され得る。
【0183】
D. 治療方法
本発明の抗ベータ7抗体等のインテグリンベータ7アンタゴニスト(及び補助治療剤)は、非経口、皮下、腹腔内、肺内及び鼻腔内、並びに、局所的治療の必要に応じて病変内投与が挙げられる任意の適切な手段によって投与される。非経口注入として、筋肉内、静脈内、動脈内、腹腔内又は皮下投与が挙げられる。また、抗体は、パルス注入によって、特に抗体の用量を減少させて、適切に投与される。投与は、投与が短期であるか長期であるかに部分的に応じて、任意の適切な経路によって、例えば、静脈内注射又は皮下注射等の注射によってなされてもよい。
【0184】
本発明の治療剤は、適正な医療規範と一致した形で製剤化され、投与されることとなる。この文脈で考慮する因子として、治療される特定の障害、治療される特定の哺乳類、個々の患者の臨床状態、障害の原因、薬剤の送達部位、投与の方法、投与のスケジューリング、及び医療施術者に知られている他の因子が挙げられる。治療剤は、問題の障害を防止又は治療するのに現在用いられている一つ又は複数の薬剤である必要はないが、これ(ら)と共に任意選択的に製剤化される。
【0185】
中等度から重度の活性UCの被検体のための標準的ケアは、以下の標準的用量での治療法を含む:アミノサリシレート、経口コルチコステロイド、6-メルカプトプリン(6-MP)及び/又はアザチオプリン。本明細書中に開示されている抗ベータ7インテグリン抗体等のインテグリンベータ7アンタゴニストによる治療法は、そのような被検体のための標準的ケアにより達成されるよりも優れた疾患寛解(疾患の迅速な制御及び/又は長期間にわたる寛解)及び/又は臨床応答の改善をもたらすこととなる。
【0186】
一実施態様において、IBDに罹ったヒト被検体の炎症腸疾患(IBD)のための本発明の治療は、被検体に抗ベータ7インテグリン抗体等の治療剤の有効量を投与することを含み、さらに、被検体に、免疫抑制薬、疼痛制御剤、下痢止め剤、抗生物質又はこれらの組合せである第2の医薬の有効量を投与することを含む。
【0187】
例示的な実施態様において、前記第2の医薬は、アミノサリチル酸、経口コルチコステロイド、6-メルカプトプリン(6-MP)及びアザチオプリンからなる群から選択される。別の例示的な実施態様において、前記第2の医薬は、別の抗ベータ7インテグリン抗体又はサイトカインに対する抗体等の別のインテグリンベータ7アンタゴニストである。
【0188】
全てのこれら第2の医薬は、互いに組み合わせて、第1の医薬と用いられてもよいし、単独で第1の医薬と用いられてもよいので、本明細書中で用いられる表現「第2の医薬」は、これが第1の医薬の他にある唯一の医薬であることを意味しない。したがって、第2の医薬は、一医薬である必要はなく、複数のそのような薬物を構成してもよいし、含んでもよい。
【0189】
本明細書中で説明されるこれらの第2の医薬は概して、同じ投薬量が先に用いられたような投与経路で、又はこれまで用いられた投薬量の約1から99%が、用いられる。そのような第2の医薬(一又は複数)が少しでも用いられる場合、任意選択的に、これらは、特に第1の医薬の最初の投与を越える以降の投与において、それらによって引き起こされる副作用を除外又は軽減するように、第1の医薬が存在しない場合よりも低い量で用いられる。例えば、本明細書中の抗ベータ7インテグリン抗体による治療法は、ステロイドの投与を次第に減らす、又は中断することを可能にする。
【0190】
本明細書中の併用投与として、別々の製剤又は単一の医薬製剤を用いる共投与、及びどちらの順でもよい連続投与が挙げられ、好ましくは、時間的期間がある一方で、双方(又は全て)の活性剤が同時にそれらの生物活性を発揮する。
【0191】
第2の医薬の併用投与として、別々の製剤又は単一の医薬製剤を用いる共投与(並行投与)、及びどちらの順でもよい連続投与が挙げられ、好ましくは、時間的期間がある一方で、双方(又は全て)の活性剤(医薬)が同時にそれらの生物活性を発揮する。
【0192】
E. FACS解析
種々のリンパ球集団が、バイオマーカーの組合せの発現量によって同定され、例えば、限定されないが、例えばフローサイトメトリー分析(FACS)等の、当該技術分野において利用可能な技術を用いるCD4、CD45RA及びベータ7がある。これらのマーカーの異なる発現パターンによるリンパ球のサブセット集団は、フローサイトメトリー(FACS)等の当該技術分野において用いられる標準的な技術により同定される。
【0193】
蛍光活性化細胞ソーティング(FACS)が、各細胞の特異的な光散乱及び蛍光(florescent)特性に基づいて、生物細胞の異種混合物を2つ以上のコンテナ中に、1回に1細胞、ソーティングする方法を提供する。これは有用な科学機器である。というのも、個々の細胞からの蛍光性シグナルの、速くて、客観的で、かつ定量的な記録、及び特に注目する細胞の物理的分離を実現するからである。細胞懸濁液は、液体の狭く、迅速に流れるストリームの中央に引き込まれる。フローは、細胞間の、それらの直径に対する分離が大きくなるように配置される。振動機構により、細胞のストリームが個々の小滴に破断される。系は、複数の細胞が小滴(単数)中にある可能性が低くなるように調整される。ストリームが小滴に破断される直前に、フローは、各細胞の注目する蛍光特性が測定される蛍光測定ステーションを通過する。ストリームが小滴に破断されるまさにその点に帯電環が置かれる。直前の蛍光強度測定値に基づいて環が帯電して、ストリームから破断されるにつれ、反対の電荷が小滴上にトラップされる。続いて、帯電した小滴は、電荷に基づいて、小滴を転換する静電偏向系を通ってコンテナ中に落ちる。一部の系では、電荷はストリームに直接的に加えられて、小滴の破断はストリームと同じ符号の電荷を保持する。続いて、ストリームは、小滴破断後に中性に戻される。
【0194】
フローサイトメーターによって生じたデータは、ヒストグラムを生成するために一次元で、二次元のドットプロットで、さらに言えば三次元でプロットすることができる。これらのプロット上の領域は、「ゲート」と呼ばれる一連のサブセット抽出を生じさせることによって、蛍光強度に基づいて、連続して分離され得る。診断目的及び臨床目的に特異的なゲート制御手順が存在する。多くの場合、対数関数的規模でプロットされる。様々な蛍光性染料の放出スペクトルが重なるので、ディテクタでのシグナルは、電子的に、かつコンピュータ処理的に補償されなければならない。多くの場合、フローサイトメーターを用いて蓄積されたデータは、どこか他の場所で再分析され得、他の人々が使えるように機械を開放する(Loken MR.「Immunofluorescence Techniques in Flow Cytometry and Sorting」:341-53. Wiley. (1990))。
【0195】
種々のリンパ球の量は、当該技術分野の種々の方法で定量化することができる。服用前のベースラインレベルの百分率としての絶対計数が、患者から収集した試料中の各時点でのリンパ球サブセットについて算出され得る。また、算出され得るのは、リンパ球の各サブセットについての絶対計数であり、これは、絶対リンパ球計数(末梢血のマイクロリットル当たりのリンパ球として表される血液学測定から得られる値)掛ける各サブセットについてのゲート制御されたリンパ球の百分率(フローサイトメトリー分析から得られる)に等しい。
【0196】
F. 治療レジメン設計
薬物の開発は、複雑かつ高価なプロセスである。市場に新しい薬物をもたらすためのコストは、10億ドル以上であると推定される。フェーズI臨床治験における薬物の10%未満しか承認フェーズに達しない。薬物が後期ステージで失敗する重要な2つの理由が、用量-濃度応答と予期しない安全性事象との関係についての理解の不足である。このシナリオを考えると、薬物がどのようにインビボで機能して、臨床治療候補の成功を補助することとなるかについて予測するのを助ける効果的なツールがあることが重要である(Lakshmi Kamath、Drug Discovery and Development; Modeling Success in PK/PD Testing Drug Discovery & Development (2006))。
【0197】
薬物動態(PK)が、薬物の吸収、分布、代謝及び消失の性質の特徴を明らかにする。薬効学(Pd)が、投与された薬物に対する生理学的応答及び生物学的応答を定義する。PK/PDモデル化が、これらの2つのプロセス間の数学的関連性及び理論的関連性を確立して、薬物作用をより良く予測するのを助ける。統合されたPK/PDモデル化及びシミュレーションを介したコンピュータによる治験設計が、多くの薬物開発プログラムに組み込まれており、影響が大きくなっている(Lakshmi Kamath、Drug Discovery and Development; Modeling Success in PK/PD Testing Drug Discovery & Development (2006))。
【0198】
PK/PD試験は典型的に、薬物開発プロセスのあらゆるステージにて実行される。開発が益々複雑になり、時間がかかり、かつ高コストとなっているので、企業はPK/PDデータの使用をより良いものとして、初期の欠陥のある候補を除外し、かつ臨床成功のベストチャンスがあるものを同定することを目指している(上記したLakshmi Kamath)。
【0199】
PK/PDモデル化手法は、バイオマーカー応答、薬物レベル及び投与レジメンの関係を決定するのに役立っている。薬物候補のPK/PDプロファイル及びこれに対する患者の応答を予測する能力は、臨床治験の成功に重要である。分子生物学の技術における最近の進歩及び種々の疾患に対する標的のより良い理解により、薬物の治療有効性の良好な臨床インジケータとしてのバイオマーカーが確認されてきた。バイオマーカーアッセイは、薬物候補に対する生物学的応答を同定するのを助ける。バイオマーカーが臨床的に確認されると、治験シミュレーションは効果的にモデル化され得る。バイオマーカーは、いつか薬物開発における臨床転帰と置き換わり得る代理状態を達成する可能性を有する(上記したLakshmi Kamath)。
【0200】
本発明の更なる詳細が、以下の非限定的な実施例によって説明される。
【実施例
【0201】
実施例1
中等度から重度の潰瘍性大腸炎患者におけるrhuMAbベータ7(エトロリズマブ)の有効性及び安全性を評価するための、第II相無作為化二重盲検プラセボ対照試験
臨床試験の説明
rhuMAbベータ7(エトロリズマブ)の説明
RhuMAbベータ7(エトロリズマブ)は、ヒトIgG1サブグループIII V、κサブグループI Vコンセンサス配列に基づくヒト化モノクローナル抗体であり、特にインテグリンヘテロ二量体のβ7サブユニットに誘導される。図1A及びBを参照。α4β7(約116pMのK)及びαEβ7(約1800pMのK)に高親和性で結合することが示された。
【0202】
この組換え抗体は、IgG1抗体に特有の鎖間及び鎖内ジスルフィド結合によって共有結合される2つの重鎖(446残基)及び2つの軽鎖(214残基)を持つ。本明細書に記載された研究のために、それはチャイニーズハムスター卵巣(CHO)細胞で生産された。インタクトな、非グリコシル化rhuMAbベータ7分子の分子量は、約144kDaであった。rhuMAbベータ7の各々の重鎖は、Asn297に1つの保存されたN結合型グリコシル化部位を持つ。この部位に存在するオリゴ糖は、CHO細胞で発現される組換え抗体で観察される典型的なものであり、アシアロ、二分岐のG0及びG1グリカンの主要な糖型を持つ。2つのG0グリカンを含み、C末端リジン残基を含まない、最も一般的なrhuMAbベータ7型の分子量は、約147kDaであった。
【0203】
RhuMAbベータ7製剤及びプラセボは、Genentechによって調製された。それらは、透明からわずかに乳白色であり、無色からわずかに黄色の水性溶液であった。両方の溶液は、IV及びSC投与用に滅菌されて防腐剤の入っていない液体であった。
【0204】
試験デザイン
試験の説明
本第II相試験は、中等度から重度のUC患者におけるプラセボと比較した2つのrhuMAbベータ7投与レベルの有効性と安全性を評価する無作為化二重盲検プラセボ対照多施設試験であった。主要有効性評価項目を、6週目の副次的有効性評価項目で、10週目(試験薬の最終的な投与が行われた2週後)に評価した。
【0205】
患者を、rhuMAbベータ7 100mg SC(均一用量)を0、4週目に、8週目に(100mg用量)、及び420mg SC(均一負荷用量)を0週目に、その後300mg SCを2、4及び8週目に(本明細書では「300mg+LD」、LD=負荷用量と呼ぶ)、又は対応するプラセボSCの投与範囲に1:1:1の比率で無作為化した。試験の模式図を図2に示す。試験は0-35日のスクリーニング期間、10週間の二重盲検治療期間、18週間の安全性追跡調査期間及び17カ月(無作為化後2年)の進行性多病巣性白質脳障害(PML)追跡調査期間に分割した。
【0206】
前項の用量値は、基準用量である。第II相用量投与では、150mg/mlのバイアル濃度で、バイアル及びシリンジを用いた。一貫して正確な用量投与を可能にするために、0.7mlは、皮下(SC)注射ごとに選択された体積であった。したがって、実際の薬物量は、基準100mg用量群では105mg(1×0.7mlのSC注射)であり、基準300mg用量群では315mg(3×0.7mlのSC注射)であった。420mgの実際の負荷用量は、420mg(4×0.7mlのSC注射)であった。すべてのSC注射は、腹部に行われた。したがって、「100mg」の用量と「105mg」の用量とが、本明細書では同じ意味で使われる。さらに、「300mg」の用量と「315mg」の用量とが、本明細書では同じ意味で使われる。
【0207】
適格であるために、患者は米国消化器病学会(ACG)実施ガイドラインに従って、最小限12週間の期間、UCであると診断されなければならず、すなわち、場合によってはMCS≧5、又は、場合によっては内視鏡検査サブスコア≧2を含むMCS≧6によって立証されるように中等度から重度の疾患のエビデンスを伴い、病理組織学報告によって裏付けられる臨床的及び内視鏡的証拠、直腸出血サブスコア≧1(表1を参照)、及び、肛門縁から最低25cmの疾患活性の内視鏡的証拠。本試験の追加の選択基準及び除外基準は、国際特許公開番号、国際公開第2012/135589号で提供される。
【0208】
無作為化の前に、患者はUCの併用薬を安定して投与されなければならない。経口の5-アミノサリチル酸(5-ASA)及び免疫抑制薬(アザチオプリン[AZA]、6-メルカプトプリン[6-MP]又はメトトレキセート)投与量は、1日目の無作為化の前に少なくとも4週間安定に保たなければならない。局所5-ASA又はコルチコステロイドを投与されていた患者は、1日目の無作為化の前に2週間中止していなければならない。経口コルチコステロイド投与は、1日目の無作為化の前に2週間安定に保たなければならない。高用量ステロイドを投与されている患者は、1日目の無作為化の前に2週間、用量を20mg/日以下にしなければならない。試験治療期間の間に経口コルチコステロイドを投与されている患者については、ステロイドの漸減を、10週目に開始し、1週当たり5mgのプレドニゾン又はプレドニゾン等価物の割合で2週間、次いで1週当たり2.5mgのプレドニゾン又はプレドニゾン等価物の割合で中止するまで行わなければならない。経口免疫抑制薬(経口コルチコステロイド以外)を投与されている患者については、免疫抑制薬の漸減は、8週目に開始しなければならず、患者は10週目までに免疫抑制薬を完全にやめなければならない。以前、抗TNF治療法を受けた患者は、1日目に試験薬を投与するために、無作為化の前に最低8週間、治療法を中止しなければならない。試験の間のいつでも、患者が疾患活性の持続又は増加を生じると、ステロイド及び/又は免疫抑制剤用量の増加の形で救済療法を治験責任医師の臨床判断によって増加又は開始してもよい。救済療法を必要とした患者は、試験に残ることを許諾されたが、試験治療を中止して、データ解析の間、治療の失敗を起こしたと分類された。
【0209】
患者は、少なくとも1つの抗TNF剤を含む従来の治療法に応答することができなかったかどうか決定するために評価された。本明細書に用いられるように、抗TNF剤及び免疫抑制薬に応答しないこと及び/又は不耐性であることは以下を意味する。抗TNF剤に関して、応答しないこと及び/又は不耐性であることは、以前に行われた次の一つ又は複数の治療にもかかわらず、活発な疾患の症状が持続することを意味する。(a)インフリキシマブ:5mg/kgのIV、6週にわたって3回投与し8週目に評価、(b)アダリムマブ:0週目に1回160mgのSC投与、続いて2週目に1回80mgの投与、次いで40mgを4及び6週目に投与し、8週目に評価。又は前の応答(応答したが、応答を失わなかった患者による治療の選択的な中止は、適格とならない)に続く定期的に予定された維持投与の間に再発する活発な症状、又は少なくとも1つの抗TNF抗体に対する不耐性の履歴(注入関連の反応又は注射部位反応、感染、うっ血性心不全、脱髄を含むが、これに限らず、又は限定しない)。免疫抑制剤に関して、応答しないこと及び/又は不耐性であることは、アザチオプリン(≧1.5mg/kg)、又は等価量の6-メルカプトプリンmg/kg(≧0.75mg/kg)、又はメトトレキサート、の一つ又は複数を1週当たり25mgのSC/筋肉内(又は指示されるように)を少なくとも8週間という過去の治療にもかかわらず、活発な疾患の症状が持続することを意味する。又は少なくとも1つの免疫抑制剤に対する不耐性の履歴(膵臓炎、薬物熱、発疹、悪心/嘔吐、肝機能検査上昇、チオプリンS-メチルトランスフェラーゼ遺伝子変異、感染を含むがこれに限らない)。
【0210】
試験治療への無作為化は、コルチコステロイドによる併用治療(有/無)、免疫抑制剤による併用治療(有/無)、過去の抗TNF曝露(有/無)(米国で無作為化された患者を除く)及び研究施設によって階層化された。
【0211】
UC疾患活性を、スクリーニング時(これはベースラインMCSと考えられた)、6週目(4週目の投与の2週後)、及び10週目(試験薬の最終的な投与の2週後)にMCSを用いて評価した。結腸の生検は、これらの同じ時点で行われる軟性S状結腸鏡検査の間に得られた。部分的MCSも、試験を通して収集された。患者報告アウトカム(PRO)は短期炎症腸疾患質問票(SIBDQ)及びMCSを用いても評価され、それは1日目、6及び10週目に患者によって記入されることになっていた。さらに、UCの疾患活性、毎日の症状及び影響は、スクリーニングから(1日目の約7日前及び1日目まで)及び6及び10週目の少なくとも試験来院の7日前及び試験来院日まで、患者によって毎日記入された患者日誌の中から収集された。血清及び便試料も、バイオマーカー分析のために採取した。便を、バイオマーカーの測定のために、スクリーニング時並びに6、10及び28週目に採取した。測定のために考慮された例示的バイオマーカーは、リポカリン、カルプロテクチン及びラクトフェリンを含むが、これに限定されるものではない。血清及び血漿を、探索的バイオマーカーの測定のために、スクリーニング時、1日目、並びに4、6、10、16及び28週目に採取した。
【0212】
本試験のための主要有効性評価項目は、10週目までに1ポイントを超える個体のサブスコアのない、MCSの絶対的減少が2以下と定義される臨床寛解を達成した患者の割合であった。追加の副次的評価項目は、下記のように試験評価基準にリストされる。
【0213】
評価基準
主要有効性評価基準
主要有効性評価基準は、10週目の臨床寛解であった。臨床寛解は、1ポイントを超える個体のサブスコアがなく、MCS≦2によって定義される(表1を参照)。
【0214】
副次的有効性評価基準
本試験のための副次的有効性評価基準は、(1)臨床応答が、MCSでベースラインから少なくとも3ポイント減少及び30%減少、及び直腸出血サブスコアが1ポイント以上減少又は絶対的直腸出血スコアが0又は1、によって定義された6週目及び10週目の臨床応答、(2)6週目の臨床寛解(上記に定めた)、及び(3)6週目及び10週目の内視鏡検査スコア及び直腸出血スコアの表示が0。
【0215】
探索的評価基準
本試験の探索的評価基準は、応答又は寛解を達成した患者におけるUCの再発までの時間であった。この評価基準に関して、再燃は、3日間の持続性直腸出血を伴う部分的なMCSで2ポイントの増加、及び軟性S状結腸鏡検査で内視鏡検査スコアが2であると定義される。
【0216】
安全評価基準
rhuMAbベータ7の安全性と忍容性は、次の基準を用いて評価された:(1)国立癌研究所有害事象共通用語規準(NCI CTCAE)第4.0版に従って類別された有害事象及び深刻な有害事象の発生率、(2)バイタルサイン及び安全性実験室基準の臨床的に重要な変化、(3)有害事象に起因する中止、(4)注射部位反応及び過敏症の発生率及び性質、(5)感染性合併症の発生率;及び、(6)ATAの発生率によって測定される免疫原性。
【0217】
薬物動態アッセイ
rhuMAbベータ7のPKの決定及び特性評価のために、全患者から血清試料を採取した。血清PK試料を、定量可能な最低濃度が12.5ng/mLの、検証されたブリッジングELISAを用いて分析した。アッセイ方法は、以前に記載された(例えば、国際特許公開番号、国際公開第2012/135589号を参照)。手短に言うと、比色検出系によるサンドイッチELISAは、ヒト血清のrhuMAbベータ7(PRO145223)を定量化するために検証された。rhuMAbベータ7を捕えるために、マイクロタイタープレートを1.0μg/mL抗rhuMAbベータ7抗体で被覆した。希釈した試料、標準物質及びコントロールを、プレートに加え、インキュベートした。その後、ビオチン化された抗rhuMAbベータ7及びホースラディッシュペルオキシダーゼ(HRP)にコンジュゲートするストレプトアビジンを検出のために加え、インキュベートした。ペルオキシダーゼ基質(テトラメチルベンジジン)を発色させるために加え、1Mリン酸を加えることによって反応を停止した。検出吸光度のための450nm、及び参照吸光度のための620又は630nmでプレートを読み取った。
【0218】
薬力学的アッセイ
エトロリズマブ薬力学的作用(PD)を評価するために、2つの異なるアッセイを、各々で抗ベータ7抗体を用いて行った。第1のアッセイは、以下「占有アッセイ」と記載され、図2Aに図式的に示されており、rhuMabベータ7の代わりに異なる競合抗ベータ7抗体、FIB504(rhuMAbベータ7と同じエピトープと結合する)が使用された以外は、以前に記載されたように(例えば、国際特許公開番号、国際公開第2012/135589号を参照)本質的に実行された。手短に言うと、各々の患者の末梢血液試料は、試験を通して特定の時点で収集された。試料をナトリウムヘパリンバキュテイナ採血管に集め、評価のために契約したアッセイ施設へ、一晩室温で輸送した。試料を分取し、溶解し、洗浄し、エトロリズマブの存在下ではβ7インテグリンと結合しない、蛍光性標識抗ベータ7抗体、FIB504(BD Biosciences、San Jose、CA)で染色した。CD3、CD4、CD45RA、CD19、CD38及びIgDに対する抗体も、T及びBリンパ球の特異的なサブセットを同定するために加えられた。試料を次いでBD FACS Cantoから入手し、リンパ球のサブセットでゲーティングすることによって分析した。サブセットを、下記の表2に、さらに記載する。
【0219】
上記の表2に記載されたTリンパ球は、特定の実験で、CD4+又はCD4-としてさらに分析された。
【0220】
蛍光性標識されたFIB504の結合は、2つの異なる投与前の時点(スクリーニング及び投与前1日目)及び、試験を通した特定の投与後の時点で評価された。非占有β7インテグリンを持つT及びB細胞サブセットの絶対的な数を、各々の試験時点で評価し、それぞれの投与前ベースラインの百分率(%BL)として、又は、ベースラインからの変化として表した。ベースラインは、投与前(スクリーニング及び投与前1日目)値の平均と定義された。各々のコホートのために、エトロリズマブ又はプラセボで治療した患者の平均絶対カウントを計算した。
【0221】
第2のアッセイは、図2Bに図式的に示され、以下「細胞表面ベータ7インテグリン検出アッセイ」又は「発現アッセイ」と記載され、エトロリズマブ又はプラセボで治療前、治療中及び/又は治療後のリンパ球の表面に存在するインテグリンベータ7のレベルを評価するように設計された。発現アッセイも、エトロリズマブの作用機構(MOA)を評価する方法である。これは、表面で、インテグリンアルファ4ベータ7へのエトロリズマブの結合がリガンドMAdCAM-1との相互作用をブロックし、したがって、腸ホーミングリンパ球の腸への輸送をブロックし、結果として表面で腸ホーミングリンパ球が同時に増大すると仮定されるからである。実際に、これは観察されて、前臨床試験及び臨床試験の両方で以前に記載されている。例えば、国際特許公開番号、国際公開第2009/140684号、及びStefanichら、Br.J.Pharmacol.162:1855-1870(2011)を参照。したがって、アッセイは「MOAアッセイ」とも呼ばれる。さらに、インテグリンアルファEベータ7へのエトロリズマブの結合がリガンドE-カドヘリンとの相互作用をブロックし、腸でリンパ球の保持を阻害すると仮定される。エトロリズマブ媒介ホーミングの破壊、及びリンパ系組織内の炎症誘発性白血球の保持は、胃腸管における炎症を結果として減少に導くと仮定され、それによってUC及びCDと関連した病徴を含む、IBDに特有の病徴を下方調整する。
【0222】
ベータ7発現アッセイ(MOAアッセイ)は、以前に記載されている。例えば、国際特許公開番号、国際公開第2009/140684号を参照。手短に言うと、β7を発現しているT細胞の数をフローサイトメトリーによって評価した。蛍光性標識FIB504を9D8として知られている蛍光性コンジュゲート抗ベータ7抗体、非競合抗ベータ7抗体(すなわち、エトロリズマブの存在下でβ7インテグリンと結合することができる)で置換したことを除いては、アッセイは先に述べた占有アッセイと同様に行った。細胞表面上で発現されるβ7インテグリンを持つT及びB細胞サブセットの絶対的な数を、各々の試験時点で評価し、細胞サブセット投与前ベースラインの百分率(%BL)として、又は、ベースラインからの変化として表した。
【0223】
T及びBリンパ球サブセットの表面で、β7インテグリンの発現量を評価するために、細胞表面β7発現の中央値蛍光強度(MFI)を、フローサイトメトリーによって評価し、既知の蛍光体濃度の蛍光性標識ミクロビーズ標準物質で標準化した。T及びB細胞サブセットの細胞表面上の蛍光性9D8の可溶性蛍光色素分子等量(MESF:Molecules of Equivalent Soluble Fluorochrome)を、投与前、及び以降の投与後の時点で評価した。T及びB細胞サブセットの表面上で発現されるβ7インテグリンのMESFを、各々の試験時点で評価し、そのサブセットの投与前ベースラインの百分率(%BL)として、又はベースラインからの変化として表した。
【0224】
結腸組織分析
エトロリズマブは、ヘテロダイマーインテグリンα4β7及びαEβ7のβ7サブユニットに結合する。α4β7が血液及び粘膜組織両者の白血球サブセット上で発現される一方で、αEβ7は主に粘膜組織の上皮内リンパ球及び樹状細胞に限定される。したがって、循環だけでなく作用部位でのエトロリズマブの薬理学及び作用機構を評価するために、末梢血の他に結腸組織を評価した。結腸組織生検は、投与前(スクリーニング)及び特定の投与後の時点(43日目及び71日目)に23例の同意を得た、試験登録された患者から標準的外科手技を使って集められた。集められた試料組織を、滅菌HBSSで生検全体を洗浄することによって現場で処理し、HBSS+5mM DTTで還元し、次いで培地中で洗浄し、コラゲナーゼVIII(1.5mg/ml)で消化した。次いで試料を40μMのナイロンフィルターで濾過して組織破片を除去した。フローサイトメトリーによる評価のために、蛍光性標識抗体(後述)で染色する前に、細胞懸濁液を培地で洗浄した。
【0225】
末梢血細胞上で行われるフローサイトメトリーアッセイと同様に、結腸組織Tリンパ球サブセット上のβ7インテグリン受容体の占有は蛍光性標識(PE標識)FIB504で染色することによって評価され、一方β7インテグリン受容体の発現は蛍光性標識9D8(PE標識)を用いて評価された。CD3(APC標識)、CD4(PerCP標識)、CD45RA(FITC標識)、αEインテグリン(CD103)及びα4インテグリン(CD49d)に対する抗体も、結腸組織Tリンパ球の特異的なサブセットを同定するために加えられた。次いで試料を、BD FACS Cantoll(商標)又はBD FACSCalibur(商標)(BD Biosciences、San Jose、CA USA)で入手し、αEβ7発現及びα4β7発現CD3+CD45+、αEβ7発現及びα4β7発現CD3+CD4+CD45+、並びにαEβ7発現及びα4β7発現CD3+CD4-CD45+T細胞サブセットのサブセットでゲーティングすることによって分析した。αEβ7+及びα4β7+T細胞サブセットの百分率を、FIB504(非占有β7を検出する)又は9D8(全細胞表面β7を検出する)によって決定されたように、各々の試料収集時点で評価し、細胞サブセット投与前ベースラインの百分率(%BL)として、又は、ベースラインからの変化として表した。
【0226】
Tリンパ球サブセットの表面上のαE及びβ7インテグリン発現量の変化も、血液(上述)と同様に評価した。手短に言えば、細胞表面αE及びβ7発現の中央値蛍光強度(MFI)を、フローサイトメトリーによって評価し、既知の蛍光体濃度の蛍光性標識ミクロビーズ標準物質で標準化した。T細胞サブセットの細胞表面上の蛍光性9D8及び抗αEの蛍光分子等量(MOEF:Molecules of Equivalent Fluorescence)を、投与前、及び以降の投与後の時点で評価した。T細胞サブセットの表面上で発現されるβ7インテグリンのMOEFを、各々の試験時点で評価し、それぞれの細胞サブセットの投与前ベースラインの百分率(%BL)として表した。
【0227】
定量的ポリメラーゼ連鎖反応による遺伝子発現分析
RNAlater(登録商標)生検を解凍し、均質化し、リボ核酸(RNA)を製造業者の指示書に従ってRNeasy(登録商標)Mini Kit(Qiagen、Hilden、Germany)を用いて単離した。RNAの完全性を、Agilent RNA 6000 Pico Kit (Agilent Technologies,Inc.、Santa Clara、CA、USA)を用いてAgilent 2100 Bioanalyzerで評価した。RNA品質の低い(RNAの完全性番号≦5)試料は、分析から除外された(n=9)。RNAを、High-Capacity cDNA Reverse Transcription Kit(Life Technologies Corporation、Carlsbad、CA、USA)を用いて相補的デオキシリボ核酸に逆転写した。遺伝子発現量を、定量的ポリメラーゼ連鎖反応とも呼ばれる、リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応によって評価した。リアルタイムポリメラーゼ連鎖反応は、BioMark(商標) HD System(Fluidigm Corporation、South San Francisco、CA、USA)で、TaqMan PreAmp Master Mix(Life Technologies Corporation、Carlsbad、CA、USA)及び試薬(Fluidigm)と共に、ヒトインテグリンαE(ITGAE)、インテグリンα4(ITGA4)、インテグリンβ1(ITGB1)、β7インテグリン(ITGB7)、インターロイキン(IL)17A、IL23A、インターフェロンγ(IFNG)、IL17F、IL1B、IL12B、IL6、腫瘍壊死因子α(TNFA)、粘膜アドレシン細胞接着分子-1(MADCAM1)、E-カドヘリン(CDH1)、及びグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)プライマーセット(すべてLife Technologies Corporation、Carlsbad、CA、USAから)を用いて製造業者の指示書に従って行った。ITGAE、ITGA4、ITGB1、ITGB7、IL17A、IL23A、IFNG、IL17F、IL1B、IL12B、IL6、TNFA、MADCAM1及びCDH1の発現を、ΔCt方法を用いてGAPDH発現で標準化した。
【0228】
免疫組織化学及び画像定量化
ホルマリン固定組織試料をパラフィンブロックに包埋し、染色のために4μMの切片に切断した。染色は、抗インテグリンαE抗体(EPR4166;Abcam plc、Cambridge、MA、USA)を用いてBenchmark XT(Ventana Medical Systems,Inc.、Tucson、AZ、USA)自動染色システムで行い、3,3’’-ジアミノベンジジンで発色させ、ヘマトキシリンで対比染色した。
【0229】
スライドガラス画像の全体を、200倍の最終倍率で、Olympus Nanozoomer自動スライドスキャニングプラットホーム(Hamamatsu Photonics K.K.、Bridgewater、NJ、USA)によって取得した。スキャンしたスライドガラスを、24ビットのRGB画像としてMATLAB(登録商標)ソフトウェアパッケージ(バージョンR2012a;The MathWorks,Inc.、Natick、MA、USA)で分析した。全細胞、αE細胞、及び陰窩上皮に関連したαE細胞を計数した。陰窩上皮性領域はサポートベクターマシンと遺伝的プログラミングとの組合せを用いて同定され、その中で、個々の細胞核は断片化され、次いでそれらの総面積の25%以上が3,3’’-ジアミノベンジジンと共存すると、免疫組織化学的に陽性であると記録した。
【0230】
末梢血のPDバイオマーカー評価の結果
PDバイオマーカー評価を実行するために、本発明者らは表2及び上記のどこか他の所に記載したように、リンパ球の集団を細分するために、最初にパラメータを決定した。図3Aは、CD45RA及びβ7の表面での発現に基づく末梢血CD3+CD4+T細胞の表現型細区分を示す。CD3+CD4+T細胞は、CD3CD4CD45RAベータ7high T細胞(粘膜ホーミング)、CD4CD45RAベータ7low T細胞(末梢性ホーミング)及びCD4CD45RAT細胞(腸及び末梢の両方のリンパ節及び組織へうまく通行するナイーブT細胞)のサブセットに、それらのホーミング特性によって表現型的に細分された。類似した表現型細区分は、全CD3+及びCD3+CD4-T細胞(図示せず)でも評価された。これらの表現型細区分は、科学文献で以前に報告されたものと一致している。例えば、Rottら、J.Immunol 156:3727-3736(1996);Rottら、J.Clin Invest 100:1204-1208(1997);Williamsら、J.Immunol.161:4227-4235(1998);Roseら、J.Virol.72:726-730(1998);Williamsら、J.Immunol 159:1746-1752(1997);及びButcherら、Adv.Immunol.72:209-253(1999)を参照。本発明者らも、図3Bに示すようにBリンパ球集団を細分した。ここでは、末梢血CD19+B細胞の表現型細区分は、IgD及びβ7の表面での発現に基づいた。CD19+B細胞は、CD19IgDベータ7high B細胞(粘膜ホーミング)、CD19IgDベータ7low B細胞(末梢性ホーミング)及びCD19IgDB細胞(腸及び末梢の両方のリンパ節及び組織へうまく通行するナイーブB細胞)のサブセットに、それらのホーミング特性によって表現型的に細分された。リンパ球集団を細分するためのパラメータを確立した後に、本発明者らは、次いで上述のエトロリズマブ第II相試験患者試料でPDバイオマーカー評価の実施を続けた。
【0231】
占有アッセイを使って、本発明者らは、上述の臨床試験デザインにしたがって、エトロリズマブ又はプラセボの投与前及び投与後の末梢血T及びBリンパ球上でのベータ7インテグリンの占有を調べた。図4Aは、100mg又は300mg+負荷用量(LD)のエトロリズマブ又はプラセボを皮下(SC)投与後、CD3CD4CD45RAベータ7high Tリンパ球上でのコホート平均(±SD)β7インテグリン占有をベースラインの百分率として示す。図4Bは、100mg又は300mg+LDのエトロリズマブ又はプラセボをSC投与後、CD3CD4CD45RAベータ7high Tリンパ球上でのコホート平均(±SD)β7インテグリン占有をベースラインの百分率として示す。及び、図4Cは、100mg又は300mg+LDエトロリズマブ又はプラセボをSC投与後、CD19IgDベータ7high Bリンパ球上でのコホート平均(±SD)β7インテグリン占有をベースラインの百分率として示す。まとめると、これらのデータは、粘膜ホーミング表現型T細胞(CD3+CD4+CD45RA-β7high及びCD3+CD4-CD45RA-β7high)及び粘膜ホーミング表現型B細胞(CD19+IgD-b7high)サブセットの絶対的な数の平均は、100mg又は300のmg+LDのエトロリズマブを4週毎に1回(Q4W)の投与後、全試験コホートで減少し、標的細胞上でエトロリズマブの占有が示唆されることを示す。明白なβ7占有は、プラセボで治療した患者では見られなかった。さらに、より低い100mgのQ4W投与のエトロリズマブは、すべての投与段階の間、β7受容体の最大の/ほとんど最大の占有を維持するのに十分であった。
【0232】
次に、発現アッセイを用いて、本発明者らは、ベータ7を発現している、末梢血を循環しているT及びBリンパ球の数を評価した。結果を、図5A(腸ホーミングCD3+CD4+T細胞)、5B(腸ホーミングCD3+CD4-T細胞)及び5C(腸ホーミングCD19+B細胞)に示す。以上のように、末梢血T細胞(CD3+CD4CD45RAβ7high及びCD3+CD4-CD45RA-b7high「粘膜」ホーミング表現型)及びB細胞(CD19+IgD-b7high『粘膜』ホーミング表現型)サブセットの絶対的な数の中央値は、100mg Q4W又は300mg+LDのエトロリズマブの投与後、全試験コホートで増加し、エトロリズマブが標的細胞を結合することが示唆される。実質的な増加は、プラセボで治療した患者では見られなかった。%ベースラインを評価するとき、粘膜ホーミングCD4+及びCD19+細胞サブセットのためのエトロリズマブ対プラセボ間の差異は、29、43及び71日目で統計的に有意だった(p<0.05、Kruskal Wallis ANOVA)。さらに、本発明者らは、末梢血の粘膜ホーミングT及びB細胞サブセットの上昇は、300mg+LDコホートと比較して100mgのQ4Wで同様であることを観察し、CD19+粘膜ホーミングB細胞を除いて、CD4+、CD4-及びCD19+サブセットの300mgの+LD及び100mgの投与群間に統計差異はなかった(p<0.03、5日目、Kruskal Wallis ANOVA)。本発明者らも、TNF-IR及びTNF-ナイーブ患者で上述のサブセットに同程度の上昇を観察し(データは示さず)、データを絶対的数値としてプロットした時、絶対的数値よりもむしろ%BLはベースラインから変化する(データは示さず)。同時に、これらのデータは、最大の増加はより低い100mgのQ4W投与で達した可能性があることを示唆する。
【0233】
結腸組織のPDバイオマーカー評価の結果
本発明者らは、最初に、結腸生検試料から得られたTリンパ球上でのαEβ7発現を評価するパラメータを確立した。代表的な結果を、図6に示す。図6は、投与前試料で、αE及びβ7の細胞表面発現に基づく結腸組織CD45+CD3+CD4-Tリンパ球の表現型細分化を示す(上右四分の一、プロットの囲み部分)類似した表現型細分化は結腸組織CD45+CD3+、及びCD45+CD3+CD4+Tリンパ球集団上でも行われ、同様な結果が観察されたことは(図示せず)、本発明者らが全リンパ球サブセットでαEβ7発現を観察することができたことを示唆する。
【0234】
次に本発明者らは、エトロリズマブの単回投与、100mgのエトロリズマブで治療をうけている代表的患者又はプラセボで治療された代表的患者から採取した結腸生検から得られたCD45+CD3+CD4-Tリンパ球上で、αEβ7受容体の占有を評価した。治療群ごとに、投与前、43日目、及び71日目に試料を得た。結果を図7に示す。投与前レベルと比較して、エトロリズマブによる治療後の43及び71目のαEβ7+細胞の百分率に観察可能な減少があったことは(パネルの左側セット)、最大の受容体占有が確認され、上述の結果と一致する。そのような減少はプラセボ治療患者からの細胞では観察されず(パネルの右側セット)、上述の結果と一致する。これらのデータは、エトロリズマブが本試験期間の71日間β7受容体に結合したままであった腸の疾患部位に存在したことを立証する。本発明者らは、これは結腸組織のT細胞上でのαEβ7受容体占有の最初の実証であると考える。
【0235】
上述の単回患者の分析に加えて、本発明者らは臨床試験の23例の患者の各々の結腸生検から得られたCD45+CD3+CD4-Tリンパ球で、αEβ7占有及びα4β7占有の両方も評価した。7例の患者は100mgのエトロリズマブを投与され、7例の患者は300mg+LDのエトロリズマブを投与され、9例の患者は上述の投与計画に従ってプラセボを投与された。スクリーニング時(投与前)、43日目、及び71日目のコホート中央値のFACSプロットを、図8A(αEβ7の占有)及び8B(α4β7の占有)に示す。図8A及び8Bの各々で、受容体陽性T細胞の百分率は、100mgエトロリズマブのq4w、又は300mgのq4w+LDの投与後、全患者で減少したが、そのような減少はプラセボ治療患者ではなかった。さらに、αEβ7及びα4β7の各々は、エトロリズマブ投与後に調べた両方の投与レベルで、及び両方の時点で、最大限に占有されたか、ほとんどそうであった。本発明者らは、TNF-ナイーブの患者と比較して、TNF-IRでの占有において、明白な差異を観察しなかった(データは示さず)。したがって、結腸組織のエトロリズマブによる標的結合が確認された。
【0236】
追加のPDバイオマーカー評価
上記のように、エトロリズマブは100mg及び300mgの+LD投与の両者でCD4β7Tリンパ球上のβ7受容体を最大限に占有し、末梢血のCD4b7Tリンパ球で対応する特異的な増加を伴った。同様な結果が、CD19β7Bリンパ球で観察された。結腸粘膜において、β7受容体の最大の占有も、両方の用量で観察された。しかし、プラセボと比較してエトロリズマブ治療患者で観察された、β7を発現しているCD4T細胞の全体的な相対頻度に差異はなかった。
【0237】
本発明者らも、qPCRによって結腸粘膜におけるインテグリンβ7(図9A)、β1(図9B)、α4(図9C)及びαE(図9D)の発現を評価した。図9Aに示すように、エトロリズマブ治療患者とプラセボとの間に、qPCRによって観察されたβ7遺伝子発現に明白な変化がなく、又、臨床寛解に達成しなかった患者と比較して、達成したエトロリズマブ治療患者の間でも、発現に変化がなかった。図9B-9Dは、臨床寛解患者のエトロリズマブ後の結腸生検におけるβ1-、α4-及びαE-インテグリン発現は、最小の変化から変化なしであったことを示す。
【0238】
腸のリンパ球コンパートメントのさらなる評価に関して、腸の陰窩上皮のαE細胞の百分率が、プラセボと比較してエトロリズマブ治療患者で減少したこと(図10A-B)、固有層のαE細胞では、明白に減少しなかったことが観察された(図11A-B)。さらに、臨床寛解を達成なかった患者と比較して、臨床寛解を達成したエトロリズマブ治療患者からの生検において、上皮細胞関連のαE細胞数は減少し(図12A)、E-カドヘリンの発現は増加した(図12B)。臨床寛解を達成なかった患者と比較して、臨床寛解を達成したエトロリズマブ治療患者からの生検において、MAdCAM-1発現、リンパ球遺伝子発現、及び炎症サイトカイン遺伝子発現の分析により、図13中に示される遺伝子の発現が減少したことが明らかになった(図13A-M)。
【0239】
本発明者らは、以下の通りに、追加のPDバイオマーカー評価のこれらの結果を解釈する。腸へのリンパ球輸送を媒介する際のβ7受容体の役割と一致して、対応するβ7を発現しているリンパ球の頻度は、結腸粘膜ではなく末梢血で増加した。最大のβ7占有が、最低10週間のすべてのエトロリズマブ治療患者で観察されたにもかかわらず、臨床的な利益はすべての患者で観察されなかったことは、β7受容体を遮断しても一部の患者で炎症過程が継続することを示唆する。このことは、腸にすでに常在する免疫細胞の炎症誘発性活性、又は腸粘膜への白血球輸送のβ7独自の機構で説明することができた。これを支持して、臨床寛解を達成したエトロリズマブ治療患者と対照的に、臨床寛解を達成しなかった患者では、リンパ球遺伝子発現で減少は観察されなかった。炎症の代替的な機構をさらに理解するためには、エトロリズマブで長期の治療を受けている患者における探索を必要とする。
【0240】
粘膜炎症誘発性サイトカインの発現が臨床寛解を達成したエトロリズマブ治療患者で減少する一方で、E-カドヘリンの発現は増加した。E-カドヘリンは、健常コントロールと比較して炎症腸疾患患者で低レベルで発現することが示され(Arijsら、Am J Gastroenterol 106:748-61(2011))、観察されたE-カドヘリンの増加は、これらの患者の粘膜治癒に関連があることが示唆された。この観察は、エトロリズマブを投与された患者における、組織学的疾患活性スコアの改善によって支持される。
【0241】
用量及び投与レジメンの理論的根拠
第II相試験において試験される投与レジメンの理論的根拠は、第I相試験後に確立され、前述のとおり、第I相患者試料のPK分析及び集団PKモデル化に基づいた。例えば、国際特許公開番号、国際公開第2012/135589号を参照。ここでは、特に結腸組織のベータ7占有に関して、本発明者らは、第II相試験において患者から得られたデータに基づいた分析の改良を望んだ。
【0242】
試験の患者のうちの2例はエトロリズマブを単回投与されたのみで、投与前、及び、さらに後述するように、投与後の特定の時点で結腸生検試料を提供した。これらの患者を、図8C(点線)に示す。上述のように、本発明者らが結腸組織で受容体占有を分析したとき、2例の患者のうちの1例が43日目に占有を示したが、占有は71日目に失われたことがわかった。この患者において、血清薬物レベルは、43日目が4.7mg/ml、71日目が0.5mg/mlであった。2例目の患者において、試料が入手できなかったので、本発明者らは43日目に占有を分析することができなかったが、1例目の患者に関しては、受容体は71日目に占有されていなかった。この患者の血清薬物レベルは、71日目に検出限界を下回った。
【0243】
この結果から、本発明者らは、結腸生検が得られた23例の患者の各々でエトロリズマブの血清濃度を、43日目及び71日目に結腸生検から得られたT細胞上でベータ7占有のレベルと比較することになった。これらの結果を図14に示す。結腸組織リンパ球上のベータ7受容体の占有は、血清エトロリズマブ濃度が1.7mg/ml以上であったすべての患者で観察された。エトロリズマブの単回投与のみを受け、受容体が71日目に占有されなかった2例の患者は、血清濃度が1mg/ml未満であった。結腸組織で占有を示している各々の患者については、血液で相当する占有があった。したがって、本発明者らは、血清薬物レベルと結腸組織のリンパ球上での受容体占有との関係と、第I相試験において末梢血で観察されたPK/PD関係とを比較した。第I相試験では、受容体占有についての予測されたIC90は、前述のとおり、1.3mg/mlであると決定された。この予測されたIC90は、ここに記載されるように、結腸組織で占有のために必要とされる血清濃度に一致しており、本質的に同じである。第II相試験からのこれらと他のデータを使って、本発明者らは集団PKモデル化(例えば、国際特許公開番号、国際公開第2012/135589号を参照)を用いて、100mgの用量を4週毎、又は50mgの用量を2週毎で、試験された患者集団の大部分で1.7mg/mLの最小限の薬物血清濃度を維持すると予測されることを決定し、それは結腸組織ベータ7占有を維持するのに十分であろう。
【0244】
上述の結果からの驚くべきで予想外の発見は、エトロリズマブ治療(4週毎に100mg)の開始後の特定の時間の末梢血のリンパ球上のベータ7受容体占有のレベルは、結腸組織のリンパ球上のベータ7受容体占有のレベルと本質的に同じであったということである。モノクローナル抗体(mAb)の大きな分子量がそれらの分布体積を制限するので、このことは驚くべきで予想外であった。一般的に、mAbsの分布は、それらの大きいサイズと親水性のために血管及び間質空間に限定される。それゆえに、mAbのための中心コンパートメント(Vc)の分布体積は、血漿体積と通常等しいか、又は、わずかに大きい(Mascelliら、J. Clin Pharmacol 47、553-565(2007);Loboら、J. of Pharmaceutical Sci. Bol 93、2645-2668 (2004))。したがって、血清のmAb濃度が組織の作用部位でのmAb濃度を代表しないと一般に考えられる。
【0245】
抗体分布は、組織でmAbsの濃度を評価することによってより直接的に調査され、ここで、組織試料は生検又は剖検によって得られる。mAbsの分布も、放射標識された抗体を用いて研究されてきた。文献で報告された大部分の抗体については、組織対血液の濃度比は、0.1-0.5の範囲であることがわかった(Linら、The J.of Pharmacol and Experi Thera 288、371-378 (1999);Loboら、J. of Pharmaceutical Sci. Bol 93、2645-2668 (2004))。これは、ほとんどの場合、組織(脳組織を除いて)のmAb濃度は、血液のものの約10-50%であることを意味し、一方、脳のmAb濃度は非常により少なく、血液脳関門による保護のために、血液のものの0.05-0.2%の範囲である。血清のmAb濃度が作用部位でのmAb濃度を代表しないと一般に考えられるので、組織内の受容体を飽和状態にする十分な曝露を提供するために、最高10倍高い血清濃度が要求される可能性がある。それでも、ここで、本発明者らは、UC患者(N=23の患者データに基づく)において、血液中のβ7受容体を飽和状態にするために必要な血清濃度(1-3mg/mL)が、腸組織のβ7受容体を飽和状態にするために必要な血清濃度(1.7-4mg/mL)と非常に類似しているということを発見した。本発明者らは、血液と組織コンパートメントのそのようなほぼ1対1の関係が観察され、記載されたのはこれが初めてであると考える。この関係について、いくつかの可能性のある説明がある。血液中の利用可能なβ7受容体の総量(例えば、β7抗原を発現している細胞の数)が組織内のものより非常に多い場合があるかもしれない。あるいは、UC患者の腸組織が、正常組織より「漏れやすく」、結果として、同じ血清濃度の下で組織により多くのmAbが分布するように導いている可能性がある。
【0246】
つまり、本明細書に記載される研究に基づいて、末梢血(簡単にアクセス可能な部位)のベータ7受容体占有は、結腸組織(極めてアクセスしにくい部位)のベータ7受容体占有の代わりの指示器の役割をすることができる。これを、エトロリズマブ及び他のインテグリンベータ7アンタゴニストの用量及び投与レジメンのデザインの選択に適用することができる。PK/PD関係は、血液中の受容体を飽和状態にするために十分な血清薬物標的濃度を確認するために、血中の血清薬物濃度及びベータ7受容体占有を評価することによって確立することができ、次いでそれを用いて用量を選択し、投与レジメンをデザインすることができ、同じ又はほとんど同じ関係が結腸の疾患部位に適用されることがわかっているので、それによって用量/投与レジメンの選択に対する信頼性が高くなる。
【0247】
前述の発明が、理解の明瞭性のために、図及び実施例で少し詳しく記載されたが、説明及び実施例は本発明の範囲を制限するものとして解釈されてはならない。本明細書で引用されたすべての特許及び科学文献の本開示は、参照によって完全に明白に組み込まれる。
図1A
図1B
図2A
図2B
図3A
図3B
図4A
図4B
図4C
図5A
図5B-C】
図6
図7
図8A-B】
図8C-D】
図8E
図9
図10
図11
図12A
図12B
図13A-D】
図13E-H】
図13I-L】
図13M
図14
図15
【配列表】
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