(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】ナノ双晶銅金属層、その製造方法及びそれを含む基板
(51)【国際特許分類】
C25D 5/18 20060101AFI20220408BHJP
C25D 5/10 20060101ALI20220408BHJP
H05K 1/09 20060101ALI20220408BHJP
H05K 1/03 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
C25D5/18
C25D5/10
H05K1/09 A
H05K1/03 630H
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2020195994
(22)【出願日】2020-11-26
【審査請求日】2020-11-26
(32)【優先日】2019-12-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】TW
(73)【特許権者】
【識別番号】520465563
【氏名又は名称】添鴻科技股▲フン▼有限公司
【氏名又は名称原語表記】CHEMLEADER CORPORATION
(74)【代理人】
【識別番号】100167689
【氏名又は名称】松本 征二
(72)【発明者】
【氏名】白志虹
(72)【発明者】
【氏名】陳耀宗
(72)【発明者】
【氏名】陳宗詮
(72)【発明者】
【氏名】鍾時俊
【審査官】池ノ谷 秀行
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108677213(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0122326(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2013/0302646(US,A1)
【文献】特表2006-505101(JP,A)
【文献】Madoka Hasegawa et al.,Orientation-controlled nanotwinned copper prepared by electrodeposition,Electrochimica Acta,Volume 178,ELSEVIER,2015年10月,Pages 458-467,https://doi.org/10.1016/j.electacta.2015.08.022
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25D 5/00-7/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ナノ双晶銅金属層であって、そのうち、前記ナノ双晶銅金属層の50%以上の体積が複数の柱状結晶粒を含み、該複数の柱状結晶粒が相互に連接され、少なくとも70%の該複数の柱状結晶粒が、[111]結晶軸方向に沿って複数のナノ双晶が積層して形成され、かつ相隣する該複数の柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下であ
り、前記[111]結晶軸は(111)面に垂直な軸であり、
前記複数の柱状結晶粒のうちの1つの縦方向軸の方向と前記ナノ双晶銅金属層の厚み方向との挟角が、20度より大きく、かつ60度以下である、ことを特徴とする、ナノ双晶銅金属層。
【請求項2】
前記ナノ双晶銅金属層の厚みが0.1μmから500μmの間である、ことを特徴とする、請求項1に記載のナノ双晶銅金属層。
【請求項3】
各前記複数の柱状結晶粒が、複数のナノ双晶が
前記[111]結晶軸の方向に沿って積層されて成る、ことを特徴とする、請求項1に記載のナノ双晶銅金属層。
【請求項4】
前記複数の柱状結晶粒の短軸の長さが、それぞれ0.1μmから50μmの間である、ことを特徴とする、請求項1に記載のナノ双晶銅金属層。
【請求項5】
前記複数の柱状結晶粒の厚みが、それぞれ0.01μmから500μmの間である、ことを特徴とする、請求項1に記載のナノ双晶銅金属層。
【請求項6】
ナノ双晶銅金属層の製造方法であって、
電気メッキ装置を提供し、前記装置が、陽極と、陰極と、電気メッキ液と、電力供給源を含み、前記電力供給源が前記陽極及び前記陰極とそれぞれ接続され、かつ前記陽極及び前記陰極が前記電気メッキ液中に浸漬される工程と、
第1電流密度で電気メッキを行い、そのうち、前記第1電流密度がシステム限界電流密度の0.8から1.0倍の間である工程と、
第2電流密度で電気メッキを行い、そのうち、前記第2電流密度が前記システム限界電流密度の0.1から0.6倍の間であり、前記陰極の一表面においてナノ双晶銅金属層を成長する工程と、
を含み、
前記ナノ双晶銅金属層の50%以上の体積が複数の柱状結晶粒を含み、該複数の柱状結晶粒が相互に連接され、少なくとも70%の該複数の柱状結晶粒が、[111]結晶軸方向に沿って複数のナノ双晶が積層して形成され、かつ相隣する該複数の柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下であ
り、前記[111]結晶軸は(111)面に垂直な軸であり、
前記第1電流密度で電気メッキする時間が、1秒から20秒の間である、ことを特徴とする、ナノ双晶銅金属層の製造方法。
【請求項7】
電気メッキが、直流電気メッキ、高速パルス電気メッキ、または直流電気メッキと高速パルス電気メッキの二者を交互に使用する、ことを特徴とする、請求項6に記載のナノ双晶銅金属層の製造方法。
【請求項8】
前記陰極が、一表面に金属層を備えた基板、または金属基板である、ことを特徴とする、請求項6に記載のナノ双晶銅金属層の製造方法。
【請求項9】
前記基板が、シリコン基板、ガラス基板、石英基板、金属基板、プラスチック基板、プリント配線板、III-V族材料基板、またはその積層基板である、ことを特徴とする、請求項6に記載のナノ双晶銅金属層の製造方法。
【請求項10】
ナノ双晶銅金属層を備えた基板であって、
基板と、
前記基板の表面または内部に設置されたナノ双晶銅金属層を含み、
前記ナノ双晶銅金属層の50%以上の体積が複数の柱状結晶粒を含み、該複数の柱状結晶粒が相互に連接され、少なくとも70%の該複数の柱状結晶粒が、[111]結晶軸方向に沿って複数のナノ双晶が積層して形成され、かつ相隣する該複数の柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下であ
り、前記[111]結晶軸は(111)面に垂直な軸であり、
前記複数の柱状結晶粒のうちの1つの縦方向軸の方向と前記ナノ双晶銅金属層の厚み方向との挟角が、20度より大きく、かつ60度以下である、ことを特徴とする、基板。
【請求項11】
前記基板が、シリコン基板、ガラス基板、石英基板、金属基板、プラスチック基板、プリント配線板、III-V族材料基板、またはその積層基板である、ことを特徴とする、請求項
10に記載の基板。
【請求項12】
前記ナノ双晶銅金属層の厚みが0.1μmから500μmの間である、ことを特徴とする、請求項
10に記載の基板。
【請求項13】
各前記複数の柱状結晶粒が、複数のナノ双晶が[111]結晶軸の方向に沿って積層されて成る、ことを特徴とする、請求項
10に記載の基板。
【請求項14】
前記複数の柱状結晶粒の短軸の長さが、それぞれ0.1μmから50μmの間である、ことを特徴とする、請求項
10に記載の基板。
【請求項15】
前記複数の柱状結晶粒の厚みが、それぞれ0.01μmから500μmの間である、ことを特徴とする、請求項
10に記載の基板。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2019年12月6日出願の台湾特許出願第108144788号の優先権を主張し、それはその全体においてここに参照によって取り込まれる。
【0002】
本発明はナノ双晶銅金属層、その製造方法及びそれを含む基板に関し、特に、結晶粒が特殊な排列のナノ双晶銅金属層、その製造方法及びそれを含む基板に関する。
【背景技術】
【0003】
電子部材の信頼性は主に導線のエレクトロマイグレーション耐性(anti-electromigration ability)によって決まる。現在の研究において、導線のエレクトロマイグレーション耐性を高める1つの方法は、導線構造中にナノ双晶金属構造を添加する方法である。これにより、金属原子が電子の流動方向に沿ってエレクトロマイグレーションを発生するとき、ナノ双晶金属構造の双晶粒界がエレクトロマイグレーションの金属原子の流失速度を遅らせることができるため、導線中のボイドの形成速度を低下させ、直接的に電子部材の使用寿命を改善することができる。つまり、導線構造中に含有されるナノ双晶金属構造が多いほど、導線のエレクトロマイグレーション耐性が高くなる。
【0004】
現在のナノ双晶銅構造において、ナノ双晶結晶粒はほとんどが基板から垂直に成長した柱状結晶粒である。このようなナノ双晶銅構造はすでに良好な特性を備えているが、現在のナノ双晶銅構造とは異なるその他の特性を示すことができる新規的なナノ双晶銅構造を提供することができれば、電子部材に別の選択肢を提供することが可能になる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ナノ双晶銅金属層がより優れた伸び率を有し、ナノ双晶銅金属層を使用した電子製品の信頼性を大幅に高めることができる、ナノ双晶銅金属層、その製造方法及びそれを含む基板を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明のナノ双晶銅層は、その50%以上の体積が複数の柱状結晶粒を含み、該複数の柱状結晶粒が相互に連接され、少なくとも70%の該複数の柱状結晶粒が、[111]結晶軸方向に沿って複数のナノ双晶が積層して形成され、かつ相隣する該複数の柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下である。
【0007】
従来の(111)柱状結晶粒ナノ双晶銅層において、相隣する柱状結晶粒間の挟角はほとんどが約0度である。本発明が提供する新規的なナノ双晶銅層において、相隣する柱状結晶粒間の挟角は20度より大きく、かつ60度以下とすることができ、従来のナノ双晶銅層構造と異なる。このほか、実験により、相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下であるとき、ナノ双晶銅層の伸び率は、相隣する柱状結晶粒間の挟角が約0度のナノ双晶銅層より優れていることが実証されている。このため、本発明のナノ双晶銅層は、従来のナノ双晶銅層(即ち、相隣する柱状結晶粒間の挟角が約0度のナノ双晶銅層)の優れたエレクトロマイグレーション耐性の特性と機械性質を留めているほか、さらにより優れた伸び率を有する。したがって、本発明のナノ双晶銅層の応用分野はより広範囲となる。
【0008】
本発明において、少なくとも70%の柱状結晶粒が縦方向軸(longitude axis)を有し、そのうち縦方向軸はナノ双晶の積層方向(即ち、成長方向)であり、ナノ双晶銅金属層は厚み方向を有し、厚み方向はナノ双晶銅金属層の表面に垂直である。そのうち、柱状結晶粒の[111]結晶軸と縦方向軸の挟角は0度以上から20度以下である。つまり、柱状結晶粒の[111]結晶軸とナノ双晶の積層方向(即ち、成長方向)の挟角は0度以上から20度以下である。このほか、柱状結晶粒の縦方向軸の方向は、ナノ双晶銅金属層の厚み方向との挟角が20度より大きく、かつ60度以下である。本発明の一実施例において、柱状結晶粒の[111]結晶軸とナノ双晶の積層方向(即ち、成長方向)の挟角は実質的に約0度である。
【0009】
本発明において、ナノ双晶銅金属層の厚みは必要に応じて調整することができる。本発明の一実施例において、ナノ双晶銅金属層の厚みは0.1μmから500μmの間とすることができる。本発明の別の一実施例において、ナノ双晶銅金属層の厚みは0.8μmから200μmの間とすることができる。本発明のさらに別の一実施例において、ナノ双晶銅金属層の厚みは1μmから20μmの間とすることができる。しかしながら、本発明はこれに限らない。
【0010】
本発明において、ナノ双晶銅金属層中の少なくとも70%の柱状結晶粒は、複数のナノ双晶を積層して形成される。本発明の一実施例において、ナノ双晶銅金属層中の少なくとも90%の柱状結晶粒は、複数のナノ双晶を積層して形成される。本発明の別の一実施例において、ナノ双晶銅金属層中の各柱状結晶粒は、複数のナノ双晶を積層して形成される。
【0011】
本発明において、ナノ双晶銅金属層中の少なくとも70%の柱状結晶粒は、複数のナノ双晶が[111]結晶軸方向に沿って積層して形成される。本発明の一実施例において、ナノ双晶銅金属層中の少なくとも90%の柱状結晶粒は、複数のナノ双晶が[111]結晶軸方向に沿って積層して形成される。本発明の別の一実施例において、ナノ双晶銅金属層中の各柱状結晶粒は、複数のナノ双晶が[111]結晶軸方向に沿って積層して形成される。
【0012】
本発明において、ナノ双晶銅金属層中の柱状結晶粒の短軸の長さはそれぞれ0.1μmから50μmの間とすることができる。本発明の一実施例において、柱状結晶粒の短軸の長さはそれぞれ0.1μmから30μmの間とすることができる。本発明の別の一実施例において、柱状結晶粒の短軸の長さはそれぞれ0.1μmから20μmの間とすることができる。本発明のさらに別の一実施例において、柱状結晶粒の短軸の長さはそれぞれ0.1μmから10μmの間とすることができる。本発明において、所謂「柱状結晶粒の短軸の長さ」とは、柱状結晶粒の積層方向と実質的に垂直な方向上の柱状結晶粒の長さを指す。このほか、所謂「実質的に垂直な方向」とは、2つの方向の挟角が85度から90度の間とすることができ、かつ90度がより好ましい。さらに、本発明の一実施例において、「柱状結晶粒の短軸の長さ」は、柱状結晶粒の幅と呼ぶこともできる。
【0013】
本発明において、ナノ双晶銅金属層中の柱状結晶粒の厚みはそれぞれ0.01μmから500μmの間とすることができる。本発明の一実施例において、柱状結晶粒の厚みはそれぞれ0.1μmから200μmの間とすることができる。本発明の別の一実施例において、柱状結晶粒の厚みはそれぞれ0.1μmから150μmの間とすることができる。本発明のさらに別の一実施例において、柱状結晶粒の厚みはそれぞれ0.1μmから100μmの間とすることができる。本発明のまた別の一実施例において、柱状結晶粒の厚みはそれぞれ1μmから50μmの間とすることができる。
【0014】
本発明のナノ双晶銅金属層は、電気メッキ方式で製造される。ここで、本発明の前記ナノ双晶銅金属層を形成する方法は、電気メッキ装置を提供し、該装置が、陽極と、陰極と、電気メッキ液と、電力供給源を含み、該電力供給源が該陽極及び該陰極とそれぞれ連接され、かつ該陽極及び該陰極が該電気メッキ液中に浸漬される工程と、第1電流密度で電気メッキを行い、そのうち該第1電流密度がシステム限界電流密度の0.8から1.0倍の間である工程と、第2電流密度で電気メッキを行い、そのうち該第2電流密度が該システム限界電流密度の0.1から0.6倍の間であり、該陰極の一表面に前記ナノ双晶銅金属層を成長させる工程と、を含む。そのうち、電気メッキ液は、銅イオン源と、酸と、塩化物イオン源を含む。
【0015】
本発明の製造方法においては、まず電流密度が比較的高い第1電流密度で電気メッキを行い、これは核生成が成長に優先する電気メッキ条件である。その後、電流密度が比較的低い第2電流密度で電気メッキを行い、これは成長が核生成に優先する電気メッキ条件である。これにより、本発明の相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、60度以下のナノ双晶銅金属層を得ることができる。
【0016】
特に、電流密度が比較的高い第1電流で電気メッキを行うとき、陰極表面付近の電気メッキ液中の銅イオン源が迅速に陰極表面に集中して種結晶層を形成し、該種結晶層は複数の銅核(さらにはナノ双晶銅核)を含むことができる。銅イオン源が迅速に陰極表面に集中して銅核を形成するとき、電解槽中の電気メッキ液が銅イオン濃度勾配を形成する。そのうち、銅イオン濃度は銅核表面が最低であり、陰極表面から遠ざかると増加する。このほか、銅核は顆粒状を成すため、銅イオン濃度勾配は球状分布を呈する。銅核を含む種結晶層の形成後、電流密度が比較的低い第2電流密度で電気メッキを行い、ナノ双晶銅結晶粒が銅核の表面から成長して積層される。このとき、ナノ双晶銅結晶粒は球状の銅イオン濃度勾配の法線方向に沿って成長し、相隣する結晶粒間の挟角が比較的大きくなる。その後、電流密度が比較的低い第2電流で継続して電気メッキを行うとき、時間経過に伴う、電解槽内の異なる区域の銅イオン濃度差は大きくなく(さらには同じ)、安定的に継続してナノ双晶銅結晶粒を成長させることができる。
【0017】
電気メッキ溶液中で、銅イオンが陰極表面に補充される最大速度、即ち電気メッキ銅を生成できる最大電流が、限界電流密度(Limiting Current Density)と呼ばれる。この限界電流密度は溶液中の銅イオン濃度、撹拌速度、電気メッキ液の温度と関係がある。陰極表面の銅イオン濃度勾配を生じさせるため、印加する必要がある電流は異なる電気メッキ槽の銅イオン濃度、撹拌速度、電気メッキ液の温度に伴い大きな差異を有することができ、限界電流密度の大きさと比較的大きい相関性があるため、限界電流密度の比を必要な電流密度の定義とする。
【0018】
本発明の製造方法において、システム限界電流密度に対する第1電流密度の比は0.8から1.0の間とすることができる。本発明の一実施例において、システム限界電流密度に対する第1電流密度の比は0.8から0.95の間とすることができる。
【0019】
本発明の製造方法において、システム限界電流密度に対する第2電流密度の比は0.1から0.6の間とすることができる。本発明の一実施例において、システム限界電流密度に対する第2電流密度の比は0.2から0.6の間とすることができる。
【0020】
本発明の製造方法において、第1電流密度の電気メッキ時間は1秒から20秒の間とすることができる。本発明の一実施例において、第1電流密度の電気メッキ時間は1秒から10秒の間とすることができる。ここで、第1電流密度の電気メッキ時間は長すぎないほうがよく、さもないと相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、60度以下のナノ双晶銅金属層の成長が困難になる。第2電流密度の電気メッキ時間については、必要なナノ双晶銅金属層の厚みに基づいて調整し、特別な制限はない。
【0021】
本発明の製造方法において、電流密度が比較的高い第1電流密度で電気メッキを行うとき、種結晶層を形成することができる。このため、本発明のナノ双晶銅金属層はさらに、ナノ双晶銅金属層の1%から50%、1%から30%または1%から10%の体積を占める種結晶層を含んでもよい。
【0022】
本発明の製造方法において、塩化物イオンは結晶粒の成長方向を微調整するために用い、ナノ双晶銅結晶粒に好ましい方向を具備させることができる。酸は有機または無機酸とすることができ、電解質濃度を増加して電気メッキ速度を高めることができる。例えば硫酸、メタンスルホン酸、またはその混合を使用できる。かつ電気メッキ液中の酸の濃度は80g/Lから120g/Lの間とすることができる。このほか、銅イオン源は銅の塩化物とすることができ、例えば、硫酸銅またはメタンスルホン酸銅とすることができる。かつ電気メッキ液中の銅イオン濃度は20g/Lから100g/Lの間とすることができる。本発明の一実施例において、銅イオン濃度は30g/Lから80g/Lの間とすることができる。本発明の別の一実施例において、銅イオン濃度は40g/Lから70g/Lの間とすることができる。銅イオン濃度が高すぎると、相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、60度以下のナノ双晶銅金属層の成長が困難になる。さらに、電気メッキ液は選択的に、例えば、ゼラチン(gelatin)、界面活性剤、または格子変性剤(lattice modification agent)などの添加物を含むことができる。
【0023】
本発明の製造方法において、電気メッキは直流電気メッキ、高速パルス電気メッキ、または直流電気メッキと高速パルス電気メッキの二者を交互に使用することができる。
【0024】
本発明の製造方法において、電気メッキ時、陰極または電気メッキ液は50から1500rpmの回転速度で回転させ、結晶粒の成長方向と速度をアシストすることができる。
【0025】
本発明の製造方法において、陰極は表面に金属層を備えた基板、または金属基板とすることができる。例えば、基板はシリコン基板、ガラス基板、石英基板、金属基板、プラスチック基板、プリント配線板、III-V族材料基板、またはその積層基板とすることができる。
【0026】
このため、本発明がさらに提供するナノ双晶銅金属層を備えた基板は、基板と、該基板の表面または内部に設置された前記ナノ双晶銅金属層を含む。ここで、基板の例は前述の通りであるため、説明を省略する。
【発明の効果】
【0027】
本発明において、ナノ双晶銅金属層は優れた機械特性、エレクトロマイグレーション耐性、及び伸び率等を備えているため、3次元集積回路(3D-IC)のシリコン貫通ビア、パッケージ基板のワイヤスルーホール、各種金属導線、または基板配線等の箇所の製造に応用でき、集積回路工業の応用発展に大きく貢献することができる。
【0028】
以下、図面を組み合わせて詳細に説明し、本発明の特徴をより明確にする。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明で使用する電気メッキ装置の概略図である。
【
図2】本発明で使用する電気メッキ装置の該システムの限界電流密度(Limiting Current Density)を測定した電圧-電流曲線図である。
【
図3】本発明の実施例1のナノ双晶銅金属層の集束イオンビーム(Focused Ion Beam)断面図である。
【
図4】本発明の比較例1のナノ双晶銅金属層の集束イオンビーム断面図である。
【
図5】本発明の実施例1と比較例1のナノ双晶銅金属層の歪引張曲線図である。
【
図6】本発明で使用する別の電気メッキ装置の概略図である。
【
図7】本発明の比較例3のナノ双晶銅金属層の集束イオンビーム断面図である。
【
図8】本発明の実施例6と比較例3のナノ双晶銅金属層の歪引張曲線図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
以下、具体的な実施例を挙げて本発明の実施方法を説明する。この技術分野を熟知した者であれば本明細書に開示された内容から本発明のその他利点と効果を容易に理解できるであろう。本発明はその他の異なる具体的な実施例により施行または応用することができ、本明細書中の各細部も異なる観点と応用に対して、本発明の要旨を逸脱することなく、各種の修飾及び変更が可能である。
【0031】
注意すべきは、本文中で、特別に記載がなければ、「1」つの要素の具備は単一の当該要素の具備に限定されず、1つまたはより多くの当該要素を具備することができる。
【0032】
このほか、本文中で、特別に記載がなければ、「第1」、「第2」等の序数は、同じ名称を有する複数の要素の区別のためのみに用いられており、それらの間における序列、レベル、実行順序、または工程順序の存在を表すものではない。「第1」の要素と「第2」の要素は同一構成要素中に一緒に出現しても、異なる構成要素中に別々に出現してもよい。序数がより大きい要素の存在は、必ずしも序数がより小さい別の要素の存在を意味するわけではない。
【0033】
このほか、本文中の所謂「上」、「下」、「左」、「右」、「前」、「後」、「の間」等の用語は、複数の要素間の相対位置を描写するためのみに用いられており、解釈上水平移動、回転、またはミラーリングの状況を含めて拡張することができる。
【0034】
このほか、本文中で、特別に記載がなければ、「1つの要素が別の1つの要素上にある」または類似の記載が必ずしも当該要素が当該別の1つの要素に接触していることを意味するわけではない。
【0035】
このほか、本文中で、「約」1つの数値は、当該数値の±10%の範囲を含み、特に当該数値の±5%の範囲を指す。
【0036】
(実施例1)
図1は本実施例1で使用する電気メッキ装置の概略図である。そのうち、電気メッキ装置1は、陽極11と、陰極12を含み、電気メッキ液13中に浸漬され、かつそれぞれ直流電流供給源15に接続される。ここで、陽極11は可溶性りん銅塊であり、陰極12はチタン基板である。電気メッキ液13は硫酸銅(銅イオン濃度30g/L)、塩酸(塩化物イオン濃度50mg/L)、硫酸(濃度100g/L)を含む。
【0037】
続いて、20ASDの電流密度の直流電流で電気メッキを6秒行う。その後、再度12ASDの電流密度の直流電流で電気メッキを300秒行い、陰極12表面からナノ双晶銅の成長が開始される。陽極11または電気メッキ液13には約800rpmの撹拌回転速度が施される。このほか、成長したナノ双晶銅金属層14の厚みは約10μmである。
【0038】
本電気メッキシステムは800rpm回転速度下で、電圧を継続的に増加して電流を記録し、測定した限界電流密度(Limiting Current Density)が21.6ASDであり、
図2に示すとおりである。
【0039】
図3に本発明の実施例1のナノ双晶銅金属層の集束イオンビーム(Focused Ion Beam)断面図を示す。
図3に示すように、成長が完了したナノ双晶銅金属層の50%以上の体積が複数の柱状結晶粒を含み、これらの柱状結晶粒が相互に連接される。
図3に示すように、これらの柱状結晶粒は複数の層状のナノ双晶銅で構成され、ナノ双晶がナノ双晶銅金属層の表面まで延伸されているため、ナノ双晶銅金属層の表面に露出されるのは双晶の(111)面である。本実施例において、ナノ双晶銅金属層のすべての表面がほぼ(111)面である。このほか、[111]結晶軸は垂直(111)面の軸であり、このため70%以上の柱状結晶粒はナノ双晶が[111]結晶軸方向に沿って積層されて成る。本実施例において、ほぼすべての柱状結晶粒はナノ双晶が[111]結晶軸方向に沿って積層されて成る。
【0040】
特に、
図3に示すように、本実施例において、相隣する柱状結晶粒間の挟角は0度ではなく、20度より大きく、かつ60度以下である。このほか、柱状結晶粒の短軸の長さはそれぞれ0.5μmから3μmの間であり、かつ柱状結晶粒の厚みはそれぞれ2μmから5μmの間である。
【0041】
(比較例1)
ここで、直接12ASDの電流密度の直流電流で電気メッキを300秒行うほか、その他は実施例と同じ条件を使用してナノ双晶銅金属層を成長させる。
【0042】
図4に本発明の比較例1のナノ双晶銅金属層の集束イオンビーム断面図を示す。
図3と
図4に示すように、実施例と比較例のナノ双晶銅金属層の最大の違いは、実施例のナノ双晶銅金属層中の相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下であり、比較例のナノ双晶銅金属層中の相隣する柱状結晶粒間の挟角が0度に近い点にある。
【0043】
歪引張試験
【0044】
電気メッキ銅層を基板から剥離し、IPC-TM-650引張試験規格に基づき試験を実施した。電気メッキ銅層が幅12.7mm、長さ150mmのストリップ状試験片にカットされ、引張試験機がINSTRON 4465、gauge lengthが50mm、引張速度が5mm/minであった。
【0045】
【0046】
表1と
図5に示すように、比較例のナノ双晶銅金属層と比較して、実施例のナノ双晶銅金属層はより大きい伸び率を有する。
【0047】
(実施例2~5)
実施例1の電気メッキシステムと同じで、電気メッキ液の銅イオン濃度、撹拌回転速度、電気メッキ温度を調整し、異なる限界電流密度を得ることができ、かつ段階的電流の電気メッキパラメータを応用し、銅層を電気メッキして集束イオンビームで断面を観察して相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度から60度の間であるか否かを確認した。
【0048】
【0049】
(実施例6及び比較例3)
図6に本実施例と比較例で使用する電気メッキ装置の概略図を示す。そのうち、電気メッキ装置は、陽極11と、陰極12を含み、電気メッキ液中に浸漬され、かつそれぞれ直流電流供給源15に接続される。ここで、陽極11は寸法安定性陽極(Dimensional stable anode、DSA)であり、チタンの網篩上にIrO
2を塗布した網状構造である。陰極12は回転チタンホイールである。電気メッキを行うとき、陰極12の回転速度は800rpmで、電気メッキ液は硫酸銅(銅イオン濃度為60g/L)、塩酸(塩化物イオン濃度30mg/L)、硫酸(90g/L)及び結晶粒変性剤(2ml/L)を含み、電気メッキ温度は50℃とする。電気メッキの電流密度及び電気メッキ時間は下表3に示すとおりである。
【0050】
電気メッキ後、陰極12の表面でナノ双晶銅の成長が開始され、かつ成長したナノ双晶銅金属層の厚みは約12μmである。得られたナノ双晶銅金属層を剥がした後、前述の方法で引張試験と金相観察を行う。引張試験の結果を下表3及び
図8に示す。比較例3のナノ双晶銅金属層の集束イオンビーム断面図は
図7に示すとおりである。
【0051】
【0052】
実施例6で得たナノ双晶銅金属層は集束イオンビーム測定結果(図示しない)によると、ナノ双晶銅金属層中の相隣する柱状結晶粒間の挟角は20度より大きく、60度以下であり、かつ結晶粒内にナノ双晶を有することが示された。一方、比較例3で得たナノ双晶銅金属層は集束イオンビーム測定結果(
図7)によると、結晶粒内にナノ双晶を有するが、得られたものは非柱状結晶型無方向性結晶粒であった。このほか、表3及び
図8の引張試験結果によれば、実施例6のナノ双晶銅柱状結晶粒は高角度で相互に交差する構造を有し、比較例3の特定の方向性がなく、かつ非柱状結晶型のナノ双晶銅と比較して、より優れた引張強度と伸び率を有する。
【0053】
本発明のナノ双晶銅金属層は相隣する柱状結晶粒間の挟角が20度より大きく、かつ60度以下であるという特徴を有する。このほか、本発明のナノ双晶銅金属層はより大きい伸び率を有する。このため、本発明のナノ双晶銅金属層はより広範な応用分野で利用することができる。
【0054】
本発明について複数の実施例を通じて説明してきたが、本発明の要旨と特許請求の範囲の主張を逸脱せずに、その他多くの修飾や変化が可能であることが理解されるべきである。
【符号の説明】
【0055】
1 電気メッキ装置
11 陽極
12 陰極
13 電気メッキ液
14 ナノ双晶銅金属層
15 直流電流供給源