(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】呼吸数計測装置
(51)【国際特許分類】
A61M 16/00 20060101AFI20220408BHJP
A61M 16/10 20060101ALI20220408BHJP
A61B 5/087 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
A61M16/00 370Z
A61M16/00 370A
A61M16/10 B
A61B5/087
(21)【出願番号】P 2020549479
(86)(22)【出願日】2019-09-27
(86)【国際出願番号】 JP2019038359
(87)【国際公開番号】W WO2020067505
(87)【国際公開日】2020-04-02
【審査請求日】2020-10-21
(31)【優先権主張番号】P 2018185785
(32)【優先日】2018-09-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】503369495
【氏名又は名称】帝人ファーマ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100123582
【氏名又は名称】三橋 真二
(74)【代理人】
【識別番号】100141977
【氏名又は名称】中島 勝
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100123593
【氏名又は名称】関根 宣夫
(74)【代理人】
【識別番号】100196601
【氏名又は名称】酒井 祐市
(72)【発明者】
【氏名】山浦 佑樹
(72)【発明者】
【氏名】森下 裕太
(72)【発明者】
【氏名】吉澤 章
【審査官】菊地 牧子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-190045(JP,A)
【文献】特開2015-085191(JP,A)
【文献】特開2002-336207(JP,A)
【文献】特開2014-068782(JP,A)
【文献】特開2002-102187(JP,A)
【文献】特開2001-266205(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 16/00
A61M 16/10
A61B 5/087
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
患者と接続され、且つ、加圧・減圧を周期的に繰り返すことで空気中の酸素を濃縮する
吸着筒を有する圧力変動吸着方式の酸素濃縮装置から酸素濃縮ガスを患者に供給する配管内の管内圧力及び/又は管内気体流量を検知して、圧力データ及び/又は気体流量データを出力する検知部と、
前記圧力データ及び/又は前記気体流量データに基づいて、患者呼吸情報データを抽出する演算部と、
前記患者呼吸情報データに基づいて所定時間当たりの呼吸数を推定する推定部と、を有し、
前記演算部は、前記吸着筒内の加圧と減圧を切り替える切替タイミングに関する切替タイミング情報を前記酸素濃縮装置から取得し、前記圧力データ及び/又は前記気体流量データ及び前記切替タイミング情報に基づいて、酸素濃縮装置の動作により発生する前記酸素濃縮ガスの周期的な圧力変化及び/又は流量変化を示す変動値データを推定し、前記変動値データを前記圧力データ及び/又は前記気体流量データから除去することによって、患者呼吸情報データを抽出し、
前記推定部は、時間Δtを変化させながら、前記患者呼吸情報データと、前記患者呼吸情報データから前記時間Δtだけずらしたデータとの自己相関係数を求め、前記自己相関係数がピークとなる時間Δtを呼吸間隔として、前記呼吸数を推定
する、
ことを特徴とする呼吸数計測装置。
【請求項2】
前記推定部は、少なくとも10秒以上の前記患者呼吸情報データを示す波形を用いて、前記呼吸数を推定する、請求項1に記載の呼吸数計測装置。
【請求項3】
前記推定部は、所定の閾値を超えた前記自己相関係数のピークを前記呼吸数の推定に利用する、請求項1又は2に記載の呼吸数計測装置。
【請求項4】
前記閾値は、0.3以上且つ0.7以下の値である、請求項3に記載の呼吸数計測装置。
【請求項5】
前記所定の閾値を超えた前記自己相関係数のピークを取得できない場合、計算不能であった旨を出力する、請求項
3又は4に記載の呼吸数計測装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、圧力変動吸着式酸素濃縮装置に用いられる呼吸数計測装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、喘息、閉塞性慢性肺疾患等の呼吸器疾患患者に対するひとつとして酸素療法が行われている。これは、酸素ガスや酸素濃縮ガスを患者に吸入させる療法である。近年では、患者QOL(QOL:Quality of Life)向上を目的に自宅や施設等で酸素吸入をする在宅酸素療法(HOT:Home Oxygen Therapy)が主流になってきており、酸素供給源としては酸素濃縮装置が主に使用されている。
【0003】
酸素濃縮装置とは、空気中に存在する約21%の酸素を濃縮して排出する装置である。酸素濃縮装置の多くは圧力変動吸着式(以下、PSA式:Pressure Swing Adsorption)が一般的に用いられる。
【0004】
PSA式酸素濃縮装置では、窒素ガスを選択的に吸着する吸着剤が充填された吸着筒に空気を取り込み、吸着筒内を加圧し窒素ガスを吸着剤に吸着させる吸着工程と、吸着筒内を減圧し吸着された窒素ガスを系外に排出する脱着工程が繰り返えされる。吸着工程と脱着工程が繰り返されることにより濃縮酸素ガスが生成され、酸素濃縮装置は患者に連続的に高濃度酸素ガスを提供することができる。なお、脱着工程に於いて吸着筒内を大気圧以下まで減圧する方法は、PSAではなくVPSAやVSA等と呼称されることがあるが、基本的な原理はPSAと同一であり、ここではPSAの呼称で統一する。
【0005】
在宅酸素療法を受ける患者の主疾患は慢性閉塞性肺疾患(以下、COPD:Chronic Obstructive Pulmonary Disease)である。COPDとは気管支の狭窄や肺胞壁の破壊により、咳・痰や労作時呼吸困難の症状を呈する不可逆性疾患である。
【0006】
COPDの症状が悪化すると息切れや呼吸数の増加が見られ、COPDの急性増悪と呼ばれる「安定期の治療の変更あるいは追加が必要な状態」まで症状が悪化することもある。COPDの急性増悪が起こると、患者は入院するケースが多く、呼吸不全に陥ることや生命の危機に直面することもある。また、患者が退院できたとしても入院以前より安定期の症状が悪化し、入退院を繰り返すことも珍しくない。
【0007】
COPDに於いては、患者の急性増悪の予兆又は初期症状がなるべく早い段階で察知されて、症状が入院する程度まで悪化する前に、患者に早期治療を施すことが非常に重要であり、在宅酸素療法において患者の呼吸情報、特に呼吸数の変化は患者の病態を把握するうえで非常に有益な情報源となる。
【0008】
呼吸数は、腹バンド等を使用することによっても測定できるが、患者の病態の長期的な変化を把握するためには、患者は腹バンドを常時、あるいは定期的に忘れずに着用する必要がある等、患者が負担を強いられる。一方で一般的に在宅酸素療法を受ける患者は、少なくとも1日数時間の定期的な使用が求められることが多い。酸素濃縮器に呼吸数計測装置が内蔵、あるいは付属していれば、呼吸数計測装置によって患者に追加の負担を強いることなく、かつ確実に酸素濃縮装置使用中の病態の変化を確認することができる。呼吸数計測装置は非常に有用である。
【0009】
酸素濃縮装置に内蔵可能な、患者の呼吸数を取得する方法として、特許文献1のように、酸素濃縮装置と患者が装着しているカニューラまでの間に呼吸計測用の微差圧センサを取り付け酸素吸入中の患者呼吸圧を計測し、患者呼吸圧を記録媒体に記録したり、通信データとして送信する方法がある。
【0010】
また、特許文献2、4には、呼吸パターンから呼吸数などが算出できることが示されているが、具体的な方法については述べられていない。
【0011】
特許文献3には、圧力波形が下降から上昇に転じたタイミングを記憶しておき、その間隔で呼吸数をカウントする方法や、圧力の振幅から所定の検出レベル率を乗じてその閾値を超えたときのみ呼吸と判定する方法が示されている。
【0012】
特許文献5には、FFT(FFT:Fast Fourier Transform)処理やTDS処理により呼吸数を算出する方法が開示されている。
【0013】
特許文献6には、酸素濃縮装置自身の圧力変動を予め計測し、記憶しておいて、検出した圧力波形から差し引く方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開平6-190045号公報
【文献】特開2001-286566号公報
【文献】特開平7-96035号公報
【文献】特表2015-85191号公報
【文献】特表2011-518016号公報
【文献】国際公開2018-180392号公報
【発明の概要】
【0015】
計算された呼吸データをそのまま送る方法は、例えば100ミリ秒(ms)毎に測定した波形データをそのまま送信することになり、データ量が膨大となり、解析に時間を要することがある。
【0016】
計算された呼吸データをそのまま送る方法は、ノイズや体動などにより呼吸波形に乱れが発生した場合、その乱れによるピーク値なども呼吸として検出してしまう欠点がある。呼吸波形は、使用している患者の病態や、活動時、就寝時などの状態によって大きく変化し、さらには患者ごとに呼吸波形は大きく異なる。呼吸を判定するための閾値を一律に設けて、呼吸を判定することは困難である。
【0017】
さらに、FFTは計算量が膨大になると共に、演算に用いるデータの区間を短くとると正確な呼吸周期が算出できなくなり、データの区間を長くとりすぎると、呼吸毎の呼吸間隔のわずかなずれの影響で呼吸周期のピークが得られにくくなる。TDS処理については、ノイズや体動の影響、患者の状態による呼吸の変化や、患者個人ごとの呼吸状態の違いに起因する課題がある。
【0018】
呼吸数計測装置の目的は、上述の問題を解決するためになされたものであり、PSA式酸素濃縮装置とともに用いられ、呼吸数の計測精度を向上させることを可能することにある。
【0019】
実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、患者と接続され、且つ、加圧・減圧を周期的に繰り返すことで空気中の酸素を濃縮する圧力変動吸着方式の酸素濃縮装置から酸素濃縮ガスを患者に供給する配管内の管内圧力及び/又は管内気体流量を検知して、圧力データ及び/又は気体流量データを出力する検知部と、圧力データ及び/又は気体流量データに基づいて、患者呼吸情報データを抽出する演算部と、患者呼吸情報データに基づいて所定時間当たりの呼吸数を推定する推定部と、を有し、推定部は、時間Δtを変化させながら、患者呼吸情報データと、患者呼吸情報データから時間Δtだけずらしたデータとの自己相関係数を求め、自己相関係数がピークとなる時間Δtを呼吸間隔として、呼吸数を推定する、ことを特徴とする。
【0020】
更に、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、推定部が、少なくとも10秒以上の患者呼吸情報データを示す波形を用いて、呼吸数を推定する、ことが好ましい。
【0021】
更に、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、推定部が、所定の閾値を超えた自己相関係数のピークを呼吸数の推定に利用する、ことが好ましい。
【0022】
更に、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、閾値が、0.3以上且つ0.7以下の値である、ことが好ましい。
【0023】
更に、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、所定の閾値を超えた自己相関係数のピークを取得できない場合、計算不能であった旨を出力する、ことが好ましい。
【0024】
更に、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、演算部が、圧力データ及び/又は気体流量データに基づいて、酸素濃縮装置の動作により発生する酸素濃縮ガスの周期的な圧力変化及び/又は流量変化を示す変動値データを推定し、変動値データを圧力データ及び/又は気体流量データから除去することによって、患者呼吸情報データを抽出する、ことが好ましい。
【0025】
更に、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置は、予め測定した変動値データを記憶する記憶部を更に有し、演算部は、変動値データを圧力データ及び/又は前気体流量データから除去することによって、患者呼吸情報データを抽出する、ことが好ましい。
【0026】
本実施形態によれば、呼吸数計測装置は、PSA式酸素濃縮装置とともに用いられ、患者に追加の負担を強いることなく、呼吸数の計測精度を向上させることを可能する。
【0027】
本発明の目的及び効果は、特に請求項において指摘される構成要素及び組み合わせを用いることによって認識され且つ得られるだろう。前述の一般的な説明及び後述の詳細な説明の両方は、例示的及び説明的なものであり、特許請求の範囲に記載されている本発明を制限するものではない。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】PSA式酸素濃縮装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図2】呼吸数計測装置の概略構成の一例を示す図である。
【
図4】連続流5LPM、延長チューブを20m追加した条件における、患者呼吸情報を含んだ圧データを示す図である。
【
図5】連続流5LPM、延長チューブを20m追加した条件における、演算部により抽出したPSA圧データを示す図である。
【
図6】連続流5LPM、延長チューブを20m追加した条件における、差分処理後の患者呼吸情報を示す図である。
【
図7】患者呼吸による圧力変動とPSA圧を含んだ圧力データから、患者呼吸情報とPSA圧を分離する原理を示した概念図である。
【
図8】差分処理後の患者呼吸情報から、自己相関係数を求めた結果を表す図である。
【
図9】患者呼吸情報データを抽出する処理の一例を示すフローチャート図である。
【
図10】患者呼吸情報データに基づいて、呼吸数を推定する処理の一例を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置について、図を参照しつつ説明する。但し、本開示の技術的範囲はそれらの実施の形態に限定されず、特許請求の範囲に記載された発明とその均等物に及ぶ点に留意されたい。なお、以下の説明及び図において、同一の機能構成を有する構成要素については、同一の符号を付することにより重複説明を省略する。
【0030】
[PSA式酸素濃縮装置]
実施形態の一側面に係る呼吸数計測装置と共に使用される、圧力変動吸着方式の酸素濃縮装置の一例である、PSA式酸素濃縮装置の構成を説明する。
【0031】
図1は、PSA式酸素濃縮装置の概略構成の一例を示す図である。
【0032】
PSA式酸素濃縮装置1は、PSA式酸素濃縮装置1の外部から空気Aを取り込んで濃縮酸素ガスを生成する酸素生成部11を有する。
【0033】
PSA式酸素装置外部から酸素生成部11に取り込まれた空気Aは、コンプレッサ111で圧縮され、第1切替弁112を介して吸着筒113に送られる。第1切替弁112は、複数の吸着筒113のいずれかとコンプレッサ111を連通することで吸着筒113に圧縮空気を送り込むとともに、その他の吸着筒を大気に開放する。
【0034】
吸着筒113には窒素ガスを選択的に吸着する吸着剤が充填されている。吸着筒113を通過した圧縮空気は窒素ガス濃度が低下し、濃縮酸素ガスとなる。濃縮酸素ガスは第2切替弁114を介して濃縮酸素バッファタンク115に貯蔵される。第2切替弁114は複数の吸着筒113のいずれかと濃縮酸素バッファタンク115とを連通または遮断する。
【0035】
酸素生成部11は、第1切替弁112によりコンプレッサ111と複数の吸着筒113のいずれかを連通させるとともに、第2切替弁114により該コンプレッサ111と連通した吸着筒113と濃縮酸素バッファタンク115を連通させる。したがって、コンプレッサ111と複数の吸着筒113のいずれかと濃縮酸素バッファタンク115が連通され、生成された濃縮酸素ガスが濃縮酸素バッファタンク115に供給される。他方、コンプレッサ111と連通しない吸着筒113は、第2切替弁114により濃縮酸素バッファタンク115からと遮断された状態で、第1切替弁112を介して大気開放される。これにより、吸着筒113内が減圧し、吸着剤に吸着された窒素ガスをPSA式酸素濃縮装置1外部に放出する。
【0036】
第1切替弁112及び第2切替弁114の開閉は、例えば、不図示の呼吸数計測装置内のマイコン部により制御される。マイコン部は吸着筒113内の加圧と減圧を切換えるタイミングを取得することが可能である。呼吸数計測装置は、酸素濃縮装置1の内部に設置されていてもよく、酸素濃縮装置1とは別体に酸素濃縮装置1の外部に設置されていてもよい。
【0037】
又、別の例として、酸素濃縮装置1は、第1及び第2切替弁の開閉処理を含む酸素濃縮処理を制御する酸素濃縮制御部を有してもよい。マイコン部は酸素濃縮制御部から吸着筒113内の加圧と減圧を切換えるタイミングを取得することができる。
【0038】
PSA式酸素濃縮装置1は、上述の基本構成以外に複数の吸着筒113のいずれか2つ以上の吸着筒を接続してもよい。PSA式酸素濃縮装置1は、それぞれの吸着筒の圧力を均一化する均圧工程や、生成された酸素濃縮ガスの一部を、複数の吸着筒113の内いずれかに還流するパージ工程などの付加的な工程を有していてもよい。
【0039】
通常、吸着筒113に圧縮空気が送られた後は、第1切替弁112によって該コンプレッサ111と遮断された状態になり大気解放される。反対に、大気解放されていた吸着筒113は、第1切替弁112によって該コンプレッサ111に連結され、酸素圧縮の過程に移行する。このように、第1切替弁112によって複数の吸着筒113が交互に圧縮と大気解放を繰り返すことで、連続的に濃縮酸素ガスを供給することができる。
【0040】
濃縮酸素生成に伴う吸着筒113内部の圧力変化は非常に大きいため、吸着筒113の切り替えに伴って、吸着筒113下流の酸素ガス流路中の圧力には周期的な圧力変動が生じる。濃縮酸素バッファタンク115に貯蔵された濃縮酸素ガスは調圧弁116により該圧力変動が減衰されるように調整される。
【0041】
酸素生成部11で圧力調整された濃縮酸素ガスは、コントロールバルブ121と流量計122から成る酸素流量制御部12で酸素流量が制御され、加湿器101を介して酸素供給口13より酸素濃縮装置外に供給される。酸素流量制御部12においてコントロールバルブ121と流量計122はどちらが流路の上流に備えられていてもよく、また酸素流量制御部12にはその他の構成が含まれていても構わない。
【0042】
PSA式酸素濃縮装置1は、流量計122とコントロールバルブ121の代わりに、流量を切り替えるための切換え式の固定オリフィスを有してもよい。PSA式酸素濃縮装置1は、流量計122としてロータメータなどの目視可能な流量計を用いるとともにコントロールバルブ121の代わりに手動式の流量調整弁を用いて手動操作により流量を調整する方式を用いてもよく、その他の流量調整方式を用いてもよい。PSA式酸素濃縮装置1は、加湿器101を備えない構成とすることも可能である。
【0043】
[呼吸数計測装置]
本発明に係る呼吸数計測装置の概略構成の一例を説明する。
【0044】
図2は、呼吸数計測装置の概略構成の一例を示す図である。
【0045】
PSA式酸素濃縮装置1で生成された酸素は、PSA式酸素濃縮装置1に接続された配管2、配管2に接続された鼻カニューラ3を経由して患者の鼻腔に供給される。一方、患者は酸素吸入中も常時呼吸をしており、患者の呼吸によって生じる圧変化が鼻カニューラ3や配管2、PSA式酸素濃縮装置1の方へ伝搬される。
【0046】
本実施形態においては、患者の呼吸圧を取得すべく、酸素供給経路となる配管2に呼吸数計測装置4が接続される。配管は加湿器101(PSA式酸素濃縮装置1が加湿器101を備えない場合は酸素流量制御部12)と鼻カニューラ3の間の配管を全て含んだものを指しており、呼吸数計測装置4は配管のどの位置に接続されていてもよい。
【0047】
呼吸数計測装置4の一部ないし全部は、PSA式酸素濃縮装置1の内部に設置されていてもよく、外部に設置されていてもよい。
【0048】
本願発明者らが鋭意検討を行った結果、調圧弁116によって圧力変動を減衰した後であっても、呼吸数計測装置4に付加される圧力変動には濃縮酸素ガス生成時の加減圧に伴う圧力変動が含まれることが明らかとなった。濃縮酸素ガス生成時に生じる圧力変動の振幅は呼吸圧力の振幅に比べて大きく、また呼吸圧力の振幅も酸素流路を通ることによる圧損で低下するため、呼吸数計測装置4で計測される圧力から直接患者の呼吸圧力波形を計測することは困難である。
【0049】
本実施形態においては、呼吸数計測装置4は、圧力センサ6に接続される、演算部及び推定部を有するマイコン部7を有する。圧力センサ6は好ましくは微差圧センサである。さらに、好ましくは、呼吸数計測装置4は、計測された呼吸数を表示する、例えば液晶ディスプレイである表示部8を有する。表示部8は、マイコン部7に接続され、マイコン部7によって制御される。
【0050】
本実施形態においては、呼吸数計測装置4は、配管内の圧力を検知して出力する検知部として、例えば、圧力センサ6、好ましくは微差圧センサ6と、検知部に電気的に接続されるマイコン部7を有する。呼吸数計測装置4は、微差圧センサ6に接続される容積部と、配管と容積部の間を接続するオリフィス5から構成される圧力平滑化部を有してもよい。圧力平滑化部を設ける理由は以下の通りである。
【0051】
患者の呼吸圧は通常±10~100Pa程度であるため、呼吸数計測装置4にて呼吸圧を取得するためには微差圧センサ6はレンジ±100Pa程度のセンサを用いるのが好ましい。酸素濃縮装置から酸素が供給されている状況では、酸素供給による供給圧が常に生じており、例えば、酸素供給による供給圧は、1LPM(litter per minute:リットル/分)でも300Pa程度存在する。そのため微差圧センサの他端を大気解放した状態で、上述のように微差圧センサ6の一端を酸素供給経路に接続すると、微差圧センサ6の測定レンジをオーバーしてしまう。そのため、オリフィス5経由後の圧を微差圧センサ6の他端に印加することで、患者の呼吸情報を含んだ圧を微差圧センサ6の測定レンジ範囲内で取得することが好ましい。
【0052】
微差圧センサ6の他端には微差圧センサ6の測定レンジをオーバーしない程度の圧力が印加されていればよく、その方法は本実施形態の例に限定されない。微差圧センサ6の測定レンジが酸素供給による供給圧よりも大きく、かつ患者の呼吸に伴う圧力変動を検出できるレベルの分解能があれば、微差圧センサ6の他端は大気解放でもよい。微差圧センサ6の代わりにゲージ圧や絶対圧を測定する圧力センサを用いてもよい。
【0053】
呼吸に伴う圧力変化は、配管に流れる酸素濃縮ガスの微小な流量変動としても現れるため、呼吸数計測装置4は、圧力センサ6の代わりに流量センサを用いてもよい。呼吸数計測装置4は、圧力センサ6及び流量センサの両方を有してもよい。圧力センサ6及び/又は流量センサは、配管2内の患者の呼吸情報を含んだ配管内の管内圧力及び/又は管内気体流量を検知して、圧力データ及び/又は管内気体流量データを出力する検知部となる。
【0054】
[マイコン部]
図3は、マイコン部7の構成ブロックの一例を示す図である。
【0055】
圧力センサ6、好ましくは微差圧センサ6には、演算部722および推定部723を有するマイコン部7が接続されている。演算部722および推定部723は、検知部である微差圧センサ6で検知された患者の呼吸情報を含んだ配管内の管内圧力データ及び又は管内気体流量データを受け取って、後述の処理を実行することで患者の呼吸情報を取得する。
【0056】
マイコン部7は、酸素濃縮装置の酸素生成機能や表示・ユーザインタフェース機能などを処理する処理部と同一のマイコンであってもよいし、分離されていてもよい。分離されている場合は、酸素生成機能を処理するマイコンから、PSAの周期Tの切り替わりのタイミングを入手して、演算に利用する。
【0057】
マイコン部7は、記憶部71と処理部72を有する。記憶部71は、1又は複数の半導体メモリにより構成される。例えば、RAMや、フラッシュメモリ、EPROM、EEPROM等の不揮発性メモリの少なくとも一つを有する。記憶部71は、処理部72による処理に用いられるドライバプログラム、オペレーティングシステムプログラム、アプリケーションプログラム、データ等を記憶する。
【0058】
例えば、記憶部71は、ドライバプログラムとして、検知部である微差圧センサ6等を制御するデバイスドライバプログラムを記憶する。コンピュータプログラムは、例えば、CD-ROM、DVD-ROM等のコンピュータ読み取り可能な可搬型記録媒体から、公知のセットアッププログラム等を用いて記憶部71にインストールされてもよい。また、プログラムサーバ等からダウンロードしてインストールしてもよい。
【0059】
更に、記憶部71は、所定の処理に係る一時的なデータを一時的に記憶してもよい。記憶部71は、呼吸数の推定に利用するための閾値711、変動値データファイル712等を記憶する。
【0060】
処理部72は、一又は複数個のプロセッサ及びその周辺回路を有する。処理部72は、呼吸数計測装置4の全体的な動作を統括的に制御するものであり、例えば、MCU(Micro Control Unit)である。
【0061】
処理部72は、記憶部71に記憶されているプログラム(オペレーティングシステムプログラム、ドライバプログラム、アプリケーションプログラム等)に基づいて処理を実行する。処理部72は、複数のプログラム(アプリケーションプログラム等)を並列に実行してもよい。処理部72は、検知データ取得部721、演算部722、推定部723、呼吸数出力部724等を有する。
【0062】
処理部72が有するこれらの各部は、独立した集積回路、回路モジュール、マイクロプロセッサ、又はファームウェアとしてマイコン部7に実装されてもよい。
【0063】
[実施形態で行われる演算処理の原理]
図2に示す構成を用いて鼻カニューラ3から患者呼吸モデルの呼吸圧を印加し、呼吸情報を取得したデータを用いて、本実施形態で行われる処理の原理について説明する。
【0064】
連続流5LPM、呼吸数計測装置4の下流側に延長チューブを20m接続した時に取得しデータ群を
図4、
図5、
図6に示す。連続流とは、濃縮酸素ガス供給方式のひとつで、連続的に一定流量の濃縮酸素ガスを供給する方式である。
【0065】
図4は、連続流5LPM、延長チューブを20m接続したときの患者の呼吸情報とPSA式酸素濃縮装置1のPSA圧データとを含んだ圧データを示す図である。
【0066】
図5は、連続流5LPM、延長チューブを20m接続したときの患者呼吸が無い場合、あるいは呼吸成分を除去した後のPSA式酸素濃縮装置1のPSA圧データを示す図である。
【0067】
PSA式酸素濃縮装置によるPSA圧とは、上述したPSA式酸素濃縮装置1により酸素を生成する際に発生するPSA式酸素濃縮装置1の吸着筒周期に伴う周期的な圧変化である。PSA圧の波形の周期はPSA式酸素濃縮装置1の吸着筒切替周期と一致している。
【0068】
図6は、
図4の成分から
図5の成分をソフトウェアにて差分処理をした結果を示す図である。差分処理とは、任意時刻における両データの差を計算する処理である。差分処理により、呼吸数計測装置4は、PSA圧成分を除去し、患者呼吸モデルの呼吸圧を検出することができている。ソフトによる差分処理を実施することで、呼吸数計測装置4は、PSA式酸素濃縮装置1から鼻カニューラと延長チューブ20mを介して酸素を連続的に5LPM吸入している状況下においても患者の呼吸情報が取得可能である。
【0069】
PSA圧成分等の変動値データを除去し、患者呼吸情報データを抽出する方法は、特許文献6に記載される、酸素濃縮装置自身の圧力変動を予め計測し、記憶しておいて、検出した圧力波形から差し引く方法によってもよいし、リアルタイムで計測したものを差し引く方法によってもよい。
【0070】
PSA式酸素濃縮装置が、少なくとも総運転時間の一部の期間、単一の周期Tで加圧・減圧を切り替える場合、演算部722はある時間tに於ける圧力は流量値Y(t)と、Y(t)及びY(t-T)、Y(t-2T)、・・・、Y(t-nT)(nは予め決められた任意の整数)を平均化処理した値X(t)との差分を算出して呼吸情報を抽出する。PSA圧成分が除去された元の呼吸波形がよく再現できる。
【0071】
図7は、本実施形態の演算処理の概念図である。(I)は呼吸波形、(II)はPSA波形のモデル波形である。TはPSA波形の周期であり、吸着筒の切替周期に一致する。(III)は、(I)と(II)を加算した波形であり、配管部で測定される圧力に相当する。(IV)は、(III)を周期Tごとに分割し重ね合わせたものである。呼吸の周期とPSAの周期が完全に一致しない限り、周期Tで切り取った波形に於いては、呼吸波形はランダムに表れる。(V)は(IV)で重ね合わせた波形を平均化処理したものである。測定される圧力データ及び/又は気体流量データ(III)に基づいて、PSA式酸素濃縮装置の動作により発生する酸素濃縮ガスの周期的な圧力変化及び/又は流量変化を示す変動値データX(t)が、重ね合わせて平均することにより推定される(V)。
【0072】
一つの例では、Tを1周期として5周期分の単純移動平均が用いられている。(VI)は(III)の波形の最後のT部分から(V)を差し引いた波形である。元の呼吸波形(I)が精度よく再現できていることが分かる。Tの選び方は、複数の吸着筒の内1つの吸着筒がコンプレッサと連通している状態が始まってから、別の吸着筒がコンプレッサと連通する状態に切り替わるまでの時間をTとしてもよい。Tの選び方は、1つの吸着筒がコンプレッサと連通する状態が始まってから、他の吸着筒がコンプレッサと連通する状態を経て、再び最初の吸着筒がコンプレッサに連通する状態に切り替わるまでをTとしてもよい。さらには、別の例として、Tの選び方は、それぞれの切替時間の倍数をTとしてもよい。
【0073】
実施例では、酸素濃縮ガスの周期的な圧力変化及び/又は流量変化と推定される、重ね合わせて平均された変動値データX(t)を示す(V)の計算をするに当たって、5周期分の移動平均が用いられているが、平均の仕方は別の方法でもよい。一般的には、(V)のステップに於いて計算する平均値X(t)は以下の数式で表される。本願全体を通じて、iは虚数を示すものではなく、単に整変数iを示すものであるとする。
【数1】
【0074】
X(t)は時間tに於ける平均化処理後の値であり、Y(t)は時間tに於ける圧力の実測値である。また、a
iは加重平均に於ける重み付けの係数であり任意の実数を選択することができる。nは平均を取るYの個数を示す。例えばn=4とし、a
0~a
4を1とすれば、
図6の計算と同じになる。また、a
i=e
-bi(bは任意の正の実数)とし、n=∞とすれば指数平滑平均とすることができる。
【0075】
実際の計算では無限大を扱うことは難しいため、X(t)は、X(t)=(1-e-b)Y(t)+e-bX(t-T)等のように逐次計算により漸近値を得る。n及びaiを適切に選ぶことによって、FIR(Finite Impulse Response)フィルタのような、より収束が早い平均化処理も可能である。
【0076】
式(1)は一見、単にY(t)の時間平均を数値計算的に求める式に見える。通常の時間平均ではTとして、Y(t)の変動周期に対して十分小さい値を選択するのに対し、本実施形態では、TとしてPSAプロセスの吸脱着周期を基本に選択することが重要である。これは、単純に測定値Y(t)を時間的に平均化処理するのではなく、周期Tに亘るY(t)の波形を一つの単位として、Tの整数倍の時間だけ遡った波形の平均値をとる事を意味する。波形の平均値を取ることにより、Tの間隔で周期的に表れる特性をもつPSA圧を精度よく推定することが可能となる。
【0077】
本例は、呼吸数計測部として、圧力を測定する方法を示したが、実際には圧力の変動に伴い、配管を流れる流量も変化するため、圧力の代わりに流量を測定する方法も用いることができる。また、装置の運転条件や環境条件によって圧力値と流量値を組み合わせて、あるいは切り替えて測定する方法も用いることが出来る。
【0078】
演算処理により取得した呼吸情報は、圧力や流量などの呼吸のリアルタイムの情報を波形として表した、いわば生データである。このデータをそのまま記録、あるいは送信してもよいが、データ量が膨大となるうえ、解析にも時間がかかる。そのため、呼吸数計測装置4内部で、呼吸数データを自動的に算出した上で、記録、及び/又は送信することが望ましい。
【0079】
例に示したように、検出できる呼吸波形は、気流による圧力変動やカニューラの揺れなどに伴うノイズ成分が多い。圧力が下降から上昇に転じるタイミングを算出するピーク検出や、閾値以上の値になったタイミングを検出する方法では、適切に呼吸周期、呼吸数を算出することができない。
【0080】
例えば、
図6に於いては、カウントすべき呼吸波形は、図中a1、a2、a3であらわされるピーク及びその直後に現れる谷として現れており、それ以外の部分はノイズ成分である。圧力が上昇から下降に転じるタイミングとしてこのピークを検出しようとしても、図中のb部分を検出してしまう可能性が高い。
【0081】
[呼吸数推定処理]
ある一定の閾値以上をピークとして判断する方法であっても、閾値をXとして設定した場合は、a2のような低いピークが検出できなくなる可能性があり、Yに設定した場合は、ノイズ成分bをピークとして検出してしまう可能性がある。本例では3呼吸分程度しか波形を示していないが、実際の波形ではここで示した以上にピークやノイズ成分の高さがばらつく可能性があり、ピークを確実にとらえ、ノイズを確実に除去できる閾値の設定は極めて困難である。
【0082】
発明者は鋭意検討した結果、上記の方法ではなく、元の波形と、そこから時間Δtだけずらした波形との自己相関係数を求め、Δtを変化させて自己相関係数がピークとなるΔtを求めることで、呼吸数を高い検出力で検出できる事を見出した。発明者は患者呼吸情報から所定時間当たりの呼吸数を推定する呼吸数推定方法を見出した。
【0083】
自己相関係数Rは、以下のような計算式にて算出可能である。
【数2】
【0084】
ここで、Δtは時間のずらし量、t0はデータの取得間隔、nは1回の自己相関係数の計算に用いるデータ数、f(t)は、時刻tに於ける患者呼吸情報データの値で、計算に於いては、t0の間隔でn個取得する。μ、σは、f(t)の平均値及び標準偏差であるが、実際の計算上は、取得したn個のf(t)の値の平均、標準偏差を用いてもよい。また、本実施形態の自己相関係数の算出方法は、一例であり、他の自己相関係数の算出方法でもよい。
【0085】
本実施形態で算出する自己相関係数Rには、正規化係数
【数3】
を乗じることにより、値を-1.0~+1.0の範囲に規定している。
【0086】
図8は、正規化係数を乗じた上式を用いて、
図6で示した算出した波形と、時間Δtだけ時間軸に沿って原波形をずらした波形との自己相関係数の計算結果をΔtに対してプロットして作成したグラフである。自己相関係数は、Δt=0から、t
0ずつ増加させて都度計算する。Δt=0は原波形同士の相関となるため1となる。その後、高い相関を持つ点として点P1及び点P2が求められる。
【0087】
図8に示されるように、生の患者呼吸情報データでは閾値やピーク検出によって呼吸周期を判断することが難しかった波形が、自己相関係数を求めることにより容易に呼吸周期を求めることが出来ることが分かる。
【0088】
自己相関係数の計算に用いるf(t)のデータ区間は算出すべき呼吸周期の範囲から定められる。発明者が鋭意検討した結果、f(t)のデータ区間は算出すべき最低の呼吸周期に対して2倍以上が必要である事が分かった。一般的な成人の呼吸数は1分間に12~20回程度であり、これは呼吸周期3~5秒程度に相当する。f(t)のデータ区間は5秒×2=10秒は必要であることが分かった。
【0089】
自己相関係数のピークを判定するための自己相関係数の閾値としては、少なくとも0.3以上、好ましくは0.3以上0.7以下の間に設定する事が必要であることが判明した。それ以下の閾値ではノイズやベースラインの乱れなどによる偶発的な自己相関値の上昇をピークと誤判定する可能性が増加し、それ以上の閾値では、呼吸周期による自己相関値の上昇を見逃す可能性が高いことが分かった。
【0090】
呼吸数は、自己相関係数が一定の値以上かつピーク値を取ったときのΔtの値の呼吸間隔の逆数により算出される。
図8において最初のピークの点P1に於けるΔtが呼吸間隔となり、1分間を呼吸間隔で除すると1分当たりの呼吸数となる。1分当たりの呼吸数(bpm)は、以下の式で導かれる。
1分当たりの呼吸数(bpm)=60秒÷(ピーク点のステップ数×サンプリング時間)
【0091】
呼吸波形によっては、
図8の様に一定の値以上のピークが複数点存在する事もあるが、右側のピークP2はΔtを複数呼吸分ずらした時に現れる倍周期のピークである。呼吸数の推定では呼吸の基本周期に該当すると推測される、最も左、すなわちΔtが最も小さいピークP1を用いるべきである。
【0092】
本実施形態に示した計算により、濃縮器に接続された呼吸数計測部にて取得した呼吸波形から、呼吸数の情報が自動的に精度よく算出されることができる。
【0093】
呼気吸気に基づく、例えば圧力に関連する情報の変化を表す患者呼吸情報データf(t)は、呼吸以外の小さなノイズしか入っていない場合、偶然に一定周期で自己相関係数が高くなってしまうことがある。そこで、患者呼吸情報データf(t)の分散による判定を加えることにより、呼吸が入っているかもしれないと判断できるレベルの大きさの波がないときは、推定部723は、呼吸数の算定をしないようしてより精度を高めることができる。呼吸の有無に判定は、患者呼吸情報データf(t)の分散による判定に検定されず、他の判定方法を使用してもよい。
【0094】
患者呼吸情報データf(t)の分散σ
2は次式で計算される。
【数4】
【0095】
ここで、nは1回の自己相関係数の計算に用いるデータ数、f(t)は、時刻tに於ける患者呼吸情報データの値。μ、σ2は、f(t)の平均値及び分散である。
【0096】
一例として、PSA式酸素濃縮装置の場合の分散判定の閾値は、
呼吸数8未満の場合 :σ2≧18(Pa2)
呼吸数8~10の場合:σ2≧18(Pa2)
呼吸数11以上の場合:σ2≧7(Pa2)
であるが、使用する酸素供給装置によりに値が異なる可能性がある。呼吸数等のパラメーターによりばらつきがあるので、分散判定の閾値は使用する酸素供給装置により適切に設定する必要がある。
【0097】
一例として、呼吸数8未満の場合の患者呼吸情報データf(t)の分散σ2の第1閾値THD1はTHD1=18とする。呼吸数8~10の場合の患者呼吸情報データf(t)の分散σ2の第2閾値THD2はTHD2=18とする。呼吸数11以上の場合の患者呼吸情報データf(t)の分散σ2の第3閾値THD3はTHD3=7とする。患者呼吸情報データf(t)が分散σ2の閾値以上の場合、呼吸の有無の判定が行われる。
【0098】
図9は、患者呼吸情報データを抽出する処理の一例を示すフローチャート図である。
【0099】
図9に示す患者呼吸情報データを抽出する処理は、記憶部71に予め記憶されたコンピュータプログラムに従ってマイコン部7にて実行される。検知データ取得部721は、検知部である圧力センサ6から、圧力データY(t)を取得する(ST101)。演算部722は、Y(t)のn周期分の平均値X(t)を算出する(ST102)。演算部722は、Y(t)とX(t)の差分をとることにより患者呼吸情報データf(t)を抽出する(ST103)。予め計測記憶したPSA圧力変動を用いる場合は、演算部722は、ST102の処理を行わず、ST101の処理の後、ST103として、Y(t)と予め計測記憶したPSA圧力変動の差分をとることにより患者呼吸情報データf(t)を抽出する。
【0100】
呼吸数計測装置4が稼働中、呼吸数を推定する処理は繰り返し行われ、例えば圧力Y(t)の測定データがt0の間隔でn個取得されるごとに、患者呼吸情報データf(t)が抽出され、更新される。患者呼吸情報データf(t)は、所定の間隔で抽出され、更新されてもよい。
【0101】
図10は、患者呼吸情報データに基づいて、呼吸数を推定する処理の一例を示すフローチャート図である。
【0102】
図10に示す呼吸数を推定する処理は、記憶部71に予め記憶されたコンピュータプログラムに従ってマイコン部7にて実行される。推定部723は、患者呼吸情報データf(t)の平均値μと標準偏差σを算出する(ST201)。まず、呼吸数の有無判定を行うため、推定部723は、標準偏差σの平方数である分散σ
2が所定の閾値TH
D以上であるか否かを判断する(ST202)。分散σ
2が閾値TH
D未満のときは(ST202:NO)、呼吸数出力部724は、計算不能であった旨を出力して(ST213)、処理を終了する。分散σ
2が閾値TH
D以上のときは(ST202:YES)、推定部723は、時間のずらし量として時間Δtをゼロ(0)に設定する(ST203)。
【0103】
推定部723は、時間Δtにデータの取得間隔t0をインクリメントする(ST204)。推定部723は、患者呼吸情報データf(t)の時間Δtにおける自己相関係数R(Δt)を算出する(ST205)。推定部723は、算出した自己相関係数R(Δt)を記憶部71に書き出す(ST206)。推定部723は、時間Δtがnt0に達したかを判断する(ST207)。時間Δtがnt0に達していないときはST203に戻り、推定部723は処理を繰り返す(ST207:NO)。
【0104】
時間Δtがnt0に達したときは(ST207:YES)、推定部723は、記憶部71に記憶されている自己相関係数R(Δt)を読み出す(ST208)。推定部723は、読み出した自己相関係数R(Δt)を比較し、最大となる自己相関係数Max(R(Δt))、すなわちピークとなる自己相関係数R(Δt)があるか否かを判断する(ST209)。具体的には、Max(R(Δt))が所定の閾値THC以上であるか否かが判断される。
【0105】
最大となる自己相関係数Max(R(Δt))が所定の閾値THC以上であるとき(ST209:YES)、推定部723は、最大となる自己相関係数Max(R(Δt))の時間Δtを呼吸間隔に設定する(ST210)。更に、推定部723は、呼吸間隔Δtから呼吸数を推定する(ST211)。呼吸数出力部724は、呼吸数信号を出力し(ST212)、処理は終了する。例えば、呼吸数信号が入力された表示部8は呼吸数を表示する。
【0106】
最大となる自己相関係数Max(R(Δt))が所定の閾値THC未満のときは(ST209:NO)、呼吸数出力部724は、計算不能であった旨を出力して(ST213)、処理を終了する。呼吸数計測装置4が稼働中、呼吸数を推定する処理は繰り返し行われ、呼吸数計測装置4は、呼吸数を更新し、表示部8に表示することができる。表示部8への表示は、所定の間隔で行われてもよい。
【0107】
当業者は、本発明の精神及び範囲から外れることなく、様々な変更、置換、及び修正をこれに加えることが可能であることを理解されたい。
【符号の説明】
【0108】
1 PSA式酸素濃縮装置
2 配管
3 鼻カニューラ
4 呼吸数計測装置
5 オリフィス
6 圧力センサ
7 マイコン部
71 記憶部
72 処理部
721 検知データ取得部
722 演算部
723 推定部
724 呼吸数出力部
8 表示部