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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-07
(45)【発行日】2022-04-15
(54)【発明の名称】延伸装置及びクリップ個数調整方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 55/20 20060101AFI20220408BHJP
   B29C 55/16 20060101ALI20220408BHJP
【FI】
B29C55/20
B29C55/16
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2022500737
(86)(22)【出願日】2021-03-22
(86)【国際出願番号】 JP2021011797
(87)【国際公開番号】W WO2021215174
(87)【国際公開日】2021-10-28
【審査請求日】2022-01-06
(31)【優先権主張番号】P 2020076181
(32)【優先日】2020-04-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000003458
【氏名又は名称】芝浦機械株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002468
【氏名又は名称】特許業務法人後藤特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】渡邊 健氏
(72)【発明者】
【氏名】賀茂 剛晴
(72)【発明者】
【氏名】山口 智則
(72)【発明者】
【氏名】富樫 直人
【審査官】関口 貴夫
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-44691(JP,A)
【文献】特開2020-44692(JP,A)
【文献】特開2017-159464(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/00-55/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
搬送されるフィルムを縦横に延伸する延伸装置であって、
無端状の循環経路を画定し前記フィルムの左右両側に配置されるレール装置と、
前記レール装置の前記循環経路を走行し前記フィルムを把持する複数のクリップユニットと、
前記循環経路上で隣接する前記クリップユニットを連結するリンク機構と、
前記クリップユニットを前記循環経路に沿って走行させる駆動機構と、
前記クリップユニットの縦方向のピッチと横方向のピッチとを調整する調整機構と、
前記駆動機構及び前記調整機構の作動を制御すると共に、前記クリップユニットから前記レール装置に作用する負荷を表す負荷データを取得するコントローラと、を備え、
前記クリップユニットは、前記レール装置に係合し前記循環経路に沿った前記クリップユニットの移動を案内するローラ部を有し、
前記駆動機構は、
前記フィルムが供給される入口側において前記フィルムの左右両側に設けられ前記クリップユニットに係合する入口側スプロケットと、
延伸した前記フィルムを送り出す出口側において前記フィルムの左右両側に設けられ前記クリップユニットに係合する出口側スプロケットと、
前記出口側スプロケットを回転駆動する第1駆動ユニットと、
前記入口側スプロケットを回転駆動する第2駆動ユニットと、を有し、
前記コントローラは、前記クリップユニットから前記レール装置に作用する負荷に応じて前記第1駆動ユニット及び前記第2駆動ユニットの少なくとも一方の作動を制御し、
前記レール装置は、
基準レールと、
前記基準レールとの間隔が可変に構成されるピッチ設定レールと、を有し、
前記調整機構は、前記基準レールに対して前記ピッチ設定レールを進退させる調整モータを有し、
前記コントローラは、前記負荷データとして前記調整モータのトルク値を取得し、取得した前記トルク値を第1閾値及び当該第1閾値よりも小さい第2閾値のそれぞれと比較して、前記調整モータの前記トルク値が前記第1閾値を超えた場合には、前記出口側スプロケットと前記入口側スプロケットとの回転速度差の増加又は減少のいずれか一方を実行し、前記調整モータの前記トルク値が前記第2閾値を下回った場合には、前記出口側スプロケットと前記入口側スプロケットとの回転速度差の増加又は減少のいずれか他方を実行する、
延伸装置。
【請求項2】
請求項1に記載の延伸装置であって、
前記ローラ部は、
前記基準レールに係合する第1ローラと、
前記ピッチ設定レールに係合する第2ローラと、を含み、
前記リンク機構は、
一端が前記第2ローラに連結され他端が隣接する前記クリップユニットの前記第1ローラに連結される第1リンク部材と、
一端が前記第1ローラに連結され他端が前記第1リンク部材の前記一端と前記他端との間の中間部に連結される第2リンク部材と、を有する、
延伸装置。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の延伸装置であって、
前記フィルムを把持する前記クリップユニットの個数を計測する個数計測部をさらに備え、
前記コントローラは、前記個数計測部が計測した実際の前記クリップユニットの個数と目標個数との差分に基づいて、前記第1駆動ユニットの作動を制御する、
延伸装置。
【請求項4】
請求項1又は2に記載の延伸装置であって、
前記第1閾値は、正の値を有する閾値であり、前記第2閾値は、負の値を有する閾値である、
延伸装置。
【請求項5】
請求項1又は2に記載の延伸装置であって、
前記調整モータが正方向に回転する場合と逆方向に回転する場合とで、前記第1閾値及び前記第2閾値は、異なる値に設定される、
延伸装置。
【請求項6】
搬送されるフィルムの左右両側に配置され無端状の循環経路を画定するレール装置と、
前記レール装置の前記循環経路を走行し前記フィルムを把持する複数のクリップユニットと、
前記循環経路上で隣接する前記クリップユニットを連結するリンク機構と、
前記クリップユニットに係合する入口側スプロケット及び出口側スプロケットを回転駆動することによって前記クリップユニットを前記循環経路に沿って走行させる駆動機構と、を備える延伸装置のコントローラが実行する、前記フィルムを把持する前記クリップユニットの個数を調整するクリップ個数調整方法であって、
前記クリップユニットから前記レール装置に作用する負荷を表す負荷データを取得するステップと、
前記負荷データに応じて前記出口側スプロケット及び前記入口側スプロケットの少なくとも一方の回転速度を制御するステップと、を備え、
前記レール装置は、
基準レールと、
前記基準レールとの間隔が可変に構成されるピッチ設定レールと、を有し、
前記負荷データは、前記基準レールに対して前記ピッチ設定レールを進退させる調整モータのトルク値であり、
前記出口側スプロケット及び前記入口側スプロケットの少なくとも一方の回転速度を制御するステップでは、前記調整モータの前記トルク値が第1閾値を超えた場合には、前記出口側スプロケットと前記入口側スプロケットの回転速度差の増加又は減少のいずれか一方が実行され、前記調整モータの前記トルク値が前記第1閾値よりも小さい第2閾値を下回った場合には、前記出口側スプロケットと前記入口側スプロケットとの回転速度差の増加又は減少のいずれか他方が実行される、
ことを特徴とするクリップ個数調整方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、延伸装置及びクリップ個数調整方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
特開2012-121259号公報には、シート状物の端部を把持する複数の掴み装置をシート状物の両側に具備した無端リンク装置を備える二軸同時延伸装置が開示されている。
【0003】
この無端リンク装置は、延伸区間において、進行方向に末広がり状に並行して配置された2本の案内用ガイドレールに案内されて、TD方向(末広がり部分の縦方向)に延伸されると共に、MD方向(進行方向)について掴みピッチP1からP2に徐々に拡大する。これにより、シート状物を縦横二方向に同時に延伸する。無端リンク装置は、出口側スプロケットにより駆動されて、入口側スプロケットに戻るように構成される。
【発明の概要】
【0004】
特開2012-121259号公報に記載の延伸装置では、無端リンク装置は、複数のローラによってガイドレールに沿った移動が案内される。また、無端リンク装置は、複数のリンク機構によって構成されており、2つのガイドレールの間隔を変えることでMD方向における掴み装置(クリップユニット)のピッチが変更され、フィルム(シート状物)がMD方向に延伸される。
【0005】
このような延伸装置では、フィルムを延伸する延伸領域にあるクリップユニットの個数を適切に調整することが求められている。例えば、延伸領域のクリップユニットの個数が適切な個数よりも少ない状態では、クリップユニット同士を連結するリンク機構には、クリップユニットのピッチを広げる方向の力が作用する。この力によって、クリップユニットに設けられるローラは、ガイドレールに対して一方向に押し付けられる。ローラからガイドレールに作用する負荷が過大となると、レール装置やクリップユニットの変形等が生じるおそれがある。このような事態を避けるために、延伸領域のクリップユニットの個数を適切に調整する必要がある。
【0006】
延伸領域のクリップユニットの個数の調整は、出口側スプロケットを駆動する電動モータの作動を調整することで行われる。従来では、電動モータのトルク値等を確認しながら作業者が手動で電動モータの作動を調整しており、調整に多くの時間を要するなどの問題があった。
【0007】
本発明は、クリップの個数の調整を容易に行うことが可能な延伸装置を提供することを目的とする。
【0008】
本発明のある態様によれば、搬送されるフィルムを縦横に延伸する延伸装置は、無端状の循環経路を画定しフィルムの左右両側に配置されるレール装置と、レール装置の循環経路を走行しフィルムを把持する複数のクリップユニットと、循環経路上で隣接するクリップユニットを連結するリンク機構と、クリップユニットを循環経路に沿って走行させる駆動機構と、クリップユニットの縦方向のピッチと横方向のピッチとを調整する調整機構と、駆動機構及び調整機構の作動を制御すると共に、クリップユニットからレール装置に作用する負荷を表す負荷データを取得するコントローラと、を備え、クリップユニットは、レール装置に係合し循環経路に沿ったクリップユニットの移動を案内するローラ部を有し、駆動機構は、フィルムが供給される入口側においてフィルムの左右両側に設けられクリップユニットに係合する入口側スプロケットと、延伸したフィルムを送り出す出口側においてフィルムの左右両側に設けられクリップユニットに係合する出口側スプロケットと、出口側スプロケットを回転駆動する第1駆動ユニットと、入口側スプロケットを回転駆動する第2駆動ユニットと、を有し、コントローラは、クリップユニットからレール装置に作用する負荷に応じて第1駆動ユニット及び第2駆動ユニットの少なくとも一方の作動を制御する。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1図1は、本発明の実施形態に係る延伸装置の全体構成を示す平面図である。
図2図2は、本発明の実施形態に係る延伸装置のリンク機構を示す拡大平面図である。
図3図3は、本発明の実施形態に係る延伸装置のレールユニットを示す模式図である。
図4図4は、本発明の実施形態に係る延伸装置のクリップユニットの側面図である。
図5図5は、本発明の実施形態に係る延伸装置のレールユニットを示す模式図であり、クリップ個数が過少の状態を示す図である。
図6図6は、本発明の実施形態に係る延伸装置のレールユニットを示す模式図であり、クリップ個数が過多の状態を示す図である。
図7図7は、本発明の実施形態に係る延伸装置によるピッチの調整方法を示すフローチャート図である。
図8図8は、本発明の実施形態に係る延伸装置によるクリップ個数の調整方法を示すフローチャート図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態に係る延伸装置100について説明する。なお、各図面においては、説明の便宜上、各構成の縮尺を適宜変更しており、必ずしも厳密に図示されたものではない。また、複数の同一の構成については、その一部にのみ符号を付し、その他については符号を省略することがある。
【0011】
まず、図1図6を参照して、延伸装置100の構成について説明する。
【0012】
延伸装置100は、延伸対象であるフィルム(図示省略)を入口側(図1中左側)から出口側(図1中右側)に向けて一方向に搬送しながら、その搬送方向に沿った縦方向(以下、「MD方向」とも称する。)及びMD方向に垂直な横方向(以下、「TD方向」とも称する。)に同時に延伸する、いわゆる同時二軸延伸装置である。なお、以下の説明において、「右側」とは入口側から出口側をみて右側(図1中下側)を指すものとし、「左側」とは入口側から出口側をみて左側(図1中上側)を指すものとする。また、以下の説明では、図1の紙面垂直方向を適宜「上下」とも称する。
【0013】
図1及び図2に示すように、延伸装置100は、無端状の循環経路を画定しフィルムの左右両側に配置される一対のレール装置10L,10Rと、一対のレール装置10L,10Rの循環経路を走行しフィルムを把持する複数のクリップユニットCUと、循環経路上で隣接するクリップユニットCUを連結するリンク機構50と、クリップユニットCUを循環経路に沿って走行させる駆動機構60と、クリップユニットCUの縦方向のピッチと横方向のピッチとを調整する調整機構70と、駆動機構60及び調整機構70の作動を制御するコントローラ80と、を備える。
【0014】
延伸装置100では、左右のレール装置10L,10Rが対向する領域がフィルム搬送エリアTAとして構成される。また、フィルム搬送エリアTAでは、入口側から出口側へ向けて、予熱ゾーンZa、延伸ゾーンZb、熱処理ゾーンZcが順に配置(割り当て)されている。フィルム搬送エリアTAは、加熱炉(図示省略)によって覆われており、ゾーンごとに温度が制御されている。各ゾーンの具体的な構成は、後に説明する。
【0015】
一対のレール装置10L,10Rは、それぞれクリップユニットCUを循環させる循環経路を画定する、対をなす基準レール11とピッチ設定レール12とによって構成される。一対のレール装置10L,10Rでは、それぞれピッチ設定レール12が基準レール11よりも内側にループ状に配置されている。
【0016】
図3は、図1におけるA部を拡大した模式図である。図3に示すように、ループ状に配置される基準レール11及びピッチ設定レール12は、回動自在に連結される複数のレールユニット15と、隣り合うレールユニット15を補完する中間レール部16と、により形成される。つまり、レールユニット15の端部は、それぞれ中間レール部16に回動自在に連結される。このようにして隣り合うレールユニット15同士が中間レール部16を介して互いに回動自在に連結されることで、複数のレールユニット15の配置を変更して、所望の循環経路の形成することができる。
【0017】
ピッチ設定レール12と基準レール11との離間距離が大きいほど、クリップユニットCUのMDピッチが小さくなる。予熱ゾーンZaでは、基準レール11とピッチ設定レール12との離間距離は、全域に亘って一様に最大値(つまり、MDピッチが最小値)になっている。
【0018】
延伸ゾーンZbでは、基準レール11とピッチ設定レール12との離間距離は、延伸開始端(予熱ゾーンZaとの接続端)において最大値で、これより延伸終了端側へ向かうに従って徐々に短くなり、延伸終了端において最小値になっている。つまり、延伸ゾーンZbでは、予熱ゾーンZa側から熱処理ゾーンZcに向かうにつれて、MDピッチが大きくなるように構成されている。
【0019】
熱処理ゾーンZcでは、基準レール11とピッチ設定レール12との離間距離は、全域に亘って一様に最小値になっている。
【0020】
複数のクリップユニットCUは、それぞれ一対のレール装置10L,10Rの基準レール11に案内されてループ状に巡回移動する。クリップユニットCUは、右側のレール装置10Rでは図1中時計回り方向に巡回移動し、左側のレール装置10Lでは反時計回りに巡回移動する。一対のレール装置10L,10Rでは、互いに同数のクリップユニットCUが巡回移動する。
【0021】
クリップユニットCUは、主に図4に示すように、フィルムを把持するクリップ20と、クリップ20を保持するクリップ保持部30と、を有する。
【0022】
クリップ20は、略コの字形状に形成される凹型のヨーク形状を有するクリップ本体21と、クリップ本体21に固定装着された下側固定クリップ部材22と、ピン23によってクリップ本体21に回動可能に取り付けられた可動レバー24と、可動レバー24の下端にピン25によって揺動可能に取り付けられた上側可動クリップ部材26と、を有する。クリップ20は、下側固定クリップ部材22と上側可動クリップ部材26とで、フィルムの側縁を挟み込み式に把持する。
【0023】
クリップ保持部30は、クリップ20を個々に保持するものであり、クリップ20の個数と同数個存在する。クリップ保持部30は、上梁35と、下梁36と、前壁37と、後壁38とによる閉じ断面の剛固なフレーム構造に形成される。クリップ保持部30の両端(前壁37、後壁38)には各々、軸31,32によって走行輪33,34が回転可能に設けられている。走行輪33,34は、レール台110に形成された水平な走行路面111,112上を転動する。走行路面111,112は全域に亘ってレール装置10L,10Rの基準レール11に並行している。
【0024】
各クリップ保持部30の上梁35と下梁36の他端側(後側)には、長孔(長形の穴)39が形成されている。上下の長孔39には各々スライダ40が長孔39の長手方向にスライド可能に係合している。
【0025】
各クリップ保持部30の一端部(クリップ側)の近傍には、上梁35、下梁36を貫通して一本の第1軸部材51が垂直に設けられる。各クリップ保持部30の上下のスライダ40には一本の第2軸部材52が垂直に貫通して設けられている。
【0026】
複数のクリップユニットCUは、図2に示すように、循環経路上で隣接するクリップユニットCUに対してリンク機構50によって無端状に連結される。リンク機構50は、第1リンク部材53と第2リンク部材54とにより構成される。
【0027】
第1リンク部材53は、クリップ保持部30の第1軸部材51に一端が枢動連結され、他端が隣接するクリップ保持部30(本実施形態では、循環の上流側に隣接するクリップ保持部30)の第2軸部材52に枢動連結される。
【0028】
第2リンク部材54は、一端がクリップ保持部30の第1軸部材51に枢動連結され、他端が第1リンク部材53の一端と他端との間の中間部に枢軸55によって枢動連結される。
【0029】
第1リンク部材53及び第2リンク部材54により構成されるリンク機構50によって、スライダ40がクリップ保持部30の他端側(反クリップ側)に移動しているほど、言い換えれば、第1リンク部材53と第2リンク部材54とがなす角度が小さくリンク機構50が閉じられた状態であるほど、クリップ保持部30同士のピッチ(MDピッチ)が小さくなる。反対に、図2に示されているように、スライダ40がクリップ保持部30の一端側(クリップ側)に移動しているほど、言い換えれば、第1リンク部材53と第2リンク部材54とがなす角度が大きくリンク機構50が開かれた状態であるほど、クリップ保持部30同士のピッチが大きくなる。
【0030】
クリップユニットCUは、図4に示すように、第1軸部材51の下端に回転可能に設けられる第1ローラ(ローラ部)としての案内ローラ56と、第2軸部材52の下端に回転可能に設けられる第2ローラ(ローラ部)としてのピッチ設定ローラ57と、を有する。
【0031】
案内ローラ56は、レール台110上に設けられてクリップ20の巡回経路を画定する基準レール11の凹溝11aに係合している。ピッチ設定ローラ57は、レール台110上に設けられてクリップ20の巡回経路を画定するピッチ設定レール12の凹溝12aに係合している。また、第1軸部材51の上端には、駆動ローラ58が回転可能に設けられる。
【0032】
駆動機構60は、図1に示すように、フィルムを供給する入口側に設けられる一対の入口側スプロケット61L,61Rと、延伸したフィルムを送り出す出口側に設けられる一対の出口側スプロケット62L,62Rと、出口側スプロケット62L,62Rを回転駆動する第1駆動ユニット64と、入口側スプロケット61L,61Rを回転駆動する第2駆動ユニット65と、を有する。
【0033】
入口側スプロケット61L,61R及び出口側スプロケット62L,62Rは、それぞれ各クリップ保持部30の駆動ローラ58と選択的に係合し、第1駆動ユニット64及び第2駆動ユニット65によって回転駆動されて各クリップ保持部30に対して巡回経路に沿って走行させる力を付与する。入口側スプロケット61L,61R及び出口側スプロケット62L,62Rは、互いに同一の形状に形成される。なお、入口側スプロケット61L,61R及び出口側スプロケット62L,62Rは、互いに異なる形状であってもよい。
【0034】
第1駆動ユニット64は、左側の出口側スプロケット62Lを回転駆動する第1駆動モータ64Lと、右側の出口側スプロケット62Rを回転駆動する第2駆動モータ64Rと、を有する。第1駆動モータ64Lと第2駆動モータ64Rは、それぞれサーボモータにより構成される。このように左側と右側の出口側スプロケット62L,62Rは、互いに異なる電動モータによって独立して駆動可能に構成される。
【0035】
第2駆動ユニット65は、一対の入口側スプロケット61L,61Rを回転駆動する第3駆動モータ(以下、「第3駆動モータ65」とも称する。)により構成される。第3駆動モータ65は、サーボモータである。第3駆動モータ65の回転が伝達機構(図示省略)によって、一対の入口側スプロケット61L,61Rのそれぞれに伝達される。このように、一対の入口側スプロケット61L,61Rは、共通の電動モータによって駆動される。なお、左右の入口側スプロケット61L,61Rは、互いに回転方向が反対となるように、それぞれ伝達機構によって第3駆動モータ65の回転が伝達される。
【0036】
調整機構70は、左右のレールユニット15間の横方向の間隔を調整する第1調整機構71と、各レールユニット15において基準レール11とピッチ設定レール12との間隔を調整する第2調整機構75と、を有する。
【0037】
第1調整機構71は、図3に示すように、中間レール部16ごとに設けられ、中間レール部16を横方向に進退させる。第1調整機構71は、サーボモータである第1調整モータ72と、第1調整モータ72の回転によって従動子が直線運動するねじ機構73と、を有する。
【0038】
第2調整機構75は、レールユニット15ごとに設けられる。第2調整機構75は、一対の直動機構によって構成される。直動機構は、サーボモータである第2調整モータ76と、第2調整モータ76の回転によって従動子が直線運動するねじ機構77と、を有する。一対の直動機構は、それぞれレールユニット15の両端部に取り付けられる。
【0039】
第2調整モータ76は、ねじ機構77を回転させてピッチ設定レール12を基準レール11に対して進退させることで、基準レール11とピッチ設定レール12との間隔を調整する。第2調整モータ76は、正回転するとピッチ設定レール12を基準レール11に近づくように移動させ、逆回転するとピッチ設定レール12を基準レール11から離れるように移動させる。一対の直動機構における互いの第2調整モータ76の回転位置を異ならせることで、ピッチ設定レール12は基準レール11に対して傾斜する。よって、あるレールユニット15内において基準レール11とピッチ設定レール12と間の間隔が一定ではなく変化するように構成され、これによりMD方向の延伸量が調整される。
【0040】
第2調整モータ76には、第2調整モータ76の回転トルクを検出する検出部としてのトルクセンサ78が設けられる。トルクセンサ78の検出結果は、コントローラ80(図1参照)に入力される。第2調整モータ76のトルク値は、クリップユニットCUからレール装置10L、10Rに作用する負荷を表す負荷データである。
【0041】
また、図1に示すように、延伸装置100の出口部分には、フィルム搬送エリアTA内のクリップ20の個数(以下、単に「クリップ個数」とも称する。)を計測するための個数計測部としての計数センサ81が設けられる。計数センサ81の計測結果はコントローラ80に入力され、クリップユニットCUの移動速度と計数センサ81の計測結果から、クリップ個数が算出される。換言すれば、クリップ個数とは、フィルムを延伸する際にフィルムを実際に把持する左右の片側あたりのクリップ20(クリップユニットCU)の個数を意味する。さらに別の観点からいえば、クリップ個数とは、入口側スプロケット61L,61Rから出口側スプロケット62L,62Rに向かう往路部分であって、延伸装置100の入口と出口との間にあるクリップ20の個数を意味する。
【0042】
コントローラ80は、CPU(中央演算処理装置)、ROM(リードオンリメモリ)、RAM(ランダムアクセスメモリ)、及びI/Oインターフェース(入出力インターフェース)を備えたマイクロコンピュータで構成される。RAMはCPUの処理におけるデータを記憶し、ROMはCPUの制御プログラム等を予め記憶し、I/Oインターフェースは接続された機器との情報の入出力に使用される。コントローラ80は、少なくとも、本実施形態や変形例に係る制御を実行するために必要な処理を実行可能にプログラムされている。なお、コントローラ80は一つの装置として構成されていても良いし、複数の装置に分けられ、各制御を当該複数の装置で分散処理するように構成されていてもよい。
【0043】
コントローラ80は、以下に説明するフィルムの延伸方法及びピッチ調整方法を実行可能となるように、延伸装置100の各構成の作動を制御する。
【0044】
以下、延伸装置100の作用について説明する。
【0045】
まず、延伸装置100によるフィルムの延伸方法について説明する。
【0046】
左側の出口側スプロケット62Lは、第1駆動モータ64Lによって反時計回り方向に、右側の出口側スプロケット62Rは、第2駆動モータ64Rによって時計回り方向にそれぞれ回転駆動される。また、第3駆動モータ65によって、右側の入口側スプロケット61Rは時計回り方向に、左側の入口側スプロケット61Lは反時計回り方向に、それぞれ回転駆動される。左右の出口側スプロケット62L,62Rと入口側スプロケット61L,61Rは、互いに同一の回転速度で回転駆動される。これらのスプロケットに駆動ローラ58が係合することで、クリップ保持部30に走行力が付与される。これにより、クリップユニットCUは、右側の巡回経路を時計回り方向に巡回移動し、左側の巡回経路を反時計回り方向に巡回移動する。
【0047】
より具体的に説明すると、左右の出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を、入口側スプロケット61L,61Rの回転速度に合わせるようにして、出口側スプロケット62L,62Rと入口側スプロケット61L,61Rとが同期制御される。つまり、入口側スプロケット61L,61Rの回転速度を変更すると、それに応じて出口側スプロケット62L,62Rの速度も変更される。フィルムの搬送速度は、主に入口側スプロケット61L,61Rの速度を変更することで、制御される。このように延伸装置100では、入口側スプロケット61L,61Rを制御してフィルムの搬送速度を調整する構成であるため、延伸装置100にフィルムを供給する上流の設備(例えば、フィルム製造装置)とフィルムの搬送速度と合わせやすくなる。
【0048】
なお、出口側スプロケット62L,62Rと入口側スプロケット61L,61Rとが同期制御されるとは、出口側スプロケット62L,62Rと入口側スプロケット61L,61Rとの速度とが実際に一致していることのみを指すものではない。つまり、本実施形態における同期制御とは、出口側スプロケット62L,62Rと入口側スプロケット61L,61Rとの速度を一致させようと制御することを指すものであり、スプロケットの形状差等の理由により、実際には速度にずれが生じた状態も含む。また、出口側スプロケット62L,62Rと入口側スプロケット61L,61Rとは、速度が一致するように同期制御されていなくてもよい。
【0049】
フィルムが取り込まれる入口部において、左右の巡回経路を走行するクリップユニットCUによってフィルムの両側縁が把持される。そして、基準レール11に案内されたクリップ保持部30の移動により、把持されたフィルムがフィルム搬送エリアTAの予熱ゾーンZaに進入する。なお、左右のクリップユニットCUは、互いに対応するクリップユニットCU同士が左右方向に隣接するようにして、フィルムを把持する。つまり、左右のクリップユニットCUは、縦方向にずれて互い違いにフィルムを把持しないように作動が制御される。
【0050】
予熱ゾーンZaでは、左右の循環経路の離間距離(つまり、TDピッチ)がフィルムの初期幅相当に設定されて全域に亘って左右の循環経路が互いに平行に配置される。また、ピッチ設定レール12と基準レール11との離間距離も全域に亘って一様に最大値(MDピッチが最小値)となるように設定されている。よって、予熱ゾーンZaでは、フィルムの横延伸も縦延伸も行われず、フィルムを延伸可能な温度に予熱する処理だけが行われる。
【0051】
フィルムは、予熱ゾーンZaを通過した後、延伸ゾーンZbに進入する。延伸ゾーンZbでは、予熱ゾーンZaの側から熱処理ゾーンZcに向かうに従って左右の循環経路の離間距離が徐々に拡大されている。つまり、延伸ゾーンZbでは、左右の循環経路は、入口側から出口側に向けて間隔が広がる末広がり状に設けられる。よって、延伸ゾーンZbでは、クリップ保持部30同士の横方向の間隔(TDピッチ)が徐々に大きくなる。また、延伸ゾーンZbでは、ピッチ設定レール12と基準レール11との離間距離が予熱ゾーンZaの側から熱処理ゾーンZcに向かうに従って徐々に短くなっている。このため、延伸ゾーンZbをクリップユニットCUが走行すると、クリップユニットCUのピッチ設定ローラ57がピッチ設定レール12によって案内されて基準レール11に向けて移動し、その結果、スライダ40がクリップ保持部30の一端側(クリップ側)に移動する。よって、クリップ保持部30同士の縦方向の間隔(MDピッチ)が徐々に大きくなる。従って、延伸ゾーンZbでは、フィルムは、TD方向の延伸(横延伸)と同時にMD方向の延伸(縦延伸)が行われる。
【0052】
延伸ゾーンZbを通過して横延伸と縦延伸の同時二軸延伸されたフィルムは、続いて熱処理ゾーンZcに進入する。熱処理ゾーンZcでは、左右の循環経路の離間距離が延伸されたフィルムの幅相当に設定されて全域に亘って左右の循環経路が互いに平行に配置されており、ピッチ設定レール12と基準レール11との離間距離も全域に亘って一様に最小値(MDピッチが最大値)になっている。従って、熱処理ゾーンZcでは、フィルムの横延伸も縦延伸も行われず、温度調整等の熱処理だけが行われる。
【0053】
熱処理ゾーンZcの終端の出口では、左右のクリップ20によるフィルムの把持が解放され、フィルムは直進する。クリップ保持部30は基準レール11に案内されてループ状に巡回移動する。
【0054】
以上のようにして、入口側から供給されたフィルムが縦横の二方向に同時に延伸されて出口側から送り出される。
【0055】
次に、TDピッチ及びMDピッチの調整方法について説明する。
【0056】
延伸装置100では、TDピッチ及びMDピッチを調整することで、横方向の延伸量と縦方向の延伸量とを変更することができる。
【0057】
TDピッチを調整するには、延伸ゾーンZbにある各中間レール部16を第1調整機構71によって移動させて、左右のレールユニット15の間隔を変更する。また、MDピッチを調整するには、延伸ゾーンZbにあるレールユニット15の第2調整機構75によって基準レール11とピッチ設定レール12との間隔を変更する。これにより、ピッチ設定レール12に案内されるピッチ設定ローラ57と基準レール11に案内される基準レール11との間隔が変更され、スライダ40(図4参照)が移動して、MDピッチが変更される。
【0058】
ここで、延伸装置100では、クリップユニットCUのTDピッチ及びMDピッチに応じて、適切なクリップ個数が異なる。実際のクリップ個数と適切なクリップ個数とに差が生じると、クリップユニットCUからレールユニット15に負荷が作用する。
【0059】
具体的には、設定されるTDピッチ及びMDピッチに対してクリップ個数が適切である(実際のクリップ個数=適切なクリップ個数)の場合には、クリップユニットCUのピッチ設定ローラ57は、レールユニット15のピッチ設定レール12に対して接触しないか、接触したとしても比較的小さな力で接触する。
【0060】
図5にはクリップ個数が適切な個数よりも少ない場合を示し、図6にはクリップ個数が適切な個数よりも多い場合を示している。なお、図5及び図6では、リンク機構50等を簡略化して図示している。
【0061】
図5に示すように、クリップ個数が適切な個数よりも少ない場合には、少ない個数のクリップユニットCUによって、設定されたTD方向及びMD方向のピッチを実現しようとすることになるため、クリップユニットCUにはMD方向のピッチを大きくする方向への力が作用する。よって、クリップ個数が過少の状態では、図5中矢印で示すように、ピッチ設定ローラ57が、左右方向でフィルムに近づくようにフィルム側(延伸装置100の左右中央側)に向かってピッチ設定レール12に押し付けられる。
【0062】
反対に、クリップ個数が適切な個数よりも多い場合には、クリップユニットCUにはMD方向のピッチを小さくする方向への力が作用する。よって、クリップ個数が過大の状態では、図6中矢印で示すように、ピッチ設定ローラ57は、フィルムから離れるように左右方向の反フィルム側に向かってピッチ設定レール12に押し付けられる。
【0063】
このようにしてピッチ設定ローラ57がピッチ設定レール12に押し付けられることで、ピッチ設定ローラ57やピッチ設定レール12に変形が生じ、クリップユニットCUのピッチの調整の精度が低下するおそれがある。特に、ピッチ設定ローラ57がピッチ設定レール12に押し付けられた状態でピッチ設定レール12を移動させてMDピッチを調整しようとすると、第2調整モータ76やねじ機構77を有する第2調整機構75に対しても大きな負荷が生じ、機械寿命が低下するおそれがある。
【0064】
そこで、延伸装置100では、このような事態を回避するために、クリップ個数を適切なものとなるように調整しつつ、TD方向及びMD方向のピッチが調整される。なお、延伸装置100では、ピッチの調整とクリップ個数の調整とのそれぞれにおいて、左右が互いに同期するように、駆動機構60及び調整機構70が制御される。
【0065】
具体的には、延伸装置100では、クリップユニットCUからレール装置10L,10Rに作用する負荷を第2調整機構75の第2調整モータ76のトルク値Tによって検出し、トルク値Tに応じてクリップ個数を調整する。クリップ個数は、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を一時的に増減することで調整することができる。言い換えれば、同じ速度で回転する入口側スプロケット61L,61Rに対して出口側スプロケット62L,62Rの位相を変えることで、クリップ個数が調整される。
【0066】
より詳しく説明すると、延伸装置100では、トルク値Tと予め定められる第1閾値及び第2閾値とを比較して、クリップ個数が過少又は過多であるかを判定し、適切なクリップ個数となるように出口側スプロケット62L,62Rの作動を制御する。なお、延伸装置100では、左右の各第2調整機構75のいずれかの第2調整モータ76のトルク値Tのみが第1閾値を上回る、又は、第2閾値を下回る場合であっても、左右の出口側スプロケット62L,62Rの両方の作動を同じように制御する。
【0067】
第2調整モータ76のトルク値Tは、正負を有する値として取得される。本実施形態では、第2調整モータ76が逆回転する(言い換えれば、ピッチ設定レール12を基準レール11から離間させる)方向のトルクを正のトルク値Tとする。
【0068】
第1閾値は、正の値を有する閾値であり、第2閾値は負の値を有する閾値である。第1閾値とは、クリップ個数が過少かどうかを判定するための閾値であり、第2閾値とは、クリップ個数が過多かどうかを判定するための閾値である。以下では、第1閾値を「+T1」、第2閾値を「-T2」とする。
【0069】
第1閾値+T1及び第2閾値-T2の技術的意義について、クリップ個数が過少の場合を例に説明する。
【0070】
第2調整モータ76は、コントローラ80から指令される回転位置となるように作動が制御される。クリップ個数が適切な範囲内にある場合には、第2調整モータ76は、指令される回転位置とするための機械的損失(メカロス)分のトルク(以下、メカロス分のトルク値Tを「メカロストルクT0」とする。)を発生する。メカロストルクT0は、第2調整モータ76を回転させてピッチ設定レール12を駆動するために生じるトルクであり、第2調整モータ76が逆回転する際は+T0、正回転する際は-T0のメカロストルクが生じる。つまり、クリップ個数が適切な範囲にある場合には、第2調整モータ76が発生するトルク値Tは、+T0から-T0の範囲内となる(+T0≧T≧-T0)。
【0071】
クリップ個数が過少の場合には、クリップユニットCUはフィルム側(図5中下方向)に向けてレールユニット15に押し付けられる。ピッチ設定レール12は、クリップユニットCUのピッチ設定ローラ57から受ける押し付け力によって基準レール11に近づく方向に押圧される。この押し付け力は、正回転させる方向のトルクとしてねじ機構77を介して第2調整モータ76に作用する。
【0072】
よって、回転位置の指令が変化しない限り、第2調整モータ76は、クリップユニットCUから受ける押し付け力によってピッチ設定レール12が基準レール11に向けて移動しないように(ピッチ設定レール12を保持するように)作動が制御される。つまり、第2調整モータ76は、メカロストルクT0に加えて、押し付け力によって生じる正回転する方向のトルクに抗するように、逆回転する方向のトルクを発生する。これにより、第2調整モータ76は、所定の回転位置とするために、メカロストルク+T0から-T0の範囲を超えたトルクを発生するようになる。クリップ個数が過少の状態では、第2調整モータ76は逆回転する方向のトルク、つまり、正のトルクを発生させるため、正の閾値である第1閾値+T1とトルク値Tを比較することで、クリップ個数の過少を判定することができる。
【0073】
反対に、クリップ個数が過多の場合には、クリップユニットCUからレールユニット15に作用する押し付け力の方向が反対となるため、押し付け力に抗するように第2調整モータ76が発生するトルクの向きも反対となる。よって、負の閾値である第2閾値-T2は、クリップ個数の過多を判定する閾値となる。
【0074】
このように、正の閾値である第1閾値+T1は、クリップ個数が過少かどうかを判定するためのものであり、負の閾値である第2閾値-T2は、クリップ個数が過多かどうかを判定するためのものである。第1閾値+T1はメカロストルク+T0よりも大きな値であり、第2閾値-T2はメカロストルク-T0よりも小さな値である。
【0075】
以下、図7及び8に示すフローチャート図を参照して、延伸装置100におけるクリップユニットCUのTD方向及びMD方向のピッチ調整方法について具体的に説明する。
【0076】
TD方向及びMD方向のピッチ調整は、フィルムを延伸装置100に供給しない状態で実行される。これにより、ピッチ調整において、フィルムのロスを低減し、省エネ化することができる。また、フィルムが延伸装置100に供給されていないこと検出するセンサを設け、当該センサによってフィルムが供給されていないことが検出されると、TD方向及びMD方向のピッチ調整が実行されるように構成してもよい。なお、TD方向及びMD方向のピッチ調整は、フィルムを延伸装置100に供給しない状態で実行されるものに限定されない。
【0077】
また、TD方向及びMD方向のピッチ調整は、フィルム搬送領域が昇温されていない状態で行われる。これにより、ピッチ調整において省エネ化することができる。また、この場合には、例えば、温度センサやヒータのON-OFF信号に基づいてフィルム搬送領域が昇温されていないことが検出されると、TD方向及びMD方向のピッチ調整が実行されるように構成してもよい。なお、TD方向及びMD方向のピッチ調整は、フィルム搬送領域が昇温されていない状態で行われるものに限定されない。
【0078】
コントローラ80は、作業者によってピッチの設定条件が入力され、自動調整ボタン(図示省略)が押下されると、図7に示す処理を実行する。
【0079】
図7に示す処理では、ステップS10~S18において、TDピッチ及びMDピッチの調整(自動拡縮)が実行される。自動拡縮では、ステップS10~S13において先にTD方向のピッチを調整し、その後ステップS14~S17においてMD方向のピッチが調整される。ステップS19~S21では、クリップ個数の最終調整(個数合わせ)が実行される。以下、各ステップについて具体的に説明する。
【0080】
ステップS10では、作業者が設定した条件に基づいて、TD方向の拡縮の条件を設定する。具体的には、作業者が設定した条件となるTDピッチを算出し、そのTDピッチを実現する延伸ゾーンZbの各第1調整モータ72の回転位置を算出する。そして、ステップS11において、算出した回転位置となるように、各第1調整モータ72のドライバ(図示省略)に通電指令を送信し、第1調整モータ72を駆動する。
【0081】
ステップS12では、ステップS11において第1調整モータ72を駆動してTDピッチを調整するのと並行して、クリップ個数の調整処理を実行する。クリップ個数調整処理は、ステップS11で設定された条件となる回転位置まで第1調整モータ72が駆動される間、第2調整モータ76のトルクを監視してクリップ個数を調整する処理である。クリップ個数調整処理は、後に詳細に説明する。第1調整モータ72がステップS10で算出された回転位置まで駆動され、ステップ13のクリップ個数調整処理が完了すると、TD方向の調整が完了する(ステップS13)。
【0082】
次に、ステップS14では、作業者が設定した条件に基づいて、MD方向の拡縮の条件を設定する。具体的には、作業者が設定した条件となるMDピッチを算出し、そのMDピッチを実現する延伸ゾーンZbの各第2調整モータ76の回転位置を算出する。そして、ステップS15において、算出した回転位置となるように、各第2調整モータ76のドライバに通電指令を送信し、第2調整モータ76を駆動する。算出した回転位置まで第2調整モータ76が駆動されるまでの間、クリップ個数調整処理が実行される(ステップS16)。算出した回転位置まで第2調整モータ76が駆動され、ステップS16の個数調整処理が完了すると、MD方向の調整が完了する(ステップS17)。なお、ステップS16のクリップ個数調整処理は、ステップS12のクリップ個数調整処理と同様のものである。また、第2調整モータ76は、算出された回転位置に達した後は、再びその回転位置を維持するように制御される。
【0083】
このようにしてTDピッチ及びMDピッチの両方が調整されると、自動拡縮を完了する(ステップS18)。
【0084】
ここで、ステップS12及びS16におけるクリップ個数調整処理について、図8を参照して説明する。上述のように、ステップS12及びS16は、TDピッチを調整中であるか、MDピッチを調整中であるか、という実行するタイミングが異なるのみである。
【0085】
図8に示すように、クリップ個数調整処理では、まず、ステップS30において、各第2調整モータ76のトルクセンサ78から負荷データとしてのトルク値Tを取得する。
【0086】
ステップS31及びS33では、ステップS30で取得したトルク値Tと予め定められる閾値(第1閾値+T1、第2閾値-T2)とを比較する。
【0087】
ステップS31では、取得した第2調整モータ76のトルク値Tが、第1閾値+T1以下であるかを判定する。トルク値Tが第1閾値+T1を上回っている場合には、上述のようにクリップ個数が過少の状態であるため、ステップS32において、出口側スプロケット62L,62Rを一時的に減速するように第1駆動モータ64Lの作動を制御する。これにより、クリップ個数が増加され、クリップ個数の増加に伴ってピッチ設定レール12に作用する負荷(言い換えれば、第2調整モータ76のトルク値Tの絶対値)が減少する。トルク値Tが第1閾値+T1以下である場合には、ステップS33に進む。
【0088】
ステップS33では、第2調整モータ76のトルク値Tが、第2閾値-T2以上であるかを判定する。トルク値Tが第2閾値-T2を下回っている場合には、クリップ個数が過多の状態であるため、ステップS34において出口側スプロケット62L,62Rを一時的に加速するように第1駆動モータ64L及び第2駆動モータ64Rの作動を制御する。これにより、クリップ個数が減少され、クリップ個数の減少に伴ってピッチ設定レール12に作用する負荷(言い換えれば、第2調整モータ76のトルク値Tの絶対値)が減少する。トルク値Tが第2閾値-T2以上である場合には、ステップS35に進む。
【0089】
ステップS35では、第1調整モータ72又は第2調整モータ76が指令された回転位置まで駆動されたか、言い換えれば、作業者が設定した条件となるTDピッチ・MDピッチが実現されたかを判定する。設定されたピッチが実現されていなければ、ステップS35からステップS30に戻り、ステップS30からの処理を再び実行する。設定されたピッチが実現されていれば、クリップ個数調整処理を完了し、図7に示すステップS13又はS16にリターンする。このように、図8のステップS30~S35で示す処理は、設定されたTDピッチ又はMDピッチを実現するように第1調整モータ72又は第2調整モータ76が駆動される間、並列して実行される。
【0090】
以上のようにして、第2調整モータ76のトルク値が閾値を超えないようクリップ個数を調整しつつ、TDピッチ及びMDピッチが所望のピッチに調整された後には、図7に示すステップS19~S21において、クリップ個数の個数合わせが行われる。
【0091】
ステップS19では、クリップ個数の計測が行われる。ステップS20では、作業者によって個数合わせボタンが押下されたかを判定する。
【0092】
個数合わせボタンが押下されると、ステップS21に進み、クリップ個数の自動調整が行われる。具体的には、ステップS19で計測されたクリップ個数が、ステップS10で設定した条件から算出される目標個数に合致しているかを判定し、合致していない場合には、計測されるクリップ個数が目標個数となるように、クリップ個数と目標個数の差分に応じて第1駆動モータ64L及び第2駆動モータ64Rの回転速度を一時的に増減速する。これにより、クリップ個数が目標個数となるように調整される。クリップ個数が調整されると、処理を終了する。
【0093】
ステップS21で示すクリップ個数の個数合わせについて、詳細に説明する。
【0094】
クリップ個数と第1駆動モータ64L及び第2駆動モータ64Rとの回転との関係は、各構成の仕様等から予め把握することができる。つまり、入口側スプロケット61L,61Rに対して出口側スプロケット62L,62Rをどの程度進角又は遅角させると、クリップ個数がどの程度増減するかといった関係性は、予め把握されている。よって、例えば、実際のクリップ個数が設定個数よりも多い場合には、個数の差分に対応する角度分だけ所定の時間をかけて出口側スプロケット62L,62Rを進角させる。つまり、一時的に出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を増加させる。これにより、クリップユニットCUが一時的に早く出口側スプロケット62L,62Rを通過して延伸領域から排出されるため、クリップ個数は減少する。なお、クリップ個数の調整が行われた後は、入口側スプロケット61L,61Rと出口側スプロケット62L,62Rとは、再び同期して同じ速度で回転する。
【0095】
その反対に、実際のクリップ個数が設定個数よりも少ない場合には、個数の差分に対応する角度分だけ出口側スプロケット62L,62Rを遅角させる(一時的に速度を減少させる)。これにより、クリップユニットCUが一時的に遅く出口側スプロケット62L,62Rを通過して延伸領域から排出されるため、クリップ個数は増加する。このようにして、クリップ個数が調整されて、処理を終了する。
【0096】
なお、ステップS21で示す個数合わせは、フィルム搬送領域内の温度が実際に延伸する際の温度で安定した状態で行うことが望ましい。これによれば、クリップユニットCU等の熱膨張の影響を排除して、クリップ個数を調整することができる。
【0097】
以下、本実施形態の作用効果について説明する。
【0098】
搬送されるフィルムを縦横に延伸する延伸装置100は、無端状の循環経路を画定しフィルムの左右両側に配置される一対のレール装置10L,10Rと、一対のレール装置10L,10Rの循環経路を走行しフィルムを把持する複数のクリップユニットCUと、循環経路上で隣接するクリップユニットCUを連結するリンク機構50と、クリップユニットCUを循環経路に沿って走行させる駆動機構60と、クリップユニットCUの縦方向のピッチと横方向のピッチとを調整する調整機構70と、駆動機構60及び調整機構70の作動を制御するコントローラ80と、クリップユニットCUからレール装置10L,10Rに作用する負荷を検出する検出部(トルクセンサ78)と、を備え、クリップユニットCUは、レール装置10L,10Rに係合し循環経路に沿ったクリップユニットCUの移動を案内するローラ部(案内ローラ56、ピッチ設定ローラ57)を有し、駆動機構60は、フィルムが供給される入口側においてフィルムの左右両側に設けられクリップユニットCUに係合する一対の入口側スプロケット61L,61Rと、延伸したフィルムを送り出す出口側においてフィルムの左右両側に設けられクリップユニットCUに係合する一対の出口側スプロケット62L,62Rと、出口側スプロケット62L,62Rを回転駆動する第1駆動ユニット64と、入口側スプロケット61L,61Rを回転駆動する第2駆動ユニット65と、を有し、コントローラ80は、検出部が検出したクリップユニットCUからレール装置10L,10Rに作用する負荷に応じて第1駆動ユニット64の作動を制御する。
【0099】
また、延伸装置100のコントローラ80が実行するクリップ個数調整方法は、循環経路を走行するクリップユニットCUからレール装置10L、10Rに作用する負荷の大きさを表す負荷データを取得するステップと、負荷データに応じて出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を制御するステップと、を備える。
【0100】
このような延伸装置100及びクリップ個数調整方法では、クリップユニットCUからレール装置10L,10Rに作用する負荷に応じて、コントローラ80が第1駆動ユニット64の作動を制御することで、フィルムを把持するクリップユニットCUの個数が調整される。よって、作業者による手動調整が不要となり、クリップ個数の調整を容易に行うことができる。
【0101】
また、延伸装置100では、レール装置10L,10Rは、基準レール11と、基準レール11との間隔が可変に構成されるピッチ設定レール12と、を有し、ローラ部は、基準レール11に係合する第1ローラ(案内ローラ56)と、ピッチ設定レール12に係合する第2ローラ(ピッチ設定ローラ57)と、を含み、リンク機構50は、一端が第2ローラに連結され他端が隣接するクリップユニットCUの第1ローラに連結される第1リンク部材53と、一端が第1ローラに連結され他端が第1リンク部材53の一端と他端との間の中間部に連結される第2リンク部材54と、を有し、調整機構70は、基準レール11に対してピッチ設定レール12を進退させる調整モータ(第2調整モータ76)を有する。
【0102】
また、延伸装置100では、検出部は、調整モータのトルク値Tを検出するトルクセンサ78であり、コントローラ80は、調整モータのトルク値Tが正の値である第1閾値+T1を超えた場合には、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度の増加又は減少のいずれか一方を実行し、調整モータのトルク値Tが負の値である第2閾値-T2を下回った場合には、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度の増加又は減少のいずれか他方を実行する。
【0103】
また、クリップ個数調整方法では、負荷データは、調整モータのトルク値であり、出口側スプロケットの回転速度を制御するステップでは、調整モータのトルク値が正の値である第1閾値+T1を超えた場合には、出口側スプロケットの回転速度の増加又は減少のいずれか一方が実行され、調整モータのトルク値が負の値である第2閾値-T2を下回った場合には、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度の増加又は減少のいずれか他方が実行される。
【0104】
このような延伸装置100では、第1閾値+T1及び第2閾値-T2の2つの閾値を用いることで、クリップ個数が過少であるか否かと過多であるか否かとを判定することができる。よって、クリップ個数をより精度よく適切な個数に調整することができる。
【0105】
また、延伸装置100は、フィルムを把持するクリップユニットCUの個数を計測する個数計測部(計数センサ81)をさらに備え、コントローラ80は、個数計測部が計測した実際のクリップユニットCUの個数と目標個数との差分に基づいて、第1駆動ユニット64の作動を制御する。
【0106】
このような延伸装置100では、実際のクリップユニットCUの個数を計測したうえで第1駆動ユニット64の作動を制御して個数を調整するため、フィルムを把持するクリップユニットCUをより確実に目標個数とすることができる。
【0107】
以上、本発明の実施形態について説明したが、上記実施形態は本発明の適用例の一部を示したに過ぎず、本発明の技術的範囲を上記実施形態の具体的構成に限定する趣旨ではない。
【0108】
上記実施形態では、左右の出口側スプロケット62L,62Rは、互いに同期して回転駆動される。これに対し、左右の出口側スプロケット62L,62Rは、互いに独立して回転駆動されてもよい。この場合、右側の第2調整モータ76のトルク値Tに応じて右側のクリップ個数を調整し、左側の第2調整モータ76のトルク値Tに応じて左側のクリップ個数を調整するようにしてもよい。つまり、クリップ個数の調整を左右で独立して実行してもよい。
【0109】
また、上記実施形態では、左右のクリップユニットCUは、互いに対応するクリップユニットCU同士が左右方向に並ぶようにして、巡回経路を走行する。また、同一の縦方向の位置で比較した場合、右側のクリップユニットCUと左側のクリップユニットCUのMDピッチは、互いに同一である。これに対し、MDピッチは、左右で異なっていてもよい。つまり、互いに対応する左右のクリップユニットCU同士が左右方向に並ばずに、縦方向にずれていてもよい。左右のMDピッチを異ならせることで、フィルムを斜め方向(図1に示す平面において、縦方向及び横方向のいずれにも傾斜する方向)に延伸することができる。
【0110】
また、上記実施形態では、熱処理ゾーンZcでは、縦方向にも横方向にも延伸されない。これに対し、熱処理ゾーンZcでは、MDピッチを減少させて、フィルムをMD方向に収縮させるように構成してもよい。これにより、クリップ20が把持するフィルムの左右の縁部に比べて、フィルムの左右中央部分の延伸量が小さくなってくびれる(言い換えれば、フィルムの左右の縁部が中央部分よりも搬送方向へ突出する)ような、いわゆるボーイング現象の発生を抑制することができる。
【0111】
また、上記実施形態では、TD方向とMD方向の両方のピッチを調整する場合を説明したが、延伸装置100は、TD方向及びMD方向のいずれかのみのピッチを調整することも可能である。この場合には、調整しない方向に応じた処理(図7に示すステップS10~S13、又は、ステップS14~S17)を省略すればよい。
【0112】
また、上記実施形態では、検出部は、第2調整モータ76のトルクセンサ78であり、第2調整モータ76のトルク値が負荷データとして利用される。これに対し、負荷データは、第2調整モータ76のトルク値に限定されるものではなく、検出部も、トルクセンサ78に限定されるものではない。例えば、トルクセンサ78を設けずに、第2調整モータ76に入力される電圧値、電流値、及び周波数等に基づいて算出される負荷トルクを第2調整モータ76のトルク値としてもよい。また、トルク値ではなく、第2調整モータ76への電流値を負荷データとして用いてもよい。また、トルクセンサ78に代えて検出部として荷重センサを設け、ピッチ設定ローラ57からピッチ設定レール12に作用する負荷を負荷データとして荷重センサが検出する構成でもよい。また、検出部として変位センサを設け、ピッチ設定ローラ57からピッチ設定レール12に作用する負荷によるピッチ設定レール12の撓み(変形)を負荷データとして変位センサが検出する構成でもよい。
【0113】
また、上記実施形態では、第2調整モータ76が逆回転する(ピッチ設定レール12を基準レール11から離間させる)トルクを正のトルク値として説明した。これに対し、トルク値の正負の設定は、上記構成に限らず、任意に設定してよい。これに応じて、第1閾値及び第2閾値についても、正負は任意設定できる。また、第1閾値及び第2閾値の大きさ(絶対値)も、クリップ個数が適切である正常時にクリップ個数の調整が実行されない限り、任意に設定できる。つまり、延伸装置100では、クリップ個数が過少であるかを判定するための閾値と、過多であるかを判定するための閾値と、を設定し、クリップ個数の多少に応じてクリップ個数が適切となるように出口側スプロケット62L,62Rの作動を制御することが望ましい。このように構成される限りは、トルク値の設定や閾値の具体的内容は、上記実施形態に限定されるものではない。
【0114】
例えば、上記実施形態とは反対に、第2調整モータ76が正回転する(ピッチ設定レール12を基準レール11に近づける)方向のトルクを正のトルク値とした場合、正の値である第1閾値+T1はクリップ個数が過多であるかを判定する閾値を意味し、負の値である第2閾値-T2はクリップ個数が過少であるかを判定する閾値を意味する。この場合には、第2調整モータ76のトルク値が第1閾値+T1を超えると、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を増加させ、第2調整モータ76のトルク値が第2閾値-T2を下回ると、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を減少させるように制御すればよい。この場合でも、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。つまり、トルク値の正負の設定の仕方によって、第1閾値+T1と第2閾値-T2とが有する意味合いが入れ替わる。これに応じて、第2調整モータ76のトルク値が第1閾値+T1を超えた場合に出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を増加させるか又は減少させるか、また、第2閾値-T2を下回った場合に出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を減少させるか又は増加させるか、がそれぞれ入れ替わる。よって、コントローラ80は、第2調整モータ76のトルク値Tが正の値である第1閾値+T1を超えた場合には、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度の増加又は減少のいずれか一方を実行し、第2調整モータ76のトルク値Tが負の値である第2閾値-T2を下回った場合には、出口側スプロケット62L,62Rの回転速度の増加又は減少のいずれか他方を実行するように構成されることが望ましい。
【0115】
また、上記実施形態では、第2調整モータ76が正方向に回転する場合と逆方向に回転する場合とで、第1閾値+T1及び第2閾値-T2は、共通である。これに対し、第2調整モータ76が正方向に回転する場合と逆方向に回転する場合とで、それぞれ異なる第1閾値+T1及び第2閾値-T2を設定してもよい。例えば、第2調整モータ76を回転させてピッチ設定レール12を移動させるメカロスが大きい場合には、第2調整モータ76が正方向に回転する場合の第1閾値+T1及び第2閾値-T2と、逆方向に回転する場合の第1閾値+T1及び第2閾値-T2と、をそれぞれ個別に設定することが望ましい。
【0116】
メカロスの大きさ(絶対値)が小さい場合、第2調整モータ76が正回転する場合と逆回転する場合とでは、閾値(第1閾値+T1、第2閾値-T2)とメカロストルク(+T0、-T0)との差分に大きな差が生じない。つまり、第1閾値+T1を例に説明すると、第1閾値+T1と第2調整モータ76が正回転する場合のメカロストルク-T0と差(+T1+T0)と、第1閾値+T1と第2調整モータ76が逆回転する場合のメカロストルク+T0との差(+T1-T0)は、大きく変わらない。このため、上記実施形態のように、第2調整モータ76の回転方向によらず、第1閾値+T1と第2閾値-T2とを共通で使用しても、クリップ個数の調整の大きな影響は生じない。
【0117】
一方、メカロスが大きいと、第2調整モータ76が正回転する場合と逆回転する場合とでは、閾値とメカロストルクとの差分に比較的大きな差が生じる。このため、第2調整モータ76の回転方向によらず第1閾値+T1及び第2閾値-T2を共通にすると、第2調整モータ76が逆回転する場合は、第1閾値+T1とメカロストルク+T0との差分が比較的小さいため、クリップ個数が少しだけ過多となってもクリップ個数調整処理が実行される。一方、第2調整モータ76が正回転する場合は、第1閾値+T1とメカロストルク-T0との差分が相対的に大きくなる。このため、第2調整モータ76が正回転する場合、クリップ個数調整処理は、逆回転する場合と同じ数だけクリップ個数が過多となっても実行されず、より多くクリップ個数が過多とならないと実行されない。このように、第2調整モータ76が正方向に回転する場合と逆方向に回転する場合とで第1閾値+T1及び第2閾値-T2を共通にすると、同じ個数だけ過多又は過少であるにもかかわらず、第2調整モータ76の回転方向によってクリップ個数が調整されたり、されなかったりする可能性がある。つまり、第2調整モータ76の回転方向によって、クリップ個数が調整されるタイミングが異なることがある。
【0118】
これに対し、第2調整モータ76の回転方向に対してそれぞれ第1閾値+T1及び第2閾値-T2を設定する(つまり、正回転用の第1閾値+T1及び第2閾値-T2と、逆回転用の第1閾値+T1及び第2閾値-T2と、の計4つの閾値を設定する)ことで、クリップ個数が過多又は過少となる量が同じであれば、第2調整モータ76の回転方向によらず、同じタイミングでクリップ個数が調整されるように構成することができる。例えば、第1閾値+T1と第2閾値-T2とは、それぞれメカロストルク+T0,-T0に対して所定のトルク値Tdを増減(T1=±T0+Td、T2=±T0-Td)したものとして設定すればよい。これにより、クリップ個数の制御が実行されるタイミングを一定にできるので、安定してクリップ個数の調整を行うことができる。
【0119】
また、第2調整モータ76の回転方向に応じて第1閾値及び第2閾値をそれぞれ個別に設定する場合、第1閾値と第2閾値とは、正負が同じに設定されてもよい。具体的に説明すると、例えば、第1閾値が正の値の閾値として設定され、第2閾値が第1閾値よりも小さい正の値の閾値として設定されてもよい。このように、第2閾値は、第1閾値との正負の異同に関わらず、第1閾値よりも小さい値として設定される。この場合、第2調整モータ76のトルク値Tが、第1閾値と第2閾値との間の範囲内にあるときは、上記実施形態と同様に、クリップ個数の調整は行われない。第2調整モータ76のトルク値Tが、第1閾値を上回ると、クリップ個数が過少の状態であるとして、出口側スプロケット62L,62Rを一時的に減速させてクリップ個数が増加される。第2調整モータ76のトルク値Tが、第2閾値を下回ると、クリップ個数が過多の状態であるとして、出口側スプロケット62L,62Rを一時的に加速させてクリップ個数が減少される。このように、第1閾値と第2閾値とを正負が同じ閾値として設定しても、上記実施形態と同様の作用効果を奏する。また、第1閾値及び第2閾値のいずれかが、ゼロとして設定されてもよい。
【0120】
また、上記実施形態では、入口側スプロケット61L,61Rは、共通の第3駆動モータ65によって駆動される。これに対し、左右の入口側スプロケット61L,61Rは、互いに異なる電動モータによって独立して駆動されてもよい。つまり、第2駆動ユニット65は、左側の入口側スプロケット61Lを駆動する電動モータと、右側の入口側スプロケット61Rを駆動する電動モータと、を有していてもよい。
【0121】
また、上記実施形態では、入口側スプロケット61L,61R及び出口側スプロケット62L,62Rが回転駆動されクリップユニットCUが循環経路を走行している状態で出口側スプロケット62L,62Rの作動を制御することで、クリップ個数を調整する。これに対し、第1駆動ユニット64及び第2駆動ユニット65の作動を停止して、循環経路上のクリップユニットCUの走行を停止した状態でクリップ個数を調整するようにしてもよい。つまり、図7に示すステップS10~S18及び図8に示すステップS30~S35の処理は、第1駆動ユニット64及び第2駆動ユニット65の作動を停止した状態で実行するものでもよい。
【0122】
また、上記実施形態では、第1駆動ユニット64の作動を制御して出口側スプロケット62L,62Rの回転速度を一時的に増加又は減少させることで、クリップ個数を調整する。これに対し、第2駆動ユニット65の作動を制御して入口側スプロケット61L,61Rの回転速度を一時的に増加又は減少させることで、クリップ個数を調整してもよい。また、入口側スプロケット61L,61Rと出口側スプロケット62L,62Rとの両方の回転速度を制御して、クリップ個数を調整してもよい。つまり、入口側スプロケット61L,61R及び出口側スプロケット62L,62Rの少なくとも一方の作動を制御することでクリップ個数は調整可能である。いずれの場合であっても、入口側スプロケット61L,61Rと出口側スプロケット62L,62Rとは、互いの回転速度差が一時的に大きくなるように作動が制御されるとクリップ個数は減少し、回転速度差が一時的に小さくなるように制御されるとクリップ個数は減少する。
【0123】
本願は2020年4月22日に日本国特許庁に出願された特願2020-76181に基づく優先権を主張し、この出願の全ての内容は参照により本明細書に組み込まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8