(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】筋金棒体の製造方法およびこれに使用する浸漬器
(51)【国際特許分類】
B29C 70/52 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
B29C70/52
(21)【出願番号】P 2021205638
(22)【出願日】2021-12-20
【審査請求日】2021-12-20
(31)【優先権主張番号】P 2020218104
(32)【優先日】2020-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000211857
【氏名又は名称】中川産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】中川 裕茂
(72)【発明者】
【氏名】中川 敬章
【審査官】▲高▼橋 理絵
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-251378(JP,A)
【文献】特開2000-254978(JP,A)
【文献】特開2002-054270(JP,A)
【文献】特開2018-123180(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/00-70/88
B29B 11/16
B29B 15/08-15/14
C08J 5/04- 5/24
E04C 5/07
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
強化繊維材内に熱可塑性樹脂材が含浸して一体化した筋金棒体を製造する方法であって、液状の熱可塑性樹脂材が貯留された貯留槽内に複数本の強化繊維材を通過させ、これら強化繊維材を
、前記貯留槽内を通過する間に、その通過方向で
径方向の外方位置
から径方向の中心位置へ、周方向へ振れることなく収束させることと、径方向の中心位置から径方向の外方位置へ、周方向へ振れることなく拡散させることを少なくとも一回繰り返すようにし
、かつ複数ある前記外方位置を、前記中心位置から径方向外方の同一距離に設定したことを特徴とする筋金棒体の製造方法。
【請求項2】
前記強化繊維材を貯留槽内に通過させるのに先立ってバルキ加工を施した請求項1に記載の筋金棒体の製造方法。
【請求項3】
前記貯留槽を箱状の浸漬器で構成し、当該浸漬器の空間内に、前記強化繊維材の通過方向へ複数のガイド部材を設置して、一の前記ガイド部材で前記強化繊維材を
前記外方位置へ案内するとともに、隣接する他の前記ガイド部材で前記強化繊維材を
前記中心位置へ案内するようにした、請求項1に記載の筋金棒体の製造方法に使用する浸漬器。
【請求項4】
前記一のガイド部材には前記強化繊維材を通過させる通孔を
前記外方位置に形成し、前記他のガイド部材には前記強化繊維材を通過させる通孔を
前記中心位置に形成した請求項3に記載の浸漬器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はコンクリートの補強等に好適に使用できる筋金棒体を製造する方法およびこれに使用する浸漬器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
この種の筋金棒体として従来の鉄製のものに代えて、錆を生じずコンクリートの強度を長く維持できるバサルト繊維を使用したものが注目されている。このような筋金棒体として、例えば特許文献1に示されているように、バサルト繊維の束を芯材としてその周囲を所定厚さの熱可塑性樹脂層で覆った構造のものが提案されている。そして芯材の周囲に樹脂層を形成する方法としては従来、上記特許文献1に示されているように芯材を樹脂の溶融溶液やエマルジョン中に通すディップ法が多用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、ディップ法を使用した場合に、強化繊維材であるバサルト繊維への熱可塑性樹脂材の含浸が不十分だと十分な強度の筋金棒体が得られないという問題があった。
【0005】
そこで本発明はこのような課題を解決するもので、熱可塑性樹脂材が強化繊維材内に十分に含浸してこれと一体化し、十分な強度を発揮する筋金棒体の製造方法およびこれに使用する浸漬器を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本第1発明は、強化繊維材内に熱可塑性樹脂材が含浸して一体化した筋金棒体を製造する方法であって、液状の熱可塑性樹脂材が貯留された貯留槽内に複数本の強化繊維材を通過させ、これら強化繊維材を、前記貯留槽内を通過する間に、その通過方向で径方向の外方位置から径方向の中心位置へ、周方向へ振れることなく収束させることと、径方向の中心位置から径方向の外方位置へ、周方向へ振れることなく拡散させることを少なくとも一回繰り返すようにし、かつ複数ある前記外方位置を、前記中心位置から径方向外方の同一距離に設定したことを特徴とする。
【0007】
本第1発明の製造方法によれば、液状の熱可塑性樹脂材中を通過する強化繊維をその通過方向で外方位置へ拡散させることと内方位置へ収束させることを少なくとも一回繰り返すことによって強化繊維中への熱可塑性樹脂の含侵が促進されて十分なものになり、強化繊維と熱可塑性樹脂が一体化した十分な強度の筋金棒体を得ることができる。
【0008】
本第2発明では、前記強化繊維材を貯留槽内に通過させるのに先立って嵩高(bulky)加工を施す。
【0009】
本第2発明においては、嵩高加工された強化繊維材に熱可塑性樹脂がより効率的に含侵させられる。
【0010】
本第3発明では前記貯留槽を箱状の浸漬器(1)で構成し、当該浸漬器(1)の空間内に、前記強化繊維材(Fb)の通過方向へ複数のガイド部材(4A,4B)を設置して、一の前記ガイド部材(4A)で前記強化繊維材(Fb)を前記外方位置へ案内するとともに、隣接する他の前記ガイド部材(4B)で前記強繊維材(Fb)を前記中心位置へ案内する。
【0011】
本第3発明の浸漬器を使用することによって本第1発明の製造方法を容易に実現することができる。
【0012】
本第4発明では、前記一のガイド部材(4A)には前記強化繊維材(Fb)を通過させる通孔(41)を前記外方位置に形成し、前記他のガイド部材(4B)には前記強化繊維材(Fb)を通過させる通孔(42)を前記中心位置に形成する。
【0013】
本第4発明によれば、通孔によって強化繊維の内外方向への案内を簡易に行うことができる。
【0014】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を参考的に示すものである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように本発明によれば、熱可塑性樹脂材が強化繊維内に十分に含浸してこれと一体化し、十分な強度を有する筋金棒体を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明方法を実施するための装置の全体構成を示す図である。
【
図2】本発明の第1実施形態における浸漬器の分解斜視図である。
【
図5】本発明の第2実施形態における浸漬器の分解斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
なお、以下に説明する実施形態はあくまで一例であり、本発明の要旨を逸脱しない範囲で当業者が行う種々の設計的改良も本発明の範囲に含まれる。
【0018】
図1には、浸漬器1を備えた、本発明の筋金棒体の製造方法を実施するための装置の全体構成を示す。
図1において、公知構造の押出機2が設けられて、その一端上面に設置された投入ホッパ21から押出機2内へ熱可塑性樹脂材としてのポリプロピレン(PP)樹脂Rtが供給されている。PP樹脂Rtは押出機2内で所定温度へ加熱されて溶融状態となり、内設されたスクリューによって押出機2の他端に結合された、詳細を以下に説明する浸漬器1内へ供給される。
【0019】
浸漬器1の詳細構造を
図2に示す。浸漬器1の本体11は上方へ開放する角型の箱状をしており、その一方の端壁12には押出機2の他端22(
図1)に結合される連結金具3が固定されている。連結金具3は円柱状の基部31とこれの一端に形成された大径のフランジ32よりなり、基部31の中心には貫通穴311が形成されて、当該貫通穴311内を押出機2から出力されたPP樹脂Rtが流通する。連結金具3はそのフランジ32の外周部に形成された取付穴312にボルトを挿入して本体11の端壁12に結合されるとともに、フランジ32の内周部から筒壁内に貫設された取付穴313にボルトを挿入して押出機2に結合される。
【0020】
本体11の端壁12には連結金具3の筒内に連通する小径の貫通穴121が円形領域に多数形成されており(
図5参照)、押出機2から出力されたPP樹脂Rtがこれら貫通穴121を経て整流された状態で本体11内に流入して当該本体11内に貯留される。
【0021】
浸漬器1の本体11の対向する側壁14,15には、端壁12側から端壁13側へ間隔をおいて上下方向へ底壁まで延びるガイド溝141,151がそれぞれ対向させて複数(本実施形態では3つ)形成されており、これらガイド溝141,151にそれぞれガイド板4A,4B,4Cが上方から差し込んで装着されている。これらガイド板4A~4Cは押出機2から浸漬器1内に供給され貯留されたPP樹脂Rt内に浸漬されている。
【0022】
浸漬器1の本体11の端壁13には円柱形の成形型5が固定されている。成形型5の詳細を
図3に透視図で示す。成形型5には中心に成形用の貫通穴51が形成されており、貫通穴51は基端側から漸次縮径して先端側は最終製品としての筋金棒体の外径に等しくなっている。成形型5は貫通穴51の周囲に複数(本実施形態では4つ)貫通形成された取付穴52内にボルトを挿入して浸漬器1の端壁13に結合されている。浸漬器1の端壁13に固定された状態で、上記成形型5の貫通穴51は端壁13に形成された貫通穴131(
図2)に連通している。
【0023】
なお、浸漬器1の本体11底壁には複数位置に、側方へ開放する一端閉鎖の横穴16(
図2)が形成されており、これら横穴16内にはPP樹脂Rtを所定温度に維持するための棒状ヒータが挿入される。
【0024】
図4には浸漬器1の本体11内に配設されたガイド板4A~4Cの詳細を示す。ガイド溝141,151(
図2)に装着されたガイド板4A~4Cのうち、各端壁11,12に近い側に位置する二枚のガイド板4A,4Cは同一形状で、その板面には正方形領域Asの各コーナに小径の通孔41が形成されている。そして両ガイド板4A,4Cの中間に位置するガイド板4Bには上記正方形領域の中心に対応する位置に、に大径の通孔42が形成されている。
【0025】
図2において、浸漬器1の箱状本体11には上方から長板状と方形状の二枚の蓋板17,18が互いに接して覆着されている。そして蓋板17にはその長手方向、すなわち浸漬器の幅方向へ等間隔で複数個所(本実施形態では4カ所)に繊維通過穴172が形成してある。なお、蓋板17,18はこれに設けた取付穴171,181に挿入したボルトによって、浸漬器1の箱状本体11の端壁12,13および側壁14,15の上端面に固定されている。
【0026】
筋金棒体を製造する場合には、
図1に示すように、コイル61からそれぞれ引き出した強化繊維材としてのバサルト繊維束Fbを、浸漬器1に供給し、浸漬器1から後段の冷却装置64の冷却水中に通し、その後、最後段の引取りベルト65に上下から挟持させる。なお、バサルト繊維束Fbの太さの一例は4800TEXである。
【0027】
すなわち、各コイル61から引き出されたバサルト繊維束Fbは途中それぞれノズル62に通されて、これに供給されたエアによって嵩高加工される。嵩高加工されたバサルト繊維束Fbはテンションローラ63を経て浸漬器1の蓋板17(
図2)の各繊維通過穴172に通される。繊維通過穴172を通過した各バサルト繊維束Fbは
図4に示すように、本体11に供給貯留されたPP樹脂Rt中に浸漬されているガイド板4Aの、正方形領域Asの各コーナに形成された通孔41内にそれぞれ通されて外方位置へ拡散された状態となり、続いてガイド板4Bの、上記正方形領域Asの中心に対応する位置に形成された通孔42に通されて内方位置へ収束された状態となる。そしてさらにガイド板4Cの、正方形領域Asの各コーナに形成された通孔41内にそれぞれ通されて外方位置へ拡散された状態となり、その後、上記正方形領域Asの中心に対応する位置に形成された、本体11の端壁13の貫通穴131に通されて内方位置へ収束された状態となる。
【0028】
このようにバサルト繊維束FbはPP樹脂Rt中を通過する間にその通過方向で外方位置へ拡散させられることと内方位置へ収束させられることを本実施形態では二回繰り返し、これによってバサルト繊維束Fb内にPP樹脂Rtが十分含侵させられる。そして貫通穴131を経てこれに連通する成形型5の貫通穴51(
図3)に至り、ここで最終製品としての筋金棒体の外径まで漸次縮径させられる。その後、前述のように冷却装置64(
図1)で冷却されて、バサルト繊維Fbとこれに十分含侵させられたPP樹脂Rtが強固に一体化した十分な強度を有する筋金棒体が得られる。
【0029】
なお、ガイド板4A,4Cの貫通穴41は必ずしも正方形領域Asのコーナに形成される必要はなく、またガイド板4Bの貫通穴42は必ずしも正方形領域Asの中心に対応する位置に形成される必要はない。
【0030】
(第2実施形態)
図5に本発明の第2実施形態における浸漬器1を示す。浸漬器1の本体11は第1実施形態と同様の箱状であり、本体11の一端に結合される連結金具3も、その中心の円形領域に多数の小径の貫通穴314が形成されている以外は第1実施形態と同様である。これら貫通穴314は、浸漬器1の本体11の端壁12に形成された多数の貫通穴121にそれぞれ連通して、押出機2(
図1)から出力されたPP樹脂Rtがこれら貫通穴314,121を経て整流された状態で本体11内に流入する。また浸漬器1の本体11の端壁13に結合される成形型5や本体11に覆着される蓋板17,18の構造も第1実施形態と同一である。したがって、第1実施形態と同一の部材には同一符号を付す。
【0031】
本実施形態では浸漬器1の本体11内に案内体7が設置されている。案内体7の詳細を
図6に示す。案内体7は浸漬器1の本体11の底壁に固定される長尺の基台71を備えており、当該基台71は
図5に示すように本体11の端壁12側から端壁13側へ向けて設置されている。基台71上には長手方向へ端壁12に近い位置から所定間隔をおいて順次ガイド部材72,73,74,75が立設されている。
【0032】
ガイド部材72,74は同形で、全体がリング状に形成され、そのリング部721,741には周方向へ間隔をおいて複数個所(本実施形態では5カ所)に小径の通孔722,742が形成されている。またガイド部材73は板状の支持部731上に、中心に大径の通孔733を有するリング部732を形成したものである。ガイド部材75は壁状の支持部751上にリング状の保持部752を形成したもので、保持部752内には所定径の通孔754を有する筒体753が着脱可能に保持されている。なお、ガイド部材72,74のリング部721,741の中心とガイド部材73,75の各通孔733,754の中心は同一線上に位置している。
【0033】
筋金棒体の製造時には、蓋板17の繊維通過穴172(
図5)を通過した各バサルト繊維束Fbは
図7に示すように、PP樹脂Rt中に浸漬されたガイド部材72のリング部721に形成された通孔722内にそれぞれ通されて外方位置へ拡散された状態となり、続いてガイド部材73の通孔733に通されて内方位置へ収束された状態となる。そしてさらにガイド部材74のリング部741に形成された通孔742内にそれぞれ通されて外方位置へ拡散された状態となり、その後、ガイド部材75の通孔754(
図6)に通されて内方位置へ収束された状態となる。なお、
図7では理解を容易にするために案内体7及びこれに対応する本体端壁13の貫通穴131の位置を実際よりも上方に描いてある。
【0034】
このように本実施形態においても、バサルト繊維束FbはPP樹脂Rt中を通過する間にその通過方向で外方位置へ拡散させられることと内方位置へ収束させられることを二回繰り返し、この間にバサルト繊維Fb内にPP樹脂Rtが十分含侵させられる。そして本体端壁13の貫通穴131を経てこれに連通する成形型5の貫通穴51(
図5)に至り、ここで最終製品としての筋金棒体の外径まで漸次縮径させられて、この間にバサルト繊維Fbとこれに十分含侵させられたPP樹脂Rtが一体化し、冷却装置64(
図1)で冷却されて十分な強度の筋金棒体となる。ここで、筋金棒体の直径の一例は約5mm、実現された筋金棒体の引張強度は15kN程度である。
【0035】
なお、ガイド部材72,74のリング部721,741の中心とガイド部材73,75の各通孔733,754の中心は必ずしも同一線上に位置している必要はない。
【0036】
上記各実施形態では、バサルト繊維の外方位置への拡散と内方位置への収束を二回繰り返したが、バサルト繊維へのPP樹脂の含侵状態に応じて一回ないし三回以上としても良い。
上記各実施形態ではバサルト繊維を解繊した後に浸漬器へ供給したが、これは必ずしも必須の加工ではない。
上記各実施形態では通孔によってバサルト繊維を外方位置ないし内方位置に案内するようにしたが、通孔以外の構造で案内するようにしても良い。
上記各実施形態における熱可塑性樹脂材としてはPP樹脂以外にポリエチレン樹脂、ナイロン樹脂、ポリエステル樹脂等が使用できる。また強化繊維としてはバサルト繊維以外にガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維やアラミド繊維、アクリル繊維等の有機繊維が使用できる。
【符号の説明】
【0037】
1…浸漬器、3…連結金具、4A,4B,4C…ガイド板(ガイド部材)、41,42…通孔、5…成形型、7…案内体、72,73,74,75…ガイド部材、722,733,742,754…通孔、Fb…バサルト繊維(強化繊維材)、Rt…ポリプロピレン樹脂(熱可塑性樹脂材)。
【要約】
【課題】熱可塑性樹脂材が強化繊維材内に十分に含浸してこれと一体化し、十分な強度を発揮する筋金棒体の製造方法に使用する浸漬器を提供する。
【解決手段】熱可塑性樹脂を貯留した箱状の浸漬器1の空間内に、強化繊維材Fbの通過方向へ複数のガイド板4A~4Cを設置して、ガイド板4A,4Cの通孔41で強化繊維材Fbを外方位置へ案内するとともに、ガイド板4A,4C間に位置するガイド板4Bの通孔42で強化繊維材Fbを内方位置へ案内する。
【選択図】
図4