(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】農業用マルチフィルム
(51)【国際特許分類】
A01G 13/00 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
A01G13/00 302Z
A01G13/00 ZBP
(21)【出願番号】P 2017199811
(22)【出願日】2017-10-13
【審査請求日】2019-05-29
【審判番号】
【審判請求日】2021-05-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000100458
【氏名又は名称】みかど化工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101340
【氏名又は名称】丸山 英一
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 晶英
(72)【発明者】
【氏名】元吉 一浩
(72)【発明者】
【氏名】稲葉 和代
【合議体】
【審判長】森次 顕
【審判官】奈良田 新一
【審判官】住田 秀弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平10-52178(JP,A)
【文献】特開平11-166094(JP,A)
【文献】特開2003-73539(JP,A)
【文献】特開2004-147613(JP,A)
【文献】特開2006-9007(JP,A)
【文献】特開2001-161187(JP,A)
【文献】特開2014-233206(JP,A)
【文献】特開2009-189262(JP,A)
【文献】特開2008-148648(JP,A)
【文献】特開2009-225708(JP,A)
【文献】特開2000-141470(JP,A)
【文献】特開2014-31494(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 13/00,20/00-20/47
C08L 101/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生分解性ポリエステル樹脂に、
でんぷん10wt%~40wt%と、
グリセリン2wt%~20wt%とを配合してなる機能層を有し、
該機能層に、
凝集したでんぷんからなる核の周囲に気泡が分散して形成されてなることを特徴とする
生分解性農業用マルチフィルム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業用マルチフィルムに関し、より詳しくは、展張後の作業を省力化できる農業用マルチフィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
農業用マルチフィルムは、昭和30年代日本でポリエチレン樹脂の生産が始まり、ポリエチレンフィルムを畑に展張して土壌の保温、保湿、肥料効果の向上機能(いわゆるマルチ効果)から作物生育の大幅な向上をもたらし、飛躍的に農地に普及していった。
【0003】
畑でポリエチレン製マルチフィルムが大量に使用されるようになると、ポリエチレンは化学的に安定な樹脂であり、自然環境中で分解せずに残ることが問題視されるようになった。
【0004】
近年、国内外でいくつかの生分解性樹脂の生産が始まり、農業用マルチフィルムにも応用されていった。
特許文献1には、ポリ乳酸からなる生分解性マルチフィルムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、予め植生穴などが開口されていない穴なしタイプの農業用フィルムの場合、発芽後に人力でフィルムに切れ目を入れたり、やぶったりして定植穴を作り、芽をフィルムの上に伸ばしてあげる作業が発生する。
【0007】
さらに、通常は、発芽した芽がフィルム下からフィルムに接触していると、その接触点の温度が上昇し、芽が焼けてしまう。よって、芽が焼ける前に迅速に開口作業を行なわなければならないが、開口させる穴数が膨大である場合には時間がかかるため、どうしても焼けてしまう芽が発生してしまっていた。
【0008】
このように、フィルム展張後の作業は膨大な時間と労力を要し、農業従事者の負担となっている。
【0009】
そこで本発明の課題は、展張後の作業を省力化できる農業用マルチフィルムを提供することにある。
【0010】
また本発明の他の課題は、以下の記載によって明らかとなる。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題は、以下の各発明によって解決される。
【0012】
(請求項1)
生分解性ポリマーに、微生物餌用性を有する物質と、親和剤とを配合してなる機能層を有し、
該機能層に、顕微鏡で目視できる気泡が分散して形成されていることを特徴とする農業用マルチフィルム。
(請求項2)
前記目視できる気泡が、前記機能層1cm2当たり、5個~500個の範囲であることを特徴とする請求項1記載の農業用マルチフィルム。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、展張後の作業を省力化できる農業用マルチフィルムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下に、本発明を実施するための形態について詳しく説明する。
【0016】
本発明の農業用マルチフィルムは、生分解性ポリマーに、微生物餌用性を有する物質と、親和剤とを配合してなる機能層を有し、該機能層に、顕微鏡で目視できる気泡が分散して形成されている。
【0017】
本明細書において、「顕微鏡で目視できる」というのは、顕微鏡倍率が、300倍の場合に目視できることを意味する(以下、同じ)。なお、顕微鏡は、標準生物顕微鏡を使用した。
【0018】
以下の説明では、本発明の農業用マルチフィルムを、必要により「生分解性樹脂フィルム」と称する。
【0019】
機能層を構成する生分解性ポリマーとしては、生分解性を有するポリマーであれば格別限定されないが、生分解性ポリエステル系樹脂を好ましく例示することができる。
【0020】
生分解性ポリエステル系樹脂としては、例えば、ポリカプロラクトン、ポリエチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネート、ポリブチレンサクシネートアジペート、ポリブチレンアジペート、ポリヒドロキシブチレート、ポリエステルカーボネート、ポリヒドロキシブチレート等の脂肪族ポリエステルや脂肪族芳香族ポリエステル共重合体を使用することができる。
【0021】
機能層には、生分解性ポリエステル系樹脂以外に、微生物餌用性を有する物質と、親和剤とが配合される。
【0022】
微生物餌用性を有する物質とは、本発明の生分解性樹脂フィルムが、生分解性を発揮する上で、微生物が餌として分解できる化合物を言う。
微生物餌用性を有する物質としては、例えば、木粉、微粉末緑茶、微粉末ほうじ茶、プロテインパウダー、サイクロデキシトリン等の糖類パウダー、でんぷんなどがある。中でも、糖類パウダーを好ましく用いることができる。
【0023】
微生物餌用性を有する物質の配合量は、生分解性樹脂フィルム全体の重量に対して、10wt%~40wt%であることが好ましい。
【0024】
本発明の生分解性樹脂フィルムは、生分解性ポリエステル系樹脂と微生物餌用性を有する物質とを混合容易にする親和剤を配合する。
かかる親和剤としては、例えば多価アルコールが挙げられる。多価アルコールの配合量は、生分解性樹脂フィルム全体の重量に対して、2wt%~20wt%であることが好ましい。多価アルコールは、可塑剤としても機能し得る。
【0025】
多価アルコールとしては、例えば、グリコール類などの二価アルコール;グリセリンなどの三価アルコール;テトリットなどの四価アルコール;ペンチットなどの五価アルコール、ヘキシットなどの6価アルコールが挙げられる。本発明においては、価数が増加するほど硬度があがるので、好ましいのは、グリセリンである。
【0026】
微生物餌用性を有する物質及び親和剤を生分解性ポリエステル系樹脂に配合する際には、微生物餌用性を有する物質及び親和剤を個別に直接、生分解性ポリエステル系樹脂に配合してもよいが、予め微生物餌用性を有する物質及び親和剤を混合して得られた混合物を生分解性ポリエステル系樹脂に配合することが好ましい。
混合物を用いることで、配合の均一性が向上する等によって、本発明の効果を更に良好に発揮することができる。
【0027】
本発明において、機能層の厚みは、格別限定されないが、6~30μmの範囲が好ましい。
【0028】
機能層は、さらに着色顔料を配合してなることが好ましい。着色顔料としては、黒色顔料、黒茶色顔料、緑色顔料、赤色顔料、青色顔料などを配合できる。中でも黒色顔料であるカーボンブラックが好ましい。
【0029】
カーボンブラックの配合により、雑草抑制効果を高めることができるため、マルチ機能性が向上する。
カーボンブラックの配合量は、生分解性樹脂フィルム全体の重量に対して、2wt%~20wt%であることが好ましい。
【0030】
カーボンブラックを生分解性ポリエステル系樹脂に配合する際には、カーボンブラックを直接、生分解性ポリエステル系樹脂に配合してもよいが、カーボンブラックを含有するマスターバッチを生分解性ポリエステル系樹脂(ベース樹脂)に配合することが好ましい。
マスターバッチは、カーボンブラックと、ベース樹脂として用いられる生分解性ポリエステル系樹脂と同様の生分解性ポリエステル系樹脂とを混合して得ることができる。マスターバッチに高濃度で含有されるカーボンブラックは、該マスターバッチをベース樹脂に配合した後、希釈混合される。マスターバッチを用いることで、配合の均一性が向上する等によって、本発明の効果を更に良好に発揮することができる。
【0031】
本発明の農業用マルチフィルムの機能層には、気泡が分散して形成されている。
図1に示すように、1は農業用マルチフィルムであり、2は農業用マルチフィルム1を構成する機能層である。
図示の例では機能層のみを示しているが、それ以外に、図示しないが、反射層、保護層などが形成されていてもよい。
20、21は機能層2内に形成された気泡であり、20は比較的大きな顕微鏡で目視できる気泡であり、21は比較的小さい顕微鏡で目視できない気泡である。
比較的大きな顕微鏡で目視できる気泡20の径は、10~20μmの範囲である。気泡の径は、顕微鏡上に置いたメジャーによって計測できる。
【0032】
比較的大きな顕微鏡で目視できる気泡20は、機能層1cm2当たり5個~500個の範囲で、分散して形成されていることが好ましい。この気泡は、空気溜りであり、主に凝集したでんぷんを核としてその周囲に分散して形成される。比較的小さい顕微鏡で目視できない気泡21は無数にある。
【0033】
発芽して芽が成長すると、フィルム下からフィルムに芽が当たる。通常のフィルムであれば、予めフィルムに切れ目を入れたり、手作業でフィルムを破ったりして、芽を外に出す作業が発生する。
しかし、本発明のフィルムは、適度な強度に形成されているので、前述の作業をすることなく、芽が自身でフィルムを突き破って、芽を外に出すことができる。これは、芽とフィルムとの接触点に、芽が伸びようとする力が垂直方向(下から上)にかかると、気泡による空気溜りが形成されているので、空気溜りを貫通して芽がフィルムを突き破り易くなっているためと推定される。
【0034】
また、本発明のフィルムは、微生物餌用性を有する物質の存在により、芽によって突き破られた穴が広がらない効果がある。これは、機能層1cm2当たり5個~500個の範囲で、分散して形成された気泡の中に微生物餌用性を有する物質が存在することによる効果であると推定される。通常、微生物餌用性を有する物質が配合された生分解性の農業用フィルムであっても、微生物餌用性を有する物質がベース樹脂になじまず、微生物餌用性を有する物質を分散させることが困難である。
しかし、本発明の農業用フィルムは、微生物餌用性を有する物質と共に多価アルコールが配合されることで、微生物餌用性を有する物質がベース樹脂になじんで効果的に分散されるため、気泡を機能層1cm2当たり5個~500個の範囲で分散して形成することができる。これにより、気泡が形成される核に存在する微生物餌用性を有する物質がフィルム破れの広がりを抑制するストッパーの役割を果たすと推定される。この結果、フィルムが破損しにくく、長持ちする効果がある。微生物餌用性を有する物質が応力集中を防ぎ、即ち応力を分散吸収して、フィルム破れや広がりを抑制しているからである。
【0035】
さらに、本発明の農業用マルチフィルムは、気泡による空気溜りが形成されることによって、発芽した芽が、フィルム下からフィルムに接触している際に、その接触点の温度が上昇して芽焼けすることがない。空気溜りが通気作用や断熱作用を呈し、接触点の温度が下がっているからと推定される。この結果、正常に生育する芽が多く、収穫率が向上する。
【0036】
本発明の農業用マルチフィルムは、密度が0.55g/cm3~1.1g/cm3の範囲が好ましく、より好ましくは0.60g/cm3~1.1g/cm3の範囲である。
【0037】
農業用マルチフィルムに含有できる添加剤としては、例えば、酸化防止剤、アンチブロッキング剤、滑剤等のような、農業用フィルムに使用されている各種添加剤を使用することができる。
【0038】
生分解性樹脂フィルムからなる農業用マルチフィルムを成形する方法は格別限定されず、例えば、インフレーション成形法、Tダイ成形法等を用いることができる。
【実施例】
【0039】
以下に、本発明の実施例について説明するが、本発明はかかる実施例により限定されない。
【0040】
1.農業用マルチフィルムの製造
(実施例1)
まず、ベース樹脂として用いるものと同様の生分解性ポリエステル系樹脂(三菱ケミカル社製「GSP AZ91TN」)にカーボンブラックを高濃度に配合したマスターバッチ(以下、カーボンブラックマスターバッチともいう)を作成した。
【0041】
次いで、ベース樹脂(三菱ケミカル社製「GSP AZ91TN」)に、カーボンブラックマスターバッチ、でんぷん、グリセリンを配合してフィルム組成物を得た。でんぷん及びグリセリンは、予め混合し、混合物としてベース樹脂に配合した。
このとき、フィルム組成物の組成が、ベース樹脂50wt%、でんぷん30wt%、グリセリン10wt%、カーボンブラック10wt%になるように配合した。
【0042】
前記フィルム組成物を用いて、インフレーション成形法で、厚さ20μm、幅950mm、長さ400mのロール巻き農業用マルチフィルムを作成した。
【0043】
得られた農業用マルチフィルムは、
図1に示すように、機能層に、顕微鏡で目視できる気泡が分散して形成されていた。
目視できる気泡の数は、機能層1cm
2当たり約150個であった。
【0044】
(比較例1)
市販の生分解フィルム(ユニック社製「キエ丸」)を比較フィルム1とした。
【0045】
2.評価方法
(1)出芽状況の確認
<本発明>
出芽状況を
図2~
図7に示す。
図2~
図7は出芽状況を示す写真である。
図2~
図6に示すように、畝に展張された本発明のフィルムは、芽が自身でフィルムを突き破って、芽を外に出すことが確認できた。また
図7に示すように、フィルム全体で同じように発芽していることが確認された。
<比較例>
図8~
図12に示すように、比較フィルム1は、芽が自身でフィルムを突き破れないので、フィルムに押されてしまい出芽できないことが確認できた。
【0046】
(2)穴の広がりの確認
本発明のフィルムは、
図2~
図6に示すように、芽によって突き破れた後に、その穴は広がらなかった。
これに対して、比較フィルム1は、
図11に示すように、手作業でフィルムを破ったところから、穴が広がっているところが確認された。
【0047】
(3)芽焼けの確認
本発明のフィルムは、フィルム下から芽がフィルムに接触し、芽焼けしているものは確認されなかった。
これに対して、比較フィルム1は、
図10、
図11に示すように、芽焼けが確認された。
【0048】
上記の通りであるから、本発明の農業用マルチフィルムは、芽が自身でフィルムを突き破ることができるので、手作業で芽をフィルム外に出す作業が不要であるので、展張後の作業を省力化できるフィルムであると言える。
また、本発明の農業用マルチフィルムは、フィルム上の穴が広がらないため、フィルムが破損しにくいことがわかる。
さらに、本発明のフィルム1は、芽焼けを防止することができ、収穫率が高くなる。
【符号の説明】
【0049】
1:農業用マルチフィルム
2:機能層
20:顕微鏡で目視できる気泡
21:顕微鏡で目視できない気泡