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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】円偏光発光用組成物
(51)【国際特許分類】
   C09K 11/06 20060101AFI20220411BHJP
   C09K 19/54 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 19/12 20060101ALI20220411BHJP
   G02F 1/13357 20060101ALI20220411BHJP
   G02B 5/30 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 19/30 20060101ALI20220411BHJP
   C09K 19/20 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
C09K11/06
C09K19/54 B
C09K19/12
G02F1/13357
G02B5/30
C09K19/30
C09K19/20
C09K19/54 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018025262
(22)【出願日】2018-02-15
(65)【公開番号】P2019137823
(43)【公開日】2019-08-22
【審査請求日】2020-12-23
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成29年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業「地域産学バリュープログラム」委託研究、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】593006630
【氏名又は名称】学校法人立命館
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】堤 治
(72)【発明者】
【氏名】坂本 果穂
(72)【発明者】
【氏名】アヌクル プリヤーヌック
【審査官】黒川 美陶
(56)【参考文献】
【文献】特表2005-531664(JP,A)
【文献】特開2004-182678(JP,A)
【文献】特開2009-046402(JP,A)
【文献】特表2008-504710(JP,A)
【文献】特開2004-107542(JP,A)
【文献】S. H. Chen, et al.,Nature,1999年,vol. 397,pp. 506-508
【文献】Benedict A. San Jose, et al.,Angewandte Chemie International Edition,2014年,vol. 53,pp. 1-5,DOI: 10.1002/anie.201404250
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 11/00-11/89
C09K 19/00-19/60
G02F 1/13357
G02B 5/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ネマチック液晶化合物及びキラルドーパントを含み、
前記ネマチック液晶化合物及びキラルドーパントのいずれも発光性を備えない場合にあってはさらに発光性化合物を含み、
コレステリック相構造を備え、
前記ネマチック液晶化合物が、下記一般式(I)
【化1】
(式中、A 及びA は独立して、単結合、-O-、-CH -O-、-O-CH -、-C(O)-、-C(O)-O-又は-O-C(O)-を表し、B は単結合、-O-、-C(O)-、-C(O)-O-又は-O-C(O)-を表し、X 及びX は独立して、ベンゼン環、フッ素置換ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、R は炭素数3~7の直鎖又は分岐状アルキル基を表し、X はその環の1位及び4位でA 及びA と結合し、X はその環の1位及び4位でA 及びB と結合し、A -X は単結合であってもよい)。
で表されるベンゾニトリル化合物から選択される少なくとも1種の化合物であり、
前記キラルドーパントが、下記一般式(II)
【化2】
(式中、Zは一般式(III)
【化3】
で表される基又は一般式(IV)
【化4】
で表される基であり、Lは-CH -、-C(O)-、-O-C(O)-又は-C(O)-O-を表し、Y はベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、M は単結合又は-C≡C-を表し、Y は単結合、ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、M は単結合又は-O-を表し、R は炭素数3~12の直鎖若しくは分岐状アルキル基又は-CNを表し、Y はその環の1位及び4位でL及びM と結合し、Y はその環の1位及び4位でM 及びM と結合し、Lが-C(O)-の場合に-Y -M -Y -M -R はターシャリーブチル基であってもよい)。
で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である、
円偏光発光用組成物。
【請求項2】
最大g値の絶対値が0.34以上である請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の組成物であって、該組成物のキラルドーパント含有量を調整することにより、該組成物の最大g値が得られる波長を変更可能な、組成物。
【請求項4】
組成物中のネマチック液晶化合物とキラルドーパントの含有量が、ネマチック液晶化合物20~99mol%、キラルドーパント1~80mol%である請求項1~のいずれかに記載の組成物。
【請求項5】
さらに、下記化合物の1種又は2種を含有する請求項1~4のいずれかに記載の組成物。
【化5】
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の組成物のキラルドーパント含有量を調整することによって、該組成物の最大g値が得られる波長を変更する、該組成物の円偏光発光性を調整する方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、円偏光発光用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
円偏光発光(CPL:Circularly Polarized Luminescence)は、高輝度液晶ディスプレイの光源、3次元ディスプレイ、光通信、セキュリティ分野など様々な領域への応用が期待されている現象である。例えば、円偏光発光性を有する光学機能材料を有機EL素子と組み合わせることにより、光学機能材料を3次元表示ディスプレイや電子ペーパーに応用することが期待されている。また、円偏光発光性を利用したセキュリティマーカーや不可視性インクとしての利用も期待されている。
【0003】
円偏光発光性はg値で表され、次式により定まる。
g=ΔI/I=2(I-I)/(I+I
(式中、Iは左回りの円偏光発光強度、Iは右回りの円偏光発光強度を表す。)
理論上、g値の最大絶対値は2となり、右回りあるいは左回りのどちらかの純粋な円偏光を発光することを意味する。
【0004】
従来の円偏光発光性を有する材料は、構成原子に希土類を必要とするもの(例えば、希土類錯体化合物(例えば、特許文献1、2参照))、構成原子に希土類を必要とせず、1分子中に発光性と円偏光二色性とを備えたポリマー(例えば、特許文献3参照)などが知られている。
【0005】
しかし、希土類錯体化合物は円偏光性が高い(例えば、円偏光の純度を表すg値の絶対値が1以上である)ものの、希少な希土類を必要とするため、原料入手性や原料の価格等において利用が制限されやすく、加えて、産業界の昨今の希土類フリーの潮流に沿わない。
【0006】
また、1分子中に発光性と光学活性とを備えたポリマーは希土類を必要としないものの、円偏光性が低く(例えばg値の絶対値が0.01~0.1程度)実用化が困難であり、加えて、所望の発色性を得る(所望の色を発光させるためにチューニングする)には発光強度特性を所望の光の波長に合わせることとなるため、ポリマーの備える発光性とらせん状構造(コレステリック相構造)を調整する必要が生じ、結果としてポリマーの化学構造の変更、構成原子の変更などのためのポリマー設計が必要となるか、又は所望の発光性とらせん状構造を備えた代替ポリマーを検証・調達することが必要となるため、チューニングが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2013-121921号公報
【文献】特開2005-097240号公報
【文献】特開2004-107542号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
したがって、発色性の調整がより容易で、希土類を使用せずともg値の絶対値が大きい、円偏光発光性材料に有用な組成物の提供が望まれていた。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明者らは鋭意検討した結果、ネマチック液晶化合物及びキラルドーパントを含み、コレステリック相構造を備えた発光性組成物が、キラルドーパントの含有量を調整することにより所望の色の波長で大きなg値を有しかつ強度の高い円偏光発光を示すことを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0010】
即ち、本発明は、以下に掲げる各項に記載の円偏光発光用組成物及び該組成物の円偏光発光性を調整する方法などを提供するものである。
[項1]
ネマチック液晶化合物及びキラルドーパントを含み、
前記ネマチック液晶化合物及びキラルドーパントのいずれも発光性を備えない場合にあってはさらに発光性化合物を含み、
コレステリック相構造を備えた、
円偏光発光用組成物。
[項2]
最大g値の絶対値が0.34以上である前記項1に記載の組成物。
[項3]
前記項1又は2に記載の組成物であって、該組成物のキラルドーパント含有量を調整することにより、該組成物の最大g値が得られる波長を変更可能な、組成物。
[項4]
前記ネマチック液晶化合物が、ベンゾニトリル化合物、フッ素置換フェニルエステル、フッ素置換フェニルシクロヘキサン、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フッ素置換シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、アルコキシ置換フェニルピリミジン、フッ素置換アルコキシ置換フェニルピリミジン、シアノ置換フェニルピリミジン、フッ素置換フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン系化合物、フッ素置換トラン系化合物、及びアゾメチン化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である前記項1~3のいずれかに記載の組成物。
[項5]
前記ネマチック液晶化合物が、下記一般式(I)で表されるベンゾニトリル化合物から選択される少なくとも1種の化合物である前記項1~3のいずれかに記載の組成物
【0011】
【化1】
【0012】
(式中、A及びAは独立して、単結合、-O-、-CH-O-、-O-CH-、-C(O)-、-C(O)-O-又は-O-C(O)-を表し、Bは単結合、-O-、-C(O)-、-C(O)-O-又は-O-C(O)-を表し、X及びXは独立して、ベンゼン環、フッ素置換ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Rは炭素数3~7の直鎖又は分岐状アルキル基を表し、Xはその環の1位及び4位でA及びAと結合し、Xはその環の1位及び4位でA及びBと結合し、A-Xは単結合であってもよい)。
[項6]
前記キラルドーパントが、芳香族エステル系化合物、芳香族エーテル系化合物、脂肪族エステル系化合物、脂肪族エーテル系化合物、環状脂肪族系化合物、イソソルビド系化合物、ビナフチル系化合物、及びコレステロール系化合物からなる群から選択される少なくとも1種の化合物である前記項1~5のいずれかに記載の組成物。
[項7]
前記キラルドーパントが、イソソルビド系化合物及びビナフチル系化合物から選択される少なくとも1種の化合物である前記項1~5のいずれかに記載の組成物。
[項8]
前記キラルドーパントが、下記一般式(II)で表される化合物から選択される少なくとも1種の化合物である前記項1~5のいずれかに記載の組成物
【0013】
【化2】
【0014】
(式中、Zは一般式(III)
【0015】
【化3】
【0016】
で表される基又は一般式(IV)
【0017】
【化4】
【0018】
で表される基であり、Lは-CH-、-C(O)-、-O-C(O)-又は-C(O)-O-を表し、Yはベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Mは単結合又は-C≡C-を表し、Yは単結合、ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Mは単結合又は-O-を表し、Rは炭素数3~12の直鎖若しくは分岐状アルキル基又は-CNを表し、Yはその環の1位及び4位でL及びMと結合し、Yはその環の1位及び4位でM及びMと結合し、Lが-C(O)-の場合に-Y-M-Y-M-Rはターシャリーブチル基であってもよい)。
[項9]
組成物中のネマチック液晶化合物とキラルドーパントの含有量が、ネマチック液晶化合物20~99mol%、キラルドーパント1~80mol%である前記項1~8のいずれかに記載の組成物。
[項10]
前記項1~9のいずれかに記載の組成物のキラルドーパント含有量を調整することによって、該組成物の最大g値が得られる波長を変更する、該組成物の円偏光発光性を調整する方法。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、g値の絶対値が大きく円偏光性に優れる組成物が得られる。また、最大g値の得られる波長を任意に選択可能な、例えば可視光領域であれば最大g値の得られる色の調整(発色性の調整)が可能な組成物が得られる。したがって、本発明の組成物は円偏光発光材料に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は実施例1で得られた組成物(5CB/CD;CD3mol%)の円偏光発光測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定の結果を示すグラフである。
図2図2は実施例2で得られた組成物(S-Bi6/5CB/CD)の円偏光発光測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定の結果を示す発色、円偏光を表す写真である。
図3図3は実施例3で得られた組成物(S-CBI5/5CB/CD)の発色、円偏光を表す写真である。
図4図4は実施例3で得られた組成物(S-CBI5/5CB/CD)の円偏光発光測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明を説明する。なお、本明細書では、特に断らない限り、単に「g値」と表したときはg値の絶対値を意味し、「最大g値」とは、波長300~900nm、好ましくは350~850nm、より好ましくは350~800nmの範囲におけるg値の絶対値の最大値を意味する。
【0022】
<1.ネマチック液晶化合物>
本発明の円偏光発光用組成物はネマチック液晶化合物を含有する。本明細書ではこの化合物を「第1成分」と称することがある。なお、第1成分は組成物中の含有量が最も多い成分を必ずしも意味するわけではなく、後述の第2成分、第3成分も最も多い成分となりえる。ネマチック液晶化合物は、液晶性を有する化合物のうち、液晶相がネマチック相となるものであり、そのような化合物1種だけでもよいし2種以上を組み合わせてもよい。ネマチック液晶化合物としては、第2成分のキラルドーパントによってコレステリック相(当業者においては「キラルネマチック相」と称されることもある)構造を形成できるものであればよく、本発明の組成物の使用目的、用途等に応じて、必要とされる特性(粘性、温度特性、発光性等)を備えた化合物を適宜選択することが可能である。
【0023】
ネマチック液晶化合物としては、例えば、ベンゾニトリル化合物(例えば、シアノビフェニル化合物、シアノフェニルエステル、シアノフェニルシクロヘキサン、これらがフッ素置換された化合物など)、フッ素置換フェニルエステル、フッ素置換フェニルシクロヘキサン、シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、フッ素置換シクロヘキサンカルボン酸フェニルエステル、アルコキシ置換フェニルピリミジン、フッ素置換アルコキシ置換フェニルピリミジン、シアノ置換フェニルピリミジン、フッ素置換フェニルピリミジン、フェニルジオキサン、トラン系化合物、フッ素置換トラン系化合物、アゾメチン化合物などが挙げられ、これらの少なくとも1種を使用することができる。
【0024】
ネマチック液晶化合物としては、液晶相を示す温度範囲が室温(25℃)を含む点からベンゾニトリル化合物が好ましい。ベンゾニトリル系化合物としては、下記一般式(I)で表される化合物が例示される。
【0025】
【化5】
【0026】
(式中、A及びAは独立して、単結合、-O-、-CH-O-、-O-CH-、-C(O)-、-C(O)-O-又は-O-C(O)-を表し、Bは単結合、-O-、-C(O)-、-C(O)-O-又は-O-C(O)-を表し、X及びXは独立して、ベンゼン環、フッ素置換ベンゼン環(本明細書においてはベンゼン環を構成する水素原子の少なくとも1つがフッ素原子に置換したベンゼン環をいう)又はシクロヘキサン環を表し、Rは炭素数3~7の直鎖又は分岐状アルキル基を表し、Xはその環の1位及び4位でA及びAと結合し、Xはその環の1位及び4位でA及びBと結合し、A-Xは単結合であってもよい。)。
【0027】
好ましいベンゾニトリル化合物は次のとおりである。
一般式(I)において、Aが単結合、Xがベンゼン環、A-Xが単結合、Bが単結合、Rが炭素数3~7(さらに好ましくは炭素数4~6)の直鎖状アルキル基であり、Xはそれ自身を構成する環の1位及び4位でA及びAと結合し、Xはそれ自身を構成する環の1位及び4位でA及びBと結合している化合物;
が単結合、Xがシクロヘキサン環、A-Xが単結合、Bが単結合、Rが炭素数3~7(さらに好ましくは炭素数4~6)の直鎖状アルキル基であり、Xはそれ自身を構成する環の1位及び4位でA及びAと結合し、Xはそれ自身を構成する環の1位及び4位でA及びBと結合している化合物;
が単結合、Xがシクロヘキサン環、Aが単結合、Xがシクロヘキサン環、Bが単結合、Rが炭素数3~7(さらに好ましくは炭素数4~6)の直鎖状アルキル基であり、Xはそれ自身を構成する環の1位及び4位でA及びAと結合し、Xはそれ自身を構成する環の1位及び4位でA及びBと結合している化合物。
【0028】
ベンゾニトリル化合物の具体例としては、以下に示すものが挙げられる。
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
【化8】
【0032】
上記したベンゾニトリル化合物の中でも特に、4-ペンチル-4’-シアノビフェニル(5CBとも称する)、4-ヘキシル-4’-シアノビフェニル(6CBとも称する)、4-(4-ペンチルシクロヘキシル)ベンゾニトリル、4-[4-(4-ペンチルシクロヘキシル)シクロヘキシル]ベンゾニトリルがさらに好ましく、4-ペンチル-4’-シアノビフェニルがより一層好ましい。
【0033】
ネマチック液晶化合物の中には発光性を備えたものがあるが、本発明ではそのような発光性のネマチック液晶化合物を使用してもよい。
【0034】
本発明の組成物におけるネマチック液晶化合物の含有量は、組成物が所望の(例えば使用される)温度でコレステリック液晶相となり、かつ所望のg値が得られれば特に制限されないが、第1成分と第2成分との合計量に対し、例えば20~99mol%、好ましくは60~99mol%、より好ましくは75~98mol%である。ネマチック液晶化合物の含有量がこれらの範囲内にあると、組成物が良好な(g値の大きな)円偏光発光を発揮できる温度範囲が広範となる点、配向秩序度が向上することでらせん軸を秩序高く配向させることができ大きなg値が得られる点で有利となる。
【0035】
<2.キラルドーパント>
本発明の円偏光発光用組成物はキラルドーパントを含有する。本明細書ではこの化合物を「第2成分」と称することがある。このキラルドーパントは組成物中でネマチック液晶化合物をらせん状に整列させるものであれば特に限定されず、液晶分野で既知のものを使用できる。本発明の組成物はキラルドーパントを含むことによりコレステリック相構造を有する。このようなキラルドーパントは、本発明の組成物の使用目的、用途等に応じて、必要とされる特性(粘性、温度特性、発光性、らせんピッチ調整性等)を備えた化合物を適宜使用することが可能である。
【0036】
キラルドーパントとしては、不斉炭素原子を少なくとも1つ含む光学活性な化合物、軸性キラルな化合物、中心性キラリティー化合物などを使用できる。例えば、芳香族エステル系化合物、芳香族エーテル系化合物、脂肪族エステル系化合物、脂肪族エーテル系化合物、環状脂肪族系化合物、イソソルビド系化合物、ビナフチル系化合物、コレステロール系化合物などが挙げられ、これらの少なくとも1種を使用することができる。好ましくは、芳香族エステル系化合物、芳香族エーテル系化合物、環状脂肪族系化合物、イソソルビド系化合物、ビナフチル系化合物、コレステロール系化合物であり、より好ましくは環状脂肪族系化合物、イソソルビド系化合物、ビナフチル系化合物、殊にイソソルビド系化合物、ビナフチル系化合物である。
【0037】
キラルドーパントの具体的な化合物は、例えば以下に示すものである。なお、以下に示した化合物には光学異性体が存在し、ここではそのような光学異性体についてまで示していないが、本発明ではそのような光学異性体も以下に示した化合物と同様に使用できる。
【0038】
【化9】
【0039】
【化10】
【0040】
【化11】
【0041】
【化12】
【0042】
【化13】
【0043】
【化14】
【0044】
また、イソソルビド系化合物としては、下記一般式(II)で表される化合物が好ましい。
【0045】
【化15】
【0046】
(式中、Zは一般式(III)
【0047】
【化16】
【0048】
で表される基又は一般式(IV)
【0049】
【化17】
【0050】
で表される基であり、Lは-CH-、-C(O)-、-O-C(O)-又は-C(O)-O-を表し、Yはベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Mは単結合又は-C≡C-を表し、Yは単結合、ベンゼン環又はシクロヘキサン環を表し、Mは単結合又は-O-を表し、Rは炭素数3~12の直鎖若しくは分岐状アルキル基又は-CNを表し、Yはその環の1位及び4位でL及びMと結合し、Yはその環の1位及び4位でM及びMと結合し、Lが-C(O)-の場合に-Y-M-Y-M-Rはターシャリーブチル基であってもよい)。
【0051】
イソソルビド系化合物の中でも、大きいg値が得られる点で以下の化合物が最も好ましい。
【0052】
【化18】
【0053】
キラルドーパントの中には発光性を備えたものがあり、本発明ではそのような発光性のキラルドーパントも使用することができる。発光性を備えたキラルドーパントとしては、発光性有機金化合物(例えば以下に示すS-Bi6、S-CBI5)などが挙げられ、これらを単独で、2種以上組み合わせて、あるいは発光性を備えないキラルドーパントと組み合わせて使用することができる。
【0054】
【化19】
【0055】
本発明の組成物におけるキラルドーパントの含有量は、所望のg値が得られれば特に制限されない。この含有量はコレステリック相のらせん構造のピッチ(周期)に影響を与えるため、特定色で円偏光発光が必要な場合は、この含有量を調整して周期をその波長に整合させ、これにより、必要とされる色の円偏光発光を実現できる。即ち、この含有量を調整することにより所望の色の円偏光発光を示す組成物が得られる。
【0056】
本発明の組成物におけるキラルドーパントの含有量は、第1成分と第2成分との合計量に対し、例えば1~80mol%、好ましくは1~40mol%、より好ましくは2~25mol%である。含有量がこれらの範囲内にあると、組成物がコレステリック相を維持し良好な(g値の大きな)円偏光発光を発揮できる温度範囲が広範である点およびネマチック液晶化合物とキラルドーパントが相分離しにくい点で有利となる。
【0057】
<3.発光性化合物>
本発明の円偏光発光用組成物は発光性化合物を含む場合がある。本明細書ではこの化合物を「第3成分」と称することがある。本発明の円偏光発光用組成物において、ネマチック液晶化合物、キラルドーパントのいずれか、または双方で所望する波長(色)において十分な発光性が得られる場合には、発光性化合物は必須成分ではないが、組成物に加えてもよい。
【0058】
ここで、円偏光発光用組成物が備えるべき発光性は、該組成物の使用目的、用途等に応じて変化するため一様に定まるものではなく特に制限されないが、例えば通常の発光スペクトルを測定したときの発光量子収率が1%以上、好ましくは3%以上である。第1成分及び第2成分のみでこれを下回る場合には使用目的、用途等によっては第3成分を使用することもできる。また、第1成分及び第2成分のみで所望の波長で発光しない場合には使用目的、用途等によっては第3成分を使用することもできる。
【0059】
なお、発光量子収率は、蛍光分光光度計(好ましくはHITACHI、F-7000)、積分球(好ましくはHitachi High-Technologies, Unit No. 5J0-0444)を使用し、基準物質として酸化アルミニウム粉末を用いて、実施例記載の測定条件と同一条件で、同一条件が困難であるときはなるべく同じ条件で測定された値である。
【0060】
発光性化合物としては、本発明の組成物がコレステリック相を有し円偏光発光を示すことができれば特に限定されず、本発明の組成物の使用目的、用途等に応じて、必要とされる特性(粘性、温度特性、発光性等)を備えた化合物を適宜使用することが可能である。
【0061】
発光性化合物としては、例えば、有機色素(例えば、フルオレセイン系色素、ピレン系色素、ローダミン系色素、クマリン系色素、スチルベン系色素、シアニン系色素、ナイルレッド、金属ヒドロキノリン系色素)、金属錯体(例えば、有機白金錯体化合物、有機金錯体化合物、有機イリジウム錯体化合物)、発光性半導体微粒子などが挙げられ、これらを単独であるいは2種以上組み合わせて使用することができる。好ましくは、ローダミン系色素、クマリン系色素、ナイルレッド、有機金錯体化合物である。
【0062】
発光性化合物の具体的な化合物としては、例えばクマリン6、ローダミン6G、ナイルレッド、有機金錯体化合物が挙げられる。
【0063】
本発明の組成物において発光性組成物を含有する場合、その含有量は、第1成分と第2成分の合計量に対し、例えば0.01~20mol%、好ましくは0.1~10mol%、より好ましくは0.1~2mol%である。含有量がこれらの範囲内にあると、ネマチック液晶化合物とキラルドーパントの組合せが奏するコレステリック相を維持し円偏光発光を発揮できる温度範囲を損ないにくく強い円偏光が得られる点で有利となる。
【0064】
<4.円偏光発光用組成物>
本発明の円偏光発光用組成物は、上述の第1及び第2成分、必要により第3成分を、例えば10~80℃で混合することにより製造できる。均質な混合のために溶媒を使用することも可能である。必要に応じて溶媒を使用して第1成分と第2成分とを混合するとコレステリック相構造が形成され、次いで不要となった溶媒を除去することで本発明の組成物を製造できる。第3成分は、必要であれば溶媒で希釈されて希釈液として、第1成分と第2成分とを混合する際に添加することが好ましいが、第1成分と第2成分とを混合してコレステリック相構造を形成した後に添加することもできる。混合のための溶媒としては、キラルドーパントを使用したコレステリック液晶の製造にて一般的に使用されるものが利用でき、例えばジクロロメタン、ジエチルエーテル、クロロホルム、酢酸エチル、アセトン、メチルエチルケトン、トルエンであり、好ましくはジクロロメタン、ジエチルエーテル、クロロホルム、アセトンである。
【0065】
本発明の組成物における第1成分及び第2成分の含有量は所望のg値を発揮すれば特に制限されないが、その下限は例えば50重量%以上、60重量%以上、70重量%以上、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、93重量%以上、より一層好ましくは96重量%、98重量%以上であり、その上限は例えば100重量%以下、99.5重量%以下、98重量%以下、97重量%以下、95重量%以下、93重量%以下、90重量%以下、85重量%以下、80重量%以下である。
【0066】
また、本発明の組成物は、第1~第3成分に加え、例えば組成物の使用目的、用途等に応じて、任意に他の成分を、所望のg値を得られる限りにおいて含むことができる。そのような成分は組成物の使用目的、用途等に応じて従来公知のものを適宜の含有量で使用することができる。例えば、製膜性向上のためのモノマー又はポリマー成分などである。
【0067】
本発明の組成物は、最大g値の絶対値が大きく、例えば0.34以上、0.48以上、0.5以上、0.6以上、0.7以上、0.8以上、0.9以上、1.0以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上であり、好ましくは1.0以上、1.1以上、1.2以上、1.3以上である。g値は、円偏光発光測定装置(好ましくはCPL-200(日本分光社))を用いて、実施例記載の測定条件と同一条件で、同一条件が困難であるときはなるべく同じ条件で測定された値である。
【0068】
本発明の組成物において、円偏光発光の右回り及び左回りは、例えば、第2成分のキラリティーを変更することによって選択できる。
【0069】
本発明の組成物の種々の物性や特性、例えば粘性、複屈折、誘電率、らせんピッチ、は、第1~第3成分の種類や量を変更することによって、又はその他の成分を適宜の量で組成物に含有させることによって変更、調整することができる。
【0070】
また、本発明の組成物は、例えば、膜、成型体、液晶状態等の形態で使用され得るが、膜又は液晶状態の形態で使用されることが好ましい。
【0071】
本発明の組成物は、非偏光の紫外光あるいは可視光光源の光を任意の波長のほぼ純粋な(g値の絶対値が大きい)円偏光に変換する。より詳細には、本発明の組成物は、g値の大きい円偏光発光性を有し、また、第2成分の含有量を変更することによって最大g値が得られる波長(例えば300~900nm、好ましくは350~850nm、より好ましくは350~800nm)を変更できる。このため、本発明の組成物では発色性の調整が容易であり、従来の円偏光性ポリマー等において発色性の調整に必要であった分子構造の変更が不要である。
【0072】
本発明は、本発明の組成物のキラルドーパント含有量を調整することによって、該組成物の最大g値が得られる波長を変更する、該組成物の円偏光発光性を調整する方法も包含する。この方法に関する詳細は上述の組成物の詳細と同様である。
【0073】
本発明の組成物は、円偏光を利用する用途、例えば、発光デバイス、高輝度液晶ディスプレイの光源、3次元ディスプレイ、光通信、電子ペーパー、セキュリティインク、不可視性インク、有機偏光板・フィルム、多元メモリーデバイス、大面積発光デバイス、発光分子ワイヤー、液晶表示装置の光変換部材等に必要な円偏光発光材料として使用できる。また、植物(野菜、果物等)の生長制御(促進又は抑制)の目的で円偏光が利用されており、本発明の組成物はその光源の発光材料としても利用できる。さらに、ある種の昆虫、甲殻類、イカなどが円偏光を識別していることが報告され、円偏光を海中に照射することで、漁獲対象の魚そのもの、その魚のえさとなる小魚、小エビ、プランクトンなどを効果的に集めたり、選択的に集めことによって、そのエサに集まる目的の魚だけを獲ることができる可能性もあり、その際の照明の光源、例えば集魚用光源の発光材料としても利用できる。これらのものは、これらの用途で従来用いられている製造法、製造原料等を本発明の組成物に適用することで製造できる。
【0074】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0075】
[実施例1]5CB/CD
<第1成分;5CB>
ネマチック液晶化合物は、市販の4-ペンチル-4’シアノビフェニル(5CB)(和光純薬工業)を使用した。
【0076】
<第2成分;CDの合成>
以下に示すキラルドーパント(CD)を合成した。
【0077】
【化20】
【0078】
(1)まず、以下のスキームに従って中間体の4-(ヘキシルオキシ)安息香酸メチル(CD-1)を合成した。
【0079】
【化21】
【0080】
100mL二口ナス型フラスコにp-ヒドロキシ安息香酸メチル(0.74g,4.9mmol)、1-ブロモヘキサン(0.65g,3.9mmol)、炭酸カリウム(1.1g,8.0mmol)、18-crown-6(73mg,0.28mmol)とアセトン(20mL)を入れ25時間還流を行った。ひだ付きろ紙で固体を除去し、ろ液を溶媒留去した。ジクロロメタンで抽出、飽和炭酸ナトリウム水溶液、飽和塩化アンモニウム水溶液、イオン交換水、飽和食塩水の順に洗浄し有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水した。ひだ付きろ紙で固体を除去し、ろ液を溶媒留去した後に、黄色の液体のCD-1を収量0.81g(3.4mmol)、収率88%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.98 (dd, J = 6.7 and 2.0 Hz, 2H, 2,6-H in phenyl), 6.90 (dd, J = 6.7 and 2.0 Hz, 2H, 3,5-H in phenyl), 4.00 (t, J = 6.5 Hz, 2H, OCH 2), 3.88 (s, 3H, OCH 3), 1.80 (q, J = 7.0 Hz, 2H, OCH2CH 2), 1.51-1.40 (m. 2H, OCH2CH2CH 2), 1.39-1.29 (m, 4H, O(CH2)3(CH 2)2), 0.906 (t. J = 7.0 Hz, 3H, O(CH2)5CH 3)。
【0081】
(2)次に、以下のスキームに従ってCD-1から4-(ヘキシルオキシ)安息香酸(CD-2)を合成した。
【0082】
【化22】
【0083】
100 mLナス型フラスコに化合物CD-1(0.81 g, 3.4 mmol)、水酸化カリウム(1.0 g, 18 mmol)、エタノール(20 mL)を入れ、12時間還流を行った。還流終了後、反応溶液を1Mの塩酸水溶液に加え、析出した固体を吸引ろ過により回収した。薄茶色の固体のCD-2を収量0.68 g(3.1 mmol)、収率90%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 8.05 (dd, J = 6.7 and 1.6 Hz, 2H, 2,6-H in phenyl), 6.93 (dd, J = 6.9 and 2.2 Hz, 2H, 3,5-H in phenyl), 4.02 (t. J = 6.3 Hz, 2H, OCH 2), 1.81 (q, J = 6.9 Hz, 2H, O CH2CH 2), 1.51-1.41 (m, 2H, O(CH2)2CH 2), 1.40-1.29 (m, 4H, O(CH2)3(CH 2)2), 0.910 (t, J = 7.3 Hz, 3H, O(CH2)5CH 3)。
【0084】
(3)以下のスキームに従ってCD-2からCDを合成した。
【0085】
【化23】
【0086】
100 mLの二口ナス型フラスコにCD-2(0.68 g, 3.1 mmol)、1-(3-ジメチルアミノプロピル)-3-エチルカルボジイミド塩酸塩(EDC)(1.2 g, 6.3 mmol)、N,N-ジメチル-4-アミノピリジン(DMAP)(0.38 g, 3.1 mmol)、ジクロロメタン(12 mL)を入れアルゴン置換を行った。イソソルビド(0.21 g, 1.4 mmol)のジクロロメタン(23 mL)溶液を滴下し、室温で24時間撹拌した。ジクロロメタンで抽出し、イオン交換水で1回、飽和食塩水で1回洗浄し、有機相を無水硫酸ナトリウムで脱水した。ひだ付きろ紙でろ過し、固体を除去した後に溶媒留去し、得られた固体を展開溶媒としてジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、MeOHを用いた再結晶により精製した。白色の針状結晶のCDを収量0.20 g(0.36 mmol)、収率24%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 8.02 and 7.95 (dd, J = 7.1 and 2.0, 6.9 and 2.2 Hz, 4H; 3,5-H in benzene), 6.90 (t, J = 8.9 Hz, 4H, 2,6-H in benzene), 5.45 and 5.04 (d and t, J = 3.2, 4.9 Hz, 2H, COOCH), 5.39 and 4.67 (quin and d, J = 5.4, 4.8 Hz, 2H, CH2OCH), 4.15 - 3.96 (m, 8H, CH 2OCH, OCH 2), 1.85 - 1.74 (m, 4H, OCH2CH 2(CH2)3CH3), 1.52 - 1.40 (m, 4H, O(CH2)2CH 2), 1.40-1.28 (m, 8H, O(CH2)3(CH 2)2), 0.97-0.87 (m, 6H, O(CH2)5CH 3)。
【0087】
<2成分系組成物;5CB/CDの調整>
5CB及びCDを分光分析用ジクロロメタン溶液(和光純薬)で希釈し、その各溶液をCD:5CB=3mol%:97mol%の割合で混合した。室温下でこの混合溶液からジクロロメタン溶液をゆっくり揮発させた後、35℃以下で30分以上減圧乾燥を行って組成物を得た。
【0088】
<スペクトル測定>
調製した組成物のサンプルを用いて、円偏光発光測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定を行った。測定結果を図1に示す。5CB/CDのg値は1.2(波長392-411nm)であった。なお、サンプルの作成方法は次のとおりである。
【0089】
[サンプルの作製方法]
(a)石英板の洗浄および乾燥
石英板を下記手順で洗浄および乾燥した。
(1)超音波洗浄(中性洗剤):30分
(2)流水洗浄:30分
(3)超音波洗浄(中性洗剤):30分
(4)流水洗浄:30分
(5)超音波洗浄(イオン交換水):30分
(6)超音波洗浄(2-プロパノール):30分
(7)乾燥(60℃):30分
(8)オゾン洗浄:5分
(b)配向膜処理・ラビング処理
2.5 wt%のポリアミド酸溶液(N-メチルピロリドン:γ-ブチロラクトンの体積比=1:2)を調製し、0.45μmのメンブレンフィルターで不溶分を除去した後、(a)の手順で洗浄および乾燥した石英板上に、スピンコーター(スピンコーター回転数および秒数、第1段階:300 rpm,3秒;第2段階:3000 rpm,30秒)を用いて、ポリアミド酸の薄膜を製膜した。次いで、オーブン中で100℃で1時間、250℃で2時間加熱処理を行い,ポリアミド酸をイミド化させ、ポリイミドの薄膜を得た。さらにこのポリイミド薄膜表面のラビング処理を行うため、フェルトを用いて同一方向に50回手動でこすった。
(c)サンドイッチ型セルの組み立て
(b)で作成したラビング処理後の石英板の2辺に、接着剤とスペーサー(Thermo Scientific Duke Standards - 9000 Series Glass Particles, 5 μm(4.8 μm ± 0.3 μm))を混ぜたものを薄く塗布し接着した。この時、ラビング方向が平行になるように配置し、平行配向セルを作製した。接着完了後、紫外可視近赤外分光光度計V-500(JASCO)を用いて干渉縞を観察し、下記の測定条件及び式よりセルギャップを求めた。セルギャップは、実施例1(5CB/CD)及び2(S-Bi6/5CB/CD)では4.2μmであり、実施例3(S-CBI5/5CB/CD)では4.2μm([CD]=0, 1 mol%)及び3.6μm([CD]=2 - 5 mol%)であった。
[測定条件]
測定モード:吸収スペクトル,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:200 nm/min,測定波長範囲:400-600 nm
【0090】
【数1】
【0091】
d:セルギャップ,Δm:干渉ピーク数,λ1:測定終了波長,λ2:測定開始波長
(d)サンプルの作成
調製した組成物を(c)で作製したサンドイッチ型セルに毛細管現象を用いて封入し、サンプルとした。このサンプルで円偏光発光測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定を行った。
【0092】
[円偏光発光(CPL)測定]
測定は、円偏光発光測定装置CPL-200(JASCO)を用いて行った。サンプルを測定装置の測定室内に設置し1点測定を行った後、サンプルを90°回転させ再度測定を行った。さらにサンプルの表裏を逆にして測定を行い、両面において同様の結果が得られることを確認した。なお、測定条件の詳細は以下のとおりである。
[測定条件]
測定バンド幅:500 nm;励起波長:270 nm;測定波長範囲:300 ~ 850 nm;感度(V):low (1000 mdeg);検出器感度:980 V,HT;積算回数:1回
[発光スペクトル測定]
測定は、分光蛍光高度計F-7000 (HITACHI)を用いて行った。測定条件は以下の通りである。
[測定条件]
測定モード:蛍光スペクトル,励起側バンド幅:2.5 nm,蛍光側バンド幅:2.5 nm,レスポンス:自動,感度:マニュアル,PMT 電圧:700 V,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:240 nm/min,繰り返し回数:1, 励起波長:280 nm, 測定範囲:290-550 nm
[反射スペクトル測定]
測定は、紫外可視近赤外分光光度計V-500(JASCO)、積分球ISV-469(JASCO)、標準反射板スペクトラロン(Labsphere)を用いて行った。なお、詳細な測定条件は以下の通りである。
[測定条件]
測定モード:反射スペクトル,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:100 nm/min,測定波長範囲:200-800 nm。
【0093】
[実施例2]S-Bi6/5CB/CD
<第2成分;S-Bi6の合成>
以下に示す発光性キラルドーパント;金錯体S-Bi6を合成した。
【0094】
【化24】
【0095】
(1)まず、以下のスキームに従って中間体S-Bi6-1を合成した。
【0096】
【化25】
【0097】
二口ナス型フラスコに、4-ブロモ-4’-ヒドロキシビフェニル(1.2 g, 4.8 mmol)とトリフェニルホスフィン(1.2 g, 4.7 mmol)を入れ、アルゴン置換した。(R)-2-ヘプタノール(0.54 g, 4.6 mmol)、dry THF(8.0 mL)を加え、アルゴン置換下の0℃で撹拌した。DIAD(0.97 g, 4.7 mmol)のdry THF(5.0 mL)溶液をゆっくり滴下し、アルゴン雰囲気下で16時間撹拌した。反応終了後、溶媒留去しジエチルエーテル:ヘキサン=1:1の混合液(100 mL)を滴下し、ろ過により固体を取り除いた。ろ液を溶媒留去し、ジエチルエーテルで抽出した後イオン交換水と飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した。ろ過により固体を取り除き、ろ液をエバポレーションにより濃縮した。展開溶媒としてジクロロメタン:ヘキサン=1:1の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、無色の液体を収量1.1g(3.2 mmol)、収率68%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.52 (dd, J = 6.8 and 2.4 Hz, 2H, 3,5-H in biphenyl), 7.46 (dd, J = 6.8 and 2.4 Hz, 2H, 3′,5′-H in biphenyl), 7.41 (dd, J = 6.8 and 2.4 Hz, 2H, 2,6-H in biphenyl), 6.94 (dd, J = 6.8 and 2.4 Hz, 2H, 2′,6′-H in biphenyl), 4.39 (sext, J = 6.4 Hz, 1H, OCH), 1.76-1.31 (m, 11H, OCH(CH 3)(CH 2)4CH3), 0.89 (t, J = 7.2 Hz, 3H, CH 3)。
【0098】
(2)次に,以下のスキームに従ってS-Bi6-1から中間体S-Bi6-2を合成した。
【0099】
【化26】
【0100】
二口ナス型フラスコに化合物S-Bi6-1(1.1 g, 3.2 mmol)、2-メチル-3-ブチン-2-オール(1.4 mL, 13 mmol)、CuI(15 mg, 62 μmol)、トリフェニルホスフィン(17 mg, 28 μmol)、PdCl(PPh(48 mg, 62 μmol)を加え、トリエチルアミン(14 mL)を入れ5時間還流した。ろ過により固体を取り除きろ液を溶媒留去し、酢酸エチルで抽出した後、飽和塩化アンモニウム水溶液、イオン交換水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過により固体を取り除き、溶媒留去した後、展開溶媒としてジクロロメタンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、褐色の液体を0.98g(2.8 mmol)、収率90%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.50-7.44 (m, 6H, 2, 3, 5, 6, 3′, 5′-H in biphenyl), 6.95 (dd, J = 5.6 and 2.8 Hz, 2H, 2′, 6′-H in biphenyl), 4.39 (sext, J = 6.0 Hz, 1H, OCH), 2.04 (s, 1H, OH) 1.75-1.30 (m, 17H, OCH(CH 3)(CH 2)4CH3, C(CH 3)2OH), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H, CH 3)。
【0101】
(3)次に、以下のスキームに従ってS-Bi6-2から中間体S-Bi6-3を合成した。
【0102】
【化27】
【0103】
二口ナス型フラスコに化合物S-Bi6-2(0.98 g, 2.8 mmol)、KOH(0.47 g, 8.4 mmol)、トルエン(35 mL)を入れ、1時間還流を行った。ろ過により固体を取り除き、ろ液を溶媒留去し、酢酸エチルで抽出した後、飽和塩化アンモニウム水溶液、イオン交換水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去した。展開溶媒としてジクロロメタン:ヘキサン=1:1の混合溶媒を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、薄黄色の液体を0.70g(2.4 mmol)、収率85%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.55-7.49 (m, 6H, 2, 3, 5, 6, 3′, 5′-H in biphenyl), 6.95 (dd, J = 6.4 and 1.6 Hz, 2H, 2′, 6′-H in biphenyl), 4.40 (sext, J = 6.0 Hz, 1H, OCH), 3.11 (s, 1H, CCH), 1.75-1.30 (m, 11H, OCH(CH 3)(CH 2)4CH3), 0.89 (t, J = 6.4 Hz, 3H, CH 3)。
【0104】
(4)最後に、以下のスキームに従ってS-Bi6-3から中間体S-Bi6-4を経由しS-Bi6を合成した。
【0105】
【化28】
【0106】
二口ナス型フラスコに、化合物S-Bi6-3(0.20 g, 0.71 mmol)、後述の製造例1で製造した(tht)AuCl(0.26 g, 0.82 mmol)、ジクロロメタン(10 mL)/メタノール(6 mL)の混合溶媒を入れ、アルゴン置換を行った。酢酸ナトリウム(0.29 g, 3.4 mmol)のジクロロメタン(12 mL)/メタノール(5 mL)溶液を滴下し、室温で3時間撹拌した。メンブレンフィルターでろ過し、得られた固体をメタノール、イオン交換水、メタノール、ジクロロメタンの順に洗浄した。得られた固体(化合物S-Bi6-4)とCHCl(10 mL)を二口ナス型フラスコに入れ、1-ペンチルイソシアニド(95 μL, 0.75 mmol)を滴下し、室温で3時間撹拌した。セライトでろ過し、ろ液を溶媒留去により濃縮した。得られた固体を展開溶媒としてジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、良溶媒;ジクロロメタン、貧溶媒;ヘキサン(1:1)を用いて再結晶を行い、黄色の板状結晶を収量0.28g(0.48 mmol)、収率66%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.51-7.43 (m, 6H, 2,3,5,6,3′,5′-H in biphenyl), 6.93 (d, J = 8.8, 2H, 2′,6′-H in biphenyl), 4.38 (sext, J = 6.0 Hz, 1H, OCH), 3.62 (t, J = 6.8 Hz, 2H, NCH 2), 1.84-1.76 (m, 4H, OCH(CH3)CH 2, NCH2CH 2), 1.75-1.30 (m, 13H, OCH(CH 3)CH2(CH 2)3CH3, NCH2(CH 2)2CH3), 0.95 (t, J = 6.8 Hz, 3H, OCH(CH3)CH2(CH2)3CH 3), 0.89 (t, J = 6.8 Hz, 3H, CH 3)。
【0107】
なお、S-Bi6の発光量子収率を、蛍光分光光度計(HITACHI、F-7000)、積分球(Hitachi High-Technologies, Unit No. 5J0-0444)を使用し、基準物質として酸化アルミニウム粉末を用いて以下の測定条件で測定したところ、4%(λex = 357 nm)であった。
【0108】
[発光量子収率測定条件]
測定モード:波長スキャン,スキャンモード:蛍光スペクトル,データモード:蛍光,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:240 nm/min以下。
【0109】
<S-Bi6/5CB/CDの調製>
S-Bi6及び実施例1と同様にして得た5CBを分光分析用ジクロロメタン溶液(和光純薬)で希釈し、その各溶液をS-Bi6:5CB=10mol%:90mol%の割合で混合溶液を調製した。同様に、実施例1と同様にして得たCDを分光分析用ジクロロメタン溶液(和光純薬)で希釈し、そのCD希釈液をS-Bi6/5CB混合溶液に0、1、2、3、4、5mol%の割合で混合した。室温下でこのS-Bi6/5CB/CD混合溶液からジクロロメタン溶液をゆっくり揮発させた後、35℃以下で30分以上減圧乾燥を行って組成物を得た。
【0110】
<スペクトル測定>
調製された組成物から実施例1と同様にしてサンプルを作成し、以下に示す測定条件を除き実施例1と同様にして円偏光発光スペクトル測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定を行った。測定結果を図2に示す。なお、Intensity(発光強度)の370nm付近のピークは5CBに由来し、510nm付近のピークはS-Bi6に由来するものと推測される。詳細な測定条件を以下に示す。
[円偏光発光(CPL)測定条件]
測定バンド幅:3000 nm;励起波長:270 nm;測定波長範囲:300 ~ 850 nm;感度(V):low (1000 mdeg);検出器感度:980 V,HT;積算回数:1回
[発光スペクトル測定条件]
測定モード:蛍光スペクトル,励起側バンド幅:5.0 nm,蛍光側バンド幅:5.0 nm,レスポンス:自動,感度:マニュアル,PMT 電圧:700 V,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:240 nm/min,繰り返し回数:1, 励起波長:314 nm (UV-35; AGCテクノグラス株式会社 色ガラスフィルター), 測定範囲:330 - 700 nm
[反射スペクトル測定条件]
測定モード:反射スペクトル,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:100 nm/min, 測定波長範囲:200 - 800 nm。
【0111】
最大g値は、CD含有量が0、1、2、3、4、5モル%のときに、それぞれ、-0.65(527-536nm)、0.48(364-374nm)、-0.71(590nm)、1.1(540-547nm)、1.3(440nm)、1.2(367-384nm)であった。また、%Rの結果より、CDの含有量が2から5モル%へ変化するにつれて色調が変化していることがわかる。
【0112】
[実施例3]S-CBI5/5CB/CD
<第2成分;S-CBI5の合成>
以下に示す発光性キラルドーパント;金錯体S-CBI5を合成した。
【0113】
【化29】
【0114】
(1)まず、以下のスキームに従って中間体S-CB-1を合成した。
【0115】
【化30】
【0116】
二口ナス型フラスコに、4-ブロモ-4’-ヒドロキシビフェニル(2.8 g, 11 mmol)とトリフェニルホスフィン(2.9 g, 11 mmol)を入れ、アルゴン置換した。(-)-β-シトロネロール(1.6 g, 10 mmol)、dry THF(10 mL)を加え、アルゴン置換下の0℃で撹拌した。DIAD(2.3 g, 11 mmol)のdry THF(10 mL)溶液をゆっくり滴下し、アルゴン雰囲気下で21時間撹拌した。反応終了後、溶媒留去しヘキサン(100 mL)を滴下し、ろ過により固体を取り除いた。ろ液を溶媒留去し、ジエチルエーテルで抽出した後イオン交換水と飽和食塩水で洗浄し、有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水した。ろ過により固体を取り除き、ろ液をエバポレーションにより濃縮した。展開溶媒としてジクロロメタン:ヘキサン=1:1の混合溶媒を用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、白色の固体を収量3.1g(8.0 mmol)、収率80%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.52 (dd, J = 7.2, 1.4 Hz; 2H; 3,5-H in biphenyl), 7.47 (dd, J = 7.2, 1.8 Hz; 2H; 2,6-H in biphenyl), 7.41 (dd, J = 7.0, 1.6 Hz; 2H; 2’,6’-H in biphenyl), 6.96 (dd, J = 7.2, 1.8 Hz; 2H; 3’,5’-H in biphenyl), 5.11 (t, J = 7.0 Hz; 1H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH), 4.09-3.97 (m, 2H; OCH 2), 2.17-1.91 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH 2), 1.91-1.79, 1.79-1.65 (m, 2H; OCH2CH 2), 1.65-1.56 (m, 1H; OCH2CH2CH), 1.68 (s, 3H; (E)-CH 3), 1.61 (s, 3H; (Z)-CH 3), 1.44-1.34,1.29-1.17 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH 2), 0.964 (dd, J = 6.6, 1.1 Hz; 3H; OCH2CH2CH(CH 3))。
【0117】
(2)次に,以下のスキームに従ってS-CB-1から中間体S-CB-2を合成した。
【0118】
【化31】
【0119】
二口ナス型フラスコに化合物S-CB-1(3.1 g, 8.0 mmol)、2-メチル-3-ブチン-2-オール(3.0g,35 mmol)、CuI(31 mg, 0.16 mmol)、トリフェニルホスフィン(45 mg, 0.17 mmol)、PdCl(PPh(0.12 g, 0.17 mmol)を加え、トリエチルアミン(21 mL)を入れ24時間還流した。ろ過により固体を取り除きろ液を溶媒留去し、ジクロロメタンで抽出した後、飽和塩化アンモニウム水溶液、イオン交換水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、ろ過により固体を取り除き、溶媒留去した後、展開溶媒としてジクロロメタンを用いたシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、薄黄色の固体を3.0g(7.7 mmol)、収率96%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.55-7.47 (m, 4H; 3,5-H in biphenyl, 2,6-H in biphenyl), 7.45 (dd, J = 6.6, 2.1 Hz; 2H; 2’,6’-H in biphenyl), 6.96 (dd, J = 6.9, 2.2 Hz; 2H; 3’,5’-H in biphenyl), 5.11 (tt, J = 7.3, 1.3 Hz; 1H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH), 4.08-3.98 (m, 2H; OCH 2), 2.02 (s, 1H; CCC(CH3)2OH), 2.11-1.92 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH 2), 1.92-1.78, 1.78-1.64 (m, 2H; OCH2CH 2), 1.69 (s, 3H; (E)-CH 3), 1.63 (s, 6H; C≡CC(CH 3)2), 1.61 (s, 3H; (Z)-CH 3), 1.64-1.55 (m, 1H; OCH2CH2CH), 1.48-1.35,1.28-1.18 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH 2), 0.965 (d, J = 6.3 Hz; 3H; OCH2CH2CH(CH 3))。
【0120】
(3)次に,以下のスキームに従ってS-CB-2から中間体S-CB-3を合成した。
【0121】
【化32】
【0122】
二口ナス型フラスコに化合物S-CB-2(3.0 g, 7.7 mmol)、KOH(1.4 g, 25 mmol)、トルエン(18 mL)を入れ、3時間還流を行った。ろ過により固体を取り除き、ろ液を溶媒留去し、ジクロロメタンで抽出した後、飽和塩化アンモニウム水溶液、イオン交換水、飽和食塩水で洗浄した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水し、溶媒を留去した。展開溶媒としてジクロロメタン:ヘキサン=1:1の混合溶媒を用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、薄黄色の固体を2.1g(6.3 mmol)、収率81%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.56-7.47 (m, 6H; 3,5-H in biphenyl, 2,6-H in biphenyl, 2’,6’-H in biphenyl), 6.97 (d, J = 8.2 Hz; 2H; 3’,5’-H in biphenyl), 5.11 (t, J = 6.6 Hz; 1H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH), 4.10-3.97 (m, 2H; OCH 2), 3.11 (s, C≡CH), 2.11-1.92 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH 2), 1.92-1.80, 1.80-1.64 (m, 2H; OCH2CH 2), 1.69 (s, 3H; (E)-CH 3), 1.61 (s, 3H; (Z)-CH 3), 1.64-1.53 (m, 1H; OCH2CH2CH), 1.47-1.34,1.29-1.17 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH 2), 0.968 (d, J = 3.3 Hz; 3H; OCH2CH2CH(CH 3))。
【0123】
(4)最後に、以下のスキームに従ってS-CB-3から中間体S-CB-4を経由し、S-CBI5を合成した。
【0124】
【化33】
【0125】
二口ナス型フラスコに、化合物S-CB-3(0.21 g, 0.63 mmol)、後述の製造例1で製造した(tht)AuCl(0.24 g, 0.75 mmol)、ジクロロメタン(10 mL)の溶媒を入れ、アルゴン置換を行った。CHCOONa(0.25 g, 3.0 mmol)のメタノール(5 mL)溶液を滴下し、室温で4.5時間撹拌した。メンブレンフィルターでろ過し、得られた固体をメタノール、イオン交換水、メタノール、ジクロロメタンの順に洗浄した。得られた固体(化合物S-CB-4)とCHCl(20 mL)を二口ナス型フラスコに入れ、1-ペンチルイソシアニド(83 μL, 0.66 mmol)を滴下し、室温で2時間撹拌した。セライトでろ過し、ろ液を溶媒留去により濃縮した。得られた固体を展開溶媒としてジクロロメタンを用いたカラムクロマトグラフィーにより精製した。溶媒留去の後、良溶媒;ジクロロメタン、貧溶媒;ヘキサン(1:1)を用いて再結晶を行い、黄色の針状結晶を収量0.35g(0.56 mmol)、収率93%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 7.50 (dd, J = 6.3, 2.3 Hz, 4H, 3,5,3′,5′-H in biphenyl), 7.44 (dd, J = 7.0,1.1 Hz, 2H, 2,6-H in biphenyl), 6.94 (dd, J = 7.3,1.3 Hz, 2H, 2′,6′-H in biphenyl), 5.11 (tt, J = 7.2, 1.3 Hz; 1H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH2CH), 4.08-3.96 (m, 2H; OCH 2), 3.67-3.59 (m, 2H; NCH 2), 2.08-1.92 (m, 2H; OCH2CH2CH(CH3)CH2CH 2), 1.92-1.78 (m, 2H; OCH2CH 2, NCH2CH 2), 1.78-1.65 (m, 1H; OCH2CH 2), 1.68 (d, J = 0.91 Hz, 3H; (E)-CH 3), 1.65-1.50 (m, 1H; OCH2CH2CH), 1.61 (s, 3H; (Z)-CH 3), 1.50-1.34 (m, 5H; OCH2CH2CH(CH3)CH 2, NCH2CH2CH 2, NCH2CH2CH2CH 2),1.34-1.18 (m, 1H; OCH2CH2CH(CH3)CH 2), 1.00-0.92 (m, 6H; OCH2CH2CH(CH 3), NCH2CH2CH2CH2CH 3)。
【0126】
なお、S-CBI5の発光量子収率を、実施例2と同様にして測定したところ、4%(λex = 314 nm)であった。
【0127】
<S-CBI5/5CB/CDの調製>
S-CBI5及び実施例1と同様にして得た5CBを分光分析用ジクロロメタン溶液(和光純薬)で希釈し、その各溶液をS-CBI5:5CB=10mol%:90mol%の割合で混合溶液を調製した。同様に、実施例1と同様にして得たCDを分光分析用ジクロロメタン溶液(和光純薬)で希釈し、そのCD希釈液をS-CBI5/5CB混合溶液に0、1、2、3、4、5mol%の割合で混合した。室温下でこのS-CBI5/5CB/CD混合溶液からジクロロメタン溶液をゆっくり揮発させた後、35℃以下で30分以上減圧乾燥を行って組成物を得た。
【0128】
<S-CBI5/5CB/CDの選択反射色、円偏光回転方向>
調製された組成物から実施例1と同様にしてサンプルを作成した。サンプルの選択反射を室内光の元で目視で確認した。また、左円偏光フィルター(Edmund Optics, Polarizer CIR LH 1IN TS)および右円偏光フィルター(Edmund Optics, Polarizer CIR RH 1IN TS)を用いて円偏光の回転方向を確認した。結果を図3に示す。CDの含有量が2から4モル%へ変化するにつれて色調が橙、緑、紫へと変化した。CDの含有量を調整することで組成物の選択反射波長(反射色)を調整できた。また、右回り光(RH)を反射し、左回り光(LH)を透過した。
【0129】
<スペクトル測定>
調製された組成物から実施例1と同様にしてサンプルを作成し、以下に示す測定条件を除き実施例1と同様にして円偏光発光スペクトル測定、発光スペクトル測定、反射スペクトル測定を行った。測定結果を図4に示す。なお、Intensity(発光強度)の370nm付近のピークは5CBに由来し、510nm付近のピークはS-CBI5に由来するものと推測される。測定条件の詳細は以下のとおりである。
[円偏光発光(CPL)測定条件]
測定バンド幅:3000 nm;励起波長:270 nm;測定波長範囲:300 ~ 850 nm;感度(V):low (1000 mdeg);検出器感度:980 V,HT;積算回数:1回
[発光スペクトル測定条件]
測定モード:蛍光スペクトル,励起側バンド幅:5.0 nm,蛍光側バンド幅:5.0 nm,レスポンス:自動,感度:マニュアル,PMT 電圧:700 V,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:240 nm/min,繰り返し回数:1, 励起波長:314nm, 測定範囲:330 - 610 nm
[反射スペクトル測定条件]
測定モード:反射スペクトル,データ取込間隔:1.0 nm,走査速度:100 nm/min, 測定波長範囲:200 - 800 nm。
【0130】
最大g値は、CD含有量が0、1、2、3、4、5モル%のときに、それぞれ、0.54(405-409nm)、-0.34(599-604nm)、0.77(665nm)、1.2(486-493nm)、1.4(411-418nm)、1.3(371-378nm)であった。また、%Rの結果より、CDの含有量が2から5モル%へ変化するにつれて色調が変化していることがわかる。
【0131】
[製造例1](tht)AuClの製造
以下のスキームに従って(tht)AuClを合成した。
【0132】
【化34】
【0133】
二口ナス型フラスコにH[AuCl]・4HO(1.0 g, 2.4 mmol)、エタノール(8 mL)、イオン交換水(2 mL)を入れ、テトラヒドロチオフェン(0.43 mL, 4.9 mmol)を滴下した。室温で1.5時間撹拌し、吸引ろ過により白色固体を得た。得られた白色固体を少量の冷したエタノールで洗浄し、その後に自然乾燥させ、目的物である白色固体を0.72g(2.2mmol)、収率94%で得た。
1H NMR (400 MHz, CDCl3, δ): 3.42 (br, 4H; 1,4-H in thiophene), 2.19 (br, 4H; 2,3-H in thiophene)。
図1
図2
図3
図4