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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】ナイロン塩粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 69/30 20060101AFI20220411BHJP
【FI】
C08G69/30
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2018085896
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019189782
(43)【公開日】2019-10-31
【審査請求日】2021-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中井 誠
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特表2014-524928(JP,A)
【文献】特表2016-508525(JP,A)
【文献】特表2016-504478(JP,A)
【文献】特表2016-504479(JP,A)
【文献】特表2016-510335(JP,A)
【文献】国際公開第2012/070457(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 69/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸と2種類以上のジアミンとを含むナイロン塩粉末を製造する方法であって、ジカルボン酸の粉末を、融点が最も高いジアミンの融点以上の温度であり、かつ210℃以下の温度に予め加熱し、この加熱温度を維持しながら、ジカルボン酸の粉末の状態を保ちつつ、ジアミンを、ジアミンとジカルボン酸とから得られるナイロンの融点が高くなる順序で、1種類ずつジカルボン酸の粉末に添加することを特徴とするナイロン塩粉末の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の方法で製造されたナイロン塩粉末を固相重合することを特徴とする共重合ナイロンの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、共重合ナイロンの製造に好適なナイロン塩粉末を製造する方法、および、その方法により製造されたナイロン塩粉末を用いた共重合ナイロンを製造する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジアミンとジカルボン酸とを原料としてナイロンを得る方法として、ジアミンとジカルボン酸とを反応させてナイロン塩を作製し、得られたナイロン塩を、固相重合や溶融重合する方法がある。このようにナイロン塩を重合することで、高分子量化したナイロンを安定して得ることができる。ナイロン塩の固相重合は、直接固相重合といわれる。
【0003】
ナイロン塩を製造する方法は種々検討されている。例えば、特許文献1には、水の存在下で、ジアミンとジカルボン酸とを高温高圧で反応させ、次いで、反応生成物を高温で噴出させることで水を分離し、ナイロン塩を得る方法が開示されている。しかしながら、この方法は、反応生成物を高温高圧で噴出させる工程を必要とするため、製造設備が大掛かりなものとなり、工程が煩雑になり、コストアップに繋がるという問題がある。また、水の存在下に得られたナイロン塩を固相重合すると、製造されたナイロンは、ゲル状となったり、また、分岐構造を有するトリアミンが副生することにより、融点が下がり、耐熱性に劣るという問題がある。以上のことから、水が存在しない条件で、ナイロン塩の粉末を得、それを重合する方法が、ナイロンの製造方法としては理想的であると考えられる。
【0004】
特許文献2には、水の含有量を、ジカルボン酸とジアミンの合計量に対して5質量%以下とし、ジカルボン酸粉末とジアミンとを、粉末の状態を保ちながら反応させることで、簡易な方法で効率よく、粉末のナイロン塩を得る方法が開示されている。この粉末のナイロン塩は、直接固相重合することにより、耐熱性に優れた、かつ高分子量のナイロンを、効率よく得ることができる。特許文献2に開示された方法は、共重合ナイロンに対しても適用することが可能である。
一方、特許文献3にも同様の方法が記載されており、ジアミンの液体混合物を用いることで、複数のジアミンを含むナイロン塩を形成し、このナイロン塩は、直接固相重合での反応速度が向上することも記載されている。
しかしながら、この複数のジアミンを含むナイロン塩を用いた直接固相重合においては、単一のジアミンを含むナイロン塩の場合よりも、粉体の凝結や反応装置壁面への固結が生じやすく、生産時の操業性が劣るという問題があった。粉体は、凝結が過度に生じると、造粒、塊状化し、反応装置での撹拌を妨げたり、配管の閉塞といったプロセス上の問題を引き起こす。さらに、粒度が大きい成分が含まれることで、得られるナイロンは、溶融成形等の後工程でも問題となる。反応装置壁面への固結は、反応装置から粉体への熱伝導を低下させ、重合速度を低下させたり、固結が生じたまま次のバッチの生産を行うと、熱伝導の低下により、分子量等の品質が変動することとなる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2001-348427号公報
【文献】国際公開第2012/070457号
【文献】特表2016-508525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記問題を解決し、複数のジアミンを含むナイロン塩粉末の製造方法であって、直接固相重合において、粉体の凝結や反応装置壁面への固結を起こすことがないナイロン塩粉末を製造する方法を提供し、このナイロン塩を使用することによって、良好な操業性で共重合ナイロンを製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、鋭意検討した結果、特定の方法で複数のジアミンをジカルボン酸に添加することによって、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。
すなわち、本発明の要旨は以下の通りである。
(1)ジカルボン酸と2種類以上のジアミンとを含むナイロン塩粉末を製造する方法であって、ジカルボン酸の粉末を、融点が最も高いジアミンの融点以上の温度であり、かつ210℃以下の温度に予め加熱し、この加熱温度を維持しながら、ジカルボン酸の粉末の状態を保ちつつ、ジアミンを、ジアミンとジカルボン酸とから得られるナイロンの融点が高くなる順序で、1種類ずつジカルボン酸の粉末に添加することを特徴とするナイロン塩粉末の製造方法
(2)上記(1)記載の方法で製造されたナイロン塩粉末を固相重合することを特徴とする共重合ナイロンの製造方法。
【発明の効果】
【0008】
本発明の製造方法によれば、直接固相重合する際、粉体の凝結や反応装置壁面への固結を防止することが可能なナイロン塩粉末を製造することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法は、ジカルボン酸の粉末および2種類以上のジアミンを原料として用いる。
【0010】
本発明において粉末状態で使用するジカルボン酸は、通常、融点が120~400℃程度のものであり、特に限定されないが、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸、シュウ酸、ナフタレンジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸が挙げられる。なかでも、汎用性の観点から、テレフタル酸、イソフタル酸、アジピン酸が好ましく、得られるナイロンの融点が高くなることで粉末の状態を保ちやすく、加えて、塩生成時の反応熱を小さくすることができるので、テレフタル酸、イソフタル酸がより好ましい。使用するジカルボン酸は、2種類以上であってもよい。
【0011】
本発明において使用するジアミンは、通常、融点が25~200℃程度のものであり、2種類以上を用いる。各々のジアミンは特に限定されないが、例えば、1,4-ブタンジアミン、1,6-ヘキサンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミン、1,11-ウンデカンジアミン、1,12-ドデカンジアミン、2-メチル-1,5-ペンタンジアミン、p-フェニレンジアミン、m-キシリレンジアミン、p-キシリレンジアミンが挙げられる。中でも、汎用性の観点から、1,6-ヘキサンジアミン、1,9-ノナンジアミン、1,10-デカンジアミンが好ましい。本発明において、2種類以上のジアミンの配合比は全く任意である。
【0012】
本発明においては、ナイロン塩に、必要に応じて、カプロラクタム等のラクタム類、アミノカプロン酸などのアミノ酸を混合することもできる。その混合量は、本発明の効果を損なわない範囲とすればよく、例えば、ジカルボン酸に対して1~30モル%とすることが好ましく、5~20モル%とすることがより好ましい。
【0013】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法では、融点が最も高いジアミンの融点以上の温度であり、かつジカルボン酸の融点以下の温度に予め加熱したジカルボン酸の粉末に、この加熱温度を維持しながら、ジカルボン酸の粉末の状態を保ちつつ、ジアミンを1種類ずつジカルボン酸の粉末に添加して反応させることが必要である。
【0014】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法においては、上記のように、ジアミンを添加する前に、原料であるジカルボン酸粉末を予め加熱しておくことが必要である。
予め、ジカルボン酸粉末を加熱することにより、ジカルボン酸を、粉末状態を維持しつつジアミンと反応させることができるという利点がある。予めジカルボン酸粉末を加熱しないと、得られるナイロン塩が塊状化するという問題が起こる。つまり、ジアミンを添加してからジカルボン酸粉末を加熱すると、加熱初期の十分に昇温していない条件下では、ジアミンとジカルボン酸とは、反応しないためナイロン塩が生成せず、液体のジアミンとジカルボン酸粉末からなるスラリー状、ペースト状、粘土状といった状態の混合物となる。このような状態の混合物は、さらに加熱すると、粉末状ではなく、塊状のナイロン塩となる。
【0015】
原料であるジカルボン酸粉末を、ジアミンの添加前に予め加熱する際の加熱温度は、融点が最も高いジアミンの融点以上かつジカルボン酸粉末を構成するジカルボン酸の融点以下とすることが必要であり、(融点が最も高いジアミンの融点+10℃)以上かつ(ジカルボン酸の融点-5℃)以下とすることが好ましい。上記加熱温度がいずれかのジアミンの融点未満であると、ジカルボン酸粉末およびジアミンのいずれもが固体の状態となり、ナイロン塩の生成反応がほとんど進行しないという問題がある。一方、上記加熱温度がジカルボン酸の融点を超えると、反応系全体が液状になり、ナイロン塩の生成にともない全体が塊状化するという問題がある。
上記の範囲のなかでも、ジカルボン酸粉末の加熱温度は、100℃以上かつ210℃以下であることが好ましく、120℃以上かつ200℃以下であることがより好ましい。上記加熱温度が100℃未満であると、ナイロン塩の生成反応が不十分となる場合がある。一方、上記加熱温度が210℃を超えると、ナイロン塩の生成反応の際に、アミド生成反応が起こって水分が発生し、その結果、発生した水に起因して、得られたナイロン塩が一部溶融して融着したり、反応系が高圧となったりする場合がある。
【0016】
なお、原料であるジカルボン酸粉末を予め加熱する際の加熱温度と、ナイロン塩の生成における反応温度は、同じ温度であってもよいし、異なる温度であってもよい。
【0017】
ジカルボン酸は、ジアミンとの反応中のいずれの段階においても、粉末の形態を有していることが必要である。そのため、原料のジカルボン酸が塊状である場合は、あらかじめ粉砕等により粉末化してから用いることが必要である。
【0018】
また、ジカルボン酸が、ジアミンとの反応中のいずれの段階においても、粉末の状態を維持するためには、添加されたジアミンが反応系中に広がった際に、全体としてスラリー状、ペースト状、粘土状といった状態にならないことが必要である。ジアミンが添加されている間は、先に添加されたジアミンは、粉末状態のジカルボン酸と反応し、固体状態となっていることが好ましい。ジカルボン酸および得られた固体のナイロン塩が粉末状態を維持するためには、ジアミンの添加量、添加速度、添加方法、ジカルボン酸粉末の加熱温度、反応時間等の条件が適切に設定されることや、粉体が十分に撹拌されていることが必要である。
【0019】
なお、本発明において、粉末であるとは、粒状の形態を有しており、その体積平均粒径が5μm~2mm程度であることをいう。
本発明においては、上述のように、ジカルボン酸は、粉末状態が維持されており、その体積平均粒径は、5μm~1mmであることが好ましく、20~200μmであることがより好ましい。ジカルボン酸の体積平均粒径が5μm~1mmであることで、ナイロン塩の反応を早く進行することができ、また、粉末の飛散が軽減され、粉末の取扱が容易になる。
【0020】
ジアミンのジカルボン酸への添加は、固体で添加してもよいし、加熱溶融して液体としてから添加してもよいが、得られるナイロン塩粉末の体積平均粒径をより小さくする観点から、加熱溶融して液体としてから添加することが好ましい。
【0021】
ジアミンを固体で添加する場合、ジアミンを、反応容器とは異なる別の容器に準備しておき、ジアミンの添加速度を調整しながら、別の容器から反応容器に供給すればよい。ジアミンを別の容器から反応容器に送粉する装置は、大気中の空気を混入させずに送粉できる装置が好ましい。そのような装置としては、例えば、ダブルダンパー機構を備えた送粉装置が挙げられる。また、ジアミンを固体で添加する場合、ジアミンが投入された別の容器の圧力を、反応容器の圧力よりも高くすることで、反応容器から別の容器へジアミンが逆流することを防止することができる。
【0022】
一方、ジアミンを液体で添加する場合、ジアミンを、反応容器とは異なる別の容器で加熱溶融し液体としてから、反応容器に送液する。ジアミンを反応容器に送液する装置は、大気中の空気を混入させずに送液できる装置が好ましい。液体状のジアミンをジカルボン酸粉末にスプレー状に噴霧することが好ましい。また、液体状のジアミンを送液する装置は、出口を、反応させるジカルボン酸の粉末の相に予め入れておくことが好ましい。そのようにすることで、効率的にナイロン塩粉末を作製することができる。
【0023】
ジアミンの添加方法は、反応中においてジカルボン酸が粉末状態を維持しうるものであれば、特に限定されない。なかでも、得られたナイロン塩が塊状となることを抑制し、効率よく生成反応をおこなう観点から、連続してジアミンを添加する方法や、ジアミンを分割して適量ずつ、例えば、添加される各々のジアミン全量のうちの1~10質量%ずつを間欠的に添加する方法が好ましい。また、ジアミンを適量ずつ間欠的に添加した後に、さらにジアミンを連続して添加する方法など、上記の方法を組み合わせた方法でもよい。
【0024】
ジアミンの添加速度は、ジカルボン酸の粉末状態を安定して維持する観点から、0.07~6.7質量%/分であることが好ましく、0.1~3.4質量%/分であることがより好ましい。なお、ここで、「質量%/分」とは、最終的に添加されるジアミン全量に対する、1分間に添加されるジアミンの割合である。添加速度を途中で変えてもよく、ジアミンの種類ごとに変えてもよい。
【0025】
本発明においては、上記方法で、第1のジアミンをジカルボン酸に添加した後、第2のジアミン、第3のジアミン等を添加し、ジアミンを1種類ずつジカルボン酸の粉末に添加する。本発明においては、2種類以上ジアミンを、混合して添加したり、あるいは同時に添加するのではなく、1種類のジアミンの添加が完了した後に、次の種類のジアミンの添加を開始することが必要である。ジアミンが何種類であっても1種類ずつ添加することが必要である。
ジアミンの種類を変更する場合、先のジアミンの添加を終了してから、後のジアミンの添加を開始する前に、先のジアミンの反応をより完全にするため、ジアミンを添加しない時間を設けることが好ましい。この時間は、0~3時間であることが好ましく、0~1.5時間であることがより好ましい。
第1のジアミンをジカルボン酸に添加した後の、第2のジアミン、第3のジアミン等の添加は、上記ジアミンの添加方法と同様の方法で実施すればよい。
各々のジアミンを添加する順序は、高融点のナイロンを与えるジアミンの添加が後方となる順序が好ましい。例えば、共重合ナイロン410/Tを重合するためのナイロン塩を製造する場合、ナイロン4Tの融点は299℃、ナイロン10Tの融点は274℃であるから、先に、融点の低いナイロン10Tを与えるデカンジアミンをジカルボン酸に添加したのち、次いで、融点の高いナイロン4Tを与えるブタンジアミンをジカルボン酸に添加することが好ましい。高融点のナイロンを与えるジアミンを後方で添加して得られたナイロン塩は、直接固相重合において、粉体の凝結や反応装置壁面への固結を起こさないという効果が一層高まったものとなる。
【0026】
全ての種類のジアミンを添加する時間の合計は、得られるナイロン塩粉末の粒径をより小さくする観点から、0.25~24時間であることが好ましく、0.6~10時間であることがより好ましい。
さらに、全ての種類のジアミンの添加後にも、より反応を完全にする時間を設けることが好ましい。この時間は、0~6時間であることが好ましく、0.25~3時間であることがより好ましい。
【0027】
本発明のナイロン塩の製造方法において、ジカルボン酸と各々のジアミン、後述する末端封鎖剤としてモノカルボン酸やモノアミンを利用するときはそれも含めて、カルボン酸とアミンの官能基のモル比(ジカルボン酸粉末/ジアミン)は、45/55~55/45であることが好ましく、50/50~45/55であることがより好ましい。ジカルボン酸粉末とジアミンとのモル比を上記の範囲に制御することで、高分子量のナイロンを得ることが可能なナイロン塩粉末とすることができる。重合工程でのジアミンの揮発を考慮して、アミンのモル比を若干多くすることもよく行われる。
【0028】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法では、ナイロン塩の生成反応の効率化の観点から、原料を反応容器に供給する際に、本発明の効果を損なわない範囲において、ジカルボン酸粉末とジアミン以外に、末端封鎖剤、重合触媒を加えてもよい。
【0029】
末端封鎖剤は、高分子の末端官能基の末端を封止するものである。このような末端封鎖剤としては、酢酸、ラウリン酸、ステアリン酸、安息香酸、オクチルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン等が挙げられる。末端封鎖剤の使用量は、原料モノマーであるジカルボン酸粉末とジアミンの合計のモル数に対して、5モル%以下が好ましい。
【0030】
重合触媒としては、リン酸、亜リン酸、次亜リン酸、またはそれらの塩等が挙げられる。重合触媒の使用量は、多すぎると製品の性能や加工性低下の原因となるため、原料モノマーであるジカルボン酸粉末とジアミンの合計のモル数に対して、2モル%以下が好ましい。
【0031】
また、本発明のナイロン塩粉末の製造方法においては、本発明の効果を損なわない範囲において、任意の段階で、各種の添加剤が添加されてもよい。添加剤としては、無機充填材、フィラー、安定剤等が挙げられる。添加剤の使用量は、ジアミンとジカルボン酸粉末との接触を妨げない観点から、原料モノマーであるジカルボン酸粉末とジアミンの合計の質量に対して、20質量%以下が好ましい。
【0032】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法においては、原料を仕込む際に、水の含有量は、原料であるジカルボン酸粉末とジアミンの合計量に対して5質量%以下であることが好ましく、1質量%以下であることがより好ましく、0.5質量%以下であることがさらに好ましく、0.3質量%以下であることが特に好ましく、0.2質量%以下であることがさらに好ましく、0質量%であることが最も好ましい。仕込んだ原料が水を含んでいると、生成したナイロン塩が一部溶融して融着したり、反応系が高圧となったりするという問題がある。
【0033】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法においては、ナイロン塩の生成反応を完全に遂行させるため、ジアミンの添加中や、ジアミンの添加終了後において、十分撹拌をおこなうことが好ましい。ジカルボン酸粉末とジアミンを反応させるための反応装置に設けられる撹拌機構としては、製造するナイロン塩の種類や生産量に合わせて適宜選択すればよく、パドル型、タンブラー型、リボン型等のブレンダー、ミキサー等が挙げられる。また、これらを組み合わせたものでもよい。
【0034】
上記の反応装置において、反応前のジカルボン酸粉末を加熱したり、生成反応の際に反応系を加熱したりする方法としては、特に限定されず、スチームなどの熱媒、ヒーター等を用いて加熱する方法が挙げられる。
【0035】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法において、ジカルボン酸粉末とジアミンとの反応は、空気中でおこなわれてもよいし、窒素等の不活性ガス雰囲気下でおこなわれてもよい。副反応や着色を抑制するため、不活性ガス雰囲気下でおこなうことが好ましい。また、反応は密閉状態または不活性ガス流通下でおこなうことができる。
【0036】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法において、ナイロン塩の生成率は、90%以上であることが好ましく、95%以上であることがより好ましい。ナイロン塩の生成率が90%以上であると、未反応のジアミンが蒸気となって散脱する量が減少するので、高分子量のナイロンを得ることが容易になるという利点がある。
【0037】
得られるナイロン塩粉末の体積平均粒径は、2mm以下であることが好ましく、500μm以下であることがより好ましい。ナイロン塩粉末の体積平均粒径を2mm以下とすることで、該ナイロン塩粉末を重合させてナイロンを得る際に水分が発生したとしても、ナイロン塩内部の水分が抜けやすくなるため、アミド化反応の速度を早くすることができるという利点がある。
【0038】
本発明のナイロン塩粉末の製造方法は、ジカルボン酸粉末を構成するジカルボン酸の融点以下の温度で、ジカルボン酸粉末とジアミンとを反応させるため、得られるナイロン塩は、塊状化することがなく、粉末とすることができる。粉末のナイロン塩は、重合して共重合ナイロンを得る際に水分が発生したとしても、ナイロン塩の内部の水分が抜けやすくなるため、アミド化反応の速度を早くすることができる。また、分岐構造の副生物であるトリアミンの発生を抑制することもできる。そのため、原料や添加物に起因して、溶融重合による重合が困難であるナイロン塩を作製する場合にも、好適に用いることができる。
【0039】
また、本発明のナイロン塩粉末の製造方法は、実質的に水を用いないため、水を留去する工程を設ける必要がない。そのため、水を加える製造方法に比べて工程を減らすことができる。
【0040】
次に、本発明の共重合ナイロンの製造方法について述べる。
上述の方法により製造されたナイロン塩粉末を重合することにより、良好な操業性で共重合ナイロンを得ることができる。
【0041】
本発明の共重合ナイロンの製造方法では、上述のナイロン塩粉末の製造方法により得られたナイロン塩粉末を用いて、固相重合により共重合ナイロンを得る。本発明のナイロン塩は、溶融重合に用いることは可能であるが、操業性の効果が得られないことがある。
【0042】
固相重合により共重合ナイロンを製造する場合、その重合条件は特に制限されないが、反応温度は180℃以上、共重合ナイロンの融点以下とすることが好ましく、200℃以上、共重合ナイロンの融点以下とすることがより好ましい。反応時間は、反応温度に達してから、0.5~100時間とすることが好ましく、0.5~24時間とすることがより好ましい。固相重合は、窒素などの不活性ガス気流中でおこなってもよく、減圧下でおこなってもよい。また、静止しておこなってもよく、攪拌しながらおこなってもよい。
【0043】
本発明のナイロン塩を固相重合することにより、粉体の凝結や反応装置壁面への固結を抑制して、良好な操業性で共重合ナイロンの製造を行うことが可能となる。
【実施例
【0044】
次に、実施例により本発明をさらに具体的に説明する。しかし、本発明はこれらによって限定されるものではない。
ナイロン塩および共重合ナイロンの物性測定は、以下の方法によっておこなった。
【0045】
(1)粉末の体積平均粒径
レーザー回折/散乱式粒度分布測定装置(堀場製作所社製、「LA920」)を用いて測定した。
【0046】
(2)共重合ナイロンの相対粘度
共重合ナイロンを96%硫酸に溶解し、濃度1g/dlの試料溶液を作製した。ウベローデ型粘度計を用い、25℃の温度で試料溶液および溶媒の落下時間を測定し、以下の式を用いて相対粘度を求めた。
相対粘度=(試料溶液の落下時間)/(溶媒のみの落下時間)
【0047】
(3)ナイロン凝集物量
共重合ナイロン粉体100gを、目開き4.75mmのふるいにかけ、ふるい上に残存した量のパーセンテージを凝集物量とした。
【0048】
実施例および比較例に用いた原料は、次の通りである。
・TPA:テレフタル酸、融点300℃以上、体積平均粒径80μm
・DA:1,10-デカンジアミン(ナイロン10Tの融点は274℃)
・HA:1,6-ヘキサンジアミン(ナイロン6Tの融点は290℃)
・BA:1,4-ブタンジアミン(ナイロン4Tの融点は299℃)
・SHP:次亜リン酸ナトリウム一水和物
・STA:ステアリン酸
【0049】
実施例1
(ナイロン塩粉末の製造)
TPA粉末14.6kg(87.7モル)、重合触媒としてのSHP46.5g(0.44モル)、末端封鎖剤としてのSTA699g(2.46モル)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素気流下、回転数30rpmで撹拌しながら165℃に加熱した。
その後、110℃に加熱したDA12.5kg(72.8モル)を、98g/分の速度で、送液装置を用いて、128分かけて連続的に165℃を保ったTPA粉末に添加した。DAの添加完了後10分経ってから、次いで、110℃に加熱したHA2.14kg(18.4モル)を、98g/分の速度で、送液装置を用いて、22分かけて連続的に添加した。
全てのジアミンを添加後、さらに、30分間撹拌を続け、1バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
続いて、同様の方法により、2バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
【0050】
(共重合ナイロンの製造1)
得られた1バッチ目のナイロン塩粉末を、別のリボンブレンダー式の反応装置で、窒素気流下、回転数40rpmで撹拌しながら250℃に加熱した。そのまま8時間反応を続け、冷却後、払い出して、ナイロン610/Tを得た。重合後の反応装置内壁は金属面がよく露出しており、付着層は形成されていなかった。得られたナイロン610/Tは、相対粘度2.65、融点293℃であった。ナイロン凝集物量は、0.8%であった。
(共重合ナイロンの製造2)
さらに、連続生産性を評価するため、反応装置の清掃はせず、上記2バッチ目のナイロン塩粉末を入れ、同様に250℃で8時間、2回目の重合を行った。得られたナイロン610/Tは、相対粘度2.66、融点293℃、ナイロン凝集物量は、0.9%であり、1回目と同等の品質であった。
【0051】
実施例2
(ナイロン塩粉末の製造)
TPA粉末14.6kg(87.7モル)、重合触媒としてのSHP46.5g(0.44モル)、末端封鎖剤としてのSTA699g(2.46モル)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素気流下、回転数30rpmで撹拌しながら165℃に加熱した。
その後、110℃に加熱したHA2.14kg(18.4モル)を、98g/分の速度で、送液装置を用いて、22分かけて連続的に165℃を保ったTPA粉末に添加した。HAの添加完了後10分経ってから、次いで、110℃に加熱したDA12.5kg(72.8モル)を、98g/分の速度で、送液装置を用いて、128分かけて連続的に添加した。
全てのジアミンを添加後、さらに、30分間撹拌を続け、1バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
続いて、同様の方法により、2バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
【0052】
(共重合ナイロンの製造1)
得られた1バッチ目のナイロン塩粉末を、別のリボンブレンダー式の反応装置で、窒素気流下、回転数40rpmで撹拌しながら250℃に加熱した。そのまま8時間反応を続け、冷却後、払い出して、ナイロン610/Tを得た。重合後の反応装置内壁は金属面がよく露出しており、付着層は形成されていなかった。得られたナイロン610/Tは、相対粘度2.64、融点293℃であった。ナイロン凝集物量は、3.6%であった。
(共重合ナイロンの製造2)
さらに、連続生産性を評価するため、反応装置の清掃はせず、上記2バッチ目のナイロン塩粉末を入れ、同様に250℃で8時間、2回目の重合を行った。得られたナイロン610/Tは、相対粘度2.62、融点294℃、ナイロン凝集物量は、3.7%であり、1回目と同等の品質であった。
【0053】
実施例3
(ナイロン塩粉末の製造)
TPA粉末15.3kg(92.2モル)、重合触媒としてのSHP53.0g(0.46モル)、末端封鎖剤としてのSTA734g(2.58モル)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素気流下、回転数30rpmで撹拌しながら165℃に加熱した。
その後、110℃に加熱したDA8.11kg(47.0モル)を、88g/分の速度で、送液装置を用いて、128分かけて連続的に165℃を保ったTPA粉末に添加した。DAの添加完了後10分経ってから、次いで、110℃に加熱したBA5.79kg(49.8モル)を、93g/分の速度で、送液装置を用いて、62分かけて連続的に添加した。
全てのジアミンを添加後、さらに、30分間撹拌を続け、1バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
続いて、同様の方法により、2バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
【0054】
(共重合ナイロンの製造1)
得られた1バッチ目のナイロン塩粉末を、別のリボンブレンダー式の反応装置で、窒素気流下、回転数40rpmで撹拌しながら245℃に加熱した。そのまま9時間反応を続け、冷却後、払い出して、ナイロン410/Tを得た。重合後の反応装置内壁は金属面がよく露出しており、付着層は形成されていなかった。得られたナイロン410/Tは、相対粘度2.45、融点301℃であった。ナイロン凝集物量は、1.2%であった。
(共重合ナイロンの製造2)
さらに、連続生産性を評価するため、反応装置の清掃はせず、上記2バッチ目のナイロン塩粉末を入れ、同様に250℃で9時間、2回目の重合を行った。得られたナイロン410/Tは、相対粘度2.44、融点300℃、ナイロン凝集物量は、1.1%であり、1回目と同等の品質であった。
【0055】
比較例1
(ナイロン塩粉末の製造)
TPA粉末14.6kg(87.7モル)、重合触媒としてのSHP46.5g(0.44モル)、末端封鎖剤としてのSTA699g(2.46モル)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素気流下、回転数30rpmで撹拌しながら165℃に加熱した。
その後、DA12.5kg(72.8モル)とHA2.14kg(18.4モル)の混合物を110℃に加熱したものを、98g/分の速度で、送液装置を用いて、150分かけて連続的に165℃を保ったTPA粉末に添加した。
ジアミンを添加後、さらに、30分間撹拌を続け、1バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
続いて、同様の方法により、2バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
【0056】
(共重合ナイロンの製造1)
得られた1バッチ目のナイロン塩粉末を、別のリボンブレンダー式の反応装置で、窒素気流下、回転数40rpmで撹拌しながら250℃に加熱した。そのまま8時間反応を続け、冷却後、払い出して、ナイロン610/Tを得た。重合後の反応装置内壁は、固結したナイロン粉体の付着層で覆われていた。得られたナイロン610/Tは、相対粘度2.51、融点294℃であった。ナイロン凝集物量は、19.5%と、かなり多くなった。
(共重合ナイロンの製造2)
さらに、連続生産性を評価するため、反応装置の清掃はせず、上記2バッチ目のナイロン塩粉末を入れ、同様に250℃で8時間、2回目の重合を行った。得られたナイロン610/Tは、相対粘度2.09で1回目とかなり異なっていた。融点293℃、ナイロン凝集物量は、21.7%であった。
【0057】
比較例2
(ナイロン塩粉末の製造)
TPA粉末15.3kg(92.2モル)、重合触媒としてのSHP53.0g(0.46モル)、末端封鎖剤としてのSTA734g(2.58モル)からなる混合物を、リボンブレンダー式の反応装置に供給し、窒素気流下、回転数30rpmで撹拌しながら165℃に加熱した。
その後、DA8.11kg(47.0モル)とBA5.79kg(49.8モル)の混合物を110℃に加熱したものを、93g/分の速度で、送液装置を用いて、150分かけて連続的に165℃を保ったTPA粉末に添加した。
全てのジアミンを添加後、さらに、30分間撹拌を続け、1バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
続いて、同様の方法により、2バッチ目のナイロン塩粉末を得た。
【0058】
(共重合ナイロンの製造1)
得られた1バッチ目のナイロン塩粉末を、別のリボンブレンダー式の反応装置で、窒素気流下、回転数40rpmで撹拌しながら245℃に加熱した。そのまま9時間反応を続け、冷却後、払い出して、ナイロン410/Tを得た。重合後の反応装置内壁は、固結したナイロン粉体の付着層で覆われていた。得られたナイロン410/Tは、相対粘度2.36、融点303℃であった。ナイロン凝集物量は、27.5%と、かなり多くなった。
(共重合ナイロンの製造2)
さらに、連続生産性を評価するため、反応装置の清掃はせず、上記2バッチ目のナイロン塩粉末を入れ、同様に250℃で9時間、2回目の重合を行った。得られたナイロン410/Tは、相対粘度1.99で1回目とかなり異なっていた。融点301℃、ナイロン凝集物量は、33.4%であった。
【0059】
ナイロン塩粉末の製造条件、固相重合条件、および得られた共重合ナイロンの特性を表1に示す。
【0060】
【表1】
【0061】
ジアミンを1種類ずつジカルボン酸の粉末に添加して製造した実施例のナイロン塩粉末は、固相重合において、粉体の凝結や反応装置壁面への固結を起こすことがなく、良好な操業性で共重合ナイロンを製造することが可能であった。また、融点の高いナイロンを与えるジアミンをジカルボン酸に後で添加して得られた、実施例1や実施例3のナイロン塩粉末は、ジアミンの添加順序が逆である実施例2のナイロン塩粉末に比較して、固相重合において発生する凝集物の量が少なかった。
2種類のジアミンを混合してジカルボン酸の粉末に添加して製造した比較例のナイロン塩粉末は、固相重合すると、反応装置の内壁が、固結した共重合ナイロン粉体の付着層で覆われ、得られた共重合ナイロンには、凝集物が多く含まれていた。また、内壁が固結した共重合ナイロン粉体の付着層で覆われたままの反応装置でナイロン塩粉末を固相重合すると、得られた共重合ナイロンは、相対粘度が著しく低下した。