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7055365ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
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  • -ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】ポリアミド樹脂組成物およびそれを成形してなる成形体
(51)【国際特許分類】
   C08L 77/00 20060101AFI20220411BHJP
   C08K 5/5313 20060101ALI20220411BHJP
   C08K 7/02 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
C08L77/00
C08K5/5313
C08K7/02
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018085897
(22)【出願日】2018-04-27
(65)【公開番号】P2019001996
(43)【公開日】2019-01-10
【審査請求日】2021-03-11
(31)【優先権主張番号】P 2017113897
(32)【優先日】2017-06-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004503
【氏名又は名称】ユニチカ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001298
【氏名又は名称】特許業務法人森本国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】正木 辰典
(72)【発明者】
【氏名】上川 泰生
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-523958(JP,A)
【文献】特表2015-503014(JP,A)
【文献】特表2015-524016(JP,A)
【文献】特表2011-503306(JP,A)
【文献】特表2007-507566(JP,A)
【文献】国際公開第2017/082231(WO,A1)
【文献】特開2013-060534(JP,A)
【文献】特開2005-336473(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、難燃剤(B)、および繊維状強化材(C)を含むポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド(A1)は、テレフタル酸(TPA)を含有するジカルボン酸成分とジアミン成分と、分子量140以上のモノカルボン酸成分とを含有し、モノカルボン酸成分の含有量が、ポリアミド(A1)を構成する全モノマー成分に対して、0.3~4.0モル%であり、融点が270℃以上であり、
ポリアミド(A2)は、融点が270℃未満であり、
ポリアミド(A1)の含有量が、(A1)と(A2)の合計含有量に対して、30質量%以上、50質量%未満であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
【請求項2】
難燃剤(B)が、非ハロゲン系難燃剤であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項3】
難燃剤(B)が、下記一般式(I)または(II)で表される化合物であることを特徴とする請求項1記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1~16のアルキル基またはフェニル基を表す。Rは、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、アリールアルキレン基、または、アルキルアリーレン基を表す。Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオンまたは亜鉛イオンを表す。mは、2または3である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす整数である。)
【請求項4】
ポリアミド(A1)のジカルボン酸成分がさらにイソフタル酸(IPA)を含有し、テレフタル酸とイソフタル酸の質量比(TPA/IPA)が99.9/0.1~95/5であることを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、難燃性を有するポリアミド樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリアミドは、耐熱性、機械的特性が優れており、多くの電気・電子部品、自動車のエンジン周りの部品の構成材料として使用されている。
【0003】
これらの部品の中でも、電気・電子部品を構成するポリアミドには、さらに高度な難燃性が要求されている。ポリアミドに難燃性を付与する方法として、難燃剤を用いる方法が通常行なわれている。近年、環境意識の高まりから、ハロゲン系難燃剤が避けられ、一般的に、非ハロゲン系難燃剤が使用されている。
【0004】
また、電気・電子部品の実装は表面実装が主流となっており、リフロー工程において、部品を構成するポリアミドは、最高温度260℃程度の高温にさらされることとなる。したがって、ポリアミドとして、リフロー耐熱性を有する、融点270℃以上の耐熱ポリアミドの使用が必要とされる場面が多くなっている。融点が270℃以上の耐熱ポリアミドとしては、一般的に半芳香族ポリアミドやポリアミド46などが用いられる。
【0005】
例えば、特許文献1には、非ハロゲン系難燃剤として、ホスフィン酸金属塩を用いた半芳香族ポリアミド樹脂組成物が開示され、1/32インチ(0.79mm)の成形品において難燃規格UL94V-0規格を満足し、またリフロー耐熱性と、0.5mm厚みでの流動性とを有することが開示されている。
【0006】
しかしながら、電気・電子部品は年々小型化の傾向にあり、より薄肉での性能が求められている。特に難燃性と流動性に関しては、一般的には薄肉であるほど性能が低下するため、それらの改善が強く望まれている。
また、耐熱ポリアミドは、高融点ゆえに加工温度が高いため、ホスフィン酸金属塩を含有する耐熱ポリアミド樹脂組成物においては、溶融加工時において、押出機のスクリューやダイス、また成形機のスクリューや金型などの金属部品を激しく摩耗するという金属腐食性の問題があった。
【0007】
このように、電気・電子部品に適した耐熱ポリアミドを設計する上で、リフロー耐熱性、難燃性、流動性、低金属腐食性を両立させることが非常に重要である。
【0008】
これらの問題に対して、特許文献2では、特定の半芳香族ポリアミドと特定の脂肪族ポリアミドとを、75/25~98/2の重量比で用いた材料が開示されている。この材料は、成形加工温度が340℃であり、高温での成形加工が必要なものである。金属腐食性は、高温である程増大するため、この材料においては、金属腐食性を低減させるために、成形加工温度を下げる必要があるが、成形加工温度を下げると流動性が著しく損なわれ、成形加工が困難となる問題があった。
また、特許文献3では、特定の半芳香族ポリアミドと特定の脂肪族ポリアミドとを、50/50~75/25の重量比で用いた材料が開示されている。この材料は、特許文献2に開示された材料に比較して、流動性が向上しているが、金属腐食性が十分低減したものではなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】国際公開第2008/126381号
【文献】特表2014-517102号公報
【文献】特表2014-521765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、難燃性ポリアミド樹脂組成物における上記課題を解決するものであって、リフロー耐熱性と難燃性を維持しつつも、高流動性と低金属腐食性を同時に満たすことができるポリアミド樹脂組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、前記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、難燃性ポリアミド樹脂組成物を構成するポリアミドとして、特定のポリアミド(A1)と特定のポリアミド(A2)とを特定の質量比で含有するポリアミドを使用することにより、上記課題が解決できることを見出し、本発明に到達した。すなわち、本発明の要旨は下記の通りである。
【0012】
(1)ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、難燃剤(B)、および繊維状強化材(C)を含むポリアミド樹脂組成物であって、
ポリアミド(A1)は、テレフタル酸(TPA)を含有するジカルボン酸成分とジアミン成分と、分子量140以上のモノカルボン酸成分とを含有し、モノカルボン酸成分の含有量が、ポリアミド(A1)を構成する全モノマー成分に対して、0.3~4.0モル%であり、融点が270℃以上であり、
ポリアミド(A2)は、融点が270℃未満であり、
ポリアミド(A1)の含有量が、(A1)と(A2)の合計含有量に対して、30質量%以上、50質量%未満であることを特徴とするポリアミド樹脂組成物。
(2)難燃剤(B)が、非ハロゲン系難燃剤であることを特徴とする(1)記載のポリアミド樹脂組成物。
(3)難燃剤(B)が、下記一般式(I)または(II)で表される化合物であることを特徴とする(1)記載のポリアミド樹脂組成物。
【化1】
【化2】
(式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1~16のアルキル基またはフェニル基を表す。Rは、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、アリールアルキレン基、または、アルキルアリーレン基を表す。Mは、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオンまたは亜鉛イオンを表す。mは、2または3である。n、a、bは、2×b=n×aの関係式を満たす整数である。)
(4)ポリアミド(A1)のジカルボン酸成分がさらにイソフタル酸(IPA)を含有し、テレフタル酸とイソフタル酸の質量比(TPA/IPA)が99.9/0.1~95/5であることを特徴とする(1)~(3)のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物
(5)上記(1)~()のいずれかに記載のポリアミド樹脂組成物を成形してなることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、特定のポリアミド(A1)と特定のポリアミド(A2)とを特定の質量比で含有することにより、高流動性と低金属腐食性を同時に満たすことができるポリアミド樹脂組成物を提供することができる。また、それにより十分なリフロー耐熱性と難燃性を有する成形体を提供することができる。融点が低いポリアミド(A2)を多く含有するにも関わらず、融点が高いポリアミド(A1)を含有することにより、リフロー耐熱性を維持することができることは、大変驚くべきことである。また、本発明のポリアミド樹脂組成物は、成形加工温度を下げることができ、難燃性と低金属腐食性を両立でき、さらにはそのような低い成形加工温度においても高い流動性を維持することが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】金属腐食性を評価するための装置を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のポリアミド樹脂組成物は、ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、難燃剤(B)、および繊維状強化材(C)を含有する。
【0016】
本発明におけるポリアミド(A1)は、ジカルボン酸成分とジアミン成分とを含有するものであり、ポリアミド(A1)を構成するジカルボン酸成分は、テレフタル酸(TPA)を含有することが必要である。
ジカルボン酸成分におけるテレフタル酸以外のジカルボン酸としては、例えば、イソフタル酸(IPA)およびその誘導体、ナフタレンジカルボン酸およびその誘導体、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸および/またはドデカン二酸などが挙げられ、中でも、イソフタル酸が好ましい。
【0017】
ジカルボン酸としてテレフタル酸とイソフタル酸を併用する場合、テレフタル酸とイソフタル酸の質量比(TPA/IPA)は、99.9/0.1~70/30とすることが好ましく、99.9/0.1~90/10とすることがより好ましく、99.9/0.1~95/5とすることがさらに好ましい。上記質量比を99.9/0.1~70/30とすることにより、流動性と難燃性を両立することができる。
【0018】
ポリアミド(A1)を構成するジアミン成分としては、例えば、C6~C20芳香族ジアミン、C6~C20脂環式ジアミン、ブタンジアミン、ヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、2-メチルオクタメチレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、1,8-ジアミノオクタン、1,9-ジアミノノナン、1,10-ジアミノデカン、1,11-ジアミノウンデカン、1,12-ジアミノドデカンなどが挙げられる。
【0019】
上記モノマー成分から得られるポリアミド(A1)として、例えば、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド7T、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tなどの半芳香族ポリアミド、さらに、共重合体としては、例えばジアミンの炭素数が6の場合、PA6T/6、PA6T/12、PA6T/66、PA6T/610、PA6T/612、PA6T/6I、PA6T/6I/66、PA6T/M5T(M5:メチルペンタジアミン)、PA6T/TM6T(TM6:2,2,4-または2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン)、PA6T/MMCT(MMC:4,4′-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))などが挙げられる。ポリアミド(A1)として、これらポリアミドを単独で使用でもよいし、共重合体や2種類以上ポリアミドの混合物を使用してもよい。
【0020】
本発明におけるポリアミド(A1)は、融点が270℃以上であることが必要であり、280℃以上であることが好ましく、300℃以上であることがより好ましい。ポリアミド(A1)は、融点が270℃以上であることにより、耐熱性を有し、最高温度が260℃程度となるリフロー工程に耐えることができる。一方、ポリアミド(A1)は、融点が350℃を超えると、アミド結合の分解温度が約350℃であるため、溶融加工時に炭化や分解が進行することがある。また、成形加工時の温度を融点以上にする必要があるため、金属腐食がより進行してしまう。
融点の観点から、ポリアミド(A1)は、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド8T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、ポリアミド11T、ポリアミド12Tおよびそれらの共重合体が好ましい。さらに、ポリアミド4T、ポリアミド6T、ポリアミド9T、ポリアミド10T、およびそれらの共重合体は、吸水性と耐熱性のバランスに優れ、またリフロー耐熱性に特に優れるため、より好ましく、中でもポリアミド10Tおよびその共重合体が特に好ましい。
【0021】
本発明において、ポリアミド(A1)は、モノカルボン酸成分を構成成分とすることが好ましい。モノカルボン酸成分の含有量は、ポリアミド(A1)を構成する全モノマー成分に対して0.3~4.0モル%であることが好ましく、0.3~3.0モル%であることがさらに好ましく、0.3~2.5モル%であることがより好ましく、0.8~2.5モル%であることが特に好ましい。上記範囲内でモノカルボン酸成分を含有することにより、重合時の分子量分布を小さくできたり、成形加工時の離型性の向上がみられたり、成形加工時においてガスの発生量を抑制することができたりする。一方、モノカルボン酸成分の含有量が上記範囲を超えると、機械的特性や難燃性が低下することがある。なお、本発明において、モノカルボン酸の含有量は、ポリアミド(A1)中のモノカルボン酸の残基、すなわち、モノカルボン酸から末端の水酸基が脱離したものが占める割合をいう。
【0022】
ポリアミド(A1)は、モノカルボン酸成分として、分子量が140以上のモノカルボン酸を含有することが好ましく、分子量が170以上のモノカルボン酸を含有することがさらに好ましい。モノカルボン酸の分子量が140以上であると、離型性が向上し、成形加工時の温度においてガスの発生量を抑制することができ、また成形流動性も向上することができる。
【0023】
モノカルボン酸成分としては、脂肪族モノカルボン酸、脂環族モノカルボン酸、芳香族モノカルボン酸が挙げられ、中でも、ポリアミド由来成分の発生ガス量を減少させ、金型汚れを低減させ、離型性を向上することができることから、脂肪族モノカルボン酸が好ましい。
【0024】
分子量が140以上の脂肪族モノカルボン酸としては、例えば、カプリル酸、ノナン酸、デカン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、ベヘン酸が挙げられる。中でも、汎用性が高いことから、ステアリン酸が好ましい。
分子量が140以上の脂環族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチルシクロヘキサンカルボン酸、4-へキシルシクロヘキサンカルボン酸、4-ラウリルシクロヘキサンカルボン酸が挙げられる。
分子量が140以上の芳香族モノカルボン酸としては、例えば、4-エチル安息香酸、4-へキシル安息香酸、4-ラウリル安息香酸、1-ナフトエ酸、2-ナフトエ酸およびそれらの誘導体が挙げられる。
【0025】
モノカルボン酸成分は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。また、分子量が140以上のモノカルボン酸と分子量が140未満のモノカルボン酸を併用してもよい。なお、本発明において、モノカルボン酸の分子量は、原料のモノカルボン酸の分子量を指す。
【0026】
ポリアミド(A1)は、従来から知られている加熱重合法や溶液重合法の方法を用いて製造することができる。中でも、工業的に有利である点から、加熱重合法が好ましく用いられる。
【0027】
本発明におけるポリアミド(A2)は、融点が270℃未満であることが必要である。
ポリアミド(A2)としては、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12、メタキシリレンジアミンとアジピン酸との共重合体(ポリアミドMXD6)、ポリアミド66/6共重合体、パラアミノメチル安息香酸とε-カプロラクタムとの共重合体(ポリアミドAHBA)、2,2,4-/2,4,4-トリメチルヘキサメチレンジアミン・テレフタル酸塩を主成分とするポリアミド(ポリアミドTHDT、THDT/6I)などが挙げられる。中でも流動性の観点から、ポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド10、ポリアミド610、ポリアミド612、ポリアミド1010、ポリアミド11、ポリアミド12が好ましく、ポリアミド6、ポリアミド66がより好ましい。
【0028】
本発明のポリアミド樹脂組成物において、ポリアミド(A1)の含有量は、ポリアミド(A1)とポリアミド(A2)の合計含有量に対して、30質量%以上、50質量%未満であることが必要であり、35~49質量%であることが好ましく、41~49質量%であることがより好ましい。ポリアミド(A1)の含有量が50質量%以上であると、樹脂組成物は、成形加工温度を下げることができず、難燃性が低下したり、金属腐食性が増大する。一方、ポリアミド(A1)の含有量が30質量%未満であると、樹脂組成物は、リフロー耐熱性が不十分となり、実用に耐えられなくなる。
【0029】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、難燃剤(B)を含有する。難燃剤(B)としては、ハロゲン系難燃剤、リン系難燃剤、窒素系難燃剤、窒素-リン系難燃剤、無機系難燃剤が挙げられ、環境意識の高まりから、非ハロゲン系難燃剤が好ましい。非ハロゲン系難燃剤の中でも、特に耐熱性と難燃性の観点から、リン系難燃剤がより好ましい。
【0030】
リン系難燃剤としては、ホスフィン酸金属塩が挙げられる。ホスフィン酸金属塩としては、下記一般式(I)で表されるホスフィン酸金属塩、および一般式(II)で表されるジ
ホスフィン酸金属塩が挙げられる。
【0031】
【化1】
【化2】
【0032】
式中、R、R、RおよびRは、それぞれ独立して、直鎖または分岐鎖の炭素数1~16のアルキル基またはフェニル基であることが必要で、炭素数1~8のアルキル基またはフェニル基であることが好ましく、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-オクチル基、フェニル基であることがより好ましく、エチル基であることがさらに好ましい。RとRおよびRとRは互いに環を形成してもよい。
は、直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~10のアルキレン基、炭素数6~10のアリーレン基、アリールアルキレン基、または、アルキルアリーレン基であることが必要である。直鎖もしくは分岐鎖の炭素数1~10のアルキレン基としては、例えば、メチレン基、エチレン基、n-プロピレン基、イソプロピレン基、イソプロピリデン基、n-ブチレン基、tert-ブチレン基、n-ペンチレン基、n-オクチレン基、n-ドデシレン基が挙げられる。炭素数6~10のアリーレン基としては、例えば、フェニレン基、ナフチレン基が挙げられる。アルキルアリーレン基としては、例えば、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、tert-ブチルフェニレン基、メチルナフチレン基、エチルナフチレン基、tert-ブチルナフチレン基が挙げられる。アリールアルキレン基としては、例えば、フェニルメチレン基、フェニルエチレン基、フェニルプロピレン基、フェニルブチレン基が挙げられる。
Mは、金属イオンを表す。金属イオンとしては、例えば、カルシウムイオン、アルミニウムイオン、マグネシウムイオン、亜鉛イオンが挙げられ、アルミニウムイオン、亜鉛イオンが好ましく、アルミニウムイオンがより好ましい。
m、nは、金属イオンの価数を表す。mは、2または3である。aは、金属イオンの個数を表し、bは、ジホスフィン酸イオンの個数を表し、n、a、bは、「2×b=n×a」の関係式を満たす整数である。
【0033】
ホスフィン酸金属塩やジホスフィン酸金属塩は、それぞれ、対応するホスフィン酸やジホスフィン酸と、金属炭酸塩、金属水酸化物または金属酸化物を用いて水溶液中で製造され、通常、モノマーとして存在するが、反応条件に依存して、縮合度が1~3のポリマー性ホスフィン酸塩の形として存在する場合もある。
【0034】
上記一般式(I)で表されるホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、ジメチルホスフィン酸カルシウム、ジメチルホスフィン酸マグネシウム、ジメチルホスフィン酸アルミニウム、ジメチルホスフィン酸亜鉛、エチルメチルホスフィン酸カルシウム、エチルメチルホスフィン酸マグネシウム、エチルメチルホスフィン酸アルミニウム、エチルメチルホスフィン酸亜鉛、ジエチルホスフィン酸カルシウム、ジエチルホスフィン酸マグネシウム、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛、メチル-n-プロピルホスフィン酸カルシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸マグネシウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸アルミニウム、メチル-n-プロピルホスフィン酸亜鉛、メチルフェニルホスフィン酸カルシウム、メチルフェニルホスフィン酸マグネシウム、メチルフェニルホスフィン酸アルミニウム、メチルフェニルホスフィン酸亜鉛、ジフェニルホスフィン酸カルシウム、ジフェニルホスフィン酸マグネシウム、ジフェニルホスフィン酸アルミニウム、ジフェニルホスフィン酸亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れることから、ジエチルホスフィン酸アルミニウム、ジエチルホスフィン酸亜鉛が好ましく、ジエチルホスフィン酸アルミニウムがより好ましい。
【0035】
また、ジホスフィン酸塩の製造に用いるジホスフィン酸としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)が挙げられる。
【0036】
上記一般式(II)で表されるジホスフィン酸塩の具体例としては、例えば、メタンジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)カルシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)マグネシウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、ベンゼン-1,4-ジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が挙げられる。中でも、難燃性、電気特性のバランスに優れることから、メタンジ(メチルホスフィン酸)アルミニウム、メタンジ(メチルホスフィン酸)亜鉛が好ましい。
【0037】
ホスフィン酸金属塩の具体的な商品としては、例えば、クラリアント社製「Exolit OP1230」、「Exolit OP1240」、「Exolit OP1312」、「Exolit OP1314」「Exolit OP1400」が挙げられる。
【0038】
窒素系難燃剤としては、メラミン系化合物、シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩等が挙げられる。メラミン系化合物の具体例として、メラミンをはじめ、メラミン誘導体、メラミンと類似の構造を有する化合物、メラミンの縮合物等であり、具体的には、メラミン、アンメリド、アンメリン、ホルモグアナミン、グアニルメラミン、シアノメラミン、ベンゾグアナミン、アセトグアナミン、サクシノグアナミン、メラム、メレム、メトン、メロン等のトリアジン骨格を有する化合物、およびこれらの硫酸塩、メラミン樹脂等を挙げることができる。シアヌル酸またはイソシアヌル酸とメラミン化合物との塩とは、シアヌル酸類またはイソシアヌル酸類とメラミン系化合物との等モル反応物である。
【0039】
窒素-リン系難燃剤としては、例えば、メラミンまたはその縮合生成物とリン化合物とから形成される付加物(メラミン付加物)、ホスファゼン化合物を挙げることができる。
前記メラミン付加物を構成するリン化合物としては、リン酸、オルトリン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、メタリン酸、ピロリン酸、三リン酸、四リン酸、ポリリン酸等が挙げられる。メラミン付加物の具体例として、メラミンホスフェート、メラミンピロホスフェート、ジメラミンピロホスフェート、メラミンポリホスフェート、メレムポリホスフェート、メラムポリホスフェートが挙げられ、中でも、メラミンポリホスフェートが好ましい。リンの数は、2以上であることが好ましく、10以上であることがより好ましい。
ホスファゼン化合物の具体的な商品としては、例えば、伏見製薬所社製「ラビトルFP-100」、「ラビトルFP-110」、大塚化学社製「SPS-100」、「SPB-100」などが挙げられる。
【0040】
無機系難燃剤としては、例えば、水酸化マグネシウム、水酸化カルシウム等の金属水酸化物、ホウ酸亜鉛、リン酸アルミニウム等のリン酸塩、亜リン酸アルミニウム等の亜リン酸塩、次亜リン酸カルシウム等の次亜リン酸塩、アルミン酸カルシウムなどが挙げられる。これら無機系難燃剤は、難燃性の向上、金属腐食性の低減、どちらの目的で配合しても構わない。
【0041】
ハロゲン系難燃剤としては、例えば、ヘキサブロモシクロドデカン、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールA、ビス(ジブロモプロピル)テトラブロモ-ビスフェノールS、トリス(ジブロモプロピル)イソシアヌレート、トリス(トリブロモネオペンチル)ホスフェート、デカブロモジフェニレンオキサイド、臭素化エポキシ樹脂、ビス(ペンタブロモフェニル)エタン、トリス(トリブロモフェノキシ)トリアジン、エチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、エチレンビスペンタブロモフェニル、ポリブロモフェニルインダン、臭素化ポリスチレン、テトラブロモビスフェノールAポリカーボネート、臭素化ポリフェニレンオキシド、ポリペンタブロモベンジルアクリレートなどが挙げられる。中でも高温での加工に耐えうるエチレンビス(テトラブロモフタル)イミド、臭素化エポキシ樹脂、臭素化ポリスチレンが好ましく、臭素化ポリスチレンがより好ましい。これらは単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0042】
本発明の樹脂組成物における難燃剤(B)の含有量は特に限定されないが、十分な難燃性を実現するために、5~30質量%であることが好ましく、10~25質量%であることがより好ましい。難燃剤(B)の含有量が、5質量%未満であると、樹脂組成物に、必要とする難燃性を付与することが困難となる。一方、難燃剤(B)の含有量が、30質量%を超えると、樹脂組成物は、難燃性に優れる反面、金属腐食性が大きくなるとともに、溶融混練が困難となることがあり、また得られる成形体は機械的特性が不十分となることがある。
【0043】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、さらに繊維状強化材(C)を含有する。繊維状強化材(C)としては、特に限定されないが、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、ボロン繊維、アスベスト繊維、ポリビニルアルコール繊維、ポリエステル繊維、アクリル繊維、全芳香族ポリアミド繊維、ポリベンズオキサゾール繊維、ポリテトラフルオロエチレン繊維、ケナフ繊維、竹繊維、麻繊維、バガス繊維、高強度ポリエチレン繊維、アルミナ繊維、炭化ケイ素繊維、チタン酸カリウム繊維、黄銅繊維、ステンレス繊維、スチール繊維、セラミックス繊維、玄武岩繊維を挙げられる。中でも、機械的特性の向上効果の高く、ポリアミドとの溶融混練時の加熱温度に耐え得る耐熱性を有し、入手しやすいことから、ガラス繊維、炭素繊維、金属繊維が好ましい。繊維状強化材は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
【0044】
ガラス繊維、炭素繊維は、シランカップリング剤で表面処理されていることが好ましい。シランカップリング剤は、集束剤に分散されていてもよい。シランカップリング剤としては、例えば、ビニルシラン系、アクリルシラン系、エポキシシラン系、アミノシラン系が挙げられ、中でも、ポリアミドとガラス繊維または炭素繊維との密着効果が高いことから、アミノシラン系カップリング剤が好ましい。
【0045】
繊維状強化材の繊維長、繊維径は、特に限定されないが、繊維長は0.1~7mmであることが好ましく、0.5~6mmであることがさらに好ましい。繊維状強化材の繊維長が0.1~7mmであることにより、成形性に悪影響を及ぼすことなく、樹脂組成物を補強することができる。また、繊維径は3~20μmであることが好ましく、5~13μmであることがさらに好ましい。繊維径が3~20μmであることにより、溶融混練時に折損させることなく、樹脂組成物を補強することができる。
繊維状強化材の断面形状としては、円形、長方形、楕円、それ以外の異形断面等が挙げられ、中でも円形が好ましい。
【0046】
本発明の樹脂組成物における繊維状強化材(C)の含有量は特に限定されないが、十分な機械的強度を実現するために、5~60質量%であることが好ましく、10~50質量%であることがより好ましく、20~40質量%であることがさらに好ましい。繊維状強化材(C)の含有量が5質量%未満であると、樹脂組成物は、機械的特性の向上効果が小さい場合がある。一方、繊維状強化材(C)の含有量が60質量%を超えると、樹脂組成物は、機械的特性の向上効果が飽和し、それ以上の向上効果が見込めないばかりでなく、流動性が極端に低下するために、成形体を得ることが困難になる場合がある。
【0047】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、リン系酸化防止剤を含有することにより、さらに安定性、成形性に優れたものとすることができる。
リン系酸化防止剤は、無機化合物でも有機化合物いずれでもよい。リン系酸化防止剤としては、例えば、リン酸一ナトリウム、リン酸二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、亜リン酸ナトリウム、亜リン酸カルシウム、亜リン酸マグネシウム、亜リン酸マンガン等の無機リン酸塩、トリフェニルホスファイト、トリオクタデシルホスファイト、トリデシルホスファイト、トリノニルフェニルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、ビス(2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-36」)、ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-24G」)、トリス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)ホスファイト、ジステアリルペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-8」)、ビス(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト(「アデカスタブPEP-4C」)、1,1′-ビフェニル-4,4′-ジイルビス[亜ホスホン酸ビス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)]、テトラキス(2,4-ジ-tert-ブチルフェニル)4,4′-ビフェニレン-ジ-ホスホナイト(「ホスタノックスP-EPQ」)、テトラ(トリデシル-4,4′-イソプロピリデンジフェニルジホスファイト、2,2-メチレンビス(4,6-ジ-tert-ブチルフェニル)オクチルホスファイト等の有機リン化合物が挙げられる。リン系酸化防止剤は、単独で用いてもよいし、併用してもよい。
リン系酸化防止剤は、ホスフィン酸金属塩と均一に混ざりやすく、分解を防ぐため、難燃性を向上させることができる。また、リン系酸化防止剤は、ポリアミド(A1)やポリアミド(A2)の分解や分子量低下を防ぎ、溶融加工時の操業性、成形性、機械的特性を向上させることができる。
【0048】
本発明のポリアミド樹脂組成物には、必要に応じてその他の安定剤、着色剤、帯電防止剤、炭化抑制剤、難燃助剤等の添加剤(D)をさらに加えてもよい。着色剤としては、酸化チタン、酸化亜鉛、カーボンブラック等の顔料、ニグロシン等の染料が挙げられる。安定剤としては、ヒンダートフェノール系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、光安定剤、銅化合物からなる熱安定剤、アルコール類からなる熱安定剤等が挙げられる。炭化抑制剤は、耐トラッキング性を向上させる添加剤であり、金属水酸化物、ホウ酸金属塩等の無機物や、上記の熱安定剤等が挙げられる。難燃助剤としては、三酸化アンチモン等が挙げられる。
【0049】
本発明の樹脂組成物を製造する方法は、特に限定されないが、ポリアミド(A1)、ポリアミド(A2)、難燃剤(B)、繊維状強化材(C)および必要に応じて添加されるその他添加剤などを配合して、溶融混練する方法が好ましい。溶融混練法としては、ブラベンダー等のバッチ式ニーダー、バンバリーミキサー、ヘンシェルミキサー、ヘリカルローター、ロール、一軸押出機、二軸押出機等を用いる方法が挙げられる。溶融混練温度は、ポリアミド(A1)およびポリアミド(A2)が溶融し、かつそれらが分解しない領域から選ばれる。溶融混練温度は、高すぎると、ポリアミド(A1)やポリアミド(A2)が分解するだけでなく、難燃剤(B)も分解するおそれがあることから、ポリアミド(A1)の融点をTmとすると、(Tm-20℃)~(Tm+50℃)であることが好ましい。
【0050】
本発明のポリアミド樹脂組成物を様々な形状に加工する方法としては、溶融混合物をストランド状に押出しペレット形状にする方法や、溶融混合物をホットカット、アンダーウォーターカットしてペレット形状にする方法や、シート状に押出しカッティングする方法、ブロック状に押出し粉砕してパウダー形状にする方法が挙げられる。
【0051】
本発明の成形体は、上記ポリアミド樹脂組成物を成形してなるものである。
成形方法としては、例えば、射出成形法、押出成形法、ブロー成形法、焼結成形法が挙げられ、機械的特性、成形性の向上効果が大きいことから、射出成形法が好ましい。
射出成形機としては、特に限定されず、例えば、スクリューインライン式射出成形機またはプランジャ式射出成形機が挙げられる。射出成形機のシリンダー内で加熱溶融されたポリアミド樹脂組成物は、ショットごとに計量され、金型内に溶融状態で射出され、所定の形状で冷却、固化された後、成形体として金型から取り出される。射出成形時の樹脂温度は、ポリアミド(A1)の融点(Tm)以上で加熱溶融することが好ましく、(Tm+50℃)未満とすることがより好ましい。
なお、ポリアミド樹脂組成物の加熱溶融時には、十分に乾燥されたポリアミド樹脂組成物ペレットを用いることが好ましい。含有する水分量が多いと、射出成形機のシリンダー内で樹脂が発泡し、最適な成形体を得ることが困難となることがある。射出成形に用いるポリアミド樹脂組成物ペレットの水分率は、ポリアミド樹脂組成物100質量部に対して、0.3質量部未満であることが好ましく、0.1質量部未満であることがより好ましい。
【0052】
本発明のポリアミド樹脂組成物は、リフロー耐熱性と難燃性に優れ、また高い流動性であり、金属腐食性を抑制して成形することができ、得られる成形体は、自動車部品、電気・電子部品、雑貨、産業機器部品、土木建築用品等広範な用途に使用することができる。
自動車部品としては、例えば、サーモスタット部材、インバータのIGBTモジュール部材、インシュレーター、モーターインシュレーター、エキゾーストフィニッシャー、パワーデバイス筐体、ECU筐体、モーター部材、コイル部材、ケーブルの被覆材、車載用カメラ筐体、車載用カメラレンズホルダー、車載用コネクタ、エンジンマウント、インタークーラー、ベアリングリテーナー、オイルシールリング、チェーンカバー、ボールジョイント、チェーンテンショナー、スターターギア、減速機ギア、車載用リチウムイオン電池トレー、車載用高電圧ヒューズの筐体、自動車用ターボチャージャーインペラが挙げられる。
電気・電子部品としては、例えば、コネクタ、ECUコネクタ、メイテンロックコネクタ、モジュラージャック、リフレクタ、LEDリフレクタ、スイッチ、センサー、ソケット、ピンソケット、コンデンサー、ジャック、ヒューズホルダー、リレー、コイルボビン、ブレーカー、回路部品、電磁開閉器、ホルダー、カバー、プラグ、携帯用パソコン等の電気・電子機器の筐体部品、インペラ、掃除機インペラ、抵抗器、可変抵抗器、IC、LEDの筐体、カメラ筐体、カメラ鏡筒、カメラレンズホルダー、タクトスイッチ、照明用タクトスイッチ、ヘアアイロン筐体、ヘアアイロン櫛、全モールド直流専用小型スイッチ、有機ELディスプレイスイッチ、3Dプリンタ用の材料、モーター用ボンド磁石用の材料が挙げられる。
雑貨としては、例えば、トレー、シート、結束バンドが挙げられる。
産業機器部品としては、例えばインシュレーター類、コネクタ類、ギア類、スイッチ類、センサー、インペラ、プラレールチェーンが挙げられる。
土木建築用品としては、例えば、フェンス、収納箱、工事用配電盤、アンカーボルトガイド、アンカー用リベット、太陽電池パネル嵩上げ材が挙げられる。
中でも、本発明のポリアミド樹脂組成物は、特に難燃性に優れていることから、電気・電子部品に好適に用いることができる。
【実施例
【0053】
以下、実施例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により限定されるものではない。
【0054】
1.測定方法
ポリアミドおよびポリアミド樹脂組成物の物性測定は以下の方法により実施した。
【0055】
(1)融点
示差走査熱量計(パーキンエルマー社製 DSC-7型)用い、昇温速度20℃/分で350℃まで昇温した後、350℃で5分間保持し、降温速度20℃/分で25℃まで降温し、さらに25℃で5分間保持後、再び昇温速度20℃/分で昇温測定した際の吸熱ピークのトップを融点(Tm)とした。
【0056】
(2)流動性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機(ファナック社製 ROBOSHOT S2000i)を用いて、シリンダー温度を330℃、金型温度を140℃に設定し、型締力100トン、射出圧力80MPa、射出速度120mm/秒、射出時間5秒の条件で、シリンダー先端に片側1点ゲートの専用金型を取り付けて成形を行い、バーフロー流動長を測定した。専用金型は、厚さ0.2mm、幅20mmのL字状の成形体が採取できる形状であり、L字の上部中心にゲートを有し、流動長は最大150mmである。本発明においては、バーフロー流動長が15mm以上であることが好ましい。
【0057】
(3)リフロー耐熱性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機(日本製鋼所社製 J35AD)を用いて、シリンダー温度330℃、金型温度140℃の条件で射出成形し、20mm×20mm×0.5mmの試験片を作製した。
得られた試験片を、85℃×85%RHにて168時間吸湿処理を行った後、赤外線加熱式のリフロー炉中にて、150℃で1分間加熱し、100℃/分の速度で265℃まで昇温し、10秒間保持した。
試験片の外観に変化がなかった場合を○、試験片に1~2個のブリスター(水ぶくれ)が発生した場合を△、試験片に3個以上のブリスターが発生したか、または試験片が溶融した場合を×と評価した。
【0058】
(4)難燃性
ポリアミド樹脂組成物を、射出成形機(日本製鋼所社製 J35AD)を用いて、金型温度170℃の条件で射出成形し、5インチ(127mm)×1/2インチ(12.7mm)×1/127インチ(0.2mm)の試験片を作製した。その際、シリンダー温度は、各実施例および比較例において上記試験片が成形可能な下限温度である表3に記載の成形加工温度に設定した。
得られた試験片を用いて、表1に示すUL94(米国Under Writers Laboratories Inc.で定められた規格)の基準に従って難燃性を評価した。なお、「V-0」、「V-1」、「V-2」のいずれにも該当しない場合、「not」と示した。総残炎時間が短い方が、難燃性が優れていることを示す。
【0059】
【表1】
【0060】
(5)金属腐食性
図1のように、二軸混練押出機(EX)(池貝社製PCM30)に、ダイス(D)を取り付け、通常押出機の鋼材として使用する金属プレート(MP)(材質SUS630、20×10mm、厚さ5mm、質量7.8g)を、溶融樹脂の流路(R)の上下に取り付け、1mmの隙間を設け、溶融樹脂が幅10mm、長さ20mmにわたって接するようにした。吐出7kg/hの条件で、計25kgのポリアミド樹脂組成物を押出した。このとき、バレル温度は、上記(4)難燃性の試験片作製で設定した表3の成形加工温度と同じ温度に設定した。
押出後、金属プレート(MP)を取り外し、500℃の炉の中に10時間放置し、付着した樹脂を取り除いた後に質量を測定し、押出前後の質量変化により金属腐食性を評価した。質量変化が小さいほど、金属腐食性が低いことを示す。本発明においては、質量変化率が0.3%以下であることが好ましい。
【0061】
2.原料
実施例および比較例で用いた原料を以下に示す。
【0062】
(1)ポリアミド
・ポリアミド(A1-1)
ジカルボン酸成分として粉末状のテレフタル酸(TPA)4.70kgと、モノカルボン酸成分としてステアリン酸(STA)0.32kgと、重合触媒として次亜リン酸ナトリウム一水和物9.3gとを、リボンブレンダー式の反応装置に入れ、窒素密閉下、回転数30rpmで撹拌しながら170℃に加熱した。その後、温度を170℃に保ち、かつ回転数を30rpmに保ったまま、液注装置を用いて、ジアミン成分として100℃に加温した1,10-デカンジアミン(DDA)4.98kgを、2.5時間かけて連続的(連続液注方式)に添加し反応生成物を得た。なお、原料モノマーのモル比は、TPA:DDA:STA=48.5:49.6:1.9(原料モノマーの官能基の当量比率は、TPA:DDA:STA=49.0:50.0:1.0)であった。
続いて、得られた反応生成物を、同じ反応装置で、窒素気流下、250℃、回転数30rpmで8時間加熱して重合し、ポリアミドの粉末を作製した。
その後、得られたポリアミドの粉末を、二軸混練機を用いてストランド状とし、ストランドを水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド(A1-1)ペレットを得た。
【0063】
・ポリアミド(A1-2)~(A1-12)、ポリアミド(A2-2)
樹脂組成を表2に示すように変更した以外は、ポリアミド(A1-1)と同様にして、ポリアミド(A1-2)~(A1-12)、ポリアミド(A2-2)を得た。
【0064】
・ポリアミド(A2-1)
ポリアミド(A2-1)として、ポリアミド66(旭化成ケミカルズ社製 レオナ1200)を使用した。
【0065】
上記ポリアミドの樹脂組成と特性値を表2に示す。
【0066】
【表2】
【0067】
(2)難燃剤(B)
・B-1:ジエチルホスフィン酸アルミニウム(クラリアント社製 Exolit OP1230)
・B-2:ヘキサフェノキシシクロトリホスファゼン(伏見製薬所社製 ラビトルFP-100)
・B-3:臭素化ポリスチレン(ケムチュラ社製 Great Lakes PDBS-80)
【0068】
(3)繊維状強化材(C)
・ガラス繊維(旭ファイバーグラス社製 03JAFT692、平均繊維径10μm、平均繊維長3mm)
【0069】
(4)その他添加剤(D)
・三酸化アンチモン(日本精鉱社製 PATOX-M)
【0070】
実施例1
ポリアミド(A1-1)24.5質量部、ポリアミド(A2-1)25.5質量部、難燃剤(B-1)20質量部をドライブレンドし、ロスインウェイト式連続定量供給装置(クボタ社製 CE-W-1型)を用いて計量し、スクリュー径26mm、L/D50の同方向二軸押出機(東芝機械社製 TEM26SS型)の主供給口に供給して、溶融混練を行った。途中、サイドフィーダーより繊維状強化材(C)30質量部を供給し、さらに混練を行った。ダイスからストランド状に引き取った後、水槽に通して冷却固化し、それをペレタイザーでカッティングしてポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。押出機のバレル温度設定は、(融点-5~+15℃)、スクリュー回転数250rpm、吐出量25kg/hとした。
【0071】
実施例2~13、17、比較例1~7、参考例1~3
ポリアミド樹脂組成物の組成を表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様の操作をおこなってポリアミド樹脂組成物ペレットを得た。
【0072】
得られたポリアミド樹脂組成物ペレットを用い、各種評価試験を行った。その結果を表3に示す。
【0073】
【表3】
【0074】
実施例1~13、17の樹脂組成物は、本発明の要件を満足するため、流動性、リフロー耐熱性、難燃性、低金属腐食性に優れていた。特に実施例2、3の樹脂組成物は、ポリアミド(A1)の含有量が最適であるために、流動性とリフロー耐熱性が高水準で両立する結果となった。
【0075】
比較例1の樹脂組成物は、ポリアミド(A2)を全く含まなかったため、また比較例2、3の樹脂組成物は、ポリアミド(A1)の含有量が過多であったため、いずれも、流動性に劣り、流動性試験において、バーフロー金型のゲートを通過する前に樹脂が固化し、流動長の測定は不可能であった。また、これらの樹脂組成物は、成形加工温度を高くする必要があり、総残炎時間が長くなり、さらには金属腐食性が大きいものであった。
一方、比較例4の樹脂組成物は、ポリアミド(A2)の含有量が過多であったため、リフロー耐熱性が低い結果となった。
比較例5の樹脂組成物は、ジカルボン酸成分がテレフタル酸であるポリアミドを含有するが、その融点が270℃未満であったため、リフロー耐熱性が低い結果となった。
比較例6の樹脂組成物は、難燃剤(B)を含まなかったため、難燃性に劣るものであった。
比較例7の樹脂組成物は、繊維状強化材(C)を含まなかったため、難燃試験において残炎部分の落下綿着火によりV-2の判定となった。
【符号の説明】
【0076】
EX:二軸混練押出機
D:ダイス
MP:金属プレート
R:溶融樹脂の流路

図1