(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】転写装置及びその転写方法
(51)【国際特許分類】
B41F 19/02 20060101AFI20220411BHJP
B41F 16/00 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
B41F19/02
B41F16/00 B
(21)【出願番号】P 2019197872
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000161057
【氏名又は名称】株式会社ミヤコシ
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 誠康
(72)【発明者】
【氏名】魚住 忍
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利浩
(72)【発明者】
【氏名】奥山 数也
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 利浩
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-230152(JP,A)
【文献】米国特許第6277230(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0210388(US,A1)
【文献】特開平6-278356(JP,A)
【文献】特開2009-6703(JP,A)
【文献】西独国特許出願公開第3713666(DE,A1)
【文献】特開2020-199682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 16/00-19/08
B41F 5/00-13/70
B65H 20/00-20/40
B41M 1/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写部と、転写材料を前記転写部に搬送する転写材料搬送部と、被転写基材を前記転写部に搬送する被転写基材搬送部と、制御部とを備え、
前記転写部は、圧胴と版胴を有し、前記版胴は、前記圧胴の周面に接する転写面と、前記圧胴の周面と接しない非転写面を有し、
前記転写材料搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記転写材料を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料を逆方向に搬送し、
前記被転写基材搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記被転写基材を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記被転写基材を逆方向に搬送し、
前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを正回転し、前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送することで、前記版胴の転写面と前記圧胴の周面とで、前記転写材料を前記被転写基材に転写し、
前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料と前記被転写基材を、前記版胴の非転写面と前記圧胴の周面との間の隙間を通して逆方向に搬送してステップバックする転写装置において、
前記転写部の前記版胴は、1つのみの転写面を有し、前記版胴の1回転で1回の転写をし、
前記制御部は、前記転写材料を連続して正方向に搬送している状態で、前記版胴を任意の複数回回転して複数回の転写を行う1周期の転写動作を、複数回連続して繰り返し、かつ、1つの周期の転写が終了し、次の周期の転写を行う際、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御することを特徴とする転写装置。
【請求項2】
請求項1記載の転写装置において、
前記制御部は、1つの周期の転写が終了し、次の周期の転写を行う際、前回の周期までに転写に使用した前記転写材料の使用済み範囲内に、転写に使用可能な領域が有るか、無いかを判定し、有る場合には、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御し、無い場合には、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最後の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御する転写装置。
【請求項3】
請求項2記載の転写装置において、
前記制御部は、繰り返した周期の回数が、前記版胴の外周長に相当する転写面間の距離内で転写可能な回数と一致した場合に、前記転写に使用可能な領域が無いと判定し、一致しない場合に、前記転写に使用可能な領域が有ると判定するようにした転写装置。
【請求項4】
請求項1記載の転写装置において、
前記制御部は、前記版胴の1回転ごとに前記被転写基材を逆方向に搬送するステップバックを制御する転写装置。
【請求項5】
1つのみの転写面を有した版胴と圧胴から成り、転写材料を被転写基材に転写する転写部と、
正回転、逆回転により転写材料を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラと、
正回転、逆回転により被転写基材を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラとを備えた転写装置の転写方法において、
前記転写材料を連続して正方向に搬送している状態で、前記版胴を任意の複数回回転して複数回の転写を行うことを1周期とし、前記1周期を複数回連続して繰り返して転写する転写方法とし、
前記版胴の1回転による転写動作が終了するごとに、前記版胴の回転回数が前記版胴の1周期での回転回数と一致するかを判定し、一致しない場合は、前記転写材料を連続して正方向に搬送し、その周期の転写を続行し、一致した場合は、前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、その周期の転写を終了して次の周期の転写を行うようにし、
前記転写材料を逆方向に搬送する距離を、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となる距離とすることを特徴とする転写装置の転写方法。
【請求項6】
請求項5記載の転写装置の転写方法において、
1つの周期の転写が終了し、次の周期の転写をする際、前回の周期までに転写に使用した前記転写材料の使用済み範囲内に、転写に使用可能な領域が有るか、無いかを判定し、
有ると判定した場合には、前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、その逆方向に搬送する距離を、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となる距離とし、
無いと判定した場合には、前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、その逆方向に搬送する距離を、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最後の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となる距離とした転写装置の転写方法。
【請求項7】
請求項6記載の転写装置の転写方法において、
繰り返した周期の回数が、前記版胴の外周長に相当する転写面間の距離内で転写可能な回数と一致した場合に、前記転写に使用可能な領域が無いと判定し、一致しない場合に、前記転写に使用可能な領域が有ると判定するようにした転写装置の転写方法。
【請求項8】
請求項5記載の転写装置の転写方法において、
前記版胴の1回転ごとに、前記ステップバックローラを逆回転して、前記被転写基材を逆方向に搬送してステップバックする転写装置の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版胴と圧胴を用いて転写材料を被転写基材に転写する転写装置、及びその転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転写材料を被転写基材に転写する装置が特許文献1に記載されている。
特許文献1に記載された転写装置は、エンボシング用シリンダ(本発明の版胴に相当)と圧胴により構成されるエンボシング機構(本発明の転写部に相当)と、エンボシング用巻き箔(本発明の転写材料に相当)を搬送する搬送手段と、材料層(本発明の被転写基材に相当)等を備えている。
そして、エンボシング用巻き箔と材料層を重ね合せて前進してエンボシング用シリンダと圧胴の間を通過させることで、エンボシング用シリンダのエンボシング用金版(本発明の転写面に相当)によりエンボシング用巻き箔を材料層にエンボシング(本発明の転写に相当)する。
【0003】
更に、1回のエンボシング終了後に次のエンボシングを行うまでの間に、搬送手段を制御してエンボシング用巻き箔の搬送速度を減速、後退することで、エンボシング用巻き箔における先にエンボシングされた領域と、次にエンボシングされる領域との間隔を短くし、エンボシング用巻き箔におけるエンボシングに使用されない状態で搬送される領域の量を低減して、エンボシング用巻き箔が無駄となることを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
特許文献1に開示された転写装置によれば、エンボシング用巻き箔におけるエンボシングに使用されない状態で搬送される領域の量をある程度低減することができるが、低減できる量は僅かで、エンボシング用巻き箔の無駄をあまり低減できない。
そこで、本発明者等は、転写材料における転写されずに搬送される領域の量を低減し、転写材料の無駄を大幅に低減できる転写装置を開発した。
【0006】
本発明者等が開発した転写装置を
図8から
図11に基づき説明する。
図8は、本発明者等が開発した転写装置の転写部の模式図であり、版胴100と圧胴101とで転写部102としている。版胴100は転写面103を有し、転写面103はエンボス版104に設けてある。版胴100の転写面103以外の面は非転写面105である。
版胴100は反時計回り方向に転写速度に応じた一定の速度で回転し、時計回り方向には回転しない。圧胴101は時計回り方向に、版胴100と同一速度で回転し、反時計回り方向には回転しない。
転写材料106と被転写基材107は、図示しないステップバックローラによりそれぞれ正方向(矢印a方向)と逆方向(矢印b方向)に搬送される。
【0007】
転写装置は、版胴100と圧胴101を同期して転写速度で回転し、図示しないステップバックローラを正回転して、転写材料106と被転写基材107を正方向に搬送し、版胴100と圧胴101の間を重ね合せた状態で通過させる。版胴100が1回転する間に版胴100の転写面103と圧胴101の周面により、転写材料106が被転写基材107に転写される。
転写が終了すると、転写装置は、版胴100の1回転中に図示しないステップバックローラを逆回転して、転写材料106と被転写基材107を逆方向に所定の距離だけ搬送してステップバックし、転写材料106の転写に使用される領域と被転写基材107の転写材料106が転写される領域を調整する。そして、転写装置は、再び図示しないステップバックローラを正回転して、転写材料106と被転写基材107を正方向に搬送して版胴100の2回転目の転写をする。
なお、この転写材料106と被転写基材107のステップバックは、逆方向に搬送中の加速及び減速の制御を含んでいる。ステップバックの制御の詳細は後述する。
【0008】
図9に基づいて版胴100に対する転写材料106と被転写基材107の搬送、及び転写面103による転写動作を説明する。
図9において、転写材料106及び被転写基材107に、転写面103の転写に必要な距離に相当する枠をそれぞれ設け、搬送、転写動作を理解し易くしている。なお、実際の転写装置では転写材料106、被転写基材107に枠は設けていない。被転写基材107の斜線領域の枠は転写しない領域(印刷など転写以外で使用する領域)であり、空白領域の枠(以下、空白領域という)が転写する領域である。
破線は、版胴100の転写面103と圧胴101の周面で転写材料106と被転写基材107をニップする転写位置108である。
【0009】
図9Aは、転写開始前の状態を示し、転写面103は転写位置108と位置がずれている。
この状態から版胴100が回転すると共に、転写材料106と被転写基材107が同期して同じ転写速度で正方向(矢印a方向)に搬送される。
図9Bに示すように、転写面103が転写位置108に移動した時に、転写面103が転写材料106を被転写基材107に転写する。転写材料106の転写に使用された領域を(1)とし、被転写基材107の転写材料106が転写された領域を(A)とする。
図9Cに示すように、版胴100の非転写面105が転写位置108を通過する時に、転写材料106を所定の距離だけ逆方向(矢印b方向)に搬送してステップバックし、転写材料106を所定の距離だけ戻す。その後、転写材料106を正方向に搬送することで、
図9Dに示すように、版胴100の2回転目に転写面103を転写位置108とする。
【0010】
この時、転写材料106の領域(2)が、転写位置108と合致するようにし、その領域(2)を転写面103の転写に使用する。転写材料106の領域(2)は、版胴100の1回転目に転写に使用された転写材料106の領域(1)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
被転写基材107は、
図9Cに示す状態で、逆方向に搬送してステップバックし、所定の距離だけ戻す。被転写基材107の戻し距離は、転写材料106の戻し距離と異なる。その後、被転写基材107を転写材料106と同期して正方向に搬送することで、
図9Dに示すように、版胴100の2回転目に転写面103が転写位置108に移動した時に、被転写基材107の空白領域(B)が転写位置108と合致するようにし、その空白領域(B)に転写材料106を転写する。被転写基材107の空白領域(B)は、版胴100の1回転目に転写面103で転写材料106が転写された被転写基材107の領域(A)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
【0011】
図9Eに示すように、版胴100の非転写面105が転写位置108を通過する時に、転写材料106を所定の距離だけ逆方向に搬送してステップバックし、転写材料106を所定の距離だけ戻す。その後、転写材料106を正方向に搬送することで、
図9Fに示すように、版胴100の3回転目に転写面103を転写位置108とする。
この時、転写材料106の領域(3)が、転写位置108と合致するようにし、その領域(3)を転写面103の転写に使用する。転写材料106の領域(3)は、版胴100の2回転目に転写に使用された転写材料106の領域(2)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
被転写基材107は、
図9Eに示す状態で、逆方向に搬送してステップバックし、所定の距離だけ戻す。その後、被転写基材107を転写材料106と同期して正方向に搬送することで、
図9Fに示すように、版胴100の3回転目に転写面103が転写位置108に移動した時に、被転写基材107の空白領域(C)が転写位置108と合致するようにし、その空白領域(C)に転写材料106を転写する。被転写基材107の空白領域(C)は、版胴100の2回転目に転写面103で転写材料106が転写された被転写基材107の領域(B)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
【0012】
図10と
図11に基づいて、転写材料106の搬送制御を説明する。
図10は、本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目と2回転目の転写材料の搬送制御の模式図で、
図11は、本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
図10に示すように、転写面103の転写に必要な距離をLと定義する。Lは、転写面103の天地サイズ(回転方向の長さ)に、転写に必要な最低限の余白を加えた距離である。
図9、10、11に示す枠の版胴100の回転方向の距離はLである。
版胴100が1回転目から2回転目に移行する際、つまり、1回転目の転写面103による転写が終了した後に、正方向に転写速度で搬送されている転写材料106の速度を減速して停止する。その後、転写材料106はステップバックをするが、そのステップバックは次のようである。
停止している転写材料106を逆方向(戻し方向)に、所定の搬送速度まで加速して所定の搬送速度で搬送する。その後、ステップバックを停止するために所定の搬送速度から減速して、所定の距離で逆方向への搬送を停止する。この逆方向への加速と減速を含む所定の距離の搬送がステップバックである。停止から所定の搬送速度となるまでの距離をステップバック中の加速距離と定義し、搬送速度から停止するまでの距離をステップバック中の減速距離と定義する。なお、ステップバック中の搬送は、所定の搬送速度で搬送する距離を設けず、所定の搬送速度に加速した直後に、減速に切り替えてもよい。
【0013】
そして、版胴100の2回転目に転写面103で転写開始するまでに、停止している転写材料106を加速して転写速度で正方向に搬送する。
転写材料106を転写速度で正方向に搬送している状態から減速して停止するまでの距離(転写後の減速距離)をβと定義する。また、ステップバックした後に停止している転写材料106を正方向に加速して転写速度になるまでの距離(転写前の加速距離)をαと定義する。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、図示しないステップバックローラを回転駆動する駆動モータの特性、搬送速度、ステップバックによる戻し距離、及び版胴100の非転写面105の長さによって決定されるパラメータである。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、駆動モータの特性により推奨される公知の制御装置を使用して自動的に決定される。
また、転写材料106を逆方向(戻し方向)に搬送するステップバック中の加速距離、ステップバック中の減速距離、ステップバック中の搬送速度の設定も、転写後の減速距離βおよび転写前の加速距離αと同様に決定される。
【0014】
1回のステップバックで転写材料106を逆方向に搬送する距離を、戻し距離R10と定義し、以下戻し距離R10について説明する。
図10に示すように、版胴100の2回転目に転写面103により転写に使用される転写材料106の領域(2)は、版胴100の1回転目に転写面103により使用された転写材料106の領域(1)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
したがって、領域(1)の搬送方向上流側位置(転写終了位置)から2回転目の転写を開始するので、戻し距離R10は、α+βで導出できる。
図10では、α=2L、β=2Lであるので、戻し距離R10は4Lの距離となる。また、版胴1回転での正方向への搬送距離Rは5Lの距離となる。
【0015】
図11に示すように、版胴100が3回転目に転写に使用する転写材料106の領域(3)は、2回転目に転写に使用された領域(2)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
版胴100が4回転目に転写に使用する転写材料106の領域(4)は、3回転目に転写に使用された領域(3)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
版胴100が5回転目に転写に使用する転写材料106の領域(5)は、4回転目に転写に使用された領域(4)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
版胴100が6回転目に転写に使用する転写材料106の領域(6)は、5回転目に転写に使用された領域(5)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
また、版胴100が2回転目から3回転目に移行する際、3回転目から4回転目に移行する際、4回転から5回転に移行する際、5回転目から6回転目に移行する際には、戻し距離R10は4Lの距離である。
なお、
図11では、αとβを0とし(α=0、β=0)、図を簡略化して理解をし易いようにしてある。
版胴100の6回転目以降の場合も同様に、版胴100の1回転ごとに戻し距離R10=4Lでのステップバックを繰り返し行うことで、常に転写材料106に無駄が発生しない転写が行える。
【0016】
本発明者等が開発した転写装置によれば、転写材料106の転写に使用した領域の搬送方向上流側に隣接した領域を、順次転写に使用するので、転写材料106を無駄とせずに有効利用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0017】
本発明者等が開発した転写装置で転写したところ、次のような不具合が生じることがあった。
転写材料106をステップバックして搬送方向を正方向、逆方向に切り替える場合、図示しないステップバックローラの回転方向、回転速度を制御しているが、転写材料106の搬送方向を切り替える場合に、図示しないステップバックローラの回転慣性力により図示しないステップバックローラの回転速度制御や停止位置制御が不安定になって、転写材料106の挙動が不安定になることがあった。
また、転写材料106の搬送方向を切り替える場合に、転写材料106には慣性力が切り替え前の搬送方向に働く。この慣性力により、転写材料106が、その転写材料106を搬送する図示しないステップバックローラの正逆回転の変化に対して追従性が悪い場合には、転写材料106が歪んだり、裂けたりする虞があり、転写材料106の搬送が安定しないことがあった。
【0018】
これらの、転写材料106の挙動が不安定、搬送が安定しないことにより、転写のミスが発生し、歩留まりが悪くなる。このことは、転写材料106のステップバックを行うごとに発生する。
【0019】
本発明は、上記の課題を解決するために為されたものであり、その目的は、転写材料を無駄とせずに有効利用できると共に、転写材料のステップバックの回数を減らすことにより、転写材料の搬送を安定させ、歩留まりを改善できるようにした転写装置及びその転写方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明の転写装置は、転写部と、転写材料を前記転写部に搬送する転写材料搬送部と、被転写基材を前記転写部に搬送する被転写基材搬送部と、制御部とを備え、前記転写部は、圧胴と版胴を有し、前記版胴は、前記圧胴の周面に接する転写面と、前記圧胴の周面と接しない非転写面を有し、前記転写材料搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記転写材料を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料を逆方向に搬送し、前記被転写基材搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記被転写基材を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記被転写基材を逆方向に搬送し、前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを正回転し、前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送することで、前記版胴の転写面と前記圧胴の周面とで、前記転写材料を前記被転写基材に転写し、前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料と前記被転写基材を、前記版胴の非転写面と前記圧胴の周面との間の隙間を通して逆方向に搬送してステップバックする転写装置において、
前記転写部の前記版胴は、1つのみの転写面を有し、前記版胴の1回転で1回の転写をし、前記制御部は、前記転写材料を連続して正方向に搬送している状態で、前記版胴を任意の複数回回転して複数回の転写を行う1周期の転写動作を、複数回連続して繰り返し、かつ、1つの周期の転写が終了し、次の周期の転写を行う際、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御することを特徴とする転写装置である。
【0021】
本発明の転写装置においては、前記制御部は、1つの周期の転写が終了し、次の周期の転写を行う際、前回の周期までに転写に使用した前記転写材料の使用済み範囲内に、転写に使用可能な領域が有るか、無いかを判定し、有る場合には、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御し、無い場合には、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最後の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御する転写装置とすることができる。
【0022】
本発明の転写装置においては、前記制御部は、繰り返した周期の回数が、前記版胴の外周長に相当する転写面間の距離内で転写可能な回数と一致した場合に、前記転写に使用可能な領域が無いと判定し、一致しない場合に、前記転写に使用可能な領域が有ると判定するようにした転写装置とすることができる。
【0023】
本発明の転写装置においては、前記制御部は、前記版胴の1回転ごとに前記被転写基材を逆方向に搬送するステップバックを制御する転写装置とすることができる。
【0024】
本発明の転写装置の転写方法は、1つのみの転写面を有した版胴と圧胴から成り、転写材料を被転写基材に転写する転写部と、正回転、逆回転により転写材料を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラと、正回転、逆回転により被転写基材を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラとを備えた転写装置の転写方法において、
前記転写材料を連続して正方向に搬送している状態で、前記版胴を任意の複数回回転して複数回の転写を行うことを1周期とし、前記1周期を複数回連続して繰り返して転写する転写方法とし、前記版胴の1回転による転写動作が終了するごとに、前記版胴の回転回数が、前記版胴の1周期での回転回数と一致するかを判定し、一致しない場合は、前記転写材料を連続して正方向に搬送し、その周期の転写を続行し、一致した場合は、前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、その周期の転写を終了して次の周期の転写を行うようにし、前記転写材料を逆方向に搬送する距離を、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となる距離とすることを特徴とする転写装置の転写方法である。
【0025】
本発明の転写装置の転写方法においては、1つの周期の転写が終了し、次の周期の転写をする際、前回の周期までに転写に使用した前記転写材料の使用済み範囲内に、転写に使用可能な領域が有るか、無いかを判定し、有ると判定した場合には、前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、その逆方向に搬送する距離を、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最初の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となる距離とし、無いと判定した場合には、前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、その逆方向に搬送する距離を、次の周期の最初の転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の周期における最後の転写に使用された領域の搬送方向上流側に隣接した領域となる距離とした転写装置の転写方法とすることができる。
【0026】
本発明の転写装置の転写方法においては、繰り返した周期の回数が、前記版胴の外周長に相当する転写面間の距離内で転写可能な回数と一致した場合に、前記転写に使用可能な領域が無いと判定し、一致しない場合に、前記転写に使用可能な領域が有ると判定するようにした転写装置の転写方法とすることができる。
【0027】
本発明の転写装置の転写方法においては、前記版胴の1回転ごとに、前記ステップバックローラを逆回転して、前記被転写基材を逆方向に搬送してステップバックする転写装置の転写方法とすることができる。
【発明の効果】
【0028】
本発明の転写装置及びその転写方法によれば、転写材料を無駄とせずに有効利用できると共に、ステップバックの回数を低減して、転写材料の搬送を安定させ、歩留まりを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本発明の転写装置の実施の形態の一例を示す全体正面図である。
【
図2】
図1に示す本発明の転写部の版胴の模式図である。
【
図3】本発明の転写装置の転写材料と被転写基材の搬送及び転写面による転写動作の説明図である。
【
図4】実施の形態の版胴1周期目から版胴2周期目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図5】実施の形態の版胴1周期目から版胴8周期目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図6】本発明の転写装置の転写材料と被転写基材の搬送状態と、本発明者等が開発した転写装置の転写材料と被転写基材の搬送状態を比較した表図である。
【
図7】本発明の転写装置の制御方法のフローチャートである。
【
図8】本発明者等が開発した転写装置の転写部の模式図である。
【
図9】本発明者等が開発した転写装置の転写材料と被転写基材の搬送及び転写面による転写動作の説明図である。
【
図10】本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目と2回転目の転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図11】本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
図1に基づいて本発明の転写装置の全体構成を説明する。
図1は、本発明の転写装置の実施の形態の一例を示す全体正面図である。
本発明の転写装置1は、転写部2と、転写材料の供給部3と、転写材料の回収部4と、制御部5と、図示しない被転写基材搬送部などを備え、転写材料の供給部3と転写材料の回収部4とで転写材料搬送部を構成している。転写部2、転写材料の供給部3、転写材料の回収部4、制御部5は装置本体1aに設けてある。なお、制御部5は装置本体1aに限ることはなく、装置本体1a以外に設けることができる。
転写部2は、版胴20と圧胴21を有している。
【0031】
図2に示すように、版胴20は、転写面22を有し、転写面22は、版胴20の全周長より短いエンボス版23に設けてある。版胴20の転写面22以外の面は非転写面24である。すなわち、版胴20は1つのみの転写面22を有する。
【0032】
図1に示すように、版胴20と圧胴21は図示しない1つの駆動モータによって同期して転写速度に応じた一定の速度で回転する。版胴20は反時計回り方向に回転し、時計回り方向には回転しない。圧胴21は時計回り方向に回転し、反時計回り方向には回転しない。
転写材料の供給部3から供給された転写材料6と、図示しない被転写基材搬送部で搬送される被転写基材7は、版胴20と圧胴21の間を通して搬送される。版胴20の転写面22と圧胴21の周面とで転写材料6と被転写基材7をニップし、版胴20の非転写面24と圧胴21の周面は隙間を有し、転写材料6と被転写基材7は隙間を通して搬送される。
版胴20の転写面22と圧胴21の周面で転写材料6と被転写基材7をニップすることで、転写材料6が被転写基材7に転写される。
制御部5は、例えばCPU(中央処理装置)で、転写材料6と被転写基材7の搬送や、版胴20と圧胴21の回転を制御する。
【0033】
実施の形態の転写部2は、版胴20内に図示しない加熱機構が設けられており、版胴20の転写面22を、例えば150℃から200℃程度に加熱することで、転写材料6を被転写基材7に熱転写する転写部である。版胴20を加熱しない転写部としてもよい。版胴20を加熱しない転写部の場合は、版胴の搬送方向上流側に糊付装置を設け、被転写基材に糊を塗布して転写する。
【0034】
転写材料の供給部3は、転写材料6を転写部2の版胴20と圧胴21との間に向けて搬送する。
転写材料の供給部3は、巻出し軸30と、巻出し軸30の供給方向下流側に設けられた供給側の送りローラ31と、供給側の送りローラ31の供給方向下流側に設けられた供給側の緩衝装置32と、供給側の緩衝装置32の供給方向下流側に設けられた供給側のステップバックローラ33を有している。
巻出し軸30にはロール状の転写材料6が取り付けられる。
供給側の送りローラ31は、図示しない駆動モータで巻き出し方向(反時計回り方向)にのみ回転駆動され、外周面に転写材料6が巻き付けられる。供給側の送りローラ31の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ34が設けられ、転写材料6を、供給側の送りローラ31とニップローラ34とで挟持する。
【0035】
供給側の送りローラ31を回転駆動することで、巻出し軸30に取り付けられたロール状の転写材料6を巻き出し、供給側の緩衝装置32に向けて搬送する。
供給側の緩衝装置32は、転写材料6をボックス35内に真空圧を利用して下向きU字状に保持するループバキュームである。
供給側のステップバックローラ33は、図示しない駆動モータで正回転と逆回転され、外周面に供給側の緩衝装置32から送り出された転写材料6が巻き付けられる。供給側のステップバックローラ33の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ36が設けられ、転写材料6を、供給側のステップバックローラ33とニップローラ36とで挟持し、転写材料6を正方向と逆方向に搬送できるようにしている。
【0036】
転写材料の回収部4は、転写部2で転写に使用された領域以外の転写材料6、つまり転写に使用されなかった転写材料6を回収する。
転写材料の回収部4は、回収側のステップバックローラ40と、回収側のステップバックローラ40の回収方向下流側に設けられた回収側の緩衝装置41と、回収側の緩衝装置41の回収方向下流側に設けられた回収側の送りローラ42と、回収側の送りローラ42の回収方向下流側に設けられた巻取軸43を有している。
回収側のステップバックローラ40は、図示しない駆動モータで正回転と逆回転され、外周面に、転写に使用されなかった転写材料6が巻き付けられる。
【0037】
回収側のステップバックローラ40の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ44が設けられ、転写に使用されなかった転写材料6を、回収側のステップバックローラ40とニップローラ44とで挟持し、正方向と逆方向に搬送できるようにしている。
回収側の緩衝装置41は、転写に使用されなかった転写材料6を、ボックス45内に真空圧を利用して下向きU字状に保持するループバキュームである。
回収側の送りローラ42は、図示しない駆動モータで回収方向(反時計回り方向)にのみ回転駆動され、外周面に転写に使用されなかった転写材料6が巻き付けられる。
【0038】
回収側の送りローラ42の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ46が設けられ、転写に使用されなかった転写材料6を、回収側の送りローラ42とニップローラ46とで挟持する。
回収側の送りローラ42を回転駆動することで、回収側の緩衝装置41に保持されている転写に使用されなかった転写材料6を巻取軸43に向けて搬送する。
巻取軸43は、図示しない駆動モータで巻取方向(反時計回り方向)にのみ回転駆動され、転写に使用されなかった転写材料6を巻き取ることで回収する。
供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40は、転写する時には同期して正回転され、転写材料6を正方向に搬送する。
【0039】
転写材料6の転写に使用される領域の位置を調整する時には、供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40を同期して正回転、逆回転を繰り返し、転写材料6を正方向と逆方向に交互に搬送する間欠搬送をする。この動作は後に詳細に説明する。
供給側の緩衝装置32は、転写材料6を逆方向に搬送するときに供給側の送りローラ31と供給側のステップバックローラ33と間の転写材料6に生じる張力変化を吸収する。
回収側の緩衝装置41は、転写材料6を逆方向に搬送する時に回収側の送りローラ42と回収側のステップバックローラ40と間の転写材料6に生じる張力変化を吸収する。
【0040】
被転写基材7は、転写装置1と離れた場所に設けられた図示しない被転写基材搬送部の給紙装置から転写部2に向けて搬送され、転写部2で転写材料6が転写された被転写基材7は、転写装置1と離れた場所に設けられた図示しない被転写基材搬送部の排紙装置で回収される。
転写装置1と図示しない被転写基材搬送部の給紙装置との間に印刷ユニットを設け、被転写基材7に印刷をした後に転写部2に搬送し、印刷済みの被転写基材7に転写をするようにしてもよい。
また、転写装置1と図示しない被転写基材搬送部の排紙装置との間に印刷ユニットを設け、転写済みの被転写基材7に印刷をするようにしてもよい。
【0041】
版胴20の回転に対する被転写基材7の転写される領域の位置を調整するために、被転写基材7の搬送経路における転写部2を境とした搬送方向上流側と搬送方向下流側に、例えば、図示しない被転写基材搬送部の給紙装置と排紙装置に、図示しない上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラがそれぞれ設けられている。
図示しない上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラは、同期して正回転、逆回転され、被転写基材7を正方向(矢印a方向)と逆方向(矢印b方向)に搬送することで、被転写基材7の転写材料6が転写される領域の位置を調整する。
転写材料6及び被転写基材7は、制御部5によって供給側のステップバックローラ33、回収側のステップバックローラ40、図示しない上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラを制御することで間欠搬送される。
【0042】
転写材料6は、主として、フイルム層と剥離層と箔と糊の4層から構成され、箔としては金箔又は銀箔が使用される。転写材料6はこの物に限ることはない。
被転写基材7は、主として、表面基材、粘着剤、剥離紙から成るシールタック紙を使用する。被転写基材7はこの物に限ることはない。
転写部2による転写は次のようにして行う。
転写材料6と被転写基材7を、転写材料6の糊の層と被転写基材7の表面基材が接するように重ね合せた状態で、版胴20と圧胴21の間に搬送し、版胴20の加熱された転写面22と圧胴21とで、転写材料6と被転写基材7をニップする。
加熱された転写面22により糊の層が溶融し、転写材料6の転写面22と接触した領域が被転写基材7の表面基材に糊付けされる。転写材料6と被転写基材7が搬送されて加熱された転写面22のニップから解放されると温度が低下し、糊が固化する。
【0043】
糊が固化した後、転写材料6の箔は転写部2と回収側のステップバックローラ40の間に設けられた図示しない剥離ローラによって、被転写基材7の表面基材に糊付けされた領域と糊付けされなかった領域に分離される。
糊付けされなかった領域の箔は転写材料6のフイルム層、剥離層と共に回収側のステップバックローラ40により巻取軸43に向けて搬送される。糊付けされなかった領域の箔が分離されると、被転写基材7上には、糊付けされた箔のみが残り、転写が完了する。
転写部2として版胴20を加熱しない転写部とすることができるが、版胴20を加熱しない転写部は、転写部の上流側で被転写基材に塗布された糊を使って転写材料を被転写基材に糊付けさせる方法であり、被転写基材に糊を塗布した後、版胴の転写面と圧胴の周面で被転写基材と転写材料をニップすることで転写する。よって、版胴20を加熱しない転写部を用いる場合には、転写部の上流側に糊付装置を設ける。
【0044】
図3に基づいて、版胴20に対する転写材料6と被転写基材7の搬送、及び転写面22による転写動作を説明する。
図3において、転写材料6及び被転写基材7に、転写面22の転写に必要な距離に相当する枠をそれぞれ設け、搬送、転写動作を理解し易くしている。なお、実際の転写装置では転写材料6、被転写基材7に枠は設けていない。被転写基材7の斜線領域の枠は転写しない領域(印刷など転写以外で使用する領域)であり、空白領域の枠(以下、空白領域という)が転写する領域である。被転写基材7の転写しない領域(
図3の斜線領域)は、転写装置によって製造する製品のデザインによって決定される。
破線は、版胴20の転写面22と圧胴21の周面で転写材料6と被転写基材7をニップする転写位置25である。
【0045】
図3Aは、転写開始前の状態を示し、転写面22は転写位置25と位置がずれている。
この状態から版胴20が回転すると共に、転写材料6と被転写基材7が同期して同じ転写速度で正方向(矢印a方向)に搬送される。
図3Bに示すように、版胴20の1回転目に転写面22が転写位置25に移動した時に、転写面22が転写材料6を被転写基材7に1回目の転写をする。転写材料6の転写に使用された領域を(1)とし、被転写基材7の転写材料6が転写された領域を(A)とする。
【0046】
図3Cに示すように、版胴20の1回転目の転写終了後に、版胴20の非転写面24が転写位置25を通過する時に、被転写基材7を逆方向(矢印b方向)に搬送してステップバックする。つまり、版胴20の非転写面24と圧胴21の周面との間の隙間を通して被転写基材7を所定の距離だけ逆方向に搬送する。この動作がステップバックである。なお、このステップバックは、逆方向に搬送中の加速および減速の制御を含んでいる。ステップバックの制御の詳細は後述する。
この時、転写材料6は正方向に搬送し続けられている。
被転写基材7が所定の距離だけ逆方向に搬送された後は、被転写基材7は転写材料6と同期して正方向に搬送される。被転写基材7の逆方向に搬送される距離(ステップバックによる戻し距離)は、
図3Dに示すように、版胴20の2回転目に転写面22が転写位置25に移動した時に、被転写基材7の空白領域(B)が転写位置25と合致するようにする。被転写基材7の空白領域(B)は、版胴20の1回転目に転写面22で転写材料6が転写された被転写基材7の領域(A)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
【0047】
図3Dに示すように、版胴20の2回転目に転写面22が転写位置25に移動した時に、転写材料6を被転写基材7の空白領域(B)に転写する。この時に転写材料6の転写に使用された領域を(2)とする。
図3Eに示すように、版胴20の2回転目の転写終了後に、版胴20の非転写面24が転写位置25を通過する時に、被転写基材7を逆方向に搬送してステップバックする。この時、転写材料6は正方向に搬送し続けられている。
被転写基材7が所定の距離だけ逆方向に搬送された後は、被転写基材7は転写材料6と同期して正方向に搬送される。被転写基材7のステップバックによる戻し距離は、先の説明と同一で、
図3Fに示すように、版胴20の3回転目に転写面22が転写位置25に移動した時に、被転写基材7の空白領域(C)が転写位置25と合致するようにする。被転写基材7の空白領域(C)は、版胴20の2回転目に転写面22で転写材料6が転写された被転写基材7の領域(B)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
【0048】
図3Fに示すように、版胴20の3回転目に転写面22が転写位置25に移動した時に、転写材料6を被転写基材7の空白領域(C)に転写する。この時に転写材料6の転写に使用された領域を(3)とする。
つまり、転写材料6を正方向に連続して搬送している状態で、版胴20を3回転し、被転写基材7は版胴20の1回転ごとにステップバックすることで、転写材料6を被転写基材7に3回連続して転写する。この動作を1周期とする。
【0049】
図3Gに示すように、版胴20の3回転目の転写終了後(1周期目の最後の転写終了後)に、版胴20の非転写面24が転写位置25を通過する時に、転写材料6と被転写基材7をそれぞれ逆方向に搬送してステップバックし、転写材料6と被転写基材7を、版胴20の非転写面24と圧胴21の周面との間の隙間を通して逆方向にそれぞれ搬送して所定の距離だけ戻す。転写材料6の戻し距離と被転写基材7の戻し距離は異なる。その後、転写材料6と被転写基材7は、同期して正方向に搬送される(
図3H参照)。
被転写基材7のステップバックによる戻し距離は先の説明と同一で、
図3Hに示すように、版胴20の4回転目に転写面22が転写位置25に移動した時に、被転写基材7の空白領域(D)が転写位置25と合致するようにする。被転写基材7の空白領域(D)は、版胴20の3回転目に転写面22で転写材料6が転写された被転写基材7の領域(C)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
転写材料6のステップバックによる戻し距離は、
図3Hに示すように、版胴20の4回転目に転写面22が転写位置25に移動した時(2周期目の最初の転写時)に、転写材料6の領域(4)が転写位置25と合致するようにする。転写材料6の領域(4)は、版胴20の1回転目に転写面22の転写に使用された転写材料6の領域(1)の搬送方向上流側に隣接した領域である。転写材料6の領域(4)が転写面22により被転写基材7の空白領域(D)に転写される。
【0050】
1周期の転写動作は制御部5により次のように行われる。
制御部5は、版胴20の回転回数をカウントし、カウントした版胴20の回転回数が版胴20の1周期での回転回数と一致するかを判定する。
制御部5が一致しないと判定した場合には、1周期の転写動作が終了していないので、転写材料6を正方向に搬送し続けて転写を継続して行う。
制御部5が一致していると判定した場合は、1周期の転写動作が終了したので、正方向に転写速度で搬送されている転写材料6を減速して停止し、その後、転写材料6をステップバックする。ステップバック後に、転写材料6を転写速度まで加速し、次の周期の転写を開始する。
【0051】
転写材料6のステップバックは次のように行う。
例えば、供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40を同期して逆回転し、転写材料6を逆方向(矢印b方向)に所定の距離だけ搬送する。
転写材料6の搬送を安定させるために、搬送中の方向に対して下流側のステップバックローラの回転速度を上流側のステップバックローラの回転速度より速くするように制御している。この制御により供給側のステップローラ33と回収側のステップバックローラ40との間では常に転写材料6を搬送するために十分な張力が働いている状態が保たれ、転写材料6を安定して搬送できる。なお、被転写基材7を搬送する図示しないステップバックローラも同様に制御される。
【0052】
この時、供給側のステップバックローラ33と供給側の送りローラ31との間の転写材料6の張力及び回収側のステップバックローラ40と回収側の送りローラ42との間の転写材料6の張力がそれぞれ変化するが、その張力変化は供給側の緩衝装置32と回収側の緩衝装置41とでそれぞれ吸収される。
転写材料6が逆方向に搬送されて所定の距離だけ戻された後、供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40を同期して正回転し、転写材料6を正方向に搬送する。
被転写基材7のステップバックは、図示しない被転写基材搬送部の上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラを、先の説明の供給側のステップバックローラ33、回収側のステップバックローラ40と同様に制御して行う。
【0053】
図4と
図5に基づいて、転写材料6の搬送制御を説明する。
図4は、実施の形態の版胴1回転目(1周期目)から6回転目(2周期目)までの転写材料の搬送制御の模式図で、
図5は、実施の形態の版胴1回転目(1周期目)から24回転目(8周期目)までの転写材料の搬送制御の模式図である。
図4に示すように、転写面22の転写に必要な距離をLと定義する。Lは、転写面22の天地サイズ(回転方向の長さ)に、転写に必要な最低限の余白を加えた距離である。
転写面間の距離、つまり版胴20の外周長(版胴1回転目に転写面が転写開始する位置から次の版胴2回転目に転写面が転写開始する位置までの距離)をMと定義する。
版胴20の外周長は、版胴20の回転中心から転写面22までの距離を半径とする仮想円の周面の長さである。
【0054】
版胴20の1周期での回転回数(1周期の転写回数)をSと定義する。この説明では版胴20の1周期での回転回数Sは3である。
転写面間の距離内で転写可能な回数をNと定義する。Nは、転写面間の距離Mと、転写面22の転写に必要な距離Lとで導出できる。つまり、N=M÷Lである。
転写面22の転写に必要な距離Lは、転写面22の天地サイズと転写材料6の搬送の精度によって決定される。転写面間の距離(版胴の外周長)Mは、版胴20の大きさによって決定され、転写面間の距離内で転写可能な回数Nは、LとMで導出できるので、Nも版胴20の大きさ等で決定される。
この実施の形態では、Nは6であり、1周期で転写材料6の転写に使用された領域間、例えば領域(1)と領域(2)の間には5つの枠がある。つまり、転写面間の距離内で転写可能な回数は、最初の転写を含む。
また、
図4の1周期目の転写後の転写材料6における、領域(1)と領域(2)との間の空白領域、及び、領域(2)と領域(3)との間の空白領域が、1周期目に発生する未使用領域である。
すなわち、未使用領域で転写可能な回数はN-1である。
実施の形態はNが整数の場合であるが、MがLの整数倍でない場合には、Nに余りが生じる。Nの余りは、
図3から
図5のように、未使用領域で転写した場合に、転写面22の転写に必要な距離Lに満たない、転写に使用できないまま残る範囲を意味する。以降の説明においては、Nは余りを切り捨てた整数として扱う。
【0055】
図4に示すように、1周期目には、版胴20の1回転目に、転写面22により転写材料6の領域(1)が転写に使用され、版胴20の2回転目には、転写面22により転写材料6の領域(2)が転写に使用され、版胴20の3回転目には、転写面22により転写材料6の領域(3)が転写に使用される。
1周期目から2周期目に移行する際、つまり、1周期目の最後の転写が終了した後に、正方向に転写速度で搬送されている転写材料6の速度を減速して停止する。その後、転写材料6はステップバックをするが、そのステップバックは次のようである。
停止している転写材料6を逆方向(戻し方向)に、所定の搬送速度まで加速して所定の搬送速度で搬送する。その後、ステップバックを停止するために所定の搬送速度から減速して、所定の距離で逆方向への搬送を停止する。この逆方向への加速と減速を含む所定の距離の搬送がステップバックである。停止から所定の搬送速度となるまでの距離をステップバック中の加速距離と定義し、搬送速度から停止するまでの距離をステップバック中の減速距離と定義する。なお、ステップバック中の搬送は、所定の搬送速度で搬送する距離を設けず、所定の搬送速度に加速した直後に、減速に切り替えてもよい。
【0056】
そして、2周期目に転写面22で転写開始するまでに、停止している転写材料6を加速して転写速度で正方向に搬送する。
転写材料6を転写速度で正方向に搬送している状態から減速して停止するまでの距離(転写後の減速距離)をβと定義する。また、ステップバックした後に停止している転写材料6を正方向に加速して転写速度になるまでの距離(転写前の加速距離)をαと定義する。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、
図1に示す供給側のステップバックローラ33、回収側のステップバックローラ40を回転駆動する駆動モータの特性、搬送速度、ステップバックによる戻し距離、及び版胴20の非転写面24の長さによって決定されるパラメータである。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、駆動モータの特性により推奨される公知の制御装置を使用して自動的に決定される。
また、転写材料6を逆方向(戻し方向)に搬送するステップバック中の加速距離、ステップバック中の減速距離、ステップバック中の搬送速度の設定も、転写後の減速距離βおよび転写前の加速距離αと同様に決定される。
【0057】
1回のステップバックで転写材料6を逆方向に搬送する距離を、戻し距離R1と定義し、以下戻し距離R1について説明する。
図4に示すように、2周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(4)は、1周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された転写材料6の領域(1)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
2周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(5)は、1周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用された転写材料6の領域(2)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
2周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(6)は、1周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用された転写材料6の領域(3)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0058】
したがって、戻し距離R1は、以下の式(1)から導出できる。
R1=M×(S-1)+α+β・・・式(1)
版胴20の1周期での回転回数Sは3で、転写面間の距離Mは
図4に示すように、Lの6倍であるので、式(1)から戻し距離R1は、6L×2+α+βで、αとβはそれぞれ2Lの距離であるので、戻し距離R1は16Lの距離となる。また、1周期での正方向への搬送距離Rは17Lの距離となる。
図4に示すように、1周期目から2周期目に移行する際に、転写材料6を16Lの距離だけ逆方向に搬送すればよいことになる。
【0059】
図5に示すように、2周期目から3周期目に移行する際の戻し距離R1、3周期目から4周期目に移行する際の戻し距離R1、4周期目から5周期目に移行する際の戻し距離R1、5周期目から6周期目に移行する際の戻し距離R1は、それぞれ16Lの距離である。なお、
図5では、αとβを0とし(α=0、β=0)、図を簡略化して理解をし易いようにしてある。
3周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(7)は、2周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された領域(4)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
3周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(8)は、2周期目の版胴20の2回転目で転写面22により転写に使用された領域(5)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
3周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(9)は、2周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用された領域(6)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0060】
4周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(10)は、3周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された領域(7)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
4周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(11)は、3周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用された領域(8)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
4周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(12)は、3周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用された領域(9)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0061】
5周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(13)は、4周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された領域(10)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
5周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(14)は、4周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用された領域(11)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
5周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(15)は、4周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用された領域(12)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0062】
6周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(16)は、5周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された領域(13)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
6周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(17)は、5周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用された領域(14)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
6周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(18)は、5周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用された領域(15)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0063】
図5に示すように、6周期目(転写面間の距離内で転写可能な回数Nと同じ回数の周期)から7周期目(転写面間の距離内で転写可能な回数N+1の周期)に移行する場合に、戻し距離R1を、式(1)から導出した距離として転写しようとすると、7周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用しようとする領域(19)は、6周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された領域(16)の搬送方向上流側に隣接した領域となり、その領域はすでに転写に使用されている。
つまり、6周期目の転写が終了すると、6周期目の最後に転写に使用した領域(18)の搬送方向下流側の領域(使用済み範囲内)は全て転写に使用されているので、転写に使用できる新たな領域が必要である。
【0064】
そこで、6周期目から7周期目に移行する時には、6周期目の版胴20の3回転目の転写面22による転写が終了した後、戻し距離R1を、式(2)から導出した距離とし、7周期目の版胴20の1回転目に転写面22が転写に使用する転写材料6の領域を、6周期目の版胴20の3回転目に転写面22が転写に使用した領域(18)の搬送方向上流側に隣接した領域(19)とする。この領域(19)は新たな領域である。
R1=α+β・・・式(2)
【0065】
このことは、制御部5により行われる。例えば、制御部5は周期の回数(以下、周期回数という)をカウントし、カウントした周期回数が、転写面間の距離内で転写可能な回数Nと一致しなければ、制御部5は使用済み範囲内に転写に使用可能な領域が有るとし、転写材料6のステップバックによる戻し距離R1を、式(1)から導出した距離(M×(S-1)+α+β)とする。
カウントした周期回数が、転写面間の距離内で転写可能な回数Nと一致すれば、制御部5は使用済み範囲内に転写に使用可能な領域が無いとし、転写材料6のステップバックによる戻し距離R1を、式(2)から導出した距離(α+β)とする。
7周期目の版胴20の2回転目に転写面22が転写に使用する転写材料6の領域(20)と、7周期目の版胴20の3回転目に転写面22が転写に使用する転写材料6の領域(21)は、新たな領域である。
【0066】
7周期目から8周期目に移行する場合は、戻し距離R1を式(1)から導出した距離とする。
8周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(22)は、7周期目の版胴20の1回転目に転写面22により転写に使用された領域(19)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
8周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(23)は、7周期目の版胴20の2回転目に転写面22により転写に使用された領域(20)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
8周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(24)は、7周期目の版胴20の3回転目に転写面22により転写に使用された領域(21)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0067】
つまり、周期を行った回数が、転写面間の距離内で転写可能な回数Nとなるまでは、周期を移行する場合の転写材料6のステップバックによる戻し距離R1を、先の式(1)から導出した距離とする。実施の形態では16Lの距離である。
6周期目(転写面間の距離内で転写可能な回数Nと同じ回数の周期)から7周期目(転写面間の距離内で転写可能な回数N+1の周期)に移行する場合の転写材料6のステップバックによる戻し距離R1を、式(2)から導出した距離とする。実施の形態では4Lの距離である。
実施の形態の転写装置1によれば、1周期目に発生した転写材料6の未使用領域は6周期目で全て転写に使用することができる。
したがって、転写材料6を無駄とせずに有効利用できる。
以上の説明では、版胴20の転写面間の距離Mを6Lとしたので、転写面間の距離で転写可能な回数Nが6となったが、M、Lの値によってNが変わった場合には、次のようにして戻し距離R1を決定することができる。
自然数(正の整数)をkと定義し、転写の周期をPと定義した場合、P周期目のステップバックによる戻し距離R1は、Pが以下の式(3)を満たす場合は先の式(2)から導出した距離とし、式(3)を満たさない場合は先の式(1)から導出した距離とする。
P=k×N・・・式(3)
Pが式(3)を満たす場合とは、転写の周期がNの整数倍である場合で、満たさない場合とは、転写の周期がNの整数倍でない場合である。
【0068】
実施の形態の転写装置1による転写材料6のステップバックの回数と、本発明者等が開発した転写装置による転写材料106のステップバックの回数を比較すると、次のようである。
実施の形態の転写装置1は、版胴20を複数回回転した1周期ごとに転写材料6をステップバックしているのに対し、本発明者等が開発した転写装置は、版胴100の1回転ごとに転写材料106をステップバックしているので、転写材料6、106のステップバックの回数は、実施の形態の転写装置1の方が少ない。
したがって、転写材料6のステップバックの回数を減らすことで、転写後の減速時、転写前の加速時、ステップバック中の加速時と減速時にステップバックローラ33、40に対して作用する回転慣性力の影響が低減し、ステップバックローラ33、40の回転慣性力によりステップバックローラ33、40の回転速度制御や停止位置制御が不安定になって、転写材料6の挙動が不安定になることを低減して、転写材料6の搬送を安定化させることができる。また、転写後の減速時、転写前の加速時、ステップバック中の加速時と減速時に転写材料6に作用する慣性力の影響が低減し、転写材料6の搬送を安定させることができる。これらのことにより、歩留まりを改善できる。
【0069】
実施の形態の転写装置1における転写材料6の搬送状態、被転写基材7の搬送状態と、本発明者等が開発した転写装置における転写材料106の搬送状態、被転写基材107の搬送状態を比較して図に表すと
図6に示すようになる。
図6は、転写材料、被転写基材の搬送状態を比較した表図であり、横軸が版胴の回転した回数を示し、縦軸が転写材料、被転写基材の搬送距離を転写面22の転写に必要な距離Lで割り、正規化した値を示す。つまり、1目盛がLである。縦軸に対して負の方向への変化がステップバックによる逆方向への搬送を表している。
実施の形態の転写装置1における被転写基材7と、本発明者等が開発した転写装置における被転写基材107の搬送状態は、同一の実線Xで示され、実施の形態の転写装置1における被転写基材7と、本発明者等が開発した転写装置における被転写基材107は同一に搬送され、版胴1回転ごとにステップバックを行い被転写基材7、107の転写される領域の位置を制御していることが確認できる。
【0070】
実施の形態の転写装置1における転写材料6の搬送状態は破線Yで示され、版胴20の3回転(1周期)ごとにステップバックを行い、転写材料6の転写に使用される領域を制御していることが確認できる。
本発明者等が開発した転写装置における転写材料106の搬送状態は一点鎖線Zで示され、版胴100の1回転ごとにステップバックを行い、転写材料106の転写に使用される領域を制御していることが確認できる。
前述のように、縦軸が搬送距離であり、負の方向への変化がステップバックであるので、転写材料6の戻し距離R1、転写材料106の戻し距離R10は、負に変化している間の距離の絶対値に該当するから、実施の形態の転写装置1における転写材料6の戻し距離R1は16Lの距離、本発明者等が開発した転写装置における転写材料106の戻し距離R10は4Lの距離になっていることが確認できる。
そして、実施の形態の転写装置1における転写材料6が1回ステップバックする間に、本発明者等が開発した転写装置における転写材料106は3回ステップバックを行うことが確認できる。
【0071】
また、実施の形態の転写装置1における被転写基材7の版胴20が1回転する時に正方向に搬送される搬送距離r1は5Lで、本発明者等が開発した転写装置における被転写基材107の版胴100が1回転する時に正方向に搬送される搬送距離r1も5Lで、両者の正方向に搬送される搬送距離r1は同一である。
前述のように、実施の形態の転写装置1における転写材料6が1回ステップバックする間に、本発明者等が開発した転写装置における転写材料106は3回のステップバックを行っているので、実施の形態の転写装置1における転写材料6の転写動作する時に正方向に搬送される搬送距離Rは17Lの距離となり、本発明者等が開発した転写装置における転写材料106の転写動作する時に正方向に搬送される搬送距離Rは5Lとなるので、両者の正方向に搬送される搬送距離Rは異なっている。
また、
図6の破線Yから、版胴20の1周期での回転回数Sが多いほど転写材料6のステップバックの回数が少ないことが判る。
版胴20の1周期での回転回数Sは任意に設定することができるが、その最大値は、転写面間の距離M(版胴20の外周長)及びステップバックローラ33、40を回転駆動制御する図示しない駆動モータの特性によって決まる値である。
この実施の形態においては、版胴20の1周期での回転回数Sは最大値を使用し、転写材料6のステップバックの回数が最少になるようにする。
【0072】
実施の形態の転写装置1の制御方法を、
図7に示すフローチャートに基づき説明する。
転写装置の制御部5に、L、M、Sなどの転写に必要なパラメータ及び、搬送速度などの通常の転写装置、印刷装置で使用するパラメータを入力する。ステップ1(S1)。
転写動作の開始を選択する。ステップ2(S2)。
入力されたパラメータに応じて戻し距離R1((M×(S-1)+α+β)、(α+β))等の設定が行われ、転写材料6と被転写基材7の搬送を開始する。この時、転写の周期回数をカウントする変数iを0、版胴20の回転回数(転写回数)をカウントする変数jを0とする(i=0、j=0)。ステップ3(S3)。
転写材料6と被転写基材7が一定の転写速度で同期して搬送され、版胴20の1回転分の転写が行われる。この時、版胴20の回転回数をカウントする変数jに1を加算する(j=j+1)。ステップ4(S4)。
【0073】
被転写基材7は、版胴20の1回転ごとにステップバックが行われる。ステップ5(S5)。
版胴20の回転回数をカウントする変数jが(j=S)、すなわち、1周期分の転写が終了したかを判定し、条件を満たすまでステップ4、ステップ5の処理を繰り返す。ステップ6(S6)。
j=Sの条件を満たし、1周期分の転写が終了した場合には、変数jを0に戻す(j=0)。すなわち、版胴20の回転回数のカウントをリセットする。これと同時に、転写の周期回数をカウントする変数iに1を加算する(i=i+1)。ステップ7(S7)。
1周期分の転写後、i=Nの条件より転写に使用していない未使用領域の有無を確認し、転写材料6のステップバックの設定(戻し距離R1)を決める。ステップ8(S8)。
【0074】
i=Nの条件を満たさない場合には、使用済み範囲内に未使用領域が存在するため、戻し距離R1を式(1)から導出した距離(M×(S-1)+α+β)として転写材料6をステップバックする。ステップ9(S9)。
i=Nの条件を満たす場合には、使用済み範囲内の未使用領域を全て転写に使用した状態であるため、戻し距離R1を式(2)から導出した距離(α+β)として転写材料6をステップバックする。ステップ10(S10)。
これと同時に、変数iを0に戻す(i=0)。すなわち、転写の周期回数のカウントをリセットする。ステップ11(S11)。
ステップ4(S4)からステップ11(S11)の処理を繰り返し行うことで、間欠搬送(ステップバックを含む搬送)により、転写材料6に生じた未使用領域が転写に使用される。
【0075】
なお、転写の終了の制御は通常の転写装置、印刷装置通り、ステップ1で制御部5に対して指定した条件または、転写装置の操作者による停止操作に応じて終了する公知の制御なのでフローチャートでは省略している。
以上の説明から明らかなように、実施の形態の転写装置1は、本発明者等が開発した転写装置に対して転写材料6のステップバックの回数を減少することができる。
実施の形態では、転写面22の転写に必要な距離L、版胴20の1周期での回転回数Sなどを、制御部5に入力すると説明したが、これらに加えて、版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さCを制御部5に入力する。
版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さCは、生産する製品のデザインによって決まる。長さCの取り得る値は、127.0mmから355.6mmの範囲の値で、この上限と下限は版胴20のエンボス版23の長さにより決まる。
【0076】
転写面22の転写に必要な距離Lは、転写する絵柄に応じて入力する。距離Lは5mmから355.6mm(Cの最大値)の範囲の値に設定可能である。
長さCは、版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さであるので、長さCは転写面22の転写に必要な距離L以上の長さである。
よって、LはC≧Lを満たす必要があるため、Lの設定可能な最大値はCの最大値である。
また、転写面間の距離Mは版胴20の外周長である。実施の形態では版胴20の交換は行わないため、Mは転写装置1の構成によって特定の値になる。
前述のように本発明において、版胴20の1周期での回転回数Sの最大値は、転写面間の距離M(版胴20の外周長)及びステップバックローラ33、40を回転駆動制御する駆動モータの特性によって決まる。実施の形態でSの値は最大で20まで設定できる。
実施の形態では、制御部5に入力されたL、S、Cの値が、上記設定の範囲外の場合、及びL>Cの場合は、転写可能な条件を満たさない。転写可能な条件を満たさない場合、制御部5はエラーと判定し、転写動作を行わない。これと同時に図示しない手段でエラーを表示する。
ここで示したL、S、Cの値の上限と下限は一例である。このL、S、Cの値の上限と下限は、版胴20の外周長等の転写装置1の構成によって決定される。
また、版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さCによって、被転写基材7のステップバックによる戻し距離が決定される。
【符号の説明】
【0077】
1…転写装置、2…転写部、3…転写材料の供給部、4…転写材料の回収部、5…制御部、6…転写材料、7…被転写基材、20…版胴、21…圧胴、22…転写面、24…非転写面、25…転写位置、30…巻出し軸、31…供給側の送りローラ、32…供給側の緩衝装置、33…供給側のステップバックローラ、40…回収側のステップバックローラ、41…回収側の緩衝装置、42…回収側の送りローラ、43…巻取軸。