(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】転写装置及びその転写方法
(51)【国際特許分類】
B41F 19/02 20060101AFI20220411BHJP
B41F 16/00 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
B41F19/02
B41F16/00 B
(21)【出願番号】P 2019197873
(22)【出願日】2019-10-30
【審査請求日】2021-06-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000161057
【氏名又は名称】株式会社ミヤコシ
(74)【代理人】
【識別番号】100110319
【氏名又は名称】根本 恵司
(72)【発明者】
【氏名】杉山 誠康
(72)【発明者】
【氏名】魚住 忍
(72)【発明者】
【氏名】高橋 利浩
(72)【発明者】
【氏名】奥山 数也
(72)【発明者】
【氏名】嵯峨 利浩
【審査官】長田 守夫
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-230152(JP,A)
【文献】米国特許第6277230(US,B1)
【文献】米国特許出願公開第2019/0210388(US,A1)
【文献】特開平6-278356(JP,A)
【文献】特開2009-6703(JP,A)
【文献】特開2009-255370(JP,A)
【文献】特開2020-199682(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41F 16/00-19/08
B41F 5/00-13/70
B65H 20/00-20/40
B41M 1/00- 3/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
転写部と、転写材料を前記転写部に搬送する転写材料搬送部と、被転写基材を前記転写部に搬送する被転写基材搬送部と、制御部とを備え、
前記転写部は、圧胴と版胴を有し、前記版胴は、前記圧胴の周面に接する転写面と、前記圧胴の周面と接しない非転写面を有し、
前記転写材料搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記転写材料を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料を逆方向に搬送し、
前記被転写基材搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記被転写基材を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記被転写基材を逆方向に搬送し、
前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを正回転し、前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送することで、前記版胴の転写面と前記圧胴の周面とで、前記転写材料を前記被転写基材に転写し、
前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料と前記被転写基材を、前記版胴の非転写面と前記圧胴の周面との間の隙間を通して逆方向に搬送してステップバックする転写装置において、
前記転写部の前記版胴は、2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上であり、前記版胴の1回転中に、2つ以上の転写面により、前記転写材料を前記被転写基材に順次転写し、
前記制御部は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御することを特徴とする転写装置。
【請求項2】
請求項1記載の転写装置において、
前記版胴の1回転中に、転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写終了位置から、次の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、前記版胴の転写面の数と一致する転写装置。
【請求項3】
転写部と、転写材料を前記転写部に搬送する転写材料搬送部と、被転写基材を前記転写部に搬送する被転写基材搬送部と、制御部とを備え、
前記転写部は、圧胴と版胴を有し、前記版胴は、前記圧胴の周面に接する転写面と、前記圧胴の周面と接しない非転写面を有し、
前記転写材料搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記転写材料を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料を逆方向に搬送し、
前記被転写基材搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記被転写基材を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記被転写基材を逆方向に搬送し、
前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを正回転し、前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送することで、前記版胴の転写面と前記圧胴の周面とで、前記転写材料を前記被転写基材に転写し、
前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料と前記被転写基材を、前記版胴の非転写面と前記圧胴の周面との間の隙間を通して逆方向に搬送してステップバックする転写装置において、
前記転写部の前記版胴は、2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上であり、前記版胴の1回転中に、2つ以上の転写面により、前記転写材料を前記被転写基材に順次転写し、
前記制御部は、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した特定の領域が、転写に使用可能である場合は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が転写に使用する前記転写材料の領域を、前記特定の領域となるように前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御し、
前記制御部は、前記特定の領域が転写に使用できない場合は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が転写に使用する前記転写材料の領域を、前回の回転で最も搬送方向上流側の転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御することを特徴とする転写装置。
【請求項4】
請求項3記載の転写装置において、
前記制御部は、前記版胴の回転回数と、前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置から、次の前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、一致している場合は、前記特定の領域が転写に使用できないと判定し、一致していない場合は、前記特定の領域が転写に使用できると判定する判定部を有している転写装置。
【請求項5】
2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上である版胴と圧胴を有した転写部と、
正回転、逆回転により転写材料を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラと、
正回転、逆回転により被転写基材を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラとを備えた転写装置の転写方法において、
前記版胴の1回転中に、前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送し、2つ以上の転写面により、前記転写材料の搬送方向に間隔をあけた領域を、前記被転写基材に順次転写し、転写終了後に前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料と前記被転写基材を、所定の距離だけ逆方向に搬送してステップバックし、再び前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送して転写をし、
前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した領域を、転写に使用するように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックすることを特徴とする転写装置の転写方法。
【請求項6】
2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上である版胴と圧胴を有した転写部と、
正回転、逆回転により転写材料を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラと、
正回転、逆回転により被転写基材を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラとを備えた転写装置の転写方法において、
前記版胴の1回転中に、前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送し、2つ以上の転写面により、前記転写材料の搬送方向に間隔をあけた領域を、前記被転写基材に順次転写し、転写終了後に前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料と前記被転写基材を、所定の距離だけ逆方向に搬送してステップバックし、再び前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送して転写をし、
前記版胴の1回転中に、転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写終了位置から、次の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、前記版胴の転写面の数以上である場合は、
前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した特定の領域を転写に使用できるように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、
前記版胴の1回転中に、転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写終了位置から、次の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、前記版胴の転写面の数未満である場合は、
前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が、前記特定の領域を、転写に使用可能かを判定し、
転写に使用できると判定した場合は、前記特定の領域を転写に使用できるように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、
転写に使用できないと判定した場合は、前回の回転で最も搬送方向上流側の転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向上流側に隣接した領域を、転写に使用できるように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックすることを特徴とする転写装置の転写方法。
【請求項7】
請求項6記載の転写装置の転写方法において、
前記版胴の回転回数と、前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置から、次の前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、一致している場合は、前記特定の領域が転写に使用できないと判定し、一致していない場合は、前記特定の領域が転写に使用できると判定する転写装置の転写方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、版胴と圧胴を用いて転写材料を被転写基材に転写する転写装置、及びその転写方法に関する。
【背景技術】
【0002】
転写材料を被転写基材に転写する装置が特許文献1に記載されている。
特許文献1に記載された転写装置は、エンボシング用シリンダ(本発明の版胴に相当)と圧胴により構成されるエンボシング機構(本発明の転写部に相当)と、エンボシング用巻き箔(本発明の転写材料に相当)を搬送する搬送手段と、材料層(本発明の被転写基材に相当)等を備えている。
そして、エンボシング用巻き箔と材料層を重ね合せて前進してエンボシング用シリンダと圧胴の間を通過させることで、エンボシング用シリンダのエンボシング用金版(本発明の転写面に相当)によりエンボシング用巻き箔を材料層にエンボシング(本発明の転写に相当)する。
【0003】
更に、1回のエンボシング終了後に次のエンボシングを行うまでの間に、搬送手段を制御してエンボシング用巻き箔の搬送速度を減速、後退することで、エンボシング用巻き箔における先にエンボシングされた領域と、次にエンボシングされる領域との間隔を短くし、エンボシング用巻き箔におけるエンボシングに使用されない状態で搬送される領域の量を低減して、エンボシング用巻き箔が無駄となることを低減している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
特許文献1に開示された転写装置によれば、エンボシング用巻き箔におけるエンボシングに使用されない状態で搬送される領域の量をある程度低減することができる。
ただし、特許文献1で開示された転写装置は、エンボシング用金版が1つの場合であり、エンボシング用金版が複数の場合の転写装置については開示されていない。
そこで、本発明者等は、転写面が複数の場合に、転写材料の搬送を制御することで、転写材料の無駄を大幅に低減できる転写装置を開発した。
【0006】
本発明者等が開発した転写装置を
図10から
図14に基づき説明する。
図10は、本発明者等が開発した転写装置の転写部の模式図であり、版胴100と圧胴101とで転写部102としている。版胴100は第1の転写面103と第2の転写面104と第3の転写面105を回転方向に間隔をあけて有し、第1、第2、第3の転写面103、104、105はエンボス版106に設けてある。版胴100の第1、第2、第3の転写面103、104、105以外の面は非転写面107である。
版胴100は反時計回り方向に転写速度に応じた一定の速度で回転し、時計回り方向には回転しない。圧胴101は時計回り方向に、版胴100と同一速度で回転し、反時計回り方向には回転しない。
【0007】
転写材料108と被転写基材109は、図示しないステップバックローラによりそれぞれ正方向(矢印a方向)と逆方向(矢印b方向)に搬送される。
転写材料108と被転写基材109は、正方向に搬送されて版胴100と圧胴101の間を重ね合せた状態で通過し、第1の転写面103により転写材料108が被転写基材109に転写された後に、第2の転写面104により転写材料108が被転写基材109に転写され、その後に第3の転写面105により転写材料108が被転写基材109に転写される。
【0008】
図11に基づいて版胴100に対する転写材料108と被転写基材109の搬送、及び第1、第2、第3の転写面103、104、105による転写動作を説明する。
図11において、転写材料108及び被転写基材109に、1つの転写面の転写に必要な距離に相当する枠をそれぞれ設け、搬送、転写動作を理解し易くしている。なお、実際の転写装置では転写材料108、被転写基材109に枠は設けていない。被転写基材109の斜線領域の枠は転写しない領域(印刷など転写以外で使用する領域)であり、空白領域の枠(以下、空白領域という)が転写する領域である。
破線は、版胴100の1つの転写面と圧胴101の周面で転写材料108と被転写基材109をニップする転写位置110である。
なお、版胴100の第1の転写面103と第2の転写面104間の距離、及び第2の転写面104と第3の転写面105間の距離は、被転写基材109の転写しない領域(
図11の斜線領域)の距離で決定される。
【0009】
図11Aは、転写開始前の状態を示し、第1、第2、第3の転写面103、104、105は転写位置110と位置がずれている。
この状態から版胴100が回転すると共に、転写材料108と被転写基材109が同期して同じ転写速度で正方向(矢印a方向)に搬送される。
図11Bに示すように、第1の転写面103が転写位置110に移動した時に、第1の転写面103が転写材料108を被転写基材109に転写する。転写材料108の転写に使用された領域を(1)とし、被転写基材109の転写材料108が転写された領域を(A)とする。
図11Cに示すように、第2の転写面104が転写位置110に移動した時に、第2の転写面104が転写材料108を被転写基材109に転写する。転写材料108の転写に使用された領域を(2)とし、被転写基材109の転写材料108が転写された領域を(B)とする。
【0010】
図11Dに示すように、第3の転写面105が転写位置110に移動した時に、第3の転写面105が転写材料108を被転写基材109に転写する。転写材料108の転写に使用された領域を(3)とし、被転写基材109の転写材料108が転写された領域を(C)とする。
転写材料108と被転写基材109は同期して同じ転写速度で搬送されており、
図11B~
図11Dにおいて転写材料108の転写に使用された領域(1)~領域(3)に関して、領域(1)と領域(2)との間の空白領域及び領域(2)と領域(3)との間の空白領域が転写に使用されない未使用領域となる。この未使用領域の距離は、被転写基材109の斜線領域の距離と同一である。
転写材料108に未使用領域を残したまま、図示しない回収部で転写材料108を回収し、廃棄した場合には、未使用領域が無駄となる。特に転写材料108として金箔や銀箔を使用している場合には、金箔や銀箔が高価であるために、未使用領域が多いとコストが高くなる。
【0011】
そこで、
図11Eに示すように、版胴100における第3の転写面105と第1の転写面103の間の非転写面領域111が転写位置110を通過する時に、転写材料108を逆方向に搬送するステップバックを行い、版胴100の非転写面107と圧胴101の周面との間の隙間を通して転写材料108を所定の距離だけ逆方向(矢印b方向)に搬送する。この動作がステップバックである。なお、ステップバックは、逆方向に搬送中の加速および減速の制御を含んでいる。ステップバックの詳細は後述する。その後、転写材料108を正方向に搬送することで、
図11Fに示すように、版胴100の2回転目に第1の転写面103が転写位置110に移動した時に、転写材料108の領域(4)が転写位置110と合致し、その領域(4)を第1の転写面103の転写に使用する。領域(4)は、版胴100の1回転目に第1の転写面103が転写に使用した転写材料108の領域(1)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0012】
被転写基材109は、
図11Eに示す状態で、逆方向に搬送してステップバックを行い、所定の距離だけ戻す。被転写基材109の戻し距離は、転写材料108の戻し距離と異なる。この後被転写基材109を、転写材料108と同期して正方向に搬送することで、
図11Fに示すように、版胴100の2回転目に第1の転写面103が転写位置110に移動した時に、被転写基材109の空白領域(D)が転写位置110と合致し、その空白領域(D)に転写材料108を転写する。空白領域(D)は、版胴100の1回転目に第3の転写面105で転写材料108が転写された被転写基材109の領域(C)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
図11Gに示すように、版胴100の2回転目に第2の転写面104が転写位置110に移動した時に、転写材料108の領域(5)が転写位置110と合致し、その領域(5)を第2の転写面104の転写に使用する。領域(5)は、版胴100の1回転目に第2の転写面104が転写に使用した転写材料108の領域(2)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0013】
被転写基材109は、空白領域(E)が転写位置110と合致し、その空白領域(E)に転写材料108が転写される。空白領域(E)は、版胴100の2回転目に第1の転写面103で転写材料108が転写された被転写基材109の領域(D)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
図11Hに示すように、版胴100の2回転目に第3の転写面105が転写位置110に移動した時に、転写材料108の領域(6)が転写位置110と合致し、その領域(6)を第3の転写面105の転写に使用する。領域(6)は、版胴100の1回転目に第3の転写面105が転写に使用した転写材料108の領域(3)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
被転写基材109は、空白領域(F)が転写位置110と合致し、その空白領域(F)に転写材料108が転写される。空白領域(F)は、版胴100の2回転目に第2の転写面104で転写材料108が転写された被転写基材109の領域(E)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
図11F~
図11Hの第1の転写面103から第3の転写面105での転写において、転写材料108と被転写基材109は、
図11B~
図11Dの場合と同様に、同期して同じ転写速度で搬送される。
【0014】
この動作をあと2回行うことで、版胴100の1回転目の回転で転写に使用した転写材料108の領域(1)と領域(2)との間の未使用領域、及び領域(2)と領域(3)との間の未使用領域を転写に使用することができる。
すなわち、転写材料108と被転写基材109は、版胴100の1回転ごとの第3の転写面105(最後の転写面)での転写後に、転写後の減速、ステップバック、転写前の加速をし、転写材料108は未使用領域を転写に使用できるように転写に使用される領域の位置を調整し、被転写基材109は転写済みの次の位置で転写が行えるように転写材料108が転写される領域の位置を調整することを4回行うことで転写材料108の未使用領域をなくすことができる。
【0015】
図12と
図13に基づいて、転写材料108の搬送制御を説明する。
図12は、本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目と2回転目の転写材料の搬送制御の模式図で、
図13は、本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
図12に示すように、1つの転写面の転写に必要な距離をLと定義する。Lは、転写面の天地サイズ(回転方向の長さ)に、転写に必要な最低限の余白を加えた距離である。転写面間の距離(1つの転写面の転写開始位置から次の転写面の転写開始位置までの距離)をM、版胴100の転写面の数(版胴1回転の転写回数)をSと定義する。この説明では転写面の数Sは3である。
転写材料108の転写面間で転写可能な回数(つまり、転写面間での転写回数)は、転写面間の距離Mと1つの転写面の転写に必要な距離Lとで導出できる。転写可能な回数をNと定義すると、N=M÷Lとなる。このNは、
図12の1回転目の第1の転写面103と第2の転写面104の転写を例にすると、1回転目の第1の転写面103による転写(領域(1)での転写)を含む回数である。
したがって、版胴100の1回転目で生じた転写材料108の未使用領域内(例えば、
図13の領域(1)と領域(2)との間)で転写可能な回数は、N-1となる。
【0016】
図12に示すように、M=4Lであるので、N=M÷LにM=4Lを代入することで、N=4となる。
このことから、版胴100を1回転して1回転目を転写した後に、版胴100を3回転して3回転分を転写することで、1回転目に発生した転写材料108の未使用領域をすべて転写に使用できることが判る。つまり、版胴100を4回転して4回転分を転写することで、転写材料108の転写面間のすべてを転写に使用できる。
【0017】
図12に示すように、版胴100の1回転目には、第1の転写面103により転写材料108の領域(1)が転写に使用され、第2の転写面104により転写材料108の領域(2)が転写に使用され、第3の転写面105により転写材料108の領域(3)が転写に使用される。
版胴100が1回転目から2回転目に移行する際、つまり、1回転目の最後の転写面である第3の転写面105による転写が終了した後に、正方向に転写速度で搬送されている転写材料108の速度を減速して停止する。その後、転写材料108はステップバックするが、そのステップバックは次のようである。
停止している転写材料108を逆方向(戻し方向)に、所定の搬送速度まで加速して所定の搬送速度で搬送する。その後、ステップバックを停止するために所定の搬送速度から減速して、所定の距離で逆方向への搬送を停止する。この逆方向への加速と減速を含む所定の距離の搬送がステップバックである。所定の搬送速度になるまでの距離をステップバック中の加速距離と定義し、所定の搬送速度から停止するまでの距離をステップバック中の減速距離と定義する。なお、ステップバック中の搬送は、所定の搬送速度で搬送する距離を設けず、所定の搬送速度に加速した直後に、減速に切り替えてもよい。
【0018】
そして、版胴100の2回転目に最初の転写面である第1の転写面103で転写開始するまでに、停止している転写材料108を加速して転写速度で正方向に搬送する。
転写材料108を転写速度で正方向に搬送している状態から減速して停止するまでの距離(転写後の減速距離)をβと定義する。また、ステップバックした後に停止している転写材料108を正方向に加速して転写速度になるまでの距離(転写前の加速距離)をαと定義する。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、図示しないステップバックローラを回転駆動する駆動モータの特性、搬送速度、ステップバックによる戻し距離、及び版胴100の非転写面領域111の長さによって決定されるパラメータである。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、駆動モータの特性により推奨される公知の制御装置を使用して自動的に決定される。
また、転写材料108を逆方向(戻し方向)に搬送するステップバック中の減速距離、ステップバック中の加速距離、ステップバック中の搬送速度の設定も、転写後の減速距離β、転写前の加速距離αと同様に決定される。
【0019】
1回のステップバックで転写材料108を逆方向に搬送する距離を、戻し距離R10と定義し、以下戻し距離R10について説明する。
図12に示すように、版胴100の2回転目に第1の転写面103により転写に使用される転写材料108の領域(4)は、版胴100の1回転目に第1の転写面103が転写に使用した転写材料108の領域(1)の搬送方向上流側に隣接した領域である。版胴100の2回転目に第2、第3の転写面104、105により使用される転写材料108の領域(5)、(6)は、版胴100の1回転目に第2、第3の転写面104、105が転写に使用した転写材料108の領域(2)、(3)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0020】
したがって、戻し距離R10は、以下の式(10)から導出できる。
R10=M×(S-1)+α+β・・・式(10)
版胴100の転写面の数Sは3で、転写面間の距離Mは
図12に示すように、Lの4倍であるので、式(10)から戻し距離R10は、4L×2+α+βであり、8L+α+βとなる。
図12では、α=2L、β=2Lであるので、戻し距離R10は12Lの距離となる。また、版胴1回転での正方向への搬送距離Rは13Lの距離となる。
図13に示すように、版胴100が1回転目から2回転目に移行する際、2回転目から3回転目に移行する際、3回転目から4回転目に移行する際に、転写材料108を12Lの距離だけ逆方向に搬送すればよいことになる。なお、
図13では、αとβによる距離を0とし(α=0、β=0)、図を簡略化して理解をし易いようにしてある。
【0021】
図13に示すように、版胴100の3回転目に第1の転写面103が転写に使用する転写材料108の領域(7)、第2の転写面104が転写に使用する転写材料108の領域(8)、第3の転写面105が転写に使用する転写材料108の領域(9)は、2回転目に第1の転写面103、第2の転写面104、第3の転写面105が転写に使用した転写材料108の領域(4)、(5)、(6)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
版胴100の4回転目に第1の転写面103が転写に使用する転写材料108の領域(10)、第2の転写面104が転写に使用する転写材料108の領域(11)、第3の転写面105が転写に使用する転写材料108の領域(12)は、3回転目に第1の転写面103、第2の転写面104、第3の転写面105が転写に使用した転写材料108の領域(7)、(8)、(9)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
【0022】
先に述べたように、版胴100の1回転目で生じた転写材料108の未使用領域は4回転目ですべて使用された状態となるので、5回転目の転写の際には新たに使用できる領域が必要となるから、版胴100の5回転目の転写は、1回転目の転写と同様に行う。
例えば、版胴100の5回転目に、最初の転写面である第1の転写面103により転写に使用される転写材料108の領域(13)は、4回転目の、最後の転写面である第3の転写面105が転写に使用した転写材料108の領域(12)の搬送方向上流側に隣接した領域である。この時のステップバックによる戻り距離R10は、先の式(10)とは異なり、αとβによって決まる値で、式(11)から導出できる。
R10=α+β・・・式(11)
【0023】
版胴100の5回転目の転写は1回転目の転写と同様に、第1、第2、第3の転写面103、104、105により順次転写する。その時の転写材料108の転写に使用される領域は、1回転目の転写に使用された領域よりも搬送方向上流側の新たな領域である。第1の転写面103の転写に使用される領域を(13)、第2の転写面104の転写に使用される領域を(14)、第3の転写面105の転写に使用される領域を(15)とする。
版胴100の6回転目の転写は2回転目の転写と同様に行われ、第1、第2、第3の転写面103、104、105で転写に使用される領域(16)、(17)、(18)は、5回転目に第1、第2、第3の転写面103、104、105が転写に使用した転写材料108の領域(13)、(14)、(15)の搬送方向上流側に隣接した領域である。
したがって、版胴100の5回転目の転写が終了した後のステップバックによる戻し距離R10は、先の式(10)から導出される距離である。
【0024】
図示は省略するが、版胴100の7回転目の転写は3回転目の転写と同様に行うので、6回転目の最後の転写が終了した後のステップバックによる戻し距離R10は、先の式(10)から導出した距離である。
図示は省略するが、版胴100の8回転目の転写は4回転目の転写と同様に行うので、7回転目の最後の転写が終了した後のステップバックによる戻し距離R10は、先の式(10)から導出した距離である。
図示は省略するが、版胴100の9回転目の転写は5回転目の転写と同様に行うので、8回転目の最後の転写が終了した後のステップバックによる戻し距離R10は、先の式(11)から導出した距離である。
すなわち、版胴100の回転回数が4の倍数である時は、最後の転写が終了することで転写材料108の未使用領域を全て使用した状態であるから、最後の転写が終了した後のステップバックによる戻し距離R10は、先の式(11)から導出した距離とし、版胴100の回転回数が4の倍数でない時は、最後の転写が終了しても転写材料108に未使用領域がある状態であるから、最後の転写が終了した後のステップバックによる戻し距離R10は、先の式(10)から導出した距離とする。
【0025】
以上の説明では、版胴100の転写面間の距離Mを4Lとしたので、Nが4となったが、MがLの整数倍でない場合には、Nに余りが生じる。Nの余りは
図11~
図13のように未使用領域で転写した場合に、1つの転写面の転写に必要な距離Lに満たない、転写に使用できないまま残る範囲を意味する。以降の説明においては、Nは余りを切り捨てた整数値として扱う。M、Lの値によってNが変わった場合には、次のようにして戻し距離R10を決定することができる。
自然数(正の整数)をkと定義し、版胴100の回転回数をPと定義した場合、P回転目のステップバックによる戻し距離R10は、Pが以下の式(12)を満たす場合は先の式(11)から導出した距離とし、式(12)を満たさない場合は先の式(10)から導出した距離とする。
P=k×N・・・式(12)
Pが式(12)を満たす場合とは、版胴の回転回数がNの整数倍である場合で、満たさない場合とは、版胴の回転回数がNの整数倍でない場合である。
【0026】
本発明者等が開発した転写装置の制御方法を、
図14に示すフローチャートに基づき説明する。
転写装置の制御部に、L、M、Sなどの転写に必要なパラメータ及び、搬送速度などの通常の転写装置、印刷装置で使用するパラメータを入力する。ステップ1(S1)。
転写動作の開始を選択する。ステップ2(S2)。
入力されたパラメータに応じて、式(10)から導出した距離、式(11)から導出した距離などの設定が行われ、転写材料108、被転写基材109の搬送を開始する。このとき、版胴100の回転回数をカウントする変数iを0とする(i=0)。ステップ3(S3)。
転写材料108、被転写基材109が一定の転写速度で同期して搬送され、版胴1回転分の転写が行われる。この時、変数iに1を加算する(i=i+1)。ステップ4(S4)。
【0027】
被転写基材109は、版胴1回転ごとにステップバックが行われる。ステップ5(S5)。
版胴1回転分の転写後、i=Nの条件より転写材料108の未使用領域の有無を確認し、転写材料108のステップバックの設定を決める。前述のように、Nは余りである小数点以下を切り捨てた値で判定する。ステップ6(S6)。
条件を満たさない場合には、転写材料108の転写済みの範囲内に未使用領域が存在するため、式(10)から導出した距離(M×(S-1)+α+β)のステップバックを行う。ステップ7(S7)。
条件を満たす場合は、転写材料108の未使用領域を全て使用した状態であるため、式(11)から導出した距離(α+β)の距離のステップバックを行う。ステップ8(S8)。
ステップ8(S8)の処理を実行した場合には、変数iを0に戻す(i=0)。ステップ9(S9)。
【0028】
ステップ7(S7)またはステップ9(S9)の処理を実行した場合には、ステップ4(S4)に戻り、ステップ4(S4)の処理を実行する。
ステップ4(S4)からステップ9(S9)の処理を繰り返し行うことで、ステップバックを含む搬送により、転写材料108に生じた未使用領域を転写に使用した転写が行われる。
なお、転写の終了の制御は通常の転写装置、印刷装置通り、ステップ1で制御部に対して指定した条件または、転写装置の操作者による停止操作に応じて終了する公知の制御なのでフローチャートでは省略している。
本発明者等が開発した転写装置によれば、版胴100の1回転目の転写で生じた転写材料108の未使用領域を、2回転目以降の転写に使用することが可能で、転写材料108の転写に使用されない状態で搬送される領域の量が大幅に低減し、転写材料108を無駄とせずに有効利用できる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0029】
本発明者等が開発した転写装置で転写したところ、次のような不具合が生じることがあった。
転写材料108をステップバックして搬送方向を正方向、逆方向に切り替える場合、図示しないステップバックローラの回転方向、回転速度を制御しているが、ステップバックによる転写材料108の戻し距離が長くなるほど、逆方向への転写材料108の搬送速度を速くする必要がある。
版胴100の非転写面107の内、第3の転写面105と第1の転写面103の間の転写面がない非転写面領域111の範囲が、転写材料108の転写後の減速、ステップバック、転写前の加速に使用できる範囲であり、この非転写面領域111の範囲と版胴100の回転速度によって転写材料108の1回の転写後の減速、ステップバック、転写前の加速に使用できる時間が決まる。
同一の版胴100であれば、転写材料108の戻し距離が長くなるほど、転写面103~105の範囲が長くなり、相対的に非転写面領域111の範囲が短くなるので、転写材料108の転写後の減速、ステップバック、転写前の加速に使用できる時間が短くなる。
すなわち、戻し距離が長くなった場合における逆方向への転写材料108の搬送は、転写後の減速、ステップバック、転写前の加速に使用できる時間が短くなる分と、戻し距離自体が長くなる分だけ、搬送速度を速くする必要がある。
転写材料108の搬送速度が速くなれば、回転方向の切り替えの際の速度変化も急になるので、図示しないステップバックローラの回転慣性力が大きくなる。図示しないステップバックローラの回転慣性力が大きい場合、転写材料108の搬送方向を切り替える際、図示しないステップバックローラの回転慣性力により図示しないステップバックローラの回転速度制御や停止位置制御が不安定になって、転写材料108の挙動が不安定になることがあった。
また、転写材料108の搬送方向を切り替える場合に、転写材料108には慣性力が切り替え前の搬送方向に働く。この慣性力も図示しないステップバックローラの回転慣性力と同様に、戻し距離R10が長い場合ほど大きくなる。慣性力が大きく、転写材料108が、搬送を行う図示しないステップバックローラの正逆回転の変化に対して追従性が悪い場合には、転写材料108が歪んだり、裂けたりする虞があり、転写材料108の搬送が安定しないことがあった。
【0030】
これらの、転写材料108の挙動が不安定、搬送が安定しないことにより、転写のミスが発生し、歩留まりが悪くなる。このことは、転写材料108のステップバックによる戻し距離が長いほど多く発生する。
【0031】
本発明は、上記の課題を解決するために為されたものであり、その目的は、転写面が複数の場合に、転写材料を無駄とせずに有効利用できると共に、転写材料の搬送状態に応じてステップバックによる戻し距離を短くして、転写材料の搬送を安定させ、歩留まりを改善できるようにした転写装置及びその転写方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0032】
本発明の第1の転写装置は、転写部と、転写材料を前記転写部に搬送する転写材料搬送部と、被転写基材を前記転写部に搬送する被転写基材搬送部と、制御部とを備え、前記転写部は、圧胴と版胴を有し、前記版胴は、前記圧胴の周面に接する転写面と、前記圧胴の周面と接しない非転写面を有し、前記転写材料搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記転写材料を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料を逆方向に搬送し、前記被転写基材搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記被転写基材を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記被転写基材を逆方向に搬送し、前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを正回転し、前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送することで、前記版胴の転写面と前記圧胴の周面とで、前記転写材料を前記被転写基材に転写し、前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料と前記被転写基材を、前記版胴の非転写面と前記圧胴の周面との間の隙間を通して逆方向に搬送してステップバックする転写装置において、前記転写部の前記版胴は、2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上であり、前記版胴の1回転中に、2つ以上の転写面により、前記転写材料を前記被転写基材に順次転写し、前記制御部は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が転写に使用する前記転写材料の領域が、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した領域となるように、前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御することを特徴とする転写装置である。
【0033】
本発明の第1の転写装置においては、前記版胴の1回転中に、転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写終了位置から、次の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、前記版胴の転写面の数と一致する転写装置とすることができる。
この構成の転写装置によれば、転写材料の転写に使用されない未使用領域を転写により多く使用することができる。
【0034】
本発明の第2の転写装置は、転写部と、転写材料を前記転写部に搬送する転写材料搬送部と、被転写基材を前記転写部に搬送する被転写基材搬送部と、制御部とを備え、前記転写部は、圧胴と版胴を有し、前記版胴は、前記圧胴の周面に接する転写面と、前記圧胴の周面と接しない非転写面を有し、前記転写材料搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記転写材料を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料を逆方向に搬送し、前記被転写基材搬送部は、ステップバックローラを有し、前記ステップバックローラを正回転することで、前記被転写基材を正方向に搬送し、かつ前記ステップバックローラを逆回転することで、前記被転写基材を逆方向に搬送し、前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを正回転し、前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送することで、前記版胴の転写面と前記圧胴の周面とで、前記転写材料を前記被転写基材に転写し、前記転写材料搬送部のステップバックローラと前記被転写基材搬送部のステップバックローラを逆回転することで、前記転写材料と前記被転写基材を、前記版胴の非転写面と前記圧胴の周面との間の隙間を通して逆方向に搬送してステップバックする転写装置において、前記転写部の前記版胴は、2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上であり、前記版胴の1回転中に、2つ以上の転写面により、前記転写材料を前記被転写基材に順次転写し、前記制御部は、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した特定の領域が、転写に使用可能である場合は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が転写に使用する前記転写材料の領域を、前記特定の領域となるように前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御し、前記制御部は、前記特定の領域が転写に使用できない場合は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が転写に使用する前記転写材料の領域を、前回の回転で最も搬送方向上流側の転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向上流側に隣接した領域となるように前記転写材料を逆方向に搬送するステップバックを制御することを特徴とする転写装置である。
【0035】
本発明の第2の転写装置においては、前記制御部は、前記版胴の回転回数と、前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置から、次の前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、一致している場合は、前記特定の領域が転写に使用できないと判定し、一致していない場合は、前記特定の領域が転写に使用できると判定する判定部を有している転写装置とすることができる。
【0036】
本発明の第1の転写装置の転写方法は、2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上である版胴と圧胴を有した転写部と、正回転、逆回転により転写材料を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラと、正回転、逆回転により被転写基材を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラとを備えた転写装置の転写方法において、前記版胴の1回転中に、前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送し、2つ以上の転写面により、前記転写材料の搬送方向に間隔をあけた領域を、前記被転写基材に順次転写し、転写終了後に前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料と前記被転写基材を、所定の距離だけ逆方向に搬送してステップバックし、再び前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送して転写をし、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した領域を、転写に使用するように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックすることを特徴とする転写装置の転写方法である。
【0037】
本発明の第2の転写装置の転写方法は、2つ以上の転写面を有し、かつ前記転写面間の距離が、1つの転写面の転写に必要な距離の3倍以上である版胴と圧胴を有した転写部と、正回転、逆回転により転写材料を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラと、正回転、逆回転により被転写基材を正方向、逆方向に搬送するステップバックローラとを備えた転写装置の転写方法において、前記版胴の1回転中に、前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送し、2つ以上の転写面により、前記転写材料の搬送方向に間隔をあけた領域を、前記被転写基材に順次転写し、転写終了後に前記ステップバックローラを逆回転して前記転写材料と前記被転写基材を、所定の距離だけ逆方向に搬送してステップバックし、再び前記ステップバックローラを正回転して前記転写材料と前記被転写基材を正方向に搬送して転写をし、前記版胴の1回転中に、転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写終了位置から、次の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、前記版胴の転写面の数以上である場合は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が、前回の回転における2番目の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向下流側に隣接した特定の領域を転写に使用できるように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、前記版胴の1回転中に、転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写終了位置から、次の転写面が転写に使用した前記転写材料の領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、前記版胴の転写面の数未満である場合は、前記版胴の1回転が終了した後に、次の回転による最初の転写面が、前記特定の領域を、転写に使用可能かを判定し、転写に使用できると判定した場合は、前記特定の領域を転写に使用できるように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックし、転写に使用できないと判定した場合は、前回の回転で最も搬送方向上流側の転写に使用した前記転写材料の領域の搬送方向上流側に隣接した領域を、転写に使用できるように前記転写材料を逆方向に搬送してステップバックすることを特徴とする転写装置の転写方法である。
【0038】
本発明の第2の転写装置の転写方法においては、前記版胴の回転回数と、前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置から、次の前記転写材料の転写に使用した領域の転写開始位置までの間隔内で転写可能な回数が、一致している場合は、前記特定の領域が転写に使用できないと判定し、一致していない場合は、前記特定の領域が転写に使用できると判定する転写装置の転写方法とすることができる。
【発明の効果】
【0039】
本発明の転写装置及びその転写方法によれば、転写面が複数の場合に、転写材料を無駄とせずに有効利用できると共に、転写材料の搬送状態に応じてステップバックによる戻し距離を短くして、転写材料の搬送を安定させ、歩留まりを改善できる。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【
図1】本発明の転写装置の実施の形態の一例を示す全体正面図である。
【
図3】本発明の転写装置の転写材料と被転写基材の搬送及び転写面による転写動作の説明図である。
【
図4】第1の実施の形態における版胴1回転目と2回転目の転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図5】第1の実施の形態における版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図6】本発明の転写装置の転写材料と被転写基材の搬送状態と、本発明者等が開発した転写装置の転写材料と被転写基材の搬送状態を比較した表図である。
【
図7】第2の実施の形態における版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図8】第3の実施の形態における版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図9】本発明の転写装置の制御方法のフローチャートである。
【
図10】本発明者等が開発した転写装置の転写部の模式図である。
【
図11】本発明者等が開発した転写装置の転写材料と被転写基材の搬送及び転写面による転写動作の説明図である。
【
図12】本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目と2回転目の転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図13】本発明者等が開発した転写装置の版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
【
図14】本発明者等が開発した転写装置の制御方法のフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0041】
図1に基づいて本発明の転写装置の全体構成を説明する。
図1は、本発明の転写装置の実施の形態の一例を示す全体正面図である。
本発明の転写装置1は、転写部2と、転写材料の供給部3と、転写材料の回収部4と、制御部5と、図示しない被転写基材搬送部などを備え、転写材料の供給部3と転写材料の回収部4とで転写材料搬送部を構成している。転写部2、転写材料の供給部3、転写材料の回収部4、制御部5は装置本体1aに設けてある。なお、制御部5は装置本体1aに限ることはなく、装置本体1a以外に設けることができる。
転写部2は、版胴20と圧胴21を有している。
【0042】
図2に示すように、版胴20は、第1の転写面22と第2の転写面23と第3の転写面24を回転方向に間隔をあけて有し、第1、第2、第3の転写面22、23、24は、版胴20の全周長より短いエンボス版25に設けてある。版胴20の第1、第2、第3の転写面22、23、24以外の面は非転写面26である。
【0043】
図1に示すように、版胴20と圧胴21は図示しない1つの駆動モータによって同期して転写速度に応じた一定の速度で回転する。版胴20は反時計回り方向に回転し、時計回り方向には回転しない。圧胴21は時計回り方向に回転し、反時計回り方向には回転しない。
転写材料の供給部3から供給された転写材料6と、図示しない被転写基材搬送部で搬送される被転写基材7は、版胴20と圧胴21の間を通して搬送される。版胴20の第1、第2、第3の転写面22、23、24と圧胴21の周面とで転写材料6と被転写基材7をニップし、版胴20の非転写面26と圧胴21の周面は隙間を有し、転写材料6と被転写基材7は隙間を通して搬送される。
版胴20の1つの転写面と圧胴21の周面で転写材料6と被転写基材7をニップすることで、転写材料6が被転写基材7に転写される。
制御部5は、例えばCPU(中央処理装置)で、転写材料6と被転写基材7の搬送や、版胴20と圧胴21の回転を制御する。
【0044】
実施の形態の転写部2は、版胴20内に図示しない加熱機構が設けられており、版胴20の転写面を、例えば150℃から200℃程度に加熱することで、転写材料6を被転写基材7に熱転写する転写部である。版胴20を加熱しない転写部としてもよい。版胴20を加熱しない転写部の場合は、版胴の搬送方向上流側に糊付装置を設け、被転写基材に糊を塗布して転写する。
【0045】
転写材料の供給部3は、転写材料6を転写部2の版胴20と圧胴21との間に向けて搬送する。
転写材料の供給部3は、巻出し軸30と、巻出し軸30の供給方向下流側に設けられた供給側の送りローラ31と、供給側の送りローラ31の供給方向下流側に設けられた供給側の緩衝装置32と、供給側の緩衝装置32の供給方向下流側に設けられた供給側のステップバックローラ33を有している。
巻出し軸30にはロール状の転写材料6が取り付けられる。
供給側の送りローラ31は、図示しない駆動モータで巻き出し方向(反時計回り方向)にのみ回転駆動され、外周面に転写材料6が巻き付けられる。供給側の送りローラ31の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ34が設けられ、転写材料6を、供給側の送りローラ31とニップローラ34とで挟持する。
【0046】
供給側の送りローラ31を回転駆動することで、巻出し軸30に取り付けられたロール状の転写材料6を巻き出し、供給側の緩衝装置32に向けて搬送する。
供給側の緩衝装置32は、転写材料6をボックス35内に真空圧を利用して下向きU字状に保持するループバキュームである。
供給側のステップバックローラ33は、図示しない駆動モータで正回転と逆回転され、外周面に供給側の緩衝装置32から送り出された転写材料6が巻き付けられる。供給側のステップバックローラ33の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ36が設けられ、転写材料6を、供給側のステップバックローラ33とニップローラ36とで挟持し、転写材料6を正方向と逆方向に搬送できるようにしている。
【0047】
転写材料の回収部4は、転写部2で転写に使用された領域以外の転写材料6、つまり転写に使用されなかった転写材料6を回収する。
転写材料の回収部4は、回収側のステップバックローラ40と、回収側のステップバックローラ40の回収方向下流側に設けられた回収側の緩衝装置41と、回収側の緩衝装置41の回収方向下流側に設けられた回収側の送りローラ42と、回収側の送りローラ42の回収方向下流側に設けられた巻取軸43を有している。
回収側のステップバックローラ40は、図示しない駆動モータで正回転と逆回転され、外周面に、転写に使用されなかった転写材料6が巻き付けられる。
【0048】
回収側のステップバックローラ40の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ44が設けられ、転写に使用されなかった転写材料6を、回収側のステップバックローラ40とニップローラ44とで挟持し、正方向と逆方向に搬送できるようにしている。
回収側の緩衝装置41は、転写に使用されなかった転写材料6を、ボックス45内に真空圧を利用して下向きU字状に保持するループバキュームである。
回収側の送りローラ42は、図示しない駆動モータで回収方向(反時計回り方向)にのみ回転駆動され、外周面に転写に使用されなかった転写材料6が巻き付けられる。
【0049】
回収側の送りローラ42の転写材料6の巻き付け範囲内の少なくとも1箇所にニップローラ46が設けられ、転写に使用されなかった転写材料6を、回収側の送りローラ42とニップローラ46とで挟持する。
回収側の送りローラ42を回転駆動することで、回収側の緩衝装置41に保持されている転写に使用されなかった転写材料6を巻取軸43に向けて搬送する。
巻取軸43は、図示しない駆動モータで巻取方向(反時計回り方向)にのみ回転駆動され、転写に使用されなかった転写材料6を巻き取ることで回収する。
供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40は、転写する時には同期して正回転され、転写材料6を正方向に搬送する。
【0050】
転写材料6の転写に使用される領域の位置を調整する時には、供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40を同期して正回転、逆回転を繰り返し、転写材料6を正方向と逆方向に交互に搬送する間欠搬送をする。この動作は後に詳細に説明する。
供給側の緩衝装置32は、転写材料6を逆方向に搬送するときに供給側の送りローラ31と供給側のステップバックローラ33と間の転写材料6に生じる張力変化を吸収する。
回収側の緩衝装置41は、転写材料6を逆方向に搬送する時に回収側の送りローラ42と回収側のステップバックローラ40と間の転写材料6に生じる張力変化を吸収する。
【0051】
被転写基材7は、転写装置1と離れた場所に設けられた図示しない被転写基材搬送部の給紙装置から転写部2に向けて搬送され、転写部2で転写材料6が転写された被転写基材7は、転写装置1と離れた場所に設けられた図示しない被転写基材搬送部の排紙装置で回収される。
転写装置1と図示しない被転写基材搬送部の給紙装置との間に印刷ユニットを設け、被転写基材7に印刷をした後に転写部2に搬送し、印刷済みの被転写基材7に転写をするようにしてもよい。
また、転写装置1と図示しない被転写基材搬送部の排紙装置との間に印刷ユニットを設け、転写済みの被転写基材7に印刷をするようにしてもよい。
【0052】
版胴20の回転に対する被転写基材7の転写される領域の位置を調整するために、被転写基材7の搬送経路における転写部2を境とした搬送方向上流側と搬送方向下流側に、例えば、図示しない被転写基材搬送部の給紙装置と排紙装置に、図示しない上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラがそれぞれ設けられている。
図示しない上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラは、同期して正回転、逆回転され、被転写基材7を正方向(矢印a方向)と逆方向(矢印b方向)に搬送することで、被転写基材7の転写材料6が転写される領域の位置を調整する。
転写材料6及び被転写基材7は、制御部5によって供給側のステップバックローラ33、回収側のステップバックローラ40、図示しない上流側のステップバックローラと下流側のステップバックローラを制御することで間欠搬送される。
【0053】
転写材料6は、主として、フイルム層と剥離層と箔と糊の4層から構成され、箔としては金箔又は銀箔が使用される。転写材料6はこの物に限ることはない。
被転写基材7は、主として、表面基材、粘着剤、剥離紙から成るシールタック紙を使用する。被転写基材7はこの物に限ることはない。
転写部2による転写は次のようにして行う。
転写材料6と被転写基材7を、転写材料6の糊の層と被転写基材7の表面基材が接するように重ね合せた状態で、版胴20と圧胴21の間に搬送し、版胴20の加熱された1つの転写面と圧胴21とで、転写材料6と被転写基材7をニップする。
加熱された転写面により糊の層が溶融し、転写材料6の転写面と接触した領域が被転写基材7の表面基材に糊付けされる。転写材料6と被転写基材7が搬送されて加熱された転写面のニップから解放されると温度が低下し、糊が固化する。
【0054】
糊が固化した後、転写材料6の箔は転写部2と回収側のステップバックローラ40の間に設けられた図示しない剥離ローラによって、被転写基材7の表面基材に糊付けされた領域と糊付けされなかった領域に分離される。
糊付けされなかった領域の箔は転写材料6のフイルム層、剥離層と共に回収側のステップバックローラ40により巻取軸43に向けて搬送される。糊付けされなかった領域の箔が分離されると、被転写基材7上には、糊付けされた箔のみが残り、転写が完了する。
転写部2として版胴20を加熱しない転写部とすることができるが、版胴20を加熱しない転写部は、転写部の上流側で被転写基材に塗布された糊を使って転写材料を被転写基材に糊付けさせる方法であり、被転写基材に糊を塗布した後、版胴の1つの転写面と圧胴の周面とで被転写基材と転写材料をニップすることで転写する。よって、版胴20を加熱しない転写部を用いる場合には、転写部の上流側に糊付装置を設ける。
【0055】
図3に基づいて、版胴20に対する転写材料6と被転写基材7の搬送、及び第1、第2、第3の転写面22、23、24による転写動作を説明する。
図3において、転写材料6及び被転写基材7に、1つの転写面の転写に必要な距離に相当する枠をそれぞれ設け、搬送、転写動作を理解し易くしている。なお、実際の転写装置では転写材料6、被転写基材7に枠は設けていない。被転写基材7の斜線領域の枠は転写しない領域(印刷など転写以外で使用する領域)であり、空白領域の枠(以下、空白領域という)が転写する領域である。
破線は、版胴20の1つの転写面と圧胴21の周面で転写材料6と被転写基材7をニップする転写位置27である。
なお、版胴20の第1の転写面22と第2の転写面23間の距離、及び第2の転写面23と第3の転写面24間の距離は、被転写基材7の転写しない領域(
図3の斜線領域)の距離で決定される。被転写基材7の転写しない領域(
図3の斜線領域)は、転写装置によって製造する製品のデザインによって決定される。
【0056】
図3Aは、転写開始前の状態を示し、第1、第2、第3の転写面22、23、24は転写位置27と位置がずれている。
この状態から版胴20が回転すると共に、転写材料6と被転写基材7が同期して同じ転写速度で正方向(矢印a方向)に搬送される。
図3Bに示すように、第1の転写面22が転写位置27に移動した時に、第1の転写面22が転写材料6を被転写基材7に転写する。転写材料6の転写に使用された領域を(1)とし、被転写基材7の転写材料6が転写された領域を(A)とする。
図3Cに示すように、第2の転写面23が転写位置27に移動した時に、第2の転写面23が転写材料6を被転写基材7に転写する。転写材料6の転写に使用された領域を(2)とし、被転写基材7の転写材料6が転写された領域を(B)とする。
【0057】
図3Dに示すように、第3の転写面24が転写位置27に移動した時に、第3の転写面24が転写材料6を被転写基材7に転写する。転写材料6の転写に使用された領域を(3)とし、被転写基材7の転写材料6が転写された領域を(C)とする。
転写材料6と被転写基材7は同期して同じ転写速度で搬送されており、
図3B~
図3Dにおいて転写材料6の転写に使用された領域(1)~領域(3)に関して、領域(1)と領域(2)との間の空白領域及び領域(2)と領域(3)との間の空白領域が転写に使用されない未使用領域となる。この未使用領域の距離は、被転写基材7の斜線領域の距離と同一である。
転写材料6に未使用領域を残したまま、転写材料の回収部4で転写材料6を回収し、廃棄した場合には、未使用領域が無駄となる。特に転写材料6として金箔や銀箔を使用している場合には、金箔や銀箔が高価であるために、未使用領域が多いとコストが高くなる。
【0058】
そこで、
図3Eに示すように、版胴20における第3の転写面24と第1の転写面22の間の非転写面領域28が転写位置27を通過する時に、転写材料6を逆方向(矢印b方向)に搬送するステップバックを行う。つまり、版胴20の非転写面26と圧胴21の周面との間の隙間を通して転写材料6を所定の距離だけ逆方向に搬送する。この動作がステップバックである。なお、このステップバックは、逆方向に搬送中の加速及び減速の制御を含んでいる。ステップバックの詳細は後述する。
例えば、供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40を同期して逆回転し、転写材料6を逆方向(矢印b方向)に所定の距離だけ搬送する。
転写材料6の搬送を安定させるために、搬送中の方向に対して下流側のステップバックローラの回転速度を上流側のステップバックローラの回転速度より速くするように制御している。この制御により供給側のステップローラ33と回収側のステップバックローラ40との間では常に転写材料6を搬送するために十分な張力が働いている状態が保たれ、転写材料6を安定して搬送できる。なお、被転写基材7を搬送する図示しないステップバックローラも同様に制御される。
【0059】
この時、供給側のステップバックローラ33と供給側の送りローラ31との間の転写材料6の張力及び回収側のステップバックローラ40と回収側の送りローラ42との間の転写材料6の張力がそれぞれ変化するが、その張力変化は供給側の緩衝装置32と回収側の緩衝装置41とでそれぞれ吸収される。
転写材料6が逆方向に搬送されて所定の距離だけ戻された後、供給側のステップバックローラ33と回収側のステップバックローラ40を同期して正回転し、転写材料6を正方向に搬送することで、
図3Fに示すように、版胴20の2回転目に第1の転写面22が転写位置27に移動した時に、転写材料6の領域(4)が転写位置27と合致し、その領域(4)を第1の転写面22の転写に使用する。領域(4)は、版胴20の1回転目に第2の転写面23が転写に使用した転写材料6の領域(2)の搬送方向下流側に隣接した領域である。
【0060】
被転写基材7は、
図3Eに示す状態で、逆方向に搬送してステップバックを行い、所定の距離だけ戻す。被転写基材7の戻し距離は、転写材料6の戻し距離と異なる。その後、被転写基材7を、転写材料6と同期して正方向に搬送することで、
図3Fに示すように、版胴20の2回転目に第1の転写面22が転写位置27に移動した時に、被転写基材7の空白領域(D)が転写位置27と合致し、その空白領域(D)に転写材料6を転写する。空白領域(D)は、版胴20の1回転目に第3の転写面24で転写材料6が転写された被転写基材7の領域(C)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
図3Gに示すように、版胴20の2回転目に第2の転写面23が転写位置27に移動した時に、転写材料6の領域(5)が転写位置27と合致し、その領域(5)を第2の転写面23の転写に使用する。領域(5)は、版胴20の1回転目に第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(3)の搬送方向下流側に隣接した領域である。
【0061】
被転写基材7は、空白領域(E)が転写位置27と合致し、その空白領域(E)に転写材料6を転写する。空白領域(E)は、版胴20の2回転目に第1の転写面22で転写材料6が転写された被転写基材7の領域(D)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
図3Hに示すように、版胴20の2回転目に第3の転写面24が転写位置27に移動した時に、転写材料6の領域(6)が転写位置27と合致し、その領域(6)を第3の転写面24の転写に使用する。領域(6)は、版胴20の1回転目に第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(3)よりも搬送方向上流側の領域である。
被転写基材7は、空白領域(F)が転写位置27と合致し、その空白領域(F)に転写材料6を転写する。空白領域(F)は、版胴20の2回転目に第2の転写面23で転写材料6が転写された被転写基材7の領域(E)の搬送方向上流側に最も近い空白領域である。
【0062】
図3F~
図3Hの第1の転写面22から第3の転写面24での転写において、転写材料6と被転写基材7は、
図3B~
図3Dの場合と同様に、同期して同じ転写速度で搬送される。
この動作を繰り返して行うことで、版胴20の1回転目の回転で転写に使用した転写材料6の領域(1)と領域(2)との間の未使用領域の一部、及び領域(2)と領域(3)との間の未使用領域の一部を転写に使用することができる。
すなわち、転写材料6と被転写基材7は、版胴20の1回転ごとの第3の転写面24(最後の転写面)での転写後に、転写後の減速、ステップバック、転写前の加速をし、転写材料6は未使用領域を転写に使用できるように転写に使用される領域の位置を調整し、被転写基材7は転写済みの次の位置で転写が行えるように転写材料6が転写される領域の位置を調整することを、繰り返して行うことで転写材料6の未使用領域を減少することができる。
【0063】
図4と
図5に基づいて、転写材料6の搬送制御を説明する。
図4は、第1の実施の形態における版胴1回転目と2回転目の転写材料の搬送制御の模式図で、
図5は、第1の実施の形態における版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
図4に示すように、1つの転写面の転写に必要な距離をLと定義する。Lは、転写面の天地サイズ(回転方向の長さ)に、転写に必要な最低限の余白を加えた距離である。転写面間の距離(1つの転写面の転写開始位置から次の転写面の転写開始位置までの距離)をM、版胴20の転写面の数(版胴1回転の転写回数)をSと定義する。この説明では転写面の数Sは3である。
【0064】
転写材料6の転写面間(1つの転写面の転写開始位置から次の転写面の転写開始位置の間)で転写可能な回数(転写面間での転写回数)は、転写面間の距離Mと1つの転写面の転写に必要な距離Lとで導出できる。転写可能な回数をNと定義すると、N=M÷Lとなる。このNは、
図4の1回転目の第1の転写面22と第2の転写面23による転写を例にすると、1回転目の第1の転写面22による転写(領域(1)での転写)を含む回数である。
したがって、版胴20の1回転目で生じた転写材料6の未使用領域内(例えば、
図4の領域(1)と領域(2)との間)で転写可能な回数は、N-1となる。
すなわち、N-1は、転写面が転写に使用した転写材料6の領域の転写終了位置(例えば、
図3Dの転写材料6における領域(1)の転写終了位置(1)aから、次の転写面が転写に使用した転写材料6の領域の転写開始位置(例えば、
図3Dの領域(2)の転写開始位置(2)b)までの間隔内で転写可能な回数である。
図3では3回である。
【0065】
図4に示すように、版胴20の1回転目には、第1の転写面22により転写材料6の領域(1)が転写に使用され、第2の転写面23により転写材料6の領域(2)が転写に使用され、第3の転写面24により転写材料6の領域(3)が転写に使用される。
版胴20が1回転目から2回転目に移行する際、つまり、1回転目の最後の転写面である第3の転写面24による転写が終了した後に、正方向に転写速度で搬送されている転写材料6の速度を減速して停止する。その後、転写材料6はステップバックするが、そのステップバックは次のようである。
停止している転写材料6を逆方向(戻し方向)に、所定の搬送速度まで加速して所定の搬送速度で搬送する。その後、ステップバックを停止するために所定の搬送速度から減速して、所定の距離で逆方向への搬送を停止する。この逆方向への加速と減速を含む所定の距離の搬送がステップバックである。所定の搬送速度になるまでの距離をステップバック中の加速距離と定義し、所定の搬送速度から停止するまでの距離をステップバック中の減速距離と定義する。なお、ステップバック中の搬送は、所定の搬送速度で搬送する距離を設けず、所定の搬送速度に加速した直後に、減速に切り替えてもよい。
【0066】
そして、版胴20の2回転目に最初の転写面である第1の転写面22で転写開始するまでに、停止している転写材料6を加速して転写速度で正方向に搬送する。
転写材料6を転写速度で正方向に搬送している状態から減速して停止するまでの距離(転写後の減速距離)をβと定義する。また、ステップバックした後に停止している転写材料6を正方向に加速して転写速度になるまでの距離(転写前の加速距離)をαと定義する。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、
図1に示す供給側のステップバックローラ33、回収側のステップバックローラ40を回転駆動する駆動モータの特性、搬送速度、ステップバックによる戻し距離、及び版胴20の非転写面領域28の長さによって決定されるパラメータである。
転写後の減速距離βと転写前の加速距離αは、駆動モータの特性により推奨される公知の制御装置を使用して自動的に決定される。
また、転写材料6を逆方向(戻し方向)に搬送するステップバック中の減速距離、ステップバック中の加速距離、ステップバック中の搬送速度の設定も転写後の減速距離β、転写前の加速距離αと同様に決定される。
【0067】
1回のステップバックで転写材料6を逆方向に搬送する距離を、戻し距離R1と定義し、以下戻し距離R1について説明する。
図4に示すように、版胴20の2回転目に第1の転写面22により転写に使用される転写材料6の領域(4)は、版胴20の1回転目に第2の転写面23が転写に使用した転写材料6の領域(2)の搬送方向下流側に隣接した領域である。版胴20の2回転目に第2の転写面23により使用される転写材料6の領域(5)は、版胴20の1回転目に第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(3)の搬送方向下流側に隣接した領域である。版胴20の2回転目に第3の転写面24により転写に使用される転写材料6の領域(6)は、版胴20の1回転目に第3の転写面24が転写に使用した領域(3)よりも搬送方向上流側に位置し、新たに供給された領域である。
【0068】
したがって、戻し距離R1は、以下の式(1)から導出できる。
R1=M×(S-2)+2L+α+β・・・式(1)
版胴20の転写面の数Sは3で、転写面間の距離Mは
図4に示すように、Lの4倍であるので、式(1)から戻し距離R1は、4L×1+2L+α+βで、αとβはそれぞれ2Lの距離であるので、戻し距離R1は10Lの距離となる。また、版胴1回転での正方向への搬送距離Rは13Lの距離となる。
図4に示すように、版胴20が1回転目から2回転目に移行する際に、転写材料6を10Lの距離だけ逆方向に搬送すればよいことになる。
図5に示すように、版胴20が3回転目、4回転目、5回転目、6回転目に移行する際にも転写材料6を10Lの距離だけ逆方向に搬送すればよい。なお、
図5では、αとβによる距離を0とし(α=0、β=0)、図を簡略化して理解をし易いようにしてある。
【0069】
図5に示すように、版胴20の3回転目に第1の転写面22が転写に使用する転写材料6の領域(7)、第2の転写面23が転写に使用する転写材料6の領域(8)は、版胴20の2回転目に第2の転写面23、第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(5)、(6)の搬送方向下流側に隣接した領域である。版胴20の3回転目に第3の転写面24が転写に使用する転写材料6の領域(9)は、2回転目に第3の転写面24が転写に使用した領域(6)よりも搬送方向上流側に位置し、新たに供給された領域である。
版胴20の4回転目に第1の転写面22が転写に使用する転写材料6の領域(10)、第2の転写面23が転写に使用する転写材料6の領域(11)は、版胴20の3回転目に第2の転写面23、第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(8)、(9)の搬送方向下流側に隣接した領域である。版胴20の4回転目に第3の転写面24が転写に使用する転写材料6の領域(12)は、版胴20の3回転目に第3の転写面24が転写に使用した領域(9)よりも搬送方向上流側に位置し、新たに供給された領域である。
【0070】
版胴20の5回転目に第1の転写面22が転写に使用する転写材料6の領域(13)、第2の転写面23が転写に使用する転写材料6の領域(14)は、版胴20の4回転目に第2の転写面23、第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(11)、(12)の搬送方向下流側に隣接した領域である。版胴20の5回転目に第3の転写面24が転写に使用する転写材料6の領域(15)は、版胴20の4回転目に第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(12)よりも搬送方向上流側に位置し、新たに供給された領域である。
版胴20の6回転目に第1の転写面22が転写に使用する転写材料6の領域(16)、第2の転写面23が転写に使用する転写材料6の領域(17)は、版胴20の5回転目に第2の転写面23、第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(14)、(15)の搬送方向下流側に隣接した領域である。版胴20の6回転目に第3の転写面24が転写に使用する転写材料6の領域(18)は、版胴20の5回転目に第3の転写面24が転写に使用した転写材料6の領域(15)よりも搬送方向上流側に位置し、新たに供給された領域である。
【0071】
図5に示すように、版胴20の1回転目に発生した転写材料6の未使用領域の一部は転写に使用されないまま残るが、2回転目以降の転写で発生した未使用領域は全て転写に使用することができる。
また、版胴20の回転回数によらず戻し距離R1は式(1)から導出した同じ距離である。
【0072】
実施の形態の転写装置1によるステップバックによる戻し距離R1と、本発明者等が開発した転写装置のステップバックによる戻し距離R10を比較すると、次のようである。
R1=M×(S-2)+2L+α+β
R10=M×(S-1)+α+β
各式でM、S、α、βが同一であるとし、R10とR1の差を導出すると、以下の式(2)のようになる。
R10-R1=M-2Lとなり、N=M÷LからM=N×Lであるので、
R10-R1=N×L-2L=(N-2)×L・・・式(2)
【0073】
式(2)よりNが3以上であれば、R1はR10より小さくなり、Nが大きくなるほどR10とR1の差が大きくなることが判る。すなわち、実施の形態の転写装置1は、Nが3以上であれば本発明者等が開発した転写装置よりも戻し距離を短くすることが可能である。また、実施の形態の転写装置1は、Nが大きい場合(転写面間で転写できる回数が多い場合)ほど戻し距離を短くすることが可能である。
ここで、MはLを含んだ長さであるので、Mは少なくともL以上である。
よって、N=M÷LよりNの最小値は1である。ただし、N=1の場合は、転写面間に隙間がない状態であり、版胴20に転写面が1つの場合と同義である。
この実施の形態は、前述のように2つ以上の転写面を有する場合であるので、N=1とすることはできない。
N=2の場合は、R10-R1=0であり、実施の形態の転写装置1のステップバックによる戻し距離R1と、本発明者等が開発した転写装置のステップバックによる戻し距離R10は同一である。これは、N=2の場合には未使用領域が、1つの転写面による転写1回分のみであるので、実施の形態の転写装置1と本発明者等が開発した転写装置のどちらの戻し距離の決め方であっても、結果として同じ未使用領域に転写するためである。
したがって、実施の形態の転写装置1は、N=M÷Lが3以上である。
【0074】
また、実施の形態では、版胴20の2回転目に最初の転写面である第1の転写面22が転写に使用する転写材料6の領域を、版胴20の1回転目に2番目の転写面である第2の転写面23が転写に使用した領域の搬送方向下流側に隣接した領域としているので、実施の形態の転写装置1では、版胴20の転写面の数Sは少なくとも2つ以上である。
実施の形態の転写装置1は、ステップバックによる戻し距離R1が、本発明者等が開発した転写装置のステップバックによる戻し距離R10より短いので、転写後の減速距離β、転写前の加速距離α及び、ステップバック中の加速距離と減速距離を長くして、減速、加速を緩やかにできる。つまり、減速時及び加速時における加速度を緩やかにすることができる。
したがって、供給側、回収側のステップバックローラ33、40や転写材料6に作用する慣性力を軽減して、転写材料6の搬送の安定性を向上することができる。
戻し距離を短くすることは、転写材料6の搬送が不安定な場合に必要である。よって、実施の形態の転写装置1は、搬送速度が遅く、転写材料6の搬送が安定している場合には本発明者等が開発した転写装置の戻し距離R10によるステップバックにより転写を実行し、搬送速度が速く、転写材料6の搬送が不安定な場合には戻し距離R1によるステップバックにより転写を実行してもよい。
搬送速度などの転写の条件に応じて戻し距離R1、R10を使い分けることで、転写材料6を無駄とせずに有効利用すること、及び、転写材料6の搬送を安定させ、歩留まりを改善することを、最適に両立することが可能である。
【0075】
実施の形態の転写装置1における転写材料6の搬送状態、被転写基材7の搬送状態と、本発明者等が開発した転写装置における転写材料108の搬送状態、被転写基材109の搬送状態を比較して図に表すと
図6に示すようになる。
図6は、本発明の転写装置の転写材料、被転写基材の搬送状態と、本発明者等が開発した転写装置の転写材料、被転写基材の搬送状態を比較した表図であり、横軸が版胴の回転した回数を示し、縦軸が転写材料、被転写基材の搬送距離を1つの転写面の転写に必要な距離Lで割り、正規化した値を示す。つまり、1目盛がLである。縦軸に対して負の方向への変化がステップバックによる逆方向への搬送を表している。
被転写基材7と被転写基材109の搬送状態は同一の実線Xで示され、版胴1回転ごとにステップバックを行ない被転写基材7、109の転写される領域の位置を制御している。
【0076】
実施の形態の転写装置1における転写材料6の搬送状態は破線Yで示され、本発明者等が開発した転写装置における転写材料108の搬送状態は一点鎖線Zで示されている。
前述のように、縦軸が搬送距離であり、負の方向への変化がステップバックであるので、転写材料6の戻し距離R1及び転写材料108の戻し距離R10は、負に変化している間の距離の絶対値に該当する。
このことから、実施の形態の転写装置1における被転写基材7と、本発明者等が開発した転写装置の被転写基材109は同一の搬送距離R(13L)で搬送されるが、実施の形態の転写装置1における転写材料6の戻し距離R1(10L)は、本発明者等が開発した転写装置における転写材料108の戻し距離R10(12L)より短いことが確認できる。
また、戻し距離以外は同一条件で比較しているので、実施の形態の転写装置1における転写材料6、被転写基材7の転写動作する時に正方向に搬送される搬送距離Rは13Lで、本発明者等が開発した転写装置における転写材料108、被転写基材109の転写動作する時に正方向に搬送される搬送距離Rも13Lで、両者の正方向に搬送される搬送距離Rは同一である。
【0077】
また、
図6に破線Yで示すように、実施の形態の転写材料6のステップバック時の搬送方向の切り替え(正方向への搬送から逆方向への搬送に切り替え、逆方向への搬送から正方向への搬送に切り替え)と、
図6に実線Xで示すように、実施の形態の被転写基材7のステップバック時の搬送方向の切り替え(正方向への搬送から逆方向への搬送に切り替え、逆方向への搬送から正方向への搬送に切り替え)は、版胴20の同じ回転のタイミングで行い、転写材料6と被転写基材7は同じタイミングで逆方向に搬送開始、正方向に搬送開始される。この場合、先に説明したように、転写材料6の戻し距離と被転写基材7の戻し距離が異なるので、転写材料6の逆方向の搬送速度と被転写基材7の逆方向の搬送速度のみを変え、戻し距離の差を調整している。
ただし、転写材料6と被転写基材7のステップバック時の正方向への搬送から逆方向への搬送に切り替えるタイミングは同じタイミングである必要がないため、転写材料6と被転写基材7の戻し距離の差に対応して、逆方向に搬送開始及び正方向に搬送開始のタイミングと、逆方向の搬送速度の両方を変えてもよい。
このことは、
図6の一点鎖線Z、実線Xに示すように、本発明者等が開発した転写装置の転写材料108、被転写基材109の場合も同様である。
【0078】
実施の形態の転写装置1においては、転写面間で転写可能な回数Nは4で、版胴の転写面の数Sは3であり、(N-1)=Sとしている。つまり転写材料6の転写に使用した領域の転写終了位置から、次の転写材料6の転写に使用した領域の転写開始までの間隔内で転写可能な回数N-1が、版胴の転写面の数と一致している。
しかし、(N-1)=Sとしなくともよい。
例えば、(N-1)<Sとしてもよいし、(N-1)>Sとしてもよい。
【0079】
図7は、(N-1)<Sとした第2の実施の形態における版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
この実施の形態では、転写面間で転写可能な回数Nを3とし、版胴の転写面の数Sを3としてあり、(N-1)<Sである。また、αとβによる距離を0とし(α=0、β=0)、図を簡略化して理解をし易いようにしてある)。
版胴20の1回転目、2回転目、3回転目は第1の実施の形態と同様に、戻し距離R1を、式(1)から導出した5Lの距離として転写するが、版胴20の4回転目に転写する時に、戻し距離R1を、式(1)から導出した5Lの距離とすると、4回転目に第1の転写面22が転写に使用しようとする転写材料6の領域は、1回転目に転写に使用された領域(3)となり、転写ができない。
【0080】
このため、3回転目から4回転目に移行する時、つまり3回転目の最後の転写面となる第3の転写面24による転写が終了した後、戻し距離R1を、下記の式(3)から導出した距離とし、4回転目に第1の転写面22が転写に使用する転写材料6の領域を、3回転目に第3の転写面24が転写に使用した領域(9)の搬送方向上流側に隣接した領域(10)とする。
R1=α+β・・・式(3)
版胴20の4回転目から5回転目に移行する場合は、戻し距離R1を式(1)から導出した5Lの距離とする。5回転目から6回転目に移行する場合も、戻し距離R1を式(1)から導出した5Lの距離とする。
つまり、版胴20の回転回数Pが、先に述べたP=k×N、式(12)を満たす場合は、式(3)から導出した距離を戻し距離R1とし、式(12)を満たさない場合は、式(1)から導出した距離を戻し距離R1とする。
【0081】
図8は、(N-1)>Sとした第3の実施の形態における版胴1回転目から6回転目までの転写材料の搬送制御の模式図である。
この実施の形態では、転写面間で転写可能な回数Nを5とし、版胴の転写面の数Sを3としてあり、(N-1)>Sである。また、αとβによる距離を0とし(α=0、β=0)、図を簡略化して理解をし易いようにしてある。
版胴20の回転回数に関係なく、第1の実施の形態と同様に、式(1)から導出した7Lの距離を戻し距離R1として転写する。
【0082】
実施の形態の転写装置1の制御方法を、
図9に示すフローチャートに基づき説明する。
転写装置の制御部5に、L、M、Sなどの転写に必要なパラメータ及び、搬送速度などの通常の転写装置、印刷装置で使用するパラメータを入力する。ステップ1(S1)。
転写動作の開始を選択する。ステップ2(S2)。
入力されたパラメータに応じて、式(1)から導出した距離、式(3)から導出した距離などの設定が行われ、転写材料6と被転写基材7の搬送を開始する。ステップ3(S3)。
入力されたパラメータにより、(N-1)≧Sの判定をし、ステップバックの設定を決める。前述のように、Nは小数点以下を切り捨てた値で判定する。ステップ4(S4)。つまり、制御部5は、(N-1)≧Sを判定する判定部(図示せず)を有している。
(N-1)≧Sを満たす場合、つまり、(N-1)がS以上の場合は、転写材料6と被転写基材7の搬送が一定の転写速度で同期して行われ、版胴1回転分の転写が行われる。つまり、(N-1)=Sの場合には第1の実施の形態の転写を開始し、(N-1)>Sの場合には第3の実施の形態の転写を開始する。ステップ5(S5)。
【0083】
被転写基材7は版胴1回転ごとにステップバックが行われる。ステップ6(S6)。
転写材料6は版胴の回転した回数によらず、常に式(1)から導出した距離(M×(S-2)+2L+α+β)を戻し距離R1としてステップバックする。ステップ7(S7)。
すなわち、(N-1)≧Sを満足する場合は、ステップ5(S5)からステップ7(S7)の処理を繰り返し行うことで、第1の実施の形態の転写動作、又は第3の実施の形態の転写動作を行う。
(N-1)≧Sを満たさない場合、つまり、(N-1)がS未満の場合は、版胴の回転回数をカウントする変数iを0とする(i=0)。ステップ8(S8)。
転写材料6と被転写基材7の搬送が一定の搬送速度で同期して行われ、版胴1回転分の転写を開始する。このとき、版胴の回転回数をカウントする変数iに1を加算する(i=i+1)。ステップ9(S9)。
被転写基材7は、版胴1回転ごとにステップバックが行われる。ステップ10(S10)。
【0084】
版胴1回転分の転写後、i=Nの条件よりステップバックの戻し距離R1を決める。前述のように、Nは小数点以下を切り捨てた値で判定する。ステップ11(S11)。
つまり、制御部5は、版胴20の回転回数をカウントする変数iと、転写材料6の転写面間で転写可能な回数Nが一致しているか否を判定する判定部(図示せず)を有している。
i=Nの条件を満たさない場合には、式(1)から導出した距離だけ戻して使用できる未使用領域が存在するため、戻し距離R1を式(1)から導出した距離(M×(S-2)+2L+α+β)とする。ステップ12(S12)。
i=Nの条件を満たす場合には、式(1)から導出した距離だけ戻して使用できる未使用領域が存在しないため、戻し距離R1を式(3)から導出した距離(α+β)とする。ステップ13(S13)。
ステップ13(S13)の処理を実行した場合には、変数iを0に戻す(i=0)。すなわち、版胴の回転回数のカウントをリセットする。ステップ14(S14)。
【0085】
(N-1)≧Sを満たさない場合には、ステップ9(S9)からステップ14(S14)の処理を繰り返し行うことで、間欠搬送(ステップバックを含む搬送)により、転写材料6に生じた未使用領域が転写に使用される。
すなわち、(N-1)≧Sを満たさない場合は、第2の実施の形態の転写動作を行う。
なお、転写の終了の制御は通常の転写装置、印刷装置通り、ステップ1で制御部5に対して指定した条件または、転写装置の操作者による停止操作に応じて終了する公知の制御なのでフローチャートでは省略している。
図9に示すフローチャートのように転写動作をすることで、L、M、Sなどの転写に必要なパラメータに応じた転写動作を、自動的に選択できるので、転写装置の操作者は転写に必要なパラメータを制御部5に入力すればよいので、操作が簡単である。
これに限ることはなく、版胴20によって(N-1)≧Sであるか否を予め判るので、版胴20によって
図9のフローチャートにおけるS1、S2、S3、S5、S6、S7のステップを行う構成の制御部5、
図9のフローチャートにおけるS1、S2、S3、S8、S9、S10、S11、S12、S13、S14のステップを行う制御部5としてもよい。
また、前述したステップ4(S4)を判定する判定部と、ステップ11(S11)を判定する判定部は、それぞれ独立した判定部でもよく、ステップ4(S4)とステップ11(11)の両方を判定する1つの判定部としてもよい。
以上の説明から明らかなように、実施の形態の転写装置1は、本発明者等が開発した転写装置に対して転写材料6のステップバックによる戻し距離R1を短くすることが可能である。
転写材料6の戻し距離R1が短い場合、版胴20の1回転の時間が同じであれば、転写材料6の転写後の減速、転写前の加速及びステップバック中の減速、加速に時間をかけられるため、加速、減速の切り替えを緩やかに行うことができ、転写材料6の加速時及び減速時に供給側、回収側のステップバックローラ33、40や転写材料6に対して作用する慣性力を軽減できる。
【0086】
転写材料6の加速時及び減速時に供給側、回収側のステップバックローラ33、40や転写材料6に対して作用する慣性力を軽減することで、転写材料6の搬送を安定させることができるから、転写ミスが少なく歩留まりを改善できる。
【0087】
特に、転写面間で転写可能な回数Nと、版胴20の転写面の数Sが、(N-1)=Sを満たす場合には、転写材料6の未使用領域の使用効率が、本発明者等が開発した転写装置と比較すると、版胴1回転分の未使用領域以下の僅かな差で、実用上はあまり影響がない。このことよりも、戻し距離R1を本発明者等が開発した転写装置の戻し距離R10より短くすることで、転写材料6の搬送の不安定さによって発生する歩留まりを改善できる方が重要であり、本発明者等が開発した転写装置に対して実施の形態の転写装置1は生産コストの面で有利である。転写する量が多い場合ほど生産コストの面で有利となる。
【0088】
実施の形態では、1つの転写面の転写に必要な距離L、転写面間の距離(1つの転写面の転写開始位置から次の転写面の転写開始位置までの距離)M、版胴20の転写面の数(版胴1回転の転写回数)Sなどを、制御部5に入力すると説明したが、MとSのどちらかに代え、版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さCを制御部5に入力してもよい。MとSとCの関係はC=M×Sであるので、MとSとCより任意の2つの値が制御部5に入力されていればよい。
版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さCは、生産する製品のデザインによって決まる。長さCの取り得る値は、127.0mmから355.6mmの範囲の値で、この上限と下限は版胴20のエンボス版25の長さにより決まる。
1つの転写面の転写に必要な距離Lは、転写する絵柄に応じて入力する。距離Lは5mmから355.6mm(Cの最大値)の範囲の値に設定可能である。
また、1つの転写面の転写に必要な距離Lを、生産される転写済みの被転写基材7の長さCより大きく設定すること、L>Cは出来ない。
すなわち、C=M×Sでかつ、Sは1以上の整数なので、C≧Mであり、Mの定義よりM≧Lであるので、C≧Lが成り立つ。よって、LはC≧Lを満たす必要があるため、Lの設定可能な最大値はCの最大値である。
転写面間の距離(1つの転写面の転写開始位置から次の転写面の転写開始位置までの距離)Mは、Lから355.6mm(Cの最大値)の範囲の値に設定可能である。
本発明では、上記の各パラメータの設定可能な範囲に加えて、前述のようにN=M÷Lが3以上かつ、版胴20の転写面の数Sが少なくとも2つ以上であることを満たす必要がある。
【0089】
実施の形態では、制御部5に入力されたL、M、S、Cの値が、上記の設定可能な範囲外の場合、及びL>Cの場合は、転写可能な条件を満たさないため制御部5はエラーと判定し、転写動作を行わない。これと同時に図示しない手段でエラーを表示する。
ここで示したL、M、S、Cの値の上限と下限は一例である。このL、M、S、Cの値の上限と下限は版胴20の外周長などの転写装置1の構成に応じて決定される。
また、版胴20の1回転で生産される転写済みの被転写基材7の長さCによって、被転写基材7のステップバックによる戻し距離が決定される。
【符号の説明】
【0090】
1…転写装置、2…転写部、3…転写材料の供給部、4…転写材料の回収部、5…制御部、6…転写材料、7…被転写基材、20…版胴、21…圧胴、22…第1の転写面、23…第2転写面。24…第3の転写面、26…非転写面、30…巻出し軸、31…供給側の送りローラ、32…供給側の緩衝装置、33…供給側のステップバックローラ、40…回収側のステップバックローラ、41…回収側の緩衝装置、42…回収側の送りローラ、43…巻取軸。