(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】合成繊維用第1処理剤含有組成物、合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維の製造方法、及び短繊維の製造方法
(51)【国際特許分類】
D06M 13/292 20060101AFI20220411BHJP
D06M 13/17 20060101ALI20220411BHJP
D06M 15/53 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
D06M13/292
D06M13/17
D06M15/53
(21)【出願番号】P 2021179634
(22)【出願日】2021-11-02
【審査請求日】2021-11-02
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000210654
【氏名又は名称】竹本油脂株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】木村 裕
(72)【発明者】
【氏名】岡田 智八
(72)【発明者】
【氏名】金子 一輝
【審査官】南 宏樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-030571(JP,A)
【文献】国際公開第2019/239597(WO,A1)
【文献】特開昭57-066182(JP,A)
【文献】特開平03-234866(JP,A)
【文献】特開昭61-119777(JP,A)
【文献】特開2016-216857(JP,A)
【文献】国際公開第2016/002476(WO,A1)
【文献】特開平03-008870(JP,A)
【文献】特開平10-212664(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D06M 13/00-15/715
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
使用時に下記の非イオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用され、
使用時以外は該合成繊維用第2処理剤と別剤として構成され、下記の合成繊維用第1処理剤及び下記の溶媒(S)を含有する合成繊維用第1処理剤含有組成物であって、
前記合成繊維用第1処理剤及び前記溶媒(S)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記合成繊維用第1処理剤を35質量部以上55質量部以下で含有することを特徴とする合成繊維用第1処理剤含有組成物。
合成繊維用第1処理剤:下記の有機リン酸エステル塩(A)、下記の有機リン酸エステル塩(B)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用第1処理剤であって、
前記有機リン酸エステル塩(A)及び前記有機リン酸エステル塩(B)の含有割合の合計と、前記非イオン界面活性剤(C)との含有割合の比率が、質量比として(有機リン酸エステル塩(A)+有機リン酸エステル塩(B))/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、且つ
前記有機リン酸エステル塩(A)及び前記有機リン酸エステル塩(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記有機リン酸エステル塩(A)を80質量部以上100質量部未満、及び前記有機リン酸エステル塩(B)を0質量部超20質量部以下の割合で含有し、且つ電位差滴定法により合成繊維用第1処理剤から検出される酸価が、0mgKOH/g超18mgKOH/g以下である。
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
有機リン酸エステル塩(A):炭素数16以上18以下の炭化水素基を有する有機リン酸エステルのアルカリ金属塩。
有機リン酸エステル塩(B):炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する有機リン酸エステルのアルカリ金属塩。
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
【請求項2】
前記合成繊維用第1処理剤は、電位差滴定法により合成繊維用第1処理剤から検出される酸価が、1mgKOH/g超16mgKOH/g以下である請求項1に記載の合成繊維用第1処理剤含有組成物。
【請求項3】
前記溶媒(S)が、水である請求項1又は2に記載の合成繊維用第1処理剤含有組成物。
【請求項4】
水に、請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を、合成繊維用第1処理剤/合成繊維用第2処理剤=20/80~80/20(質量比)となるように添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを特徴とする合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法。
【請求項5】
下記の工程1及び下記の工程2を経る請求項4に記載の合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液を調製する工程。
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の希釈液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液を調製する工程。
【請求項6】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20質量%以上70質量%以下の60℃以上95℃以下の水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経るものである請求項5に記載の合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法。
【請求項7】
前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20質量%以上70質量%以下の60℃以上95℃以下の水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものである請求項5に記載の合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法。
【請求項8】
水に、請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の希釈液を合成繊維に付与することを特徴とする合成繊維の処理方法。
【請求項9】
水に、請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤
含有組成物及び合成繊維用第2処理剤
を添加し得られた合成繊維用処理剤の希釈液を合成繊維に付与する工程を含むことを特徴とする合成繊維
の製造方法。
【請求項10】
水に、請求項1~3のいずれか一項に記載の合成繊維用第1処理剤
含有組成物及び合成繊維用第2処理剤
を添加し得られた合成繊維用処理剤の希釈液を合成繊維に付与する工程を含むことを特徴とする短繊維
の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機リン酸エステル塩を含有する合成繊維用第1処理剤含有組成物、合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法、合成繊維の処理方法、合成繊維の製造方法、及び短繊維の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、合成繊維の紡糸延伸工程、仕上げ工程等において、摩擦等を低減し、制電性等を向上させる観点から、合成繊維の表面に合成繊維用処理剤を付着させる処理が行われることがある。
【0003】
従来、特許文献1に開示されるポリエステル系合成繊維用処理剤が知られている。特許文献1のポリエステル系合成繊維用処理剤は、下記の長鎖アルキルリン酸エステル塩、下記の短鎖アルキルリン酸エステル塩、下記の無機リン酸塩、及び非イオン界面活性剤を所定割合で含有する。長鎖アルキルリン酸エステル塩は、アルキル基の炭素数が16~18のアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩であり、短鎖アルキルリン酸エステル塩は、アルキル基の炭素数が4~8のアルキルリン酸エステルのアルカリ金属塩であり、無機リン酸塩は、リン酸水素二金属塩又はリン酸三金属塩である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、処理剤の安定性のさらなる向上が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、前記の課題を解決するべく研究した結果、合成繊維用処理剤において、所定の有機リン酸エステル塩等を所定の比率で含有し、酸価を規定した合成繊維用第1処理剤と所定の界面活性剤を含有する合成繊維用第2処理剤とに分けた構成が好適であることを見出した。
【0007】
上記課題を解決するために、本発明の一態様の合成繊維用第1処理剤含有組成物では、使用時に下記の非イオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用され、使用時以外は該合成繊維用第2処理剤と別剤として構成され、下記の合成繊維用第1処理剤及び下記の溶媒(S)を含有する合成繊維用第1処理剤含有組成物であって、前記合成繊維用第1処理剤及び前記溶媒(S)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記合成繊維用第1処理剤を35質量部以上55質量部以下で含有することを要旨とする。
【0008】
合成繊維用第1処理剤:下記の有機リン酸エステル塩(A)、下記の有機リン酸エステル塩(B)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用第1処理剤であって、前記有機リン酸エステル塩(A)及び前記有機リン酸エステル塩(B)の含有割合の合計と、前記非イオン界面活性剤(C)との含有割合の比率が、質量比として(有機リン酸エステル塩(A)+有機リン酸エステル塩(B))/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0であり、且つ前記有機リン酸エステル塩(A)及び前記有機リン酸エステル塩(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、前記有機リン酸エステル塩(A)を80質量部以上100質量部未満、及び前記有機リン酸エステル塩(B)を0質量部超20質量部以下の割合で含有し、且つ電位差滴定法により合成繊維用第1処理剤から検出される酸価が、0mgKOH/g超18mgKOH/g以下である。
【0009】
溶媒(S):大気圧における沸点が105℃以下である溶媒。
有機リン酸エステル塩(A):炭素数16以上18以下の炭化水素基を有する有機リン酸エステルのアルカリ金属塩。
【0010】
有機リン酸エステル塩(B):炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する有機リン酸エステルのアルカリ金属塩。
非イオン界面活性剤(C):分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤。
【0011】
前記合成繊維用第1処理剤含有組成物において、前記合成繊維用第1処理剤は、電位差滴定法により合成繊維用第1処理剤から検出される酸価が、1mgKOH/g超16mgKOH/g以下であってもよい。
【0012】
前記合成繊維用第1処理剤含有組成物において、前記溶媒(S)が、水であってもよい。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法では、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物において、水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を、合成繊維用第1処理剤/合成繊維用第2処理剤=20/80~80/20(質量比)となるように添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にすることを要旨とする。
【0013】
前記合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法において、下記の工程1及び下記の工程2を経てもよい。
工程1:第1の水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び前記合成繊維用第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液を調製する工程。
【0014】
工程2:さらに工程1で調製した合成繊維用処理剤の希釈液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液を調製する工程。
【0015】
前記合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20質量%以上70質量%以下の60℃以上95℃以下の水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経てもよい。
【0016】
前記合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法において、前記工程1が、前記第1の水の全量のうち20質量%以上70質量%以下の60℃以上95℃以下の水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに前記合成繊維用第2処理剤を添加する工程を経るものであってもよい。
【0017】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の処理方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の希釈液を合成繊維に付与することを要旨とする。
【0018】
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の合成繊維の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の希釈液を合成繊維に付与する工程を含むことを要旨とする。
上記課題を解決するために、本発明の別の態様の短繊維の製造方法では、水に、前記合成繊維用第1処理剤含有組成物及び合成繊維用第2処理剤を添加し得られた合成繊維用処理剤の希釈液を合成繊維に付与する工程を含むことを要旨とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば処理剤の安定性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】実施例欄における延伸性の評価のための摩擦試験装置の概略図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1実施形態>
以下、本発明の合成繊維用第1処理剤含有組成物(以下、「第1処理剤含有組成物」という)を具体化した第1実施形態を説明する。本実施形態の第1処理剤含有組成物は、下記の合成繊維用第1処理剤(以下、「第1処理剤」という)及び下記の溶媒(S)を含有する。
【0022】
(第1処理剤)
本実施形態の第1処理剤含有組成物に供される第1処理剤は、下記の有機リン酸エステル塩(A)、下記の有機リン酸エステル塩(B)、及び任意選択で下記の非イオン界面活性剤(C)を含有する。
【0023】
(有機リン酸エステル塩(A))
有機リン酸エステル塩(A)は、炭素数16以上18以下の炭化水素基を有する有機リン酸エステルのアルカリ金属塩である。
【0024】
有機リン酸エステル塩(A)を構成する炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。直鎖の飽和炭化水素基の具体例としては、ヘキサデシル基、ヘプタデシル基、オクタデシル基が挙げられる。分岐鎖構造を有する飽和炭化水素基の具体例としては、イソヘキサデシル基、イソヘプタデシル基、イソオクタデシル基が挙げられる。
【0025】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。炭化水素基中に二重結合を1つ有する直鎖の不飽和炭化水素基の具体例としては、ヘキサデセニル基、ヘプタデセニル基、オクタデセニル基が挙げられる。炭化水素基中に二重結合を1つ有する分岐鎖構造を有する不飽和炭化水素基の具体例としては、イソヘキサデセニル基、イソヘプタデセニル基、イソオクタデセニル基が挙げられる。
【0026】
アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
有機リン酸エステル塩(A)の具体例としては、例えばステアリルリン酸エステルカリウム(2.5)、ステアリルリン酸エステルカリウム(2.6)、ステアリルリン酸エステルカリウム(2.8)、ステアリルリン酸エステルカリウム(3.0)、セチルステアリル(30:70)リン酸エステルカリウム(2.6)、セチルステアリル(20:80)リン酸エステルカリウム(2.8)、セチルステアリル(50:50)リン酸エステルカリウム(2.5)、セチルステアリル(50:50)リン酸エステルカリウム(2.8)、セチルステアリル(60:40)リン酸エステルカリウム(2.5)、セチルステアリル(70:30)リン酸エステルカリウム(3.0)等が挙げられる。
【0027】
なお、セチルステアリルの後に記載された()内の数値は、原料として使用したセチルアルコール及びステアリルアルコールの質量比を表す(以下、同じ)。また、具体例の最後に記載された()内の数値は、原料として使用した五酸化二燐に対するアルコールのモル比を表す(以下、同じ)。原料としてアルコールを2種以上使用する有機リン酸エステル塩の場合、それぞれのアルコールの含有量から算出した理論分子量を使用して、五酸化二燐に対する原料アルコールのモル比を算出した(以下、同じ)。例えば、セチルアルコール(分子量:242.44):ステアリルアルコール(分子量:270.49)=30:70の場合は、セチルステアリル(30:70)アルコールの理論分子量は、242.44×0.3+270.49×0.7=262.08となる。
【0028】
これらの有機リン酸エステル塩(A)は、一種類の有機リン酸エステル塩を単独で使用してもよいし、又は二種以上の有機リン酸エステル塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0029】
(有機リン酸エステル塩(B))
有機リン酸エステル塩(B)は、炭素数4以上8以下の炭化水素基を有する有機リン酸エステルのアルカリ金属塩である。
【0030】
有機リン酸エステル塩(B)を構成する炭化水素基としては、飽和炭化水素基であってもよいし、不飽和炭化水素基であってもよい。また、直鎖の炭化水素基であってもよいし、分岐鎖を有する炭化水素基であってもよい。直鎖の飽和炭化水素基の具体例としては、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、ヘプチル基、オクチル基が挙げられる。分岐鎖構造を有する飽和炭化水素基の具体例としては、イソブチル基、イソペンチル基、イソヘキシル基、イソヘプチル基、イソオクチル基が挙げられる。
【0031】
不飽和炭化水素基としては、不飽和炭素結合として二重結合を1つ有するアルケニル基であっても、二重結合を2つ以上有するアルカジエニル基、アルカトリエニル基等であってもよい。また、不飽和炭素結合として三重結合を1つ有するアルキニル基であっても、三重結合を2つ以上有するアルカジイニル基等であってもよい。炭化水素基中に二重結合を1つ有する直鎖の不飽和炭化水素基の具体例としては、ブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、ヘプテニル基、オクテニル基が挙げられる。炭化水素基中に二重結合を1つ有する分岐鎖構造を有する不飽和炭化水素基の具体例としては、イソブテニル基、イソペンテニル基、イソヘキセニル基、イソヘプテニル基、イソオクテニル基が挙げられる。
【0032】
アルカリ金属塩を構成するアルカリ金属の具体例としては、例えばナトリウム、カリウム、リチウム等が挙げられる。
有機リン酸エステル塩(B)の具体例としては、例えばブチルリン酸エステルカリウム(1.8)、ブチルリン酸エステルカリウム(2.5)、ヘキシルリン酸エステルカリウム(2.0)、ヘキシルオクチル(50:50)リン酸エステルカリウム(1.8)、2-エチルヘキシルリン酸エステルカリウム(2.6)、オクチルリン酸エステルカリウム(3.0)等が挙げられる。
【0033】
これらの有機リン酸エステル塩(B)は、一種類の有機リン酸エステル塩を単独で使用してもよいし、又は二種以上の有機リン酸エステル塩を適宜組み合わせて使用してもよい。
【0034】
第1処理剤中において、有機リン酸エステル塩(A)及び有機リン酸エステル塩(B)の含有割合の合計を100質量部とすると、有機リン酸エステル塩(A)を80質量部以上100質量部未満、及び有機リン酸エステル塩(B)を0質量部超20質量部以下の割合で含有する。かかる範囲に規定することにより、第1処理剤含有組成物の安定性、特に変温安定性を向上できる。
【0035】
(非イオン界面活性剤(C))
非イオン界面活性剤(C)は、分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤である。非イオン界面活性剤(C)としては、例えば、アルコール類又はカルボン酸類にアルキレンオキサイドを付加させたもの、カルボン酸類と多価アルコールとのエステル化合物にアルキレンオキサイドを付加させたエーテル・エステル化合物、アミン化合物としてアルキルアミン類にアルキレンオキサイドを付加させたもの等が挙げられる。
【0036】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルコール類の具体例としては、例えば、(1)メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ウンデカノール、ドデカノール、トリデカノール、テトラデカノール、ペンタデカノール、ヘキサデカノール、ヘプタデカノール、オクタデカノール、ノナデカノール、エイコサノール、ヘンエイコサノール、ドコサノール、トリコサノール、テトラコサノール、ペンタコサノール、ヘキサコサノール、ヘプタコサノール、オクタコサノール、ノナコサノール、トリアコンタノール等の直鎖アルキルアルコール、(2)イソブタノール、イソヘキサノール、2-エチルヘキサノール、イソノナノール、イソデカノール、イソドデカノール、イソトリデカノール、イソテトラデカノール、イソペンタデカノール、イソヘキサデカノール、イソヘプタデカノール、イソオクタデカノール、イソノナデカノール、イソエイコサノール、イソヘンエイコサノール、イソドコサノール、イソトリコサノール、イソテトラコサノール、イソペンタコサノール、イソヘキサコサノール、イソヘプタコサノール、イソオクタコサノール、イソノナコサノール、イソトリアコンタノール等の分岐アルキルアルコール、(3)テトラデセノール、ヘキサデセノール、ヘプタデセノール、オクタデセノール、ノナデセノール等の直鎖アルケニルアルコール、(4)イソヘキサデセノール、イソオクタデセノール等の分岐アルケニルアルコール、(5)シクロペンタノール、シクロヘキサノール等の環状アルキルアルコール、(6)フェノール、ノニルフェノール、ベンジルアルコール、モノスチレン化フェノール、ジスチレン化フェノール、トリスチレン化フェノール等の芳香族系アルコール等が挙げられる。
【0037】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるカルボン酸類の具体例としては、例えば、(1)オクチル酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ドデカン酸、トリデカン酸、テトラデカン酸、ペンタデカン酸、ヘキサデカン酸、ヘプタデカン酸、オクタデカン酸、ノナデカン酸、エイコサン酸、ヘンエイコサン酸、ドコサン酸等の直鎖アルキルカルボン酸、(2)2-エチルヘキサン酸、イソドデカン酸、イソトリデカン酸、イソテトラデカン酸、イソヘキサデカン酸、イソオクタデカン酸等の分岐アルキルカルボン酸、(3)オクタデセン酸、オクタデカジエン酸、オクタデカトリエン酸等の直鎖アルケニルカルボン酸、(4)安息香酸等の芳香族系カルボン酸、(5)レシノール酸等のヒドロキシカルボン酸、(6)ひまし油脂肪酸、ごま油脂肪酸、トール油脂肪酸、大豆油脂肪酸、菜種油脂肪酸、ヤシ油脂肪酸、豚脂脂肪酸、牛脂脂肪酸等の動物・植物油由来の脂肪酸等が挙げられる。
【0038】
非イオン界面活性剤の(ポリ)オキシアルキレン構造を形成する原料として用いられるアルキレンオキサイドの具体例としては、例えばエチレンオキサイド、プロピレンオキサイド等が挙げられる。アルキレンオキサイドの付加モル数は、適宜設定されるが、好ましくは0.1モル以上60モル以下、より好ましくは1モル以上40モル以下、さらに好ましくは2モル以上30モル以下である。上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。なお、アルキレンオキサイドの付加モル数は、仕込み原料中におけるアルコール類又はカルボン酸類1モルに対するアルキレンオキサイドのモル数を示す。複数種類のアルキレンオキサイドが用いられる場合、ブロック付加物であってもランダム付加物であってもよい。
【0039】
非イオン界面活性剤の原料として用いられる多価アルコールの具体例としては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2-メチル-1,2-プロパンジオール、1,5-ペンタンジオール、1,6-ヘキサンジオール、2,5-ヘキサンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2,3-ジメチル-2,3-ブタンジオール、グリセリン、2-メチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、2-エチル-2-ヒドロキシメチル-1,3-プロパンジオール、トリメチロールプロパン、ソルビタン、ペンタエリスリトール、ソルビトール等が挙げられる。
【0040】
非イオン界面活性剤の原料として用いられるアルキルアミンの具体例として、例えばメチルアミン、エチルアミン、ブチルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、オクタデシルアミン、ヤシアミン等が挙げられる。
【0041】
非イオン界面活性剤(C)の具体例としては、例えばポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアルケニルエーテル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルキルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンアルケニルエーテル(ブロック付加物、ランダム付加物)、ポリオキシプロピレンアルキルエーテル、ポリオキシプロピレンアルケニルエーテル、油脂のポリオキシエチレン付加物、油脂のポリオキシエチレンポリオキシプロピレン付加物(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアミンエーテルの酸中和物、ポリオキシエチレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレン多価アルコールエーテル脂肪酸エステル(ランダム付加物、ブロック付加物)等が挙げられる。
【0042】
これらの非イオン界面活性剤(C)は、一種類の非イオン界面活性剤を単独で使用してもよいし、又は二種以上の非イオン界面活性剤を適宜組み合わせて使用してもよい。
第1処理剤中における非イオン界面活性剤(C)の含有量の上限は、好ましくは5質量%以下、より好ましくは2質量%以下、さらに好ましくは1質量%以下である。かかる含有量を5質量%以下に規定することにより、第1処理剤含有組成物の安定性をより向上できる。
【0043】
第1処理剤中において、有機リン酸エステル塩(A)及び有機リン酸エステル塩(B)の含有割合の合計と、非イオン界面活性剤(C)との含有割合の比率が、質量比として(有機リン酸エステル塩(A)+有機リン酸エステル塩(B))/非イオン界面活性剤(C)=95/5~100/0である。かかる範囲内により、第1処理剤含有組成物の安定性を向上できる。
【0044】
(酸価)
第1処理剤は、電位差滴定法により検出される酸価が、0mgKOH/g超18mgKOH/g以下、好ましくは1mgKOH/g超16mgKOH/g以下である。かかる範囲内に規定することにより、第1処理剤含有組成物の安定性、特に変温安定性を向上できる。また、第1処理剤含有組成物のハンドリング性を向上できる。なお、上記の上限及び下限を任意に組み合わせた範囲も想定される。有機リン酸エステル塩(A)及び有機リン酸エステル塩(B)は、例えば原料アルコールに、五酸化二燐を反応させてリン酸エステルを得た後、必要によりリン酸エステルを水酸化カリウム等のアルカリで中和することにより得られる。中和の程度を調製すること等によって酸価を調整できる。
【0045】
(溶媒(S))
溶媒(S)は、大気圧における沸点が105℃以下である溶媒である。溶媒(S)としては、水、有機溶媒が挙げられる。有機溶媒の具体例としては、エタノール、プロパノール等の低級アルコール等、ヘキサン等の低極性溶媒が挙げられる。これらの溶媒(S)は、一種類の溶媒を単独で使用してもよいし、又は二種以上の溶媒を適宜組み合わせて使用してもよい。これらの中で、第1処理剤と合成繊維用第2処理剤(以下、「第2処理剤」という)とが混合された混合物をエマルション形態とする観点から水、低級アルコール等の極性溶媒が好ましく、第1処理剤含有組成物のハンドリング性に優れる観点から水がより好ましい。
【0046】
第1処理剤含有組成物中において、第1処理剤及び溶媒(S)の含有割合の合計を100質量部とすると、第1処理剤を35質量部以上55質量部以下で含有する。第1処理剤を35質量部以上とすることにより、第1処理剤含有組成物の安定性を向上できる。第1処理剤を55質量部以下とすることにより、第1処理剤含有組成物のハンドリング性を向上できる。
【0047】
(第2処理剤)
第1処理剤含有組成物は、使用時に非イオン界面活性剤(C)を含有する第2処理剤と併用される。第1処理剤含有組成物は、保存時又は流通時等において第2処理剤と別剤として構成される。使用時に第1処理剤含有組成物と第2処理剤と混合された混合物、つまり使用時における合成繊維用処理剤が調製される。以下、第2処理剤について説明する。第2処理剤は、上述した非イオン界面活性剤(C)を含有し、必要によりその他成分を配合してもよい。
【0048】
(その他成分)
第2処理剤は、適用目的又は必要性に応じて、本発明の効果を阻害しない範囲内において、前述した成分以外のその他成分、例えば溶媒、多価アルコール、平滑剤として鉱物油、エステル、シリコーン化合物等、アニオン界面活性剤、キレート化剤、カルボン酸塩等をさらに含有してもよい。溶媒の具体例としては、上記溶媒(S)欄で挙げたものが適用される。第2処理剤中における溶媒の含有量は、製品外観及び安定性向上の観点から20質量%以下が好ましい。
【0049】
多価アルコールの具体例としては、例えばプロピレングリコール、ジエチレングリコール、エチレングリコール、グリセリン等が挙げられる。鉱物油の具体例としては、例えばパラフィンワックス、水素処理軽パラフィン等が挙げられる。エステルの具体例としては、例えばソルビタンモノオレアート、ソルビタンモノステアラート、グリセリンモノオレアート、ひまし油等が挙げられる。シリコーンの具体例としては、例えばポリジメチルシロキサン等が挙げられる。アニオン界面活性剤の具体例としては、例えばラウリン酸カリウム、オレイン酸カリウム、ラウリル硫酸ナトリウム、アルキル(C14-16)スルホン酸ナトリウム、ジオクチルスルホコハク酸ナトリウム等が挙げられる。キレート化剤の具体例としては、例えばエチレンジアミン四酢酸二ナトリウム、エチレンジアミン-N,N’-ジコハク酸三ナトリウム等が挙げられる。カルボン酸塩の具体例としては、例えば乳酸カリウム、酢酸カリウム等が挙げられる。
【0050】
上記実施形態の第1処理剤含有組成物の効果について説明する。
(1-1)上記実施形態の第1処理剤含有組成物では、所定の有機リン酸エステル塩(A)等を所定の比率で含有し、電位差滴定法により検出される酸価が、0mgKOH/g超18mgKOH/g以下である第1処理剤及び所定の溶媒(S)を含有する。また、合成繊維用処理剤は、保存又は流通時に第1処理剤含有組成物と非イオン界面活性剤(C)を含有する第2処理剤とが、別剤として構成される。使用時に第1処理剤含有組成物と第2処理剤と混合された混合物、つまり使用時の合成繊維用処理剤が調製されるように構成した。
【0051】
かかる方法により、合成繊維用処理剤を構成する第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の安定性を向上できる。よって、合成繊維用処理剤中に含まれる有機リン酸エステル塩等の機能性成分の効能を有効に発揮できる。また、第1処理剤含有組成物のハンドリング性を向上できる。
【0052】
(1-2)上記実施形態の第1処理剤含有組成物により、安定性の中でも特に保存安定性として室温安定性を向上できる。また、低温域での温度変化、特に冬季において、組成物の安定性がより低下することがあった。上記実施形態の第1処理剤含有組成物の構成により、低温域で温度変化が生ずる環境下において変温安定性を向上できる。
【0053】
<第2実施形態>
次に、本発明の合成繊維用処理剤の希釈液の調製方法(以下、「処理剤の希釈液の調製方法」という)を具体化した第2実施形態を説明する。
【0054】
本実施形態の処理剤の希釈液の調製方法は、水に、第1実施形態の第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。不揮発分は、対象物を105℃で2時間熱処理して揮発性物質を十分に除去した絶乾物の質量から求められる(以下、同じ)。
【0055】
本実施形態の処理剤の希釈液は、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を、第1処理剤/第2処理剤=20/80~80/20(質量比)となるように混合される。第1処理剤と第2処理剤とを併用する形態は、第1処理剤と第2処理剤の混合比率を任意に変更することができる。そのため、製造設備の違い又は温湿度等の気候の違い等の製造条件が異なる条件下においても、配合比率を微調整して常に最適な紡糸延伸性を得るための処理剤を調製することが容易になる。それにより安定した繊維製造が可能となる。
【0056】
水に、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を添加する方法は、公知の方法を適宜採用できるが、下記の工程1及び下記の工程2を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0057】
工程1は、第1の水に、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液の母液を調製する工程である。第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の第1の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤含有組成物を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤含有組成物を水に添加してもよい。また、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤含有組成物を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。また、希釈する水の温度は、特に限定されない。
【0058】
さらに、工程1は、第1の水の全量のうち20質量%以上70質量%以下の60℃以上95℃以下の水に、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加する工程を経ることが好ましい。かかる方法により、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。この場合も第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の水への添加順は、特に限定されず、先に第1処理剤含有組成物を水に添加し、次に第2処理剤を水に添加してもよく、先に第2処理剤を水に添加し、次に第1処理剤含有組成物を水に添加してもよい。また、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を同時に水に添加してもよい。エマルジョンの安定性の向上の観点から、先に第1処理剤含有組成物を第1の水に添加し、次に第2処理剤を第1の水に添加することが好ましい。
【0059】
また、工程1は、第1の水の全量のうち20質量%以上70質量%以下の60℃以上95℃以下の水に、第1処理剤含有組成物を添加した後、40℃以下の残りの第1の水を添加し、さらに第2処理剤を添加する工程を経てもよい。かかる方法により、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性をより向上できる。
【0060】
工程2は、工程1で調製した合成繊維用処理剤の希釈液の母液に第2の水を添加し、不揮発分濃度が0.01質量%以上2質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液を調製する工程である。
【0061】
上記実施形態の処理剤の希釈液の調製方法の効果について説明する。
(2-1)上記実施形態の処理剤の希釈液の調製方法は、水に、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を所定の比率で添加し、不揮発分濃度を0.01質量%以上10質量%以下にする方法である。かかる方法により、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤の混合物がエマルション形態の場合、エマルションの安定性を向上できる。また、予め調製された第1処理剤含有組成物と第2処理剤を水に混合することにより、繊維付与形態である希釈液を調製できるため、使用時に試薬から調合する方法に比べて希釈液を簡易に調製できる。
【0062】
(2-2)また、水に、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を添加し、不揮発分濃度が2質量%超10質量%以下の合成繊維用処理剤の希釈液の母液を調製する工程を経る場合、エマルションの安定性をより向上できる。それにより、成分の繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による効能を有効に発揮できる。
【0063】
<第3実施形態>
次に、本発明の合成繊維の処理方法を具体化した第3実施形態を説明する。
本実施形態の合成繊維の処理方法は、水に、第1処理剤含有組成物及び第2処理剤を添加して得られた処理剤の希釈液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。処理剤の希釈液の調製方法は、第2実施形態の処理剤の希釈液の調製方法を採用できる。合成繊維に付着した処理剤の希釈液は、乾燥工程により水分を蒸発させてもよい。
【0064】
処理剤の希釈液が付与される合成繊維の具体例としては、特に制限はなく、例えば(1)ポリエチレンテレフタラート(PET)、ポリトリメチレンテレフタラート、ポリブチレンテレフタラート、ポリエチレンナフタラート、ポリ乳酸、これらのポリエステル系樹脂を含有して成る複合繊維等のポリエステル系繊維、(2)ナイロン6、ナイロン66等のポリアミド系繊維、(3)ポリアクリル、モダアクリル等のポリアクリル系繊維、(4)ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系繊維等が挙げられる。これらの中で濡れ性の向上により合成繊維用処理剤を均一に付与する効果の発揮に優れる観点からポリエステル又はポリオレフィンに適用されることが好ましい。
【0065】
仕上げ工程において処理剤の希釈液が付与される合成繊維の用途は、特に限定されず、例えば短繊維、紡績糸、不織布等が挙げられる。短繊維及び長繊維のいずれの繊維用途としても適用できるが、短繊維に適用されることが好ましい。短繊維は、一般にステープルと呼ばれるものが該当し、一般にフィラメントと呼ばれる長繊維を含まないものとする。また、短繊維の長さは、本技術分野において短繊維に該当するものであれば特に限定されないが、例えば100mm以下であることが好ましい。
【0066】
処理剤の希釈液を合成繊維に付着させる割合に特に制限はないが、処理剤の希釈液を合成繊維に対し0.1~3質量%(水等の溶媒を含まない)の割合となるよう付着させることが好ましい。かかる構成により、各成分による効能を有効に発揮できる。また、合成繊維用処理剤を付着させる方法は、特に制限はなく、合成繊維の種類、形態により公知の方法、例えばローラー給油法、計量ポンプを用いたガイド給油法、浸漬給油法、スプレー給油法等を採用できる。
【0067】
本実施形態の合成繊維の処理方法の効果について説明する。
(3-1)本実施形態の合成繊維の処理方法では、処理剤の希釈液を、例えば紡糸又は延伸工程、仕上げ工程等において合成繊維に付与する方法である。したがって、各成分の合成繊維への均一な付着性を低下させることがなく、各成分による短繊維、紡績糸、不織布等に対する効能を有効に発揮できる。
【0068】
なお、上記実施形態は以下のように変更してもよい。上記実施形態及び以下の変更例は、技術的に矛盾しない範囲で互いに組み合わせて実施できる。
・上記実施形態の第1処理剤、第2処理剤、又は第1処理剤含有組成物には、本発明の効果を阻害しない範囲内において、各剤の品質保持のための安定化剤、制電剤、つなぎ剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤等の通常処理剤に用いられる成分をさらに配合してもよい。
【実施例】
【0069】
以下、本発明の構成及び効果をより具体的にするため、実施例等を挙げるが、本発明がこれらの実施例に限定されるというものではない。尚、以下の実施例及び比較例において、部は質量部を、また、特に限定のない限り%は質量%を意味する。
【0070】
試験区分1(第1処理剤の調製)
(第1処理剤(I-1))
第1処理剤(I-1)は、表1に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0071】
有機リン酸エステル塩(A)としてステアリルリン酸エステルカリウム(2.5)(A-1)99部(%)、及び有機リン酸エステル(B)としてブチルリン酸エステルカリウム(1.8)(B-1)1部(%)を含む第1処理剤(I-1)を調製した。
【0072】
(第1処理剤(I-2)~(I-12)、(rI-13)~(rI-15))
第1処理剤(I-2)~(I-12)、(rI-13)~(rI-15)は、第1処理剤(I-1)と同様にして有機リン酸エステル塩(A)及び有機リン酸エステル塩(B)を表1に示した割合で混合することで調製した。
【0073】
有機リン酸エステル塩(A)の種類と含有量、有機リン酸エステル塩(B)の種類と含有量、表1の「有機リン酸エステル塩(A)」欄、「有機リン酸エステル塩(B)」欄にそれぞれ示す。
【0074】
(酸価)
第1処理剤中における酸価を測定した。酸価の具体的測定方法は、次の通りである。第1処理剤の質量として2gとなるように、第1処理剤を100mLビーカーにサンプリングした。エタノール/キシレン=1/2溶液80mLを加えて、マグネティックスターラーで撹拌した。ここで、溶けにくい場合は60℃の湯煎で溶媒を温めた後撹拌し、再度室温まで冷却したのちに測定した。電位差滴定装置を用いて、1/10NのKOHメタノール溶液を用いて、酸価を測定した。第1処理剤の酸価を、表1の「第1処理剤から測定される酸価」欄に示す。
【0075】
【表1】
表1に記載する有機リン酸エステル(A)及び有機リン酸エステル(B)の詳細は以下のとおりである。
【0076】
(有機リン酸エステル(A))
A-1:ステアリルリン酸エステルカリウム(2.5)
A-2:ステアリルリン酸エステルカリウム(2.6)
A-3:ステアリルリン酸エステルカリウム(2.8)
A-4:ステアリルリン酸エステルカリウム(3.0)
A-5:セチルステアリル(30:70)リン酸エステルカリウム(2.6)
A-6:セチルステアリル(20:80)リン酸エステルカリウム(2.8)
A-7:セチルステアリル(50:50)リン酸エステルカリウム(2.5)
A-8:セチルステアリル(50:50)リン酸エステルカリウム(2.8)
A-9:セチルステアリル(60:40)リン酸エステルカリウム(2.5)
A-10:セチルステアリル(70:30)リン酸エステルカリウム(3.0)
a-1:ベヘニルリン酸エステルカリウム(3.0)
(有機リン酸エステル(B))
B-1:ブチルリン酸エステルカリウム(1.8)
B-2:ブチルリン酸エステルカリウム(2.5)
B-3:ヘキシルリン酸エステルカリウム(2.0)
B-4:ヘキシルオクチル(50:50)リン酸エステルカリウム(1.8)
B-5:2-エチルヘキシルリン酸エステルカリウム(2.6)
B-6:オクチルリン酸エステルカリウム(3.0)
試験区分2(第1処理剤含有組成物の調製)
(実施例1)
実施例1の第1処理剤含有組成物(XI-1)は、表2に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。表2に示されるように、第1処理剤(I-1)40部(%)、溶剤(S)として水60部(%)を含む実施例1の第1処理剤含有組成物(XI-1)を調製した。
【0077】
(実施例2~12、比較例1~5)
実施例2~12(第1処理剤含有組成物(XI-2)~(XI-12))、比較例1~5(第1処理剤含有組成物(rXI-13)~(rXI-17))は、実施例1と同様にして第1処理剤及び溶剤(S)を表2に示した割合で含むように調製した。第1処理剤の種類と含有量、溶剤(S)の種類と含有量を、表2の「第1処理剤」欄、「溶剤(S)」欄にそれぞれ示す。
【0078】
【表2】
試験区分3(第2処理剤の調製)
(第2処理剤(II-1))
第2処理剤(II-1)は、表3に示される各成分を使用し、下記調製方法により調製した。
【0079】
非イオン界面活性剤(C)として(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=6、n=2、mはオキシエチレン単位の数(以下、同じ)、nはオキシプロピレン単位の数(以下、同じ)、ランダムポリマー)C12-13アルキルエ-テル(C-4)65部(%)、ポリオキシエチレン(10モル)ヤシアルキルアミンエーテル(C-25)22部(%)、及びポリオキシエチレン(15モル)ヤシアルキルアミンエーテル(C-27)13部(%)をよく混合して均一にすることで組成1からなる第2処理剤(II-1)を調製した。
【0080】
なお、非イオン界面活性剤における(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)の記載方法は、ブロックポリマーの場合、付加順序を表しており、(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)の場合は、エチレンオキサイドを付加したのち、プロピレンオキサイドを付加した形態を意味する(以下、同じ)。
【0081】
(第2処理剤(II-2)~(II-27))
第2処理剤(II-2)~(II-27)は、第2処理剤(II-1)と同様にして非イオン界面活性剤(C)及びその他成分(D)を表3,4に示した割合で混合することで調製した。
【0082】
非イオン界面活性剤(C)の種類と含有量、その他成分(D)の種類と含有量を、表3,4の「非イオン界面活性剤(C)」欄、「その他成分(D)」欄にそれぞれ示す。
【0083】
【0084】
【表4】
表3,4に記載する非イオン界面活性剤(C)、その他成分(D)の詳細は以下のとおりである。
【0085】
(非イオン界面活性剤(C))
C-1:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=2、n=5、ブロックポリマー)デシルエ-テル
C-2:ポリオキシエチレン(10モル:アルキレンオキサイドの付加モル数を示す(以下同じ))C12-13アルキルエーテル
C-3:ポリオキシエチレン(15モル)C12-13アルキルエーテル
C-4:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=6、n=2、ランダムポリマー)C12-13アルキルエ-テル
C-5:ポリオキシエチレン(10モル)C11-14アルキルエーテル
C-6:ポリオキシエチレン(15モル)トリデシルエーテル
C-7:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=7、n=5、ブロックポリマー)C11-14アルキルエ-テル
C-8:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=6、n=2、ランダムポリマー)トリデシルエーテル
C-9:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=5、n=5、ブロックポリマー)イソデシルエーテル
C-10:(ポリオキシプロピレン)(ポリオキシエチレン)(m=2、n=5、ブロックポリマー)イソデシルエーテル
C-11:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=5、n=5、ブロックポリマー)イソトリデシルエーテル
C-12:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルエーテル
C-13:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルエーテル
C-14:ポリオキシエチレン(9モル)ドデシルエーテル
C-15:(ポリオキシエチレン)(ポリオキシプロピレン)(m=5、n=5、ブロックポリマー)ドデシルエーテル
C-16:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミンエーテル
C-17:ポリオキシエチレン(10モル)ドデシルアミンエーテルとリン酸の塩
C-18:ポリオキシエチレン(15モル)ドデシルアミンエーテル
C-19:ポリオキシエチレン(4モル)ドデシルアミンエーテル
C-20:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルエ-テル
C-21:ポリオキシエチレン(10モル)オクタデシルアミンエーテル
C-22:ポリオキシエチレン(10モル)ラウリルエステル
C-23:ポリオキシエチレン(7モル)ヤシ脂肪酸エステル
C-24:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシ脂肪酸エステル
C-25:ポリオキシエチレン(10モル)ヤシアルキルアミンエーテル
C-26:ポリオキシエチレン(12モル)ヤシアルキルアミンエーテル
C-27:ポリオキシエチレン(15モル)ヤシアルキルアミンエーテル
C-28:ポリオキシエチレン(10モル)オレイルエステル
C-29:(ポリオキシプロピレン)(ポリオキシエチレン)(ブロック付加)プロピレングリコールエーテル(平均分子量3000、ポリオキシエチレン付加率90モル%)
C-30:(ポリオキシプロピレン)(ポリオキシエチレン)(ブロック付加)プロピレングリコールエーテル(平均分子量6000、ポリオキシエチレン付加率80モル%)
C-31:(ポリオキシプロピレン)(ポリオキシエチレン)(ブロック付加)ジグリセリンエーテル(平均分子量3000、ポリオキシエチレン付加率65モル%)
C-32:ポリオキシプロピレンポリオキシエチレン(ランダム付加)ジグリセリンエーテル(平均分子量6000、ポリオキシエチレン付加率90モル%)
(その他成分(D))
D-1:オレイン酸カリウム
D-2:ラウリン酸カリウム
D-3:乳酸カリウム
D-4:酢酸カリウム
試験区分4(合成繊維用処理剤の調製1)
試験区分2で得られた第1処理剤含有組成物と試験区分3で得られた第2処理剤とを表5に示される比率で下記に示される方法で混合し、最終的にエマルジョン形態の合成繊維用処理剤の希釈液を調製した。
【0086】
(実施例13)
まず、陽イオン交換水を40g計り取り、80℃の湯煎にて500rpmにてプロペラ撹拌羽を用いて3分撹拌した。ビーカーの中に、第1処理剤含有組成物(XI-8)の5.0g(不揮発分として2.0g)をスポイトで滴下し、5分間撹拌した。
【0087】
次いで、第2処理剤(II-21)の2.0g(不揮発分として2.0g)をスポイトを用いて滴下し、5分間撹拌した。
なお、この時、第1処理剤の配合比率(%)は、第1処理剤の質量/(第1処理剤質量+第2処理剤の質量)×100=50(%)である。第2処理剤の配合比率(%)は、第2処理剤の質量/(第1処理剤の質量+第2処理剤の質量)×100=50(%)となる。
【0088】
ビーカーを湯煎から出し、室温にて500rpmで撹拌下、33g([80(g)-40(g)-「第1処理剤含有組成物と第2処理剤の添加量の合計(g)」]となるように適宜調整する)の25℃陽イオン交換水を加えた。3分撹拌後、希釈液の総質量が80gとなるように陽イオン交換水を加えた。1分撹拌して得られた希釈液を、実施例13の合成繊維用処理剤の希釈液である5%希釈液(不揮発分5%)とした。
【0089】
(実施例14~73)
実施例14~73は、実施例1と同様にして第1処理剤と第2処理剤を表5に示した割合で混合することで合成繊維用処理剤の希釈液としての5%エマルジョンを調製した。
【0090】
第1処理剤の種類と含有量、第2処理剤の種類と含有量を、表5の「第1処理剤」欄、「第2処理剤」欄にそれぞれ示す。
【0091】
【表5】
試験区分5(合成繊維用処理剤の調製2)
第1処理剤と第2処理剤を調製する工程を経ずに、表6に示される各成分を所定の比率で混合して合成繊維用処理剤を得た。
【0092】
(比較例6)
比較例6の合成繊維用処理剤は、表6に示されるように、有機リン酸エステル塩(A)としてステアリルリン酸エステルカリウム(2.5)(A-1)49.5部、有機リン酸エステル(B)としてブチルリン酸エステルカリウム(1.8)(B-1)0.5部、界面活性剤として表3に示される組成1を50部、及び溶媒(S)として水を150部を含むように調製した。
【0093】
(比較例7~53)
比較例7~53の合成繊維用処理剤は、比較例6の合成繊維用処理剤と同様にして有機リン酸エステル塩(A)、有機リン酸エステル(B)、界面活性剤、及び溶媒(S)を表6に示した割合で含むように調製した。
【0094】
有機リン酸エステル塩(A)の種類と含有量、有機リン酸エステル(B)の種類と含有量、界面活性剤の種類と含有量、溶媒(S)の種類と含有量を、表6の「有機リン酸エステル塩(A)」欄、「有機リン酸エステル(B)」欄、「界面活性剤」欄、「溶媒(S)」欄にそれぞれ示す。また、各合成繊維用処理剤中における不揮発分の濃度を「不揮発分濃度」欄に示す。
【0095】
【表6】
試験区分6(室温安定性の評価)
250mL透明ポリ瓶に実施例1~12、比較例1~5の第1処理剤含有組成物、及び比較例6~53の合成繊維用処理剤を150g入れた。25℃65RH%の条件下で4週間静置した後、下記の基準で目視で室温安定性を評価した。結果を表2,6の「室温安定性」欄に示す。
【0096】
・室温安定性の評価基準
◎(良好):4週間経過後に分離が起きていない場合
×(不可):4週間経過後に分離が起きている場合
試験区分7(変温安定性の評価)
250mL透明ポリ瓶に実施例1~12、比較例1~5の第1処理剤含有組成物、及び比較例6~53の合成繊維用処理剤を入れた。プログラム可能な恒温機にて、次のサイクルで低温条件での変温安定性を評価した。下記の基準で目視で変温安定性を評価した。結果を表2,6の「変温安定性」欄に示す。
【0097】
(1)0℃で12時間、(2)20℃で12時間、(3)前記(1)と(2)を合計で4回ずつ実施。
・変温安定性の評価基準
◎(良好):分離及び増粘ともに起きていない場合
〇(可):分離は起きず、増粘している場合
×(不可):分離が起きている場合
試験区分8(ハンドリング性の評価)
・ハンドリング性の評価基準
100mLの透明ポリ瓶に実施例1~12、比較例1~5の合成繊維用第1処理剤含有組成物を50g入れた。25℃×40%RHの雰囲気下で1カ月調湿後、その性状からハンドリング性を評価した。結果を表2の「ハンドリング性」欄に示す。
【0098】
◎(良好):ポリ瓶を90°傾けて直ちに液体が流れる場合
〇(可):ポリ瓶を90°傾けて5分後までに液体が流れる場合
×(不可):ポリ瓶を90°傾けて5分後までに液面に変化が無い(液体が流れださない)場合
試験区分9(ポリエステルステープル繊維への処理剤の希釈液の付着)
試験区分4で得られた各例の合成繊維用処理剤の希釈液をさらに希釈して合成繊維用処理剤の0.5%エマルジョンを調製した。調製した0.5%エマルジョンを、製綿工程で得られた繊度1.3×10-4g/m(1.2デニール)で繊維長38mmのセミダルのポリエステルステープル繊維に、不揮発分としてその付着量が0.15%となるようにスプレー法で付着させた。そして、80℃の熱風乾燥機で2時間乾燥した後、25℃×40%RHの雰囲気下に一夜調湿して、処理済みポリエステルステープル繊維を得た。なお、表6に示されるように、比較例6~53は、安定性の評価が不良であったため、下記の各紡績特性について評価を行っていない。
【0099】
試験区分10(カード通過性の評価)
試験区分9で得た処理済みポリエステルステープル繊維20gを、20℃で65%RHの恒温室内で24時間調湿した後、ミニチュアカード機に供した。投入量に対して排出された量の割合を算出し、下記の評価基準で評価した。結果を表5の「カード通過性」欄に示す。
【0100】
・カード通過性の評価基準
◎(良好):排出量が90%以上
○(可):排出量が80%以上90%未満
×(不良):排出量が80%未満
試験区分11(延伸性の評価)
図1に略示した摩擦試験装置を用いて、次のように延伸性を評価した。
【0101】
試験区分4で得られた各例の合成繊維用処理剤の希釈液をさらに希釈して合成繊維用処理剤の1%エマルジョンを調製した。
図1に示す摩擦試験装置10を用いて、以下のように延伸性を評価した。
図1に示すように、所定の大きさの容器11内に、各例の合成繊維用処理剤の1%エマルジョン12を満たした。円筒状の金属製摩擦体13を、容器11内の1%エマルジョン12に浸るように配置した。フリーローラー14,15を容器11の上部の金属製摩擦体13の前後位置にそれぞれ配置した。ポリエステルフィラメント16を、フリーローラー14、金属製摩擦体13、フリーローラー15の順に通した。
【0102】
図1の状態でポリエステルフィラメント16を矢印A方向へ50m/分の速度で引っ張った。このときのフリーローラー14の上流部における張力T1及びフリーローラー15の下流部における張力T2を、25℃、65%RHに保たれた恒温室で、1%エマルジョン12の温度を20±0.5℃にコントロールした条件下で測定した。T2/T1を算出し、以下の基準で延伸性を評価した。結果を表5の「延伸性」欄に示す。
【0103】
・延伸性の評価基準
◎(良好):T2/T1=6.00未満
○(可):T2/T1=6.00以上6.30未満
×(不良):T2/T1=6.30以上
試験区分12(発生電気の評価)
試験区分9で得た処理済みポリエステルステープル繊維10kgを用い、25℃×40%RHの雰囲気下でフラットカード(豊和工業社製)に供し、紡出速度=140m/分の条件で通過させた。紡出されたカードウェブの発生電気を測定し、発生電気を以下の基準で評価した。結果を表5の「発生電気」欄に示す。
【0104】
・発生電気の評価基準
◎(良好):発生電気量が0.1kV未満
○(可):発生電気量が0.1kV以上0.3kV未満
×(不良):発生電気量が0.3kV以上
比較例6~53の合成繊維用処理剤は、いずれも非イオン界面活性剤(C)が本発明の範囲から外れる配合比率で、予め混合して調製されている。比較例6~53の合成繊維用処理剤は、いずれも安定性に劣ることが確認された。一方、本発明の第1処理剤含有組成物によると、表2の評価結果からも明らかなように、室温安定性及び変温安定性を向上できる。また、かかる第1処理剤含有組成物を含んで構成される合成繊維用処理剤が付与された繊維は、カード通過性が向上され、延伸性、制電性が向上され、各種機能を十分に発揮できる。なお、各例の合成繊維用処理剤をポリオレフィン樹脂としてポリエチレン樹脂に適用した場合も同様の効果、つまりカード通過性、延伸性、制電性等を向上させる効果が得られることを確認している。
【符号の説明】
【0105】
10…摩擦試験装置
11…容器
12…1%エマルジョン
13…金属製摩擦体
14,15…フリーローラー
16…ポリエステルフィラメント
【要約】
【課題】安定性を向上させた合成繊維用第1処理剤含有組成物等を提供する。
【解決手段】本発明の合成繊維用第1処理剤含有組成物は、分子中に(ポリ)オキシアルキレン構造を有する非イオン界面活性剤(C)を含有する合成繊維用第2処理剤と併用され、所定の有機リン酸エステル塩(A)等を所定の比率で含有し、電位差滴定法により検出される酸価が、0mgKOH/g超18mgKOH/g以下である合成繊維用第1処理剤及び大気圧における沸点が105℃以下である溶媒(S)を含有する。合成繊維用第1処理剤含有組成物は、合成繊維用第1処理剤及び溶媒(S)の含有割合の合計を100質量部とすると、合成繊維用第1処理剤を35質量部以上55質量部以下で含有する。
【選択図】なし