(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】伸縮装置の腐食防止構造及び腐食防止方法
(51)【国際特許分類】
E01C 11/02 20060101AFI20220411BHJP
E01D 19/06 20060101ALI20220411BHJP
C23F 13/02 20060101ALI20220411BHJP
C23F 13/06 20060101ALI20220411BHJP
C23F 13/16 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
E01C11/02 A
E01D19/06
C23F13/02 B
C23F13/02 L
C23F13/06
C23F13/16
(21)【出願番号】P 2017232280
(22)【出願日】2017-12-04
【審査請求日】2020-10-12
(73)【特許権者】
【識別番号】517423039
【氏名又は名称】貝沼 重信
(73)【特許権者】
【識別番号】508061549
【氏名又は名称】阪神高速技術株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】517305920
【氏名又は名称】一般社団法人日本橋梁建設協会
(74)【代理人】
【識別番号】100138896
【氏名又は名称】森川 淳
(72)【発明者】
【氏名】貝沼 重信
(72)【発明者】
【氏名】塚本 成昭
(72)【発明者】
【氏名】井口 進
(72)【発明者】
【氏名】内田 大介
【審査官】柿原 巧弥
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-057284(JP,A)
【文献】特開2016-094633(JP,A)
【文献】特開2007-269323(JP,A)
【文献】特開2003-064613(JP,A)
【文献】特開2014-084690(JP,A)
【文献】特開2012-237037(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2002/0138925(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 11/02
E01D 19/06
C23F 13/02
C23F 13/06
C23F 13/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
橋梁の遊間に設けられた伸縮装置の腐食防止構造であって、
上記遊間の上端部に配置され、表面に路面が形成される金属製のフェイスプレートと、
上記フェイスプレートに導電線で電気的に接続されていると共に、上記フェイスプレートと非接触に配置され、かつ、上記フェイスプレートとの間に防食電流媒体が接触して滞留可能に配置された犠牲陽極と
を備え
、
上記フェイスプレートの下方に、集水又は止水のための樋が配置されており、
上記犠牲陽極が、上記樋の内側に配置され、
上記防食電流媒体が、土砂、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水のうちの少なくとも1つを含み、上記樋の内側に滞留することを特徴とする伸縮装置の腐食防止構造。
【請求項2】
請求項1に記載の伸縮装置の腐食防止構造において、
上記犠牲陽極が、上記フェイスプレートの下側であって、上記フェイスプレート上の路面を走行する車両の車輪の通過位置に配置されていることを特徴とする伸縮装置の腐食防止構造。
【請求項3】
請求項
1に記載の伸縮装置の腐食防止構造において、
上記樋の内側に止水部材が配置され、この止水部材の上に上記犠牲陽極が配置されており、
上記止水部材の上に上記防食電流媒体が滞留し、滞留した防食電流媒体が上記犠牲陽極を埋没させると共に上記フェイスプレートに接触するように形成されていることを特徴とする伸縮装置の腐食防止構造。
【請求項4】
請求項1に記載の伸縮装置の腐食防止構造において、
上記犠牲陽極が、亜鉛とアルミニウムを含む合金により形成されていることを特徴とする伸縮装置の腐食防止構造。
【請求項5】
請求項1に記載の伸縮装置の腐食防止構造において、
上記犠牲陽極の断面が、高さよりも幅が大きく形成されていることを特徴とする伸縮装置の腐食防止構造。
【請求項6】
請求項1に記載の伸縮装置の腐食防止構造において、
上記フェイスプレートは、橋軸方向に延びる櫛歯を有する櫛状のフィンガープレートであることを特徴とする伸縮装置の腐食防止構造。
【請求項7】
橋梁の遊間に設けられた伸縮装置の腐食防止方法であって、
上記遊間の上端部に配置され、表面に路面が形成される金属製のフェイスプレートと、上記フェイスプレートの下方に配置され、止水部材が内側に設けられた樋と、上記フェイスプレートに導電線で電気的に接続されていると共に、上記フェイスプレートと非接触に配置され、上記樋の止水部材の上に配置された犠牲陽極とを備える伸縮装置に、
上記止水部材とフェイスプレートとの間に、当初は犠牲陽極のみを配置して空洞のままとしておき、時間の経過に伴い、車両の通過や風による供給で、土砂、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水のうちの少なくとも1つを含む防食電流媒体を堆積させることを特徴とする伸縮装置の腐食防止方法。
【請求項8】
橋梁の遊間に設けられた伸縮装置の腐食防止方法であって、
上記遊間の上端部に配置され、表面に路面が形成される金属製のフェイスプレートと、上記フェイスプレートの下方に配置され、止水部材が内側に設けられた樋と、上記フェイスプレートに導電線で電気的に接続されていると共に、上記フェイスプレートと非接触に配置され、上記樋の止水部材の上に配置された犠牲陽極とを備える伸縮装置に、
上記止水部材とフェイスプレートとの間に、当初は柔軟な充填材を充填しておき、車両の通過や樋の変形等により充填材を消失させて空洞とし、その後に車両の通過や風による供給で、土砂、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水のうちの少なくとも1つを含む防食電流媒体を堆積させることを特徴とする伸縮装置の腐食防止方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、橋梁の継目に設置される伸縮装置の腐食防止構造に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、橋梁の床版と床版との間や床版と橋台との間等に形成された遊間に、温度変化やたわみ等に起因する床版の変位を吸収するため、伸縮装置が設置されている。伸縮装置は、遊間に対向する床版又は橋台の上端部に夫々固定され、表面が舗装の表面と連続して配置された鋼製のフェイスプレートを備える。フェイスプレートは、床版又は橋台に固定される板状の基部と、基部から遊間上に延在する複数の櫛部とを有し、対向して配置されたフェイスプレートの櫛部が交互に噛み合って、舗装の表面に連なる路面を形成している。
【0003】
このような伸縮装置では、鋼製のフェイスプレートが、雨水や凍結防止剤によって錆び易く、錆びで断面積の減少した部分が、路面を走行する車両の荷重を受けて破損する問題がある。このような問題を解決するため、従来、フェイスプレートの下面、かつ、遊間に臨むウェブプレートの端面に接するように、L字形の防食性薄金属板を配置した伸縮装置が提案されている(特許文献1参照)。この伸縮装置は、防食性薄金属板の下面と側面に接するように止水材が配置され、伸縮装置からの漏水を防止するように構成されている。この伸縮装置は、防食性薄金属板を、犠牲陽極作用を有する亜鉛、アルミニウム、マグネシウム又はそれらの合金で形成することにより、防食性薄金属板に接するウェブプレートの腐食を防止するようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記従来の伸縮装置は、フェイスプレートの下面とウェブプレートの端面に接するようにL字形の防食性薄金属板を配置しているので、このフェイスプレートと防食性薄金属板との間は、水が入り込み難く乾燥状態になり易い。また、フェイスプレートと防食性薄金属板は、通常の表面仕上げである場合、互いに点接触の状態で接触する。乾燥状態で点接触をするフェイスプレートと防食性薄金属板は、フェイスプレートと防食性薄金属板の電位差に基づく電流が点接触の部分に集中する一方、接触をしていない場所は乾燥状態であるので、防食性薄金属板に十分なアノード反応が生じ難い。したがって、防食性薄金属板は犠牲陽極作用を十分に発揮し難く、フェイスプレートの防食効果が不十分となる問題がある。防食性薄金属板による防食効果が不十分になると、フェイスプレートに局部腐食が発生するおそれがある。
【0006】
そこで、本発明の課題は、フェイスプレートの防食効果が十分に得られる伸縮装置の腐食防止構造を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するため、本発明の伸縮装置の腐食防止構造は、橋梁の遊間に設けられた伸縮装置の腐食防止構造であって、
上記遊間の上端部に配置され、表面に路面が形成される金属製のフェイスプレートと、
上記フェイスプレートに導電線で電気的に接続されていると共に、上記フェイスプレートと非接触に配置され、かつ、上記フェイスプレートとの間に防食電流媒体が接触して滞留可能に配置された犠牲陽極と
を備えることを特徴としている。
【0008】
上記構成の腐食防止構造は、橋梁の床版と床版との間や床版と橋台との間等に形成された遊間に設置された伸縮装置に関し、上記遊間の上端部に配置され、表面に路面が形成される金属製のフェイスプレートの腐食を防止するものである。この伸縮装置の腐食防止構造は、犠牲陽極が、フェイスプレートに導電線で電気的に接続されていると共に、上記フェイスプレートと非接触に配置されている。さらに、犠牲陽極とフェイスプレートとの間には、防食電流媒体が犠牲陽極とフェイスプレートとに接触して滞留可能に形成されている。これにより、フェイスプレートと犠牲陽極との間に導電線を介して電位差を形成し、防食電流媒体に防食電流を流し、犠牲陽極に効果的にアノード反応を発生させることができる。その結果、フェイスプレートの防食電流媒体に接触する部分の腐食を、効果的に防止できる。ここで、上記犠牲陽極は、フェイスプレートの金属よりもイオン化傾向が低い金属で形成されている。また、防食電流とは、防食電流媒体に接触するフェイスプレート又はフェイスプレートよりもイオン化傾向の高い他の金属にカソード反応が生じると共に、防食電流媒体に接触する犠牲陽極にアノード反応が生じることにより、防食電流媒体に見掛け上流れる電流をいう。防食電流媒体にフェイスプレートよりもイオン化傾向の高い金属を接触させた場合、この金属とフェイスプレートは、導電線で接続する必要がある。また、防食電流媒体としては、例えば、電解質が該当する。
【0009】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記犠牲陽極が、上記フェイスプレートの下側であって、上記フェイスプレート上の路面を走行する車両の車輪の通過位置に配置されている。
【0010】
上記実施形態によれば、犠牲陽極が、フェイスプレートの下側に、このフェイスプレート上の路面を走行する車両の車輪の通過位置に配置されているので、車両による荷重を受けて損傷が生じ易いフェイスプレートの部分の防食を、効果的に行うことができる。なお、上記犠牲陽極は、少なくとも上記車輪の通過位置に相当する長さを有していればよく、路面の全幅に相当する長さを有しなくてもよい。
【0011】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記フェイスプレートの下方に、集水又は止水のための樋が配置されている。
【0012】
上記実施形態によれば、フェイスプレートの下方に配置された樋により、路面からの水を集めて集水し、又は、路面からの遊間への水の落下を防止する止水を行う伸縮装置において、フェイスプレートの腐食を効果的に防止できる。このような樋が設けられた伸縮装置では、樋の内側や上に水が溜まりやすく、フェイスプレートが腐食しやすい環境となるにもかかわらず、本発明の犠牲陽極によって効果的にフェイスプレートの腐食を防止できる。
【0013】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記犠牲陽極が、上記樋の内側に配置され、
上記防食電流媒体が、土砂、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水のうちの少なくとも1つを含み、上記樋の内側に滞留する。
【0014】
上記実施形態によれば、犠牲陽極が樋の内側に配置され、この樋の内側には、路面を走行する車両や風等で運ばれた土砂、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水等が滞留する。これらの土砂、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水のうちの少なくとも1つが、防食電流媒体として機能することにより、この防食電流媒体に防食電流を流し、犠牲陽極のアノード反応を促進することができる。その結果、フェイスプレートの防食を効果的に行うことができる。
【0015】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記樋の内側に止水部材が配置され、この止水部材の上に上記犠牲陽極が配置されており、
上記止水部材の上に上記防食電流媒体が滞留し、滞留した防食電流媒体が上記犠牲陽極を埋没させると共に上記フェイスプレートに接触するように形成されている。
【0016】
上記実施形態によれば、樋の内側に配置された止水部材の上に犠牲陽極が配置され、この止水部材の上に防食電流媒体が滞留する。滞留した防食電流媒体が、犠牲陽極を埋没させると共にフェイスプレートに接触する。したがって、防食電流媒体に効果的に防食電流を流し、フェイスプレートの防食を効果的に行うことができる。
【0017】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記フェイスプレートが鋼で形成され、上記犠牲陽極が亜鉛とアルミニウムを含む合金により形成されている。
【0018】
上記実施形態によれば、亜鉛とアルミニウムを含む合金で形成された犠牲陽極は、フェイスプレートを形成する鋼よりもイオン化傾向が低いので、フェイスプレートの防食を効果的に行うことができる。
【0019】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記犠牲陽極の断面が、高さよりも幅が大きく形成されている。
【0020】
上記実施形態によれば、犠牲陽極の断面が、高さよりも幅が大きく形成されているので、犠牲陽極に接触する防食電流媒体の量が少なくても、犠牲陽極と防食電流媒体との接触面積を大きくできる。したがって、犠牲陽極を流れる防食電流を効果的に確保でき、フェイスプレートの防食を効果的に行うことができる。
【0021】
一実施形態の伸縮装置の腐食防止構造は、上記フェイスプレートは、橋軸方向に延びる櫛歯を有する櫛状のフィンガープレートである。
【0022】
上記実施形態によれば、橋軸方向に延びる櫛歯を有する櫛状のフィンガープレートの腐食を、犠牲陽極により効果的に防止できる。これにより、フィンガープレートの腐食によって櫛歯の根本部分の断面積が減少し、その状態で車両の荷重を受けて櫛歯の根本部分が破断する不都合を、効果的に防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明の実施形態の腐食防止構造を有する伸縮装置を示す断面図である。
【
図2】実施形態の腐食防止構造を有する伸縮装置を示す平面図である。
【
図3】実施形態の腐食防止構造を有する伸縮装置の一車線に相当する部分を示す平面図である。
【
図4】他の実施形態の腐食防止構造を有する伸縮装置を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明を図示の実施の形態により詳細に説明する。
【0025】
図1は、本発明の実施形態の腐食防止構造を有する伸縮装置の断面図であり、
図2は、実施形態の腐食防止構造を有する伸縮装置の断面図である。この伸縮装置1は、橋梁の床版2と床版2の間に形成された遊間Gの上端部に配置され、表面に車両が走行する路面が形成されて、床版2,2の変位を吸収しながら路面を通行可能に維持するものである。
【0026】
この伸縮装置1は、遊間Gを隔てて対向する2つの床版2の端部にボルト12で固定された2つのフェイスプレート3,3を備える。このフェイスプレート3,3は、床版2の端部に接する板状の基部3aと、この基部3aから橋軸方向に延び、床版2の縁端から遊間G上に突出するように延在する複数の櫛部3b,3b,・・・を有するフィンガープレートである。フェイスプレート3の表面は、床版2の上に設けられた舗装13の表面に連続して配置され、舗装13の表面に連なる路面を形成している。各床版2,2に固定されたフェイスプレート3,3は、互いの櫛部3b,3b,・・・が橋軸方向に隙間をおいて歯合されており、これにより、表面の路面を通行可能に維持しながら、軸方向に互いに移動可能に形成されている。
【0027】
床版2は、鋼製の部材で形成された鋼床版であり、板状のデッキプレート11と、デッキプレート11の下側面に設けられて橋軸方向に延在する縦リブ17を有する。床版2の橋軸方向の端部には、デッキプレート11の下側面に、橋軸直角方向に延在する端横桁18が設けられている。床版2は、デッキプレート11の下側面に設けられて橋軸方向に延在する主桁19によって支持されている。この床版2の端部に、デッキプレート11の上側面に配置されたフィラープレート10を介して、伸縮装置1のフェイスプレート3が固定されている。床版2のデッキプレート11の上側面には、基層14と表層15で形成された舗装13が敷設され、この舗装13の表面に路面が形成されている。
【0028】
2つの床版2,2の間の遊間Gには、フェイスプレート3の下側に、路面からの水が遊間の下方に落下することを防止するための樋6が配置されている。この樋6は、オーステナイト系ステンレス鋼であるSUS304で形成され、U字状断面を有して遊間Gに配置される樋本体6aと、この樋本体6aの両側の上端縁から水平方向の外側に延びる板状の取付部6b,6bを含んで形成されている。この樋の取付部6b,6bが、2つの床版2,2の端部に夫々固定されている。この樋の取付部6bは、床版2のフィラープレート10とフェイスプレート3との間に挟持され、フェイスプレート3と共に、ボルト12によってデッキプレート11に固定されている。
【0029】
上記遊間Gに配置された樋の樋本体6aの内側には、止水部材としてのバックアップ部材7が配置され、このバックアップ部材7の上に犠牲陽極4が配置されている。バックアップ部材7は、高弾性ウレタンフォームで形成されている。このバックアップ部材7の上には、犠牲陽極4を覆うと共にフェイスプレート3の少なくとも下側面に接するように、土砂8が堆積している。この土砂8は、フェイスプレート3の表面を走行する車両の車輪に付着した土砂や、地上から飛来した土砂が堆積したものである。土砂8は、降雨等による水を含み、湿潤状態が維持される。この土砂8には、路面に散布された凍結防止剤や融雪剤、或いは、海から飛来した海水等の電解質が含まれる。これらの土砂8、水、凍結防止剤、融雪剤及び海水の少なくとも1つが防食電流媒体として機能する。なお、土砂8は、車両の車輪に付着して持ち込まれたものや、地上から飛来したもののほか、伸縮装置1を設置する当初から配置したものでもよい。土砂8を当初から配置する場合、水を保持して湿潤状態を継続できる粒度分布に設定するのが好ましい。また、バックアップ部材7とフェイスプレート3との間は、当初は犠牲陽極4のみを配置して空洞のままとしておき、時間の経過に伴い、車両の通過や風による供給で土砂を堆積させてもよい。或いは、バックアップ部材7とフェイスプレート3との間に、当初は柔軟な充填材を充填しておき、車両の通過や、床版2の変位に伴う樋本体6aの変形等により、充填材が消失して空洞ととなり、その後に車両の通過や風による供給で土砂8を堆積させてもよい。また、樋6は、路面からの水の落下を防止するもののほか、内側に水を流す機能を確保して、路面からの水を集める集水の機能を有するものであってもよい。この場合、樋の内側に、集水の機能を確保しつつ土砂が溜ってフェイスプレート3と犠牲陽極4に接触するように形成する。樋は、路面からの水について集水又は止水を行う部材であれば広く該当し、形状及び材料は特に限定されず、また、部材の名称は樋に限定されない。
【0030】
犠牲陽極4は、Al-1Zn合金によって形成されている。この犠牲陽極は、円形断面を有すると共に、路面を走行する車両の車輪の通過範囲に対応する位置に配置されている。詳しくは、
図3に示すような舗装13の表面に設定された車線において、この車線を走行する車両の車輪が通過する頻度の高い範囲である車輪通過範囲T1,T2の下側に、これらの車輪通過範囲T1,T2の幅よりも多少長い長さに設定された犠牲陽極4が配置されている。すなわち、1つの車線の1つのフェイスプレート3に対して犠牲陽極4が2個ずつ配置されており、対向する2つのフェイスプレート3に夫々接続された犠牲陽極4は、橋軸方向に所定間隔をおいて配置されている。犠牲陽極4は、被覆された銅線で形成された導電線5によって、フェイスプレート3に電気的に接続されている。フェイスプレート3は、ステンレス鋼で形成された樋6とボルト12で密着され、電気的に接続されている。これにより、樋6と、フェイスプレート3と、犠牲陽極4は、この順に電気的に接続されている。これらの樋6と、フェイスプレート3と、犠牲陽極4は、いずれも樋6内の土砂8に接触している。
【0031】
上記構成の腐食防止構造を有する伸縮装置1は、樋6とフェイスプレート3と犠牲陽極4が、この順で電気的に接続されると共に、電解質を含んだ湿潤状態の土砂8に接触することにより、3極の電池が形成される。ステンレス鋼で形成された樋6は、鋼で形成されたフェイスプレート3よりもイオン化傾向が高く、鋼で形成されたフェイスプレート3は、Al-1Zn合金で形成された犠牲陽極4よりもイオン化傾向が高い。これにより、樋6とフェイスプレート3と犠牲陽極4の順に電気的に接続されると、樋6とフェイスプレート3と犠牲陽極4の間に、この順に低くなる電位差が形成される。これにより、犠牲陽極4にアノード反応が生じると共に、樋6にカソード反応が生じ、土砂8の犠牲陽極4と樋6との間に腐食電流が流れる。その結果、フェイスプレート3の腐食を防止することができる。
【0032】
このように、ステンレス鋼で形成された樋6に接触して配置された鋼製のフェイスプレート3は、鋼がステンレス鋼よりもイオン化傾向が低いので、異種金属接触腐食が生じ、フェイスプレート3の下側面のうち、樋6との間に形成された隙間部分や、電解質を含む土砂8に接触する部分に特に腐食が進行していた。このような問題に対し、本発明の実施形態によれば、樋6及びフェイスプレート3よりもイオン化傾向の低い犠牲陽極4を、防食電流媒体を含む土砂8に配置すると共に、この土砂8に樋6及びフェイスプレート3を接触させたので、フェイスプレート3の防食を効果的に行うことができる。
【0033】
上記実施形態において、円形断面を有する犠牲電極4を用いたが、他の形状の断面を有する犠牲陽極を用いてもよい。例えば、
図4に記載されるように、三角形断面を有する犠牲陽極41や、横長の楕円形断面を有する犠牲陽極42を用いることができる。これらの犠牲陽極41,42は、いずれも、高さよりも幅が大きい断面を有することにより、土砂8に含まれる水が少なくても、犠牲陽極41,42の表面に十分に水を接触させて防食電流を流すことができる。その結果、犠牲陽極41,42のアノード反応を十分に促進できて、フェイスプレート3の防食を効果的に行うことができる。
【0034】
また、上記実施形態において、伸縮装置1は、ステンレス鋼で形成された樋6を備えたが、樋6は、樹脂やゴム等のステンレス鋼以外の材料で形成されてもよい。例えば、樋6が樹脂で形成された場合、鋼で形成されたフェイスプレート3にカソード反応が生じると共に、Al-1Zn合金で形成された犠牲陽極4にアノード反応が生じることにより、フェイスプレート3の防食を行うことができる。
【0035】
また、フェイスプレート3を鋼で形成し、犠牲陽極4をAl-1Zn合金で形成したが、犠牲陽極4を形成する金属がフェイスプレート3を形成する金属よりもイオン化傾向が低いのであれば、犠牲陽極4及びフェイスプレート3は他の金属で形成してもよい。
【0036】
また、本発明の伸縮装置の腐食防止構造は、新設の伸縮装置1に当初から設置してもよく、或いは、既設の伸縮装置1に後付けしてもよい。
【0037】
また、上記実施形態は、床版2と床版2の間に形成された遊間Gに設置された伸縮装置1について説明したが、床版2と橋台の間に形成された遊間に設置された伸縮装置にも、本発明は適用できる。
【符号の説明】
【0038】
1 伸縮装置
2 床版
3 フェイスプレート
3a フェイスプレートの基部
3b フェイスプレートの櫛部
4 犠牲陽極
5 導電線
6 樋
6a 樋本体
6b 樋の取付部
7 バックアップ部材
8 土砂
10 フィラープレート
11 デッキプレート
12 ボルト
13 舗装
14 基層
15 表層
17 縦リブ
18 端横桁
19 主桁
G 遊間
T1,T2 車輪通過範囲