IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日本無線株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図1
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図2
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図3
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図4
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図5
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図6
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図7
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図8
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図9
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図10
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図11
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図12
  • 特許-スペクトル拡散信号受信装置 図13
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】スペクトル拡散信号受信装置
(51)【国際特許分類】
   G01S 19/30 20100101AFI20220411BHJP
   G01S 19/37 20100101ALI20220411BHJP
   H04B 1/7093 20110101ALI20220411BHJP
   H04B 1/709 20110101ALI20220411BHJP
【FI】
G01S19/30
G01S19/37
H04B1/7093
H04B1/709
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2018065543
(22)【出願日】2018-03-29
(65)【公開番号】P2019174394
(43)【公開日】2019-10-10
【審査請求日】2021-03-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000004330
【氏名又は名称】日本無線株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100126561
【弁理士】
【氏名又は名称】原嶋 成時郎
(72)【発明者】
【氏名】池永 佳史
(72)【発明者】
【氏名】山根 卓
【審査官】東 治企
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-216871(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0174792(US,A1)
【文献】国際公開第2014/017338(WO,A1)
【文献】特開2006-258436(JP,A)
【文献】特開2008-209287(JP,A)
【文献】特開2005-265476(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01S 19/00-19/55
H04B 1/69-1/719
H04J 3/00-3/26
H04L 5/00-5/26
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のコードと、前記第1のコードよりもコード長が長い第2のコードとが時分割多重化されたスペクトル拡散信号のコード位相をサーチするために、受信した前記スペクトル拡散信号と、前記スペクトル拡散信号のレプリカコードとの相関処理を行う相関処理を備えたスペクトル拡散信号受信装置であって、
前記相関処理部は、前記スペクトル拡散信号の前記第1のコードの区間では、レプリカコードに前記第1のコードに対応する第1のレプリカコードを使用し、前記第2のコードの区間では、区間初期の一部区間でレプリカコードに前記第1のレプリカコードを継続使用し、残りの区間では相関処理を行わない、
ことを特徴とするスペクトル拡散信号受信装置。
【請求項2】
前記第2のコードの区間で前記第1のレプリカコードが継続使用される区間は、前記相関処理のサンプリング間隔未満である、
ことを特徴とする請求項1に記載のスペクトル拡散信号受信装置。
【請求項3】
前記第2のコードの区間で前記第1のレプリカコードが継続使用される区間は、前記相関処理のサンプリングのタイミングと、チップ境界との最大ずれ量以上である、
ことを特徴とする請求項1または2に記載のスペクトル拡散信号受信装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、時分割多重されたスペクトル拡散信号の受信装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
全球測位衛星システム(Global Navigation Satellite System:GNSS)は、測位衛星から送信された衛星信号をスペクトル拡散信号受信装置によって受信し、受信した衛星信号に基づいて現在位置を測定するシステムであり、例えば、米国のGPS(Global Positioning System)などが従来から利用されている。
【0003】
GPSの衛星信号には、一般にスペクトル拡散信号が用いられており、L1と呼ばれる周波数(1575.42MHz)を民生用のC/Aコードで変調したL1C/A信号と、L2と呼ばれる周波数(1227.60MHz)を軍事用のP(Y)コードで変調したL2信号と、L2周波数を民生用のL2Cコードで変調したL2C信号等が送信されている。L2C信号は、GPSだけでなく、日本の衛星航法システムであるQZSS(Quasi-Zenith Satellite System)でも採用されている。
【0004】
L2Cコードは、P(Y)コードと直交した2相位相偏移変調(BPSK:Bi-Phase Shift Keying)である(例えば、特許文献1参照)。図6に示すように、L2Cコードは、L2CMコードとL2CLコードという2種類の擬似雑音コード(PNコード)を時分割多重化して構成された1023kbpsの信号である。このうち、L2CMコードの部分には、航法データ(測位衛星の軌道情報や時刻情報など)がBPSKによって乗ぜられている。L2CMコードのビットレートは511.5kbps、コード長は10230チップなので、繰り返し周期は20msである。これに対し、L2CLコードのビットレートは511.5kbps、コード長は767250なので、繰り返し周期は1.5秒である。
【0005】
上述したQZSSでは、L1C/A信号、L2C信号の他、L6信号も送信する。L6信号は、センチメータ級の測位補強サービスを提供するための衛星信号であり、L2C信号と同様に時分割多重信号となっている。また、L6信号の信号構造には、QZSSの衛星の1号機で採用された「Block I」と、2号機以降で採用された「Block II」がある(例えば、特許文献2参照)。
【0006】
図7に示すように、「Block I」のL6信号は、リードソロモン符号化(Reed-Solomon Coding)された航法メッセージ(Nav Message)によりCSK変調されたPRNショートコードと、周期820msの0から始まる矩形波(Squarewave)(010101・・・)で変調されたPRNロングコードとが、チップ毎に時分割多重化された、チッピングレートが5.115Mcpsの信号である。ショートコードのチッピングレートは、2.5575Mcps、コード長は10230チップなので、繰り返し周期は4msである。これに対し、ロングコードのチッピングレートは2.5575Mcps、コード長は1048575なので、繰り返し周期は410msである。なお、図面では、ショートコードを「short code」、ロングコードを「Long code」と記載する場合もあるが、以下では「ショートコード」、「ロングコード」と記載する。
【0007】
CSK変調は、図8に示すように、航法メッセージデータを8ビット毎に切り出し、切り出した8ビットのシンボル値に対応する分だけ、PRNコードのコード位相をシフトさせるものである。なお以下の説明で、CSK変調コードにおける「1周期コード」とは、シンボル値「N」の分だけコードチップパターンを巡回シフトさせた後の1周期分のコードを指す。
【0008】
図9は、「Block I」のL6信号におけるショートコードとロングコードとに関わるタイミング関係を示す。この図の最下段に示すように、「Block I」のL6信号では、ショートコード「S」とロングコード「L」とが時分割多重化されて送信される。
【0009】
これに対し、「Block II」のL6信号は、図10に示すように、リードソロモン符号化された航法メッセージによりCSK変調されたPRNショートコード(以下、コード1という)と、同じくリードソロモン符号化された航法メッセージによりCSK変調されたPRNショートコード(以下、コード2という)とが、チップ毎に時分割多重化されたチッピングレートが5.115Mcpsの信号である。コード1とコード2のチッピングレートはともに2.5575Mcps、コード長は10230チップなので、繰り返し周期はともに4msである。詳しくは図示しないが、この「Block II」のL6信号では、コード1とコード2のショートコードが時分割して交互に送信される。
【0010】
一般的に衛星信号の受信開始時には、キャリア(搬送波)周波数とコード位相とのサーチが必要である。キャリア周波数サーチでは主に衛星のドップラー周波数と受信機のクロック誤差によるキャリア周波数の変化を求めるが、従来通りのL1C/A信号を事前に受信することにより当該衛星のドップラー周波数と受信機のクロック誤差は既知となるため、同一衛星から送信されるL2C信号やL6信号のキャリア周波数サーチはL1C/A信号のキャリア周波数サーチと比較して大幅に省略が可能である。
【0011】
一方、L1C/A信号のコード位相をサーチする際には、拡散コードであるC/Aコード周期が1ms、コード長が1023chipであるため、1ms毎にレプリカコードを総当たりで相関演算して全域サーチを行う。
【0012】
これに対し、L2C信号は、L2CMコードのビットレートが511.5kbps、コード長が10230チップなので、繰り返し周期は20msである。また、L2CLコードのビットレートは511.5kbps、コード長は767250なので、繰り返し周期は1.5秒である。すなわち、L1C/A信号のC/Aコードと比較すると、L2CMコードのコード長は10倍となり、L2CLコードのコード長は750倍となるので、従来方式の全域サーチでコード位相をサーチすると、L2CLコードの繰り返し周期が長いので、サーチに時間がかかってしまう。
【0013】
同様に、L6信号の拡散コードであるショートコードは、チッピングレートが2.5575Mcps、コード長は10230チップなので、繰り返し周期は4msである。さらに、CSK変調により、4ms区間で送信する航法データにより、4ms区間の先頭コードがシフトされる。4ms間に送信するデータビットは8bitなので、先頭コードのシフトパターンは2=256通りである。すなわち、L1C/A信号のC/Aコードと比較すると、コード長が10倍であり、更にCSK変調による256通りのシフトを探索する必要がある。また、「Block I」のL6信号のロングコードは、コード長が1048575なので、C/Aコードと比較するとコード長が1025倍となる。したがって、従来方式の全域サーチでL6信号のコード位相をサーチすると、回路規模が肥大化し、サーチに時間がかかってしまう。
【0014】
L2C信号及びL6信号のサーチ時間を短縮するため、L1C/A信号を利用する方法がある。L1C/A信号を受信することにより、L2C信号及びL6信号のコード位相を推定することが可能である。これにより、全域サーチせず、サーチ範囲を限定し、サーチ時間を短縮することが可能となる。
【0015】
更に、L6信号のコード位相においては、サーチにかかる時間を短縮するために、L6信号の先頭に配置されるHeaderを利用することが考えられる。L6信号は、1秒(2000bit)が航法メッセージの単位となっており、この航法メッセージには、先頭からHeader、Data Part、Reed-Solomon Codeがある。このうち、Headerには、Preambleと、PRNとが含まれている。PreambleとPRNは固定パターンであるため、先に述べた航法データのCSK変調による256通りのシフトが既知となる。さらに、L6信号は、同じ衛星から送信されるL1C/A信号とタイミングが同期しているため、L1C/A信号を先に受信することにより、コード位相のサーチ範囲を限定することが可能となり、少ない回路規模で実現できる。
【0016】
また、L2CLコードやL6信号のロングコードはコード周期が非常に長く推定に時間がかかるため、L2CMコードやL6信号のショートコードのみを使用してコード位相をサーチすることが可能である。その際、時分割多重の後半部分であるL2CLコード部の処理の方法として従来技術1、従来技術2が知られている。
【0017】
図11に示すように、従来技術1では、L2C信号のL2CLコードと相関演算するレプリカコードに、コード長が長いL2CLコードを使用せず、代わりにコード長が短いL2CMコードを利用して処理時間を短縮している。また、従来技術2では、L2CLコードの区間は相関演算を行わない(図中ハッチング部分)ことで処理時間を短縮している。
【0018】
図12は、従来技術1でL2C信号の相関処理を行った場合の自己相関波形を示すグラフである。また、図13は、従来技術2でL2C信号の相関処理を行った場合の自己相関波形を示すグラフである。これらのグラフでは、相関処理のサンプリング間隔を0.25chipとし、相関値の期待値(Max=2046)を1に正規化し、サンプリングのタイミングとチップ境界とが一致している場合と、0.125chipのずれが生じた場合とを図示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【文献】特開2006-084330号公報
【文献】特開2014-216871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
しかしながら、従来技術1では、自己相関波形が台形になるので、そのままではピークを検出することができず、真のピーク位置を絞り込むための処理が必要となる。なお、相関値が1を超えているのは、L2CMとL2CLの相互相関によるものである。また、従来技術2では、相関処理のサンプリングのタイミングと、L2C信号のチップ境界(L2CMコードとL2CLコードとの境目)とがずれた場合には、自己相関波形が劣化して相関値が小さくなり、サーチ感度が劣化する。このような傾向は、L6信号でも同様である。
【0021】
本発明は、上記課題を解決するために、L2C信号やL6信号などの時分割多重化されたスペクトル拡散信号のコード位相を短時間で適切にサーチすることが可能なスペクトル拡散信号受信装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0022】
上記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、第1のコードと、前記第1のコードよりもコード長が長い第2のコードとが時分割多重化されたスペクトル拡散信号のコード位相をサーチするために、受信した前記スペクトル拡散信号と、前記スペクトル拡散信号のレプリカコードとの相関処理を行う相関処理を備えたスペクトル拡散信号受信装置であって、前記相関処理部は、前記スペクトル拡散信号の前記第1のコードの区間では、レプリカコードに前記第1のコードに対応する第1のレプリカコードを使用し、前記第2のコードの区間では、区間初期の一部区間でレプリカコードに前記第1のレプリカコードを継続使用し、残りの区間では相関処理を行わない、ことを特徴とする。
【0023】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載のスペクトル拡散信号受信装置であって、前記第2のコードの区間で前記第1のレプリカコードが継続使用される区間は、前記相関処理のサンプリング間隔未満である、ことを特徴とする。
【0024】
請求項3に記載の発明は、請求項1または2に記載のスペクトル拡散信号受信装置であって、前記第2のコードの区間で前記第1のレプリカコードが継続使用される区間は、前記相関処理のサンプリングのタイミングと、チップ境界との最大ずれ量以上である、ことを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
請求項1に記載の発明によれば、第1のコードよりもコード長が長い第2のコードの区間で相関処理を行う際に、第2のコードに対応した第2のレプリカコードを使用せずに、第1のコードに対応した第1のレプリカコードを継続使用し、残りの区間では相関処理を行わないようにしたので、コード位相のサーチにかかる処理時間を短縮することが可能である。
【0026】
また、請求項2に記載の発明によれば、第2のコードの区間で第1のレプリカコードが継続使用される区間を、相関処理のサンプリング間隔未満としたので、相関処理により得られる相関値が一定な部分(自己相関波形のピークの平らな部分)がなくなり、ピーク判定が可能となる。これにより、ピーク位置の検出が迅速に行われるようになるので、コード位相のサーチにかかる処理時間を短縮することが可能である。
【0027】
さらに、請求項3に記載の発明によれば、第2のコードの区間で第1のレプリカコードが継続使用される区間を、相関処理のサンプリングのタイミングと、チップ境界との最大ずれ量以上としたので、サンプリングタイミングとチップ境界とにずれが生じた際の相関値の劣化を抑えることができ、相関値の劣化によってコード位相のサーチにかかる処理時間が長くなるのを防ぐことが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】この発明の実施の形態に係るスペクトル拡散されたGNSS信号受信装置を示すブロック図である。
図2図1のサーチ部の構成を示すブロック図である。
図3図2のコード相関器で行われる相関処理を示すタイミングチャートである。
図4図2のタイミングチャートにしたがって相関処理を行った際の自己相関波形を示し、サンプリングタイミングとチップ境界とが一致している場合を示すグラフである。
図5図2のタイミングチャートにしたがって相関処理を行った際の自己相関波形を示し、サンプリングタイミングとチップ境界とがずれた場合を示すグラフである。
図6】L2C信号の信号構造を示すチャートである。
図7】Block IのL6信号の信号構造を示す説明図である。
図8】L6信号のCSK変調を示す説明図である。
図9】Block IのL6信号の多重化構造を示すチャートである。
図10】BlockIIのL6信号の信号構造を示す説明図である。
図11】従来のL2C信号の相関処理を示すタイミングチャートである。
図12】従来技術1でL2C信号の相関処理を行った際の自己相関波形を示すグラフである。
図13】従来技術2でL2C信号の相関処理を行った際の自己相関波形を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、この発明を図示の実施の形態に基づいて説明する。
【0030】
図1図10は、この実施の形態を示し、図1は、この実施の形態に係るGNSS信号受信装置(スペクトル拡散信号受信装置)1の一部を示すブロック図である。GNSS信号受信装置1は、アンテナ2と、周波数変換部3と、A/D変換部4と、信号処理部5と、制御部6とを備える。また、信号処理部5は、サーチ部7と、追尾部8とを備える。
【0031】
アンテナ2は、複数の衛星からのスペクトル拡散信号を受信する。周波数変換部3は、キャリア周波数で変調されたスペクトル拡散信号(以下、受信信号という)を中間周波数(IF)に周波数変換する。A/D変換部4は、周波数変換された受信信号をアナログ信号からデジタル信号に変換する。これにより、受信信号から搬送波を除去し、搬送波が除去された受信信号をベースバンド信号として信号処理部5に出力する。
【0032】
信号処理部5は、制御部6からの制御内容に従い、受信信号の信号処理を行う。この信号処理部5は、一般にハードウェアで実装されることが多く、主に、サーチ部7と追尾部8とにより構成される。
【0033】
サーチ部7は、制御部6から指定された衛星番号についてサーチ処理を行い、その衛星が受信可能か否か、およびピーク相関値が得られる周波数と拡散コード位相を決定し、結果を制御部6に通知する。
【0034】
追尾部8は、詳しくは図示しないが複数の追尾チャネルを備えており、制御部6から指定された衛星番号、周波数、拡散コード位相に従い、受信信号の相関処理を行う。追尾部8は、相関処理の結果得られた相関値を制御部6に通知する。なお、1つの追尾チャネルは、1つの衛星からの受信信号に対する相関処理を行う。測位を行うためには、最低4つの衛星からの受信結果が必要なので、一般に、4ch以上の追尾チャネルが実装される。
【0035】
制御部6は、一般にソフトウェアで実行される。信号処理部5ではハードウェア処理を制御し、そのハードウェア処理結果を取得し、それに基づき次のサーチ部7の制御及び追尾部8の制御を行う。このように、制御部6と信号処理部5でのハードウェアは処理のループが組まれている。
【0036】
制御部6は、サーチ部7へ衛星番号を指定してサーチを実行させ、その結果の情報を取得する。そして、サーチの結果得られた情報、すなわち受信可能な衛星番号、周波数、拡散コード位相を追尾部8に設定し、処理を指示する。また、制御部6は、各追尾チャネルから取得した相関値に基づき最適な受信周波数等を算出し、周期的に当該追尾チャネルに再設定する。
【0037】
サーチ部7の具体的な構成例を図2に示す。サーチ部7は、キャリア相関器71と、キャリアNCO72と、コード相関器73と、コード発生器74と、積分器75と、電力化部76と、バッファ・ソート部77とを備える。
【0038】
キャリア相関器71は、入力された受信信号と、キャリアNCO72からの周波数とをミキシングしてコード相関器73に供給する。コード相関器73では、キャリア相関器71からの信号とコード発生器74からのコード系列との相関が取られる。コード発生器74からのコード系列のコード番号とコード位相は、制御部6からの制御によりスキャンされる。
【0039】
キャリア相関とコード相関が取られた信号は、積分器75で所定時間毎に積分され、更に電力化部76でI信号とQ信号とから電力を求めて(I+Q)、バッファ・ソート部77へ供給する。バッファ・ソート部77では、コード位相毎の相関電力をソートし、最大相関電力とそのコード位相を探して、制御部6へ供給する。制御部6からは、キャリアNCO72へ周波数を設定し、また、コード発生器74へコード番号とコード位相を設定する。
【0040】
サーチ処理では、周波数とコード位相を決定する。このために制御部6では、既に受信している衛星信号から取得したアルマナック(概略の衛星軌道情報)を基に、サーチ対象衛星のドップラー周波数を予測する。その予測周波数周辺のいくつかの周波数でコード位相のサーチを行い、最大相関値が得られる周波数を決定する。この処理を周波数スキャンと呼ぶ。
【0041】
サーチ部7では、制御部6から指定された周波数とコード番号について、キャリア相関器71とコード相関器73でキャリア周波数とコード系列の相関演算を行う。コード系列のコード位相をずらしながら相関演算を行い、サーチ対象コード位相に対する相関電力をそれぞれ算出する。サーチ対象コード位相に対する相関電力が得られたら相関電力でソートを行い、最大相関電力が得られるコード位相とその相関電力を決定し、制御部6へ出力する。この処理をコード位相スキャンと呼ぶ。すなわち、周波数スキャンとコード位相スキャンにより、最大相関値が得られる周波数とコード位相が決定する。
【0042】
図3は、上述したコード相関器73におけるL2C信号の相関処理を示すタイミングチャートである。L2C信号は、L2CMコード(第1のコード)とL2CLコード(第2のコード)とが時分割多重化して送信され、1chipの前半の0.5chipでL2CMコードが送信され、後半の0.5chipでL2CLコードが送信される。コード相関器73は、予め設定されたサンプリング間隔で、キャリア相関器71から出力された受信信号と、コード発生器74で生成されたレプリカコードとを乗算して積算することにより相関信号を生成する。
【0043】
本実施の形態のコード相関器73では、コード位相のサーチにかかる時間を短縮するとともに、上述した従来技術1における課題(相関値が一定な部分(自己相関波形のピークの平らな部分)が生じる)と、従来技術2における課題(相関値の劣化)とを解消するために、L2C信号のL2CMコードの区間では、レプリカコードにL2CMコード(第1のレプリカコード)を使用し、L2CLコードの区間では、レプリカコードにL2CLコード(第2のレプリカコード)を使用せず、区間初期の一部区間でレプリカコードにL2CMコードを継続使用し、残りの区間では相関処理を行わない、という処理を行う。
【0044】
例えば、相関処理のサンプリング間隔を0.25chipとし、かつ、サンプリングタイミングとL2C信号のチップ境界が一致した場合、L2CLコードの区間で、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.0625chip、0.125chip、0.1875chip、0.25chipとして相関処理を行った結果を図4のグラフに示す。
【0045】
このグラフから分かるように、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.0625chip~0.1875chipとした場合には、自己相関波形が三角形に近い形状となる。これに対し、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.25chipにした場合には、自己相関波形が台形となる。
【0046】
この結果から明らかなように、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間をサンプリング間隔未満にした場合には、自己相関波形が三角形に近い形状となる。すなわち、相関値が一定な部分(自己相関波形のピークの平らな部分)がなくなるので、ピーク位置の絞込み処理が不要となる。これに対し、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間をサンプリング間隔以上にすると、自己相関波形が台形になる、すなわち、相関値が一定な部分が生じるので、ピーク位置の絞込み処理が必要となる。
【0047】
また、図5のグラフは、相関処理のサンプリング間隔が0.25chipで、相関処理のサンプリングのタイミングと、L2C信号のチップ境界とが0.125chipずれている場合に、L2CLコードの区間で、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.0625chip、0.125chip、0.1875chip、0.25chipとして相関処理を行った結果を示す。なお、相関処理のサンプリングタイミングとチップ境界との最大ずれ量は、サンプリング間隔の1/2である。すなわち図5は、相関処理のサンプリングタイミングとチップ境界とのずれ量が最大の場合のグラフである。
【0048】
このグラフから分かるように、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.125chip~0.25chipとした場合には、ピーク位置の相関値は劣化しない。これに対し、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.0625chipにした場合には、相関値のレベルが劣化する。
【0049】
この結果から明らかなように、レプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間が、サンプリングのタイミングとチップ境界との最大ずれ量未満になると、相関値の劣化が生じることが分かる。
【0050】
以上の結果から、コード位相のサーチにかかる時間を短縮するとともに、上述した従来技術1における課題(自己相関波形が台形)を解消する場合には、L2CLコードの区間でレプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間をサンプリング間隔未満にすればよい。
【0051】
また、コード位相のサーチにかかる時間を短縮するとともに、従来技術2における課題(相関値の劣化)を解消する場合には、L2CLコードの区間でレプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を、サンプリングのタイミングとチップ境界との最大ずれ量以上にすればよい。
【0052】
そして、コード位相のサーチにかかる時間を短縮するとともに、従来技術1、2における課題をともに解消する場合には、L2CLコードの区間でレプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間をサンプリング間隔未満とし、かつ、サンプリングのタイミングとチップ境界との最大ずれ量以上とするのが好ましい。上述した図4、5のグラフで示す例で言えば、L2CLコードの区間でレプリカコードにL2CMコードを継続使用する区間を0.25chip未満とし、かつ、0.125chip以上とすれば、コード位相のサーチにかかる時間を短縮するとともに、従来技術1、2における課題をともに解消することができる。
【0053】
以上で説明したように、この実施の形態のGNSS信号受信装置1によれば、L2CMコードよりもコード長が長いL2CLコードの区間で相関処理を行う際に、L2CLコードに対応したレプリカコードを使用せずに、L2CMコードに対応したレプリカコードを継続使用し、残りの区間では相関処理を行わないようにしたので、コード位相のサーチにかかる処理時間を短縮することが可能である。
【0054】
また、L2CLコードの区間でレプリカコードが継続使用される区間を、相関処理のサンプリング間隔未満としたので、相関処理により得られる自己相関波形が台形ではなく三角形に近い形状となる。これにより、ピーク位置の検出が迅速に行われるようになるので、コード位相のサーチにかかる処理時間を短縮することが可能である。
【0055】
さらに、L2CLコードの区間でレプリカコードが継続使用される区間を、相関処理のサンプリングのタイミングと、L2CMコードとL2CLコードとのチップ境界との最大ずれ量以上としたので、サンプリングタイミングとチップ境界とにずれが生じた際の相関値の劣化を抑えることができ、相関値の劣化によってコード位相のサーチにかかる処理時間が長くなるのを防ぐことが可能である。
【0056】
以上、この発明の実施の形態について説明したが、具体的な構成は、上記の実施の形態に限られるものではなく、この発明の要旨を逸脱しない範囲の設計の変更等があっても、この発明に含まれる。例えば、L2C信号を例に説明したが、同様に2種類のコードが時分割多重化して送信されるL6信号のコード位相のサーチにも適用可能である。
【0057】
この場合、「Block I」のL6信号では、例えば、ショートコードの相関処理時には、レプリカコードにショートコードを使用し、ロングコードの相関処理時には、区間初期の一部区間でレプリカコードにショートコードを継続使用し、残りの区間では相関処理を行わない。そして、レプリカコードにショートコードを継続使用する区間は、相関処理のサンプリング間隔未満とし、かつ、相関処理のサンプリングのタイミングと、チップ境界との最大ずれ量以上とするのが好ましい。
【符号の説明】
【0058】
1 GNSS信号受信装置(スペクトル拡散信号受信装置)
2 アンテナ
3 周波数変換部
4 A/D変換部
5 信号処理部
6 制御部
7 サーチ部
8 追尾部
71 キャリア相関器
72 キャリアNCO
73 コード相関器(相関処理部)
74 コード発生器
75 積分器
76 電力化部
77 バッファ・ソート部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13