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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】温度監視システム及び温度監視方法
(51)【国際特許分類】
   G01J 5/48 20220101AFI20220411BHJP
   G01N 25/50 20060101ALI20220411BHJP
   G01J 5/00 20220101ALI20220411BHJP
【FI】
G01J5/48 A
G01N25/50 A
G01J5/00 101Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017151353
(22)【出願日】2017-08-04
(65)【公開番号】P2019032165
(43)【公開日】2019-02-28
【審査請求日】2020-06-02
(73)【特許権者】
【識別番号】000227836
【氏名又は名称】日本アビオニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000925
【氏名又は名称】特許業務法人信友国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】伏間 正弘
(72)【発明者】
【氏名】福山 伸弘
【審査官】平田 佳規
(56)【参考文献】
【文献】特開昭58-118950(JP,A)
【文献】特開平08-285693(JP,A)
【文献】特開平01-113629(JP,A)
【文献】特開2017-096789(JP,A)
【文献】特開2008-040758(JP,A)
【文献】特表2017-502529(JP,A)
【文献】特開平09-304188(JP,A)
【文献】特開2011-197884(JP,A)
【文献】特開2000-159315(JP,A)
【文献】特開平11-006769(JP,A)
【文献】特開平05-088094(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01J 5/00 - G01J 5/90
G01J 1/00 - G01J 1/02
G01J 1/42 - G01J 1/46
G01N 25/00 - G01N 25/72
G01V 8/10 - G01V 8/26
G08B 13/18 - G08B 13/196
G08B 17/00
G08B 17/12
G08B 23/00 - G08B 31/00
B65G 3/00 - B65G 3/04
H04N 5/222- H04N 5/257
H04N 7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の粒状の物体が山状に堆積された堆積物の温度を固定された赤外線カメラで監視する温度監視システムであって、
前記堆積物表面の所定の位置における法線と当該位置から赤外線カメラに入射する赤外線の入射方向との為す角度を対象角度としたときに、
前記堆積物を構成する前記粒状の物体は、前記対象角度が90度未満となる面を有する形状であり、
前記対象角度が90度未満となる前記堆積物のすべての表面を監視対象領域とし、前記監視対象領域となる前記堆積物表面を撮像する赤外線カメラと、
前記赤外線カメラで撮像された画像に基づいて前記対象角度が90度未満となる前記堆積物のすべての表面の温度を検出する発火検知部とを備える
温度監視システム。
【請求項2】
前記堆積物及び前記赤外線カメラは屋内に配置される
請求項1に記載の温度監視システム。
【請求項3】
前記堆積物は、水平面において、一方の方向に長い形状であり、前記赤外線カメラは、水平面において前記堆積物を囲むように設定される長方形状の少なくとも4つの角部に配置されており、
前記堆積物のすべての表面が前記監視対象領域となるように前記少なくとも4つの赤外線カメラが配置されている
請求項1又は2に記載の温度監視システム。
【請求項4】
前記赤外線カメラの視野角は90度以上である
請求項1~3のいずれか一項に記載の温度監視システム。
【請求項5】
前記赤外線カメラで取得された画像に複数の領域を定義し、
前記定義された複数の領域毎に、前記赤外線カメラと領域に含まれる前記堆積物の距離に応じて発火検知温度の閾値を定義し、
前記発火検知部は、各領域において設定された閾値と前記赤外線カメラの画像から検知された温度とを比較して、発火の有無を検知する
請求項1~4のいずれか一項に記載の温度監視システム。
【請求項6】
前記堆積物を構成する物体は、可燃物である
請求項1~5のいずれか一項に記載の温度監視システム。
【請求項7】
前記赤外線カメラは、前記堆積物の長手方向において、前記赤外線カメラから150m離れた位置までの前記堆積物の表面の温度を検出するように設置されている
請求項1に記載の温度監視システム。
【請求項8】
前記堆積物のすべての表面が前記監視対象領域となるように少なくとも4つの赤外線カメラが前記堆積物の高さ方向における頂点よりも低い位置に固定されている
請求項1に記載の温度監視システム。
【請求項9】
前記粒状の物体は、粉末状の石炭である
請求項1に記載の温度監視システム。
【請求項10】
複数の粒状の物体が山状に堆積された堆積物の温度を固定された赤外線カメラで監視する温度監視方法であって、
前記堆積物表面の所定の位置における法線と当該位置から赤外線カメラに入射する赤外線の入射方向との為す角度を対象角度としたときに、
前記堆積物を構成する前記粒状の物体は、前記対象角度が90度未満となる面を有する形状であり、
前記対象角度が90度未満となる前記堆積物のすべての表面を監視対象領域とし、前記監視対象領域となる前記堆積物表面を前記赤外線カメラで撮像し、前記対象角度が90度未満となる前記堆積物のすべての表面の温度を検出する
温度監視方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヤードに山状に積み上げられた堆積物の温度を監視する温度監視システム及び温度監視方法に関する。
【背景技術】
【0002】
製鉄所や火力発電所などで用いられる大量の石炭は、輸送船で運ばれてきた後、貯炭場や原料ヤードなどに山状に積み上げられ、保管される。この山状に積み上げられた石炭(以下、石炭山)は、必要に応じて、リクレーマ(払出機)により払い出され、製鉄原料や、火力原料として用いられる。
【0003】
ところで、貯炭場や原料ヤードに積み上げられた石炭山は、酸化反応により発熱し、自然発火する恐れがある。このため、従来、貯炭場や原料ヤードに山積みされた石炭山の温度を監視するシステムが開発されている。
【0004】
特許文献1には、赤外線放射温度計を備える旋回台を徐々に旋回させて貯炭山の各部の表面温度を計測することで、貯炭山の自然発火を監視予知することのできる貯炭山温度計測装置が開示されている。特許文献1に記載の技術は、貯炭山において異常な温度上昇が確認された場合において、旋回台に設置されたレーザーポインターが貯炭山の該当する位置にレーザーを照射することで、温度上昇を起こしている位置を正確に知らせることができる。
【0005】
また、特許文献2には、貯炭場の両側に、5台のヤード機械がレール上を自在に走行するように配置され、各ヤード機械の頂部付近に石炭パイルから放射される赤外線を撮像する赤外線カメラが設置された温度監視方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2000-159315号公報
【文献】特開平8-285693号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、通常、石炭山は、高さ数十メートル、長さ数百メートルの山状に形成されており、石炭山全体の温度を常時計測することのできるシステムが望まれている。一方、特許文献1や特許文献2に開示された温度計測装置では、石炭山の各所の温度を随時検出していくことはできるものの、石炭山全体の温度を同時に検出することはできない。
【0008】
また、屋内に積み上げられる堆積山の温度を監視する場合、屋内の限られたスペースに温度計測装置を設ける必要がある。したがって、より簡便な方法で堆積物の温度を計測することのできるシステムが望まれている。
【0009】
そこで、本発明の目的は、より簡便な方法で、堆積物全体の温度を常時検出することのできる温度監視システム及び温度監視方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決し、本発明の目的を達成するため、本発明の温度監視システムは、複数の粒状の物体が山状に堆積された堆積物の温度を固定された赤外線カメラで監視する温度監視システムであって、堆積物表面の所定の位置における法線と当該位置から赤外線カメラに入射する赤外線の入射方向との為す角度を対象角度としたときに、堆積物を構成する粒状の物体は、対象角度が90度未満となる面を有する形状であり、対象角度が90度未満となる堆積物のすべての表面を監視対象領域とし、監視対象領域となる堆積物表面を撮像する赤外線カメラとを備える。また、赤外線カメラで撮像された画像に基づいて対象角度が90度未満となる堆積物のすべての表面の温度を検出する発火検知部とを備える。
【0011】
本発明の温度監視方法は、複数の粒状の物体が山状に堆積された堆積物の温度を固定された赤外線カメラで監視する温度監視方法であって、堆積物表面の所定の位置における法線と当該位置から赤外線カメラに入射する赤外線の入射方向との為す角度を対象角度としたときに、堆積物を構成する粒状の物体は、対象角度が90度未満となる面を有する形状であり、対象角度が90度未満となる堆積物のすべての表面を監視対象領域とし、監視対象領域となる堆積物表面を赤外線カメラで撮像し、対象角度が90度未満となる堆積物のすべての表面の温度を検出する。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、山状に積み上げられた堆積物の全体の温度を、より簡便に常時検出することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】対象物からの赤外線が赤外線カメラへ入射する方向を、撮像対象となる対象物のおよそ平面である表面に対して傾けていったときに検出される対象物の温度を調査する手法を示した説明図である。
図2】熱源の天板上に載置した対象物を上面から見た図である。
図3】対象物が撮像画面内に表示される位置を示した図である。
図4】粉末状の石炭からなる堆積物における測定温度を示した図である。
図5】黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板における測定温度を示した図である。
図6】粉末状の石炭のモデルを側面から見た図と、粉末状の石炭のモデルを正面から見た図である。
図7】粉末状の石炭からなる堆積物をモデルで示し、モデル化した石炭からなる堆積物がなす面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向との角度が0度である場合に、その堆積物を側面から見た図と、その堆積物を正面から見た図である。
図8】モデル化した石炭からなる堆積物がなす面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向との角度が45度である場合に、モデル化した石炭からなる堆積物を側面から見た図と、その堆積物を正面から見た図である。
図9図7における堆積物の正面図と図8における堆積物の正面図とを並べた図である。
図10図10Aは、本発明の一実施形態に係る堆積物温度監視システムを備える貯炭場を上面から見た図であり、図10Bは、その貯炭場を側面から見た図である。
図11図11は、本発明の一実施形態に係る温度監視システムを備える貯炭場を、堆積物の短手方向における側面から見た図である。
図12】本発明の一実施形態に係る温度監視システムにおける要部の構成を示す概略図である。
図13】赤外線カメラ3Aで撮影される堆積物の映像を模式的に示した図である。
図14】従来の赤外線カメラを用いた一般的な温度監視システムを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態に係る堆積物温度監視システム及び堆積物温度監視方法の一例を、図面を参照して説明する。また、以下の説明では、堆積物として石炭が山状に積み上げられた石炭山を例に説明する。本発明の実施形態は以下の順で説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
1.原理説明(粉末状石炭の放射率特性について)
1-1.温度測定実験
1-2.考察
2.本発明の一実施形態に係る温度監視システム
2-1.温度監視システムの構成
2-2.比較例に係る温度監視システム
2-3.温度監視システムの要部の構成
【0015】
〈1.原理説明(粉末状石炭の放射率特性について)〉
本発明の一実施形態に係る温度監視システム及び温度監視方法の説明に先立ち、本発明の原理の説明を行う。本発明の発明者らは、赤外線カメラを用いて粉末状の石炭からなる堆積物の温度を監視する際に、より少ない台数の赤外線カメラで効率良く堆積物の温度を検出する方法について検討した。
【0016】
一般的に、絶縁体からなる対象物を赤外線カメラで撮像した場合、対象物面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向との角度(以下、対象角度)が60度以上になると、著しく反射率が上がると共に放射率が下がる。このため、対象角度が60度以上の場合には、赤外線カメラで対象物の温度を正確に測定することができなくなることが知られている。
[1-1.温度測定実験]
まず、発明者らは、粉末状の石炭からなる堆積物を対象物として、対象物に対して赤外線カメラが位置する方向を、対象物のおよそ平面である表面に対して傾けていった場合について、赤外線カメラで検出される温度について検証した。
【0017】
図1は、対象物に対して赤外線カメラが位置する方向を撮像対象となる対象物のおよそ平面である表面に対して傾けていったときに検出される対象物の温度を調査する手法を示す説明図である。ここでは、撮像対象となる対象物102を所定の温度に保持して載置することのできる熱源101と、その熱源101上に載置された対象物102を撮影する赤外線カメラ103とを準備した。赤外線カメラ103は90度回転させ、水平視野が垂直になるよう設置した。対象物が撮像できる範囲で赤外線カメラ103の光軸を上方に向けると、撮像画面の左端に対象物が表示される。また、赤外線カメラ103の水平視野角は90度である。
【0018】
熱源101は、所定の温度に加熱可能な天板を有し、その天板が水平となるようにテーブル100に固定した。赤外線カメラ103は、熱源101の中心位置からの水平方向の距離が1.0mとなる位置において、高さを調整可能に配置した。
【0019】
また、撮像対象となる対象物102としては、粉末状の石炭と、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板とを準備した。そして、熱源101の天板上の所定の領域に、粉末状の石炭と、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板とを設置した。
【0020】
図2は、熱源101の天板上に載置された対象物102を上面から見た図である。図2に示すように、ここでは、熱源101の天板を中心から2つの領域に分割し、一方の領域には粉末状の石炭を3~5mmの厚さになるように敷き詰めることで、粉末状の石炭からなる堆積物102aの平面を形成し、他方の領域には、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板102bを載置した。このとき、天板に敷き詰められた粉末状石炭からなる堆積物102aと、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板102bとがほぼ同じ厚みになるように調整した。また、天板が80℃となるように熱源101を調整した。
【0021】
また、赤外線カメラ103と熱源101の中心位置との水平距離を固定した状態で、赤外線カメラ103の高さhを変化させ、赤外線カメラ103の光軸を撮像対象となる対象物102の表面に対して変化させた。ここで、赤外線カメラ103への赤外線入射方向と対象物102の法線との角度(以下、対象角度)を、以下の表1に示すように変化させることで、赤外線カメラ103への赤外線入射方向と、対象物面の法線との角度変化に伴う測定温度の変化を調査した。
【0022】
【表1】
【0023】
ここで、角度d1(mrad)及び角度d1(度)は、赤外線カメラ103への赤外線入射方向の、対象物102の表面に対する水平面からの角度である。また、対象角度d2(度)は、赤外線カメラ103への赤外線入射方向と、対象物102面の法線との角度である。
【0024】
そして、赤外線カメラ103で取得された画像を解析することで、粉末状の石炭からなる堆積物102aの温度と、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板102bの温度とを求めた。図3は、対象物102が画像表示器5内に表示される位置を示した図である。図3に示すように、対象物102が、A:画像表示器5の上下方向の中心位置(上下中心)で左端、B:画像表示器5の上側で左端、C:画像表示器5の上側で左右の中心位置(左右中心)、D:画像表示器5の上下中心で左右中心の各位置に表示されるよう、同一の対象角度d2(度)で4回の測定を行った。各々の測定では表示された対象物102の表示画像内に適当な四角形の領域を設け、その温度平均を求めた。
【0025】
図4は、粉末状の石炭からなる堆積物の異なる対象角度における測定温度を示した図である。また、図5は、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板の異なる対象角度における測定温度を示した図である。図4及び図5において、横軸は対象角度であり、縦軸は測定温度である。
【0026】
図5に示されるように、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板102bでは、対象角度を55度から87度まで変化させた場合、対象角度65度以上で著しく測定温度が下がる。そして、対象角度55度と対象角度87度とでは、赤外線カメラ103で検出される温度に、20℃以上の差が出る。すなわち、黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板102bを撮像した場合には、対象角度が大きくなると、測定温度が大きく下がることがわかる。
【0027】
一方、図4に示されるように、粉末状の石炭からなる堆積物102aでは、対象角度を55度から87度まで変化させても、測定温度はあまり低下していない。また、図4及び図5において、各位置A~Dにおける測定温度がほぼ一致することから、視野内の位置によらず、温度測定が可能であることが判る。
【0028】
ところで、一般的に、絶縁体からなる対象物を赤外線カメラで撮像した場合、対象物面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向との角度(対象角度)が60度以上になると、著しく反射率が上がると共に放射率が下がることが知られている。このため、対象角度が60度以上の場合には、赤外線カメラで対象物の温度を正確に測定することができなくなる。図5に示した黒色のつや消し樹脂塗料を塗布したアルミ板における温度の測定結果は、この事実に則した結果となった。
【0029】
しかしながら、図4に示されるように、粉末状の石炭からなる堆積物102aを赤外線カメラ103で観測した場合には、一般的に考えられている対象角度と測定温度の変化との関係とは異なることがわかった。
【0030】
[1-2.考察]
ここで、粉末状の石炭からなる堆積物を、均一な大きさの球体の集合であると仮定し、粉末の石炭をモデル化した。図6は、粉末状の石炭のモデルを側面から見た図と、そのモデルを正面から見た図を示している。一般的な絶縁体では、対象角度が±45度の範囲内にある場合には、放射率は変わらない。したがって、図6に示すモデルを、矢印方向に入射する赤外線を赤外線カメラで撮影した場合、斜線で示す領域では放射率が低下せず、温度を精度良く検出することができる。
【0031】
そして、粉末状の石炭からなる堆積物102aを、図6に示すモデルで図示すると、図6に示すモデルを左右密に配列した状態となる。図7は、粉末状の石炭からなる堆積物をモデルで示した図である。図7の左側は、モデル化した石炭からなる堆積物がなす平面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向とが0度である場合に、その堆積物を側面から見た図、図7の右側は、その堆積物を正面から見た図である。図7では、堆積物がなす平面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向とが0度である場合において、放射率の低下しない範囲を斜線で示している。
【0032】
一方、図8は、モデル化した石炭からなる堆積物(左側)がなす平面の法線と赤外線カメラのへの赤外線入射方向とが45度である場合に、モデル化した石炭からなる堆積物を側面から見た図、及びその堆積物を正面から見た図(右側)である。図8では、堆積物がなす平面の法線と赤外線カメラへの赤外線入射方向とが45度である場合において、放射率の低下しない範囲を斜線で示している。
【0033】
図9は、図7における堆積物の正面図と図8における堆積物の正面図とを並べて示した図である。図9からわかるように、赤外線カメラへの赤外線入射方向に対して、粉末の石炭からなる堆積物の面を45度だけ傾かせて配置しても、堆積物の面積全体に対する斜線で示す領域の割合はほとんど減らない。このため、赤外線カメラへの赤外線入射方向に対して、粉末状の石炭からなる堆積物を斜めに配置し、対象角度を大きくした場合においても、赤外線カメラで観測される測定温度がほとんど変化しない。なお、対象角度を極端に大きくしたときに、若干測定温度が低下した理由は、放射率の低下しない範囲を示す斜線領域の面積が小さく観測されるためであると考えられる。
【0034】
以上の考察により、粉末状の石炭からなる堆積物を赤外線カメラで観測する場合には、対象角度を大きくした場合でも、その堆積物の温度をほぼ正確に計測できると言える。なお、図1に示す実験では、赤外線カメラへの赤外線入射方向と対象物の法線との角度(対象角度)が87度~55度の範囲である場合を調査している。しかしながら、上述の考察により、原理的には、対象角度90度未満であれば(すなわち、撮像対象となる堆積物の面が、赤外線カメラで撮像可能な範囲であれば)、温度を精度良く検出することができる。
【0035】
すなわち、粉末状の石炭からなる堆積物が赤外線カメラの画角内にあり、堆積物のある位置における面の法線と、その位置から赤外線カメラに入射する赤外線との角度が90度未満であれば、その位置における温度を赤外線カメラで精度良く検出することができる。
【0036】
以下では、上述の実験結果に基づき、山状に積層された石炭からなる堆積物の温度を精度良く監視することができる堆積物温度監視システムについて説明する。
【0037】
〈2.本発明の一実施形態に係る温度監視システム〉
[2-1.温度監視システムの構成]
図10Aは、本発明の一実施形態に係る温度監視システム1を備える貯炭場を上面から見た図であり、図10Bは、その貯炭場を側面から見た図である。また、図11は、本発明の一実施形態に係る温度監視システム1を備える貯炭場を、堆積物2の短手方向における側面から見た図である。
【0038】
本実施形態における温度監視システム1は、図10A及び図10Bに示すように、建屋10の内部に設けられた貯炭場に山状に積層された石炭からなる堆積物2の温度を監視するシステムである。一般的に、貯炭場に積み上げられる石炭は、長さ数百メートル、高さ数十メートルの大きさである。本実施形態では、例えば、1つの建屋10内において、長手方向の長さは600メートル、短手方向の長さは50メートル、高さ20メートルの堆積物2が積み上げられている。なお、本実施形態では、図10Aに示すように、堆積物2は、堆積物2の長手方向において3つの山に分けられて積み上げられている。
【0039】
本実施形態における堆積物2の温度監視システム1は、山状の堆積物2の温度を監視する複数台の赤外線カメラ3が設けられている。複数台の赤外線カメラ3は、それぞれ、建屋10の内壁等、固定可能な場所に設置され、所望の堆積物2を撮像可能な位置に配置されている。以下に、赤外線カメラ3の設置方法について説明する。
【0040】
本実施形態では、図10Aにおいて破線で示すように、水平面において1山分の堆積物2を囲むように設定された長方形状の少なくとも4つの角部のそれぞれに、赤外線カメラ3が1つずつ配置されている。このとき、それぞれの赤外線カメラ3は、図10Aに示すように、最も近接する堆積物2の長手方向の面と、短手方向の面とが水平面における視野角α1以内に収まるように設置される。また、図11に示すように、それぞれの赤外線カメラ3は、堆積物2の高さ方向において、垂直方向における視野角α2以内に収まるように設置されている。なお、本実施形態では、赤外線カメラ3の水平面における視野角α1は90度に設定されている。
【0041】
このように、1山分の堆積物2を囲む位置に設けられた4つの赤外線カメラ3は、それぞれ堆積物2の表面の一部を視野に収めており、4つの赤外線カメラ3で堆積物2の表面のすべてを一部重複して撮像している。また、4つの赤外線カメラ3は、堆積物2の表面の任意の位置について、当該位置での面の法線と、当該位置からの赤外線が当該位置の監視を担当する赤外線カメラ3に入射する方向との角度は90度未満となるよう配置されている。
【0042】
前述の考察により、堆積物2の表面の法線と、赤外線カメラ3への赤外線入射方向との為す角度が90度未満である場合には、堆積物2の温度を測定できることを示した。また、視野内であれば視野の中央でなくとも精度よく温度計測が可能なことも実験によって明らかである。したがって、図10Aから、赤外線カメラ3Aに注目すると、赤外線カメラ3Aを堆積物2から堆積物2の短手方向に10.5m離すことによって、堆積物2の長手方向に150m離れた位置の面の法線と、赤外線カメラ3Aへの赤外線入射方向との為す角度が86度となる。ところで、図11に示すように、長手方向における堆積物の面は、鉛直方向に対して、堆積物2の中心部に向かって斜め方向に傾いて形成されている。この点を考慮しても、長手方向に150m離れた位置での堆積物2の面の法線と、赤外線カメラ3Aへの赤外線入射方向との為す角度は90度未満である。すなわち、本実施形態における温度監視システム1では、赤外線カメラ3Aによって、堆積物2の長手方向において、赤外線カメラ3Aから150m離れた位置においても堆積物2の温度を正しく検知することができる。
【0043】
また、短手方向についても、図10Bに示すように、短手方向における堆積物の面は、鉛直方向に対して、堆積物2の中心部に向かって斜め方向に傾いて形成されている。したがって、堆積物2の短手方向においても、堆積物2の短手方向における面の法線と、赤外線カメラ3Aへの赤外線入射方向との為す角度は90度未満となっている。したがって、このような赤外線カメラ3Aの配置により、堆積物2の短手方向における面の温度も正しく検知することができる。
【0044】
そして、本実施形態では、堆積物2を囲むように設定される長方形状(図10Aの一点鎖線)の各角部に1つずつ赤外線カメラ3を配置することで、堆積物2全体を検知することができる。また、本実施形態では、赤外線カメラ3の視野角内に、堆積物2の長手方向の面と短手方向の面とが収まるように、各角部に赤外線カメラ3が設置されればよい。したがって、赤外線カメラ3で堆積物2全体を撮影するために、赤外線カメラ3を堆積物2から遠く離れた位置に設置する必要がない。このため、本実施形態の温度監視システム1は、室内など、限られたスペースに赤外線カメラ3を設置しなければならない場合の温度監視に好適である。
【0045】
このように、本実施形態の温度監視システム1では、1山分の堆積物2に対して、4つの赤外線カメラ3を設置すればよく、図10Aに示すように、3山分の堆積物2の温度を検知するためには、12台の赤外線カメラ3を設置すればよい。
【0046】
[2-2.比較例に係る温度監視システム]
図14は、従来の赤外線カメラ3を用いた一般的な温度監視システムを示す図である。図14において、図10Aに対応する部分には同一符号を付し重複説明を省略する。
【0047】
図14に示すように、従来は、堆積物2の長手方向の軸に対して光軸が直交するように赤外線カメラ3を設置する方法が採用されていた。また、堆積物2を撮像する際、堆積物2の面に対して赤外線カメラ3の視野角が45度以下であれば、堆積物2の放射率が低下しないと考えられていた。このため、山状の堆積物2を撮像するためには、赤外線カメラ3を、その光軸が堆積物2の長手方向の軸に直交するように配置すると共に、視野角45度以内に全ての堆積物2の面が収まるように配置するのが一般的な考え方であった。
【0048】
したがって、このような従来の考え方を採用した場合、赤外線カメラ3は、堆積物2の長手方向に沿って、例えば20m置きに1台ずつ配置する必要がある。そうすると、堆積物2の両側において、20m毎に1台の赤外線カメラ3を設置する必要があり、全長600m程に積まれた堆積物2を撮影するには、約60台の赤外線カメラ3が必要になる。
【0049】
これに対し、本実施形態では、前述した原理に基づいて、粉末状の石炭を赤外線カメラ3で撮影する場合、粉末状の石炭の面と、赤外線カメラ3への赤外線入射方向が90度未満であれば、温度検知の精度が落ちないことがわかった。したがって、本実施形態の温度監視システム1では、図10A及び図10Bに示す位置に赤外線カメラ3を設置すればよく、12台の赤外線カメラ3で堆積物2全体の温度を検知することができる。これにより、より少ない台数の赤外線カメラ3で堆積物2全体を監視することができ、システム全体のコストを抑えることができる。
【0050】
そして、従来の赤外線カメラによる対象物の温度監視では、対象角度が60度以上の場合には、赤外線カメラで対象物の温度を正確に測定することができないと考えられていたが、本実施形態では、対象角度が90度未満であれば温度検知を行うことができる。したがって、本実施形態の温度監視システムでは、対象角度が60度以上90度未満となる領域を含む領域を監視領域とすることができる。そして、本実施形態の温度監視システム1では、対象角度が0度以上60度未満となる領域を監視領域に含むと共に、対象角度が60度以上90度未満となる領域も監視領域に含むように赤外線カメラ3が設置されている。このように、対象角度が60度以上90度未満となる領域も監視対象に含むことができるため、設置する赤外線カメラの台数を従来に比較して、より少なくすることができる。
【0051】
さらに、本実施形態のように、視野角90度以上の赤外線カメラ3を堆積物2の四隅に配置する構成は、堆積物2により近い位置に赤外線カメラ3を配置でき、より少ない赤外線カメラ3の台数で堆積物2全体の温度を監視することができる効果をもたらす。
【0052】
また、従来の方法では、赤外線カメラ3などの温度検知装置を、スペースの限られた室内で移動させることで堆積物2の温度を検知することも行われている。これに対し、本実施形態では、赤外線カメラ3を移動させるための設備を必要としないという利点もある。
【0053】
[2-3.温度監視システムの要部の構成]
ここで、本実施形態の温度監視システム1の要部の構成について説明する。図12は、本実施形態における温度監視システム1における要部の構成を示す概略図である。図12に示すように、本実施形態の温度監視システム1は、複数台の赤外線カメラ3と、発火検知部8とを備える。各赤外線カメラで3は、センサ部6で取得された情報が画像処理部7に送られ、画像処理部7において処理された信号が、発火検知部8に送られる。そして、この発火検知部8において、堆積物2の各領域における温度が検知される。
【0054】
ところで、赤外線カメラ3で温度を検知する場合、赤外線カメラ3から近い位置にある物を撮像する場合に1画素に収められる面積は、赤外線カメラ3から遠い位置にある物を撮像する場合における1画素に収められる面積よりも小さい。
【0055】
図13は、赤外線カメラ3A(図10A参照)で撮影される堆積物2の画像5を模式的に示した図である。図13に示すように、赤外線カメラ3Aから近い位置にある領域X1の面積と、遠い位置にある領域X4の面積を比較すると領域X4の方が大きい。したがって、領域X4において1画素に相当する面積は、領域X1において1画素に相当する面積よりも大きくなる。このため、赤外線カメラ3Aから最も遠い位置にある領域X4では、領域X1よりも広い面積の平均温度が1画素に出力されることとなる。
【0056】
この結果、赤外線カメラ3Aから遠い位置にある領域X4において、実際には発火直前の高い温度の箇所が存在していたとしても、その周りの温度との平均が1画素に出力されることで、発火直前の高い温度の箇所が見逃される問題が出てくる。
【0057】
一方、赤外線カメラ3Aから近い位置にある領域X1においては、狭い面積を1画素に出力することができるため、比較的精度よく温度を検出することができる。
【0058】
そこで、図13に示すように、赤外線カメラ3Aで撮像する表示画像上に、複数領域(図13では4領域)を定義し、赤外線カメラ3Aと堆積物2との距離に応じて、発火検出温度の閾値をそれぞれ設定する。
【0059】
ここでは、例えば、赤外線カメラ3Aで取得される画像を、赤外線カメラ3Aから最も近い領域X1、2番面に近い領域X2、3番目に近い領域X3、一番遠い領域X4に分割し、かつ、各領域X1~X4は、一部重なるように設定する。また、発火検知温度の閾値は、領域X1、領域X2、領域X3、領域X4の順で、閾値が順に低くなるように設定する。
【0060】
撮像された画像の分割方法、及び分割された各領域X1~X4における閾値の設定は、ユーザーによって適宜変更可能である。発火検知部8では、画像処理部7から送られてきたデータを元に、各領域X1~X4において、各領域X1~X4で検知された温度が、各領域X1~X4に設定された閾値よりも高いか低いかを判断し、発火の有無を検知する。ここでは、赤外線カメラ3Aについて説明したが、その他の赤外線カメラ3において取得された画像を、赤外線カメラ3と堆積物2との距離に応じて各領域に分割し、各領域において設定された閾値と検知された温度との比較によって発火の有無を検知する。
【0061】
以上説明した、本実施形態の温度監視システム1では、赤外線カメラ3と堆積物2との距離が一様でない場合においても、精度良く温度検知することができる。本実施形態では、発火検知部8を赤外線カメラ3とは別に構成する例としたが、赤外線カメラ3の内部に設けてもよい。
【0062】
ところで、石炭の他、木くずや廃棄物等を山状に積み上げて保管しておく場合においても、木くずや廃棄物からなる堆積物が自然発火する恐れがある。したがって、石炭の他、木くずや廃棄物などの可燃物を山状に積み上げた堆積物の温度を常時監視することのできるシステムが望まれている。
【0063】
実施形態の温度監視システム1では、粉末状の石炭を堆積させた堆積物2を例に説明したが、その他、粒状の物体、例えば、木くずや、廃棄物等を山状に積み上げた堆積物の温度検知にも有効に用いることができる。木くずや廃棄物等を山状に積み上げた場合においても、様々な方向に向かう面を有するため、木くずや、廃棄物等で構成される堆積物面に対して赤外線カメラが位置する方向を斜めにしていった場合にも、対象角度による放射率の低下は起こりにくい。このため、木くずや、廃棄物等で構成される堆積物においても、本実施形態の温度監視システムを用いることで、少ない台数の赤外線カメラで、堆積物全体の温度を検知することができる。
【0064】
また、本実施形態の温度監視システム1では、一山分の堆積物2を4つの赤外線カメラ3で撮影する構成としたが、必要によっては、4つ以上の赤外線カメラ3を設置してもよい。また、1山分の堆積物2を囲むように設定された長方形状の4つの角部に赤外線カメラを設置する構成としたが、対角上にある2つの角部に赤外線カメラを設置する構成としてもよい。すなわち、堆積物2がなす面の法線と、赤外線カメラ3への赤外線入射方向との為す角度が90°未満となるように配置されていればよく、種々の形態を採ることができる。
【0065】
以上、本発明について、実施形態に基づいて説明したが、本発明は上述の実施形態に記載した構成に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲において適宜その構成を変更することができるものである。また、上述した実施形態例は、本発明を分かりやすく説明するために詳細に説明したものであり、必ずしも説明した全ての構成を備えるものに限定されない。例えば、実施形態の構成の一部について、他の構成の追加・削除・置換をすることが可能である。
【符号の説明】
【0066】
1…温度監視システム、2…堆積物、3…赤外線カメラ、6…センサ部、7…画像処理部、8…発火検知部、10…建屋、100…テーブル、101…熱源、102…対象物、103…赤外線カメラ
図1
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