(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】駆動式ターボチャージャ、遊星式トラクションドライブにおける締め付け力の付与方法、及び遊星式トラクションドライブ
(51)【国際特許分類】
F02B 37/00 20060101AFI20220411BHJP
F16H 13/04 20060101ALI20220411BHJP
F16H 25/06 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
F02B37/00 302C
F16H13/04 A
F16H25/06 A
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2017198126
(22)【出願日】2017-10-12
【審査請求日】2020-09-10
(32)【優先日】2016-10-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2017-09-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】517357309
【氏名又は名称】スーパーターボ テクノロジーズ,インコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100107401
【氏名又は名称】高橋 誠一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100120064
【氏名又は名称】松井 孝夫
(74)【代理人】
【識別番号】100154162
【氏名又は名称】内田 浩輔
(74)【代理人】
【識別番号】100182257
【氏名又は名称】川内 英主
(74)【代理人】
【識別番号】100202119
【氏名又は名称】岩附 秀幸
(72)【発明者】
【氏名】マーク モンゴメリー
(72)【発明者】
【氏名】ライアン シェリル
【審査官】家喜 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-102246(JP,A)
【文献】特開2001-227611(JP,A)
【文献】実開昭61-109916(JP,U)
【文献】特開2004-308792(JP,A)
【文献】特開平09-088620(JP,A)
【文献】米国特許第04617838(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02B 37/00 - 39/00
F16H 13/00 , 25/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エンジン用駆動式ターボチャージャであって、
ターボシャフトと、
前記ターボシャフトの第1の位置に連結されたコンプレッサと、
前記ターボシャフトの第2の位置に連結されたタービンと、
前記ターボシャフトと連動して該ターボシャフトとの間で動力を伝達する遊星式トラクションドライブと、
を備え、前記遊星式トラクションドライブは、
前記ターボシャフトと連動する複数の遊星ローラと、
前記複数の遊星ローラの傾斜したトラクション面と連動する第1のリングローラ及び第2のリングローラと、
第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の複数のボールを通じて前記第1のリングローラ及び前記第2のリングローラと連動する、中心に位置するリングギヤと、
を含み、前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の前記複数のボールは、前記リングギヤを介したトルクが増加すると、前記遊星式トラクションドライブの締め付け力を高め、
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプは、ボールレース内の傾斜した接触軸を有する前記複数のボールで構成され、前記傾斜した接触軸は、
軸方向と半径方向の両方の方向の成分で角度が付けられ、前記リングギヤを前記第1のリングローラ及び前記第2のリングローラと同心的に
拘束し、前記遊星式トラクションドライブは、
エンジンとの間で変速機を介して動力を伝達する前記リングギヤと噛み合う伝達ギヤをさらに含むことを特徴とする駆動式ターボチャージャ。
【請求項2】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプの前記複数のボールレースは、前記リングギヤ上で前記第2のアンギュラコンタクトボールランプの前記複数のボールレースと互い違いに配置される、請求項1に記載の駆動式ターボチャージャ。
【請求項3】
第1のボールケージ及び第2のボールケージが、前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内に前記複数のボールを配置する支援を行う、請求項1に記載の駆動式ターボチャージャ。
【請求項4】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の前記複数のボールの直径は、前記複数の遊星ローラ上の前記傾斜
したトラクション面に加わる法線力の望ましい予
荷重を設定するように選択される、請求項1に記載の駆動式ターボチャージャ。
【請求項5】
遊星式トラクションドライブにおける締め付け力の付与方法であって、
太陽シャフトを設けるステップと、
前記太陽シャフトに複数の遊星ローラを連結するステップと、
前記複数の遊星ローラに、該複数の遊星ローラの傾斜したトラクション面を介して第1のリングローラ及び第2のリングローラを連結するステップと、
前記第1のリングローラと前記第2のリングローラとの間に中心に配置されたリングギヤを設けるステップと、
前記リングギヤを、第1のアンギュラコンタクトボールランプを介して前記第1のリングローラに、及び第2のアンギュラコンタクトボールランプを介して前記第2のリングローラに結合して、前記リングギヤを通じたトルクが増加すると、前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の複数のボールが前記遊星式トラクションドライブにおける締め付け力を高めるようにするステップと、
を含み、
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプは、ボールレース内の傾斜した接触軸を有する前記複数のボールで構成され、前記傾斜した接触軸は、
軸方向と半径方向の両方の方向の成分で角度が付けられ、前記リングギヤを前記第1のリングローラ及び前記第2のリングローラと同心的に
拘束することを特徴とする方法。
【請求項6】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプの前記複数のボールレースは、前記リングギヤ上で前記第2のアンギュラコンタクトボールランプの前記複数のボールレースと互い違いに配置される、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内に前記複数のボールを配置する支援を行うように第1のボールケージ及び第2のボールケージを設けるステップをさらに含む、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記太陽シャフトにタービン及びコンプレッサを連結してターボシャフトを形成するステップと、
前記遊星式トラクションドライブとエンジンとの間で動力を伝達する変速機に前記遊星式トラクションドライブを連結する伝達ギヤと前記リングギヤとを噛み合わせて駆動式ターボチャージャを形成するステップと、をさらに含む請求項5に記載の方法。
【請求項9】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の前記複数のボールの直径は、前記複数の遊星ローラの前記傾斜
したトラクション面に加わる法線力の望ましい予
荷重を設定するように選択される、請求項5に記載の方法。
【請求項10】
遊星式トラクションドライブであって、
太陽シャフトと、
前記太陽シャフトと連動する複数の遊星ローラと、
前記複数の遊星ローラの傾斜したトラクション面と連動する第1のリングローラ及び第2のリングローラと、
第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプを通じて前記第1のリングローラ及び前記第2のリングローラと連動する、中心に位置するリングギヤと、
を備え、前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の複数のボールは、前記リングギヤを介したトルクが増加すると、前記遊星式トラクションドライブの締め付け力を高め、
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプは、ボールレース内の傾斜した接触軸を有する前記複数のボールで構成され、前記傾斜した接触軸は、
軸方向と半径方向の両方の方向の成分で角度が付けられ、前記リングギヤを前記第1のリングローラ及び前記第2のリングローラと同心的に
拘束することを特徴とする遊星式トラクションドライブ。
【請求項11】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプの前記複数のボールレースは、前記リングギヤ上で前記第2のアンギュラコンタクトボールランプの前記複数のボールレースと互い違いに配置される、請求項10に記載の遊星式トラクションドライブ。
【請求項12】
第1のボールケージ及び第2のボールケージが、前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内に前記複数のボールを配置する支援を行う、請求項10に記載の遊星式トラクションドライブ。
【請求項13】
前記第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び前記第2のアンギュラコンタクトボールランプ内の前記複数のボールの直径は、前記複数の遊星ローラの前記傾斜
したトラクション面に加わる法線力の望ましい予
荷重を設定するように選択される、請求項10に記載の遊星式トラクションドライブ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、エンジン用駆動式ターボチャージャ、遊星式トラクションドライブにおける締め付け力の付与方法、及び遊星式トラクションドライブに関する。
【背景技術】
【0002】
駆動式ターボチャージャ(スーパーターボチャージャ)は、単なる排気タービン以上に動力が供給されてブーストエンジンのターボラグを低減するので通常のターボチャージャの改良である。駆動式ターボチャージャは、過剰なタービン出力をエンジンに戻してエンジン効率を高めることもできる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許第8,561,403号明細書
【文献】米国特許第8,668,614号明細書
【文献】米国特許第8,608,609号明細書
【文献】米国特許第9,670,832号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的の1つは、駆動式ターボチャージャの性能効率を高めることである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従って、本発明の実施形態は、エンジン用駆動式ターボチャージャであって、ターボシャフトと、ターボシャフトの第1の位置に連結されたコンプレッサと、ターボシャフトの第2の位置に連結されたタービンと、ターボシャフトと連動してターボシャフトとの間で動力を伝達する遊星式トラクションドライブとを備え、遊星式トラクションドライブが、ターボシャフトと連動する複数の遊星ローラと、複数の遊星ローラ上の傾斜したトラクション面と連動する第1のリングローラ及び第2のリングローラと、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプを通じて第1のリングローラ及び第2のリングローラと連動する、中心に位置するリングギヤとを含み、リングギヤを介したトルクが増加すると、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプが、遊星式トラクションドライブの締め付け力を高め、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプが、ボールレース内の傾斜した接触軸を有する複数のボールで構成されるとともに、ボールレース内におけるボールの低適合性を有してボールレース内におけるボールの高効率な動きをもたらすように成形され、傾斜した接触軸が、リングギヤを第1のリングローラ及び第2のリングローラと同心的に配置し、遊星式トラクションドライブが、エンジンとの間で変速機を介して動力を伝達するリングギヤと噛み合う伝達ギヤをさらに含む、駆動式ターボチャージャを含むことができる。
【0006】
従って、本発明の実施形態は、遊星式トラクションドライブにおける締め付け力の付与方法であって、太陽シャフトを設けるステップと、太陽シャフトに複数の遊星ローラを連結するステップと、複数の遊星ローラに、複数の遊星ローラ上の傾斜したトラクション面を介して第1のリングローラ及び第2のリングローラを連結するステップと、第1のリングローラと第2のリングローラとの間に中心に配置されたリングギヤを設けるステップと、リングギヤを、第1のアンギュラコンタクトボールランプを介して第1のリングローラに、及び第2のアンギュラコンタクトボールランプを介して第2のリングローラに結合して、リングギヤを通じたトルクが増加すると、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプが遊星式トラクションドライブにおける締め付け力を高めるようにするステップとを含み、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプが、ボールレース内の傾斜した接触軸を有する複数のボールで構成されるとともに、ボールレース内におけるボールの低適合性を有してボールレース内におけるボールの高効率な動きをもたらすように成形され、傾斜した接触軸が、リングギヤを第1のリングローラ及び第2のリングローラと同心的に配置する、方法をさらに含むことができる。
【0007】
従って、本発明の実施形態は、遊星式トラクションドライブであって、太陽シャフトと、太陽シャフトと連動する複数の遊星ローラと、複数の遊星ローラ上の傾斜したトラクション面と連動する第1のリングローラ及び第2のリングローラと、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプを通じて第1のリングローラ及び第2のリングローラと連動する、中心に位置するリングギヤとを備え、リングギヤを介したトルクが増加すると、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプが、遊星式トラクションドライブの締め付け力を高め、第1のアンギュラコンタクトボールランプ及び第2のアンギュラコンタクトボールランプが、ボールレース内の傾斜した接触軸を有する複数のボールで構成されるとともに、ボールレース内におけるボールの低適合性を有してボールレース内におけるボールの高効率な動きをもたらすように成形され、傾斜した接触軸が、リングギヤを第1のリングローラ及び第2のリングローラと同心的に配置する、遊星式トラクションドライブをさらに含むことができる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】遊星式トラクションドライブを含む駆動式ターボチャージャの斜視図である。
【
図2】アンギュラコンタクトボールランプを含む遊星式トラクションドライブの実施形態の断面図である。
【
図3】アンギュラコンタクトボールランプ及び非アンギュラコンタクトボールランプの、軸力対印加トルクのプロットである。
【
図4】
図2の遊星式トラクションドライブのリングアセンブリの実施形態の拡大断面図である。
【
図5】
図2の遊星式トラクションドライブのリングアセンブリの実施形態の分解図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、遊星式トラクションドライブを含む駆動式ターボチャージャ100の斜視図である。ターボシャフト104は、コンプレッサ106及びタービン108に連結される。遊星式トラクションドライブ102は、ターボシャフト104と連動してターボシャフト104との間で動力を伝達する。遊星式トラクションドライブ102は、ターボシャフト104と連動する複数の遊星ローラ110と、遊星ローラ110の傾斜したトラクション面116と連動する第1のリングローラ112及び第2のリングローラ114と、リングギヤ118とで構成される。リングギヤ118は、変速機122にさらに結合される伝達ギヤ120と噛み合う。変速機122は、エンジン124と遊星式トラクションドライブ102との間で動力を伝達する。リングギヤ118は、第1のアンギュラコンタクトボールランプ126及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ128を通じて第1のリングローラ112及び第2のリングローラ114と連動する。リングギヤ118にトルクが加わると、第1のアンギュラコンタクトボールランプ126及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ128が第1のリングローラ112及び第2のリングローラ114を押してリングギヤ118から遠ざける。これにより、遊星ローラ110の傾斜したトラクション面116に加わる法線力が増加して、遊星式トラクションドライブ102の締め付け力を高める。締め付け力が高まると、遊星式トラクションドライブ102のトルク容量が増加してトルクスループットのレベルが高まることにより、遊星式トラクションドライブ102の効率及び寿命特性が改善されるようになる。高トルクの変速機動作中には、第1のアンギュラコンタクトボールランプ126及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ128が、遊星式トラクションドライブ102内に高レベルの締め付け力を与えてスリップを防ぎ、低トルクの変速機動作中には、第1のアンギュラコンタクトボールランプ126及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ128が、遊星式トラクションドライブ102内の締め付け力を緩めて遊星式トラクションドライブ102の寿命及び効率を向上させる。
【0010】
駆動式ターボチャージャ100の動作は、2013年10月22日に交付された「高速トラクションドライブ及び無段変速機を有するスーパーターボチャージャ(Super-Turbocharger Having a High Speed Traction Drive and a Continuously Variable Transmission)」という名称の米国特許第8,561,403号明細書、2014年3月11日に交付された「高トルクトラクションドライブ(High Torque Traction Drive)」という名称の米国特許第8,668,614号明細書、2013年12月17日に交付された「対称型トラクションドライブ(Symmetrical Traction Drive)」という名称の米国特許第8,608,609号明細書、及び2017年6月6日に交付された「スラスト吸収遊星式トラクションドライブスーパーターボ(Thrust Absorbing Planetary Traction Drive Superturbo)」という名称の米国特許第9,670,832号明細書に教示されている通りである。米国特許第8,561,403号明細書、第8,668,614号明細書、第8,608,609号明細書及び第9,670,832号明細書は、その全ての開示及び教示が引用により本明細書に具体的に組み入れられる。
【0011】
図2は、アンギュラコンタクトボールランプ226、228を含む遊星式トラクションドライブ200の実施形態の断面図である。リングギヤ218にトルクが加わると、第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228が第1のリングローラ212及び第2のリングローラ214を押してリングギヤ218から遠ざけ、これによって遊星ローラ210の傾斜したトラクション面216に加わる法線力が増加し、遊星式トラクションドライブ200に増加した締め付け力を与えてそのトルク容量を増加させる。遊星ローラ210と太陽シャフト204との間の法線力も増加する。太陽シャフト204は、
図1のターボシャフト104に対応する。第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228のボールレース230は、2方向に傾斜することにより、遊星式トラクションドライブ200を通じた両方向のトルクで動作するようになる。リングギヤ218は、伝達ギヤ220と噛み合って、遊星式トラクションドライブ200との間で動力を伝達する。リングギヤ218は、さらなる支持軸受を有さずに第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228を完全に貫いて配置され、従ってリングギヤ218の回転バランスを取ってリングギヤ218と伝達ギヤ220との正しい噛み合いを維持するには、第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228が、リングギヤ218を第1のリングローラ212及び第2のリングローラ214と同心的に維持することが必要である。第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228は、複数のボールレース230内に配置された複数のボール234で構成される。第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228の、ボール234がボールレース230に接触する接触軸232は、軸方向の成分及び半径方向の成分との間に角度を成す。これにより、ボール234と、ボール234の半径よりも大きな曲率半径を有するボールレース230とが、たとえこれらの間の低適合性を可能にする点接触を行う場合でも、リングギヤ218が正しい同心位置に拘束される。この低適合性は、ボールレース230内におけるボール234の転がり摩擦を低減し、第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228の効率を高め、遊星式トラクションドライブ200の締め付けをより線形的なものにするので、第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228にとって有利である。仮に接触軸232が角度を成さずに純粋に軸方向に存在する場合には、リングギヤ218を第1のリングローラ212及び第2のリングローラ214と同心的に保持するために、ボールレース230内におけるボール234の適合性を非常に高くする必要があり、これによって摩擦が増加し、効率が低下して、ボールランプの摩耗が増加する。また、ボールレース230内におけるボール234の適合性が低いことにより、ボール234は、第1のアンギュラコンタクトボールランプ226及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ228に適切な機能をもたらしながら、一定範囲の直径を有することもできる。ボール234の直径は、遊星式トラクションドライブ200内の部品の公差範囲を補償するように調整できるとともに、この直径を用いて、遊星ローラ210の傾斜したトラクション面216に対する法線力の望ましい予荷重を設定することもできる。
【0012】
図3は、アンギュラコンタクトボールランプ344及び非アンギュラコンタクトボールランプ346の、軸力340対印加トルク342のプロットである。非アンギュラコンタクトボールランプ346は、
図2のリングギヤ218を配置するために必要な高適合性の案内溝を有する。この高適合性により、非アンギュラコンタクトボールランプ346は、荷重を受けると摩擦量が大きくなる。このことは、印加トルク342に対する軸力340の緩やかな傾き、及び非アンギュラコンタクトボールランプ346が荷重を受けていない時の大きなヒステリシス348によって分かるように、性能の低下を招く。この大きなヒステリシス348の結果、いくつかの動作条件中に
図2の遊星式トラクションドライブ200の締め付けが過度になり、遊星式トラクションドライブ200の効率及び寿命が低下する。アンギュラコンタクトボールランプ344では、傾斜した接触軸がリングギヤ218の必要な位置合わせを行うので、案内溝の適合性が低い。これにより、アンギュラコンタクトボールランプ344の低転がり摩擦及び高効率が可能になる。この結果、アンギュラコンタクトボールランプ344の性能が向上してヒステリシスがほんのわずかになることにより、遊星式トラクションドライブ200に対する締め付け力の一貫性が高まって、遊星式トラクションドライブ200が高効率及び長寿命になる。
【0013】
図4は、
図2の遊星式トラクションドライブ200のリングアセンブリ400の実施形態の拡大断面図である。リングギヤ418が中心に位置し、第1のリングローラ412及び第2のリングローラ414がそれぞれの側に位置する。リングギヤ418にトルクが加わると、第1のアンギュラコンタクトボールランプ426及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ428が、第1のリングローラ412及び第2のリングローラ414をリングギヤ418に結合させ、第1のリングローラ412及び第2のリングローラ414をリングギヤ418から強制的に遠ざけるようになる。図には、第1のアンギュラコンタクトボールランプ426と第2のアンギュラコンタクトボールランプ428の両方のボールレース内の複数のボールのうちの、第1のアンギュラコンタクトボールランプ426のボールレース430内の単一のボール434を示す。ボールレース430内のボール434の接触軸432は、半径方向と軸方向の両方の成分を有するように傾斜する。これにより、ボールレース430内におけるボール434の低適合性を可能にする一方で、リングギヤ418を第1のアンギュラコンタクトボールランプ426及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ428によって第1のリングローラ412及び第2のリングローラ414と同心的に保持できるようになる。第1のボールケージ450及び第2のボールケージ452も示しており、これらを用いて、第1のアンギュラコンタクトボールランプ426及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ428内におけるボール434などのボールの配置を支援することができる。図示のように、第1のアンギュラコンタクトボールランプ426及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ428のボールレース430などのボールレースは、リングギヤ418上で互い違いになっており、これによって第1のアンギュラコンタクトボールランプ426及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ428からリングギヤ418に加わる力の分布が均一になり、さらに薄い材料を使用することができる。
【0014】
図5は、
図2の遊星式トラクションドライブ200のリングアセンブリ500の実施形態の分解図である。第1のリングローラ512及び第2のリングローラ514がリングギヤ518の両側に配置され、第1のアンギュラコンタクトボールランプ526及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ528を介してリングギヤ518と連動する。ボールレース530内にはボール534が配置され、従ってリングギヤ518にトルクが加わると、ボールレース530内でボール534が転動して、第1のリングローラ512及び第2のリングローラ514をリングギヤ518から強制的に遠ざけるようになる。また、第1のボールケージ550及び第2のボールケージ552を用いて、第1のアンギュラコンタクトボールランプ526及び第2のアンギュラコンタクトボールランプ528内におけるボール534の配置を支援することもできる。図示のように、リングギヤ518上では、第1のアンギュラコンタクトボールランプ526からのボールレース530と、第2のアンギュラコンタクトボールランプ528からのボールレース530とが互い違いになり、第1のアンギュラコンタクトボールランプ526からリングギヤ518に加わる力と、第2のアンギュラコンタクトボールランプ528からリングギヤ518に加わる力とを均一にして薄い材料の使用を可能にする。
【0015】
上記の本発明の説明は、例示及び説明目的で行ったものである。この説明は、完全であることや、或いは開示した正確な形に本発明を限定することを意図するものではなく、上記の教示に照らして他の修正及び変形も可能である。実施形態は、本発明の原理及びその実際の応用を最良に説明することによって、検討される特定の用途に適した様々な実施形態及び様々な修正において他の当業者が本発明を最も良く利用できるように選択し説明したものである。添付の特許請求の範囲は、先行技術によって限定されている限りを除き、本発明の他の実施形態を含むものとして解釈すべきであると意図される。本出願は、2016年10月13日に出願された米国仮特許出願第62/407,880号、及び2017年9月12日に出願された米国特許願第15/702,634号の利益を主張するものであり、これらの開示はその全体が引用により本明細書に組み入れられる。