(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】標識化グリコシルアミンの迅速調製およびそれを生成するグリコシル化生体分子の分析方法
(51)【国際特許分類】
G01N 30/06 20060101AFI20220411BHJP
C12Q 1/34 20060101ALI20220411BHJP
G01N 27/62 20210101ALI20220411BHJP
G01N 30/72 20060101ALI20220411BHJP
G01N 30/74 20060101ALI20220411BHJP
G01N 30/88 20060101ALI20220411BHJP
G01N 33/52 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
G01N30/06 E
G01N30/06 Z
C12Q1/34
G01N27/62 V
G01N30/72 C
G01N30/74 E
G01N30/88 E
G01N33/52 C
(21)【出願番号】P 2017523362
(86)(22)【出願日】2015-10-28
(86)【国際出願番号】 US2015057848
(87)【国際公開番号】W WO2016069764
(87)【国際公開日】2016-05-06
【審査請求日】2018-10-16
【審判番号】
【審判請求日】2021-03-31
(32)【優先日】2015-01-26
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2014-10-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】509131764
【氏名又は名称】ウオーターズ・テクノロジーズ・コーポレイシヨン
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ローバー,マシュー・エイ
(72)【発明者】
【氏名】ブルースミーシュ,ダリル・ダブリュ
(72)【発明者】
【氏名】コーザ,ステファン・エム
【合議体】
【審判長】三崎 仁
【審判官】渡戸 正義
【審判官】井上 博之
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2009/258437(US,A1)
【文献】特開2006-38674(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/171658(US,A1)
【文献】ULLMER Roman et al., Derivatization by 6-aminoquinolyl-N-hydroxysuccinimidyl carbamate for enhancing the ionization yield of small peptides and glycopeptides in matrix-assisted laser desorption/ionization and electrospray ionization mass spectrometry, Rapid Communications in Mass Spectrometry, 2006, Vol.20, pp.1469-1479
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N30/06
G01N30/88
G01N33/50
G01N33/53
G01N33/68
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
グリコシル化生体分子を分析する方法であって、
糖タンパク質を含有する生物学的試料を用意するステップ;
前記糖タンパク質を酵素と接触させて、脱グリコシル化糖タンパク質を含む脱グリコシル混合物を生成するステップ;
無水ジメチルホルムアミド(DMF)と混合された標識試薬を含む試薬溶液を用意するステップ;ならびに
前記脱グリコシル混合物をN-ヒドロキシスクシンイミドエステル試薬またはN-ヒドロキシスクシンイミドカルバメート試薬から選択される標識試薬および無水ジメチルホルムアミド(DMF)を含む試薬溶液と混合して反応混合物を生成するステップであって、ここで、前記反応混合物が当該反応混合物中の第一級アミンおよび第二級アミンを50から1000倍の量で超えるモル過剰量の標識試薬、遊離したグリコシルアミン、タンパク質性アミンおよび誘導体化グリコシルアミンを含むステップ;ならびに
クエンチング溶液を前記反応混合物に添加するステップであって、ここで前記反応混合物のpHが、10以上にシフトされ、および80から100モルパーセントの量で誘導体化グリコシルアミンをもたらすステップ
を含む方法。
【請求項2】
前記誘導体化グリコシルアミンを分離するステップおよび前記誘導体化グリコシルアミンを検出するステップをさらに含む、請求項
1に記載の方法。
【請求項3】
糖タンパク質を分析する方法であって、
分析する糖タンパク質を天然酵素もしくは合成酵素による技法または化学的な技法により脱グリコシル化することによって脱グリコシル混合物を生成するステップ;
極性非プロトン性、非求核性の有機溶媒中に標識試薬を含む試薬溶液を用意するステップ;
(a)N-ヒドロキシスクシンイミドエステル試薬またはN-ヒドロキシスクシンイミドカルバメート試薬から選択される標識試薬、および極性、非プロトン性および非求核性の、溶媒を含む試薬溶液を、(b)前記脱グリコシル混合物および(c)HEPESを含むバッファー溶液を含む混合物と混合するステップであって、ここで、誘導体化グリコシルアミンが80から100モルパーセントの量で得られるステップ;ならびに
前記誘導体化グリコシルアミンを、少なくとも1種の吸着剤を有するオンライン固相抽出により分離するステップ;ならびに
前記誘導体化グリコシルアミンを、LC、MS、UVもしくはSCFC単独でまたは組合せにより検出するステップであって、ここで、前記誘導体化グリコシルアミンの検出が前記グリコシル化生体分子の存在および量を示すステップ
を含む方法。
【請求項4】
前記吸着剤を洗浄して反応副生成物の除去を円滑化するステップをさらに含む、請求項
3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その全体を参照により本明細書に組み込む、2014年10月30日に出願された米国仮出願第62/072,747号および2015年1月26日に出願された米国仮出願第62/107,994号の優先権を主張する。
【0002】
連邦政府支援研究または開発に関する陳述
なし
【0003】
共同研究契約書の当事者名
なし
【背景技術】
【0004】
生物学的起源に由来する化合物を分析する方法は、クロマトグラフィーによる分離後の検出を容易にする蛍光体を導入する誘導体化ステップを含むことが多い。様々な誘導体化の方法が存在するが、処理時間が長いことが、一旦得られた分析データを効果的に用いる上で深刻な要因である。試薬および関連する方法が、特にアミンまたはアミノ基を有する化合物の分析に関して、リードタイムを低減させるために近年開発されてきた。しかし、第一級アミンと水酸基との間の所望の反応選択性が得られない場合が多い。標識化化合物の収率は最適化されていない。加えて、先行技術の方法では「過剰標識化」化合物が頻繁に生じる。さらに、高有機溶媒中において標識化またはタグ付き化合物の溶解性は低く、ダウンストリーム固相抽出法(「SPE」)、とりわけ親水性相互作用クロマトグラフィーに基づくSPEを妨げる恐れがある。また、先行技術による分析は、化合物は生物学的起源から分離されていることおよび/または誘導体化に先立ち洗浄ステップを施されていることを一般に必要とし、追加のステップを生じおよび分析手順を減速している。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、化合物を分析する方法であって、標識化化合物のその後の分析時に高分解能が可能となるように生物学的試料の劣化を生じることなくまたは過剰標識することなく、誘導体化ステップが、選択的に標識されているタグ付き化合物を高収率で生成する方法の必要性がある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(発明の要旨)
グリコシル化生体分子を分析する方法であって、(a)脱グリコシル混合物を生成するステップであって、ここでグリコシル化生体分子が、天然酵素もしくは合成酵素による技法または化学的な技法により脱グリコシル化されているステップ;(b)極性非プロトン性、非求核性の有機溶媒中に標識試薬を含む試薬溶液を用意するステップ;(c)反応混合物中において、脱グリコシル混合物を約2.5:約1の容積比で試薬溶液と混合するステップ;および(d)誘導体化グリコシルアミンを検出するステップを含む方法。反応混合物は約10から約2000の範囲の量で修飾可能なアミンを超えるモル過剰量の標識試薬を含有し、遊離したグリコシルアミン、タンパク質性アミンおよび誘導体化グリコシルアミンを含むことができる。これらのステップは意図的にタンパク質体を枯渇することなく実施され得る。次いで、誘導体化グリコシルアミンは、オンラインもしくはオフラインSPEおよび/または他の分離法を使用して反応混合物から分離されてもよく、反応混合物から分離されなくてもよい。任意選択的に、クエンチング溶液は、反応混合物のpHが10超にシフトされるように、反応混合物に添加され得る。誘導体化グリコシルアミンの収率は、反応混合物の約80から約100モルパーセントの量とすることができる。次いで、誘導体化グリコシルアミンは、反応混合物から分離され、クロマトグラフィー検出、蛍光検出、質量分析(「MS」)もしくは紫外線(「UV」)検出および/またはこれらの組合せにより検出される。一部の実施形態では、方法は、グリコシル化生体分子を酵素と接触させて、脱グリコシル混合物を生成するステップをさらに含むことができるか、または他の酵素による技法もしくは化学的な技法により脱グリコシル化され得る。
【0007】
別の態様では、グリコシルアミンの迅速誘導体化の方法もまた本明細書に記載されている。一部の実施形態では、グリコシルアミンの迅速誘導体化の方法は:(1)生物学的試料を用意するステップ;(2)生物学的試料をペプチドN-グリコシダーゼFと組み合せて、脱グリコシル混合物を生成するステップ;(3)無水ジメチルホルムアミド(DMF)と組み合わされた標識試薬を含む試薬溶液を用意するステップ;ならびに(4)脱グリコシル混合物を試薬溶液と混合して、標識試薬、遊離したグリコシルアミン、タンパク質性アミンおよび誘導体化グリコシルアミンを含む反応混合物を生成するステップを含む。反応混合物は約10から約1000の量で修飾可能なアミンを超えるモル過剰量の標識試薬を有することができる。一部の実施形態については、モル過剰量の他の範囲も本明細書に記載されている。
【0008】
記載の方法では、有機溶媒の反応混合物中濃度は約0から約50パーセントとすることができる。一部の実施形態では、有機溶媒の反応混合物中範囲は約10から約40パーセントとすることができる。一部の例示的実施形態では、有機溶媒の反応混合物中範囲は約20容積パーセントから約30容積パーセントとすることができる。脱グリコシル混合物は、約9:1から約1:9の容積比で試薬溶液と混合される。例示的実施形態では、脱グリコシル混合物は、約2.5対約1の容積比で試薬溶液と混合されて、約25から約30パーセントの試薬溶液を有する反応混合物を生じる。一部の実施形態では、試薬溶液の反応混合物中量は28.6パーセントである。試薬溶液は約大気温度に維持されている温度でもよく、大気温度未満から約4℃に維持されている温度でもよい。バッファー溶液が脱グリコシル混合物に添加され得る。バッファー溶液はリン酸ナトリウムでもHEPESでもよい。あるいは、生物学的試料は、より少ないステップで後の誘導体化反応を円滑化するように、HEPESのようなバッファー溶液中において脱グリコシル化されてもよい。
【0009】
任意選択的に、クエンチング溶液が反応混合物に添加され得る。クエンチング溶液はエチレンジアミンを含み得る。エチレンジアミン対水対アセトニトリルの比は容積で約5対約5対約90とすることができる。次いで、脱グリコシル混合物が試薬溶液と混合されて約2分後から約10分後に、クエンチング溶液は反応混合物に添加され得る。反応混合物のpHは約10超にシフトし得る。
【0010】
一般に、分析向けにグリコシル化生体分子を調製するために、これは合成的にまたは天然にいずれかで脱グリコシル化され得る。より具体的には、標識化N-グリカンを調製するために、生物学的試料は、脱グリコシル混合物を生成するペプチドN-グリコシダーゼF(PNGアーゼF)により脱グリコシル化され得る糖タンパク質のようなグリコシル化生体分子を有することができる。標識試薬は、無水ジメチルホルムアミド(DMF)および/または他の極性非プロトン性、非求核性の有機溶媒中において組み合わされて、試薬溶液を生じることができる。脱グリコシル混合物および試薬溶液は、約2.5対約1の容積比(2.5:1、v/v/v)で引き続いて混合されて、反応混合物を生じ、グリコシルアミンは標識試薬によって迅速に標識化され得る。誘導体化グリコシルアミンは、クロマトグラフィー分析、質量分析、紫外線検出および/または蛍光検出に供せられ得る。
【0011】
本明細書に記載のグリコシルアミンの迅速標識方法は、分離法および検出法に関して代替形態を含み得る。分離法としては、限定されないが、親水性相互作用クロマトグラフィー(「HILIC」)、固相抽出(「SPE」)、キャピラリー電気泳動、高pH陰イオン交換クロマトグラフィーまたは逆相液体クロマトグラフィーがある。検出法としては、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)、超臨界流体クロマトグラフィーのようなクロマトグラフィー検出、紫外線(「UV」)検出、蛍光検出、マトリックス支援レーザー脱離イオン化質量分析、エレクトロスプレイイオン化質量分析および/またはパルスアンペロメトリック検出があり得る。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】本明細書に記載の方法のステップを示しているフローダイヤグラムである。
【
図2】アミノ-標識化基の収率に対するおよびブラジキニンのアミン基と水酸基の間の反応選択性に対する温度の影響を示しているチャートである。
【
図3A】アミノ-標識化基の収率に対するおよびブラジキニンのアミン基と水酸基の間の反応選択性に対する有機溶媒DMSOの影響および有機溶媒濃度の影響を示すグラフである。
【
図3B】アミノ-標識化基の収率に対するおよびブラジキニンのアミン基と水酸基の間の反応選択性に対する有機溶媒DMFの影響および有機溶媒濃度の影響を示すグラフである。
【
図4A】アミノ-標識化基の収率に対するバッファー200mMホウ酸ナトリウムの影響を示すグラフである。
【
図4B】アミノ-標識化基の収率に対するバッファー200mMリン酸ナトリウムの影響を示すグラフである。
【
図4C】200mMホウ酸ナトリウムバッファーおよび200mMリン酸ナトリウムバッファーが反応混合物において使用されるときの、水酸基において修飾されたグリコシルアミンの%を示す図である。
【
図5A】アミノ-標識化基および水酸基の収率に対するおよびブラジキニンのアミン基と水酸基の間の反応選択性に対するバッファー濃度およびイオン強度の影響を示すグラフの図である。ブラジキニンのアミノ-標識化基の収率に対するバッファー濃度およびイオン強度の影響を示す図である。
【
図5B】アミノ-標識化基および水酸基の収率に対するおよびブラジキニンのアミン基と水酸基の間の反応選択性に対するバッファー濃度およびイオン強度の影響を示すグラフである。ブラジキニンの水酸基の収率に対するバッファー濃度およびイオン強度の影響を示す図である。
【
図6】アミノ-標識化基の収率に対するおよびブラジキニンのアミン基と水酸基の間の反応選択性に対する反応時間の影響を示すグラフである。
【
図7A】アミノ-標識化基の収率に対するおよび過剰標識化グリカンのレベルに対するモル過剰量のタグ付け試薬の影響を示しているクロマトグラムである。
【
図7B】アミノ-標識化基の収率に対するおよび過剰標識化グリカンのレベルに対するモル過剰量のタグ付け試薬の影響を示しているクロマトグラムである。
【
図7C】アミノ-標識化基の収率に対するおよび過剰標識化グリカンのレベルに対するモル過剰量のタグ付け試薬の影響を示しているクロマトグラムである。
【
図7D】アミノ-標識化基の収率に対するおよび過剰標識化グリカンのレベルに対するモル過剰量のタグ付け試薬の影響を示しているクロマトグラムである。
【
図7E】アミノ-標識化基の収率に対するおよび過剰標識化グリカンのレベルに対するモル過剰量のタグ付け試薬の影響を示しているクロマトグラムである。 これらの図は、グリコシルアミンへの試薬のモル過剰量は、「過剰標識化」種の高(0.2モルパーセント超の)レベルの導入を伴わず高収率(80%超で)を得るために、いかに最適化されなければならないかということを実証している。
【
図8A】蛍光検出を備えるLCによって分析された、プールしたヒトIgGから遊離された蛍光的標識化N-グリコシルアミンの結果を示すクロマトグラムおよび蛍光バックグラウンドレベルに対するクエンチング溶液組成物の影響を示すクロマトグラムである。反応後にエチレンジアミンの添加によってクエンチングした後および1:14:85のギ酸/水/ACN洗浄によって洗浄した後の結果を示す図である。
【
図8B】蛍光検出を備えるLCによって分析された、プールしたヒトIgGから遊離された蛍光的標識化N-グリコシルアミンの結果を示すクロマトグラムおよび蛍光バックグラウンドレベルに対するクエンチング溶液組成物の影響を示すクロマトグラムである。反応後にイソプロピルアミンの添加によってクエンチングした後および1:14:85のギ酸/水/ACN洗浄によって洗浄した後の結果を示す図である。
【
図8C】蛍光検出を備えるLCによって分析された、プールしたヒトIgGから遊離された蛍光的標識化N-グリコシルアミンの結果を示すクロマトグラムおよび蛍光バックグラウンドレベルに対するクエンチング溶液組成物の影響を示すクロマトグラムである。反応後にヘキシルアミンの添加によってクエンチングした後および1:14:85のギ酸/水/ACN洗浄によって洗浄した後の結果を示す図である。
【
図9A】SPE時に用いられた様々な洗浄が異なる影響を有することを示している、標識化グリコシルアミンに対して得られた蛍光クロマトグラムである。容積で約15対約85の比率(15:85(v/v))のDMF/ACNによって洗浄した後のクロマトグラムである。
【
図9B】SPE時に用いられた様々な洗浄が異なる影響を有することを示している、標識化グリコシルアミンに対して得られた蛍光クロマトグラムである。約85パーセントのACNによって洗浄した後のクロマトグラムである。
【
図9C】SPE時に用いられた様々な洗浄が異なる影響を有することを示している、標識化グリコシルアミンに対して得られた蛍光クロマトグラムである。容積で約1対約14対約85の比率(1:14:85(v/v/v))のギ酸/水/ACNによって洗浄した後のクロマトグラムである。
【
図10】本明細書に記載の方法を使用して実施例2において記載されているように、標識試薬-1で標識された、プールされたヒトIgGのグリコシルアミンついて得られた蛍光クロマトグラムである。
【
図11A】本明細書に記載の方法を使用して実施例3において記載されているように、標識試薬-1で標識された、セツキシマブグリコシルアミンについて得られた蛍光クロマトグラムである。
【
図11B】本明細書に記載の方法を使用して実施例3において記載されているように、
図11Aに相応する基準ピーク強度クロマトグラムである。
【
図12A】HEPES緩衝での反応のSPEによる、標識試薬-1で標識した抗シトリニンマウスIgG1グリコシルアミンについて得られたHILIC蛍光クロマトグラムである。
【
図12B】リン酸塩緩衝での反応のSPEによる、標識試薬-1で標識した抗シトリニンマウスIgG1グリコシルアミンについて得られたHILIC蛍光クロマトグラムである。
【
図13A】標識反応後混合物の直接のHILIC分析による、標識試薬-1で標識した抗シトリニンマウスIgG1グリコシルアミンについて得られたHILIC蛍光クロマトグラムである。
【
図13B】標識反応後混合物のオンラインSPE-HILIC分析による、標識試薬-1で標識した抗シトリニンマウスIgG1グリコシルアミンについて得られたHILIC蛍光クロマトグラムである。
【
図13C】標識反応後混合物の高pH/低pHオンラインSPE-HILIC分析による、標識試薬-1で標識した抗シトリニンマウスIgG1グリコシルアミンについて得られたHILIC蛍光クロマトグラムである。
【
図14A】抗シトリニンマウスIgG1由来のRFMS標識化N-グリカンのHILIC-FLRーMSの図である。
【
図14B】抗シトリニンマウスIgG1由来のIAB標識化N-グリカンのHILIC-FLRーMSの図である。
【
図14C】RFMS標識化グリカンおよびIAB標識化グリカンの応答係数を示す図である。
【
図15A】プールされたヒトIgG由来のRFMS標識化N-グリカンのHILIC-FLRーMSの図である。
【
図15B】プールされたヒトIgG由来の2AB標識化N-グリカンのHILIC-FLRーMSの図である。
【
図15C】RFMS標識化グリカンおよび2AB標識化グリカンの応答係数を示す図である。
【
図16】グリカンラベルの相対的性能を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
生物学的試料の化合物を分析する新規方法が本明細書において提供されている。グリコシル化生体分子を分析するために、当該分子は天然にまたは合成的処理によって脱グリコシル化され、次いで選択条件下で標識試薬と接触して、最適収率でおよび最小の過剰標識を伴って誘導体化グリコシルアミンを生じる。試料の生体分子をまず分離せずに、誘導体化が実行される。クロマトグラフィー分析も得られた誘導体混合物に関して直接に実行され得、かかる分析としては、限定されないが、高速液体クロマトグラフィー(「HPLC」)、超高速液体クロマトグラフィー(UHPLC)、質量分析、超臨界流体クロマトグラフィー、紫外線(「UV」)検出および/または蛍光検出(「FLR」)がある。しかし、分離としては、本明細書に記載されているようにSPEオフライン技法およびSPEオンライン技法が任意選択的にある。
【0014】
本明細書に記載の方法は、参照により本明細書に組み込む、米国特許出願第62/100,252号、Hewitsonらにより記載されたもののような自動化分析および処理システムにおける使用に適している。限定されないが、タンパク質およびペプチドの同定および定量、細胞培養培地ならびに食品および飼料の栄養成分のモニタリングおよび分析を含めて、幅広い用途向けの高速液体クロマトグラフィーまたは検出器用のこれらの自動化サンプリングおよび反応システムが、本明細書において提供されている。自動化サンプリングおよび反応システムは、高速液体クロマトグラフィープロセスおよび検出に対して最適化され得るターンキー分析を供給することができる。開示された方法およびシステムは様々な種類の検出器、TUV、PDAまたはFLR検出器とともに使用され得る。自動化サンプリングおよび反応システムはまた、特定用途向け性能適確性に有効であり、世界的に日毎に、機器間で、研究室間で同一の結果を提供する。
【0015】
加えて、本明細書に記載の方法は、種々の生産および流通の自動化されたワークフローシステムおよびソリューションにおける使用に適している。本明細書に記載の方法は、液体取扱い用の自動化されたワークフローシステムおよびロボットシステムを使用する自動化されたワークフローシステムにおいて使用されて、処理能力を高め、研究室に効率性および安全性の向上をもたらすことができる。自動化されたワークフローシステムは、バイオファーマ、研究および臨床診断向けのプラットホームとして機能することが多く、限定されないが、ディジタルディスペンサー、DNA抽出、PCRセットアップ、エライザ、マルチチャンネルピペッティング、ピペッティングプラットホーム、ならびに研究室において高性能ワークフローを作成するために組み込まれている関連装置およびソフトウェアを含む。
【0016】
本発明の方法では、グリコシルアミンが、タンパク質体が混合物から枯渇されていない条件下の溶液中で標識される。温度、有機溶媒組成、有機溶媒濃度、バッファー組成、pH、イオン強度、試薬のモル過剰量および時間を含めて、反応混合物の条件は、グリコシルアミンの第一級アミンと水酸基の間の所望の反応選択性が達成され得るように、選択されおよび制御される。本明細書に記載の方法では、種々の標識試薬、特に迅速タグ付け標識試薬を使用してグリコシルアミンを標識するか、またはタグ付けするための条件は最適である。
【0017】
本明細書で使用される、句「グリコシル化生体分子」とは、タンパク質、ペプチド、グリカン、アミノ酸、脂質、DNA、RNAおよび核酸を意味しおよび含む。分析されるべきグリコシル化生体分子(単数形でまたは複数形で、生体分子または化合物という場合もある)は、第一級アミン、第二級アミンまたは第三級アミンを持つグリカンを天然に有してもよくまたはこれを生じることができる。第一級アミンまたは第二級アミンは単独でまたは複数で存在し得る。第一級アミンおよび第二級アミンは、本明細書に記載の標識試薬に対して「修飾可能な」アミンと考えられる。より具体的には、アミンは、孤立電子対を持つ窒素原子を含有する官能基を持つ有機化合物である。一般には、アミンはアンモニアの誘導体であって、ここで、1個以上の水素原子がアルキル基またはアリール基のような置換基によって置換されている。例示的アミンとしては、アミノ酸、生体アミン、トリメチルアミンおよびアニリンがある。アンモニアの無機誘導体も本明細書ではアミンという。さらに、グリコシル化生体分子は試料内で単一種であってもよく複数の種類の混合物であってもよい。グリコシル化生体分子は、限定されないが、アミン(第一級、第二級など)、アミノ酸、ペプチド、タンパク質、ポリアミン、グリコシル化化合物、グリカン基を持つ化合物または糖タンパク質などを含み得る。
【0018】
より一般には、グリコシル化生体分子は、糖が天然にまたは合成的処理によって付加された任意の分子を意味し得る。したがって、グリコシル化生体分子、グリコシル化化合物または糖タンパク質は、翻訳時修飾または翻訳後修飾をうけ、およびそれに結合した1個以上の炭水化物およびグリカン基を含有する化合物または分子である。このようなグリコシル化化合物は天然に存在し得または合成的に生成され得、これらにはタンパク質、脂質、アミノ酸(ペプチドまたはタンパク質中の残基として存在していても)、抗体、ペプチドまたは他の有機分子がある。N-グリカン(またはN-結合型グリカン)はアスパラギン側鎖またはアルギニン側鎖のアミド基またはアミノ基の窒素に結合し得る。他方、O-結合型グリカンは、セリン側鎖、トレオニン側鎖、チロシン側鎖、ヒドロキシリジン側鎖またはヒドロキシプロリン側鎖のヒドロキシル酸素に結合され得るまたは脂質の酸素に結合され得る。本明細書に示されている方法の文脈において、グリコシル化化合物は試料中に単一で存在しても複数で存在してもよい。
【0019】
グリコシルアミン、またはN-グリコシドは、炭水化物へのβ-N-グリコシド結合を持つアミンからなる化合物のクラスであって、環状ヘミアミナールエーテル結合(α-アミノエーテル)を形成している。換言すれば、グリコシルアミンとは、アミノ基に結合したグリコシル基を有する化合物である。グリコシルアミンとしては、限定されないが、アデノシンのようなヌクレオシドおよびN,N-ジメチル-β-D-グルコピラノシルアミン、グルコシルアミン、グルコシル-n-ブチルアミン、グルコシル-n-ヘキシルアミン、グルコシル-n-オクチルアミン、グルコシル-n-デシルアミン、グルコシル-n-ドデシルアミン、マルトシル-n-ドデシルアミンのようなアミン基を持つグリコシドがあり得る。さらに、D-グルコース、D-ガラクトース、ラクトース、セロビオースおよびマルトースは、炭酸水素アンモニウムの1当量の存在下でアンモニアの水溶液で処理することで相応するグリコシルアミン、1-アミノ-1-デオキシ-D-グルコース、1-アミノ-1-デオキシ-D-ガラクトース、1-アミノ-1-デオキシラクトース、1-アミノ-1-デオキシセロビオースおよび1-アミノ-1-デオキシマルトースを全てもたらす。
【0020】
特定のグリコシル化パターンが、健康と疾患の状態に関連付けられてきたが、N-グリカン分析が、医薬生物工学製造を含めて、複数の産業によってますます応用されてきている。多くのタンパク質をベースとしたバイオ医薬品はグリコシル化タンパク質であるが、タンパク質のグリコシル化における制御不良の変化が大きな規制事項である。例えば、個々のグリカン構造物の相対的量が、製造における増加ステップと精製ステップの安定化が確立するように、プロセス進行中はモニターされる必要がある。N-グリカン(グリコシルアミン形態)の蛍光標識は、検出の感度と選択性の双方ならびにグリカンのクロマトグラフィーの挙動を改善することから、生物学的試料中のN-グリカンのアミノ酸の分布プロファイルを検出するのに有益である。
【0021】
したがって、酵素によるおよび化学的な幅広い技法が、タンパク質脱グリコシル化およびグリカン遊離に有効である。酵素による脱グリコシル化技法ではグリコシダーゼを活用するが、このグリコシダーゼとしては、限定されないが、N-グリコシダーゼA(PNGアーゼA)、N-グリコシダーゼF(PNGアーゼF)、O-グリコシダーゼ、ノイラミニダーゼ、β1-4ガラクトシダーゼおよびβ-N-アセチルグルコサミダーゼをあげることができる。例えば、本明細書で詳細に記載されているように、糖タンパク質試料は、酵素、すなわちペプチドN-グリコシダーゼF(PNGアーゼF)で脱グリコシル化され得るが、この酵素は、還元末端上のα(1-3)結合型フコースを含有する化合物を除いて、糖タンパク質からN-結合型オリゴサッカライドを脱離させる。しかしながら、N-グリコシダーゼA(PNGアーゼA)は全てのN-グリカンを脱離させ得る。他の有用な酵素にはエンドグルコシダーゼおよびN-グリカナーゼのようなエンドグルコシダーゼ類またはグリコアミダーゼ類が含まれる。酵素による脱グリコシル化の場合は、N-グリカンがグリコシルアミンとしてアスパラギン残基から遊離される。
【0022】
糖タンパク質からのN-グリカンの化学的遊離の場合は、糖タンパク質は、90℃にて数時間無水ヒドラジンによって処理され得る。糖タンパク質からO-グリカンを遊離させるために、糖タンパク質は、O-グリカナーゼによって処理されるまたは無水ヒドラジンによって、具体的には60℃にて最大6時間、化学的に処理される。あるいは、O-グリカンは、還元性アルカリ触媒β脱離、非還元性β脱離向けにアルカリ水素化ホウ素を用いることによってまたはトリフルオロメタンスルホン酸または種々のアミンのような他の遊離試薬を使用することによって遊離され得る。他の化学的技法としては、限定されないが、ヒドラジン分解およびトリフルオロメタンスルホン(TFMS)酸処理がある。
【0023】
さらに、グリカン分析が、生物学的研究および臨床分析においてますます応用されてきている。特定のグリコシル化パターンが、健康と疾患の状態に関連付けられてきた。さらに、グリコシル化の変化によって、例えば、組換え免疫グロブリンのFc部分のグリコシル化について示されているようにタンパク質の生物学的活性を調整することが可能である。したがって、糖タンパク質由来のオリゴサッカライドの分析へのアプローチは、関連したおよび次いで誘導体化されたグリカンの分析に集中することが多い。しかし、これらのアプローチは担体糖タンパク質と無関係にオリゴサッカライド構造の詳細分析を可能とするが、グリカンの結合部位に関しては何も情報を提供しない。
【0024】
したがって、タンパク質グリコシル化プロファイルの特性評価は、種々の規制目的およびバイオ医薬薬物の製造にとって必要であることから、非常に重要である。遊離したグリカンのプールはきわめて複雑でおよび構造的に不均一性であり、このことによって、分離について効率的な方法および高感度な検出法が必要とされている。個々のグリカン構造物の相対的量が、製造における増加ステップと精製ステップの安定化が確立するように、プロセス進行中はモニターされる必要がある。
【0025】
したがって、標識化グリコシルアミンの調製方法が本明細書に提示されている。以前に記載されたことのない技法が標識試薬と一緒に使用されて、すぐに分析可能なグリカンを迅速に製造する。これらの技法は、グリコシルアミンを、表1に標識試薬-1、標識試薬-2、標識試薬-3、標識試薬-4と下に特定されているような、蛍光部分、プロトン親和性/電荷タグ基およびN-ヒドロキシスクシンイミドエステルまたはカルバメート反応基で構成される標識試薬で標識するステップを含む。
【0026】
【0027】
本明細書に記載の方法と関連付けて使用され得る他の標識試薬としては、未出版である、Rapid Fluorescence Tagging of Glycans and Other Biomolecules with Enchanced MS Signalsと題する、米国特許出願第14/458,760号において特定されたそれらの標識試薬がある。参照により本明細書に組み込む、第2頁第4行から第4頁第9行まで;第11頁第4行から第25頁第18行までおよび第29頁第1行から第30頁第10行までを参照されたい。さらなる標識試薬はまた、参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,148,069号においてCol.8、l.56からCol.9、l.54におよびCol.15、l.22から29に;参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第7,494,815号においてCol.7、l.19からCol.11、l.24に;参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第8,124,792号においてCol.2、l.13からCol.4、l.5およびCol.7、l.11からCol.17、l.20に;ならびに参照により本明細書に組み込まれる、米国特許第5,296,599号においてCol.4、l.66からCol.5、l.32およびCol.5、l.66からCol.7、l.28に見い出され得る。
【0028】
さらに、記載されている方法は、代替の標識試薬に由来するものを含めて、他の標識化グリコシルアミンの調製のための基礎とすることができる。本明細書に記載されているように、かかる標識試薬は、イソシアネート、イソチオシアネートまたはイミデート/チオイミデートのような代替の反応基を有することができ、および/または陰イオンモード質量分光分析を高める電荷タグのような代替の官能性を有することができる。
【0029】
温度、有機溶媒組成、有機溶媒濃度、バッファー組成、pH、イオン強度、試薬のモル過剰量および時間を含めて、標識反応の条件は、第一級アミンと水酸基の間の所望の反応選択性が達成されるように、選択されおよび制御される。標識化グリカンの収率は最適化され、いわゆる「過剰標識化」グリカン(>1標識で修飾されているグリカン/グリコシルアミン)の生成は最小限化される。親水性アミン含有化合物、すなわちエチレンジアミンで構成されるクエンチング溶液も使用され得る。このクエンチング溶液は、グリコシルアミンが標識試薬と反応させられる時間を制御するとともに、反応のpHを高めのpH(>10)にシフトもさせ、このことが高有機性溶媒(すなわち、>50%アセトニトリル)における標識化グリカンの溶解性を高め、それによって、親水性相互作用クロマトグラフィー(「HILIC」)に基づいたダウンストリームSPE手順が円滑化される。
【0030】
糖タンパク質から遊離されたグリカンは、タンパク質体が混合物から特別の目的を持って枯渇されていない条件下の溶液中で標識される。例示的標識反応が直下に示されている。
【0031】
【0032】
NHSカルバメート試薬および/またはNHSエステル試薬によるグリコシルアミンの標識方法を発展させおよび最適化するために、N-スクシンイミジルN-メチルカルバメート、すなわち低分子、NHSカルバメート試薬(標識試薬-4)を単純ペプチド、ブラジキニンと反応させた。このペプチドがグリコシルアミンに対する代理として使用されたが、このようなことは、それらがアルデヒド末端を有する還元糖に分解することを考慮すると、別個の実験において容易には試験され得ない。Tarentino,A.L.ら、2-Iminothiolane:A Reagent for the Introduction of Sulphydryl Groups into Oligosaccharides Derived from Asparagine-linked Glycans、Glycobiology 1993、3(3)、279-85。ブラジキニンは、1つの第一級アミン(そのN末端)ならびに1つの水酸基のみを含有し、それゆえ、標識収率およびグリコシルアミン誘導体化への選択性を最適化する上で有用なツールである。ブラジキニンはまた、高塩基性の2つのアルギニン残基も含有し、N末端が標識されるときイオン化効率における重大な逸脱について懸念することなく、LC-MSによって反応生成物をアッセイすることを可能としている。
【0033】
その水酸基において(単一水酸基修飾または2つの部位での修飾)修飾されたブラジキニンと一緒に、(単一アミン修飾で)修飾されたブラジキニン集団の%を測定することにより、本発明者らは、標識収率および反応選択性が、水酸基に比べアミンに対し最適な反応条件を発見した。
図2から
図5に示されているように、%修飾対試薬のモル過剰量に関する多数のプロットが提供されている。さらに、この種の反応に対する最適条件の発見が、
図2に示されているように温度、
図3に示されているように有機溶媒組成、
図3に示されているように有機溶媒濃度、
図4に示されているようにバッファー組成、
図4に示されているようにpHおよび
図5に示されているようにイオン強度を含めて、例示されている。
【0034】
手短に言えば、誘導体化化合物の高い標識率は、(1)温度が大気温度から亜大気温度であった場合;(2)ジメチルホルムアミド(DMF)が有機溶媒として使用された場合;(3)DMFが反応混合物の20%-30%以下を占めた場合;(4)pH7.9からpH8.2の間のリン酸ナトリウム溶液バッファーが用いられた場合および(5)リン酸塩濃度が≦50mMに維持された場合、過剰標識の最小限レベルとともに達成された。過剰標識は約1モルパーセント未満であり、より好ましくは約0.0から約0.5モルパーセントであり、一部の実施形態では約0.0から約0.2パーセントである。また、バッファー濃度は約5mMから約1000mMの間とすることができ、または一部の実施形態では約5mMから約200mMの間とすることができまたは約5mMから約100mMの間とすることができまたは約5mMから約50mMの間とすることができる。標識化グリコシルアミンの高収率は、約10から約2000の間に範囲する量で、約30から約1000の間に範囲する量で、約40から約500の間に範囲する量でまたは約50から約300の間に範囲する量で修飾可能なアミンを超えるモル過剰量の標識試薬を有すると、達成され得る。さらに、収率の点で必ずしも有利ではないが、有機溶媒が標識試薬-1のようないくつかの標識試薬の可溶化に有用であることが示された。本発明者らは、20-30%DMFが、収率および標識反応の収率および選択性に重大な影響を与えることなく可溶性を高めるのに十分であることをさらに発見した(
図3)。このため、20-30%DMFで構成される反応混合物が好ましい。
【0035】
図3に提供されているように、ジメチルスルホキシド(DMSO)およびジメチルホルムアミド(DMF)について有機溶媒の組成および濃度が、標識反応の共溶媒として試験された。DMSOおよびDMFの双方が、極性の非プロトン性溶媒であり、大きな比誘電率(>20)および大きな双極子モーメントの双方を有する。他の極性の非プロトン性溶媒としては、テトラヒドロフラン(THF)およびアセトニトリルがある。高い極性を持って、これらの溶媒は、種々の陰イオンおよびCN(-)およびHO(-)のような求核基を含めて荷電種を溶解する。水素結合を持たず、求核基は溶液中で比較的「フリー」であり、より反応的である。したがって、本発明の方法で特に有用な溶媒としては、非求核性の、極性非プロトン性溶媒があげられる。
【0036】
一般に、非プロトン性溶媒について共通する特徴としては:(1)水素結合を受け入れることができる溶媒、(2)酸性の水素中心を有さない溶媒(アセトンおよびエステルはこの基準を欠く);および(3)有機塩を溶解する溶媒があげられる。極性非プロトン性溶媒は、多くの塩を溶解するが、酸性の水素を欠いている溶媒である。この種の溶媒は、中間的な誘電率および極性を有することが多い。しかし、上に記載されたように、ある特定の極性非プロトン性溶媒は高い比誘電率および高い双極子モーメントの双方を有し、別の例はアセトニトリル(「MeCN」)およびHMPA(ヘキサメチルホスホラミド)である。
【0037】
最適反応時間を定めるために、さらにより具体的に、反応が終了する前に反応が進行させられなければならない時間を定めるために、ブラジキニンアッセイに基づいた時間経過研究が実行された。
図6に、ジエチルアミンの添加により反応を終了させる前に、種々の長さの時間の間、標識試薬-4をブラジキニンと反応させる時間経過実験からの結果を示す。
図6に示されているように、タグ付け化合物と総第一級アミン濃度の最適モル比を得るために、標識反応が、500倍、400倍、300倍、200倍および100倍モル過剰量の濃度にて標識試薬-1を使用して実行された。この時間経過によって、概説された条件下でのNHSカルバメートの反応は、120秒後には効率的に完了していることがわかる。グリコシルアミン標識を実現するには、NHSカルバメート反応は、さらなる試料処理が実行される前に、2から10分の間進行させられることがしたがって好ましい。これ故、反応時間は約10秒から約30分の間に範囲することができまたは一部の実施形態では反応時間は約30秒から約10分であり、好ましくは、反応時間は約2分から約5分の間である。
【0038】
上記の方法が用いられて、マウスIgGおよびマウスSp20細胞株から発現されたキメラIgG(セツキシマブ)を含めて、いくつかのモノクローナル抗体から遊離されたN-グリカンを標識した。標識化N-グリカンを調製するために、糖タンパク質試料がペプチドN-グリコシダーゼF(PNGアーゼF)によって脱グリコシル化され、続いて室温にて標識試薬と反応させられる。標識試薬が無水ジメチルホルムアミド(DMF)中で濃度127mMに溶解させられる。脱グリコシル混合物および試薬溶液が2.5:1の容積比で続いて混合されて、およそ36mMの標識試薬および4.8μMの遊離N-グリカン(グリコシルアミンの形態で)で構成される反応混合物を生じる。これらの条件下で、グリコシルアミンは試料に由来するその他のアミン種と、最も重要なことに前駆体糖タンパク質のタンパク質性アミンと一緒に反応混合物中に存在する。糖タンパク質はN-グリカン部位よりさらに多数のタンパク質性アミン(すなわちリジン残基)を含有する傾向がある。したがって、脱グリコシル混合物中の最も豊富なアミンはタンパク質性アミンである。
【0039】
本発明者らは、タンパク質性アミンを試料中に特別の目的を持って維持することがスピードおよび再現性の点から有利であることを、さらに発見した。したがって、より高濃度の標識試薬(すなわち標識試薬-1)が反応混合物に添加され得、なんら他の説明のつかないアミンおよび求核基は標識の収率に対して取るに足らない影響を及ぼす。グリコシルアミンの標識は、結果として、試料間でさらに再現性がある。加えて、標識試薬の量は、アミン修飾の所望の特性に向けてさらに容易に調整され得る。例えば、標識化グリコシルアミンの高収率が、過剰標識化のグリカン種が生じてしまうことをあまり懸念することなくさらに容易に入手され得る。
【0040】
代替の方法として、標識反応(本明細書では「誘導体化」または「誘導体化ステップ」という場合もある)は、脱グルコシル化混合物からタンパク質体を枯渇させた後にも実行され得る。IgG試料はおよそ75個のタンパク質性アミンを含有する。したがって、約4.8μMのグリコシルアミンを含有する、IgGベースの遊離グリカン混合物(2つのグリカン;各重鎖上に1つ)は、少なくとも180μmの総第一級アミン組成を含有している。本発明者らは、これらの条件下で、生物学的試料の所望の修飾は、総第一級アミン濃度を超える約100から約1000倍の試薬のモル過剰量の範囲である約18から約180mMの標識試薬濃度を実現することによって得られることができることを、発見した。最適標識率および相対的に低レベルである過剰標識化グリカン(≦0.24%)を生じるために、少なくとも約200倍のモル過剰量を用いる条件が好ましい(
図7)。
【0041】
一般には、標識反応は最短で約5分間行われる。それにもかかわらず、タグ付け反応はさらに短い時間で進行することができる(すなわち、数秒)。クエンチング溶液を添加することにより、標識反応は終了させられる。クエンチング溶液は約5:5:90(v/v/v)混合のエチレンジアミン/純水/アセトニトリルを含有する。このクエンチング溶液を添加することにより、標識反応は、著しい濃度のアミン(>100mM)を添加して残存する、未反応の標識試薬を除去することによって終了させられる。クエンチング溶液はまた、反応混合物のpHを約6.5から約9までのpHを10超のpHへとシフトする。塩基性pHへのシフトにより、標識化グリコシルアミンならびに反応副生成物が、これらの副生成物としては尿素結合型の分子があり得うるが、可溶性のままであることが保証される。クエンチング溶液を添加することにより得られた高pHによって、標識のプロトン親和性/電荷タグ基が脱プロトンされ、したがって高有機性/低極性溶液における可溶性が高められる。HILICをベースとしたSPEが使用されて標識反応混合物から標識化グリカンを濃縮する場合のように、このことよって、グリカンの極性に依拠する試料調製手順が円滑化される。Yu,Y.ら、A Rapid Sample Preparation Method for Mass Spectrometric Characterization of N-Linked Glycans、Rapid Commun Mass Spectrom 2005、19(16)、2331-6。溶液のpHが変化しない場合、特にリン酸塩バッファーが誘導体化ステップ中に用いられるとき、反応副生成物および標識化グリコシルアミンの双方が共沈することができる。
【0042】
下の実施例IIに記載されているように、クエンチング溶液は約9対約1の容積比(9:1(v/v))で標識反応混合物に添加される。このステップの際に、標識反応は終了させられ、反応生成物はHILIC SPEに相溶する溶液に溶解させられる。クエンチング溶液中でのアミンの特性はこの手順にとって重要である。アミンは著しく親水性でなければならない。エチレンジアミンがそれゆえ、クエンチング溶液にとって好ましいアミンである。他方、
図8のデータに示されているように、イソプロピルアミンおよびヘキシルアミンのような他の疎水性アミンが試験され、試料が蛍光検出器付きLCによって分析されるとき、反応副生成物に起因する望ましくないバックグラウンドレベルを生じることが見い出された。
【0043】
誘導体化グリコシルアミンを分離するために、Waters Sep-Pak Aminopropyl、Waters Oasis HLBまたはWaters Oasis WAXのような、親水性SPE吸着剤がSPE向けにコンディショニングされ、次に、クエンチングされた、ACN-希釈試料を処理するために使用され得る。Waters Sep-Pak Amino Propylカートリッジは、弱塩基性表面を備える、中程度に極性で、シリカをベースとした結合相を有する。この吸着剤は、酸性/塩基性被検化合物対して様々な選択性を持つ極性吸着剤として使用され得またはpH8未満の水性媒体において弱陰イオン交換体として使用され得る。この種のカートリッジ向けの用途としては、フェノールおよびフェノール性色素、石油画分、糖ならびに薬物および代謝物の抽出が挙げられる。カートリッジは、試料処理時間をスピードアップするために、確かな、陽圧フロー向けにポンプおよび注射につなげるように設計されている。カートリッジはまた、取り外し可能なリザーバーを備え、真空補助フロー機器およびある種の自動化システム上で使用される。SPEは同様に、小型化された、96-ウエルフォーマット機器を用いて実行され得る。
【0044】
ロード後、SPE吸着剤は洗浄されて、反応副生成物の除去をさらに円滑化することができる。反応副生成物から標識化グリコシルアミンを選択的に濃縮することを円滑化する条件が発見された。本発明者らは、1:14:85(v/v/v))のギ酸/水/アセトニトリルを含むSPE洗浄ステップが、検出器を飽和するボイドピークおよび傾斜ベースラインとして、得られた試料のLCクロマトグラムに現れる反応副生成物を低減させるのに効果的であることを、発見した。この点で有用な他のHILIC SPE洗浄溶媒は0.3:14.7:85(v/v/v)のリン酸/水/アセトニトリルである。有用なHILIC SPE洗浄溶媒は酸組成において、例えば、有機溶媒組成が約50から約100容積%であるとき約0.01から約10%まで変化することができ、有機溶媒組成が約60から約98容積%であるとき約0.05から約5%まで変化することができまたは有機溶媒組成が約70から約96容積%であるとき約0.3から約3%まで変化することができおよび有機溶媒組成が約80から約95容積%であるとき約0.1から約3%まで変化することができる。
【0045】
いくつかの洗浄条件がSPE中に用いられた。
図9A、
図9Bおよび
図9Cに示されているように、洗浄条件は標識化グリコシルアミンについて得られた蛍光クロマトグラムに対して影響を及ぼした。1:14:85(v/v/v)のギ酸/水/アセトニトリルは、蛍光バックグラウンドを低減させるのに効果的であり、またロードした試料のpHを高pHから低pHへシフトするのに効果的であるが、高pHはN-アセチルマンノサミンへのN-アセチルグルコサミン残基のエピマー化を誘導すると報告されていることを考えれば、シフトすることは重要な考慮事項である。Liu,Y.ら、Investigation of Sample Preparation Artifacts Formed During the Enzymatic Release of N-linked Glycans Prior to Analysis by Capillary Electrophoresis、Anal Chem.2009、81(16)、6823-9。酸性の1:14:85(v/v/v)のギ酸/水/アセトニトリル洗浄液で洗浄することによってロードした試料のpHを迅速にシフトすることにより、シリカをベースとしたSPE吸着剤の分解が最小限となることも、保証される。Pettersson,S.W.ら、Chemical Stability of Reversed Phase High Performance Liquid Chromatography Silica under Sodium Hydroxide Regeneration Conditions、J Chromatogr A 2007、1142(1)、93-7。
【0046】
本明細書に記載されているように、高pH/低pHのHILIC SPEプロセスにより、標識化グリコシルアミンの分析中に遭遇されるクロマトグラフィーバックグラウンドが低減する。それにもかかわらず、クロマトグラフィーバックグラウンドおよびHILICカラムのボイドタイムの近傍に溶出するピークは、標識試薬をバッファーするのにリン酸塩よりむしろHEPES(2-[4-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-1-イル]エタンスルホン酸)を使用することにより、強度においてさらに低減されることが見い出された。このことは、強度の小さいクロマトグラフィーバックグラウンドを伴うSPE溶出を招いた。
図12Aおよび
図12Bを参照されたい。
【0047】
HEPESによって、試薬副生成物の分布、溶解性またはSPE選択性が都合良く変化したが、クエンチング溶液を必要とせずにそのように変化することが可能である。したがって、脱グリコシル化、遊離されたN-グリコシルアミンのその後の標識向けに、HEPESでバッファーされた溶液が用いられ得る。また、HEPESのように、約7から約9の間のpKaを有し、非求核性である他のバッファリング双性イオン性化合物が、限定されないが、ADA(N-(2-アセトアミド)-2-イミノ二酢酸)、BES(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)-2-アミノエタンスルホン酸)、BICINE(N,N-ビス(2-ヒドロキシエチル)グリシン)、DIPSO(3-(N,N-ビス[2-ヒドロキシエチル]アミノ)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、EPPS(4-(2-ヒドロキシエチル)-1-ピペラジンプロパンスルホン酸)、HEPBS(N-(2-ヒドロキシエチル)ピペラジン-N‘-(4-ブタンスルホン酸))、MOBS(4-(N-モルホリノ)-ブタンスルホン酸)、MOPS(3-(N-モルホリノ)-プロパンスルホン酸)、MOPSO(3-(N-モルホリニル)-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸)、PIPES(1,4-ピペラジンジエタンスルホン酸)、POPSO(ピペラジン-N,N‘-ビス(2-ヒドロキシプロパンスルホン酸))を含めて、使用され得る。陰性であるよりもむしろ中性または陽性であるバッファー化合物のイオン化状態は、クロマトグラフィーバックグラウンドをさらに低減させることができる。したがって、第三級アミン:TEA(トリエチルアンモニア)、BIS-TRIS(2,2-ビス(ヒドロキシメチル)-2,2‘,2“-ニトリロトリエタノール)、BIS-TRISプロパン(1,3-ビス[トリス(ヒドロキシメチル)メチルアミノ]プロパン)のような、陽イオン性、非求核性バッファー化合物が使用され得る。
【0048】
また、オンラインSPEがオフラインSPEのかわりに代替的に使用され得る。オンラインSPEは、一次元トラップ溶出クロマトグラフィーの形態で一般には実行され、ここで、いわゆる「トラッピング」カラムは、流体工学スイッチメカニズムによって分析用カラムとペアを組まれている。トラッピングカラムは、高い線速度でのローディングが可能であり、一方、オンラインSPEの溶出液は廃棄にそらされるように、大粒子吸着剤で一般には構成されている。試料はトラップ/オンラインSPEカラム上に注入され、マトリックス成分フリーおよび不純物フリーに洗浄される。引き続いて、トラップカラムからの溶出液が分析用カラムへと誘導され、試料の成分を溶出および分離するためにグラジエントが展開される。最適のクロマトグラフィーを行う際にアシストするために、トラッピングカラムの固定相は分析用カラムの固定相よりも低い保持力を呈する必要がある。トラッピングカラムと分析用カラムの間のこの整合により、被検化合物が分析用カラム上へと再集中することを確実する。その結果、グラジエント溶出によって、代わりに被検化合物を直接分析カラム上注入することにより得られるものに匹敵する分解能を有する分離がもたらされる。トラップ-溶出クロマトグラフィーは、逆相分離に対して通常実現されてきたが、HILIC分離に対しては実現されてこなかった。このようにして、本発明者らは、被検化合物(すなわち、標識化グリカンを含めてグリカン、グリコシルアミンまたは標識化グリコシルアミン)の新規なタイプに対するHILIC固定相の保持力を発見した。
【0049】
最適オンラインSPE/トラップ-溶出クロマトグラフィー用のHILIC吸着剤および固定相も発見された。特に、本発明者らは、ポリマー性の親水性-親油性バランス(HLB)吸着剤(Waters Oasis HLB)がトラッピング固定相用に理想的なグリカン保持力を呈することを、見い出した。具体的には、本発明者らは、Oasis HLBはおよそ10:90の水/アセトニトリルの条件にてグリカンを保持することを、発見した。一方では、グリカンは水11から15%の水性強度でOasis HLBから溶出し始める。このHILIC保持力は、グリカンHILICクロマトグラフィーにおいて通常使用されている固定相、例えばアミド結合型固定相またはポリオール(ポリヒドロキシル)結合型固定相、の保持力と比較した場合、およそ10%のアセトニトリルによってより弱いという点において独特である。Oasis HLBは、非極性部分とともに反復の親水性、アミド部分で構成されているポリマー性吸着剤である。この構造が、トラッピング/オンラインSPEカラムに有益であることが見い出された、特筆すべきHILIC保持力をOasis HLBに付与している。
【0050】
より具体的には、グリコシルアミン(グリカン)のオンラインSPE用には、Oasis HLBトラッピングカラム(すなわち2.1×30mm Waters Oasis HLB、20μm粒子直径)が、アミド結合型オルガノシリカ粒子で充填された分析用カラム(すなわち2.1×50mm、Waters Glycan BEH Amide 130Å 1.7μm)とペアとされ得る。グリカンがオンラインSPE/トラッピングカラム上にロードされて、一方、溶出液はある流体工学的メカニズムによって廃棄にそらされる。標識化グリコシルアミンはSPEカラムの吸着剤に吸着し、88%ACNのような高有機性移動相を使用して比較的早い流速にて洗浄される。移動相組成はまた、12:88(v/v)のH2O:ACN中の1%強アンモニア溶液のような添加剤で改変され得る。Oasis HLB SPEカラムからの溶出液は、洗浄ステップ後に分析用HILICカラムへと再誘導され得る。洗浄ステップの間、誘導体化副生成物および試料マトリックスの他の成分は廃棄へとフラッシュされる。したがって、洗浄は干渉を防止するように設計されている。また、オンラインSPEを使用することによって、洗浄液は、ごく短い時間期間一般には吸着剤と接触し、マトリックス干渉をさらに回避する。オンラインSPEはまた、分析者が手動の試料調製技法を実行するのに消費しなければならない時間の量を低減させる。
【0051】
次いで、実施例2に記載されているもののようなクロマトグラフィー条件およびグリカンのグラジエント溶出に適したクロマトグラフィー条件が、分離およびクロマトグラムが得られるように用いられる。
【実施例】
【0052】
[実施例1]
標識率を最大におよび過剰標識種を最小限にするための条件の発見
標識試薬(すなわち標識試薬1-4)を10μMのブラジキニンと反応させた。反応は異なる条件下で実行した;全ての反応は、ジエチルアミンの最終濃度がおよそ800mMであるように、5MのジエチルアミンHCl(pH9.8)溶液を添加することでクエンチングさせた。得られた反応生成物を、Waters Synapt G2-Sと組み合せたWaters ACQUITY UPLC H-Class Bioを使用するLC-UV-MSによってアッセイした。試料を、10μLの容量でACQUITY UPLC CSH C18 C18、130Å、1.7μm、2.1×50mmカラムに注入した。水中の0.1%TFA(v/v)、ACN中の0.1%TFA(v/v)、ACN中の0.1%FA(v/v)およびACN中の0.1%FA(v/v)で構成される移動相間での四元グラジエントを使用して、温度60℃にておよび0.3mL/minの流速にて分離を実施した。溶出種を、UV吸収(10Hz、214nm)によっておよびエレクトロスプレイイオン化質量分析(100-2000m/z、2Hz)によって検出した。上の方法により得られたデータが
図2から
図6に示されている。
【0053】
Waters ACQUITY UPLC H-Class Bioは、大きな生体分子を無傷のままクロマトグラフィーカラムを通過させるように、非ステンレススチール材質製の生体不活性流路を備えて設計されたクロマトグラフィーシステムである。これは、タンパク質、ペプチド、核酸およびグリカンの分析を特に意図したsub-2-μmハイブリッド粒子ケミストリー(hybrid particle chemistry)を活用する。これは、フロースルーニードルインジェクター、および限定されないが、逆相(RP)、イオン交換(EX)、サイズ排除(SEC)または親水性相互作用(HILIC)クロマトグラフィーを含む多重クロマトグラフィーモードを走らせる能力をもたらす四元溶媒送達システムを有する。このクロマトグラフィーシステムは、使用予定のエキストラ溶媒用の6ポート溶媒選択バルブを任意選択的に追加して、二元の、三元のまたは四元のグラジエント運転を可能とするマルチ溶媒混合を使用している。また、このシステムは、ユーザーが移動相調節剤の濃度および有機溶媒を変えることを可能としている。溶媒混合物を手動で調製するかわりに、このシステムは、純粋な溶媒からブレンドを作製しおよび要求に応じて濃縮ストックを作製する。これはまた、pHおよびイオン強度がユーザーによって特定される場合、所望の条件にとって必要なバッファーストックの割合を自動的に調整しおよび計算することを可能とする。さらに、このシステムはボリュームを低減させ、高い分離効率を維持するためにバンド広帯化を最小限にする。このシステムは、生物学的用途で多重検出を必要とすることを可能とするピーク完全性を維持する超低分散検出器を使用している。また、このシステムは、クロマトグラフィー選択性および最高の保持時間精度の制御のために低拡散および正確な温度管理を可能とする多様なヒーターおよびマルチカラムマネージャー(カラムスイッチングとともに)を使用している。
【0054】
Waters ACQUITY UPLC H-Class BioはWaters Synapt G2-Si高分解能質量分析計と組み合わされ得る。Waters Synapt G2ーSiは、生体分子分析のピークキャパシティ、特異性および感度を高めるT-Waveイオンモビリティーを使用して、イオンの衝突断面積(CCS)特性を利用する高分解能質量分析システムである。Waters Synapt G2ーSiは、拡大されたイオンサンプリングオリフィス、高められた真空ポンプ構成およびイオン伝導オプティクスを備えている。このデュアルT-Wave、オフアクシス(off-axis)設計は、イオンをイオン源から四極MS分析計に高効率で導入させ、同時に望ましくない中性不純物がフィルターされ除かれることを確実とする。このことから、バックグラウンドノイズが最小となり、MSイオン強度が高まる。
【0055】
Waters ACQUITY UPLC CSH C18(フェニル-ヘキシルおよびフルオロ-フェニル)カラムは、他の逆相UPLCカラムと比べて、相互選択性を提供している。これらのカラムは、ハイブリッド有機/無機粒子のようなハイブリッド粒子基質を有する球状粒子形を提供している15%カーボンロード、C18ケミストリーを使用し、内径2.1mm、長さ30mm、エンドキャップ型である。これらのカラムは、130Åポアサイズおよび低シラノール活性を含み、約pH1から約pH11の範囲でpHを操作することが可能である。
【0056】
[実施例2]
標識化グリコシルアミンの迅速調製
プールされたヒトIgGおよびマウスIgG1からの遊離
プールされたヒトIgG(血清由来)の試料およびマウスIgG1の試料を同様に調製した。IgGの凍結乾燥試料をpH7.9の50mMリン酸ナトリウム中で復元し、ペプチドN-グリコシダーゼF(PNGアーゼF、New England BioLabs、P0705)と混合した。この混合物は、IgG濃度がおよそ1mg/mLであるようにおよびPNGアーゼFの活性濃度がおよそ25単位/μLであるように調製した。その後、この混合物を、マウスIgGのFc領域の完全な脱グリコシル化をもたらす条件、37℃にて1時間インキュベートした。1時間のインキュベーションの完了時に、脱グリコシル混合物を室温に冷却し、その後、同一容量のpH7.9の50mMリン酸ナトリウムで希釈した。その間、標識試薬-1を無水ジメチルホルムアミド(DMF)中に濃度127mMへと溶解させた(標識試薬-1はNHSと1:1複合体として精製されていると想定)。脱グリコシル混合物および試薬溶液を2.5:1の容積比で続いて混合して、およそ36mM標識試薬-1および4.8μM遊離N-グリカン(および180μMの総第一級アミン濃度)および反応副生成物で構成される反応混合物を生成した。反応副生成物には、限定されないが、標識試薬のアミン加水分解生成物に相応する化合物およびこのアミンによって生じた反応生成物ならびに標識試薬(すなわち、尿素結合型分子)が含まれる。
【0057】
反応を5分間進行させ、次いでクエンチング溶液(5:5:95(v/v/v)のエチレンジアミン/水/ACN)の添加により終了させた。クエンチング溶液を容積比9:1で反応混合物に添加した。その後、生成するクエンチングされた、ACN希釈試料をWaters Sep-Pak Aminopropyl μElutionプレートおよびバキューム駆動SPEを使用するSPEに供した。ウエルを水でまず洗浄し、次いで15:85(v/v)水/ACNでコンディショニングした。続いて、クエンチングされた、ACN希釈試料をウエル上にロードした。その後、吸着試料を1:14:85(v/v/v)のギ酸/水/ACNで構成される溶液で洗浄した。最後に、濃縮された、標識化グリコシルアミンを100mM酢酸アンモニア(pH7)、5%ACNで構成される溶離液を使用してSPE吸着剤から溶出した。得られた標識化グリコシルアミンをSPE溶出液の形態で直接にまたはかわりに乾燥した(遠心蒸発により)および復元した試料としてのいずれかで分析した。
【0058】
標識化グリコシルアミンの分析をHILIC分離および蛍光検出と質量分析検出との組合せによって実施した(Waters Synapt G2-S Mass SpectrometerとペアにしたWaters ACQUITY UPLC H-Class Bio System)。1.7μmアミド結合型オルガノシリカ粒子で充填された2.1×50mmカラムを50mMギ酸アンモニウム(pH4.5)で構成される水性移動相(移動相A)およびACNで構成される移動相(移動相B)とともに用いた。水性試料を1μL容積で注入し、表2のグラジエントに従って60℃の温度にて分離した。標識化グリコシルアミンを蛍光検出器(5Hz、励起λ=265nm、発光λ=425nm)を使用しておよびエレクトロスプレイイオン化質量分析(600-2500m/z、1Hz)によって検出した。
図10は、この手順から得られる、試料を代表するクロマトグラフィーデータである。
【0059】
【0060】
[実施例3]
セツキシマブから遊離した標識化グリコシルアミンの迅速調製
標識化グリコシルアミンを、独特な脱グリコシル化の方法が用いられたことを除いて、実施例2に記載のそれに類似する手順を使用して、セツキシマブ(マウスSp20細胞から発現したキメラIgG1)から調製した。
図11Aおよび
図11Bは、この手順から得られる、セツキシマブ試料を代表するクロマトグラフィーデータである。
【0061】
[実施例4]
図13A、
図13Bおよび
図13Cは、標識試薬-1で標識され、Waters Oasis HLBによるオンラインSPEで精製され、次いで引き続きアミド結合型固定相で充填された分析用カラムを使用して分離されたN-グリコシルアミンについて得られた例示的HILIC蛍光クロマトグラムを提供している。Waters Oasis HLBの代替が使用され得る。シリカをベースとした粒子またはオルガノシリカをベースとした粒子で構築される非結合型またはジオール結合型吸着剤は、それらを有用なトラッピング固定相の代替物とする保持力を呈することが見い出された。
【0062】
より具体的には、
図13Bは、pH4.5の50mMギ酸アンモニウムの移動相AおよびACNの移動相Bを有するオンラインSPEで精製されたN-グリコシルアミンについて得られたクロマトグラフィーである。さらに、すぐ下の表3はそれのSPEグラジエント表である。
図13Cは、pH4.5の50mMギ酸アンモニウムの移動相A、ACNの移動相Bおよび1%(v/v)水酸化アンモニアの移動相Cを有するオンラインSPEで精製されたN-グリコシルアミンについて得られたクロマトグラフィーである。表4はそれのSPEグラジエント表である。
【0063】
【0064】
【0065】
本明細書に記載されているように、親水性-親油性バランスポリマー吸着剤の変型が、限定されないが、Phenomenex Strata X(被験物質-吸着剤相互作用に対する保持に関して多重なモードを有するN-ビニルピロリドンを含有する官能化ポリマー吸着剤)、Thermo Hypersep PEP(尿素官能基で修飾されている多孔質DVB材質で充填されたカートリッジ)、Agilent SampliQ OPT(アミド修飾ジビニルベンゼンポリマーレジンで充填されている)、Waters Oasis WAX、Waters Oasis WCX、Waters Oasis MAXおよびWaters Oasis MCXを含めて、使用され得る。Phenomenex Strata X吸着剤は、中性および芳香族性の被検化合物を標的とした、800sq.m/gの表面積を有する、ポリマーベースの逆相官能化吸着剤であり、アグレッシブな、高有機性洗浄条件下で中性、酸性または塩基性の化合物の保持を可能とする。この吸着剤は、保持に関する3つメカニズム:パイ-パイ結合、水素結合(双極性-双極性相互作用)および疎水性相互作用に依拠する。この種の吸着剤は、pH抵抗性であり、0から14のpH範囲を取り扱うことができる。Thermo HyperSep Retain PEPカートリッジは、極性または非極性の被検化合物の回収が可能である、尿素官能基で修飾されている多孔性ポリスチレンDVB材で充填されている。これらのカラムは、30-50μmの粒子サイズおよび30mgのベッド重量を有する吸着剤を提供している。
【0066】
Waters Oasis吸着剤は、SPE吸着剤のファミリーであり、現在OASISの商標で販売されている。これらの吸着剤は、pHの両極端にておよび広範囲の溶媒中で安定である。これらの吸着剤は、極性化合物の良好な保持、およびC18のような従来のシリカベースのSPE吸着剤のそれよりも3倍高い相対疎水性保持容量を有する。さらなる抽出製品としては、Waters Oasis HLB、酸性、中性および塩基性化合物用の汎用性吸着剤、のような製品もある。Oasis HLBは、2種のモノマー、親水性N-ビニルピロリドンおよび親油性ジビニルベンゼンの特定の比率でできている、親水性-親油性バランス性の、水湿潤性の、逆相吸着剤である。Waters Oasis WAXカートリッジは、強酸性化合物の高選択性向けに最適化された、ポリマー逆相、弱陰イオン交換、水湿潤性のあるミックスモードポリマー吸着剤である。Waters Oasis WCX(弱陽イオン交換体)は、全ての種の被検化合物、とりわけ強塩基(pKa>10)および第四級アミン、の保持を可能とする、コポリマー基質製の、ミックスモード、水湿潤性のあるSPE吸着剤である。この保持機構はミックスモード、イオン交換および逆相の双方である。Waters Oasis MAX(ミックスモード陰イオン交換体)は、陰イオン交換基で酸性化合物(pKa<1)を抽出する高選択性および高感度を達成するのに最適化されたミックスモードポリマー吸着剤である。この吸着剤は水湿潤性である。Waters Oasis MCX(ミックスモード陽イオン交換体)は、pKa2-10を持つ塩基性化合物の保持向けに最適化されたミックスモードポリマー吸着剤である。
【0067】
[実施例5]
標識化N-グリカンのHILIC-蛍光-ESI-MS(MS/MS)分析
感度係数を評価するために、標識化N-グリカンを、UHPLCクロマトグラフィー(ACQUITY UPLC H-Class Bio、Waters、Milford、MA)を使用して蛍光検出と質量分析検出と組み合せたHILIC分離によって分析した。1.7μmアミド結合型オルガノシリカ粒子(ACQUITY UPLC Glycan BEH Amide 130Å、Waters、Milford、MA)で充填した2.1×50mmカラムまたは2.1×150mmカラムのいずれかを、50mMギ酸アンモニウム(pH4.4)で構成される水性移動相およびACNで構成される別の移動相とともに用いた。試料を1μL水性容量または10μLのACN/DMF容量で注入し、グラジエントに従って60℃にて分離した。標識化N-グリカンを前記の励起波長および発光波長を使用する蛍光検出器(5Hz走査速度、ゲイン=1、ACQUITY UPLC FLR、Waters、Milford、MA)を使用して検出した。溶出グリカンもまた、キャピラリー電圧3.0kV、ソース温度120℃、脱溶媒温度350℃および試料コーン電圧80Vで操作するイオンモビリティーケーパブルQTof質量分析計(Synapt G2-S、Waters、Milford、MA)を使用する陽イオンモードエレクトロスプレイイオン化質量分析によって検出した。マススペクトルは、500-2500m/zの範囲にわたりおよそ20,000の分解能で1Hzの速度で獲得した。
【0068】
下の表5は、使用された試薬とともに本実施例において記載のグリカン標識と関連する構造および略記を示す。
【0069】
【0070】
結果および考察
高感度な蛍光検出およびMS検出
RFMS標識がもたらす、N-グリカン分析に対する感度を評価した。特に、RFMS標識化グリカンの感度係数を代替の試薬で標識したグリカンについての感度係数に対してベンチマークした。RFMSに対して最も密接に関連した、市販の代替物は、アミノベンズアミドまたはIABのNHSカルバメートアナログである。Cook,K.S.ら、Biologicals、40(2)、109-17、(2012)。
【0071】
図14Aおよび
図14Bは、マウスIgG1モノクローナル抗体から遊離され、それぞれRFMSおよびIABで標識された等量のN-グリカンに対するHILIC蛍光クロマトグラムおよび基準ピーク強度(BPI)MSクロマトグラムである。観察されたクロマトグラフィーピーク面積に基づいて、蛍光検出およびMS検出に対する感度係数をIgGプロファイルにおいて最も豊富なグリカン、フコシル化、二分岐FA2グリカン(Oxford表記法)について決定した(
図14C)。Harvey,D.ら、Proteomics、9(15)、3796-801(2009);Glycobase3.2 http://glycobase.nibrt.ie(2015年1月6日受託)。
【0072】
図14Aは抗シトリニンマウスIgG1由来のRFMS標識化N-グリカンのHILIC-FLR-MSの結果であり、
図14Bは抗シトリニンマウスIgG1由来のIAB標識化N-グリカンの結果である。蛍光(FLR)クロマトグラムおよび基準ピーク強度(BPI)MSクロマトグラムが示されている。標識化グリカン(糖タンパク質0.4μgから、1μLの水性注入)を、1.7μmアミド結合型オルガノシリカ(130Å)固定相で充填された2.1×50mmカラムを使用して分離した。
図14Cに示されている、RFMA標識化グリカンおよびIAB標識化N-グリカンに対する感度係数(1μgの抗シトリニンマウスIgG1からのN-グリカン1試料当たりのFA2ピーク面積で評価した)。蛍光(FLR)感度係数およびMS(基準ピーク強度)感度係数がそれぞれ示されている。分析は2回反復で行った。
【0073】
FA2グリカンに関する本発明者らの結果は、RFMS標識化グリカンは、IABで標識したN-グリカンよりも2倍高い蛍光シグナル生じ、より驚くことには、ほぼ800倍大きいMSシグナルを生じていることを示している。同様にまた、RFMS標識を従来の2-AB標識と比較した。そのような比較のために、RFMAまたは2-ABのいずれかによる、プールされたヒトIgGから調製されたN-グリカンを、等しい質量をロードすることでHILIC-FLR-MSによって分析した(それぞれ、
図15Aおよび
図15B)。
【0074】
図15Aは、プールされたヒトIgG由来の、RFMS標識化N-グリカンのHILIC-FLR-MSを表し、
図15BはプールされたヒトIgG由来の、2-AB標識化N-グリカンのHILIC-FLR-MSを表す。蛍光(FLR)クロマトグラムおよび基準ピーク強度(BPI)MSクロマトグラムが示されている。標識化グリカン(総グリカンおよそ14pmol、1μL水性注入)を、1.7μmアミド結合型オルガノシリカ(130Å)固定相で充填された2.1×50mmカラムを使用して分離した。FA2グリカンの量を定量標準物質(RFMS誘導体化プロピルアミンおよび2-AB標識化トリアセチルキトトリオース)を使用して二点外部較正により較正した。
図15Cに、RFMS標識化グリカン対する応答係数および2-AB標識化グリカンの応答係数(外部較正により決定されたFA2の1ピコモル当たりのFA2ピーク面積で評価した)。蛍光(FLR)応答係数および基準ピーク強度(BPI)MS応答係数がそれぞれ示されている。分析は2回反復で行った。
【0075】
迅速タグ付けおよび還元的アミン化が全く異なる手順で実行されることを考慮し、外部較正が、HILICカラムにロードされこれから溶出したFA2グリカンの量を決定するために、定量標準物質を使用して確立された。FA2グリカンのこれらの較正量を使用して算出された応答係数が
図15Cに提供されている。RFMS標識化グリカンが、優れた感度で、具体的には、2-AB標識化グリカンに対して14倍高い蛍光シグナルおよび160倍大きいMSシグナルで検出された、ということが確認された。
【0076】
上の観察をまとめるために、本発明者らは、RFMSの応答係数に対する百分率としてIABおよび2-ABの応答係数をプロットした(
図16)。
図16はグリカン標識の相対的パーセント(%)性能を示す。応答係数が、RFMS標識化N-グリカンの蛍光応答係数およびMS応答係数に対する百分率として示されている。比較結果をN-グリカンの公表されている比較対照から外挿法によって推定したが、ここで、プロカインアミドは、2-ABと比較して、同等の蛍光感度および最大で50倍大きいESI-MS感度をもたらすということが見い出された。
【0077】
このプロットはRFMSの応答係数に対して正規化されたIABおよび2-ABの応答係数を描いていることから、蛍光感度およびMS感度における向上は、このプロットにおいて明白である。
図16において、別の代替の標識試薬、プロカインアミドによる還元的アミン化の相対的性能も提供されている。プロカインアミドは、還元的にアミン化されたグリカンがHILIC-ESI(+)-MSによって分析される場合、これらグリカンのイオン化を増強することが近年示されたアミノベンズアミドの化学的アナログである。以前の研究は、プロカインアミド標識化グリカンは、2-AB標識化グリカンと比較して、同等の蛍光シグナルおよび10から50倍大きいMSシグナルを生じること(2-AB標識化N-グリカンおよびプロカインアミド標識化N-グリカンに関する本発明者ら自身の分析によって確証された観察)を示していた。Klapoetke,S.ら、J.Pharm Biomed Anal 53(3)、315-24(2010)。プロカインアミドと比較して、RFMSはしたがってMS感度において最低でも3倍の向上をもたらすと予測される。これら双方の標識は第三級アミン部分を含有していることから、RFMS標識化グリカンの優れたイオン化は、RFMS標識はプロカインアミド標識より疎水性であることに由来すると、示唆することは妥当である。実際、以前の研究は、グリカン標識に疎水性の表面領域を付加するとエレクトロスプレイイオン化が高まることを、示していた。Walker,S.H.ら、J Am Soc Mass Spectrom 22(8)、1309-17(2011);Bereman,M.S.ら、Chem Commun(Camb)26(2)、237-9(2010)。したがって、RFMS標識が比較的疎水性のコア構造に加えて強塩基性側鎖を有していることは特筆すべきことである。より明白には、上の応答係数データは、RFMS標識によって、前例のない蛍光感度およびMS感度がN-グリカンのHILICクロマトグラフィープロファイリングにもたらされることを示唆している。
【0078】
[実施例6]
アミノ酸の迅速タグ付けの予報的方法
本明細書に記載の方法および試薬はアミノ酸の迅速タグ付けを実施するために使用され得る。適切なバッファーおよび希釈剤と一緒に、アミノ酸のプレカラム誘導体化および分析が実施され得る。粉末形態の誘導体化試薬を復元するために、試薬および希釈剤のバイアルが55℃にセットされた加熱ブロックまたは他の機器上で加熱される。復元された試薬は、一般にはアセトニトリル中10mMの範囲にある。復元された試薬は、室温にて一般には最大1週間保存され得る。しかし、代替の溶媒および温度が活用され得る。アミノ酸の試料を誘導体化するために、ホウ酸バッファー60μlが6×50mmの試験管中の復元された試料に添加され、ボルテックスされる。次いで、復元された試薬20μlが添加され、数秒間即座にボルテックスされる。混合物は、一般には室温にて1分から5分間インキュベートされる。次いで試験管の内容物をバイアルに移し、シリコン張りセプタムを含むキャップでシールされる。バイアルは55℃にて10分間加熱される。アミノ酸誘導体は、気密にシールされおよび蒸発から保護されている場合、室温にて最大1週間保存され得る。
【0079】
したがって、グリコシルアミンの調製向けに設計されたが、本記載の方法はアミノ酸標識に応用され得る(アミノ酸残基がフリーであるまたはタンパク質およびペプチド中の構成成分であるかにかかわらず。)。