(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】エアゾール潤滑剤組成物
(51)【国際特許分類】
C10M 171/00 20060101AFI20220411BHJP
C10M 107/02 20060101ALI20220411BHJP
C10M 105/36 20060101ALI20220411BHJP
C10M 105/38 20060101ALI20220411BHJP
C10N 20/00 20060101ALN20220411BHJP
C10N 30/06 20060101ALN20220411BHJP
C10N 30/08 20060101ALN20220411BHJP
C10N 30/12 20060101ALN20220411BHJP
C10N 40/00 20060101ALN20220411BHJP
C10N 50/04 20060101ALN20220411BHJP
【FI】
C10M171/00
C10M107/02
C10M105/36
C10M105/38
C10N20:00 A
C10N30:06
C10N30:08
C10N30:12
C10N40:00 Z
C10N50:04
(21)【出願番号】P 2018010769
(22)【出願日】2018-01-25
【審査請求日】2020-10-07
(73)【特許権者】
【識別番号】591213173
【氏名又は名称】住鉱潤滑剤株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106002
【氏名又は名称】正林 真之
(74)【代理人】
【識別番号】100120891
【氏名又は名称】林 一好
(72)【発明者】
【氏名】城 幸久
【審査官】松原 宜史
(56)【参考文献】
【文献】特開平01-103683(JP,A)
【文献】特開平11-343493(JP,A)
【文献】特開2009-062464(JP,A)
【文献】特開2003-027078(JP,A)
【文献】特開2007-002290(JP,A)
【文献】特開2009-215483(JP,A)
【文献】特開2001-003073(JP,A)
【文献】特開2012-064922(JP,A)
【文献】特開平06-199708(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10M 101/00-177/00
C10N 10/00- 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、流動点が-40℃以下である合成油系潤滑油と、噴射剤と、を含有
し、
添加剤と、溶剤と、をさらに含有し、
前記溶剤は炭化水素系溶剤であり、組成物中における該溶剤の含有量が22.0質量%~69.0質量%である
エアゾール潤滑剤組成物。
【請求項2】
前記合成油系潤滑剤は、ポリアルファオレフィン、ジエステル、及びポリオールエステルから選択される少なくとも1種である
請求項1に記載のエアゾール潤滑剤組成物。
【請求項3】
前記噴射剤は、液化ガス又は圧縮ガスである
請求項1
又は2に記載のエアゾール潤滑剤組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エアゾール潤滑剤組成物に関するものであり、低温環境下において良好に使用することができるエアゾール潤滑剤組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
エアゾール製品において、潤滑性、浸透性、防錆性等の付与を目的としたものが多数販売されている(以下、「エアゾール潤滑剤」ともいう)。また、エアゾール潤滑剤のなかでも、単独の性能を特に向上させた製品や複数の性能をバランスよく向上させた製品が開発されている。それらのエアゾール潤滑剤としては、液状製品から固体潤滑剤を含む製品等様々であり(例えば特許文献1等)、さらにエアゾール製品のため使い勝手が良好で、古くから非常に多くの分野で利用されている。
【0003】
近年、エアゾール潤滑剤の性能の多様化から、常温の環境下だけでなく、例えば冷蔵庫、冷凍庫内等の低温環境下での使用の要求が高まり、また、-20℃以下の極寒冷地でも有効成分を効果的に噴霧させて使用することが求められている。
【0004】
しかしながら、これまでのエアゾール潤滑剤では、極低温領域(例えば-20℃を下回る低温領域)の環境下での使用に耐えられる、すなわち、極低温の環境下でも有効成分を十分効果的に噴出させることができるものはなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みて提案されたものであり、例えば-20℃を下回る(-20℃~-50℃程度)の極低温の環境下においても、効果的に有効成分を噴霧することができ、安定的に潤滑性や防錆性等を付与することができるエアゾール潤滑剤組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上述した課題を解決するために鋭意検討を重ねた。その結果、流動点が-40℃以下である合成油系潤滑油を含有するエアゾール潤滑剤組成物であることにより、極低温環境下でも有効成分を効果的に噴霧して潤滑性等を付与することがことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0008】
(1)本発明の第1の発明は、少なくとも、流動点が-40℃以下である合成油系潤滑油と、噴射剤と、を含有する、エアゾール潤滑剤組成物である。
【0009】
(2)本発明の第2の発明は、第1の発明において、前記合成油系潤滑剤は、ポリアルファオレフィン、ジエステル、及びポリオールエステルから選択される少なくとも1種である、エアゾール潤滑剤組成物である。
【0010】
(3)本発明の第3の発明は、第1又は第2の発明において、添加剤と、溶剤と、をさらに含有し、前記溶剤は炭化水素系溶剤であり、組成物中における該溶剤の含有量が22.0質量%~69.0質量%である、エアゾール潤滑剤組成物である。
【0011】
(4)本発明の第4の発明は、第1乃至第3のいずれかの発明において、前記噴射剤は、液化ガス又は圧縮ガスである、エアゾール潤滑剤組成物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係るエアゾール潤滑剤組成物によれば、例えば-20℃を下回る(-20℃~-50℃程度の)極低温の環境下においても、効果的に有効成分を噴霧することができ、安定的に潤滑性や防錆性等を付与することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について詳細に説明する。なお、本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲で種々の変更が可能である。
【0014】
本実施の形態に係るエアゾール潤滑剤組成物は、エアゾール状(霧状)に有効成分を噴出させて使用する組成物であって、少なくとも、流動点が-40℃以下である合成油系潤滑油と、噴射剤と、を含有することを特徴としている。このエアゾール潤滑剤組成物によれば、例えば-20℃を下回る(-20℃~-50℃程度の)寒冷地や冷凍庫内等の極低温環境下でも有効成分を効果的に噴霧して、安定的に潤滑性や防錆性等を付与できる。
【0015】
[合成油系潤滑油]
合成油系潤滑油は、当該エアゾール潤滑剤組成物に含有される基油(ベースオイル)である。本実施の形態に係るエアゾール潤滑剤組成物では、合成油系潤滑油として、流動点が-40℃以下のものを用いる。また、好ましくは流動点が-50℃以下、より好ましくは-60℃以下の潤滑油を用いる。ここで、流動点とは、JIS K 2269に準拠して測定した値をいう。
【0016】
このように、流動点が-40℃以下の合成油系潤滑油を基油として含有させることで、良好な低温特性を奏し、寒冷地や冷凍庫内等においてもエアゾール缶等の噴射口から良好に噴射させることができ、潤滑性を発揮させる。
【0017】
合成油系潤滑油としては、具体的に、ポリアルファオレフィン、ジエステル、及びポリオールエステルから選択される1種、またはこれらの2種以上の混合物を用いることが好ましい。その中でも特に、ポリアルファオレフィン、またはポリアルファオレフィンを含む混合物を用いることが好ましい。ポリアルファオレフィンは、低温流動性を有し、より一層に低温環境下での作業性を向上させることができる。また、ポリアルファオレフィンは、鉱物油系潤滑油と比較して粘度係数に優れ、さらに、優れた対樹脂性を有しており、樹脂性の部品に対しても良好に適用することができる。
【0018】
ポリアルファオレフィン(PAO)は、アルファオレフィン(α-オレフィン)の重合体である。モノマーであるアルファオレフィンの炭素数としては、粘度指数の観点から、炭素数2~32程度のものが好ましく、炭素数6~16程度のものがより好ましく、炭素数10~14程度のものが特に好ましい。また、PAOとしては、低蒸発性及び省エネルギーの観点から、アルファオレフィンの2量体~5量体程度までのものが好ましい。目的とする性状に合わせて、モノマーの炭素数、配合比、重合度を調節することができる。
【0019】
なお、PAOの製法としては、例えば、三塩化アルミニウム又は三フッ化ホウ素と、水、アルコール(エタノール、プロパノール、ブタノール等)、カルボン酸又はエステルとの錯体を含むフリーデル・クラフツ触媒のような重合触媒の存在下において、α-オレフィンを重合する方法が挙げられるが、特に制限されない。
【0020】
また、合成油系潤滑油としては、特に限定されないが、100℃動粘度が1.7mm2/s~40.0mm2/s程度の範囲であることが好ましく、5.9mm2/s~8.8mm2/s程度の範囲であることがより好ましい。100℃動粘度が低すぎると、潤滑性や防錆性等が低下する可能性があり、一方で、100℃動粘度が高すぎると、浸透性が悪くなる傾向がある。
【0021】
合成油系潤滑油の含有量としては、特に限定されないが、組成物全体100質量%に対して、8質量%~40質量%の範囲であることが好ましく、12質量%~30質量%の範囲であることがより好ましい。含有量が8質量%~40質量%の範囲であることにより、潤滑性や防錆性、及び浸透性を向上させることができる。
【0022】
[噴射剤]
噴射剤は、当該エアゾール潤滑剤組成物における有効成分をエアゾール状に噴出させるためのものである。噴射剤としては、上述した合成油系潤滑油や後述する添加剤、溶剤等と相溶するものであれば特に限定されず、エアゾール製品に一般的に使用されるものを用いることができる。
【0023】
具体的には、例えば、液化石油ガス(LPG)やジメチルエーテル等の液化ガス、炭酸ガスや窒素ガス等の圧縮ガス、プロパンガス等を用いることができる。
【0024】
噴射剤の含有量としては、使用する噴射剤の種類や目的とする箇所に要求される性能を確保するために適宜設定することができる。例えば、噴射剤として液化ガスを用いる場合には、組成物全体100質量%に対して40質量%~70質量%程度の範囲とすることができる。また、噴射剤として圧縮ガス等を用いる場合には、組成物全体100質量%に対して0.5質量%~5質量%程度の範囲とすることができる。
【0025】
[添加剤]
本実施の形態に係るエアゾール潤滑剤組成物においては、上述した合成油系潤滑油の低温流動性の効果やエアゾール潤滑剤組成物としての作用を損なわない範囲で、種々の添加剤を含有させることができる。
【0026】
具体的に、添加剤としては、極圧剤、油性剤、摩擦・摩耗防止剤等の潤滑性向上剤や、アルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩及び亜鉛塩の中性金属スルホネート等からなる防錆剤、シクロヘキサンやパラフィン等の浸透性を向上させるための低沸点炭化水素成分等の一般的に使用されている成分を任意に選択して含有させることができる。また、従来、潤滑組成物等に通常含有されている添加剤、例えば、酸化防止剤、腐食防止剤、消泡剤、ハードケーキ防止剤、沈降防止剤、その他各種の添加剤を任意に選択して含有させることができる。なお、これら各種の添加剤の含有量についても、それぞれ要求される性能に応じて任意に定めることができる。
【0027】
[溶剤]
本実施の形態に係るエアゾール潤滑剤組成物においては、上述した添加剤を含有させるにあたり、溶剤に溶解、分散させる。溶剤としては、特に限定されないが、炭化水素系溶剤を用いることが好ましい。
【0028】
炭化水素系溶剤としては、ポリアルファオレフィン等の合成系潤滑油に対して相溶性を有する者であることが好ましい。例えば、ノルマルヘキサン、イソヘキサン、ノルマルヘプタン、イソヘプタン、シクロペンタン、シクロヘキサン、キシレン、トルエン等の脂肪族、芳香族、脂環式の炭化水素系溶剤を用いることができる。
【0029】
また、溶剤として炭化水素系溶剤を用いる場合、その含有量としては、組成物全体100質量%に対して22.0質量%~69.0質量%とすることが好ましい。なお、合成系潤滑油と各種添加剤とからなる有効成分と、溶剤とを組成比としては、特に限定されないが、10:90~40:60の範囲とすることができる。
【0030】
なお、本実施の形態に係るエアゾール潤滑剤組成物は、エアゾール缶やバルブ、ボタン等に充填して用いることができ、目的とする箇所に要求される性能を確保する観点から任意に選択することができる。例えば、エアゾール缶としては、一般的に使用される20ml~1000mlの容量の缶体等を用いることができ。また、バルブやボタンについては、使用用途によってどの角度でも噴射可能なバルブや、噴射状態を確保するためのボタン等を任意に選択することができる。また、バルブにおいては、ハウジングの横穴(ベーパータップ:VPT)が付いているものや、ディップチューブ長を調整したものも使用することができる。
【実施例】
【0031】
以下、本発明の実施例を示してより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。
【0032】
≪実施例、比較例のエアゾール組成物≫
[実施例1]
合成系潤滑油であるポリアルファオレフィン(流動点-55℃)が8.0質量%、ナフテン系溶剤が30.0質量%、添加剤として摩擦調整剤、防錆剤、極圧剤、酸化防止剤、腐食防止剤、及び油性剤の総含有量(添加剤総量)が12.0質量%となるように、それぞれを混合し撹拌した。その後、噴射剤である液化石油ガス(LPG)を50.0質量%の割合となるように含有させて、エアゾール潤滑剤組成物を作製した。
【0033】
[実施例2]
合成系潤滑油であるポリアルファオレフィン(流動点-61℃)が12.0質量%、パラフィン系溶剤が42.0質量%、添加剤として摩擦調整剤、防錆剤、極圧剤、酸化防止剤、腐食防止剤、及び油性剤の総含有量が6.0質量%となるように、それぞれを混合し撹拌した。その後、噴射剤であるLPGを40.0質量%となるように含有させて、エアゾール潤滑剤組成物を作製した。
【0034】
[実施例3]
合成系潤滑油であるジエステル(流動点-48℃)が12.0質量%、パラフィン系溶剤が45.0質量%、添加剤として摩擦調整剤、防錆剤、極圧剤、酸化防止剤、腐食防止剤、及び油性剤の総含有量が8.0質量%となるように、それぞれを混合し撹拌した。その後、噴射剤であるLPGを35.0質量%となるように含有させて、エアゾール潤滑剤組成物を作製した。
【0035】
[実施例4]
合成系潤滑油であるポリアルファオレフィン(流動点-61℃)が19.0質量%、パラフィン系溶剤が69.0質量%、添加剤として摩擦調整剤、防錆剤、極圧剤、酸化防止剤、腐食防止剤、及び油性剤の総含有量が10.5質量%となるように、それぞれを混合し撹拌した。その後、噴射剤である炭酸ガス(CO2ガス)を1.5質量%となるように含有させて、エアゾール潤滑剤組成物を作製した。
【0036】
[比較例1]
鉱油系潤滑油である石油系炭化水素(流動点-10℃)が8.0質量%、パラフィン系溶剤が34.0質量%、添加剤として摩擦調整剤、防錆剤、極圧剤、酸化防止剤、腐食防止剤、及び油性剤の総含有量が8.0質量%となるように、それぞれを混合し撹拌した。その後、噴射剤であるLPGを50.0質量%となるように含有させて、エアゾール潤滑剤組成物を作製した。
【0037】
[参考例1]
比較例2では、市販品の浸透防錆潤滑エアゾール(鉱油系潤滑基油)(5-56DX,呉工業株式会社製)を準備した。
【0038】
[参考例2]
比較例3では、市販品の浸透防錆潤滑エアゾール(合成油系潤滑基油)(CM-001,株式会社エーゼット製)を準備した。
【0039】
[参考例3]
比較例4では、市販品の浸透防錆潤滑エアゾール(鉱油系潤滑基油)(ThreeBond1804,株式会社スリーボンド製)を用いた。
【0040】
≪低温噴射試験、潤滑性試験、並びにそれらの評価結果≫
実施例、比較例、参考例のそれぞれで準備したエアゾール潤滑剤組成物をエアゾール缶に充填し、低温噴射試験、潤滑性試験を実施した。
【0041】
『低温噴射試験』
実施例、比較例、参考例のそれぞれのエアゾール潤滑剤組成物を充填したエアゾール缶を、超低温恒温槽(エスペック株式会社製)を用いて、所定低温条件下に8時間以上保持し、保持後のエアゾール潤滑剤組成物の噴射口からの噴射可否の確認を行った。下記表1に、保持温度と保持後の噴射可否の結果を示す。なお、表1の評価において、「○」は噴射口から噴射することができたことを示し、「×」は噴射口から噴射することができなかったことを示す。
【0042】
【0043】
表1に示すように、実施例1~4のエアゾール潤滑剤組成物では、おおむね-40℃の極低温環境に保持した後でも、エアゾール缶の噴出口から良好に有効成分を噴霧することができた。特に、実施例4のエアゾール潤滑剤組成物では、-60℃に保持した場合でも、有効に噴霧することができた。
【0044】
これに対し、流動点-10℃である石油系炭化水素を潤滑油として用いた比較例1のエアゾール潤滑剤組成物では、-20℃までは噴霧することができたものの、-20℃下回る極低温領域では、流動性が著しく損なわれ、全く有効成分が噴射口から噴霧されなかった。また、参考例1~3に示す市販品も、実施例のエアゾール潤滑剤組成物に比べて、極低温領域で安定的に噴霧することができなかった。
【0045】
『潤滑性試験』
上述の低温噴射試験において-30℃で保持したエアゾール潤滑剤組成物を用い、潤滑剤塗布面に噴射し、ファレックス試験機(Pin and V-Block)を用いて持続試験を行って、潤滑剤塗布面が焼付くまでの時間を計測した。下記表2に潤滑性試験の条件を示す。また、下記表3に、試験結果(焼付くまでの時間)を示す。なお、比較例1、参考例1~参考例3については、常温に保持したエアゾール潤滑剤組成物を用い、潤滑剤塗布面に噴射して試験した。
【0046】
【0047】