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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】ERBB2ターゲティング抗体
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/13 20060101AFI20220411BHJP
   C12N 15/11 20060101ALI20220411BHJP
   C12N 15/63 20060101ALI20220411BHJP
   C07K 16/30 20060101ALI20220411BHJP
   C12N 1/15 20060101ALI20220411BHJP
   C12N 1/19 20060101ALI20220411BHJP
   C12N 1/21 20060101ALI20220411BHJP
   C12N 5/10 20060101ALI20220411BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 15/00 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 1/04 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 13/12 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 13/08 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 17/00 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 11/00 20060101ALI20220411BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220411BHJP
   A61K 48/00 20060101ALI20220411BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220411BHJP
   C12N 5/20 20060101ALN20220411BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20220411BHJP
【FI】
C12N15/13 ZNA
C12N15/11 Z
C12N15/63 Z
C07K16/30
C12N1/15
C12N1/19
C12N1/21
C12N5/10
A61K39/395 N
A61P35/00
A61P15/00
A61P1/04
A61P13/12
A61P13/08
A61P17/00
A61P11/00
A61K45/00
A61K48/00
A61P43/00 111
C12N5/20
C12P21/08
【請求項の数】 17
(21)【出願番号】P 2018551292
(86)(22)【出願日】2017-03-31
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-05-16
(86)【国際出願番号】 EP2017057697
(87)【国際公開番号】W WO2017167967
(87)【国際公開日】2017-10-05
【審査請求日】2020-03-05
(31)【優先権主張番号】102016000033776
(32)【優先日】2016-04-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】IT
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】518340360
【氏名又は名称】イスティテュート ビオチミコ イタリアーノ ジョヴァンニ ロレンツィーニ エス.ピー.エー.
(74)【代理人】
【識別番号】100166338
【弁理士】
【氏名又は名称】関口 正夫
(72)【発明者】
【氏名】シビリオ レオナルド
(72)【発明者】
【氏名】ジャコミーニ パトリツィオ
【審査官】山本 晋也
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-534809(JP,A)
【文献】特表2015-517300(JP,A)
【文献】Meng, Y et al. "A monoclonal antibody targeting ErbB2 domain III inhibits ErbB2 signaling and suppresses the growth of ErbB2-overexpressing breast tumors." Oncogenesis vol. 5,3 e211. 21 Mar. 2016, doi:10.1038/oncsis.2016.25,2016年03月21日
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/13
C12N 15/11
C12N 15/63
C07K 16/30
C12N 1/15
C12N 1/19
C12N 1/21
C12N 5/10
A61K 39/395
A61P 35/00
A61P 15/00
A61P 1/04
A61P 13/12
A61P 13/08
A61P 17/00
A61P 11/00
A61K 45/00
A61K 48/00
A61P 43/00
C12N 5/20
C12P 21/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
配列番号1における相補性決定領域(CDR)と100%の同一性を有する重鎖可変(VH)ドメインと、配列番号2における相補性決定領域(CDR)と100%の同一性を有する軽鎖可変(VL)ドメインとを含む抗ERBB2抗体またはその断片であって、前記抗ERBB2抗体はERBB2受容体のエピトープに結合し、前記エピトープはトラスツズマブおよびペルツズマブによって認識されるエピトープと一致しない、抗ERBB2抗体またはその断片。
【請求項2】
組換えモノクローナル抗体である、請求項に記載の抗体。
【請求項3】
ヒト化されている、請求項1または2に記載の抗体。
【請求項4】
アミノ酸配列の残余が配列番号1と少なくとも80%同一である重鎖可変(VH)ドメインと、アミノ酸配列の残余が配列番号2または配列番号3と少なくとも80%同一である軽鎖可変(VL)ドメインとを含む、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項5】
抗体アイソタイプが、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgA、IgD、およびIgE抗体からなる群から選択される、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項6】
標識基に結合している、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項7】
エフェクター基に結合している、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体。
【請求項8】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体または抗体断片をコードする単離された核酸。
【請求項9】
発現ベクターである、請求項に記載の核酸を含むベクターであって、前記核酸の配列は、制御配列に作動可能に連結している、ベクター。
【請求項10】
請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクターを含む宿主細胞。
【請求項11】
医薬または診断として使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体または請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクター。
【請求項12】
請求項1~のいずれか一項に記載の抗体または請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクターと、少なくとも別の薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤とを含む、医薬組成物。
【請求項13】
ERBB2発現、過剰発現または活動亢進によって特徴付けられる過剰増殖性疾患の治療および/または予防および/または診断に使用するための、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体または請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクターまたは請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項14】
乳がん、卵巣がん、腎がん、消化管/結腸がん、肺がん、腎明細胞がん、前立腺がんおよび/または黒色腫、および/または肉腫の治療および/または予防および/または診断における、請求項13に記載の使用のための、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体または請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクターまたは請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項15】
少なくとも1種の別の抗腫瘍薬と併用して投与される、請求項13または14に記載の使用のための、請求項1~のいずれか一項に記載の抗体または請求項に記載の核酸または請求項に記載のベクターまたは請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項16】
別の抗腫瘍薬をさらに含む、請求項12に記載の医薬組成物。
【請求項17】
前記別の抗腫瘍薬が、ゲフィチニブ、ラパチニブ、スニチニブ、ペメトレキセド、ベバシズマブ、セツキシマブ、イマチニブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、リツキシマブ、エルロチニブ、ボルテゾミブなど、特にトラスツズマブおよびペルツズマブからなる群から選択される、請求項15に記載の使用のための抗体または請求項16に記載の医薬組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗体、特にERBB2チロシンキナーゼの新規エピトープに結合する抗体の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
がんは、局所的に増殖する、ならびに/または遠隔臓器に浸潤する、および/もしくは広がる(転移する)形質転換細胞の急速な増殖をまとめて定義している総称である。がんは世界中で主要な死因であり、その大部分は転移によるものであり、乳がんは5番目の大きな死因である(http://www.who.int/mediacentre/factsheets/fs297/en/index.html)。
【0003】
成長因子に対する異常な応答はヒト腫瘍の自然な生長において主要な役割を果たす。受容体チロシンキナーゼ(RTK)のERBBファミリーは、コンビナトリアル二量体受容体の組み合わせに関与する際にシグナル伝達する4種のメンバー(上皮成長因子受容体ERBB1またはHER-1からERBB-4またはHER-4由来)を含む。ERBB2(HER2またはNeu-Erbとも呼ばれる)は、共有された(および好ましい)ヘテロ二量体化パートナー、ならびにシグナル伝達増幅のマスターコーディネーターおよびインテグレーターである。異常なERBBシグナル伝達は、星状細胞腫、頭頸部扁平上皮がん、乳がん、卵巣がんおよび前立腺がん、ならびに黒色腫および肉腫を含むヒト腫瘍の病因に関与する。最も頻繁には、遺伝子増幅によって引き起こされるERBB2の過剰発現は、乳がんの約30%において免疫組織化学によって検出することができ、侵攻性の臨床経過と関連し、悪い予後の予測となる。ヘレグリン(HRG)とも呼ばれる、ニューレグリン(NRG1)を含む、いくつかの天然の成長因子が関与すると、ERB RTK受容体はリン酸化され、発がん性細胞内シグナル伝達カスケード、最も顕著には、それぞれ細胞増殖および細胞生存に関与するRAS-RAF-MAPK-ERKおよびPI3K-AKT経路を誘発する。受容体分子の細胞外ドメインに対する抗体は、他のアプローチの中でも、ERBB2経路を標的とする非常に成功したストラテジーを提供している。原型のトラスツズマブ(ハーセプチン(登録商標))およびペルツズマブ(オムニターグ(登録商標))抗体などの治療用抗体は、従来の発育抑制(antiblastic)剤および化学療法剤とは異なり、悪性細胞に限定された分布で抗原構造を特異的に標的とするため、がん治療に革命をもたらした。トラスツズマブおよびペルツズマブ(ここではTTZおよびPTZ)は組換え型ヒト化抗体であり、現在ではERBB2過剰発現/ERBB2増幅乳がん患者に対する好ましい治療選択肢の中に、単独および化学療法との併用が通常含まれている。TTZおよびPTZの併用は、以前のTTZ療法の間に進行を経験した転移性HER2陽性乳がんを有する患者において活性であり、十分に許容される(非特許文献1)。
【0004】
残念ながら、TTZは、ERBB2がん原遺伝子が過剰発現および/または増幅される乳がん病変を有する患者においてのみ臨床的に有効である。これらの患者を識別するために、国際的な優れた臨床実践ガイドラインでは、IVD認定免疫組織化学キットの使用が規定されている。患者は、染色が3+の強さ(高度の環状の均一な染色)に達するか、または少なくとも2+(例えば、不完全な環状パターンおよび/もしくは病変の異なる領域にわたる不均一性)である場合、TTZ療法に適格であるが、この後者のケースでは、遺伝子が、細胞遺伝学的方法によって評価されるように増幅されなければならない(http://www.cap.org/apps/docs/committees/immunohistochemistry/summary_of_recommendations.pdf)。
【0005】
対照的に、大多数(約70%)である他の全ての乳がん患者(ERBB2 1+/2+;非増幅)は、抗体により媒介されるERBB2受容体遮断を利用することができない。さらに、診断時のERBB2-high腫瘍でさえ、治療的抗ERBB2圧力を回避するためにERBB2を二次的に損失する可能性があり(非特許文献2)、再発/進行時に不適格な患者の数の増加をもたらす。この異種ERBB2-low群の少なくとも一部の患者に適用可能な抗体療法の範囲を広げることが非常に望ましい。
【0006】
この目的のために、ERBB2に対するさらなる抗体を開発することが望まれ得る。これらは、利用可能な治療抗体(主にTTZおよびPTZ)を補完する、および/または代替する、および/またはそれと相乗作用を及ぼす能力を有さなければならない。理想的には、これらの新規抗体は、ERBB2-highおよびERBB2-lowの両方の状況においてそのようにされるべきであり、一方ではTTZ感受性腫瘍に対して相加的効果を発揮し、他方では低いERBB2発現に起因する治療に対する一次および二次耐性を克服することを可能にする。
【0007】
ERBB2に対する多くのモノクローナル抗体がいくつかのグループによって記載されているが、in vitroおよびin vivoでのそれらの抗腫瘍特性はほとんどの場合、詳細には評価されていない。例えば、非特許文献3は、がん遺伝子GP185HER2の細胞外ドメインに対するマウスmAbの産生および特徴付けを記載した。非特許文献4および非特許文献5は、大腸菌(E.coli)、植物および無細胞系におけるErbB-2に対する一本鎖抗体の発現を記載した。コードDNA配列、ならびにもしあれば、これらのIgGの分子的、生化学的、生物学的、および抗増殖特性は知られていない。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【文献】Baselga Jら、J Clin Oncol 2010;28:1138-44
【文献】Tortora J.Natl.Cancer Inst.2011;43:95-8
【文献】Digiesi G.ら、Hybridoma 1992、11(4)、519-527
【文献】Lombardi A.ら、Protein Expr.Purif.2005、44(1) 10-15)
【文献】Galeffi P.ら、J.Translational Medicine 2006、4(39)、1-13
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
したがって、本発明の目的は、がんの治療のために、特に、ERBB2-high/増幅およびERBB2-low/非増幅乳がん細胞およびマウス異種移植片の両方においてERBB2受容体遮断を改善するために、単独で、またはTTZおよびPTZと併用して使用することができる、TTZおよびPTZ以外の抗体を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、ErbB2の細胞外ドメインに位置するエピトープに結合する特有の新規の抗体を同定し、特徴付け、ヒト化した。興味深いことに、このエピトープは、TTZおよびPTZによって認識されるエピトープとは異なる。前記結合の特有の特徴は、最先端の治療抗体では得られない新規および予期せぬ様式で、受容体媒介性シグナル伝達および下流の生物学的効果との相加的/相乗的干渉を可能にする。新規抗体は、TTZが低い臨床効果を有すると予想される低いERBB2レベルを発現する腫瘍において腫瘍退縮を誘導することができる。さらに、新規抗体は、ERBB2過剰発現腫瘍およびERBB2-low腫瘍の両方において付加的な様式で腫瘍退縮を誘導することによって、TTZおよびPTZと相乗的に作用する。
【0011】
したがって、本発明の主題は、ERBB2受容体の特有のエピトープに結合し、
a)配列番号1における相補性決定領域(CDR、太字の下線の文字)と少なくとも80%の同一性を有する重鎖可変(VH)ドメインと、
b)配列番号2における相補性決定領域(CDR、太字の下線の文字)と少なくとも80%の同一性を有する軽鎖可変(VL)ドメインと
を含む抗体またはその断片である。
【0012】
【表1】
【0013】
【表2】
【0014】
驚くべきことに、本発明の抗体は、TTZおよびPTZの両方と相乗的に、ならびにTTZおよびPTZのいずれかまたは両方に対して難治性である腫瘍においてin vitroおよびin vivoでERBB2持続性腫瘍増殖を阻害する能力を有する。
【0015】
本発明の主題である、mAb W6/800と呼ばれる抗体は、TTZおよびPTZ以外である。この抗体は、ERBB2-high/増幅およびERBB2-low/非増幅乳がん細胞およびマウス異種移植片の両方におけるERBB2受容体遮断を改善するためのがんの治療のために、単独で、またはTTZおよびPTZと併用して使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1図1は、過剰発現から検出不可能な発現までの異なるレベルのERBB2を発現することが知られている乳がん細胞に結合する能力において、mAb W6/800、TTZおよびPTZを比較する。
図2図2は、mAb W6/800が、TTZおよびPTZエピトープとは異なり、さらにそれらとトポロジー的に区別されるERBB2細胞外ドメインエピトープに結合することを示す。
図3図3は、mAb W6/800が、ERBB2過剰発現BT-474乳がん細胞に対して抗増殖効果を発揮することを示す。さらに、組み合わせて使用される場合、mAb W6/800は、互いに相乗作用するよりも、TTZおよびPTZと良好に相乗作用する。
図4図4は、PTZおよびTTZとは異なり、mAb W6/800が、ERBB2-low BRC230乳がん細胞に対して抗増殖効果を有することを示す。このlow-ERBB2状況において、mAb W6/800の抗増殖効果は、TTZおよびPTZの抗増殖効果と相加的であり、相乗的である。
図5図5は、mAb W6/800が、TTZより良好で、PTZと類似して、ヌードマウスにおけるERBB2-low BRC230腫瘍異種移植片の増殖を阻害することを示す。
図6図6は、TTZおよびPTZと組み合わせたmAb W6/800が、TTZ/PTZの組み合わせよりも良好に、ヌードマウスにおけるERBB2-low BRC230腫瘍異種移植片の増殖を阻害することを示す。
図7図7は、ヒトIg骨格へのmAb W6/800 CDRの移植が、TTZおよび親マウスmAbと同様の程度で乳がん細胞に結合するヒト化抗体をもたらすことを示す。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本明細書に使用される場合、2つのポリペプチド配列間の「配列同一性」は、好ましくは配列番号1および/または配列番号2におけるCDR配列によってコードされるアミノ酸配列の全長にわたって、配列間で同一であるアミノ酸のパーセンテージを示す。本発明の好ましいポリペプチド配列は、少なくとも80%、より好ましくは85%、さらにより好ましくは90%、93%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0018】
抗体という用語は、抗体の少なくとも1つの抗原結合部位を有し、および/または同じ生物学的活性を示す、「断片」または「誘導体」を含む。さらに、本発明の抗体は、好ましくは、少なくとも1つの免疫グロブリン重鎖および少なくとも1つの免疫グロブリン軽鎖を含む。免疫グロブリン鎖は、可変ドメインおよび任意選択で定常ドメインを含む。可変ドメインは、相補性決定領域(CDR)、例えば、CDR1、CDR2および/またはCDR3領域、ならびにフレームワーク領域を含み得る。
【0019】
本発明の抗体は、天然および/または合成起源の任意の抗体、例えば、哺乳動物起源の抗体であってもよい。好ましくは、存在する場合、定常ドメインはヒト定常ドメインである。可変ドメインは、好ましくは、哺乳動物可変ドメイン、例えばヒト化またはヒト可変ドメインである。
【0020】
本発明による抗体は、ポリクローナルまたはモノクローナル抗体であってもよい。モノクローナル抗体が好ましい。特に、本発明の抗体は、好ましくは、組換え抗体、ヒト化または完全ヒト抗体、キメラ抗体、多特異性抗体、特に二重特異性抗体、またはそれらの断片からなる群から選択される。
【0021】
モノクローナル抗体は、KoehlerおよびMilstein(Nature 1975;256:495-7)の方法などの任意の好適な方法によって、または組換えDNA法によって産生され得る。モノクローナル抗体はまた、Clacksonら(Nature 1991;352:624-8)に記載されている技術を使用して、ファージ抗体ライブラリーから単離され得る。
【0022】
抗体のヒト化形態は、キメラ化またはCDRグラフト化などの当該分野において公知の方法に従って生成され得る。ヒト化抗体の産生のための代替の方法は当該分野において周知であり、例えば、欧州特許第A10239400号および国際公開第90/07861号に記載されている。ヒト抗体はまた、in vitro法によって誘導することもできる。適切な例としては、限定されないが、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイなどが挙げられる。
【0023】
本発明によれば、「キメラ抗体」は、例えば、マウスおよびヒトなどの異なる種由来のポリペプチドを含む抗体に関する。キメラ抗体の産生は、例えば、国際公開第89/09622号に記載されている。
【0024】
好ましくは、本発明の抗体は、上記のCDRと少なくとも80%の同一性を有する、重鎖可変(VH)ドメインおよび軽鎖可変(VL)ドメインを含み、VHのアミノ酸配列の残余は配列番号1と少なくとも80%同一であり、VLのアミノ酸配列の残余は配列番号2または配列番号3と少なくとも80%同一である、上記の組換えモノクローナルヒト化抗体である。
【0025】
本発明の好ましいポリペプチド配列は、少なくとも80%、より好ましくは85%、さらにより好ましくは90%、93%、95%、96%、97%、98%または99%の配列同一性を有する。
【0026】
【表3】
【0027】
ここでCDRは太字の下線の文字である。
【0028】
好ましい実施形態によれば、上記の抗体またはその断片は、配列番号1と100%の同一性を有する重鎖可変(VH)ドメインおよび配列番号2または配列番号3と100%の同一性を有する軽鎖可変(VL)ドメインを含む。
【0029】
好ましい実施形態によれば、抗体またはその断片は、Fab断片、Fab’断片、F(ab’)断片、Fv断片、ダイアボディ、小モジュラー免疫薬剤(SMIP:small modular immunopharmaceutical)、アフィボディ、アビマー、ナノボディ、ドメイン抗体、またはScFvであってもよい。
【0030】
「アビマー」は、例えば、in vitroエクソンシャフリングおよびファージディスプレイを使用して操作された多量体結合タンパク質またはペプチドに関する。複数の結合ドメインが連結され、単一エピトープ免疫グロブリンドメインと比較して、より大きな親和性および特異性をもたらす。
【0031】
「ナノボディ」または単一ドメイン抗体は、単一モノマー可変抗体ドメインからなる抗体断片に関する。
【0032】
「アフィボディ」分子は、多数の標的タンパク質に特異的に結合するように操作される小さい高親和性タンパク質である。
【0033】
本発明の抗体は、好ましくは、IgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgM、IgA1、IgA2、IgAsec、IgDおよびIgE抗体型であってもよい。生成される抗体は、そのようなアイソタイプを最初に有する必要はなく、むしろ生成される抗体は任意のアイソタイプを有してもよく、抗体はアイソタイプスイッチされていてもよいことが理解される。
【0034】
本発明の抗体または抗体断片は、治療目的のために任意選択で脱免疫化される。本発明の抗体は、例えば、薬物標的化および画像化適用のための他の部分にさらに結合されてもよいことは、当業者に明らかである。このような結合は、結合部位への抗体または抗原の発現後に化学的に行ってもよく、または結合生成物はDNAレベルで本発明の抗体または抗原に操作されてもよい。
【0035】
従って、診断目的のために、本発明の抗体または抗体断片は標識されてもよい(すなわち、標識基に結合されてもよい)。適切な標識としては、放射性標識、蛍光標識、適切な染料群、酵素標識、色素原、化学発光基、ビオチニル基、二次レポーターによって認識される所定のポリペプチドエピトープなどが挙げられる。
【0036】
これらの標識された抗体または抗体断片は特に、免疫組織化学アッセイにおいて、またはin vivoでの分子画像化のために使用され得る。
【0037】
治療目的のために、本発明の抗体または抗体断片は、エフェクター基、特に放射性基または細胞傷害性基などの治療エフェクター基とコンジュゲートされてもよい。
【0038】
標識基またはエフェクター基は、潜在的な立体障害を減少させるために、種々の長さのスペーサーアームによって結合されてもよい。
【0039】
別の態様によれば、本発明は、本発明の抗体もしくはその断片をコードする核酸分子、またはストリンジェントな条件下でそれらとハイブリダイズすることができる核酸に関する。上記の抗体、抗体断片またはそれらの誘導体をコードする本発明の核酸分子は、例えば、DNA、cDNA、RNA、または合成的に産生されたDNAもしくはRNA、またはこれらの核酸分子のいずれかを単独または組み合わせて含む組換え的に産生されたキメラ核酸分子であってもよい。核酸分子はまた、遺伝子全体もしくはその実質的な一部、またはその断片および誘導体に対応するゲノムDNAであってもよい。本発明の特に好ましい実施形態において、核酸分子はcDNA分子である。
【0040】
「ストリンジェントな条件下でハイブリダイズする」という用語は、2つの核酸断片が、例えば、Sambrookら、「Expression of cloned genes in E.coli」、Molecular Cloning:A laboratory manual (1989)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、New York、USAに記載されているような標準化されたハイブリダイゼーション条件下で互いにハイブリダイズすることを意味する。このような条件は、例えば、約45℃にて6.0×SSCでのハイブリダイゼーション、続いて、50℃にて2.0×SSC、好ましくは65℃にて2.0×SSC、または50℃にて0.2×SSC、好ましくは65℃にて0.2×SSCでの洗浄ステップである。
【0041】
本発明の別の態様は、本発明の核酸分子を含むベクターに関する。前記ベクターは、例えば、ファージ、プラスミド、ウイルスまたはレトロウイルスベクターであってもよい。レトロウイルスベクターは複製能力を有し得るか、または複製欠損であり得る。好ましくは、本発明のベクターは、核酸分子が、原核および/または真核宿主細胞における転写および任意選択で発現を可能にする1つ以上の制御配列に作動可能に連結された発現ベクターである。
【0042】
本発明はさらに、本発明のベクターを含む宿主に関する。前記宿主は、原核細胞もしくは真核細胞または非ヒトトランスジェニック動物であってもよい。宿主に存在する本発明のポリヌクレオチドまたはベクターは、宿主のゲノムに組み込まれてもよいか、または染色体外で維持されてもよい。宿主は、細菌、昆虫、真菌、植物、動物、哺乳動物、または好ましくはヒト細胞などの任意の原核細胞または真核細胞であってもよい。好ましい真菌細胞は、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属のもの、特にS.セレビシエ(S.cerevisiae)種のものである。
【0043】
本発明はさらに、前記抗体の合成を可能にする条件下で本発明の宿主を培養し、該培養物から前記抗体を回収することを含む、抗体を調製する方法に関する。
【0044】
本発明のさらなる態様は、本発明の抗体またはその断片、核酸分子、ベクター、本発明の宿主または本発明の方法により得られる抗体を含む医薬組成物に関する。本明細書に利用される「組成物」という用語は、本発明の少なくとも1つの化合物を含む。好ましくは、そのような組成物は治療用/医薬用組成物または診断用組成物である。
【0045】
本発明の診断用組成物は、本明細書に定義される過剰増殖性疾患の発症または疾患状態を評価するために使用され得る。
【0046】
組成物は、好ましくは、薬学的に許容される担体、希釈剤および/または賦形剤を含む。
【0047】
好適な医薬担体、賦形剤および/または希釈剤の例は、当該分野において周知であり、リン酸緩衝生理食塩水、水、油/水エマルションなどのエマルション、様々な種類の湿潤剤、滅菌溶液などが挙げられる。このような担体、賦形剤および/または希釈剤を含む組成物は、周知の従来の方法によって製剤化することができる。
【0048】
適切な組成物の投与は、異なる方法によって、例えば、静脈内、腹腔内、皮下、筋肉内、局所、皮内、鼻腔内または気管支内投与によって行うことができる。静脈内、筋肉内および/または皮下投与が好ましい。
【0049】
これらの医薬組成物は、適切な用量で対象に投与することができる。投薬レジメンは、主治医および臨床要因によって決定され得る。
【0050】
本発明の組成物は、局所的にまたは全身的に投与され得る。非経口投与のための調製物は、滅菌水性または非水性溶液、懸濁液、およびエマルションを含む。非水性溶媒の例は、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、オリーブ油などの植物油、およびオレイン酸エチルなどの注射可能な有機エステルである。水性担体としては、水、アルコール/水溶液、エマルションまたは懸濁液(生理食塩水および緩衝媒体を含む)が挙げられる。非経口ビヒクルとしては、塩化ナトリウム液、リンゲルデキストロース、デキストロースおよび塩化ナトリウム、乳酸リンゲル液、または不揮発性油が挙げられる。静脈内ビヒクルとしては、液体および栄養補給剤、電解質補給剤(リンゲルデキストロースに基づくものなど)などが挙げられる。例えば、抗菌剤、抗酸化剤、キレート剤、および不活性ガスなどの保存剤および他の添加剤も存在してもよい。さらに、本発明の医薬組成物は、医薬組成物の意図する用途に応じて、さらなる薬剤を含んでもよい。
【0051】
特に好ましい実施形態によれば、組成物は、さらなる抗体または抗体断片などのさらなる活性剤を含む。
【0052】
好ましくは、本発明の抗体および組成物は、少なくとも1種のさらなる抗腫瘍剤と組み合わせて使用するためのものである。前記組み合わせは、例えば、異常な細胞増殖を阻害するのに効果的である。現在、多くの抗腫瘍剤が当該分野において公知である。一般に、この用語は、過剰増殖性障害の予防、緩和および/または治療が可能な全ての薬剤を含む。特に好ましいのは、アポトーシスを誘導する抗腫瘍剤である。
【0053】
好ましくは、抗腫瘍剤は、抗体、小分子、ナノ粒子、代謝拮抗物質、アルキル化剤、トポイソメラーゼ阻害剤、微小管標的化剤、キナーゼ阻害剤、タンパク質合成阻害剤、免疫療法剤、ホルモンまたはその類似体、DNAナノバインダー、および/またはmTOR阻害剤からなる群から選択される。
【0054】
本明細書に提供される抗体と組み合わせて使用することができる抗腫瘍剤の具体例としては、例えば、ゲフィチニブ、ラパチニブ、スニチニブ、ペメトレキセド、ベバシズマブ、セツキシマブ、イマチニブ、アレムツズマブ、トラスツズマブ、ペルツズマブ、リツキシマブ、エルロチニブ、ボルテゾミブなど、特にトラスツズマブおよびペルツズマブが挙げられる。本明細書に記載され、特許請求される組成物に使用される他の具体的な抗腫瘍剤は、例えば、パクリタキセル、アントラサイクリン、フルオロピリミジン、ビンカアルカロイド、白金塩、特にカペシタビン、ダウノルビシン、ダウノマイシン、ダクチノマイシン、ドキソルビシン、エピルビシン、イダルビシン、エソルビシン、ブレオマイシン、マホスファミド、イホスファミド、シトシンアラビノシド、ビスクロロエチルニトロソウレア(bischloroethylnitrosurea)、ブスルファン、マイトマイシンC、アクチノマイシンD、ミトラマイシン、プレドニゾン、ヒドロキシプロゲステロン、テストステロン、タモキシフェン、ダカルバジン、プロカルバジン、ヘキサメチルメラミン、ペンタメチルメラミン、ミトキサントロン、アムサクリン、クロラムブシル、メチルシクロヘキシルニトロソウレア、メルファラン、シクロホスファミド、6-メルカプトプリン、6-チオグアニン、シタラビン(CA)、5-アザシチジン、ヒドロキシウレア、デオキシコホルマイシン、4-ヒドロキシペルオキシシクロホスホラミド、5-フルオロウラシル(5-FU)、5-フルオロデオキシウリジン(5-FUdR)、メトトレキサート(MTX)、コルヒチン、タキソール、ビンクリスチン、ビンブラスチン、エトポシド、トリメトレキサート、テニポシド、シスプラチンおよびジエチルスチルベストロール(DES)などの化学療法剤が挙げられる。
【0055】
本発明の抗体および組成物は、上記の活性剤および/または放射線および/または放射線療法を含むさらなる治療組成物と組み合わせて投与することができる。
【0056】
好ましい実施形態によれば、本発明の組成物は、過剰増殖性疾患、特に腫瘍性疾患またはがんの治療および/または予防に使用するためのものである。組成物はまた、過剰増殖性疾患、特に腫瘍性疾患またはがんを治療および/または予防するための医薬の製造のために使用され得る。
【0057】
本明細書に定義される過剰増殖性疾患は、あらゆる新生物、すなわち、あらゆる異常および/または制御されない組織の新たな成長を含む。本明細書に使用される「制御されない組織の新たな成長」という用語は、機能不全および/または成長調節の喪失に依存し得る。過剰増殖性疾患には、腫瘍性疾患および/またはがん、例えば、転移性または浸潤性がんが含まれる。
【0058】
過剰増殖性疾患は、好ましくは、ERBB2発現、過剰発現または活動亢進と関連する、それらに付随する、またはそれらによって引き起こされる障害、例えば、がん、特に、黒色腫、乳がん、卵巣がん、腎がん、胃腸/結腸がん、肺がん、腎明細胞がん、前立腺がんおよび/または肉腫から選択される。特に、これらの腫瘍については、がんの発達および増殖の促進におけるERBB2の関与が実証されており、したがって、このタンパク質の阻害は特定の利益を与えることができる。
【0059】
本発明は、ERBB2の異常なレベルの発現または活性と直接または間接的に相関し、特に、これに限らないが、IVD免疫組織化学試験によりERBB2発現が低から中であり(例えばIHCにより1+/2+)(http://www.cap.org/apps/docs/committees/immunohistochemistry/summary_of_recommendations.pdf)、ERBB2遺伝子が増幅されない場合、TTZの投与を不適切で、臨床的に効果がないようにする、疾患を治療する方法であって、本発明の抗体が哺乳動物に投与される、方法にさらに関する。
【0060】
本発明のさらに別の態様は、対象におけるERBB2に関連するがんを診断する方法であって、
(a)対象由来のex vivoまたはin vivo細胞を、先行する請求項のいずれか1項に記載の抗体またはその抗原結合部分と接触させる工程と、
(b)細胞におけるERBB2への結合のレベルを測定し、異常に高レベルのERBB2への結合は、対象がERBB2に関連するがんを有することを示す工程と
を含む、方法に関する。
【0061】
本発明に関して、「異常に高い」は、がんを有さない健康な対象と比較して、ERBB2のより高い結合レベルを意味する。
【0062】
好ましくは、対象は動物、より好ましくは哺乳動物、特に好ましくはヒトである。
【実施例
【0063】
実験のセクション
ハイブリドーマ細胞株からのmAb W6/800の産生:一般手順
材料および方法:4週齢のBALB/c雌マウスを、ヒトERBB2受容体をトランスフェクトしたNIH/3T3細胞(1×10)の腹腔内注射により、1週間間隔で3回免疫した。最後の免疫化の5日後、脾細胞を、マウス非分泌性骨髄腫細胞株NS-1との体細胞融合のために除去した(KoehlerおよびMilstein、Nature 1975;256:495-7)。親NIH/3T3細胞ではなく、形質転換体に結合する抗体を分泌するハイブリドーマを、限界希釈によって2回クローニングし、フローサイトメトリー、間接免疫沈降、ならびにいくつかのERBB2形質転換体における結合によってさらに特徴付けたが、親細胞およびERBB2を欠くことが知られているヒト細胞株では特徴付けなかった。抗体を、以前の研究において、TTZおよびPTZに対して選択的に感受性であることが示されている、ERBB2増幅/過剰発現細胞株SKBR3およびBT-474などのヒト乳がん細胞株の過剰増殖状態を阻害するそれらの能力についてさらにスクリーニングした(Baselga Jら、J Clin Oncol 2010;28:1138-44)。この予備スクリーニングから、mAb W6/800が得られ、これは、これらの細胞株における増殖およびH-チミジン取り込みを抑制する。これらの結果は、mAb W6/800が、その生物学的特性においてTTZおよびPTZと類似し得ることを示唆し、さらなる研究および以下に例示される予期せぬ発見をもたらした。
【0064】
実施例1:mAb W6/800の特徴
材料および方法:mAb W6/800はIgG2aである。Ig配列の配列番号4および配列番号5
【0065】
【表4】
【0066】
を、ハイブリドーマ全細胞RNAからの逆転写(retro-transcription)、および記載されている縮重プライマー対を用いたPCR増幅によって得た(Wang Zら、J Immunol Methods 2000;233:167-77)。
【0067】
ハイブリドーマ培養物から精製したmAb W6/800、ならびにTTZおよびPTZ(in vivo臨床用途のために市販調製物から得た)を、異なるレベルのERBB2を発現する乳がん細胞株に結合する能力についてフローサイトメトリーによって試験して、結合パターンが類似しているかまたは異なるかを決定した(図1A)。これらの乳がん細胞をまた、ERBB2に対するポリクローナル抗体を用いたウェスタンブロッティングによって評価した(図1B)。図1Aにおいて、標的細胞を、並行して3つのmAb(10μg/ml)と共に30分間インキュベートし、2回洗浄し、次いでマウスIg(マウスW6/800)またはヒトIg(ヒト化TTZおよびPTZ)のいずれかに対するフルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識化二次抗体の最適な所定の希釈物と共に30分間インキュベートし、Becton & Dickinson FACScanフローサイトメーターで読み取った。図1Bにおいて、示した代表的な細胞株(100μg/レーンの全細胞タンパク質)からの非イオン性界面活性剤可溶性抽出物を、SDS-PAGEによって分離し、ニトロセルロースフィルター上にエレクトロブロットした。フィルターを2つのストライプに切断し、その各々を、等化対照として、ERBB2(Thermo Scientific)に対するmAb 3D5およびERp57(社内で生産される)に対するポリクローナル抗体で別々に修飾した。
【0068】
結果:
TTZ、PTZおよびmAb W6/800は、試験した全ての細胞株に結合する。異なる細胞におけるERBB2発現の相対レベルは、フローサイトメトリーによる3つのmAbによって一致して推定され(図1A)、ウェスタンブロッティングにおける第4の異なる抗体によって独立して評価されるレベルと一致する(図1B)。一次抗体が無関係な特異性のマウスIgG2である内部陰性対照が含まれる。これらは、灰色の影付きヒストグラムとして示される(図1A)。マウスIgによるバックグラウンド染色のみが示されているが、これは対照ヒトIgによるシグナルが重複可能であるからである。したがって、mAb W6/800は、ある点ではTTZおよびPTZに類似しているようである。
【0069】
実施例2:mAb W6/800は、トラスツズマブおよびペルツズマブエピトープと異なり、区別されるERBB2エピトープに結合する。
材料および方法:SK-BR-3ヒト乳がん細胞(5×10)を、リン酸(0.01M)緩衝(pH7.4)生理食塩水(0.9%)、すなわち、PBS、または示したように、200μg/mlのmAb W6/800、TTZ、もしくはPTZを含有する50μlのPBSと共に、氷上で30分間プレインキュベートした。プレインキュベーションの終わりに、フルオレセインイソチオシアネート(FITC)標識化mAb W6/800(10μl、最適な所定の希釈)を、示したように、その結合能力について試験した。乳がん細胞上で発現されないエピトープを認識する無関係なFITC標識化マウスIgG2抗体を、示したように含めた。細胞をFACScan(B&D)により分析した。
【0070】
結果:FITC-mAb W6/800の結合は、非標識化mAb W6/800(図2、左から2番目のパネル)とのプレインキュベーションによって完全に遮断されたが、TTZおよびPTZ(残りのパネル)とのプレインキュベーションによって影響を受けなかった。同様に、FITC標識化TTZおよびPTZの結合は、それぞれTTZおよびPTZによってのみ遮断されたが、mAb W6/800によっては遮断されなかった(示さず)。これらの結果は3つのエピトープが異なり、トポロジー的に区別されることを示す。
【0071】
実施例3:ERBB2過剰発現/増幅細胞に対するmAb W6/800の抗増殖効果
材料および方法:ERBB2過剰発現/増幅BT-474ヒト乳がん細胞(Baselga Jら、J Clin Oncol 2010;28:1138-44)を、RPMI 0.2%FBS中で18時間増殖させた。次いで、FBS濃度を10%に調整し、細胞を、TTZ、PTZおよびmAb W6/800の漸増用量の非存在下および存在下で48時間増殖させた。単剤処置に加えて、細胞を、二剤処置実験において同量の抗体の存在下でも増殖させた。実験の最後の4時間の間、細胞をH-チミジンとインキュベートし、次いで溶解し、TCA沈殿可能な数を三連で評価して、放射性前駆体のDNA取り込みを測定した(図3)。
【0072】
結果:単剤としてのmAb W6/800は、TTZおよびPTZと同様またはそれらより高い活性であった。しかしながら、驚くべきことに、mAb W6/800は、互いに相乗作用した2つの抗体のいずれかよりも、両方とより効果的に相乗作用した(図3)。
【0073】
実施例4:ERBB2-low/非増幅細胞に対するmAb W6/800の抗増殖効果
材料および方法:ERBB2-low/非増幅BRC230ヒト乳がん細胞(Amadoriら、Breast Cancer Res Treat Rep 1993;28:251-60)を、実施例3のように増殖させ、処置した。H-チミジンの取り込みを上記のように評価した(図4)。
【0074】
結果:mAb W6/800は、ERBB2-low細胞に対するin vitroでの唯一の効果的な単剤処置であった。さらに、TTZおよびPTZとも相乗作用を示した(図4)。
【0075】
実施例5:mAb W6/800はin vivoで腫瘍細胞増殖を阻害する
材料および方法:ERBB2-low BRC230ヒト乳がん細胞(5×10)を、nu/CD1マウス(1群あたり5匹のマウス)に皮下注射した。異種移植片が60mmに達したとき(時間0)、マウスを無作為化して、PBS、TTZ、PTZ、またはmAb W6/800を腹腔内注射(i.p.)により投与した。腫瘍増殖を、示した時間にわたってカリパスによってモニターした。抗体を10mg/kgにて3週間の間、1週間に2回投与した(図5)。
【0076】
結果:mAb W6/800はPTZと同程度に有効であり、ERBB2を過剰発現しない腫瘍異種移植片に対してはTTZよりはるかに有効であった(図5)。
【0077】
実施例6:mAb W6/800、TTZおよびPTZは、in vivoで腫瘍細胞増殖を相乗的に阻害する。
材料および方法:ERBB2-low BRC230ヒト乳がん細胞の腫瘍異種移植片を構築し、上記のように正確にモニターした(図6)。示した抗体の組み合わせ(10mg/kgの各mAb)で処置を実施した。
結果:mAb W6/800-TTZの組み合わせは、低いERBB2レベルを発現する腫瘍異種移植片の制御において、mAb W6/800-PTZおよびTTZ-PTZの組み合わせよりも効果的であった(図6)。
【0078】
実施例7
材料および方法:mAb W6/800の重鎖および軽鎖のCDRをヒトIg骨格に移植した。抗体のヒト化形態は、キメラ化またはCDR移植などの、当該分野において公知の方法に従って生成され得る。ヒト化抗体の生成のための別の方法は当該分野において周知であり、例えば、欧州特許A1 0 239 400号および国際公開第90/07861号に記載されている。ヒト抗体はまた、in vitro法によって誘導することもできる。適切な例としては、限定されないが、ファージディスプレイ、酵母ディスプレイなどが挙げられる。
【0079】
ヒト化重鎖配列番号1および軽鎖配列番号2または配列番号3を、pcDNA3または同様のものなどの標準的な発現ベクターにクローニングし、CHO細胞に同時トランスフェクトした。細胞を、少なくとも14日間、120rpmの振盪器上で、37℃、5%CO2にてインキュベーター内の三角フラスコで培養した。上清を標準的なプロテインA樹脂により精製した。配列番号1および配列番号2に対応するヒト化W6/800抗体huW6/800を、CHO上清から精製し、SK-BR-3乳がん細胞と結合するその能力において、その親マウス抗体およびTTZと比較した。フローサイトメトリー実験を実施し、3つの抗体および無関係な特異性の対照IgG2を、30分間、同じ濃度(10μg/ml)でインキュベートし、2回洗浄し、次いで、示したように、ヒトまたはマウスIgのいずれかに対するFITC標識化二次抗体とのインキュベーションによって曝露した(図7)。
【0080】
結果:ヒト化抗体およびTTZは、SK-BR-3細胞に対して同等の結合を示し、抗マウスIgとの反応性を実質的に喪失し(図7)、ヒト骨格へのW6/800 CDRの成功した移植を実証した。同様の結果が、2つの異なる抗マウスIg調製物を用いて得られた(示さず)。ヒト化抗体はERBB2陰性細胞と反応しなかった(示さず)。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
【配列表】
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