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特許7055784霧化塗布用表面反射防止塗料および表面反射防止塗膜
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-08
(45)【発行日】2022-04-18
(54)【発明の名称】霧化塗布用表面反射防止塗料および表面反射防止塗膜
(51)【国際特許分類】
   C09D 201/00 20060101AFI20220411BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20220411BHJP
   C09D 7/65 20180101ALI20220411BHJP
   G02B 1/111 20150101ALI20220411BHJP
   C09D 5/00 20060101ALI20220411BHJP
【FI】
C09D201/00
C09D7/61
C09D7/65
G02B1/111
C09D5/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2019203517
(22)【出願日】2019-11-08
(65)【公開番号】P2020097730
(43)【公開日】2020-06-25
【審査請求日】2021-05-21
(31)【優先権主張番号】P 2018233267
(32)【優先日】2018-12-13
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】393002634
【氏名又は名称】キヤノン化成株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094112
【弁理士】
【氏名又は名称】岡部 讓
(74)【代理人】
【識別番号】100101498
【弁理士】
【氏名又は名称】越智 隆夫
(74)【代理人】
【識別番号】100106183
【弁理士】
【氏名又は名称】吉澤 弘司
(74)【代理人】
【識別番号】100128668
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 正巳
(72)【発明者】
【氏名】井野口 翔大
(72)【発明者】
【氏名】中谷 直治
【審査官】仁科 努
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-186437(JP,A)
【文献】特開2010-281986(JP,A)
【文献】特開2010-132768(JP,A)
【文献】特開2013-072086(JP,A)
【文献】特開2012-242837(JP,A)
【文献】特開2014-021231(JP,A)
【文献】特開2005-024942(JP,A)
【文献】特開2013-054393(JP,A)
【文献】特開平10-268111(JP,A)
【文献】特開2018-004738(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0106377(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第107615103(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 201/00
C09D 7/61
C09D 7/65
G02B 1/111
C09D 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
霧化塗布用表面反射防止塗料であって、
バインダー樹脂、カーボンブラック、疎水化処理された乾式シリカ、粗し粒子、染料および溶剤を含有し、
前記粗し粒子は、平均粒子径が10μm以上20μm以下のポリアミド系樹脂粒子であり、
前記ポリアミド系樹脂粒子の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、10質量部以上44質量部以下であり、
前記疎水化処理された乾式シリカの添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、14質量部以上であることを特徴とする霧化塗布用表面反射防止塗料。
【請求項2】
前記疎水化処理された乾式シリカの添加量が、バインダー樹脂100質量部に対して、14質量部以上19質量部以下である請求項1に記載の霧化塗布用表面反射防止塗料。
【請求項3】
前記ポリアミド系樹脂粒子の添加量が、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上24質量部未満である請求項1または2に記載の霧化塗布用表面反射防止塗料。
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項に記載の霧化塗布用表面反射防止塗料を用いて形成された表面反射防止塗膜であって、可視光域(360nm~740nm)の入射角20度および入射角80度における平均正反射率が0.5%以下であり、近赤外域(850nm~2000nm)の入射角20度および入射角80度における平均正反射率が3.0%以下であり、可視光域(360nm~740nm)の拡散反射率が2.3%以下であることを特徴とする表面反射防止塗膜。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、霧化塗布用表面反射防止塗料、および前記霧化塗布用表面反射防止塗料を用いた表面反射防止塗膜に関する。
【背景技術】
【0002】
デジタルカメラやデジタルビデオカメラ等の光学機器では、鏡筒などの光路部における乱反射や散乱による迷光を生じることで、結像した画像にゴーストやフレアが発生し画質低下の原因の一つとなることがある。そこでこのような迷光による光学性能の低下を抑制するため、鏡筒部や絞りなどの光路部に黒色の反射防止塗料を塗装したり、反射防止フィルムを貼り付けたりすることで対応している。
【0003】
一方で黒色の反射防止塗料や反射防止フィルムは、カメラ等の光学機器にとどまらず、メーターなどの発光を伴った表示装置において、周辺部の反射防止を行うことで視認性を向上するためにも用いられるようになってきている。
【0004】
その他にも、黒色反射防止塗料のその漆黒性から、意匠性を向上させる塗料としても注目を集めている。
【0005】
上記光学機器用の反射防止塗料としては、バインダー樹脂、黒色微粒子および、変動係数が20%以上で、かつ遮光膜の膜厚の35%~110%に相当する平均粒子径を持つマット剤を含む塗工液を使用する遮光膜の例がある(特許文献1)。
【0006】
特許文献1の方法は、20%以上の変動係数を持つマット剤を使用することにより、大粒子径から小粒子径まで異なる粒子径のマット剤が存在することとなり、あらゆる角度で入射してきた光を吸収するものである。しかし、選択するマット剤やバインダー樹脂によっては、マット剤そのものが表面に露出してしまうおそれがある。特に大粒子径のマット剤が表面に露出した場合、反射防止性能が劣ってしまうおそれがある。
【0007】
特許文献2には、遮光性粒子が、基材粒子と、前記基材粒子の粒子径よりも小さい平均粒子径を有する複数の第2の粒子とを備え、複数の前記第2の粒子が、前記基材粒子の表面上に配置されている光学部品用遮光性コーティング材の例が記載されている。
【0008】
特許文献2の方法は、コーティング膜の正反射率は入射角5度において最小値でも0.3%にとどまり、高性能化する光学機器には十分対応できるとはいえない。
【0009】
また特許文献3には、マクロとミクロの大小異なる大きさの凹凸形状を有することで光沢度を低下させた遮光フィルムが記載されている。
【0010】
特許文献3に記載の遮光フィルムは、塗料のように、さまざまな形状の被対象物には対応できないという欠点がある。また、ミクロ部分の凹凸形状を、粒子を用いないで制御するのは困難である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【文献】特許第6096658号公報
【文献】特開2017-57388号公報
【文献】特開2010-175653号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は、反射防止性能が高く、かつ漆黒性も優れた、霧化塗布用表面反射防止塗料および表面反射防止塗膜を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明に係る霧化塗布用表面反射防止塗料は、霧化塗布によって塗布される霧化塗布用表面反射防止塗料であって、バインダー樹脂、カーボンブラック、疎水化処理された乾式シリカ、粗し粒子、染料および溶剤を含有し、前記粗し粒子は、平均粒子径が10μm以上20μm以下のポリアミド系樹脂粒子であり、前記ポリアミド系樹脂粒子の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、10質量部以上44質量部以下であり、前記疎水化処理された乾式シリカの添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、14質量部以上であることを特徴とする霧化塗布用表面反射防止塗料である。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、反射防止性能が高く、かつ漆黒性も優れた、霧化塗布用表面反射防止塗料および表面反射防止塗膜を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態を説明する。以降、霧化塗布用表面反射防止塗料を単に「塗料」、表面反射防止塗膜を単に「塗膜」と表現する場合がある。
【0016】
本発明に係る霧化塗布用表面反射防止塗料は、霧化塗布により塗布される塗料である。 一般的な塗料の塗布方法として、例えば刷毛、ロールコーター、アプリケーター等によって霧化せずに塗布する方法があり、これらの方法はバルク塗布とよばれる。バルク塗布においては、塗料が粒子状にならないため、塗膜の表面に凹凸を形成する効果が小さい。そのため、高い反射防止性能を得ることができない。一方で、霧化塗布においては、塗料が粒子状になって塗布対象に塗着するため、塗膜の表面に凹凸を形成する効果が高く、反射防止性能に優れると考えられる。
霧化塗布の方法としては、塗料を霧状にして塗布するために一般的に用いられる方法が利用でき、例えば、エアーでの霧化を行うエアースプレー方式および液体を加圧して霧化させるエアレススプレー方式が挙げられる。
【0017】
本発明に係る霧化塗布用表面反射防止塗料は、バインダー樹脂、カーボンブラック、疎水化処理された乾式シリカ、粗し粒子、染料および溶剤を含有する。
【0018】
本実施形態において、バインダー樹脂は特に限定されない。アクリル系樹脂、ウレタン系樹脂、エポキシ系樹脂、アルキド系樹脂、ポリエステル系樹脂等の樹脂が使用できる。これらのバインダー樹脂は、単独または2種類以上を混合して用いることもできる。中でも、架橋の必要が無く、基材へ塗布後、溶剤の乾燥のみで塗膜にできるアクリル系樹脂が好ましく使用できる。
【0019】
また、黒色の着色剤としてはカーボンブラックを用いるが、特にその種類に制限は無い。求める黒色や漆黒性に応じた特性のカーボンブラックを選択できる。黒色や漆黒性の点から、窒素吸着比表面積が100m/g以上、揮発分が3.0%以上である着色用カーボンブラックが好ましい。
【0020】
カーボンブラックの添加量としては、特に制限は無いが、バインダー樹脂100質量部に対して、5質量部以上30質量部以下が好ましい。5質量部以上であれば添加量のばらつきが少なく、安定した黒色を制御することができ、30質量部以下であれば塗料の粘度が上がり過ぎず、塗布性を良好に保つことができる。
【0021】
疎水化処理された乾式シリカはつや消し剤として用いる。疎水化処理のされていない未処理シリカや、湿式シリカと比べて、乾式シリカは粗し粒子による大きな凹凸の上に、小さな凹凸を形成することができ、反射防止性能が優れる。また、乾式シリカは、その製法から二次凝集体表面に凹凸が少ない湿式シリカに比べて、比表面積が大きくなる。それに伴って膜表面の比表面積が大きくなり、入射光に対して、散乱が大きくなるために、表面反射防止性や黒色度に優れることが考えられる。
【0022】
疎水化処理された乾式シリカの添加量は、バインダー樹脂100質量部に対して、14質量部以上である。添加量が14質量部以上であれば、塗膜中に、疎水化処理された乾式シリカの多くがバインダー樹脂中に埋没してしまうことがなく、つや消し性能が発現する。つや消し性、反射防止性、漆黒性の観点から、シリカの量は多いほど塗膜の性能は良化する傾向にある。また、疎水化処理された乾式シリカの添加量は、バインダー樹脂100質量部に対して、14質量部以上19質量部以下であることが好ましい。疎水化処理された乾式シリカの添加量が19質量部以下であれば、塗料粘度が高くなり過ぎず、塗料製造時に十分に分散される。また、分散させたときに、塗料粘度が十分に低く、塗装性が良好で、塗膜がムラになりにくい。
【0023】
粗し粒子は、平均粒子径が10μm以上20μm以下のポリアミド系樹脂粒子である。ポリアミドの種類は、6ナイロンや66ナイロン、12ナイロンなど特に種類は問わない。一般的に樹脂の粗し粒子表面は平滑であるが、ポリアミド系樹脂粒子を使用することで、ポリアミド系樹脂粒子上にバインダー樹脂、つや消し剤としての疎水化処理された乾式シリカが満遍なく存在することとなる。これにより、均一で微細な凹凸形状を持った塗膜を形成させることができる。他の材質、例えばアクリル系樹脂粒子やポリウレタン樹脂粒子の粗し粒子を使用した場合、粗し粒子が塗膜上に析出し、粗し粒子の平滑面が露出してしまうことで、表面反射率が上昇する、という課題が生じる。ポリアミド系樹脂粒子を使用した場合には前記課題が生じないため好ましい。
【0024】
粗し粒子の平均粒子径は10μm以上20μm以下である。粗し粒子の平均粒子径が10μm以上であれば、粗し粒子としての凹凸形成効果が高く、反射防止性能が十分に得られる。粗し粒子の平均粒子径が20μm以下であれば、拡散反射率を抑制することができる。また、平均粒子径が10μm以上20μm以下の範囲であれば、平均粒子径の異なる複数の粗し粒子を同時に用いてもよい。
ここで述べる平均粒子径とは、レーザー回折散乱法により、粒度分布を測定し、数平均粒子径を求めた値を指す。
【0025】
ポリアミド系樹脂粒子の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上44質量部以下である。また、より好ましくは10質量部以上24質量部未満である。ポリアミド系樹脂粒子の添加量が10質量部以上であれば、塗膜表面の粗し粒子による凹凸頻度が高くなり反射防止性能が優れる。粗し粒子の添加量が44質量部以下であれば、粗し粒子が密になり過ぎず、塗膜から脱落するおそれがない。また、粗し粒子の添加量が24質量部未満であれば、霧化塗布の際、塗膜の厚みをコントロールしやすく、同様の条件で製造した塗膜における膜厚のばらつきが低減され、得られる塗膜の品質の安定性をより高くすることができる。
【0026】
本発明において、塗料は染料を含有する。
先にも述べたように、霧化塗布は、塗料が粒子状になって塗布対象に塗着するため、塗膜の表面に凹凸を形成する効果が高いという利点を有するが、一方で、バルク塗布と比べると、光透過性が高いという欠点を有する。
本発明において、塗料は粗し粒子に加えて染料を含有するため、染料により光の透過が妨げられ、霧化塗布における上記光透過性の影響を抑制することができる。
【0027】
染料の種類は、塗膜の漆黒性、反射防止性を保持できる限りにおいて制限はない。求める吸収波長に応じた波長吸収特性を持つ染料を、任意に選択して用いることができる。染料は黒色の染料であることが好ましい。
【0028】
染料は、1種類を用いても良いし、赤色の染料、黄色の染料および青色の染料など複数種の染料を併用し、吸収波長を調整して用いても良い。
染料の種類としては、例えば、アゾ染料、金属錯塩染料、ナフトール染料、アントラキノン染料、インジゴ染料、カーボニウム染料、キノンイミン染料、キサンテン染料、シアニン染料、キノリン染料、ニトロ染料、ニトロソ染料、ベンゾキノン染料、ナフトキノン染料、フタロシアニン染料及び金属フタロシアニン染料等が挙げられる。
【0029】
可視域の波長の光を吸収する目的で添加される染料の例として、例えばソルベントブラック3(OIL BLACK HBB(オリヱント化学工業株式会社製))等のジスアゾ系染料および、例えばソルベントブラック7(NUBIAN BLACK TN-870(オリヱント化学工業株式会社製))等のニグロシン系染料が挙げられる。特に、可視域の波長の光を吸収する染料としては、可視光域に広く吸収波長をもつソルベントブラック3を用いることが好ましい。
【0030】
また、近赤外域の波長の光を吸収する目的で添加される染料の例として、ナフタロシアニン系染料および、スクアリリウム、ジインモニウム、ジオチレンおよびシアニン等の色素が挙げられる。
【0031】
染料の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、7質量部以上15質量部以下であることが好ましい。添加量が、バインダー樹脂100質量部に対して7質量部以上であれば、染料としての光を吸収する効果を高く得ることができ、15質量部以下であれば染料の経時劣化による塗料の性能の低下の影響が少なくなる。
【0032】
溶剤は、有機溶剤が好ましい。塗料は、前記バインダー樹脂、疎水化処理された乾式シリカ、粗し粒子等を前記有機溶剤で希釈したものとすることができる。前記有機溶剤としては、バインダー樹脂が溶解し、疎水化処理された乾式シリカ、粗し粒子等が分散可能であれば、特に制限無く使用できる。例えば、トルエンや酢酸エチル、酢酸ブチル、n-ブタノールなどがあげられる。希釈率も用途に合わせて任意に調整可能である。また、塗布の条件から乾燥速度をコントロールするために、複数の溶剤を混合して用いてもよい。複数の溶剤を混合することで、乾燥速度をコントロールできる。
【0033】
塗料には、その反射防止性能を保持する範囲内で、他の添加剤を添加することも可能である。例えば分散剤、防カビ剤等が挙げられる。分散剤としては、高分子櫛型分散剤、例えばSOLSPERSE 24000GR(日本ルーブリゾール株式会社製)などが挙げられる。
【0034】
塗料は溶剤中にバインダー樹脂、カーボンブラック、粗し粒子、疎水化処理された乾式シリカ等が分散されているが、通常の分散方法が使用できる。例えば、ボールミル、ペイントシェーカー、バスケットミル、ダイノーミル、ウルトラビスコミル、アニュラー型分散機などが使用可能である。
【0035】
本発明に係る表面反射防止塗膜は、上記霧化塗布用表面反射防止塗料を用いて形成された表面反射防止塗膜であって、可視光域(360nm~740nm)の入射角20度および入射角80度における平均正反射率が0.5%以下であり、近赤外域(850nm~2000nm)の入射角20度および入射角80度における平均正反射率が3.0%以下、可視光域(360nm~740nm)の拡散反射率が2.3%以下であることを特徴とする表面反射防止塗膜である。
【実施例
【0036】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されることは無い。
【0037】
各実施例および比較例に使用した原材料は、次に示したとおりである。
アクリル樹脂:アクリディックA-166(DIC株式会社製)
カーボンブラック:RAVEN 5000UII(コロンビアンケミカル社製)
疎水化処理された乾式シリカ:ACEMATT 3300(エボニック・ジャパン株式会社製)
未処理の乾式シリカ:ACEMATT TS100(エボニック・ジャパン株式会社製)
疎水化処理された湿式シリカ:ACEMATT OK412(エボニック・ジャパン株式会社製)
粗し粒子(5μm)PA:ポリアミド系樹脂粒子(平均粒子径5μm)、SP-500(東レ株式会社製)
粗し粒子(10μm)PA:ポリアミド系樹脂粒子(平均粒子径10μm)、SP-10(東レ株式会社製)
粗し粒子(15μm)PA:ポリアミド系樹脂粒子(平均粒子径15μm)、TR-1(東レ株式会社製)
粗し粒子(20μm)PA:ポリアミド系樹脂粒子(平均粒子径20μm)、TR-2(東レ株式会社製)
粗し粒子(50μm)PA:ポリアミド系樹脂粒子(平均粒子径50μm)、ベストジント2157(ダイセル・エボニック株式会社製)
粗し粒子(15μm)PMMA:ポリメタクリル酸メチル(PMMA)樹脂粒子(平均粒子径15μm)、テクポリマーMBX-15(積水化成品工業株式会社製)
粗し粒子(15μm)PU:ポリウレタン粒子(平均粒子径15μm)、アートパールC-400透明(根上工業株式会社製)
染料:OIL BLACK HBB(オリヱント化学工業株式会社製)
有機溶剤:酢酸ブチル(キシダ化学株式会社製)
【0038】
(実施例1)
アクリル樹脂100質量部に対し、カーボンブラック22質量部、疎水化処理された乾式シリカ14質量部、平均粒子径15μmのポリアミド系樹脂粒子17質量部、染料10質量部、有機溶剤133質量部の割合で混合し、塗料混合液を調製した。塗料混合液は全体量が200gになるよう調整した。次に、容量500mlのボールミルを用いて、φ15mmのボール20個とφ10mmのボール20個(計112g)を投入し、90rpmで5時間分散して塗料を製造した。得られた塗料は粘度が20~30mPa・sになるように有機溶剤で希釈し、塗布用の塗料とした。得られた塗布用の塗料を使用し、塗装機にRG-3L(アネスト岩田製)を用い、距離30cmから、霧化圧力0.2MPa、15cm/秒の速度でPETフィルム上に3往復塗料を吹き付けた。PETフィルム上に吹き付けた塗料は、室温にて5分乾燥後、さらに70度にて20分乾燥させて塗膜を作製した。
【0039】
(実施例2~15、比較例1~7、10)
塗料の調製に用いたシリカおよび粗し粒子の種類と量、および染料の量を表1~表3に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして塗料を調製した。また、得られた塗料を用いて実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0040】
(比較例8)
実施例1における塗料混合液の調製において、染料を用いなかった。それ以外は実施例1と同様にして塗料を調製した。また、得られた塗料を用いて実施例1と同様にして塗膜を作製した。
【0041】
(比較例9)
実施例1において、塗料の塗布を霧化塗布で行う代わりに、バルク塗布により行って塗膜を作成した。具体的には、塗料混合液を撹拌して得られた塗料をギャップが100μmのアプリケーターを用いて、PETフィルム上に塗布し、室温にて、5分乾燥後、さらに70度にて20分乾燥させて塗膜を作製した。
【0042】
(正反射率測定)
表面反射防止性能の評価として、正反射率の測定を行った。正反射率の測定は、上記にてPETフィルム上に得られた塗膜に対し、絶対反射率測定ユニットを取り付けた分光光度計(日本分光(株)製V-670)を用いて測定を行った。測定条件は、入射角20度および入射角80度において、波長350nm~2000nmまで1nm刻みで、正反射率(絶対反射率)を測定した。可視光域の正反射率は波長360nm~740nmで得られた測定値の平均値および、近赤外域の正反射率は波長850nm~2000nmで得られた測定値の平均値を算出した。測定結果を表1~表3に示す。
【0043】
(拡散反射率測定)
表面の黒さ、漆黒性の評価として、拡散反射率の測定を行った。拡散反射率の測定は、上記にてPETフィルム上に得られた塗膜に対し、150mmφ積分球ユニットを取り付けた分光光度計(日本分光(株)製V-670)を用いて測定した。波長350nm~800nmまで1nm刻みの条件で、正反射光を除去して拡散反射成分のみの拡散反射率を測定した。波長360nm~740nmで得られた測定値の平均値を算出し、拡散反射率とした。測定結果を表1~表3に示す。
【0044】
(液粘度測定)
上記で作製した塗料(塗布用に有機溶剤で希釈する前の塗料)について液粘度を測定した。液粘度の測定ではB型粘度計を用い、粘度測定装置(芝浦システム(株)製ビスメトロンVSA-1)により次の条件で測定した。液温は25℃、No.2ローターを用い、回転数は、粘度域25cPs~2500cPsでは回転数12rpm、粘度域2500cPsを超える場合は回転数6rpmとした。
【0045】
(膜厚測定および膜厚のばらつき測定)
膜厚の測定は、断面をSEM(走査型電子顕微鏡)で観察することによって行った。具体的には、PETフィルム上の塗膜の断面を1000倍にて観察し、その観察範囲の中で、PETフィルムからの高さが最も高い点から5点と、最も低い点から5点について測定し、その値を平均したものを膜厚とした。測定結果を表1~表3に示す。
また、各実施例、各比較例について同じ条件で作製した塗膜を各5点ずつ用意し、それぞれについて上記に従って膜厚を測定した。その後、5点の塗膜から得られた5つの膜厚の値うち、最大値と最小値の差を算出し、膜厚のばらつきとして評価した。測定結果を表1~表3に示す。
【0046】
(評価)
膜厚、正反射率、拡散反射率それぞれの測定結果から、以下のように評価した。
可視光の入射角20度、80度における正反射率が0.5%以下、近赤外光の入射角20度、80度の正反射率が3.0%以下および可視光の拡散反射率が2.3%以下の条件を同時に満たす場合をA。Aの条件のうち1つでも満たさない場合をB。
【0047】
実施例1、比較例5、比較例6より、粗し粒子はポリアミド系樹脂粒子であることが必要であることがわかる。PMMA樹脂粒子を使用した比較例5、ポリウレタン系樹脂粒子を使用した比較例6ともに、可視光および近赤外光の80度における正反射率と拡散反射率が劣っていた。
【0048】
実施例1、3、4、比較例3、比較例4より、粗し粒子の粒子径は10μm以上20μm以下であることが必要であることがわかる。粒子径が5μmの粗し粒子を使用した比較例3と、粒子径が50μmの粗し粒子を使用した比較例4は、可視光の拡散反射率が劣っていた。
【0049】
実施例1、実施例5、実施例6、比較例7より、粗し粒子の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、10質量部以上であることが必要であることがわかる。粗し粒子の添加量がバインダー樹脂100質量部に対し、5質量部である比較例7では、可視光の拡散反射率が劣っていた。
また、実施例9、13~15より、粗し粒子の添加量は、バインダー樹脂100質量部に対して、10質量部以上24質量部未満であることが好ましいことがわかる。粗し粒子の添加量が、バインダー樹脂100質量部に対し、24質量部以上である実施例13~15では、膜厚のばらつきが大きかった。
【0050】
実施例1、比較例1、比較例2より、シリカは疎水化処理された乾式シリカを用いる必要があることがわかる。未処理の乾式シリカを用いた比較例1は、可視光の拡散反射率が劣っていた。また、疎水化処理された湿式シリカを用いた比較例2は、近赤外光の80度の正反射率と可視光の拡散反射率が劣っていた。
【0051】
実施例1、実施例2、実施例7、比較例10より、疎水化処理された乾式シリカの添加量は、バインダー樹脂100質量部に対し、14質量部以上であることが必要であり、14質量部以上19質量部以下であることが好ましいことがわかる。疎水化処理された乾式シリカの添加量が11質量部である比較例10は、可視光の拡散反射率が劣っていた。
【0052】
実施例1、比較例8より、塗料は染料を含有する必要があることがわかる。染料を用いなかった比較例8では、可視光の拡散反射率が劣っていた。
【0053】
実施例1、比較例9より、塗料は霧化塗布により塗布される必要があることがわかる。塗料をバルク塗布により塗布した比較例9では、可視光の拡散反射率が劣っていた。
【0054】
【表1】
【0055】
【表2】
【0056】
【表3】