(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】発熱体の製造方法及び発熱体
(51)【国際特許分類】
A61F 7/03 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
A61F7/08 334X
A61F7/08 334R
(21)【出願番号】P 2021556561
(86)(22)【出願日】2021-08-02
(86)【国際出願番号】 JP2021028647
【審査請求日】2021-10-18
(31)【優先権主張番号】P 2020135953
(32)【優先日】2020-08-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000112509
【氏名又は名称】フェリック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100113402
【氏名又は名称】前 直美
(72)【発明者】
【氏名】宮下 洋一
(72)【発明者】
【氏名】池澤 正義
(72)【発明者】
【氏名】宮下 永二
【審査官】村上 勝見
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/151472(WO,A1)
【文献】特開2012-140537(JP,A)
【文献】特開2011-067551(JP,A)
【文献】特開平10-263002(JP,A)
【文献】実開昭55-059616(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61F 7/03
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む発熱体の製造方法であって、前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体を、少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器に封入する工程、及び
前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材に接する噴出口から前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
前記非水溶性成分が、被酸化金属粉、活性炭及び膨潤剤を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
前記液体成分が、水、又は塩類もしくは1以上の水溶性成分を含む水溶液である、請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
前記透水性包材が、耐水圧30KPa以下の包材である、請求項1~3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
前記発熱組成物前駆体が、さらに結合剤を含む、請求項1~4のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
前記発熱組成物前駆体が、前記液体成分注入前の体積と比較して前記液体成分を注入された後に1.1倍~4倍の体積に膨張する前駆体である、請求項1~5のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
前記発熱組成物前駆体が、成形された固形形態である、請求項1~6のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
前記透水性包材が、不織布である又は不織布を含む、請求項1~7のいずれか1項記載の方法。
【請求項9】
空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む発熱体の製造方法であって、前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体を、少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器に封入する工程、
前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材に接する噴出口から前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入する工程、及び
前記液体成分を注入する工程の後に、得られた発熱体を、酸素を遮断する気密性外袋に封入する工程
を含むことを特徴とする方法。
【請求項10】
空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物と、前記発熱組成物を封入された少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器とを含む発熱体であって、
前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体が、前記袋又は容器に封入された後に、
前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入することによって製造されたことを特徴とする、発熱体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む、化学懐炉(カイロ)、温湿布構造物、灸具などの発熱体の製造方法、及び発熱体に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物を使用した発熱体は、温湿布や経絡刺激用温熱具のような医療機器において、あるいは使い捨てカイロのような日用品などにおいて、広く用いられている。
【0003】
このような温熱具に使用される発熱体の発熱組成物には、一般に、鉄、塩類、活性炭、水、及び必要に応じてその他の付加的成分が含まれる。発熱組成物の製造時、鉄粉などの細かい粉体の原料は舞い上がりやすく扱いにくいうえ、粉塵による危険が生じやすい。そのため、水又は塩類水溶液が、早い工程で他の原料に添加される。典型的な例として、たとえば、使い捨てカイロのような製品は、鉄粉、活性炭などの粉末に予め塩水を混合して発熱組成物原料の混合物を製造し、この混合物を、通気性を有する袋に充填して発熱体を製造し、最後にこれを、酸素を遮断する気密性外袋に密封することにより製造されている。
【0004】
しかし、鉄粉などの成分に水を添加すると、酸素の存在下では発熱反応(鉄の酸化反応)が直ちに開始する。したがって、この製造方法の場合、外袋に密封される前に発熱性能が低下する。これは、灸具として使用する発熱体のように、使用する発熱組成物の量が少量である場合に、特に著しい。また、通気性の高い包材が使用される発熱体(たとえば靴用の使い捨てカイロ、灸具など)をこの方法で製造する場合、製造された発熱体を外袋に封入するまでの搬送工程において水が包材から染み出したり、水蒸気が出て外袋封入後に結露したりすることがある。これらの不都合を改善する観点からは、水は、なるべく後の工程で加えることが望ましい。
【0005】
発熱体を製造する方法としては、鉄粉、活性炭、保水材などの非水溶性成分と少量の水のみを予め混合し、必要量の水を後工程でさらに添加する方法も知られている(特許文献1)。さらに、鉄粉、活性炭、保水材などの非水溶性成分のみの混合物を錠剤(タブレット)型に成形し、包材で構成される容器に充填した後に、注射器で水を注入する製造方法も存在する(特許文献2)。
【0006】
上記のような方法は、製造中又は外袋封入前に起こる発熱開始を遅らせることにおいてはある程度の効果があり得るものの、工程が増えること、製造速度を下げる必要が生じることなどの工業生産上の不都合が生じる。また、注射器を使用する方法は包材に針孔が残るため、通気性の低い包材を必要とする発熱体には適用できない。
【0007】
さらに、従来の方法で発熱体を製造する場合には、発熱組成物がシール部分にはさまることによるシール不良を回避するなどの目的のため、袋又は容器を容量いっぱいに発熱組成物で満たすことができなかった。そのため、袋又は容器内で発熱組成物が偏ったり、内袋や容器の縁、角などに発熱組成物が充填されない部分が生じたりし、発熱や使用者の感じる温度が部分によって不均一になるなどの不都合が生じていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特表平11-508786号公報
【文献】国際公開WO2016/063815号公報
【文献】特開平9-75388号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上記のような従来の発熱体の製造方法の問題を解決すること、具体的には、製造中又は外袋への密封前に起こる発熱組成物又は発熱体の発熱開始を遅らせる又は起こらないようにし、発熱性能の良い製品を製造する方法、また、そのような製品を、製造速度を落とさずに効率的に製造する方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、従来の方法で発熱体を製造した場合に生じていた、袋又は容器内での発熱組成物の偏り又は発熱組成物が充填されない部分の発生を回避することができる製造方法の提供をも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明によれば、
〔1〕 空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む発熱体の製造方法であって、前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体を、少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器に封入する工程、及び
前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材に接する噴出口から前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入する工程
を含むことを特徴とする方法;
〔2〕 前記非水溶性成分が、被酸化金属粉、活性炭及び膨潤剤を含む、前記〔1〕記載の方法;
〔3〕 前記液体成分が、水、又は塩類もしくは1以上の水溶性成分を含む水溶液である、前記〔1〕又は〔2〕記載の方法;
〔4〕 前記透水性包材が、耐水圧30KPa以下の包材である、前記〔1〕~〔3〕のいずれか1項記載の方法;
〔5〕 前記発熱組成物前駆体が、さらに結合剤を含む、前記〔1〕~〔4〕のいずれか1項記載の方法;
〔6〕 前記発熱組成物前駆体が、前記液体成分注入前の体積と比較して前記液体成分を注入された後に1.1倍~4倍の体積に膨張する前駆体である、前記〔1〕~〔5〕のいずれか1項記載の方法;
〔7〕 前記発熱組成物前駆体が、成形された固形形態である、前記〔1〕~〔6〕のいずれか1項記載の方法;
〔8〕 前記透水性包材が、不織布である又は不織布を含む、前記〔1〕~〔7〕のいずれか1項記載の方法;
〔9〕 空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む発熱体の製造方法であって、前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体を、少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器に封入する工程、
前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材に接する噴出口から前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入する工程、及び
前記液体成分を注入する工程の後に、得られた発熱体を、酸素を遮断する気密性外袋に封入する工程
を含むことを特徴とする方法;及び
〔10〕 空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物と、前記発熱組成物を封入された少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器とを含む発熱体であって、
前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体が、前記袋又は容器に封入された後に、
前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入することによって製造されたことを特徴とする、発熱体が提供される。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、発熱体が外袋に封入される直前に、包材の中にある発熱組成物前駆体に包材の外から包材を介して所定量の液体を注入することができる。そのため、発熱体の製造中又は外袋封入前の発熱による性能低下を防ぐことができる。また、本発明によれば、所定量の液体を精度よく高速で注入することができるので、発熱性能の優れた発熱体を簡便かつ効率的に製造することができる。
【0012】
さらに、本発明によれば、袋又は容器に封入後に、発熱組成物前駆体が液体を吸収し、袋又は容器の形状に合わせて均一に分散又は膨張することができる。したがって、シール不良の心配なしに袋又は容器に発熱組成物を均一にすきまなく充填することができる。また、本発明によれば、発熱組成物を予め袋又は容器と同じ形態に成形する必要がなく、従来は不可能であった複雑な形状の袋又は容器にも、容易に発熱組成物を均一に充填することが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】
図1は、(A)実施例及び比較例で製造した容器本体の形(先端を切断された円錐形)及び大きさを示す側面から見た模式図、及び(B)加重化吸塩水量測定に使用した装置を説明する模式図である。
【
図2】
図2は、本発明の発熱体である経絡刺激用温熱具(灸具)の構造の例を示す図(断面図)である。(A)は発熱組成物前駆体(錠剤型)を容器に封入した直後、(B)及び(C)は液体成分の注入のために上下を反転したところ(いずれも液体成分の注入前)であり、(B)は液体成分を注入する部分が平らの容器、(C)は液体成分を注入する部分がくぼんだ容器である。パネル(D)及び(E)は、それぞれ(B)及び(C)の液体成分注入後を表す図である。1:発熱組成物前駆体錠剤、2:容器本体、3:トップ部材、4:くぼみ、5:発熱組成物。
【
図3】
図3は、実施例1~5(実線)及び比較例1~5(点線)の発熱体の発熱パターン(いずれもn=3の平均)を示す図である。パネル(A)は実施例1と比較例1、(B)は実施例2と比較例2、(C)は実施例3と比較例3、(D)は実施例4と比較例4、及び(E)は実施例5と比較例5を、それぞれ対比して示す。
【
図4】
図4は、吸水性ポリマーの含有量が異なる実施例の発熱体の発熱パターン(いずれもn=3の平均)を示す図である。パネル(A)は実施例6~9、パネル(B)は実施例1~9の発熱パターンを示す。
【
図5】
図5は、吸塩水倍率の異なる吸水性ポリマーを使用した実施例10~12の発熱体の発熱パターン(いずれもn=3の平均)を示す図である。
【
図6】
図6は、耐水圧の異なる包材を使用した実施例13~17の発熱体の発熱パターン(いずれもn=3の平均)を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
発熱組成物
本発明において使用される発熱組成物は、被酸化金属粉、1種以上の塩類、活性炭及び水を含有する。また、発熱組成物は、必要に応じて、以下に述べる付加的な各種成分を含有する。
【0015】
被酸化金属粉としては、一般的には鉄粉が使用されるが、酸化熱を生じるものであれば、それ以外のものであってもよい。たとえば、鉄粉(還元鉄、鋳鉄、アトマイズ鉄、硫酸鉄)、アルミニウム粉、亜鉛粉などであることができる。典型的には、被酸化金属粉は、発熱組成物の重量を100%として、約10重量%~約80重量%、好ましくは約15重量%~約70重量%の範囲で含有される。なお、本明細書において「%」は特記しない限り「重量%」を表す。
【0016】
塩類としては、金属の酸化反応で生じる酸化被膜を壊し継続的に反応させることができる電解質であればよく、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、マンガン、銅などの塩化物、硫酸塩、炭酸塩、酢酸塩、硝酸塩などの塩類、又はそれらの混合物が一般に使用される。これらの塩類のうち、塩化ナトリウム、塩化カルシウム、塩化マグネシウム、塩化第二銅、及びそれらを含む混合物が好ましい。典型的には、塩類は、発熱組成物の重量を100%として、約0.5重量%~約10重量%、好ましくは約1重量%~約5重量%の範囲で含有される。
【0017】
活性炭としては、ヤシ殻、木材などの植物性原料由来の活性炭が一般に使用されるが、動物性原料その他の原料由来のものであってもよい。活性炭は、典型的には、発熱組成物の重量を100%として、約0.5重量%~約25重量%、好ましくは約0.5重量%~約20重量%、最も好ましくは約1重量%~約15重量%の範囲で含有される。
【0018】
水は、特に制限はなく、水道水、工業用水などを使用することができる。典型的には、水は、発熱組成物の重量を100%として、約1重量%~約40重量%、好ましくは約10重量%~約30重量%の範囲で含有される。
【0019】
本発明において使用される発熱組成物は、膨潤剤をさらに含むことが好ましい。このような膨潤剤としては、たとえば吸水性ポリマーが挙げられる。膨潤剤は、液体を吸収して体積が膨張する性質を有するものであればよく、ゼラチン、寒天などの親水性高分子であってもよいが、無機塩類で膨潤が抑制されにくい疎水性高分子が好適であり、特に、疎水性アクリル酸ポリマーが好ましい。膨潤剤は、発熱組成物の重量を100%として、0~約45重量%であることができ、典型的には、約0.1重量%~約30重量%、好ましくは約0.5重量%~約20重量%、最も好ましくは約1重量%~約10重量%の範囲で含有される。
【0020】
また、粉体原料を固形形態に成形するために、結合剤を含有させることができる。結合剤としては、セルロース(たとえば結晶セルロース)、乳糖、でんぷん、デキストリン、ショ糖エステル、テフロン(登録商標)、ポリエチレングリコール、カルボキシメチルセルロース、ケイ酸カルシウム、合成ヒドロタルサイト、メタケイ酸アルミン酸マグネシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、コーンスターチ、炭酸カルシウム、アラビアゴム、ゼラチン、グァーガム、カオリン第二リン酸カルシウム、第三リン酸カルシウム、ポリエチレンオキシド、キサンタンガム、メタアクリル酸アンモニウムコポリマー、酢酸ビニル共重合物、シロップ、ポビドン、ラクチトール、硫酸カルシウム、アルギン酸などが挙げられる。たとえば、打錠成形して錠剤型の固形とするには、発熱組成物の重量を100%として、結合剤を10重量%~約30重量%、好ましくは約10重量%~約25重量%、最も好ましくは約10重量%~約20重量%の範囲で含有させることにより、所望の適切な硬度を有する錠剤とすることができる。
【0021】
さらに、温度制御剤(特許文献2)を含有させていてもよい。温度制御剤としては、35℃以上70℃以下の融点を有し20℃での水溶解度が5g/100mL以下の脂肪族化合物、具体的には、高級α-オレフィン重合体(炭素数10~35のα-オレフィン2種以上のコポリマー又は炭素数10~35のα-オレフィン1種以上と他のオレフィン1種以上とのコポリマー、好ましくは一定の長鎖α-オレフィンを側鎖に有する側鎖結晶性ポリオレフィン)、植物性、動物性又は石油系などの各種パラフィンワックス、ミリスチン酸ミリスチル、ポリエステルポリオール、ポリオキシエチレン脂肪酸ジエステルなどを使用することができる。温度制御剤は、発熱組成物の重量を100%として、0~約40重量%であることができ、典型的には、約0.1重量%~約35重量%、好ましくは約0.5重量%~約30重量%の範囲で含有される。
【0022】
また、保存期間中に外袋が水素ガスで膨らまないように、pH調整剤を含有させてもよい。pH調整剤としては、亜硫酸ナトリウムやポリリン酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウムなどが挙げられる。pH調整剤は、発熱組成物の重量を100%として、約0.01重量%~約5重量%、好ましくは約0.1重量%~約2重量%の範囲で含有される。
【0023】
本発明の発熱組成物として、結合剤を含有するものが好ましい。特に好ましい配合の一例は、発熱組成物の重量を100%として被酸化金属粉15重量%~60重量%、塩類1重量%~4重量%、活性炭2重量%~10重量%、水10重量%~40重量%、膨潤剤1重量%~10重量%、結合剤12重量%~20重量%、及び温度制御剤0重量%~25重量%である。
【0024】
発熱組成物には、必要に応じて、その他の種々の成分を付加的に含有させることができる。他の付加的な成分としては、酸化反応促進剤、水素ガス抑制剤、増量剤、充填剤、凝結防止剤、増粘剤、及び界面活性剤などが挙げられる。これらの成分として発熱組成物において使用可能な具体的な物質は公知である。
【0025】
発熱組成物前駆体の製造
発熱組成物の構成成分は、常温で固体の成分(以下「固体成分」ということがある)と常温で液体の成分(以下「液体成分」ということがある)とに分けられる。前者はさらに、水に溶解しない非水溶性成分(被酸化金属粉、活性炭、膨潤剤、温度制御剤など)と、水に溶解する水溶性成分(塩類、pH調整剤など)とに分けられる。本発明の方法においては、このうち、非水溶性成分のみ、又は非水溶性成分及び1以上の水溶性成分を混合し、発熱組成物前駆体を製造する。すなわち、本発明に関して、発熱組成物前駆体は、非水溶性成分からなる、又は非水溶性成分及び1以上の水溶性成分を含む、発熱組成物原料の常温で固体の成分の混合物であって、常温で液体の成分(水のみ、一部又は全部の水溶性成分の水溶液、又は、一部又は全部の水溶性成分及び水以外の常温で液体の成分を含む水溶液)を含まないものを指す。
【0026】
発熱組成物前駆体は、上記のような必須成分及び必要に応じて選択した任意の成分のうち、非水溶性成分(及び場合により1以上の水溶性成分)を、公知の方法で混合することにより製造することができる。
【0027】
発熱組成物前駆体は、粉体(混合粉のまま)であってもよいが、粉塵の飛散を低減するためには、これを公知の方法で成形することが好ましい。たとえば、発熱組成物前駆体は、圧延及び/又は打錠などにより、円盤、角柱、ピラミッド型、立方体、直方体、円柱、円錐及び楕円柱、中央部に穴の開いたトローチ形状などの形態に成形してもよい。角のない底面を有する形状(円柱、円錐、楕円柱など)が好ましい。このような固形形態の発熱組成物前駆体は、袋又は容器への封入時にシール部分に粉が付着することによるシール不良が回避され、所定量を容易に封入できるので、発熱温度のばらつきをなくすためにも好ましい。
【0028】
成形された発熱組成物前駆体は、発熱体の用途に応じたサイズ及び形態であることができる。たとえば、灸具として使用される発熱体を製造する場合、発熱組成物前駆体は、直径2mm~30mm、高さ2mm~15mmの円柱形であることができる。
【0029】
袋又は容器
発熱組成物前駆体は、少なくとも一部分が通気性を有する袋又は容器に充填される。したがって、発熱組成物前駆体の製造の前又は後に、又は発熱組成物前駆体の製造と並行して、袋又は容器、又はその部材を製造又は用意する。好ましくは、袋又は容器、又はその部材は、発熱組成物前駆体が製造された直後に袋又は容器に封入できるように、予め製造するか並行して製造する。
【0030】
袋又は容器の形状は、平面的(偏平)でもよく、立体的でもよい。本発明によれば、袋又は容器の中で、袋又は容器の形に合うように発熱組成物が膨潤するため、球形や、凹凸の多い立体又は偏平形状などの任意の形を自由に選択することができる。
【0031】
発熱組成物の常温で液体の成分は、袋又は容器の外から、包材を通過して袋又は容器内に注入され、発熱組成物前駆体に吸収される。袋又は容器は、通常、少なくとも2つの部材から構成され、1つは袋又は容器の液体成分を注入する部分を有する部材であり、他の1つ以上は液体成分の注入に関与しない部材である。たとえば、前者は扁平な袋の片面、又は容器の本体であり、後者は扁平な袋の他方の面、又は容器のトップ部材(蓋部材)である。
【0032】
袋又は容器の液体成分を注入する部分を構成する包材は、透水性包材である必要がある。この部分を構成する包材は、透水性を有する通気性包材であってもよい。具体的には、この部分を構成する包材は、注入時の水圧よりも低い耐水圧を有するものであればよい。後述する注入時の水圧との関係で、包材の耐水圧は、たとえば0.1~100KPaであることができ、0.1~30KPa、0.5~30KPa、又は1~30KPaが好ましい。
【0033】
袋又は容器の液体成分を注入する部分を有する部材の、液体を注入する部分以外、及び液体成分の注入に関与しない部材は、透水性包材であっても非透水性包材であってもよく、通気性包材であっても非通気性包材であってもよい。
【0034】
袋又は容器を構成する通気性包材は、その選択により発熱体の発熱特性(発熱の立ち上がり速度、発熱持続時間、人体や衣類などの加温対象への伝熱性など)が変化するので、使用目的に合わせてそれらが所望の範囲になるように、公知のものを適宜選択して使用することができる。
【0035】
通気性包材としては、一般的な人体用のカイロ等には、10,000~40,000秒/100cc(JIS P8117、ガーレー法)、靴用カイロでは2,000~7,000秒/100ccのものが使用される。経絡刺激用温熱具のように高温及び/又は短時間で使用するように設計する発熱体の場合は、0~10,000秒/100ccの包材を使用することができる。したがって、袋又は容器を構成する通気性包材の通気性は、一般には、0~40,000秒/100ccであることができる。
【0036】
本発明において袋又は容器に用いられる通気性包材は、全面又は部分的に通気性を有するフィルム又はシートであればよく、目的に応じて、また、適切な必要発熱量、温度、用いる発熱組成物等に合わせて、適宜選択することができる。なお、本発明において「フィルム」は主として単体(単層及び積層を含む;以下同じ)又は比較的薄いもの、「シート」は主として単体もしくは2以上の単体の積層体又は比較的厚いものを指すが、厳密には区別しないものとする。
【0037】
本発明においては、通気性フィルム又はシートとしては、延伸フィルム、好ましくは延伸された多孔質フィルム又はそれを含むシートが好適に使用される。延伸多孔質フィルムは、一般に無機質充填剤を含み、延伸によって連通孔が形成されることにより通気性が発現するが、この孔径等を制御することにより通気度を制御することができる。
【0038】
フィルムを構成する樹脂としては、一般に、熱可塑性合成樹脂等が使用される。具体的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリウレタン、ポリスチレン、エチレン-酢酸ビニル共重合体、ポリカーボネート等が単独で又は組み合わせで好適に用いられる。
【0039】
このような単層又は積層の多孔質フィルム又はシートが、単独で、又は織布もしくは不織布などと組み合わせて用いられる。あるいは、単層又は積層の無孔フィルム又はシートを、単独で、又は織布もしくは不織布などと組み合わせたものに針孔を開けたものが用いられる。フィルム又はシートの積層は、従来公知の任意の方法を適用して行うことができる。
【0040】
本発明において袋又は容器に用いられる透水性及び/又は通気性包材として、不織布は、単独で、又はフィルムもしくはシートと組み合わせて使用される。不織布としては、従来、発熱体及び医療用温熱用具等の技術分野で用いられるものを好適に使用できる。たとえば、ナイロン、ビニロン、ポリエステル、レーヨン、アセテート、アクリル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル等の人工繊維、綿、麻、絹、ウール等の天然繊維を含むものが挙げられ、スパンボンド、サーマルボンド、スパンレース等の形態の不織布が挙げられる。不織布の目付けは、不織布材質の比重や交絡法の違いによる嵩高さにより変わってくるが、一般に約10g/m2~約800g/m2程度のものが適しており、特に約20g/m2~約500g/m2が好ましい。JIS P8117、ガーレー法で測定した場合の通気度は、0~100秒/100cc程度のものが適しており、特に0~50秒/100cc程度のものが好ましい。
【0041】
袋又は容器の大きさ及び形態は、発熱体の用途などに応じて任意に選択できる。錠剤型、キューブ型のように、厚さのある形態に成形した固形の発熱組成物前駆体は、扁平状の袋ではなく、たとえば数mm~数cm程度の厚さのある容器に収容することができる。この場合、トップ部材(蓋)及び/又は容器本体として、上記のような各種の材質の包材を適宜用い、熱成形、真空成形などの方法により、深さのある透水性及び/又は通気性包材のカップを形成することができる。
【0042】
発熱組成物前駆体(たとえば、円柱形の錠剤)が液体成分の注入後膨張することや、充填性、液体成分が注入時に発熱組成物前駆体に吸収される前に溢れる恐れがあることを勘案すると、空間(錠剤との隙間)があった方がよいため、袋又は容器の注入面(上面)の直径及び/又は高さは、発熱組成物前駆体錠剤の直径及び/又は高さよりも若干大きいことが好ましい(たとえば
図2、パネル(A)、(B)、(C)参照)。中央部に穴の開いたトローチ(又はドーナツ)形状であれば、穴が開いた部分に充分な空間が確保できるため、注入面(上面)の直径及び/又は高さは大きくする必要はない。
【0043】
注入後、外袋に封入された後に、外袋と発熱体天面(注入面)との接触面から水が漏れださないようにするため、及び/又は注入後の水の吹き上がりを防止するために、発熱組成物前駆体の中央部(噴出口の位置と対応する位置)にくぼみを設けることが好ましい(たとえば
図2、パネル(C)参照)。
【0044】
非通気性包材は、上記のような樹脂の単層又は積層フィルム又はシートであることができ、発熱組成物収容袋体の形成に適している限りにおいて、材質、厚さ、構成等に関し特に限定はない。
【0045】
上記のような包材を用いて作製された袋又は容器の各部材により形成される空間に、別途製造された発熱組成物前駆体を入れた後に、この技術分野において通常用いられる方法により部材の周縁部を接着することにより、袋又は容器内に発熱組成物前駆体を封入することができる。たとえば、液体成分を注入する部分を有する部材と液体成分の注入に関与しない部材との間に発熱組成物前駆体を置き、重ねた部材の周縁部をヒートシール又は粘着剤で接着するか、あるいは、予め両部材を重ねて一部を残してヒートシール又は粘着剤で接着し、開いている部分から発熱組成物前駆体を投入した後、この開口部も接着することにより、発熱組成物前駆体を封入することができる。
【0046】
液体成分の注入
袋又は容器に封入された発熱組成物前駆体に、袋又は容器の液体成分を注入する部分の包材を介して、発熱組成物の液体成分を注入する。これにより、袋又は容器内で発熱組成物が完成する。
【0047】
液体成分は、水、又は塩類水溶液などの、1以上の水溶性成分を含む水溶液であってもよいが、好ましくは水である。
【0048】
液体成分の注入は、所定の量を注入できる機械を使用して行うことができる。このような機械では、一般に、注入すべき液体成分を収容した容器(皿、タンクなど)から、流路を介して液体成分を噴出口に搬送し、ポンプなどを使って所定の圧力で所定量の液体成分を、注入ヘッドの噴出口から吐出させる。ポンプとしては、定量ポンプを使用することができ、往復ポンプ(プランジャーポンプ、ピストンポンプ、ダイヤフロムポンプなど)、回転ポンプ(歯車ポンプ、ネジポンプなど)の任意のものを使用することができる。注入圧は1~200KPaが好ましい。
【0049】
液体成分が注入ヘッド入口から注入ヘッド出口(すなわち噴出口)に到達するまでの流路の断面形状及び/又は噴出口の形状は、円形、角形など、いずれであってもよい。圧力を噴出口に効果的にかけるためには、流路は、円管の場合直径約0.5mm~5mm程度、角管の場合約0.5mm~5mm角程度が好ましい。
【0050】
液体成分の注入後、発熱組成物前駆体は、液体を速やかに吸収して袋又は容器内で膨張する。この膨張率は、発熱組成物前駆体を袋又は容器に封入せずに、液体注入前の発熱組成物前駆体の体積と、液体注入及び膨張後(液体の吸収及び膨張が停止した時点)における発熱組成物前駆体の体積とを、それぞれ算出又は測定して比較することにより、測定することができる。膨張の程度は、発熱組成物の組成、具体的には注入する液体の量、膨潤剤の含有量及び選択した物質の物性などにより影響されるので、これらを適宜選択することにより、所望の範囲に調整することができる。膨張率は、通常約1.1倍~約4倍程度であり、袋又は容器内に発熱組成物をすきまなく充填するためには、約1.2~約4倍程度が好ましい。
【0051】
所定の量の液体を高速で正確に注入するためには、注入部の透水性包材と噴出口とが接している必要がある。したがって、注入部の透水性包材と接する噴出口は、材質は問わないが、注入圧力が逃げないように追従性、密着性の優れた素材で形成されることが好ましい。たとえば、流路を構成する金属製の管の先に、リング状、チューブ状などの柔軟性又は弾力性を有する素材の緩衝部材を装着してもよい。このような緩衝部材の形状は蛇腹状やドーム状であることができる。緩衝部材の好ましい材質としては、シリコンゴム、ウレタンゴム、ニトリルゴムなどが挙げられる。
【0052】
注入部の透水性包材と接する噴出口は、流路の断面よりも大きいことが望ましい。円形の場合直径約2mm~50mmが好ましい。直径が大きくなると噴出注入後の液滴が表面張力で噴出口の内側や外側に溜まり、発熱組成物前駆体への注入精度が低下する問題が生じる。
【0053】
なお、発熱組成物前駆体と注入部の透水性包材との距離は、注入時の液体の跳ね返りを勘案し、約0.5mm~約10mm隙間が空いていることが好ましい。ただし、噴出口が接する場所は、発熱組成物前駆体と注入部の透水性包材とが接していても、周辺に隙間が空いていれば、水が周辺の隙間へ逃げるため綺麗に注入ができる。
【0054】
外袋への封入
液体成分の注入後、製造された発熱体は、酸素を遮断する外袋に封入され、使用時まで保存される。このような外袋の包材、製造方法も公知である。一般に、発熱体をラインで工業生産する場合、発熱体は、外袋に封入する(包装機)工程まで数分間かけて搬送される。液体成分の注入後、発熱体が外袋に封入されるまでの時間は短い方がよく、好ましくは2分以内、さらに好ましくは1分以内である。
【0055】
発熱体の付加的要素
発熱体は、上記のように製造された、袋(たとえば使い捨てカイロ)又は容器(たとえば灸具)に発熱組成物が充填されたものであることができるが、必要に応じて、さらに付加的な要素を追加することができる。これらの各種の要素は公知であり、袋又は容器に一体化されて外袋中に包装されていてもよく、あるいは、外袋に同封されず、使用時に組み合わせるように別部材として提供されてもよい。付加的な要素の例としては、各種の固定手段や、使用時に組み合わせるべき各種のパーツ(たとえば、香料や薬剤を含む容器、水や化粧料を含有するシートなど、発熱体の用途に応じて使用されるもの)がある。固定手段としては、たとえば、発熱体を加温対象に貼付するための粘着剤層又は湿布剤層、加温対象に巻きつけて固定するためのバンド状の部材、及び発熱体を収容するポケットを設けたマスク、サポーター又はリストバンドなどが挙げられる。なお、発熱体は、カンフル、メントールなどの各種薬剤又は香料を、粘着剤層、湿布剤層その他の構成要素、あるいは発熱組成物、及び/又は包材もしくは容器などに組み合わせて使用してもよい。
【実施例】
【0056】
1.発熱体の製造
<錠剤型の発熱組成物前駆体の作製>
発熱組成物の常温で固体の成分(非水溶性成分及び水溶性成分)である原料として、鉄粉(パウダーテック株式会社、還元鉄粉「RDH-3M」)、活性炭(大阪ガスケミカル株式会社 木粉活性炭「白鷺 S5」)、塩(日本海水株式会社 粉末塩「EF-300」)、膨潤剤として吸水性ポリマー(三洋化成株式会社 ポリアクリル酸系樹脂「ST-500D*」)、結合剤として結晶セルロース(旭化成ケミカルズ株式会社 結晶セルロース 「セオラスTG-101」)を使用した。
【0057】
発熱組成物の組成は、常温で固体の成分が、鉄粉45.0重量%、活性炭5.0重量%、塩5.0重量%、結晶セルロース20.0重量%、常温で液体の成分が、水25重量%を基本処方として使用した。これに吸水性ポリマーを適宜添加する形で、表1に示す各種の発熱組成物を設計した。
【0058】
【0059】
<発熱組成物前駆体の製造>
計量した上記固体成分原料をポリエチレン袋に封入し、充分に空気が入った状態で口を閉じて3分間混合した。この混合原料を0.75g計量し、株式会社富士薬品機械「卓上型試作打錠機クイックミニFY-TQM-30」で打錠した(打錠圧10KN)。押す側金型は直径13.9mm、受け側金型内径は14mmを使用し、直径14mm、厚み3mmの円筒形の錠剤型の発熱組成物前駆体を製造した。
【0060】
<容器本体の成形>
ポリエステルスパンボンド不織布(250g/m
2目付、商品名「エルタススマッシュY15250」、旭化成株式会社)を、110℃に加熱した凸型ステンレス製押し型と凹型のステンレス製受け型の間に挟み込み、5秒間押して、直径18mm高さ7mmのカップ状成形物を作製した。このカップ状成形物(液体成分を注入する部分を有する部材)の形及び大きさを、
図1、パネル(A)に模式的に示す。この図において、上面が液体成分を注入する部分を有する面であり、下は発熱組成物前駆体を投入後にトップ部材で塞ぐために空いている。
【0061】
<容器への封入>
上記で作製したカップ状成形物に錠剤型発熱組成物前駆体を1個入れ、その上からトップ部材(セパレーター加工ポリエステル/SIS系ホットメルト粘着材/ポリエステルスパンレース不織布(30g/m2目付)/アルミナ蒸着ポリエステル/低密度ポリエチレンを、ポリエチレンフィルム層が容器本体上部の縁に接する向きで被せた。180℃に加熱したステンレス製ヒートシールバーで、セパレーター側から圧力(10MPa)を5.5秒間適用し、トップ部材と容器本体とを熱圧着して発熱組成物前駆体を封入した。封入後、直径26mmにトムソン刃で打ち抜いた。
【0062】
<液体成分の注入>
液体成分の注入は、上記で製造した生成物の上下を反転し、容器本体の底側を上面として水の噴出口の下に設置した。水は、流路入口内径2mm、出口内径0.8mmのHIBER社製『ハイバーポンプ』を用いて4.5mmのストロークで供給した。注水ヘッドの金属管の先端に取り付けてある直径6mmのシリコン製緩衝部材の縁(噴出口)を、前記で製造した発熱組成物前駆体封入物の上面(容器本体の不織布表面)に接触させて、発熱体1個当たり0.25gの水を注入し、発熱体(実施例1~9)を製造した。
【0063】
<外袋への封入>
発熱体は、製造後速やかに透明アルミナ蒸着ポリエステル 12μm/低密度ポリエチレン40μm外袋に封入し、室温放置した。
【0064】
比較のため、発熱組成物前駆体のかわりに、表1に示した各組成の発熱組成物の成分をすべて(水を含む)混合して混合粉を作製し、これを上記と同じカップ状成形物に1.0g入れ、液体成分の注入工程を行わなかったこと以外は、上記と同様にして比較例1~5の発熱体を製造した。
【0065】
2.発熱試験
発熱試験は、JIS S4100「使いすてかいろ」の方法に準じて、温熱器を水平にして、測定した。
発熱試験は、室温20℃、湿度65%の恒温室に設置した、W615×D410×H60mm(8mm厚の塩化ビニル板を使用)のタンク状温熱器と、併設した循環式恒温水槽から8L/minの温水を循環させ、温熱器(塩化ビニル板)表面温度30℃に制御した上に、各発熱体サンプルを、トップ部材面を下にし、その底面のほぼ中央に温度測定用のセンサーを両面テープで貼って、温熱器表面の塩化ビニル板に貼りつけて行なった(温度測定機は(株)チノーグラフィックレコーダKR2S00、センサーは安立計器(株)、「ST-22E-005」)。
【0066】
結果を
図3及び4、及び表2及び3に示す。「立ち上がり」は外袋から出して発熱開始から40℃に到達するまでの時間、「持続時間」は40℃に到達してから、40℃を下回るまでの時間と定義した。
【0067】
【0068】
【0069】
発熱組成物前駆体に後から水を注入した場合、発熱組成物前駆体に吸水性ポリマーを未添加の場合(実施例1)を除き、総じて立ち上がり時間60秒以内、最高温度は約60℃~70℃前後の最高温度が得られた。一方、水を含めた混合粉では、最高温度は約56℃~63℃前後であり、実施例の発熱体よりも最高温度が低下する傾向が観られた。同じ組成の発熱組成物を使用したもの同士を比較すると、どの吸水性ポリマーの含有量の組み合わせについても、実施例の発熱体の方が、比較例の発熱体よりも約4℃~約11℃も最高温度が高かった。したがって、本発明によれば、製造中又は外袋への密封前に起こる発熱ロスが低減され、発熱性能の良い発熱体が得られることがわかる。
【0070】
作製した発熱体は、通気性(酸素透過量)を変化させておらず、発熱体のそのものの性能が表れており、発熱効率を比較し判定するのに適している。立ち上がり時間60秒以内、最高温度65℃以上は、通常カイロで使用されている混合粉に比し明らかに発熱効率の良い発熱体である。
【0071】
なお、これらの実施例においては、吸水性ポリマーを0.5~10重量%添加した場合に最高温度が約65~70℃となる一方、12.5重量%以上添加した場合よりは最高温度が低下する傾向が観られたが、これは、吸水性ポリマー量が多くなることにより鉄粉などの発熱に関与する成分の含有量が相対的に低下するためと考えられる。したがって、他の成分の量を調整することにより、所望の好適な最高温度を得ることができると考えられる。
【0072】
本発明は特定の作用機序に拘束されるものではないが、吸水性ポリマーの含有により発熱効率が改善する理由としては、吸水性ポリマーを添加した発熱組成物前駆体中で吸水性ポリマーが吸水膨潤することにより無数のクラックが発生し、発熱組成物の中心部まで空気の流入経路ができることが考えられる。また、完全に崩壊状態にはならないことから、鉄と活性炭の距離が近くなることにより発熱反応効率が良くなっていると考えられる。
【0073】
3.膨潤剤の検討
<発熱体の製造>
上記1.と基本的に同様にして、発熱体を製造した(実施例10~12)。ただし、膨潤剤として3種の吸水性ポリマー、三洋化成株式会社 ポリアクリル酸系樹脂「ST-500D*」(アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、以下「ポリマーA」ということがある)、同「OK-100」(アクリル酸重合体部分ナトリウム塩架橋物、以下「ポリマーB」ということがある)、クラレトレーディング株式会社「KIゲル」(イソブチレン・無水マレイン酸共重合体、以下「ポリマーC」ということがある)のいずれかを使用し、発熱組成物の組成は、常温で固体の成分が、鉄粉44.4重量%、活性炭4,9重量%、塩4.9重量%、結晶セルロース19.7重量%、吸水性ポリマー1.0重量%、常温で液体の成分が、水25重量%であった。
【0074】
<発熱試験>
発熱試験は、上記2.に記載したとおりに実施した。
【0075】
<荷重下吸塩水量測定>
荷重下吸塩水量測定は、室温25±1℃、液温24±1℃で、
図1、パネル(B)に示す装置を使用して、以下のようにして行った。
【0076】
アクリル製円筒(内径25mm、高さ32mm、底面に63μmのナイロンメッシュ網(安積濾紙(株)製 N-No.250HD)を貼りつけたもの)を作製し、そのメッシュ網上に、吸水性ポリマーを1g正確に測り取った。吸水性ポリマーの上部に、セパレーター加工したポリエステル38μm直径24mm(上記のプラスチック円筒に隙間なく収まり、且つスムーズに上下するもの)を吸水性ポリマー側にセパレーター加工面を向けてのせた。ポリエステルフィルム上に円筒状分銅200g(40g/cm2)を乗せ、荷重を加えた。上記で用意したアクリル製円筒を8.8(W/V)%食塩水の入ったシャーレ(内径85mm、高さ20mm)にワイヤー(直径2mm)を接着させたもののワイヤー上に放置した。2分間浸漬させ、取り出し後、定量ろ紙に底面を10秒間接触させ余分な水分を除去した。初期吸水性ポリマー重量と吸塩水後の吸水性ポリマー重量から吸塩水倍率を求めた。
【0077】
荷重下吸塩水量測定の結果を表4に示す。
【0078】
【0079】
【0080】
【0081】
以上の結果から、この条件下では、吸水性ポリマーの荷重下吸塩水倍率が0.36倍の吸水性ポリマーを使用した場合よりも1.0倍以上の吸水性ポリマーを使用した場合の方が、立ち上がり時間60秒以内、最高温度70℃弱となり、特に発熱効率に優れていた。
【0082】
4.透水性包材の検討
<発熱体の製造>
上記1.と基本的に同様にして、発熱体を製造した(実施例13~17、比較例6~7)。変更点は以下のとおりである。
【0083】
温度制御剤として脂肪族化合物(α-オレフィン:豊国製油株式会社 「HSクリスタ-6100P」)を使用し、発熱組成物の組成は、常温で固体の成分が、鉄粉33.0重量%、活性炭2.6重量%、吸水性ポリマー3.7重量%、結晶セルロース14.7重量%、塩2.6重量%及びαオレフィン共重合体18.4重量%であり、常温で液体の成分が、水25重量%であった。
【0084】
また、容器本体の包材としては、以下に示す各種包材を使用した。
実施例13:
ポリエステルスパンボンド不織布(200g/m2目付、商品名「エルタススマッシュY15200」、旭化成)、耐水圧9KPa、通気性0.5秒/100cc。
実施例14:
ポリエステルスパンボンド不織布(250g/m2目付、商品名「エルタススマッシュY15250」、旭化成)、耐水圧8KPa、通気性0.5秒/100cc。
実施例15:
ポリプロピレンスパンボンド不織布(200g/m2目付、商品名「スプリトップSP-1200E」、前田工繊社)、耐水圧12KPa、通気性0.5秒/100cc。
実施例16:
高密度ポリエチレン不織布(74g/m2目付、商品名「タイベック1073B」、デュポン社)、耐水圧17KPa、通気性0.5秒/100cc。
実施例17:
ポリエステル不織布(撥水加工あり)(230g/m2目付、商品名「エルタススマッシュ」Y65230、旭化成社)、耐水圧1KPa、通気性0.5秒/100cc。
【0085】
比較例6:
ポリエチレン多孔質フィルム(40g/m
2目付、商品名「C5F4040B」、三菱ケミカル社)、耐水圧250KPa、通気性1,000(秒/100cc)。
比較例7:
ポリエチレン多孔質フィルム(60g/m
2目付、商品名「KTF」、太洋製膜股▲フン▼有限公司
)、耐水圧300KPa超、通気性12,000(秒/100cc)。
【0086】
注入工程では、液体成分として、発熱体1個当たり0.4gの水を注入した。注入時の水圧は20KPaであった。
【0087】
外袋への封入工程では、液体注入後の発熱体を、搬送ラインを経て、外袋包装機に搬送し、気密性包材(PET12μm/アルミ箔7μm/LLDPE50μm(トーホー加工社))により形成された外袋中にヒートシールし密封した。液体成分の注入後、封入されるまでの時間は、0.5分であった。
【0088】
なお、同じ組成の発熱組成物前駆体をカップ状成形物に入れた後、0.4gの水を注入してからトップ部材を熱圧着した場合、又は水も含むすべての成分を混合した混合粉を同じ容器に封入した場合には、同様に搬送ラインを経て外袋に封入するまでにいずれも2.5分間を要した。
【0089】
<包材の耐水圧及び液体の注入量の測定>
容器本体の作製に使用した包材の耐水圧は、(株)東洋精機製作所製 JIS L1092 B法(高水圧法)7.1.2章 適用耐水度試験装置を用いて、以下のようにして測定した。赤色に着色した水は、水の表面張力(72mN/m)に影響を与えない染料を使用し、蒸留水に「アシッドレッド」(赤色106号; CAS No. 3520-42-1)を0.5重量%溶かして準備した。
150mm角の試験片をゴムリング/金網/ろ紙/試験片/ゴムリングの順番で挟み、昇圧速度98KPa/minで昇圧し、赤色に着色した水が漏れ始めた圧力を耐水圧とした(測定部は直径100mm)。なお、圧力メーターは400KPaまでメモリがあるが、振り切れると故障の原因になるため300KPaまでで停止した。
【0090】
液体の注入量については、液体注入前の発熱体(容器及び発熱組成物前駆体)の重量を測定しておき、液体注入後の発熱体の重量から差し引き、注入量とした。各サンプルにつき3個ずつ測定し、平均値を算出した。
【0091】
【0092】
実施例13~17では、注入時の水圧より低い耐水圧を有する透水性通気性包材を使用していたため、包材外から注入した水が正確に発熱組成物前駆体に吸収された。これに対し、耐水圧が高い(透水性の低い)通気性包材を使用した場合(比較例6、7)は、水が全く入らず、発熱組成物前駆体に吸収されることはなかった。そのため、比較例6、7は発熱試験に使用できなかった。
【0093】
<発熱試験>
発熱試験は、上記2.に記載したとおりに実施した。
【0094】
結果を
図6に示す。
実施例13~17の発熱体は、良好な発熱特性を示した。具体的には、外袋から出して60秒程度で40℃に到達し、5分以内に最高温度(52~53℃)に到達し、40℃以上を16~20分持続することができた。
【0095】
この出願は、令和2年8月11日出願の日本特許願、特願2020-135953に基づくものであり、特願2020-135953の明細書及び特許請求の範囲に記載された内容は、すべてこの出願明細書に包含される。
【符号の説明】
【0096】
1 発熱組成物前駆体
2 容器(本体)
3 トップ部材
4 くぼみ
5 発熱組成物
【要約】
製造中又は外袋への密封前に起こる発熱組成物又は発熱体の発熱開始を遅らせる又は起こらないようにし、発熱性能の良い製品を、製造速度を落とさずに効率的に製造する方法を提供する。袋又は容器内での発熱組成物の偏り又は発熱組成物が充填されない部分の発生を回避することができる製造方法を提供する。
本発明の一つの態様は、空気中の酸素と反応して発熱する発熱組成物を含む発熱体の製造方法であって、前記発熱組成物の非水溶性成分を含む混合物からなる発熱組成物前駆体を、少なくとも一部が透水性包材からなる通気性の袋又は容器に封入する工程、及び前記発熱組成物前駆体に、前記透水性包材に接する噴出口から前記透水性包材を通して前記発熱組成物の液体成分を注入する工程を含むことを特徴とする方法である。