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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】浮上り抑制構造
(51)【国際特許分類】
   E04H 9/02 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
E04H9/02 331Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018189456
(22)【出願日】2018-10-04
(65)【公開番号】P2020059969
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】長井 理恵
(72)【発明者】
【氏名】谷本 英輔
(72)【発明者】
【氏名】乗物 丈巳
(72)【発明者】
【氏名】浅原 信吾
(72)【発明者】
【氏名】守谷 幸治
(72)【発明者】
【氏名】浜辺 千佐子
(72)【発明者】
【氏名】濱口 弘樹
【審査官】新井 夕起子
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-097243(JP,A)
【文献】特開2018-062823(JP,A)
【文献】特開2007-321437(JP,A)
【文献】米国特許第04718206(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
建物と、前記建物を支持する免震装置と、前記免震装置が固定された下部支持版と、前記下部支持版をスライド可能に支持する基礎部と、前記下部支持版と前記基礎部とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を有する構造物と、
前記建物の周囲に構築された支持体と、
一方の端部が前記支持体に対して上下方向を軸として回転可能に固定され、他方の端部が横方向へ跳ね出して前記建物を上から押えると共に前記建物に対して水平方向に相対移動可能な状態とされた押え部材と、を備えた浮上り抑制構造。
【請求項2】
構造物と、
前記構造物の周囲に構築された支持体と、
前記構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で前記支持体に固定され、横方向へ跳ね出して前記構造物を上から押える押え部材と、
を備え、
前記構造物は、
建物と、
前記建物を支持する免震装置と、
前記免震装置が固定された下部支持版と、
前記下部支持版をスライド可能に支持する基礎部と、
前記下部支持版と前記基礎部とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、
前記押え部材は、前記下部支持版を押えている、浮上り抑制構造。
【請求項3】
構造物と、
前記構造物の周囲に構築された支持体と、
前記構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で前記支持体に固定され、横方向へ跳ね出して前記構造物を上から押える押え部材と、
を備え、
前記構造物は、
建物と、
前記建物をスライド可能に支持する上部支持版と、
前記上部支持版を支持する免震装置と、
前記免震装置が固定された基礎部と、
前記建物と前記上部支持版とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、
前記押え部材は、前記上部支持版を押えている、浮上り抑制構造。
【請求項4】
構造物と、
前記構造物の周囲に構築された支持体と、
前記構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で前記支持体に固定され、横方向へ跳ね出して前記構造物を上から押える押え部材と、
を備え、
前記構造物は、
建物と、
前記建物をスライド可能に支持する上部支持版と、
前記上部支持版を支持する免震装置と、
前記免震装置が固定された基礎部と、
前記建物と前記上部支持版とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、
前記押え部材は、前記建物を押えている、浮上り抑制構造。
【請求項5】
前記支持体は擁壁とされ、前記押え部材が固定されている、請求項1~4の何れか1項に記載の浮上り抑制構造。
【請求項6】
前記押え部材は、
一方の端部が前記擁壁に対して上下方向を軸として回転可能に固定され、
他方の端部が前記構造物に対して上下方向を軸として回転可能に固定され、
前記擁壁と前記構造物が水平方向に相対移動した際に伸縮して抵抗力を発揮するダンパー機能を備えている、
請求項5に記載の浮上り抑制構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、浮上り抑制構造に関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、構造物が免震装置で支持された建築物が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2017-223088号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記特許文献1のように構造物を免震装置で支持する場合、構造物に対して、地震時における横揺れによる水平力の入力を抑制できる。しかし、縦揺れによる鉛直力の入力を抑制することは難しい。このため、構造物に地盤から離れる方向の力が作用して、構造物が浮上って損傷する可能性がある。また、免震装置を備えない構造の建築物においても、例えば杭と基礎梁とを接合するフーチングに大きな外力が加わる可能性がある。
【0005】
本発明は上記事実を考慮して、構造物が浮上ることを抑制できる浮上り抑制構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1の浮上り抑制構造は、建物と、前記建物を支持する免震装置と、前記免震装置が固定された下部支持版と、前記下部支持版をスライド可能に支持する基礎部と、前記下部支持版と前記基礎部とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を有する構造物と、前記建物の周囲に構築された支持体と、一方の端部が前記支持体に対して上下方向を軸として回転可能に固定され、他方の端部が横方向へ跳ね出して前記建物を上から押えると共に前記建物に対して水平方向に相対移動可能な状態とされた押え部材と、を備えている。
【0007】
地震時に大きな外力が構造物に作用すると構造物が浮き上がることがある。請求項1の浮上り抑制構造によると、構造物の周囲に構築された支持体に固定された押え部材が、構造物を押えているため、構造物の浮き上りを抑制できる。また、押え部材は、構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で支持体に固定されている。このため地震時に構造物が水平方向へ移動しても、抑え部材は損傷し難い。
【0008】
請求項2の浮上り抑制構造は、構造物と、前記構造物の周囲に構築された支持体と、前記構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で前記支持体に固定され、横方向へ跳ね出して前記構造物を上から押える押え部材と、を備え、前記構造物は、建物と、前記建物を支持する免震装置と、前記免震装置が固定された下部支持版と、前記下部支持版をスライド可能に支持する基礎部と、前記下部支持版と前記基礎部とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、前記押え部材は、前記下部支持版を押えている。
【0009】
請求項2の浮上り抑制構造によると、所定値以上のせん断力が作用した際に滑動抑制部材が破断して、下部支持版が基礎部の上を滑動する。このため、地震時の水平力によって免震装置に所定値以上のせん断力が入力されることが抑制され、免震装置が損傷し難い。さらに、押え部材によって下部支持版が基礎部から浮上ることが抑制されているため、地震時の鉛直力によって建物が損傷し難い。
【0010】
一態様の浮上り抑制構造は、前記構造物は、建物と、前記建物を支持する免震装置と、前記免震装置が固定された下部支持版と、前記下部支持版をスライド可能に支持する基礎部と、前記下部支持版と前記基礎部とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、前記押え部材は、前記建物を押えている。
【0011】
一態様の浮上り抑制構造によると、所定値以上のせん断力が作用した際に滑動抑制部材が破断して、下部支持版が基礎部の上を滑動する。このため、地震時の水平力によって免震装置に所定値以上のせん断力が入力されることが抑制され、免震装置が損傷し難い。さらに、押え部材によって建物が免震装置、下部支持版及び基礎部から浮上ることが抑制されているため、地震時の鉛直力によって建物が損傷し難い。
【0012】
請求項3の浮上り抑制構造は、構造物と、前記構造物の周囲に構築された支持体と、前記構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で前記支持体に固定され、横方向へ跳ね出して前記構造物を上から押える押え部材と、を備え、前記構造物は、建物と、前記建物をスライド可能に支持する上部支持版と、前記上部支持版を支持する免震装置と、前記免震装置が固定された基礎部と、前記建物と前記上部支持版とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、前記押え部材は、前記上部支持版を押えている。
【0013】
請求項3の浮上り抑制構造によると、所定値以上のせん断力が作用した際に滑動抑制部材が破断して、建物が上部支持版の上を滑動する。このため、地震時の水平力によって免震装置に所定値以上のせん断力が入力されることが抑制され、免震装置が損傷し難い。
さらに、押え部材によって上部支持版が免震装置から浮上ることが抑制されているため、地震時の鉛直力によって免震装置が損傷し難い。
【0014】
請求項4の浮上り抑制構造は、構造物と、前記構造物の周囲に構築された支持体と、前記構造物に対して水平方向に相対移動可能な状態で前記支持体に固定され、横方向へ跳ね出して前記構造物を上から押える押え部材と、を備え、前記構造物は、建物と、前記建物をスライド可能に支持する上部支持版と、前記上部支持版を支持する免震装置と、前記免震装置が固定された基礎部と、前記建物と前記上部支持版とを連結し、所定値以上のせん断力が作用した際に破断する滑動抑制部材と、を備え、前記押え部材は、前記建物を押えている。
【0015】
請求項4の浮上り抑制構造によると、所定値以上のせん断力が作用した際に滑動抑制部材が破断して、建物が上部支持版の上を滑動する。このため、免震装置に所定値以上のせん断力が入力されることが抑制され、地震時の水平力によって免震装置が損傷し難い。
さらに、押え部材によって建物が上部支持版、免震装置及び基礎部から浮上ることが抑制されているため、地震時の鉛直力によって免震装置が損傷し難い。
【0016】
請求項5の浮上り抑制構造は、請求項1~4の何れか1項の浮上り抑制構造において、前記支持体は擁壁とされ、前記押え部材が固定されている。
【0017】
請求項5の浮上り抑制構造によると、押え部材が擁壁に固定されている。このため、構造物を取り囲むように押え部材を配置できる。これにより構造物の浮上り抑制効果を高めることができる。
【0018】
請求項6の浮上り抑制構造は、請求項5の浮上り抑制構造において、前記押え部材は、一方の端部が前記擁壁に対して上下方向を軸として回転可能に固定され、他方の端部が前記構造物に対して上下方向を軸として回転可能に固定され、前記擁壁と前記構造物が水平方向に相対移動した際に伸縮して抵抗力を発揮するダンパー機能を備えている。
【0019】
請求項6の浮上り抑制構造によると、押え部材がダンパー機能を備えている。このため、地震時の水平力による擁壁と構造物との間の振動を減衰できる。
【発明の効果】
【0020】
本発明に係る浮上り抑制構造によると、構造物が浮上ることを抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】(A)は本発明の第1実施形態に係る浮上り抑制構造を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図2】(A)は本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造において、鋼板で形成した基礎部と支持版との接触面を示す部分拡大立断面図であり、(B)は基礎部と支持版との間に滑り材を挟んだ変形例を示す部分拡大立断面図である。
図3】(A)は本発明の第1実施形態に係る浮上り抑制構造における押え部材を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図4】(A)は本発明の第1実施形態に係る浮上り抑制構造において免震装置が変形した状態を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図5】(A)は本発明の第1実施形態に係る浮上り抑制構造において支持版が滑動した状態を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図6】本発明の第2実施形態に係る浮上り抑制構造を示した立断面図である。
図7】本発明の第3実施形態に係る浮上り抑制構造を示した立断面図である。
図8】本発明の第4実施形態に係る浮上り抑制構造を示した立断面図である。
図9】(A)は本発明の第5実施形態に係る浮上り抑制構造を示した立断面図であり、(B)は第5実施形態に係る浮上り抑制構造において滑り材の配置を変更した変形例を示す立断面図である。
図10】(A)は本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造における押え部材の端部を擁壁に剛接した変形例を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図11】(A)は本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造における押え部材をシリンダとシャフトを用いて形成した変形例を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図であり、(C)は支持版が滑動した状態を示した平面図である。
図12】(A)は本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造における押え部材を角型鋼管のシリンダとH型鋼のシャフトで形成した例を示す斜視図であり、(B)は押え部材を角型鋼管のシリンダと角型鋼管のシャフトで形成した例を示す斜視図である。
図13】(A)は本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造における押え部材をシリンダ、シャフト及び剛接部材を用いて形成した変形例を示した立断面図であり、(B)は(A)におけるB-B線断面図である。
図14】(A)本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造を地震後に復元する方法を示す立断面図であり、(B)は支持版を複数設けた変形例を示す立断面図である。
図15】(A)は本発明の実施形態に係る浮上り抑制構造においてシアストッパーをコンクリートで形成した変形例を示す立断面図であり、(B)はコンクリート製のシアストッパーを円錐の一部の形状とした変形例を示す部分拡大立断面図であり、(C)はシアストッパーにスリットを形成した変形例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
[第1実施形態]
(浮上り抑制構造)
図1(A)、(B)に示すように、本発明の第1実施形態に係る浮上り抑制構造10は、建物20と、建物20を免震支持する複数の免震装置30と、免震装置が固定された下部支持版40(以下、支持版40と称す)と、支持版40が載置され、支持版40をスライド可能に支持する基礎部50と、建物20の周囲を取り囲むように基礎部50の外縁部から立設された擁壁54と、を備えている。
【0023】
支持版40と基礎部50との間には、支持版40が基礎部50の上部を滑動することを抑制する滑動抑制部材としてのシアストッパー60が設けられている。さらに、擁壁54には、押え部材70が固定されている。押え部材70は、擁壁54から横方向へ跳ね出して、支持版40を上から押さえている。
【0024】
なお、建物20、免震装置30、支持版40、基礎部50、シアストッパー60は、本発明における構造物の一例であり、擁壁54は本発明における支持体の一例である。
【0025】
(建物)
建物20は例えば原子力関連施設とされ、同規模の他用途建物と比較して総重量が大きい。また、建物20を支持する免震装置30は、同規模の他用途建物と比較して多くの数量が設置されている。
【0026】
(免震装置)
免震装置30は、建物20に固定された上フランジ32と、支持版40に固定された下フランジ34と、上下端が上フランジ32及び下フランジ34に固定された積層体36と、を備えている。積層体36は、ゴムと鋼板とが交互に積層及び接着されて構成されており、上下方向(積層方向)の力に対しては変形しにくく、横方向(積層方向と直交する方向)の力に対しては変形しやすい。このため、地震時に支持版40へ水平力が入力された際には、積層体36が変形して、建物20へ水平力が入力されることを抑制できる。
【0027】
(支持版、基礎部)
支持版40は、基礎部50の上部に打設された鉄筋コンクリート製の床版であり、免震装置30を介して建物20を支持している。支持版40の上部には免震装置30の全数が固定されている他、図示しない建物20の設備配管が敷設されている。
【0028】
基礎部50は鉄筋コンクリート製とされ、地盤Gを掘削して形成した地下空間の底(根切り底)に形成されている。基礎部50の外周部には鉄筋コンクリート製の擁壁54が立設されて、地盤Gからの土圧及び地下水からの水圧に抵抗している。
【0029】
支持版40を構成するコンクリートは、基礎部50を構成するコンクリートが硬化した後に設置される。これにより支持版40と基礎部50とは縁が切られており、支持版40が地震によって水平力を受けた際には、支持版40が基礎部50の上部を滑動できる。
【0030】
詳しくは後述するが、本実施形態において支持版40が滑動を開始する水平力、すなわち(支持版40と基礎部50との間の静止摩擦係数)×(垂直抗力:支持版40と、支持版40より上部の重量)は、免震装置30が塑性変形を始める所定の水平力よりも小さく設定されている。換言すると、支持版40と基礎部50との間の静止摩擦係数は、免震装置30が塑性変形を始める前に支持版40が滑動を開始できる値に設定されている。
【0031】
なお、支持版40が基礎部50の上部を滑動する際の静止摩擦係数及び動摩擦係数は、図2(A)に示す支持版40及び基礎部50の接触面40E、50Eの仕上げ方法により任意の値に設定できる。
【0032】
例えば本実施形態において、接触面40E、50Eは鋼板42、52によって形成されている。鋼板52は、基礎部50を構成するコンクリートの表面に、スタッドボルト等を用いて固定される。同様に鋼板42は、支持版40を構成するコンクリートの表面に固定される。
【0033】
これにより、支持版40が基礎部50の上部を滑動する際の静止摩擦係数及び動摩擦係数(以下、これらを総称して単に摩擦係数と称すことがある)を小さくすることができる。また、鋼板42、52の何れかまたは双方を鋼とは異なる金属とすることで、摩擦係数を調整することもできる。
【0034】
また、接触面40E、50Eの一方をコンクリート面とし、他方を鋼板の表面にしてもよい。この場合、基礎部50を構成するコンクリートの表面又は支持版40を構成するコンクリートの表面の何れか一方に、スタッドボルト等を用いて鋼板を固定すればよい。
【0035】
また、例えば図2(B)に示すように、支持版40と基礎部50との間に、滑り材44を挟む構成とすることもできる。滑り材44は金属、フッ素樹脂など任意の素材を選定できる。さらに、所望の摩擦係数が確保できる場合、接触面40E、50Eはいずれもコンクリート面によって形成することもできる。
【0036】
(シアストッパー)
図1(A)に示すように、シアストッパー60は円柱状の鋼棒であり、支持版40及び基礎部50の接触面40E、50Eを貫通するように軸方向が上下方向に沿うように配置されている。
【0037】
シアストッパー60は、地震時に支持版40に水平力が作用した際に、支持版40の滑動を抑制する滑動抑制部材である。また、シアストッパー60は支持版40と基礎部50を連結し、所定値以上の水平力を受けた際にせん断破壊して支持版40の滑動を許容する。したがって、シアストッパー60の数量及び断面積を調整することにより、支持版40が基礎部50の上部を滑り出すタイミングを調整することができる。
【0038】
つまり、シアストッパー60が破断する水平力は、(シアストッパー60を構成する鋼材の単位面積当たりのせん断強度)×(シアストッパー60の断面積)×(シアストッパーの数量)で与えられるため、例えばシアストッパー60の断面積を大きくすれば、シアストッパー60を破断させるために必要な水平力が大きくなり、支持版40が滑り出すタイミングを遅らせることができる。シアストッパー60の数量を多くしても同様である。
【0039】
また、シアストッパー60の断面積を小さくすれば、シアストッパー60を破断させるために必要な水平力が小さくなり、支持版40が基礎部50の上部を滑り出すタイミングを早めることができる。シアストッパー60の数量を少なくしても同様である。
【0040】
詳しくは後述するが、本実施形態においてシアストッパー60が破断する水平力は、免震装置30が塑性変形を始める水平力よりも小さくなるように、シアストッパーの断面積、数量が設定されている。換言すると、免震装置30が塑性変形を始める前に、シアストッパー60が破断する。
【0041】
(押え部材)
図1(A)、(B)に示すように、押え部材70は建物20の周囲を取り囲むように複数配置されている。押え部材70は、一端が擁壁54に固定され、他端がローラー部材72を介して支持版40の上に載置されている。
【0042】
図3(A)、(B)に示すように、押え部材70の擁壁54側の端部にはヒンジ機構74が形成されている。このヒンジ機構74によって、押え部材70は擁壁54に対して上下方向を軸として回転可能に固定されている。また、押え部材70の支持版40側の端部の下面には、押え部材70に対してローラー部材72を回転可能に固定する嵌合溝76が形成されている。この嵌合溝76によって、押え部材70と支持版40とが横方向に相対移動した際に、押え部材70とローラー部材72とが分離することが抑制される。
【0043】
ヒンジ機構74は、擁壁54に対する押え部材70の横方向の変位(すなわち、鉛直方向の軸回りの回転)を許容する一方、上下方向の変位は抑制している。このため、支持版40に上向きの力が作用して押え部材70に上向きの力が伝達された場合、押え部材70は支持版40に下向きの反力を与え、支持版40の浮上りを抑制する。
【0044】
また、押え部材70は、高さ方向において、支持版40と建物20との間に配置されている。すなわち、押え部材70は、上面が建物20の下面より下方に位置するように配置されている。このため、建物20が変位しても、押え部材70が建物20の下方へ潜りこみ、建物20と押え部材70とが干渉しない。
【0045】
(作用・効果)
本実施形態に係る浮上り抑制構造10によると、基礎部50が地震時に水平力を受けると、基礎部50から支持版40へ水平力が伝達される。このとき、図4(A)に示すように、支持版40から免震装置30へ水平力が伝達され、免震装置30の積層体36が変形する。これにより建物20への水平力の入力が抑制される。なお、図4(B)には、擁壁54、支持版40に対する建物20の相対変位が二点鎖線で示されている。
【0046】
そして大地震時には図5(A)、(B)に示すように、免震装置30が塑性変形を始める前にシアストッパー60が破断し(シアストッパー60A、60Bに分離)、支持版40が基礎部50の上を滑動する。
【0047】
これにより、免震装置30に所定値以上のせん断力が入力されることが抑制され、免震装置30の損傷を抑制できる。さらに、支持版40が基礎部50の上を滑動すると、支持版40と基礎部50との間の摩擦により地震エネルギーが吸収され、振動が減衰される。
【0048】
免震装置30は塑性変形が抑制されているため、振動が減衰された後は、免震装置30の形状は概ね変形前の状態に戻る。このため、建物20と支持版40との相対的な位置関係は、図1に示された地震前の状態と略一致する。また、支持版40に敷設された建物20の設備配管も、地震前の状態とほぼ同じ配置に復元される。
【0049】
このため、設備配管は、免震装置30の積層体36が弾性域で変形する変形量に対応できる追随性を持たせておくことで、容易に損傷を抑制できる。
【0050】
なお、浮上り抑制構造10を復元するためには図14(A)に示すように、支持版40の上部から、支持版40を貫通し基礎部50の内部に到達する挿入孔40Hを穿孔し、この挿入孔40Hへ、シアストッパー60を挿入する。このように、浮上り抑制構造10は復元が容易である。
【0051】
また、図1(A)、(B)に示すように、本実施形態に係る浮上り抑制構造10によると、基礎部50が地震時に鉛直力(すなわち、縦揺れによる上向きの突き上げ力及び下向きの引張力)を受けると、基礎部50から支持版40へ鉛直力が伝達される。基礎部50に上向きの突き上げ力が作用した際は、支持版40は基礎部50から上向きに押圧され、支持版40は基礎部50に追随して変位する。一方、基礎部50に下向きの引張力が作用した際は、基礎部50と支持版40とは縁切られているため、支持版40は基礎部50から相対的に浮上ろうとする。
【0052】
本実施形態においては、図1(A)、(B)に示すように、基礎部50から擁壁54が立設され、擁壁54に押え部材70が固定されている。押え部材70は、上下方向の変位が抑制された状態で、支持版40を上から押さえつけている。このため、支持版40は基礎部50と押え部材70によって挟み込まれた状態となっている。これにより、支持版40が基礎部50から浮上ろうとしても、押え部材70によって浮上りが抑制される。したがって、支持版40並びに支持版40の上部構造である免震装置30及び建物20の損傷が抑制される。
【0053】
これに対して、もし支持版40が浮上ると、浮上り状態から元の状態に戻った際に、支持版40、免震装置30及び建物20は基礎部50からの反力による衝撃を受けて損傷し易い。
【0054】
また、本実施形態においては、押え部材70は支持版40を取り囲むように配置されている。より具体的には、押え部材70は、平面視で四角形状とされた支持版40の各辺を跨るように配置されている。このため、支持版40の浮上り抑制効果に偏りが生じ難い。
【0055】
さらに本実施形態においては、図3(B)に示すように、押え部材70の擁壁54側の端部にはヒンジ機構74が形成され、押え部材70は擁壁54に対して上下方向を軸として回転可能に固定されている。このため、例えば図5(B)に示すように、支持版40が基礎部50の上で滑動し、支持版40に固定された免震装置30と押え部材70とが接触した場合又は接触しそうになった場合でも、押え部材70が回転することで、免震装置30及び押え部材70の損傷が抑制される。
【0056】
なお、支持版40の端縁には、ローラー部材72の落下を抑制するための立ち上がり部を端縁に沿って設けてもよい。これにより、ローラー部材72の欠落による浮上り抑制効果の低減を抑制できる。
【0057】
また、本実施形態に係る浮上り抑制構造10によると、図1(A)に示すように、複数の免震装置30が同じ建物20及び同じ支持版40に固定されているため、これらの免震装置30は変位方向及び変位量が等しい。このため、隣り合う免震装置30の間の間隔を狭くしても免震装置30同士がぶつからない。したがって免震装置30それぞれの周囲に個別に滑りスペースを確保する必要がない。
【0058】
[第2実施形態]
(浮上り抑制構造)
図6に示すように、本発明の第2実施形態に係る浮上り抑制構造11においては、建物22の下端部における外周面に沿って跳ね出し部22Aが形成されている。また、押え部材70は跳ね出し部22Aを上から押さえつけている。その他の構成は第1実施形態に係る浮上り抑制構造10と同様であり説明を省略する。
【0059】
建物22には跳ね出し部22Aが形成されているため、建物22は、建物20と比較して底面積が大きく形成されている。このような場合においては、適宜免震装置30の数量を増やしてもよい。この際、荷重バランスを考慮して免震装置30における積層体36のゴム硬度を適宜調整することが好ましい。
【0060】
(作用・効果)
第2実施形態に係る浮上り抑制構造11によると、地震時に支持版40が基礎部50から浮上ることを抑制できるほか、建物22が支持版40から浮上ることを抑制できる。これにより、建物22の損傷を抑制できる。
また、建物22と支持版40との間に挟まれた免震装置30に上下方向の引張力が作用することが抑制される。これにより、第1実施形態に係る浮上り抑制構造10と比較して、免震装置30の損傷抑制効果を高くできる。
【0061】
[第3実施形態]
(浮上り抑制構造)
図7に示すように、本発明の第3実施形態に係る浮上り抑制構造12は、建物20と、建物20をスライド可能に支持する上部支持版80(以下、支持版80と称す)と、上部支持版80を免震支持する複数の免震装置30と、免震装置30が固定された基礎部50と、建物20の周囲を取り囲むように基礎部50の外縁部から立設された擁壁54と、を備えている。
【0062】
建物20と上部支持版80との間には、建物20が上部支持版80の上部を滑動することを抑制する滑動抑制部材としてのシアストッパー60が設けられている。さらに、擁壁54には、押え部材70が固定されている。押え部材70は、擁壁54から横方向へ跳ね出して、支持版80を上から押さえている。
【0063】
第3実施形態に係る浮上り抑制構造12は、第1実施形態に係る浮上り抑制構造10における免震装置30及び支持版40の上下関係を入れ替え、かつ、浮上り抑制構造10において支持版40と基礎部50との境界部に形成されていた接触面40E、50Eの構成を、建物20と支持版80にそれぞれ形成したものである。
【0064】
(作用・効果)
第3実施形態に係る浮上り抑制構造12によると、地震時に基礎部50に下向きの引張力が作用した際は、支持版80が基礎部50から相対的に浮上ろうとする。しかし支持版80は、上下方向の変位が抑制された押え部材70によって上から押さえつけられている。このため、支持版80及び免震装置30は基礎部50と押え部材70によって挟み込まれた状態となっている。これにより、支持版80の浮上りが抑制される。また、支持版40と基礎部50との間に挟まれた免震装置30に上下方向の引張力が作用することが抑制される。
【0065】
[第4実施形態]
(浮上り抑制構造)
図8に示すように、本発明の第4実施形態に係る浮上り抑制構造13においては、建物24の下端部における外周面に沿って横方向外側へ延出された跳ね出し部24Aが形成されている。また、押え部材70は跳ね出し部24Aを上から押さえつけている。その他の構成は第1実施形態に係る浮上り抑制構造10と同様であり説明を省略する。
【0066】
(作用・効果)
第4実施形態に係る浮上り抑制構造13によると、地震時に支持版80が基礎部50から浮上ることを抑制できるほか、支持版80と基礎部50との間に挟まれた免震装置30に上下方向の引張力が作用することが抑制される。また、建物24が支持版80から浮上ることを抑制できる。これにより、第4実施形態に係る浮上り抑制構造10と比較して、建物24の損傷抑制効果を高くできる。
【0067】
[第5実施形態]
(浮上り抑制構造)
図9(A)に示すように、本発明の第5実施形態に係る浮上り抑制構造14においては、建物26と基礎部50との間に、下部支持版40(図1参照)及び上部支持版80(図7参照)の何れも配置されていない。
【0068】
すなわち、基礎部50に免震装置38が固定され、免震装置38に建物26が載置されている。免震装置38は滑り免震支承によって形成され、上端面に滑り材38Aが固定されている。また、建物26の下端面が滑り面26Aとされ、滑り面26Aが滑り材38Aと摺接しながら、建物26が免震装置30の上部を滑動できる。
【0069】
このように、本発明の実施形態においては、支持版40、80及びシアストッパー60(図1参照)は必ずしも必須ではない。
【0070】
また、浮上り抑制構造14においては、押え部材70は、建物26を上から押えている。建物26の外壁には、押え部材70を挿通させる貫通孔26Bが形成されている。貫通孔26Bは、地震時に押え部材70が変位した際に、押え部材70と干渉しない程度の幅を備えている。
【0071】
このように、押え部材70によって建物を上から押える場合、建物の形状としては建物22のように跳ね出し部22Aを備えてもよいし、建物26のように貫通孔26Bを形成してもよい。
【0072】
(作用・効果)
第5実施形態に係る浮上り抑制構造14によると、地震時に建物26が基礎部50から浮上ることを抑制できるほか、建物26と基礎部50との間に挟まれた免震装置38に上下方向の引張力が作用することが抑制される。これにより、建物26及び免震装置38の損傷を抑制できる。
【0073】
なお、本実施形態においては、免震装置38の上端面に滑り材38Aが固定され建物26の下端面が滑り面26Aとされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図9(B)に示すように、免震装置38の下端面に滑り材38Aを固定して、基礎部50の上面を滑り面50Aとしてもよい。このようにしても図9(A)に示された浮上り抑制構造14と同様の効果が得られる。
【0074】
[その他の実施形態]
上述した各実施形態における押え部材70は、図3(A)、(B)に示すように、ローラー部材72及びヒンジ機構74を備えているが、本発明の実施形態はこれに限らない。
【0075】
押え部材は、一例として、図10に示す押え部材90のように、一端を擁壁56に剛接合してもよい。すなわち、押え部材は擁壁56に対して変位しないものとしてもよい。このように押え部材の構成を簡略化しても、支持版40が浮上ることを抑制できる。なお、押え部材90はローラー部材72を備えている。
【0076】
擁壁56は、第1実施形態における擁壁54と比較して、建物20と離れた位置に形成されている。また、支持版92は、第1実施形態における支持版40と比較して大きく形成されている。このため、地震時に支持版92及び建物20が擁壁56に対して変位しても、免震装置30と押え部材90とが干渉する蓋然性が低い。また、建物20と押え部材90とが干渉する蓋然性が低い。このため、押え部材90の高さ寸法を大きくして重量を大きくし、押え効果を向上することができる。このように、建物20の周囲に空間を広く確保できる場合は、押え部材90の機構を単純化することが好適である。
【0077】
押え部材は、別の一例として、図11(A)、(B)、(C)に示す押え部材100のように、シリンダ102及びシャフト104を用いて形成し、回転ピン106を備えた構成としてもよい。押え部材100においては、シリンダ102の一端にヒンジ機構74が形成され、他端に挿入部108が形成されている。
【0078】
挿入部108は、シリンダ102の端面に形成された挿入孔であり、シャフト104の一端が挿入される。シャフト104は、挿入部108から挿入されて、シリンダ102に対して矢印Pで示した方向に変位可能とされている。シャフト104の他端には、上下方向を軸とする回転ピン106が固定されている。回転ピン106は支持版40に形成された挿入孔へ挿入されている。これによりシャフト104は、支持版40に対して固定され、かつ、回転ピン106を軸として回転可能とされている。
【0079】
押え部材100によると、シャフト104の端部が回転ピン106を軸として回転するが、回転ピン106の位置は支持版40に固定されている。また、押え部材100はシリンダ102及びシャフト104が相対的に変位することで伸縮できる。
【0080】
このため、図11(C)に示すように支持版40が変位しても、抑え部材100と免震装置30とが干渉することが抑制される。
【0081】
さらに、支持版40の変位が大きくなると、シリンダ102とシャフト104とが最も縮んだ状態となり、それ以上長さが変位しなくなる。このとき支持版40が擁壁54へ近づく方向へ変位しようとしても、抑え部材100が突っ張り、変位が抑制される。このため、支持版40と擁壁54との衝突が抑制される。
【0082】
なお、シリンダ102は、図12(A)、(B)に示すように、例えば角型鋼管を用いて形成される。角型鋼管としては、例えば日本工業規格(JIS)等に規定される規格品の他、任意の寸法のものを用いる事ができる。製造方法としても、ロール成形、押出し成形、平板の溶接による成形等、任意の方法を採用することができる。
【0083】
また、シャフト104は、図12(A)に示すシャフト104Aのように、H型鋼を用いて形成してもよいし、図12(B)に示すシャフト104Bのように、角型鋼管を用いて形成してもよい。シャフト104の寸法、製法についても任意の方法を採用することができる。
【0084】
なお、シャフト104においてシリンダ102に挿入された端面には、押圧板104Cを設置することができる。また、シリンダ102の内部に粘弾性体を封入し、この粘弾性体を押え部材100の伸縮に伴ってせん断変形させる機構を組み込むことでダンパーとして機能させてもよい。またはシリンダ102とシャフト104とを低降伏点鋼で連結して、低降伏点鋼を塑性変形させることによりダンパー機能を発揮させてもよい。あるいは、シャフト104とシリンダ102との周面摩擦によってダンパー機能を発揮させてもよい。
【0085】
さらに、このダンパー機能は、押え部材100が伸縮する際に、常時機能させるほか、例えば最も縮むタイミングや、最も伸びるタイミングのみに作用させることもできる。このようにダンパー機能が作用するタイミングを調整することで、シリンダ102とシャフト104との圧縮に伴う圧縮破損や、シリンダ102とシャフト104との伸長に伴う抜け落ちを抑制することができる。
【0086】
押え部材は、また別の一例として、図13(A)、(B)に示す押え部材110のように、シリンダ112、シャフト114、剛接部材116を用いて形成し、回転ピン106A、106B及びローラー部材72を備えた構成としてもよい。
【0087】
押え部材110においては、剛接部材116の一端が擁壁54に剛接合されている。剛接部材116の中央部及びシリンダ112の一端には回転ピン106Bが取り付けられ、シリンダ112を上下方向を軸として回転可能に支持している。なお、回転ピン106Bは、剛接部材116及びシリンダ112に対して、上下方向に移動できないように固定されている。
【0088】
剛接部材116の他端とシリンダ112との間にはローラー部材72が介装されており、シリンダ112の回転に伴う剛接部材116とシリンダ112との接触摩擦を低減している。
【0089】
シリンダ112の他端には、挿入部118が形成されている。挿入部118は、シリンダ112の端面に形成された挿入孔であり、シャフト114の一端が挿入される。シャフト114は、挿入部118から挿入されて、シリンダ112に対して矢印Pで示した方向に変位可能とされている。シャフト114の他端には、上下方向を軸とする回転ピン106Aが固定されている。回転ピン106Aは支持版40に形成された挿入孔へ挿入されている。これによりシャフト114は、支持版40に対して固定され、かつ、回転ピン106Aを軸として回転可能とされている。
【0090】
押え部材110においては、シリンダ112の回転軸が、剛接部材116によって擁壁54から離隔した位置に形成されている。このため、シリンダ112が回転した際の回転モーメントが、擁壁54に作用し難い。このため、擁壁54における押え部材の接合構造を簡略化できる。
【0091】
押え部材100及び押え部材110のように、シリンダとシャフトとを備えた押え部材の構造は、図7図8に示す実施形態のように、建物が支持版80の上を滑動する場合に用いることもできる。この場合、回転ピン106に代えてローラー部材72を用いることが好適である。
【0092】
具体的には、一例として、図7の押さえ部材70を押え部材100に代え、また、ローラー部材72を用いる。これにより、地震時にシアストッパー60が破断して建物20が支持版80の上を滑動した際、建物20と押え部材100が接触する。このときシャフト104がシリンダ102内を移動することにより、建物20及び押え部材100の損傷を抑制できる。
【0093】
なお、これらの押え部材70、90、100、110は、基礎部50から立設された鉄筋コンクリート製の擁壁54又は擁壁56に固定されているが、本発明の実施形態はこれに限らない。これらの押え部材は、例えば改良土により形成された山留壁に固定するものとしてもよいし、地盤Gが変形係数の大きい岩盤により形成されている場合は、岩盤に直接アンカー材等を打ちこんで固定するものとしてもよい。すなわち、本発明における押え部材は擁壁の有無に関わらず適宜設置することができる。
【0094】
また、これらの押え部材は、基礎部50から支持柱を立ち上げ、当該支持柱に固定してもよい。このような支持柱を用いる実施形態は、例えば支持版40と擁壁54との離隔距離が大きい場合に好適である。このように、本発明における「支持体」は、擁壁、地盤、改良地盤、基礎版などを含むものである。
【0095】
さらに、上述した各実施形態においては、支持版40、建物20、24、26、免震装置38等が水平方向に滑動するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば本発明の浮上り抑制構造が適用される構造物は、滑動機構を備えていなくてもよい。さらに、構造物は免震装置を備えていなくてもよい。例えばベタ基礎、布基礎、杭基礎等で支持された非免震の建物を押え部材で押えるものとしてもよい。本発明によると、このような建物においても、地震時における浮上りを抑制することができる。
【0096】
また、第1実施形態においては、支持版40と基礎部50との間の静止摩擦係数は、免震装置30が塑性変形を始める前に支持版40が滑動を開始できる値に設定されているものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、支持版40と基礎部50との間の静止摩擦係数を、免震装置30が塑性変形を始めた後(あるいは塑性変形を始めると同時)に、支持版40が滑動を開始できる値に設定することもできる。
【0097】
静止摩擦係数をこのように設定することで、免震装置30の振動減衰能力を十分に発揮させることができる。このような実施形態は、免震装置30の内部に鉛プラグを挿入し、鉛プラグを塑性変形させることにより振動を減衰させる場合などにおいて好適である。
【0098】
同様に、第1実施形態においては、免震装置30が塑性変形を始める前に、シアストッパー60が破断するものとしたが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば、シアストッパー60のせん断強度又は断面積を大きくして、免震装置30が塑性変形を始めた後(あるいは塑性変形を始めると同時)に、シアストッパー60を破断させてもよい。このような構成によっても、免震装置30の振動減衰能力を十分に発揮させることができる。
【0099】
すなわち、支持版40と基礎部50との間の静止摩擦係数、シアストッパー60のせん断強度、断面積は任意であり、建物20の用途、想定する地震力、免震装置30のせん断耐力等によって適宜設定することができる。したがって、建物20も原子力関連施設に限定されるものではなく、個人住宅や美術館、オフィスビルなど、規模の大小や用途を問わない。
【0100】
なお、免震装置30を塑性変形させる場合は、塑性変形させない場合と比較して免震装置の変形量が大きくなることがある。このような場合でも、例えば建物20に固定された免震装置が支持版40の上を滑る場合と比較すると建物20と支持版40との相対変位量は少ない。このため設備配管の損傷が抑制される。
【0101】
また、第1実施形態において支持版40は床版とされ、免震装置30の全数が固定されているものとしたが本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図14(B)に示す支持版46のように、複数(2基以上)の免震装置30が固定される構成であればよい。このように構成する場合、複数の支持版46のそれぞれにシアストッパー60を設けることで、滑動のタイミングを調整できる。
【0102】
また、支持版46のように支持版を複数設ける場合、押え部材70は複数の支持版46の何れかを押える構造とすることができるが、図14(B)に示す建物26及び押え部材70のように、押え部材が建物を押える構造とすると好適である。これにより支持版46のそれぞれを、建物を介して均一に押えることができる。
【0103】
また、第1実施形態においてシアストッパー60は鋼製とされているが、本発明の実施形態はこれに限らない。例えば図15(A)に示すシアストッパー65のように、コンクリート製としてもよい。この場合、基礎部50のコンクリート打設時に円柱状の雄型を表面から露出するように埋設する。コンクリートの硬化後にこれを取り出せば、基礎部50の上面に凹部が形成される。そして支持版40のコンクリートを、この凹部にも流し込んで一体的に打設する。これにより、コンクリート製のシアストッパー65が形成される。
【0104】
なお、シアストッパー65は円柱状に限らず、角柱状でもよいし、図15(B)に示すように、円錐の一部のような形状としてもよい。
【0105】
このように、シアストッパーに求められるせん断強度や、せん断強度を強くしたい方向などにより、シアストッパーの材質、外形状は適宜選択することができる。さらに、図15(C)に示すシアストッパー67のように、スリットを設けることによりせん断強度を調整してもよい。
【0106】
以上説明した、支持版40と基礎部50との間の静止摩擦係数、シアストッパー60のせん断強度、断面積、材質及び形状、支持版の数量等は、上述した各実施形態においても適用することができる。また、この明細書に記載した各種の構成は、適宜組合わせて用いる事ができる。このように、本発明の実施形態は様々な態様とすることができる。
【符号の説明】
【0107】
10 浮上り抑制構造
11 浮上り抑制構造
12 浮上り抑制構造
13 浮上り抑制構造
14 浮上り抑制構造
20 建物(構造物)
22 建物(構造物)
24 建物(構造物)
26 建物(構造物)
30 免震装置(構造物)
38 免震装置(構造物)
40 支持版(下部支持版)
50 基礎部
54 擁壁(支持体)
56 擁壁(支持体)
60 シアストッパー(滑動抑制部材)
65 シアストッパー(滑動抑制部材)
67 シアストッパー(滑動抑制部材)
70 押え部材
80 支持版(上部支持版)
90 押え部材
100 押え部材
110 押え部材
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15