(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】免震構造物の構築工法及び免震構造物の連結構造
(51)【国際特許分類】
E04H 9/02 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
E04H9/02 301
E04H9/02 331
(21)【出願番号】P 2018210305
(22)【出願日】2018-11-08
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000003621
【氏名又は名称】株式会社竹中工務店
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(74)【代理人】
【識別番号】100099025
【氏名又は名称】福田 浩志
(72)【発明者】
【氏名】嶺脇 重雄
(72)【発明者】
【氏名】木下 貴博
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 庸介
(72)【発明者】
【氏名】大畑 勝人
(72)【発明者】
【氏名】濱口 弘樹
(72)【発明者】
【氏名】山本 雅史
【審査官】土屋 保光
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-181506(JP,A)
【文献】特開2014-181505(JP,A)
【文献】特開2014-105447(JP,A)
【文献】特開2011-252316(JP,A)
【文献】特開平07-207988(JP,A)
【文献】実開平02-001367(JP,U)
【文献】特開2017-145621(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0229684(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E04H 9/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
免震支持されて構築された第一免震構造物の隣に、免震支持された第二免震構造物を構築する工程と、
前記第二免震構造物の構築が完了する前に、前記第一免震構造物と構築中の前記第二免震構造物の下部同士を、剛性を有する連結部材で
剛結せずに連結する工程と、
を備えた免震構造物の構築工法。
【請求項2】
前記連結部材は、減衰機能を有している、
請求項1に記載の免震構造物の構築工法。
【請求項3】
前記第一免震構造物と構築中の前記第二免震構造物の下部同士は、前記連結部材及びエキスパンションジョイントで連結する、
請求項1又は請求項2に記載の免震構造物の構築工法。
【請求項4】
前記第一免震構造物は、免震支持された第一免震人工地盤と、前記第一免震人工地盤の上に構築された第一建物と、で構成され、
前記第二免震構造物は、免震支持された第二免震人工地盤と、前記第二免震人工地盤の上に構築された第二建物と、で構成され、
前記第二建物の構築が完了する前に、前記第一免震人工地盤と前記第二免震人工地盤とを前記連結部材で連結する、
請求項1~請求項3のいずれか1項に記載の免震構造物の構築工法。
【請求項5】
免震支持された第一免震構造物の隣に免震支持されて配置され、前記第一免震構造物と免震周期が異なる第二免震構造物と、
前記第一免震構造物と前記第二免震構造物の下部同士を剛結せずに連結する剛性を有する連結部材と、
を備えた免震構造物の連結構造。
【請求項6】
前記第一免震構造物と構築中の前記第二免震構造物の下部同士は、前記連結部材及びエキスパンションジョイントで連結されている、
請求項5に記載の免震構造物の連結構造。
【請求項7】
前記第一免震構造物は、免震支持された第一免震人工地盤と、前記第一免震人工地盤の上に構築された第一建物と、で構成され、
前記第二免震構造物は、免震支持された第二免震人工地盤と、前記第二免震人工地盤の上に構築された第二建物と、で構成され、
前記連結部材は、前記第一免震人工地盤と前記第二免震人工地盤とを連結する、
請求項5又は請求項6に記載の免震構造物の連結構造。
【請求項8】
免震支持されて構築された第一免震構造物の隣に、免震支持された第二免震構造物を構築する工程と、
前記第二免震構造物の構築が完了する前に、前記第一免震構造物と構築中の前記第二免震構造物の下部同士を、減衰機能を有する剛性を有する連結部材で連結する工程と、
を備えた免震構造物の構築工法。
【請求項9】
免震支持された第一免震構造物の隣に免震支持されて配置され、前記第一免震構造物と免震周期が異なる第二免震構造物と、
前記第一免震構造物と前記第二免震構造物の下部同士を連結する減衰機能を有する剛性を有する連結部材と、
を備えた免震構造物の連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、免震構造物の構築工法及び免震構造物の連結構造に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、免震建物の増築方法及び一棟の免震建物を複数の工期に分けて構築する免震建物の新築方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、隣接する免震建物をそれぞれ独立して構築したのち、建物基礎同士を連結建物基礎で連結し、それら連結建物基礎上に上部躯体を施工して一棟の免震建物を構築している。
【0003】
特許文献2には、下部構造上に免震装置を介して上部構造が支持された免震建物に関する技術が開示されている。この先行技術では、複数の上部構造が互いに近接した状態で設けられ、これら上部構造同士の間がダンパーを介して互いに接続されていることを特徴としている。
【0004】
特許文献3には、第一免震建物の完成後に、該第一免震建物の水平方向の側方に第一免震建物に連結する第二免震建物を構築する免震建物の増築方法に関する技術が開示されている。この先行技術では、球面すべり支承を用いて免震支持された第一免震建物と第二免震建物とを連結している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平10-292643号公報
【文献】特開2001-193311号公報
【文献】特開2018-9399号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
免震支持されて構築された第一建物に隣接して、免震支持された第二建物を構築する際、第二建物の構築が完了する前に下部同士を連結して一体化する場合がある。
【0007】
しかし、このように第二建物の構築が完了する前に下部同士を剛結すると、第二建物の構築が完了するまでの期間は、第一建物の地震時応答量が増大する虞がある。
【0008】
これに対して、特許文献1のように、第二建物の構築が完了してから下部同士を連結すると、第二建物の構築が完了するまでの期間において、第一建物の地震時応答量の増大は発生しないが、第一建物と第二建物との相対的な水平移動量が大きくなる。
【0009】
特許文献2のように、ダンパーで接続してエネルギー吸収する場合は、第一建物及び第二建物の上層階同士をダンパーで接続する必要があり、高コスト化する。
【0010】
特許文献3のように、球面すべり支承を用いて免震支持する場合は、免震周期は主に曲率半径で決定される。よって、剛結しても、第二建物の構築が完了するまでの期間において、第一免震構造物の高層部の地震時応答量の増大を抑制することは可能である。しかし、免震装置が球面すべり支承に限定され、免震装置の選択の自由度がない。
【0011】
本発明は上記事実に鑑み、免震支持された第一免震構造物と第二免震構造物との下部同士を連結して一体化する場合において、地震時における第一免震構造物と第二免震構造物との相対的な水平移動量を低減させると共に第一免震構造物の上部に作用する地震時応答量を下部同士を剛結する場合よりも低減させることが目的である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
第一態様は、免震支持されて構築された第一免震構造物の隣に、免震支持された第二免震構造物を構築する工程と、前記第二免震構造物の構築が完了する前に、前記第一免震構造物と構築中の前記第二免震構造物の下部同士を、剛性を有する連結部材で連結する工程と、を備えた免震構造物の構築工法である。
【0013】
第一態様の免震構造物の構築工法では、構築された第一免震構造物と構築中の第二免震構造物の下部同士を、剛性を有する連結部材で連結する。これにより、第二免震構造物の構築が完了するまでの期間において、両者を接続しない場合に比べ地震時における第一免震構造物と第二免震構造物との相対的な水平移動量(連結部材の変形量)が低減されると共に、両者を剛結する場合に比べ第一免震構造物の上部に作用する地震時応答量が低減される。
【0014】
なお、第一免震構造物及び第二免震構造物の下部とは、当該構造物の1/3以下の高さ部分を指す。
【0015】
第二態様は、前記連結部材は、減衰機能を有している、第一態様に記載の免震構造物の構築工法である。
【0016】
第二態様の免震構造物の構築工法では、連結部材は、減衰機能を有している。よって、第二免震構造物の構築が完了するまでの期間において、剛性 による第一免震構造物の上部に作用する地震時応答量の低減効果を維持しつつ、第一免震構造物と第二免震構造物との相対的な水平移動量(連結部材の変形量)を更に小さくすることができる。なお、ここでいう、剛性 及び 減衰機能を有している連結部材には、その弾塑性挙動において等価な剛性 および 等価な減衰機能を有していると見做せるものも含まれる。
【0017】
第三態様は、免震支持された第一免震構造物の隣に免震支持されて配置され、前記第一免震構造物と免震周期が異なる第二免震構造物と、前記第一免震構造物と前記第二免震構造物の下部同士を連結する剛性を有する連結部材と、を備えた免震構造物の連結構造である。
【0018】
第三態様の免震構造物の連結構造では、免震周期が異なる第一免震構造物と第二免震構造物の下部同士を、剛性を有する連結部材で連結する。これにより、地震時における第一免震構造物と第二免震構造物との相対的な水平移動量(連結部材の変形量)が低減されると共に、第一免震構造物の上部に作用する地震時応答量が下部同士を剛結する場合よりも低減される。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、免震支持された第一免震構造物と第二免震構造物との下部同士を連結して一体化する場合において、地震時における第一免震構造物と第二免震構造物との相対的な水平移動量を低減させると共に第一免震構造物の上部に作用する地震時応答量を下部同士を剛結する場合よりも低減させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】第一免震構造物に隣接する第二免震構造物と第三免震構造物とを建設する工程を(A)~(C)へと順番に示す工程図である。
【
図2】
図1のバリエーションの工程を(A)~(C)へと順番に示す工程図である。
【
図4】連結部材の剛性比と連結部材の変形量との関係を示すグラフである。
【
図5】連結部材の剛性比と第一建物に作用するせん断力との関係を示すグラフである。
【
図6】連結部材の減衰定数と連結部材の変形量との関係を示すグラフである。
【
図7】連結部材の減衰定数と第一建物に作用するせん断力との関係を示すグラフである。
【
図9】連結機構の第一バリエーションを示す側面図である。
【
図10】(A)は連結部材に用いた市販の履歴減衰材を示す斜視図であり、(B)は連結部材のバリエーションを示す斜視図である。
【
図11】(A)は市販の免震装置を示す側面図であり、(B)は
図9の連結機構の連結部材を示す側面図である。
【
図12】連結機構の第二バリエーションを示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<実施形態>
本発明の一実施形態の免震構造物の構築工法及び免震構造物の連結構造について説明する。
【0022】
[免震構造物の構築工法及び連結構造]
図1(C)に示すように、第一免震構造物10は第一免震人工地盤12と第一建物14とで構成され、第二免震構造物20は、第二免震人工地盤22と第二建物24とで構成され、第三免震構造物30は第三免震人工地盤32と緑地34とで構成されている。
【0023】
第一免震人工地盤12、第二免震人工地盤22及び第三免震人工地盤32は、それぞれ横方向に間隔をあけて免震ピット50に設けられ、それぞれ免震装置52によって免震支持されている。
【0024】
なお、免震ピット50の免震装置52が設けられた免震層60における第一免震構造物10を免震支持している領域を第一免震層61とし、第二免震構造物20を免震支持している領域を第二免震層62とし、第三免震構造物30を免震支持している領域を第三免震層63とする。
【0025】
本実施形態の第一免震人工地盤12、第二免震人工地盤22及び第三免震人工地盤32は、鉄筋コンクリート造であるが、これに限定されるものではない。
【0026】
そして、第一免震人工地盤12の上に第一建物14が建設され、第二免震人工地盤22の上に第二建物24が建設され、第三免震人工地盤32の上に緑地34が構築される。なお、本実施形態では、第一建物14及び第二建物24は、同規模の超高層建物であるが、これに限定されるものではない。
【0027】
本実施形態では、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを連結機構100で連結して機能的に一体化(総合化)し、供用している。
【0028】
また、
図1(A)及び
図1(B)に示すように、第一免震人工地盤12には、先行して第一建物14が建設され、既に供用されている状態で、第二建物24の建設を開始する。
【0029】
本実施形態では、
図1(B)に示すように、第二建物24が建築中に第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを連結機構100で連結して機能的に一体化し、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32の供用を開始している。図における符号24Aは、建築中の第二建物24の下層部分を示している。
【0030】
なお、第一建物14を建設して供用を開始した直後、つまり第二建物24の建設を開始する前に、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを連結機構100で連結してもよい。
【0031】
また、本実施形態では、
図1(C)に示すように、第一建物14、第二建物24及び緑地34が完成しても第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを連結機構100で連結したままであるが、これに限定されない。第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを剛結してもよい。
【0032】
[他の例]
次に、第二免震構造物20の第二免震人工地盤22と第三免震構造物30の第三免震人工地盤32とを剛結して一体化(総合化)して供用する場合について説明する。なお、同一の部材には同一の符号を付し、重複する説明は省略する。
【0033】
図2(A)及び
図2(B)に示すように、第一免震人工地盤12には、先行して第一建物14が建設され、既に供用されている状態で、第二建物24の建設を開始する。
【0034】
図2(B)に示すように、第二建物24が建築中に第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22と連結機構100で連結して機能的に一体化し、第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを剛結して一体化(総合化)し、人工地盤41として供用している。
【0035】
なお、第一建物14を建設して供用を開始した直後、つまり第二建物24の建設を開始する前に、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とを連結機構100で連結してもよい。
【0036】
また、本実施形態では、
図2(C)に示すように、第一建物14、第二建物24及び緑地34が完成しても第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とを連結機構100で連結したままであるが、これに限定されない。第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とを剛結してもよい。
【0037】
[連結機構の詳細]
図8に示すように、連結機構100は、エキスパンションジョイント110と連結部材120(
図10(A)も参照)とを有している。なお、
図8では、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との連結部位を図示しているが、
図1における第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32との連結部位も同様の構造である。
【0038】
図8に示す本実施形態のエキスパンションジョイント110は、第一免震人工地盤12及び第二免震人工地盤22の外縁部12A、22Aの上面部分に設けられ、それぞれの外縁部12Aと外縁部22Aとの間の隙間(耐震クリアランス)102を覆うように張り出す鋼板製のエキスパンションカバー112を有している。なお、各図のエキスパンションジョイント110は簡略化し模式的に図示している。また、エキスパンションジョイント110の構造は、どのようなものであってもよい。
【0039】
また、第一免震人工地盤12の外縁部12Aには下側に突出する第一補強凸部13が形成され、第二免震人工地盤22の外縁部22Aには下側に突出する第二補強凸部23が形成されている。
【0040】
第一免震人工地盤12の外縁部12Aの第一補強凸部13と第二免震人工地盤22の外縁部22Aの第二補強凸部23とに、側面視で横U字形状の連結部材120が接続されている。連結部材120は、上部側122の基端部122Aが第二免震人工地盤22の第二補強凸部23の下面部にボルト接合され、下部側124の基端部124Aが第一免震人工地盤12の第一補強凸部13の下面部に板状の固定部材128を介してボルト接合されている。
【0041】
図10(A)に示すように、本実施形態の連結部材120は、市販の履歴減衰材で構成されている。連結部材120の上部側122と下部側124との間の湾曲部123は、湾曲の頂部に向かうに従って幅狭になっている。
【0042】
[作用及び効果]
次に、本実施形態の作用及び効果について説明する。
【0043】
図1(A)及び
図2(A)に示すように、第一免震構造物10は第一免震人工地盤12の上に第一建物14の建設が完了し、第二免震構造物20Aは第二免震人工地盤22の上に第二建物24が建築中であり下層部分24Aのみが完成している。よって、第一免震構造物10と第二免震構造物20Aとでは免震周期が異なる。
【0044】
そして、第一免震構造物10と第二免震構造物20Aとでは免震周期が異なる状態で、
図1(B)及び
図2(B)に示すように、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とを連結機構100で連結して機能的に一体化(総合化)し供用している。なお、
図1(B)の場合は、第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを連結機構100で連結して機能的に一体化(総合化)し供用している。
図2(B)の場合は、第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32とを剛結して一体化(総合化)し人工地盤41として供用している。
【0045】
連結機構100の連結部材120は、市販の履歴減衰材で構成されている。よって、前述のように、第一建物14の建設が完了した第一免震構造物10と、第二建物24の下層部分24Aのみが完成した第二免震構造物20Aと、では、免震周期が異なるが、剛性を有する連結部材120で連結することで、地震時における第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との相対的な水平移動量が両者を接続しない場合よりも低減されると共に、第一建物14に作用する地震時応答量が第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とを剛結する場合よりも低減される。
【0046】
更に、連結部材120は、減衰機能を有しているので、第一建物14に作用する地震時応答量の低減効果を維持しつつ、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との相対的な水平移動量を更に小さくすることができる。
【0047】
したがって、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とを接続しない場合よりも両者の相対的な水平移動量を小さくすることができるので、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との隙間102を狭くすることができる。よって、連結機構100を構成するエキスパンションジョイント110を低コスト化できる。
【0048】
なお、地震時における第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との相対的な水平移動量、すなわち連結部材120の変形量の低減及び地震時応答量の低減についての詳細は後述する。
【0049】
また、連結部材120の剛性と減衰機能の大きさは、設置する連結部材120の数量により調整することができる。また、
図8の左右方向のみ効果を得たい場合には、
図10(B)の連結部材119のように
図8の紙面に直交する方向に幅広にすればよい。
【0050】
図10(A)の連結部材120は、履歴減衰材(免震部材)として市販されているので低コスト且つ容易に得ることができる。また、
図10(B)の幅広の連結部材119を用いる場合にも、市販品の幅を広くして製造すればよいので低コストを享受できる。
【0051】
[作用効果の詳細]
次に、前述した地震時における第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との相対的な水平移動量、すなわち連結部材120の変形量の低減及び地震時応答量の低減についての詳細を説明する。
【0052】
図3は、本実施形態の
図1(B)の状態、すなわち第一建物14の建設が完成した状態の第一免震構造物10の第一免震人工地盤12と、第二建物24を建設中で下層部分24Aのみが完成した状態の第二免震構造物20Aの第二免震人工地盤22と、緑地34が構築されていない状態の第三免震構造物30の第三免震人工地盤32と、がそれぞれ連結部材120(
図8及び
図10(A)も参照)で連結された状態における地震応答解析を行うためのモデル図である。また、同時に、第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32との間の連結機構100を剛接とする(数値的に十分大きな剛性値を有しているとする)ことで、
図2(B)の状態おける地震応答解析を行うためのモデル図でもある。
【0053】
ここで、第一免震構造物10、第二免震構造物20(第二建物24が完成した状態)及び第三免震構造物30の相対規模はそれぞれほぼ同規模である。これを、第一免震構造物10の相対規模が1.0倍であると称する。
【0054】
第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との間の連結機構100の連結部材120の剛性は、第一免震層61の剛性を1とした比率で、0.002~2000の10水準とした。第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32との間の連結部材120の剛性は、
図1(B)の状態を対象とするときは第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との間の連結部材120の剛性と同じ値とし、
図2(B)の状態を対象とするときには第一免震層61の剛性の2000倍とした。これらの剛性値の内、第一免震層61の剛性の0.002倍を連結していない状態を模擬するもの、第一免震層61の剛性の2000倍を剛結した状態を模擬するもの、として扱った。また、ここでは、連結部材120は剛性のみを有し減衰機能を有していない。
【0055】
地震波の入力方向は、
図3の地震応答解析のモデル図における矢印N方向である。また、入力する地震波の種類は、告示波神戸位相、同釧路位相、同八戸位相および長周期地震動パブコメ波OS2であり、いずれも想定敷地の表層地盤増幅を考慮した。解析条件は、連結状態2水準(
図1(B)、
図2(B))、連結機構100の剛性10水準、入力する地震波4種類を組み合わせた80条件である。
【0056】
評価指標は、連結部材120の変形量及び第一免震構造物10の第一建物14の地震時応答量とした。
【0057】
図4は、地震応答解析結果における連結部材120のバネ剛性と連結部材120の最大変形量との関係を示すグラフである。
図5は、地震応答解析結果における連結部材120のバネ剛性と第一建物14の地震時応答量の一例としてのせん断力との関係を示すグラフである。
【0058】
なお、
図4及び
図5の両グラフ共に横軸の「剛性比」は、第一免震構造物10の第一免震層61(
図1及び
図3参照)の水平剛性に対する連結部材120のバネ剛性の比であり、対数軸で表記している。また、
図4及び
図5の両グラフとも縦軸は、連結なし(第一免震層61の剛性×0.002)として計算した結果の平均値を基準値とし、各計算結果を基準値で除した値(比率)で示している。
図4及び
図5の両グラフ共に、×印は上述の80条件の計算結果であり、太線は、連結部材120のバネ剛性(剛性比)ごとに平均した結果を結んだ線である。
【0059】
図4のグラフから、連結部材120の変形量は、連結部材120のバネ剛性を大きな値にするほど小さくなることが判る。また、
図5のグラフから、第一建物14に作用するせん断力は、連結部材120のバネ剛性を大きな値にするほど大きくなることが判る。つまり、連結部材120の変形量及び第一建物14に作用するせん断力の両者は、連結部材120のバネ剛性に対して、トレードオフの関係にある。
【0060】
また、連結部材120のバネ剛性の剛性比が0.2倍までは略非連結の状態と見なせ、連結部材120のバネ剛性の剛性比が200倍以上で、略剛結の状態と見なせることが判る。そして、その剛性比が、これら0.2倍と200倍との間の値を取る時に、連結部材120の変形量及び第一建物14に作用するせん断力の大きさが大きく遷移することがわかる。特に、連結部材120のバネ剛性比の値が1~20である間にグラフの変化が大きい。よって、剛性比を1以上且つ20以下の間で適切に選ぶことで、トレードオフに変動する連結部材120の変形量と第一建物14に作用するせん断力とを所望の値の組合せとなるようにすることができる。
【0061】
例えば、連結部材120のバネ剛性の剛性比を2倍とすることにより、せん断力の増幅を非連結の場合の1.06倍程度に留め、連結部材120の変形量は非連結の相対変形量の0.75倍とすることができる。
【0062】
すなわち、連結部材120の等価剛性を、第一免震構造物10を免震支持する免震装置52(第一免震層61)の水平方向の等価剛性との比率で1以上且つ20以下の範囲の値とすることが、好適である。
【0063】
なお、ここでいう等価剛性 とは、予め定めた地震動(例えばレベル2)での最大変形量(前者においては連結部材120に生じる変形、後者においては免震装置52の変形(第一免震人工地盤12の移動量))を想定した上で、その時に生じる力と変形量の比(割線剛性 )を採ったものである。このように等価剛性 を計算することは、一例であって、これに限定されるものではない。
【0064】
また、図示及び計算例は示されていないが、第一免震構造物10の相対規模を0.5倍及び2倍とした場合も、略同様の結果であることが確認されている。
【0065】
次に、連結部材120に減衰機能が付与された条件で解析した。第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との間の連結部材120の剛性比は、2~10の3水準とした。第二免震人工地盤22と第三免震人工地盤32との間の連結部材120の剛性比は、
図1(B)の状態を対象とするときには第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との間の連結部材120の剛性と同じ値とし、
図2(B)の状態を対象とするときには第一免震層61の剛性の2000倍(剛結した状態を模擬する値)とした。連結部材120の減衰定数は、0~0.6の3水準とした。地震波の入力方向および入力する地震波の種類は前述の解析と同様である。解析条件は、2×3×3×4=72条件である。また、評価指標も同様に連結部材120の変形量及び第一免震構造物10の第一建物14の地震時応答量とした。
【0066】
図6は、連結部材120が有する減衰定数に対する連結部材120の地震時における変形量の変動を表すグラフである。
図7は、連結部材120が有する減衰定数に対する第一建物14の地震時応答量(せん断力)の変動を表すグラフである。
【0067】
なお、
図6及び
図7の両グラフ共に横軸は連結部材120の減衰定数である。また、
図6及び
図7の両グラフとも縦軸は、減衰定数が0として計算した結果の平均値を基準値とし、各計算結果を基準値で除した値(比率)で示している。
図6及び
図7の両グラフ共に、×印は上述の72条件の計算結果であり、太線は、連結部材120の減衰定数ごとに平均した結果を結んだ線である。
【0068】
図6に示すように、連結部材120に減衰機能を与えることにより、連結部材120の変形量を抑えることができることが判る。減衰定数が0.3の場合、平均値は減衰定数が0の場合(減衰機能を有していない場合)のおよそ0.7倍になることが判り、減衰定数0.6の場合にはおよそ0.55倍になることが判る。
【0069】
なお、連結機構100を連結部材120のような単一の部材で構成しようとする場合には、所要の等価剛性を有し且つ減衰定数が0.6を上回るようにすることは困難である。よって、このような構成を用いることによって連結部材120の変形量を抑える程度は平均値として0.55倍程度が限界と考えられる。
【0070】
一方、
図7に示すように、第一建物14に作用するせん断力の変化は、連結部材120の減衰定数に対して鈍感であることがわかる。なぜなら、減衰定数が0.3の場合と減衰定数が0.6の場合との両方共に、減衰が0の場合の0.98倍程度である。つまり、連結部材120に減衰機能を与えることにより、第一建物14の地震時応答量(本例ではせん断力)にほとんど変化を与えず、連結部材120の変形量を小さくすることができることが判る。
【0071】
ここで、本実施形態では、第一建物14の地震時応答量の増幅をできるだけ抑制し且つ連結部材120に生じる変形量をできるだけ小さくすることが目的である。よって、連結部材120に減衰機能を与えることで好適な結果を得られる。
【0072】
例えば、前述した連結部材120のバネ剛性の剛性比の値の選択範囲の下限値である1倍のときに減衰定数が0の場合、連結部材120に生じる変形量(平均値)は、非連結時の0.85倍程度となる。また、連結部材120に減衰定数0.6を与えたときには、連結部材120の変形量(平均値)は、非連結時の0.85×0.55=0.47倍、つまり非連結時の0.5倍程度となる。
【0073】
したがって、本発明を適用することで、この連結部材120に生じる変形量は、非連結時の0.5倍程度に小さくすることができる。つまり、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22との相対変位を吸収する隙間(耐震クリアランス)102(
図1、
図3及び
図8参照)を、本発明を適用しない場合の1/2以下程度まで低減することが可能となる。
【0074】
<バリエーション>
次に、上記実施形態の連結機構のバリエーションについて説明する。
【0075】
(第一バリエーション)
図9は第一バリエーションの連結機構200を図示している。
【0076】
連結機構200は、エキスパンションジョイント110と連結部材220(
図11(B)も参照)とを有している。
【0077】
第一免震人工地盤12の外縁部12Aには下側に突出する第一補強凸部15が形成され、第二免震人工地盤22の外縁部22Aには下側に突出する第二補強凸部25が形成されている。
【0078】
本実施形態の連結部材220は、水平方向に対して剛性を有し且つ減衰機能を有する鉛プラグ入り積層ゴムで構成されている。
【0079】
図9及び
図11(B)に示すように、本バリエーションの連結部材220は、上下のフランジ222の間にゴム224と鋼板226とが積層され、内部に図示されていない鉛プラグが挿入された構造である。
【0080】
図9に示すように、連結部材220における上側のフランジ222が第二免震人工地盤22の外縁部22Aの第二補強凸部25の下面部にボルト接合されている。また、連結部材220における下側のフランジ222は、第一免震人工地盤12の外縁部12Aの第一補強凸部15の下面部に、固定板228を介して接合されている。
【0081】
なお、
図11(B)に示すように、連結部材220は、ゴム224及び鋼板226の積層厚と図示されていない鉛プラグの大きさによって、剛性と減衰機能の大きさを調整することができる。
【0082】
また、
図11(A)に示す免震装置として市販されている鉛プラグ入り積層ゴム221をゴム224及び鋼板226の積層厚と図示されていない鉛プラグの大きさの仕様を変更することによって、低コスト且つ容易に本バリエーションの連結部材220を得ることができる。
【0083】
また、
図11(A)に示す免震装置として市販されている鉛プラグ入り積層ゴム221は、破断伸び、降伏比及び降伏点のバラツキなどに対する要求値が厳格に管理された材料が用いられる。これに対して、
図11(B)に示す同構造の連結部材220で要求される変形量が小さい。よって、
図11(B)に示す同構造の連結部材220は、
図11(A)に示す免震装置として市販されている鉛プラグ入り積層ゴム221よりも要求値を緩和した材料を用いることができるので、この点においても低コストとなる。
【0084】
なお、鉛プラグ入り積層ゴム221以外の積層ゴム、例えば高減衰積層ゴム、錫プラグ入り積層ゴム等や天然ゴム系積層ゴムでもよい。
【0085】
(第二バリエーション)
図12は第二バリエーションの連結機構300を図示している。
【0086】
連結機構300は、エキスパンションジョイント110と連結部材320とを有している。
【0087】
第一免震人工地盤12の外縁部12Aには下側に突出する第一補強凸部17が形成され、第二免震人工地盤22の外縁部22Aには下側に突出する第二補強凸部27が形成されている。
【0088】
本バリエーションの連結部材320は、一対の湾曲部材322と直線部材324とで構成されている。一対の湾曲部材322は、側面視で一端側が上方に湾曲し、第一免震人工地盤12の第一補強凸部17及び第二免震人工地盤22の第二補強凸部27にボルト接合されている。一対の湾曲部材322の他端側の水平部は、直線部材324にボルト接合されることで、接続されている。
【0089】
なお、連結部材320の湾曲部材322の長さ、曲率及び断面性能、直線部材324の長さ、断面性能は、連結部材120(
図8(A)参照)と同様であり、連結部材120または連結部材320に生じる変形と、それぞれの連結部材120及び連結部材320の各部に生じるひずみとの関係が同様になるように構成されている。すなわち、連結部材320は連結部材120と同じ力学性能をもつ部材である。
【0090】
本バリエーションの連結部材320は、連結部材120(
図10(A)参照)よりも第一免震人工地盤12の外縁部12A及び第二免震人工地盤22の外縁部22Aへの取り付けの仕様が簡便となる。また、連結部材120(
図10(A)参照)に対する連結部材119(
図10(B)参照)のように、連結部材320を図に直交する方向に拡幅して、一方向の変形のみに有効となるようにして設置してもよい。また、連結部材320の形状は、変形と各部ひずみの関係が連結部材120と同様になり、同じ力学特性を有する限りにおいて、
図12の形状に限定されない。
【0091】
<その他>
尚、本発明は上記実施形態に限定されない。
【0092】
例えば、上記実施形態では、免震支持された第一免震構造物10は第一免震人工地盤12と第一建物14とで構成され、免震支持された第二免震構造物20は第二免震人工地盤22と第二建物24とで構成され、第一免震人工地盤12と第二免震人工地盤22とは剛性を有し且つ減衰機能を有する連結部材119、120、220、320で連結されたが、これに限定されない。
【0093】
例えば、基礎免震構造の第一免震建物の下部と基礎免震構造の第二免震建物の下部とを剛性を有し且つ減衰機能を有する連結部材119、120、220、320で連結してもよい。なお、ここで言う「下部」とは、当該免震建物の下側1/3を指す。
【0094】
また、連結部材119、120、220、320は、剛性を有し且つ減衰機能を有していたが、これに限定されない。剛性のみを有する連結部材であってもよい。
【0095】
更に、コイルばね等の弾性部材とオイルダンパー等の減衰部材とを並列に配置した構造の連結部材であってもよい。
【0096】
更に、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々なる態様で実施し得る。
【符号の説明】
【0097】
10 第一免震構造物
12 第一免震人工地盤(下部の一例)
20 第二免震構造物
22 第二免震人工地盤(下部の一例)
120 連結部材
220 連結部材
320 連結部材