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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】水力発電システム
(51)【国際特許分類】
   H02P 9/04 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
H02P9/04 C
H02P9/04 B
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017139553
(22)【出願日】2017-07-19
(65)【公開番号】P2019022354
(43)【公開日】2019-02-07
【審査請求日】2020-06-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】畔上 和也
【審査官】三島木 英宏
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-223368(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 9/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
水流により回転する原動機と、
前記原動機に機械的に接続された発電機と、
前記発電機を制御するコンバータと、
前記コンバータと直流回路を介して接続された系統連系用のインバータと、
前記直流回路に接続され、抵抗と半導体デバイスを有するダイナミックブレーキ回路と、
前記コンバータと前記インバータと前記ダイナミックブレーキ回路とを制御する制御部と、
を備え、系統解列時に自立運転機能を有する水力発電システムであって、
前記制御部は、
自立運転中は、前記コンバータに直流電圧一定制御を行わせ、
自立運転中に前記発電機の速度が危険速度帯域内となった時に、前記ダイナミックブレーキ回路の動作電圧レベルを過電圧保護レベルである第1動作電圧レベルから前記第1動作電圧レベルよりも低い電圧である第2動作電圧レベルに変更し、前記直流回路の電圧が前記動作電圧レベル以上となった時に前記ダイナミックブレーキ回路をオン動作させ、
前記ダイナミックブレーキ回路のオン動作中にブレーキ動作停止速度になった時に、前記動作電圧レベルを前記第2動作電圧レベルから前記第1動作電圧レベルに変更し、
前記直流回路の電圧が前記動作電圧レベル以下となった時に、前記ダイナミックブレーキ回路をオフ動作させることを特徴とする水力発電システム。
【請求項2】
前記第1動作電圧レベルと、前記第2動作電圧レベルと、前記発電機の速度が危険速度帯域内の時1、危険速度帯域外の時0となる速度抑制指令と、を入力し、前記速度抑制指令が1のとき前記第2動作電圧レベルを出力し、前記速度抑制指令が0のとき前記第1動作電圧レベルを出力する第1,第2選択回路と、
直流電圧検出値と前記第1選択回路の出力を比較し、前記直流電圧検出値の方が大きい場合1を出力し、前記直流電圧検出値の方が小さい場合0を出力する第1比較器と、
前記第1比較器の出力とAND回路の出力を入力し、少なくとも何れか一方が1の時1を出力し、両方0の場合は0を出力するOR回路と、
前記直流電圧検出値と、前記第2選択回路の出力を比較し、前記直流電圧検出値の方が大きい場合1を出力し、前記直流電圧検出値の方が小さい場合0を出力する第2比較器と、
前記第2比較器の出力と前記OR回路の出力を入力し、両方とも1の場合1を出力し、少なくとも何れか一方が0の場合0を出力する前記AND回路と、
を備え、前記OR回路の出力を前記ダイナミックブレーキ回路の動作指令とすることを特徴とする請求項1記載の水力発電システム。
【請求項3】
前記第2動作電圧レベルは、自立運転動作時の直流電圧指令値であることを特徴とする請求項1または2記載の水力発電システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水力発電システムに係り、特に、自立運転動作中の抵抗投入によるブレーキ消費電力可変制御に関する。
【背景技術】
【0002】
図9に水力発電システムの構成の一例を示す。水力発電システムでは、水流のエネルギーが水車を介して原動機1に機械的エネルギーとして入力される。原動機1と軸を介して接続された発電機2は、入力された機械的エネルギーに相当する電気的エネルギーを出力する。
【0003】
この時、コンバータCNVは、発電機2に流れる有効電流(すなわち、有効電力)を制御し、発電機2が出力する電気的エネルギーを調整する。コンバータCNVと直流回路で接続されたインバータINVは、コンバータCNVが回生した有効電力を、直流回路の上昇分に応じて系統電圧と同期した電圧で系統3へ回生させる。
【0004】
また、図9には示されていないが、水力発電システムは、コンバータCNVインバータINVを制御して発電機2の速度を制御する制御部を有する。
【0005】
水力発電システムが系統3と連系運転を行っている場合、コンバータCNVは、原動機1に流れる水量に応じた有効電流を出力させるように発電機2の制御を行う。あるいは、コンバータCNVは、発電機2を設定速度に制御するための有効電流を出力させるように発電機2の制御を行う。
【0006】
水量に応じた有効電流は、あらかじめ流れる水量ごとに測定、あるいは算出した原動機1の速度-出力特性表に則るものとなる。そのため、この運転状態では、発電機2の速度は制御部が設定した任意の速度になる。
【0007】
図10に系統連系運転時における水力発電システムの電力の流れを示す。図10に示すように、インバータINVからは系統電力Pline+負荷電力Ploadが出力され、系統3には系統電力Plineが、所内負荷4には負荷電力Ploadがそれぞれ出力される。
【0008】
図11に自立運転動作時の水力発電システムにおける電力の流れを示す。水力発電システムが系統3と接続されない自立運転動作を行っている場合、コンバータCNVは、インバータINVと接続されている直流回路の電圧を一定電圧(直流電圧指令値)に制御する。インバータINVは所内負荷4に求められる電圧を出力し、コンバータCNVは所内負荷4に出力された負荷電力Ploadに応じた有効電力を発電機2から回生させる。この運転状態では、コンバータCNVが制御する有効電流は所内負荷4に応じた量となるため、発電機2の速度は制御されない。
【0009】
直流電圧一定制御の制御ブロックを図12に示す。図12に示すように、減算器5において、直流電圧検出値と直流電圧指令値の偏差を算出する。PI制御器6で、その偏差に応じた有効分電流指令値を演算し、発電機2への制御指令としている。(参考:特許文献2)
上記の水力発電システムにおいて、原動機1および発電機2は機械的な設備である。そのため、設計値を上回る速度や、設計上、機械的共振が生じる速度で運転してしまう場合、原動機1や発電機2の機械的部品にダメージが生じる可能性がある。
【0010】
通常、上記の速度では運用されないように、水量を調整する入口弁20の開閉動作を行って速度を調整する。しかし、所内負荷4が急遮断された場合には入口弁20の開閉動作では時間がかかってしまい、瞬時に発電機2の速度を抑制することができず、機械的にダメージが生じる速度になってしまう恐れがある。
【0011】
その対策として、特許文献4にはダイナミックブレーキ回路を使用した水力発電システムの加速運転抑制制御法が開示されている。ダイナミックブレーキ回路7と呼ばれる抵抗負荷は、コンバータCNVインバータINV間の直流回路が過電圧保護レベル(コンバータCNVインバータINVの直流過電圧破壊を防止する電圧レベル)になった場合に動作し、回路の保護を行う。
【0012】
特許文献4では、自立運転動作時に、発電機2の速度を監視し、ダイナミックブレーキ回路7で回生電力を消費させることで、発電機2の速度を機械的にダメージが生じる危険速度帯域以外(すなわち安全速度帯域内)で運転することを可能としている。
【0013】
図13に特許文献4におけるダイナミックブレーキ回路の動作制御ロジックを示す。図13に示すように、比較器8において、直流電圧検出値とダイナミックブレーキ回路7の動作開始電圧設定値とが比較され、直流電圧検出値の方が大きければ1を、直流電圧検出値の方が小さければ0を出力する。(直流電圧検出値と動作開始電圧設定値が同じ場合は1でも0でも良い。)OR回路9は、比較器8の出力および後述するAND回路11の出力のうち少なくとも何れか一方が1であれば1を出力し、両方0であれば0を出力する。比較器10は、直流電圧検出値とダイナミックブレーキ回路7の動作停止電圧設定値とを比較し、直流電圧検出値の方が大きければ1を、直流電圧検出値の方が小さければ0を出力する。(直流電圧検出値と動作停止電圧設定値が同じ場合は1でも0でも良い。)AND回路11は、比較器10の出力とOR回路9の出力が両方1ならば1を出力し、少なくとも何れか一方が0なら0を出力する。OR回路9の出力がダイナミックブレーキ回路7の動作指令となる。OR回路9の出力が1の時、ダイナミックブレーキ回路7のオン動作指令となる。OR回路9の出力が0の時、ダイナミックブレーキ回路7のオフ動作指令となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【文献】特開2007-6553号公報
【文献】特開2016-131442号公報
【文献】特開2016-223368号公報
【文献】特開2017-55468号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
以上の水力発電システムの制御方法では、ダイナミックブレーキ回路7が動作する直流電圧の設定値が一定(過電圧保護レベル)となっている。そのため、単位時間あたりにダイナミックブレーキ回路7で消費される消費電力Ploss1は下記の(1)式で表される。消費電力Ploss1はダイナミックブレーキ回路7の直流電圧レベルに応じた値で固定となる。
【0016】
【数1】
【0017】
通常、ダイナミックブレーキ回路7には、水力発電システムが定格運転中に緊急停止した場合に、安全に停止するための電力を消費できる抵抗が選定される。よって、前述の発電機2の危険速度帯域内におけるダイナミックブレーキ回路7の動作のような、緊急停止動作以外でダイナミックブレーキ回路7を動作させてしまうと、図14に示すようにダイナミックブレーキ回路7の動作を繰り返すようなモードとなり、抵抗7aの消費電力が増え、抵抗7aの温度が許容温度を超過する恐れがある。
【0018】
そのため、自立運転時の速度抑制動作でダイナミックブレーキ回路7において消費する電力を可能な限り低くし、抵抗7aの温度上昇を抑える必要がある。
【0019】
以上示したようなことから、水力発電システムにおいて、ダイナミックブレーキ回路の消費電力を低減し、抵抗の温度上昇を抑制することが課題となる。
【課題を解決するための手段】
【0020】
本発明は、前記従来の問題に鑑み、案出されたもので、その一態様は、水流により回転する原動機と、前記原動機に機械的に接続された発電機と、前記発電機を制御するコンバータと、前記コンバータと直流回路を介して接続された系統連系用のインバータと、前記直流回路に接続され、抵抗と半導体デバイスを有するダイナミックブレーキ回路と、前記コンバータと前記インバータと前記ダイナミックブレーキ回路とを制御する制御部と、を備え、系統解列時に自立運転機能を有する水力発電システムであって、前記制御部は、自立運転中は、前記コンバータに直流電圧一定制御を行わせ、自立運転中に前記発電機の速度が危険速度帯域内となった時に、前記ダイナミックブレーキ回路の動作電圧レベルを過電圧保護レベルである第1動作電圧レベルから前記第1動作電圧レベルよりも低い電圧である第2動作電圧レベルに変更し、前記ダイナミックブレーキ回路をオン動作させ、前記ダイナミックブレーキ回路のオン動作中にブレーキ動作停止速度になった時に、前記動作電圧レベルを前記第2動作電圧レベルから前記第1動作電圧レベルに変更し、前記直流回路の電圧が前記動作電圧レベル以下となった時に、前記ダイナミックブレーキ回路をオフ動作させることを特徴とする。
【0021】
前記第1動作電圧レベルと、前記第2動作電圧レベルと、前記発電機の速度が危険速度帯域内の時1、危険速度帯域外の時0となる速度抑制指令と、を入力し、前記速度抑制指令が1のとき前記第2動作電圧レベルを出力し、前記速度抑制指令が0のとき前記第1動作電圧レベルを出力する第1,第2選択回路と、直流電圧検出値と前記第1選択回路の出力を比較し、前記直流電圧検出値の方が大きい場合1を出力し、前記直流電圧検出値の方が小さい場合0を出力する第1比較器と、前記第1比較器の出力とAND回路の出力を入力し、少なくとも何れか一方が1の時1を出力し、両方0の場合は0を出力するOR回路と、前記直流電圧検出値と、前記第2選択回路の出力を比較し、前記直流電圧検出値の方が大きい場合1を出力し、前記直流電圧検出値の方が小さい場合0を出力する第2比較器と、前記第2比較器の出力と前記OR回路の出力を入力し、両方とも1の場合1を出力し、少なくとも何れか一方が0の場合0を出力するAND回路と、を備え、前記OR回路の出力を前記ダイナミックブレーキ回路の動作指令とすることを特徴とする。
【0022】
前記第2動作電圧レベルは、自立運転動作時の直流電圧指令値であることを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、水力発電システムにおいて、ダイナミックブレーキ回路の消費電力を低減し、抵抗の温度上昇を抑制ことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1】実施形態における水力発電システムの構成を示すブロック図。
図2】実施形態におけるダイナミックブレーキ回路による速度抑制動作を示すタイムチャート。
図3】実施形態におけるダイナミックブレーキ回路の動作指令生成部を示すブロック図。
図4】実施形態における判定処理部を示すブロック図。
図5】シミュレーションに用いる水力発電システムの構成図。
図6】シミュレーションで使用した機械負荷の特性を示すグラフ。
図7】従来手法を使用した時のシミュレーション結果を示すタイムチャート。
図8】実施形態の制御方法を使用した時のシミュレーション結果を示すタイムチャート。
図9】従来の水力発電システムの構成の一例を示すブロック図。
図10】従来の水力発電システムの系統連系運転時におけるエネルギーの流れを示す図。
図11】従来の水力発電システムの自立運転負荷時におけるエネルギーの流れを示す図。
図12】直流電圧一定制御の制御ブロックを示す図。
図13】従来のダイナミックブレーキ回路の動作指令生成部を示すブロック図。
図14】従来のダイナミックブレーキ回路による速度抑制動作を示すタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本願発明では、水力発電システムが自立運転をしている速度抑制動作時に、ダイナミックブレーキ回路7の動作電圧レベルを過電圧保護レベルとはせず、過電圧保護レベルよりも低い電圧レベルに変更する制御を行うものである。
【0026】
以下、本願発明における水力発電システムの実施形態を図1図8に基づいて詳述する。
【0027】
図1は、本実施形態における水力発電システムの構成を示すブロック図である。図1に示すように、本実施形態における水力発電システムは、水流により回転する原動機1と、原動機1に機械的に接続された発電機2と、発電機2を制御するコンバータCNVと、コンバータCNVと直流回路を介して接続された系統連系用のインバータINVと、直流回路に接続されたダイナミックブレーキ回路7と、コンバータCNVインバータINVとダイナミックブレーキ回路7を制御する制御部21と、を備える。
【0028】
ダイナミックブレーキ回路7は、抵抗7aと半導体デバイス(IGBTなど)7bとを有する。半導体デバイス7bがオンすると、ダイナミックブレーキ回路7が動作する。
【0029】
また、制御部21は、発電機制御を行う第1コントローラ12とダイナミックブレーキ回路7の制御を行う第2コントローラ13とを有する。第1コントローラ12と第2コントローラ13間では、データの送受信を行うことができる構成になっている。発電機制御を行うためには、発電機2の速度を測定あるいは推定する手段が必要となるが、第1コントローラ12はこの手段を有しているものとする。
【0030】
図2は、本実施形態におけるダイナミックブレーキ回路による速度抑制動作を示すタイムチャートである。自立運転中、第1コントローラ12は、検出または推定した発電機2の回転速度より、発電機2が危険速度帯域内(図2に示す危険速度以上)で運転をしているか否かの監視を行う。発電機2が危険速度帯域内で運転をしている場合には、第1コントローラ12は、現在、第1コントローラ12が制御している直流電圧指令値を第2コントローラ13へ送信する。
【0031】
発電機2の回転速度が危険速度に到達した時(すなわち、危険速度帯域内に入った時)に、第2コントローラ13は、ダイナミックブレーキ回路7の動作電圧レベルを、通常の過電圧保護レベルである第1動作電圧レベルVdc1から、受信した直流電圧指令値である第2動作電圧レベルVdc2へ変更する。ダイナミックブレーキ回路7の動作電圧レベルが現在の直流電圧指令値(≒直流電圧検出値)である第2動作電圧レベルVdc2となるため、ダイナミックブレーキ回路7の動作が開始される。ダイナミックブレーキ回路7の動作が開始されると、発電機2の負荷は増加するため、発電機2は減速動作になる。
【0032】
この状態でのダイナミックブレーキ回路7での消費電力Ploss2は以下の(2)式となる。第2動作電圧レベルVdc2は、(1)式に記載している過電圧保護レベルの第1動作電圧レベルVdc1よりも低い電圧であるため、消費電力Ploss2は消費電力Ploss1と比較して小さいものとなり、低減された消費電力分(Ploss1-Ploss2)だけ、ダイナミックブレーキ回路7の抵抗7aの温度上昇を抑えることができる。なお、ここでは、両者のダイナミックブレーキ回路7が動作している時間は変わらないものとする。
【0033】
【数2】
【0034】
発電機2が減速を続け、抑制動作完了速度(図2のブレーキ動作停止速度)になった場合には、第1コントローラ12は第2コントローラ13に対して、抑制動作が完了した情報を送信する。第2コントローラ13は受信した情報より、ダイナミックブレーキ回路7の動作電圧レベルを、通常の過電圧保護レベルである第1動作電圧レベルVdc1へ戻す。この時の直流電圧は第1動作電圧レベルVdc1を下回ることになるため、ダイナミックブレーキ回路7の動作が停止する。
【0035】
図14は従来の第1動作電圧レベルVdc1のみを用いた動作時の例、図2は本実施形態における第1動作電圧レベルVdc1と第2動作電圧レベルVdc2を用いた動作時の例を示す。図14図2に示すように、ダイナミックブレーキ回路7の動作時に単位時間あたりに抵抗7aで消費される電力が本実施形態では低減されている。
【0036】
また、消費電力の低減によって、発電機2の減速も緩やかになる。したがって、ダイナミックブレーキ回路7の動作時間Tは、本実施形態(図2)の方が長くなる。よって、本実施形態(図2)の方がダイナミックブレーキ動作終了時の入口弁20がより閉ざされることになるため、図2ではブレーキ動作終了後も発電機2の速度は減速している。
【0037】
本実施形態(図2)では、ダイナミックブレーキ回路7の半導体デバイス7bのON/OFF動作回数が2回から1回に少なくなったことにより、ダイナミックブレーキ回路7内の半導体デバイス7bのスイッチング損失も少なくなる効果も有する。
【0038】
本実施形態におけるダイナミックブレーキ回路7の動作制御ブロックを図3に示す。図3に示す通常時の動作開始電圧は(1)式の第1動作電圧レベル(過電圧保護レベル)Vdc1に、図3の速度抑制時の動作開始電圧は(2)式の第2動作電圧レベル(直流電圧指令値)Vdc2に相当する。
【0039】
図13に示す従来の第2コントローラ13に、動作電圧切替部14を追加するだけで本実施形態は適用可能になり、後段のダイナミックブレーキ回路7の基本制御動作を変更する必要がない。
【0040】
図3に示すように、動作電圧切替部14は、選択回路14aと選択回路14bとを有する。選択回路14a,14bは、速度抑制時の第2動作電圧レベルVdc2と通常時の第1動作電圧レベルVdc1と速度抑制指令を入力し、速度抑制指令が1ならば第2動作電圧レベルVdc2を出力し、速度抑制指令が0ならば第1動作電圧レベルVdc1を出力する。
【0041】
比較器8において、直流電圧検出値と選択回路14aの出力とが比較され、直流電圧検出値の方が大きければ1を、直流電圧検出値の方が小さければ0を出力する。(直流電圧検出値と選択回路14aの出力が同じ場合は1でも0でも良い。)OR回路9は、比較器8の出力および後述するAND回路11の出力のうち少なくとも何れか一方が1であれば1を出力し、両方0であれば0を出力する。比較器10は、直流電圧検出値と選択回路14bの出力とを比較し、直流電圧検出値の方が大きければ1を、直流電圧検出値の方が小さければ0を出力する。(直流電圧検出値と選択回路14bの出力が同じ場合は1でも0でも良い。)AND回路11は、比較器10の出力とOR回路9の出力が両方1ならば1を出力し、少なくとも何れか一方が0なら0を出力する。OR回路9の出力がダイナミックブレーキ回路7の動作指令となる。OR回路9の出力が1の時、ダイナミックブレーキ回路7のオン動作指令となり、半導体デバイス7bをオンさせる。OR回路9の出力が0の時、ダイナミックブレーキ回路7のオフ動作指令となり、半導体デバイス7bをオフさせる。
【0042】
第1コントローラ12は、図4に示すように、判定処理部15を有する。判定処理部15は、速度検出値と危険速度帯域とを入力し、速度指令値が危険速度帯域内であれば、速度抑制指令を第2コントローラ13に出力する。判定処理部15で行われる処理は簡潔であるため、従来の水力発電システムから本実施形態を適用する場合でも既存の制御への影響を少なくすることができる。
【0043】
本実施形態の水力発電システムにおけるシミュレーション結果を説明する。シミュレーションに使用する水力発電システムの構成を図5に示す。図5に示すように、シミュレーションでは、自立運転時の系統3遮断時の速度抑制動作を目的としているため、系統回生用のインバータINVは省略している。その他は図1と同様である。
【0044】
シミュレーション条件を以下の表1に示す。入力した流量に対する機械負荷の特性を図6に示す。風車負荷特性を持つ機械負荷を使用することで、水車負荷を模擬している。
【0045】
【表1】
【0046】
この条件における従来方法のダイナミックブレーキ回路動作時の消費電力量と、本実施形態によるダイナミックブレーキ回路動作時の消費電力量を比較する。図7に従来方法による第1動作電圧レベルVdc1(過電圧保護レベル)を用いたシミュレーションの結果、図8に本実施形態における第1動作電圧レベルVdc1と第2動作電圧レベルVdc2を用いたシミュレーションの結果を示す。ダイナミックブレーキ(DB)での消費電力総量が増加し速度が減速している期間が、ダイナミックブレーキ回路7が動作している期間である。この期間は、図7では3回だが図8では2回に減っている。
【0047】
同じ機械入力を入力しているにもかかわらず、本実施形態(図8)では、発電機速度が加速抑制動作を満たしながら、従来手法に比べて、ダイナミックブレーキ回路7の抵抗7aでの消費電力の総量を低くすることが可能となっている。
【0048】
本実施形態では、ダイナミックブレーキ回路7の動作電圧レベルを可変とすることで、水力発電システムが自立運転をしている速度抑制動作時に、ダイナミックブレーキ回路7の消費電力を低減させることができる。これにより、ダイナミックブレーキ回路7の抵抗7aの温度上昇が抑制され、温度破壊しにくくなる。よって、水力発電システムの信頼性が向上する。
【0049】
ダイナミックブレーキ回路7での消費電力が大きいほど、発電機2の減速時における加速度dwr/dtは大きくなるが、水量を調整する入口弁20の制御が完了する間だけ、発電機速度が危険速度帯域内に入らないように制御することを目的としているため、加速度の大きさは必要とならない。
【0050】
また、ダイナミックブレーキ回路7の動作停止時には、消費している電力に応じた負荷急変が発生するが、本実施形態では消費電力を下げることができるため、負荷急変時の負荷変動量を低減できる。よって、発電機2への機械ダメージを低減する効果も有する。
【0051】
以上、本発明において、記載された具体例に対してのみ詳細に説明したが、本発明の技術思想の範囲で多彩な変形および修正が可能であることは、当業者にとって明白なことであり、このような変形および修正が特許請求の範囲に属することは当然のことである。
【符号の説明】
【0052】
1…原動機
2…発電機
3…系統
4…所内負荷
7…ダイナミックブレーキ回路
7a…抵抗
7b…半導体デバイス
12…第1コントローラ
13…第2コントローラ
20…入口弁
21…制御部
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14