(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】化粧シート基材及び化粧シート基材の製造方法並びに化粧シート及び化粧シートの製造方法
(51)【国際特許分類】
C08L 23/02 20060101AFI20220412BHJP
B32B 27/32 20060101ALI20220412BHJP
B32B 27/18 20060101ALI20220412BHJP
C08J 5/18 20060101ALI20220412BHJP
C08K 9/10 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C08L23/02
B32B27/32 E
B32B27/18 Z
C08J5/18 CES
C08K9/10
(21)【出願番号】P 2017237790
(22)【出願日】2017-12-12
【審査請求日】2020-10-22
(31)【優先権主張番号】P 2016240265
(32)【優先日】2016-12-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003193
【氏名又は名称】凸版印刷株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100105854
【氏名又は名称】廣瀬 一
(74)【代理人】
【識別番号】100116012
【氏名又は名称】宮坂 徹
(72)【発明者】
【氏名】柴山 直之
(72)【発明者】
【氏名】長濱 正光
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 彰
(72)【発明者】
【氏名】高橋 昌利
【審査官】松元 洋
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-190465(JP,A)
【文献】特開2016-190467(JP,A)
【文献】国際公開第2016/076360(WO,A1)
【文献】特開2013-010931(JP,A)
【文献】特開2006-097192(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 - 101/16
B32B 1/00 - 43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリオレフィン系樹脂に無機フィラーが配合された熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、
上記無機フィラーは、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で含有されて
おり、
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が2.0μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることを特徴とする化粧シート基材。
【請求項2】
ポリオレフィン系樹脂に無機フィラーを添加して形成した熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、
上記無機フィラーは、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で添加され
ており、
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が2.0μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることを特徴とする化粧シート基材。
【請求項3】
上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーが20質量部以上400質量部以下の範囲内で配合されたことを特徴とする請求項1に記載した化粧シート基材。
【請求項4】
上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを20質量部以上400質量部以下の範囲内で添加したことを特徴とする請求項2に記載した化粧シート基材。
【請求項5】
上記無機フィラーは、水酸化アルミニウム、及び、水酸化マグネシウムの少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1~請求項4のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項6】
上記ベシクルが、リン脂質の外膜からなるリポソームであることを特徴とする請求項1~請求項5のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項7】
3層以上の熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、
上記3層以上の熱可塑性樹脂層の少なくとも1層が、上記無機フィラーベシクルを含有した熱可塑性樹脂層であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項8】
3層以上の熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、
上記3層以上の熱可塑性樹脂層の少なくとも1層が、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルを添加して形成した熱可塑性樹脂層であることを特徴とする請求項1~請求項6のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項9】
上記3層以上の熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層には、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーが20質量部以上400質量部以下の範囲で配合されており、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層には、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーが0質量部以上50質量部以下の範囲で配合されることを特徴とする請求項7に記載した化粧シート基材。
【請求項10】
上記3層以上の熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層が、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを20質量部以上400質量部以下の範囲内で添加して形成した熱可塑性樹脂層であり、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層が、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを0質量部以上50質量部以下の範囲内で添加して形成した熱可塑性樹脂層であることを特徴とする請求項8に記載した化粧シート基材。
【請求項11】
上記3層以上の熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層には、上記無機フィラーベシクルが配合されており、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層には、上記無機フィラーベシクルが配合されており、
上記中間層のうちの少なくとも一層に配合された上記無機フィラーベシクルの配合量は、上記基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層に配合された上記無機フィラーベシクルの配合量よりも多いことを特徴とする請求項7又は請求項8に記載した化粧シート基材。
【請求項12】
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が異なる2種類の無機フィラーを含むことを特徴とする請求項1~請求項11のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項13】
上記無機フィラーが配合された上記熱可塑性樹脂層には分散剤が配合され、
上記分散剤が、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、及び変性樹脂の少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1~請求項1
2のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項14】
上記熱可塑性樹脂層は、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルとともに分散剤を添加して形成され、
上記分散剤が、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、及び変性樹脂の少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1~請求項1
2のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項15】
一軸延伸加工または二軸延伸加工されていることを特徴とする請求項1~請求項1
4のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項16】
不燃性基材に貼り合わせた状態で、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において、建築基法施行令第108条の2第1号および第2号に記載の要件を満たす不燃性能を有することを特徴とする請求項1~請求項1
5のいずれか1項に記載した化粧シート基材。
【請求項17】
ポリオレフィン系樹脂に無機フィラーが配合された熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、
上記無機フィラーは、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で含有され
、
上記化粧シート基材は、3層以上の熱可塑性樹脂層を有し、
上記3層以上の熱可塑性樹脂層の少なくとも1層が、上記無機フィラーベシクルを含有した熱可塑性樹脂層であり、
上記3層以上の熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層には、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーが20質量部以上400質量部以下の範囲で配合されており、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層には、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーが0質量部以上50質量部以下の範囲で配合され、
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が0.3μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることを特徴とする化粧シート基材。
【請求項18】
ポリオレフィン系樹脂に無機フィラーを添加して形成した熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、
上記無機フィラーは、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で添加され
、
上記化粧シート基材は、3層以上の熱可塑性樹脂層を有し、
上記3層以上の熱可塑性樹脂層の少なくとも1層が、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルを添加して形成した熱可塑性樹脂層であり、
上記3層以上の熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層が、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを20質量部以上400質量部以下の範囲内で添加して形成した熱可塑性樹脂層であり、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層が、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを0質量部以上50質量部以下の範囲内で添加して形成した熱可塑性樹脂層であり、
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が0.3μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることを特徴とする化粧シート基材。
【請求項19】
ポリオレフィン系樹脂に、無機フィラーを、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で添加して熱可塑性樹脂層を形成
し、
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が2.0μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることを特徴とする化粧シート基材の製造方法。
【請求項20】
上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを20質量部以上400質量部以下の範囲内で添加することを特徴とする請求項1
9に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項21】
上記無機フィラーは、水酸化アルミニウム、及び、水酸化マグネシウムの少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1
9又は請求項
20に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項22】
上記ベシクルが、リン脂質の外膜からなるリポソームであることを特徴とする請求項1
9~請求項
21のいずれか1項に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項23】
上記熱可塑性樹脂層を3層以上積層する工程を有し、
上記3層以上積層した熱可塑性樹脂層の少なくとも1層を、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルを添加して形成することを特徴とする請求項1
9~請求項
22のいずれか1項に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項24】
上記3層以上積層した熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層を、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを20質量部以上400質量部以下の範囲内で添加して形成し、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層を、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを0質量部以上50質量部以下の範囲内で添加して形成することを特徴とする請求項2
3に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項25】
上記3層以上積層した熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層を、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルを添加して形成し、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層を、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルを添加して形成し、
上記中間層のうちの少なくとも一層に配合された上記無機フィラーの配合量を、上記基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層に配合された上記無機フィラーの配合量よりも多くすることを特徴とする請求項23に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項26】
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が異なる2種類の無機フィラーを含むことを特徴とする請求項19~請求項25のいずれか1項に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項27】
上記熱可塑性樹脂層を、上記ポリオレフィン系樹脂に上記無機フィラーベシクルとともに分散剤を添加して形成し、
上記分散剤が、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、及び変性樹脂の少なくとも一つからなることを特徴とする請求項1
9~請求項2
6のいずれか1項に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項28】
一軸延伸加工または二軸延伸加工することを特徴とする請求項1
9~請求項2
7のいずれか1項に記載した化粧シート基材の製造方法。
【請求項29】
3層以上積層した熱可塑性樹脂層の少なくとも1層を、ポリオレフィン系樹脂に、無機フィラーを、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で添加して
形成する工程を有し、
上記3層以上積層した熱可塑性樹脂層のうち、
2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層のうちの少なくとも一層を、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを20質量部以上400質量部以下の範囲内で添加して形成し、基材表層側に位置する熱可塑性樹脂層を、上記ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して上記無機フィラーベシクルを0質量部以上50質量部以下の範囲内で添加して形成し、
上記無機フィラーは、平均一次粒子径が0.3μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることを特徴とする化粧シート基材の製造方法。
【請求項30】
請求項1~請求項1
8の
いずれか1項に記載の化粧シート基材の一方の面側に、印刷層と表面保護層とがこの順に設けられたことを特徴とする化粧シート。
【請求項31】
請求項1~請求項1
8の
いずれか1項に記載の化粧シート基材の一方の面側に、印刷層と表面保護層とをこの順に設けることを特徴とする化粧シートの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、建築内装材、建具の表面材、家電製品の表面材などに用いられる化粧シート基材及び化粧シート基材の製造方法並びに化粧シート及び化粧シートの製造方法に関する技術である。特に、不燃性が要求される用途に好適なフィルム状の化粧シート基材及び化粧シート基材の製造方法並びに化粧シート及び化粧シートの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
化粧シートは、例えば、フィルム状の化粧シート基材の上に印刷層や透明樹脂層を積層して形成される。そして、化粧シートは、木質ボード類、無機系ボード類、金属板などの基板に貼り合わされて化粧板として用いられる。
従来から、軟質ポリ塩化ビニル系樹脂製の化粧シート基材が優れた加工適性や不燃性から用いられてきたが、廃棄後の焼却処理時に有毒ガス等が発生することなどが近年、問題視されている。このため、ポリ塩化ビニル系樹脂に替わり、ポリオレフィン系樹脂を用いた化粧シート基材が提案されている。しかし、ポリオレフィン系樹脂を用いた場合には燃焼時の有毒ガス等の発生は抑制されるものの、ポリオレフィン系樹脂は燃焼性の高い樹脂の1つであり、不燃性を満たすことが困難であった。
これに対し、ポリオレフィン系樹脂の不燃性を改善する手法として、特許文献1~2に記載の手法がある。すなわち、特許文献1~2には、炭酸カルシウム等の無機フィラーを配合したポリオレフィン系樹脂層を用いた構造体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2013-10931号公報
【文献】特開2006-97192号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
不燃用途に用いられる化粧シートの化粧シート基材に要求される不燃性を得るためには、ポリオレフィン系樹脂に対して多量の無機フィラーを配合する必要がある。
しかし、無機フィラーを多量に配合すると、凝集化などによって熱可塑性樹脂の機械物性が著しく低下して、化粧シート基材形成時の柄印刷や積層における製造工程が困難となるとともに、得られた化粧シート基材の後加工性が悪くなるという課題があった。更に、化粧シート基材の表面近傍に存在する無機フィラーによって、基材表面に凹凸が生じて平滑性に劣る場合があり、化粧シート基材の表面に絵柄印刷を施す際に、インキの着肉性が悪く、即ち印刷適性が十分でないなどの影響があった。
【0005】
本発明は、上記のような点に着目してなされたもので、廃棄後の焼却処理時に有毒ガス等の発生が抑制可能なポリオレフィン系樹脂に対し、不燃性を付与するために無機フィラーを配合しても、印刷適性が優良な化粧シート基材及びその製造方法並びにその化粧シート基材を備えた化粧シート及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
課題を解決するために、本発明の一態様は、ポリオレフィン系樹脂に無機フィラーが配合された熱可塑性樹脂層を有する化粧シート基材であって、上記無機フィラーは、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で含有されていることを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明の一態様によれば、無機フィラーをベシクル化することで、無機フィラーの分散性が向上して、無機フィラーの凝集化が抑制される結果、無機フィラーの配合量を多くしても、印刷適性が優良であるフィルム状の化粧シート基材を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1】本発明に基づく実施形態に係る化粧シート基材および化粧シートの一例を示す模式的断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
次に、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
ここで、図面は模式的なものであり、厚みと平面寸法との関係、各層の厚みの比率等は現実のものとは異なる。また、以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための構成を例示するものであって、本発明の技術的思想は、構成部品の材質、形状、構造等が下記のものに特定されるものではない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された請求項が規定する技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0010】
本実施形態の化粧シート1は、化粧シート基材10の一方の面に、印刷層11、接着樹脂層12、透明樹脂層13、及び表面保護層14がこの順に形成されている。表面保護層14には、エンボス模様が形成されている場合を例示している。接着樹脂層12については必要に応じて設ければよい。
本実施形態の化粧シート基材10は、3層の熱可塑性樹脂層から構成される例であり、以下の説明では、その3層を裏面側から基材表層10C、基材中間層10B、基材表層10Aと呼ぶ場合もある。この3層の熱可塑性樹脂層のうちの少なくとも1層には、分散剤と、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラー(以下、無機フィラーベシクルとも呼ぶ)とが配合されている。
【0011】
<表面保護層14>
表面保護層14は、化粧シート1の最表面を構成し、化粧シート1の表面の保護や艶の調整としての役割を有する。
表面保護層14の材料としては、ポリウレタン系、アクリルシリコン系、フッ素系、エポキシ系、ビニル系、ポリエステル系、メラミン系、アミノアルキッド系、尿素系などから適宜選択して用いることができる。材料の形態は、水性、エマルジョン、溶剤系など特に限定されるものではない。硬化法についても一液タイプ、二液タイプ、紫外線硬化法など適宜選択して行うことができる。
【0012】
特に、表面保護層14の主成分としては、イソシアネートを用いたウレタン系のものが、作業性、価格、樹脂自体の凝集力などの観点から好適である。イソシアネートには、トリレンジイソシアネート(TDI)、キシリレンジイソシアネート(XDI)、ヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)、ジフェニルメタンジイソシアネート(MDI)、リジンジイソシアネート(LDI)、イソホロンジイソシアネート(IPDI)、メチルヘキサンジイソシアネート(HTDI)、メチルシクロヘキサノンジイソシアネート(HXDI)、トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート(TMDI)などから適宜選択することができる。ただし、耐候性を考慮すると、直鎖状の分子構造を有するヘキサメチレンジイソシアネート(HMDI)が好適である。この他にも、表面硬度の向上を図る場合には、紫外線や電子線などの活性エネルギー線で硬化する樹脂を用いることが好ましい。なお、これらの樹脂は相互に組み合わせて用いることが可能であり、例えば、熱硬化型と光硬化型とのハイブリッド型とすることにより、表面硬度の向上、硬化収縮の抑制および密着性の向上を図ることができる。
【0013】
<透明樹脂層13>
透明樹脂層13は、例えばポリオレフィン系樹脂から構成される。ポリオレフィン系樹脂としては、ポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレンまたはαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものが挙げられる。また、化粧シート1の表面強度の向上を図る場合には、高結晶性のポリプロピレンを用いることが好ましい。
【0014】
<接着樹脂層12>
接着樹脂層12は、密着性を向上させるために設けられる。接着樹脂層12の材質は特に限定されるものではないが、アクリル系、ポリエステル系、ポリウレタン系、エポキシ系などから適宜選択して用いることができる。塗工方法は接着剤の粘度などに応じて適宜選択することができるが、一般的には、グラビアコートが用いられ、印刷層11が施された基材側にグラビアコートによって塗布された後、透明樹脂層13とラミネートするようにして形成される。
【0015】
<印刷層11>
印刷層11は、絵柄模様等の形成によって意匠性を付与する層である。印刷層11の下面側にベタインキ層(不図示)を設けることにより、隠蔽性をもたせてもよい。印刷層11を形成するインキには、バインダーとしての硝化綿、セルロース、塩化ビニル-酢酸ビニル共重合体、ポリビニルブチラール、ポリウレタン、アクリル、ポリエステル系などの単独もしくは各変性物から適宜選択して用いることができる。当該バインダーは、水性、溶剤系、エマルジョン系など特に限定されるものではなく、硬化方法についても、1液タイプでも硬化剤を使用した2液タイプでもよい。さらに、紫外線や電子線などの活性エネルギー線照射によりインキを硬化させる方法を用いてもよい。特に、一般的な方法は、ウレタン系のインキを用いるもので、イソシアネートによって硬化させる方法である。これらのバインダー以外には、通常のインキに含まれている顔料、染料などの着色剤、体質顔料、溶剤、各種添加剤などが含まれている。汎用性の高い顔料としては、縮合アゾ、不溶性アゾ、キナクリドン、イソインドリン、アンスラキノン、イミダゾロン、コバルト、フタロシアニン、カーボン、酸化チタン、酸化鉄、雲母などのパール類が挙げられる。
【0016】
なお、ベタインキ層においては、基本的には印刷層11に用いるインキと同じ材料を用いることができるが、当該インキが透明な材料の場合には、不透明な顔料、酸化鉄、酸化チタンなどを用いることができる。この他にも、銀、銅、アルミなどの金属を添加することで隠蔽性をもたせることも可能である。一般的には、フレーク状のアルミが用いられる。
印刷層11は、基材に対して直接、グラビア印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、静電印刷、インクジェット印刷などにより形成することができる。また、金属によって隠蔽性を付与する場合には、コンマコーター、ナイフコーター、リップコーター、金属蒸着あるいはスパッタ法などを用いることが好ましい。
なお、樹脂材料やインキが積層される界面に対しては、その接着性を考慮して、当該樹脂材料やインキを施す前に、積層される表面にコロナ処理、オゾン処理、プラズマ処理、電子線処理、紫外線処理、重クロム酸処理などの表面処理を施すことにより表面を活性化した後に積層工程を経ると層同士の接着性を向上させることができる。
【0017】
<化粧シート基材10>
本実施形態の化粧シート基材10は、基材表層10A、基材中間層10B、及び基材表層10Cの3層の熱可塑性樹脂層からなる。この構成によって、基材中間層10Bは、2つの熱可塑性樹脂層の間に位置する中間層を構成し、2つの基材表層10A、10Cは、基材表層10A、10C側に位置する熱可塑性樹脂層を構成する。
各層は、それぞれポリオレフィン系樹脂に、燃焼時において自己消火性を有する無機フィラー、及び分散剤が配合された熱可塑性樹脂組成物から形成される。
【0018】
ポリオレフィン系樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテンなどの他に、αオレフィン(例えば、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン、1-ウンデセン、1-ドデセン、トリデセン、1-テトラデセン、1-ペンタデセン、1-ヘキサデセン、1-ヘプタデセン、1-オクタデセン、1-ノナデセン、1-エイコセン、3-メチル-1-ブテン、3-メチル-1-ペンテン、3-エチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、4,4-ジメチル-1-ペンテン、4-エチル-1-ヘキセン、3-エチル-1-ヘキセン、9-メチル-1-デセン、11-メチル-1-ドデセン、12-エチル-1-テトラデセンなど)を単独重合あるいは2種類以上共重合させたものや、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・メチルメタクリレート共重合体、エチレン・エチルメタクリレート共重合体、エチレン・ブチルメタクリレート共重合体、エチレン・メチルアクリレート共重合体、エチレン・エチルアクリレート共重合体、エチレン・ブチルアクリレート共重合体などのように、エチレンまたはαオレフィンとそれ以外のモノマーとを共重合させたものが挙げられる。
【0019】
上記熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂層を少なくとも3層積層した基材に対して、一軸延伸加工または二軸延伸加工を施していることが好ましい。超臨界逆相蒸発法などによりベシクル化された無機フィラーを用いることにより、本実施形態の基材は十分な機械的強度を実現しているが、加えて、一軸延伸加工または二軸延伸加工を施して結晶性を高めることにより、さらに基材フィルムとしての機械的強度を向上させることができる。また、フィルム表面の平滑性を一軸延伸加工または二軸延伸加工によって改善することができるので、印刷層11の印刷を施す際のインキの着肉性が良好なものとなり印刷適性に優れた基材とすることができる。
【0020】
ここで、建築基準法施工令に規定の不燃材料の技術的基準においては、ISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において下記の要件を満たしている必要がある(建築基準法施工令第108条の2第1号および第2号)。本実施形態の化粧シート基材10を有する化粧シート1が不燃材料として認定されるためには、不燃性基材と貼り合わせた状態で50kW/m2の輻射熱による加熱にて20分間の加熱時間において下記の1~3の要求項目をすべて満たす必要がある。
1.総発熱量が8MJ/m2以下
2.最高発熱速度が10秒以上継続して200kW/m2を超えない
3.防炎上有害な裏面まで貫通する亀裂および穴が生じない
なお、不燃性基材としては、石こうボード、繊維混入ケイ酸カルシウム板または亜鉛メッキ鋼板から選択して用いることができる。
【0021】
そして、本実施形態の化粧シート基材10は、少なくとも1層に配合する無機フィラーをベシクル化することで、無機フィラーの配合量を多くできることから、上記試験を満足する不燃性能を付与することが可能である。すなわち、上記の不燃性基材と貼り合わせた状態でのISO5660-1に準拠したコーンカロリーメータ試験機による発熱性試験において、前記施工令第108条の2第1号および第2号に記載の要件をともに満たす不燃材料を実現するように無機フィラーの配合量を調整することが好ましい。
【0022】
[分散剤]
分散剤としては、高分子系の界面活性剤、脂肪酸金属塩、シランカップリング剤、チタネートカップリング剤、シリコーン、ワックス、変性樹脂などが挙げられる。高分子系の界面活性剤としては、脂肪族多価ポリカルボン酸、ポリカルボン酸アルキルアミン、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ソルビタン脂肪酸エステルなどが挙げられる。脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸、ラウリン酸、12-ヒドロキシステアリン酸、モンタン酸、ベヘン酸、リシノール酸、ミリスチン酸などとリチウム、ナトリウム、カリウム、マグネシウム、カルシウム、バリウム、亜鉛、アルミニウムなどが結合したものが挙げられる。シランカップリング剤としては、3-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン、3-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、フェニルトリメトキシシラン、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシランなどが挙げられる。チタネートカップリング剤としては、テトラキス[2,2-ビス(アリルオキシメチル)ブトキシ]チタン(IV)、ジ-i-プロポキシチタンジオソステアレート、(2-nーブトキシカルボニルベンゾイルオキシ)トリブトキシチタン、トリイソステアリン酸イソプロピルチタン、ジ-n-ブトキシ・ビス(トリエタノールアミナト)チタン、テトラキス(2-エチルヘキシルオキシ)チタン、ジ-i-プロポキシ・ビス(アセチルアセトナト)チタンなどが挙げられる。シリコーンとしては、ジメチルシリコーンオイル、メチルフェニルシリコーンオイル、メチルハイドロジェンシリコーンオイル、環状ジメチルシリコーンオイル、アラルキル変性シリコーンオイル、長鎖アルキル変性シリコーンオイル、高級脂肪酸変性シリコーンオイルなどのオレフィンを重合または、ポリオレフィンを熱分解したもので、それをさらに酸化またはマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸などによって変性したものが挙げられる。変性樹脂としては、ポリオレフィンをマレイン酸、スルホン酸、カルボン酸、ロジン酸などによって変性したものが挙げられる。
【0023】
[無機フィラー]
3層の少なくとも一層に配合する無機フィラーは、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で配合されている。上記ベシクルは、例えば、リン脂質の外膜からなるリポソームである。そのベシクル化する無機フィラーは、自己消火性を有する水酸化アルミニウム、及び、水酸化マグネシウムの少なくとも一つからなることが好ましい。
特に、工業製品への適用を想定した場合に、入手が容易であり、製造手法による粒径のコントロールや表面処理によるポリオレフィン系樹脂との相溶性の制御も容易であり、また、材料コストとしても安価であるため水酸化アルミニウムが好適である。
また、各層に配合する無機フィラーは、平均一次粒子径が0.3μm以上20μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分未満であることが好ましい。なお、平均一次粒子径はレーザー回折・散乱式の粒子径分布測定装置を用いて測定すると共に、粒子径は走査電子顕微鏡(SEM)を用いて100個の粒子を任意に測定し確認した。
【0024】
上記無機フィラーの平均一次粒子径が0.3μm未満であると、例えば押出製膜時の樹脂膜が脆性化し、出来上がりの基材に欠陥が生じることがあり、好ましくない。また、上記無機フィラーの平均一次粒子径が20μmを超えると、化粧シート基材10表面の凹凸が激しくなり、化粧シート基材10上への印刷適性が悪化するため、好ましくない。上記無機フィラーのうち、粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分以上の無機フィラー粒子は、化粧シート基材10表面より表出することがあり、化粧シート基材10のハンドリング時に粒子の脱落が生じ、化粧シート基材10の表面上に欠陥が発生することがあるため、好ましくない。
【0025】
各層に配合する無機フィラーの配合量は、相対的に、基材中間層10Bよりも基材表層10A、10C側の方が少ないことが好ましい。このような構成とすることにより、基材の表面に無機フィラーが析出して平滑性が損なわれることを抑制することができる。その結果、原反層への絵柄印刷適性や他層の積層などの製造適性を良好なものとすることができる。特に、無機フィラーをベシクル化しておくことで、表面に無機フィラーが析出して平滑性が損なわれることをより抑制可能となると共に、ベシクル化により無機フィラーの分散性が向上するため無機フィラーの添加量を増加させることができる。
【0026】
例えば、基材中間層10Bには、ポリオレフィン系樹脂100質量部に対して無機フィラーを20質量部以上400質量部以下の範囲で配合(添加)する。一方、基材表層10A、10Cにはポリオレフィン系樹脂100質量部に対して、無機フィラーが50質量部以下の範囲で配合(添加)する。なお、基材表層10A、10Cには、分散剤及び無機フィラーを配合(添加)しなくてもよい。
なお、上述の無機フィラーベシクルの他に、必要に応じて水酸化カルシウム、炭酸カルシウム、三酸化アンチモン、アンチモンソーダ、ケイ酸ジルコン、酸化ジルコンなどのジルコニウム化合物、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、塩基性炭酸マグネシウム、硼砂、硼酸亜鉛、三酸化モリブデン、あるいはジモリブデン酸アンチモンと水酸化アルミニウムの錯体など、三酸化アンチモンとシリカの錯体、三酸化アンチモンと亜鉛華の錯体、ジルコニウムの珪酸塩、ジルコニウム化合物と三酸化アンチモンの錯体などの各種無機フィラーや、酸化チタン、酸化鉄などの各種合成無機顔料、天然無機顔料の中から適宜選択して添加することができる。
【0027】
[ベシクル化について]
本実施形態の化粧シート基材10の熱可塑性樹脂組成物を調製する際においては、超臨界逆相蒸発法などのベシクル化手法により得られる、ベシクル内に内包された無機フィラーを用いることが特に重要である。ベシクルとは、球殻状に閉じた膜構造を有する小胞であり、内部に液相を含む。特に、外膜がリン脂質のような生体脂質から構成されるベシクルをリポソームと称する。このような、ベシクル内に内包された状態の無機フィラーは、当該ベシクル、分散剤およびポリオレフィン系樹脂を混練した際に、これらの混合物中において凝集することなく均一に分散するため、無機フィラーの粒子間にも当該ベシクルの外膜が侵入して、無機フィラーが凝集するのを防止して、ポリオレフィン系樹脂中に無機フィラーを均一に分散させることを可能とする。
【0028】
ここで、超臨界逆相蒸発法は、本発明者等が提案している再表02/032564号公報、特開2003-119120号公報、特開2005-298407号公報および特開2008-063274号公報(以下、「超臨界逆相蒸発法公報類」と称する)に開示されている超臨界逆相蒸発法および装置を用いて行うことができる。
具体的に説明すると、超臨界逆相蒸発法とは、超臨界状態または臨界点以上の温度もしくは圧力条件下の二酸化炭素にベシクルの膜を形成するための例えば、リン脂質を均一に溶解させた混合物中に、水溶性または親水性の封入物質としての分散剤を含む水相を加えて、一層のリン脂質からなる膜で封入物質としての分散剤を内包するリポソームを得る方法である。なお、超臨界状態の二酸化炭素とは、臨界温度(30.98℃)および臨界圧力(7.3773±0.0030MPa)以上の超臨界状態にある二酸化炭素を意味し、臨界点以上の温度もしくは圧力条件下の二酸化炭素とは、臨界温度だけ、あるいは臨界圧力だけが臨界条件を超えた条件下の二酸化炭素を意味するものである。この方法により、直径50~800nmの単層ラメラベシクルを得ることができる。
【0029】
リポソームの膜を形成するリン脂質としては、ホスファチジルコリン、ホスファチジルエタノールアミン、ホスファチジルセリン、ホスファチジン酸、ホスファチジルグリセロール、ホスファチジルイノシトール、カルジオピン、黄卵レシチン、水添黄卵レシチン、大豆レシチン、水添大豆レシチン等のグリセロリン脂質、スフィンゴミエリン、セラミドホスホリルエタノールアミン、セラミドホスホリルグリセロール等のスフィンゴリン脂質などが挙げられる。
【0030】
ベシクルの膜を形成するその他の物質としては、ノニオン系界面活性剤や、これとコレステロール類もしくはトリアシルグリセロールの混合物などが挙げられる。このうちノニオン系界面活性剤としては、ポリグリセリンエーテル、ジアルキルグリセリン、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンコポリマー、ポリブタジエン-ポリオキシエチレン共重合体、ポリブタジエン-ポリ2-ビニルピリジン、ポリスチレン-ポリアクリル酸共重合体、ポリエチレンオキシド-ポリエチルエチレン共重合体、ポリオキシエチレン-ポリカプロラクタム共重合体等の1種または2種以上を使用することができる。コレステロール類としては、コレステロール、α-コレスタノール、β-コレスタノール、コレスタン、デスモステロール(5,24-コレスタジエン-3β-オール)、コール酸ナトリウムまたはコレカルシフェロール等を使用することができる。上記の物質から適宜選択して用いることにより、例えば、水溶性ではない内包物を水溶性の分散剤で包んだベシクルとすることにより、水溶性の溶媒などに水溶性ではない内包物を均一に分散させることができる。
特に、本実施形態の化粧シート基材10においては、ベシクルの外膜がリン脂質からなるリポソームとされていることが好ましい。
【0031】
ベシクル化の方法は、上記の超臨界逆相蒸発法に限定されない。ベシクル化は、例えばBangham法、エクストルージョン法、水和法、界面活性剤透析法、逆相蒸発法、凍結融解法によっても行うことが可能である。そのベシクルの形態は、対象物(分散剤及び無機フィラー)がベシクルで内包されたカプセル状の形態となっている。但し、配合する樹脂中において、ベシクルを構成する膜が破れて無機フィラーが樹脂と接触している場合もある。また、本実施形態において、熱可塑性樹脂層を形成するポリオレフィン系樹脂中の無機フィラーは、当該無機フィラーの一部を露出させた状態で、ベシクルに内包されていてもよい。このようなベシクル化処理について簡単に説明すると、Bangham法は、フラスコなどの容器にクロロホルムまたはクロロホルム/メタノール混合溶媒を入れ、さらにリン脂質を入れて溶解する。その後、エバポレータを用いて溶媒を除去して脂質からなる薄膜を形成し、分散剤および無機フィラーの分散液を加えた後、ボルテックスミキサーで水和・分散させることよりベシクルを得る方法である。エクストルージョン法は、薄膜のリン脂質溶液を調液し、Bangham法において外部摂動として用いたミキサーに代わってフィルターを通過させることによりベシクルを得る方法である。水和法は、Bangham法とほぼ同じ調製方法であるが、ミキサーを用いずに、穏やかに攪拌して分散させてベシクルを得る方法である。逆相蒸発法は、リン脂質をジエチルエーテルやクロロホルムに溶解し、無機フィラーを含んだ溶液を加えてW/Oエマルジョンを作り、当該エマルジョンから減圧下において有機溶媒を除去した後、水を添加することによりベシクルを得る方法である。凍結融解法は、外部摂動として冷却・加熱を用いる方法であり、この冷却・加熱を繰り返すことによってベシクルを得る方法である。
【0032】
ここで、上記の説明では、化粧シート基材10が3層から構成される場合を説明しているが、1層若しくは2層でもよいし、4層以上から構成してもよい。4層以上から構成される場合には、基材中間層10Bが2層以上となるが、少なくとも1層の基材中間層10Bの無機フィラー配合量が、基材表層10A、10Cよりも多いことが好ましい。
なお、化粧シート基材10が1層で構成されている場合には、熱可塑性樹脂層を構成するポリオレフィン系樹脂100質量部に対して無機フィラーが20質量部以上400質量部以下の範囲内で配合(添加)されていればよい。上記数値の範囲内であれば、上述した本願発明の効果を奏する。
【0033】
上述のように、本実施形態の化粧シート基材10の特徴(発明特定事項)の一つは、「熱可塑性樹脂層は、無機フィラーを、外膜で包含されてベシクル化した無機フィラーベシクルの状態で含有する」ことにある。そして、無機フィラーをベシクルに内包させた状態で樹脂組成物であるポリオレフィン系樹脂に添加することで、樹脂材料中、すなわち熱可塑性樹脂層中への無機フィラーの分散性を飛躍的に向上するという効果を奏するが、その特徴を、完成された化粧シート基材の状態における物の構造や特性にて直接特定することは、状況により困難な場合も想定され、非実際的であるといえる。その理由は次の通りである。ベシクルの状態で添加された無機フィラーは、高い分散性を有して分散された状態になっていて、作製した化粧シート基材の状態においても、無機フィラーは熱可塑性樹脂層に高分散されている。しかしながら、熱可塑性樹脂層を構成する樹脂組成物であるポリオレフィン系樹脂に無機フィラーをベシクルの状態で添加して熱可塑性樹脂層を作製した後の、化粧シート基材の作製工程においては、通常、積層体への圧縮処理や硬化処理などの種々の処理が施されるが、このような処理によって、無機フィラーを内包するベシクルの外膜が破砕や化学反応して、無機フィラーが外膜で包含(包皮)されていない可能性も高く、その外膜が破砕や化学反応している状態が化粧シート基材の処理工程によってばらつくためである。そして、この無機フィラーが外膜で包含されていないなどの状況は、物性自体を数値範囲で特定することが困難であり、また破砕された外膜の構成材料が、ベシクルの外膜なのか無機フィラーとは別に添加された材料なのか判定が困難な場合も想定される。このように、本願発明は、従来に比して無機フィラーが高分散で配合されている点で相違があるものの、無機フィラーを内包するベシクルの状態で添加されたためなのかどうかが、化粧シート基材の状態において、その構造や特性を測定に基づき解析した数値範囲で特定することが非実際的である場合も想定される。
【0034】
<本実施形態の効果>
本実施形態においては、分散剤とベシクルに内包された無機フィラー(無機フィラーベシクル)とを樹脂材料に配合することで、ポリオレフィン系樹脂に対して無機フィラーを高充填した熱可塑性樹脂組成物を達成でき、さらに無機フィラーが自己消火性を有するため不燃材料の技術的基準を満たす。
また、化粧シート基材10を少なくとも3層の樹脂層とし、特に化粧シート基材10表面に露出しない基材中間層10Bのうちの少なくとも1層を、基材表層10A、10Cに比べて無機フィラーを高充填することにより、得られるシート基材の表面近傍に存在する無機フィラーの量を低減することによって、得られる化粧シート基材10の表面の凹凸を抑制し、当該フィルムの表面に絵柄印刷などの印刷層11を施す際にインキの印刷適性および、フィルムとしての機械的強度や耐後加工性に優れると同時に、廃棄時の二酸化炭素排出量を低減可能となる。
【0035】
本実施形態の化粧シート基材10の少なくとも一層は、ポリオレフィン系樹脂に、ベシクルに内包された無機フィラーが添加されている。
この構成によれば、ベシクルに内包された無機フィラーを添加することにより、無機フィラーのポリオレフィン系樹脂への分散性を著しく向上させる事が可能となる。すなわちフィラーが二次凝集する事なくポリオレフィン系樹脂に分散するため、フィラーの表面積が増大し配合量に対して効率的に不燃性を得る事が可能となる。つまり、少ない配合量でフィラーを満たす事が出来るため、フィラー配合による物性低下を抑える事が可能となる。
【0036】
その際の無機フィラーとしては、水酸化アルミニウム、または水酸化マグネシウム等が挙げられる。なかでも、水酸化アルミニウムは、製造手法による粒径の制御や表面処理によるポリオレフィン系樹脂との相溶性の制御が容易であり、また、材料コストとしても安価であるため化粧シート基材10の低価格化の観点からも好適である。さらに、燃焼カロリーを低下させる効果があるため、特に好ましい。
また、化粧シート基材10表面に露出しない基材中間層10Bの内の少なくとも1層には、化粧シート基材10両面に露出する基材表層10A、10Cの内の1層に比べて、フィラーが高充填されている事が好ましい。この場合、化粧シート基材10表面に露出しない基材中間層10Bのうちの少なくとも1層にはフィラーが高充填されているが、化粧シート基材10両面に露出する層のうちの1層にはフィラーを比較的低濃度で添加しているため、化粧シート基材10表層へのフィラーの析出を抑制すると共に、化粧シート基材10表層を平滑化できる。
【0037】
また、本実施形態の化粧シート基材10は、無機フィラーの平均一次粒子径が0.3μm以上、5μm以下であり、かつその粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分以上の粒子を含有しないことが好ましい。上記無機フィラーの平均一次粒子径が0.3μm未満であると、例えば押出製膜時の樹脂膜が脆性化し、出来上がりの基材に欠陥が生じることがあり、好ましくない。また、上記無機フィラーの平均一次粒子径が20μmを超えると、化粧シート基材10表面の凹凸が激しくなり、化粧シート基材10上への印刷適性が悪化するため、好ましくない。上記無機フィラーのうち、粒子径が化粧シート基材の膜厚の半分以上の無機フィラー粒子は、化粧シート基材10表面より表出することがあり、化粧シート基材10のハンドリング時に粒子の脱落が生じ、化粧シート基材10の表面上に欠陥が発生することがある。その結果、印刷適性が低下し、商品価値の低下につながるため好ましくない。
【0038】
また、本実施形態の化粧シート基材10は、一軸延伸加工または二軸延伸加工されていることが好ましい。熱可塑性樹脂組成物からなる化粧シート基材10は、ポリオレフィン系樹脂に、ベシクルに内包された無機フィラーが添加されている熱可塑性樹脂組成物を用いることにより、無機フィラーを高充填した場合においても化粧シート基材10としての機械的強度を保持している。更に、そのような化粧シート基材10に一軸延伸加工または二軸延伸加工を施すと、熱可塑性樹脂組成物の結晶性を高めることが出来る結果、さらに化粧シート基材10としての機械的強度を向上させることができる。
【実施例】
【0039】
60℃に保たれた高圧ステンレス容器にメタノール100質量部と、水酸化アルミニウム70質量部と、リン脂質としてのホスファチジルコリン5質量部とを入れて密閉し、容器内の圧力が20MPaになるように二酸化炭素を注入して超臨界状態とし、激しく攪拌混合しながらイオン交換水を100質量部注入し、温度と圧力とを保ちながら15分間攪拌混合後、二酸化炭素を排出して大気圧に戻すことでリン脂質からなる単層膜の外膜を具備する水酸化アルミニウム入りリポソームを得た。
次に、本発明に基づく化粧シート基材10の実施例について説明する。なお、以下、「wt%」は「質量%」を意味する。
【0040】
<実施例1-1>
実施例1-1の化粧シート基材10となる熱可塑性樹脂組成物の組成は次の通りである。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 50wt%
・ポリプロピレン樹脂 50wt%
上記のように配合した熱可塑性樹脂組成物を50μm厚の樹脂層として、実施例1-1の化粧シート基材10とした。つまり、ポリプロピレン樹脂に、ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子を上記比率で添加して形成した、厚さ50μmの樹脂層を実施例1-1の化粧シート基材10とした。実施例1-1は単層である。
【0041】
<実施例1-2>
実施例1-1のベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子に換えて、平均一次粒子径5.0μmの水酸化アルミニウム粒子を用いた以外は実施例1-1と同様の方法で化粧シート基材10を得た。
<実施例1-3>
実施例1-1のベシクルに内包された水酸化アルミニウム粒子に換えて、ベシクルに内包された水酸化マグネシウム粒子を用いた以外は実施例1-1と同様の方法で化粧シート基材10を得た。
<実施例1-4>
実施例1-2のベシクルに内包された水酸化アルミニウム粒子に換えて、ベシクルに内包された水酸化マグネシウム粒子を用いた以外は実施例1-2と同様の方法で化粧シート基材10を得た。
【0042】
<実施例2-1>
実施例2-1の化粧シート基材10となる熱可塑性樹脂組成物の組成は次の通りである。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 70wt%
・ポリプロピレン樹脂 30wt%
上記のように配合した熱可塑性樹脂組成物を50μm厚の樹脂層として、実施例2-1の化粧シート基材10とした。つまり、ポリプロピレン樹脂に、ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子を上記比率で添加して形成した、厚さ50μmの樹脂層を実施例2-1の化粧シート基材10とした。実施例2-1は単層である。
【0043】
<実施例2-2>
実施例2-2の化粧シート基材10となる熱可塑性樹脂組成物の組成は次の通りである。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 20wt%
・ポリプロピレン樹脂 80wt%
上記のように配合した熱可塑性樹脂組成物を50μm厚の樹脂層として、実施例2-2の化粧シート基材10とした。つまり、ポリプロピレン樹脂に、ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子を上記比率で添加して形成した、厚さ50μmの樹脂層を実施例2-2の化粧シート基材10とした。実施例2-2は単層である。
【0044】
<実施例3-1>
化粧シート基材10を3層から構成した。
基材中間層10Bは、下記の熱可塑性樹脂組成物から作製した。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 50wt%
・ポリプロピレン樹脂 50wt%
そして、膜厚が30μmのフィルムからなる基材中間層10Bを作製した。
上下の基材表層10A、10Cは、下記の熱可塑性樹脂組成物から作製した。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 20wt%
・ポリプロピレン樹脂 80wt%
そして、それぞれ10μm厚の樹脂層からなる基材表層10A、10Cを形成し、3層を積層して実施例3-1の化粧シート基材10を得た。
<実施例3-2>
実施例3-1のベシクルに内包された水酸化アルミニウム粒子に換えて、ベシクルに内包された水酸化マグネシウム粒子を用いた以外は実施例3-1と同様の方法で化粧シート基材10を得た。
【0045】
<実施例4-1>
実施例4-1の化粧シート基材10となる熱可塑性樹脂組成物の組成は次の通りである。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 45wt%
・ベシクルに内包された平均一次粒子径20.0μmの水酸化アルミニウム粒子 5wt%
・ポリプロピレン樹脂 50wt%
上記のように配合した熱可塑性樹脂組成物を50μm厚の樹脂層として、実施例4-1の化粧シート基材10とした。つまり、ポリプロピレン樹脂に、ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子と、ベシクルに内包された平均一次粒子径20.0μmの水酸化アルミニウム粒子とを上記比率で添加して形成した、厚さ50μmの樹脂層を実施例4-1の化粧シート基材10とした。実施例4-1は単層である。
<実施例4-2>
実施例4-1のベシクルに内包された水酸化アルミニウム粒子に換えて、ベシクルに内包された水酸化マグネシウム粒子を用いた以外は実施例4-1と同様の方法で化粧シート基材10を得た。
【0046】
<実施例5>
化粧シート基材10を3層から構成した。
基材中間層10Bは、下記の熱可塑性樹脂組成物から作製した。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 50wt%
・ポリプロピレン樹脂 50wt%
そして、膜厚が30μmのフィルムからなる基材中間層10Bを作製した。
上面の基材表層10Aは、下記の熱可塑性樹脂組成物から作製した。
・ポリプロピレン樹脂 100wt%
下面の基材表層10Cは、下記の熱可塑性樹脂組成物から作製した。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 20wt%
・ポリプロピレン樹脂 80wt%
そして、それぞれ10μm厚の樹脂層からなる基材表層10A、10Cを形成し、3層を積層して実施例5の化粧シート基材10を得た。
【0047】
<比較例1>
ベシクル化していない平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子を使用した以外は、実施例1-1と同様にして比較例1の化粧シート基材10を作製した。
<比較例2>
ベシクル化していない平均一次粒子径2.0μmの水酸化マグネシウム粒子を使用した以外は、実施例1-3と同様にして比較例2の化粧シート基材10を作製した。
<比較例3>
ベシクル化していない平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子を使用した以外は、実施例3-1と同様にして比較例3の化粧シート基材10を作製した。
<比較例4>
無機フィラーを配合しないこと以外は、実施例2-1と同様にして比較例4の化粧シート基材10を作製した。
【0048】
<比較例5>
比較例5の化粧シート基材10となる熱可塑性樹脂組成物の組成は次の通りである。
・ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子 45wt%
・ベシクルに内包された平均一次粒子径30.0μmの水酸化アルミニウム粒子 5wt%
・ポリプロピレン樹脂 50wt%
上記のように配合した熱可塑性樹脂組成物を50μm厚の樹脂層として、比較例5の化粧シート基材10とした。つまり、ポリプロピレン樹脂に、ベシクルに内包された平均一次粒子径2.0μmの水酸化アルミニウム粒子と、ベシクルに内包された平均一次粒子径30.0μmの水酸化アルミニウム粒子とを上記比率で添加して形成した、厚さ50μmの樹脂層を比較例5の化粧シート基材10とした。比較例5は単層である。
【0049】
<評価>
上記実施例および上記比較例で得られた各々の化粧シート基材10について、コーンカロリーメータ試験機による発熱性試験、および印刷適性試験を実施した結果を表1に示す。
ここで、印刷適性試験は、絵柄印刷を施した際の表面のヨレなどを目視により行った。また、表2における記号の説明は下記の通りである。
<表1の記号の説明>
○:極めて良好に印刷が行えた
×:化粧シート1として印刷を良好に行うことができなかった
【0050】
【0051】
発熱性試験の結果については、表1に示すように、無機フィラーを配合した実施例および比較例1から3および5における化粧シート1は、建築基準法施工例に規定の不燃材料の技術的基準を満たしている「不燃材料」であった。無機フィラーを配合していない比較例4の化粧シート1については、技術的基準の要件を満たしていなかった。
印刷適性の結果においては、ベシクル化した無機フィラーを配合し、かつ、所定の範囲内にある平均一次粒子径であり、化粧シート基材の膜厚に対して半分未満の粒子径からなる無機フィラーを配合した化粧シート基材10を形成した各実施例の化粧シート基材10については、極めて良好な印刷適性が認められた。一方で、ベシクル化していない無機フィラーを配合した化粧シート基材10を形成した比較例1から3の化粧シート基材10については、印刷適性が無かった。これは、実施例の化粧シート基材10は、ベシクル化することで水酸化アルミニウムや水酸化マグネシウム粒子が樹脂中に分散し、化粧シート基材10の表面に突出する粒子の数が少ないため、絵柄印刷が施される化粧シート基材10の表面の平坦性を維持することで、優れた印刷適性が得られたと考えられる。一方で、ベシクル化しなかった場合は、化粧シート基材中で粒子が凝集し、表面に突出粒子が多くなったため、印刷適性が低下した。また、比較例5に関しては、化粧シート基材の膜厚の半分を超える粒子を添加したため、ベシクル化した場合でも、突出粒子が多くなったため、印刷適性が低下した。
【符号の説明】
【0052】
1 化粧シート
10 化粧シート基材
10A,C 基材表層
10B 基材中間層
11 印刷層
12 接着樹脂層
13 透明樹脂層
14 表面保護層