(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】インク及び画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/38 20140101AFI20220412BHJP
C07F 1/08 20060101ALI20220412BHJP
C09B 57/00 20060101ALI20220412BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220412BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C09D11/38
C07F1/08 B
C09B57/00 Z
B41M5/00 120
B41J2/01 501
(21)【出願番号】P 2018002572
(22)【出願日】2018-01-11
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】大野 陽平
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-031425(JP,A)
【文献】特開2007-204623(JP,A)
【文献】特開2017-171789(JP,A)
【文献】特開平09-039423(JP,A)
【文献】特開2003-026979(JP,A)
【文献】特開2016-188346(JP,A)
【文献】特開2007-009106(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/02,11/38
B41M 5/00
B41J 2/01
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物
と、下記一般式(2)で表される構造を有する色素化合物を含有することを特徴とするインク。
【化1】
[式中、Mは、2価の金属イオンを表す。R
1及びR
2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基又はシアノ基を表す。R
1及びR
2のうち、いずれか一方が電子吸引性の基である。R
3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。]
【化2】
[式中、R
21
は、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表す。R
22
は、それぞれ置換されてもよい芳香族炭素環基又は芳香族複素環基を表す。Xは、メチン基又は窒素原子を表す。R
23
は、下記一般式(5)又は(6)で表される置換基を表す。]
【化3】
[式中、X′は、炭素原子又は窒素原子を表す。Yは、含窒素芳香族複素環を形成する原子群を表す。Wは、芳香族炭素環又は芳香族複素環を形成する原子群を表す。R
24
は、アルキル基を表す。]
【請求項2】
前記一般式(1)におけるR
1及びR
2が表す基は、R
1及びR
2のσ
p値の合計が0.2~2.0の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のインク。
【請求項3】
前記一般式(1)における配位子1分子のlogP値が、3~8の範囲内であることを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のインク。
【請求項4】
前記一般式(1)におけるMが、Cu
2+であることを特徴とする請求項1から請求項3までのいずれか一項に記載のインク。
【請求項5】
前記金属含有化合物とキレート可能な色素化合物を含有することを特徴とする請求項1から請求項4までのいずれか一項に記載のインク。
【請求項6】
前記一般式(1)におけるR
3の炭素数の合計が、20以上であることを特徴とする請求項1から請求項
5までのいずれか一項に記載のインク。
【請求項7】
ゲル化剤、光重合性化合物及び光重合開始剤を含有することを特徴とする請求項1から請求項
6までのいずれか一項に記載のインク。
【請求項8】
請求項1から請求項
7までのいずれか一項に記載のインクを用いることを特徴とする画像形成方法。
【請求項9】
インクジェット法を用いることを特徴とする請求項
8に記載の画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インク及び画像形成方法に関し、特に、保存安定性に優れたインク等に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット法は簡便かつ安価に画像を作製できるため、写真、各種印刷、マーキング、カラーフィルター等の特殊印刷を含む様々な印刷分野に応用されてきている。特に、インクジェット法は、版を用いずデジタル印刷が可能であるため、多様な画像を少量ずつ形成するような用途に特に好適である。
【0003】
近年、インクジェット法により形成されたインクジェット印刷物において、高付加価値画像の需要が高まっており、彩度が高く色再現領域の広いインクの検討が行われている。
例えば、特許文献1では、活性光線硬化型のインクに関し、光重合性モノマーが、インク中においてエマルジョン状態で存在することで、カラー画像の色再現性及び彩度に優れたインクを開示している。
しかしながら、特許文献1に記載のインクは、光重合性モノマーがエマルジョン状態で存在することから比表面積が高くなり凝集性が高いため、インク中での分散性が低下し、保存安定性が必ずしも良くないという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記問題・状況に鑑みてなされたものであり、その解決課題は、保存安定性に優れたインク、当該インクを用いた画像形成方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記課題を解決すべく、上記問題の原因等について検討する過程において、特定の金属含有化合物を含有することによって、保存安定性に優れたインク、当該インクを用いた画像形成方法を提供することができることを見いだし本発明に至った。
すなわち、本発明に係る上記課題は、以下の手段により解決される。
1.下記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物
と、下記一般式(2)で表される構造を有する色素化合物を含有することを特徴とするインク。
【化1】
[式中、Mは、2価の金属イオンを表す。R
1及びR
2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基又はシアノ基を表す。R
1及びR
2のうち、いずれか一方が電子吸引性の基である。R
3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。]
【化2】
[式中、R
21
は、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表す。R
22
は、それぞれ置換されてもよい芳香族炭素環基又は芳香族複素環基を表す。Xは、メチン基又は窒素原子を表す。R
23
は、下記一般式(5)又は(6)で表される置換基を表す。]
【化3】
[式中、X′は、炭素原子又は窒素原子を表す。Yは、含窒素芳香族複素環を形成する原子群を表す。Wは、芳香族炭素環又は芳香族複素環を形成する原子群を表す。R
24
は、アルキル基を表す。]
【0007】
2.前記一般式(1)におけるR1及びR2が表す基は、R1及びR2のσp値の合計が0.2~2.0の範囲内であることを特徴とする第1項に記載のインク。
【0008】
3.前記一般式(1)における配位子1分子のlogP値が、3~8の範囲内であることを特徴とする第1項又は第2項に記載のインク。
【0009】
4.前記一般式(1)におけるMが、Cu2+であることを特徴とする第1項から第3までのいずれか一項に記載のインク。
【0010】
5.前記金属含有化合物とキレート可能な色素化合物を含有することを特徴とする第1項から第4項までのいずれか一項に記載のインク。
【0012】
7.前記一般式(1)におけるR3の炭素数の合計が、20以上であることを特徴とする第1項から第6項までのいずれか一項に記載のインク。
【0013】
8.ゲル化剤、光重合性化合物及び光重合開始剤を含有することを特徴とする第1項から第7項までのいずれか一項に記載のインク。
【0014】
9.第1項から第8項までのいずれか一項に記載のインクを用いることを特徴とする画像形成方法。
【0015】
10.インクジェット法を用いることを特徴とする第9項に記載の画像形成方法。
【発明の効果】
【0016】
本発明の上記手段により、保存安定性に優れたインク、当該インクを用いた画像形成方法を提供することができる。
本発明の効果の発現機構又は作用機構については、明確にはなっていないが、以下のように推察している。
前記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物は、理由は定かではないが、インクに含有されると分散剤のような働きをするため、インクに含まれる未反応の金属含有化合物や色素化合物などの安定性が増し、保存安定性が向上する。
すなわち、例えば
図1に示すように、インク中に、前記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物M1とキレート可能な色素化合物P1を含有する場合、当該金属含有化合物M1は溶媒中で加熱することで前記色素化合物P1とキレート化し、金属キレート色素K1となり発色する。ここで、前記一般式(1)中のR
1又はR
2が電子吸引性基であるため、金属イオンMから電子を引き付けることで、前記金属含有化合物M1は求電子剤となる。そこに、非共有電子対を有する前記色素化合物P1が求核剤として働き、キレート化反応が進行する。
このように、前記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物と、前記色素化合物を含有することによって、未反応の色素化合物を低減することが可能となるので、熱、光に対する安定性が優れ、吸収スペクトルにおいて吸収がシャープで副吸収が少ない金属キレート色素となり、それを含有するインクは彩度が高くなる。彩度が高いと、Lab色座標空間において表現できる色再現領域が広くなる。
そして、上記のようにキレート化反応が進行することで、未反応の金属化合物や色素化合物が凝集することが抑制され、インク中での分散性が高まり、保存安定性も向上する。
これに対して、
図2に示すように、インク中に、前記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物M1のような電子吸引性基が無い場合には、未反応の金属含有化合物M2や色素化合物P2がインク中に多く存在し、それぞれが単独で凝集したり、未反応の金属含有化合物M2を介して金属キレート色素K2が凝集したりすることで、インク中での分散性が低下し、保存安定性が悪化する(例えば、
図2参照。)。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のインク中における金属含有化合物及び色素化合物等の状態を示す模式図
【
図2】従来のインク中における金属含有化合物及び色素化合物等の状態を示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明のインクは、上記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物を含有することを特徴とする。
この特徴は、下記各実施形態に共通又は対応する技術的特徴である。
【0019】
本発明の実施態様としては、前記一般式(1)におけるR1及びR2が表す基は、R1及びR2のσp値の合計が0.2~2.0の範囲内であることが、電子吸引性を示し、金属含有化合物が求電子剤として働き、インクの保存安定性をより高めることができる。
【0020】
また、前記一般式(1)における配位子1分子のlogP値が、3~8の範囲内であることが、疎水性と親水性のバランスが保たれるため、水に対する安定性や溶剤に対する溶解性に優れ、金属キレート色素のインク中での分散状態が安定する点で好ましい。
【0021】
また、前記一般式(1)におけるMが、Cu2+であることが、金属含有化合物の安定性が向上する点で好ましい。
【0022】
また、前記金属含有化合物とキレート可能な色素化合物を含有することが好ましい。これは、前記金属含有化合物は、溶媒中で加熱することで前記色素化合物とキレート化し、金属キレート色素となり発色する。そして、前記金属含有化合物が求電子剤として働くことにより、前記色素化合物が求核剤として働き、キレート化反応が促進され、そのため、未反応の色素化合物を低減することが可能となり、熱及び光に対する安定性に優れ、吸収スペクトルにおいて吸収がシャープで副吸収が少ない金属キレート色素となり、それを含有するインクは彩度が高くなる。彩度が高いと、Lab色座標空間において表現できる色再現領域が広くなる。
【0023】
また、前記一般式(2)で表される構造を有する色素化合物を含有することが、金属キレート色素の吸収スペクトルにおける吸収がよりシャープとなり、副吸収が少なくなり、彩度がより高くなる点で好ましい。
【0024】
また、前記一般式(1)におけるR3の炭素数の合計が、20以上であること、さらに、ゲル化剤、光重合性化合物及び光重合開始剤を含有することが好ましい。これにより、前記一般式(1)におけるR3の疎水性部分とゲル化剤とが疎水性相互作用で引き合うことで、ゲル化剤が画像表面に析出することを抑制できる。
【0025】
本発明の画像形成方法は、前記インクを用いることを特徴とする。これにより、彩度の高い画像を形成することができる。
特に、本発明の画像形成方法は、インクジェット法を用いることが、高画質・高解像度の点で好ましい。
【0026】
以下、本発明とその構成要素及び本発明を実施するための形態・態様について説明をする。なお、本願において、「~」は、その前後に記載される数値を下限値及び上限値として含む意味で使用する。
【0027】
[インク]
本発明のインクは、下記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物を含有することを特徴とする。
【0028】
【0029】
[式中、Mは、2価の金属イオンを表す。R1及びR2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基又はシアノ基を表す。R1及びR2のうち、いずれか一方が電子吸引性の基である。R3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。]
【0030】
前記一般式(1)において、前記Mは、2価の金属イオンを表し、2価の金属イオンとしては、Cu2+、Ni2+又はZn2+が挙げられ、安全性の点で好ましくはCu2+である。
【0031】
前記R1及びR2は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、複素環基、アルコキシカルボニル基、アリールオキシカルボニル基、スルファモイル基、スルフィニル基、アルキルスルホニル基、アリールスルホニル基又はシアノ基を表す。R1及びR2のうち、いずれか一方が電子吸引性の基である。
【0032】
本発明において、電子吸引性の基とは、ハメットの置換基定数σpが正の値を取り得る置換基のことであり、σpはハメットの置換基定数であり、芳香族化合物のメタ又はパラ置換体において、置換基を持たない化合物と置換基を持つ化合物の反応速度定数をそれぞれK0、及びKとしたときに成立する下記に示すハメット式
log(K/K0)=ρσp
におけるσpと定義される。なお、上記ハメット式では、安息香酸及びその誘導体の25℃の水溶液中における仮反応をρ=1としている。ハメットの置換基定数に関しては、Journal of Medicinal Chemistry,1973,Vol.16,No.11,1207~1216などを参考にできる。
【0033】
前記一般式(1)におけるR1及びR2が表す基は、R1及びR2のσp値の合計が0.2~2.0の範囲内であることが、保存安定性が高く、色再現領域が広い点で好ましい。
なお、各置換基のσp値を以下に示す。
【0034】
【0035】
前記R3は、水素原子、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基又は複素環基を表す。
特に、前記R3の炭素数の合計が、20以上であることが好ましい。R3の炭素数の合計が20以上であることにより、さらに、インクがゲル化剤、光重合性化合物及び光重合開始剤を含有することにより、前記一般式(1)におけるR3の疎水性部分とゲル化剤とが疎水性相互作用で引き合うことで、ゲル化剤が画像表面に析出することを抑制できる。
【0036】
前記一般式(1)における配位子1分子のlogP値が、3~8の範囲内であることが好ましい。上記範囲内にある場合、金属キレート色素の、熱、光、及び、特に水に対する安定性が優れ、吸収がシャープで副吸収が少なく、さらには、溶剤に対する溶解性が非常に良好な金属キレート色素を提供することが可能となる。水に対する安定性や溶剤に対する溶解性が優れているため、金属キレート色素のインク中での分散状態が安定する。よって、色材の凝集が発生せず、インクの保存安定性に優れる。
【0037】
本発明において、logP値とは、化合物の疎水性/親水性の尺度を表すパラメーターであり、数値が大きいほど疎水性であることを示し、逆に数値が小さいほど親水性であることを示す。logP値は広く知られた化合物のパラメーターであり、測定することができるし、また、計算によっても求めることができる。本願では、計算によって求めたlogP値、すなわちClogP値を表す。以下において、ClogP値を単にlogP値ともいう。
【0038】
前記一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物の例示化合物を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0039】
【0040】
【0041】
【0042】
【0043】
【0044】
また、本発明のインクには、前記金属含有化合物をインク全質量に対して2~20質量%の範囲内で含有することが、着色力の点で好ましい。
【0045】
<色素化合物>
本発明のインクは、前記金属含有化合物とキレート可能な色素化合物を含有することが好ましく、下記一般式(2)で表される構造を有する色素化合物を含有することがより好ましい。
【0046】
【化11】
[式中、R
21は、水素原子、ハロゲン原子又は置換基を表す。R
22は、それぞれ置換されてもよい芳香族炭素環基又は芳香族複素環基を表す。Xは、メチン基又は窒素原子を表す。R
23は、下記一般式(5)又は(6)で表される置換基を表す。]
【0047】
【化12】
[式中、X′は、炭素原子又は窒素原子を表す。Yは、含窒素芳香族複素環を形成する原子群を表す。Wは、芳香族炭素環又は芳香族複素環を形成する原子群を表す。R
24は、アルキル基を表す。]
【0048】
前記一般式(2)で表される構造を有する色素化合物の例示化合物を以下に示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0049】
【0050】
【0051】
【0052】
【0053】
【0054】
なお、前記一般式(2)で表される構造を有する色素化合物以外の、前記金属含有化合物とキレート可能な色素化合物としては、特開平3-114892号公報、同4-62092号公報、同4-62094号公報、同5-16545号公報、同5-177958号公報、同5-301470号公報に記載の色素等が挙げられる。
【0055】
本発明に係る色素化合物の平均分散粒子径は、着色力と分散安定性の観点から50~150nmの範囲内であることが好ましく、最大粒子径は300~1000nmの範囲内であることが好ましい。さらに好ましい平均分散粒子径は80~130nmの範囲内である。
本発明に係る色素化合物の平均分散粒子径とは、データサイザーナノZSP、Malvern社製を使用して動的光散乱法によって求めた値を意味する。なお、色材を含むインクは濃度が高く、この測定機器では光が透過しないので、インクを200倍で希釈してから測定する。測定温度は常温(25℃)とする。
【0056】
また、本発明のインクには、前記色素化合物をインク全質量に対して1~10質量%の範囲内で含有することが、着色力の点で好ましい。
【0057】
本発明のインクは、水性溶媒、油性溶媒、ゲル化剤(ワックス)等の種々の溶媒系を用いることができる。
【0058】
<水性インク>
本発明のインクに水性溶媒を用いた場合、水性インクに適用することができる。
水性溶媒は、水(例えば、イオン交換水が好ましい。)と、水溶性有機溶媒を一般に使用することができる。
【0059】
(水性有機溶媒)
水溶性有機溶媒の例としては、アルコール類(例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、t-ブタノール、ベンジルアルコール等)、多価アルコール類(例えば、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、ブチレングリコール、ヘキサンジオール、ペンタンジオール、グリセリン、ヘキサントリオール、チオジグリコール等)、多価アルコールエーテル類(例えば、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノフェニルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル等)、アミン類(例えば、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、N-メチルジエタノールアミン、N-エチルジエタノールアミン、モルホリン、N-エチルモルホリン、エチレンジアミン、ジエチレンジアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、ポリエチレンイミン、ペンタメチルジエチレントリアミン、テトラメチルプロピレンジアミン等)、アミド類(例えば、ホルムアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド等)、複素環類(例えば、2-ピロリドン、N-メチル-2-ピロリドン、シクロヘキシルピロリドン、2-オキサゾリドン、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン等)、スルホキシド類(例えば、ジメチルスルホキシド等)、スルホン類(例えば、スルホラン等)、尿素、アセトニトリル、アセトン等が挙げられる。
【0060】
上記のような水性溶媒は、本発明に係る前記金属含有化合物がその溶媒系に可溶であればそのまま溶解して用いることができる。
【0061】
一方、本発明に係る前記金属含有化合物がその溶媒系にそのままでは不溶である場合、色素を種々の分散機(例えば、ボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテーターミル、ヘンシェルミキサー、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、ジェットミル、オングミル等)を用いて微粒子化するか、又は可溶である有機溶媒に色素を溶解した後に、高分子分散剤や界面活性剤とともにその溶媒系に分散させることができる。さらにそのままでは不溶の液体又は半溶融状物である場合、そのままか又は可溶である有機溶媒に溶解して、高分子分散剤や界面活性剤とともにその溶媒系に分散させることができる。
【0062】
本発明に係る前記金属含有化合物がその溶媒系に不溶である場合には、微粒子化させてその溶媒系に分散させることが好ましく、平均粒子経が150nm以下の微粒子に分散されていることがさらに好ましい。
【0063】
前記平均粒子経とは体積平均粒子径であり、透過型電子顕微鏡(TEM)写真の投影面積(少なくとも100粒子以上に対して求める)の平均値から得られた円換算平均粒径を、球形換算して求められる。体積平均粒子径とその標準偏差を求め、標準偏差を体積平均粒子径で割ることで変動係数を求めることができる。又は、体積平均粒子径とその標準偏差は動的光散乱法を利用して求めることもできる。例えば、大塚電子製レーザー粒径解析システムや、マルバーン社製ゼータサイザーを用いて求めることができる。
【0064】
また、本発明に係る前記金属含有化合物が可溶である有機溶媒に色素化合物を溶解した後に、油溶性ポリマーとともに着色微粒子分散物として水性溶媒に分散させることが好ましい。
【0065】
このようなインク用に使用される水性溶媒の具体的調製法については、例えば、特開平5-148436号、同5-295312号、同7-97541号、同7-82515号、同7-118584号の各公報等に記載の方法を参照することができる。
【0066】
(油溶性ポリマー)
前記油溶性ポリマーとしては特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、ビニルポリマーが好適に挙げられる。前記ビニルポリマーとしては従来公知のものが挙げられ、水不溶性型、水分散(自己乳化)型、水溶性型のいずれのものであってもよいが、着色微粒子の製造容易性、分散安定性等の点で水分散型のものが好ましい。
【0067】
前記水分散型のビニルポリマーとしては、イオン解離型のもの、非イオン性分散性基含有型のもの、又はこれらの混合型のもののいずれであってもよい。
【0068】
前記イオン解離型のビニルポリマーとしては、三級アミノ基などのカチオン性の解離性基を含有するビニルポリマーや、カルボン酸、スルホン酸などのアニオン性の解離性基を含有するビニルポリマーが挙げられる。前記非イオン性分散性基含有型のビニルポリマーとしては、ポリエチレンオキシ鎖などの非イオン性分散性基を含有するビニルポリマーが挙げられる。これらの中でも、着色微粒子の分散安定性の点で、アニオン性の解離性基を含有するイオン解離型のビニルポリマー、非イオン性分散性基含有型のビニルポリマー、混合型のビニルポリマーが好ましい。
【0069】
前記ビニルポリマーを形成するモノマーとしては、例えば、以下のものが挙げられる。即ち、アクリル酸エステル類、具体的には、メチルアクリレート、エチルアクリレート、n-プロピルアクリレート、イソプロピルアクリレート、n-ブチルアクリレート、イソブチルアクリレート、sec-ブチルアクリレート、t-ブチルアクリレート、アミルアクリレート、ヘキシルアクリレート、2-エチルヘキシルアクリレート、オクチルアクリレート、tert-オクチルアクリレート、2-クロロエチルアクリレート、2-ブロモエチルアクリレート、4-クロロブチルアクリレート、シアノエチルアクリレート、2-アセトキシエチルアクリレート、ベンジルアクリレート、メトキシベンジルアクリレート、2-クロロシクロヘキシルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、フルフリルアクリレート、テトラヒドロフルフリルアクリレート、フェニルアクリレート、5-ヒドロキシペンチルアクリレート、2,2-ジメチル-3-ヒドロキシプロピルアクリレート、2-メトキシエチルアクリレート、3-メトキシブチルアクリレート、2-エトキシエチルアクリレート、2-ブトキシエチルアクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルアクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルアクリレート、グリシジルアクリレート、1-ブロモ-2-メトキシエチルアクリレート、1,1-ジクロロ-2-エトキシエチルアクリレート、2,2,2-テトラフルオロエチルアクリレート、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルアクリレート等が挙げられる。
【0070】
メタクリル酸エステル類、具体的には、メチルメタクリレート、エチルメタクリレート、n-プロピルメタクリレート、イソプロピルメタクリレート、n-ブチルメタクリレート、イソブチルメタクリレート、sec-ブチルメタクリレート、tert-ブチルメタクリレート、アミルメタクリレート、ヘキシルメタクリレート、シクロヘキシルメタクリレート、ベンジルメタクリレート、クロロベンジルメタクリレート、オクチルメタクリレート、ステアリルメタクリレート、2-(3-フェニルプロピルオキシ)エチルメタクリレート、フルフリルメタクリレート、テトラヒドロフルフリルメタクリレート、フェニルメタクリレート、クレジルメタクリレート、ナフチルメタクリレート、2-ヒドロキシエチルメタクリレート、4-ヒドロキシブチルメタクリレート、トリエチレングリコールモノメタクリレート、ジプロピレングリコールモノメタクリレート、2-メトキシエチルメタクリレート、3-メトキシブチルメタクリレート、2-エトキシエチルメタクリレート、2-iso-プロポキシエチルメタクリレート、2-ブトキシエチルメタクリレート、2-(2-メトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-(2-ブトキシエトキシ)エチルメタクリレート、2-アセトキシエチルメタクリレート、2-アセトアセトキシエチルメタクリレート、アリルメタクリレート、グリシジルメタクリレート、2,2,2-テトラフルオロエチルメタクリレート、1H,1H,2H,2H-パーフルオロデシルメタクリレートなどが挙げられる。
【0071】
ビニルエステル類、具体的には、ビニルアセテート、ビニルプロピオネート、ビニルブチレート、ビニルイソブチレート、ビニルカプロエート、ビニルクロロアセテート、ビニルメトキシアセテート、ビニルフェニルアセテート、安息香酸ビニル、サリチル酸ビニルなどが挙げられる。
【0072】
アクリルアミド類、具体的には、アクリルアミド、メチルアクリルアミド、エチルアクリルアミド、プロピルアクリルアミド、ブチルアクリルアミド、t-ブチルアクリルアミド、t-オクチルアクリルアミド、シクロヘキシルアクリルアミド、ベンジルアクリルアミド、ヒドロキシメチルアクリルアミド、メトキシメチルアクリルアミド、ブトキシメチルアクリルアミド、メトキシエチルアクリルアミド、フェニルアクリルアミド、ジメチルアクリルアミド、ジエチルアクリルアミド、β-シアノエチルアクリルアミド、N-(2-アセトアセトキシエチル)アクリルアミド、ジアセトンアクリルアミドなどが挙げられる。
【0073】
メタクリルアミド類、具体的には、メタクリルアミド、メチルメタクリルアミド、エチルメタクリルアミド、プロピルメタクリルアミド、ブチルメタクリルアミド、tert-ブチルメタクリルアミド、シクロヘキシルメタクリルアミド、ベンジルメタクリルアミド、ヒドロキシメチルメタクリルアミド、メトキシエチルメタクリルアミド、フェニルメタクリルアミド、ジメチルメタクリルアミド、β-シアノエチルメタクリルアミド、N-(2-アセトアセトキシエチル)メタクリルアミドなどが挙げられる。
【0074】
オレフィン類、具体的には、ジシクロペンタジエン、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、塩化ビニル、塩化ビニリデン、イソプレン、クロロプレン、ブタジエン、2,3-ジメチルブタジエン等、スチレン類、例えば、スチレン、メチルスチレン、ジメチルスチレン、トリメチルスチレン、エチルスチレン、イソプロピルスチレン、クロルメチルスチレン、メトキシスチレン、アセトキシスチレン、クロルスチレン、ジクロルスチレン、ブロムスチレン、ビニル安息香酸メチルエステルなどが挙げられる。
【0075】
ビニルエーテル類、具体的には、メチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、ヘキシルビニルエーテル、メトキシエチルビニルエーテルなどが挙げられる。
【0076】
その他のモノマーとして、クロトン酸ブチル、クロトン酸ヘキシル、イタコン酸ジメチル、イタコン酸ジブチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジメチル、マレイン酸ジブチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジメチル、フマル酸ジブチル、メチルビニルケトン、フェニルビニルケトン、メトキシエチルビニルケトン、N-ビニルオキサゾリドン、N-ビニルピロリドン、ビニリデンクロライド、メチレンマロンニトリル、ビニリデン、ジフェニル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジフェニル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェート、ジブチル-2-アクリロイルオキシエチルホスフェート、ジオクチル-2-メタクリロイルオキシエチルホスフェートなどが挙げられる。
【0077】
また、解離性基を有するモノマーとしては、アニオン性の解離性基を有するモノマー、カチオン性の解離性基を有するモノマーが挙げられる。
【0078】
前記アニオン性の解離性基を有するモノマーとしては、例えば、カルボン酸モノマー、スルホン酸モノマー、リン酸モノマー等が挙げられる。
【0079】
前記カルボン酸モノマーとしては、例えば、アクリル酸、メタクリル酸、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、シトラコン酸、クロトン酸、イタコン酸モノアルキルエステル(例えば、イタコン酸モノメチル、イタコン酸モノエチル、イタコン酸モノブチルなど)、マレイン酸モノアルキルエステル(例えば、マレイン酸モノメチル、マレイン酸モノエチル、マレイン酸モノブチルなど)などが挙げられる。
【0080】
前記スルホン酸モノマーとしては、例えば、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリロイルオキシアルキルスルホン酸(例えば、アクリロイルオキシメチルスルホン酸、アクリロイルオキシエチルスルホン酸、アクリロイルオキシプロピルスルホン酸など)、メタクリロイルオキシアルキルスルホン酸(例えば、メタクリロイルオキシメチルスルホン酸、メタクリロイルオキシエチルスルホン酸、メタクリロイルオキシプロピルスルホン酸など)、アクリルアミドアルキルスルホン酸(例えば、2-アクリルアミド-2-メチルエタンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルブタンスルホン酸など)、メタクリルアミドアルキルスルホン酸(例えば、2-メタクルリアミド-2-メチルエタンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-メタクリルアミド-2-メチルブタンスルホン酸など)などが挙げられる。
【0081】
前記リン酸モノマーとしては、例えば、ビニルホスホン酸、メタクリロイルオキシエチルホスホン酸などが挙げられる。
【0082】
これらの中でも、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸、アクリルアミドアルキルスルホン酸、メタクリルアミドアルキルスルホン酸が好ましく、アクリル酸、メタクリル酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルブタンスルホン酸がより好ましい。
【0083】
前記カチオン性の解離性基を有するモノマーとしては、例えば、ジアルキルアミノエチルメタクリレート、ジアルキルアミノエチルアタクリレートなどの3級アミノ基を有するモノマーが挙げられる。
【0084】
また、非イオン性分散性基を含有するモノマーとしては、例えば、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとカルボン酸モノマーとのエステル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとスルホン酸モノマーとのエステル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとリン酸モノマーとのエステル、ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルとイソシアネート基含有モノマーから形成されるビニル基含有ウレタン、ポリビニルアルコール構造を含有するマクロモノマーなどが挙げられる。
【0085】
前記ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルのエチレンオキシ部の繰り返し数としては、8~50が好ましく、10~30がより好ましい。前記ポリエチレングリコールモノアルキルエーテルのアルキル基の炭素原子数としては、1~20が好ましく、1~12がより好ましい。
【0086】
これらのモノマーは1種単独で使用されてビニルポリマーが形成されていてもよいし、2種以上が併用されてビニルポリマーが形成されていてもよく、前記ビニルポリマーの目的(Tg調節、溶解性改良、分散物安定性等)に応じて適宜選択することができる。
【0087】
<油性インク>
本発明のインクに油性溶媒を用いた場合、油性インクに適用することができる。
【0088】
油性溶媒の例としては、アルコール類(例えば、ペンタノール、ヘプタノール、オクタノール、フェニルエチルアルコール、フェニルプロピルアルコール、フルフリルアルコール、アニスアルコール等)、エステル類(例えば、エチレングリコールジアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ベンジル、酢酸フェニルエチル、酢酸フェノキシエチル、フェニル酢酸エチル、プロピオン酸ベンジル、安息香酸エチル、安息香酸ブチル、ラウリン酸ブチル、ミリスチン酸イソプロピル、リン酸トリエチル、リン酸トリブチル、フタル酸ジエチル、フタル酸ジブチル、マロン酸ジエチル、マロン酸ジプロピル、ジエチルマロン酸ジエチル、コハク酸ジエチル、コハク酸ジブチル、グルタル酸ジエチル、アジピン酸ジエチル、アジピン酸ジプロピル、アジピン酸ジブチル、アジピン酸ジ(2-メトキシエチル)、セバシン酸ジエチル、マレイン酸ジエチル、マレイン酸ジブチル、マレイン酸ジオクチル、フマル酸ジエチル、フマル酸ジオクチル、ケイ皮酸-3-ヘキセニル等)、エーテル類(例えば、ブチルフェニルエーテル、ベンジルエチルエーテル、ヘキシルエーテル等)、ケトン類(例えば、ベンジルメチルケトン、ベンジルアセトン、ジアセトンアルコール、シクロヘキサノン等)、炭化水素類(例えば、石油エーテル、石油ベンジル、テトラリン、デカリン、ターシャリーアミルベンゼン、ジメチルナフタリン等)、アミド類(例えば、N,N-ジエチルドデカンアミド等)が挙げられる。
【0089】
上記のような油性溶媒は、本発明に係る前記金属含有化合物をそのまま溶解させて用いることができ、また樹脂状分散剤や結合剤を併用して分散又は溶解させて用いることもできる。
【0090】
このようなインクに使用される油性溶媒の具体的調製法については、特開平3-231975号、特表平5-508883号の各公報に記載の方法を参照することができる。
【0091】
<ゾル・ゲル転移型インク>
本発明のインクにゲル化剤(ワックス)を用いた場合、ゾル・ゲル転移型インクに適用することができる。
本発明に使用されるゲル化剤(ワックス)は室温で固体であり、かつインクの加熱噴射時には溶融した液体状である。
【0092】
このようなゲル化剤(ワックス)としては、後述する活性光線硬化型インクで用いられるゲル化剤と同様のものを用いることができる。
【0093】
<活性光線硬化型インク>
本発明のインクは、活性光線硬化型インクに適用することが好ましい。
活性光線硬化型インクは、光重合性化合物。光重合開始剤及びゲル化剤を含むことができる。
【0094】
(光重合性化合物)
光重合性化合物の例には、ラジカル重合性化合物及びカチオン重合性化合物が含まれる。
光重合性化合物は、上記活性光線を照射されることにより架橋又は重合し、インクを硬化させる作用を有する。光重合性化合物は、モノマー、重合性オリゴマー、プレポリマー又はこれらの混合物のいずれであってもよい。光重合性化合物は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0095】
光重合性化合物の含有量は、例えば、本発明のインクの全質量に対して1~97質量%の範囲内とすることが硬化性や柔軟性などの膜物性の観点で好ましく、30~95質量%の範囲内であることがより好ましい。
ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステルであることが好ましく、(メタ)アクリレートであることがより好ましい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」は、アクリレート又はメタアクリレートを意味し、「(メタ)アクリロイル基」は、アクリロイル基又はメタアクリロイル基を意味し、「(メタ)アクリル」は、アクリル又はメタクリルを意味する。
【0096】
(メタ)アクリレートの例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸及びt-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレートを含む単官能のアクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールA構造を有するジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジアクリレート及びトリプロピレングリコールジアクリレートを含む2官能の(メタ)アクリレート、並びに、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート及びペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレートを含む3官能以上の(メタ)アクリレート、ポリエステルアクリレートオリゴマーを含む(メタ)アクリロイル基を有するオリゴマー、並びにこれらの変性物が含まれる。
【0097】
上記変性物の例には、エチレンオキサイド基を挿入したエチレンオキサイド変性(EO変性)アクリレート、及びプロピレンオキサイドを挿入したプロピレンオキサイド変性(PO変性)アクリレートが含まれる。
光重合性化合物は、分子量が280~1500の範囲内であり、かつ、ClogP値が4.0~7.0の範囲内の(メタ)アクリレート化合物(以下、単に「(メタ)アクリレート化合物A」ともいう)を含むことが好ましい。
(メタ)アクリレート化合物Aは、(メタ)アクリレート基を2以上有することがより好ましい。
(メタ)アクリレート化合物Aの分子量は、上記のように280~1500の範囲内であり、300~800の範囲内であることがより好ましい。
インクジェット記録ヘッドからインクを安定に吐出するためには、80℃でのインク粘度を3~20、好ましくは7~14mPa・sの間にすることができる。
分子量が280以上の(メタ)アクリレート化合物とゲル化剤とをインク組成物に含ませることで、着弾後のインク粘度が高まり、基材へのインクの浸透を抑制することができるので、硬化性の低下を抑える効果が期待できる。一方、分子量が1500以下の(メタ)アクリレート化合物を含ませることで、インクのゾル粘度の過剰な高まりを抑えることができ、塗膜の光沢均一性の向上が期待できる。
【0098】
ここで、(メタ)アクリレート化合物Aの分子量は、下記市販のソフトウェアパッケージ1又は2を用いて測定することができる。
ソフトウェアパッケージ1:MedChem Software (Release 3.54,1991年8月、Medicinal Chemistry Project, Pomona College,Claremont,CA)、
ソフトウェアパッケージ2:ChemDraw Ultra ver.8.0.(2003年4月、CambridgeSoft Corporation,USA)
【0099】
本発明においては、インクが光重合性化合物の少なくとも一部として(メタ)アクリレート化合物Aを含んでいると、ClogP値が4.0未満の(メタ)アクリレート化合物を光重合性化合物として使用したインクよりも光沢値が低下する傾向にある。よって、コロナ放電処理前の60°光沢値が比較的低い基材に画像形成するためのインクに使用すると、印字部と非印字部と光沢差を小さくすることができるので好ましい。(メタ)アクリレート化合物AはClogP値が4.0未満の(メタ)アクリレート化合物よりも疎水性が高いため、より多くのゲル化剤が反発してインクの硬化膜表面に移動し、凹凸を増やすことによって、印字部の光沢値が低下すると考えられる。さらに、(メタ)アクリレート化合物AのClogP値は、4.5~6.0の範囲内であることがより好ましい。
【0100】
ここで「logP値」とは、水と1-オクタノールに対する有機化合物の親和性を示す係数である。
1-オクタノール/水分配係数Pは、1-オクタノールと水の二液相の溶媒に微量の化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡で、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数logPで示す。すなわち、「logP値」とは、1-オクタノール/水の分配係数の対数値であり、分子の親疎水性を表す重要なパラメーターとして知られている。
【0101】
「ClogP値」とは、計算により算出したlogP値である。ClogP値は、フラグメント法や、原子アプローチ法等により算出されうる。より具体的に、ClogP値を算出するには、文献(C.Hansch及びA.Leo、“Substituent Constants for Correlation Analysis in Chemistry and Biology”(John Wiley & Sons, New York, 1969))に記載のフラグメント法又は下記市販のソフトウェアパッケージ1又は2を用いればよい。
ソフトウェアパッケージ1:MedChem Software (Release 3.54,1991年8月、Medicinal Chemistry Project, Pomona College,Claremont,CA)、
ソフトウェアパッケージ2:Chem Draw Ultra ver.8.0.(2003年4月、CambridgeSoft Corporation,USA)
本願明細書等に記載したClogP値の数値は、ソフトウェアパッケージ2を用いて計算した「ClogP値」である。
【0102】
インクに含まれる(メタ)アクリレート化合物Aの量に特に限定はないが、インク全質量中、1~40質量%の範囲内であることが好ましく、5~30質量%の範囲内であることがより好ましい。(メタ)アクリレート化合物Aの量を1質量%以上とすることで、インクが親水的になりすぎず、ゲル化剤がインクに十分に溶解するため、インクがゾル・ゲル相転移しやすくなる。一方、(メタ)アクリレート化合物Aの量を40質量%以下とすることで、光重合開始剤をインクに十分に溶解させることができる。
【0103】
(メタ)アクリレート化合物Aのより好ましい例には、(1)分子内に(-C(CH3)H-CH2-O-)で表される構造を3~14個有する、三官能以上のメタクリレート又はアクリレート化合物、及び(2)分子内に環状構造を持つ二官能以上のメタクリレート又はアクリレート化合物が含まれる。これらの(メタ)アクリレート化合物は、光硬化性が高く、かつ硬化したときの収縮が少ない。さらに、ゾル・ゲル相転移の繰り返し再現性が高い。
【0104】
分子内に(-C(CH3)H-CH2-O-)で表される構造を3~14個有する、三官能以上のメタクリレート又はアクリレート化合物とは、例えば、3個以上のヒドロキシ基を有する化合物のヒドロキシ基をプロピレンオキシド変性し、得られた変性物を(メタ)アクリル酸でエステル化したものである。
この化合物の具体例としては、
3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート Photomer 4072(分子量:471、ClogP:4.90、Cognis社製)、
3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレート Miramer M360(分子量:471、ClogP:4.90、Miwon社製)
等が含まれる。
【0105】
分子内に環状構造を持つ二官能以上のメタクリレート又はアクリレート化合物とは、例えば、2以上のヒドロキシ基とトリシクロアルカンとを有する化合物のヒドロキシ基を、(メタ)アクリル酸でエステル化したものである。
この化合物の具体例には、
トリシクロデカンジメタノールジアクリレート NKエステルA-DCP(分子量:304、ClogP:4.69)、
トリシクロデカンジメタノールジメタクリレート NKエステルDCP(分子量:332、ClogP:5.12)
等が含まれる。
(メタ)アクリレート化合物Aの別の具体例としては、1,10-デカンジオールジメタクリレート NKエステルDOD-N(分子量:310、ClogP:5.75、新中村化学社製)なども含まれる。
【0106】
光重合性化合物には、(メタ)アクリレート化合物A以外の光重合性化合物がさらに含まれていてもよい。
その他の光重合性化合物には、例えば、ClogP値が4.0未満である(メタ)アクリレートモノマー、又はオリゴマー、ClogP値が7.0を超える(メタ)アクリレートモノマー、又はオリゴマー、その他の重合性オリゴマー等がある。
これらの(メタ)アクリレートモノマー、又はオリゴマーの例には、4EO変性ヘキサンジオールジアクリレート(CD561、Sartomer社製、分子量358);3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(SR454、Sartomer社製、分子量429);4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(SR494、Sartomer社製、分子量528);6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(SR499、Sartomer社製、分子量560);カプロラクトンアクリレート(SR495B、Sartomer社製、分子量344);ポリエチレングリコールジアクリレート(NKエステルA-400、新中村化学社製、分子量508)、(NKエステルA-600、新中村化学社製、分子量708);ポリエチレングリコールジメタクリレート(NKエステル9G、新中村化学社製、分子量536)、(NKエステル14G、新中村化学社製);テトラエチレングリコールジアクリレート(V#335HP、大阪有機化学社製、分子量302);ステアリルアクリレート(STA、大阪有機化学社製);フェノールEO変性アクリレート(M144、Miwon社製);ノニルフェノールEO変性アクリレート(M166、Miwon社製)等が含まれる。
その他の重合性オリゴマーの例には、エポキシアクリレート、脂肪族ウレタンアクリレート、芳香族ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、直鎖アクリルオリゴマー等が含まれる。
【0107】
光重合性化合物として使用するカチオン重合性化合物は、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物及びオキセタン化合物等でありうる。
カチオン重合性化合物は、活性光線硬化型インクジェットインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
エポキシ化合物は、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド又は脂肪族エポキシド等であり、硬化性を高めるためには、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが好ましい。
【0108】
芳香族エポキシドは、多価フェノール又はそのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるジ又はポリグリシジルエーテルでありうる。
反応させる多価フェノール又はそのアルキレンオキサイド付加体の例には、ビスフェノールA又はそのアルキレンオキサイド付加体等が含まれる。
アルキレンオキサイド付加体におけるアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等でありうる。
脂環式エポキシドは、シクロアルカン含有化合物を、過酸化水素や過酸等の酸化剤でエポキシ化して得られるシクロアルカンオキサイド含有化合物でありうる。シクロアルカンオキサイド含有化合物におけるシクロアルカンは、シクロヘキセン又はシクロペンテンでありうる。
脂肪族エポキシドは、脂肪族多価アルコール又はそのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるジ又はポリグリシジルエーテルでありうる。
脂肪族多価アルコールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等のアルキレングリコール等が含まれる。アルキレンオキサイド付加体におけるアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等でありうる。
【0109】
ビニルエーテル化合物の例には、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物;
エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジ又はトリビニルエーテル化合物等が含まれる。これらのビニルエーテル化合物のうち、硬化性や密着性などを考慮すると、ジ又はトリビニルエーテル化合物が好ましい。
【0110】
オキセタン化合物は、オキセタン環を有する化合物であり、その例には、特開2001-220526号公報、特開2001-310937号公報、特開2005-255821号公報に記載のオキセタン化合物等が含まれる。中でも、特開2005-255821号公報の段落番号0089に記載の一般式(1)で表される化合物、同号公報の段落番号0092に記載の一般式(2)で表される化合物、段落番号0107の一般式(7)で表される化合物、段落番号0109の一般式(8)で表される化合物、段落番号0116の一般式(9)で表される化合物等が挙げられる。特開2005-255821号公報に記載された一般式(1)、(2)、(7)、(8)及び(9)を以下に示す。
【0111】
【0112】
(光重合開始剤)
光重合開始剤は、前記光重合性化合物がラジカル重合性の官能基を有する化合物であるときは、光ラジカル開始剤を含み、前記光重合性化合物がカチオン重合性の官能基を有する化合物であるときは、光酸発生剤を含む。
光重合開始剤は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。光重合開始剤は、光ラジカル開始剤と光酸発生剤の両方の組み合わせであってもよい。
光ラジカル開始剤には、開裂型ラジカル開始剤及び水素引き抜き型ラジカル開始剤が含まれる。
【0113】
開裂型ラジカル開始剤の例には、アセトフェノン系の開始剤、ベンゾイン系の開始剤、アシルホスフィンオキシド系の開始剤、ベンジル及びメチルフェニルグリオキシエステルが含まれる。
アセトフェノン系の開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノンが含まれる。
ベンゾイン系の開始剤の例には、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインイソプロピルエーテルが含まれる。
アシルホスフィンオキシド系の開始剤の例には、2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシドが含まれる。
【0114】
水素引き抜き型ラジカル開始剤の例には、ベンゾフェノン系の開始剤、チオキサントン系の開始剤、アミノベンゾフェノン系の開始剤、10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン及びカンファーキノンが含まれる。
ベンゾフェノン系の開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4′-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4′-メチル-ジフェニルスルフィド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3′,4,4′-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン及び3,3′-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノンが含まれる。
チオキサントン系の開始剤の例には、2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン及び2,4-ジクロロチオキサントンが含まれる。
アミノベンゾフェノン系の開始剤の例には、ミヒラーケトン及び4,4′-ジエチルアミノベンゾフェノンが含まれる。
【0115】
光酸発生剤の例には、有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187~192ページに記載の化合物が含まれる。
光重合開始剤の含有量は、インクが十分に硬化できる範囲であればよく、例えば、本発明のインクの全質量に対して0.01~10質量%の範囲内とすることができる。
【0116】
(ゲル化剤)
本発明に係るゲル化剤は、記録媒体に着弾したインクの液滴をゲル状態にして仮固定(ピニング)することができる。インクがゲル状態でピニングされると、インクの濡れ広がりが抑えられて隣り合うドットが合一しにくくなるため、より高精細な画像を形成することができる。ゲル化剤は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0117】
ゲル化剤の含有量は、インクの全質量に対して0.5~5.0質量%の範囲内であることが好ましい。ゲル化剤の含有量を上記範囲内とすることで、ゲル化剤の溶媒成分に対する溶解性及びピニング性効果が良好となる。また、上記観点からは、インク中のゲル化剤の含有量は、0.5~2.5質量%の範囲内であることがより好ましい。
【0118】
また、以下の観点から、ゲル化剤は、インクのゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化することが好ましい。ゲル化温度とは、加熱によりゾル化又は液体化したインクを冷却していったときに、ゲル化剤がゾルからゲルに相転移し、インクの粘度が急変する温度をいう。具体的には、ゾル化又は液体化したインクを、粘弾性測定装置(例えば、MCR300、Physica社製)で粘度を測定しながら冷却していき、粘度が急激に上昇した温度を、そのインクのゲル化温度とすることができる。
【0119】
ゲル化剤がインク中で結晶化すると、板状に結晶化したゲル化剤によって形成された三次元空間に溶媒、光重合性化合物等のインク媒体が内包される構造が形成されることがある(このような構造を、以下「カードハウス構造」という。)。
カードハウス構造が形成されると、液体のインク媒体が前記空間内に保持されるため、インク液滴がより濡れ広がりにくくなり、インクのピニング性がより高まる。インクのピニング性が高まると、記録媒体に着弾したインク液滴同士が合一しにくくなり、より高精細な画像を形成することができる。
カードハウス構造を形成するには、インク中の溶媒、光重合性化合物等のインク媒体とゲル化剤とが相溶していることが好ましい。これに対して、インク中の溶媒、光重合性化合物等のインク媒体とゲル化剤とが相分離していると、カードハウス構造を形成しにくい場合がある。
【0120】
結晶化によるカードハウス構造の形成に好適なゲル化剤の例には、ケトンワックス、エステルワックス、石油系ワックス、植物系ワックス、動物系ワックス、鉱物系ワックス、硬化ヒマシ油、変性ワックス、高級脂肪酸、高級アルコール、ヒドロキシステアリン酸、N-置換脂肪酸アミド及び特殊脂肪酸アミドを含む脂肪酸アミド、高級アミン、ショ糖脂肪酸のエステル、合成ワックス、ジベンジリデンソルビトール、ダイマー酸並びにダイマージオールが含まれる。
【0121】
上記ケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン、ジベヘニルケトン、ジステアリルケトン、ジエイコシルケトン、ジパルミチルケトン、ジラウリルケトン、ジミリスチルケトン、ミリスチルパルミチルケトン及びパルミチルステアリルケトンが含まれる。
【0122】
上記エステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル、イコサン酸イコシル、ステアリン酸ステアリル、ステアリン酸パルミチル、パルミチン酸セチル、ミリスチン酸ミリスチル、ミリスチン酸セチル、セロチン酸ミリシル、ステアリン酸ステアリル、パルミチン酸オレイル、グリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル及びポリオキシエチレン脂肪酸エステルが含まれる。
上記エステルワックスの市販品の例には、EMALEXシリーズ、日本エマルジョン社製(「EMALEX」は同社の登録商標)、リケマールシリーズ及びポエムシリーズ、理研ビタミン社製(「リケマール」及び「ポエム」はいずれも同社の登録商標)が含まれる。
【0123】
上記石油系ワックスの例には、パラフィンワックス、マイクロクリスタリンワックス及びペトロラクタムを含む石油系ワックスが含まれる。
上記植物系ワックスの例には、キャンデリラワックス、カルナウバワックス、ライスワックス、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウ及びホホバエステルが含まれる。
上記動物系ワックスの例には、ミツロウ、ラノリン及び鯨ロウが含まれる。
上記鉱物系ワックスの例には、モンタンワックス及び水素化ワックスが含まれる。
上記変性ワックスの例には、モンタンワックス誘導体、パラフィンワックス誘導体、マイクロクリスタリンワックス誘導体、12-ヒドロキシステアリン酸誘導体及びポリエチレンワックス誘導体が含まれる。
【0124】
上記高級脂肪酸の例には、ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸、ラウリン酸、オレイン酸及びエルカ酸が含まれる。
上記高級アルコールの例には、ステアリルアルコール及びベヘニルアルコールが含まれる。ベヘニルアルコールの市販品の例には、1-ドコサノール、高級アルコール工業社製が含まれる。
上記ヒドロキシステアリン酸の例には、12-ヒドロキシステアリン酸が含まれる。
上記脂肪酸アミドの例には、ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド及び12-ヒドロキシステアリン酸アミドが含まれる。
上記脂肪酸アミドの市販品の例には、ダイヤミッドY、ニッカアマイドシリーズ、日本化成社製(「ダイヤミッド」、「ニッカアマイド」は同社の登録商標)、ITOWAXシリーズ、伊藤製油社製、及びFATTYAMIDシリーズ、花王社製が含まれる。
【0125】
上記N-置換脂肪酸アミドの例には、N-ステアリルステアリン酸アミド及びN-オレイルパルミチン酸アミドが含まれる。
上記特殊脂肪酸アミドの例には、N,N′-エチレンビスステアリルアミド、N,N′-エチレンビス-12-ヒドロキシステアリルアミド及びN,N′-キシリレンビスステアリルアミドが含まれる。
上記高級アミンの例には、ドデシルアミン、テトラデシルアミン及びオクタデシルアミンが含まれる。
【0126】
上記ショ糖脂肪酸のエステルの例には、ショ糖ステアリン酸及びショ糖パルミチン酸が含まれる。
上記ショ糖脂肪酸のエステルの市販品の例には、リョートーシュガーエステルシリーズ、三菱ケミカルフーズ社製(「リョートー」は同社の登録商標)が含まれる。
上記合成ワックスの例には、ポリエチレンワックス及びα-オレフィン無水マレイン酸共重合体ワックスが含まれる。
上記合成ワックスの市販品の例には、UNILINシリーズ、Baker-Petrolite社製(「UNILIN」は同社の登録商標)が含まれる。
【0127】
上記ジベンジリデンソルビトールの例には、1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトールが含まれる。
上記ジベンジリデンソルビトールの市販品の例には、ゲルオールD、新日本理化株式会社製(「ゲルオール」は同社の登録商標)が含まれる。
上記ダイマージオールの市販品の例には、PRIPORシリーズ、CRODA社製(「PRIPOR」は同社の登録商標)が含まれる。
【0128】
これらのゲル化剤のうち、よりピニング性を高める観点からは、ケトンワックス、エステルワックス、高級脂肪酸、高級アルコール及び脂肪酸アミドが好ましく、上記観点からは、下記一般式(G1)で表されるケトンワックス及び下記一般式(G2)で表されるエステルワックスがさらに好ましく、上述した高極性光重合性化合物とともに使用する観点からは、ケトンワックスが好ましい。
下記一般式(G1)で表されるケトンワックス及び下記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、インク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。また、下記一般式(G1)で表されるケトンワックス及び下記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、インク中に、いずれか一方のみが含まれていてもよいし、双方が含まれていてもよい。
【0129】
一般式(G1):R11-CO-R12
一般式(G1)において、R11及びR12は、いずれも炭素数が12以上である直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基である。前記炭素数は、好ましくは12~26の範囲内である。
一般式(G2):R13-COO-R14
一般式(G2)において、R13及びR14は、いずれも炭素数が12以上である直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基である。前記炭素数は、好ましくは12~26の範囲内である。
【0130】
上記一般式(G1)で表されるケトンワックス又は上記一般式(G2)で表されるエステルワックスは、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基の炭素数が12以上であるため、ゲル化剤の結晶性がより高まり、かつ、上記カードハウス構造においてより十分な空間が生る。そのため、溶媒、光重合性化合物等のインク媒体が上記空間内に十分に内包されやすくなり、インクのピニング性がより高くなる。
また、直鎖状又は分岐鎖状の炭化水素基の炭素数が26以下であるため、ゲル化剤の融点が過度に高まらないため、インクを出射するときにインクを過度に加熱する必要がない。
上記観点からは、R11及びR12、又は、R13及びR14は炭素原子数13以上23未満の直鎖状の炭化水素基であることが特に好ましい。
また、インクのゲル化温度を高くして、着弾後により急速にインクをゲル化させる観点からは、R11若しくはR12のいずれか、又はR13若しくはR14のいずれかが飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることが好ましい。
上記観点からは、R11及びR12の双方、又は、R13及びR14の双方が飽和している炭素原子数11以上23未満の炭化水素基であることがより好ましい。
【0131】
上記一般式(G1)で表されるケトンワックスの例には、ジリグノセリルケトン(炭素数:23~24)、ジベヘニルケトン(炭素数:21~22)、ジステアリルケトン(炭素数:17~18)、ジエイコシルケトン(炭素数:19~20)、ジパルミチルケトン(炭素数:15~16)、ジミリスチルケトン(炭素数:13~14)、ジラウリルケトン(炭素数:11~12)、ラウリルミリスチルケトン(炭素数:11~14)、ラウリルパルミチルケトン(炭素数:11~16)、ミリスチルパルミチルケトン(炭素数:13~16)、ミリスチルステアリルケトン(炭素数:13~18)、ミリスチルベヘニルケトン(炭素数:13~22)、パルミチルステアリルケトン(炭素数:15~18)、バルミチルベヘニルケトン(炭素数:15~22)及びステアリルベヘニルケトン(炭素数:17~22)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、カルボニル基で分断される二つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0132】
一般式(G1)で表されるケトンワックスの市販品の例には、Stearonne(Alfa Aeser社製;ステアロン)、18-Pentatriacontanon(Alfa Aeser社製)、Hentriacontan-16-on(Alfa Aeser社製)及びカオーワックスT-1(花王社製)が含まれる。
【0133】
一般式(G2)で表される脂肪酸又はエステルワックスの例には、ベヘニン酸ベヘニル(炭素数:21~22)、イコサン酸イコシル(炭素数:19~20)、ステアリン酸ステアリル(炭素数:17~18)、ステアリン酸パルミチル(炭素数:17~16)、ステアリン酸ラウリル(炭素数:17~12)、パルミチン酸セチル(炭素数:15~16)、パルミチン酸ステアリル(炭素数:15~18)、ミリスチン酸ミリスチル(炭素数:13~14)、ミリスチン酸セチル(炭素数:13~16)、ミリスチン酸オクチルドデシル(炭素数:13~20)、オレイン酸ステアリル(炭素数:17~18)、エルカ酸ステアリル(炭素数:21~18)、リノール酸ステアリル(炭素数:17~18)、オレイン酸ベヘニル(炭素数:18~22)及びリノール酸アラキジル(炭素数:17~20)が含まれる。なお、上記括弧内の炭素数は、エステル基で分断される二つの炭化水素基それぞれの炭素数を表す。
【0134】
一般式(G2)で表されるエステルワックスの市販品の例には、ユニスターM-2222SL及びスパームアセチ、日油社製(「ユニスター」は同社の登録商標)、エキセパールSS及びエキセパールMY-M、花王社製(「エキセパール」は同社の登録商標)、EMALEX CC-18及びEMALEX CC-10、日本エマルジョン社製(「EMALEX」は同社の登録商標)並びにアムレプスPC、高級アルコール工業社製(「アムレプス」は同社の登録商標)が含まれる。
これらの市販品は、2種類以上の混合物であることが多いため、必要に応じて分離・精製してインクに含有させてもよい。これらのゲル化剤のうち、よりピニング性を高める観点からは、ケトンワックス、エステルワックス、高級脂肪酸、高級アルコール及び脂肪酸アミドが好ましい。
【0135】
特に、本発明に係るゲル化剤の1種は、ステアロンであることが、画像保存性の点で好ましい。
また、前記ゲル化剤の1種が、モンタン酸由来の構造と重合性基を有する化合物であることが、画像保存性の点で好ましい。モンタン酸由来の構造と重合性基を有する化合物としては、例えば、TP Licomont ER 165(CLAEIANT社製)等が挙げられる。
【0136】
<その他の成分>
本発明のインクは、本発明の効果が得られる範囲において、重合禁止剤及び界面活性剤を含むその他の成分をさらに含んでいてもよい。これらの成分は、本発明のインク中に、1種のみが含まれていてもよく、2種類以上が含まれていてもよい。
【0137】
(重合禁止剤)
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム及びシクロヘキサノンオキシムが含まれる。
【0138】
重合禁止剤の量は、本発明の効果が得られる範囲において、任意に設定することができる。
重合禁止剤の量は、インクの全質量に対して、例えば0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0139】
(界面活性剤)
界面活性剤の例には、ジアルキルスルホコハク酸塩類、アルキルナフタレンスルホン酸塩類及び脂肪酸塩類等のアニオン性界面活性剤、ポリオキシエチレンアルキルエーテル類、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル類、アセチレングリコール類及びポリオキシエチレン・ポリオキシプロピレンブロックコポリマー類等のノニオン性界面活性剤、アルキルアミン塩類、及び第四級アンモニウム塩類等のカチオン性界面活性剤、並びにシリコーン系やフッ素系の界面活性剤が含まれる。
【0140】
シリコーン系の界面活性剤の例には、ポリエーテル変性ポリシロキサン化合物、具体的には、KF-351A、KF-352A、KF-642及びX-22-4272、信越化学工業社製、BYK307、BYK345、BYK347及びBYK348、ビッグケミー製(「BYK」は同社の登録商標)、並びにTSF4452、モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ社製が含まれる。
【0141】
フッ素系の界面活性剤は、通常の界面活性剤の疎水性基の炭素に結合した水素の代わりに、その一部又は全部をフッ素で置換したものを意味する。
フッ素系の界面活性剤の例には、Megafac F、DIC社製(「Megafac」は同社の登録商標)、Surflon、AGCセイケミカル社製(「Surflon」は同社の登録商標)、Fluorad FC、3M社製(「Fluorad」は同社の登録商標)、Monflor、インペリアル・ケミカル・インダストリー社製、Zonyls、イー・アイ・デュポン・ネメラス・アンド・カンパニー社製、Licowet VPF、ルベベルケ・ヘキスト社製、及びFTERGENT、ネオス社製(「FTERGENT」は同社の登録商標)が含まれる。
【0142】
界面活性剤の量は、本発明の効果が得られる範囲において、任意に設定することができる。界面活性剤の量は、インクの全質量に対して、例えば0.001質量%以上1.0質量%未満とすることができる。
【0143】
<物性>
本発明のインクの80℃における粘度は、3~20mPa・sの範囲内であることが好ましく、7~9mPa・sの範囲内であることが好ましい。このような範囲とすることで、本発明のインクをインクジェット用インクとして用いた場合、インクジェットヘッドからの吐出性をより高める観点から好ましい。
また、本発明のインクの25℃における粘度は1000mPa・s以上であることが好ましい。このような範囲とすることで、本発明のインクにゲル化剤を含有させた場合、着弾して常温に降温した際にインクを十分にゲル化させることができる。
【0144】
本発明のインクにゲル化剤を含有させた場合、そのゲル化温度は、30~70℃の範囲内であることが好ましい。インクのゲル化温度が40℃以上であると、記録媒体に着弾後、インクが速やかにゲル化するため、ピニング性がより高くなる。インクのゲル化温度が70℃以下であると、インク温度が通常80℃程度であるインクジェットヘッドからのバイオレットインクの射出時にインクがゲル化しにくいため、より安定してインクを射出することができる。
より低温でインクを吐出可能にし、画像形成装置への負荷を低減させる観点からは、本発明のインクのゲル化温度は、40~60℃の範囲内であることがより好ましい。
【0145】
本発明のインクの80℃における粘度、25℃における粘度及びゲル化温度は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。
本発明において、これらの粘度及びゲル化温度は、以下の方法によって得られた値である。
本発明のインクを100℃に加熱し、ストレス制御型レオメータPhysica MCR301(コーンプレートの直径:75mm、コーン角:1.0°)、Anton Paar社製によって粘度を測定しながら、剪断速度11.7(1/s)、降温速度0.1℃/sの条件で20℃までインクを冷却して、粘度の温度変化曲線を得る。
80℃における粘度及び25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において80℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。ゲル化温度は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0146】
[画像形成方法]
本発明の画像形成方法は、本発明のインクを用いることを特徴とする。本発明の画像形成方法は、インクジェット印刷、オフセット印刷、スクリーン印刷等を用いることができ、中でも、本発明の画像形成方法は、インクジェット法を用いることが好ましい。
【0147】
インクジェット法を用いた画像形成方法は、(1)本発明のインクジェットインクをインクジェットヘッドのノズルから吐出して記録媒体に着弾させる工程と、活性光線硬化型インクの場合はさらに、(2)記録媒体に着弾したインクに活性光線を照射してインクを硬化させる工程とを含むことが好ましい。
【0148】
(1)の工程
(1)の工程では、インクの液滴をインクジェットヘッドから吐出して、記録媒体の、形成すべき画像に応じた位置に着弾させる。
インクジェットヘッドからの吐出方式は、オンデマンド方式とコンティニュアス方式のいずれでもよい。
オンデマンド方式のインクジェットヘッドは、シングルキャビティー型、ダブルキャビティー型、ベンダー型、ピストン型、シェアーモード型及びシェアードウォール型等の電気-機械変換方式、並びにサーマルインクジェット型及びバブルジェット(登録商標)(バブルジェットはキヤノン社の登録商標)型等の電気-熱変換方式等のいずれでもよい。
【0149】
インクの液滴を、加熱した状態でインクジェットヘッドから吐出することで、吐出安定性を高めることができる。吐出される際のインクの温度は、40~100℃の範囲内であることが好ましく、吐出安定性をより高めるためには、40~90℃の範囲内であることがより好ましい。特には、インクの粘度が7~15mPa・sの範囲内、より好ましくは8~13mPa・sの範囲内となるようなインク温度において出射を行うことが好ましい。
【0150】
ゾル・ゲル相転移型のインクは、インクジェットヘッドからのインクの吐出性を高めるために、インクジェットヘッドに充填されたときのインクの温度が、当該インクの(ゲル化温度+10)~(ゲル化温度+30)℃に設定されることが好ましい。インクジェットヘッド内のインクの温度が、(ゲル化温度+10)℃未満であると、インクジェットヘッド内若しくはノズル表面でインクがゲル化して、インクの吐出性が低下しやすい。一方、インクジェットヘッド内のインクの温度が(ゲル化温度+30)℃を超えると、インクが高温になりすぎるため、インク成分が劣化することがある。
【0151】
インクの加熱方法は、特に制限されない。例えば、ヘッドキャリッジを構成するインクタンク、供給パイプ及びヘッド直前の前室インクタンク等のインク供給系、フィルター付き配管並びにピエゾヘッド等の少なくともいずれかをパネルヒーター、リボンヒーター又は保温水等によって加熱することができる。
吐出される際のインクの液滴量は、記録速度及び画質の面から、2~20pLの範囲内であることが好ましい。
【0152】
記録媒体は、特に制限されないが、例えばポリエステル、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、ポリウレタン、ポリプロピレン、アクリル樹脂、ポリカーボネート、ポリスチレン、アクリロニトリル-ブタジエン-スチレン共重合体、ポリエチレンテレフタレート及びポリブタジエンテレフタレート等のプラスチックで構成される非吸収性の記録媒体(プラスチック基材)、金属類及びガラス等の非吸収性の無機記録媒体、並びに吸収性の紙類(例えばオフィス用コピー紙、印刷用上質紙及び印刷用コート紙)とすることができる。
【0153】
(2)の工程
(2)の工程では、(1)の工程で記録媒体に着弾させたインクに活性光線を照射して、該インクが硬化してなる画像を形成する。
活性光線は、例えば電子線、紫外線、α線、γ線、及びエックス線等から選択することができるが、好ましくは紫外線である。
紫外線の照射は、例えばPhoseon Technology社製の水冷LEDを用いて、波長395nmの条件下で行うことができる。LEDを光源とすることで、光源の輻射熱によってインクが溶けることによるインクの硬化不良を抑制することができる。
【0154】
紫外線の照射は、370~410nmの範囲内の波長を有する紫外線の画像表面におけるピーク照度が、好ましくは0.5~10W/cm2の範囲内、より好ましくは1~5W/cm2の範囲内となるように行う。輻射熱がインクに照射されることを抑制する観点からは、画像に照射される光量は350mJ/cm2未満であることが好ましい。
活性光線の照射は、インク着弾後0.001~1.0秒の間に行うことが好ましく、高精細な画像を形成するためには、0.001~0.5秒の間に行うことがより好ましい。
【0155】
活性光線の照射は、2段階に分けて行ってもよい。
まず、インクが着弾した後0.001~2.0秒の間に活性光線を照射してインクを仮硬化させ、全印字終了後、さらに活性光線を照射してインクを本硬化させてもよい。活性光線の照射を2段階に分けることで、インク硬化の際に起こる記録材料の収縮がより生じにくくなる。
【実施例】
【0156】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0157】
下記表Iにおける「金属含有化合物No.100」及び「色素化合物M-101」は以下のとおりである。また、表Iに記載の「PB15:3」は、銅フタロシアニン(C.I.Pigment Blue 15:3)、「PR122」は、キナクリドン(Pigment Red 122)である。
【化19】
【0158】
[水性インクの作製]
<水性インク用の着色剤分散液の作製>
表Iに示す金属含有化合物及び一般式(1)で表される金属含有化合物とキレート可能な色素化合物の混合物(1/1モル比)、又は、表Iに示す金属含有化合物及び一般式(1)で表される金属含有化合物とキレート不可能な色素化合物の混合物(1/1モル比)10g、メチルエチルケトン20g、グリセリン5g、共重合ポリマー(スチレン/アクリル酸/2-ヒドロキシエチルメタクリレート=80/5/15の共重合比である中和済み樹脂)6g、イオン交換水40gの混合液に、平均粒子径が0.5mmのジルコニアビーズ250gを加え、メディア分散機(システムゼータ;(株)アシザワ製)を用いて4時間分散を行った。分散終了後、ジルコニアビーズを濾別して分散液を得た。この分散液に水40mLを加えて希釈した後、減圧留去によりメチルエチルケトンを除去し、着色剤分散液を得た。
【0159】
<水性インクの作製>
表Iに示す金属含有化合物及び色素化合物の混合物の含有量が、インクの仕上がり量に対して3質量%になるように、上記着色微粒子分散物を秤量し、エチレングリコール15質量%、グリセリン15質量%、トリエチレングリコールモノブチルエーテル3質量%、サーフィノール465を0.3質量%、残りが純水になるように調製し、混合分散した。次いで、2μmのメンブレンフィルターによって濾過し、ゴミ及び粗大粒子を除去して、表Iに示すようにインク1~17及び21~23を得た。
【0160】
[活性光線硬化型インクの作製]
<活性光線硬化型インク用の着色剤分散液の作製>
表Iに示す金属含有化合物及び一般式(1)で表される金属含有化合物とキレート可能な色素化合物の混合物(1/1モル比)10質量部、分散剤(アジスパーPB824:味の素ファインテクノ社製)9質量部、活性光線硬化性化合物(APG-200(トリプロピレングリコールジアクリレート):新中村化学社製)70質量部及び重合禁止剤(Irgastab UV10:BASFジャパン社製)0.02質量部を、ステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレート上で加熱しながら1時間加熱撹拌して溶解させた。得られた溶液を室温まで冷却した後、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gとともにガラス瓶に入れて密栓し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して、着色剤分散液を調製した。
【0161】
<活性光線硬化型インクの作製>
ワックス(脂肪族ジケトン:カオーワックスT1:花王社製)3.0質量部、ポリエチレングリコール#400ジアクリレート(A-400:新中村化学社製)26.8質量部、4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(SR494:SARTOMER社製)17.0質量部、6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート(SR499:SARTOMER社製)28.0質量部、重合禁止剤(Irgastab UV10:BASFジャパン社製)0.1質量部、重合開始剤(IRGACURE TPO:BASFジャパン社製)6.0質量部、着色剤分散液19.1質量部を混合して得た混合物を80℃に加熱して撹拌した。得られた溶液を加熱下において#3000の金属メッシュフィルターで濾過した後、冷却してインク18,19及び24を得た。
【0162】
[オフセットインクの作製]
<オフセット用ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスAの製造>
コンデンサー、温度計、及び撹拌機を装着した四つ口フラスコにロジン変性フェノール樹脂(荒川化学工業(株)製:重量平均分子量15万、酸価20、軟化点160℃)38.5質量部、大豆油30質量部、AFソルベント5号(新日本石油(株)製)30質量部を仕込み、180℃に昇温して、同温で30分間撹拌した後、放冷し、ゲル化剤としてエチルアセトアセテートアルミニウムジイソプロポキシド1.0質量部(川研ファインケミカル(株)製ALCH)を仕込み、180℃で30分間撹拌してオフセット用ロジン変性フェノール樹脂ゲルワニスA(以下ゲルワニスAと称す)を得た。
【0163】
<オフセットインクの作製>
ゲルワニスAを68質量部、AFソルベント5号を7質量部、大豆油を10質量部、表Iに示す金属含有化合物と、一般式(1)で表される金属含有化合物とキレート可能な色素化合物の混合物(1/1モル比)15質量部をニーダー中で温度75℃の条件下、ゲルワニスAを徐々に添加して混練して一次脱水を行った。
次に、ニーダー温度100~120℃、減圧度76mmHgの条件下で1時間バキュームし、ベースインキ中の水分を0.5%以下になるように二次脱水を行った。脱水後、残りのゲルワニスA、AFソルベント5号、大豆油を添加して混練して希釈し、ニーダーより未分散ベースインキを取り出した。取り出したベースインキをロール温度60℃の3本ロールを用いて、分散粒子系測定機(グラインドメーター)で7.5ミクロン以下になるまで練肉し、ベースインキを得た。
次いで、ベースインキ63質量部に対して、ゲルワニスAを10質量部、大豆油を5質量部、コンパウンドを20質量部、AFソルベント5号を2質量部添加しインク20のオフセットインク(油性インク)を得た。
表Iに示す金属含有化合物に変更する以外は、インク20と同様にして、インク25のオフセットインク(油性インク)を得た。
【0164】
[評価]
<水性インクを用いた画像試料の作製>
上記で得た水性インク1~17及び21~23を市販のエプソン製インクジェットプリンター(PM-800)を用いてコニカミノルタフォトジェットペーパーPhotolike QP 光沢紙(コニカミノルタ社製)にプリントし、得られた画像試料について、下記に示す画像の色再現性の評価及びインクの保存安定性の評価を行った。
【0165】
<活性光線硬化型インクを用いた画像試料の作製>
上記で得た活性光線硬化型インク18、19及び24で、ライン型インクジェット記録装置を用いて単色画像を形成した。インクジェット記録装置のインクジェットヘッドの温度は80℃に設定した。記録媒体(印刷用コート紙A(OKトップコート 米坪量128g/m2 王子製紙社製))に、抜き文字、5cm×5cmのベタ画像、又は濃度階調パッチを印字した。画像を形成した後、記録装置の下流部に配置したLEDランプ(Phoseon Technology社製395nm、水冷LED)で、画像に紫外線を照射してインクを硬化し、得られた画像試料について、下記に示す画像の色再現性の評価及びブルーミングの評価を行った。
吐出用記録ヘッドは、ノズル径20μm、ノズル数512(256ノズル×2列、千鳥配列、1列のノズルピッチ360dpi)のピエゾヘッドを用いた。吐出条件は、1滴の液滴量が2.5pLとなる条件で、液滴速度約6m/sで出射させて、1440dpi×1440dpiの解像度で記録した。記録速度は500mm/sとした。画像形成は、23℃、55%RHの環境下で行った。dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0166】
<オフセットインクを用いた画像試料の作製>
上記のオフセットインク20及び25について、下記印刷条件の下、ベタにて印刷し、印刷物の評価を実施した。
(印刷条件)
印刷機:LITHOPIA BT2-800 NEO(三菱重工業(株))
用紙:新聞用更紙:超軽量紙(秤量43g/m2)(日本製紙(株))
湿し水:NEWSKING ALKY(東洋インキ(株))0.5%水道水溶液
印刷速度:10万部/時
【0167】
<金属含有化合物の配位子1分子のlogP値>
各インクで使用した金属含有化合物の配位子1分子のlogP値を表Iに示した。また、前記一般式(1)におけるR1及びR2のσp値の合計についても表Iに示した。
【0168】
<色再現性>
上記で得られた画像試料について、色成分をL*a*b*表色系におけるa*b*を測定し、下記式(1)にて彩度を算出した。
式(1):彩度(C*)=〔(a*)2+(b*)2〕1/2
なお、「L*a*b*表色系」は、色を数値化して表すのに有用に用いられる手段であり、L* 軸方向が明度を示し、a*軸方向が赤-緑方向の色相を表し、b*軸方向が黄-青方向の色相を示すものである。a*及びb*は、分光光度計「Gretag Macbeth Spectrolino」(Gretag Macbeth社製)を用い、光源としてD65光源、反射測定アパーチャとしてφ4mmのものを用い、測定波長域380~730nmを10nm間隔で、視野角を2°とし、基準合わせには専用白タイルを用いた条件において測定するものとする。
【0169】
<インクの保存安定性>
上記で得た各インクについて、分散3日後のインク中の顔料の粒径及びインクの粘度を測定した。さらに、各インクを60℃で3週間の保存を行い、再び粒径及び粘度の測定を行い、粒径変動及び粘度変動を求めた。
粘度については振動式粘度計、ビスコメーターVM-1G(ニッカトー社製)、粒径についてはゼータサイザーナノS(マルバーン社製)により測定を行った。
【0170】
<ブルーミング>
上記「活性光線硬化型インクを用いた画像試料の作製」によって、記録媒体である印刷用コート紙A(OKトップコート 米坪量128g/m2 王子製紙社製)に形成した5cm×5cmのベタ画像を、40℃の環境下で1か月間保管した。保管後の画像を目視観察し、下記の基準に従ってブルーミングを評価した。
○:画像表面に析出物が認められない。
△:画像表面に薄らとした析出物が存在しており、目視で確認できる。
×:画像表面が粉上の物質で覆われており、目視で明らかに確認できる。
【0171】
【0172】
上記結果から明らかなように、本発明のインクは、保存安定性、色再現性及びブルーミングの点で比較例のインクに比べて良好であることが分かった。
【符号の説明】
【0173】
M1 一般式(1)で表される構造を有する金属含有化合物
P1、P2 色素化合物
K1、K2 金属キレート色素
M2 電子吸引性基を有さない金属含有化合物