(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】サスペンションリンク支持構造およびサスペンションリンク支持部材
(51)【国際特許分類】
B62D 21/00 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
B62D21/00 A
(21)【出願番号】P 2018027996
(22)【出願日】2018-02-20
【審査請求日】2021-01-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000003137
【氏名又は名称】マツダ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101454
【氏名又は名称】山田 卓二
(74)【代理人】
【識別番号】100197561
【氏名又は名称】田中 三喜男
(72)【発明者】
【氏名】岡本 拓之
(72)【発明者】
【氏名】田中 正顕
(72)【発明者】
【氏名】平松 大弥
【審査官】米澤 篤
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-10419(JP,A)
【文献】特開2016-187991(JP,A)
【文献】特開2013-111997(JP,A)
【文献】独国特許出願公開第102006013548(DE,A1)
【文献】特開2015-058856(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0270029(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サスペンションリンクを支持するサスペンションリンク支持部材であって、
上方に配設されて前後方向に延びるとともに後部が前部よりも低い左右一対の第1フレーム部材に取り付けられ、
前記サスペンションリンク支持部材の前部には、車体前後方向に延びる左右一対の第2フレーム部材が取り付けられ、
前記サスペンションリンク支持部材は、前記第1フレーム部材の下面に取り付けられる車体前方側の前側取付部と、車体後方側の後側取付部とを有し、
前記後側取付部は、前記前側取付部よりも下方に位置しており、
前記第2フレーム部材は、上下方向において前記前側取付部よりも前記後側取付部に近い位置に配置され
、
前記前側取付部と前記後側取付部とが、連続しており、
前記前側取付部の後端から後部に延び上下方向に延設するリブ部が設けられていることを特徴とするサスペンションリンク支持部材。
【請求項2】
前記サスペンションリンク支持部には、車両前後方向に延びて車幅方向外側に広がり、かつ、車体幅方向内側から車体幅方向外側に向けて上方に傾斜する、ひさし部が形成されており、
前記前側取付部は、前記ひさし部の上方に設けられ、前記ひさし部の下方には、サスペンションリンクを支持する支持部が設けられることを特徴とする請求項1に記載のサスペンションリンク支持部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はサスペンションリンク支持構造およびサスペンションリンク支持部材に関し、自動車等の車両の車体構造の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
一般に、車体前部には、車両の前後方向に延びて車体前部を支える左右一対のフロントサイドフレームが設けられ、該フロントサイドフレームの下方には、前輪用の左右のサスペンションリンクを支持するためのサブフレームが配設されるものが知られている。
【0003】
特許文献1に開示された車体前部構造のサブフレームには、タワー部材と、一対のエクステンションフレームと、パワートレインのマウント支持部材と、サスペンションリンク支持ブラケットとが取り付けられている。
【0004】
サブフレームは、フロントサイドフレームの下方に配置される左右辺部と、該左右辺部の前端を車幅方向に連結する前辺部とで、平面視で後方に開放したU字状に形成されている。サブフレームには、前述の左右辺部から立ち上がって、フロントサイドフレームの下面に接続されるタワー部材が取り付けられている。タワー部材には、該タワー部材の上下方向の中間の位置から前方に延びる一対のエクステンションフレームが設けられている。パワートレインのマウント支持部材は、パワートレインのマウントを介してパワートレインの前部を支持している。サスペンションリンク支持ブラケットは、サブフレームの左右に配置されてサスペンションリンクを支持している。
【0005】
サブフレームおよびタワー部材は、前突時における車両前方からエクステンションフレームを経由して入力される荷重を確実に受け止めることで、エクステンションフレームによる衝撃吸収を促す機能を有している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、特許文献1の構造では、前突時における車体への入力荷重は、フロントサイドフレームに入力される主たるロードパスと、エクステンションフレームからタワー部材を経由してフロントサイドフレームに至るロードパスと、エクステンションフレームからタワー部材およびサブフレームを経由してアンダフロアに至るロードパスとが設けられている。このように、主たるロードパスであるフロントサイドフレームに加えて、エクステンションフレームを経由するロードパスを設けることで、衝突時の入力荷重の吸収効率を向上させている。
【0008】
また、特に、エクステンションフレームからタワー部材を経由してフロントサイドフレームに至る荷重を伝達するロードパスを効率よく形成するために、上下方向において、エクステンションフレームとフロントサイドフレームの距離を近づける構造となっている。
【0009】
しかしながら、特許文献1の構造では、車高が高く上下方向の荷重入力の可能性のある範囲が広い車両に適用した場合、フロントサイドフレームおよびエクステンションフレームの地上高が高くなるため、エクステンションフレームよりも下方に対する入力荷重を吸収することができず、その結果、フロントサイドフレームとエクステンションフレームが2本のロードパスとして機能しない問題がある。
【0010】
そこで本発明の車体前部構造に関するサスペンションリンク支持構造およびサスペンションリンク支持部材では、車高の高さにかかわらず、フロントサイドフレームおよびエクステンションフレームによる前突荷重の吸収を図ることを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
請求項1に記載の発明は、
サスペンションリンクを支持するサスペンションリンク支持部材であって、
上方に配設されて前後方向に延びるとともに後部が前部よりも低い左右一対の第1フレーム部材に取り付けられ、
前記サスペンションリンク支持部材の前部には、車体前後方向に延びる左右一対の第2フレーム部材が取り付けられ、
前記サスペンションリンク支持部材は、前記第1フレーム部材の下面に取り付けられる車体前方側の前側取付部と、車体後方側の後側取付部とを有し、
前記後側取付部は、前記前側取付部よりも下方に位置しており、
前記第2フレーム部材は、上下方向において前記前側取付部よりも前記後側取付部に近い位置に配置され、
前記前側取付部と前記後側取付部とが、連続し、
前記前側取付部の後端から後部に延び上下方向に延設するリブ部が設けられていることを特徴とする。
また、請求項2に記載の発明は、前記請求項1に記載の発明において、
前記サスペンションリンク支持部には、車両前後方向に延びて車幅方向外側に広がり、かつ、車体幅方向内側から車体幅方向外側に向けて上方に傾斜する、ひさし部が形成されており、
前記前側取付部は、前記ひさし部の上方に設けられ、前記ひさし部の下方には、サスペンションリンクを支持する支持部が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に記載の発明によれば、サスペンションリンク支持部材は、前側取付部と後側取付部とによって、前後方向に延びるとともに後部が前部よりも低い左右一対の第1フレーム部材の下方に強固に取り付けられている。なお、後側取付部は、前側取付部よりも下方に位置している。
【0015】
そして、サスペンションリンク支持部材の前部には、車体前方に延びる左右一対の第2フレームが取り付けられているので、例えば、前突時の荷重は、第1フレーム部材および第2フレーム部材に入力されて吸収される。
【0016】
このとき、第2フレーム部材は、上下方向において前側取付部よりも後側取付部に近い位置に配置されているので、第2フレーム部材に入力された荷重は、サスペンションリンク支持部材および後側取付部を介して、第1フレーム部材の後部へ伝達される。
【0017】
第2フレーム部材は、上下方向において前側取付部よりも後側取付部に近い位置に配置されているので、第1フレーム部材と第2フレーム部材の上下方向の距離は、特許文献1のフロントサイドフレームとエクステンションフレームの上下方向の距離に比して広くすることができる。
【0018】
これにより、車高の高い車のように、第1フレーム部材が高く配置される場合においても、第2フレーム部材が低い位置に配置される。その結果、前突時に荷重が入力される範囲が上下に広い場合においても、第1フレーム部材および第2フレーム部材によるロードパスを機能させることができる。
【0019】
ところで、第1フレーム部材と第2フレーム部材の上下方向の距離を広く確保するために、例えば、特許文献1の構造を用いた場合、タワー部材の上下方向における中間部から前方に延びるエクステンションフレームを下方に移動させて配置することが考えられる。この場合、前突時において、下方に移動させたエクステンションフレームによる前突荷重の吸収を促進させるためには、タワー部材およびタワー部材とサブフレームとの連結部をより強固な構成とする必要がある。その結果、車両重量の増加および構造の大型化につながってしまう。
【0020】
本発明においては、サスペンションリンク支持部材は、前側取付部および後側取付部によって、第1フレーム部材の下方で、前方から後方にかけて強固に取り付けられているので、例えば、前突時における第2フレーム部材による衝突荷重の吸収をサスペンションリンク支持部材によって効果的に促進することができる。
また、前側取付部と前記後側取付部とが、連続しているので、2つの取付部間の相対変位を抑制することができる。その結果、例えば、前突時における第2フレーム部材による衝突荷重の吸収をサスペンションリンク支持部材によってより効果的に促進することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】本発明のサスペンションリンク支持構造を示す斜視図である。
【
図2】本発明のサスペンションリンク支持構造を示す側面図である。
【
図3】本発明のサスペンションリンク支持構造を示す平面図である。
【
図4】本発明のサスペンションリンク支持部材を示す斜視図である。
【
図5】本発明のサスペンションリンク支持部材を示す底面図である。
【
図6】本発明のサスペンションリンク支持部材を示す側面図である。
【
図7】本発明のサスペンションリンク支持部材を示す正面図である。
【
図8】本発明のサスペンションリンク支持部材を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態に係る車両の前部車体構造の詳細を説明する。
【0025】
図1~
図3を参照しながら、本発明のサスペンションリンク支持構造について説明する。
【0026】
図1および
図2に示すように、エンジンルームEの左右両側部には、車体前後方向に延びる強度部材としてのフレーム部材で形成されたフロントサイドフレーム1、1が左右一対設けられている。各フロントサイドフレーム1、1の後部には、車体幅方向に延びるダッシュクロス10が接続されている。なお、特許請求の範囲における「第1フレーム部材」は、「フロントサイドフレーム」に相当する。
【0027】
図3に示すように、この実施形態では駆動方式をフロントエンジンリア駆動(FR)としており、フロントサイドフレーム1、1間には、エンジン2が縦置きに配置されるとともに、その後部にはトランスミッション3を連結し、該トランスミッション3はフロアトンネル部(図示せず)の下方に配置されている。
【0028】
各フロントサイドフレーム1、1は、ダッシュクロス10から前方に延びる前部11、11と、ダッシュクロス10から車体後方に向かって後下がりの傾斜部12、12と、傾斜部12の下端からさらに後方に延びて、図示しないフロアフレームに連接される後部13、13とが設けられている。各フロントサイドフレーム1、1は、後部13、13が前部11、11よりも低く形成されている。
【0029】
各フロントサイドフレーム1、1の前端にはセットプレート14、14および取付けプレート15、15を介して、衝突時の衝撃を吸収する筒状体等からなる左右一対のメインクラッシュカン16、16が設けられている。左右一対のメインクラッシュカン16、16の前端面には、車幅方向に延びるバンパレインフォースメント17が取り付けられている。
【0030】
各フロントサイドフレーム1、1の下方には、サスペンション装置のサスペンションリンク42を支持するための例えば、アルミダイキャスト等の鋳造により形成されたサスペンションリンク支持部材5、5がそれぞれ配置されている。なお、サスペンションリンク支持部材5、5の詳細は後述する。
【0031】
サスペンションリンク支持部材5、5の前部には、車体前方に延びる荷重吸収部材としてフレーム部材で形成された左右一対の第2フレーム部材としてのエクステンションフレーム6、6が接続されている。エクステンションフレーム6、6の前端には、車体幅方向に延びて連結するフロントクロスメンバ61が取り付けられている。
【0032】
フロントクロスメンバ61の左右両端部には、それぞれフランジ部62、62を介してサブクラッシュカン63、63が接続されている。サブクラッシュカン63、63よりも前方部にはロアメンバ64を設けている。このロアメンバ64は、車両と歩行者との衝突時に、歩行者の脚を払って当該歩行者をボンネット上に傾倒させ、2次衝突を防止する所謂足払い部材である
【0033】
各エクステンションフレーム6、6の車体前後方向の中間部には、車幅方向に延びて両エクステンションフレーム6、6を連結するサブクロスメンバ65が設けられている。
【0034】
フロントクロスメンバ61の両端部には、該フロントクロスメンバ61の上面から柱状に立ち上がる左右一対の前側柱部66、66が設けられており、これらの前側柱部66、66の上端は、フロントサイドフレーム1、1の前端部の下面に図示しない締結部材によって結合されている。
【0035】
各エクステンションフレーム6、6の前後方向においてサブクロスメンバ65が接続される位置には、各エクステンションフレーム6、6を車体幅方向外側から跨ぐとともに、上方に立ち上がる左右一対の柱状の後側柱部67、67が設けられている。これらの後側柱部67、67の上端は、フロントサイドフレーム1、1の下面に図示しない締結部材によって結合されている。
【0036】
これらの前側柱部66、66および後側柱部67、67によって、エクステンションフレーム6、6が、フロントサイドフレーム1、1に連結されている。
【0037】
ここで、
図4~
図8を用いて、上述のサスペンションリンク支持部材5、5について詳しく説明する。なお、
図4~
図8では、図示する車体左側のサスペンションリンク支持部材5についてのみ説明するが、車体右側のサスペンションリンク支持部材5についても同様である。
【0038】
図4および
図5に示すようにサスペンションリンク支持部材5の本体部50は、エクステンションフレーム6が連結される前方部51と、車体前後方向に延びるとともにフロントサイドフレーム1の傾斜部12の後端部に取り付けられる後方部52と、前方部51と後方部52との間を繋ぐ中間部53とを有している。
【0039】
前方部51は、後方部52よりも車体幅方向内側に配置されているので、前方部51と、後方部52とは、車体幅方向にオフセットして設けられている。前方部51と後方部52とを繋ぐ中間部53は、車体前方側から後方側に向けて車体幅方向内側から車体幅方向外側に広がるように形成されている。
【0040】
図4に示すように、前方部51の前端面には、車体前方に開いた凹部状の連結部51aが設けられている。連結部51aには、エクステンションフレーム6の後端部が車体前方側から差し込まれて連結されるようになっている。エクステンションフレーム6と、連結部51aとは、前方部51の下面側から締結部材51b、51bによって締結されている。
【0041】
図5に示すように、後方部52の後端部52aには、後方部52の後端部52aには、後方および下方に開く底面視で断面U字状の溝部52bが設けられている。この溝部52bの上面は、サスペンションリンク支持部材5をボルト等の締結部材によって、フロントサイドフレーム1の傾斜部12の後部に締結するための後側取付部としての車体取付部52cが設けられている(
図6参照)。なお、
図6に示すように、溝部52bよりも車体前方側の上面部54には、側面視で下方に凹む除肉部54aが設けられている。
【0042】
図4および
図5に示すように、中間部53には、サスペンションリンク42の基端部43を支持するための車体幅方向外側に開いた凹部状の支持部55が設けられている。サスペンションリンク42の支持部55の詳細については後述する。
【0043】
図6に示すように、中間部53の後半部から後方部52にかけて、その上面部54は、側面視においてフロントサイドフレーム1の傾斜部12の下面に沿って、車体後方側に向かって車体下方側へ傾斜して形成されている。
【0044】
図4および
図7に示すように、前方部51および中間部53の前半部には、その上部において、車体幅方向外側に広がる変形抑制部としてのひさし部56が設けられている。ひさし部56は、前方部51の前端部から中間部53の支持部55にかけて、車体前後方向に延びるように形成されている。ひさし部56は、車体幅方向内側から車体幅方向外側に向けて上方に傾斜されている。これにより、車輪のバウンド時等に、ひさし部56の下方に配置されているサスペンションリンク42が揺動した場合に、サスペンションリンク42と、ひさし部56とが干渉することが回避されている。
【0045】
図6および
図7に示すように、ひさし部56の車体前後方向において前方部51と中間部53との間の位置には、その上面からフロントサイドフレーム1の前部11の下面の高さまで延びる柱状の柱部57が設けられている。柱部57は、その内部で下方から上方に延びる円柱状の空間57aを有する中空状に形成されている。柱部57の上面には、サスペンションリンク支持部材5を、ボルト等の締結部材によってフロントサイドフレーム1の前部11の下面に取り付けるための前側取付部としての第2の車体取付部57bが設けられている。なお、柱部57内の空間57aは、サスペンションリンク支持部材5をフロントサイドフレーム1に取り付ける際の工具が挿入される挿入部として設けられている。
【0046】
ひさし部56の上面には、
図4および
図6に示すように、第2の車体取付部57bの後端からひさし部56の後部に延びるリブ部58が設けられている。リブ部58は、車体側面視においてフロントサイドフレーム1の傾斜部12の下面に沿って車体後方に向けて下方側へ傾斜して形成されている。リブ部58の上面58aは、中間部53から後方部52の上面部54に連続して形成されている。
【0047】
これにより、第2の車体取付部57bと、車体取付部52cとは、リブ部58および上面部54によって連続するように形成されている。
【0048】
図7および
図8に示すように、前方部51の連結部51aの車体後方には、エンジン2をマウントするためのエンジンマウント(図示せず)を支持するマウント受け部59が設けられている。
【0049】
マウント受け部59は、上方側が下方側よりも車体内側に傾斜する円筒部59aと、該円筒部59aの下端部を覆う底部59bとを有している。マウント受け部59は、上方側が車体幅方向内側(エンジンルーム側)に膨出するとともに、下方側は車体幅方向外側のひさし部56の下方に膨出するように形成されている。なお、底部59bの車体幅方向内側には、水抜き用の孔59cが設けられている。マウント受け部59の外方には、取付孔59d…59dが設けられており、エンジンマウントのラバーブッシュのカバー21(
図3参照)がボルト等の締結部材によって固定されるようになっている。
【0050】
図1および
図3に示すように、本実施形態のサスペンション装置のロアアーム41、42は、2本のロアアーム41、42で形成されている。これらの2本のロアアーム41、42のうち、車体前方側のロアアーム41は、車体幅方向に延びるラテラルリンクで構成され、このラテラルロアアーム41の車体幅方向内側の端部は、エクステンションフレーム6の後側柱部67の後方に取り付けられたブラケット(図示せず)によって揺動自在に支持されている。
【0051】
上述の2本のロアアーム41、42のうち、車体後方側のロアアーム42は、コンプレッションリンクで構成され、このコンプレッションロアアーム42は、前述のサスペンションリンク支持部材5の支持部55から車体幅方向外側に向かって前方に延びる用に設けられている。このコンプレッションロアアーム42の車体内方側の端部は、ブッシュを介して支持部55に揺動自在に支持されている。なお、特許請求の範囲における「サスペンションリンク」は、「コンプレッションロアアーム」に相当する。
【0052】
これらのロアアーム41、42の車体幅方向外側の端部は、模式的に示したナックル71に、上下方向に延びる軸周りで回転自在に連結されている。ナックル71は、図示しないハブを介して前輪72を回転自在に支持している。
【0053】
次に、
図4、
図6および
図8を用いてコンプレッションロアアーム42の支持部55への取付構造について説明する。
【0054】
支持部55には、凹部を形成する車体前後方向の両壁部55a、55bが設けられている。この両壁部55a、55bには、コンプレッションロアアーム42の基端部43に圧入されたブッシュ44を貫通して支持するピンを挿通するための挿入孔55c、55dがそれぞれ設けられている。
【0055】
なお、中間部53には、
図8に示すように、支持部55の車体前方で車体幅方向内側に開いた除肉部53aと、支持部55の車体後方で車体幅方向外側に開いた除肉部53bとが形成されている。これらの除肉部53a、53bは、サスペンションリンク支持部材5にコンプレッションロアアーム42を取り付ける際の工具を差し込むための差し込み部としても機能する。
【0056】
図8に示すように、コンプレッションロアアーム42は、挿入孔55c、55dを繋ぐ線分を回動軸aとして揺動する。この回動軸aは、平面視で車体前方側が車体幅方向内側に傾斜するように設けられている。また、車体取付部52cと、第2の車体取付部57bとを結ぶ線分bは、車体前後方向に延びている。そして、この線分bと、回動軸aとは、平面視において交差する関係を有している。
【0057】
次に本実施形態に係る車両のサスペンションリンク支持構造およびサスペンションリンク支持部材の作用および効果について説明する。
【0058】
フロントサイドフレーム1、1と、エクステンションフレーム6、6とは、車両の前突時にそれぞれの前端のメインクラッシュカン16、16およびサブクラッシュカン63、63が潰れた後に変形を開始し、フロントサイドフレーム1、1とエクステンションフレーム6、6が協働して変形し衝撃を吸収するので、前突時に入力される荷重を、2つの経路で吸収するとともに、車体に伝達することができる。
【0059】
また、エクステンションフレーム6、6の後端には、サスペンションリンク支持部材5、5が連結されている。サスペンションリンク支持部材5、5は、2つの車体取付部52c、52c、57b、57bで、フロントサイドフレーム1、1の前部11、11と、フロントサイドフレーム1、1の傾斜部12、12の後部とに締結されている。これにより、サスペンションリンク支持部材5、5は支持剛性が高められているため、エクステンションフレーム6、6の衝撃吸収機能を促進することができる。
【0060】
図8に示すように、平面視において、コンプレッションロアアーム42の回転軸aと、車体取付部52cと第2の車体取付部57bとを結ぶ線分bとは、平面視で交差するように設けられている。サスペンションリンク支持部材5における車体取付部52cと第2の車体取付部57bとが設けられることによって取付剛性が高められた部位に、コンプレッションロアアーム42の支持部55を設けたことにより、車両の挙動変化によって発生するコンプレッションロアアーム42からの入力を効率よく車体で受けることができる。その結果、サスペンションリンク支持部材5自体の剛性を上げることによる重量の増加や構造の大型化が回避される。
【0061】
また、サスペンションリンク支持部材5、5には、パワートレインのマウント受け部59、59が設けられているので、パワートレインのマウントを支持する機能を有している。
【0062】
以上により、サスペンションリンク支持部材5、5は、サスペンションリンク支持機能と、パワートレインのマウント支持機能と、前突時の衝撃吸収を促進させる機能との3つの機能を有する。
【0063】
また、例えば、サスペンションリンク支持部材が、フロントサイドフレームの下方に配置されてサスペンションリンクを支持する左右辺部と、該左右辺部から立ち上がるとともにフロントサイドフレームと左右辺部とを連結する柱状のタワー部とで形成される場合に比して、本実施形態においては、前述の左右辺部とタワー部とをサスペンションリンク支持部材が兼ねているため、部品点数の削減および組立工数を削減することができる。
【0064】
前記サスペンションリンク支持部材は、左右に一対配置されているので、特許文献1に記載のサブフレームのように左右辺部と、左右辺部の前端で左右辺部を繋ぐ場合に比して重量増を抑制することができる。
【0065】
サスペンションリンク支持部材5、5によってエクステンションフレーム6、6の荷重吸収が促進され、前突荷重を確実に吸収することに加え、サスペンションリンク支持部材5、5によってエンジン2が支持されているので、パワートレインの後退を効果的に抑制することができる。
【0066】
図6に示すように、サスペンションリンク支持部材5、5の前部には、エクステンションフレーム6、6が取り付けられており、エクステンションフレーム6、6は、サスペンションリンク支持部材5、5の2つの車体取付部52c、52c、57b、57bのうち後方側の低い位置に近い位置に配置されている。
【0067】
これにより、車高の高い車のように、フロントサイドフレーム1、1が高く配置される場合においても、フロントサイドフレーム1、1の位置にかかわらず、エクステンションフレーム6、6を低い位置に配置することができる。すなわち、フロントサイドフレーム1、1と、エクステンションフレーム6、6との高さ方向の距離Hを広くすることができる。
【0068】
その結果、例えば、前突時に荷重が入力される範囲が上下に広い場合においても、フロントサイドフレーム1、1およびエクステンションフレーム6、6による2本のロードパスR1、R2を機能させることで、効果的に荷重を吸収することができる。
【0069】
具体的には、前突時において、車両に入力される荷重Fは、フロントサイドフレーム1、1に入力される荷重F1と、エクステンションフレーム6、6に入力される荷重F2とに分割される。荷重F1は、フロントサイドフレーム1、1から車体後方へ伝達されるロードパスR1によって吸収されるとともに伝達される。荷重F2は、エクステンションフレーム6、6からサスペンションリンク支持部材5、5および車体取付部52c、52cを介してフロントサイドフレーム1、1の傾斜部12、12の後方に伝達されるロードパスR2によって吸収されるとともに伝達が行われる。
【0070】
ところで、例えば、サスペンションリンク支持部材が、フロントサイドフレームの下方に配置されてサスペンションリンクを支持する左右辺部と、該左右辺部から立ち上がるとともにフロントサイドフレームと左右辺部とを連結する柱状のタワー部とで形成される構造においては、フロントサイドフレームとエクステンションフレームの上下方向の距離を広く確保するために、タワー部材の上下方向における中間部から前方に延びるエクステンションフレームを下方に移動させて配置することが考えられる。
【0071】
上述のような左右辺部とタワー部材とを有する構造の場合、下方に移動させたエクステンションフレームによる入力荷重の吸収を促進させるためには、タワー部材およびタワー部材と左右辺部との連結部をより強固な構成とする必要がある。その結果、車両重量の増加および構造の大型化につながってしまう。
【0072】
これに対して、本実施形態において、サスペンションリンク支持部材5、5は、車体取付部52c、52cおよび第2の車体取付部57b、57bによって、フロントサイドフレーム1、1の下方、かつ、車体前方から車体後方にかけて強固に取り付けられている。その結果、サスペンションリンク支持部材5、5によって、エクステンションフレーム6、6における荷重の吸収を効果的に促進させることができる。
【0073】
また、車体取付部52c、52cと第2の車体取付部57b、57bとは、リブ部58と、上面部54とによって連続して設けられているので、2つの車体取付部52c、52c、57b、57b間の相対変位を抑制することができる。その結果、エクステンションフレーム6、6における前突荷重の吸収をサスペンションリンク支持部材5、5によってより効果的に促進することができる。
【0074】
なお、サスペンションリンク支持部材が、左右辺部と一体に設けられるとともに左右辺部の前端から立ち上がるタワー部とを有する側面視においてL字状の形状であり、サスペンションリンク支持部材がタワー部と、左右辺部の後端とに車体への前側および後側取付部を有する場合は、前側取付部と後側取付部とを筋交い状の部材によって連結することで、前述のリブ部58および上面部54のように、2つの車体取付部間の相対変位を抑制することができる。
【産業上の利用可能性】
【0075】
以上のように、本発明によれば、サスペンションリンク支持構造およびサスペンションリンク支持部材では、車高の高さにかかわらず、フロントサイドフレームおよびエクステンションフレームによる前突荷重の吸収を図ることができるので、車両の車体の製造産業分野において好適に利用される可能性がある。
【符号の説明】
【0076】
1、1 フロントサイドフレーム(第1フレーム部材)
5、5 サスペンションリンク支持部材
6、6 エクステンションフレーム(第2フレーム部材)
42、42 コンプレッションロアアーム(サスペンションリンク)
52c、52c 車体取付部(後側取付部)
57b、57b 第2の車体取付部(前側取付部)