(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】制動制御装置
(51)【国際特許分類】
B60T 13/74 20060101AFI20220412BHJP
B60T 8/00 20060101ALI20220412BHJP
B60T 17/18 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B60T13/74 G
B60T8/00 Z
B60T17/18
(21)【出願番号】P 2018058848
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-02-08
(73)【特許権者】
【識別番号】301065892
【氏名又は名称】株式会社アドヴィックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】浦岡 照薫
【審査官】大谷 謙仁
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-537130(JP,A)
【文献】特開2017-210031(JP,A)
【文献】特表2014-504231(JP,A)
【文献】特開2013-244801(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0042171(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60T 13/74
B60T 8/00
B60T 17/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の車輪に対する液圧による制動力である液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキと、モータによって駆動される車輪ブレーキ機構によって前記車輪に前記液圧制動力とは別の制動力である電動制動力を発生させる電動駐車ブレーキと、を備える車両に適用される制動制御装置であって、
目標制動力に基いて前記モータに入力する電流の目標値である電流目標値を決定し、前記電流目標値に基いて前記電動駐車ブレーキを制御する電動駐車ブレーキ制御部を、備え、
前記電動駐車ブレーキ制御部は、
前記モータに入力された電流の検出値である電流検出値に基いて前記液圧ブレーキの前記液圧を推定する、制動制御装置。
【請求項2】
前記車輪ブレーキ機構において前記モータによって推進軸の先端がピストンに当接しているか否かを判定するための前記電流検出値に関する所定の閾値が設定されており、
前記電動駐車ブレーキ制御部は、
前記モータの駆動を開始してから、前記電流検出値が開始直後の突入電流以外で初めて前記所定の閾値に達するまでの時間の長さに基いて、前記液圧ブレーキの前記液圧を推定する、請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項3】
前記電動駐車ブレーキ制御部は、
前記電流検出値が前記開始直後の突入電流以外で初めて前記所定の閾値に達した後、前記電流検出値の変化率に基いて、前記液圧ブレーキの前記液圧を推定する、請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項4】
前記電動駐車ブレーキ制御部は、
前記電流検出値が前記開始直後の突入電流以外で初めて前記所定の閾値に達した後、前記電流検出値が所定値以上の変化率で前記所定の閾値未満に低下した場合、前記所定の閾値に達するまでは、前記液圧ブレーキの前記液圧を推定することを停止し、前記電流目標値を所定の固定値に設定する、請求項2に記載の制動制御装置。
【請求項5】
前記電動駐車ブレーキ制御部は、
前記車輪ブレーキ機構における摩擦材の摩擦量に基いて、推定した前記液圧を補正する、請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項6】
前記電動駐車ブレーキ制御部によって推定された前記液圧ブレーキの前記液圧を所定の制御に用いる、前記電動駐車ブレーキ制御部とは異なる制御部、をさらに備える、請求項1に記載の制動制御装置。
【請求項7】
前記車両は、前記液圧を検出する液圧センサを備えており、
前記電動駐車ブレーキ制御部は、
前記液圧センサが正常に作動している場合、前記液圧センサによる前記液圧の検出値である液圧検出値に基いて前記電流目標値を補正し、
前記液圧センサが正常に作動していない場合、前記電流検出値に基いて前記液圧ブレーキの前記液圧を推定し、推定された前記液圧に基いて前記電流目標値を補正する、請求項1に記載の制動制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、制動制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、乗用車等の各種の車両に電動駐車ブレーキ(以下、EPB(Electric Parking Brake)ともいう。)が多く採用されている。EPBを制御する制動制御装置は、例えば、モータによって車輪ブレーキ機構を駆動することで電動駐車ブレーキ力を発生させる。
【0003】
具体的には、例えば、制動制御装置は、電動駐車ブレーキ力を発生させる際に、モータに入力される電流の目標値である電流目標値を決定し、モータの電流検出値がその電流目標値となるように、モータに入力される電流を制御する。
【0004】
また、電動駐車ブレーキ力が発生している場合にドライバ(運転者)がブレーキペダルを踏むと、液圧ブレーキ機構による液圧ブレーキ力も併せて発生する。電動駐車ブレーキ力と液圧ブレーキ力が重複して発生すると余分なブレーキ力が発生する場合もあるため、液圧センサによって検出されたブレーキ液の液圧に応じて電動駐車ブレーキ力を低減させる技術がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上述の従来技術では、液圧センサによる正しい液圧検出値が必要となるので、液圧センサによる正しい液圧検出値が得られない場合には対応できないという問題がある。
【0007】
そこで、本発明の課題の一つは、例えば、液圧センサによる正しい液圧検出値が得られない場合でも液圧ブレーキの液圧を推定可能な制動制御装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、例えば、車両の車輪に対する液圧による制動力である液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキと、モータによって駆動される車輪ブレーキ機構によって前記車輪に前記液圧制動力とは別の制動力である電動制動力を発生させる電動駐車ブレーキと、を備える車両に適用される制動制御装置であって、目標制動力に基いて前記モータに入力する電流の目標値である電流目標値を決定し、前記電流目標値に基いて前記電動駐車ブレーキを制御する電動駐車ブレーキ制御部を、備える。前記電動駐車ブレーキ制御部は、前記モータに入力された電流の検出値である電流検出値に基いて前記液圧ブレーキの前記液圧を推定する。
【0009】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記車輪ブレーキ機構において前記モータによって推進軸の先端がピストンに当接しているか否かを判定するための前記電流検出値に関する所定の閾値が設定されており、前記電動駐車ブレーキ制御部は、前記モータの駆動を開始してから、前記電流検出値が開始直後の突入電流以外で初めて前記所定の閾値に達するまでの時間の長さに基いて、前記液圧ブレーキの前記液圧を推定する。
【0010】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記電動駐車ブレーキ制御部は、前記電流検出値が前記開始直後の突入電流以外で初めて前記所定の閾値に達した後、前記電流検出値の変化率に基いて、前記液圧ブレーキの前記液圧を推定する。
【0011】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記電動駐車ブレーキ制御部は、前記電流検出値が前記開始直後の突入電流以外で初めて前記所定の閾値に達した後、前記電流検出値が所定値以上の変化率で前記所定の閾値未満に低下した場合、前記所定の閾値に達するまでは、前記液圧ブレーキの前記液圧を推定することを停止し、前記電流目標値を所定の固定値に設定する。
【0012】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記電動駐車ブレーキ制御部は、前記車輪ブレーキ機構における摩擦材の摩擦量に基いて、推定された前記液圧を補正する。
【0013】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記電動駐車ブレーキ制御部によって推定された前記液圧ブレーキの前記液圧を所定の制御に用いる、前記電動駐車ブレーキ制御部とは異なる制御部、をさらに備える。
【0014】
また、上記の制動制御装置では、例えば、前記車両は、前記液圧を検出する液圧センサを備えており、前記電動駐車ブレーキ制御部は、前記液圧センサが正常に作動している場合、前記液圧センサによる前記液圧の検出値である液圧検出値に基いて前記電流目標値を補正し、前記液圧センサが正常に作動していない場合、前記電流検出値に基いて前記液圧ブレーキの前記液圧を推定し、推定された前記液圧に基いて前記電流目標値を補正する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】
図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
【
図2】
図2は、実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。
【
図3A】
図3Aは、実施形態のW/Cにおける推進軸とピストンの間のクリアランスの説明図である。
【
図3B】
図3Bは、実施形態のW/Cにおける推進軸とピストンの間のクリアランスの説明図である。
【
図4】
図4は、実施形態における無負荷判定時間と推定W/C圧の関係を示すマップ1である。
【
図5】
図5は、実施形態における無負荷状態でのW/C圧推定を説明するためのグラフである。
【
図6】
図6は、実施形態における踏力の変化と液圧やEPB圧の変化の関係の説明図である。
【
図7】
図7は、実施形態における電流変化率と推定W/C圧変化率の関係を示すマップ2である。
【
図8】
図8は、実施形態における加負荷状態でのW/C圧推定を説明するためのグラフである。
【
図9】
図9は、実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の例示的な実施形態が開示される。以下に示される実施形態の構成、ならびに当該構成によってもたらされる作用および結果(効果)は、例である。本発明は、以下の実施形態に開示される構成以外によっても実現可能である。また、本発明によれば、以下の構成によって得られる種々の効果(派生的な効果も含む)のうち少なくとも一つを得ることが可能である。
【0017】
本実施形態では、後輪系にディスクブレーキタイプのEPBを適用している車両用ブレーキ装置を例に挙げて説明する。
図1は、実施形態の車両用ブレーキ装置の全体概要を示す模式図である。
図2は、実施形態の車両用ブレーキ装置に備えられる後輪系の車輪ブレーキ機構の断面模式図である。以下、これらの図を参照して説明する。
【0018】
図1に示すように、実施形態の車両用ブレーキ装置は、ドライバ(運転者)の踏力に基いてサービスブレーキ力(液圧制動力)を発生させるサービスブレーキ1と、駐車時などに車両の移動を規制するためのEPB2と、を備えている。
【0019】
サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに基いてブレーキ液圧を発生させ、このブレーキ液圧に基いてサービスブレーキ力を発生させる液圧ブレーキ機構である。具体的には、サービスブレーキ1は、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みに応じた踏力を倍力装置4にて倍力したのち、この倍力された踏力に応じたブレーキ液圧をマスタシリンダ(以下、M/Cという。)5内に発生させる。そして、このブレーキ液圧を各車輪の車輪ブレーキ機構に備えられたホイールシリンダ(以下、W/Cという。)6に伝えることでサービスブレーキ力を発生させる。また、M/C5とW/C6との間にブレーキ液圧制御用のアクチュエータ7が備えられている。アクチュエータ7は、サービスブレーキ1により発生させるサービスブレーキ力を調整し、車両の安全性を向上させるための各種制御(例えば、アンチスキッド制御等)を行う。
【0020】
アクチュエータ7を用いた各種制御は、サービスブレーキ力を制御するESC(Electronic Stability Control)-ECU8にて実行される。例えば、アクチュエータ7に備えられる図示しない各種制御弁やポンプ駆動用のモータを制御するための制御電流をESC-ECU8が出力することにより、アクチュエータ7に備えられる液圧回路を制御し、W/C6に伝えられるW/C圧を制御する。これにより、車輪スリップの回避などを行い、車両の安全性を向上させる。例えば、アクチュエータ7は、各車輪毎に、W/C6に対してM/C5内に発生させられたブレーキ液圧もしくはポンプ駆動により発生させられたブレーキ液圧が加えられることを制御する増圧制御弁や、各W/C6内のブレーキ液をリザーバに供給することでW/C圧を減少させる減圧制御弁等を備えており、W/C圧を増圧・保持・減圧制御できる構成とされている。また、アクチュエータ7は、サービスブレーキ1の自動加圧機能を実現可能にしており、ポンプ駆動および各種制御弁の制御に基いて、ブレーキ操作がない状態であっても自動的にW/C6を加圧できるようにしている。このアクチュエータ7の構成に関しては、従来から周知であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0021】
一方、EPB2は、モータ10によって車輪ブレーキ機構を駆動させることで電動駐車ブレーキ力を発生させるものであり、モータ10の駆動を制御するEPB制御装置(以下、EPB-ECUという。)9(制動制御装置)を有して構成されている。なお、EPB-ECU9とESC-ECU8は、例えばCAN(Controller Area Network)通信によって情報の送受信を行う。
【0022】
車輪ブレーキ機構は、本実施形態の車両用ブレーキ装置においてブレーキ力を発生させる機械的構造であり、まず、前輪系の車輪ブレーキ機構はサービスブレーキ1の操作によってサービスブレーキ力を発生させる構造とされている。一方、後輪系の車輪ブレーキ機構は、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の構造とされている。前輪系の車輪ブレーキ機構は、後輪系の車輪ブレーキ機構に対して、EPB2の操作に基いて電動駐車ブレーキ力を発生させる機構をなくした従来から一般的に用いられている車輪ブレーキ機構であるため、ここでは説明を省略し、以下では後輪系の車輪ブレーキ機構について説明する。
【0023】
後輪系の車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1を作動させたときだけでなくEPB2を作動させたときにも、
図2に示す摩擦材であるブレーキパッド11を押圧し、ブレーキパッド11によって被摩擦材であるブレーキディスク12(12RL、12RR、12FR、12FL)を挟み込むことにより、ブレーキパッド11とブレーキディスク12との間に摩擦力を発生させ、ブレーキ力を発生させる。
【0024】
具体的には、車輪ブレーキ機構は、
図1に示すキャリパ13内において、
図2に示すようにブレーキパッド11を押圧するためのW/C6のボディ14に直接固定されているモータ10を回転させることにより、モータ10の駆動軸10aに備えられた平歯車15を回転させる。そして、平歯車15に噛合わされた平歯車16にモータ10の回転力(出力)を伝えることによりブレーキパッド11を移動させ、EPB2による電動駐車ブレーキ力を発生させる。
【0025】
キャリパ13内には、W/C6およびブレーキパッド11に加えて、ブレーキパッド11に挟み込まれるようにしてブレーキディスク12の端面の一部が収容されている。W/C6は、シリンダ状のボディ14の中空部14a内に通路14bを通じてブレーキ液圧を導入することで、ブレーキ液収容室である中空部14a内にW/C圧を発生させられるようになっており、中空部14a内に回転軸17、推進軸18、ピストン19などを備えて構成されている。
【0026】
回転軸17は、一端がボディ14に形成された挿入孔14cを通じて平歯車16に連結され、平歯車16が回動させられると、平歯車16の回動に伴って回動させられる。この回転軸17における平歯車16と連結された端部とは反対側の端部において、回転軸17の外周面には雄ネジ溝17aが形成されている。一方、回転軸17の他端は、挿入孔14cに挿入されることで軸支されている。具体的には、挿入孔14cには、Oリング20と共に軸受け21が備えられており、Oリング20にて回転軸17と挿入孔14cの内壁面との間を通じてブレーキ液が漏れ出さないようにされながら、軸受け21により回転軸17の他端を軸支持している。
【0027】
推進軸18は、中空状の筒部材からなるナットにて構成され、内壁面に回転軸17の雄ネジ溝17aと螺合する雌ネジ溝18aが形成されている。この推進軸18は、例えば回転防止用のキーを備えた円柱状もしくは多角柱状に構成されることで、回転軸17が回動しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられない構造になっている。このため、回転軸17が回動させられると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いにより、回転軸17の回転力を回転軸17の軸方向に推進軸18を移動させる力に変換する。推進軸18は、モータ10の駆動が停止されると、雄ネジ溝17aと雌ネジ溝18aとの噛合いによる摩擦力により同じ位置で止まるようになっており、目標とする電動駐車ブレーキ力になったときにモータ10の駆動を停止すれば、推進軸18がその位置で保持され、所望の電動駐車ブレーキ力を保持してセルフロック(以下、単に「ロック」という。)できるようになっている。
【0028】
ピストン19は、推進軸18の外周を囲むように配置されるもので、有底の円筒部材もしくは多角筒部材にて構成され、外周面がボディ14に形成された中空部14aの内壁面と接するように配置されている。ピストン19の外周面とボディ14の内壁面との間のブレーキ液漏れが生じないように、ボディ14の内壁面にシール部材22が備えられ、ピストン19の端面にW/C圧を付与できる構造とされている。シール部材22は、ロック制御後のリリース制御時にピストン19を引き戻すための反力を発生させるために用いられる。このシール部材22を備えてあるため、基本的には旋回中に傾斜したブレーキディスク12によってブレーキパッド11およびピストン19がシール部材22の弾性変形量を超えない範囲で押し込まれても、それらをブレーキディスク12側に押し戻してブレーキディスク12とブレーキパッド11との間が所定のクリアランスで保持されるようにできる。
【0029】
また、ピストン19は、回転軸17が回転しても回転軸17の回動中心を中心として回動させられないように、推進軸18に回転防止用のキーが備えられる場合にはそのキーが摺動するキー溝が備えられ、推進軸18が多角柱状とされる場合にはそれと対応する形状の多角筒状とされる。
【0030】
このピストン19の先端にブレーキパッド11が配置され、ピストン19の移動に伴ってブレーキパッド11を紙面左右方向に移動させるようになっている。具体的には、ピストン19は、推進軸18の移動に伴って紙面左方向に移動可能で、かつ、ピストン19の端部(ブレーキパッド11が配置された端部と反対側の端部)にW/C圧が付与されることで推進軸18から独立して紙面左方向に移動可能な構成とされている。そして、推進軸18が通常リリースのときの待機位置であるリリース位置(モータ10が回転させられる前の状態)のときに、中空部14a内のブレーキ液圧が付与されていない状態(W/C圧=0)であれば、後述するシール部材22の弾性力によりピストン19が紙面右方向に移動させられ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離間させられるようになっている。また、モータ10が回転させられて推進軸18が初期位置から紙面左方向に移動させられているときには、W/C圧が0になっても、移動した推進軸18によってピストン19の紙面右方向への移動が規制され、ブレーキパッド11がその場所で保持される。
【0031】
このように構成された車輪ブレーキ機構では、サービスブレーキ1が操作されると、それにより発生させられたW/C圧に基いてピストン19が紙面左方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、サービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2が操作されると、モータ10が駆動されることで平歯車15が回転させられ、それに伴って平歯車16および回転軸17が回転させられるため、雄ネジ溝17aおよび雌ネジ溝18aの噛合いに基いて推進軸18がブレーキディスク12側(紙面左方向)に移動させられる。そして、それに伴って推進軸18の先端がピストン19の底面に当接してピストン19を押圧し、ピストン19も同方向に移動させられることでブレーキパッド11がブレーキディスク12に押圧され、電動駐車ブレーキ力を発生させる。このため、サービスブレーキ1の操作とEPB2の操作の双方に対してブレーキ力を発生させる共用の車輪ブレーキ機構とすることが可能となる。
【0032】
また、以下では、このような車輪ブレーキ機構において、EPB2を作動させたときに、推進軸18がピストン19に当接していない状態で、推進軸18にかかる負荷が小さくてモータ10への負荷も小さい状態のことを「無負荷状態」と称する。また、推進軸18がピストン19に当接している状態を「加負荷状態」と称する。
【0033】
そして、推進軸18がピストン19に当接している加負荷状態でブレーキパッド11にてブレーキディスク12を押圧するときには、EPB2による電動駐車ブレーキ力が発生させられることになり、モータ10に大きな負荷がかかり、その負荷の大きさに応じてモータ10の電流検出値が変化する。このため、モータ10の電流を検出する電流センサ(不図示)による電流検出値を確認することにより、EPB2による電動駐車ブレーキ力の発生状態を確認したり、その電流検出値を認識したりすることができるようになっている。
【0034】
前後Gセンサ25は、車両の前後方向(進行方向)のG(加速度)を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0035】
M/C圧センサ26は、M/C5におけるM/C圧を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0036】
温度センサ28は、車輪ブレーキ機構(例えばブレーキディスク)の温度を検出して、検出信号をEPB-ECU9に送信する。
【0037】
車輪速センサ29は、各車輪の回転速度を検出し、検出信号をEPB-ECU9に送信する。なお、車輪速センサ29は、実際には各車輪に対応して1つずつ設けられるが、ここでは、詳細な図示や説明を省略する。
【0038】
EPB-ECU9は、CPU、ROM、RAM、I/Oなどを備えた周知のマイクロコンピュータによって構成され、ROMなどに記憶されたプログラムにしたがってモータ10の回転を制御することにより駐車ブレーキ制御を行うものである。
【0039】
EPB-ECU9は、例えば車室内のインストルメントパネル(図示せず)に備えられた操作スイッチ(SW)23の操作状態に応じた信号等を入力し、操作SW23の操作状態に応じてモータ10を駆動する。さらに、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値に基いてロック制御やリリース制御などを実行するものであり、その制御状態に基いてロック制御中であることやロック制御によって車輪がロック状態であること、および、リリース制御中であることやリリース制御によって車輪がリリース状態(EPB解除状態)であることを認識する。そして、EPB-ECU9は、インストルメントパネルに備えられた表示ランプ24に対し、各種表示を行わせるための信号を出力する。
【0040】
以上のように構成された車両用ブレーキ装置では、基本的には、車両走行時にサービスブレーキ1によってサービスブレーキ力を発生させることで車両に制動力を発生させるという動作を行う。また、サービスブレーキ1によって車両が停車した際に、ドライバが操作SW23を押下してEPB2を作動させて電動駐車ブレーキ力を発生させることで停車状態を維持したり、その後に電動駐車ブレーキ力を解除したりするという動作を行う。すなわち、サービスブレーキ1の動作としては、車両走行時にドライバによるブレーキペダル3の操作が行われると、M/C5に発生したブレーキ液圧がW/C6に伝えられることでサービスブレーキ力を発生させる。また、EPB2の動作としては、モータ10を駆動することでピストン19を移動させ、ブレーキパッド11をブレーキディスク12に押し付けることで電動駐車ブレーキ力を発生させて車輪をロック状態にしたり、ブレーキパッド11をブレーキディスク12から離すことで電動駐車ブレーキ力を解除して車輪をリリース状態にしたりする。
【0041】
具体的には、ロック・リリース制御により、電動駐車ブレーキ力を発生させたり解除したりする。ロック制御では、モータ10を正回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて所望の電動駐車ブレーキ力を発生させられる位置でモータ10の回転を停止し、この状態を維持する。これにより、所望の電動駐車ブレーキ力を発生させる。リリース制御では、モータ10を逆回転させることによりEPB2を作動させ、EPB2にて発生させられている電動駐車ブレーキ力を解除する。
【0042】
また、電動駐車ブレーキ力が発生している場合にドライバがブレーキペダルを踏むと、液圧ブレーキ機構による液圧ブレーキ力も併せて発生する。電動駐車ブレーキ力と液圧ブレーキ力が重複して発生すると余分なブレーキ力が発生する場合もあるため、M/C圧センサ26によるブレーキ液の液圧検出値に応じて電動駐車ブレーキ力を低減させる。しかし、M/C圧センサ26が故障していたり、あるいは、もともと液圧センサが無かったりすることで、液圧センサによる正しい液圧検出値が得られない場合も考えられる。
【0043】
そこで、以下において、液圧センサによる正しい液圧検出値が得られない場合でも液圧ブレーキの液圧を推定する技術について説明する。具体的には、上記のように構成されたブレーキシステムを用いてEPB-ECU9が、図示しない内蔵のROMに記憶されたプログラムにしたがって各種制御を実行する。
【0044】
EPB-ECU9は、車両の車輪に対する液圧による制動力である液圧制動力を発生可能な液圧ブレーキと、モータ10によって駆動される車輪ブレーキ機構によって車輪に液圧制動力とは別の制動力である電動制動力を発生させる電動駐車ブレーキと、を備える車両に適用される。また、EPB-ECU9は、目標制動力(例えば道路の勾配等に基いて決定)に基いてモータ10に入力する電流の目標値である電流目標値を決定し、電流目標値に基いてEPB2(電動駐車ブレーキ)を制御する。
【0045】
そして、M/C圧センサ26が正常に作動している場合、EPB-ECU9は、M/C圧センサ26による液圧検出値に基いて電流目標値を、その液圧の分だけEPB圧(電動駐車ブレーキによる圧力)が下がるように、補正する。これによって、電動駐車ブレーキ力と液圧ブレーキ力が重複することによる余分なブレーキ力の発生を抑えることができる。
【0046】
また、M/C圧センサ26が正常に作動していない場合、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値に基いて液圧ブレーキの液圧を推定し、推定された液圧に基いて電流目標値を、その液圧の分だけEPB圧が下がるように、補正する。以下において、まず、
図3A~
図5を参照して無負荷状態のときの液圧推定について説明し、その後、
図6~
図8を参照して加負荷状態のときの液圧推定について説明する。
【0047】
図3Aは、実施形態のW/C6における推進軸18とピストン19の間のクリアランスの説明図である。
図3Bは、実施形態のW/C6における推進軸18とピストン19の間のクリアランスの説明図である。
図3Aは、無負荷状態で、かつ、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みがない場合の推進軸18とピストン19の間のクリアランスW1を示している。
図3Bは、その状態から、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みがあった場合の推進軸18とピストン19の間のクリアランスW2を示している。つまり、ドライバによるブレーキペダル3の踏み込みがあると、液圧によってピストン19が紙面左方向に移動する分、推進軸18とピストン19の間のクリアランスはW1からW2に増加する。したがって、無負荷状態では、この推進軸18とピストン19の間のクリアランスの大きさによって、液圧(W/C圧)を推定することができる。なお、以下において、「推定W/C圧を算出する」は「W/C圧を推定する」と同義である。
【0048】
ここで、
図4は、実施形態における無負荷判定時間と推定W/C圧の関係を示すマップ1である。マップ1はEPB-ECU9内に記憶されている。
図4に示すマップ1では、無負荷判定時間と推定W/C圧(MPa)が対応付けられている。なお、
図4に示すマップ1におけるT1の値や無負荷判定時間と推定W/C圧の対応を示す線分の傾き等は予め実験等によって定めておけばよい。このマップ1に基いて、EPB-ECU9は、無負荷状態での液圧を推定することができる(詳細は後述)。
【0049】
図5は、実施形態における無負荷状態でのW/C圧推定を説明するためのグラフである。
図5(a)のグラフは、モータ10の電流検出値(A)の経時的変化の様子を示す。
図5(b)のグラフは、負荷判定の経時的変化の様子を示す。負荷判定において、作動加負荷とは、EPB2が作動しているときの加負荷状態を指す。作動無負荷とは、EPB2が作動しているときの無負荷状態を指す。非作動とは、EPB2が作動していない状態を指す。
図5(c)のグラフは、EPB-ECU9によって算出される推定W/C圧の経時的変化の様子を示す。
【0050】
時刻t0から時刻t1の直前までEPB2は非作動であり、時刻t1の時点でEPB2が作動開始したものとすると、その後、モータ10の電流検出値は
図5(a)に示す通りに推移する。また、車輪ブレーキ機構においてモータ10によって推進軸18の先端がピストン19に当接しているか否かを判定するためのモータ10の電流検出値に関する所定の閾値が設定されているものとする。
【0051】
そして、EPB-ECU9は、モータ10の駆動を開始(時刻t1)してから、電流検出値が開始直後の突入電流以外で初めて所定の閾値に達するまでの時間の長さ(時刻t1→時刻t5:無負荷判定時間)とマップ1(
図4)に基いて、推定W/C圧を算出する。ここでは、所定の閾値は、3MPaの液圧に対応して設定されている。なお、
図5(a)に示す例では、時刻t2、t3、t4、t5、t6が、それぞれ、0MPa、1MPa、2MPa、3MPa、4MPaの液圧に対応している。この例では、EPB-ECU9は、
図5(c)に示すように、時刻t5の時点でモータ10の電流検出値が所定の閾値に達しているので、推定W/C圧を3MPaと算出する。このようにして、EPB-ECU9は、無負荷状態における液圧を推定することができる。また、EPB-ECU9は、推定W/C圧に基いて電流目標値を、その推定W/C圧の分だけEPB圧が下がるように、補正する。
【0052】
次に、
図6~
図8を参照して加負荷状態のときの液圧推定について説明する。
図6は、実施形態における踏力の変化と液圧やEPB圧の変化の関係の説明図である。加負荷状態のときのある瞬間において、ブレーキディスク12(
図2)からのW/C6(ブレーキパッド11)に対する反発力を
図6の上段に示す大きさとし、ドライバによるブレーキペダル3に対する踏力が一定の場合の液圧とEPB圧を
図6(a)に示す大きさとする。
【0053】
その場合、ドライバによるブレーキペダル3に対する踏力が増加すると、
図6(b)に示すように、液圧が増加し、その分、EPB圧は減少する。また、ドライバによるブレーキペダル3に対する踏力が減少すると、
図6(c)に示すように、液圧が減少し、その分、EPB圧は増加する。
【0054】
つまり、液圧の変化率とEPB圧の変化率には相関関係がある。また、EPB圧の変化率とモータ10の電流検出値の変化率にも相関関係がある。したがって、加負荷状態では、モータ10の電流検出値の変化率(以下、「電流変化率」ともいう。)によって、液圧の変化率(W/C圧変化率)を推定することができる。
【0055】
ここで、
図7は、実施形態における電流変化率と推定W/C圧変化率の関係を示すマップ2である。マップ2はEPB-ECU9内に記憶されている。
図7に示すマップ2では、電流変化率(A/s)と推定W/C圧変化率(MPa/s)が対応付けられている。なお、
図7に示すマップ2における電流変化率(A/s)と推定W/C圧変化率(MPa/s)の対応を示す線分の傾き等は予め実験等によって定めておけばよい。このマップ2に基いて、EPB-ECU9は、加負荷状態での液圧を推定することができる(詳細は後述)。
【0056】
図8は、実施形態における加負荷状態でのW/C圧推定を説明するためのグラフである。
図8(a)のグラフは、加負荷状態でのモータ10の電流検出値(A)の経時的変化の様子を示す。
図8(b)のグラフは、踏力変化判定の経時的変化の様子を示す。
図8(c)のグラフは、EPB-ECU9によって算出される推定W/C圧の経時的変化の様子を示す。
【0057】
時刻t10から時刻t11までは、踏力が一定であり(
図8(b))、推定W/C圧も一定である(
図8(a))。また、時刻t11から時刻t12まで、踏力が増加しており(
図8(b))、EPB-ECU9は、次のようにして、推定W/C圧を算出する。
【0058】
EPB-ECU9は、まず、電流変化率とマップ2(
図7)に基いて、推定W/C圧変化率を算出する。その後、EPB-ECU9は、以下の式(1)により、推定W/C圧を算出する。
推定W/C圧=推定W/C圧前回値+推定W/C圧変化率×サンプリング時間 ・・・式(1)
【0059】
また、時刻t12から時刻t13まで、踏力は一定であり(
図8(b))、推定W/C圧も一定である(
図8(a))。また、時刻t13から時刻t14まで、踏力が減少しており(
図8(b))、EPB-ECU9は、踏力増加時と同様に推定W/C圧を算出する。また、時刻t14以降、踏力は一定であり(
図8(b))、推定W/C圧も一定である(
図8(a))。このようにして、EPB-ECU9は、加負荷状態における液圧を推定することができる。
【0060】
次に、
図9を参照して、実施形態の制動制御装置による処理について説明する。
図9は、実施形態の制動制御装置による処理を示すフローチャートである。
【0061】
ステップS1において、EPB-ECU9は、ユーザによって操作SW23を用いたEPB制御開始操作があったか否かを判定し、Yesの場合はステップS2に進み、Noの場合はステップS1に戻る。
【0062】
ステップS2において、EPB-ECU9は、目標制動力を決定する。次に、ステップS3において、EPB-ECU9は、ステップS2で決定された目標制動力に基いてモータ10の電流目標値を決定する。次に、ステップS4において、EPB-ECU9は、ステップS3で決定した電流目標値に基いてEPB制御を開始する。
【0063】
次に、ステップS5において、EPB-ECU9は、無負荷状態か否かを判定し、Yesの場合はステップS6に進み、Noの場合はステップS9に進む。ステップS5において、具体的には、EPB-ECU9は、モータ10の駆動を開始(
図5(a)の時刻t1)してから、モータ10の電流検出値が開始直後の突入電流以外で初めて所定の閾値に達する(
図5(a)の時刻t5)までを、無負荷状態と判定する。
【0064】
ステップS6において、EPB-ECU9は、無負荷判定時間をカウントする。次に、ステップS7において、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値が電流目標値を超えたか否かを判定し、Yesの場合はステップS8に進み、Noの場合はステップS5に戻る。ステップS8において、EPB-ECU9は、EPB制御を終了(車輪のロックを完了)する。
【0065】
ステップS9において、EPB-ECU9は、無負荷判定時間(
図5(b))とマップ1(
図4)に基いて、推定W/C圧を算出する。次に、ステップS10において、EPB-ECU9は、ステップS9で算出した推定W/C圧に基いて電流目標値を、その推定W/C圧の分だけEPB圧が下がるように、補正する。
【0066】
次に、ステップS11において、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値が所定の閾値以上であるか否かを判定し、Yesの場合はステップS12に進み、Noの場合はステップS14に進む。このステップS11は、加負荷状態のときにドライバがブレーキペダル3を急速に踏み込んだ場合にモータ10の電流検出値が所定の閾値未満となってステップS14に進むことを想定している。つまり、加負荷状態であっても、ドライバがブレーキペダル3を急速に踏み込むと、短時間ではあるが推進軸18の先端がピストン19から離れて無負荷状態となり、W/C圧の推定ができなくなるので、そのときは、ステップS14において、電流目標値を所定の固定値とする。この固定値は、アクチュエータ7やキャリパ13の強度等を考慮して、それらの部品等に過度な負荷がかからないための値として予め設定される。ステップS14の後、ステップS15に進む。つまり、EPB-ECU9は、ステップS14の後、モータ10の電流検出値が所定の閾値以上となる(ステップS11でYesになる)までは、推定W/C圧の算出を停止し、電流目標値を固定値のままとする。
【0067】
ステップS12において、EPB-ECU9は、電流検出値の変化率(電流変化率)とマップ2(
図7)に基いて推定W/C圧変化率を算出し、その推定W/C圧変化率と上述の式(1)により推定W/C圧を算出する。
【0068】
次に、ステップS13において、EPB-ECU9は、ステップS12で算出された推定W/C圧に基いて電流目標値を、その推定W/C圧の分だけEPB圧が下がるように、補正する。ステップS13の後、ステップS15に進む。
【0069】
ステップS15において、EPB-ECU9は、モータ10の電流検出値が電流目標値を超えたか否かを判定し、Yesの場合はステップS8に進み、Noの場合はステップS11に戻る。
【0070】
このようにして、本実施形態のEPB-ECU9(制動制御装置)によれば、液圧センサ(M/C圧センサ26等)による正しい液圧検出値が得られない場合でも、液圧ブレーキの液圧を推定することができる。したがって、例えば、液圧センサが無い場合でも液圧ブレーキの液圧を推定することができるため、ブレーキに関連する装置の小型化やコスト低減を図ることができる。また、M/C圧センサ26があって故障したとしても液圧ブレーキの液圧を推定でき、推定された液圧の分だけEPB圧を下げることで、アクチュエータ7やキャリパ13等に過度な負荷がかかる事態を回避できる。
【0071】
例えば、
図9のフローチャートでは図示していないが、例えば、M/C圧センサ26が正常に作動している場合、EPB-ECU9は、M/C圧センサ26による液圧検出値に基いて電流目標値を、その液圧の分だけEPB圧が下がるように、補正すればよい。これによって、電動駐車ブレーキ力と液圧ブレーキ力が重複することによる余分なブレーキ力の発生を抑えることができる。
【0072】
また、M/C圧センサ26が正常に作動していない場合に、EPB-ECU9は、
図9のフローチャートで示すように、推定W/C圧を算出し、その推定W/C圧に基いて電流目標値を、その推定W/C圧の分だけEPB圧が下がるように、補正すればよい。これによって、M/C圧センサ26が正常に作動していない場合でも、電動駐車ブレーキ力と液圧ブレーキ力が重複することによる余分なブレーキ力の発生を抑えることができる。
【0073】
なお、M/C圧センサ26が正常に作動していないことは、例えば、次の2つの手法により判定できる。1つ目は、M/C圧センサ26が自己診断機能により故障時にファイルフラグを出力する手法である。2つ目は、M/C圧センサ26による液圧検出値やその変化量が異常値であることを判定する手法である。後者の場合、例えば、M/C圧センサ26が異常値として大きな液圧検出値を出力した場合でも、その液圧検出値を使用せず、推定W/C圧を使用することでEPB圧を適正に維持することができ、EPB圧が下がりすぎて車両が意図せず移動する事態等を回避することができる。
【0074】
また、EPB-ECU9によれば、無負荷状態のときと、加負荷状態のときで、それぞれ、上述のアルゴリズムにより推定W/C圧を算出することができる。
【0075】
また、加負荷状態のときでも、ドライバがブレーキペダル3を急速に踏み込んでモータ10の電流検出値が閾値未満に下がってW/C圧の推定ができなくなった場合は電流目標値を固定値とすることで、アクチュエータ7やキャリパ13等に過度な負荷がより確実にかからないようにすることができる。
【0076】
なお、EPB-ECU9は、車輪ブレーキ機構におけるブレーキパッド11(摩擦材)の摩擦量に基いて、推定W/C圧を補正してもよい。そうすれば、ブレーキパッド11の摩耗による影響を吸収できる。その場合、マップ1やマップ2を、ブレーキパッド11の摩耗量に応じて補正してもよいし、それぞれ複数のマップとして設けてもよい。
【0077】
また、EPB-ECU9で算出した推定W/C圧を、ESC-ECU8等のEPB-ECU9以外の制御部で所定の制御に用いてもよい。例えば、ESC-ECU8は、M/C圧センサ26による液圧検出値を用いて所定の制御を行っている場合に、M/C圧センサ26が故障したときでも、EPB-ECU9で算出した推定W/C圧で代用してその所定の制御を継続することができる。
【0078】
以上、本発明の実施形態が例示されたが、上記実施形態はあくまで例であって、発明の範囲を限定することは意図していない。上記実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、置き換え、組み合わせ、変更を行うことができる。また、各構成や、形状、等のスペック(構造や、種類、数等)は、適宜に変更して実施することができる。
【0079】
例えば、EPBを適用する対象の車輪は、後輪に限定されず、前輪でもよい。また、推定W/C圧の算出は、車両の駐車時だけではなく、車両の走行時に行ってもよい。また、キャリパ13の温度や道路の勾配等の他の要因によって推定W/C圧を補正してもよい。また、キャリパ13の種類(構造、材質等の種類)によって、マップ1やマップ2をそれぞれ別々に用意してもよい。
【0080】
また、EPB-ECU9によって、推定W/C圧を算出するために、EPB圧が発生する直前までEPB2を作動させて推定W/C圧を算出し、その算出した推定W/C圧をESC-ECU8で所定の制御に用いてもよい。
【符号の説明】
【0081】
1…サービスブレーキ、2…EPB、5…M/C、6…W/C、7…アクチュエータ、8…ESC-ECU、9…EPB-ECU、10…モータ、11…ブレーキパッド、12…ブレーキディスク、13…キャリパ、14…ボディ、14a…中空部、14b…通路、17…回転軸、17a…雄ネジ溝、18…推進軸、18a…雌ネジ溝、19…ピストン、23…操作SW、24…表示ランプ、25…前後Gセンサ、26…M/C圧センサ、28…温度センサ、29…車輪速センサ。