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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】タイヤの性能評価方法及び性能評価装置
(51)【国際特許分類】
   G01M 17/02 20060101AFI20220412BHJP
   B60C 19/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
G01M17/02
B60C19/00 H
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2018077839
(22)【出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2019184497
(43)【公開日】2019-10-24
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【弁理士】
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【弁理士】
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【弁理士】
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【弁理士】
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】南 祐輔
【審査官】岩永 寛道
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-179663(JP,A)
【文献】特開平07-025209(JP,A)
【文献】特開平09-288045(JP,A)
【文献】特開2014-238375(JP,A)
【文献】特開2010-012931(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01M 17/00- 17/10
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
湿潤路面でのタイヤの性能を評価するための方法であって、
前記タイヤが装着された車両を、湿潤路面で走行させるとともに、前記タイヤを急制動させて前記車両を停止させる制動工程と、
前記制動工程中の前記車両の速度及び加速度を時系列で測定する計測工程と、
前記計測工程で測定された前記車両の前記加速度の時系列の変化に基づいて、前記制動工程中の前記タイヤのハイドロプレーニング収束速度を推定する計算工程とを含む、
タイヤの性能評価方法。
【請求項2】
前記ハイドロプレーニング収束速度は、前記制動工程中での前記加速度と時刻との関係を示す加速度関数の変化率が小さくなったときの時刻での前記速度である、請求項1記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項3】
前記計算工程は、
前記タイヤの制動初期の予め定められた第1時間の範囲内での前記加速度と時刻との関数である第1加速度関数を計算する第1計算工程と、
前記タイヤの制動終期の予め定められた第2時間の範囲内の前記加速度の平均値又は第2時間の範囲内での前記加速度と時刻との関数である第2加速度関数を計算する第2計算工程と、
前記第1加速度関数と前記第2加速度関数とが交わる時刻での前記速度を前記ハイドロプレーニング収束速度として推定する推定工程とを含む、請求項1又は2に記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項4】
前記第1時間は、全制動時間の10%以上である、請求項3記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項5】
前記第2時間は、全制動時間の10%以上である、請求項3又は4に記載の制動性能評価方法。
【請求項6】
前記第1加速度関数は、前記第1時間の前記加速度の1次近似直線である、請求項3乃至5のいずれかに記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項7】
前記第1加速度関数は、前記第1時間の前記加速度の移動平均曲線の1次近似直線である、請求項3乃至5のいずれかに記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項8】
前記第2加速度関数は、前記第2時間の前記加速度の平均値である、請求項3乃至7のいずれかに記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項9】
前記計算工程は、制動開始から前記第1加速度関数と前記第2加速度関数とが交わるまでの第3時間を計算する第3計算工程をさらに含む、請求項8記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項10】
前記推定工程は、制動開始から前記第3時間の経過後の前記車両の前記速度に基づいて、前記ハイドロプレーニング収束速度を取得する、請求項9記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項11】
前記ハイドロプレーニング収束速度に基づいて、前記湿潤路面での前記タイヤの性能を評価する、請求項1乃至10のいずれかに記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項12】
前記ハイドロプレーニングが収束した後の前記加速度に基づいて、前記湿潤路面での前記タイヤの性能を評価する、請求項1乃至11のいずれかに記載のタイヤの性能評価方法。
【請求項13】
湿潤路面でのタイヤの性能を評価するための装置であって、
前記タイヤが装着された車両を、湿潤路面で走行させるとともに、前記タイヤを急制動させて前記車両を停止させ、前記車両の速度及び加速度を時系列で測定する計測手段と、
前記車両の前記加速度の時系列の変化に基づいて、前記タイヤのハイドロプレーニング収束速度を推定する計算手段とを含む、
タイヤの性能評価装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、湿潤路面でのタイヤの性能を評価するための方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、タイヤの性能を評価するために種々の方法が提案されている。例えば、特許文献1では、氷結路面上を所定速度で走行している自動車にブレーキをかけた時の最大加速度を測定し、この測定速度を変えて複数の最大加速度を測定し、測定速度と最大加速度との直線回帰式を求める技術が開示されている。
【0003】
近年では、ユーザーの安全意識の高まりにより、湿潤路面で優れた性能を発揮するタイヤが求められている。そして、高速走行中の車両が水深の大きい湿潤路面を通過する際に発生するハイドロプレーニング現象に関するタイヤの性能を評価するための技術の確立が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平09-288045号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、湿潤路面でのタイヤの性能を評価するための方法等を提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、湿潤路面でのタイヤの性能を評価するための方法であって、前記タイヤが装着された車両を、湿潤路面で走行させるとともに、前記タイヤを急制動させて前記車両を停止させる制動工程と、前記制動工程中の前記車両の速度及び加速度を時系列で測定する計測工程と、前記計測工程で測定された前記車両の前記加速度の時系列の変化に基づいて、前記制動工程中の前記タイヤのハイドロプレーニング収束速度を推定する計算工程とを含む。
【0007】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記ハイドロプレーニング収束速度は、前記制動工程中での前記加速度と時刻との関係を示す加速度関数の変化率が小さくなったときの時刻での前記速度である、ことが望ましい。
【0008】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記計算工程は、前記タイヤの制動初期の予め定められた第1時間の範囲内での前記加速度と時刻との関数である第1加速度関数を計算する第1計算工程と、前記タイヤの制動終期の予め定められた第2時間の範囲内の前記加速度の平均値又は第2時間の範囲内での前記加速度と時刻との関数である第2加速度関数を計算する第2計算工程と、前記第1加速度関数と前記第2加速度関数とが交わる時刻での前記速度を前記ハイドロプレーニング収束速度として推定する推定工程とを含む、ことが望ましい。
【0009】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第1時間は、全制動時間の10%以上である、ことが望ましい。
【0010】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第2時間は、全制動時間の10%以上である、ことが望ましい。
【0011】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第1加速度関数は、前記第1時間の前記加速度の1次近似直線である、ことが望ましい。
【0012】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第1加速度関数は、前記第1時間の前記加速度の移動平均曲線の1次近似直線である、ことが望ましい。
【0013】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記第2加速度関数は、前記第2時間の前記加速度の平均値である、ことが望ましい。
【0014】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記計算工程は、制動開始から前記第1加速度関数と前記第2加速度関数とが交わるまでの第3時間を計算する第3計算工程をさらに含む、ことが望ましい。
【0015】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記推定工程は、制動開始から前記第3時間の経過後の前記車両の前記速度に基づいて、前記ハイドロプレーニング収束速度を取得する、ことが望ましい。
【0016】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記ハイドロプレーニング収束速度に基づいて、前記湿潤路面での前記タイヤの性能を評価する、ことが望ましい。
【0017】
本発明に係る前記性能評価方法において、前記ハイドロプレーニングが収束した後の前記加速度に基づいて、前記湿潤路面での前記タイヤの性能を評価する、ことが望ましい。
【0018】
本発明は、湿潤路面でのタイヤの性能を評価するための装置であって、前記タイヤが装着された車両を、湿潤路面で走行させるとともに、前記タイヤを急制動させて前記車両を停止させ、前記車両の速度及び加速度を時系列で測定する計測手段と、前記車両の前記加速度の時系列の変化に基づいて、前記タイヤのハイドロプレーニング収束速度を推定する計算手段とを含む。
【発明の効果】
【0019】
本発明の性能評価方法は、評価されるタイヤが装着され湿潤路面を走行中の車両を急制動させて停止させる制動工程と、車両の速度及び加速度を時系列で測定する計測工程と、タイヤのハイロプレーニング収束速度を推定する計算工程とを含む。計算工程では、車両の加速度の時系列の変化に基づいて、ハイロプレーニング収束速度が推定される。
【0020】
ハイドロプレーニングが生じたタイヤでは、高い速度領域でハイドロプレーニングを収束させ、速やかにタイヤのグリップ力を回復させることが望ましい。本発明では、計算工程において、ハイドロプレーニング収束速度を推定することにより、湿潤路面でのタイヤの性能を正確かつ精密に評価することが可能となる。
【0021】
本発明の性能評価装置は、評価されるタイヤが装着され湿潤路面を走行中の車両を急制動させて停止させ、車両の速度及び加速度を時系列で測定する計測手段と、タイヤのハイロプレーニング収束速度を推定する計算手段とを含む。計算手段は、車両の加速度の時系列の変化に基づいて、ハイロプレーニング収束速度を推定する。
【0022】
ハイドロプレーニングが生じたタイヤでは、高い速度領域でハイドロプレーニングを収束させ、速やかにタイヤのグリップ力を回復させることが望ましい。本発明では、計算手段がハイドロプレーニング収束速度を推定することにより、湿潤路面でのタイヤの性能を正確かつ精密に評価することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明の性能評価装置の一実施形態を示す略図である。
図2】本発明の性能評価方法の手順を示すフローチャートである。
図3】車両の速度及び加速度からハイドロプレーニング収束速度を推定する工程を示す概念図である。
図4図2の計算工程の詳細を示すフローチャートである。
図5】車両の加速度と第1計算工程において計算される第1加速度関数との関係を示す図である。
図6】車両の加速度と第2計算工程において計算される第2加速度関数との関係を示す図である。
図7】第1加速度関数と第2加速度関数とが交わる時刻での速度Vを示す図である。
図8】タイヤAに関して、測定された速度及び加速度のデータと、計算された加速度関数と、ハイドロプレーニング収束速度を示す図。
図9】タイヤBに関して、測定された速度及び加速度のデータと、計算された加速度関数と、ハイドロプレーニング収束速度を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態の性能評価装置1の構成を示す略図である。性能評価装置1は、湿潤路面100でのタイヤ2の性能を評価するための装置である。
【0025】
図1に示されるように、本実施形態の性能評価装置1は、計測手段3と、計算手段4とを備えている。本実施形態の計測手段3及び計算手段4は、評価対象であるタイヤ2が装着された車両10に搭載されているが、車外に設置されていてもよい。
【0026】
計測手段3は、タイヤ2が装着された車両10を、湿潤路面100で直進走行させるとともに、タイヤ2を急制動させて車両10を停止させ、車両10の速度及び加速度を時系列で測定する。本実施形態の計測手段3は、速度センサー31及び加速度センサー32を有している。
【0027】
湿潤路面100とは、例えば、数mm程度の水膜で覆われた湿潤状態にある路面を意図している。高速で走行する車両がこのような湿潤路面100を通過する際、タイヤ2が水の流体力学的な圧力によって浮き上がる、いわゆるハイドロプレーニング現象が発生することがある。
【0028】
ハイドロプレーニングには、タイヤが路面から完全に浮き上がる完全ハイドロプレーニングと、タイヤが路面から部分的に浮き上がる(例えば、接地面での踏込み領域が部分的に浮き上がり、蹴り出し領域が路面に接触としている)部分的ハイドロプレーニングと、がある。以下、部分的ハイドロプレーニング状態にあるタイヤに関し説明するが、本発明は、完全ハイドロプレーニング状態にあるタイヤについても適用可能である。
【0029】
上記急制動とは、タイヤ2が部分的ハイドロプレーニング状態となる程度に強い制動を意図している。タイヤ2が部分的ハイドロプレーニング状態にある車両10の速度は徐々に低下し、その後ハイドロプレーニングが収束し、グリップ状態に回復する。
【0030】
計測手段3は、制動開始前から、停止に至る車両10の速度及び加速度を時系列で測定する。このため、計測手段3によって測定される速度及び加速度は、部分的ハイドロプレーニング状態にある車両10の速度及び加速度と、グリップ状態に回復した車両10の速度及び加速度とが含まれる。
【0031】
速度センサー31は、制動中の車両の速度を時系列で検出する。本実施形態の速度センサーは、GPS(Global Positioning System)衛星から発信された信号を受信することにより、時刻毎の車両10の位置を特定し、速度を取得する。速度センサー31は、タイヤ2が急制動によりロック状態にあっても車両の速度を正確に検出できるものであれば、GPSによるものに限られない。
【0032】
加速度センサー32は、制動中の車両10の加速度を時系列で検出する。加速度センサー32は、機械的、光学的又は電磁的(静電容量等)な方式によって、加速度を検出する。速度から加速度が計算され、加速度から速度が計算されるため、速度センサー31又は加速度センサー32の一方から、速度及び加速度を時系列で測定するように構成されていてもよい。
【0033】
速度センサー31によって検出された速度及び加速度センサー32によって検出された加速度は、電気信号として計算手段4に入力される。
【0034】
計算手段4は、速度センサー31及び加速度センサー32から入力された電気信号を処理することにより、タイヤ2のハイドロプレーニング収束速度を推定するコンピュータ装置である。本実施形態の計算手段4は、加速度センサー32から入力された加速度の時系列の変化に基づいて、タイヤ2のハイドロプレーニング収束速度を推定する。
【0035】
ハイドロプレーニングが生じたタイヤ2では、高い速度領域でハイドロプレーニングを収束させ、速やかにタイヤ2のグリップ力を回復させることが望ましい。本発明では、計算手段4が、ハイドロプレーニング収束速度を推定する。これにより、例えば、単なる制動距離の測定により性能を評価する装置と比較して、本性能評価装置1は、湿潤路面100でのタイヤ2の性能を正確かつ精密に評価することが可能となる。
【0036】
図2は、本発明の性能評価方法の手順を示すフローチャートを示している。本性能評価方法は、湿潤路面100でのタイヤ2の性能を評価するための方法である。性能評価方法は、制動工程S1と、計測工程S2と、計算工程S3とを含んでいる。
【0037】
制動工程S1は、タイヤ2が装着された車両10を、湿潤路面100で走行させるとともに、タイヤ2を急制動させて車両を停止させる工程である。制動工程S1では、急制動の直後に発生したハイドロプレーニングが速度の低下に伴い収束し、グリップ状態への回復を経て、車両10が停止する。
【0038】
計測工程S2では、制動工程S1中の車両10の速度及び加速度が計算手段4によって時系列で測定される。既に述べたように、計測工程S2で測定される速度及び加速度は、部分的ハイドロプレーニング状態にある車両10の速度及び加速度と、グリップ状態に回復した車両10の速度及び加速度とが含まれる。
【0039】
計算工程S3は、制動工程S1中のタイヤ2のハイドロプレーニング収束速度を推定する工程である。計算工程S3では、計測工程S2で測定された車両10の加速度の時系列の変化に基づいて、制動工程S1中のタイヤ2のハイドロプレーニング収束速度が推定される。本発明では、計算工程S3において、ハイドロプレーニング収束速度が推定される。これにより、例えば、単なる制動距離の測定により性能を評価する方法と比較して、本性能評価方法は、湿潤路面100でのタイヤ2の性能を正確かつ精密に評価することが可能となる。
【0040】
図3は、速度センサー31によって検出された速度及び加速度センサー32によって検出された加速度からハイドロプレーニング収束速度を推定する工程を示す概念図である。同図において、横軸は時刻(時間の推移)を示し、左側の縦軸は速度を示し、右側の縦軸は加速度を示している。
【0041】
この例では、湿潤路面100を走行する車両10が予め定められた速度(例えば、100km/h)となったときに急制動を開始している。急制動により減速G(負の加速度)が立ち上がった後、部分的ハイドロプレーニングが生じ、減速Gは緩やかに増加する。その後ハイドロプレーニングの収束に伴い一定の減速Gを発生するグリップ状態に回復する。
【0042】
図3に示されるように、部分的ハイドロプレーニングが生ずる領域では、減速Gは緩やかに変化する傾向にある一方、グリップ状態に回復する領域では、減速Gの変化がより少なくなる。そこで、制動工程S1中での加速度と時刻との関係を示す加速度関数の変化率が、予め定められた閾値よりも小さくなったとき、ハイドロプレーニングが収束しグリップ状態に回復したと推定できる。
【0043】
そこで、計算工程S3では、計算手段4であるコンピュータ装置は、加速度センサー32によって検出された加速度と時刻tとの関係を示す加速度関数を導出し、加速度関数の変化率が、予め定められた閾値よりも小さくなったとき、ハイドロプレーニングが収束したと推定する。すなわち、加速度関数の変化率が、予め定められた閾値よりも小さくなったときの速度Vをハイドロプレーニング収束速度として取得する。
【0044】
図4は、計算工程S3の詳細を示している。計算工程S3は、第1計算工程S31と、第2計算工程S32と、推定工程S34とを含んでいる。
【0045】
図5は、加速度センサー32によって検出された加速度aと第1計算工程S31において計算される第1加速度関数a1との関係を示している。同図では、制動を開始した時刻が2秒となるように、基準時刻が定められている(以下の図6、7においても同様である)。第1計算工程S31では、タイヤ2の制動初期の予め定められた第1時間T1の範囲内での加速度と時刻との関数である第1加速度関数a1=f(t)が計算される。
【0046】
第1時間T1は、主としてハイドロプレーニングが生じている時刻を含んでいる。第1時間T1は、ハイドロプレーニングが収束する時刻を含まないように、短く設定される。第1時間T1は、全制動時間の10%以上が望ましい。これにより、計算手段4が第1加速度関数a1を正確に導出できるようになる。なお、第1時間T1は、急制動を開始する瞬間を含んでいてもよいが、本例では、急制動により減速Gが急激に立ち上がった後のハイドロプレーニングが生じた後(減速Gが低下し略一定値に落ち付いた後)の時間としている。
【0047】
第1計算工程S31において計算される第1加速度関数a1は、第1時間T1での加速度aの1次近似直線が望ましい。この場合、第1加速度関数a1は、例えば、a1=βt+γ(β、γは、定数)によって表される。これにより、計算手段4が短時間で正確に第1加速度関数a1を導出可能となる。
【0048】
第1計算工程S31において計算される第1加速度関数a1は、第1時間T1での加速度aの移動平均曲線の1次近似直線が望ましい。これにより、加速度センサー32の検出誤差が丸められ、短時間で正確に第1加速度関数a1を導出可能となる。
【0049】
図6は、加速度センサー32によって検出された加速度と第2計算工程S32において計算される第2加速度関数a2との関係を示している。第2計算工程S32では、タイヤ2の制動終期の予め定められた第2時間T2の範囲内での加速度と時刻との関数である第2加速度関数a2=g(t)が計算される。
【0050】
第2時間T2は、主としてハイドロプレーニングが収束した後、グリップ状態にある時刻を含んでいる。上記グリップ状態では、第2加速度関数a2の変化率が小さいため、略一定値と近似してもよい。この場合、第2時間T2の範囲内の加速度の平均値によって第2加速度関数a2=const.と近似されうる。なお、第2加速度関数a2は、第2時間T2での加速度aの1次近似直線であってもよい。
【0051】
第2時間T2は、ハイドロプレーニングが収束する時刻を含まないように、短く設定される。第2時間T2は、全制動時間の10%以上が望ましい。これにより、計算手段4が第2加速度関数a2を正確に導出できるようになる。なお、第2時間T2は、車両10が停止する瞬間を含んでいてもよい。
【0052】
図7は、推定工程S34において処理される第1加速度関数a1及び第2加速度関数a2との関係を示している。推定工程S34では、第1加速度関数a1と第2加速度関数a2とが交わる時刻t12での速度Vをハイドロプレーニング収束速度として推定する。
【0053】
図4に示されるように、計算工程S3は、第2計算工程S32と推定工程S34との間に第3計算工程S33をさらに含んでいてもよい。第3計算工程S33は、計算手段4が、制動開始から第1加速度関数a1と第2加速度関数a2とが交わる時刻t12までの第3時間T3を計算する工程である。
【0054】
この場合、推定工程S34では、計算手段4は、制動開始から第3時間T3の経過後の車両10の速度Vに基づいて、ハイドロプレーニング収束速度を取得する。例えば、計算手段4は、速度センサー31によって検出された車両10の速度と時刻との関係を1次関数又は2次関数にて近似して、制動開始から第3時間T3の経過後(時刻t12)の車両10の速度Vを計算して、これをハイドロプレーニング収束速度とすることができる。上記関数での近似にあたっては、速度センサー31によって検出された車両10の速度の移動平均が計算されてもよい。
【0055】
本発明にあっては、計算工程S3で推定されたハイドロプレーニング収束速度に基づいて、湿潤路面100でのタイヤ2の性能を評価することが可能である。すなわち、ハイドロプレーニング収束速度が高いタイヤは、グリップ状態への回復が早く、安全性が高いと考えられる。このような評価は、排水性能に優れたトレッドパターンの開発に特に有効である。
【0056】
また、本発明にあっては、計算工程S3で推定されたハイドロプレーニング収束速度未満の速度域での減速G、すなわちハイドロプレーニングが収束した後の加速度に基づいて、湿潤路面100でのタイヤ2の性能を評価することが可能である。すなわち、ハイドロプレーニングが収束し、グリップ状態に回復した後の減速Gが大きいタイヤは、制動終期での車両10の減速に寄与し、安全性が高いと考えられる。このような評価は、ウェットグリップ性能に優れたトレッドゴム配合の開発に特に有効である。
【0057】
以上、本発明の性能評価装置1及び性能評価方法が詳細に説明されたが、本発明は上記の具体的な実施形態に限定されることなく種々の態様に変更して実施される。
【実施例
【0058】
図1乃至7に示される本性能評価装置1及び本性能評価方法を用いて、異なる2種類のタイヤA,Bの湿潤路面での性能が評価された。評価に用いられた路面は、散水設備を有するアスファルト路面であり、その水膜厚さは、2mmに設定された。タイヤA,Bのサイズは、215/45R18であり、それぞれ、排気量2000cc、車両重量1330kgのABS(Antilock Brake System)が装備された車両の4輪に装着された。
【0059】
図8は、タイヤAに関して、測定された速度及び加速度のデータと、計算された加速度関数と、ハイドロプレーニング収束速度を示している。図9は、タイヤBに関して、測定された速度及び加速度のデータと、計算された加速度関数と、ハイドロプレーニング収束速度を示している。
【0060】
制動開始時の車両の速度は、100km/hであり、速度が5km/hに減速するのに要した制動距離が併せて測定された。表1は、テスト結果を示している。なお、表1では、タイヤAのテスト結果を100とするタイヤBのテスト結果の指数が併せて示されている。
【0061】
【表1】
【0062】
本テストでは、タイヤA,B間で制動距離に大きな違いが見られなかった。しかしながら、タイヤBは、ハイドロプレーニング収束速度が高く、トレッドパターンの排水性能が優れていることが確認された。一方、タイヤAは、第2時間T2での減速Gの平均値が高く、トレッドゴム配合のウェットグリップ性能が優れていることが確認された。本性能評価装置1及び本性能評価方法によって、複数種類のタイヤにおけるトレッドパターンとトレッドゴム配合とがタイヤ性能に及ぼす影響を切り分けて判断できるようになる。
【符号の説明】
【0063】
1 :性能評価装置
2 :タイヤ
3 :計測手段
4 :計算手段
10 :車両
31 :速度センサー
32 :加速度センサー
100 :湿潤路面
S1 :制動工程
S2 :計測工程
S3 :計算工程
S31 :第1計算工程
S32 :第2計算工程
S33 :第3計算工程
S34 :推定工程
T1 :第1時間
T2 :第2時間
T3 :第3時間
V :速度
a :加速度
a1 :第1加速度関数
a2 :第2加速度関数
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9