(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】活性光線硬化型インクジェットインクおよび画像形成方法
(51)【国際特許分類】
C09D 11/30 20140101AFI20220412BHJP
C08F 2/44 20060101ALI20220412BHJP
C08F 2/48 20060101ALI20220412BHJP
C08F 20/56 20060101ALI20220412BHJP
C08F 16/18 20060101ALI20220412BHJP
C08F 26/02 20060101ALI20220412BHJP
B41J 2/01 20060101ALI20220412BHJP
B41M 5/00 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C09D11/30
C08F2/44 Z
C08F2/48
C08F20/56
C08F16/18
C08F26/02
B41J2/01 129
B41J2/01 501
B41M5/00 120
B41M5/00 100
(21)【出願番号】P 2018084158
(22)【出願日】2018-04-25
【審査請求日】2020-12-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002952
【氏名又は名称】特許業務法人鷲田国際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100155620
【氏名又は名称】木曽 孝
(72)【発明者】
【氏名】大野 陽平
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-069580(JP,A)
【文献】特開2013-173907(JP,A)
【文献】特開2000-212144(JP,A)
【文献】特開平08-143631(JP,A)
【文献】特開平11-189624(JP,A)
【文献】特開平06-116169(JP,A)
【文献】特開2006-206665(JP,A)
【文献】中山 正道,温度応答性高分子材料 (特集 DDSに利用される高分子化学),Drug Delivery System,日本,2008年11月,23巻,pp627-636
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09D 11/30
B41J 2/01
B41M 5/00
C08F 20/56,26/02
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーA
と、メタクリル酸ブチルとの共重合体であり、前記共重合体を構成するモノマーの全モルに対する前記モノマーAの含有率が70モル%以上100モル%以下である温度応答性ポリマーと、
脂肪酸エステルまたは脂肪族ジケトンであるゲル化剤と、光重合性化合物とを含有する、活性光線硬化型インクジェットインク。
【化1】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、
式(4)中、Rはイソプロピル基またはノルマルプロピル基である。)
【請求項2】
前記温度応答性ポリマー
を構成するモノマーの全モルに対する前記モノマーAの含有
率は、80モル%以上100モル%以下である、請求項1に記載の活性光線硬化型インクジェットインク。
【請求項3】
前記活性光線硬化型インクジェットインクの全質量に対する前記温度応答性ポリマーの含有量は、5質量%以上20質量%以下である、請求項1または2に記載の活性光線硬化型インクジェットインク。
【請求項4】
前記温度応答性ポリマーの重量平均分子量は、10,000以上100,000以下である、請求項1~3のいずれか一項に記載の活性光線硬化型インクジェットインク。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか一項に記載の活性光線硬化型インクジェットインクをインクジェットヘッドのノズルから射出して記録媒体に着弾させる工程と、
前記記録媒体に着弾した前記インクに活性光線を照射して前記インクを硬化させる工程と
を含む、インクジェット法による画像形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、活性光線硬化型インクジェットインクおよび画像形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット記録方式は、簡易かつ安価に画像を形成できることから、各種印刷分野で用いられている。インクジェット記録方式の一つとして、活性光線硬化型インクジェットインクの液滴を記録媒体に着弾させた後、紫外線等の活性光線を照射して硬化させて、画像を形成する活性光線硬化型インクジェット方式がある。活性光線硬化型インクジェット方式は、インク吸収性のない記録媒体においても、高い耐擦過性と密着性を有する画像を形成できることから、近年注目されつつある。
【0003】
活性光線硬化型インクジェットインクにゲル化剤(ワックス)を配合することが知られている。例えば、特許文献1には、光重合性化合物と、ゲル化剤(ワックス)と、無機微粒子と、を含有する活性光線硬化型インクジェットインクが開示されている。特許文献1においては、活性光線硬化型インクジェットインクにゲル化剤を配合することによって、画像の表面の滑り性を向上させて、耐擦過性を高めている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
前述の通り、活性光線硬化型インクジェットインク(以下、しばしば、「活性光線硬化型インクジェットインク」を「インク」と略す)にゲル化剤を配合すると、画像表面の滑り性が向上する。しかしなが、インク中のゲル化剤は、インクの主成分である光重合性化合物中に微分散した状態で存在するため、光重合性化合物の分子間力を阻害し、インクの表面張力を低下させる場合がある。インクの表面張力が低下すると、インクジェットヘッドのノズルから射出されたインクの液滴はちぎれやすくなるため、サテライトが発生しやすくなる。尚、サテライトとは、吐出されたインクの液滴が空気中で分割することによって発生する、印字部を構成する主滴とは別の液滴(「サテライト滴」とも称する)であり、当該液滴が印字部とは離れた場所に着弾することによって、視認可能な画像のズレなどが生じうる。このようなサテライトの発生を抑制するために、界面活性剤の添加などによってインクの表面張力を上げると、今度は、紙等の記録媒体との密着性が低下する。インクと記録媒体との密着性が低下すると、画像の定着性の低下、こすりや折りに対する耐性の低下によって、画像不良が生じやすくなる。
【0006】
上記課題に鑑み、本発明は、サテライトの発生が抑制され、且つ記録媒体との密着性が良好な、活性光線硬化型のゲルインクを提供することを目的とする。尚、サテライトは全く無いのが理想であるが、吐出されるインク滴が空気中で分割するかどうかは確率の問題もあるため、完全に無くすことは困難である。よって、本発明においては、形成した画像上で観察されるサテライトの減少をもって、サテライトの発生が抑制されたものとする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決する第一の手段として、下記式(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーAを含む温度応答性ポリマーと、ゲル化剤と、光重合性化合物とを含有する、活性光線硬化型インクジェットインクを提供する。
【0008】
【化1】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、
式(4)中、Rはイソプロピル基またはノルマルプロピル基である。)
【0009】
さらに本発明は、上記課題を解決する第二の手段として、本発明の活性光線硬化型インクジェットインクをインクジェットヘッドのノズルから射出して記録媒体に着弾させる工程と、前記記録媒体に着弾した前記インクに活性光線を照射して前記インクを硬化させる工程とを含む、インクジェット法による画像形成方法を提供する。
【発明の効果】
【0010】
本発明により、サテライトの発生が抑制され、且つ記録媒体との密着性が良好な、活性光線硬化型のゲルインクを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】ライン記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す図である。
【
図2】シリアル記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
一般的な活性光線硬化型のゲルインクにおいては、色材やゲル化剤は光重合性化合物中に微分散した状態で存在するため、光重合性化合物の分子間力を阻害して、インクの表面張力を低下させる場合がある。
【0013】
一方、本発明のインクには、上記式(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーAを含む温度応答性ポリマーが含まれる。インク中の温度応答性ポリマーは、射出時の高温下(40℃以上)では、温度応答性ポリマーのポリマー鎖が凝集した状態で存在し、疎水性となる。このとき、インク中の他の疎水性の化合物、例えば、色材やゲル化剤は、凝集した温度応答性ポリマー鎖の内側に取り込まれうる。その結果、色材やゲル化剤による光重合性化合物の分子間力の阻害が低減し、インクの表面張力が向上すると考えられる。そしてインクの表面張力の向上によって、インク射出時のサテライトの発生が抑制される。
【0014】
次に、インクジェットヘッドのノズルから射出されて記録媒体に着弾したインクは、記録媒体上で冷やされる(40℃未満となる)。このとき、インク中の凝集していた温度応答性ポリマーのポリマー鎖は広がり、親水性の状態となる。その結果、インクの親水性が向上して記録媒体との親和性も向上することから、インクと記録媒体との密着性も向上する。
【0015】
また、高温下では温度応答性ポリマーの凝集体によって取り込まれていたゲル化剤は、記録媒体上で温度応答性ポリマーのポリマー鎖が広がる際に放出される。よって、記録媒体上では、ゲル化剤によるインクのピニング性の向上が達成される。
【0016】
以下、本発明の実施形態を説明する。
【0017】
1.活性光線硬化型インクジェットインク
インクは、温度応答性ポリマーと、ゲル化剤と、光重合性化合物とを含有する。
【0018】
[温度応答性ポリマー]
インクに含まれる温度応答性ポリマーとは、40℃以上の高温時にはそのポリマー鎖が凝集して疎水性となり、40℃未満の低温時には、ポリマー鎖が広がった状態で親水性となるポリマーであり、下記式(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーAを含む。
【0019】
【化2】
(式(1)中、Rはそれぞれ独立にメチル基またはエチル基であり、
式(4)中、Rはイソプロピル基またはノルマルプロピル基である。)
【0020】
温度応答性ポリマーに含まれるモノマーAの種類に特に限定はなく、上記式(1)~(4)からなる群より選ばれる1種のみを含んでもよいし、2種以上を含んでいてもよい。
【0021】
また、温度応答性ポリマーが上述した温度に対応した挙動を示す限り、モノマーAの含有量にも特に限定はないが、80モル%以上100モル%以下が好ましく、90モル%以上100モル%以下がより好ましい。モノマーAの含有量が上記範囲内であると、当該ポリマーの温度に対する応答性が良好となり、当該ポリマーを配合したインクは、サテライトの発生が抑制され、且つ記録媒体とインクとの密着性が高まる傾向にある。
【0022】
温度応答性ポリマーに含まれうるモノマーA以外のモノマー単位としては(メタ)アクリレート化合物が好ましい。(メタ)アクリレート化合物の例としては、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸へプチル、メタクリル酸オクチル、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の単官能モノマー、
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能モノマー、
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能モノマー等が挙げられる。
【0023】
(メタ)アクリレート化合物は、感光性などの観点から、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸プロピル、メタクリル酸ブチル、メタクリル酸ペンチル、メタクリル酸ヘキシル、メタクリル酸へプチル、メタクリル酸オクチル、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート等がより好ましい。
【0024】
温度応答性ポリマーの重量平均分子量にも特に限定はないが、10,000以上100,000以下であることがこのましく、20,000以上80,000以下であることがより好ましい。温度応答性ポリマーの重量平均分子量が10,000以上であれば、当該ポリマーは高温下でその凝集体の中にゲル化剤や色材を容易に取り込むことができる。また、重量平均分子量が100,000以下であれば、インクの粘度が高くなり過ぎて射出性が悪化する恐れが少ない。
【0025】
尚、温度応答性ポリマーの重量平均分子量は、下記条件下で実施するゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定される、ポリスチレン換算重量平均分子量である。
溶媒: テトラヒドロフラン
カラム: 東ソー(株)製TSKgel G4000+2500+2000HXL
カラム温度: 40℃
注入量: 100μl
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)重量平均分子量=1000000~500迄の13のサンプルによる校正曲線を使用する。13のサンプルは、ほぼ等間隔に用いる。
【0026】
インクの全質量に対する温度応答性ポリマーの含有量は、5質量%以上20質量%以下であることが好ましく、10質量%以上15質量%以下であることがより好ましい。温度応答性ポリマーの含有量が5質量%以上であれば、上述した温度応答性ポリマーを配合することによる効果が得られやすくなる。また、20質量%以下であれば、インクの硬化性が低下することもなく、画像の定着性が良好である。
【0027】
[ゲル化剤]
本発明おいてゲル化剤とは、一般に常温では固体、加熱すると液体となる有機物」と定義される。本発明の活性光線硬化型インクジェットインクに含まれるゲル化剤は、0.01質量%以上15質量%未満であることが好ましい。ゲル化剤含有量が0.01質量%未満であると、画像表面の滑り性が得られず、画像の耐擦過性が不十分となる。一方、ゲル化剤含有量が15質量%以上であると、インクジェットヘッドからのインク射出性が悪化する。
【0028】
また、本発明の活性光線硬化型インクジェットインクは、ゾルゲル相転移型のインクであってもよい。ゾルゲル相転移型のインクにおけるゲル化剤含有量は、1質量%以上15質量%未満であることが好ましく、7質量%未満であることがより好ましい。一方、ゾルゲル相転移型でないインクにおけるゲル化剤含有量は、0.01質量%以上1質量%未満であることが好ましい。
【0029】
ゾルゲル相転移型のインクにおけるゲル化剤は、少なくとも1)ゲル化温度よりも高い温度で、光重合性化合物に溶解すること、2)ゲル化温度以下の温度で、インク中で結晶化すること、が必要である。
【0030】
ゲル化剤が(記録媒体の上のインク液滴中で、温度応答性ポリマーの凝集体から放出された後に)インク中で結晶化するときに、ゲル化剤の結晶化物である板状結晶が三次元的に囲む空間を形成し、前記空間に光重合性化合物を内包することが好ましい。このように、板状結晶が三次元的に囲む空間に光重合性化合物が内包された構造を「カードハウス構造」ということがある。カードハウス構造が形成されると、液体の光重合性化合物を保持することができ、インク液滴をピニングすることができる。それにより、液滴同士の合一を抑制することができる。カードハウス構造を形成するには、インク中で溶解している光重合性化合物とゲル化剤とが相溶していることが好ましい。これに対して、インク中で溶解している光重合性化合物とゲル化剤とが相分離していると、カードハウス構造を形成しにくい場合がある。
【0031】
ゲル化剤の種類に特に限定はなく、その例としては、高級脂肪酸、高級アルコール、脂肪酸エステル、トリグリセライド、脂肪酸アミン、脂肪族ケトン、脂肪酸アミドなどが挙げられ、脂肪酸エステルもしくは脂肪族ジケトンが好ましい。
【0032】
ゲル化剤として好適に使用しうる脂肪族ジケトンとしては、例えば、下記式(A)で表される化合物が挙げられる。
R1-(C=O)-R2 (A)
【0033】
式(A)において、R1およびR2は、それぞれ独立して、炭素原子数9以上25以下の直鎖部分を含む脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基でありうるが、インクのゲル化温度を高くする観点などから、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(アルキレン基)である。式(A)のR1およびR2の脂肪族炭化水素基の炭素原子数がそれぞれ同程度であれば、式(A)のR1およびR2が飽和の脂肪族炭化水素基である化合物の融点は、式(A)のR1およびR2が不飽和の脂肪族炭化水素基である化合物の融点よりも高いことが多く、インクのゲル化温度も高くなりやすいからである。飽和脂肪族炭化水素基は、分岐状または直鎖状の脂肪族炭化水素基でありうるが、高い結晶性を得るためには、好ましくは直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基(直鎖アルキレン基)である。
【0034】
脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数が9未満であると、十分な結晶性を有しないため、ゲル化剤がゲル化剤として機能しないだけでなく、前述のカードハウス構造において、光重合性化合物を内包するための十分な空間を形成できない。一方、脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数が25を超えると、融点が高くなりすぎるため、インクの射出温度を高くしなければ、ゲル化剤がインク中に溶解しなくなる。脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数が9以上25以下であると、ゲル化剤として必要な結晶性を有しつつ、前述のカードハウス構造を形成することができ、融点も高くなりすぎることはない。R1およびR2の脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数は11以上23未満であることが好ましい。そのため、R1およびR2は、炭素原子数11以上23未満の直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基(直鎖アルキレン基)であることが特に好ましい。
【0035】
炭素原子数9以上25以下の直鎖部分を含む脂肪族炭化水素基の例には、ドコサニル基(C22)、イコサニル基(C20)、オクタデカニル基(C18)、ヘプタデカニル基(C17)、ヘキサデカニル基(C16)、ペンタデカニル基(C15)、テトラデカニル基(C14)、トリデカニル基(C13)、ドデカニル基(C12)、ウンデカニル基(C11)、デカニル基(C10)等が含まれる。
【0036】
ゲル化剤として好適に使用しうる脂肪酸エステルとしては、例えば、下記式(B)で表される化合物が挙げられる。
R3-(C=O)-O-R4 (B)
【0037】
式(B)において、R3およびR4は、それぞれ独立して、炭素原子数9以上26以下の直鎖部分を含む脂肪族炭化水素基である。脂肪族炭化水素基は、飽和または不飽和の脂肪族炭化水素基でありうるが、好ましくは飽和脂肪族炭化水素基(アルキレン基)である。また、飽和脂肪族炭化水素基は、分岐状または直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基でありうるが、一定以上の結晶性を得るためには、好ましくは直鎖状の飽和脂肪族炭化水素基(直鎖アルキレン基)である。
【0038】
R3とR4の脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数が9以上26以下であると、式(A)で表される化合物と同様に、ゲル化剤として必要な結晶性を有しつつ、前述のカードハウス構造を形成でき、融点も高くなりすぎない。式(B)で表される化合物の結晶性を一定以上にするためには、R3の脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数が11以上23未満であり、かつR4の脂肪族炭化水素基に含まれる直鎖部分の炭素原子数が12以上24未満であることが好ましい。そのため、R3は炭素原子数11以上23未満の直鎖アルキレン基であり、かつR4は炭素原子数12以上24未満の直鎖アルキレン基であることが特に好ましい。
【0039】
炭素原子数9以上26以下の直鎖部分を含む脂肪族炭化水素基の例には、前述の式(A)における炭素原子数9以上25以下の直鎖部分を含む脂肪族炭化水素基と同様のものが含まれる。
【0040】
ゲル化剤の好ましい具体例には、18-ペンタトリアコンタノン、16-ヘントリアコンタノン等の脂肪族ケトン化合物(例えば、花王社製のカオーゲル化剤T1);パルミチン酸セチル、ステアリン酸ステアリル、ベヘニン酸ベヘニル等の脂肪族モノエステル化合物(例えば、日油株式会社製のユニスタ-M-2222SL)、エキセパールSS(花王株式会社製)、EMALEX CC-18(日本エマルジョン株式会社製)、アムレプスPC(高級アルコール工業株式会社製)、エキセパール MY-M(花王株式会社製)、スパームアセチ(日油株式会社製)、EMALEX CC-10(日本エマルジョン株式会社製)等);N-ラウロイル-L-グルタミン酸ジブチルアミド、N-(2-エチルヘキサノイル)-L-グルタミン酸ジブチルアミド等のアミド化合物(味の素ファインテクノより入手可能);1,3:2,4-ビス-O-ベンジリデン-D-グルシトール(新日本理化より入手可能なゲルオールD)等のジベンジリデンソルビトール類;パラフィンゲル化剤、マイクロクリスタリンゲル化剤、ペトロラクタム等の石油系ゲル化剤;キャンデリラゲル化剤、カルナウバゲル化剤、ライスゲル化剤、木ロウ、ホホバ油、ホホバ固体ロウ、およびホホバエステル等の植物系ゲル化剤;ミツロウ、ラノリンおよび鯨ロウ等の動物系ゲル化剤;モンタンゲル化剤、および水素化ゲル化剤等の鉱物系ゲル化剤;硬化ヒマシ油または硬化ヒマシ油誘導体;モンタンゲル化剤誘導体、パラフィンゲル化剤誘導体、マイクロクリスタリンゲル化剤誘導体またはポリエチレンゲル化剤誘導体等の変性ゲル化剤;ベヘン酸、アラキジン酸、ステアリン酸、パルミチン酸、ミリスチン酸,ラウリン酸、オレイン酸、およびエルカ酸等の高級脂肪酸;ステアリルアルコール、ベヘニルアルコール等の高級アルコール;12-ヒドロキシステアリン酸等のヒドロキシステアリン酸;12-ヒドロキシステアリン酸誘導体;ラウリン酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘン酸アミド、オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、リシノール酸アミド、12-ヒドロキシステアリン酸アミド等の脂肪酸アミド(例えば、日本化成社製のニッカアマイドシリーズ、伊藤製油社製のITOWAXシリーズ、花王社製のFATTYAMIDシリーズ等);N-ステアリルステアリン酸アミド、N-オレイルパルミチン酸アミド等のN-置換脂肪酸アミド;N,N’-エチレンビスステアリルアミド、N,N’-エチレンビス-12-ヒドロキシステアリルアミド、およびN,N’-キシリレンビスステアリルアミド等の特殊脂肪酸アミド;ドデシルアミン、テトラデシルアミンまたはオクタデシルアミンなどの高級アミン;ステアリルステアリン酸、オレイルパルミチン酸、グリセリン脂肪酸エステル,ソルビタン脂肪酸エステル、プロピレングリコール脂肪酸エステル、エチレングリコール脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル等の脂肪酸エステル化合物(例えば、日本エマルジョン社製のEMALLEXシリーズ、理研ビタミン社製のリケマールシリーズ、理研ビタミン社製のポエムシリーズ等);ショ糖ステアリン酸、ショ糖パルミチン酸等のショ糖脂肪酸エステル(例えば、三菱化学フーズ社製のリョートーシュガーエステルシリーズ);ポリエチレンゲル化剤、α-オレフィン無水マレイン酸共重合体ゲル化剤等の合成ゲル化剤;重合性ゲル化剤(Baker-Petrolite社製のUNILINシリーズ等);ダイマー酸;ダイマージオール(CRODA社製のPRIPORシリーズ等)が含まれる。これらのゲル化剤は、単独で用いてもよいし、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0041】
[光重合性化合物]
光重合性化合物は、活性光線により架橋または重合する化合物である。活性光線は、例えば電子線、紫外線、α線、γ線、およびエックス線等であり、好ましくは紫外線および電子線である。光重合性化合物は、ラジカル重合性化合物またはカチオン重合性化合物であり、好ましくはラジカル重合性化合物である。
【0042】
ラジカル重合性化合物は、ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物(モノマー、オリゴマー、ポリマーあるいはこれらの混合物)である。ラジカル重合性化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0043】
ラジカル重合可能なエチレン性不飽和結合を有する化合物の例には、不飽和カルボン酸とその塩、不飽和カルボン酸エステル化合物、不飽和カルボン酸ウレタン化合物、不飽和カルボン酸アミド化合物およびその無水物、アクリロニトリル、スチレン、不飽和ポリエステル、不飽和ポリエーテル、不飽和ポリアミド、不飽和ウレタン等が挙げられる。不飽和カルボン酸の例には、(メタ)アクリル酸、イタコン酸、クロトン酸、イソクロトン酸、マレイン酸などが含まれる。
【0044】
なかでも、ラジカル重合性化合物は、不飽和カルボン酸エステル化合物であることが好ましく、(メタ)アクリレート化合物であることがより好ましい。(メタ)アクリレート化合物は、後述するモノマーだけでなく、オリゴマー、モノマーとオリゴマーの混合物、変性物、重合性官能基を有するオリゴマーなどであってよい。
【0045】
(メタ)アクリレート化合物の例には、イソアミル(メタ)アクリレート、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、オクチル(メタ)アクリレート、デシル(メタ)アクリレート、イソミルスチル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、2-エチルヘキシル-ジグリコール(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルヘキサヒドロフタル酸、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシポリエチレングリコール(メタ)アクリレート、メトキシプロピレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、テトラヒドロフルフリル(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシ-3-フェノキシプロピル(メタ)アクリレート、2-(メタ)アクリロイロキシエチルコハク酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチルフタル酸、2-(メタ)アクリロイロキシエチル-2-ヒドロキシエチル-フタル酸、t-ブチルシクロヘキシル(メタ)アクリレート等の単官能モノマー;
トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,4-ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6-ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,9-ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ジメチロール-トリシクロデカンジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAのPO付加物ジ(メタ)アクリレート、ヒドロキシピバリン酸ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、ポリテトラメチレングリコールジ(メタ)アクリレート等の二官能モノマー;
トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールエトキシテトラ(メタ)アクリレート等の三官能以上の多官能モノマー等が含まれる。
【0046】
(メタ)アクリレート化合物は、感光性などの観点から、ステアリル(メタ)アクリレート、ラウリル(メタ)アクリレート、イソステアリル(メタ)アクリレート、エトキシジエチレングリコール(メタ)アクリレート、イソボルニル(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート等が好ましい。
【0047】
(メタ)アクリレート化合物は、変性物であってもよい。変性物の例には、エチレンオキサイド変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、エチレンオキサイド変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート等のエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物;カプロラクトン変性トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等のカプロラクトン変性(メタ)アクリレート化合物;およびカプロラクタム変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート等のカプロラクタム変性(メタ)アクリレート化合物等が含まれる。
【0048】
本発明の活性光線硬化型インクジェットインクをゾルゲル相転移型とする場合には、光重合性化合物の少なくとも一部をエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物とすることが好ましい。エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物は感光性が高く、インクが低温下でゲル化する際に、カードハウス構造(後述)を形成しやすいからである。また、エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物は、高温下で他のインク成分に対して溶解しやすく、硬化収縮も少ないことから、印刷物のカールも起こりにくい。
【0049】
エチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート化合物の例には、Sartomer社製の4EO変性ヘキサンジオールジアクリレートCD561(分子量358)、3EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートSR454(分子量429)、6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレートSR499(分子量560)、4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレートSR494(分子量528);新中村化学社製のポリエチレングリコールジアクリレートNKエステルA-400(分子量508)、ポリエチレングリコールジアクリレートNKエステルA-600(分子量742)、ポリエチレングリコールジメタクリレートNKエステル9G(分子量536)、ポリエチレングリコールジメタクリレートNKエステル14G(分子量770);大阪有機化学社製のテトラエチレングリコールジアクリレートV#335HP(分子量302);Cognis社製の3PO変性トリメチロールプロパントリアクリレートPhotomer 4072(分子量471);新中村化学社製の1,10-デカンジオールジメタクリレート NKエステルDOD-N(分子量310)、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート NKエステルA-DCP(分子量304)およびトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート NKエステルDCP(分子量332)等が含まれる。
【0050】
(メタ)アクリレート化合物は、重合性オリゴマーであってもよく、そのような重合性オリゴマーの例には、エポキシ(メタ)アクリレートオリゴマー、脂肪族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、芳香族ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー、ポリエステル(メタ)アクリレートオリゴマー、および直鎖(メタ)アクリルオリゴマー等が含まれる。
【0051】
カチオン重合性化合物は、エポキシ化合物、ビニルエーテル化合物、およびオキセタン化合物等でありうる。カチオン重合性化合物は、単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0052】
エポキシ化合物は、芳香族エポキシド、脂環式エポキシド、または脂肪族エポキシド等であり、硬化性を高めるためには、芳香族エポキシドおよび脂環式エポキシドが好ましい。
【0053】
芳香族エポキシドは、多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるジまたはポリグリシジルエーテルでありうる。反応させる多価フェノールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体の例には、ビスフェノールAあるいはそのアルキレンオキサイド付加体等が含まれる。アルキレンオキサイド付加体におけるアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド等でありうる。
【0054】
脂環式エポキシドは、シクロアルカン含有化合物を、過酸化水素や過酸等の酸化剤でエポキシ化して得られるシクロアルカンオキサイド含有化合物でありうる。シクロアルカンオキサイド含有化合物におけるシクロアルカンは、シクロヘキセンまたはシクロペンテンでありうる。
【0055】
脂肪族エポキシドは、脂肪族多価アルコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体と、エピクロルヒドリンとを反応させて得られるジまたはポリグリシジルエーテルでありうる。脂肪族多価アルコールの例には、エチレングリコール、プロピレングリコール、1,6-ヘキサンジオール等のアルキレングリコール等が含まれる。アルキレンオキサイド付加体におけるアルキレンオキサイドは、エチレンオキサイドおよびプロピレンオキサイド等でありうる。
【0056】
ビニルエーテル化合物の例には、エチルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2-エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル-o-プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物;
エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジまたはトリビニルエーテル化合物等が含まれる。これらのビニルエーテル化合物のうち、硬化性や密着性などを考慮すると、ジまたはトリビニルエーテル化合物が好ましい。
【0057】
オキセタン化合物は、オキセタン環を有する化合物であり、その例には、特開2001-220526号公報、特開2001-310937号公報、特開2005-255821号公報に記載のオキセタン化合物等が含まれる。なかでも、特開2005-255821号公報の段落番号0089に記載の下記式(C)で表される化合物、同号公報の段落番号0092に記載の下記式(D)で表される化合物、段落番号0107の下記式(E)で表される化合物、段落番号0109の下記式(F)で表される化合物、段落番号0116の下記式(G)で表される化合物等が挙げられる。
【0058】
【0059】
インクにおける光重合性化合物の含有量は、1~97質量%であることが好ましく、30~95質量%であることがより好ましい。
【0060】
[光重合開始剤]
インクは、光重合開始剤をさらに含んでもよい。具体的には、活性光線が電子線である場合は、通常、光重合開始剤は含まれなくてもよいが、活性光線が紫外線である場合は、光重合開始剤が含まれることが好ましい。
【0061】
光重合開始剤は、分子内結合開裂型と分子内水素引き抜き型とがある。分子内結合開裂型の光重合開始剤の例には、ジエトキシアセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オン、ベンジルジメチルケタール、1-(4-イソプロピルフェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、4-(2-ヒドロキシエトキシ)フェニル-(2-ヒドロキシ-2-プロピル)ケトン、1-ヒドロキシシクロヘキシル-フェニルケトン、2-メチル-2-モルホリノ(4-チオメチルフェニル)プロパン-1-オン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルホリノフェニル)-ブタノン等のアセトフェノン系;ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル等のベンゾイン類;2,4,6-トリメチルベンゾインジフェニルホスフィンオキシド等のアシルホスフィンオキシド系;ベンジルおよびメチルフェニルグリオキシエステル等が含まれる。
【0062】
分子内水素引き抜き型の光重合開始剤の例には、ベンゾフェノン、o-ベンゾイル安息香酸メチル-4-フェニルベンゾフェノン、4,4’-ジクロロベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、4-ベンゾイル-4’-メチル-ジフェニルサルファイド、アクリル化ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジメチル-4-メトキシベンゾフェノン等のベンゾフェノン系;2-イソプロピルチオキサントン、2,4-ジメチルチオキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2,4-ジクロロチオキサントン等のチオキサントン系;ミヒラーケトン、4,4’-ジエチルアミノベンゾフェノン等のアミノベンゾフェノン系;10-ブチル-2-クロロアクリドン、2-エチルアンスラキノン、9,10-フェナンスレンキノン、カンファーキノン等が含まれる。
【0063】
インクにおける光重合開始剤の含有量は、活性光線や光重合性化合物の種類などにもよるが、0.01質量%~10質量%であることが好ましい。
【0064】
インクは、光重合開始剤として、光酸発生剤を含んでもよい。光酸発生剤の例には、化学増幅型フォトレジストや光カチオン重合に利用される化合物が用いられる(有機エレクトロニクス材料研究会編、「イメージング用有機材料」、ぶんしん出版(1993年)、187~192ページ参照)。
【0065】
活性光線硬化型インクジェットインクは、必要に応じて光重合開始剤助剤や重合禁止剤などをさらに含んでもよい。光重合開始剤助剤は、第3級アミン化合物であってよく、芳香族第3級アミン化合物が好ましい。芳香族第3級アミン化合物の例には、N,N-ジメチルアニリン、N,N-ジエチルアニリン、N,N-ジメチル-p-トルイジン、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステル、N,N-ジヒドロキシエチルアニリン、トリエチルアミンおよびN,N-ジメチルヘキシルアミン等が含まれる。なかでも、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸エチルエステル、N,N-ジメチルアミノ-p-安息香酸イソアミルエチルエステルが好ましい。これらの化合物は、単独で用いられてもよいし、2種類以上が併用されてもよい。
【0066】
重合禁止剤の例には、(アルキル)フェノール、ハイドロキノン、カテコール、レゾルシン、p-メトキシフェノール、t-ブチルカテコール、t-ブチルハイドロキノン、ピロガロール、1,1-ピクリルヒドラジル、フェノチアジン、p-ベンゾキノン、ニトロソベンゼン、2,5-ジ-t-ブチル-p-ベンゾキノン、ジチオベンゾイルジスルフィド、ピクリン酸、クペロン、アルミニウムN-ニトロソフェニルヒドロキシルアミン、トリ-p-ニトロフェニルメチル、N-(3-オキシアニリノ-1,3-ジメチルブチリデン)アニリンオキシド、ジブチルクレゾール、シクロヘキサノンオキシムクレゾール、グアヤコール、o-イソプロピルフェノール、ブチラルドキシム、メチルエチルケトキシム、シクロヘキサノンオキシム等が含まれる。
【0067】
[色材]
インクは、必要に応じて色材をさらに含んでもよい。色材は、染料または顔料でありうるが、インクの構成成分に対して良好な分散性を有し、かつ耐候性に優れることから、顔料が好ましい。顔料は、特に限定されないが、例えばカラーインデックスに記載される下記番号の有機顔料または無機顔料でありうる。
【0068】
赤あるいはマゼンタ顔料の例には、Pigment Red 3、5、19、22、31、38、43、48:1、48:2、48:3、48:4、48:5、49:1、53:1、57:1、57:2、58:4、63:1、81、81:1、81:2、81:3、81:4、88、104、108、112、122、123、144、146、149、166、168、169、170、177、178、179、184、185、208、216、226、257、Pigment Violet 3、19、23、29、30、37、50、88、Pigment Orange 13、16、20、36等が含まれる。青またはシアン顔料の例には、Pigment Blue 1、15、15:1、15:2、15:3、15:4、15:6、16、17-1、22、27、28、29、36、60等が含まれる。緑顔料の例には、Pigment Green 7、26、36、50が含まれる。黄顔料の例には、Pigment Yellow 1、3、12、13、14、17、34、35、37、55、74、81、83、93、94,95、97、108、109、110、137、138、139、153、154、155、157、166、167、168、180、185、193等が含まれる。黒顔料の例には、Pigment Black 7、28、26等が含まれる。
【0069】
顔料の市販品の例には、クロモファインイエロー2080、5900、5930、AF-1300、2700L、クロモファインオレンジ3700L、6730、クロモファインスカーレット6750、クロモファインマゼンタ6880、6886、6891N、6790、6887、クロモファインバイオレット RE、クロモファインレッド6820、6830、クロモファインブルーHS-3、5187、5108、5197、5085N、SR-5020、5026、5050、4920、4927、4937、4824、4933GN-EP、4940、4973、5205、5208、5214、5221、5000P、クロモファイングリーン2GN、2GO、2G-550D、5310、5370、6830、クロモファインブラックA-1103、セイカファストエロー10GH、A-3、2035、2054、2200、2270、2300、2400(B)、2500、2600、ZAY-260、2700(B)、2770、セイカファストレッド8040、C405(F)、CA120、LR-116、1531B、8060R、1547、ZAW-262、1537B、GY、4R-4016、3820、3891、ZA-215、セイカファストカーミン6B1476T-7、1483LT、3840、3870、セイカファストボルドー10B-430、セイカライトローズR40、セイカライトバイオレットB800、7805、セイカファストマルーン460N、セイカファストオレンジ900、2900、セイカライトブルーC718、A612、シアニンブルー4933M、4933GN-EP、4940、4973(大日精化工業製);
KET Yellow 401、402、403、404、405、406、416、424、KET Orange 501、KET Red 301、302、303、304、305、306、307、308、309、310、336、337、338、346、KET Blue 101、102、103、104、105、106、111、118、124、KET Green 201(大日本インキ化学製);
Colortex Yellow 301、314、315、316、P-624、314、U10GN、U3GN、UNN、UA-414、U263、Finecol Yellow T-13、T-05、Pigment Yellow1705、Colortex Orange 202、Colortex Red101、103、115、116、D3B、P-625、102、H-1024、105C、UFN、UCN、UBN、U3BN、URN、UGN、UG276、U456、U457、105C、USN、Colortex Maroon601、Colortex BrownB610N、Colortex Violet600、Pigment Red 122、Colortex Blue516、517、518、519、A818、P-908、510、Colortex Green402、403、Colortex Black 702、U905(山陽色素製);
Lionol Yellow1405G、Lionol Blue FG7330、FG7350、FG7400G、FG7405G、ES、ESP-S(東洋インキ製)、
Toner Magenta E02、Permanent RubinF6B、Toner Yellow HG、Permanent Yellow GG-02、Hostapeam BlueB2G(ヘキストインダストリ製);
Novoperm P-HG、Hostaperm Pink E、Hostaperm Blue B2G(クラリアント製);
カーボンブラック#2600、#2400、#2350、#2200、#1000、#990、#980、#970、#960、#950、#850、MCF88、#750、#650、MA600、MA7、MA8、MA11、MA100、MA100R、MA77、#52、#50、#47、#45、#45L、#40、#33、#32、#30、#25、#20、#10、#5、#44、CF9(三菱化学製)などが挙げられる。
【0070】
顔料の分散は、例えばボールミル、サンドミル、アトライター、ロールミル、アジテータ、ヘンシェルミキサ、コロイドミル、超音波ホモジナイザー、パールミル、湿式ジェットミル、およびペイントシェーカー等により行うことができる。顔料の分散は、顔料粒子の平均粒子径が、好ましくは0.08~0.5μm、最大粒子径が好ましくは0.3~10μm、より好ましくは0.3~3μmとなるように行われることが好ましい。顔料の分散は、顔料、分散剤、および分散媒体の選定、分散条件、およびろ過条件等によって、調整される。
【0071】
インクは、顔料の分散性を高めるために、分散剤をさらに含んでもよい。分散剤の例には、水酸基含有カルボン酸エステル、長鎖ポリアミノアマイドと高分子量酸エステルの塩、高分子量ポリカルボン酸の塩、長鎖ポリアミノアマイドと極性酸エステルの塩、高分子量不飽和酸エステル、高分子共重合物、変性ポリウレタン、変性ポリアクリレート、ポリエーテルエステル型アニオン系活性剤、ナフタレンスルホン酸ホルマリン縮合物塩、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物塩、ポリオキシエチレンアルキル燐酸エステル、ポリオキシエチレンノニルフェニルエーテル、およびステアリルアミンアセテート等が含まれる。分散剤の市販品の例には、Avecia社のSolsperseシリーズや、味の素ファインテクノ社のPBシリーズ等が含まれる。
【0072】
インクは、必要に応じて分散助剤をさらに含んでもよい。分散助剤は、顔料に応じて選択されればよい。
【0073】
分散剤および分散助剤の合計量は、顔料に対して1~50質量%であることが好ましい。
【0074】
インクは、必要に応じて顔料を分散させるための分散媒体をさらに含んでもよい。分散媒体として溶剤をインクに含ませてもよいが、形成された画像における溶剤の残留を抑制するためには、前述のような光重合性化合物(特に粘度の低いモノマー)を分散媒体として用いることが好ましい。
【0075】
染料は、油溶性染料等でありうる。油溶性染料は、以下の各種染料が挙げられる。マゼンタ染料の例には、MS Magenta VP、MS Magenta HM-1450、MS Magenta HSo-147(以上、三井東圧社製)、AIZENSOT Red-1、AIZEN SOT Red-2、AIZEN SOTRed-3、AIZEN SOT Pink-1、SPIRON Red GEH SPECIAL(以上、保土谷化学社製)、RESOLIN Red FB 200%、MACROLEX Red Violet R、MACROLEX ROT5B(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Red B、KAYASET Red 130、KAYASET Red 802(以上、日本化薬社製)、PHLOXIN、ROSE BENGAL、ACID Red(以上、ダイワ化成社製)、HSR-31、DIARESIN Red K(以上、三菱化成社製)、Oil Red(BASFジャパン社製)が含まれる。
【0076】
シアン染料の例には、MS Cyan HM-1238、MS Cyan HSo-16、Cyan HSo-144、MS Cyan VPG(以上、三井東圧社製)、AIZEN SOT Blue-4(保土谷化学社製)、RESOLIN BR.Blue BGLN 200%、MACROLEX Blue RR、CERES Blue GN、SIRIUS SUPRATURQ.Blue Z-BGL、SIRIUS SUPRA TURQ.Blue FB-LL 330%(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Blue FR、KAYASET Blue N、KAYASET Blue 814、Turq.Blue GL-5 200、Light Blue BGL-5 200(以上、日本化薬社製)、DAIWA Blue 7000、Oleosol Fast Blue GL(以上、ダイワ化成社製)、DIARESIN Blue P(三菱化成社製)、SUDAN Blue 670、NEOPEN Blue 808、ZAPON Blue 806(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0077】
イエロー染料の例には、MS Yellow HSm-41、Yellow KX-7、Yellow EX-27(三井東圧)、AIZEN SOT Yellow-1、AIZEN SOT YelloW-3、AIZEN SOT Yellow-6(以上、保土谷化学社製)、MACROLEX Yellow 6G、MACROLEX FLUOR.Yellow 10GN(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Yellow SF-G、KAYASET Yellow2G、KAYASET Yellow A-G、KAYASET Yellow E-G(以上、日本化薬社製)、DAIWA Yellow 330HB(ダイワ化成社製)、HSY-68(三菱化成社製)、SUDAN Yellow 146、NEOPEN Yellow 075(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0078】
ブラック染料の例には、MS Black VPC(三井東圧社製)、AIZEN SOT Black-1、AIZEN SOT Black-5(以上、保土谷化学社製)、RESORIN Black GSN 200%、RESOLIN BlackBS(以上、バイエルジャパン社製)、KAYASET Black A-N(日本化薬社製)、DAIWA Black MSC(ダイワ化成社製)、HSB-202(三菱化成社製)、NEPTUNE Black X60、NEOPEN Black X58(以上、BASFジャパン社製)等が含まれる。
【0079】
顔料または染料の含有量は、インクに対して0.1~20質量%であることが好ましく、0.4~10質量%であることがより好ましい。顔料または染料の含有量が少なすぎると、得られる画像の発色が十分ではなく、多すぎるとインクの粘度が高くなり、射出性が低下するからである。
【0080】
[その他の成分]
インクは、必要に応じて他の成分をさらに含んでもよい。他の成分は、各種添加剤や他の樹脂等であってよい。添加剤の例には、界面活性剤、レベリング添加剤、マット剤、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗菌剤、インクの保存安定性を高めるための塩基性化合物等も含まれる。塩基性化合物の例には、塩基性アルカリ金属化合物、塩基性アルカリ土類金属化合物、アミンなどの塩基性有機化合物などが含まれる。他の樹脂の例には、硬化膜の物性を調整するための樹脂などが含まれ、例えばポリエステル系樹脂、ポリウレタン系樹脂、ビニル系樹脂、アクリル系樹脂、およびゴム系樹脂等が含まれる。
【0081】
インクは、前述の温度応答性ポリマーと、光重合性化合物と、ゲル化剤と、任意の各成分とを、加熱下において混合することにより得ることができる。得られた混合液を所定のフィルターで濾過することが好ましい。
【0082】
[ゾルゲル相転移型の活性光線硬化型インクジェットインク]
本発明のインクは、前述のように、温度により可逆的にゾルゲル相転移するゾルゲル相転移型のインクであってもよい。ゾルゲル相転移型のインクは、高温(例えば80℃程度)では液体であるため、インクジェット記録ヘッドから吐出することができる。高温下で活性光線硬化型インクジェットインクを吐出すると、インク滴(ドット)が記録媒体に着弾した後、自然冷却されてゲル化する。これにより、隣り合うドット同士の合一を抑制し、画質を高めることができる。
【0083】
ゾルゲル相転移型のインクの射出性を高めるためには、高温下におけるインクの粘度が一定以下であることが好ましい。具体的には、活性光線硬化型インクジェットインクの、80℃における粘度が3~20mPa・sであることが好ましい。一方、隣り合うドットの合一を抑制するためには、着弾後の常温下におけるインクの粘度が一定以上であることが好ましい。具体的には、活性光線硬化型インクジェットインクの25℃における粘度は1000mPa・s以上であることが好ましい。
【0084】
ゾルゲル相転移型のインクのゲル化温度は、40℃以上70℃以下であることが好ましく、50℃以上65℃以下であることがより好ましい。射出温度が80℃近傍である場合に、インクのゲル化温度が70℃を超えると、射出時にゲル化が生じやすいため射出性が低くなり、ゲル化温度が40℃未満であると、記録媒体に着弾後、速やかにゲル化しないからである。ゲル化温度とは、ゾル状態にあるインクを冷却する過程において、ゲル化して流動性が低下するときの温度である。
【0085】
ゾルゲル相転移型のインクの80℃における粘度、25℃における粘度およびゲル化温度は、レオメータにより、インクの動的粘弾性の温度変化を測定することにより求めることができる。具体的には、インクを100℃に加熱し、剪断速度11.7(/s)、降温速度0.1℃/sの条件で20℃まで冷却したときの、粘度の温度変化曲線を得る。そして、80℃における粘度と25℃における粘度は、粘度の温度変化曲線において80℃、25℃における粘度をそれぞれ読み取ることにより求めることができる。ゲル化温度は、粘度の温度変化曲線において、粘度が200mPa・sとなる温度として求めることができる。
【0086】
レオメータは、Anton Paar社製のストレス制御型レオメータ PhysicaMCRシリーズを用いることができる。コーンプレートの直径は75mm、コーン角は1.0°とすることができる。
【0087】
2.画像形成方法
本発明の画像形成方法は、1)上述した本発明の活性光線硬化型インクジェットインクをインクジェットヘッドのノズルから射出して記録媒体に着弾させる工程と、2)前記記録媒体に着弾した前記インクに活性光線を照射して前記インクを硬化させる工程とを含む。
【0088】
1)射出工程においては、吐出用記録ヘッドに収納されたインクジェットインクを、ノズルを通して記録媒体に向けて液滴として吐出すればよい。このとき、吐出用記録ヘッドに収納されたインクジェットインクの温度は、当該インクに含まれる温度応答性ポリマーが凝集体を形成して疎水性となり、且つゲル化剤の含有量が、当該インクにおけるゲル化剤の飽和溶解量以下となる温度とされることが好ましい。つまり、吐出用記録ヘッドに収納されたインクジェットインクにおいて、温度応答性ポリマーは疎水性の形態となり、ゲル化剤はできるだけ溶解していることが好ましい。
【0089】
2)硬化工程においては、記録媒体に着弾したインクに光を照射する。照射される光は、光重合性化合物の種類によって適宜選択すればよく、紫外線や電子線などでありうる。
【0090】
本発明の活性光線硬化型インクジェット方式のインクジェット記録装置について説明する。活性光線硬化型インクジェット方式のインクジェット記録装置には、ライン記録方式(シングルパス記録方式)のものと、シリアル記録方式のものと、がある。求められる画像の解像度や記録速度に応じて選択されればよいが、高速記録の観点では、ライン記録方式(シングルパス記録方式)が好ましい。
【0091】
図1は、ライン記録方式のインクジェット記録装置の要部の構成の一例を示す図である。このうち、
図1(a)は側面図であり、
図1(b)は上面図である。
図1に示されるように、インクジェット記録装置10は、複数の吐出用記録ヘッド14を収容するヘッドキャリッジ16と、記録媒体12の全幅を覆い、かつヘッドキャリッジ16の(記録媒体の搬送方向)下流側に配置された活性光線照射部18と、記録媒体12の下面に配置された温度制御部19と、を有する。
【0092】
ヘッドキャリッジ16は、記録媒体12の全幅を覆うように固定配置されており、各色毎に設けられた複数の吐出用記録ヘッド14を収容する。吐出用記録ヘッド14にはインクが供給されるようになっている。たとえば、インクジェット記録装置10に着脱自在に装着された不図示のインクカートリッジなどから、直接または不図示のインク供給手段によりインクが供給されるようになっていてもよい。
【0093】
吐出用記録ヘッド14は、各色ごとに、記録媒体12の搬送方向に複数配置される。記録媒体12の搬送方向に配置される吐出用記録ヘッド14の数は、吐出用記録ヘッド14のノズル密度と、印刷画像の解像度によって設定される。例えば、液滴量2pl、ノズル密度360dpiの吐出用記録ヘッド14を用いて1440dpiの解像度の画像を形成する場合には、記録媒体12の搬送方向に対して4つの吐出用記録ヘッド14をずらして配置すればよい。また、液滴量6pl、ノズル密度360dpiの吐出用記録ヘッド14を用いて720×720dpiの解像度の画像を形成する場合には、2つの吐出用記録ヘッド14をずらして配置すればよい。dpiとは、2.54cm当たりのインク滴(ドット)の数を表す。
【0094】
活性光線照射部18は、記録媒体12の全幅を覆い、かつ記録媒体の搬送方向についてヘッドキャリッジ16の下流側に配置されている。活性光線照射部18は、吐出用記録ヘッド14により吐出されて、記録媒体に着弾した液滴に活性光線を照射し、液滴を硬化させる。
【0095】
活性光線が紫外線である場合、活性光線照射部18(紫外線照射手段)の例には、蛍光管(低圧水銀ランプ、殺菌灯)、冷陰極管、紫外レーザー、数100Pa~1MPaまでの動作圧力を有する低圧、中圧、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLED等が含まれる。硬化性の観点から、照度100mW/cm2以上の紫外線を照射する紫外線照射手段;具体的には、高圧水銀ランプ、メタルハライドランプおよびLED等が好ましい。また、消費電力の少ない点から、LEDがより好ましい。具体的には、Phoseon Technology社製 395nm、水冷LEDを用いることができる。
【0096】
活性光線が電子線である場合、活性光線照射部18(電子線照射手段)の例には、スキャニング方式、カーテンビーム方式、ブロードビーム方式等の電子線照射手段が含まれるが、処理能力の観点から、カーテンビーム方式の電子線照射手段が好ましい。電子線照射手段の例には、日新ハイボルテージ(株)製の「キュアトロンEBC-200-20-30」、AIT(株)製の「Min-EB」等が含まれる。
【0097】
温度制御部19は、記録媒体12の下面に配置されており、記録媒体12を所定の温度に維持する。温度制御部19は、例えば各種ヒータや、各種冷却器等でありうる。温度制御部19を用いて記録媒体12を加熱する際には、インク中の温度応答性ポリマーが親水性の形態をとるように、インク液滴の温度が40℃未満となるように加熱する。
【0098】
以下、ライン記録方式のインクジェット記録装置10を用いた画像記録方法を説明する。記録媒体12を、インクジェット記録装置10のヘッドキャリッジ16と温度制御部19との間に搬送する。一方で、記録媒体12を、温度制御部19により所定の温度に調整する。次いで、ヘッドキャリッジ16のインク吐出用記録ヘッド14から高温のインクを吐出して、記録媒体12上に付着(着弾)させる。そして、活性光線照射部18により、記録媒体12上に付着したインク滴に活性光線を照射して硬化させる。
【0099】
インク吐出用記録ヘッド14からインクを吐出する際の、吐出用記録ヘッド14内のインクの温度は、吐出用記録ヘッドからのインクの射出性を高めるために、吐出用記録ヘッドに充填されたときのインクの温度が、当該インクの(ゲル化温度+10)℃~(ゲル化温度+30)℃に設定されることが好ましい。吐出用記録ヘッド内のインクの温度が、(ゲル化温度+10)℃未満であると、吐出用記録ヘッド内もしくはノズル表面でインクがゲル化して、インクの射出性が低下しやすい。また、インクの温度が低いと、インクに含まれる温度応答性ポリマーが凝集体を形成してゲル化剤などを取り込み、インクの表面張力を上げるという効果が発揮されにくくなる。一方、吐出用記録ヘッド内のインクの温度が(ゲル化温度+30)℃を超えると、インクが高温になりすぎるため、インク成分が劣化することがある。さらに、インクが高温になりすぎて、記録媒体上に着弾したインク液滴の温度が40℃未満にならないと、温度応答性ポリマーのポリマー鎖が広がってゲル化剤などが放出されないため、ゲル化剤によるピニングなどの効果が発揮されにくくなる。
【0100】
インク吐出用記録ヘッド14の各ノズルから吐出される1滴あたりの液滴量は、画像の解像度にもよるが、高解像度の画像を形成するためには、1pl~10plであることが好ましく、0.5~4.0plであることがより好ましい。
【0101】
活性光線の照射は、隣り合うインク滴同士が合一するのを抑制するために、インク滴が記録媒体上に付着した後10秒以内、好ましくは0.001秒~5秒以内、より好ましくは0.01秒~2秒以内に行うことが好ましい。活性光線の照射は、ヘッドキャリッジ16に収容された全てのインク吐出用記録ヘッド14からインクを吐出した後に行われることが好ましい。
【0102】
活性光線が電子線である場合、電子線照射の加速電圧は、十分な硬化を行うためには、30~250kVとすることが好ましく、30~100kVとすることがより好ましい。加速電圧が100~250kVである場合、電子線照射量は30~100kGyであることが好ましく、30~60kGyであることがより好ましい。
【0103】
硬化後の総インク膜厚は、2~25μmであることが好ましい。「総インク膜厚」とは、記録媒体に描画されたインク膜厚の最大値である。
【0104】
図2は、シリアル記録方式のインクジェット記録装置20の要部の構成の一例を示す図である。
図2に示されるように、インクジェット記録装置20は、記録媒体の全幅を覆うように固定配置されたヘッドキャリッジ16の代わりに、記録媒体の全幅よりも狭い幅であり、かつ複数のインク吐出用記録ヘッド24を収容するヘッドキャリッジ26と、ヘッドキャリッジ26を記録媒体12の幅方向に可動させるためのガイド部27と、活性光線照射部18の代わりに活性光線照射部28を有する以外は
図1と同様に構成されうる。
【0105】
シリアル記録方式のインクジェット記録装置20では、ヘッドキャリッジ26がガイド部27に沿って記録媒体12の幅方向に移動しながら、ヘッドキャリッジ26に収容された吐出用記録ヘッド24からインクを吐出する。ヘッドキャリッジ26が記録媒体12の幅方向に移動しきった後(パス毎に)、記録媒体12を搬送方向に送る。これらの操作以外は、前述のライン記録方式のインクジェット記録装置10とほぼ同様にして画像を記録する。その後、活性光線照射部28により、記録媒体12上に付着したインク滴に活性光線を照射して硬化させる。
【実施例】
【0106】
以下、本発明を実施例および比較例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。
【0107】
1.温度応答性ポリマーの合成
1-1.温度応答性ポリマー1の合成
式(1)で表されるモノマーA 120gと、メタクリル酸ブチルであるモノマーB 12gと、重合開姶剤となるアゾジイソブチロニトリル(AIBN) 0.35gとを約500mlのメタノ一ルと混合した。次に、窒素ガスを約1時間にわたり混入した後、混合物の温度を50℃に昇温して撹拌した。約2時間撹拌した後、ハイドロキノン約0.3gを添加して重合を停止し、温湯(31℃以上)中に流入させた。得られた沈澱物を回収し、乾燥させて、粉状の温度応答性ポリマー1を得た。
温度応答性ポリマー1の重量平均分子量は58,000であり、モノマーAの含有量は90モル%だった。
【0108】
1-2.温度応答性ポリマー2~4の合成
モノマーAの種類および量、モノマーBの量を下記表1に記載のように変更以外は上記温度応答性ポリマー1と同様に合成して、表1に記載の重量平均分子量およびモノマーA含有量の温度応答性ポリマー2~7をそれぞれ合成した。
【0109】
1-3.温度応答性ポリマー5の合成
モノマーAの種類および量、モノマーBの量を下記表1に記載のように変更し、重合開姶剤となるアゾジイソブチロニトリル(AIBN) 0.35gとを約500mlのメタノ一ルと混合した。次に、窒素ガスを約1時間にわたり混入した後、混合物の温度を50℃に昇温して撹拌した。約1.5時間撹拌した後、ハイドロキノン約0.3gを添加して重合を停止し、温湯(31℃以上)中に流入させた。得られた沈澱物を回収し、乾燥させて、粉状の温度応答性ポリマー5を得た。
【0110】
1-4.温度応答性ポリマー6の合成
モノマーAの種類および量、モノマーBの量を下記表1に記載のように変更し、重合開姶剤となるアゾジイソブチロニトリル(AIBN) 0.35gとを約500mlのメタノ一ルと混合した。次に、窒素ガスを約1時間にわたり混入した後、混合物の温度を50℃に昇温して撹拌した。約1時間撹拌した後、ハイドロキノン約0.3gを添加して重合を停止し、温湯(31℃以上)中に流入させた。得られた沈澱物を回収し、乾燥させて、粉状の温度応答性ポリマー6を得た。
【0111】
1-5.温度応答性ポリマー7の合成
モノマーAの種類および量、モノマーBの量を下記表1に記載のように変更し、重合開姶剤となるアゾジイソブチロニトリル(AIBN) 0.35gとを約500mlのメタノ一ルと混合した。次に、窒素ガスを約1時間にわたり混入した後、混合物の温度を50℃に昇温して撹拌した。約4時間撹拌した後、ハイドロキノン約0.3gを添加して重合を停止し、温湯(31℃以上)中に流入させた。得られた沈澱物を回収し、乾燥させて、粉状の温度応答性ポリマー7を得た。
【0112】
尚、下記条件のゲル浸透クロマトグラフィー(GPC)により測定した温度応答性ポリマーのポリスチレン換算重量平均分子量を、重量平均分子量とした。
溶媒: テトラヒドロフラン
カラム: 東ソー(株)製TSKgel G4000+2500+2000HXL
カラム温度: 40℃
注入量: 100μl
検出器: RI Model 504(GLサイエンス社製)
ポンプ: L6000(日立製作所(株)製)
流量: 1.0ml/min
校正曲線: 標準ポリスチレンSTK standard ポリスチレン(東ソー(株)製)重量平均分子量=1000000~500迄の13のサンプルによる校正曲線を使用する。13のサンプルは、ほぼ等間隔に用いた。
【0113】
【0114】
また、比較例においては、温度応答性ポリマーの代わりに下記のポリマーIおよびIIを使用した。
ポリマーI: スチレン(重量平均分子量:50,000)
ポリマーII: ビニルアルコール(重量平均分子量:60,000)
【0115】
2.顔料分散液の調製
以下に示す顔料分散剤、光重合性化合物、および重合禁止剤をステンレスビーカーに入れ、65℃のホットプレートで加熱しながら、1時間加熱攪拌した。
顔料分散剤:アジスパーPB824(味の素ファインテクノ社製) 9質量部
光重合性化合物:APG-200(トリプロピレングリコールジアクリレート、新中村化学社製) 70質量部
重合禁止剤:Irgastab UV10(チバ・ジャパン社製) 0.02質量部
【0116】
上記混合液を室温まで冷却した後、これにマゼンタ顔料であるPigment Red 122(大日精化製、クロモファインレッド6112JC)を21質量部加えた。得られた混合液を、直径0.5mmのジルコニアビーズ200gと共にガラス瓶に入れ密栓し、ペイントシェーカーにて8時間分散処理した。その後、ジルコニアビーズを除去して顔料分散液を得た。
【0117】
実施例1~9および比較例10~12
(活性光線硬化型インク1~12の調製)
下記表2に記載の組成比(インクの全質量に対する質量%)で各化合物を混合し、80℃に加熱して攪拌した。その後、得られた液体を加熱下、#3000の金属メッシュフィルターでろ過した。これを冷却して、インク1~12をそれぞれ得た。
【0118】
尚、使用した化合物は以下の通りである。
脂肪族ジケトン:カオーワックスT1、花王株式会社製
ポリエチレングリコール#400ジアクリレート:A-400、新中村化学社製
4EO変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート:SR494、SARTOMER社製
6EO変性トリメチロールプロパントリアクリレート:SR499、SARTOMER社製
Irgastab UV10:チバスペシャリティケミカル社製
DAROCURE TPO:チバスペシャリティケミカル社製
【0119】
【0120】
(画像形成)
インク1~12をそれぞれ使用し、ライン型インクジェット記録装置を用いて単色画像を形成した。インクジェット記録装置のインクジェットヘッドの温度は80℃に設定した。記録媒体には、抜き文字、5cm×5cmのベタ画像、または濃度階調パッチを印字した。画像を形成した後、記録装置の下流部に配置したLEDランプ(Phoseon Technology社製395nm、水冷LED)で、画像に紫外線を照射してインクを硬化した。
【0121】
吐出用記録ヘッドは、ノズル径20μm、ノズル数512ノズル(256ノズル×2列、千鳥配列、1列のノズルピッチ360dpi)のピエゾヘッドを用いた。吐出条件は、1滴の液滴量が2.5plとなる条件で、液滴速度約6m/sで出射させて、1440dpi×1440dpiの解像度で記録した。記録速度は500mm/sとした。画像形成は、23℃、55%RHの環境下で行った。dpiとは、2.54cm当たりのドット数を表す。
【0122】
(画像の評価)
(1)サテライトの確認および評価
記録媒体としてOKトップコート(王子製紙社製、坪量104.7g/m2)を使用し、5cm×5cmの印字率50%の画像を印字した。印字した記録物を光学顕微鏡で観察し、サテライトの有無を確認した。具体的には、1つの画像について、無作為に選んだ10箇所を観察し、観察された主滴とサテライト滴との間の距離を測定した。10箇所で測定した主滴とサテライト滴との間の距離の平均値を求め、その平均値を主滴とサテライト滴との間の距離として、サテライトの有無を評価した。
尚、下記評価基準は、記録媒体とヒトの目との距離が30cmであるときに、60μm以上のズレを感知しやすくなるという知見に基づくものである。
◎:画像を構成する主滴とサテライト滴との間隔が0μmであり、サテライトが全く無い
○:サテライトが観察されたが、画像を構成する主滴とサテライト滴との間隔が60μm未満だった
×:サテライトが観察され、画像を構成する主滴とサテライト滴との間隔が60μm以上であった
【0123】
(2)こすり耐性
各インクで形成したベタ画像について、「JIS規格 K5701-1 6.2.3 耐摩擦性試験」に記載の方法に則りこすり耐性を評価した。具体的には、適切な大きさに切り取った記録媒体を画像上に設置し、荷重をかけて擦り合わせた。その後、画像濃度低下の程度を目視観察し、下記の基準に基づき評価した。
◎:100回以上擦っても、画像の変化がまったく視認されない
○:100回以上擦ると、表面にやや跡が付くが濃度低下はなく、実用上許容範囲にある
△:100回擦った段階で画像濃度の低下が認められるが、実用上許容範囲にある
×:50回未満の擦りで、明らかな画像濃度低下が認められ、実用に耐えない品質である
【0124】
(3)折り耐性
記録媒体としてOKトップコート(王子製紙社製、坪量104.7g/m2)を使用し、上記印字条件下で画像を出力した。各試料の画像出力物について、10枚目の100%印字部を25℃60%RHの環境下に24時間放置した。その後、画像を二つ折り(山折り)にし、折った部分に3M社製セロテープ(登録商標)を貼り、ゆっくりと剥し、剥がした後の画像を目視で観察した。
○:画像膜が剥がれない
△:折りの部分で画像膜がわずかに剥がれるが、実用上問題ないレベルである
×:折りの部分で画像膜が剥がれる
【0125】
上記評価の結果を下記表3に記載した。
【0126】
【0127】
上記表3に示した結果から明らかなように、上記式(1)~(4)からなる群より選ばれる少なくとも1種のモノマーAを含む温度応答性ポリマーと、ゲル化剤と、光重合性化合物とを含有するインク1~9は、いずれもサテライトの発生が抑制され、良好なこすり耐性および折り耐性を有する画像を形成することができた。また、インク1~4の比較から、温度応答性ポリマーに含まれるモノマーAが上記式(1)~(4)のいずれで表されるモノマーAであっても、同等の結果が得られることがわかる。
【0128】
インクに含まれる温度応答性ポリマーのモノマーA含有量が80モル%以上であるインク1は、温度応答性ポリマーのモノマーA含有量が80モル%未満であること以外は同様の組成であるインク5と比べて、サテライトの発生が抑制され、こすり耐性が向上した。この結果から、モノマーA含有量が80モル%以上の温度応答性ポリマーの方が、温度に対する応答性が良好であり、サテライトの発生を抑制し、且つ記録媒体とインクとの密着性を高める傾向にあると考えられる。
【0129】
また、インクに含まれる温度応答性ポリマーの重量平均分子量が10,000以上100,000以下であるインク1は、温度応答性ポリマーの重量平均分子量が10,000未満であること以外は同じ組成であるインク6と比べて、サテライトの発生が抑制された。この結果から、温度応答性ポリマーの重量平均分子量が10,000以上であれば、当該ポリマーは高温下でその凝集体の中にゲル化剤や色材を容易に取り込むことができるため、表面張力の低下を抑制したと考えられる。また、温度応答性ポリマーの重量平均分子量が100,000を超えること以外は同じ組成であるインク7と比べて、サテライトの発生が抑制され、こすり耐性が向上した。この結果からは、温度応答性ポリマーの重量平均分子量が100,000以下であれば、インクの粘度が高くなり過ぎて射出性が悪化する恐れが少ないと考えられる。
【0130】
インクの全質量に対する温度応答性ポリマーの含有量が、5質量%以上20質量%以下であるインク1は、温度応答性ポリマーの含有量が5質量%未満であるインク8および温度応答性ポリマーの含有量が20質量%を超えるインク9と比べて、サテライトの発生が抑制され、こすり耐性が向上した。この結果から、温度応答性ポリマーの含有量が5質量%以上であれば、上述した温度応答性ポリマーを配合することによる効果が得られやすくなり、また、20質量%以下であれば、インクの硬化性が低下することもなく、画像の定着性が良好であると考えられる。
【0131】
一方、温度応答性ポリマーを含まないこと以外はインク1と同様の組成であるインク10を用いて形成した画像においては、サテライトが発生し、実用可能なレベルではあるものの、こすり耐性および折り耐性が低下した。この結果から、温度応答性ポリマーの存在なしでは、インク中のゲル化剤によってインクの表面張力が下がり、サテライトが発生することがわかる。
【0132】
また、温度応答性ポリマーの代わりに疎水性ポリマーであるスチレンを含むこと以外はインク1と同様の組成であるインク11を用いて形成した画像においては、サテライトは発生しなかったもの、こすり耐性および折り耐性が実用不可能なレベルであった。この結果は、疎水性ポリマーの配合によってインクの表面張力が上がり、サテライトの発生が抑制されたものの、記録媒体との密着性は低下し、こすり耐性および折り耐性は低下したことを示している。さらに温度応答性ポリマーの代わりに親水性ポリマーであるビニルアルコールを含むこと以外はインク1と同様の組成であるインク12を用いて形成した画像においては、こすり耐性および折り耐性は良好であったものの、サテライトが発生した。この結果は、親水性ポリマーの配合によってインクの表面張力が下がり、インクと記録媒体との密着性が向上して、こすり耐性および折り耐性は良好となるものの、サテライトが発生しやすくなることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0133】
本発明によれば、サテライトの発生が抑制され、且つ記録媒体との密着性が良好な、活性光線硬化型のゲルインク、および画像形成方法を提供することができる。そのため本発明は、ゲル化剤を比較的多量に含むゾルゲル相転移型の活性光線硬化型インクジェットインクに、特に好適に適用されうる。
【符号の説明】
【0134】
10、20 インクジェット記録装置
12 記録媒体
14、24 吐出用記録ヘッド
16、26 ヘッドキャリッジ
18、28 活性光線照射部
19 温度制御部
27 ガイド部