(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】樹脂歯車及び樹脂歯車の製造方法
(51)【国際特許分類】
F16H 55/06 20060101AFI20220412BHJP
F16H 55/17 20060101ALI20220412BHJP
B29C 70/68 20060101ALI20220412BHJP
B29C 70/42 20060101ALI20220412BHJP
B29C 70/06 20060101ALI20220412BHJP
B29C 45/14 20060101ALI20220412BHJP
B29C 33/12 20060101ALI20220412BHJP
B29K 101/12 20060101ALN20220412BHJP
B29K 105/08 20060101ALN20220412BHJP
B29L 15/00 20060101ALN20220412BHJP
【FI】
F16H55/06
F16H55/17 Z
B29C70/68
B29C70/42
B29C70/06
B29C45/14
B29C33/12
B29K101:12
B29K105:08
B29L15:00
(21)【出願番号】P 2018116157
(22)【出願日】2018-06-19
【審査請求日】2021-02-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】原 久美子
(72)【発明者】
【氏名】横山 景介
【審査官】長清 吉範
(56)【参考文献】
【文献】特開昭64-11810(JP,A)
【文献】特開昭64-9726(JP,A)
【文献】実開昭54-45861(JP,U)
【文献】米国特許第6274074(US,B1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16H 55/06
F16H 55/17
B29C 70/68
B29C 70/42
B29C 70/06
B29C 45/14
B29C 33/12
B29K 101/12
B29K 105/08
B29L 15/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ベース樹脂に強化繊維が配合された成形材料を用いて成形された樹脂歯車であって、
前記強化繊維は、各歯の噛み合い面では歯面に沿って繊維方向が揃い、少なくとも歯と歯の繋ぎ部分を含む歯底では繊維方向がランダムにされ
、
前記歯底は、切断跡を有する、
樹脂歯車。
【請求項2】
中心に貫通孔を有する芯金と、該芯金の外周に一体に設けられ、周方向に沿って複数の前記歯が形成された環状歯部、とを備える請求項1
に記載の樹脂歯車。
【請求項3】
ベース樹脂に強化繊維が配合された成形材料を金型で成形する樹脂歯車の製造方法であって、
前記成形材料を前記金型のキャビティ内に充填する工程と、
前記キャビティへの前記成形材料の充填完了後、前記樹脂歯車の少なくとも歯と歯の繋ぎ部分を含む歯底に対応する前記キャビティの領域に充填された前記成形材料を流動させて、前記歯底おける前記強化繊維の配向を乱す工程と、
前記成形材料を硬化させる工程と、
をこの順に実施
する方法であり、
前記金型は、前記キャビティの前記歯底に対応する領域に連通し、前記キャビティに充填された前記成形材料が流入する樹脂溜まりが画成され、
前記強化繊維の配向を乱す工程は、前記樹脂溜まりに前記成形材料を流入させる工程を含む、
樹脂歯車の製造方法。
【請求項4】
前記金型は、前記キャビティ内で成形される前記樹脂歯車の軸芯位置に配置された軸体を備え、
前記強化繊維の配向を乱す工程は、前記キャビティを画成する前記金型と前記軸体とを、前記軸体の軸線回りに相対回転させる工程を含む請求項
3に記載の樹脂歯車の製造方法。
【請求項5】
前記相対回転させる工程は、前記キャビティを画成する前記金型を固定して、前記軸体を軸線回りに回転させる請求項
4に記載の樹脂歯車の製造方法。
【請求項6】
前記軸体の外周に、中心に貫通孔を有する芯金を嵌挿して、前記軸体と前記芯金とを一体に回転させる請求項
5に記載の樹脂歯車の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂歯車及び樹脂歯車の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電動パワーステアリング等の操舵装置や各種の歯車装置には、樹脂製の歯車を用いたものがある。例えば、特許文献1には、
図9に示すガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維Fがベース樹脂に配合された成形材料Rを用いて、ウォームホイールの歯1を成形する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記したウォームホイール等の樹脂歯車を射出成形する際は、金型に形成されたキャビティ内へ成形材料Rが射出される。このとき、成形材料Rは金型面に沿って流動し、成形材料Rに含まれる強化繊維Fの繊維方向が成形材料の流動方向に揃えられる。特に、歯1と歯1との間の歯底3においては、樹脂歯車の周方向に沿って強化繊維Fが配向される傾向がある。
【0005】
しかし、樹脂歯車の歯1の歯元2や歯底3付近には、引張応力や曲げ応力に加えて、せん断応力が発生する。例えば、樹脂歯車の高負荷時や、樹脂歯車が高温環境下に配置された場合、
図10(A)に示すように、歯底3にせん断力(矢印P)が作用する。せん断力が大きくなると、樹脂歯車がこの強化繊維Fの配向方向では耐えられず、
図10(B)に示すように、歯底3の付近が強化繊維Fをきっかけとして層状に剥離し、クラックCを生じるおそれがあった。
【0006】
そこで本発明は、高負荷時や高温環境下でも、耐久性に優れた構成にできる樹脂歯車及び樹脂歯車の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
(1) ベース樹脂に強化繊維が配合された成形材料を用いて成形された樹脂歯車であって、
前記強化繊維は、各歯の噛み合い面では歯面に沿って繊維方向が揃い、少なくとも歯と歯の繋ぎ部分を含む歯底では繊維方向がランダムにされた樹脂歯車。
この樹脂歯車によれば、少なくとも歯と歯の繋ぎ部分を含む歯底において、成形材料に含まれている強化繊維が、ランダムな向きに配置されている。これにより、歯底において、強化繊維が一方向に沿って配向された場合と比較して、曲げ強度や疲労強度だけでなく、せん断力に対する耐久性を高められる。また、噛み合い面における強化繊維の繊維方向が歯面に沿って揃うことで、強化繊維端面の露出を抑え、相手材への傷付け性を低減できる。
【0008】
(2) 前記歯底は、切断跡を有する(1)に記載の樹脂歯車。
この樹脂歯車によれば、成形材料により歯底が成形される際に、切断跡の位置で成形材料に流れが生じたことにより、成形材料に含まれる強化繊維の繊維方向が乱れ、歯底では繊維方向がランダムとなっている。したがって、強化繊維が一方向に沿って配向された場合と比較して、歯底における耐久性を高められる。
【0009】
(3) 中心に貫通孔を有する芯金と、該芯金の外周に一体に設けられ、周方向に沿って複数の前記歯が形成された環状歯部、とを備える(1)又は(2)に記載の樹脂歯車。
この樹脂歯車によれば、芯金の外周に環状歯部が形成された樹脂歯車であることで、成形材料が芯金によって補強され、高強度な構成にできる。
【0010】
(4) ベース樹脂に強化繊維が配合された成形材料を金型で成形する樹脂歯車の製造方法であって、
前記成形材料を前記金型のキャビティ内に充填する工程と、
前記キャビティへの前記成形材料の充填完了後、前記樹脂歯車の少なくとも歯と歯の繋ぎ部分を含む歯底に対応する前記キャビティの領域に充填された前記成形材料を流動させて、前記歯底おける前記強化繊維の配向を乱す工程と、
前記成形材料を硬化させる工程と、
をこの順に実施する樹脂歯車の製造方法。
この樹脂歯車の製造方法によれば、樹脂歯車の少なくとも歯と歯の繋ぎ部分を含む歯底における強化繊維の配向を乱すことにより、歯底における成形材料に含まれる強化繊維の繊維方向をランダムにできる。これにより、歯底で強化繊維が一方向に配向された場合と比較して、曲げ強度や疲労強度だけでなく、せん断力に対しても耐久性を高められる。また、歯の噛み合い面では、成形材料が歯面に沿って流動するため、強化繊維の繊維方向が歯面に沿って揃えられる。このため、強化繊維端面の歯面への露出を抑え、相手材への傷付け性を低減できる。
【0011】
(5) 前記金型は、前記キャビティ内で成形される前記樹脂歯車の軸芯位置に配置された軸体を備え、
前記強化繊維の配向を乱す工程は、前記キャビティを画成する前記金型と、前記軸体とを、前記軸体の軸線回りに相対回転させる工程を含む(4)に記載の樹脂歯車の製造方法。
この樹脂歯車の製造方法によれば、金型と軸体とを相対回転させることで、歯底に対応するキャビティの領域に充填された成形材料が流動する。その結果、歯底における成形材料内の強化繊維の配向を乱すことができる。
【0012】
(6) 前記相対回転させる工程は、前記キャビティを画成する前記金型を固定して、前記軸体を軸線回りに回転させる(5)に記載の樹脂歯車の製造方法。
この樹脂歯車の製造方法によれば、固定した金型に対して軸体を回転させることで、歯底に対応するキャビティの領域に充填された成形材料が、軸体とともに流動する。その結果、歯底における成形材料内の強化繊維の配向を乱すことができる。
【0013】
(7) 前記軸体の外周に、中心に貫通孔を有する芯金を嵌挿して、前記軸体と前記芯金とを一体に回転させる(6)に記載の樹脂歯車の製造方法。
この樹脂歯車の製造方法によれば、軸体を回転させることで、軸体に嵌挿された芯金が回転し、これにより、キャビティに充填された成形材料のうち、半径方向外側における歯に近い領域を撹拌できる。このため、各歯の歯底に対応する領域の強化繊維の配向をより確実に乱すことができる。
【0014】
(8) 前記金型は、前記キャビティの前記歯底に対応する領域に連通し、前記キャビティに充填された前記成形材料が流入する樹脂溜まりが画成され、
前記強化繊維の配向を乱す工程は、前記樹脂溜まりに前記成形材料を流入させる工程を含む(4)~(7)のいずれか一つに記載の樹脂歯車の製造方法。
この樹脂歯車の製造方法によれば、樹脂溜まりに成形材料が流入することにより、キャビティの歯底に対応する領域は、樹脂溜まりが配置された位置で、強化繊維が樹脂溜まりへの流入方向に沿って配向する。その結果、上記の歯底に対応する領域全体としては、強化繊維の配向が乱れ、繊維方向がランダムになる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、高負荷時や高温環境下でも、耐久性に優れた構成にできる樹脂歯車及び樹脂歯車の製造方法を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【
図1】本発明の実施形態に係る樹脂歯車の正面図である。
【
図2】樹脂歯車を成形する成形装置の概略断面図である。
【
図3】第1実施形態に係る樹脂歯車の製造方法を説明する金型の概略断面図である。
【
図4】成形された樹脂歯車の歯及び歯底の部分を示す一部断面であって、(A)、(B)はそれぞれ強化繊維の配向方向を模式的に示す概略断面図である。
【
図5】第2実施形態に係る樹脂歯車の製造方法を説明する金型の概略断面図である。
【
図7】樹脂溜まりに充填された成形材料が樹脂歯車から除去された後の歯底の状態を示す樹脂歯車の一部拡大断面図である。
【
図8】第3実施形態に係る樹脂歯車の製造方法を説明する金型の概略断面図である。
【
図9】従来の樹脂歯車の強化繊維の配向を示す樹脂歯車の一部断面図である。
【
図10】従来の樹脂歯車に作用するせん断力及びその影響を示す説明図であって、(A)及び(B)はそれぞれ樹脂歯車の一部拡大模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
(第1実施形態)
図1は実施形態に係る樹脂歯車の正面図である。
樹脂歯車11は、金属製のボス部13と、ボス部13の外周に成形材料で成形された環状歯部15とを有する。この樹脂歯車11は、例えば、電動パワーステアリング装置に用いられるウォームホイール等に好適に用いられる歯車であるが、本発明はこれに限らず、任意の形状、規格の歯車に対しても好適に適用できる。
【0018】
環状歯部15は、その外周部に複数の歯17が周方向に等間隔で形成されている。歯17と歯17の間の歯底19は、樹脂歯車11の軸線方向の垂直断面が略U字形にされている(
図4(A)参照)。
【0019】
環状歯部15は、ベース樹脂に強化繊維が配合された繊維配合樹脂組成物を成形材料として、射出成形により成形された繊維強化複合材である。ベース樹脂としては、例えばポリアミド(PA6,PA66,PA46等)、ポリアセタール、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)、ポリフェニレンサルファイド(PPS)等の熱可塑性の樹脂材が用いられる。強化繊維としては、例えばガラス繊維、炭素繊維等の無機繊維、アラミド繊維等の有機繊維等が用いられる。
【0020】
ここで、環状歯部15の歯17と歯底19の形状を後述する
図4(A)を用いて説明する。
歯17の噛み合い面18は、歯17の歯先17aから歯元17bに至るまでの領域に形成され、歯底19と連続する面で形成される。歯底19は、互いに隣接する一対の歯17における、一方の歯17の歯元17bから他方の歯17の歯元17bまでの、歯17と歯17との間の繋ぎ部分20を含む。
【0021】
以降の説明においては、「歯底」とは、歯元17bと繋ぎ部分20との境目は明確でないため、少なくとも繋ぎ部分20を含み、且つ、繋ぎ部分20と隣接する一部の歯元17bも含むものとする。歯底19の形状は任意であり、断面形状がV字形等、他の形状であってもよい。
【0022】
ボス部13は、金属製の芯金21を有する。芯金21には、その中心に貫通孔23が形成され、不図示の回転軸が挿入可能となっている。
【0023】
次に、樹脂歯車11を成形する成形装置について説明する。
図2は樹脂歯車を成形する成形装置31の概略断面図である。
【0024】
成形装置31は、射出部33と、金型部35と、図示しない制御部とを有する。
射出部33は、シリンダー37と、シリンダー37内に設けられたスクリュー39と、シリンダー37の後端側から成形材料を供給するホッパ41とを備える。シリンダー37にはホッパ41からベース樹脂と強化繊維が供給される。シリンダー37の内部では、ベース樹脂が不図示のヒータにより加熱されて可塑化する。可塑化したベース樹脂は、スクリュー39によって強化繊維と混練されながら、シリンダー37の先端側に送られる。
【0025】
金型部35は、固定側取付板45と、可動側取付板47と、固定側取付板45と可動側取付板47の間に配置された金型49と、後述するサーボモータ77とを有する。金型49には、射出部33から可塑化した成形材料Rが射出される。
【0026】
可動側取付板47は、不図示の型締め機構によって固定側取付板45に対して近接及び離間する方向へ移動可能となる。金型49は、固定型51と、可動型53とを有し、固定型51は固定側取付板45に固定され、可動型53は可動側取付板47に支持される。可動型53は、型締め機構の駆動によって可動側取付板47が移動することで、固定型51に対して近接及び離間する。可動型53には、樹脂歯車を成形するキャビティ61が形成され、固定型51には、スプルー、ランナー、ゲートを含む流路63が形成される。射出部33から流路63に供給される可塑化した成形材料Rは、流路63を通じてキャビティ61に送られる。
【0027】
これら射出部33及び金型部35は、制御部によって駆動制御される。
【0028】
図3は第1実施形態に係る樹脂歯車の製造方法を説明する金型の概略断面図である。なお、図示例の歯形状や歯数は、
図1に示す樹脂歯車11のものを簡略化して示したものである。
【0029】
図1~
図3に示すように、可動型53に形成されるキャビティ61には、樹脂歯車11のボス部13となる芯金21が配置される。また、キャビティ61は、環状歯部15の複数の歯17を成形する歯部成形凹部65と、これらの歯部成形凹部65の間に設けられて樹脂歯車11の歯底19を成形する歯底成形凸部67とを有する。
【0030】
このキャビティ61には、
図2に示す射出部33から供給された成形材料Rが充填される。そして、固定型51と可動型53とが型締め方向に加圧されることにより、成形材料Rにより芯金21がインサート成形された樹脂歯車11が成形される。
【0031】
ここで、金型49には、可動型53の射出部33と反対側から、従動プーリ71が固定された軸体73が、キャビティ61の中心を貫通して挿入される。軸体73は、成形する樹脂歯車11の軸芯位置に配置され、中子としても機能する。
【0032】
サーボモータ77は、回転軸77aを軸体73と平行にして配置される。回転軸77aに取り付けた駆動プーリ75と従動プーリ71との間には、駆動ベルト79が掛けられる。これにより、サーボモータ77の回転は軸体73に伝達され、軸体73を回転駆動する。軸体73は、キャビティ61に配置される芯金21の貫通孔23に嵌挿され、芯金21は軸体73と一体となって回転する。
【0033】
次に、上記構成の成形装置31によって樹脂歯車11を製造する手順を説明する。
(充填工程)
まず、
図2に示す金型49のキャビティ61に芯金21をセットし、型締め機構によって金型49の固定型51と可動型53とを近接させて型締めする。次いで、射出部33から可塑化した成形材料Rを、流路63を通じてキャビティ61へ射出する。射出された成形材料Rは、金型面に沿ってキャビティ61内を流動する。これにより、キャビティ61内に成形材料Rが充填される。
【0034】
(強化繊維の配向を乱す工程)
キャビティ61内への成形材料Rの充填完了後、サーボモータ77を回転させる。軸体73が軸線回り(例えば
図3の矢印A方向)に回転駆動されると、軸体73と芯金21とが一体になってキャビティ61内で回転する。すると、キャビティ61内における、芯金21と歯底19となる部位との間に充填された成形材料Rが、芯金21の回転に伴って撹拌(周方向へ流動)される。軸体73の回転方向は、図示した矢印A方向に限らず、A方向及びその逆方向に交互に回転させてもよい。軸体73の回転により、歯底19となる部位に充填された成形材料Rの強化繊維Fは、繊維の配向方向が乱されて、繊維方向がランダムになる。また、歯元17b、及び歯底19と同じ半径(歯底円の半径)位置付近の歯17の根元(
図4(a),(b)参照)においても、強化繊維Fの繊維方向がランダムになる。これにより、樹脂歯車11の強度を更に高めることができる。
【0035】
ここで、「ランダム」とは、
図9の歯底3の強化繊維Fの配置形態のように、一方の歯1から他方の歯1に向けて、概ね円周方向に向けて繊維方向が揃った状態ではなく、強化繊維がバラバラな方向に配置された状態を意味する。
【0036】
(硬化工程、樹脂歯車取り出し)
軸体73を回転させて成形材料Rを撹拌した後、軸体73を停止させる。この状態のまま、成形材料Rを保圧、冷却し、キャビティ61内で成形材料Rを硬化させる。成形材料Rの硬化後、型締め機構によって
図2に示す可動側取付板47を固定側取付板45から離間させ、金型49の固定型51と可動型53とを離型させる。そして、成形された樹脂歯車をキャビティ61から取り出す。
【0037】
図4は、成形された樹脂歯車11の歯17及び歯底19の部分を示す一部断面であって、(A)、(B)はそれぞれ強化繊維の配向方向を模式的に示す概略断面図である。
キャビティ内に供給された成形材料は、各歯17の噛み合い面18となる金型面に沿って成形材料Rが流動することで、噛み合い面18においては、強化繊維Fの配向方向が歯面に沿って揃えられる。
【0038】
また、上記の各工程により成形された樹脂歯車11は、金型のキャビティ内の成形材料の排出経路等の工夫によって、歯17の内部における強化繊維Fの配向方向を、
図4(A)に示すように、噛み合い面18に沿って略平行な配向としたり、
図4(B)に示すように歯17の先端に向けて一方向に揃った配向にもできる。
【0039】
いずれの場合でも、各歯17の歯底19では、成形材料Rが硬化する前に軸体73及び芯金21を回転させることで、歯底19における強化繊維Fの配向が乱され、繊維方向がランダムになる。
【0040】
このように、本実施形態の樹脂歯車11によれば、各歯17の歯底19において、成形材料Rに含まれる強化繊維Fの繊維方向がランダムになる。これにより、歯底19において、強化繊維Fが一方向に配向された場合と比較して、曲げ強度や疲労強度だけでなく、せん断力に対する耐久性が高められる。
【0041】
また、噛み合い面18においては、強化繊維Fの繊維方向が歯面に沿って揃うことで、強化繊維端面が歯面に露出することを抑え、相手材への傷付け性を低減できる。
【0042】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について説明する。なお、以降の説明では、第1実施形態と同一の構成部分に対しては同一の符号を付与し、その説明を省略又は簡単化する。
図5は第2実施形態に係る樹脂歯車の製造方法を説明する金型の概略断面図である。
【0043】
本実施形態では、樹脂溜まり81を設けた可動型53Aを用いて樹脂歯車を成形する。また、前述した軸体73は、回転駆動させずに中子として使用する。
樹脂溜まり81は、樹脂歯車11の歯底19(
図1参照)を成形するための歯底成形凸部67にそれぞれ画成される。樹脂溜まり81の内側空間は、キャビティ61に連通される。
【0044】
図6は樹脂溜まり81の拡大断面図である。
樹脂溜まり81は、可塑化した成形材料Rをキャビティ61から流入させる引き込み路83と、引き込み路83に流入した成形材料Rを貯留する溜まり部85とを有する。
【0045】
この樹脂溜まり81が画成された可動型53Aを用いて樹脂歯車11を成形する場合、成形材料Rをキャビティ61に充填させると、成形材料Rは、キャビティ61から樹脂溜まり81の引き込み路83に流動して、溜まり部85に溜まる。このとき、キャビティ61の歯底19を成形する領域では、樹脂溜まり81に成形材料Rが流入することで、成形材料Rに局所的な径方向への流動が生じる。その結果、キャビティ61内の歯底19となる領域では、強化繊維Fの繊維配向が、キャビティ61(樹脂歯車)に成形材料Rが充填される際、周方向へ成形材料Rが移動したことによる周方向に向かう方向と、樹脂溜まり81の溜まり部85に流入することによる径方向に向かう方向と、が混在した配向となる。よって、強化繊維Fの繊維配向が、全体で一方向に揃うことが防止される。
【0046】
そして、成形材料Rを樹脂溜まり81に充填した状態で硬化させ、硬化後、可動型53Aを離型させる。これにより、成形された樹脂歯車が取り出される。このとき、引き込み路83及び溜まり部85に充填され、樹脂歯車と一体になった成形材料Rは、歯底19から切断されて除去される。
【0047】
図7は樹脂溜まり81に充填された成形材料Rが樹脂歯車11Aから除去された後の歯底19の状態を示す樹脂歯車11Aの一部拡大断面図である。
上記のように製造された樹脂歯車11Aは、第1実施形態の場合と同様に、各歯17の歯底19において、成形材料R内の強化繊維Fの配向方向が乱され、繊維方向がランダムになる。また、成形された樹脂歯車11Aから、樹脂溜まり81に充填されて硬化した成形材料Rが切断されて、除去される。よって、歯底19には成形材料Rの切断跡87が形成される。切断跡87は、図示例では凸部として示しているが、凹部であってもよい。
【0048】
このように、本実施形態によれば、歯底19に対応するキャビティ61の領域に接続された樹脂溜まり81に成形材料Rを流入させることで、歯底19となる領域の成形材料Rが径方向にも流動する。これにより、特別な駆動制御を実施することなく、強化繊維Fが歯底19に対応する金型面に沿って配向される状態を乱して、強化繊維Fの繊維方向をランダムにできる。したがって、この場合でも、樹脂歯車の歯底19で強化繊維Fが一方向に配向された構成と比較して、曲げ強度や疲労強度だけでなく、せん断力に対しても耐久性を高められる。
【0049】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態を説明する。
図8は第3実施形態に係る樹脂歯車の製造方法を説明する金型の概略断面図である。
【0050】
本実施形態においては、第2実施形態で示した樹脂溜まり81を有する可動型53Aを用いるとともに、
図2に示すサーボモータ77を駆動させて軸体73を軸線回り(例えば
図8の矢印A方向)に回転させ、軸体73と芯金21を一体にキャビティ61内で回転駆動させる。
【0051】
つまり、本実施形態では、第1実施形態と同様に、成形材料Rをキャビティ61に充填した後、軸体73及び芯金21を回転駆動させるとともに、第2実施形態と同様にキャビティ61内の成形材料Rを樹脂溜まり81へ流入させる。これにより、成形材料Rが充填されたキャビティ61内において、歯底19を成形する領域に充填された成形材料Rが流動して、強化繊維Fの配向方向が乱される。そして、成形材料Rの硬化後に、可動型53Aを離型することで、成形された樹脂歯車を取り出す。このとき、樹脂溜まり81に充填され、硬化した成形材料Rは、歯底19から切断されて除去される。
【0052】
上記のように成形された樹脂歯車11A(
図7参照)は、各歯17の歯底19において、成形材料R内の強化繊維Fの配向が乱され、強化繊維Fの繊維方向がランダムになる。この樹脂歯車11Aの場合、成形材料Rの撹拌と、樹脂溜まり81による成形材料の流動との相乗効果により、歯底19における強化繊維の繊維方向を、より確実にランダムな状態にすることができる。
【0053】
なお、上記した第1、第3実施形態では、
図2に示すように、固定した金型49に対して軸体73を回転させたが、金型49と軸体73とは、軸体73の軸線回りに相対回転させればよく、例えば、固定した軸体73に対して金型49を回転させてもよい。
【0054】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0055】
例えば、上記では、樹脂歯車はボス部に芯金を設けた構成を説明したが、芯金を有さずに歯車全体が成形材料により形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0056】
11,11A 樹脂歯車
17 歯
18 噛み合い面
19 歯底
20 繋ぎ部分
21 芯金(ボス部)
23 貫通孔
49 金型
53,53A 可動型(金型)
61 キャビティ
73 軸体
81 樹脂溜まり
87 切断跡
F 強化繊維
R 成形材料