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特許7056431ギヤボックス構成部品の製造方法、及びギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】ギヤボックス構成部品の製造方法、及びギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法
(51)【国際特許分類】
   B29C 70/06 20060101AFI20220412BHJP
   B62D 5/04 20060101ALI20220412BHJP
   B29C 70/54 20060101ALI20220412BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B29C70/06
B62D5/04
B29C70/54
C08J5/04
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018135865
(22)【出願日】2018-07-19
(65)【公開番号】P2020011465
(43)【公開日】2020-01-23
【審査請求日】2021-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000004204
【氏名又は名称】日本精工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002000
【氏名又は名称】特許業務法人栄光特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】澤野 貴紀
(72)【発明者】
【氏名】松本 兼明
(72)【発明者】
【氏名】村上 豪
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-137796(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 70/06
B62D 5/04
B29C 70/54
C08J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品の製造方法であって、
前記ギヤボックス構成部品のプリフォームを製造する金型は、下型と、該下型に対して加圧される上型とから成り、
前記下型は、前記湾曲部分を形成する湾曲部分形成部と、該湾曲部分形成部の下方に設けられた排液孔と、前記湾曲部分形成部と前記排液孔との間に設けられた第1のメッシュ状フィルタとを有し、
前記上型は、前記下型への加圧面に第2のメッシュ状フィルタを有し、
前記下型に平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維を含有したスラリーを注入して、前記上型を前記下型に対して押圧し、前記第1のメッシュ状フィルタ及び第2のメッシュ状フィルタから前記スラリーの溶媒のみを排出させて、繊維積層体から成る前記プリフォームを形成するプリフォーム形成工程と、
前記プリフォームを乾燥させて成形用型に配置し、樹脂材料を前記成形用型に注入して、前記プリフォームに前記樹脂材料を含浸させる成型工程と、
を備える、
前記強化繊維が前記樹脂材料内に分散して配置された繊維強化樹脂組成物によって形成され、少なくとも一部の前記強化繊維が、前記湾曲部分を跨いで配向されているギヤボックス構成部品の製造方法
【請求項2】
前記ギヤボックス構成部品を形成する前記繊維強化樹脂組成物中の前記強化繊維の配合量10~60重量%とする請求項1記載のギヤボックス構成部品の製造方法
【請求項3】
強化繊維を含んで構成され、外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品の、樹脂で充填される前のプリフォームを製造する製造方法であって、
前記プリフォームを製造する金型は、下型と、該下型に対して加圧される上型とから成り、
前記下型は、前記湾曲部分を形成する湾曲部分形成部と、該湾曲部分形成部の下方に設けられた排液孔と、前記湾曲部分形成部と前記排液孔との間に設けられた第1のメッシュ状フィルタとを有し、
前記上型は、前記下型への加圧面に第2のメッシュ状フィルタを有し、
前記下型に平均繊維長が0.5mm以上の前記強化繊維を含有したスラリーを注入して、前記上型を前記下型に対して押圧し、前記第1のメッシュ状フィルタ及び第2のメッシュ状フィルタから前記スラリーの溶媒のみを排出させて、繊維積層体から成る前記プリフォームを形成する、少なくとも一部の前記強化繊維が、前記湾曲部分を跨いで配向されているギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法
【請求項4】
前記プリフォームのかさ密度、0.4g/cm以上にする、請求項に記載のギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギヤボックス構成部品の製造方法、及びギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって、自動車の省資源及び省エネルギー、CO低減のための低燃費化の推進が強く要望されるようになった。電動パワーステアリング装置についても、更なる軽量化が求められている。電動パワーステアリング装置においては、特に、減速歯車機構を収納するギヤボックス、及びそのカバーに関して、アルミニウム合金等の軽金属の使用による軽量化実現の可能性が検討されてきた。しかし、その実現には、ギヤボックス、及びそのカバーを形成する材料や構造を大きく変更しなければならなかった。
【0003】
電動パワーステアリング装置のギヤボックス、及びそのカバーを更に軽量化するには、上記の軽金属よりも比重の小さい材料、即ち、樹脂材料を用いて形成すればよい。しかし、単純に材料のみを置換しただけでは、従来品と同等の品質の確保は困難であると考えられる。特に問題となるのは、金属材料に比べ耐衝撃性、クリープ特性、剛性が低い点である。また、金属材料から樹脂材料へ置換する場合、樹脂製の構造体により、金属製の構造体と同等の寸法安定性を確保するのは容易でない、ということも明白であった。
【0004】
このような軽量化の先行技術として、例えば特許文献1、2の技術が挙げられる。特許文献1には、電動パワーステアリング装置において、操舵状態検出センサを収納するセンサハウジング、及び減速機を収納するギヤハウジングを含む全てのハウジングを樹脂材料で構成し、その軽量化を図る技術が開示されている。
【0005】
また、特許文献2の電動パワーステアリング装置では、ギヤボックスのハウジング部材とカバー部材とを、金属製の芯金をインサートした樹脂材料のインサート成形により製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2009-298246号公報
【文献】特開2013-67362号公報
【文献】特開昭60-72711号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記特許文献1の実施形態においては、センサハウジングとギヤハウジングを、全てポリアミド系樹脂材料又は強化繊維を充填したポリアミド系樹脂により形成しているが、レーザー溶着を行うためには、繊維含有率を低くしなければならない。そのため、ハウジングの高温強度、耐衝撃性、クリープ特性、剛性などの機械的特性が低下し、長期間の使用には適用が困難である。
【0008】
また、特許文献2の電動パワーステアリング装置のギヤボックスでは、熱可塑性樹脂と強化繊維とを含有する樹脂組成物を、芯金のボルト穴にボルトを挿通して固定している。しかし、一般に射出成形においては、射出成形時の材料の流れ方向に強化繊維が配向する。そのため、材料の流れ方向とその直角方向とで熱膨張係数に異方性が生じ、それが一因となって「反り」が発生し、寸法精度を低下させる傾向がある。
【0009】
また、上記のような樹脂中に強化繊維を混入させて成形する樹脂モールド法においては、強化繊維を樹脂中に添加すると、注型時の樹脂粘度が著しく増大する。そのため、必要量の強化繊維を樹脂中に添加することが実際には困難となり、意図した補強効果が得られにくいのが実情であった。
【0010】
一方、特許文献3には、繊維状物質を含むスラリーをフィルタ付きの金型に供給し、このフィルタから低粘度液体である溶媒を排出して、繊維状物質を金型内に充填させる工程を含む樹脂モールド成形技術が開示されている。この技術によれば、必要十分量の繊維状物質をスラリー中に含ませることができる。
しかし、この成形方法では、金型の下型だけにフィルタを配置し、スラリー中の溶媒を、吸引法に基づく減圧によりフィルタを介して排出するため、繊維状物質のかさ密度を高めることができない。また、湾曲部を有する形状に繊維状物質を成形する場合、その湾曲部において、繊維状物質のかさ密度が不足するため、強度が不十分となる。
【0011】
本発明は、上記課題を解決するものであり、その目的は、従来と同等の強度と信頼性を備えつつ、高い寸法精度を有し軽量化が可能なギヤボックス構成部品の製造方法、及びギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は下記の構成からなる。
(1)外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品の製造方法であって、
前記ギヤボックス構成部品のプリフォームを製造する金型は、下型と、該下型に対して加圧される上型とから成り、
前記下型は、前記湾曲部分を形成する湾曲部分形成部と、該湾曲部分形成部の下方に設けられた排液孔と、前記湾曲部分形成部と前記排液孔との間に設けられた第1のメッシュ状フィルタとを有し、
前記上型は、前記下型への加圧面に第2のメッシュ状フィルタを有し、
前記下型に平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維を含有したスラリーを注入して、前記上型を前記下型に対して押圧し、前記第1のメッシュ状フィルタ及び第2のメッシュ状フィルタから前記スラリーの溶媒のみを排出させて、繊維積層体から成る前記プリフォームを形成するプリフォーム形成工程と、
前記プリフォームを乾燥させて成形用型に配置し、樹脂材料を前記成形用型に注入して、前記プリフォームに前記樹脂材料を含浸させる成型工程と、
を備える、
前記強化繊維が前記樹脂材料内に分散して配置された繊維強化樹脂組成物によって形成され、少なくとも一部の前記強化繊維が、前記湾曲部分を跨いで配向されているギヤボックス構成部品の製造方法
(2)強化繊維を含んで構成され、外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品の、樹脂で充填される前のプリフォームを製造する製造方法であって、
前記プリフォームを製造する金型は、下型と、該下型に対して加圧される上型とから成り、
前記下型は、前記湾曲部分を形成する湾曲部分形成部と、該湾曲部分形成部の下方に設けられた排液孔と、前記湾曲部分形成部と前記排液孔との間に設けられた第1のメッシュ状フィルタとを有し、
前記上型は、前記下型への加圧面に第2のメッシュ状フィルタを有し、
前記下型に平均繊維長が0.5mm以上の前記強化繊維を含有したスラリーを注入して、前記上型を前記下型に対して押圧し、前記第1のメッシュ状フィルタ及び第2のメッシュ状フィルタから前記スラリーの溶媒のみを排出させて、繊維積層体から成る前記プリフォームを形成する、少なくとも一部の前記強化繊維が、前記湾曲部分を跨いで配向されているギヤボックス構成部品のプリフォームの製造方法
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品を、従来と同等の強度と信頼性を備えつつ、高い寸法精度を有し軽量化が可能な構成にできる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】電動パワーステアリング装置の概略的な構成図である。
図2図1に示すII-II線の部分断面図である。
図3図2に示すIII-III線の一部断面図である。
図4】(A)はギヤボックスカバーの概略構成を示す斜視図、(B)は(A)に示すギヤボックスカバーの背面側の概略構成を示す斜視図である。
図5】ギヤボックスカバーのプリフォームを抄造する抄造型の概略的な斜視図である。
図6図5に示す下型のVI-VI線断面図である。
図7】(A),(B)は開繊工程で繊維含有スラリーを作製する様子を示す工程説明図である。
図8】(A)~(E)は抄造工程を段階的に説明する工程説明図である。
図9】ボス形成部に流入する繊維含有スラリーの流動方向を示す説明図である。
図10】ギヤボックスカバーのボスを模式的に示す部分拡大図である。
図11】炭素繊維の初期繊維長に対する曲げ強度の分布を示す説明図である。
図12図5に示す抄造型を用いて作製したプリフォームの外観斜視図である。
図13】(A)は図12に示すプリフォームのP1部を二分したプリフォーム本体側の割れ面の写真、(B)は破断片におけるボスの割れ面の拡大写真である。
図14】(A)は図12に示すプリフォームのP2部を二分したプリフォーム本体側の割れ面の拡大写真であり、(B)は破断片におけるリブの割れ面の拡大写真である。
図15図13(A)に示すプリフォームのP4部を正面から見た顕微鏡写真である。
図16図13(B)のP5部分の繊維層が繊維によって結合された様子を模式的に示すモデル図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、図面を参照して詳細に説明する。
ここでは、本発明の外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品を、電動パワーステアリング装置に用いられるギヤボックスとして説明するが、本発明はこれに限らない。
【0016】
<電動パワーステアリング装置の構成>
図1は電動パワーステアリング装置の概略的な構成図である。
電動パワーステアリング装置100は、電動モータ11による補助出力を、減速歯車機構13を介して車両のステアリング機構15に伝達する。なお、図示例の電動パワーステアリング装置100は一例であって、他の種類の機構であってもよい。
【0017】
図1に示す電動パワーステアリング装置100においては、不図示のステアリングホイールが上端部に固定されたステアリング軸17が、ステアリング軸用ハウジング19の内部に回転自在に支承される。また、ステアリング軸用ハウジング19は、その下部を車両の前方に向けて傾斜した状態で、車室内部の所定位置に固定される。
【0018】
ステアリング軸17の回転を左右の操舵輪の運動に変換するラックアンドピニオン機構21は、軸方向に移動自在なラック23と、ピニオン軸25と、ラック23及びピニオン軸25を支承する筒状のラック用ハウジング27とを備える。ピニオン軸25は、ラック23の軸芯に対して斜め方向に支承され、ラック23のギア歯に噛み合うギア歯を備えたピニオンを有する。
【0019】
ラックアンドピニオン機構21は、その長手方向が車両の幅方向に沿うようにして、車両前部のエンジンルーム内にほぼ水平に配置される。また、ピニオン軸25の上端部とステアリング軸17の下端部とは、2個の自在継手29,31で連結される。更に、ラック23の両端部には、不図示の操舵輪が連結される。
【0020】
運転者によりステアリングホイールに操舵トルク(回転力)が加えられると、ステアリング軸17が回転し、その操舵トルクはステアリング軸17に取り付けられたトルクセンサで検出される。そして、検出された操舵トルクに基づいて、電動モータ11の出力(操舵を補助する回転力)が制御される。電動モータ11の出力は、減速歯車機構13を介してステアリング軸17の中間部分に供給され、操舵トルクと合わされて、ラックアンドピニオン機構21によって操舵輪を転舵する運動に変換される。
【0021】
図2図1に示すII-II線の部分断面図、図3図2に示すIII-III線の一部断面図である。
図2図3に示すように、車体(図示せず)に取り付けられた電動パワーステアリング装置100の減速歯車機構13を収納するギヤボックス33は、図3に示す有底筒状のギヤボックス本体35及びギヤボックスカバー37(ギヤボックス構成部品)を有する。ギヤボックスカバー37は、ギヤボックス本体35の開口を塞いでギヤボックス本体35に固定される。即ち、ボルト39をギヤボックスカバー37側に設けた開口に挿通し、ギヤボックス本体35側に設けたねじ孔に締結する。これにより、ギヤボックス本体35とギヤボックスカバー37とが、ボルト39の締結によって一体にされたギヤボックス33が得られる。
【0022】
ギヤボックス33の内部には、中間ステアリング軸47が、転がり軸受51、53によって回転自在に支承される。また、ギヤボックス33の内部には、減速歯車機構13が収容されると共に、操舵状態検出センサとしてのトルクセンサ59が収容される。
【0023】
減速歯車機構13は、図2に示すウォームホイール55と、ウォーム軸57とから構成される。ウォームホイール55は、図3に示す中間ステアリング軸47の軸方向中間部に固定される。また、図2に示すウォーム軸57は、電動モータ11の回転軸61にスプライン継手63を介して連結され、ウォームホイール55と噛合する。
【0024】
図3に示すように、ウォームホイール55は、中間ステアリング軸47に、一体回転可能に固定された円板部55aと、円板部55aの外径部に形成された合成樹脂歯55bとを備える。中間ステアリング軸47は、ウォームホイール55の軸方向両側に配置された第1転がり軸受51と第2転がり軸受53によって、回転自在に支承される。
【0025】
トーションバー67は、ステアリング軸17、及び中間ステアリング軸47の軸中心を貫通して配設され、図中左端部を連結ピン69によって中間ステアリング軸47と一体に固定され、更に、図中右端部をステアリング軸17に圧入固定されている。
よって、ステアリング軸17の回転力(操舵トルク)は、トーションバー67を介して中間ステアリング軸47に伝達される。
【0026】
図2に示すように、ウォームホイール55と噛合するウォーム軸57は、ギヤハウジング73によって保持される第3転がり軸受75及び第4転がり軸受77によって回転自在に支承される。ウォーム軸57の基端側の端部は、電動モータ11の回転軸61にスプライン継手63を介して連結されている。
【0027】
<ギヤボックス構成部品>
次に、上記したギヤボックス33について詳述する。
図3に示すように、ギヤボックス33は、ギヤボックス本体35と、ギヤボックスカバー37とを含む複数のギヤボックス構成部品からなる。ギヤボックス本体35とギヤボックスカバー37のそれぞれは、主に、長繊維の強化繊維(繊維状充填材)が樹脂材料内に分散して配置された部材である。強化繊維は、使用目的に応じて樹脂材料中に10~60重量%の範囲で含まれる。これにより、ギヤボックス33を樹脂材料単体で成形した場合と比較して、耐衝撃性、クリープ性、剛性、寸法安定性を向上させている。
【0028】
なお、図示例では、ギヤボックス33が、ギヤボックス本体35とギヤボックスカバー37との2部品で構成されるが、これに限らず、更に他の部品が組み合わされていてよい。その場合に、他の部品が上記した長繊維の繊維状充填材を含む樹脂材料であってもよい。
【0029】
ギヤボックス33は、強化繊維を含む樹脂製のギヤボックス本体35及びギヤボックスカバー37が、ボルト39により締結されることで一体に構成される。ギヤボックス本体35と、ギヤボックスカバー37とのボルト39による締結部は、金属製のギヤボックス本体35側の芯金と、金属製のギヤボックスカバー37側の芯金とをインサート成形し、埋設された芯金同士を連結する構成としてもよい。本構成のギヤボックス33は、全体が金属製の従来品の場合よりも軽量化されると共に、従来品と同等の耐久信頼性を有する。
【0030】
なお、ボルトで締結される表面、即ち、ギヤボックス本体35とギヤボックスカバー37との接合面には、図示はしないが、Oリングが装着されるOリング溝を設け、ギヤボックス33内に封入されたグリースの漏出を防止することが好ましい。
【0031】
上記構成のギヤボックス本体35やギヤボックスカバー37(以下、ギヤボックス構成部品とも称する)は、詳細を後述するが、概略的には次のように製造される。
まず、平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維を溶媒中で開繊させる。この強化繊維を含む繊維含有スラリーを金型に満たして抄造し、プリフォームを形成する。形成したプリフォームを成形型にセットし、この成形型内に液状又は粉体状の熱硬化性樹脂を注入して、プリフォームに樹脂材料を含浸させる。これにより、繊維強化樹脂組成物をベースとするギヤボックス構成部品が得られる。
【0032】
ギヤボックス構成部品は、上記の立体抄紙技術によりプリフォームを作製して製造することが好ましいが、これに限らない。例えば、平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維を含む繊維含有スラリーを、液状又は粉体状の熱硬化性樹脂と共に金型に挿入し、加熱によって強化繊維と樹脂材料とを一体化させてギヤボックス構成部品を製造してもよい。これによっても、抄造の場合と同様に、強化繊維が樹脂材料に分散された繊維強化樹脂組成物のギヤボックス構成部品が得られる。いずれの場合でも、繊維強化樹脂組成物に含まれる強化繊維の配合量は、10~60重量%であることが好ましい。
【0033】
ギヤボックス構成部品の構成材料としては、例えば、樹脂材料としてエポキシ樹脂やフェノール樹脂等の熱硬化性樹脂に、繊維状充填材として、ガラス繊維や炭素繊維等の強化繊維を配合した材料が好ましい。また、熱硬化性樹脂の一部を熱可塑性樹脂に置き換えてもよい。熱硬化性樹脂を構成材料として用いることで、耐熱性、機械的強度に優れた構成にできる。
また、成形品としての耐久性及び信頼性を考慮すると、熱硬化性樹脂をベース樹脂とし、このベース樹脂に強化繊維を充填させた繊維強化樹脂組成物を用いることが望ましい。この繊維強化樹脂組成物を用いることにより、ギヤボックス構成部品の耐衝撃性能を必要十分に確保できる。
【0034】
強化繊維は、特に限定されないが、例えばガラス繊維、炭素繊維、金属繊維、アラミド繊維、芳香族ポリイミド繊維、液晶ポリエステル繊維、炭化ケイ素繊維、アルミナ繊維、ボロン繊維、セルロース、セルロースナノファイバー等を例示できる。
【0035】
特に、ガラス繊維、ボロン繊維は、引張強度が高く好ましい。炭素繊維は、耐摩耗性、耐熱性、熱伸縮性、耐酸性、電気伝導性に優れる。金属繊維は、ステンレス、アルミニウム、鉄、ニッケル、銅等の金属糸を用いることができる。アラミド繊維は、引張強度や摩擦抵抗力が強く、高温・耐薬品性にも優れる。芳香族ポリアミド繊維は、非常に優れた耐熱性と強度を持つ。液晶ポリエステル繊維は、非強化状態でもフィラー強化されたエンジニアリングプラスチックを上回る剛性を持つ。アルミナ繊維は、高温域でも使用でき、耐火性を有する。
【0036】
更に、強化繊維の繊維長さは、平均繊維長が0.5mm以上のものが好ましく、より好ましくは1mm以上である。平均繊維長が0.5mm未満の繊維を添加したものでは、平均繊維長が0.5mm以上の繊維を添加したものと比較して耐衝撃性、寸法安定性の向上効果が少ない。平均繊維長を0.5mm以上にすることで、複合材における樹脂材の補強効果が確実に得られるようになる。
【0037】
また、繊維強化樹脂組成物中の強化繊維の配合量は、10~60重量%が好ましい。強化繊維の繊維強化樹脂組成物中の配合量が10重量%未満の場合には、従来品と同等の耐久性が得られない。また、強化繊維の配合量が60重量%を超える場合には、材料の靱性が損なわれ、例えば、耐冷熱衝撃性が不足する可能性があり、好ましくない。
【0038】
繊維強化樹脂組成物は、強化繊維をシラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤等のカップリング剤で処理することで、樹脂材料と強化繊維との親和性を向上できる。これにより、樹脂材料と強化繊維との密着性、並びに分散性を向上できる。なお、カップリング剤は、シラン系カップリング剤やチタネート系カップリング剤に限定されるものではない。
【0039】
そして、本発明の目的を損なわない範囲で、繊維強化樹脂組成物に各種添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、黒鉛、六方晶窒化ホウ素、フッ素雲母、四フッ化エチレン樹脂粉末、二硫化タングステン、及び二硫化モリブデン等の固体潤滑剤、無機粉末、有機粉末、潤滑油、可塑剤、ゴム、酸化防止材剤、熱安定剤、紫外線吸収剤、光保護剤、難燃剤、帯電防止剤、離型剤、流動性改良材、熱伝導性改良剤、非粘着性付与剤、結晶化促進剤、増核剤、顔料、染料剤等を例示することができる。
【0040】
これら樹脂材料と強化繊維と各種添加剤とを混合してギヤボックス構成部品を製造する場合には、強化繊維のプリフォームに、強化繊維以外の各種添加剤が添加された溶融樹脂を含浸させた後、加熱硬化させる。溶融樹脂を含浸する際の温度は特に限定されないが、母材となる樹脂の溶融が十分進行し、且つ劣化しない温度の範囲内で適宜選定すればよい。
【0041】
<ギヤボックス構成部品の製造>
次に、ギヤボックス構成部品の製造方法について更に詳細に説明する。ここでは、ギヤボックスカバー37の製造を一例として説明する。ギヤボックス本体35の製造については、ギヤボックスカバー37と同様であるので省略する。
【0042】
(ギヤボックスカバー)
図4(A)はギヤボックスカバー37の概略構成を示す斜視図、図4(B)は(A)に示すギヤボックスカバー37の背面側の概略構成を示す斜視図である。
ギヤボックスカバー37は、カバー本体80の中心部に第2転がり軸受53を保持する軸受孔81が形成され、全体がほぼ平板状の部材である。軸受孔81の径方向外側には、ボルト孔83を有する突起部85が直径方向に沿って一対設けられる。ボルト孔83には、図3に示すボルト39が挿入される。
【0043】
また、カバー本体80には、一対の突起部85を結ぶ線に直交する方向の一方の側に、板状のリブ87が径方向直交方向(図4(A)の下方向、図4(B)の上方向)に突出して設けられる。また、他方の側に、ボルト孔89を有する一対のボス91が、リブ87と同じ方向に突出して設けられる。
【0044】
(ギヤボックスカバーの抄造型)
図5はギヤボックスカバー37のプリフォームを抄造する抄造型の概略的な斜視図、図6図5に示す下型113のVI-VI線断面図である。
【0045】
図5及び図6に示すように、抄造型111は、下型113と上型135とを有する。下型113には、後述する繊維含有スラリーが注入される碗状凹部115と、突出面形成部117、突起部形成部119、リブ形成部121、ボス形成部123と、が設けられる。突出面形成部117は、ギヤボックスカバー37の一方の面、即ち、リブ87と一対のボス91が突出する側の面を形成する。また、突起部形成部119は突起部85を形成し、リブ形成部121はリブ87を形成し、ボス形成部123は一対のボス91を形成する。突出面形成部117は、ギヤボックスカバー37のカバー本体となる主要面を形成する主凹部であり、中央に軸受孔形成部118が突起して軸受孔を形成する。突起部形成部119、リブ形成部121、ボス形成部123は、主凹部の一部から分岐して、それぞれの突出した部位を形成する分岐凹部となる。
【0046】
なお、ここでは説明の簡単化のため、ギヤボックスカバー37のボルト孔83,89を形成する中子、スライドコア等の型の付帯機構については省略する。
【0047】
リブ形成部121とボス形成部123の下方には、碗状凹部115に注入された繊維含有スラリーの溶媒を排出するための排液孔125,127が設けられる。排液孔125はリブ形成部121と下型113の外部とを連通させ、排液孔127はボス形成部123と下型113の外部とを連通させる。
【0048】
リブ形成部121の下側先端部と排液孔125との間、及びボス形成部123の下側先端部と排液孔127との間には、それぞれ繊維含有スラリーに含まれる強化繊維と溶媒とを分離させるメッシュ状のフィルタ部129,131(図6参照)が設けられる。フィルタ部129,131は、繊維含有スラリーから強化繊維の流出を阻止しつつ、溶媒のみを通過させる。
【0049】
また、上型135は、下型113の碗状凹部115に対応する凸状部136を有して形成される。凸状部136は、その凸状先端にメッシュ状のフィルタ部133を有する。このフィルタ部133は、強化繊維の流出を阻止し、溶媒のみが通過可能な網目サイズであればよい。
【0050】
これらフィルタ部129,131,133は、多孔質のフィルタを介して構成されてもよい。多孔質のフィルタとしては、例えば、スポンジ、ゼオライト等の多孔質体、不織布、綿等の繊維質の塊等が挙げられる。また、フィルタ部129,131,133は、金型自体に網目(細目)部が形成された形態であってもよく、更に、網目の隙間にスポンジ等の多孔質フィルタが装填された形態であってもよい。
【0051】
<ギヤボックスカバーの製造工程>
次に、ギヤボックスカバー37の製造工程を説明する。
ギヤボックスカバー37の製造工程は、強化繊維の開繊工程と、ギヤボックスカバー37のプリフォーム37Aを抄造する抄造工程と、抄造されたプリフォーム37Aに樹脂材料に含浸させ、芯材をインサート成形する成形工程とを、この順に有する。
【0052】
(開繊工程)
図7(A),(B)は開繊工程で繊維含有スラリーを作製する様子を示す工程説明図である。
開繊工程においては、図7(A)に示すように、強化繊維である炭素繊維を含む多数のピレット141を、溶媒143を収容した容器145内に投入し、攪拌機147を駆動する。これにより、図7(B)に示すように、ピレット141に含まれる炭素繊維を溶媒143中で開繊させた、均質な繊維含有スラリー149を得る。溶媒143としては、安定性、取り扱い性、コストの観点から水(白水)が好ましいが、エタノール、メタノール等の溶剤、又はこれらの混合物であってもよい。
【0053】
投入する繊維状充填材の平均繊維長は、1mm以上であることが望ましい。これにより、炭素繊維の一部が開繊中に折れて短くなり、開繊後の平均繊維長を0.5mm以上にできる。
【0054】
(抄造工程)
図8(A)~(E)は抄造工程を段階的に説明する工程説明図である。
抄造工程においては、まず、図8(A)に示す抄造型の下型113内に、ノズル151を通じて繊維含有スラリー149を注入する。その後、図8(B)及び図8(C)に示すように、上型135を下型113に向けて移動させる(矢印P)。これにより、繊維含有スラリー149中の溶媒143のみが、上型135の押圧によってメッシュ状のフィルタ部133を通過して、抄造型のキャビティ外に排出される。同様に、フィルタ部129,131を介して、各排液孔125,127から繊維含有スラリー149の溶媒143が抄造型のキャビティ外に排出される。
【0055】
上型135のフィルタ部133は、キャビティ内の繊維含有スラリー149から溶媒143を排出させて、キャビティ内の強化繊維を、ギヤボックスカバー37のカバー本体80(図4(A),(B)参照)の形状に抄造する。上型の押圧により、より高いかさ密度のプリフォームが形成される。プリフォームの繊維は、加圧方向に略直交する方向に広がる複数の繊維層となり、且つ各繊維層は、規則性を有して互いに平行に並ぶことなく、加圧方向に関して各繊維層の向きを不規則にして積層される。そして、繊維層同士の間は、多数の繊維が絡み合い、各繊維層が互いに接合される。
【0056】
図9はボス形成部に流入する繊維含有スラリー149の流動方向を示す説明図である。
溶媒排出時の繊維含有スラリー149中の強化繊維は、その繊維長手方向が繊維含有スラリー149の流れによって、流動方向と平行に揃えられる。つまり、繊維含有スラリー149は、ボス形成部123に流入する際に、図中矢印Fで示すように、下型113のエッジ部113aを円弧状に回り込んで、ボス形成部123の底部のフィルタ部131に向かう。つまり、本構成の繊維含有スラリー149は、繊維の長手方向が、溶媒排出による流れによって、その流動方向と平行に揃えられる。これにより、熱膨張係数の異方性を生じさせることなく、ボス形成部123の厚さを高い精度で均一にできる。
【0057】
そして、図8(C)に示す上型135を更に下型113に向けて移動、加圧することで、図8(D)に示すように、ギヤボックスカバー37とほぼ同形のプリフォーム(繊維積層体)37Aが抄造される。
【0058】
次いで、図8(E)に示すように、下型113から湿潤状態のプリフォーム37Aを取り出し、プリフォーム37Aを乾燥処理する。かさ密度のより高いプリフォームを形成するために、上述の加圧と乾燥処理は同時に行うことが好ましい。また、成形品の形状に応じて、上述の加圧後に、更に他の方向へ加圧し、繊維層の積層方向を調整してもよい。
【0059】
このプリフォーム37Aは、強化繊維と、例えば、強化繊維を溶媒に分散させるための添加剤等を含んで構成される。添加剤としては、界面活性剤や定着剤などの薬品や、バインダーとして熱可塑性樹脂や熱硬化性樹脂などが挙げられる。プリフォーム37A、又は添加剤を含むプリフォーム37Aのかさ密度は、好ましくは0.3g/cm以上、より好ましくは0.4g/cm以上である。かさ密度を上記範囲にすることによって、プリフォーム37Aのハンドリングや成形に伴う繊維の破損を防止できる。
【0060】
(成形工程)
成形工程では、乾燥されたプリフォーム37Aを、図示しない公知の成形用型に配置する。このとき、連結部材であるカバー側芯金43(図3参照)をプリフォーム37Aに取り付けてもよい。そして、熱硬化性樹脂を成形用型内に注入して、プリフォーム37Aに含浸させて成形する。
【0061】
ここで、熱硬化性樹脂を成形用型へ注入する前に、成形用型を予備加熱しておくことが好ましい。これにより、熱硬化性樹脂が均一に加熱されて、成形不良が生じにくくなり、硬化時間が短縮されて生産性が向上する。また、カバー側芯金43は、プリフォーム37Aに接着剤により接着させることが好ましい。その場合、接着剤の強度と相まって、カバー側芯金43の樹脂材料との接合強度が向上し、しかも、成形時における位置ずれが生じにくくなる。
【0062】
<成形品>
図10は上記した製造方法により成形されたギヤボックスカバー37のボス91を模式的に示す部分拡大図である。溶媒排出による繊維の流れ、又は上述の型移動による加圧方向とは異なる他の方向の加圧との総合作用によって、ギヤボックスカバー37のボス91においては、少なくとも一部の強化繊維155が、繊維長手方向をボス91の外形面に沿わせて配置される。つまり、カバー本体80のボス91が立ち上がる根元部157においては、少なくとも一部の強化繊維155には、根元部157の外形面の湾曲部分を跨いで配向されるものが存在する。ここでいう湾曲部分とは、面の延びる方向が急に変化する箇所を意味している。
【0063】
ボス91の繊維同士の配向が一致する部分では、強化繊維155による補強効果が高められる。その結果、上記湾曲方向に対してボス91のちぎれにくさ等の耐強度が向上する。この補強効果は、ボス91に限らず、リブ87(図4B参照)等、他の部位についても同様にして得られる。
【0064】
ここで、本発明の正圧法により作製される成形品と射出成形により作製される成形品とを比較する。一般に、射出成形法においては、樹脂中に強化繊維を混在させる場合、樹脂ペレットの流動性が小さいため、型内における樹脂の流動性が低下する。その状態で無理に成形しようとすると、強化繊維の過剰な切断を招き、ギヤボックスの賦形性が低下する。また、樹脂を攪拌機(スクリュー)で溶融混成する際、及び射出成形された材料が金型ゲートを通過する際に、強化繊維が剪断によって切断されてしまう。このようなことから、射出成形法により製造したギヤボックスでは、その力学特性の低下が避けられない。
しかし、本構成の場合、抄造により強化繊維を配置したプリフォームを形性した後、プリフォームに樹脂材料を含浸させる方式であるため、上記のような強化繊維の剪断が生じず、力学特性の低下を回避できる。また、本構成のギヤボックスは、歯車を収容するために一部が曲面で形成されるため、樹脂材料の淀みが少なく、良好な樹脂の流動性が得られる。
【0065】
このように、本発明は上記の実施形態に限定されるものではなく、実施形態の各構成を相互に組み合わせることや、明細書の記載、並びに周知の技術に基づいて、当業者が変更、応用することも本発明の予定するところであり、保護を求める範囲に含まれる。
【0066】
前述のように本実施形態では、上型135のフィルタ部133と、下型113のフィルタ部129,131は、溶媒の排出方向を調整し、ギヤボックスカバー37の特に高い応力が作用する部位の繊維方向を、所望の向きに揃えることに寄与できる。また、本構成の抄造型は、正圧法により抄造するため、上型135側にもフィルタ部を設けることができる。よって、複雑な形状であっても、これに対応したキャビティ形状にでき、繊維のかさ密度を低下させることなく、均質、且つ高密度に強化繊維155を配置できる。
【0067】
更に、上記例では、フィルタ部129,131を、リブ87とボス91に対応して設けてあるが、これに限らない。例えば、突起部85(図4(A),(B)参照)等の他の部位にフィルタ部を設けてもよい。また、フィルタ部は、リブ87やボス91の下方先端部に配置しているが、これに限らない。例えば、ボス91においては、図10に示すボス91のボルト孔89の軸方向端面、ボス91の円弧状の外形面等、任意位置に設けることができる。
【0068】
本発明のギヤボックス構成部品は、コラム式EPS装置のギヤボックスに適用するものであるが、図示していない下流式EPS装置にも本発明のギヤボックス構成部品を適用できる。例えば、下流式EPS装置の減速機カバーにも適用できる。また、本発明のギヤボックス構成部品を備えるギヤボックスは、上記した電動パワーステアリング装置に備わるギヤボックスの他、例えば、軽量化が求められる自動車、オートバイ、鉄道車両、航空機、船舶等の各種輸送機に適用されるギヤボックスであってもよく、更には、エレベーター等の建築設備や、各種製造装置に適用されるギヤボックスであってもよい。
【実施例
【0069】
本発明のギヤボックス構成部品の製造方法に用いるプリフォームに関して、正圧法により作製したプリフォームと、従来の吸引法や遠心法により作製したプリフォームとを比較した。
【0070】
<かさ密度の比較>
(従来の吸引法)
底部にフィルタを有する容器に、繊維素材を紙パルプとした繊維含有スラリーを注入し、フィルタを介して繊維含有スラリーに0.1MPaの負圧を付与した。これにより、フィルタ上にプリフォームを得た。このプリフォームの繊維体積含有率Vfとかさ密度を測定した結果、繊維体積含有率Vfは19%で、かさ密度は0.29g/cmであった。ここで、かさ密度とは、試験体の重量/(厚さ×厚さ方向に直交する面の面積)により計算した値である。
【0071】
また、繊維素材を炭素繊維として、上記同様に繊維含有スラリーに0.1MPaの負圧を付与してプリフォームを作製した。作製されたプリフォームの繊維体積含有率Vfは11%であり、かさ密度は0.2g/cmであった。
【0072】
(従来の遠心法)
底部にフィルタを有する容器に、繊維素材を紙パルプとした繊維含有スラリーを注入し、繊維含有スラリーの入った容器を、株式会社コクサン製の遠心機(H-19α)を用いて遠心脱水した。遠心機の運転条件は、回転速度を3000rpm、回転半径を80mm、回転時間を10minとした。この条件は、1.5MPaの負圧を付与した場合と同等の条件である。これにより得られたプリフォームの繊維体積含有率Vfは19%であり、かさ密度は0.28g/cmであった。
【0073】
また、繊維素材を炭素繊維として、上記と同じ遠心脱水によりプリフォームを作製した。上記の条件で4回行った結果、作製されたプリフォームの繊維体積含有率Vfの平均値は、3.1MPaの負圧付与と同等となる回転速度3000rpmとした場合は12%、1.8MPaの負圧付与と同等となる回転速度2000rpmとした場合は10%であった。(本発明の正圧法)
固定型と可動型とを有する圧縮機構を備えた正圧抄造治具を用いてプリフォームを作製した。この正圧抄造治具は、圧縮機構の固定型に、繊維含有スラリーを収容する凹部と、凹部の底面の一部からフィルタを介して溶媒を排出する排出路とを設けてある。可動型には、固定型の凹部に挿入される凸部が設けられ、凹部と凸部との間でプリフォームが抄造されるようになっている。
【0074】
上記構成の正圧抄造治具により、固定型の凹部に繊維含有スラリーを注入した後、可動型を固定型に向けて移動させて所定の圧力で型締めした。そして、固定型の凹部内の繊維含有スラリーから、フィルタを介して溶媒のみを排出路に排出させた。型締め時に繊維含有スラリーに付与した加圧力は、0.4MPaとした。上記の条件で2回行った結果、これにより作製されたプリフォームは、繊維体積含有率Vfの平均値が30%、かさ密度の平均値が0.5g/cmであり、吸引法、遠心法の場合の繊維体積含有率Vf及びかさ密度よりも高くなった。
【0075】
<曲げ強度の比較>
正圧法及び吸引法により、それぞれ4個のプリフォームを作製した。作製した各プリフォームに上述の成形工程を施すことで、樹脂をプリフォームに含浸透させ、平板状の試験片を作製した。正圧法により作製した試験片をA1~A4とし、吸引法により作製した試験片をB1~B4とし、それぞれ曲げ強度を比較した。
【0076】
ここでは、炭素繊維(CF)と、セルロースナノファイバー(CNF)とを一定の比率で混合し、炭素繊維の開繊前の平均繊維長(初期繊維長)が異なる4種類の試験片を作製した。作製した試験片A1~A4の性状と試験結果を表1に示し、試験片B1~B4の性状と試験結果を表2に示した。また、各試験片の試験結果の概略を図11に示した。図11は炭素繊維の初期繊維長に対する曲げ強度の分布を示す説明図である。なお、試験片B1~B4のかさ密度は、試験片A1~A4の1/3以下であると推定できる。
【0077】
【表1】
【0078】
【表2】
【0079】
図11に示すように、正圧法により作製した試験片A1~A4は、曲げ強度が220MPa以上となり、吸引法により作製した試験片B1~B4と比較して、曲げ強度が3割以上高くなった。
【0080】
(繊維方向の確認)
図12図5に示す抄造型111を用いて作製したプリフォームの外観斜視図である。図13(A)は図12に示すプリフォームのP1部を二分したプリフォーム本体側の割れ面の写真であり、図13(B)は破断片におけるボス91の割れ面の拡大写真である。また、図14(A)は図12に示すプリフォームのP2部を二分したプリフォーム本体側の割れ面の拡大写真であり、図14(B)は破断片におけるリブ87の割れ面の拡大写真である。
【0081】
図12のボス91を含むP1部において、図13(A)に示す割れ面P3は、正面から顕微鏡で観察すると、一部の繊維がボス91の湾曲部分を跨いで配向しており、且つ一部の繊維がプリフォーム本体に対して略垂直な方向に位置するボス91へ延伸している。
【0082】
図12のリブ87を含むP2部においては、図14(A)に示す割れ面P6を、正面から顕微鏡で観察すると、一部の繊維がリブ87の湾曲部分を跨いで配向しており、且つ一部の繊維がプリフォーム本体に対して略垂直な方向に位置するリブ87へ延伸している。
【0083】
さらに、図13(A)に示すP4部の面は、正面から顕微鏡で観察すると、図15に示すように繊維が絡み合っていた。また、図13(B)に示すP5部は、図16に模式的に示すように、加圧方向に積層された多数の繊維層161同士が、各繊維層161を跨いで配置される繊維163によって絡み合って、緻密な繊維積層構造になっていた。これにより、樹脂との接合強度の向上が期待できる。
【0084】
リブ87は、図14(B)の割れ面P7に示すように、積層方向に多数の繊維層が緻密に積層された積層構造体となっていた。
【0085】
上述のように、抄造型111(図5参照)を用いて作製したプリフォームは、図13(A),(B)、図14(A),(B)に示すように、抄造型による加圧方向に複数の繊維層が積層された積層構造体になった。また、ボス91の湾曲部分における強化繊維は、不規則に繊維層の向きが配置された積層構造となり、各繊維層の積層面が湾曲部分に沿って配置されていた。
【0086】
以上の通り、本明細書には次の事項が開示されている。
(1) 外形面に湾曲部分を有するギヤボックス構成部品であって、
平均繊維長が0.5mm以上の強化繊維が樹脂材料内に分散して構成された繊維強化樹脂組成物によって形成され、
少なくとも一部の前記強化繊維が、前記湾曲部分を跨いで配向されているギヤボックス構成部品。
このギヤボックス構成部品によれば、従来の金属製のギヤボックス構成部品と比べて高い寸法精度を有して軽量化されると共に、耐衝撃性、クリープ特性、剛性が優れた構成にできる。
【0087】
(2) 前記強化繊維は、複数の繊維層の向きが不規則となる積層構造となり、前記湾曲部分に沿って積層される(1)のギヤボックス構成部品。
このギヤボックス構成部品によれば、強化繊維の各繊維層の向きが不規則となることで、機械的強度を均等に向上でき、局所的に低強度な部位が生じにくくなる。
【0088】
(3) 繊維層同士の間に、各繊維層を跨いで配置される繊維が存在し、前記繊維層同士が互いに絡み合って積層されている(2)に記載のギヤボックス構成部品。
このギヤボックス構成部品によれば、各繊維層が絡み合って積層されることで、緻密な繊維積層構造となり、樹脂との接合強度が高められる。
【0089】
(4) 前記繊維強化樹脂組成物中の前記強化繊維の配合量は、10~60重量%である(1)~(3)のいずれか一つに記載のギヤボックス構成部品。
このギヤボックス構成部品によれば、強化繊維が適正量だけ配合されることで、従来品と同等の耐久性が得られ、且つ材料の靱性が維持される。
【0090】
(5) 曲げ強度は220MPa以上である(1)~(4)のいずれか一つに記載のギヤボックス構成部品。
このギヤボックス構成部品によれば、従来の金属製のギヤボックス構成部品の場合と同等の強度が得られる。
【0091】
(6) 強化繊維を含んで構成され、樹脂で充填される前のギヤボックス構成部品のプリフォームであって、
前記強化繊維の平均繊維長が0.5mm以上であり、前記ギヤボックス構成部品の外形面に形成された湾曲部分においては、少なくとも一部の前記強化繊維が、前記湾曲部分を跨いで配向されているギヤボックス構成部品のプリフォーム。
このギヤボックス構成部品のプリフォームによれば、従来の金属製のギヤボックス構成部品と比べて、高い寸法精度と軽量化を達成し、耐衝撃性、クリープ特性、剛性が優れる構成のギヤボックス構成部品が得られる。
【0092】
(7) 前記強化繊維は、複数の繊維層の向きが不規則となる(6)に記載のギヤボックス構成部品のプリフォーム。
このギヤボックス構成部品のプリフォームによれば、強化繊維の各繊維層の向きが不規則となることで、機械的強度を均等に向上でき、局所的に低強度な部位が生じにくいギヤボックス構成部品が得られる。
【0093】
(8) 前記強化繊維の繊維層同士の間には、各繊維層を跨いで配置される繊維が存在し、前記繊維層同士が互いに絡み合った状態で積層されている(6)に記載のギヤボックス構成部品のプリフォーム。
このギヤボックス構成部品のプリフォームによれば、各繊維層が絡み合って積層されることで、緻密な繊維積層構造となり、樹脂との接合強度を高められる構成にできる。
【0094】
(9) 前記プリフォームのかさ密度は、0.4g/cm以上である(6)~(8)のいずれか一つに記載のギヤボックス構成部品のプリフォーム。
このプリフォームによれば、ハンドリングや成形に伴う繊維状充填材の破損を防止できる。
【符号の説明】
【0095】
33 ギヤボックス
35 ギヤボックス本体(ギヤボックス構成部品)
37 ギヤボックスカバー(ギヤボックス構成部品)
37A プリフォーム
141 ピレット(強化繊維)
155 強化繊維
161 繊維層
163 繊維
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16