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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】異常予兆検出システム
(51)【国際特許分類】
   G01H 17/00 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
G01H17/00 Z
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018155915
(22)【出願日】2018-08-23
(65)【公開番号】P2020030111
(43)【公開日】2020-02-27
【審査請求日】2021-02-03
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100086232
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 博通
(74)【代理人】
【識別番号】100092613
【弁理士】
【氏名又は名称】富岡 潔
(74)【代理人】
【識別番号】100104938
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜澤 英久
(74)【代理人】
【識別番号】100210240
【弁理士】
【氏名又は名称】太田 友幸
(72)【発明者】
【氏名】中尾 浩二
(72)【発明者】
【氏名】林 孝則
【審査官】瓦井 秀憲
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-142153(JP,A)
【文献】特開2018-112852(JP,A)
【文献】特開平06-167385(JP,A)
【文献】特開2006-292734(JP,A)
【文献】特開2005-121639(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01H 17/00
G01M 99/00
G05B 23/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
対象設備の振動波形データに基づき異常予兆を検出する異常予兆検出システムであって、
事前に前記対象設備の正常時に収集された前記振動波形データに基づき多次元特徴量を生成する多次元特徴量算出部と、
前記多次元特徴量を正常データとして学習することで入力を出力として再現する正常モデルを生成する正常モデル作成部と、
前記対象設備の前記振動波形データに基づき生成された多次元特徴量を診断データとし、前記診断データを前記正常モデルに入力したときの入出力の誤差分布を求める再構築誤差算出部と、
前記診断データの誤差分布が前記正常データの誤差分布を逸脱していれば、前記異常予兆を判定する異常判定部と、
前記診断データの周波数毎の誤差を算出し、算出された誤差の評価に応じて前記対象設備の異常要因を推定する異常要因推定部と、
を備え、
前記異常要因推定部は、前記診断データの前記誤差が事前設定の閾値を越えていれば、
前記誤差の周波数領域を異常と評価し、異常と評価された周波数領域から前記異常要因を推定する
ことを特徴とする異常予兆検出システム。
【請求項2】
前記異常要因推定部は、異常と評価された周波数領域を前記対象設備の周波数領域ごとに異常要因を定めた関係図と照合することにより、
前記異常要因を推定することを特徴とする請求項1記載の異常予兆検出システム。
【請求項3】
前記正常モデル作成部は、ニューラルネットワークを使用した次元圧縮型のオートエンコーダにより前記正常モデルを作成する
ことを特徴とする請求項1または2記載の異常予兆検出システム。
【請求項4】
前記異常判定部は、
前記診断データの誤差分布が事前設定の閾値を越えれば、前記正常データの誤差分布を逸脱していると判断する
ことを特徴とする請求項1~3のいずれか記載の異常予兆検出システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、対象設備のセンシングデータに基づき異常の予兆を検出する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
現在、人口減少により技術者が不足する一方、高度計経済成長期に製造された大量の電気設備が設計寿命を迎え、「ICT/IoT」を活用した設備診断システムの構築が求められている。
【0003】
例えば特許文献1には、異常予兆のための判定基準となる正常パターンが複数存在するケースでも対応可能な異常予兆検出システムが記載されている。また、特許文献2には、正常クラス数および正常範囲が未知の場合でも適切なクラス集合を作成可能な異常予兆検出システムが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-102765
【文献】特開2018-28845
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1,2のシステムは、回転機の機械系の異常予兆を検出するため、振動の周波数成分から「One-class Support Vector Machine」(OCSVM)により正常時のデータのみを学習し、異常予兆を検出する手法を用いている。
【0006】
しかしながら、「OCSVM」は、カーネル法により特徴空間上で分類を行うため、入力次元と直接対応付けができず、どの周波数成分が異常かを判断できず、異常要因を把握できないおそれがある。
【0007】
本発明は、このような従来の問題を解決するためになされ、設備異常の予兆を検出する際に異常要因の特定を図ることを解決課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
(1)本発明の一態様は、対象設備の振動波形データに基づき異常予兆を検出する異常予兆検出システムであって、
事前に前記対象設備の正常時に収集された前記振動波形データに基づき多次元特徴量を生成する多次元特徴量算出部と、
前記多次元特徴量を正常データとして学習することで入力を出力として再現する正常モデルを生成する正常モデル作成部と、
前記対象設備の前記振動波形データに基づき生成された多次元特徴量を診断データとし、前記診断データを前記正常モデルに入力したときの入出力の誤差分布を求める再構築誤差算出部と、
前記診断データの誤差分布が前記正常データの誤差分布を逸脱していれば、前記異常予兆を判定する異常判定部と、
前記診断データの周波数毎の誤差を算出し、算出された誤差の評価に応じて前記対象設備の異常要因を推定する異常要因推定部と、を備える。
【0009】
(2)本発明の他の態様は、コンピュータにより対象設備の振動波形データに基づき異常予兆を検出する異常予兆検出方法であって、
事前に前記対象設備の正常時に収集された前記振動波形データに基づき多次元特徴量を生成する多次元特徴量算出ステップと、
前記多次元特徴量を正常データとして学習することで入力を出力として再現する正常モデルを生成する正常モデル作成ステップと、
前記対象設備の前記振動波形データに基づき生成された多次元特徴量を診断データとし、前記診断データを前記正常モデルに入力したときの入出力の誤差分布を求める再構築誤差算出ステップと、
前記診断データの誤差分布が前記正常データの誤差分布を逸脱していれば、前記異常予兆を判定する異常判定ステップと、
前記診断データの周波数毎の誤差を算出し、算出された誤差の評価に応じて前記対象設備の異常要因を推定する異常要因推定ステップと、を有する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、設備異常の予兆を検出する際に異常要因を特定する事が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】本発明の実施形態に係る異常予兆検出システムの構成図。
図2】同 オートエンコーダの概略図。
図3】同 振動周波数と異常要因との関係図。
図4】同 再構築誤差Eの推移を示すグラフ。
図5】同 変数毎(周波数毎)の誤差eの推移を示すマップ。
図6】実施例1に係る水車発電機Aの発電量を示すグラフ。
図7】同 再構築誤差Eの推移を示すグラフ。
図8】同 故障時の値を除いた図7の拡大図。
図9】同 変数毎(周波数毎)の誤差eの推移を示すマップ。
図10】実施例2に係る水車発電機Bの発電量を示すグラフ。
図11】同 再構築誤差Eの推移を示すグラフ。
図12】同 変数毎(周波数毎)の誤差eの推移を示すマップ。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態に係る異常予兆検出システムを説明する。この異常予兆検出システムは、電気設備などの対象設備に設置したセンサ(加速度センサ・音響センサなど)から継続的に振動波形データを収集し、収集された振動波形データに基づき対象設備の異常予兆を検出する。
【0013】
この設備異常の予兆を捉えることで対象設備の故障前に対策を講じることが可能となり、インフラシステムなどのダウンタイムを低減することができる。このとき一般的に異常データを事前に入手することが困難な診断システムは、正常データを基準にした方法がよく、かつ設備異常の事前対処のため異常要因の特定に結び付く出力を行うことが望ましい。
【0014】
そこで、前記異常予兆システムでは、ニューラルネットワークの一種であるオートエンコーダ(自己符号化器:Auto Encoder)の入力次元の再現性に着目し、対象設備の異常予兆検出と併せて異常要因を推定する。
【0015】
≪システム構成例≫
図1に基づき前記異常予兆検出システムの構成例を説明する。図1の前記異常予兆検出システム1は回転設備(回転機)2を対象設備とする。ここでは回転機2に設置された振動センサ3の検出するセンシングデータ、即ち振動周波数に基づき該回転機2の異常予兆を検出する。
【0016】
具体的には前記異常予兆検出システム1は、コンピュータにより構成され、通常のコンピュータのハードウェアリソース(例えばCPU,RAMやROMなどの主記憶装置,HDDやSSDなどの補助記憶装置)を備える。
【0017】
このハードウェアリソースとソフトウェアリソース(OS,アプリケーションなど)との協働の結果、前記異常予兆検出システム1は、データ記録部4,周波数算出部5,正常データ記録部6,正常モデル算出部7,診断データ記録部8,再構築誤差算出部9,異常判定部10,変数誤差出力部11を実装する。この各記録部4,6,8は、それぞれ前記記憶装置にデータベースとして構築されている。
【0018】
ここでデータ記録部4には、振動センサ3の取得した回転機2の振動をA/D変換した振動波形データが蓄積記録される。また、周波数算出部5は、データ記録部4に記録された振動波形データから必要に応じて多次元特徴量を算出する。
【0019】
すなわち、周波数算出部5は、振動波形データを周波数スペクトルに変換し、変換された周波数スペクトルの各周波数を変数とした多次元特徴量データを生成する。例えば高速フーリエ変換(FFT)やケプストラム、定Q変換(Constant-Q Transform)などを用いて変換することができる。
【0020】
この変換された多次元特徴量データに基づき前記各部6,7で学習ステージが実行される一方、前記各部8~11で診断ステージが実行される。この学習ステージでは、正常運転時の振動波形データを変換した多次元特徴量データをベースに正常モデルを生成する。また、診断ステージでは、診断対象の振動波形データを変換した多次元特徴量データをベースに回転機2の異常予兆の有無を診断する。
【0021】
(1)学習ステージ
正常データ記録部6には、事前に収集された略大多数が正常であることが自明な多次元特徴量データが蓄積されている。すなわち、正常データ記録部6には、データ記録部4の記録データのうち回転機2の正常運転時に取得された振動波形データを変換した多次元特徴量データ(正常データ)が記録されている。
【0022】
また、正常モデル算出部7は、正常データ記録部6の多次元特徴量データに基づきオートエンコーダで正常モデルを作成し、必要に応じて入力される多次元特徴量データの正規化(標準化,01範囲の正規化など)を行う。ここでオートエンコーダは、機械学習においてニューラルネットワークを使用した次元圧縮のためのアルゴリズムであって、入力を再現するように出力するパラメータを学習する。
【0023】
このオートエンコーダは、3層のニューラルネットワークにおいて入力層と出力層とに同じデータを用いて教師あり学習させてものであり、中間層と出力層の活性化関数をそれぞれ任意に選択することできる。また、図2に示すように入力層と出力層とは同数のユニットを持ち、中間層が入力層のユニット数よりも小数(zd<xD)をとることで入力データが圧縮され、次元削減が行われる。
【0024】
そして、入力データ「x」の次元を「D」とすると、中間層のユニット活性化度「z」は式(1)となる。
【0025】
【数1】
【0026】
ここで「z」の次元「d」は「D>d」であり、「W」と「b」とはそれぞれ結合荷重とバイアスパラメータを示している。また、F()は活性化関数を示し、「Relu関数」や「sigmoid関数」などを用いることができる。さらに
出力層「x‘」は、入力層と同じ次元へデコード(decode)され、式(2)で表現される。
【0027】
【数2】
【0028】
「W」と「b」と「W‘」と「b‘」とは、式(3)で表現される入力層と出力層との誤差Lが最小になるように、誤差逆伝播法などの最適化アルゴリズムを用いて決定する。
【0029】
【数3】
【0030】
ここで「||・||」はL1ノルムを示し、「m」はサンプル数(正常データ数)を示している。
【0031】
(2)診断ステージ
まず、診断データ記録部8には、データ記録部4の記録データのうち診断対象となる診断波形データを変換した多次元特徴量データ(診断データ)が記録されている。例えば診断データ記録部8のレコードは、例えば回転機2の稼働日毎に診断データを記録することができる。
【0032】
つぎに再構築誤差算出部9と異常判定部10とは、診断データ記録部8の診断データに対してオートエンコーダによる異常予兆の検出を実行する。このオートエンコーダによる異常予兆検出では、正常データで内部パラメータを学習し、それによって診断データを正しく再現できないことをもって異常予兆と判定する。
【0033】
このとき再構築誤差算出部9は、正常モデル算出部7で作成した正常モデルに対して診断データ記録部8の診断データを入力し、式(4)の再構築誤差E(Reconstruction error)を求める。この式(4)中の「||・||2」は、L2ノルムを示している。
【0034】
【数4】
【0035】
一方、異常判定部10は、正常データの誤差分布(L1ノルム)をもとに適切な第1閾値を設定し、第1閾値に基づき診断データの異常を判定する。例えば正常データの誤差分布(L1ノルム)が「平均μ分散σ2」に従うと仮定し、第1閾値を「3σ」に設定することができる。
【0036】
このとき式(4)の再構築誤差(L2ノルム)が第1閾値を越えていれば正常データの誤差分布(L1ノルム)を逸脱したものとし、診断データの異常判定、即ち異常予兆「有り」を判定する。この異常判定により回転機2の異常予兆が検出される。
【0037】
また、変数誤差出力部11は、診断データのどの周波数が異常に寄与しているか否かを表すため、式(5)に示すように、「x」と「x‘」との差分ベクトルeを算出し、変数(周波数)毎の誤差を評価する。
【0038】
【数5】
【0039】
この差分ベクトル「e」が正常データの誤差に設定された第2閾値を越えた場合にその周波数を異常と評価し、異常と評価された周波数の領域から異常要因を推定する。以下、異常要因の推定方法を説明する。
【0040】
すなわち、回転機2の機械系の故障は、固有の振動として表れることが知られている。図3は、振動周波数と回転機2との異常要因の関係図を示している。ここでは低周波領域の変調は回転周波数を含むことから、回転体のアンバランスやミスアンバランスなどの可能性が疑われる。一方、高周波領域では、衝撃系の波形が含まれていることが考えられ、軸受傷や回転体の局所異常などが疑われる。
【0041】
そうすると、回転機2の異常を検出した際、どの変数(周波数)が異常を示しているのか判明すれば、回転機2の異常要因を推定することできる。この点につき前記異常予兆検出システム1によれば、差分ベクトル「e」が第2閾値を越えた場合、その周波数を異常と評価する。この異常と評価された周波数の領域を図3と照合すれば回転機2の異常要因を推定することができる。
【0042】
例えば図4および図5は、実際に運用中のポンプ用電動機に加速度センサを取り付けて1時間おきに振動データを収集し、収集された時系列データに前記異常予兆検出システム1の診断を行った結果を示している。ここでは周波数変換に定Q変換を使用し、図4の学習期間Sに学習ステージが実行されている。
【0043】
このシミュレーション中、ポンプ用電動機は計測開始から約100日後に異音の異常が発生した。ここで図4の横軸は時間を示し、縦軸は再構築誤差Eを示し、約100日後から再構築誤差Eが上昇傾向であったことが示されている。
【0044】
また、図5は周波数ごとの誤差(差分ベクトル)eを示し、横軸が時間を表し、縦軸が周波数を示し、色が誤差eの大きさを表している。ここでは約100日後から2kHz以上の高周波で誤差eが大きくなっていることが分かる。これは図3によれば自励系異常/摩耗系異常が異常要因と推定される。
【0045】
そして、推定された異常要因は、異常判定の結果と併せて出力され、ユーザに提示される。これによりユーザは回転機2の異常要因を特定把握でき、故障前に回転機2を修理することができる。この点で事前の故障の対策が可能となり、インフラシステムなどのダウンタイムの低減などに貢献することができる。
【0046】
≪実施例≫
以下、前記異常予兆検出システム1の実施例を説明する。ここで実施例1,2は、それぞれ水車発電機A,Bを対象設備とする。この水車発電機A,Bは、共に実際に運用中であって、計測開始時点で異常は認められていない。
【0047】
この水車発電機A,Bに加速センサを振動センサ3として取り付けて1時間おきに振動データを収集し、収集された時系列データに基づき異常予兆を診断した。このとき発電稼働中のデータのみを使用し、振動データは1時間毎に5秒間計測した。
【0048】
また、周波数変換として定Q変換によるオクターブバンド分析を行い、1計測データにつき100フレームのスペクトルを算出している。さらに学習データ(正常データ)について各周波数で〔最大1,最小0〕になるように正規化している。なお、表1は、各実施例に使用したパラメータを示している。
【0049】
【表1】
【0050】
(1)実施例1
実施例1の水車発電機Aは、横軸の三相誘導発電機で最大出力「2500kW」であり、加速度センサを水車側の軸受付近に設置されている。ここで図6は、水車発電機Aの発電量の推移を示し、横軸に加速度センサの計測開始日からの経過日数を示し、縦軸に発電量〔kW〕を示している。この水車発電機Aは、計測開始日から約25日で実際に故障(軸受損傷)が発生した。
【0051】
〔学習ステージ〕
学習ステージでは、あらかじめ水車発電機Aの診断前の正常状態のときに正常時のサンプルを作成し、それらを学習する。
【0052】
〔診断ステージ〕
診断ステージでは、診断開始日から次の診断ステップ(S01~S09)を実行する。
【0053】
S01,S02:水車発電機Aに加速度センサを取り付け、1時間おきに5秒間の振動データを収集する(S01)。ここで収集された5秒間の振動データを100分割する(S02)。
【0054】
S03,S04:定Q変換によるオクターブバンド分析を行い、100フレームのスペクトルを算出する(S03)。ここで算出された周波数スペクトルを各周波数で〔最大1,最小0〕になるように正規化し、診断データとする(S04)。この結果、100個の診断データが作成される。
【0055】
S05,S06:S04で正規化された周波数ベクトルを診断データとして、学習ステージで学習したオートエンコーダに入力する(S05)。その結果として、100個の再構築誤差Eおよび誤差eが出力される(S06)。ここで再構築誤差Eは、100個の平均を算出して最終結果とする。また、誤差eは、周波数ごとに100個の平均を算出して最終結果とする。
【0056】
S07,S08,S09:再構築誤差Eが事前設定の第1閾値を越えていれば、水車発電機Aの異常判定がなされる(S07)。このとき誤差eが、事前設定の第2閾値を越えていれば、その周波数を異常と評価する(S08)。ここで異常と評価された周波数領域を、図3と照合して水車発電機Aの異常要因(故障原因)を推定する(S09)。
【0057】
図7図9に基づき実施例1の診断ステージの結果を説明する。図7は再構築誤差Eの推移を示し、図8は故障時の値を除いた図7の拡大図を示し、それぞれ縦軸に再構築誤差Eを示し、横軸に計測開始日からの日数を示している。また、図9は、周波数毎の誤差eの推移を示し、縦軸に周波数を示し、横軸にサンプルインデックスを示し、図5と同様に色が誤差eの大きさを表している。
【0058】
ここで図7によれば、故障日(診断開始から25日目)の振動データは、それ以前とは明らかな違いを示しており、オートエンコーダの異常検知能力の高さが分かる。ところが、図8に示すように、故障時より前の段階では再構築誤差Eに大きな差異はなく、故障の予兆を確認できない。
【0059】
一方、図9に示す周波数毎の誤差eに着目すれば、12日目から6kHz付近の高周波領域に誤差の変調を確認でき、これは図3によれば摩耗系異常と推定される。これにより前記異常予兆検出システム1は、構築誤差Eだけでは確認できない故障発生前の予兆を、周波数毎の誤差eの変調として検出することができる。
【0060】
(2)実施例2
実施例2の水車発電機Bは、縦軸の三相自励交流発電機で最大出力「12MW」であり、計測から約120日間を正常に稼働している。ここで図10は、水車発電機Bの発電量の推移を示し、横軸に加速度センサの計測開始日からの経過日数を示し、縦軸に発電量〔MW〕を示している。
【0061】
このような水車発電機Bに対して実施例1と同様に学習ステージおよび診断ステージを実行する。この診断ステージの結果を図11および図12に基づき説明する。ここで図11は、図7と同様に縦軸に再構築誤差Eを示し、横軸に計測開始日からの日数を示している。また、図12は、図9と同様に周波数毎の誤差eの推移を示し、縦軸に周波数を示し、横軸にサンプルインデックスを示し、色が誤差eの大きさを表している。
【0062】
まず、図11によれば、正常に稼働しているデータ中に30日目付近に再構築誤差Eが大きくなるケースがあることが分かる。つぎに図12によれば、100Hz~300Hz付近にプラス側の誤差eが確認できる。これは低周波の異常なため、図3によれば構造系異常と推定され、この点でも故障発生前に異常予兆の異常要因を特定することができる。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではなく、システム構成などは図1に限定されるものではなく、各請求項に記載された範囲内で変形して実施することができる。
【0064】
また、本発明は、前記異常予兆検出システム1としてコンピュータを機能させるプログラムとして構成することもできる。このプログラムによれば、コンピュータが前記各部4~10として機能し、対象設備の異常予兆を検出することが可能となる。
【符号の説明】
【0065】
1…異常予兆検出システム
2…回転設備(対象設備)
3…振動センサ
4…データ記録部
5…周波数算出部(多次元特徴量算出部)
6…正常データ記録部
7…正常モデル算出部(正常モデル作成部)
8…診断データ記録部
9…再構築誤差算出部
10…異常判定部
11…変数誤差出力部(異常要因推定部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12