(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】炭化珪素半導体装置
(51)【国際特許分類】
H01L 29/78 20060101AFI20220412BHJP
H01L 29/12 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
H01L29/78 652H
H01L29/78 652K
H01L29/78 652M
H01L29/78 652T
H01L29/78 653A
(21)【出願番号】P 2018168755
(22)【出願日】2018-09-10
【審査請求日】2021-04-21
(73)【特許権者】
【識別番号】000002130
【氏名又は名称】住友電気工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107766
【氏名又は名称】伊東 忠重
(74)【代理人】
【識別番号】100070150
【氏名又は名称】伊東 忠彦
(72)【発明者】
【氏名】斎藤 雄
(72)【発明者】
【氏名】増田 健良
【審査官】上田 智志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/043606(WO,A1)
【文献】特開2015-26726(JP,A)
【文献】国際公開第2014/102994(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/155553(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/002766(WO,A1)
【文献】国際公開第2016/006341(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 29/78
H01L 29/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1導電型の炭化珪素半導体の第1層と、
前記第1層の上の前記第1導電型の炭化珪素半導体の第2層と、
前記第2層の上の前記第1導電型とは異なる第2導電型の炭化珪素半導体の第3層と、
前記第3層の上の前記第1導電型の炭化珪素半導体の第4層と、
前記第4層、前記第3層、前記第2層の一部に側面を有する溝と、
前記溝の内部に設けられた絶縁膜と、
前記溝の内部の前記絶縁膜の上に設けられた複数のゲート電極と、
前記ゲート電極の直下の前記第1層に設けられた前記第2導電型の炭化珪素半導体の複数の埋込領域と、
前記第1層において、前記埋込領域の間に設けられた前記第1導電型の炭化珪素半導体の電流狭窄領域と、
を有する縦型トランジスタであって、
qを電気素量、ε0を真空中の誘電率、kSiCを炭化珪素の比誘電率、Vdを炭化珪素における拡散電位、ND2を前記第2層における不純物濃度、NDKを前記電流狭窄領域における不純物濃度、TD2を前記第2層の厚さ、WUBを隣り合う前記埋込領域の間隔、WD2を前記溝の側面における前記第2層と前記第3層との界面の位置から前記埋込領域の端までの前記第2層と前記第3層の界面に平行な距離とした場合に、
【数1】
【数2】
【数3】
をすべてを満たす炭化珪素半導体装置。
【請求項2】
【数4】
を満たす請求項1に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項3】
前記第1層の不純物濃度ND1は、1.0×1016cm-3以上、5.0×1016cm-3以下であり、
前記第2層の不純物濃度ND2は、1.0×1016cm-3以上、8.0×1016cm-3以下であり、
前記電流狭窄領域の不純物濃度NDKは、5.0×1016cm-3以上、1.0×1018cm-3以下である請求項1または請求項2に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項4】
前記第1層は炭化珪素単結晶基板の第1の面側に形成されているものであって、
前記第4層に接するソース電極と、
前記炭化珪素単結晶基板の前記第1の面とは反対の第2の面に設けられたドレイン電極と、
を有する請求項1~請求項3のいずれか一項に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項5】
前記炭化珪素単結晶基板のポリタイプは4Hであり、
前記第4層の表面はSi面であり、
前記溝の側面は、前記第4層の表面に対し垂直である請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【請求項6】
前記炭化珪素単結晶基板のポリタイプは4Hであり、
前記第4層の表面はC面であり、
前記溝の側面は、前記第4層の表面に対し50°以上、60°以下である請求項4に記載の炭化珪素半導体装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化珪素半導体装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
炭化珪素は、従来から半導体装置に幅広く用いられている珪素に比べてバンドギャップが広いことから、高耐圧の半導体装置等に用いられている。このような炭化珪素を用いた半導体装置では、耐圧等の観点より、基板の第1の面にソース電極、第2の面にドレイン電極が形成されている構造のいわゆる縦型トランジスタがある。このような縦型のトランジスタでは、基板の一方の面に溝が形成され、溝の内部を埋め込むことによりゲート電極が形成されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2001-267570号公報
【文献】特開2014-41990号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記のような縦型のトランジスタ等の炭化珪素半導体装置では、耐圧を向上させることと、オン電流を高くすること、の双方が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本実施形態の一観点によれば、炭化珪素半導体装置は、縦型トランジスタであって、第1導電型の炭化珪素半導体の第1層と、第1層の上の第1導電型の炭化珪素半導体の第2層と、第2層の上の第1導電型とは異なる第2導電型の炭化珪素半導体の第3層と、第3層の上の第1導電型の炭化珪素半導体の第4層を有する。また、第4層、第3層、第2層の一部に側面を有する溝と、溝の内部に設けられた絶縁膜と、溝の内部の絶縁膜の上に設けられた複数のゲート電極を有する。更に、ゲート電極の直下の第1層に設けられた第2導電型の炭化珪素半導体の複数の埋込領域と、第1層において、埋込領域の間に設けられた第1導電型の炭化珪素半導体の電流狭窄領域を有する。また、qを電気素量、ε0を真空中の誘電率、kSiCを炭化珪素の比誘電率、Vdを炭化珪素における拡散電位、ND2を前記第2層における不純物濃度、NDKを前記電流狭窄領域における不純物濃度、TD2を前記第2層の厚さ、WUBを隣り合う前記埋込領域の間隔、WD2を前記溝の側面における前記第2層と前記第3層との界面の位置から前記埋込領域の端までの前記第2層と前記第3層の界面に平行な距離とした場合に、
【0006】
【0007】
【0008】
【発明の効果】
【0009】
本開示によれば、炭化珪素半導体装置において、耐圧を向上させるとともに、オン電流を高くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図2】
図2は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の説明図(1)である。
【
図3】
図3は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の説明図(2)である。
【
図4】
図4は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の説明図(3)である。
【
図5】
図5は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の説明図(4)である。
【
図6】
図6は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の特性図(1)である。
【
図7】
図7は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の電流密度分布図である。
【
図8】
図8は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の電界分布図である。
【
図9】
図9は本開示の第1の実施形態の炭化珪素半導体装置の特性図(2)である。
【
図10】
図10は本開示の第2の実施形態の炭化珪素半導体装置の説明図(1)である。
【
図11】
図11は本開示の第2の実施形態の炭化珪素半導体装置の説明図(2)である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
実施するための形態について、以下に説明する。
【0012】
[本開示の実施形態の説明]
最初に本開示の実施態様を列記して説明する。以下の説明では、同一または対応する要素には同一の符号を付し、それらについて同じ説明は繰り返さない。また本明細書の結晶学的記載においては、個別方位を[]、集合方位を<>、個別面を()、集合面を{}でそれぞれ示している。ここで結晶学上の指数が負であることは、通常、数字の上に"-"(バー)を付すことによって表現されるが、本明細書では数字の前に負の符号を付すことによって結晶学上の負の指数を表現している。また、本開示のエピタキシャル成長は、ホモエピタキシャル成長である。
【0013】
〔1〕 本開示の一態様に係る半導体装置は、第1導電型の炭化珪素半導体の第1層と、前記第1層の上の前記第1導電型の炭化珪素半導体の第2層と、前記第2層の上の前記第1導電型とは異なる第2導電型の炭化珪素半導体の第3層と、前記第3層の上の前記第1導電型の炭化珪素半導体の第4層と、前記第4層、前記第3層、前記第2層の一部に側面を有する溝と、前記溝の内部に設けられた絶縁膜と、前記溝の内部の前記絶縁膜の上に設けられた複数のゲート電極と、前記ゲート電極の直下の前記第1層に設けられた前記第2導電型の炭化珪素半導体の複数の埋込領域と、前記第1層において、前記埋込領域の間に設けられた前記第1導電型の炭化珪素半導体の電流狭窄領域と、を有する縦型トランジスタであって、qを電気素量、ε0を真空中の誘電率、kSiCを炭化珪素の比誘電率、Vdを炭化珪素における拡散電位、ND2を前記第2層における不純物濃度、NDKを前記電流狭窄領域における不純物濃度、TD2を前記第2層の厚さ、WUBを隣り合う前記埋込領域の間隔、WD2を前記溝の側面における前記第2層と前記第3層との界面の位置から前記埋込領域の端までの前記第2層と前記第3層の界面に平行な距離とした場合に、
【0014】
【0015】
【0016】
【0017】
上記のような縦型のトランジスタ等の炭化珪素半導体装置では、耐圧を向上させるとともに、オン電流を高くすることの双方が求められる。耐圧を向上させる方法としては、ゲート電極の直下の第1導電型の炭化珪素半導体の第1層に、第2導電型の炭化珪素半導体の埋込領域を形成する方法がある。しかしながら、形成される埋込領域の幅等により、耐圧が変化したり、オン電流が流れなくなる場合がある。
【0018】
このため、本願発明者は、第1導電型の炭化珪素半導体の第1層において、ゲート電極の直下に第2導電型の炭化珪素半導体の埋込領域を形成した構造の縦型のトランジスタについて鋭意検討を重ねた。この結果、耐圧を向上させるとともに、オン電流を高くすることのできる炭化珪素半導体装置の要件を見出した。本願は、このように本願発明者により見出された知見に基づくものである。
【0019】
【0020】
〔3〕 前記第1層の不純物濃度ND1は、1.0×1016cm-3以上、5.0×1016cm-3以下であり、前記第2層の不純物濃度ND2は、1.0×1016cm-3以上、8.0×1016cm-3以下であり、前記電流狭窄領域の不純物濃度NDKは、5.0×1016cm-3以上、1.0×1018cm-3以下である。
【0021】
〔4〕 前記第1層は炭化珪素単結晶基板の第1の面側に形成されているものであって、前記第4層に接するソース電極と、前記炭化珪素単結晶基板の前記第1の面とは反対の第2の面に設けられたドレイン電極と、を有する。
【0022】
〔5〕 前記炭化珪素単結晶基板のポリタイプは4Hであり、前記第4層の表面はSi面であり、前記溝の側面は、前記第4層の表面に対し垂直である。
【0023】
〔6〕 前記炭化珪素単結晶基板のポリタイプは4Hであり、前記第4層の表面はC面であり、前記溝の側面は、前記第4層の表面に対し50°以上、60°以下である。
【0024】
[本開示の実施形態の詳細]
以下、本開示の一実施形態(以下「本実施形態」と記す)について詳細に説明するが、本実施形態はこれらに限定されるものではない。
【0025】
〔第1の実施形態〕
最初に、炭化珪素半導体装置である縦型のトランジスタについて、
図1に基づき説明する。尚、以下の炭化珪素半導体装置の構造の図面では、便宜上、炭化珪素半導体装置を形成している各々の層の膜厚や幅等は実際とは異なっている。
【0026】
図1に示される縦型トランジスタとなる炭化珪素半導体装置は、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aの上に、第1のn型層21、p型層22、第2のn型層23が順に形成されている。また、第2のn型層23、p型層22、第1のn型層21を除去することにより溝30が形成されている。溝30は、第2のn型層23の表面に対し、側面30aが斜面となるように形成されており、溝30の側面30aは、第2のn型層23、p型層22、第1のn型層21の一部により形成されている。溝30の内部の側面30a及び底面30b、溝30の近傍の第2のn型層23の上には、ゲート絶縁膜40が形成されており、溝30の内部のゲート絶縁膜40の上には、ゲート電極51が形成されている。
【0027】
ゲート電極51の上には、ゲート電極51の全体を覆うように層間絶縁膜61が形成されており、更に、層間絶縁膜61を覆うバリアメタル層62が形成されている。
【0028】
また、第2のn型層23の上にNi膜を成膜し、熱処理をすることにより、Niと第2のn型層23に含まれるSi(シリコン)とが合金化し、NiSiによりオーミックコンタクト層52aが形成される。このようにオーミックコンタクト層52aを形成することにより、コンタクト抵抗を低くすることができる。オーミックコンタクト層52a及びバリアメタル層62の上には、Al等を成膜することにより、ソース電極52が形成されている。また、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aとは反対の第2の面10bには、Ni膜を成膜し熱処理をすることにより、オーミックコンタクト層53aが形成されており、オーミックコンタクト層53aの上には、ドレイン電極53が形成されている。
【0029】
第1のn型層21は、n型ドリフト層であり、n型となる不純物元素が比較的低い濃度でドープされている層である。p型層22は、p型チャネル層であり、pとなる不純物元素がドープされている層である。第2のn型層23は、高濃度のn型コンタクト層であり、第1のn型層21よりも、n型となる不純物元素の濃度が高い層である。
【0030】
図1に示される縦型の炭化珪素半導体装置では、ゲート電極51に所定の電圧が印加されると、p型層22のゲート絶縁膜40の近傍の領域にチャネルが形成され、第1のn型層21と第2のn型層23との間が導通する。これにより、ソース電極52とドレイン電極53との間に電流が流れ、炭化珪素半導体装置がオンになる。尚、ゲート電極51に所定の電圧が印加されていない場合には、p型層22にはチャネルは形成されず、ソース電極52とドレイン電極53との間には電流は流れないため、炭化珪素半導体装置はオフ状態となる。
【0031】
図1に示される縦型の炭化珪素半導体装置は、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aに炭化珪素エピタキシャル層が形成されている炭化珪素エピタキシャル基板が用いられている。炭化珪素エピタキシャル層にはn型となる不純物元素がドープされている。この炭化珪素エピタキシャル層の表面より、p型となる不純物元素としてAl(アルミニウム)をイオン注入することによりp型層22が形成され、n型となる不純物元素としてP(リン)をイオン注入することにより第2のn型層23が形成される。炭化珪素エピタキシャル層のイオン注入では、イオン注入される不純物元素のイオンの加速電圧等を変化させることにより、不純物元素のイオンがイオン注入される深さを変えることができる。このようにして、炭化珪素エピタキシャル層の表面側に第2のn型層23を形成し、第2のn型層23よりも深い領域にp型層22を形成することができる。炭化珪素エピタキシャル層において、不純物元素がイオン注入されたp型層22、第2のn型層23を除く領域が、第1のn型層21となる。
【0032】
縦型の炭化珪素半導体装置では、オン電流を高くすることと、ソース電極52とドレイン電極53との間における耐圧を高くすることの双方が求められている。しかしながら、
図1に示される縦型の炭化珪素半導体装置では、ソース電極52とドレイン電極53との間に電圧を印加すると、ゲート絶縁膜40のドレイン電極53側の端部において電界が集中し、破壊が生じる場合がある。このような破壊が生じない電圧の値が耐圧となる。ゲート絶縁膜40のドレイン電極53側の端部において電界集中を緩和するため、ゲート電極51の直下の第1のn型層21にp型領域を形成した構造のものが考えられる。しかしながら、このようなp型領域を形成すると、縦型の炭化珪素半導体装置の耐圧は向上するものの、p型領域より広がる空乏層の影響により、オン電流が減少してしまう場合がある。
【0033】
(炭化珪素半導体装置)
次に、第1の実施形態における炭化珪素半導体装置について、
図2~
図5に基づき説明する。
図2及び
図3は、第1の実施形態における炭化珪素半導体装置を炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aに対し垂直に切断した断面図であり、
図4及び
図5は、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aに対し平行に切断した断面図である。具体的には、
図4は、
図2における一点鎖線2A-2Bの近傍、及び、
図3における一点鎖線3A-3Bの近傍において切断した断面図である。
図5は、
図2における一点鎖線2C-2Dの近傍、及び、
図3における一点鎖線3C-3Dの近傍において切断した断面図である。
図2は、
図4における一点鎖線2A-2B、及び、
図5における一点鎖線2C-2Dにおいて切断した断面図である。
図3は、
図4における一点鎖線3A-3B、及び、
図5における一点鎖線3C-3Dの近傍において切断した断面図である。炭化珪素単結晶基板10における炭化珪素のポリタイプは4Hである。4Hのポリタイプの炭化珪素は、電子移動度、絶縁破壊電界強度等が、他のポリタイプよりも優れているからである。
【0034】
図2に示されるように、第1の実施形態における炭化珪素半導体装置は、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aの上に、第1のn型層121、第2のn型層122、p型層123、第3のn型層124が順に形成されている。また、第3のn型層124、p型層123、第2のn型層122の一部を除去することにより溝130が形成されている。 溝130は、いわゆるV字状の溝であり、このため第3のn型層124の表面はC(炭素)面となっている。具体的には、第3のn型層124、p型層123、第2のn型層122の一部を除去することによりV字状の溝130が形成されている。V字状の溝130は、第3のn型層124の表面に対し、側面130aが55°±5°、即ち、50°以上、60°以下の範囲で傾斜している。よって、V字状の溝130の側面130aは、第3のn型層124、p型層123、第2のn型層122の一部により形成されている。V字状の溝130は熱エッチングにより形成することができ、これにより、{0-33-8}面は側面130aとなるV字状の溝130を形成することができる。
【0035】
V字状の溝130の内部の側面130a及び底面130b、V字状の溝130の近傍の第3のn型層124の上には、ゲート絶縁膜140が形成されている。また、V字状の溝130の内部のゲート絶縁膜140の上には、ポリシリコンを成膜することによりゲート電極151が形成されている。尚、第1のn型層121は、ゲート電極151側の第1のn型層上層121aと、炭化珪素単結晶基板10側の第1のn型層下層121dと、により形成されている。
【0036】
尚、本願においては、第1のn型層上層121aを第1層と記載し、第2のn型層122を第2層と記載し、p型層123を第3層と記載し、第3のn型層124を第4層と記載する場合がある。
【0037】
ゲート電極151の上には、ゲート電極151の全体を覆うように層間絶縁膜61が形成されており、更に、層間絶縁膜61を覆うバリアメタル層62が形成されている。
【0038】
また、第3のn型層124の上にNi膜を成膜し、熱処理をすることにより、Niと第3のn型層124に含まれるSi(シリコン)とが合金化し、NiSiによりオーミックコンタクト層52aが形成される。オーミックコンタクト層52a及びバリアメタル層62の上には、Al等を成膜することによりソース電極52が形成されている。また、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aとは反対の第2の面10bには、Ni膜を成膜し熱処理をすることにより、オーミックコンタクト層53aが形成されており、オーミックコンタクト層53aの上には、ドレイン電極53が形成されている。
【0039】
本実施形態における半導体装置においては、第1のn型層121、第2のn型層122によりn型ドリフト層が形成される。p型層123は、p型チャネル層であり、第3のn型層124は、高濃度のn型コンタクト層である。また、ゲート電極151の直下の第2のn型層122と第1のn型層上層121aとの間には、埋込p型領域125が形成されている。埋込p型領域125は、ゲート電極151の直下の第1のn型層上層121aに埋め込まれるように形成されている。
【0040】
また、第1のn型層上層121aにおいて、隣り合う埋込p型領域125と埋込p型領域125との間には、電流狭窄n型領域126が形成されている。尚、埋込p型領域125に接続するためのp型接続領域127が形成されている。
【0041】
本実施形態における半導体装置においては、ゲート電極151の直下の第1のn型層121には、埋込p型領域125が形成されている。このように、ゲート電極151の直下の第1のn型層121に、埋込p型領域125を形成することにより、ゲート絶縁膜140における電界集中を緩和することができ、耐圧を向上させることができる。
【0042】
本実施形態における縦型の炭化珪素半導体装置では、ゲート電極151に所定の電圧が印加されると、p型層123のゲート絶縁膜140の近傍の領域にチャネルが形成され、第3のn型層124と第2のn型層122との間が導通する。これにより、ソース電極52とドレイン電極53との間に電流が流れ、炭化珪素半導体装置がオンになる。この際、オン電流は、埋込p型領域125と埋込p型領域125との間の電流狭窄n型領域126を流れる。従って、オン電流は、第2のn型層122においては、埋込p型領域125を避けるように流れる。尚、ゲート電極151に所定の電圧が印加されていない場合には、p型層123にはチャネルは形成されず、ソース電極52とドレイン電極53との間には電流は流れないため、炭化珪素半導体装置はオフ状態となる。
【0043】
ところで、縦型の炭化珪素半導体装置形成される埋込p型領域125の幅が広すぎると、隣り合う埋込p型領域125より広がる空乏層が一体となるため、オン電流が流れなくなってしまう。また、オン電流を高くするため、例えば、埋込p型領域125の幅を狭くしすぎると、ゲート絶縁膜140において電界集中しやすくなる。
【0044】
本実施形態における縦型の炭化珪素半導体装置では、埋込p型領域125等より広がる空乏層の範囲を不純物濃度や厚さ等により規定することにより、オン電流を十分に確保しつつ、耐圧の向上を図るものである。
【0045】
具体的には、本実施形態における炭化珪素半導体装置は、下記の数1~数4に示す式を満たしている。
【0046】
【0047】
【0048】
【0049】
【0050】
上記の式において、qは電気素量を示し、ε0は真空中の誘電率を示し、kSiCは、炭化珪素(SiC)の比誘電率、Vdは炭化珪素における拡散電位を示す。ND2は第2のn型層122における不純物濃度、TD2は第2のn型層122の厚さを示す。WD2は、溝130の側面130aにおける第2のn型層122とp型層123との界面の位置から、埋込p型領域125の端125aまでの第2のn型層122とp型層123との界面に平行な距離を示す。NDKは電流狭窄n型領域126における不純物濃度、WUBは隣り合う埋込p型領域125の間隔、即ち、電流狭窄n型領域126の幅、ND1は第1のn型層上層121aにおける不純物濃度を示す。尚、埋込p型領域125の端125aは、埋込p型領域125と電流狭窄n型領域126との境界となる。
【0051】
数1に示す式は、ゲート電極151及び埋込p型領域125より第2のn型層122に広がる空乏層により、オン電流が流れなくなることを防ぎ、第2のn型層122においてオン電流が流れる領域を確保するためのものである。
【0052】
数2に示す式は、ゲート絶縁膜140における電界集中を緩和するためのものである。
【0053】
数3に示す式は、埋込p型領域125より電流狭窄n型領域126に広がる空乏層により、オン電流が流れなくなることを防ぎ、電流狭窄n型領域126においてオン電流が流れる領域を確保するためのものである。
【0054】
数4に示す式は、埋込p型領域125を設けることにより、第2のn型層122において流れるオン電流は、埋込p型領域125を迂回するように流れるため、このオン電流の低下を防ぐためのものである。
【0055】
上記の数4の式に代えて、更に、下記の数5の式を満たすものであってもよい。
【0056】
【0057】
第1のn型層下層121dは、厚さTD1dが約8.5μmであり、不純物濃度ND1dが、3.0×1015cm-3以上、2.0×1016cm-3以下となるように、n型となる不純物元素としてP(リン)がドープされている。例えば、不純物濃度ND1dは約8.0×1015cm-3である。
【0058】
第1のn型層上層121aは、厚さTD1aが約1.5μmであり、不純物濃度ND1が1.0×1016cm-3以上、5.0×1016cm-3以下、例えば、約2.0×1016cm-3となるように、n型となる不純物元素としてPがドープされている。
【0059】
第2のn型層122は、厚さTD2が約0.55μmであり、不純物濃度ND2が1.0×1016cm-3以上、8.0×1016cm-3以下、例えば、約8.0×1016cm-3となるように、n型となる不純物元素としてPがドープされている。
【0060】
p型層123は、厚さTBが約0.2μmであり、不純物濃度が1.0×1017cm-3以上、3.0×1018cm-3以下、例えば、約5.0×1017cm-3となるように、p型となる不純物元素としてAl(アルミニウム)がドープされている。
【0061】
第3のn型層124は、厚さTCが約0.25μmであり、不純物濃度が1.0×1018cm-3以上、5.0×1019cm-3以下、例えば、約1.0×1019cm-3となるように、n型となる不純物元素としてPがドープされている。
【0062】
また、ゲート電極151の直下の埋込p型領域125は、不純物濃度が5.0×1017cm-3以上、5.0×1018cm-3以下、例えば、約1.0×1018cm-3の濃度となるように、p型となる不純物元素としてAlがドープされている。埋込p型領域125は、厚さは約1.0μmであり、第2のn型層122と埋込p型領域125との界面に平行な方向の幅WUは約2.4μmであり、隣り合う埋込p型領域125の間隔WUBは約1.2μmとなるように形成されている。
【0063】
埋込p型領域125の間に形成される電流狭窄n型領域126は、不純物濃度NDKが5.0×1016cm-3以上、1.0×1018cm-3以下、例えば、約1.0×1017cm-3となるように、n型となる不純物元素としてPがドープされている。
【0064】
尚、不純物濃度の関係は、ND1<ND2<NDKとなっている。また、埋込p型領域125における不純物濃度は、電流狭窄n型領域126における不純物濃度よりも高い。また、この半導体装置におけるセルピッチPCは、約3.6μmである。
【0065】
また、溝130の深さDTは約0.6μmである。溝130の側面130aの第2のn型層122とp型層123との界面の位置から、埋込p型領域125の端125aまでの第2のn型層122とp型層123との界面に平行な距離WD2は、約0.95μmである。従って、TD2<WD2の関係を満たしている。
【0066】
本実施形態における縦型の炭化珪素半導体装置は、炭化珪素単結晶基板10の第1の面10aの上に、不純物元素がドープされた炭化珪素エピタキシャル層を形成し、更に、炭化珪素エピタキシャル層に不純物元素をイオン注入することにより形成される。炭化珪素エピタキシャル層にイオン注入する際、イオン注入される不純物元素のイオンの加速電圧等を変化させることにより、不純物元素のイオンがイオン注入される深さを変えることができる。また、埋込p型領域125等は、埋込p型領域125が形成される領域に開口部を有するハードマスクを形成して、不純物元素のイオンをイオン注入することにより形成することができる。
【0067】
尚、n型の不純物元素の濃度及びp型の不純物元素の濃度は、SIMS(Secondary Ion Mass Spectrometry:二次イオン質量分析)により測定することができる。また、本願において、単に不純物濃度とは、実効ドナー濃度(Nd-Na)または実効アクセプタ濃度(Na-Nd)を意味するものとする。実効ドナー濃度(Nd-Na)とは、ドナーとなるn型の不純物元素の濃度(Nd)からアクセプタとなるp型の不純物元素の濃度(Na)を引いた値である。また、実効アクセプタ濃度(Na-Nd)とは、アクセプタとなるp型の不純物元素の濃度(Na)からドナーとなるn型の不純物元素の濃度(Nd)を引いた値である。
【0068】
実効ドナー濃度及び実効アクセプタ濃度の測定は、最初に、例えば、集束イオンビーム(Focused Ion Beam:FIB)装置を用いて、
図3及び
図4に示すように炭化珪素半導体装置の断面を加工する。次に、走査電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)を用いて、不純物が注入された領域の導電型がp型かn型かの判定を行う。例えば、加速電圧が3kV、倍率が10000倍の条件でSEM観察を行った場合、明るい領域がp型領域であり、暗い領域がn型領域である。次に、上記の断面におけるp型領域及びn型領域について走査型拡がり抵抗顕微鏡(Scanning Spreading Resistance Microscopy:SSRM)を用いて不純物濃度を測定する。p型領域の不純物濃度が実効アクセプタ濃度であり、n型領域の不純物濃度が実効ドナー濃度である。
【0069】
(シミュレーション)
次に、本実施形態における縦型の炭化珪素半導体装置について行ったシミュレーションについて説明する。
図6は、本実施形態の縦型の炭化珪素半導体装置において、ドレイン-ソース電圧(VDS)が2.0Vの場合のゲート-ソース電圧(VGS)とドレイン電流(ID)との関係を示す。尚、ゲートしきい値電圧(Vth)は2.5Vである。
【0070】
図7は、この炭化珪素半導体装置に、ゲート-ソース電圧(VGS)を15V印加した場合における電流密度分布のシミュレーションの結果である。
図7に示されるように、第2のn型層122、埋込p型領域125の間の電流狭窄n型領域、第1のn型層121の電流密度は高く、オン電流が流れている。この炭化珪素半導体装置における特性オン抵抗の値は、2.03mΩcm2であり、十分にオン電流が流れる。
【0071】
次に、この炭化珪素半導体装置のドレイン-ソース間に、1520Vの電圧を印加した場合、
図8に示されるような電界強度分布が生じる。
図8に示されるように、第2のn型層122とp型層123との界面近傍のゲート絶縁膜140の部分EOXに電界集中しており、また、埋込p型領域125の部分ESiCにおいても電界集中している。このように、本実施形態の炭化珪素半導体装置においては、電界集中する部分が部分EOXと部分ESiCに分散されるため、炭化珪素半導体装置の耐圧が向上する。
【0072】
図9は、この炭化珪素半導体装置において、ゲート-ソース電圧(VGS)が0.0Vの場合のドレイン-ソース電圧(VDS)と、ドレイン電流(ID)及び電界強度との関係を示す。ゲート絶縁膜140の部分EOXは、ドレイン-ソース電圧(VDS)が印加されると、電界強度が2.7MV/cmとなり、その後、ドレイン-ソース電圧(VDS)を上昇させても電界強度は僅かに上昇するのみである。埋込p型領域125の部分ESiCでは、ドレイン-ソース電圧(VDS)が印加されると、電界強度が1.6MV/cmとなり、その後、ドレイン-ソース電圧(VDS)が400Vまでは電界強度は殆ど変化はない。ドレイン-ソース電圧(VDS)が400Vを超えると、ドレイン-ソース電圧(VDS)の上昇に伴い、電界強度は徐々に上昇し、ドレイン-ソース電圧(VDS)が約1520Vで、ゲート絶縁膜140の部分EOXの電界強度と略同じになる。
【0073】
以上のように、本実施形態における縦型のトランジスタ等の炭化珪素半導体装置においては、耐圧を向上させることと、オン電流を高くすることを両立させることができる。
【0074】
〔第2の実施形態〕
次に、第2の実施形態について説明する。本実施形態における縦型トランジスタとなる炭化珪素半導体装置は、
図10及び
図11に示されるように、第3のn型層124の表面に対し、垂直な側面230aを有する溝230が形成されている構造のものである。尚、
図10は、
図4における一点鎖線2A-2B、及び、
図5における一点鎖線2C-2Dに対応する部分の断面図である。
図11は、
図4における一点鎖線3A-3B、及び、
図5における一点鎖線3C-3Dに対応する部分の断面図である。
【0075】
本実施形態における炭化珪素半導体装置では、第3のn型層124の表面はSi(シリコン)面となっている。溝230は、RIE等により、第3のn型層124、p型層123、第2のn型層122を除去することにより形成されており、溝230の側面230aは、第3のn型層124の表面に対し垂直となるものである。よって、溝230の側面230aは、第3のn型層124、p型層123、第2のn型層122の一部により形成されている。溝230の内部の側面230a及び底面230b、溝230の近傍の第3のn型層124の上には、ゲート絶縁膜240が形成されており、溝230の内部のゲート絶縁膜240の上には、ゲート電極251が形成されている。本願において、上記の垂直とは、厳密な意味での垂直を意味するものではなく、垂直とみなされる範囲であって、本実施形態における効果を奏する範囲で幅を有していることを意味する。
【0076】
尚、上記以外の内容については、第1の実施形態と同様である。
【0077】
以上、実施形態について詳述したが、特定の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された範囲内において、種々の変形及び変更が可能である。
【符号の説明】
【0078】
10 炭化珪素単結晶基板
10a 第1の面
10b 第2の面
11 炭化珪素エピタキシャル層
11a 表面
21 第1のn型層
22 p型層
23 第2のn型層
30 溝
30a 側面
30b 底面
40 ゲート絶縁膜
51 ゲート電極
52 ソース電極
52a オーミックコンタクト層
53 ドレイン電極
53a オーミックコンタクト層
61 層間絶縁膜
62 バリアメタル層
63 パッシベーション膜
121 第1のn型層
122 第2のn型層
123 p型層
124 第3のn型層
125 埋込p型領域
125a 端
127 p型接続領域
130 溝
130a 側面
130b 底面
140 ゲート絶縁膜
151 ゲート電極
230 溝
230a 側面
230b 底面
240 ゲート絶縁膜
251 ゲート電極