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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】耐熱部材
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/52 20060101AFI20220412BHJP
   C04B 41/87 20060101ALI20220412BHJP
   C30B 29/36 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
C04B35/52
C04B41/87 U
C30B29/36 Z
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2019213722
(22)【出願日】2019-11-26
(65)【公開番号】P2021084826
(43)【公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-04-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成31年度、文部科学省、科学技術試験研究委託事業「省エネルギー社会の実現に資する次世代半導体研究開発(中核拠点)」、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100110227
【弁理士】
【氏名又は名称】畠山 文夫
(72)【発明者】
【氏名】中村 大輔
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-075814(JP,A)
【文献】特開2018-145022(JP,A)
【文献】特開2017-075075(JP,A)
【文献】特開2004-084057(JP,A)
【文献】特開平10-245285(JP,A)
【文献】特開2013-193943(JP,A)
【文献】特開2015-044719(JP,A)
【文献】特開2010-248060(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/52
C04B 41/87
C30B 29/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の構成を備えた耐熱部材。
(1)前記耐熱部材は、
等方性黒鉛からなる基材と、
前記基材の表面の全部又は一部に形成された単層又は多層の被膜と
を備えている。
(2)前記被膜は、WCを主成分とし、空隙率が3%未満である単層又は多層の緻密WC層を含む。
【請求項2】
前記基材は、室温から500℃までの温度範囲における熱膨張係数の平均値が3.8×10-6/K以上5.0×10-6/K以下である請求項1に記載の耐熱部材。
【請求項3】
前記緻密WC層は、XRD回折スペクトルから算出された、すべての結晶面のロットゲーリングFファクタが0.15未満である請求項1又は2に記載の耐熱部材。
【請求項4】
前記緻密WC層は、XRD回折スペクトルでの第1~第3最強線の半値全幅の少なくとも1つが0.2°以下である請求項1から3までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項5】
前記緻密WC層は、0.1massppm以上100massppm以下のCoを含み、残部がWC及び不可避的不純物からなる請求項1から4までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項6】
前記被膜は、前記緻密WC層の表面の全部又は一部に形成された単層又は多層の多孔WC層をさらに備え、
前記多孔WC層は、WCを主成分とし、空隙率が前記緻密WC層のそれより大きい
請求項1から5までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項7】
前記多孔WC層は、空隙率が20%以上である請求項6に記載の耐熱部材。
【請求項8】
前記被膜は、総厚さが20μm以上200μm以下である請求項1から7までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項9】
前記被膜は、1000℃~1500℃の範囲における放射率(間接計測法による)が30%以上80%以下である請求項1から8までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【請求項10】
化合物半導体からなる結晶又は薄膜を成長させるためのルツボ、サセプタ、ヒータ材、蒸着ボート、又は、リフレクタ材として用いられる請求項1から9までのいずれか1項に記載の耐熱部材。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐熱部材に関し、さらに詳しくは、高温の腐食性ガスに対する高い耐食性と、高い放射率とを兼ね備えた耐熱部材に関する。
【背景技術】
【0002】
SiCやIII族窒化物半導体のバルク単結晶成長やエピタキシャル成膜などの半導体プロセスは、プロセス条件が過酷である。これらのプロセスに用いられるルツボやサセプタなどの部材(以下、これらを総称して「耐熱部材」ともいう)は、プロセス中に、高温、かつ、腐食性の強い雰囲気に曝される。従来、このような耐熱部材にはSiCコート黒鉛材やpBNコート黒鉛材が用いられていた。しかし、これらの材料は、現状の半導体プロセス環境下における寿命が短いという問題がある。
【0003】
そこでこの問題を解決するために、従来から種々の提案がなされている。例えば、特許文献1には、等方性黒鉛からなる黒鉛基材と、黒鉛基材の表面を被覆する無配向粒状組織からなるTaC被膜とを備えた高温耐熱部材が開示されている。
同文献には、
(A)TaC被膜は、無配向粒状組織を呈しているためにクラックが伝搬しにくい点、
(B)その結果として、高温耐熱部材を高温雰囲気下で長時間使用した場合であっても黒鉛基材が保護される点、及び、
(C)このような高温耐熱部材は、III族窒化物のMOCVDエピタキシャル成長のためのサセプタ部材などに用いることができる点
が記載されている。
【0004】
特許文献2には、角部に面取りが施された黒鉛基材と、黒鉛基材の表面を被覆するTaC被膜とを備えた高温耐熱部材が開示されている。
同文献には、
(A)黒鉛基材の表面に角部があると、成膜時又は使用中にTaC被膜の局所的な割れ、浮き、剥離等が生じやすい点、及び、
(B)黒鉛基材の角部に面取りを施すと、成膜時又は使用中におけるTaC被膜の割れ、浮き、剥離等を抑制することができる点
が記載されている。
【0005】
特許文献3には、
(a)黒鉛基材の表面にTaC粒子を含むスラリーを塗布して塗膜を形成し、
(b)塗膜を乾燥させて成形膜とし、
(c)成形膜の表面を研磨して成形膜の表面粗さ又は表面うねりを小さくし、
(d)成形膜を加熱してTaC粒子を焼結させ、焼結膜を得る
耐熱黒鉛部材の製造方法が開示されている。
同文献には、
(A)焼結膜に対して研磨、研削等の加工を行うと、焼結膜に微小クラックが発生するおそれがある点、及び、
(B)焼結膜に代えて、成形膜に対して研磨を行うと、研磨が容易となる点
が記載されている。
【0006】
特許文献4には、黒鉛基材の表面にTaC膜が形成されており、黒鉛基材の熱膨張係数(CTE)が5.8~6.4×10-6/Kであり、嵩密度が1.83~2.0g/cm3である耐熱黒鉛部材が開示されている。
同文献には、黒鉛基材の表面にTaC被膜を形成する場合において、黒鉛基材のCTE及び嵩密度を最適化すると、耐久性及び耐熱性が向上する点が記載されている。
【0007】
特許文献5には、等方性黒鉛からなる基材の表面がTaC被膜で被覆され、TaC被膜の鉄含有量が20~1000mass ppmである高耐熱部材が開示されている。
同文献には、TaCの鉄量を最適化すると、TaC膜中のクラックの発生が抑制され、TaC被膜の耐熱性が向上する点が記載されている。
【0008】
特許文献6には、耐熱部材の保護を目的とするものではないが、黒鉛製坩堝の内面に、 金属、金属炭化物、又は、グラッシーカーボンからなるガス遮蔽部材が形成されたSiC単結晶成長用坩堝が開示されている。
同文献には、
(A)原料を充填した坩堝の下部(第1領域)にガス遮蔽部材を設けると、坩堝の上部(第2領域)と下部(第1領域)との間で内圧差が生じる点、及び、
(B)昇華ガスは、内圧の高い坩堝の下部(第1領域)から内圧の低い坩堝の上部(第2領域)に向かって流れる点、
が記載されている。
【0009】
特許文献7には、耐熱部材の保護を目的とするものではないが、AlNを成長させるための坩堝、蓋体、種子基板の側面を保護する金属膜、種子基板保持部材、及び種子基板保護部材の材料として、モリブデン、タングステン、タンタル、炭化モリブデン、炭化ジルコニウム、炭化タングステン、炭化タンタル、窒化モリブデン、窒化ジルコニウム、窒化タングステン、又は、窒化タンタルを用いる点が開示されている。
【0010】
非特許文献1には、ガラス質カーボン又はSi(100)からなる基板の表面に、dcマグネトロンスパッタリング法を用いてタングステン-カーボン薄膜を形成する方法が開示されている。
さらに、非特許文献2には、グラッシーカーボン基板の表面に、マグネトロンスパッタリング法を用いて炭化タングステン薄膜を形成する方法が開示されている。
【0011】
特許文献1~5において、保護被膜として実際に使用されているのはTaCのみである。これは、TaCコート黒鉛部材は、その化学的安定性から、SiCコート黒鉛部材やpBNコート黒鉛部材よりも長寿命が期待されているためである。
しかし、TaCは、放射率が小さく、かつ、熱膨張係数(CTE)が大きい。そのため、TaCコート黒鉛部材を従来の耐熱部材と置きかえることが困難な場合がある。さらに、従来の耐熱部材と同等のCTEと放射率とを維持しつつ、実際の使用環境に耐えうる、より耐久性の高い耐熱部材が提案された例は、従来にはない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【文献】特開2013-075814号公報
【文献】特開2013-193943号公報
【文献】特開2015-044719号公報
【文献】特開2017-075075号公報
【文献】特開2018-145022号公報
【文献】特開2018-048053号公報
【文献】特開2016-190762号公報
【非特許文献】
【0013】
【文献】Ph.Gouy-Pailler, et al., J.Vac.Sci.Technol. A11, 96(1993)
【文献】M.B.Zellner, et al., Surface Science 569(2004)89-98
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
本発明が解決しようとする課題は、高温の腐食性ガスに対する高い耐食性と、高い放射率とを兼ね備えた新規な耐熱部材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0015】
上記課題を解決するために本発明に係る耐熱部材は、以下の構成を備えていることを要旨とする。
(1)前記耐熱部材は、
等方性黒鉛からなる基材と、
前記基材の表面の全部又は一部に形成された単層又は多層の被膜と
を備えている。
(2)前記被膜は、WCを主成分とし、空隙率が3%未満である単層又は多層の緻密WC層を含む。
【0016】
前記被膜は、前記緻密WC層の表面の全部又は一部に形成された単層又は多層の多孔WC層をさらに備えているのが好ましい。この場合、前記多孔WC層は、WCを主成分とし、空隙率が前記緻密WC層のそれより大きいものが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
緻密WC層は、SiやIII族化合物などの半導体の成長・成膜条件下(1000℃以上の腐食性雰囲気下)において、SiCやpBNよりも安定であり、下地の黒鉛をより長期的に腐食性ガスから保護する。また、WC層の放射率は、その空隙率に応じて30~80%の範囲となり、TaCのそれ(10~20%)よりも著しく高く、SiCやpBNのそれら(80%、70%)に近い。そのため、WCコート黒鉛部材をSiCコート黒鉛部材やpBNコート黒鉛部材に置き換えるに際して、熱設計の変更が少ない。
【0018】
また、WCを主成分とする被膜の熱膨張係数(CTE)は、TaCのそれより小さく、SiCや化合物半導体のそれらに近い。そのため、CTEの小さい黒鉛基板上に、熱応力に起因するクラックを発生させることなく、WCを主成分とする被膜を成膜することができる。その結果、半導体の成長・成膜中に耐熱部材の表面に半導体多結晶が析出した場合であっても、成長・成膜中又は成長・成膜後における半導体多結晶の剥がれを抑制することができる。また、剥がれ落ちた半導体多結晶パーティクルによる成長結晶・エピタキシャル膜中の欠陥発生が抑制される。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の第1の実施の形態に係る耐熱部材の断面模式図である。
図2】本発明の第2の実施の形態に係る耐熱部材の断面模式図である。
図3】間接測定法による放射率の温度依存性を示す図である。
図4】緻密WC層/黒鉛からなる耐熱部材のXRDスペクトル(上)、及び、WC原料粉末のXRDスペクトル(下)である。
図5】WCコート黒鉛部材の耐久性試験の結果である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下に、本発明の一実施の形態について詳細に説明する。
[1. 耐熱部材(1)]
図1に、本発明の第1の実施の形態に係る耐熱部材の断面模式図を示す。
図1において、耐熱部材10aは、
等方性黒鉛からなる基材20と、
基材20の表面の全部又は一部に形成された単層又は多層の被膜30aと
を備えている。
【0021】
[1.1. 基材]
[1.1.1. 等方性黒鉛]
基材20は、等方性黒鉛からなる。「等方性黒鉛」とは、冷間静水圧成型(Cold Isostatic Press(CIP)法)により作製された多結晶黒鉛材料をいう。黒鉛は、六方晶系に属するため、特性に異方性がある。一方、等方性黒鉛は、各結晶粒の結晶方位が無配向であるため、切り出し方向の違いによる特性差が無いという特徴がある。
本発明において、基材20の形状、大きさ等は特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
【0022】
[1.1.2. 平均熱膨張係数]
「平均熱膨張係数」とは、室温から500℃までの温度範囲における熱膨張係数の平均値をいう。
基材20の平均熱膨張係数は、被膜30aの耐久性に影響を与える。基材20の平均熱膨張係数が小さくなりすぎると、被膜30aとの熱膨張係数差が大きくなり、被膜30aが剥離しやすくなる。従って、基材20の平均熱膨張係数は、3.8×10-6/K以上が好ましい。平均熱膨張係数は、好ましくは、4.0×10-6/K以上、さらに好ましくは、4.2×10-6/K以上である。
【0023】
一方、基材20の平均熱膨張係数が大きくなりすぎると、成膜後に基材が反りやすくなる。従って、基材20の平均熱膨張係数は、5.0×10-6/K以下が好ましい。平均熱膨張係数は、好ましくは、4.8×10-6/K以下、さらに好ましくは、4.510-6/K以下である。
等方性黒鉛の平均熱膨張係数は、その製法や組成に応じて、通常、3.8~7.0×10-6/K程度の値を持つ。そのため、種々の等方性黒鉛の中から、適切な平均熱膨張係数を持つものを基材20の材料として選択するのが好ましい。
【0024】
[1.2. 被膜]
[1.2.1. 被膜の形成箇所]
被膜30aは、基材20の表面の全部又は一部に形成されている。図1においては、基材20の上面にのみ被膜30aが形成されているが、これは単なる例示である。すなわち、被膜30aは、基材20の全面に形成されていても良く、あるいは、一部の面にのみ形成されていても良い。
【0025】
[1.2.2. 層数]
被膜30aは、組成及び微構造が同一である単一の層からなるものでも良く、あるいは、組成及び/又は微構造が異なる複数の層の積層体であっても良い。被膜30aに含まれる層数は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な層数を選択することができる。図1において、被膜30aは、単層又は多層の緻密WC層32からなる。
【0026】
[1.2.3. 緻密WC層]
[A. 定義]
「緻密WC層」とは、WCを主成分とし、かつ、空隙率が3%未満である層をいう。
「WCを主成分とする」とは、緻密WC層32に含まれるWCの含有量が50at%以上であることをいう。
「WCの含有量(at%)」とは、緻密WC層32に含まれる原子の総数に対する、Wの原子数とCの原子数の和の割合をいう。
緻密WC層32は、上記の条件を満たす限りにおいて、組成及び微構造が同一である単一の層からなるものでも良く、あるいは、組成及び/又は微構造が異なる複数の層の積層体であっても良い。
【0027】
[B. 空隙率]
緻密WC層32の空隙率は、3%未満である必要がある。基材の腐食を抑制するためには、緻密WC層32の空隙率は、小さいほど良い。
【0028】
[C. 組成]
緻密WC層32の組成は、空隙率が上述の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。すなわち、緻密WC層32は、実質的にWCのみからなり、残部が不可避的不純物からなるものでも良い。あるいは、緻密WC層32は、所定量の焼結助剤を含み、残部がWC及び不可避的不純物からなるものでも良い。さらに、緻密WC層32は、高融点金属化合物相としてWCのみを含むものでも良く、あるいは、WCに加えて、他の高融点金属化合物相(例えば、TaC、NbC、ZrCなど)を含むものでも良い。
【0029】
後述する「焼結法」を用いて緻密WC層32を形成する場合、空隙率を小さくするためには、焼結助剤が必要となる。焼結助剤としては、例えば、Ti、Cr、Fe、Co、Niなどがある。
これらの中でも、焼結助剤は、Coが好ましい。これは、少量の添加で緻密化が効率的に進行するためである。
【0030】
例えば、焼結助剤としてCoを用い、焼結法を用いて緻密WC層32を形成する場合、原料中には、通常、数mass%程度のCoが添加される。しかし、製造条件によっては、緻密化が完了した時点で大半のCoが飛散し、緻密WC層32中には痕跡程度のCoしか残らない場合がある。緻密WC層32層中に残留しているCo量は、原料中へのCo添加量や焼結条件により異なる。製造条件を最適化すると、0.1massppm以上100massppm以下のCoを含み、残部がWC及び不可避的不純物からなる緻密WC層32(すなわち、実質的にWCのみからなる緻密WC層32)が得られる。
【0031】
[D. ロットゲーリングFファクタ]
「ロットゲーリングFファクタ(以下、単に「Fファクタ」ともいう)」とは、次の式(1)で表される値をいう。Fファクタは、多結晶体を構成する各結晶粒の配向の程度を表す。Fファクタが「1」である時は単結晶を表し、Fファクタが「0」である時は完全に無配向な多結晶組織を表す。
F=(P-P0)/(1-P0) …(1)
【0032】
但し、
P=ΣI(h'k'l')/ΣI(hkl)、
0=ΣI0(h'k'l')/ΣI0(hkl)、
ΣI(h'k'l')は、対象試料のX線回折スペクトルから求めた、結晶学的に等価な特定の結晶面((h'k'l')面)に対応する回折ピークのピーク面積の総和、
ΣI(hkl)は、対象試料のX線回折スペクトルから求めた、すべての結晶面に対応する回折ピークのピーク面積の総和、
ΣI0(h'k'l')は、基準試料(対象試料と同一組成を持つ無配向試料)のX線回折スペクトルから求めた、結晶学的に等価な特定の結晶面((h'k'l')面)に対応する回折ピークのピーク面積の総和、
ΣI0(hkl)は、基準試料のX線回折スペクトルから求めた、すべての結晶面に対応する回折ピークのピーク面積の総和。
【0033】
緻密WC層32は、微細なWC結晶粒の集合体からなる。WCは六方晶系に属するため、WC結晶粒が特定方向に配向していると、物理的特性、化学的特性、及び/又は、機械的特性が異方的になりやすい。そのため、例えば、緻密WC層32に熱応力又は機械的応力が作用すると、クラックが発生しやすくなり、かつ、発生したクラックも伝搬しやすくなる。
これに対し、WC結晶粒が無配向状態になっていると、各種特性が等方的になる。そのため、例えば、緻密WC層32に応力が作用しても、クラックが発生し難く、かつ、発生したクラックも伝搬しにくくなる。
【0034】
耐クラック性を向上させるためには、緻密WC層32のFファクタは、小さいほど良い。具体的には、緻密WC層32のすべての結晶面のFファクタは、0.15未満が好ましい。
【0035】
[E. 半値全幅]
「半値全幅」とは、X線回折スペクトルの(hkl)面に対応する回折ピークを擬フォークト関数によりフィットした時に、ピークの最大値(fmax)の半分の値(fmax/2)における2θの角度差をいう。半値全幅は、結晶性の程度を表す。すなわち、半値全幅が小さくなるほど、結晶性が高いことを表す。
【0036】
緻密WC層32を構成する各結晶粒の結晶性が低いと、熱的に不安定となり、高温の還元ガス雰囲気下における耐久性が低下する。高い耐熱性を得るためには、緻密WC層32の結晶性は高いほど良い。
具体的には、緻密WC層32は、XRD回折スペクトルでの第1~第3最強線の半値全幅の少なくとも1つが0.2°以下であるものが好ましい。半値全幅は、好ましくは、0.15°以下、さらに好ましくは、0.10°以下である。
また、緻密WC層32は、第1~第3最強線の半値全幅の少なくとも2つ以上が上述した値以下であるものが好ましい。
【0037】
[1.2.4. 総厚さ]
被膜30aの総厚さは、被膜30aの耐久性に影響を与える。被膜30aが薄すぎると、基材20の腐食を抑制することができなくなる。従って、被膜30aの総厚さは、20μm以上が好ましい。総厚さは、好ましくは、40μm以上、さらに好ましくは、60μm以上である。
一方、被膜30aの総厚さが厚くなりすぎると、被膜30aが剥離しやすくなる。従って、被膜30aの総厚さは、200μm以下が好ましい。被膜30aの総厚さは、好ましくは、150μm以下、さらに好ましくは、100μm以下である。
【0038】
[1.2.5. 放射率]
被膜30aの放射率は、耐熱部材10aを各種の用途に用いる際の熱設計に影響を与える。一般に、被膜30aの放射率が高くなるほど、耐熱部材10aに隣接する他の部材(例えば、ルツボ内の原料、サセプタに取り付けられた種結晶など)に熱を伝達しやすくなる。また、SiCコート黒鉛部材やpBNコート黒鉛部材は高い放射率を持つが、被膜30aの放射率がSiCやpBNのそれに近づくほど、熱設計を変更することなく、部材の置きかえが可能になる。
【0039】
このような効果を得るためには、被膜30aは、1000℃~1500℃の範囲における放射率(間接計測法による)が30%以上80%以下であるものが好ましい。
被膜30aの放射率は、主として被膜30aの空隙率に依存する。一般に、被膜30aの空隙率が小さくなるほど、放射率は高くなる。被膜30aが緻密WC層32のみからなる場合、その放射率は、空隙率や組成などに応じて、30%~60%となる。
【0040】
[1.3. 用途]
本発明に係る耐熱部材10aは、高温の腐食性ガスに曝される各種の部材に使用することができる。このような部材としては、例えば、化合物半導体からなる結晶又は薄膜を成長させるためのルツボ、サセプタ、ヒータ材、蒸着ボート、リフレクタ材などがある。
【0041】
[2. 耐熱部材(2)]
図2に、本発明の第2の実施の形態に係る耐熱部材の断面模式図を示す。
図2において、耐熱部材10bは、
等方性黒鉛からなる基材20と、
基材20の表面の全部又は一部に形成された単層又は多層の被膜30bと
を備えている。
【0042】
[2.1. 基材]
基材20は、等方性黒鉛からなる。基材20の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0043】
[2.2. 被膜]
[2.2.1. 被膜の形成箇所]
被膜30bは、基材20の表面の全部又は一部に形成されている。被膜30bの形成箇所の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0044】
[2.2.2. 層数]
被膜30bは、組成及び微構造が同一である単一の層からなるものでも良く、あるいは、組成及び/又は微構造が異なる複数の層の積層体であっても良い。被膜30bに含まれる層数は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な層数を選択することができる。図2において、被膜30aは、単層又は多層の緻密WC層32と、単層又は多層の多孔WC層34とを備えている。この点が、第1の実施の形態とは異なる。
【0045】
[2.2.3. 緻密WC層]
「緻密WC層」とは、WCを主成分とし、かつ、空隙率が3%未満である層をいう。緻密WC層32の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0046】
[2.2.4. 多孔WC層]
[A. 定義]
「多孔WC層」とは、WCを主成分とし、かつ、空隙率が緻密WC層32のそれより大きい層をいう。
「WCを主成分とする」の意味については、緻密WC層32と同様であるので、説明を省略する。
多孔WC層34は、上記の条件を満たす限りにおいて、組成及び微構造が同一である単一の層からなるものでも良く、あるいは、組成及び/又は微構造が異なる複数の層の積層体であっても良い。
【0047】
[B. 形成箇所]
多孔WC層34は、緻密WC層32の表面に形成される。多孔WC層34は、緻密WC層32の表面の全面に形成されていても良く、あるいは、一部に形成されていても良い。
【0048】
[C. 空隙率]
多孔WC層34の空隙率は、緻密WC層32それよ大きい限りにおいて、特に限定されない。被膜30bの放射率は、被膜30bの最表面に位置する多孔WC層34の空隙率に依存する。高い放射率を得るためには、多孔WC層34の空隙率は、20%以上が好ましい。空隙率は、好ましくは、25%以上、さらに好ましくは、30%以上である。
一方、多孔WC層34の空隙率が大きくなりすぎると、多孔WC層34が脆くなる場合がある。従って、多孔WC層34の空隙率は、50%以下が好ましい。空隙率は、好ましくは、45%以下、さらに好ましくは、40%以下である。
【0049】
[D. 組成]
多孔WC層34の組成は、空隙率が上述の条件を満たす限りにおいて、特に限定されない。すなわち、多孔WC層34は、実質的にWCのみからなり、残部が不可避的不純物からなるものでも良い。あるいは、多孔WC層34は、所定量の焼結助剤を含み、残部がWC及び不可避的不純物からなるものでも良い。さらに、多孔WC層34は、高融点金属化合物相としてWCのみを含むものでも良く、あるいは、WCに加えて、他の高融点金属化合物相(例えば、TaC、NbC、ZrCなど)を含むものでも良い。
【0050】
後述する「焼結法」を用いて多孔WC層34を形成する場合において、焼結助剤を必要以上に添加すると、緻密化が過度に進行し、空隙率が低下する場合がある。従って、焼結法を用いて多孔WC層34を形成する場合、多孔WC層34の原料に含まれる焼結助剤の量は、緻密WC層32の原料に含まれるそれより少なくするのが好ましい。また、空隙率の大きな多孔WC層34を形成するには、焼結助剤を用いることなく焼結させるのが好ましい。
焼結助剤に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0051】
[2.2.5. 厚さ]
[A. 総厚さ]
被膜30bの総厚さは、被膜30bの耐久性に影響を与える。総厚さの詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0052】
[B. 多孔WC層の厚さ]
多孔WC層34の厚さは、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適な厚さを選択することができる。多孔WC層34の厚さが薄くなりすぎると、放射率の向上が不十分となる。従って、多孔WC層34の厚さは、5μm以上が好ましい。厚さは、好ましくは、10μm以上、さらに好ましくは、20μm以上である。
【0053】
一方、多孔WC層34の厚さが厚くなりすぎると、製造が困難になる場合がある。従って、多孔WC層34の厚さは、50μm以下が好ましい。厚さは、好ましくは、40μm以下である。
【0054】
[2.2.6. 放射率]
被膜30bは最表面が多孔WC層34からなるため、緻密WC層32のみからなる被膜30aに比べて、放射率が高くなる。多孔WC層34の空隙率や組成を最適化すると、その放射率は、40~80%となる。放射率に関するその他の点については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0055】
[2.3. 用途]
本発明に係る耐熱部材10bは、高温の腐食性ガスに曝される各種の部材に使用することができる。耐熱部材10bの用途の詳細については、第1の実施の形態と同様であるので、説明を省略する。
【0056】
[3. 耐熱部材の製造方法]
本発明に係る耐熱部材は、種々の方法により製造することができる。これらの中でも焼結法は、空隙率の調節が容易であるので、耐熱部材の製造方法として好適である。
ここで、「焼結法」とは、
(a)等方性黒鉛からなる基材の表面に、WC粉末を含む第1スラリーを塗布し、乾燥させることにより、基材の表面に第1成形膜を形成し、
(b)必要に応じて、第1成形膜の表面に、WC粉末を含む第2スラリーを塗布し、乾燥させることにより、第1成形膜の表面に第2成形膜を形成し、
(c)第1成形膜及び必要に応じて第2成形膜が形成された基材を不活性雰囲気下で加熱し、第1成形膜及び第2成形膜を焼結させる
方法をいう。
【0057】
[3.1. 第1工程]
まず、等方性黒鉛からなる基材の表面に、WC粉末を含む第1スラリーを塗布し、乾燥させる(第1工程)。これにより、基材の表面に第1成形膜を形成することができる。
【0058】
第1スラリーは、緻密WC層を形成するための原料である。また、第1成形膜は、焼結後に緻密WC層となる層である。WCは難焼結性であるため、緻密WC層を形成するためには、第1スラリーは、適量の焼結助剤を含んでいる必要がある。第1スラリーは、必要に応じて、有機バインダ、分散剤などがさらに含まれていても良い。
WC粉末の平均粒径、焼結助剤の種類及び量、第1スラリーの組成等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
なお、緻密WC層が組成及び/又は微構造が異なる多層からなる場合、組成の異なる第1スラリーを用いて、複数の第1成形膜を形成する。
【0059】
一般に、第1スラリー中に添加される焼結助剤の量が少なすぎると、緻密化が十分に進行せず、空隙率が大きくなる。一方、焼結助剤の添加量が過剰になると、緻密WC層に焼結助剤が残留し、残留した焼結助剤が使用中に漏出し、汚染源になる場合がある。好適な焼結助剤の添加量は、焼結助剤の種類により異なる。例えば、焼結助剤がCoである場合、焼結助剤の添加量は、0.1~5mass%が好ましい。
【0060】
[3.2. 第2工程]
次に、必要に応じて、第1成形膜の表面に、WC粉末を含む第2スラリーを塗布し、乾燥させる(第2工程)。これにより、第1成形膜の表面に第2成形膜を形成することができる。なお、多孔WC層を形成しない場合には、第2工程を省略することができる。
【0061】
第2スラリーは、多孔WC層を形成するための原料である。また、第2成形膜は、焼結後に多孔WC層となる層である。WCは難焼結性であるため、多孔WC層を形成するためには、第2スラリーは、焼結助剤を含んでいる必要はない。むしろ、焼結助剤を含まない第2スラリーを用いた方が、多孔WC層を容易に形成することができる。第2スラリーは、必要に応じて、有機バインダ、分散剤、造孔剤などがさらに含まれていても良い。
WC粉末の平均粒径、焼結助剤の種類及び量、第2スラリーの組成等は、特に限定されるものではなく、目的に応じて最適なものを選択することができる。
なお、多孔WC層が組成及び/又は微構造が異なる多層からなる場合、組成の異なる第2スラリーを用いて、複数の第2成形膜を形成する。
【0062】
[3.3. 第3工程]
次に、第1成形膜及び必要に応じて第2成形膜が形成された基材を不活性雰囲気下で加熱し、第1成形膜及び第2成形膜を焼結させる(第3工程)。これにより、本発明に係る耐熱部材が得られる。
焼結条件は、第1成形膜及び第2成形膜の組成に応じて最適な条件を選択する。最適な焼結条件は、原料粉末の性状やスラリーの組成などにより異なるが、2000℃~2300℃で、0.5時間~1.0時間程度加熱するのが好ましい。
【0063】
[4. 作用]
緻密WC層は、SiやIII族化合物などの半導体の成長・成膜条件下(1000℃以上の腐食性雰囲気下)において、SiCやpBNよりも安定であり、下地の黒鉛をより長期的に腐食性ガスから保護する。また、WC層の放射率は、その空隙率に応じて30~80%の範囲となり、TaCのそれ(10~20%)よりも著しく高く、SiCやpBNのそれら(80%、70%)に近い。そのため、WCコート黒鉛部材をSiCコート黒鉛部材やpBNコート黒鉛部材に置き換えるに際して、熱設計の変更が少ない。
【0064】
また、WCを主成分とする被膜の熱膨張係数(CTE)は、TaCのそれより小さく、SiCや化合物半導体のそれらに近い。そのため、CTEの小さい黒鉛基板上に、熱応力に起因するクラックを発生させることなく、WCを主成分とする被膜を成膜することができる。その結果、半導体の成長・成膜中に耐熱部材の表面に半導体多結晶が析出した場合であっても、成長・成膜中又は成長・成膜後における半導体多結晶の剥がれを抑制することができる。また、剥がれ落ちた半導体多結晶パーティクルによる成長結晶・エピタキシャル膜中の欠陥発生が抑制される。
【実施例
【0065】
(実施例1~2、比較例1~3)
[1. 試料の作製]
[1.1. 実施例1]
基板には、平均熱膨張係数が4.8×10-6/Kである等方性黒鉛の板材(φ100×3mm、又は、□50×3mm)を用いた。また、平均粒径1~3μmのWC粉末、平均粒径0.05~0.5μmのCo粉末(成形膜(乾燥後、焼結前)中に、0.5~2.0mass%)、及び有機バインダーを有機溶媒に加え、第1スラリーを得た。基材表面に第1スラリーをスプレー塗布し、第1成形膜を形成した。第1成形膜の厚さは、焼結後の膜厚が約100μmとなる厚さとした。
【0066】
第1成形膜に含まれる有機溶剤を除去するため、第1成形膜付き基材を150℃×30分間ホットプレート上で加熱した。さらに、Arを主成分とする不活性雰囲気下において、基板を2000℃において1時間保持することで焼結させ、緻密WC層/黒鉛からなるWCコート黒鉛部材を得た。緻密WC層中のCo量は、100massppm以下であった。
【0067】
[1.2. 実施例2]
実施例1と同様にして、基材の表面に第1成形膜を形成した。
次に、平均粒径1~3μmのWC粉末、及び有機バインダーを有機溶媒に加え、第2スラリーを得た。第1成形膜の表面に第2スラリーを刷毛塗りし、第2成形膜を形成した。第2成形膜の厚さは、10~30μmとした。
以下、実施例1と同様にして、有機溶媒の除去及び焼結を行い、多孔WC層/緻密WC層/黒鉛からなるWCコート黒鉛部材を得た。
【0068】
[1.3. 比較例1]
WC粉末に代えて、平均粒径1~3μmのTaC粉末を用いた以外は、実施例1と同様にして、緻密TaC層/黒鉛からなるTaCコート黒鉛部材を得た。
【0069】
[1.4. 比較例2]
基板として、平均熱膨張係数が6.2×10-6/Kである等方性黒鉛の板材を用いた以外は比較例1と同様にして、緻密TaC層/黒鉛からなるTaCコート黒鉛部材を得た。
【0070】
[1.5. 比較例3]
基板として、平均熱膨張係数が6.2×10-6/Kである等方性黒鉛の板材を用い、WC粉末に代えて、平均粒径1~3μmのTaC粉末を用いた以外は、実施例2と同様にして、多孔TaC層/緻密TaC層/黒鉛からなるTaCコート黒鉛部材を得た。
【0071】
[2. 試験方法]
[2.1. 空隙率]
焼結後のサンプルから断面観察用の試料を作製し、SEMにて焼結後の膜厚を評価した。また、スラリーの仕込み重量及び理論密度に基づいて、膜厚の理論値を算出した。さらに、SEM観察で得られた膜厚と膜厚の理論値との差分から、空隙率を算出した。
[2.2. 熱応力クラック評価]
光学顕微鏡にて被膜表面の熱応力クラック(数μm幅のクラック)の有無を確認した。
【0072】
[2.3. 放射率測定]
間接測定法(JIS R1693-2:2012)にて放射率の温度依存性(室温~2500℃)を計測・算出した。
[2.4. XRD測定]
各試料について、異なる3箇所でXRD測定を行った。また、得られたXRDスペクトルから、各回折ピーク強度の平均値を求めた。さらに、得られた平均値を用いて、各結晶面のFファクタを算出した。
【0073】
[3. 結果]
[3.1. 空隙率]
実施例1、2で得られた緻密WC層の空隙率は1%未満であった。一方、実施例2で得られた多孔WC層の空隙率は約30%であった。
また、比較例1~3で得られた緻密TaC層の空隙率は、1~3%であった。一方、比較例3で得られた多孔TaC層の空隙率は32%であった。
【0074】
[3.2. 熱応力クラック評価]
表1に、熱応力クラック評価の結果を示す。なお、表1には、放射率の測定結果も併せて示した。実施例1、2は、いずれも熱応力クラックは確認されなかった。一方、比較例1は熱応力クラックが確認されたのに対し、比較例2、3では熱応力クラックが確認されなかった。これは、比較例2、3で用いた基材の平均熱膨張係数が、TaCのそれに近いためと考えられる。
【0075】
【表1】
【0076】
[3.3. 放射率]
図3に、間接測定法による放射率の温度依存性を示す。また、表1に、1000℃~2500℃での放射率の値の範囲を示す。図3及び表1より、以下のことが分かる。
(1)緻密WC層の放射率は、緻密TaC層のそれよりはるかに大きい。
(2)多孔WC層の放射率は、緻密WC層のそれよりさらに大きくなり、SiCやpBNのそれらに近い値となった。
【0077】
[3.4. XRD測定]
[3.4.1. XRDスペクトル]
図4に、緻密WC層/黒鉛からなる耐熱部材(実施例1)のXRDスペクトル(上)、及び、WC原料粉末のXRDスペクトル(下)を示す。図4より、緻密WC層が化学量論比1:1のWC単相膜であることを確認した。なお、PVD法、CVD法、スパッタ法により形成される膜は、WC単相膜ではなく、W2CやWC1-xが混在している混相膜である場合が多い(非特許文献1参照)。
【0078】
[3.4.2. 半値全幅]
図4より、緻密WC層の回折ピークは非常にシャープであり、結晶性が高いことが分かった。表2に、緻密WC層(実施例1)の異なる3箇所で測定したXRDスペクトルに含まれる第1~第3最強線の半値全幅を示す。表2には、WC原料粉末の半値全幅も併せて示した。緻密WC層の第1~第3最強線の半値全幅は、いずれも0.2°以下であった。
【0079】
【表2】
【0080】
[3.4.3. Fファクタ]
表3に、緻密WC層(実施例1)について、異なる3箇所で測定したXRDスペクトルから求めた各結晶面の回折ピーク強度の平均値、及びFファクタを示す。表3より、緻密WC層は、すべての面方位について、Fファクタが0.15未満であり、完全なランダム配向であることが分かった。結晶性の高い無配向組織は耐久性が高いと予測され、半導体成長・成膜プロセスの高品質化と高スルートップ化に寄与するものと考えられる。
【0081】
【表3】
【0082】
(実施例3~4、比較例4)
[1. 試料の作製]
空隙率が1%(実施例3)、2%(実施例4)、又は、6%(比較例4)となるように、第1スラリーに添加するCo粉末の量を調整した以外は、実施例1と同様にして、緻密WC層/黒鉛からなるWCコート黒鉛部材を得た。
【0083】
[2. 試験方法(耐久性評価)]
各試料をNH3雰囲気中でアニールし、減量速度を計測した。NH3アニール条件は、温度:1200℃、保持時間:1時間、NH3流量:3slm、N2流量:2slm、全圧:6kPaとした。
【0084】
[3. 結果]
図5に、WCコート黒鉛部材の耐久性試験の結果を示す。図5より、空隙率が3%を超えると、減量速度が著しく増加し、WCコート下の黒鉛基材の損耗が顕著となることが分かる。また、緻密WC層の空隙率が3%未満であることが、WCコート黒鉛部材の耐久性の確保のために必要であることが分かる。
【0085】
以上、本発明の実施の形態について詳細に説明したが、本発明は上記実施の形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明に係る耐熱部材は、化合物半導体からなる結晶又は薄膜を成長させるためのルツボ、サセプタ、ヒータ材、蒸着ボート、リフレクタ材などに用いることができる。
【符号の説明】
【0087】
10a、10b 耐熱部材
20 基材
30a、30b 被膜
32 緻密WC層
34 多孔WC層
図1
図2
図3
図4
図5