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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】インクジェット記録装置
(51)【国際特許分類】
   B41J 2/015 20060101AFI20220412BHJP
   B41J 2/045 20060101ALI20220412BHJP
   B41J 2/205 20060101ALI20220412BHJP
【FI】
B41J2/015 101
B41J2/045
B41J2/205
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2019525451
(86)(22)【出願日】2018-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2018022388
(87)【国際公開番号】W WO2018235673
(87)【国際公開日】2018-12-27
【審査請求日】2020-12-23
(31)【優先権主張番号】P 2017121047
(32)【優先日】2017-06-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001270
【氏名又は名称】コニカミノルタ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001254
【氏名又は名称】特許業務法人光陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】島添 雅紀
【審査官】大浜 登世子
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-065149(JP,A)
【文献】特開2001-162840(JP,A)
【文献】国際公開第2014/185142(WO,A1)
【文献】特開2012-004579(JP,A)
【文献】特開2001-019151(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0088468(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41J 2/01 - 2/215
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
インクを吐出するノズルと、
所定の駆動動作により前記ノズルに連通するインク流路においてインクに圧力変化を与える圧力発生部と、
前記圧力発生部を動作させる駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、
前記駆動動作を前記圧力発生部により所定の周期時間ごとのタイミングで2以上の所定数回行わせることが可能であり、一連の前記駆動動作の動作回数に応じた液量のインク液滴を前記ノズルから吐出させ、
前記動作回数が2の場合には、2回の前記駆動動作を前記周期時間の2倍の間隔を開けて行わせ
前記駆動動作は、前記インク流路の容積を増大させる第1動作と、前記増大した容積を縮小させる第2動作とを含み、
前記一連の駆動動作のうち最後の駆動動作において、前記第1動作の開始タイミングと前記第2動作の開始タイミングとの間の時間は、当該駆動動作に対する前記インク流路内のインクの変位に係る遅延時間に応じて定められ、
前記遅延時間は、前記インク流路内におけるインクの固有振動周期の0.55倍以上0.70倍以下である
インクジェット記録装置。
【請求項2】
前記駆動部は、前記動作回数が3以上の場合には、当該動作回数の前記駆動動作を前記圧力発生部に前記周期時間ごとに行わせる請求項1記載のインクジェット記録装置。
【請求項3】
前記駆動部は、前記一連の駆動動作のうち最後の駆動動作の動作タイミングをインクの吐出タイミングに応じて定める請求項1又は2記載のインクジェット記録装置。
【請求項4】
前記周期時間は、前記インク流路内におけるインクの固有振動周期と等しく定められる請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置。
【請求項5】
前記駆動部は、前記一連の駆動動作ののちに前記インク流路内のインクの圧力変化を抑制する所定の抑制動作を前記圧力発生部により行わせる請求項1~のいずれか一項に記
載のインクジェット記録装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、インクジェット記録装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ノズルからインクを吐出させて媒体上に着弾させ、画像などを記録するインクジェット記録装置がある。インクジェット記録装置では、通常、単位面積当たりのインクの被覆面積に応じて濃淡が表現される。インクの被覆面積を制御する方法の一つとして、インクの一滴当たりの液量を変化させるものが知られている。
【0003】
インク一滴当たりの液量を適切に変化させる技術として、複数回の連続した液滴吐出動作により吐出させる複数の液滴の吐出タイミングや速度などを調節して、媒体への着弾前に合一化させ、元の液滴数に応じた液量の単一液滴を得る技術がある(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2012-45797号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、液滴吐出動作を連続させると、先行の液滴吐出動作の影響で不要な微小液滴(サテライト)が発生しやすくなる場合があり、この微小液滴が媒体上に着弾して記録の質を低下させるという課題がある。
【0006】
この発明の目的は、より安定した質で記録を行うことのできるインクジェット記録装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、請求項1記載の発明は、
インクを吐出するノズルと、
所定の駆動動作により前記ノズルに連通するインク流路においてインクに圧力変化を与える圧力発生部と、
前記圧力発生部を動作させる駆動部と、
を備え、
前記駆動部は、
前記駆動動作を前記圧力発生部により所定の周期時間ごとのタイミングで2以上の所定数回行わせることが可能であり、一連の前記駆動動作の動作回数に応じた液量のインク液滴を前記ノズルから吐出させ、
前記動作回数が2の場合には、2回の前記駆動動作を前記周期時間の2倍の間隔を開けて行わせ
前記駆動動作は、前記インク流路の容積を増大させる第1動作と、前記増大した容積を縮小させる第2動作とを含み、
前記一連の駆動動作のうち最後の駆動動作において、前記第1動作の開始タイミングと前記第2動作の開始タイミングとの間の時間は、当該駆動動作に対する前記インク流路内のインクの変位に係る遅延時間に応じて定められ、
前記遅延時間は、前記インク流路内におけるインクの固有振動周期の0.55倍以上0.70倍以下であるインクジェット記録装置である。
【0008】
請求項2記載の発明は、請求項1記載のインクジェット記録装置において、
前記駆動部は、前記動作回数が3以上の場合には、当該動作回数の前記駆動動作を前記圧力発生部に前記周期時間ごとに行わせる。
【0009】
請求項3記載の発明は、請求項1又は2記載のインクジェット記録装置において、
前記駆動部は、前記一連の駆動動作のうち最後の駆動動作の動作タイミングをインクの吐出タイミングに応じて定める。
【0010】
請求項4記載の発明は、請求項1~3のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記周期時間は、前記インク流路内におけるインクの固有振動周期と等しく定められる。
【0013】
請求項記載の発明は、請求項1~のいずれか一項に記載のインクジェット記録装置において、
前記駆動部は、前記一連の駆動動作ののちに前記インク流路内のインクの圧力変化を抑制する所定の抑制動作を前記圧力発生部により行わせる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に従うと、インクジェット記録装置においてより安定した質で記録を行うことができるという効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本実施形態のインクジェット記録装置の概略構成を模式的に示す斜視図である。
図2】インクジェット記録装置の機能構成を示すブロック図である。
図3】アクチュエーターに対して印加される電圧のパターンを説明する図である。
図4A】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図4B】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図4C】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図4D】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図4E】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図4F】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図4G】インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。
図5】アクチュエーターに対して印加される電圧のパターンの変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて説明する。
図1は、本実施形態のインクジェット記録装置1の概略構成を模式的に示す斜視図である。
【0017】
インクジェット記録装置1は、搬送部10と、記録部20と、制御部40などを備える。
搬送部10は、定められた速度で記録媒体Pの搬送を行う。搬送部10は、駆動ローラー11と、従動ローラー12と、搬送ベルト13などを有する。
【0018】
搬送ベルト13は、駆動ローラー11と従動ローラー12との間に架け渡された無端状のベルトであり、当該駆動ローラー11と従動ローラー12との間を周回移動する。搬送ベルト13の駆動ローラー11及び従動ローラー12と接しない側の外周面上に、ここでは、記録ヘッド21のインク吐出面と対向する平面の範囲で記録媒体Pが載置され、周回移動に従って移動する。
【0019】
駆動ローラー11は、図示略の回転モーターによって回転動作される。この回転動作に従って搬送ベルト13が周回移動する。
従動ローラー12は、搬送ベルト13の周回移動に従って回転動作する。
【0020】
記録部20は、記録ヘッド21と、キャリッジ22と、キャリッジレール23などを有する。
【0021】
記録ヘッド21は、インクを吐出して記録媒体Pに着弾させる。特には限られないが、ここでは、CMYK(シアン、マゼンタ、黄色、黒色)の4色のインクを各々吐出する4つの記録ヘッド21が設けられる。これら4つの記録ヘッド21は、記録媒体Pの搬送方向に対して垂直な幅方向に配列され、キャリッジ22に取り付けられている。記録ヘッド21の記録媒体Pと対向する面は、ノズル212(図2図4A参照)の開口(ノズル開口)が配列されたインク吐出面となっており、インクが当該ノズル開口から記録媒体Pに対して略垂直に吐出されて記録媒体P上に着弾する。
【0022】
本実施形態の記録ヘッド21は、インクを吐出する複数のノズル212と、複数のノズルにそれぞれ連通する圧力室を含むインク流路213(図4A参照)と、各圧力室をそれぞれ変形させることでインク流路内のインクに圧力変化を与えるアクチュエーター211(圧力発生部;図2図4A参照)などを有する。ここでは、アクチュエーター211は、基準電圧より低い(負の)電圧が印加されることで圧力室を膨張させる方向に変形して(容積を増大させて;第1動作)インクを内部に引き込み流入させ、印加電圧が当該負の電圧から基準電圧に戻ることで変形状態から復帰することで圧力室の容積を縮小させて(第2動作)インクを押し出し、ノズル212からインクを吐出させる。
なお、記録ヘッド21は、各色1つに限られない。また、複数の記録ヘッド21が所定のパターンで配列固定されたヘッドユニットが形成され、当該ヘッドユニットが各々キャリッジ22に固定されてもよい。
【0023】
キャリッジ22は、記録ヘッド21を保持しながらキャリッジレール23に沿って幅方向に移動する。キャリッジ22の記録ヘッド21が載置固定される部分は、搬送ベルト13による搬送面(記録媒体P)と記録ヘッド21のインク吐出面との間に設けられ、ノズルから吐出されたインクが記録ヘッド21のインク吐出面と記録媒体Pとの間で通過可能に空隙が設けられている。キャリッジ22のキャリッジレール23に固定される部分は、ここでは、搬送方向側の一端部に設けられ、2本のキャリッジレール23が内部を貫通している。
【0024】
キャリッジレール23は、搬送方向に対して交差する方向、ここでは、幅方向に沿って平行な2本(一対)が記録媒体Pの最大記録可能幅以上の範囲で設けられている。キャリッジレール23は、キャリッジ22を幅方向に移動可能としながら支持する。キャリッジ22の移動は、特には限られないが、例えば、リニアモーターなどによりなされる。また、キャリッジ22のキャリッジレール23に沿った位置(走査方向についての位置)は、図示略のリニアエンコーダーなどにより検出され、検出結果が制御部40に出力される。
【0025】
制御部40は、搬送部10による記録媒体Pの搬送、記録ヘッド21の幅方向への移動(走査)、及びインク吐出動作のタイミングを制御し、記録媒体Pに対する画像記録動作を制御する。すなわち、インクジェット記録装置1では、記録ヘッド21を幅方向に移動させるスキャン動作と、記録媒体Pを搬送方向に移動させる搬送動作とを組み合わせて二次元画像を形成する。
【0026】
図2は、本実施形態のインクジェット記録装置1の機能構成を示すブロック図である。
インクジェット記録装置1は、上述の記録ヘッド21及び制御部40と、搬送駆動部15と、ヘッド駆動部24(駆動部)と、走査駆動部25と、操作受付&表示部71と、通信部72と、バス90などを備える。
【0027】
ヘッド駆動部24は、記録ヘッド21の各ノズルから適切なタイミングでインクを吐出させるための駆動電圧信号を選択されたノズル212に対応するアクチュエーター211に対して出力することで、アクチュエーター211を動作させる。ヘッド駆動部24は、駆動波形信号出力部241と、デジタル/アナログ変換部242(DAC)と、駆動回路243と、出力選択部244などを備える。
【0028】
駆動波形信号出力部241は、図示略の発振回路から入力されるクロック信号に同期してインクの吐出や非吐出(画像記録の中断や終了を含む)に応じた駆動波形のデジタルデータを出力する。DAC242は、このデジタルデータの駆動波形をアナログ信号に変換して入力信号Vinとして駆動回路243へ出力する。
【0029】
駆動回路243は、入力信号Vinをアクチュエーター211の駆動電圧に応じた電圧値に増幅し、更に、アクチュエーター211(両端の電極)に対して流れる電流に応じて電流増幅を行った出力信号Voutを出力する。
出力選択部244は、制御部40から入力された形成対象画像の画素データに応じて出力信号Voutの出力対象とされるアクチュエーター211を選択する切替信号を出力する。
【0030】
記録ヘッド21では、ヘッド駆動部24の駆動回路243からの駆動電圧信号によりアクチュエーター211が変形し、当該変形に応じて複数のノズル212からインクを吐出して、搬送駆動部15及び走査駆動部25の動作に応じた記録媒体上の位置にインク液滴を着弾させる。アクチュエーター211としては、ここでは、圧電素子が用いられる。この圧電素子は、各ノズル212へのインク流路213(圧力室;図4A参照)に沿って設けられている。駆動回路243から出力された駆動電圧信号の電圧が印加されることで変形して、インク流路213の容積を増大(上述の第1動作)、縮小(増大した容積を元に戻すだけの場合を含む;上述の第2動作)させることにより当該インク流路213内のインクに圧力変化を生じさせる。この圧力変化パターンに応じて、インクは、適切な分量、速度及び液滴形状でノズルの開口部から吐出される。アクチュエーター211(圧電素子)の変形モードは特に限られない。
【0031】
搬送駆動部15は、画像記録前の記録媒体Pを媒体供給部から取得して、記録ヘッド21のインク吐出面に対して適切な位置が対向するように配置させ、また、画像が記録された記録媒体Pをインク吐出面と対向する位置から排出させる。搬送駆動部15は、上述のように駆動ローラー11を回転させるモーターを適切な速度及びタイミングで回転動作させる。
【0032】
走査駆動部25は、キャリッジ22(記録ヘッド21)を幅方向に沿って適切な位置に移動させる。走査駆動部25は、例えば、上述の無端状のベルトを周回移動させるモーターを適切なタイミング及び速度で回転動作させる。
【0033】
操作受付&表示部71は、画像記録に係るステータス情報やメニューなどを表示させるとともに、ユーザーからの入力操作を受け付ける。操作受付&表示部71は、例えば、液晶パネルによる表示画面及び当該液晶パネルのドライバーと、液晶画面上に重ねて設けられたタッチパネルなどを備え、ユーザーによりタッチ操作がなされた位置と操作の種別に応じた操作検出信号を制御部40に出力する。操作受付&表示部71には、更にLED(Light Emitting Diode)ランプや押しボタンスイッチなどが設けられていても良く、例えば、警告表示や、主電源の表示及び操作に用いられる。
【0034】
通信部72は、所定の通信規格に従って外部とのデータの送受信を行う。
通信規格としては、LAN(Local Area Network)ケーブルを用いた通信に係るTCP/IP接続、無線LAN(IEEE802.11)、Bluetooth(登録商標)などの近距離無線通信(IEEE802.15など)やUSB(Universal Serial Bus)接続など各種周知の方式が用いられ得る。通信部72は、利用可能とする通信規格に係る接続端子及び通信接続に係るドライバーのハードウェア(ネットワークカード)などを備える。
【0035】
制御部40は、インクジェット記録装置1の全体動作を統括制御する。制御部40は、CPU41(Central Processing Unit)と、RAM42(Random Access Memory)と、記憶部43などを備える。CPU41は、インクジェット記録装置1の統括制御に係る各種演算処理を行う。RAM42は、CPU41に作業用のメモリー空間を提供し、一時データを記憶する。記憶部43は、CPU41により実行される制御プログラムや設定データなどを記憶するとともに、形成対象の画像データを一時記憶する。記憶部43は、DRAMなどの揮発性メモリーとHDD(Hard Disk Drive)やフラッシュメモリーなどの不揮発性の記憶媒体とを備え、用途に応じて使い分けられる。
【0036】
バス90は、これらの各構成間を繋いでデータの送受信を行う通信経路である。
なお、ここでは、インクジェット記録装置1として記録ヘッド21の走査を行うスキャン型のものを例に挙げて説明したが、記録ヘッド21としてラインヘッドが用いられ、固定された記録ヘッド21に対して記録媒体Pの搬送方向への移動のみにより二次元画像を記録可能なものであってもよい。また、記録媒体Pの搬送は、無端状ベルトによって行われるものに限られない。インクを吐出して画像を記録するインクジェット記録装置であれば種類を問わない。
【0037】
次に、本実施形態のインクジェット記録装置1におけるインク吐出動作について説明する。
インクジェット記録装置1では、ヘッド駆動部24によりアクチュエーター211に対してインク流路213(圧力室)を膨張(容積を増大)させた後に当該膨張を元に戻す変形を行わせる(ここでは、印加電圧を基準電圧から一度低下させて維持した後に、元の基準電圧まで上昇させる駆動波形電圧を印加する)駆動動作を行わせることで、インクを吐出させる。
【0038】
図3は、本実施形態のインクジェット記録装置1でアクチュエーター211(圧電素子)に対して印加される電圧のパターンを説明する図である。
【0039】
インクジェット記録装置1では、通常の一滴分に当たる単位吐出量に対し、当該単位吐出量の複数倍(2以上の所定数倍)、ここでは、最大6倍の液量を吐出する多階調吐出動作が可能となっている。インクジェット記録装置1では、複数回所定の周期時間ごとのタイミングで(後述のように、必ずしも全て連続した周期である必要はない)所定の駆動波形電圧を印加する一連の駆動動作が行われることで、押し出されたインクがインク流路内のインクと分離せずに連なった複数個のインク液塊を生成する。そして、これらがインク流路内のインクと分離した後、当該複数個のインク液塊が合一化して、合計液量(駆動動作の動作回数に応じた液量)を有する単一のインク液滴となって記録媒体上に着弾する。周期時間は、上述のように各々ノズル開口から飛び出るインク液塊を生じさせて、最終的にインク液滴として分離、液塊の合一化が可能な範囲であればよく、ここでは、インク流路213内(図4A参照)におけるインクの固有振動周期Tcと等しく定められる。
【0040】
ここでは、インク液滴の液量、すなわち、アクチュエーター211に印加される駆動波形電圧の回数によらず、インク液塊合一化後のインク液滴の速度が均一となるように各駆動波形電圧の振幅が調整され、最後の駆動波形電圧の印加タイミング(駆動動作の動作タイミング)がインクの吐出タイミング、すなわち、記録媒体Pへのインクの着弾タイミングに対して規定される(応じて定められる)。そして、インク液滴の液量を単位吐出量の2以上の所定数倍とする場合には、最後の駆動波形電圧信号の前に駆動波形電圧信号が追加されて合計で所定数の駆動波形電圧をアクチュエーター211に印加する。なお、ここでいう所定数倍とは、吐出されたインクによる画像の濃度に問題を生じない程度の誤差を有して良く、厳密な値に限られない。
【0041】
上述のように、ここでは、6段階の液量のインク液滴が吐出可能とされ、これに応じて駆動動作を行うことが可能な時間として、一滴のインクの吐出動作ごとに6周期時間(2以上の所定数回の駆動動作が可能な時間)が予め確保される。これにより、6周期時間に応じた均等な周期でインクの吐出動作が可能となる。ヘッド駆動部24では、各画素位置について記憶部43から入力された濃度階調データに応じて6周期時間の各タイミングにおける駆動動作の有無を出力選択部244において切り替えることで、対応する液量のインクを当該画素位置へと吐出、着弾させる。
【0042】
このとき、駆動波形電圧を2回アクチュエーター211に印加して単位吐出量の2倍の液量を吐出、着弾させる場合(動作回数が2の場合)には、最後の駆動波形電圧信号の出力タイミングに対し、2周期時間前(周期時間の2倍の時間前)に1回目(最初)の駆動波形電圧信号を出力させる駆動動作をヘッド駆動部24に行わせる(図3のB)。駆動波形電圧を3以上の所定数回アクチュエーター211に印加する場合(動作回数が3以上の場合)には、最後の駆動波形電圧信号の出力タイミングを含めて当該所定数回、周期時間ごとにそれぞれ駆動波形電圧信号を出力させる駆動動作をヘッド駆動部24に行わせる(図3のC~F)。1回の場合は、最後の駆動波形電圧信号の出力タイミングに駆動波形電圧信号を出力させる駆動動作をヘッド駆動部24に行わせればよい(図3のA)。
【0043】
図4A図4Gは、インク吐出時のノズル開口付近でのインク液面を模式的に示す図である。なお、これらの図におけるインク液塊やインク液滴のサイズとインク液柱のサイズとの関係は、説明上の見やすさのために実際の比率を正確に反映していない。
図4Aに示すように、駆動波形電圧における最初の電圧低下に伴って、アクチュエーター211が変形してインク流路213(圧力室)が膨張し、ノズル212の内部のインク液面(メニスカス面)がノズル開口よりも奥側へ引き込まれる。その後の電圧上昇(元の電圧への回復)に伴って、図4Bに示すように、ノズル212の内部のインク液面がノズル開口から飛び出す。ノズル212の開口から飛び出したインクは、この時点ではノズル212内のインクと分離せずにインク液柱としてつながったインク液塊となる。図3のAに示したように駆動波形電圧が1回印加される場合には、当該駆動波形電圧に応じた一つのインク液塊は、1回の駆動波形電圧信号の出力開始タイミングから3周期時間程度の経過後にノズル212内のインクから分離してインク液滴となる(図4C)。
【0044】
単位吐出量の2倍のインク液滴を吐出させる場合、図3のBに示したように、一回目の駆動波形電圧信号の出力開始から2周期時間の経過後に2回目の駆動波形電圧信号がアクチュエーター211に入力される。これに伴い、ノズル212の開口からは、2つのインク液塊が間隔を開けて連なったインク液柱が生じ(図4D)、当該2つのインク液塊がノズル212内のインクから分離することで、単位吐出量の2倍の液量のインク液滴が吐出される(図4E)。分離したインク液滴は、粘性(表面張力)などにより、より一体となって(すなわち、合一化して)飛翔、記録媒体P上に着弾する。インク液滴が分離したインク液柱の根元部分は、インクの粘性(残響振動によるノズル212内への引き込み力)に応じてノズル212の内部に引き戻される。
【0045】
このとき、最後(2回目)の駆動波形電圧信号に伴う振動には、残響振動が重畳される。この残響振動の振幅が大きいほど、最後(2回目)にノズル開口から飛び出すインク液塊の速度が大きくなる。サテライトの生じやすさは、最後のインク液塊の射出速度、すなわち、ノズル212内のインクから分離するまでのインク液塊の尾の長さに依存する。本実施形態のように、2周期時間経過後のタイミングで出力された駆動波形電圧信号がアクチュエーター211に入力された場合、1周期時間分の間隔に応じて残響振動が減衰しているので、この残響振動の減衰に応じてサテライトの発生が抑制される。
【0046】
単位吐出量の3倍のインク液滴を吐出させる場合、図3のCに示したように、3周期続けて3回の駆動波形電圧信号がアクチュエーター211に入力される。これに伴い、ノズル212の開口からは、3つのインク液塊が連なったインク液柱が生じ(図4F)、これらがノズル212内のインクと分離して単位吐出量の3倍の液量のインク液滴が吐出される(図4G)。
【0047】
単位吐出量の3倍のインク液滴を吐出させる場合には、最後のインク液塊の液量(すなわち、単位吐出量)は、先行のインク液塊の合計液量と比較して比率が小さい。これにより、上述のように単位吐出量の2倍の液量のインク液滴を吐出させる場合と比較して、最後のインク液塊は、より効果的に先行のインク液塊に引き寄せられる。他方で、ノズル212の側でのインクの振動も大きくなるので、当該ノズル212内への引き込み方向への力も大きくなる。したがって、最後のインク液塊の速度が多少上昇しても、サテライトを生じさせずにインク液滴のみが分離されやすくなる。
【0048】
単位吐出量の4倍以上の液量のインク液滴を吐出させる場合には、先行のインク液塊の合計液量がさらに増えていくので、より効果的にサテライトの発生が抑制される。
【0049】
単位吐出量の2倍以上のインク液滴を吐出させる場合、最後の駆動波形電圧信号以外の駆動波形電圧信号は、電圧の立ち下がり開始から立ち上がり開始までの期間Ta2が固有振動周期Tcの半分(Tc/2)とされる。また、最後の駆動波形電圧信号(最後の駆動動作)では、電圧の立下り開始(第1動作の開始タイミング)から立ち上がり開始(第2動作の開始タイミング)までの時間Ta1が固有振動周期Tcの半分よりも長く、0.55~0.70Tc(すなわち、液面の振動に係る伝播時間を示すAcoustic Length:AL(固有振動周期Tcの半分と等しい)の1.1~1.4倍)とされる。これは、駆動波形電圧の印加タイミング(駆動動作)に対する実際のインクの振動(変位)の位相遅れに対応する大きさ(遅延時間)だけ電圧の立ち上がり開始を遅延させたものに対応する。すなわち、最後の駆動波形電圧信号は、最後のインク押し出しのタイミングのみ、より実際のインク振動の位相に合わせるように立ち下がり開始から立ち上がり開始までの時間長が調整される。
【0050】
[変形例]
次に、上記実施の形態のインクジェット記録装置1においてアクチュエーター211の駆動時に出力される電圧信号の変形例を示す。
図5は、アクチュエーター211に対して印加される電圧のパターンの変形例を示す図である。
【0051】
図5のA~Fに示す本変形例の各駆動波形電圧パターンでは、図3のA~Fの各駆動波形電圧パターンにおいて、ヘッド駆動部24による最後の駆動波形電圧信号の出力後に、更に、残響振動の抑制波形電圧信号が出力される。これにより、アクチュエーター211は、残響振動を抑制する変形をインク流路213(圧力室)に生じさせる抑制動作を行う。この点以外は同一である。
【0052】
この抑制波形電圧信号は、最後の駆動波形電圧の印加後にインク流路213内のインクに残る残響振動を速やかに減衰させるためのものである。したがって、抑制波形電圧の振幅は、新たにインクを吐出させない(インク液滴を生じさせない)程度に小さく定められ、かつインクの残響振動の位相と逆位相又はこれに近いものとされる。抑制波形電圧の立ち下がりから立ち上がりまでの時間は、立ち下がり及び立ち上がりが各々残響振動を抑制する位相となるタイミング同士で最短の時間程度に定められればよい。
【0053】
以上のように、本実施形態のインクジェット記録装置1は、インクを吐出するノズル212と、所定の駆動動作によりノズル212に連通する圧力室を含むインク流路213においてインクに圧力変化を与えるアクチュエーター211と、アクチュエーター211を動作させるヘッド駆動部24と、を備える。ヘッド駆動部24は、駆動動作をアクチュエーター211により所定の周期時間ごとのタイミングで2以上の所定数回、ここでは、最大6回行わせることが可能であり、一連の駆動動作の動作回数に応じた液量のインク液滴をノズル212から吐出させ、動作回数が2の場合には、2回の駆動動作を周期時間の2倍の間隔を開けて行わせる。
このように、複数回の駆動動作により各々インク液塊をノズル212から飛び出させて合一化させ、駆動動作の回数に応じた液量のインク液滴を吐出させる場合において、2回目以降の駆動動作には、それ以前の駆動動作に係る残響振動が重畳することになる。このとき、特に、駆動動作が2回の場合、1回目の駆動動作と2回目の駆動動作の間隔を1周期時間多く離隔させることで、残響振動を減衰させ、2回目の駆動動作に係るインク液塊の射出速度を低下させて、サテライトの発生を抑制することができる。これにより、インクジェット記録装置1では、サテライトの発生による記録の質の低下を低減させることができる。
【0054】
また、ヘッド駆動部24は、駆動動作の回数が3以上の場合には、当該回数の駆動動作をアクチュエーター211に周期時間ごとに行わせる。上述のような残響振動の重畳による最後のインク液塊の射出速度の上昇は、3回以上の駆動動作の場合にも生じ得るが、先行のインク液塊のインク液量が増加するに従って最後のインク液塊がより効果的に先行液塊に合一化されてサテライトが生じ難くなっていく。したがって、インクジェット記録装置1では、3回以上の場合には必要以上に駆動動作の間隔を開けないことで、インクの吐出周波数の低下を防ぎ、すなわち、画像記録速度の低下を抑えることができる。
【0055】
また、ヘッド駆動部24は、一連の駆動動作のうち最後の駆動動作の動作タイミングをインクの吐出タイミングに応じて定める。インク液滴の飛翔速度をそろえてこれに応じた統一タイミングでインク液滴の吐出が行われるように駆動動作のタイミングを定めることで、容易に記録媒体P上の適正な位置にインク液滴を着弾させることができる。これにより、インクジェット記録装置1では、記録の質を適切に維持することができる。
【0056】
また、周期時間は、インク流路213内におけるインクの固有振動周期Tcと等しく定められる。これにより、本発明のインクジェット記録装置1において、残響振動の影響を適切かつ容易に制御し、サテライトの発生を抑制することで、記録の質を維持向上させることができる。
【0057】
また、駆動動作は、インク流路の容積を増大させる第1動作と、増大した容積を縮小させる第2動作とを含み、一連の駆動動作のうち最後の駆動動作において、第1動作の開始タイミングと第2動作の開始タイミングとの間の時間は、当該駆動動作に対するインク流路213内のインクの変位に係る遅延時間に対して規定される。このように、最後の駆動動作によるインクの押し出しタイミングをインクの変位動作のタイミングとそろえることで、インクジェット記録装置1では、より効果的にインクに運動量を与えてインク液塊をインク液柱から分離させて飛翔、記録媒体P上に着弾させることができる。
【0058】
また、この遅延時間は、インク流路213内におけるインクの固有振動周期Tcの0.55倍以上0.70倍以下(すなわち、ALの1.1倍以上1.4倍以下)である。遅延時間は、インクの粘性やノズルのサイズなどによって定まるが、複数のインク液塊に基づく合一化されたインク液滴を適切に吐出させることのできる粘性やノズルのサイズに応じた範囲でこの遅延時間を適宜定めることで、インクジェット記録装置1では、より効果的にインクに運動量を与えてインク液塊をインク液柱から分離させて飛翔、記録媒体P上に着弾させることができる。
【0059】
また、ヘッド駆動部24は、一連の駆動動作ののちにインク流路213内のインクの圧力変化を抑制する所定の抑制動作をアクチュエーター211により行わせる。すなわち、ヘッド駆動部24は、駆動波形電圧信号の後に、抑制波形電圧信号を出力することができる。これにより、全てのインク液塊をノズル開口から射出後、残響振動により不要なインクをノズル開口から外へ出さないことで、サテライトの発生要因を低減させる。また、次のインク液滴の吐出に係る駆動動作の開始前に残響振動を効果的に減衰させることができるので、異なるインク液滴の吐出に残響振動の影響を残さない。
【0060】
なお、本発明は、上記実施の形態に限られるものではなく、様々な変更が可能である。
例えば、上記実施の形態では、単位吐出量の3倍以上のインク液滴を吐出させる場合には、駆動動作を周期時間ごとに倍率に応じた回数続けて行わせることとしたが、一滴のインク液滴を吐出する動作のために設定された最大時間(ここでは、6周期時間)の範囲内で、途中、特に最後のインク液塊の吐出前に駆動動作を行わない周期を挿入させることとしてもよい。これにより、単位吐出量の2倍のインク液滴を吐出させる場合と同様に、最後の駆動動作に重畳する残響振動を抑制することができる。
【0061】
また、上記実施の形態では、インク液滴の液量によらず同一の速度で吐出させることを前提として、最後のインク液塊に係る駆動動作のタイミングをインク吐出タイミングに対して規定することとしたが、インク液滴の速度に応じて吐出タイミングをずらすように駆動動作のタイミングを各々定めてもよい。
【0062】
また、上記実施の形態では、インク流路におけるインクの固有振動周期に合わせて周期時間を設定したが、各インク液塊が適切な液量及び速度でノズル開口から飛び出すことが可能であり、かつ全てのインク液塊が単一のインク液滴として合一して吐出可能な範囲において固有振動周期からずれていてもよい。
【0063】
また、上記実施の形態では、インク流路213(圧力室)の容積を増大させる負の電圧へ変化する立下りと、縮小したインク流路213の容積を戻す当該負の電圧から基準となる電圧への変化の立ち上がりとが対称であり、かつ一次線形変化(直線変化)する台形波状の駆動波形電圧信号を例に挙げて説明したが、駆動波形はこれに限られるものではない。インク流路213(圧力室)のインクに適切な圧力変化を与えて多段階のインク液量のインク液滴を吐出可能な駆動波形であれば、電圧の立下りと立ち上がりが非対称であってもよいし、電圧変化が一次線形変化でなくてもよい。
【0064】
また、上記実施の形態では、最後の駆動動作に係る電圧の立ち上がりタイミングを他の駆動動作に係る立下りタイミングから立ち上がりタイミングまでの時間と異なるタイミングとしたが、このように異なるタイミングでなくてもよい。
【0065】
また、上記実施の形態では、最大で単位吐出量の6倍の液量のインク液滴を吐出可能としたが、インク液滴の最大液量が単位吐出量の2倍以上の任意の場合について本発明を適用することができる。
【0066】
また、上記実施の形態では、ヘッド駆動部24において記録対象画像データの各画素位置に係る濃度階調データに応じて各周期時間における駆動動作の有無を切り替えることとしたが、CPU41などが濃度階調データに応じて駆動動作の有無を切り替える制御動作を行ってもよい。
【0067】
また、上記実施の形態では、アクチュエーター211として圧電素子を例に挙げて説明したが、同様に、電磁気や熱などを空間変形に変換してインク流路213(圧力室)内のインクに対する圧力変化を及ぼすことが可能な構成であれば、これに限られない。
【0068】
また、上記実施の形態では、画像記録に用いられるCMYK4色のインクを例に挙げて説明したが、吐出されるインクは、画像をコーティング(被覆)するための透明インクや、着弾後に適宜な形状で凝固する構造を形成記録するための各種インク(液体)であってもよい。
その他、上記実施の形態で示した構成、動作内容や動作手順などの具体的な細部は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において適宜変更可能である。
【産業上の利用可能性】
【0069】
この発明は、インクジェット記録装置に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1 インクジェット記録装置
10 搬送部
11 駆動ローラー
12 従動ローラー
13 搬送ベルト
15 搬送駆動部
20 記録部
21 記録ヘッド
211 アクチュエーター
212 ノズル
213 インク流路
22 キャリッジ
23 キャリッジレール
24 ヘッド駆動部
241 駆動波形信号出力部
242 アナログ変換部
243 駆動回路
244 出力選択部
25 走査駆動部
40 制御部
41 CPU
42 RAM
43 記憶部
71 操作受付&表示部
72 通信部
90 バス
図1
図2
図3
図4A
図4B
図4C
図4D
図4E
図4F
図4G
図5