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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】スタッドピン及びそれを備えたタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 11/16 20060101AFI20220412BHJP
【FI】
B60C11/16 A
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2020128171
(22)【出願日】2020-07-29
(65)【公開番号】P2022025387
(43)【公開日】2022-02-10
【審査請求日】2021-05-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】芝井 孝志
【審査官】橋本 有佳
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第110435364(CN,A)
【文献】特開2013-023111(JP,A)
【文献】特開昭52-009206(JP,A)
【文献】特開2010-095212(JP,A)
【文献】特開2018-069818(JP,A)
【文献】特開2018-187960(JP,A)
【文献】特開平03-054005(JP,A)
【文献】国際公開第2015/087850(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/158799(WO,A1)
【文献】特開昭63-227405(JP,A)
【文献】特開2016-078482(JP,A)
【文献】特表2011-521844(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤのトレッド部に埋設されるボディ部と、該ボディ部の先端側から突出するチップ部と、前記ボディ部の基端側に配置されたフランジ部とを有するスタッドピンにおいて、
前記ボディ部はその中心軸と直交する平面における断面積が該ボディ部の中心軸に沿って変化しており、前記ボディ部の最大幅位置での断面積Saと前記ボディ部の最先端位置での断面積Sbとが0.30≦Sb/Sa≦0.80の関係を満足すると共に、
前記チップ部の先端面は曲面形状を有する膨出部と該膨出部の周囲に配置された平坦部とを有することを特徴とするスタッドピン。
【請求項2】
前記ボディ部の外周面に、前記ボディ部の中心軸に向かって窪んだ少なくとも1つの凹部と該凹部の両側に位置する一対の凸部とが形成されていることを特徴とする請求項1に記載のスタッドピン。
【請求項3】
前記ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、前記凸部が前記長手方向と直交する短手方向に向かって凸となるように配置されていることを特徴とする請求項2に記載のスタッドピン。
【請求項4】
前記ボディ部の最大幅位置での最大幅WB1と前記チップ部の最大幅WP1と前記ボディ部の最先端位置での最大幅WC1がWB1>WC1>WP1、0.30≦WP1/WB1≦0.60、0.50≦WC1/WB1≦0.80の関係を満足することを特徴とする請求項1~3のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項5】
前記ボディ部の断面積が最大となる断面を含む平面をAとし、前記平面Aよりも先端側であって前記ボディ部の断面積が最少となる断面を含む平面をBとしたとき、前記ボディ部は、前記平面Aにおける前記ボディ部の輪郭線上の任意の点aと前記ボディ部の中心軸との距離Laと、前記平面Bにおける前記ボディ部の輪郭線上の点であって前記点aに対応する位置にある点bと前記ボディ部の中心軸との距離Lbとが0≦(La-Lb)/La≦0.1となる垂直領域を有することを特徴とする請求項1~4のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項6】
前記ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、前記垂直領域が前記長手方向と直交する短手方向に配置されていることを特徴とする請求項5に記載のスタッドピン。
【請求項7】
前記ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、前記長手方向と直交する短手方向に沿って測定される前記ボディ部の寸法の最小値WB2及び最大値WB3が1.05≦WB3/WB2≦1.30の関係を満足することを特徴とする請求項1~6のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項8】
前記ボディ部は前記最大幅位置と前記最先端位置との間に該ボディ部の中心軸と直交する平面に対する傾斜角度が異なる複数の傾斜面を有することを特徴とする請求項1~7のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項9】
前記ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、前記ボディ部の外周面に該ボディ部の中心軸に向かって窪んだ2つの凹部と各凹部の両側に位置する一対の凸部とが形成され、前記凸部が前記長手方向と直交する短手方向に向かって凸となるように配置され、前記ボディ部の前記最大幅位置と前記最先端位置との間に複数の傾斜面が形成され、前記複数の傾斜面が前記短手方向に沿って配置されていることを特徴とする請求項1~8のいずれかに記載のスタッドピン。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載されたスタッドピンがトレッド部に配設されていることを特徴とするタイヤ。
【請求項11】
前記ボディ部は前記最大幅位置と前記最先端位置との間に該ボディ部の中心軸と直交する平面に対する傾斜角度が異なる複数の傾斜面を有し、踏み込み側に向かって傾斜する傾斜面の傾斜角度が蹴り出し側に向かって傾斜する傾斜面の傾斜角度よりも大きいことを特徴とする請求項10に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、スタッドピン及びそれを備えたタイヤに関し、更に詳しくは、ノイズ性能及び耐ピン抜け性の改善を可能にしたスタッドピン及びそれを備えたタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
氷雪路面上での走行性能を改善した空気入りタイヤにおいて、トレッド部にスタッドピンが打ち込まれたスタッドタイヤが知られている(例えば、特許文献1参照)。スタッドピンは、タイヤのトレッド部に埋設されるボディ部と、該ボディ部の先端側から突出していて路面と接触するチップ部と、ボディ部の基端側に配置されたフランジ部とを有している。そして、スタッドタイヤの走行時には、主としてスタッドピンのチップ部が氷路面と接触し、そのエッジ効果を発揮することにより、スタッドレスタイヤに比べて優れた氷上性能を発揮することができる。
【0003】
しかしながら、スタッドピンは金属化合物から構成されるため、スタッドタイヤはスタッドレスタイヤに比べてノイズ性能が劣っている。その一方で、スタッドピンを備えていないスタッドレスタイヤは摩耗の進行に伴ってノイズ性能が悪化するが、スタッドタイヤはスタッドピンの摩耗に伴ってノイズ性能が良化する傾向がある。そのため、スタッドタイヤの新品時におけるノイズ性能を改善することが強く求められている。また、スタッドタイヤでは、走行時にスタッドピンが外れることがあり、耐ピン抜け性を改善することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開第WO2018/078941号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を改善することを可能にしたスタッドピン及びそれを備えたタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明のスタッドピンは、タイヤのトレッド部に埋設されるボディ部と、該ボディ部の先端側から突出するチップ部と、前記ボディ部の基端側に配置されたフランジ部とを有するスタッドピンにおいて、
前記ボディ部はその中心軸と直交する平面における断面積が該ボディ部の中心軸に沿って変化しており、前記ボディ部の最大幅位置での断面積Saと前記ボディ部の最先端位置での断面積Sbとが0.30≦Sb/Sa≦0.80の関係を満足すると共に、
前記チップ部の先端面は曲面形状を有する膨出部と該膨出部の周囲に配置された平坦部とを有することを特徴とするものである。
【0007】
また、上記目的を達成するための本発明のタイヤは、上述のスタッドピンがトレッド部に配設されていることを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明では、スタッドピンのボディ部はその中心軸と直交する平面における断面積が該ボディ部の中心軸に沿って変化しており、ボディ部の最大幅位置での断面積Saとボディ部の最先端位置での断面積Sbとが0.30≦Sb/Sa≦0.80の関係を満足するので、スタッドピンがタイヤのトレッド部に配設された際に、新品時におけるスタッドピンのボディ部と路面との接触を抑制し、ノイズ性能を改善することができる。また、Sb/Saの値を上記範囲内に設定した場合、トレッド部に植え込まれたスタッドピンが走行時に外れ難くなるため、耐ピン抜け性を改善することが可能になり、しかもスタッドピンの打ち込み精度を良好に維持することができる。
【0009】
本発明において、ボディ部の外周面に、ボディ部の中心軸に向かって窪んだ少なくとも1つの凹部と該凹部の両側に位置する一対の凸部とが形成されていることが好ましい。この場合、ボディ部の外周面に形成された凹部がトレッド部の植え込み穴に対して密着した際にボディ部とゴムとの接触面積が大きくなるため、スタッドピンが良好に保持される。更に、凹部の両側に位置する一対の凸部ではボディ部とゴムとの接触圧が高くなるため、スタッドピンが良好に保持される。これにより、耐ピン抜け性を改善することができる。また、ボディ部の外周面に凹部と凸部を設けた場合、ボディ部が路面に対して同時に接触する部分の面積が減少するため、このような構造はノイズ性能の改善にも寄与する。特に、凹部と凸部をタイヤ周方向(車両の進行方向)に向けて配置した場合、ノイズ性能の改善効果が顕著に得られる。
【0010】
ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、上記凸部が長手方向と直交する短手方向に向かって凸となるように配置されていることが好ましい。つまり、凹部がボディ部の長手方向に沿って延在するので、ボディ部とゴムとの接触面積を効果的に増加させ、耐ピン抜け性を改善することができる。特に、ボディ部の短手方向をタイヤ周方向(車両の進行方向)と一致させた場合、ボディ部の路面との接触端線が凹部により湾曲するため、ノイズ性能の改善効果が顕著に得られる。
【0011】
ボディ部の最大幅位置での最大幅WB1とチップ部の最大幅WP1とボディ部の最先端位置での最大幅WC1はWB1>WC1>WP1、0.30≦WP1/WB1≦0.60、0.50≦WC1/WB1≦0.80の関係を満足することが好ましい。ボディ部の最大幅位置での最大幅WB1とチップ部の最大幅WP1とボディ部の最先端位置での最大幅WC1を上記関係にすることにより、氷上性能を良好に維持しながら、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を改善することができる。
【0012】
ボディ部の断面積が最大となる断面を含む平面をAとし、平面Aよりも先端側であってボディ部の断面積が最少となる断面を含む平面をBとしたとき、ボディ部は、平面Aにおけるボディ部の輪郭線上の任意の点aとボディ部の中心軸との距離Laと、平面Bにおけるボディ部の輪郭線上の点であって点aに対応する位置にある点bとボディ部の中心軸との距離Lbとが0≦(La-Lb)/La≦0.1となる垂直領域を有することが好ましい。このような垂直領域を設けた場合、ボディ部の中心軸に沿って垂直領域に対してゴムが一様に接触するようになるため、耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。
【0013】
また、ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、垂直領域が長手方向と直交する短手方向に配置されていることが好ましい。この場合、Sb/Saの設定に基づいてボディ部の長手方向には傾斜面が形成され、ボディ部の短手方向には傾斜面が存在しない構造となる。このようにボディ部の長手方向には傾斜面が存在することで軽量化やノイズ性能を効果的に改善し、ボディ部の短手方向に垂直領域が存在することで耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。
【0014】
ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、長手方向と直交する短手方向に沿って測定されるボディ部の寸法の最小値WB2及び最大値WB3が1.05≦WB3/WB2≦1.30の関係を満足することが好ましい。これにより、耐ピン抜け性とノイズ性能をバランス良く改善することができる。
【0015】
ボディ部は最大幅位置と最先端位置との間に該ボディ部の中心軸と直交する平面に対する傾斜角度が異なる複数の傾斜面を有することが好ましい。ボディ部の最大幅位置と最先端位置との間に傾斜角度が異なる複数の傾斜面を設けることにより、ボディ部の路面に対して同時に接触する部分の面積が減少するため、ノイズ性能を効果的に改善することができる。
【0016】
また、ボディ部は中心軸方向に見たときの形状が長手方向を有し、ボディ部の外周面に該ボディ部の中心軸に向かって窪んだ2つの凹部と各凹部の両側に位置する一対の凸部とが形成され、これら凸部が長手方向と直交する短手方向に向かって凸となるように配置され、ボディ部の最大幅位置と最先端位置との間に複数の傾斜面が形成され、複数の傾斜面が短手方向に沿って配置されていることが好ましい。このような構造を採用することにより、耐ピン抜け性とノイズ性能をバランス良く改善することができる。
【0017】
チップ部の先端面は曲面形状を有する膨出部と該膨出部の周囲に配置された平坦部とを有することが好ましい。チップ部の先端面に曲面形状を有する膨出部を設けることにより、路面接触時のノイズを低減し、更に平坦部を組み合わせることにより、ノイズの周波数の分散効果が得られるので、ノイズ性能を効果的に改善することができる。
【0018】
上述のように構成されるスタッドピンがトレッド部に配設されたタイヤによれば、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を従来よりも改善することができる。
【0019】
本発明のタイヤにおいて、ボディ部は最大幅位置と最先端位置との間に該ボディ部の中心軸と直交する平面に対する傾斜角度が異なる複数の傾斜面を有し、踏み込み側に向かって傾斜する傾斜面の傾斜角度が蹴り出し側に向かって傾斜する傾斜面の傾斜角度よりも大きいことが好ましい。このような配置を採用することにより、路面接触時のノイズを低減すると共に、ノイズの周波数の分散効果が高まるので、ノイズ性能を大幅に改善することができる。
【0020】
本発明のタイヤは、空気入りタイヤであることが好ましいが、非空気式タイヤであっても良い。空気入りタイヤの場合、その内部には空気、窒素等の不活性ガス又はその他の気体を充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態からなるスタッドピン(参考例)を示す斜視図である。
図2図1のスタッドピンを示す平面図である。
図3図1のスタッドピンを示す側面図である。
図4】本発明の他の実施形態からなるスタッドピン(参考例)を示す斜視図である。
図5図4のスタッドピンを示す平面図である。
図6図4のスタッドピンを示す側面図である。
図7】本発明の更に他の実施形態からなるスタッドピンを示す平面図である。
図8図7のスタッドピンを示す側面図である。
図9】本発明の更に他の実施形態からなるスタッドピン(参考例)を示す平面図である。
図10図9のスタッドピンを示す側面図である。
図11】本発明の空気入りタイヤの一例を示す子午線断面図である。
図12】空気入りタイヤのトレッド部に配設された状態のスタッドピン(参考例)を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。図1図3は本発明の実施形態からなるスタッドピンを示すものである。
【0023】
図1図3に示すように、本実施形態のスタッドピンPは、タイヤのトレッド部に埋設されるボディ部10と、該ボディ部10の先端側から突出していて路面と接触するチップ部11と、ボディ部10の基端側に配置されたフランジ部12を備えている。ボディ部10は、その中心軸Xに沿って延長し、その延長方向の中腹部分において最も膨らんだ構造を有している。ボディ部10の外周面には、ボディ部10の中心軸Xに向かって湾曲しながら窪んだ2つの凹部13,13が形成され、各凹部13の両側の位置にはそれぞれ一対の凸部14,14が形成されている。また、ボディ部10及びフランジ部12は同一の金属材料から一体的に成形されている。チップ部11を構成する金属材料はボディ部10及びフランジ部12を構成する金属材料よりも高硬度であり、チップ部11はボディ部10に対して一体的に加工されている。
【0024】
上記スタッドピンPにおいて、ボディ部10はその中心軸Xと直交する平面における断面積が該ボディ部10の中心軸Xに沿って変化しており、ボディ部10の最大幅位置での断面積Saとボディ部10の最先端位置での断面積Sbとが0.30≦Sb/Sa≦0.80の関係を満足している。ボディ部10の最大幅位置とは、ボディ部10において中心軸Xと直交する方向の寸法が最大となる位置である。一方、ボディ部10の最先端位置とは、ボディ部10においてチップ部11側の頂面の位置である。ボディ部10は、図2に示すように、最大幅位置において最大幅WB1を有する一方で、最先端位置において最大幅WC1を有している。そして、図3に示すように、ボディ部10の最大幅位置に中心軸Xと直交する平面Aを規定し、ボディ部10の最先端位置に中心軸Xと直交する平面Bを規定したとき、平面Aにおけるボディ部10の断面積Saと平面Bにおけるボディ部10の断面積Sbとが上記関係を満たしている。その結果、ボディ部10において、最大幅位置と最先端位置との間には、ボディ部10の中心軸Xと直交する平面A,Bに対して傾斜する傾斜面15が形成されている。言い換えれば、ボディ部10はその中心軸Xと直交する平面における断面積が最大幅位置から最先端位置に向かって徐々に減少している。図2において、断面積Saはボディ部10の輪郭線Raにより囲まれた領域の面積に相当し、断面積Sbはボディ部10の輪郭線Rbにより囲まれた領域の面積に相当する。
【0025】
このようにスタッドピンPにおいて、ボディ部10はその中心軸Xと直交する平面における断面積が該ボディ部10の中心軸Xに沿って変化しており、ボディ部10の最大幅位置での断面積Saとボディ部10の最先端位置での断面積Sbとが0.30≦Sb/Sa≦0.80の関係を満足するので、スタッドピンPがタイヤのトレッド部に配設された際に、新品時におけるスタッドピンPのボディ部10と路面との接触を抑制し、ノイズ性能を改善することができる。また、Sb/Saの値を上記範囲内に設定した場合、トレッド部に植え込まれたスタッドピンPが走行時に外れ難くなるため、耐ピン抜け性を改善することが可能になり、しかもスタッドピンの打ち込み精度を良好に維持することができる。
【0026】
ここで、Sb/Saの値が0.30よりも小さいとスタッドピンPの打ち込み精度が極端に悪化し、逆に0.80よりも大きいとノイズ性能及び耐ピン抜け性の改善効果が得られない。特に、ボディ部10の最大幅位置での断面積Saとボディ部10の最先端位置での断面積Sbとは0.40≦Sb/Sa≦0.65の関係を満足することが望ましい。
【0027】
スタッドピンPにおいて、ボディ部10の外周面には、ボディ部10の中心軸Xに向かって窪んだ少なくとも1つの凹部13と該凹部13の両側に位置する一対の凸部14,14とが形成されている。この場合、ボディ部10の外周面に形成された凹部13がトレッド部の植え込み穴に対して密着した際にボディ部10とゴムとの接触面積が大きくなるため、スタッドピンPが良好に保持される。その一方で、凹部13の両側に位置する一対の凸部14,14ではボディ部10とゴムとの接触圧が高くなるため、スタッドピンPが良好に保持される。これにより、耐ピン抜け性を改善することができる。また、ボディ部10の外周面に凹部13と凸部14を設けた場合、ボディ部10が路面に対して同時に接触する部分の面積が減少するため、このような構造はノイズ性能の改善にも寄与する。特に、凹部13と凸部14をタイヤ周方向(車両の進行方向)に向けて配置した場合、ノイズ性能の改善効果が顕著に得られる。なお、ボディ部10の外周面における凹部13の設置数は1つでも、2つでも、それ以上であっても良い。
【0028】
ボディ部10の中心軸Xの方向に見たときのボディ部10の形状(図2参照)が長手方向Lを有する場合、凸部14は長手方向Lと直交する短手方向Sに向かって凸となるように配置されていると良い。つまり、凹部13がボディ部10の長手方向Lに沿って延在するので、ボディ部10とゴムとの接触面積を効果的に増加させ、耐ピン抜け性を改善することができる。特に、ボディ部10の短手方向Sをタイヤ周方向(車両の進行方向)と一致させた場合、ボディ部10の路面との接触端線が凹部13により湾曲するため、ノイズ性能の改善効果が顕著に得られる。
【0029】
スタッドピンPにおいて、ボディ部10の最大幅位置での最大幅WB1とチップ部11の最大幅WP1とボディ部10の最先端位置での最大幅WC1はWB1>WC1>WP1、0.30≦WP1/WB1≦0.60、0.50≦WC1/WB1≦0.80の関係を満足すると良い。ボディ部10の最大幅位置での最大幅WB1とチップ部11の最大幅WP1とボディ部10の最先端位置での最大幅WC1を上記関係にすることにより、氷上性能を良好に維持しながら、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を改善することができる。
【0030】
ここで、WP1/WB1の値が0.30よりも小さいと氷上性能が悪化し、逆に0.60よりも大きいとノイズ性能の改善効果が低下する。また、WC1/WB1の値が0.50よりも小さいとスタッドピンPの打ち込み精度が悪化し、逆に0.80よりも大きいとノイズ性能及び耐ピン抜け性の改善効果が低下する。
【0031】
スタッドピンPにおいて、ボディ部10の断面積が最大となる断面を含む平面をAとし、平面Aよりも先端側であってボディ部10の断面積が最少となる断面を含む平面をBとしたとき、ボディ部10は、平面Aにおけるボディ部10の輪郭線上の任意の点aとボディ部10の中心軸Xとの距離Laと、平面Bにおけるボディ部10の輪郭線上の点であって点aに対応する位置にある点bとボディ部10の中心軸Xとの距離Lbとが0≦(La-Lb)/La≦0.1となる垂直領域Vを有していると良い。点bが点aに対応する位置にあるとは、中心軸Xを中心とする点bの軸廻りの位相と点aの軸廻りの位相とが一致することを意味する。
【0032】
このような垂直領域Vはボディ部10の最先端位置からボディ部10の基端側に向かって中心軸Xに対して概ね平行に延在する壁面を構成し、傾斜面15を実質的に含まない領域である。垂直領域Vを設けた場合、ボディ部10中心軸Xに沿って垂直領域Vに対してゴムが一様に接触するようになるため、耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。ここで、(La-Lb)/Laの値が0.1よりも大きい領域では耐ピン抜け性の改善効果が低下する。
【0033】
また、ボディ部10の中心軸Xの方向に見たときのボディ部10の形状が長手方向Lを有する場合、垂直領域Vは長手方向Lと直交する短手方向Sに配置されていると良い。この場合、Sb/Saの設定に基づいてボディ部10の長手方向Lには傾斜面15が形成されるが、ボディ部10の短手方向Sには傾斜面15が存在しない構造となる。このようにボディ部10の長手方向Lには傾斜面15が存在することで軽量化やノイズ性能を効果的に改善することができ、ボディ部10の短手方向Sに垂直領域Vが存在することで耐ピン抜け性を効果的に改善することができる。
【0034】
スタッドピンPにおいて、ボディ部10の中心軸Xの方向に見たときのボディ部10の形状が長手方向Lを有する場合、図2に示すように、長手方向Lと直交する短手方向Sに沿って測定されるボディ部10の寸法の最小値WB2及び最大値WB3が1.05≦WB3/WB2≦1.30の関係を満足すると良い。これにより、耐ピン抜け性とノイズ性能をバランス良く改善することができる。
【0035】
ここで、WB3/WB2の値が1.05よりも小さいと耐ピン抜け性及びノイズ性能の改善効果が低下し、逆に1.30よりも大きいとボディ部10の形状が歪になるためスタッドピンPの安定した打ち込み作業が困難になる。特に、長手方向Lと直交する短手方向Sに沿って測定されるボディ部10の寸法の最小値WB2及び最大値WB3は1.10≦WB3/WB2≦1.25の関係を満足することが望ましい。
【0036】
図4図6は本発明の他の実施形態からなるスタッドピンを示すものである。図4図6において、図1図3と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。本実施形態では、ボディ部10の最大幅位置と最先端位置との間に、ボディ部10の中心軸Xと直交する平面A,Bに対して傾斜する複数の傾斜面15が形成されている。ボディ部10の中心軸Xと直交する平面A,Bに対する傾斜面15の傾斜角度θは例えば30°~65°の範囲に設定されている。複数の傾斜面15の傾斜角度θは同一であっても良く、互いに異なっていても良い。
【0037】
例えば、傾斜面15a~15fの傾斜角度θa~θfを想定した場合、これら全てを同一の値に設定することができる。他の形態として、ボディ部10の長手方向Lの一方側に配置された傾斜面15a~15cの傾斜角度θa~θcとボディ部10の長手方向Lの他方側に配置された傾斜面15d~15fの傾斜角度θd~θfとを互いに異ならせたり、ボディ部10の短手方向Sの中央側に配置された傾斜面15b,15eの傾斜角度θb,θeとボディ部10の短手方向Sの両端側に配置された傾斜面15a,15c,15d,15fの傾斜角度θa,θc,θd,θfとを互いに異ならせたり、ボディ部10の短手方向Sの一方側に配置された傾斜面15a,15dの傾斜角度θa,θdとボディ部10の短手方向Sの他方側に配置された傾斜面15c,15fの傾斜角度θc,θfとを互いに異ならせたり、ボディ部10の一方の対角線上に配置された傾斜面15a,15fの傾斜角度θa,θfとボディ部10の他方の対角線上に配置された傾斜面15c,15dの傾斜角度θc,θdとを互いに異ならせたりすることができる。
【0038】
特に、ボディ部10は最大幅位置と最先端位置との間に該ボディ部10の中心軸Xと直交する平面A,Bに対する傾斜角度θが異なる複数の傾斜面15を設けた場合、ボディ部10の路面に対して同時に接触する部分の面積が減少するため、ノイズ性能を効果的に改善することができる。
【0039】
また、図4図6の実施形態では、ボディ部10は中心軸Xの方向に見たときの形状が長手方向Lを有し、ボディ部10の外周面に該ボディ部10の中心軸Xに向かって窪んだ2つの凹部13と各凹部13の両側に位置する一対の凸部14,14とが形成され、これら凸部14が長手方向Lと直交する短手方向Sに向かって凸となるように配置され、ボディ部10の最大幅位置と最先端位置との間に複数の傾斜面15が形成され、複数の傾斜面15が短手方向Sに沿って配置されているが、このような構造を採用することにより、耐ピン抜け性とノイズ性能をバランス良く改善することができる。
【0040】
図7図8は本発明の更に他の実施形態からなるスタッドピンを示すものである。図7図8において、図1図6と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。本実施形態において、チップ部11の先端面は曲面形状を有する2つの膨出部16と該膨出部16の周囲に配置された平坦部17とを有している。チップ部11の先端面に曲面形状を有する膨出部16を設けることにより、路面接触時のノイズを低減し、更に平坦部17を組み合わせることにより、ノイズの周波数の分散効果が得られるので、ノイズ性能を効果的に改善することができる。チップ部11の平坦部17に対する膨出部16の突出量は特に限定されるものではないが、例えば0.1mm~0.3mmの範囲に設定すると良い。
【0041】
上述した図1図8の各実施形態においては、チップ部11がボディ部10の長手方向Lに沿って長尺となる形状を有しているが、チップ部11の形状は特に限定されるものではない。しかしながら、チップ部11がボディ部10の長手方向Lに沿って長尺となる形状は、氷上性能、ノイズ性能及び耐ピン抜け性の観点からスタッドピンPにおいて好適である。
【0042】
図9図10は本発明の更に他の実施形態からなるスタッドピンを示すものである。図9図10において、図1図6と同一物には同一符号を付してその部分の詳細な説明は省略する。本実施形態において、チップ部11は円柱状の構造を有している。このような円柱状のチップ部11を備えたスタッドピンPにおいても、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を改善することができる。
【0043】
図11は本発明の空気入りタイヤの一例を示すものである。図11に示すように、空気入りタイヤTは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部21と、該トレッド部21の両側に配置された一対のサイドウォール部22,22と、これらサイドウォール部22のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部23,23とを備えている。
【0044】
一対のビード部23,23間にはカーカス層24が装架されている。このカーカス層24は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部23に配置されたビードコア25の廻りにタイヤ内側から外側へ折り返されている。ビードコア25の外周上には断面三角形状のゴム組成物からなるビードフィラー26が配置されている。
【0045】
一方、トレッド部21におけるカーカス層24の外周側には複数層のベルト層27が埋設されている。これらベルト層27はタイヤ周方向に対して傾斜する複数本の補強コードを含み、かつ層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。ベルト層27において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。ベルト層27の補強コードとしては、スチールコードが好ましく使用される。ベルト層27の外周側には、高速耐久性の向上を目的として、補強コードをタイヤ周方向に対して例えば5°以下の角度で配列してなる少なくとも1層のベルトカバー層28が配置されている。ベルトカバー層28の補強コードとしては、ナイロンやアラミド等の有機繊維コードが好ましく使用される。
【0046】
上記空気入りタイヤTにおいて、トレッド部21には、タイヤ周方向に延びる周方向溝31が形成されており、これら周方向溝31により複数の陸部32が区画されている。トレッド部21の陸部32には、スタッドピンPを植え込むための複数の植え込み穴33が形成されている。スタッドピンPは、そのボディ部10が植え込み穴33に挿入され、チップ部11がトレッド部21から突き出すようにトレッド部21に配設されている。植え込み穴33の内径はスタッドピンPの外径よりも若干小さくなっており、植え込み穴33に植え込まれたスタッドピンPはトレッド部21に対して強固に保持される。
【0047】
上述のように空気入りタイヤTのトレッド部21に所定の構造を有するスタッドピンPを配設することにより、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を改善することが可能となる。
【0048】
なお、図11に示す空気入りタイヤTの補強構造は代表的な例を示すものであるが、これに限定されるものではない。また、空気入りタイヤTのトレッド部21に形成されるトレッドパターンも特に限定されるものではない。
【0049】
図12は空気入りタイヤのトレッド部に配設された状態のスタッドピンを示すものである。空気入りタイヤTの回転方向Rが指定されている場合、ボディ部10は最大幅位置と最先端位置との間に該ボディ部10の中心軸と直交する平面に対する傾斜角度が異なる複数の傾斜面15(例えば、傾斜面15a~15f)を有し、踏み込み側に向かって傾斜する傾斜面15c,15fの傾斜角度αが蹴り出し側に向かって傾斜する傾斜面15a,15dの傾斜角度βよりも大きいことが好ましい。このような配置を採用することにより、路面接触時のノイズを低減すると共に、ノイズの周波数の分散効果が高まるので、ノイズ性能を大幅に改善することができる。
【実施例
【0050】
タイヤサイズ205/55R16 94Tである空気入りタイヤにおいて、トレッド部に配設されるスタッドピンの構造だけを異ならせた従来例、比較例1~3及び実施例1~11のタイヤを製作した。なお、本明細書において、実施例1~9は参考例である。
【0051】
従来例、比較例1~3及び実施例1~11において、ボディ部の最大幅位置での断面積Sa、ボディ部の最先端位置での断面積Sb、Sa/Sb、ボディ部における凸部の有無、ボディ部における凸部の突出方向、ボディ部における長手方向の有無、距離La、距離Lb、(La-Lb)/La、短手方向のボディ部寸法の最小値WB3、短手方向のボディ部寸法の最大値WB2、WB3/WB2、ボディ部の最大幅位置での最大幅WB1、ボディ部の最先端位置での最大幅WC1、チップ部の最大幅WP1、WP1/WB1、WC1/WB1、踏み込み側の傾斜面の傾斜角度α、蹴り出し側の傾斜面の傾斜角度β、チップ部における膨出部の有無、チップ部における膨出部の個数を表1及び表2のように設定した。
【0052】
これら試験タイヤについて、下記試験方法により、ノイズ性能、耐ピン抜け性、ピン打ち込み精度を評価し、その結果を表1及び表2に併せて示した。
【0053】
ノイズ性能:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量1.4リットルの前輪駆動車に装着し、車両指定空気圧を充填し、乾燥したアスファルト路面からなるテストコースにおいて、ピンノイズについて、テストドライバーによる官能評価を行った。評価結果は、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどノイズ性能が優れていることを意味する。
【0054】
耐ピン抜け性:
各試験タイヤをリムサイズ16×6.5Jのホイールに組み付けて排気量1.4リットルの前輪駆動車に装着し、車両指定空気圧を充填し、乾燥したアスファルト路面からなるテストコースにおいて、所定の市街地走行モードで20000kmの走行を行った後、スタッドピンの脱落本数を計測した。評価結果は、計測値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほど耐ピン抜け性が優れていることを意味する。
【0055】
ピン打ち込み精度:
各試験タイヤについて、トレッド部に形成された多数の植え込み穴に対してピン打ち込み装置を用いてスタッドピンを打ち込み、スタッドピンが傾いた状態で打ち込まれた本数を計測した。評価結果は、計測値の逆数を用い、従来例を100とする指数にて示した。この指数値が大きいほどピン打ち込み精度が優れていることを意味する。指数値が95以上であれば、ピン打ち込み精度が良好である。
【0056】
【表1】
【0057】
【表2】
【0058】
表1及び表2から判るように、実施例1~11では、従来例との対比において、ノイズ性能及び耐ピン抜け性を共に改善することができた。一方、比較例1では、Sb/Saの値が小さ過ぎるためピン打ち込み精度が著しく悪化していた。また、比較例2,3では、Sb/Saの値が大き過ぎるためノイズ性能及び耐ピン抜け性の改善効果が得られなかった。
【符号の説明】
【0059】
10 ボディ部
11 チップ部
12 フランジ部
13 凹部
14 凸部
15 傾斜面
16 膨出部
17 平坦部
21 トレッド部
22 サイドウォール部
23 ビード部
P スタッドピン
T 空気入りタイヤ
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12