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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-04-11
(45)【発行日】2022-04-19
(54)【発明の名称】クロマトグラフを用いた物質同定方法
(51)【国際特許分類】
   G01N 30/86 20060101AFI20220412BHJP
   G01N 30/04 20060101ALI20220412BHJP
   G01N 30/72 20060101ALI20220412BHJP
   G01N 27/62 20210101ALI20220412BHJP
【FI】
G01N30/86 G
G01N30/86 M
G01N30/86 P
G01N30/04 P
G01N30/72 C
G01N27/62 X
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020567350
(86)(22)【出願日】2019-01-25
(86)【国際出願番号】 JP2019002586
(87)【国際公開番号】W WO2020152871
(87)【国際公開日】2020-07-30
【審査請求日】2021-03-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001069
【氏名又は名称】特許業務法人京都国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】山田 真希
(72)【発明者】
【氏名】村山 茜
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特表2007-538261(JP,A)
【文献】特開2017-138248(JP,A)
【文献】特表2005-513481(JP,A)
【文献】特開2006-53004(JP,A)
【文献】特開2014-202582(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0048797(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 30/00- 30/96
G01N 27/62
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
クロマトグラフを用いて試料から物質を分離し、該物質を分析することによって得られたクロマトグラムデータに基づき、前記試料に含まれる可能性のある複数種類の分析対象物質の予想保持時間及び標準物質の予想保持時間が登録された同定テーブルを参照して、前記試料に含まれる物質を同定する物質同定方法において、
前記複数種類の分析対象物質が、該複数種類の分析対象物質を含む試料を複数の異なる条件でクロマトグラフ分析を行ったときの保持時間の変動の傾向に基づいてグループ分けされており、各グループに、そのグループに属する分析対象物質と保持時間の変動の傾向が類似する少なくとも一つの標準物質が割り当てられている、クロマトグラフを用いた物質同定方法。
【請求項2】
請求項1に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法において、
各グループに、そのグループに属する分析対象物質と保持時間の変動の傾向が類似する複数の標準物質が割り当てられている、クロマトグラフを用いた物質同定方法。
【請求項3】
請求項1に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法において、
前記試料に前記標準物質を添加することにより分析用試料を調製し、クロマトグラフを用いて前記該分析用試料に含まれる物質を分離し、分析することにより、前記分析用試料に含まれている物質のクロマトグラムデータを収集する工程と、
前記クロマトグラムデータと前記同定テーブルから、前記分析用試料に含まれている前記標準物質の保持時間の実測値を求める工程と、
各標準物質について、前記同定テーブルに登録されている予想保持時間と前記保持時間の実測値との差を保持時間補正値として定める工程と、
前記同定テーブルに登録されている各分析対象物質の予想保持時間を、その分析対象物質と同じグループに割り当てられた前記標準物質の保持時間補正値に基づいて補正する工程と、
を備える、クロマトグラフを用いた物質同定方法。
【請求項4】
請求項1に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法において、
前記クロマトグラムデータが、クロマトグラフを用いて分離された物質を質量分析計で測定した結果、得られたものである、クロマトグラフを用いた物質同定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、クロマトグラフを用いた物質同定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフ、ガスクロマトグラフ等のクロマトグラフを用いて試料に含まれる物質を同定する際は、試料に含まれる物質を時間的に分離した後、各物質を検出器で検出することによって、横軸に時間、縦軸に信号強度をとったクロマトグラムを表すデータ(以下、クロマトグラムデータという)を取得して、クロマトグラムデータからクロマトグラムに出現するピークを検出する。そして、予め設定された同定テーブルを参照して、検出されたピークの位置(保持時間)からそのピークに対応する物質を同定する。
【0003】
同定テーブルには、分析対象とされる試料に含まれることが想定される複数種類の既知の物質について、それぞれの予想保持時間が登録されている。そして、検出されたピーク位置が同定テーブルに登録されている或る既知物質の予想保持時間の許容範囲内にあれば、その既知物質に対応するピークであると判断することができる。ここで、許容範囲とは、[予想保持時間-許容幅]から[予想保持時間+許容幅]までの範囲を指す。なお、許容幅はユーザが設定する値であり、0.08分以内の許容幅に設定することが推奨されている。同定テーブルは、分析対象試料の種類毎に用意されており、例えば生体試料に含まれる代謝物を同定する場合は、複数種類の代謝物の予想保持時間が登録されている同定テーブルが使用され、食品に含まれる残留農薬成分を同定する場合は、複数種類の農薬成分の予想保持時間が登録されている同定テーブルが使用される。
【0004】
クロマトグラフィにおける各物質の溶出時間は、カラム、検出器の種類、使用年数、使用頻度等のクロマトグラフの装置に関する条件、カラムの温度、移動相の種類・流量等の分析条件等、様々な要因によって変動することが知られている。従って、同一の分析条件に設定した場合でも、装置の条件が相違すると、各物質の溶出時間が変動し、その物質に対応するピーク位置、つまり保持時間が変動する。そこで、同定テーブルには、標準的なクロマトグラフの装置を用い、既知物質に好適な分析条件の下で該既知物質を測定したときに得られた保持時間が予想保持時間として登録されている。しかしながら、ユーザが任意に設定する許容幅を超えて保持時間が変動するような場合にはピークの同定に失敗してしまう。
【0005】
そこで、従来は、保持時間が既知の標準物質を、予め、試料に含まれる物質を同定するためのクロマトグラフ分析と同じ条件の装置を用い、同じ条件で分析することによって、その装置条件及びその分析条件における標準物質の保持時間を求め、この値(保持時間の実測値)と既知の保持時間との差(保持時間ずれ量)の分だけ、同定テーブルに登録されている既知物質の予想保持時間を加算又は減算する補正を行っていた(特許文献1)。
【0006】
標準物質としては、その既知の保持時間が既知物質の予想保持時間とできるだけ近く、且つ、クロマトグラムに現れるピークが既知物質のピークと分離可能で、物理的、化学的に安定な物質が選ばれる。全ての既知物質についてそれぞれ標準物質を用意することは、コストの点から実質的に不可能である。そこで、同定テーブルに登録されている複数種類の既知物質を、予想保持時間が近いものが同一グループに属するようにグループ分けし、各グループに含まれる既知物質と予想保持時間が近い標準物質をそのグループに共通の標準物質として割り当てていた。そして、グループ毎に、標準物質の保持時間ずれ量を用いて、既知物質の予想保持時間を補正していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平07-092152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
クロマトグラフィは、物質のサイズ、極性等の分離特性の違いを利用して複数の物質を分離する手法である。従って、或る試料に含まれる物質をクロマトグラフィにより分離する際は、その試料に含まれる物質の分離特性に適した条件の装置や分析条件が用いられることが好ましいが、試料に含まれる全ての物質の分離特性が同じであるとは限らない。このため、同じグループに属する既知物質であっても、装置条件及び分析条件の違いによる保持時間のずれ量が異なる場合がある。
【0009】
上述したように、同定テーブルに登録されている既知物質のグループ分け及び各グループへの標準物質の割り当ては、予想保持時間の長さに基づいて行われており、分離特性は考慮されていない。このため、同じグループに属する既知物質の予想保持時間を、そのグループに共通の標準物質の保持時間ずれ量を用いて一律に補正すると、同定に失敗する場合があった。
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、クロマトグラフを用いた物質の同定精度を向上することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために成された本発明に係るクロマトグラフを用いた物質同定方法は、
クロマトグラフを用いて試料から物質を分離し、該物質を分析することによって得られたクロマトグラムデータに基づき、前記試料に含まれる可能性のある複数種類の分析対象物質の予想保持時間及び標準物質の予想保持時間が登録された同定テーブルを参照して、前記試料に含まれる物質を同定する方法に関し、
前記複数種類の分析対象物質が、該複数種類の該分析対象物質を含む試料を複数の異なる条件でクロマトグラフ分析を行ったときの保持時間の変動の傾向に基づいてグループ分けされており、各グループに、そのグループに属する分析対象物質と、保持時間の変動の傾向が類似する少なくとも一つの標準物質が割り当てられている。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る物質同定方法において、試料に含まれる物質を同定する際に参照する同定テーブルでは、複数の分析対象物質が、異なる条件の下でクロマトグラフ分析を行ったときにみられる保持時間の変動の傾向を考慮してグループ分けされているとともに、各グループにはそのグループに帰属する分析対象物質と保持時間の変動の傾向が類似する標準物質が割り当てられているため、試料に含まれる物質を高い精度で同定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】本発明に係るクロマトグラフを用いた物質同定方法を実施するLC-MSの一実施形態の概略構成図。
図2】本実施形態のLC-MSにおいて、同定テーブルに登録されている分析対象物質のグループ分けの手順を示すフローチャート。
図3】試料に含まれる物質の同定手順を示すフローチャート。
図4】試料に含まれる物質を同定処理操作のための操作画面の例。
図5】保持時間の実測値及び補正保持時間が表示されている状態の操作画面の例。
図6A】アラキドン酸カスケードに由来する脂質メディエータ及びその関連物質が分析対象物質として登録されている同定テーブルにおいて、予想保持時間に基づいてグループ分けを行った結果を示す図(その1)。
図6B】アラキドン酸カスケードに由来する脂質メディエータ及びその関連物質が分析対象物質として登録されている同定テーブルにおいて、予想保持時間に基づいてグループ分けを行った結果を示す図(その2)。
図6C】アラキドン酸カスケードに由来する脂質メディエータ及びその関連物質が分析対象物質として登録されている同定テーブルにおいて、予想保持時間に基づいてグループ分けを行った結果を示す図(その3)。
図7A】保持時間の変動の傾向に基づいて、新たにグループ分けを行った結果を示す図(その1)。
図7B】保持時間の変動の傾向に基づいて、新たにグループ分けを行った結果を示す図(その2)。
図7C】保持時間の変動の傾向に基づいて、新たにグループ分けを行った結果を示す図(その3)。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明に係るクロマトグラフを用いた物質同定方法について、図面を参照して詳述する。図1は本発明に係る物質同定方法を実施するために用いられるLC-MSの一実施形態の概略構成図である。
【0015】
LC-MSは、標準物質添加部11を有する液体クロマトグラフ(LC)部1、質量分析部2、データ処理部3、分析制御部4、中央制御部5、入力部6、及び表示部7を備える。
【0016】
データ処理部3は質量分析部2からの信号を受けるようになっており、機能ブロックとして、データ格納部30、クロマトグラム作成部31、ピーク検出部32、ピーク同定部33などを含む。
【0017】
分析制御部4は中央制御部5の指示の下に、LC部1及び質量分析部2の動作をそれぞれ制御する機能を有する。中央制御部5は、入力部6や表示部7を通したユーザインターフェイスのほか、システム全体の統括的な制御を担う。この中央制御部5に含まれる記憶装置には、後述する、本発明の特徴的な制御を実施する制御プログラム8が格納されており、CPU等がこのプログラム8に従って分析制御部4を通して各部を制御することで、試料に含まれる物質を同定するために必要な分析やデータ処理が実行される。
【0018】
なお、中央制御部5やデータ処理部3は例えばパーソナルコンピュータをハードウエア資源として、該コンピュータに予めインストールされた専用の制御・処理ソフトウエアを該コンピュータ上で実行することによりそれぞれの機能を実現する構成とすることができる。この場合、入力部6はコンピュータに付設されたキーボードやポインティングデバイス(マウス等)であり、表示部7はコンピュータのディスプレイモニタである。
【0019】
図示しないが、LC部1は、移動相を吸引して一定流量で送給するポンプと、その移動相中に一定量の試料を注入するインジェクタと、該試料に含まれる複数の化合物を分離するカラムと、を備えている。標準物質添加部11は、インジェクタに導入される前の試料に対して所定量の標準物質を添加する。標準物質は、分析対象とされる試料中に存在しないことが明らかであり、且つ予想保持時間が既知の物質が選ばれる。標準物質添加部11は複数種類の標準物質が貯留された容器を備えており、この容器の中から複数種類の標準物質を取り出して試料に添加する。
【0020】
質量分析部2は、例えばエレクトロスプレーイオン化(ESI)法などの大気圧イオン源を備えた四重極型質量分析装置である。ただし、質量分析部2は、これに限るものではなく、Q-TOF型質量分析装置、イオントラップ飛行時間型質量分析装置など、他の構成の質量分析装置に置き換えることができる。
【0021】
LC部1のカラムで分離された試料中の各物質はそれぞれ異なる時間だけ遅れて質量分析部2に導入される。質量分析部2に導入された試料中の各物質は、大気圧イオン源で順次イオン化される。こうして生成されたイオンは四重極マスフィルタに導入され、該四重極マスフィルタを通過した特定の質量電荷比を有するイオンがイオン検出器に順次到達し、該イオンの量に応じた信号がデータ処理部3に出力される。なお、試料に実際に含まれるかどうかは別にして、分析対象とされる物質自体は既知である。従って、分析対象物質に由来する検出対象のイオンの質量電荷比も既知であり、また、その物質の保持時間も既知である。そこで、質量分析部2では、分析対象物質毎に保持時間近傍の所定の測定時間範囲内で、検出する質量電荷比を定めたSIM(選択イオンモニタリング)測定を実施すれば、分析対象物質由来のイオンを漏れなく検出することができる。
【0022】
データ処理部3では、イオン検出器で得られたデータが、一旦データ処理部3のデータ格納部30に格納される。データ処理部3において、クロマトグラム作成部31は、データ格納部30に格納されているデータに基づいてマスクロマトグラムを作成する。ピーク検出部32は、マスクロマトグラムにおいてピークを検出する。ピーク同定部33は、検出されたピークの位置(保持時間)から、そのピークに対応する物質を同定する。物質の同定は、同定テーブル34を参照して行われる。
【0023】
同定テーブル34には、試料に含まれていることが予想される多数の既知の分析対象物質の予想保持時間が登録されている。例えば、血清や血漿等の生体試料中に含まれる生理活性物質や代謝物を同定する場合は、それら全ての生理活性物質及びその関連物質、或いは、代謝物及びその関連物質が分析対象物質となる。ピーク同定部33は、検出されたピーク位置が、同定テーブル34に登録されている多数の分析対象物質のうちの一つの予想保持時間の許容範囲にあるときは、該ピークに対応する物質が、その分析対象物質であると推定する。
【0024】
本実施形態では、LC-MSを用いて、試料に含まれる上述したような既知の多数の分析対象物質を同定するために必要な同定テーブル34が分析対象物質の種類毎に予め用意されている。同定テーブル34は、通常、本装置を使用するユーザ側で作成されるのではなく、本装置を販売するメーカ側において作成される。以下、図2及び図3を参照して、同定テーブル34を作成する手順について説明する。図2は同定テーブル34に含まれる分析対象物質のグループ分けの手順を示すフローチャートである。
【0025】
本実施形態のLC-MSにおいて実施される物質同定のための分析では、分析対象とされる試料に標準物質が一定量添加された状態でLC部1に導入される。従って、質量分析部2のイオン検出器で得られたデータに基づいて作成されるマスクロマトグラムには、試料に含まれる物質由来のピーク及び標準物質由来のピークが現れる。ピーク検出部32は、マスクロマトグラム上に現れる全てのピークを検出し、ピーク同定部33は、検出されたピークの位置(つまり保持時間の実測値)をそれぞれ求め、同定テーブル34を参照して、全てのピークの中から標準物質のピークを特定する。従って、同定テーブル34には、分析対象物質に加えて標準物質の予想保持時間が登録されている。
【0026】
ピーク同定部33は、同定テーブル34に登録されている標準物質の予想保持時間と、標準物質の保持時間の実測値との差を求め、この差を補正値として分析対象物質の予想保持時間を補正する。同定テーブル34では、多数の分析対象物質が複数のグループに分けられ、グループ毎に共通の標準物質が割り当てられる。同一のグループに属する分析対象物質の予想保持時間の補正は、そのグループに割り当てられた標準物質について求められた補正値が用いられる。
【0027】
そこで、分析対象物質のグループ分け及び各グループに割り当てられる標準物質の選定が適切に行われるよう、同定テーブル34に登録される全ての分析対象物質及び標準物質について、同一条件の下でLC-MSを用いた分析を行い、それぞれのピーク位置を求める。このピーク位置は分析対象物質及び標準物質の保持時間の基準値であり、この基準値が予想保持時間として同定テーブル34に登録される(ステップ1)。ここでは、LC-MSの標準的な装置が用いられ、分析対象物質及び標準物質について最適化された分析条件の下で分析が行われる。そして、複数の分析対象物質及び複数の標準物質を予想保持時間の長さ順に並べ、予想保持時間の近いものが同じグループに属するように、グループ分けを行う(ステップ2)。このとき、各グループに、必ず1又は複数の標準物質が含まれるようにグループの数を設定する。ステップ2のグループ分けは、従来法によるグループ分けに相当する。
【0028】
なお、同定テーブルに登録される分析対象物質及び標準物質の保持時間の基準値が既知である場合には、既知の基準値を各分析対象物質及び各標準物質の予想保持時間とすることができる。
【0029】
次に、ステップ1で用いられたLC-MSの装置とは異なる装置を用いて、全ての分析対象物質及び標準物質についてピーク位置を求める(ステップ3)。以下、このピーク位置は、保持時間の実測値と呼ぶこととする。なお、ステップ3で行われる分析と、ステップ1で行われた分析とは、LC-MSの装置が異なっていれば、分析条件は同じでも良く、異なっていても良い。また、ステップ3で行われる分析と、ステップ1で行われた分析とは、LC-MSの装置が同じで、分析条件が異なっていても良い。
【0030】
続いて、各分析対象物質について、予想保持時間と保持時間の実測値との差(以下、これを「保持時間ずれ量」とする)を求める(ステップ4)。そして、従来法によるグループ分けによってできた複数のグループの中で、そこに属する分析対象物質及び標準物質の保持時間ずれ量が近似しており(つまり、保持時間の変動の傾向が類似しており)、且つ、予想保持時間が近い複数のグループを同じグループとして再編成する(ステップ5)。一般的に、予想保持時間が近い分析対象物質は同じグループに含めた方が予想保持時間の補正の精度が高くなることから、予想保持時間が近いグループはできるだけ統合する。また、全ての分析対象物質の中に、その保持時間ずれ量が、他の分析対象物質の保持時間ずれ量と大きく異なる分析対象物質が1個又は複数個ある場合は、該1個又は複数個の分析対象物質を別のグループに編成する。さらに、化学構造が類似する分析対象物質及び標準物質は保持時間の変動の傾向が類似する可能性があることから、化学構造が類似する分析対象物質は同じグループにする。
【0031】
従来法のグループ分けにより作成されたグループの数と、再編成されてできたグループの数とは同じでも良く、異なっていても良いが、再度のグループ分けによって作成される全てのグループに、必ず1ないし複数の標準物質が含まれるようにする。グループ分けを細かくすればそれだけ同定の精度が上がるが、グループの数が多いと、それだけ多くの種類の標準物質を用意する必要がありコストが上がるという不都合がある。従って、例えば100以上のような多数の分析対象物質がある場合、1つの同定テーブルに登録される分析対象物質が5~30程度のグループに分けられるようにすることが好ましい。
【0032】
ステップ3~5の処理は1回行ってもよいが、複数回繰り返し行っても良い。保持時間の変動は、保持時間の基準値と実測値を求めるために使用されたLC-MSの装置の種類や分析条件の違いに因るものであるから、複数の異なる分析条件の下で、及び/又は、複数の異なる種類のLC-MSの装置を用いて、複数回、分析を行い、それぞれの分析において求められた保持時間のずれ量に基づき、同じグループに属する分析対象物質の保持時間の変動の傾向が類似するように、グループ分けを行う。
【0033】
次に、上述した手順でグループ分けされた多数の分析対象物質及び標準物質の保持時間が登録されている同定テーブルを備えたデータ処理部3において、試料中の物質の同定を行う際の手順とLC-MSの動作について図3及び図4を参照して説明する。図3はLC-MSの動作を示すフローチャート、図4は表示部7の表示画面を示している。
【0034】
まず、分析者は、予め所定の前処理操作が行われた試料と、該試料に添加すべき標準物質を用意し、これらをLC-MSの所定の箇所にセットする。分析対象とされる試料の種類に応じて添加すべき標準物質の種類が予め指定されている。次に、分析者が入力部6を操作して測定条件を入力設定した上で、分析実行の開始を指示する(ステップ11)。
【0035】
分析実行の開始が指示されると、制御プログラム8に従って分析制御部4がLC部1及び質量分析部2に対して所定の制御信号等を送ることで、LC/MS分析が開始される(ステップ12)。すなわち、標準物質添加部11によって標準物質が試料に添加され、分析用試料が調製される。この分析用試料はLC部1に導入される前の移動相に注入され、これにより、移動相がLC部1のカラムを通過する過程で分析用試料に含まれる物質が時間的に分離される。LC部1のカラムで時間的に分離された物質はそれぞれ異なる時間だけ遅れて質量分析部2に導入され、各物質に由来するイオンの量を反映したイオン強度データがデータ格納部30に格納される。
【0036】
分析が終了すると、データ処理部3においてクロマトグラム作成部31はデータ格納部30からイオン強度データを読み出し、該データに基づいてマスクロマトグラムデータを作成する。ピーク検出部32はマスクロマトグラムデータによって作成されるマスクロマトグラムにおけるピークを検出し、各ピークの位置データ、つまり保持時間の実測値データを収集する(ステップ13)。収集された実測値データは一旦、データ格納部30に格納される。
【0037】
次に、分析者が入力部6を操作して、分析対象とされる試料の種類を設定し、ピーク位置の同定処理の実行を指示すると、制御プログラム8に従って中央制御部5が表示部7及びデータ処理部3を制御することで同定処理の実行を開始する(ステップ14)。これにより、データ処理部3によって設定された試料の種類に応じた同定テーブル34が読み出され、同定処理操作のための画面が表示部7の表示画面に表示される。図4は、表示部7の画面に表示される操作画面40の一例である。この操作画面40には、同定テーブル34に登録されている複数種類の標準物質を選択項目とする標準物質選択部41、実測保持時間表示部42、補正保持時間表示部43、及び3種類の操作ボタン(クリアボタン44、実行ボタン45、コピーボタン46)が表示されている。
【0038】
標準物質選択部41には、同定テーブル34に登録されている分析対象物質のグループ毎に、そのグループに属する標準物質がまとめて表示されている。図4に示す例では、同定テーブル34に登録されている分析対象物質が8個のグループに分けられており、それら8個のグループのうち1番目から3番目のグループにはそれぞれ複数の標準物質が割り当てられ、4番目から8番目のグループにはそれぞれ1個の標準物質が割り当てられていることが分かる。
【0039】
操作画面40において、分析者が標準物質選択部41の中から同定処理に用いる標準物質を選択し、コピーボタン46を選択操作すると、中央制御部5はデータ格納部30から保持時間の実測値データを読み出して、保持時間の実測値を表示画面の実測保持時間表示部42に表示させる。また、データ処理部3においてピーク同定部33は、保持時間の実測値データに基づき、同定テーブル34を参照して、選択された標準物質の保持時間の実測値を求める(ステップ15)。ここで、同定処理に用いる標準物質は、基本的には、ステップ11にて試料に添加された全ての標準物質であるが、各グループに属する少なくとも1個の標準物質が選択されていれば良い。
【0040】
続いて、操作画面40において分析者が実行ボタン45を選択操作すると、データ処理部3において、標準物質の保持時間実測値と同定テーブル34に登録されている標準物質の予想保持時間の差が算出され、これが補正値とされる(ステップ15)。データ処理部3においてピーク同定部33は、同定テーブル34に登録されている分析対象物質の予想保持時間を、その分析対象物質と同じグループに属する標準物質の補正値を使って補正する(ステップ16)。補正された保持時間は補正保持時間表示部43に表示される。
【0041】
図5は、実測保持時間表示部42に保持時間の実測値が表示され、補正保持時間表示部43に補正後の保持時間が表示されている状態の操作画面40の例を示している。この操作画面40では、同定テーブル34に登録されている全ての標準物質が選択されている。
【0042】
分析者は、補正保持時間表示部43に表示されている補正保持時間を見て問題がないことを確認した上で、コピーボタン46を選択操作する。すると、補正保持時間表示部43に表示されている補正保持時間が登録された同定テーブルが新たに作成される。以下、補正保持時間が登録された同定テーブルを「同定テーブル34C」という。
【0043】
また、ピーク同定部33は、データ格納部30に格納されている保持時間の実測値データを読み出し、同定テーブル34Cを参照して、各ピーク位置に対応する分析対象物質を特定する。最終的に、試料に含まれる物質の同定結果は表示部7の画面上に表示される。
【0044】
上述した本実施形態の物質同定方法によれば、同定テーブル34、34Cでは、複数の分析対象物質が、異なる条件の下でクロマトグラフ分析を行ったときにみられる保持時間の変動の傾向を考慮してグループ分けされているとともに、各グループにはそのグループに属する分析対象物質と保持時間の変動の傾向が類似する標準物質が割り当てられる。そして、グループ毎に分析対象物質の保持時間を補正するため、LC/MS分析に用いられる装置や分析条件の違いにより試料に含まれる物質の保持時間が変動する量を相殺することができる。従って、試料に含まれる物質を高い精度で同定することができる。
【0045】
また、本実施形態の物質同定方法では、保持時間の変動の傾向が類似しており、かつ、予想保持時間が近いグループを同じグループとして再編成した。このように予想保持時間が近いグループを一つのグループにまとめることにより、高い精度で予想保持時間を補正することができる。また、保持時間の変動の傾向が類似した化合物が多い場合は、グループ数を少なくすることができるため、試料に含まれる物質同定処理のために該試料に添加する標準物質の種類を少なくすることができる。
【0046】
[実施例]
上述したグループ分けの手順に従って、アラキドン酸カスケードに由来する脂質メディエータ及びその関連物質が分析対象物質として登録されている同定テーブルにおいて、分析対象物質のグループ分けを行った結果を図6A~6C及び図7A~7Cを参照して説明する。この例では、同定テーブルには196個の分析対象物質と18個の標準物質が登録されている。図6A~6C及び図7A~7Cにおいて、化合物名が太字で表わされており、かつ該化合物名に下線が付されている化合物が標準物質であり、それ以外の化合物が分析対象物である。標準物質はいずれも重水素体であり、化合物名の末尾が「-dx(xは4、5、6、8、11)」となっている。
【0047】
まず、同定テーブルに登録されている196個の分析対象物質について、予想保持時間に基づく従来法により18個のグループに分け、各グループに1個の標準物質を割り当てた。以下、従来法により分けられたグループを「従来グループ」と呼ぶ。分析対象物質及び標準物質の予想保持時間は、LC-MSの標準的な装置を用い、脂質メディエータに適した分析条件の下でクロマトグラフ分析を行い、求められたものである。
【0048】
次に、196個の分析対象物質と18個の標準物質について、従来グループに分けるための分析に用いられたLC-MSの装置とは異なる装置を用いて保持時間を実測し、全ての分析対象物質及び標準物質について得られた保持時間の実測値と予想保持時間との差(保持時間ずれ量)を求めた。図6A~6Cに、196個の分析対象物質及び18個の標準物質の予想保持時間、従来グループ番号、保持時間の実測値、及び予想保持時間と実測値との差を示す。
【0049】
ここで、図6Bにおいて、LTC4(No.84)、11-trans-LTC4(No.85)、LTD4-d5(No.86)、LTD4(No.87)が同一の従来グループ8に割り当てられているが、LTC4(No.84)、11-trans-LTC4(No.85)の保持時間ずれ量(保持時間の実測値と予想保持時間の差)は0.038分および0.036分であるのに対し、LTD4-d5(No.86)、LTD4(No.87)の保持時時間ずれ量は0.122分および0.117分と相対的に大きい。このような状況で、標準物質LTD4-d5(No.86)の保持時間ずれ量に基づき同一グループ8内のLTC4(No.84)、11-trans-LTC4(No.85)、LTD4(No.87)の保持時間を補正した場合、LTC4(No.84)、11-trans-LTC4(No.85)の補正後の保持時間が実測保持時間と大きくずれてしまうという不都合が生じる。このような保持時間ずれ量の差異が生じる理由は明確には判明していないが、化合物構造に由来する可能性が考えられる。
【0050】
そこで、全ての分析対象物質について、予想保持時間、保持時間ずれ量、および化学構造の類似性を考慮してグループの再編成を行った。その結果、196個の分析対象物質及び18個の標準物質は、以下の新グループ1~8に分けられた。
【0051】
[新グループ1]:従来グループ1~3を統合
[新グループ2]:従来グループ3~6を統合
[新グループ3]:従来グループ10~16を新グループ3に統合
ただし、従来グループ1の2,3-dinor-TXB1(No.12)および2,3-dinor-TXB2(No.14)は、従来グループ3のTXB3(No.26)と構造が類似しているため、新グループ2に編成した。また、従来グループ15のPAF-d4(No.185)、PAF(No.186)は、後述する従来グループ16のAzelaoyl-PAF(No198)と構造が類似するため、Azelaoyl-PAFとともに新グループ6に編成した。
【0052】
[新グループ4]:上述した9個の分析対象物(14,15-LTC4(No.73)、14,15-LTE4(No.79)、LTC4(No.84)、11-trans-LTC4(No.85)、LTE4(No.89)、LTF4(No.90)、11-trans-LTE4(No.99)、LTD4(No.87)および11-trans-LTD4(No.93))のうち、予測保持時間と実測保持時間の差が他の分析対象物質と大きく異なる2個の分析対象物質(11-trans-LTD4(No.93)、LTD4(No.87))を除外した分析対象物質から構成
【0053】
[新グループ5]:上述した9個の分析対象物から除外したLTD4(No.87)、11-trans-LTD4(No.93)と、標準物質LTD4-d5(No,86)とから構成
[新グループ6]:従来グループ15、16に属する分析対象物質のうち、予測保持時間と実測保持時間の差が近似し、かつ化学構造が類似している1個の標準物質PAF-d4(No.185))と、2個の分析対象物(PAF(No.186)、Azelaoyl-PAF(No.198))から構成
[新グループ7]:従来グループ16、17に属する分析対象物質のうち、化学構造が類似し、かつ予想保持時間が近い、3個の分析対象物質(AEA(No.203)、15-KEDE(No.208)、OEA(No.210))と1個の標準物質(OEA-d4(No.209))から構成
[新グループ8]:従来グループ17、18に属する分析対象物質のうち、化学構造が類似し、かつ予想保持時間が近い、3個の分析対象物質(EPA(No.211)、DHA(No.212)、AA(No.214))と1個の標準物質(AA-d8(No.213))から構成
【0054】
上述した作業により8個の新グループに再編成された結果を図7A~7Cに示す。グループの再編成により、保持時間ずれ量を小さくすることができる。また、図7A~7Cに示す8個の新グループの中には複数の標準物質が割り当てられているグループが存在するが、新グループの各々には、少なくとも1個の標準物質を割り当てればよい。このため、従来グループに比べて新グループのグループ数が少なくなった結果、標準物質の種類を少なくすることができる。一般的に標準物質は高価なものが多いため、標準物質の種類が少ないことは、物質同定に係る費用的な負担の軽減につながる。
【0055】
なお、予想保持時間を補正するだけなら、各グループに1個の標準物質が割り当てられていれば十分であるが、複数個の標準物質が割り当てられているグループでは、分析用試料に含まれる物質の同定の精度に加えて、定量の精度も高めることができる。これは、分析用試料に含まれる物質を定量解析するときは、該物質について求められたクロマトグラムのピーク面積やピーク強度と標準物質について求められたクロマトグラムのピーク面積やピーク強度と比率が用いられるが、各分析対象物質と保持時間やイオン化効率の特性がより類似した標準物質のピーク面積やピーク強度を使用できるため、各分析対象物質の定量の精度を高くすることができる。
【0056】
また図7A~7Cには、新グループに属する分析対象物質の予想保持時間を、そのグループに割り当てられている標準物質の保持時間ずれ量に基づいて補正した結果、及び保持時間の実測値と補正後の予想保持時間との差を示している。図7A~7Cをみると、新グループでは、同じグループに属する分析対象物質の保持時間の実測値と補正後の予想保持時間との差のばらつきが小さいことが分かる。
【0057】
[態様]
上述した例示的な実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0058】
(第1項)一態様に係る前記クロマトグラフを用いた物質同定方法は、
クロマトグラフを用いて試料から物質を分離し、該物質を分析することによって得られたクロマトグラムデータに基づき、前記試料に含まれる可能性のある複数種類の分析対象物質の予想保持時間及び標準物質の予想保持時間が登録された同定テーブルを参照して、前記試料に含まれる物質を同定する方法であって、
前記複数種類の分析対象物質が、該複数種類の分析対象物質を含む試料を複数の異なる条件でクロマトグラフ分析を行ったときの保持時間の変動の傾向に基づいてグループ分けされており、各グループに、そのグループに属する分析対象物質と、保持時間の変動の傾向が類似する少なくとも一つの標準物質が割り当てられている。
【0059】
第1項に記載の物質同定方法において、試料は、1種類の物質を含むもの、複数種類の物質を含むもの、のいずれでも良い。1種類の物質が含まれる試料の場合は、クロマトグラフによって試料から物質が分離され、複数種類の物質が含まれる試料の場合は、クロマトグラフによって試料から複数種類の物質が分離されるとともに、該複数種類の物質がそれぞれ時間的に分離される。また、クロマトグラフとは、ガスクロマトグラフ又は液体クロマトグラフである。さらに、保持時間の変動の傾向とは、例えば、クロマトグラフ分析を行う際の条件の変更に伴い保持時間が変動する方向性(つまり、保持時間が長くなるか短くなるか)や変動量をいう。各分析対象物質の保持時間の変動の傾向は、分析対象物質の化学的性質、物理的性質から類推することが可能であるが、同定テーブルに登録される分析対象物質が含まれる試料を複数の異なる条件で実際にクロマトグラフ分析を行った結果から、決定しても良い。
【0060】
第1項に記載の物質同定方法によれば、試料に含まれる物質を同定する際に参照する同定テーブルでは、複数の分析対象物質が、異なる条件の下でクロマトグラフ分析を行ったときにみられる保持時間の変動の傾向を考慮してグループ分けされているとともに、各グループにはそのグループに帰属する分析対象物質と保持時間の変動の傾向が類似する標準物質が割り当てられているため、試料に含まれる物質を高い精度で同定することができる。
【0061】
(第2項)第1項に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法において、
各グループに複数の標準物質が割り当てられているとよい。
【0062】
分析用試料に含まれる物質を同定するだけであれば、各グループに1個の標準物質が割り当てられていれば十分であるが、該物質を定量解析する場合は、各物質について求められたクロマトグラムのピーク面積値と標準物質について求められたクロマトグラムのピーク面積値の比率が利用される。このとき、複数の標準物質を使用すれば、比率を用いた定量解析の精度を高めることができる。
【0063】
(第3項)第1項又は第2項に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法において、
前記試料に前記標準物質を添加することにより分析用試料を調製し、クロマトグラフを用いて前記該分析用試料に含まれる物質を分離し、分析することにより、前記分析用試料に含まれている物質のクロマトグラムデータを収集する工程と、
前記クロマトグラムデータと前記同定テーブルから、前記分析用試料に含まれている前記標準物質の保持時間の実測値を求める工程と、
各標準物質について、前記同定テーブルに登録されている予想保持時間と前記保持時間の実測値との差を保持時間補正値として定める工程と、
前記同定テーブルに登録されている各分析対象物質の予想保持時間を、その分析対象物質と同じグループに割り当てられた前記標準物質の保持時間補正値に基づいて補正する工程と、
を備えることが好ましい。
【0064】
第3項に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法によれば、同定テーブルに登録された分析対象物質の保持時間を、グループ毎に、そのグループに属する標準物質の保持時間の実測値を使って補正するため、クロマトグラフ分析の条件の違いにより試料に含まれる物質の保持時間が変動する量を相殺することができる。
【0065】
(第4項)第1項~第3項のいずれかに記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法において、
前記クロマトグラムデータが、クロマトグラフを用いて分離された物質を質量分析計で測定した結果、得られたものであると良い。
【0066】
第4項に記載のクロマトグラフを用いた物質同定方法によれば、試料に含まれる物質がクロマトグラフのカラムでは十分に分離されない場合であっても、それら物質がイオン化されることにより得られるイオンの質量電荷比は相違しているため、試料に含まれる複数種類の物質を、それぞれに由来するイオンの質量電荷比によって十分に区別することができる。
【符号の説明】
【0067】
1…LC部
11…標準物質添加部
2…質量分析部
3…データ処理部
30…データ格納部
31…クロマトグラム作成部
32…ピーク検出部
33…ピーク同定部
34…同定テーブル
4…分析制御部
5…中央制御部
6…入力部
7…表示部
8…制御プログラム
図1
図2
図3
図4
図5
図6A
図6B
図6C
図7A
図7B
図7C